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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】薬剤を塗布したマイクロニードルアレイ
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20240625BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240625BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20240625BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20240625BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20240625BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
A61M37/00 520
A61K9/70
A61K47/32
A61K47/34
A61L31/04
A61L31/04 110
A61L31/06
A61L31/12
A61L31/16
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017254922
(22)【出願日】2017-12-28
(65)【公開番号】P2018108375
(43)【公開日】2018-07-12
【審査請求日】2020-12-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2016256925
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501296380
【氏名又は名称】コスメディ製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】権 英淑
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 美生
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕史
(72)【発明者】
【氏名】神山 文男
【合議体】
【審判長】佐々木 正章
【審判官】井上 哲男
【審判官】安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-79557(JP,A)
【文献】特開2015-109963(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084701(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/135290(WO,A1)
【文献】特表2014-507473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針長さは350μm以上900μm以下であり、針先端部頂点の直径は30μm以上60μm以下であり、薬剤の塗布部を有し、生体非溶解性高分子を基剤とするマイクロニードルアレイであって、
マイクロニードルは段差により先端部と底部に分けられ、先端部の針長さは50~350μmであり、底部は残りの針長さであり、薬剤の塗布部はマイクロニードルの先端部にあり、
薬剤の塗布部の下端は、針の根元から200μm以上であり、
薬剤塗布部の最大直径は、78μm以下であることを特徴とするマイクロニードルアレイ。
【請求項2】
生体非溶解性高分子が、ナイロン、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-グリコール酸)共重合体、ポリグリコール酸、ポリエチレンテレフタレート、COP(サイクリックオレフィンポリマー)及びそれらの混合物からなる群より選ばれる請求項1に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項3】
薬剤の塗布部にヒアルロン酸、コラーゲン、デキストリン、デキストラン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、アルギン酸、グルコース、スクロース、マルトース、トレハロース及びそれらの混合物からなる群より選ばれる水溶性物質が共存している、請求項1又は2に記載のマイクロニードルアレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を塗布したマイクロニードルアレイに関し、経皮吸収製剤の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物を人の体内に投与する手法として、経口的投与と経皮的投与がよく用いられている。注射は代表的な経皮的投与法である。しかし、注射は医師・看護師のような専門家の手を煩わせねばならず、苦痛を伴い、多くの人にとって歓迎すべからざる手法である。これに対し、最近マイクロニードルアレイを利用した、苦痛を伴わない経皮的投与法が注目されている(非特許文献1)。
【0003】
薬物の経皮的投与のさい皮膚角質層は薬物透過のバリアとして働き、単に皮膚表面に薬物を塗布するだけでは透過性は必ずしも十分ではない。これに対し微小な針、すなわちマイクロニードルを用いて角質層を穿孔することにより、塗布法より薬物透過効率を格段に向上させることができる。このマイクロニードルを基板上に多数集積したものがマイクロニードルアレイである。また、マイクロニードルアレイに、マイクロニードルアレイを皮膚に付着させるための粘着シートや粘着面を保護する離型シートなどを付加して使用しやすい製品としたものをマイクロニードルパッチという。
【0004】
マイクロニードルアレイに種々の薬物を含有又は塗布する試みがなされている。しかし、マイクロニードルアレイに含有させる薬物には非常に高価なものや微量しか得られないものもある。そのような高価貴重な薬物を素材に含有させてマイクロニードルアレイを作製すると、薬物はマイクロニードル部分のみならず基板部分にも含まれることとなる。このマイクロニードルアレイを皮膚に刺入すると、マイクロニードル部分に含まれる薬物は体内に取り込まれ拡散するが、基板部分に存在する薬物は利用されることなく廃棄され、高価な薬物の利用効率が低い結果となる。
【0005】
高価な薬物を効率的に利用する試みはすでにいくつか知られている。薬物溶液を用いてマイクロニードル表面を薬物で被覆する方法(特許文献1-4)、薬物を粒状化しマイクロニードルが柔らかい内に遠心分離して薬物をマイクロニードル先端に集める方法(特許文献5)が報告されている。この薬物をマイクロニードル表面に被覆する方法や薬物溶液からマイクロニードル先端に付着させる方法は、薬物の加熱を必要としたり、あるいはせっかく付着した薬物がマイクロニードルの刺入に際し剥がれ落ちてしまうという問題点があった。これに対し、マイクロニードル素材の溶媒に薬物を溶かしておくことにより、付着した薬物とマイクロニードル本体を一体化し、剥がれ落ちを防止する方法が提案された(特許文献6)。
【0006】
マイクロニードル先端を薬物溶液に浸漬して、薬物をマイクロニードル先端に付着させる方法は簡便であるので、実用化が容易である(特許文献1-4、6)。しかし、マイクロニードル先端に薬物を定量的にかつばらつき少なく塗布するのは非常に困難である。
疎水性の素材からなるマイクロニードルでは、薬物を水溶液から塗布すること自身が困難であり定量的薬物の装填は不可能である。親水性素材からなるマイクロニードルを単に薬物水溶液に浸漬すると、薬物水溶液が毛管現象により針を上昇し針の底部から基板部に達し薬物は広く分配されるため、マイクロニードル先端部に薬物を定量的に装填することが不可能となる。1枚のマイクロニードルアレイには数百本のマイクロニードルが間隙20μm~1,000μmで密に林立しており、毛管現象により薬物水溶液は極めて容易に上昇する。従って、マイクロニードルアレイを薬物水溶液に一定の深さまで浸漬し、薬物を定量的に保持させることは、これまで多くの試みがなされてきたが極めて困難である。
【0007】
毛管現象を防止するため、マイクロニードル先端部以外をマスキングして薬物を塗布する方法が提案されている(特許文献2)。多数の穴にへらで薬剤を入り込み、その穴にマイクロニードルを挿入して薬物付着量の定量性を高める方法(特許文献4)も提案されている。しかし、これらの方法実施が非常に煩雑であり、またマイクロニードルを皮膚に刺入するさいに薬剤が剥がれ落ちるのを防止する技術が示されていないので、薬物の定量的投与には不十分と思われる。
【0008】
近年、マイクロニードルに段差を設け、段の部分に薬剤を担持してマイクロニードルの先端を露出させ、鋭利な先端部を維持したマイクロニードル(特許文献7)や、先端部と段差に薬物を保持し、それにより薬物を定量的に投与する技術(特許文献8)も開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-029710号公報
【文献】特表2007-521090号公報
【文献】特表2008-520370号公報
【文献】特再公表2008-139648号公報
【文献】特表2009-507573号公報
【文献】特開2011-224308号公報
【文献】特開2015-109963号公報
【文献】特開2014-079557号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】権英淑、神山文男「マイクロニードル製品化への道程」、薬剤学、社団法人日本薬剤学会、平成21年9月、第69巻、第4号、p.272-276
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、マイクロニードル先端部に薬剤を塗布したマイクロニードルアレイを実際に動物に適用し、適用部の皮膚の角質をテープストリッピングして測定したところ、薬剤の一部が皮膚の角質層に残ることがわかった。したがって、たとえマイクロニードル先端部に薬剤を定量的に塗布できたとしても、実際に経皮吸収製剤として適用する際に、角質層に薬剤残りが発生し、薬剤の定量的投与の目的を達成できない可能性が問題点として浮上した。本発明の課題は、薬剤の角質層への残りを少なくし、実用的なマイクロニードル製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明者らは、先端部に薬剤が塗布された多種多様のマイクロニードルについて角質層への薬剤残りを鋭意検討した結果、特定の形状のマイクロニードルと特定の割合の薬剤塗布部を組み合わせることにより、所期の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下に示す通りである。
〔1〕 針長さは350μm以上900μm以下であり、針先端部頂点の直径は20μm以上 100μm以下であり、薬剤の塗布部を有し、生体非溶解性高分子を基剤とするマイクロニードルアレイであって、薬剤の塗布部の下端は針の根元から200μm以上であることを特徴とするマイクロニードルアレイ。
〔2〕 生体非溶解性高分子が、ナイロン、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-グリコール酸)共重合体、ポリグリコール酸、ポリエチレンテレフタレート、COP(サイクリックオレフィンポリマー)及びそれらの混合物からなる群より選ばれる、〔1〕に記載のマイクロニードルアレイ。
〔3〕 生体非溶解性高分子が、ヒアルロン酸、デキストラン、ポリビニルピロリドン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、及びそれらの混合物からなる群より選ばれる、〔1〕に記載のマイクロニードルアレイ。
〔4〕 薬剤の塗布部にヒアルロン酸、コラーゲン、デキストリン、デキストラン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、アルギン酸、グルコース、スクロース、マルトース、トレハロース及びそれらの混合物からなる群より選ばれる水溶性物質が共存している、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のマイクロニードルアレイ。
【0013】
本発明のマイクロニードルアレイに搭載されるマイクロニードルは、針長さは350μm以上900μm以下であり、先端部頂点の直径は20μm以上100μm以下の形状を有するものである。
【0014】
本発明のマイクロニードルアレイの基剤は、生体非溶解性高分子である。ここで、生体非溶解性高分子とは、マイクロニードルに成型し皮膚に刺し入れした後に少なくとも15分間は完全溶解しない性質を有する高分子をいう。本発明においては、射出成形又はプレス成形が容易な高分子が好ましく、ナイロン、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-グリコール酸)共重合体、ポリグリコール酸、ポリエチレンテレフタレート、COP(サイクリックオレフィンポリマー)及びそれらの混合物からなる群より選ばれる高分子が挙げられる。
あるいは、本発明のマイクロニードルアレイの基剤は、マイクロニードルに成型し皮膚に刺し入れした後に少なくとも15分間は完全溶解しない性質を有する限りは、ヒアルロン酸、デキストラン、ポリビニルピロリドン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、及びそれらの混合物からなる群より選ばれる高分子であってもよい。
【0015】
本発明のマイクロニードルアレイは、薬剤の塗布部の下端が根元から200μm以上であることを特徴とする。薬剤の塗布部の下端がマイクロニードルの根元から200μm以上であれば、上端は薬剤の塗布量に応じて任意の高さであってもよい。好ましくは、上端は、マイクロニードルの先端である。
【発明の効果】
【0016】
薬剤をニードル先端部に塗布したマイクロニードルアレイは、経皮吸収製剤の中でも薬物の経皮的投与のさいに薬物透過のバリアである皮膚角質層を穿孔することにより、薬物透過効率を格段に向上させるものであるが、意外にも、薬剤の一部が皮膚の角質層に残ることが判明した。本発明のマイクロニードルアレイは、マイクロニードルの形状と薬剤塗布部の位置を特定のものとすることで、薬剤の角質層への残りを減少させることに成功した。本発明のマイクロニードルアレイは、薬剤の経皮送達効率をより高めた経皮吸収製剤である。希少な薬物を体への負担少なく真皮層に送達させ、皮下組織から血液に移行させて血中薬物濃度を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】段差を有するマイクロニードルの模式図。
図2】実施例で使用したマイクロニードルアレイの全体像を示す顕微鏡写真。
図3】実施例で使用した400μmの長さのマイクロニードルアレイの針の形状を示す顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0018】
マイクロニードルの形状
マイクロニードルアレイを構成するマイクロニードルは、薬物の経皮吸収を確実にするため、針長さが300μm以上900μm以下であり、好ましくは400~800μmであり、より好ましくは400~600μmである。
針の先端部頂点の直径は、皮膚への刺し入れの容易性と皮膚への薬物残りを低減させるため、20μm以上100μm以下であり、30μm以上60μm以下が好ましい。
個々のマイクロニードルは、底面が円である円柱状もしくは円錐状、又は、底面が楕円である楕円柱状もしくは楕円錐状である。楕円の大きさを表す場合、長径を直径として表し、短径は楕円を形成できる限りにおいて長径より短い。これらの形状のマイクロニードルは、段差を有していてもよい。
【0019】
ここに段差とは、マイクロニードルのある点から先端方向に向かって、マイクロニードルの断面積が不連続的に縮小し、断面が図1に示すような階段状を呈しているものをいう。段差を有するマイクロニードルの形状を図1を参照しながら説明する。段差付マイクロニードルにおいて、先端部1の長さを50~500μmとし、残りを底部3とすることが好ましい。針長さ300~900μmのうち先端部を50~450μmとし残りを底部とするのがさらに好ましい。先端部と底部との段差の縁2の大きさは10μmより大きく100μmより小さくすることが好ましい。14~50μmとするのがより好ましい。4はマイクロニードルアレイの基板を示す。
なお、段差の縁2は工作精度の範囲でマイクロニードルの軸に対し直交する面(基板に平行な面)である。また段差の縁2の大きさとは、段差の部分における先端部と底部の半径の差をいう。先端部はマイクロニードルの形状に応じて、円錐形、円柱形、楕円柱形、楕円錐形であってもよい。同様に、底部はマイクロニードルの形状に応じて、円錐形、円柱形、楕円柱形、楕円錐形であってもよい。
【0020】
薬剤塗布部を有するマイクロニードル
本発明のマイクロニードルアレイは、薬剤の塗布部を有する。薬剤の塗布部は、マイクロニードルの先端部にあり、マイクロニードルの先端を上に向けた場合、薬剤の塗布部の下端は、針の根元から200μm以上である。薬剤の塗布部の下端が針の根元から200μm以上であれば、上端は薬剤の塗布量に応じて任意の高さであってもよい。好ましくは、上端は、マイクロニードルの先端であるが、必ずしも先端の際まで塗布されなければならないものではない。薬剤の塗布部の長さは、典型的には100μm以上800μm以下であり、150μm以上600μm以下が好ましい。
薬剤の塗布部の下端と上端は、薬剤が塗布されたマイクロニードルの下端と上端とをマイクロニードルアレイの基板から垂直方向にそれぞれ測定して求めた値である。薬剤の塗布部の長さは、薬剤が塗布されたマイクロニードルの下端と上端との差で表す。
他方、薬剤の塗布部は、薬剤塗布液及び塗布回数に応じて、厚みは異なる。本発明においては、塗布部の厚みを、薬剤の塗布部の中央近傍の直径で表すことができる。薬剤の塗布部の中央近傍の直径は、薬剤塗布前のマイクロニードルの直径よりも大きくなる。本発明者らは、マイクロニードルの薬剤塗布部の位置に加えて、薬剤の塗布部の中央近傍の最も厚い直径が所定の範囲内であると、薬剤の角質残りが低減され、実用的なマイクロニードルアレイを実現できることを見出した。
【0021】
マイクロニードルに塗布される薬剤
薬剤としては、従来から経皮吸収製剤として使用されている薬物及び化粧品の原料であれば特に限定されず、例えば、解熱鎮痛消炎剤、ステロイド系抗炎症剤、血管拡張剤、不整脈用剤、血圧降下剤、局所麻酔剤、ホルモン剤、抗ヒスタミン剤、全身麻酔剤、睡眠鎮痛剤、抗癲癇剤、精神神経用剤、骨格筋弛緩剤、自立神経用剤、抗パーキンソン剤、利尿剤、血管収縮剤、呼吸促進剤、麻薬、そして病原体の抗原成分(例、ワクチン抗原蛋白)、等が挙げられる。薬効成分の含有量は、成分の特性、投与目的、投与対象、投与回数等に応じて適宜設定することができる。
【0022】
薬剤の多くは分子量600以下の低分子化合物であるが、高分子量の薬剤も使用することができる。好ましい高分子量の薬剤としては、例えば、生理活性ペプチド類とその誘導体、核酸、オリゴヌクレオチド、各種の抗原蛋白質、バクテリア、ウイルスの断片等が挙げられる。
【0023】
上記生理活性ペプチド類とその誘導体としては、例えば、カルシトニン、副腎皮質刺激ホルモン、上皮細胞増殖因子(EGF)、副甲状腺ホルモン(PTH)、hPTH(1→34)、インスリン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、エンドセリン、及びこれらの塩等が挙げられる。これらの薬効成分はヒトのみならず動物用として投与できる。抗原蛋白質としては、インフルエンザ抗原、日本脳炎抗原、ジフテリア、破傷風抗原、HBs表面抗原、HBe抗原等が挙げられる。
【0024】
マイクロニードルアレイの製法
マイクロニードルの基剤は、射出成形又はプレス成形が容易な高分子が好ましく、ナイロン、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-グリコール酸)共重合体、ポリグリコール酸、ポリエチレンテレフタレート、COP(サイクリックオレフィンポリマー)及びそれらの混合物が挙げられる。あるいは、生体非溶解性高分子は、マイクロニードルに成型し皮膚に刺し入れした後に少なくとも15分間は完全溶解しない性質を有する限りは、ヒアルロン酸、デキストラン、ポリビニルピロリドン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、又はそれらの混合物であってもよい。
【0025】
マイクロニードルアレイは、鋳型(金型)を用いて大量生産することができる。射出成形可能な高分子を基剤とするマイクロニードルアレイは、基剤を金型を用いて射出成形し製造すればよい(例えば、特開2003-238347号公報、[0017]、[0018]に記載の方法)。射出成型用金型は、ステンレス鋼、耐熱鋼、超合金等を用いることができる。典型的な金型はマイクロニードルの形状を作るため1平方cm当たり100個~1000個のマイクロニードルに対応する切り込み部分を有する。切り込み部分を作るにはグラインダー等の微細加工手段を使用できる。
ヒアルロン酸、デキストラン、ポリビニルピロリドン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、及びそれらの混合物を基剤として用いる場合は、基剤水溶液を鋳型に流し、乾燥してから取り出せばよい(例えば、特開2009-273872号公報、[0029]-[0031]に記載の方法)。
【0026】
薬物塗布
マイクロニードルアレイへの薬物塗布は、マイクロニードルの先端を薬物溶液に浸漬してマイクロニードル先端に薬物を保持させることにより行う。薬物溶液は、典型的には水溶液であるが、薬物を溶解させるために水以外の溶媒を含んでいてもよい。また、薬物は完全に溶解していても、溶媒に分散していてもよい。
【0027】
薬物溶液は、共存物質を溶解させておき、塗布後乾燥時に薬物が共存物質とともにマイクロニードルに保持されていることが望ましい。共存物質としては薬物の安定性を損なわない物質であることが必要であり、例えば、ヒアルロン酸、コラーゲンやデキストリン、デキストラン、コンドロイチン硫酸Na、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースNa塩、アルギン酸等の水溶性高分子物質、グルコース、スクロース、マルトース、トレハロース等の低分子糖類、若しくはそれらの混合物が適当である。
【0028】
共存物質が水溶性高分子物質のみであるとマイクロニードル皮膚投与時塗布被膜の皮膚内溶解時間が長いことがある。また低分子糖類のみからなる皮膜は機械的強度が不十分である。従って、マイクロニードルを浸漬する薬物水溶液の共存物質としては水溶性高分子と低分子糖類との混合物が望ましい。そのさい、低分子糖類の割合は、共存物質総重量に対し80重量%以下が望ましい。
【0029】
共存物質の薬物溶液中の濃度は2%から50%が望ましい。2%より低い濃度では薬物溶液の粘度が小さく浸漬時の塗布付着量が少ない。また50%以上では薬物の溶液の濃度が大きすぎて薬物塗布が安定しない。
【0030】
浸漬時間及び回数は、マイクロニードルの基剤と薬物溶液との親和性に応じて設定することができ、薬剤の塗布部の中央近傍の直径が所望の値となるように塗布する。塗布後は、溶媒が蒸発するまで乾燥させる。乾燥は自然乾燥あるいは乾燥空気、窒素ガス、等を吹き付けて強制乾燥させてもよい。塗布に当たっては薬物溶液溜に薬物溶液を満たし、上からマイクロニードルアレイを浸漬して薬物を針に付着させる。装置はマイクロニードルアレイの浸漬深さを厳密に規定するために20ミクロン程度の精度で浸漬深さを制御できるものである必要がある。
【0031】
経皮吸収製剤
本発明の経皮吸収製剤は、薬剤塗布部を有するマイクロニードルアレイからなるものである。
本発明の経皮吸収製剤は、皮膚組織を有する動物に投与される。ここで動物とは、魚類、両生類、爬虫類、鳥類(例、ニワトリ、ウズラ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、アイガモ、ダチョウ等の家禽)、哺乳動物が挙げられる。哺乳動物は、ヒトを含んでいてもヒトを含んでいなくてもよい。ヒトを除く哺乳動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ、ネコ、イヌ等の愛玩動物、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の家畜、サル、オランウータン、ゴリラ、チンパンジー等の霊長類が挙げられる。
本発明の経皮吸収製剤は、哺乳動物に投与されることが好ましい。
【実施例
【0032】
以下に実施例を例示して本発明を説明するが、もとより本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
ポリグリコール酸(クレダックス、(株)クレハ)を原料として、射出温度が260℃で射出成型し、段差付マイクロニードルを製造した。
【0034】
ポリグリコール酸(PGA)製マイクロニードル(以下、PGA-MN)のニードル先端に、蛍光色素であるFITC(フルオレセインイソチオシアネート)を加えた溶液を塗布し、ラット適用実験に供した。FITC塗布PGA-MNをラットに適用し取り外した後、テープでストリッピングして角質を取り、そのテープを溶媒で抽出して蛍光強度を測定した。
本実施例では、(1) ニードルの高さ、(2) ニードル塗布部の直径、の異なるFITC塗布PGA-MNを実験に供し、角質へのFITC残り量について考察した。
【0035】
PGA製マイクロニードル(以下PGA-MN)のニードル先端に、蛍光色素であるFITCを加えた溶液を塗布し、ラット適用実験に供した。FITC塗布PGA-MNをラットに適用し取り外した後、テープでストリッピングして角質を取り、そのテープを溶媒で抽出して蛍光強度を測定した。
【0036】
実験方法
1.試験材料
ラット適用実験に供したPGA-MNの全体像を図1に示す。図1において、PGA-MN基板は長径1.4mm、短径1.2mm、厚さ1.0mmの楕円形であり、その上部に厚さ1.0mmの台部を有する。ニードルは2段構造をとる。実験に供したニードル高さの異なる2種類のPGA-MNのディメンジョンを表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
塗布に用いた材料は以下のとおりである。
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L)日本曹達株式会社製
Fluorescein-4-isothiocyanate 株式会社同仁化学研究所製
【0039】
2.PGA-MN製剤の塗布方法
1)0.1mol/LのNaOHで溶解した FITCと16%HPC-L水溶液を混合して塗布液を調製した。
2)容器に入れた塗布液にPGA-MN先端を浸漬して、ニードル先端に塗布液を付着させた。
3)デシケーター中で1夜乾燥させた。
【0040】
3.PGA-MN製剤のラットへの適用
1)Wistar/ST雄性ラット8週齢の腹部をシェーバーで剃毛し、腹部を上にして手足を固定し、ソムノペンチルで麻酔をした。
2)FITC塗布PGA-MNを、ニードルを刺入するように腹部皮膚に押し付けて貼付し、テーピングで圧着固定した。
3)PGA-MNを貼付したラットを固定器に入れて動かないように固定した。
4)5分後または1時間後PGA-MNを取り出した。
5)10分間置いて適用皮膚の表面を乾燥させた。
【0041】
4.テープストリッピングと抽出・測定方法
1)FITC塗布PGA-MNを適用した皮膚に直径12mmの円形のテープを貼って押してから剥がした。これを15回繰り返して皮膚表面の角質を採取した。
2)15枚のテープを5枚ずつに分けて6ウェルプレートに入れ、1mlの0.01mol/LのNaOH水溶液で抽出した。
3)同ロットの適用前FITC塗布PGA-MNを同様に抽出した。
4)抽出液を96ウェルプレートに入れ、励起波長485nm、測定波長535nmで蛍光強度を測定した。測定装置は、テカンジャパン株式会社製プレートリーダーSpectraFluorを用いた。
5)適用前MNの蛍光強度を100としたときの、角質を剥がしたテープ15枚の抽出液の蛍光強度の割合を算出し、角質への残り量とした。
【0042】
実験結果をまとめると以下のとおりである。
【0043】
【表2】
【0044】
5.考察
実験結果より、適用後の角質への残り量が少ないのは、(1)ニードルの高さは高く、(2)塗布部の直径は細いMNであることがわかった。600μmPGA-MNで塗布部の直径を70μm以下にすれば、角質への残り量はおよそ10%以下になるため、実用的なマイクロニードル製剤を得ることが出来ると考える。
【符号の説明】
【0045】
1 先端部
2 段差の縁
3 底部
4 マイクロニードルアレイの基板

図1
図2
図3