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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】投与施設ユニット
(51)【国際特許分類】
   E04H 3/08 20060101AFI20240625BHJP
   E04B 1/343 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
E04H3/08 C
E04B1/343 Q
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020025584
(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公開番号】P2021130925
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】永津 弘太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寿
(72)【発明者】
【氏名】東 達也
(72)【発明者】
【氏名】辻 厚至
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-523641(JP,A)
【文献】特表2007-537097(JP,A)
【文献】特開昭53-080747(JP,A)
【文献】原子力緊急事態における内部被ばく医療のためのRI内用療法施設利用と仮設型内部被ばく患者治療施設の併設に係る提言,核医学,48巻2号,日本,2011年,p.121-137
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 3/08
E04B 1/343
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性核種を含んでいる物質をヒトに投与するための、投与施設ユニットであって、
上記物質は、放射性核種として
(a)α線放出放射性核種のみ、または
(b)α線放出放射性核種および当該α線放出放射性核種の崩壊生成物のみを含んでおり、
上記投与施設ユニットは、放射線管理区域と、当該放射線管理区域の内部に設置されている病床とを備えており、かつ放射線管理区域と、当該放射線管理区域の内部に設置されている病床とを備えた状態で運搬可能であり
上記投与施設ユニットの壁における、放射線を遮蔽する遮蔽物の厚さは鉛当量0.03mmPb以上5cmPb以下である、投与施設ユニット。
【請求項2】
コンテナまたはトレーラハウスである、請求項1に記載の投与施設ユニット。
【請求項3】
上記内部の床面積は、15~40mである、請求項1または2に記載の投与施設ユニット。
【請求項4】
上記投与施設ユニットの外面には、放射性管理区域を表す標識が貼られている、請求項1~3のいずれか1項に記載の投与施設ユニット。
【請求項5】
上記物質は、臨床試験薬、治験薬または承認済医薬である、請求項1~4のいずれか1項に記載の投与施設ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性核種を含んでいる物質をヒトに投与するための、投与施設ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
がんの放射線療法の1つである内(部)照射には、密封小線源療法(線源を病巣(付近)に置く)および非密封小線源療法がある。密封小線源療法の有効性は、外部照射と類似である。非密封小線源療法(TRT:Targeted radionuclide therapy、標的アイソトープ治療、核医学治療および内用療法とも呼ばれる)は、線源を含んでいる医薬が示す特異的な体内分布にしたがって、線源を体内の特定の部分に集める方法である。したがって、上記医薬は、経口的または非経口的に患者に投与される。
【0003】
上記医薬は、ゾーフィゴ(登録商標)を除いて、主にβ線またはγ線を放出する。ゾーフィゴ(登録商標)は、α線放出放射性核種を含んでいる世界初の医薬として2013年5月にFDAによって承認され、2016年3月に厚生労働省にも医薬として承認された。ゾーフィゴ(登録商標)は、現在、日本で唯一の、α線放出放射性核種を含んでいる医薬である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】核医学 48巻2号 (2011年)、121-137頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
α線放出放射性核種を含んでいる医薬は、近年、治療効果の高さと、周辺組織への副作用の低さから、TRTの中核をなす医薬として期待されている(第3次がん対策推進基本計画の一部にも該当する)。
【0006】
しかし、現実には、α線放出放射性核種を含んでいる医薬候補物を、厚生労働省に医薬として承認してもらうための各種試験(治療のための投与ではない)を実施する場所がない。上記医薬候補物の使用が、放射線管理区域内でしか許可されないためである。
【0007】
放射線管理区域内にある病床は少ない(全国で約150床)。放射線管理区域には、主に備えられている設備の規模にしたがって、一定期間(例えば1年)ごとに、許可されている、放射線核種の使用量が決まっている。したがって、既存の治療および検査の実施を前年より削減しない限り、上記病室を、上記医薬候補物を試験する(ヒトへの投与を含む)ために、追加で使用することはできない。さらに、当該病室を備えている建屋としての施設が新設または増設される見込みは、小さい。
【0008】
上記施設の建設(初期費用)には、多額の費用(約4~5億円)を要すると見込まれる。通常の建設費(土地の確保および建物の堅牢性の確保に要する)の他に、放射線管理区域には、以下の設備に費用を要する。以下の設備は、上記施設の増設にも同様に必要である。
遮蔽物(放射線管理区域外に放射される線量を法規制以下に抑える)
吸排気設備(放射線管理区域の境界線量を法規制以下に抑える)
地下または地上の貯留槽(放射性物質を含んでいる排水を溜め、放射線を遮蔽する)。
【0009】
非特許文献1に開示されている仮設型内部被ばく患者治療施設は、コンクリートによる囲い(上記遮蔽物に対応)および廃棄施設ユニット(上記貯留槽を含む)を、治療病室ユニットとは別に必要とする。
【0010】
したがって、本発明は、設置および撤去の容易な放射性管理区域を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る投与施設ユニットは、放射性核種を含んでいる物質の投与施設ユニットであって、上記物質は、放射性核種として(a)α線放出放射性核種のみ、または(b)α線放出放射性核種および当該α線放出放射性核種の崩壊生成物のみを含んでおり、上記投与施設ユニットは、運搬可能であり、かつ放射線管理区域と、当該放射線管理区域の内部に設置されている病床とを備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、設置および撤去の容易な放射性管理区域を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係る投与施設ユニット(を積載している車両を含む)の概要を示す図である。
図2図1の投与施設ユニットに備えられている備品の配置を詳細に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔投与施設ユニット〕
本発明の一態様に係る投与施設ユニットは、放射性核種を含んでいる物質の投与施設ユニットである。上記物質は、放射性核種として(a)α線放出放射性核種のみ、または(b)α線放出放射性核種および当該α線放出放射性核種の崩壊生成物のみを含んでいる。上記投与施設ユニットは、運搬可能であり、かつ放射線管理区域と、当該放射線管理区域の内部に設置されている病床とを備えている。
【0015】
(用語の説明)
「投与施設ユニット」は、放射性物質をヒトに投与するために必要な設備を備えている単位構造物を指す。上記投与施設ユニットの全部または一部が、放射線管理区域(詳細を後述する)である。したがって、上記投与施設ユニットでは、例えば、α線放出放射性核種を含んでいる物質を用いた臨床試験、治験および治療を実施可能である。
【0016】
α線放出放射性核種(α線放出核種またはα線放射性核種とも呼ばれる)は、α線を放出して崩壊する原子核を含んでいる原子を指す。したがって、「放射性核種を含んでいる物質」は、当該原子の単体、ならびに当該原子と1つ以上の他の原子とが結合している化合物を指す。
【0017】
状態「(a)α線放出放射性核種のみ、または(b)α線放出放射性核種および当該α線放出放射性核種の崩壊生成物のみを含んでいる」は、上記物質から放出されている放射線を検出可能なスペクトロメータ(例えばゲルマニウム半導体検出器およびシリコン半導体検出器)を用いた検出方法によって、決定される。ゲルマニウム半導体検出器は、γ線を検出する。α線放出放射性核種がα崩壊した崩壊生成物の多くは、γ線を放出する。γ線は、当該崩壊生成物のエネルギーにしたがう固有のピークを有しているエネルギー分布を示す。当該エネルギー分布に、当該固有のピークがあり、当該ピーク以外のピークがないことを確認することによって、上記状態(特定のα線放出放射性核種または崩壊生成物が存在したこと)を確認できる。また、シリコン半導体検出器によって、直接的に核種および線量を特定することもできる。
【0018】
α線放出放射性核種は、あらゆる公知のα崩壊核種である。好ましいα線放出放射性核種としては、(1)~(3)の1つ以上に該当する核種が挙げられる。(1)治療薬として扱いやすい半減期を有している核種、(2)製造方法が確立されている核種、または(3)細胞もしくは生体への有効性が報告されている核種。上記半減期は、例えば、40日以下、好ましくは30日以下、より好ましくは20日以下、さらに好ましくは14日以下である。(2)としては、動物実験用として製造されている核種(例えばTb-149、Pb-212、Bi-212、Bi-213、At-211、Ra-223、Ra-224およびAc-225)が好ましく、ヒト臨床試験用として製造されている核種(例えばPb-212、Bi-213、At-211、Ac-225およびRa-223)がより好ましく、商業的に入手可能な核種(例えばRa-223)が最も好ましい。あるいはまた、(3)としては、細胞または生体への有効性が報告されているTb-149、Pb-212、Bi-212、Bi-213、At-211、Ra-223、Ra-224およびAc-225から選択される。
【0019】
「放射線管理区域」は、放射性物質または放射線発生装置(からの放射線)を安全に取り扱い、管理する目的で、放射線の使用について定める関連法規に規定されている区域を指す。例えば、日本における関連法規である「放射性同位元素等の規制に関する法律」によれば、管理区域境界の線量限度は1.3mSv/3ヶ月であり、事業所境界の線量限度は250μSv/3ヶ月である。事業所境界の線量限度を満たしている放射線管理区域は、上記法律に規定の事業所に該当しない土地および施設に対して、煩雑な手続きを経ずに配置可能である。例えば上記法律の規定にしたがえば、上記遮蔽物の種類および厚さは、放射線管理区域で使用される核種および使用量などに依存する。したがって、上記投与施設ユニットの少なくとも一部を構成する放射線管理区域の遮蔽物には、核種に応じてα線、β線またはγ線のいずれか1つ以上、もしくはすべての遮蔽が求められる。例えば、臨床利用を想定した場合、I-131では、線源を厚さ7.5cmの鉛で囲い、かつ作業者との間に厚さ7.5cmの鉛が必要である。一方、Ac-225では、厚さ約0.3mm以上の鉛が必要である。
【0020】
「運搬可能な」は、上記投与施設ユニットを、輸送手段(車両、鉄道、船舶および航空機など)によって運搬可能または起重機(クレーンなど)によって吊り上げ可能なことを表す。上述の通り、上記投与施設ユニットの放射線管理区域は、薄く軽い遮蔽物に囲まれていることによって、放射性同位元素等の規制に関する法律に規定される「放射線管理区域」に該当する。
【0021】
(α線放出放射線核種の使用に主に特化した投与施設ユニットの有用性)
(用語の説明)から理解できるように、上記投与施設ユニット(単体では建築物ではない構造物)は、α線放出放射性核種(を含んでいる物質)を投与できる、運搬可能な放射線管理区域(病床が内部に設置されている)を、実現できる。今後、上記投与施設ユニットの実現が求められる理由を以下に説明する。
【0022】
理由-その1
ヒト体内でのα線照射の影響の甚大さ(照射を制御できれば、有効であり得ること)が、医療従事者にも認識され始めたのは、2006年頃である。α線放出放射性核種を含んでいる物質が、がんの治療薬として安全かつ有効であると世界で初めて認められた(FDAによる)のは、2013年である。2016年に、厚生労働省は、FDAにすでに承認されていたゾーフィゴ(登録商標)を、一部のがんを対象にした治療薬として承認している。第3次がん対策推進基本計画における放射線療法の充実は、ゾーフィゴ(登録商標)以外の上記物質の実用化を明らかに含んでいる。
【0023】
したがって、新たに開発される上記物質の使用(治療薬としての承認を受けるための試験などの実施、および当該物質の治療薬としての投与)の拡大は、これから生じるであろう事柄である。当該拡大が、実質的にα線放出放射性核種のみを取り扱い可能な放射線管理区域(病床が内部に設置されている)の需要を新たに生み出すと、本願発明者らは予想している。この需要を満たすため、本願発明者らは鋭意検討を重ね、本願発明を完成した。
【0024】
理由-その2
病床が内部に設置されている(人間が内部で生活可能な空間を備えている)運搬可能な放射線管理区域は、これまで実現していない。非特許文献1には、運搬不可能な遮蔽物(コンクリートおよび/または鉛を用いる)を外部に構築することによって、始めて放射線管理区域と呼び得る「運搬可能な病室」が開示されているに過ぎない。非特許文献1に開示の技術では、「運搬可能な病室」内で放射される放射線を特定できず、あらゆる放射線(例えば、α線、β線およびγ線)の遮蔽を目的として、上記遮蔽物が必要である。
【0025】
X線検査車両は、運搬可能な放射線管理区域に該当する。X線の高い透過性は上記遮蔽を必須にする。X線検査車両内の検査(照射)室の面積は1m程度である。この程度の面積を囲む遮蔽物の重量は、運搬可能な範囲に収まる。一方、任意の放射性核種を含んでいる物質をヒトの被験者または患者に投与し、収容する空間(病床を含めた病室)をコンクリートおよび/または鉛によって遮蔽した放射線管理区域を実現するためには、その収容する空間を囲む遮蔽物の重量が過大となり、運搬不可能である。このように、設置および撤去の容易でない施設(放射線管理区域内にある病床を備えている)の新設および増設は、項目「発明が解決しようとする課題」に記載の通り、理想的でも現実的でもない。
【0026】
放射線管理区域に軽く薄い遮蔽物を採用することで、(1)病床を備えている放射線管理区域を大幅に軽量化し、(2)軽量化された放射線管理区域は、投与施設ユニットの運搬を可能にし、(3)運搬可能な投与施設ユニットは、建屋としての施設の建築費または増設費の削減、ならびに投与施設ユニット自体の容易な設置および撤去(任意の時間および場所への投与施設ユニットの設置)を可能にする。
【0027】
放射線管理区域の境界に達する放射線の低減は、(4)容量の小さい吸排気設備の採用を可能にする。
【0028】
貯留槽への軽く薄い遮蔽物の採用は、(5)貯留槽を大幅に軽量化し、(6)貯留槽を放射線管理区域内に設置可能(つまり運搬可能)にし、(7)貯留槽の埋設費用または貯留槽の設置場所の確保を不要にする。
【0029】
α線放出放射線核種の使用に特化した投与施設ユニットは、軽く薄い遮蔽物を放射線管理区域に採用することができる。当該投与施設ユニットは、上述の需要を満たし得る。
【0030】
(医療施設の分室としての、投与施設ユニットの使用)
本発明の一実施態様を、上記投与施設ユニットを、既存の施設(病院)内にある非使用区画(駐車場)に設置する場合を例に挙げて、説明する。医療施設の分室は、治療室または臨床試験室が挙げられる。以下では、臨床試験室を例に挙げて、説明する。
【0031】
上記投与施設ユニットは、病院の駐車場に、輸送手段によって運搬および設置される。当該病院に属する医療従事者が、(1)上記投与施設ユニットに赴いて臨床試験(被験者に対する試験物質の投与など)を実施し、(2)被験者の管理および監視を、上記投与施設ユニット内の設備を用いて遠隔的に実施する。試験期間中、被験者は、上記投与施設ユニットに起居し、必要に応じて診療および治療をさらに受ける。
【0032】
上記投与施設ユニットは、1つの病院に専属する必要はない。試験期間の終了後、または試験の実施予定のないとき、上記投与施設ユニットは、他の病院などに移されて、臨床試験以外にも(例えば、治療室としても)利用され得る。1つ以上の上記投与施設ユニットは、運搬可能であるため、複数の病院によって共有または一時貸借される。したがって、上記投与施設ユニットは、地域ごとに異なる治療行為に対する需要も、広範な地域にわたって満たすことができる。
【0033】
臨床試験を実施する放射線管理区域に求められる好ましい要件としては、以下の(a)~(c)が例示される。
【0034】
(a)医療空間としての好ましい要件(医療法にしたがう)
-病床としての空間及び施設設備(病室、ベッド、トイレ、手洗いおよび収納棚等)
-簡易ベッド(投与時など、病床以外の場所で患者が横臥可能な設備)
-オンコール機能(呼び鈴)
-照明設備
-空調設備
-生活の質を高く保つための施設設備(TV、冷蔵庫、シャワー、WiFi(登録商標)および消音装置等)
-通常の入退室と異なる側にある非常口の設置。
【0035】
(b)放射線管理区域としての要件(放射性同位元素等の規制に関する法律にしたがう)
-吸排気設備およびフィルタ(放射性物質の濃度を一定未満に保つ)
-ドラフトおよびフィルタ(非密封線源として扱われる放射性医薬品の飛散を回避する)
-放射性排水のための排水貯留設備
-高線量となりうる場所および空間を、他の空間と隔てる遮蔽体
-遮蔽性および防火耐性を十分に備える廃棄物保管庫
-遮蔽性および防火耐性を十分に備える線源保管庫
-放射線検出器・測定器(出入り時の汚染検査、排気・排水モニタ)
-入院患者を含め、一般人の立ち入りを制限するための施錠機能。
【0036】
(c)移動体に特有の好ましい要件
-本院など、母体施設との情報伝達を行うための通信設備
-患者遠隔監視装置(CCTV)
-看護用ロボット
-電源設備(発電機、蓄電設備、または外部電源から電力供給を受ける設備)
-好ましくは同じ容積(例えば約4000L)である、上水貯留タンク及び排水貯留タンク
-移動時に必要となる被けん引機能
-ユニットの固定手段(車両の輪留め、アンカーおよびアウトリガ機能)
-耐衝撃性および堅牢性(ユニット自体に耐震性等は不要)
-空間の有効活用を目的に、排水タンク・発電機などの付帯設備・機能を別の移動体等、隣接する場所へ設置出来る接続・拡張性。
【0037】
(投与施設ユニットの具体例)
上述の要件(a)~(c)を満たしている上記投与施設ユニットの一例、および輸送手段との組み合わせ(投与施設ユニットを積載している車両)を、図1および図2に示す。以下の説明において、部材番号とともに示されている構成は、要件(a)~(c)を最少に満たすための具体例である。
【0038】
図1および2に示す通り、投与施設ユニット101は、牽引用の車両102に積載されている。投与施設ユニット101は、安静室200(放射性管理区域)、投与室・作業室(放射性管理区域)400、トイレ室300(水洗トイレ209およびシャワー210を備えている)、保管室600、管理室500およびダクトスペースを備えている。車両102は、牽引部に、吸排気手段(送風機、排風機またはコンプレッサー)418および放射性排水貯蔵タンク408を備えている。
【0039】
安静室200および投与室・作業室400の間にある仕切の一方は、引き戸であり、投与室・作業室400およびトイレ室300の間には、施錠されていない扉がある。したがって、投与施設ユニット101内部にいる人間は、安静室200、投与室・作業室400およびトイレ室300を自由に行き来し、3つの室にある設備を利用できる。一方、投与施設ユニット101の出入口にあたる扉、投与室・作業室400および保管室600の間にある扉、ならびに保管室600および管理室500の間にある扉は、電子錠501(図1では、5つの錠が、南京錠の絵によって模式的に示されている)によって施錠されている。したがって、管理室500および保管室600には、電子錠501を開錠できない人間(電子式の入室許可証を所持していない人間など)は、入室できない。
【0040】
安静室(放射性管理区域)200は、ベッド(病床)201、照明213、コンセント(100V, 15A)214、オンコール設備301、監視カメラ302、吸排気口403、管理区域内線量計417、机、棚、無線LAN、収納、冷蔵庫、電子レンジ、テレビ受像機および空調センサー(温湿度)を備えている。つまり、安静室200は、医療法にしたがう医療空間に該当すること、被験者が安静かつ快適に過ごすこと、および医療従事者による臨床試験の経過観察を可能にする設備を備えている。安静室200にある番号の付されていない上述の構成は、主に、安静室200における被験者の居住性をさらに高める構成である。照明213は、図1では6つの電球として表示されているが、任意の照明器具である。安静室200の吸排気口403は、ベッド201にいる被験者に対して直接に気流があたらない方向に、清浄な空気を送り込む。監視カメラ302は、安静室200内(主にベッド201)を撮影し、管理室500を介して医療従事者に被験者の様子を伝える。
【0041】
投与室・作業室(放射性管理区域)400は、内部に、コンセント214、汚染検査室402、吸排気口403、非密封線源取扱用ドラフト404、管理区域内線量計417、簡易ベッドおよび洗浄設備を備えている。非密封線源取扱用ドラフト404は、遮蔽物から取り出した非密封線源をその内部で取り扱う(例えば、線源を投与濃度に希釈し、希釈した線源を投与容器に移し、試験物質を準備する)キャビネットである。投与室・作業室400の吸排気口403は、ダクトスペース(図2参照)にある配管に室内の空気を送り出す。上記簡易ベッドは、被験者が横たわって試験物質の投与を受けるベッドである。被験者は椅子に腰かけて、試験物質の投与を受け得るし、安静室200のベッド201に横たわって、試験物質の投与を受け得る。上記洗浄設備は、被験者および医療従事者の手洗および洗面に利用される。
【0042】
汚染検査室402は、汚染検査機器(サーベイメーター)405、管理区域境界線量計415および扉を備えている。汚染検査室402は、カーテン(図1では二点鎖線および複数のv字で表されている)によって区切られている。汚染検査機器405は、投与施設ユニット101を退出する人間の体表面における線量を検出する小型の機器である。管理区域境界線量計415は、上記扉付近の空中線量を測定する計器であり、後述する管理区域境界の実効線量を決定する。
【0043】
投与室・作業室400の外壁(例えば、上記扉の上部)には、監視カメラ302、標識401および事業所境界線量計413があり、上記扉の外には階段が置かれている。事業所境界線量計413は、ユニット外の空中線量を測定する計器であり、後述する事業所境界の実効線量を決定する。上記階段を昇降する人間、および上記扉を開閉する人間は、いずれも監視カメラ302に撮影され、記録される。上記扉には、投与施設ユニット101内が放射線管理区域であることを表す標識401が貼り付けられている。標識401は、非常口(例えば管理室500外の左側面)にも貼り付けられている。なお、上記階段は、投与施設ユニット101の一部である必要はなく、車両102に積まれている組立式の階段であり得る。なお、図1において扉の開閉を表す実線は、通常の出入口を示しており、扉の開閉を表す二点鎖線は、非常口、または常時には閉鎖している扉を示している。
【0044】
保管室600は、保管庫406および保管室線量計416を備えている。保管庫406は、非密封線源取扱用ドラフト404内で使用される非密封線源、および放射性物質が付着しているおそれのある廃棄物を収納する。保管庫406の壁は、放射線を遮蔽する物質(鉛など)を含んでいる。保管庫406の扉は、図1に示されている通り、施錠されている。保管室線量計416は、保管室600内の空中線量を測定する計器である。
【0045】
管理室500は、吸排気口403、コンピュータ502および受電設備503を備えている。吸排気口403は、清浄な空気を管理室500内に供給する。受電設備503は、投与施設ユニット101の外部から電力供給を受けるための設備である。受電設備503は、EPSを介して、外部から供給された電力をすべてのコンセント214に分配する。
【0046】
図2に示すように、安静室200、投与室・作業室400および管理室500は、吸排気口403および逆位相消音装置(図2におけるマイクの絵)をそれぞれ備えている。吸排気口403は、ダクトスペースにある配管を通して、外部排気口412に繋がっている。フィルタ(図示せず)を通って、外部排気口412に送られる排気に含まれている線量は、ガスモニタ(排気用線量計)414によって測定される。
【0047】
コンピュータ502は、電気的に駆動する機械装置(上記逆位相消音装置、照明213、オンコール設備301、監視カメラ302、吸排気口403、線量計414~417、吸排気手段418および電子錠501)と電気的に接続されている。コンピュータ502は、予め設定されているプログラムにしたがって、上記機械装置を駆動させる電気信号を出力し、当該電気信号によって表される上記機械装置の駆動(空調、線量率、出入り記録およびCCTVデータ等)を記録する。つまり、コンピュータ502は、上記機械装置の駆動を制御し、当該駆動を監視している。コンピュータ502は、記録されている情報を表示装置または無線通信部に送信する。
【0048】
トイレ室300は、水洗トイレ209およびシャワー210を備えている。水洗トイレ209、シャワー210および上記洗浄設備は、外部の給水管(図示せず)から給水を受ける。水洗トイレ209、シャワー210および上記洗浄設備からの排水は、床下にある放射性排水排出口410を通して、放射性排水貯蔵タンク408に送られる。放射性排水貯蔵タンク408内にある排水の一部は、当該排水の線量を調べるために、放射性排水採取口409から採取可能である。なお、投与施設ユニット101が外部から給水を受ける例を説明したが、車両102は、牽引部に給水タンクをさらに備え得る。
【0049】
以上の通り、投与施設ユニット101は、放射線管理区域に求められる設備(400番台)を備えている。投与施設ユニット101は、入院・医療行為が可能な病室・治療室に求められるもの、並びに居住する被験者の居住性および生活の質を高めるために必要な機能(200および300番台)をさらに備えている。
【0050】
投与施設ユニット101は、医療従事者および関係者が投与施設ユニット101に関連する業務を行うための機能及び装置一式(500番台)を、不特定多数の人間の出入りを制限するために施錠されている空間内に備えている。
【0051】
上述の通り、投与施設ユニット101は、車両102の動力によって既存の施設(病院)の敷地内(駐車場等)に運搬され、設置される。投与施設ユニット101は、必要に応じて固定具(輪留め(車両102を介して)、アンカーまたはアウトリガ等)によって、地面に固定され、実際の入院施設として使用される。使用開始までに、投与施設ユニット101は、放射線管理の上で必要な諸手続きが完了している必要がある。
【0052】
投与施設ユニット101は、発電設備、蓄電設備および/または電力供給を受ける設備を備えている。投与施設ユニット101は、吸排気手段418の代わりに、外部の動力によって駆動する吸排気設備を介して、吸排気を行ってもよい。患者の安全を担保するため、投与施設ユニット101は、主出入口以外の場所(特に主出入口の対角線上または患者の主居住区等)に、非常口(図1参照)を備え得る。
【0053】
図1には、投与施設ユニット101が、主に3つの区画(安静室200、投与室・作業室400および管理室500)に分けかれている例を示している。しかし、投与施設ユニット101は、放射線管理区域に該当し、かつ医療法の規定に反しない限り、3つの区画である場合に限られない。4つ以上の区画(例えば、安静室200または投与室・作業室400が2つ以上ある態様)、または2つの区画(例えば安静室200および投与室・作業室400が1つの区画にまとまった態様)を有する態様が例示される。投与施設ユニット101の一例では、例えば、複数の安静室200が、1つの投与室・作業室400と連絡可能に接続されている。また例えば、安静室200は、複数のベッド201を備え得る。したがって、管理室500が、電子錠501によって、安静室200および投与室・作業室400から独立している限り、投与施設ユニット101は、任意の区画の組み合わせを有し得る。
【0054】
投与施設ユニット101は、(運搬可能な)コンテナまたはトレーラハウスである。投与施設ユニット101内部の床面積は、15~40mである。車両102が、一般道を走行可能な大型牽引車両であるとき、コンテナまたはトレーラハウス(例えば、15~40mの床面積を有している)として、投与施設ユニット101を運搬可能である。15m以上の床面積を有している空間(例えば、コンテナまたはトレーラハウス)を囲み、かつ覆い得る従来の遮蔽物(コンクリートまたは鉛)の重量は、10トンをはるかに上回る。上述の通り、薄く軽い遮蔽物(例えばコンテナまたはトレーラハウスの壁面で代用できる)のみを要する投与施設ユニット101は、一般道を走行可能な車両によって運搬可能である。なお、投与施設ユニット101内部の体積は、居住性の観点から、20~120mであることが好ましい。
【0055】
投与施設ユニット101の壁は、遮蔽物を含んでいる。当該遮蔽物の材料は、放射線管理区域の遮蔽物として一般的に用いられるもの、例えば、鉛、タングステン、鉄およびコンクリートが挙げられる。当該材料から選択されるときの遮蔽物の厚さは、遮蔽の観点からは鉛当量0.03mmPb以上、好ましくは0.5mmPb以上、さらに好ましくは1mmPb以上であり、重量の観点からは鉛当量5cmPb以下、好ましくは1cmPb以下、さらに好ましくは1mmPb以下である。上記鉛当量およびその数値は、「医薬発第188号 都道府県知事宛 厚生労働省医薬局長通知」の規定にしたがう。管理区域内の空気中濃度(線量)を満たす排気能力は、50~500m/時間であり、管理区域外への排気中濃度(線量)を満たす排気能力は、1~1000m/時間である。法規制の範囲内にある放射線管理区域境界の実効線量限度は1.3mSv/3ヶ月であり、事業所境界の実効線量限度は250μSv/3ヶ月である。
【0056】
例えば、Ac-225を投与する投与施設ユニット101の壁を0.3mmの厚さの鉛によって作製するとき、管理区域内の空気中限度(線量)を満たす排気能力は、92m/時間であり、管理区域外への排気中濃度限度(線量)を満たす排気能力は、231m/時間である。このとき、管理区域境界の実効線量は51μSv/3ヶ月、事業所境界の実効線量は、215μSv/3ヶ月であり、法規制の基準を下回る。当該投与施設ユニットが幅3.4m、長さ12m、高さ2.8mのとき、鉛の重量は0.6tであることから、一般道を走行可能なユニットの作製は可能である。
【0057】
例えば、Ra-223を投与する投与施設ユニット101の壁を5mmの厚さの鉛によって作製するとき、管理区域内の空気中限度(線量)を満たす排気能力は、214m/時間であり、管理区域外への排気中濃度限度(線量)を満たす排気能力は、693m/時間である。このとき、管理区域境界の実効線量は16μSv/3ヶ月、事業所境界の実効線量は、64μSv/3ヶ月であり、法規制の基準を下回る。当該投与施設ユニットが幅3.4m、長さ12m、高さ2.8mのとき、鉛の重量は9.5tであることから、一般道を走行可能なユニットの作製は可能である。
【0058】
例えば、Bi-213を投与する投与施設ユニット101の壁を0.25cmの厚さの鉛によって作製するとき、管理区域内の空気中限度(線量)を満たす排気能力は、222m/時間であり、管理区域外への排気中濃度限度(線量)を満たす排気能力は、463m/時間である。このとき、管理区域境界の実効線量は47μSv/3ヶ月、事業所境界の実効線量は、199μSv/3ヶ月であり、法規制の基準を下回る。当該投与施設ユニットが幅3.4m、長さ12m、高さ2.8mのとき、鉛の重量は4.8tであることから、一般道を走行可能なユニットの作製は可能である。
【0059】
投与室・作業室400では、臨床試験薬、治験薬または承認済医薬である、α線放出放射性核種を含んでいる物質が、被験者または患者に投与される。
【実施例
【0060】
以下の条件のときに、管理区域が、事業所境界としての法規制の基準を下回る実効線量を達成できる遮蔽の厚さおよび排気能力を計算した。
【0061】
(条件)
管理区域内で、Ac-225(α線放出放射性核種の1つ)を含んでいる物質の投与を実施する。10MBq(線量に基づく単回投与量)の当該物質を、週に1回、1人の患者に投与する。1人の患者みのが、投与後の連続する5日間、管理区域内に留まる。管理区域は、24m3(2x2x6m)の体積を有しており、管理区域から排気する排気運転時間は2148時間/3か月である。
【0062】
(遮蔽の厚さおよび排気能力)
管理区域の壁は、鉛によって作製されるとき0.3mm以上の厚さを要する。管理区域内の空気中限度(線量)を満たす排気能力は、92m/時間であり、管理区域外への排気中濃度限度(線量)を満たす排気能力は、231m/時間である。このとき、上記管理区域の実効線量は、51μSv/3ヶ月であり、管理区域境界はもちろん、事業所境界としての法規制の基準を下回る。
【0063】
(その他)
非密封線源等を一時的または中期的に内部に保持する必要のある廃棄物保管庫並びに線源保管庫の壁には、厚さ10mmの鉛を用いる。排気設備に設けられているフィルタは、定期的なDOP試験(0.25-0.35μmジオクチルフタレート粒子の透過試験)の実施によって、0.001以下の透過率を維持していることを確認される。上記物質(Ac-225を含む)をドラフト内で取り扱い、一般環境への線源の揮発または散逸を防止する。
【0064】
本発明は上述した各実施形態(実施例を含む)に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0065】
(まとめ)
〔1〕放射性核種を含んでいる物質の投与施設ユニットであって、
上記物質は、放射性核種として
(a)α線放出放射性核種のみ、または
(b)α線放出放射性核種および当該α線放出放射性核種の崩壊生成物のみを含んでおり、
上記投与施設ユニットは、運搬可能であり、かつ放射線管理区域と、当該放射線管理区域の内部に設置されている病床とを備えている、
投与施設ユニット。
【0066】
〔2〕コンテナまたはトレーラハウスである、〔1〕に記載の投与施設ユニット。
【0067】
〔3〕上記内部の床面積は、15~40mである、〔1〕または〔2〕に記載の投与施設ユニット。
【0068】
〔4〕上記投与施設ユニットの外面には、放射性管理区域を表す標識が貼られている、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の投与施設ユニット。
【0069】
〔5〕上記物質は、臨床試験薬、治験薬または承認済医薬である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の投与施設ユニット。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、放射性核種を含んでいる治療薬の開発、開発された治療薬の承認試験の実施、承認された治療薬を用いた治療に利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
101 投与施設ユニット
200 安静室(放射性管理区域)
201 ベッド(病床)
209 トイレ
210 シャワー
213 照明
214 コンセント
300 トイレ室
301 オンコール設備
302 監視カメラ
400 投与室・作業室(放射性管理区域)
401 標識
402 汚染検査室
403 吸排気口
404 非密封線源取扱用ドラフト
405 汚染検査機器
406 保管庫
408 放射性排水貯蔵タンク
409 放射性排水採取口
410 放射性排水排出口
413 事業所境界線量計
414 ガスモニタ
415 管理区域境界線量計
416 保管室線量計
417 管理区域内線量計
418 吸排気手段
500 管理室
501 電子錠
502 コンピュータ
503 受電設備
600 保管室
図1
図2