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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】CD26特異的キメラ抗原受容体
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20240625BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20240625BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20240625BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240625BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240625BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240625BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240625BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240625BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240625BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240625BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20240625BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240625BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240625BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C07K19/00
C07K16/30
C07K14/705
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N5/0783
A61K35/17
A61P35/00
A61P35/02
A61P7/00
A61P11/00
A61P13/12
A61P13/08
【請求項の数】 36
(21)【出願番号】P 2020106261
(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公開番号】P2022001021
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-11-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(74)【代理人】
【識別番号】100169889
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 純一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勉
(72)【発明者】
【氏名】小林 栄治
(72)【発明者】
【氏名】森本 幾夫
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】ZHOU, Shu et al.,Leukemia,2020年04月21日,Vol. 35,pp. 119-129,DOI: 10.1038/s41375-020-0824-y
【文献】中川 岳志 他,Drug Delivery System,2013年01月30日,第28巻第1号,pp. 35-44,DOI: 10.2745/dds.28.35
【文献】夏目 敦至 他,Biotherapy,2010年11月,第24巻第6号,pp. 474-481
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12N 1/00- 7/08
A61K 35/00-51/12
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD26特異的キメラ抗原受容体(以下CARと記す)であって、
(a)モノクローナル抗CD26抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメイン、
(b)ヒンジ、
(c)膜貫通ドメイン、ならびに
(d)CD3ζシグナリングドメインと、4-1BBおよびCD28由来の共刺激ドメインとを含む細胞質ドメイン
を含ここで、前記細胞質ドメインが、CD28由来の共刺激ドメイン、4-1BB由来の共刺激ドメイン、およびCD3ζシグナリングドメインの順で前記細胞外リガンド結合ドメインに直列に繋がれ、および前記細胞外リガンド結合ドメインが、YS110である、前記CAR。
【請求項2】
ヒンジが、FcRIIIαヒンジ、CD8αヒンジ、およびIgG1ヒンジより選択される、請求項1に記載のCAR。
【請求項3】
ヒンジが、CD8αヒンジを含む、請求項1または2に記載のCAR。
【請求項4】
膜貫通ドメインが、CD28を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のCAR。
【請求項5】
ヒンジが、CD8αヒンジであり、および膜貫通ドメインが、CD28である、請求項1~のいずれか一項に記載のCAR。
【請求項6】
細胞外リガンド結合ドメインが、配列番号のアミノ酸番号(20~260)で示されるアミノ酸配列からなる、請求項1~のいずれか一項に記載のCAR。
【請求項7】
VHが、配列番号1のアミノ酸番号145~260より選択されるアミノ酸配列からなり、かつVLが、配列番号21~129より選択されるアミノ酸配列からなる、請求項1~のいずれか一項に記載のCAR。
【請求項8】
膜貫通ドメインが配列番号1のアミノ酸番号314~384のアミノ酸配列で示されるアミノ酸配列からなる、請求項1~のいずれか一項に記載のCAR。
【請求項9】
CD3ζシグナリングドメインが、配列番号1のアミノ酸番号427~539で示されるアミノ酸配列からなる、請求項1~のいずれか一項に記載のCAR。
【請求項10】
4-1BB共刺激ドメインが配列番号1のアミノ酸番号385~426で示されるアミノ酸配列からなる、請求項1~のいずれか一項に記載のCAR。
【請求項11】
CD28共刺激ドメインが配列番号1のアミノ酸番号344~384で示されるアミノ酸配列からなる、請求項1~10のいずれか一項に記載のCAR。
【請求項12】
シグナルペプチドをさらに含む、請求項1~1のいずれか一項に記載のCAR。
【請求項13】
シグナルペプチドが配列番号1のアミノ酸番号1~20で示されるアミノ酸配列からなる、請求項1に記載のCAR。
【請求項14】
請求項1~1のいずれか一項に記載のCARをコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項15】
請求項1記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項16】
請求項1~1のいずれか一項に記載のCARを細胞表面膜に発現している、免疫細胞。
【請求項17】
炎症性Tリンパ球、細胞傷害性Tリンパ球、制御性Tリンパ球、またはヘルパーTリンパ球に由来する、請求項1に記載の遺伝子修飾された免疫細胞。
【請求項18】
TCRの発現が抑制されている、請求項1に記載の遺伝子修飾遺伝子修飾された免疫細胞。
【請求項19】
CD26の発現が抑制されている、請求項1~1のいずれか一項に記載の遺伝子修飾された免疫細胞。
【請求項20】
少なくとも1種の免疫抑制剤または化学療法剤に対して耐性になるよう修飾されている、請求項119のいずれか一項に記載の遺伝子修飾された免疫細胞。
【請求項21】
疾患の治療において使用するための、請求項1~2のいずれか一項に記載の遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
【請求項22】
患者がヒトである、請求項2に記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
【請求項23】
疾患が、CD26発現細胞を特徴とする前癌性または癌疾患である、請求項2または2に記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
【請求項24】
疾患がCD26発現細胞の過剰量を特徴とする疾患である、請求項2~2のいずれか一項の記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
【請求項25】
疾患が、腎臓癌、前立腺癌、または肺癌である、請求項2~2のいずれか一項に記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
【請求項26】
疾患が、造血器腫瘍である、請求項2~2のいずれか一項に記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
【請求項27】
造血器腫瘍が、白血病である、請求項2に記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
【請求項28】
白血病が、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、および骨髄異形成症候群からなる群より選択される、請求項2記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
【請求項29】
白血病が、急性骨髄性白血病(AML)である、請求項2に記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
【請求項30】
造血器腫瘍が、悪性リンパ増殖性障害である、請求項29記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
【請求項31】
悪性リンパ増殖性障害がリンパ腫である、請求項30記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
【請求項32】
リンパ腫が、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、ならびに濾胞性リンパ腫(小細胞型および大細胞型)からなる群より選択される、請求項3記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
【請求項33】
(a)免疫細胞を準備する工程、
(b)請求項1~1のいずれか一項に記載の少なくとも1種のCARを該細胞の表面に発現させる工程、
を含む、遺伝子修飾された免疫細胞を製造する方法。
【請求項34】
(c)CARをin vitroで増殖させる工程をさらに含む、請求項3に記載の遺伝子修飾された免疫細胞を製造する方法。
【請求項35】
前記免疫細胞がドナーから提供される、請求項3または3に記載の製造方法。
【請求項36】
前記免疫細胞が患者自身から提供される、請求項3~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD26特異的キメラ抗原受容体(以下CARと記す)、前記CARをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、前記CARを細胞表面膜に発現している、遺伝子修飾された免疫細胞で遺伝子修飾した免疫細胞、疾患の治療等に使用するため前記遺伝子修飾された免疫細胞等に関する。
【背景技術】
【0002】
1993年にイスラエルのグループによって、遺伝子操作を加えた人工T細胞受容体を患者T細胞に遺伝子導入し、そのT細胞を体外で増幅した後に患者に輸注するという遺伝子、細胞治療法が考案された。この人工T細胞受容体はキメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor:以下CARと記す)と命名された。CARは、腫瘍抗原に特異的なモノクローナル抗体可変領域の軽鎖(VL)と重鎖(VH)を直列に結合させた単鎖抗体(single chain variable fragment:scFv)をN末端側に、T細胞受容体(T cell receptor:TCR)のCD3ζ鎖をC末端側に持つキメラタンパクの総称である。CARを発現させたT細胞はscFv領域で腫瘍抗原を認識した後、その認識シグナルを細胞内のCD3ζドメインを通じてT細胞内に伝達することで活性化する。さらに、T細胞の活性化を増強するために、scFvとCD3ζ鎖の間に共刺激分子(CD28または4-1BBの一方、あるいはその両者)を組み込まれたCARは第2世代、第3世代CARとよばれ、CAR-T細胞の細胞障害活性と増殖能が高いことが示されている(非特許文献1:Masu et al. Bood 2013)。
【0003】
現在、世界中でCAR-T細胞を用いた治療法の開発が進められているが、どのような腫瘍抗原を標的とするのかは重要なポイントのひとつである。例えば、Bリンパ球に由来する腫瘍が発現するCD19分子は、このCAR-T療法の良い標的であり、B細胞性急性リンパ芽球性白血病やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫などに対するCD19 CAR-T療法は実臨床で高い効果を示している(非特許文献2:Maude et al. N Engl J Med 2018;378:439-448DOI:10.1056/NEJMoa1709866)(非特許文献3:Schuster et al. N Engl J Med 2019;380:45-56DOI:10.1056/NEJMoa1804980)。CD33を標的とする第2世代のCARについては、公開されている(特許文献1:WO2015/057331)。また、より効果の期待できる、第3世代については、CD19を標的とするCARが構築され、その臨床効果について、報告がされている(非特許文献4:Carlos A. Ramos et al.Molefcular-therapy, vol.26, No. 12, p. 2727-2737, 2018)。
【0004】
一方、悪性中皮腫や腎癌、大腸癌、肝癌、肺癌、前立腺癌、消化管間質腫瘍、甲状腺癌、更にTリンパ球に由来する造血器腫瘍などの腫瘍細胞は高率にCD26を発現することから、これらの治療ではCD26が良い標的となるものと考えられ、本発明者らは、ヒト化抗CD26抗体であるYS110を開発し(特許文献2:WO2007014169)、悪性中皮腫や腎癌を対象とする第I相試験で優れた効果を報告した(Angevin et al. Br J Cancer 2017)。また、YS110と他の抗がん剤とを組み合わせた癌治療用組成物についても、開示している(特許文献3:WO2017/043613)。このYS110のVLとVHをscFvとしてCARに用いるCD26 CAR-T療法はCD26を発現する腫瘍に有効であろうと期待される。しかしながら、標的細胞が異なると、CAR-T細胞の挙動も異なることが知られており、この試みは不成功に終わっている(Zhou et al. Immunopharmacol Immunotoxicol .2019, Aug;41(4):490-496)。Zhouらは、4-1BB を共刺激分子とする第2世代CD26 CARを構築し(YS110-4-1BB)、これをT細胞に遺伝子導入したが、CD26 CAR-T細胞に特にin vitroにおいて増殖が得られなかったと報告しており、この原因として、Zhouらは、T細胞がもともと発現しているCD26と強制発現されたCD26 CARとが反応し、T細胞に細胞死が誘導されたものと考察している。
【0005】
また、CD26を標的とする、共刺激分子をCD28とする第2世代のCARについても報告がある(非特許文献5:Zhou et al., Imnotherapy, 2020 Apr 21. doi: 10.1038/s41375-020-0824-y. Online ahead of print)。
【0006】
しかし、より効果の期待できる、CD26を標的とする第3世代のCAR-Tについては、4-1-BBがin vivo でexpansionが得られないことから、他のマーカーを標的とするものについては、これまで報告がなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2015/057331
【文献】WO2007/014169
【文献】WO2017/043613
【非特許文献】
【0008】
【文献】Masu et al. Bood 2013
【文献】Maude et al. New Engl J Med 2018
【文献】Carlos A. Ramos et al.Molefcular-therapy, vol.26, No. 12, p. 2727-2737, 2018
【文献】Zhou et al. Immunopharmacol Immunotoxicol .2019, Aug;41(4):490-496
【文献】Zhou et al., Imnotherapy, 2020 Apr 21. doi: 10.1038/s41375-020-0824-y. Online ahead of print
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
悪性中皮腫や腎癌、大腸癌、肝癌、肺癌、前立腺癌、消化管間質腫瘍、甲状腺癌、更にTリンパ球に由来する造血器腫瘍などの腫瘍細胞は高率にCD26を発現するが、これらの疾患はいずれも有効な治療が少なく新しい治療が期待されている。本発明者らは、このような状況の中でCD26を標的とする抗体に着目し、これをin vitroで効率よく増殖させることが前記の難治性疾患の新たな治療を開発するうえに有意義であるとの観点で研究を進めた。したがって、本発明の目的は、腫瘍細胞等に発現するCD26を標的とするCARとして、CAR-T細胞をより効率的に増殖させ、新たな治療に有益なCAR等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、CD26を標的とする抗体を研究する中で、驚くべきことに第3世代のCARで遺伝子修飾された免疫細胞が、in vitroで良好な増殖を示し、従来の第2世代のCARには見られない、優れた抗腫瘍効果を示すことを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記に掲げるものに関する:
【0011】
[1]CD26特異的キメラ抗原受容体(以下CARと記す)であって、
(a)モノクローナル抗CD26抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメイン、
(b)ヒンジ、
(c)膜貫通ドメイン、ならびに
(d)CD3ζシグナリングドメインと、4-1BBおよびCD28由来の共刺激ドメインとを含む細胞質ドメイン
を含む、前記CAR。
[2]細胞外リガンド結合ドメインが、scFvを含む、[1]に記載のCAR。
[3]ヒンジが、FcRIIIαヒンジ、CD8αヒンジ、およびIgG1ヒンジより選択される、[1]または[2]に記載のCAR。
【0012】
[4]ヒンジが、CD8αヒンジを含む、[1]~[3]に記載のCAR。
[5]膜貫通ドメインが、CD28を含む、[1]~[4]に記載のCAR。
[6]ヒンジが、CD8αヒンジであり、および膜貫通ドメインが、CD28である、[1]~[5]に記載のCAR。
[7] 細胞外リガンド結合ドメインが、配列番号1のアミノ酸番号20~260で示されるアミノ酸配列からなるか、もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されることにより、前記それぞれの配列に対して95%の相当性を有するアミノ酸配列からなる、[1]~[6]に記載のCAR。
[8]VHが、配列番号1のアミノ酸番号145~260より選択されるアミノ酸配列からなり、かつVLが、配列番号21~129より選択されるアミノ酸配列からなるか、もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されることにより、前記それぞれの配列に対して95%の相当性を有するアミノ酸配列からなる、[1]~[7]に記載のCAR。
[9]膜貫通ドメインが配列番号1のアミノ酸番号314~384のアミノ酸配列で示されるアミノ酸配列からなるか、もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換,もしくは付加されることにより、前記それぞれの配列に対して95%の相当性を有するアミノ酸配列からなる、[1]~[8]に記載のCAR。
[10]CD3ζシグナリングドメインが、配列番号1のアミノ酸番号427~539で示されるアミノ酸配列からなるか、もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されることにより、前記それぞれの配列に対して95%の相当性を有するアミノ酸配列からなる、[1]~[9]に記載のCAR。
【0013】
[11]4-1BB由来の共刺激ドメインが配列番号1のアミノ酸番号385~426で示されるアミノ酸配列からなるか、もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されることにより、前記それぞれの配列に対して95%の相当性を有するアミノ酸配列からなる、[1]~[10]に記載のCAR。
[12]CD28由来の共刺激ドメインが配列番号1のアミノ酸番号344~384で示されるアミノ酸配列からなるか、もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されることにより、前記それぞれの配列に対して95%の相当性を有するアミノ酸配列からなる、[1]~[11]に記載のCAR。
[13]シグナルペプチドをさらに含む、[1]~[12]に記載のCAR。
[14]シグナルペプチドが配列番号1のアミノ酸番号1~20で示されるアミノ酸配列からなるか、もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されることにより、前記それぞれの配列に対して95%の相当性を有するアミノ酸配列からなる、[13]に記載のCAR。
【0014】
[15][1]~[14]に記載のCARをコードする、ポリヌクレオチド。
[16][15]に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
[17][1]~[14]に記載のCARを細胞表面膜に発現している、免疫細胞。
[18]炎症性Tリンパ球、細胞傷害性Tリンパ球、制御性Tリンパ球、またはヘルパーTリンパ球に由来する、[17]に記載の遺伝子修飾された免疫細胞。
[19]TCRの発現が抑制されている、[18]に記載の遺伝子修飾遺伝子修飾された免疫細胞。
[20]CD26の発現が抑制されている、[17]~[19]に記載の遺伝子修飾された免疫細胞。
[21]少なくとも1種の免疫抑制剤または化学療法剤に対して耐性になるよう修飾されている、[17]~[20]に記載の遺伝子修飾された免疫細胞。
[22]疾患の治療において使用するための、[17]~[21]に記載の遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
[23]患者がヒトである、[22]に記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
[24]疾患が、CD26発現細胞を特徴とする前癌性または癌疾患である、[22]または[23]に記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
[25]疾患がCD26発現細胞の過剰量を特徴とする疾患である、[22]~[24]に記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
[26]疾患が、腎臓癌、前立腺癌、または肺癌である、[22]~[25]のいずれかに記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
【0015】
[27]疾患が、造血器腫瘍である、[22]~[26]のいずれかに記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
[28]造血器腫瘍が、白血病である、[27]に記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
[29]白血病が、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、および骨髄異形成症候群からなる群より選択される、[28]に記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
[30]白血病が、急性骨髄性白血病(AML)である、[29]に記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
[31]造血器腫瘍が、悪性リンパ増殖性障害である、[30]に記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
[32]悪性リンパ増殖性障害がリンパ腫である、[31]に記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
[33]リンパ腫が、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、ならびに濾胞性リンパ腫(小細胞型および大細胞型)からなる群より選択される、[32]に記載の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物。
【0016】
[34](a)免疫細胞を準備する工程、
(b)[1]~[14]のいずれかに記載の少なくとも1種のCARを該細胞の表面に発現させる工程、
を含む、遺伝子修飾された免疫細胞を製造する方法。
[35]
(c)CARをin vitroで増殖させる工程をさらに含む、[34]に記載の遺伝子修飾された免疫細胞を製造する方法。
[36]
前記免疫細胞がドナーから提供される、[34]または[35]に記載の製造方法。
[39]
前記免疫細胞が患者自身から提供される、[34]~[36]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、従来のCD26を標的とするCARを遺伝子修飾した免疫細胞には見られない、良好な増殖効果、およびin vivoおよびin vitroにおける優れた腫瘍抑制効果を有する、第3世代のCAR等を提供することができる。またそれにより、CD26を発現する腫瘍細胞、特に造血器腫瘍細胞等に対して、従来にない臨床効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1はCD26CARの構造を示す図である。第2世代CD26CAR(CD26CAR2nd:YS110-CD28)は共刺激分子としてCD28を用いた。第3世代CD26CAR(CD26CAR3rd:YS110-CD28-4-1BB)は共刺激分子としてCD28と4-1BBの両者を用いた。これらに対するコントロールはそれぞれCD8CAR2nd(CD8-CD28)、CD8CAR3rd(CD8-CD28-4-1BB)である。
図2A図2Aは、PBMCsに導入したCD26CARの検出を示す図である。末梢血単核球(PBMCs)に導入したCD26CARの発現は、Tag(Fc)が付加されたリコンビナントCD26とPEで蛍光標識された抗Fc抗体で検出した。CD26CAR2ndとCD26CAR3rdのいずれにおいてもCD26CARが検出された。
図2B図2Bは、PBMCsに導入したCD8CARの検出を示す図である。末梢血単核球(PBMCs)に導入したCD8CARの発現は、PEで蛍光標識された抗CD8抗体で検出した。なお、CAR導入前のPBMCsは約35%がもともとCD8陽性である。CD8CAR2ndもしくはCD8CAR3rdの導入によってGFP陽性となった細胞でCD8CARが検出された。
図2C図2Cは、CD26CAR導入後のCD26およびCD8発現の実験方法を示す図である。
図3A図3Aは、CD26CAR導入後のCD26発現を示す図である。CD26CAR導入後のCD26発現は、抗CD26抗体を用いて検討した。CD26CAR2ndとCD26CAR3rdのいずれにおいてもCD26の発現は低下していた。
図3B図3Bは、CD26CAR導入後のCD26発現の実験方法を示す図である。
図4A図4Aは、CD26CAR導入後の細胞増殖を示す図である。CD26CAR導入後の細胞増殖は、Day10に細胞数をカウントして比較した。CD26CAR2ndとCD26CAR3rdのいずれも、CD8CARndやCD8CAR3rdと同様に増殖した。
図4B図4Bは、CD26CAR導入後の細胞増殖の実験方法を示す図である。
図5A図5Aは、CD26CAR導入後のCD69発現を示す図である。リンパ球の活性化に伴って発現するCD69は、CD26CAR導入後のPBMCsをCD26強制発現Jurkat細胞(CD26-Jurkat)と共培養したのち、抗CD69抗体で検出した。CD26CAR2ndとCD26CAR3rdのいずれにおいてもCD69の発現誘導が認められた。
図5B図5Bは、CD26CAR導入後のCD69発現の実験方法を示す図である。
図6A図6Aは、CD26CAR導入後のIFN-γ産生を示す図である。リンパ球の活性化に伴って分泌されるIFN-γは、CD26CAR導入後のPBMCsをCD26強制発現Jurkat細胞(CD26-Jurkat)と共培養したのち、ELISA法で測定した。CD26CAR2ndとCD26CAR3rdのいずれにおいてもIFN-γの分泌が認められた。
図6B図6Bは、CD26CAR導入後のIFN-γ産生の実験方法を示す図である。
【0019】
図7A図7Aは、CD26CARの抗腫瘍効果(in vitro)を示す図である。in vitroにおけるCD26CARの抗腫瘍効果は、CD26CAR導入後のPBMCs(エフェクター細胞)を、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したCD26陽性Karpas299細胞(ターゲット細胞)と共培養したのち、ルシフェラーゼ活性の測定によりターゲット細胞数を定量した。その結果、エフェクター細胞とターゲット細胞の比1:1において、CD26CAR3rd の抗腫瘍効果はCD26CAR2ndのそれに優っていた(p=0.005)。
図7B図7Bは、CD26CARの抗腫瘍効果(in vitro)の実験方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において特に定義されない限り、使用される技術用語および科学用語は、全て、遺伝子治療、生化学、遺伝学、および分子生物学の領域の当業者によって一般的に理解されるのと同一の意味を有する。
以下、本発明について説明する。
【0021】
本発明の好ましい態様において、本発明は、
CD26特異的キメラ抗原受容体(以下CARと記す)であって、
(a)モノクローナル抗CD26抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメイン、
(b)ヒンジ、
(c)膜貫通ドメイン、ならびに
(d)CD3ζシグナリングドメインと、4-1BBおよびCD28由来の共刺激ドメインとを含む細胞質ドメイン
を含む、前記CAR、に関する。
【0022】
本発明において、「キメラ抗原受容体」または「CAR」は、特異的な抗標的細胞免疫活性を示すキメラタンパク質を生成するため、標的細胞上に存在する成分に対する結合ドメイン、例えば、所望の抗原(例えば、腫瘍抗原)に対する抗体に基づく特異性を、免疫細胞、好ましくはT細胞の受容体を活性化する細胞内ドメインと組み合わせた分子を表す。CARは通常、細胞外単鎖抗体(sがT細胞抗原受容体複合体ζ鎖の細胞内シグナリングドメインに融合したものからなり、T細胞において発現された時に、モノクローナル抗体の特異性に基づき、抗原認識を向け直す能力を有している。本発明において使用されるCARの一例は、CD26抗原に対するCARである。
本発明おいて、「CD26特異的キメラ抗原受容体」または「CD26特異的CAR」は、CD26抗原を特異的に抗原認識するペプチドを指すが、これに加えて他のマーカーを認識する場合もある。
【0023】
本発明において、特に明記されない限り、「抗体」という用語はその機能的抗体断片を包含すると理解されるべきである。この用語はまた、IgGおよびそのサブクラス、IgM、IgE、IgA、およびIgDを含む任意のクラスまたはサブクラスの抗体を含む、無傷または完全長抗体を包含する。
本発明において、「モノクローナル抗体」とは、単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体、あるいは抗体分子である。モノクローナル抗CD26抗体とは、CD26に対するモノクローナル抗体を意味する。
本発明において、モノクローナル抗CD26抗体は、ヒト化抗体であってもよく、ヒ卜CD26に特異的に結合する。
【0024】
「ヒト抗体」は、抗原負荷に応答して特定のヒト抗体を産生するように遺伝子操作されたトランスジェニックマウス由来の抗体である。この技術において、ヒト重鎖及び軽鎖遺伝子座の要素は、内在性重鎖及び軽鎖遺伝子座の標的化された断絶を含有する胚幹細胞株から得られたマウスの株に導入される。トランスジェニックマウスは、ヒト抗原に特異的なヒト抗体を合成することができ、マウスを使用して、ヒト抗体分泌ハイブリドーマを産生することができる。トランスジェニックマウスからヒト抗体を得るための方法は、Greenetal.,NatureGenet.7:13(1994)、Lonbe
【0025】
rgetal.,Nature368:856(1994)、及びTayloretal.,Int.Immun.6:579(1994)により説明されている。ヒト抗体はまた、遺伝子または染色体トランスフェクション法、及びファージディスプレイ技術により構築することができ、これらは全て、当該技術分野において知られている。(例えば、非免疫化ドナーからの免疫グロブリン可変ドメイン遺伝子レパートリーからの、インビトロでのヒト抗体及びその断片の産生に関して、McCaffertyetal.,1990,Nature348:552-553を参照されたい)。この技術において、抗体可変ドメイン遺伝子は、繊維状バクテリオファージの主要または微量外被タンパク質遺伝子にインフレームでクローニングされ、ファージ粒子の表面上に機能性抗体断片として表示される。繊維状粒子はファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含有するため、抗体の機能的特性に基づく選択はまた、それらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択をもたらす。このようにして、ファージは、B 細胞の特性のいくつかを模倣する。
【0026】
ファージディスプレイは、様々な形式で行うことができるが、それらの検討については、例えば、JohnsonandChiswell,CurrentOpinioninStructuralBiology3:5564-571(1993)を参照されたい。ヒト抗体はまた、インビトロ活性化B細胞により生成されてもよい。(米国特許第5,567,610号及び同第5,229,275号を参照されたい)。
【0027】
本発明の抗CD26抗体は、マウスモノクローナル抗体14D10と同じエピ卜一プに結合する。ある実施態様において、本明細書において記載される抗CD26抗体は、競合アッセイにおいて、ヒ卜CD26に対するマウスモノクローナル抗体14D10の結合を遮断する能力がある(マウスモノクロ一ナル抗体14D10と競合する)。本発明において、抗CD26抗体は、競合アッセイにおいてヒ卜CD26に対するマウスモノクローナル抗体1F7の結合を遮断する能力がある(マウスモノクローナル抗体1F7と競合する)。
【0028】
本発明において、モノクローナル抗CD26抗体は、ヒト化抗体である「YS110」であってもよいがこれに限定されない。ヒ卜化抗CD26抗体である「YS110」とは、重鎖定常領域が配列番号17に記載されたアミノ酸配列からなり、軽鎖定常領域が配列番号18に記載されたアミノ酸配列からなる抗体を意味する。YS110についてはWO2008/114876を参照されたい。
【0029】
本発明において、「細胞外リガンド結合ドメイン」という用語は、本明細書において使用されるように、リガンドと結合することができるオリゴペプチドまたはポリペプチドとして定義される。好ましくは、ドメインは、細胞表面分子と相互作用することができる場合がある。例えば、細胞外リガンド結合ドメインは、特定の疾患状態に関連した標的細胞上の細胞表面マーカーとして働くリガンドを認識するよう選択され得る。好ましい態様において、細胞外リガンド結合ドメインは、フレキシブルリンカーによって接合された標的抗原特異的モノクローナル抗CD26抗体の軽鎖(V)および重鎖(V)の可変断片を含む単鎖抗体断片を含むがこれに限定されない。さらに好ましい対応において、VおよびVは、任意で、ヒト化されていてもよい。
【0030】
本発明において、可変断片は、断片抗原結合(Fab)断片、F(ab’)2 断片、Fab’断片、Fv断片、組換えIgG(rIgG)断片、抗原に特異的に結合することができる可変重鎖(VH)領域、一本鎖可変断片(scFv)を含む一本鎖抗体断片、および単一ドメイン抗体(例えばsdAb、sdFv、ナノボディ)断片を含む機能的(抗原結合)抗体断片を含む。この用語は、遺伝子操作されたおよび/または他の方法で修飾された形態の免疫グロブリン、例えばイントラボディ、ペプチボディ、キメラ抗体、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、およびヘテロコンジュゲート抗体、多重特異性、例えば二重特異性抗体、ダイアボディ、トリアボディ、およびテトラボディ、タンデムdi-scFv、タンデムtri-scFvを包含する。特に好ましくは、scFVであるがこれに限定されない。
本発明において、「ドメイン」の用語は、一般的な意味を示し、タンパク質、ペプチド等の特定の機能を示す部分を指すが、これに限定されず、其の他の部分を含んでいてもよい。
【0031】
本発明における好ましい態様において、本発明のCD26特異的キメラ抗原受容体またはCARは、ヒンジを含んでいてもよい。本発明におけるヒンジは、細胞外リガンド結合ドメインと膜貫通ドメインとの間にあってもよい。本明細書において使用される「ヒンジ」という用語は通常、膜貫通ドメインを細胞外リガンド結合ドメインに連結するために機能するオリゴペプチドまたはポリペプチドを意味する。具体的には、ヒンジ領域は、細胞外リガンド結合ドメインに、より多くの可動性および接近可能性を提供するために使用される。ヒンジ領域は、300個までのアミノ酸、好ましくは、10~100個のアミノ酸、最も好ましくは、25~50個のアミノ酸を含み得る。ヒンジ領域は、天然に存在する分子の全部もしくは一部、例えば、CD8、CD4、CD28の細胞外領域の全部もしくは一部、または抗体定常領域の全部もしくは一部に由来し得る。あるいは、ヒンジ領域は、天然に存在するヒンジ配列に相当する合成配列であってもよいし、または完全合成ヒンジ配列であってもよい。好ましい態様において、ヒンジドメインは、本明細書において、ヒトCD8α鎖、FcγRIIIα受容体、もしくはIgG1の一部、またはこれらのポリペプチドとの好ましくは少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%、95%、97%、99%、もしくは100%の配列同一性を示すヒンジポリペプチドを含む。好ましくは、CD8αヒンジであるが、これに限定されない。
本発明の好ましい態様において、CD26特異的キメラ抗原受容体またはCARは、膜貫通ドメインを含んでもよい。適切な膜貫通ドメインの特徴的は、細胞、本発明において好ましくは、免疫細胞、特にT細胞、具体的には、リンパ球またはナチュラルキラー(NK)細胞等の表面に発現され、予定された標的細胞に対する免疫細胞の細胞性応答を指図するために共に相互作用する能力が含まれる。膜貫通ドメインは、天然起源または合成起源のいずれかに由来し得る。膜貫通ドメインは、任意の膜結合型タンパク質または膜貫通型タンパク質に由来し得る。非限定的な例として、膜貫通型ポリペプチドは、α、β、γ、またはδのようなT細胞受容体のサブユニット、CD3複合体を構成するポリペプチド、IL2受容体p55(α鎖)、p75(β鎖)、またはγ鎖、Fc受容体、具体的には、Fcγ受容体IIIまたはCDタンパク質のサブユニット鎖であり得る。膜貫通領域には、T細胞受容体、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154のα鎖、β鎖、またはζ鎖等に由来し、すなわち少なくともその膜貫通領域含むものが含まれる。あるいは、膜貫通ドメインは、合成であってもよく、ロイシンおよびバリンのような主に疎水性の残基を含んでいてもよい。特に好ましくは、CD28であるが、これに限定されない。
本発明において、好ましいヒンジと膜貫通ドメインとの組み合わせは、ヒンジが、CD8αヒンジであり、および膜貫通ドメインが、CD28であるが、これに限定されない。
本発明の一態様において、本発明のCD26特異的キメラ抗原受容体またはCARは、CD3ζシグナリングドメインと、4-1BBおよびCD28由来の共刺激ドメインとを含む細胞質ドメインを含んでもよい。
【0032】
本発明に使用される細胞内ドメインは、同一分子内に存在する細胞外ドメインが抗原と結合(相互作用)した際に、細胞内にシグナルを伝達することが可能な分子である。
本発明のCARは、細胞内ドメインとしてGITRの細胞内ドメインを含むことがある。GITRの細胞内ドメインは、同一の機能を有するその変異体を含む。用語「変異体」は、1個又は数個~複数個のアミノ酸置換、欠失又は付加を含む任意の変異体を意味するが、ただし、当該変異体は元の配列が保持していたものと同一の機能を実質的に保持する。例えば、本発明に使用するGITRの細胞内ドメインは、GITR(NCBI RefSeq:NP_004186.1)のアミノ酸番号193~241(配列番号28)を含む細胞内ドメインが例示される。本発明のCARはGITRの細胞内ドメインに加えて他のポリペプチドに由来する細胞内ドメインを使用することができる。このような細胞内ドメインは、TCR複合体及び共刺激分子に由来する細胞質配列、並びにそれらの配列の同一の機能を有する任意の変異体が含まれる。TCR複合体のみを介して発生されたシグナルはT細胞の活性化に不十分であること、及び二次又は共刺激シグナルも必要であることが知られている。天然のT細胞活性化は、2つの異なる種類の細胞質シグナル伝達配列、すなわちTCR複合体を介して抗原依存的一次活性化を開始させる配列(一次細胞質シグナル伝達配列)及び抗原非依存的に作用して二次又は共刺激シグナルを提供する配列(二次細胞質シグナル伝達配列)によって伝達されている。好適な態様において、本発明のCARは、細胞内ドメインとして、前記一次細胞質シグナル伝達配列及び/又は二次細胞質シグナル伝達配列を含む。
一次細胞質シグナル伝達配列は、TCR複合体の一次活性化を調節する。活性化を刺激する一次細胞質シグナル伝達配列は、免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(ITAM)として知られるシグナル伝達モチーフを含むことがある[ネイチャー(Nature)、第338巻、第383-384頁(1989)]。一方、抑制的に作用する一次細胞質シグナル伝達配列は、免疫受容体チロシンベース抑制モチーフ(ITIM)として知られるシグナル伝達モチーフを含む[ジャーナル オブ イムノロジー(J Immunol.)、第162巻、第2号、第897-902頁(1999)]。本発明には、ITAM又はITIMを有する細胞内ドメインが使用できる。
本発明で使用できるITAMを有する細胞内ドメインは、例えば、CD3ζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dに由来するITAMを包含する。
【0033】
本発明によるCARのシグナリングドメインまたは細胞内シグナリングドメインは、免疫細胞の活性化および免疫応答をもたらす、細胞外リガンド結合ドメインの標的への結合の後の細胞内シグナリングを担う。換言すると、シグナリングドメインは、CARが発現される免疫細胞の正常なエフェクター機能のうちの少なくとも1種の活性化を担う。例えば、T細胞のエフェクター機能は、細胞溶解活性、またはサイトカインの分泌を含むヘルパー活性であり得る。従って、「シグナリングドメイン」という用語は、エフェクターシグナル機能シグナルを伝達し、専門の機能を果たすよう細胞に指図するタンパク質の部分をさす。 CARにおいて使用するためのシグナリングドメインの好ましい例は、抗原受容体会合後にシグナリングを開始するために協調的に作用するT細胞受容体および共受容体の細胞質配列、ならびに同一の機能的能力を有するこれらの配列の誘導体またはバリアントおよび合成配列であり得る。シグナリングドメインには、細胞質シグナリング配列の2種の別個のクラス(抗原依存性の一次活性化を開始するもの、および二次的または共刺激的なシグナルを提供するために抗原非依存的に作用するもの)が含まれる。一次細胞質シグナリング配列には、免疫受容活性化チロシンモチーフであるITAMとして公知であるシグナリングモチーフが含まれ得る。ITAMは、syk/zap70クラスチロシンキナーゼのための結合部位として役立つ、多様な受容体の細胞質内テールに見出される十分に定義されたシグナリングモチーフである。本発明において使用されるITAMの例には、非限定的な例として、TCRζ、FcRγ、FcRβ、FcRε、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b、およびCD66dに由来するものが含まれ得る。CD3ζシグナリングドメインが含まれ得る。
【0034】
本発明の別の形態において、細胞内シグナリングドメインは、T細胞受容体(TCR)の細胞質配列を含み、いくつかの態様では、天然の状況ではそのような受容体と協調して作用し、抗原受容体結合後、シグナリングを開始する共受容体の配列、および/またはそのような分子の任意の誘導体もしくは変異体、および/または同じ機能的能力を有する任意の合成配列も含む。天然のTCRに関しては、完全活性化は一般に、TCRを介するシグナリングだけでなく、共刺激シグナルも必要とする。したがって、いくつかの実施形態では、完全な活性化を促進するために、二次シグナルまたは共刺激シグナルを生成するための成分もCARに含まれる。単一の免疫受容体活性化ドメイン(例えば、ITAM)、活性化ドメインと1つの共刺激ドメイン、または活性化ドメインと1もしくは複数の共刺激ドメインを有するCARに組み込むことができ、このCARはヘテロ二官能性ドメインの投与により分解される。
本発明に含まれる共刺激ドメインは、特に限定されないが、いくつかの実施形態では、CARは、CD28、4-1BB、OX40、DAP10、およびICOSなどの共刺激受容体のシグナル伝達ドメインおよび/または膜貫通部分を含む。好まし右派いくつかの態様では、同じCARは活性化成分と共刺激成分の両方を含み、他の態様では、活性化ドメインは1つのCARによって提供され、共刺激成分は別のCARまたは別の抗原を認識するリガンドによって提供される。
特定の実施形態では、細胞内シグナリングドメインは、CD3(例えば、CD3-ゼータ)細胞内ドメインに連結したCD28膜貫通ドメインおよびシグナル伝達ドメインを含む。いくつかの実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ゼータ細胞内ドメインに連結したキメラCD28およびCD137(4-1BB、TNFRSF9)共刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、キメラCD28またはCD137(4-1BB、TNFRSF9)共刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、キメラCD28およびOX40共刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインはキメラCD27共刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、キメラCD27およびDAP10共刺激ドメインを含む。
本発明の好ましい実施形態において、細胞外リガンド結合ドメインが、scFVを含む。本発明において「scFVを含む」とは一般的な意味を示し、scFV以外のその他の断片を含んでいてもよく、また、断片に限らず慣用的な意味において、すべての抗体のいずれか1つ以上を含んでいてもよい。
【0035】
本発明の別の態様において、本発明のCARのシグナル伝達ドメインは、共刺激シグナル分子を含む。共刺激分子とは、効率的な免疫応答のために必要とされる、抗原受容体またはそのリガンド以外の細胞表面分子である。「共刺激リガンド」とは、T細胞上の同族共刺激分子に特異的に結合し、それによって、例えば、ペプチドが負荷されたMHC分子とのTCR/CD3複合体の結合によって提供される一次シグナルに加えて、増殖活性化、分化等を含むが、これらに限定されないT細胞応答を媒介するシグナルを提供する抗原提示細胞上の分子をさす。共刺激リガンドには、CD7、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、PD-L1、PD-L2、4-1BBL、OX40L、誘導性共刺激リガンド(ICOS-L)、細胞間接着分子(ICAM、CD30L、CD40、CD70、CD83、HLA-G、MICA、M1CB、HVEM、リンホトキシンβ受容体、3/TR6、ILT3、ILT4、トールリガンド受容体に結合するアゴニストまたは抗体、およびB7-H3に特異的に結合するリガンドが含まれ得るが、これらに限定されない。共刺激リガンドには、とりわけ、以下に限定されないが、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原1(LFA-1)、CD2、CD7、LTGHT、NKG2C、B7-H3、CD83に特異的に結合するリガンドのような、T細胞上に存在する共刺激分子と特異的に結合する抗体も包含される。
本発明の好ましい形態において、ヒンジは、FcRIIIαヒンジ、CD8αヒンジ、およびIgG1ヒンジより選択されるがこれに限定されない。特に好ましくはヒンジは、CD8αヒンジを含むが、これに限定されない。
本発明の好ましい形態において、膜貫通ドメインは、CD28を含むが、これに限定されいない。
本発明の好ましい形態において、ヒンジがCD8αヒンであり、および膜貫通ドメインが、CD28である場合があるが、これに限定されない。
【0036】
本発明の好ましい形態において、本発明は、細胞外リガンド結合ドメインが、配列番号1アミノ酸番号20~260で示されるアミノ酸配列からなるか、もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されることにより、前記それぞれの配列に対して95%の相当性を有するアミノ酸配列からなるCARに関する。相当性は、95%より低い場合であっても、機能を有する場合は問題なく、例えば80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のである場合がある。
本発明の別の態様において、本発明のVHおよびVLは腫瘍抗原の結合に寄与する。好ましくは本発明のVHおよびVLはCD26への結合に寄与する。
【0037】
別の態様において、VHが、配列番号1の145~260より選択されるアミノ酸配列からなり、かつVLが、配列番号1の21~129より選択されるアミノ酸配列からなるか、もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されることにより、前記それぞれの配列に対して95%の相当性を有するアミノ酸配列からなる場合がある。相当性は、95%より低い場合であっても、機能を有する場合は問題なく、例えば80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のである場合がある。
【0038】
本発明の一態様において、膜貫通ドメインが配列番号1のアミノ酸番号314~384のアミノ酸配列で示されるアミノ酸配列からなるか、もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換,もしくは付加されることにより、前記それぞれの配列に対して95%の相当性を有するアミノ酸配列からなる場合がある。相当性は、95%より低い場合であっても、機能を有する場合は問題なく、例えば80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のである場合がある。
【0039】
本発明の一態様において、CD3ζシグナリングドメインが、配列番号1のアミノ酸番号427~539で示されるアミノ酸配列からなるか、もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換,もしくは付加されることにより、前記それぞれの配列に対して95%の相当性を有するアミノ酸配列からなる場合があるがこれに限定されない。
【0040】
本発明の別の態様において、CARは、膜貫通ドメインを含む。膜貫通ドメインは天然のポリペプチドに由来するものでもよく、人為的に設計したものでもよい。天然のポリペプチド由来の膜貫通ドメインは、任意の膜結合又は膜貫通タンパク質から取得することができる。例えば、T細胞受容体のα、β鎖、CD3ζ鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、ICOS、CD154、GITRの膜貫通ドメインを使用することができる。また、人為的に設計された膜貫通ドメインは、ロイシン及びバリンなどの疎水性残基を主に含むポリペプチドである。また、フェニルアラニン、トリプトファン及びバリンのトリプレットが、合成膜貫通ドメインの各末端に見出されることが好ましい。場合により、短いオリゴペプチドリンカー又はポリペプチドリンカー、例えば長さが2~10個のアミノ酸配列からなるリンカーを、膜貫通ドメインと前記(b)の細胞内ドメインとの間に配置することができる。特にグリシン-セリン連続配列を有するリンカー配列を使用することができる。
本発明の一態様において、本発明の4-1BB由来の共刺激ドメインが配列番号(385~426)で示されるアミノ酸配列からなるか、もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換,もしくは付加されることにより、前記それぞれの配列に対して95%の相当性を有するアミノ酸配列からなっていてもよい。相当性は、95%より低い場合であっても、機能を有する場合は問題なく、例えば80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のである場合がある。
【0041】
本発明の別の態様において、CD28由来の共刺激ドメインが配列番号(344~384)で示されるアミノ酸配列からなるか、もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換,もしくは付加されることにより、前記それぞれの配列に対して95%の相当性を有するアミノ酸配列からなる場合がある。
【0042】
本発明の一側面として、本発明のCARはシグナルペプチドをさらに含んでもよい。シグナルペプチドは多くの分泌タンパク質、膜タンパク質のN末端に存在し、15~30アミノ酸の長さを有する。細胞内ドメインとして前記に例示したタンパク質分子の多くはシグナルペプチド配列を有していることから、これらのシグナルペプチドを本発明のCARのシグナルペプチドとして使用することができる。
本発明の別の態様として、シグナルペプチドが配列番号1のアミノ酸番号1~20で示されるアミノ酸配列からなるか、もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換,もしくは付加されることにより、前記それぞれの配列に対して95%の相当性を有するアミノ酸配列からなる場合があるがこれに限定されない。相当性は、95%より低い場合であっても、機能を有する場合は問題なく、例えば80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のである場合がある。
【0043】
CARをコードする、ポリヌクレオチド
本発明は、好ましい態様として、本発明のCARをコードする、ポリヌクレオチドに関する。本発明は、本発明による抗CD26CARをコードするポリヌクレオチド、本発明による抗CD33CARをコードするポリヌクレオチドのうちの少なくとも1種を含むベクター、好ましくは、レンチウイルスベクターにも関する。 ポリヌクレオチドは、発現カセットまたは発現ベクター(例えば、細菌宿主細胞への導入のためのプラスミド、または昆虫宿主細胞のトランスフェクションのためのバキュロウイルスベクターのようなウイルスベクター、または哺乳動物宿主細胞のトランスフェクションのためのレンチウイルスのようなプラスミドもしくはウイルスベクター)の中に存在し得る。
【0044】
具体的な態様において、2Aペプチドをコードする配列のようなリボソームスキップ配列をコードする核酸配列を含む一つのポリヌクレオチドまたはベクターに、異なる核酸配列を含めることができる。ピコルナウイルスのアフトウイルス亜群において同定された2Aペプチドは、コドンによってコードされた2つのアミノ酸の間にペプチド結合が形成されない、あるコドンから次のコドンへのリボソーム「スキップ」を引き起こす((Donnelly and Elliott 2001;Atkins,Wills et al.2007;Doronina,Wu et al.2008)を参照されたい)。「コドン」とは、リボソームによって1つのアミノ酸残基へ翻訳されるmRNA(またはDNA分子のセンス鎖)上の3ヌクレオチドを意味する。従って、ポリペプチドが、インフレームにある2Aオリゴペプチド配列によって隔てられている時、mRNA内の単一の連続するオープンリーディングフレームから、2つのポリペプチドが合成され得る。そのようなリボソームスキップ機序は、当技術分野において周知であり、単一のメッセンジャーRNAによってコードされた数種のタンパク質の発現のため、数種のベクターによって使用されることが公知である。
【0045】
膜貫通ポリペプチドを宿主細胞の分泌経路へ差し向けるためには、(リーダー配列、プレプロ配列、またはプレ配列としても公知の)分泌シグナル配列が、ポリヌクレオチド配列またはベクター配列の中に提供される。分泌シグナル配列は、膜貫通核酸配列に機能的に連結される。即ち、2種の配列は、正確なリーディングフレームにおいて結合され、新たに合成されたポリペプチドが宿主細胞の分泌経路へ差し向けられるよう位置付けられる。分泌シグナル配列は概して、関心対象のポリペプチドをコードする核酸配列の5’に位置するが、ある種の分泌シグナル配列は、関心対象の核酸配列の他の場所に位置し得る(例えば、Welchら、米国特許第5,037,743号;Hollandら、米国特許第5,143,830号を参照されたい)。
【0046】
当業者は、遺伝暗号の縮重を考慮して、これらのポリヌクレオチド分子において相当の配列変動が可能であることを認識する。好ましくは、本発明の核酸配列は、哺乳動物細胞における発現のため、好ましくは、ヒト細胞における発現のため、コドン最適化される。コドン最適化とは、関心対象の配列において、所定の種の高発現遺伝子において通常は稀であるコドンを、そのような種の高発現遺伝子において概して高頻度であるコドンへ交換することをさす。そのようなコドンは、交換されるコドンとしてアミノ酸をコードする。
本発明の別の態様において、本発明は、本発明のCARをコードするポリヌクレオチドを提供する。CARをコードするポリヌクレオチドは、特定されたCARのアミノ酸配列から常法により容易に作製することができる。前記に記載した各ドメインのアミノ酸配列を示すNCBI RefSeq IDやGenBankのAccession番号からアミノ酸配列をコードする塩基配列を取得することが可能であり、標準的な分子生物学的及び/又は化学的手順を用いて本発明のポリヌクレオチドを作製できる。例えば、これらの塩基配列をもとに、ポリヌクレオチドを合成することができ、また、cDNAライブラリーよりポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して得られるDNA断片を組み合わせて本発明のポリヌクレオチドを作製することができる。
【0047】
本発明のポリヌクレオチドは、適当なプロモーターの制御下に発現されるように別のポリヌクレオチドと連結することができる。プロモーターとしては構成的に発現を促進するもの、薬剤等(例えば、テトラサイクリン又はドキソルビシン)により誘導されるもの等のいずれも用いることができる。また、ポリヌクレオチドの効率のよい転写を達成するために、プロモーター又は転写開始部位と協同する他の調節要素、例えば、エンハンサー配列又はターミネーター配列を含むポリヌクレオチドを連結してもよい。また、更に本発明のポリヌクレオチドに加えて、当該ポリヌクレオチドの発現を確認するためのマーカーとなりうる遺伝子(例えば薬剤耐性遺伝子、レポーター酵素をコードする遺伝子、又は蛍光タンパク質をコードする遺伝子等)を組み込んでもよい。
本発明の好ましい局面として、前記ポリヌクレオチドを含む、発現ベクターに関する。
【0048】
「ベクター」という用語は、それが連結された別の核酸を輸送することができる核酸分子をさす。本発明における「ベクター」には、ウイルスベクター、プラスミド、RNAベクター、または染色体核酸、非染色体核酸、半合成核酸、もしくは合成核酸からなり得る直鎖状もしくは環状のDNA分子もしくはRNA分子が含まれるが、これらに限定されない。好ましいベクターは、それらが連結された核酸の自律複製が可能なもの(エピソームベクター)および/または発現が可能なもの(発現ベクター)である。多数の適当なベクターが、当業者に公知であり、市販されている。
【0049】
ウイルスベクターには、レトロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス)、コロナウイルス、オルソミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば、狂犬病ウイルスおよび水疱性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、麻疹およびセンダイ)のようなマイナス鎖RNAウイルス、ピコルナウイルスおよびアルファウイルスのようなプラス鎖RNAウイルス、ならびにアデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1型および2型、エプスタイン・バーウイルス、サイトメガロウイルス)、およびポックスウイルス(例えば、ワクシニア、鶏痘、およびカナリアポックス)を含む二本鎖DNAウイルスが含まれる。他のウイルスには、例えば、ノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポーバウイルス、ヘパドナウイルス、および肝炎ウイルスが含まれる。レトロウイルスの例には、トリ白血病肉腫、哺乳動物C型、B型ウイルス、D型ウイルス、HTLV-BLV群、レンチウイルス、スプーマウイルスが含まれる(Coffin,J.M.,Retroviridae:The viruses and their replication,In Fundamental Virology,Third Edition,B.N.Fields,et al.,Eds.,Lippincott-Raven Publishers,Philadelphia,1996)。
【0050】
「レンチウイルスベクター」とは、比較的大きいパッケージング能力、低下した免疫原性、および広範囲の異なる細胞型を高い効率で安定的に形質導入する能力のため、遺伝子送達のために極めて有望である、HIVに基づくレンチウイルスベクターを意味する。レンチウイルスベクターは通常、3種(パッケージング、エンベロープ、および移入)またはそれ以上のプラスミドを産生細胞に一過性トランスフェクションした後、生成される。HIVと同様に、レンチウイルスベクターは、ウイルス表面糖タンパク質の細胞表面上の受容体との相互作用を通して標的細胞に侵入する。侵入後、ウイルスRNAが、ウイルス逆転写酵素複合体によって媒介される逆転写を受ける。逆転写の産物は、感染細胞のDNAへのウイルス組み込みのための基質となる二本鎖の直鎖状ウイルスDNAである。「組込みレンチウイルスベクター(またはLV)」とは、非限定的な例として、標的細胞のゲノムに組み込まれ得るそのようなベクターを意味する。反対に、「非組込みレンチウイルスベクター(またはNILV)」とは、ウイルスインテグラーゼの作用を通して標的細胞のゲノムに組み込まれない効率的な遺伝子送達ベクターを意味する。
【0051】
送達ベクターおよびベクターは、ソノポレーション(sonoporation)もしくは電気穿孔のような細胞透過処理技術、またはこれらの技術の変法と関連しているかまたは組み合わせられていてよい。
細胞とは、真核生物の生存細胞、初代細胞、およびインビトロ培養のためのこれらの生物に由来する細胞株を表す。
「初代細胞」とは、集団倍化をほとんど受けておらず、従って、腫瘍形成性の連続細胞株または人為的に不死化された細胞株と比較して、それが由来した組織の主な機能的成分および特徴をよりよく表している、生存組織(即ち、生検材料)から直接採取され、インビトロでの増殖のために確立された細胞を表す。
【0052】
非限定的な例として、細胞株は、CHO-K1細胞;HEK293細胞;Caco2細胞;U2-OS細胞;NIH3T3細胞;NSO細胞;SP2細胞;CHO-S細胞;DG44細胞;K-562細胞、U-937細胞;MRC5細胞;IMR90細胞;Jurkat細胞;HepG2細胞;HeLa細胞;HT-1080細胞;HCT-116細胞;Hu-h7細胞;Huvec細胞;Molt 4細胞からなる群より選択される。
これらの細胞株は、全て、関心対象の遺伝子またはタンパク質を作製し、発現させ、定量化し、検出し、研究するための細胞株モデルを提供するため、本発明の方法によって改変され得;これらのモデルは、研究および作製、ならびに非限定的な例としての化学物質、生物燃料、治療薬、および農学のような様々な領域において、関心対象の生理活性分子をスクリーニングするためにも使用され得る。
【0053】
CARを細胞表面膜に発現している、免疫細胞
本発明の好ましい態様において、本発明は、本発明のCARを細胞表面膜に発現している、免疫細胞に関する。
本発明の、CARを細胞表面膜に発現している、本発明のCARを発現する細胞は、前記のCARをコードするペプチドが導入、発現した細胞である。
本発明の細胞は、CARを介して特定の抗原との結合により細胞内にシグナルが伝達され、活性化される。CARを発現する細胞の活性化は、宿主細胞の種類やCARの細胞内ドメインにより異なるが、例えば、サイトカインの放出、細胞増殖率の向上、細胞表面分子の変化等を指標として確認することができる。例えば、活性化された細胞からの細胞傷害性のサイトカイン(腫瘍壊死因子、リンホトキシンなど)の放出は、抗原を発現する標的細胞の破壊をもたらす。また、サイトカイン放出や細胞表面分子の変化により、他の免疫細胞、例えば、B細胞、樹状細胞、NK細胞、マクロファージ等を刺激する。
本発明の別の態様において、本発明の遺伝子修飾された免疫細胞は、炎症性Tリンパ球、細胞傷害性Tリンパ球、制御性Tリンパ球、またはヘルパーTリンパ球に由来する、遺伝子修飾された免疫細胞であってもよい。
本発明の別の態様において、本発明の遺伝子修飾された免疫細胞は、TCRの発現が抑制されている、遺伝子修飾された免疫細胞であってもよい。
本発明の別の態様において、本発明の遺伝子修飾された免疫細胞は、CD26の発現が抑制されている、遺伝子修飾された免疫細胞であってもよい。
本発明の別の態様において、本発明の遺伝子修飾された免疫細胞は、少なくとも1種の免疫抑制剤または化学療法剤に対して耐性になるよう修飾されている、遺伝子修飾された免疫細胞であってもよい。
【0054】
医薬組成物
本発明の好ましい態様において、本発明は、疾患の治療において使用するための、本発明に係の遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物に関する。
本発明の一態様において、本発明は、患者がヒトである、前記の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物でもよい。
本発明の一態様において、本発明は、疾患が、CD26発現細胞を特徴とする前癌性または癌疾患である、前記の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物でもよい。
本発明の一態様において、本発明は、疾患がCD26発現細胞の過剰量を特徴とする疾患である、前記の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物でもよい。
本発明の一態様において、本発明は、疾患が、腎臓癌、前立腺癌、または肺癌である、前記の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物でもよい。
本発明の一態様において、本発明は、 疾患が、造血器腫瘍である、前記の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物でもよい。
本発明の一態様において、本発明は、造血器腫瘍が、白血病である、前記の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物でもよい。
本発明の一態様において、本発明は、白血病が、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、および骨髄異形成症候群からなる群より選択される、前記の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物でもよい。
本発明の一態様において、本発明は、白血病が、急性骨髄性白血病(AML)である、前記の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物でもよい。
本発明の一態様において、本発明は、造血器腫瘍が、悪性リンパ増殖性障害である、前記の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物でもよい。
本発明の一態様において、本発明は、悪性リンパ増殖性障害がリンパ腫である、前記の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物でもよい。
本発明の一態様において、本発明は、リンパ腫が、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、ならびに濾胞性リンパ腫(小細胞型および大細胞型)からなる群より選択される、前記の治療において使用するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物でもよい。
【0055】
本発明は、被験体におけるCD26発現に関連する状態を治療するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物をさらに提供する。いくつかの実施形態では、被験体におけるCD26発現に関連する状態を治療するための遺伝子修飾された免疫細胞を含む医薬組成物は、本明細書中に記載される抗体等のポリペプチドを含む有効量の組成物を被験体に投与することを含む。いくつかの実施形態では、CD26発現に関連する状態はCD26の異常発現に関連する。いくつかの実施形態では、CD26発現に関連する状態は変更したまたは異常なCD26発現に関連する状態である(いくつかの実施形態では、上昇または減少したCD26発現(正常試料に比べて)ならびに/あるいはCD26発現を通常欠く組織および/もしくは細胞における発現の存在またはCD26発現を通常有する組織もしくは細胞におけるCD26発現の欠如等の不適切な発現)。いくつかの実施形態では、CD26発現に関連する状態はCD26過剰発現に関連する状態である。いくつかの実施形態では、CD26発現に関連する状態は少なくとも部分的にCD26により媒介される。いくつかの実施形態では、CD26発現に関連する状態はCD26を発現する細胞に関連する状態である。いくつかの実施形態では、CD26発現に関連する状態はCD26を発現する細胞の増殖に関連する状態である。いくつかの実施形態では、CD26を発現する細胞の増殖は異常である。いくつかの実施形態では、CD26を発現する細胞はT細胞である。いくつかの実施形態では、CD26を発現する細胞は腫瘍細胞であり、腫瘍細胞は悪性または良性であってもよい。いくつかの実施形態では、CD26発現に関連する状態は、癌細胞がCD26+癌細胞であるかCD26を発現する(つまり、CD26発現癌)癌である(CD26を発現するさらなる細胞は上記に記載される)。
【0056】
いくつかの実施形態では、被験体におけるCD26発現に関連する状態は増殖性障害である。いくつかの実施形態では、被験体におけるCD26発現に関連する状態は癌である。いくつかの実施形態では、癌はCD26+血液悪性腫瘍である。いくつかの実施形態では、癌は、T細胞リンパ腫等のT細胞癌である。たとえば、いくつかの実施形態では、癌は、T細胞リンパ芽球性リンパ腫または急性リンパ芽球性白血病である。他の実施形態では、癌は、T細胞CD30+未分化大細胞リンパ腫である。いくつかの実施形態では、癌は、末梢T細胞リンパ腫、T細胞慢性リンパ性白血病、血管免疫芽細胞性T細胞リンパ腫、血管中心性T細胞リンパ腫、HTLV関連T細胞白血病、または成人T細胞白血病である。いくつかの実施形態では、癌は固形腫瘍である。いくつかの実施形態では、癌は、膵癌、腎臓癌、またはリンパ腫である。いくつかの実施形態では、癌は、B細胞癌、甲状腺癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、大腸癌、膀胱癌、肺癌、肝臓癌、胃癌、精巣癌、子宮癌、脳癌、リンパ癌、皮膚癌、骨癌、直腸癌、肉腫、肺癌、B細胞慢性リンパ性白血病、またはB細胞リンパ腫である。いくつかの実施形態では、癌はCD26の過剰発現に関連する。いくつかの実施形態では、癌は中皮腫ではない。いくつかの実施形態では、癌は黒色腫ではない。いくつかの実施形態では、癌はリンパ腫、腎臓癌、前立腺癌、または肺癌である。いくつかの実施形態では、癌はリンパ腫である。いくつかの実施形態では、癌は腎癌腫である。いくつかの実施形態では、癌は前立腺癌腫である。いくつかの実施形態では、癌は肺癌腫である。
いくつかの実施形態では、CD26発現に関連する状態は炎症性疾患または炎症性障害である。いくつかの実施形態では、炎症性疾患はCD26の過剰発現に関連する。
他の実施形態では、CD26発現に関連する状態は血管新生である。
【0057】
さらなる実施形態では、CD26発現に関連する状態は、これらに限定されないが、移植片対宿主疾患および自己免疫疾患または自己免疫障害等の活性化された免疫状態を伴う状態である。いくつかの実施形態では、状態は、アジソン病、脱毛、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群、ベーチェット病、慢性疲労症候群、クローン病、潰瘍性大腸炎、糖尿病、線維筋痛、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、狼瘡、メニエール多発性硬化症、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、関節リウマチ、リウマチ熱、サルコイドーシス、強皮症、脈管炎、白斑、またはヴェーゲナー肉芽腫症である。いくつかの実施形態では、活性化された免疫状態を伴う状態は、CD26の過剰発現に関連する。
【0058】
遺伝子修飾された免疫細胞の製造
本発明の好ましい態様において、本発明は、
(a)免疫細胞を準備する工程、
(b)請求項1~15のいずれか一項に記載の少なくとも1種のCARを該細胞の表面に発現させる工程、
を含む、遺伝子修飾された免疫細胞を製造する方法の関する。
本発明のさらなる態様において、本発明は、
(c)CARをin vitroで増殖させる工程をさらに含む、前記の遺伝子修飾された免疫細胞を製造する方法に関する。
本発明のさらなる態様において、本発明は、
本発明の一態様において、本発明のCARを発現する細胞の製造方法は、前記に記載するCARをコードするポリペプチドを細胞に導入する工程を包含することを特徴とする。当該工程は生体外(ex vivo)で実施される。例えば、本発明のポリペプチドを含むウイルスベクター又は非ウイルスベクターを利用して、細胞を生体外で形質転換することにより製造することができる。
【0059】
本発明の方法は、哺乳動物、例えばヒト由来の細胞又はサル、マウス、ラット、ブタ、ウシ、イヌ等の非ヒト哺乳動物由来の細胞が使用できる。本発明の方法に使用される細胞に特に限定はなく、任意の細胞を使用することができる。例えば、血液(末梢血、臍帯血など)、骨髄などの体液、組織又は器官より採取、単離、精製、誘導された細胞を使用することができる。末梢血単核細胞(PBMC)、免疫細胞[樹状細胞、B細胞、造血幹細胞、マクロファージ、単球、NK細胞又は血球系細胞(好中球、好塩基球)]、臍帯血単核球、線維芽細胞、前駆脂肪細胞、肝細胞、皮膚角化細胞、間葉系幹細胞、脂肪幹細胞、各種がん細胞株又は神経幹細胞を使用することができる。本発明においては、特にT細胞、T細胞の前駆細胞(造血幹細胞、リンパ球前駆細胞等)又はこれらを含有する細胞集団の使用が好ましい。T細胞には、CD8陽性T細胞、CD4陽性T細胞、制御性T細胞、細胞傷害性T細胞、又は腫瘍浸潤リンパ球が含まれる。T細胞及びT細胞の前駆細胞を含有する細胞集団には、PBMCが含まれる。前記の細胞は生体より採取されたもの、それを拡大培養したもの又は細胞株として樹立されたもののいずれでもよい。製造されたCARを発現する細胞又は当該細胞より分化させた細胞を生体に移植することが望まれる場合には、その生体自身又は同種の生体から採取された細胞にポリペプチドを導入することが好ましい。
【0060】
本発明のCARをコードするポリペプチドをベクターに挿入して、このベクターを細胞に導入することができる。例えば、レトロウイルスベクター(オンコレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、シュードタイプベクターを包含する)、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、シミアンウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター又はセンダイウイルスベクター、エプスタイン-バーウイルス(EBV)ベクター、HSVベクターなどのウイルスベクターが使用できる。上記ウイルスベクターとしては、感染した細胞中で自己複製できないように複製能を欠損させたものが好適である。
【0061】
また、リポソーム及び国際公開第96/10038号パンフレット、国際公開第97/18185号パンフレット、国際公開第97/25329号パンフレット、国際公開第97/30170号パンフレット及び国際公開第97/31934号パンフレット(いずれも、出典明示により本明細書の一部とする)に記載されている陽イオン脂質などの縮合剤との併用により、非ウイルスベクターも本発明に使用することができる。更に、リン酸カルシウム形質移入、DEAE-デキストラン、エレクトロポレーション、パーティクルボンバードメントにより細胞に本発明のポリペプチドを導入することができる。
【0062】
例えばレトロウイルスベクターを使用する場合、ベクターが有しているLTR配列及びパッケージングシグナル配列に基づいて適切なパッケージング細胞を選択し、これを使用してレトロウイルス粒子を調製して実施することができる。例えばPG13(ATCC CRL-10686)、PA317(ATCC CRL-9078)、GP+E-86やGP+envAm-12(米国特許第5,278,056号公報)、Psi-Crip[米国科学アカデミー紀要、第85巻、第6460-6464頁(1988)]のパッケージング細胞が例示される。また、トランスフェクション効率の高い293細胞や293T細胞を用いてレトロウイルス粒子を作製することもできる。多くの種類のレトロウイルスを基に製造されたレトロウイルスベクター及び当該ベクターのパッケージングに使用可能なパッケージング細胞は、各社より広く市販されている。
【0063】
ポリペプチドを細胞に導入する工程で、導入効率を向上させる機能性物質を用いることもできる[例えば、国際公開第95/26200号パンフレット、国際公開第00/01836号パンフレット(いずれも出典明示により本明細書の一部とする)]。導入効率を向上させる物質としては、ウイルスベクターに結合する活性を有する物質、例えばフィブロネクチン又はフィブロネクチンフラグメントなどの物質が挙げられる。好適には、ヘパリン結合部位を有するフィブロネクチンフラグメント、例えばレトロネクチン(RetroNectin、登録商標、CH-296、タカラバイオ社製)として市販されているフラグメントを用いることができる。また、レトロウイルスの細胞への感染効率を向上させる作用を有する合成ポリカチオンであるポリブレン、線維芽細胞増殖因子、V型コラーゲン、ポリリジン又はDEAE-デキストランを使用することができる。
【0064】
本発明の好適な態様において、前記の機能性物質は適切な固相、例えば細胞培養に使用される容器(プレート、シャーレ、フラスコ又はバッグ等)又は担体(マイクロビーズ等)に固定化された状態で使用することができる。
【0065】
本発明のCARを発現する細胞は、前記(3)の製造方法により、前記のCARをコードするポリペプチドが導入・発現した細胞である。本発明の細胞は、CARを介して特定の抗原との結合により細胞内にシグナルが伝達され、活性化される。CARを発現する細胞の活性化は、宿主細胞の種類やCARの細胞内ドメインにより異なるが、例えば、サイトカインの放出、細胞増殖率の向上、細胞表面分子の変化等を指標として確認することができる。例えば、活性化された細胞からの細胞傷害性のサイトカイン(腫瘍壊死因子、リンホトキシンなど)の放出は、抗原を発現する標的細胞の破壊をもたらす。また、サイトカイン放出や細胞表面分子の変化により、他の免疫細胞、例えば、B細胞、樹状細胞、NK細胞、マクロファージ等を刺激する。
【0066】
CARを発現する細胞は疾患の治療剤として使用することができる。該治療剤は、CARを発現する細胞を活性成分として含み、さらに、適当な賦形剤を含んでいてもよい。該賦形剤としては、例えば、本発明のポリペプチドを活性成分として含む組成物に関して記載された上述の薬学的に許容できる賦形剤、種々の細胞培養培地、等張食塩水などが挙げられる。CARを発現する細胞が投与される疾患としては、当該細胞に感受性を示す疾患であればよく特に限定はないが、例えば、がん[血液がん(白血病)、固形腫瘍など]、炎症性疾患/自己免疫疾患(喘息、湿疹)、肝炎や、インフルエンザ、HIVなどのウイルス、細菌、真菌が原因となる感染性疾患、例えば結核、MRSA、VRE、深在性真菌症が例示される。前記の疾患において減少もしくは消失が望まれる細胞が有している抗原、すなわち腫瘍抗原、ウイルス抗原、細菌抗原等に結合する本発明のCARを発現する細胞がこれら疾患の治療のために投与される。また、本発明の細胞は、骨髄移植や放射線照射後の感染症予防、再発白血病の寛解を目的としたドナーリンパ球輸注などにも利用できる。CARを発現する細胞を活性成分として含む治療剤は、限定するものではないが、非経口投与、例えば、注射又は注入により、皮内、筋肉内、皮下、腹腔内、鼻腔内、動脈内、静脈内、腫瘍内、又は輸入リンパ管内などに投与することができる。本発明の別の形態において、本発明は、前記免疫細胞がドナーから提供される、前記の製造方法にも関する。
【実施例
【0067】
例1.PBMCsに導入したCD26 CARの検出
形質導入Day-2に末梢血単核球(PBMCs)はCD3/CD28Dynabeads(Invitrogen)を25μL/1×10cellsで刺激し、リコンビナントIL-2 30U/mLを添加したRPMI1640培地(10%FCS)で培養を開始した。形質導入Day1に24穴ノントリートメントプレートに20μg/mlに調整したレトロネクチン(Takara bio)を1wellあたり200μL加え、4℃で12時間静置した。2%牛血清アルブミン(BSA)を含むPhosphate-buffered saline(PBS)500μLをwellに加え、30分室温でブロッキングを行った。2%BSA/PBSでwellを洗浄後、レトロウイルス上清をレトロネクチン処理プレートに加え、2000×g、32℃で2時間遠心した。2%BSA/PBSで洗浄し、末梢血単核球(PBMCs)を5×10cells/1ml/1wellずつ加え、500×g、22℃で10分間遠心し、細胞をwellの底面に接着させた。細胞は適宜培地を添加し、導入3日後から適宜フラスコ等に拡大培養した。PBMCsに導入したCD26CARの発現は、導入3日後に細胞をPBS50μLに懸濁し、Tag(Fc)が付加されたリコンビナントCD26(Abcam)0.5μL(1μg/μL)を加えたのち20分室温で静置し、その後PEで蛍光標識された抗Fc抗体(RockLand immunochemical)1μLを添加し、20分氷冷後にFACS Cant(BD Biosciences)で検出した。結果はFlow Joで解析した。CD26 CAR 2ndとCD26 CAR 3rdのいずれにおいてもCD26 CARが検出された(図2A)。
【0068】
例2.PBMCsに導入したCD8CARの検出
形質導入Day-2に末梢血単核球(PBMCs)はCD3/CD28Dynabeads(Invitrogen)を25μL/1×10cellsで刺激し、リコンビナントIL-2 30U/mLを添加したRPMI1640培地(10%FCS)で培養を開始した。形質導入Day1に24穴ノントリートメントプレートに20μg/mlに調整したレトロネクチン(Takara bio)を1wellあたり200μL加え、4℃で12時間静置した。2%牛血清アルブミン(BSA)を含むPhosphate-buffered saline(PBS)500μLをwellに加え、30分室温でブロッキングを行った。2%BSA/PBSでwellを洗浄後、レトロウイルス上清をレトロネクチン処理プレートに加え、2000×g、32℃で2時間遠心した。2%BSA/PBSで洗浄し、末梢血単核球(PBMCs)を5×10cells/1ml/1wellずつ加え、500×g、22℃で10分間遠心し、細胞をwellの底面に接着させた。細胞は適宜培地を添加し、導入3日後から適宜フラスコ等に拡大培養した。PBMCsに導入したCD26CARの発現は、導入3日後に細胞をPBS100μLに懸濁し、APCで蛍光標識された抗CD8抗体(Invitrogen)1μLを添加し、20分氷冷後にFACS Cant(BD Biosciences)で検出した。結果はFlow Joで解析した。
なお、CAR導入前のPBMCs は約35%がもともとCD8陽性である。CD8CAR2ndもしくはCD8CAR3rdの導入によってGFP陽性となった細胞でCD8CARが検出された(図2B)。
【0069】
例3.CD26CAR導入後のCD26発現
CD26CAR導入後のCD26発現は、形質導入後3日目にAPCで標識された抗CD26抗体(BioLegend)を用いて検討した。細胞をそれぞれPBS100μLに懸濁し、APCで蛍光標識された抗CD26抗体(BioLegend)1.0μLを添加し20分氷冷した後、FACS Cant(BD Biosciences)で検出した。結果はFlow Joで解析した。CD26CAR2ndとCD26CAR3rdのいずれにおいてもCD26の発現は低下していた(図3A)。
【0070】
例4.CD26CAR導入後の細胞増殖
形質導入Day-2に末梢血単核球(PBMCs)はCD3/CD28ynabeads(Invitrogen)を25μL/1×10cellsで刺激し、リコンビナントIL-2 30U/mLを添加したRPMI1640培地(10%FCS)で培養を開始した。形質導入Day1に24穴ノントリーメントプレートに1wellあたりPBMCs5×10cells/mlを1ml加えて形質導入した。なお、形質導入しない細胞、CD8CARを形質導入する細胞、CD26CARを形質導入する細胞は各2wellずつ形質導入した。適宜リコンビナントIL-2 30U/Lを含むRPMI1640培地(10%FCS)を添加し、Day3に2wellずつ形質導入していた細胞を回収し、1つのフラスコに拡大し細胞培養した。以後、適宜培地を足して拡大し、Day6にCD3/CD28Dynabeads(Invitorogen)を1サンプルにつき25μL加えた。CD26CAR導入後の細胞増殖は、Day10に細胞数をカウントして比較した。CD26CAR2ndとCD26CAR3rdのいずれも、CD8CAR2ndやCDCAR 3rdと同様に増殖した(図4A)。
【0071】
例5.CD26CAR導入後のCD69発現
CAR導入後Day10のPBMCsを1×10cells/100μL、CD26強制発現Jurkat細胞(CD26-Jurkat)を1×10cells/100μLにRPMI1640培地で調整し、96穴プレートに、それぞれ1wellあたり100μL加えて12時間共培養したのち、プレートを400×g、3分遠心分離した。上清を除去した後、APCで蛍光標識された抗CD69抗体(BioLegend)1μLを加え、20分氷冷した後に、PBS200μLを加えてプレートを400×g,3min遠心分離した。遠心分離後、上清を除去しPBS200μLを加え、再度400×g、3分遠心分離し、上清を除去しPBS200μを加えてFACS Cant(BD Biosciences)で検出した。結果はFlow Joで解析した。リンパ球の活性化に伴って発現するCD69は、CD26CAR2ndとCD26CAR3rdのいずれにおいてもCD69の発現誘導が認められた(図5A)。
【0072】
例6.CD26CAR導入後のIFN-γ産生
リンパ球の活性化に伴って分泌されるIFN-γは、Human IFN-gamma Duo Set(R&D System)を使用し、プロトコールに沿ってELISA法で確認した。まず、CAR導入後Day10のPBMCsを1×10cells/100μL、CD26強制発現Jurkat細胞(CD26-Jurkat)を1×10cells/100μLにRPMI1640培地で調整し、96穴プレートに、それぞれ1wellあたり100μL加えて12時間共培養した。また、ELISA前日にプレートに4μg/mlになるようにPBSで調整したCapture Ab 100μL を加えて室温で一晩静置した。上清を除去した後、1%牛血清アルブミン(BSA)を含むPhosphate-buffered saline(PBS)300μLを加えてブロッキングを行い、室温で1時間静置した後、1%BSA/PBSで洗浄した。プレートに細胞培養後の上清100μLを加え、2時間静置した後、1%BSA/PBSで洗浄した。1%BSA/PBSで400ng/mlとなるよう調整したDetection Abを100μL加えた後1時間室温で静置し、1%BSA/PBSで洗浄した。Streptavidin-HRPを100μL加え、30分室温で静置した後、1%BSA/PBSで洗浄し、TMB Solution 100μLを加えた。30分室温で静置後、TMB stop solution50μLを加えて、O.D.450nmで測定した。CD26CAR2ndとCD26CAR3rdのいずれにおいてもIFN-γの分泌が認められた(図6A)。
【0073】
例7.CD26CARの抗腫瘍効果(in vitro)
in vitroにおけるCD26CARの抗腫瘍効果は、CD26CAR導入後のPBMCs(エフェクター細胞)を、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したCD26陽性Karpas299細胞(ターゲット細胞)と共培養したのち、ルシフェラーゼ活性の測定によりターゲット細胞数を定量した。
【0074】
まず、ターゲット細胞を1×10cells/mlにRPMI1640培地で調整し、96穴プレートに100μLずつ加えた。エフェクター細胞を、Effector:Target比(E;T)を10:1、5:1、1:1となるように細胞濃度を調整して100μLずつ各3wellに添加した。陰性コントロールとして、E:T=0:1の群として、RPMI1640培地100μLを各3well添加した。プレートを24時間培養し、Steady Gro Luciferase Assay System(Promega)を用いて、プロトコールに沿って確認した。まず、培養後のプレートを400×g、5分遠心分離し、上清を除去した。PBS50μLを加えて、よくピペッティングした後、細胞を別プレートに移した。再度400×g、5分遠心分離した後上清を除去し、Luciferase substrateを25μLずつ添加し、5分室温で静置し、Luminescenceを測定した。その結果、エフェクター細胞とターゲット細胞の比1:1において、CD26CAR3rdの抗腫瘍効果はCD26CAR2ndのそれに優っていた(p=0.005)。このことは、エフェクター細胞とターゲット細胞の比5:1においても確認された(p=0.013)。一方、コントロールのCD8 CAR 3rdには、1:1、5:1、10:1のいずれにおいても細胞傷害性を認めなかったが、CD8CAR2ndはその比が高まるにつれて細胞傷害性を発揮し、10:1においてはCD8CAR3rdとの間に有意差を認めた(p=0.013)。この事は、第2世代CARの導入によって活性化したエフェクター細胞は非特異的に細胞を傷害することを意味しており、CD26CAR2ndがターゲット細胞に発揮する抗腫瘍効果はCD26の発現によって制御されない可能性、すなわち実臨床においては副作用の可能性を示唆している(図7A)。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、CD26を発現する腫瘍細胞を対象としたCAR-T療法を臨床において行うための基礎的な技術となる。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
【配列表】
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