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特許7509402解析装置、センシングシステム、解析装置の動作方法、及び、コンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】解析装置、センシングシステム、解析装置の動作方法、及び、コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
A61M37/00 510
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020030167
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2021132800
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504145283
【氏名又は名称】国立大学法人 和歌山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 信彦
(72)【発明者】
【氏名】平岡 玄理
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-518883(JP,A)
【文献】特表2018-522002(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0152592(US,A1)
【文献】特表2014-519914(JP,A)
【文献】国際公開第2012/167260(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学式センサからセンシング信号を入力可能な入力部と、
前記光学式センサからの前記センシング信号を用いた演算を行うプロセッサと、
前記プロセッサに前記演算を実行させるためのプログラムを記憶するメモリと、を備え、
前記演算は、
マイクロニードルを侵襲的に挿入して薬剤が投与された生体試料をセンシングした前記光学式センサから入力された前記センシング信号より、前記薬剤の浸透による前記生体試料の光学特性の変化を検出し、
検出された前記光学特性の変化に基づいて前記薬剤の前記生体試料への浸透状態を特定する、ことを含み、
前記浸透状態は、前記薬剤の投与量と、前記生体試料への前記薬剤の浸透範囲と、を用いて得られる、前記浸透範囲に浸透した前記薬剤の濃度を含む
解析装置。
【請求項2】
前記浸透状態は、前記浸透範囲の経時変化を含む
請求項に記載の解析装置。
【請求項3】
前記浸透状態は、前記浸透範囲に浸透した前記薬剤の濃度の経時変化を含む
請求項に記載の解析装置。
【請求項4】
前記マイクロニードルは固形の前記薬剤から形成され、前記生体試料に挿入された前記マイクロニードルが溶解することで前記生体試料に前記薬剤が投与され、
前記演算は、
前記生体試料に挿入された前記マイクロニードルの溶解量から前記投与量を得、
前記投与量を用いて前記薬剤の濃度を算出する、ことをさらに含む
請求項又はに記載の解析装置。
【請求項5】
光学式センサからセンシング信号を入力可能な入力部と、
前記光学式センサからの前記センシング信号を用いた演算を行うプロセッサと、
前記プロセッサに前記演算を実行させるためのプログラムを記憶するメモリと、を備え、
前記演算は、
マイクロニードルを侵襲的に挿入して薬剤が投与された生体試料をセンシングした前記光学式センサから入力された前記センシング信号より、前記薬剤の浸透による前記生体試料の光学特性の変化を検出し、
検出された前記光学特性の変化に基づいて前記薬剤の前記生体試料への浸透状態を特定する、ことを含み、
前記演算は、
前記浸透状態と予定の浸透状態として予め記憶している浸透モデルとを比較することで、前記浸透状態が前記予定の浸透状態であるか否かを判定することをさらに含む
析装置。
【請求項6】
前記光学特性の変化は、前記センシング信号の前記生体試料の前記マイクロニードルを侵襲的に挿入した表面からの深度ごとの信号値の分布を含む
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の解析装置。
【請求項7】
前記光学特性の変化は、前記センシング信号の前記生体試料の同一箇所に対応した信号値の経時変化を含む
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の解析装置。
【請求項8】
前記プロセッサは、前記演算によって特定された前記浸透状態を画像表示するよう表示装置に表示用データを出力させる処理をさらに実行する
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の解析装置。
【請求項9】
前記光学式センサはOCT(Optical Coherence Tomography:光干渉断層計)用の光測定装置であり、
前記演算で用いる前記センシング信号は、前記光測定装置での測定光の強度プロファイルを表す信号である
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の解析装置。
【請求項10】
マイクロニードルを侵襲的に挿入して薬剤が投与された生体試料をセンシング可能な光学式センサと、
前記光学式センサからのセンシング信号を解析する演算を実行する解析装置と、を備え、
前記光学式センサは、マイクロニードルを侵襲的に挿入して前記薬剤が投与された前記生体試料をセンシングして前記センシング信号を出力し、
前記演算は、
前記センシング信号より、前記薬剤の浸透による前記生体試料の光学特性の変化を検出し、
検出された前記光学特性の変化に基づいて前記薬剤の前記生体試料への浸透状態を特定する、ことを含み、
前記浸透状態は、前記薬剤の投与量と、前記生体試料への前記薬剤の浸透範囲と、を用いて得られる、前記浸透範囲に浸透した前記薬剤の濃度を含む
センシングシステム。
【請求項11】
解析装置が、
マイクロニードルを侵襲的に挿入して薬剤が投与された生体試料を光学式センサでセンシングすることによって得られたセンシング信号より、前記薬剤の浸透による前記生体試料に対応した領域の光学特性の変化を検出し、
前記光学特性の変化に基づいて前記薬剤の前記生体試料への浸透状態を特定する
ことを含み、
前記浸透状態は、前記薬剤の投与量と、前記生体試料への前記薬剤の浸透範囲と、を用いて得られる、前記浸透範囲に浸透した前記薬剤の濃度を含む
解析装置の動作方法。
【請求項12】
光学式センサでマイクロニードルを侵襲的に挿入して薬剤が投与された生体試料をセンシングすることによって得られたセンシング信号を解析する解析装置としてコンピュータを機能させるコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータプログラムは前記コンピュータに、
前記センシング信号より前記薬剤の浸透による前記生体試料に対応した領域の光学特性の変化を検出させ、
検出された前記光学特性の変化に基づいて前記薬剤の前記生体試料への浸透状態を特定させるものであり、
前記浸透状態は、前記薬剤の投与量と、前記生体試料への前記薬剤の浸透範囲と、を用いて得られる、前記浸透範囲に浸透した前記薬剤の濃度を含む
コンピュータプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、解析装置、センシングシステム、解析方法、及び、コンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
以下の非特許文献1には、OCT(光コヒーレンストモグラフィ)による断層画像を用いて生体分解性マイクロニードルの角質層への透過性を観察する手法が記載されている。非特許文献1に記載の方法では、OCTの断層画像からニードルが溶解する過程を検出している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】木下梨恵,外3名、”OCTによる生体分解性マイクロニードルパッチの皮膚透過性の評価”、生産研究、東京大学生産技術研究所、2018年5月、第70巻、第3号、p.201-204、https://doi.org/10.11188/seisankenkyu.70.201
【発明の概要】
【0004】
非特許文献1に記載の手法では、マイクロニードル自体の形状変化が得られるのであって、マイクロニードルから溶解した薬剤が生体内でどういう状態にあるかを把握するものではない。そこで、マイクロニードルによって生体に投与された薬剤の生体への浸透状態を把握できる解析装置、センシングシステム、解析方法、及び、コンピュータプログラムを提供する。
【0005】
ある実施の形態に従うと、解析装置は、光学式センサからセンシング信号を入力可能な入力部と、光学式センサからのセンシング信号を用いた演算を行うプロセッサと、プロセッサに演算を実行させるためのプログラムを記憶するメモリと、を備え、演算は、マイクロニードルを侵襲的に挿入して薬剤が投与された生体試料をセンシングした光学式センサから入力されたセンシング信号より、薬剤の浸透による生体試料の光学特性の変化を検出し、検出された光学特性の変化に基づいて薬剤の生体試料への浸透状態を特定する、ことを含む。
【0006】
他の実施の形態に従うと、センシングシステムは、マイクロニードルを侵襲的に挿入して薬剤が投与された生体試料をセンシング可能な光学式センサと、光学式センサからのセンシング信号を解析する演算を実行する解析装置と、を備え、光学式センサは、マイクロニードルを侵襲的に挿入して薬剤が投与された生体試料をセンシングしてセンシング信号を出力し、演算は、センシング信号より、薬剤の浸透による生体試料の光学特性の変化を検出し、検出された光学特性の変化に基づいて薬剤の生体試料への浸透状態を特定する、ことを含む。
【0007】
他の実施の形態に従うと、解析方法は、マイクロニードルを侵襲的に挿入して薬剤が投与された生体試料を光学式センサでセンシングし、センシングによって得られたセンシング信号より、薬剤の浸透による生体試料に対応した領域の光学特性の変化を検出し、光学特性の変化に基づいて薬剤の生体試料への浸透状態を特定する。
【0008】
他の実施の形態に従うと、コンピュータプログラムは、光学式センサでマイクロニードルを侵襲的に挿入して薬剤が投与された生体試料をセンシングすることによって得られたセンシング信号を解析する解析装置としてコンピュータを機能させるコンピュータプログラムであって、コンピュータプログラムはコンピュータに、センシング信号より薬剤の浸透による生体試料に対応した領域の光学特性の変化を検出させ、検出された光学特性の変化に基づいて薬剤の前記生体試料への浸透状態を特定させる。
【0009】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態に係るセンシングシステムの構成の概略図である。
図2図2は、マイクロニードルによってヒアルロン酸を注入した生体試料の、投薬開始からの時間経過に沿って得られた断層画像である。
図3図3は、解析装置の構成の概略図である。
図4図4は、図2の断層画像に対して解析装置によって特定されたマイクロニードルの形状および薬剤浸透状態を表した画像である。
図5図5は、深達度の経時変化を表したグラフである。
図6図6は、図2の断層画像のマイクロニードルの部分の拡大図である。
図7図7は、マイクロニードルの溶解を説明するための図である。
図8図8は、解析装置での解析方法を表したフローチャートである。
図9図9は、薬剤の投与直後の断層画像から得られた強度プロファイルの分布である。
図10図10は、薬剤の投与から295分経過後の断層画像から得られた強度プロファイルの分布である。
図11図11は、各断層画像から得られた強度減衰係数の経時変化である。
図12図12は、断層画像のマイクロニードルの針部長さの経時変化を表したグラフである。
図13図13は、図12の針部長さの経時変化から得られたマイクロニードルによる薬剤の放出量の経時変化を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<1.解析装置、センシングシステム、解析方法、及び、コンピュータプログラムの概要>
【0012】
(1)実施の形態に係る解析装置は、光学式センサからセンシング信号を入力可能な入力部と、光学式センサからのセンシング信号を用いた演算を行うプロセッサと、プロセッサに演算を実行させるためのプログラムを記憶するメモリと、を備え、演算は、マイクロニードルを侵襲的に挿入して薬剤が投与された生体試料をセンシングした光学式センサから入力されたセンシング信号より、薬剤の浸透による生体試料の光学特性の変化を検出し、検出された光学特性の変化に基づいて薬剤の生体試料への浸透状態を特定する、ことを含む。
【0013】
ここでの光学式センサは、受光素子での受光強度に基づいて非侵襲にて対象とする生体内部の光学特性をセンシング可能なセンサを指す。具体的には、光学式センサは、OCT(Optical Coherence Tomography:光干渉断層計)用の光測定装置である。また、光学式センサは、その他、受光強度に基づいて非侵襲にて対象物をセンシングするものであればどのようなものであってもよい。下の説明では、光学式センサはOCT用の光測定装置であるものとする。
【0014】
マイクロニードルは、マイクロメートルサイズ、すなわち、1mm未満の直径や長さの微細針であって、角質下に薬剤を注入することによって投与するのに用いられるものである。マイクロニードルは、溶解性マイクロニードルであってもよいし、ソリッド型や中空型の非溶解性マイクロニードルであってもよい。下の例では、溶解性マイクロニードルであるものとする。
【0015】
溶解性マイクロニードルは、生体に投与される薬剤である生体内溶解性ポリマーを微細なニードル状に形成したものである。又は、溶解性マイクロニードルは、生体内溶解性ポリマー(第1薬剤)を基材として、他の有効成分(第2薬剤)を混合したものを微細なニードル状に形成したものであってもよい。
【0016】
中空型マイクロニードルは、中空を有し、一般的な注射針を小型化したものである。
【0017】
ここでの薬剤は、ヒトを含む動物に投与可能な物質であって、間質液と細胞内液との浸透圧のバランスが光学式センサでのセンシング信号の値が変化する程度に変化する物質を指す。例えば、皮下内間質液に浸透し、細胞内には浸透しない薬剤、又は、細胞膜を透過して細胞内液に浸透する薬剤である。前者は、ヒアルロン酸やポリマー材料などの分子量の大きな薬剤、後者は、例えば、OCA(Optical Clearing Agent)と呼ばれる組織透明化試薬、などが挙げられる。前者のタイプの薬剤として、具体的には、PVA(ポリビニルアルコール)、ヒアルロン酸、CMC(カルボキシメチルセルロース)、フィブロイン、キトサン、などが挙げられる。後者のタイプの薬剤として、具体的には、グルコース、グリセロール、デキストロール、フルクトース、ソルビトール、マニトール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、PEG(ポリエチレングリコール)、ブチレングリコール、DMSO(ジメチルスルホキシド)、エタノール、オレイン酸、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロカプラム、チアゾン、デキストラン、デキストリン、スクロース、キシリトール、などが挙げられる。なお、薬剤は化粧品を含んでもよい。
【0018】
ここでの生体試料は、マイクロニードルを適用可能な、ヒトを含む動物から得たサンプルであって、動物から分離したサンプルに加えて、動物から分離していない動物自体も含む。ここでの生体試料は、角質及び皮下組織を含むサンプルを指す。
【0019】
ここでの光学特性は、受光素子での受光強度に影響する特性を指し、光の反射、吸収、散乱、透過などの現象によって受光素子での受光強度に影響する特性である。具体的には、光学特性は、反射率、吸収率、散乱率などである。下の説明では、反射率とする。
【0020】
ここでの浸透状態とは、マイクロニードルによって投与された薬剤が生体試料内での存在具合を指す。薬剤は、投与された生体試料内で分散し、拡散される。存在具合は、どのように分散されたかを表す指標で表わすことができる。指標は、例えば、生体試料への薬剤の浸透範囲、浸透範囲の経時変化、浸透範囲に浸透した薬剤の濃度、及び、浸透範囲に浸透した薬剤の濃度の経時変化、などである。浸透状態を特定することは、上記指標の指標値を算出することを含む。
【0021】
解析装置がこの演算を行うことによって、光学式センサからのセンシング信号より得られた光学特性の変化を用いて、薬剤の生体試料への浸透状態を特定することができる。
【0022】
(2)好ましくは、浸透状態は、生体試料への薬剤の浸透範囲を含む。これにより、薬剤の投与から所定のタイミングでの浸透範囲が特定される。
【0023】
(3)好ましくは、浸透状態は、浸透範囲の経時変化を含む。これにより、生体試料への薬剤の浸透範囲の変化を把握できる。
【0024】
(4)好ましくは、浸透状態は、薬剤の投与量と浸透範囲とを用いて得られる、浸透範囲に浸透した薬剤の濃度を含む。これにより、薬剤の投与から所定のタイミングでの浸透範囲における濃度が特定される。
【0025】
(5)好ましくは、浸透状態は、浸透範囲に浸透した薬剤の濃度の経時変化を含む。これにより、生体試料への薬剤の浸透範囲における濃度の変化を把握できる。
【0026】
(6)好ましくは、マイクロニードルは固形の薬剤から形成され、生体試料に挿入されたマイクロニードルが溶解することで生体試料に薬剤が投与され、演算は、生体試料に挿入されたマイクロニードルの溶解量から投与量を得、投与量を用いて薬剤の濃度を算出する、ことをさらに含む。これにより、センシング信号に基づいて濃度を算出することができる。
【0027】
(7)好ましくは、演算は、浸透状態と予定の浸透状態として予め記憶している浸透モデルとを比較することで、浸透状態が予定の浸透状態であるか否かを判定することをさらに含む。これにより、薬剤の投与の効果を把握できる。
【0028】
(8)好ましくは、光学特性の変化は、センシング信号の生体試料のマイクロニードルを侵襲的に挿入した表面からの深度ごとの信号値の分布を含む。この信号値を用いることによって、上記の浸透状態を特定できる。
【0029】
(9)好ましくは、光学特性の変化は、センシング信号の生体試料の同一箇所に対応した信号値の経時変化を含む。この信号値を用いることによって、上記の浸透状態を特定できる。
【0030】
(10)好ましくは、プロセッサは、演算によって特定された浸透状態を画像表示するよう表示装置に表示用データを出力させる処理をさらに実行する。これにより、浸透状態を表示装置の表示で把握できる。
【0031】
(11)好ましくは、光学式センサはOCT(Optical Coherence Tomography:光干渉断層計)用の光測定装置であり、演算で用いるセンシング信号は、光測定装置での測定光の強度プロファイルである。演算で用いるセンシング信号は、光測定装置での測定光の強度プロファイルを用いて作成された二次元もしくは三次元の画像データを含んでもよい。これにより、OCT用の光測定装置での測定光の強度プロファイルを用いて、生体試料への薬剤の浸透状態を特定することができる。
【0032】
(12)実施の形態に係るセンシングシステムは、マイクロニードルを侵襲的に挿入して薬剤が投与された生体試料をセンシング可能な光学式センサと、光学式センサからのセンシング信号を解析する演算を実行する解析装置と、を備え、光学式センサは、マイクロニードルを侵襲的に挿入して薬剤が投与された生体試料をセンシングしてセンシング信号を出力し、演算は、センシング信号より、薬剤の浸透による生体試料の光学特性の変化を検出し、検出された光学特性の変化に基づいて薬剤の前記生体試料への浸透状態を特定する、ことを含む。解析装置がこの演算を行うことによって、光学式センサからのセンシング信号より得られた光学特性の変化を用いて、薬剤の生体試料への浸透状態を特定することができる。
【0033】
(13)実施の形態に係る解析方法は、マイクロニードルを侵襲的に挿入して薬剤が投与された生体試料を光学式センサでセンシングし、センシングによって得られたセンシング信号より、薬剤の浸透による生体試料に対応した領域の光学特性の変化を検出し、光学特性の変化に基づいて薬剤の生体試料への浸透状態を特定する。この解析方法によって、光学式センサからのセンシング信号より得られた光学特性の変化を用いて、薬剤の生体試料への浸透状態を特定することができる。
【0034】
(14)実施の形態に係るコンピュータプログラムは、光学式センサでマイクロニードルを侵襲的に挿入して薬剤が投与された生体試料をセンシングすることによって得られたセンシング信号を解析する解析装置としてコンピュータを機能させるコンピュータプログラムであって、コンピュータプログラムはコンピュータに、センシング信号より薬剤の浸透による生体試料に対応した領域の光学特性の変化を検出させ、検出された光学特性の変化に基づいて薬剤の前記生体試料への浸透状態を特定させる。このプログラムに従う処理が実行されることによって、コンピュータでは、光学式センサからのセンシング信号より得られた光学特性の変化を用いて、薬剤の生体試料への浸透状態を特定することができる。
【0035】
<2.解析装置、センシングシステム、解析方法、及び、コンピュータプログラムの例>
【0036】
以下に、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらの説明は繰り返さない。
【0037】
図1を参照して、本実施の形態に係るセンシングシステム100は、センサ50と、センサ50からの断層画像を解析する演算を実行する解析装置10と、を含む。センサ50は、マイクロニードル300を侵襲的に挿入して薬剤が投与された生体試料200内部を非侵襲にてセンシング可能な光学式センサであって、一例として、OCT(Optical Coherence Tomography:光干渉断層計)用の光測定装置である。センサ50は、光源から生体試料200に照射し、その反射光を受光素子によって受光することによって生体試料200内部からの反射光強度を取得するものである。
【0038】
解析装置10は、光学式センサからのセンシング信号を解析する演算を実行するものである。センシング信号は、光測定装置での測定光の強度プロファイルを示す信号である。強度プロファイルは、画像データを含んでもよい。以降の説明では、センサ50からのセンシング信号が画像データであるものとする。解析装置10は、センサ50からのセンシング信号に示される断層画像を解析する。
【0039】
一例として、マイクロニードル300は、マイクロサイズの針部301と、その根元部分のシート302とを有し、シート302に対して1又は複数の針部301が備えられている。マイクロニードル300は、溶解性マイクロニードルである。すなわち、針部301は、生体内溶解性ポリマーの基材として薬剤を混合又は薬剤そのもので形成されている。マイクロニードル300は、生体試料200に侵襲的に挿入された状態で溶解し、生体試料200に放出されることで、生体試料200に投与される。
【0040】
生体試料200は、角質及び皮下組織を含むサンプルであり、皮下組織に相当する肉部201と、肉部201表面に重ねられた、角質に相当する薄膜フィルム202と、を有する。好ましくは、肉部201は、ヒトから採取した、又は、ヒトの皮下組織であり、薄膜フィルム202はヒトから採取した、又は、ヒトの角質である。これにより、ヒトに対してマイクロニードル300で投与した薬剤の浸透状態を解析することができる。又は、肉部201として、ブタなど、ヒト以外の動物の皮下組織を用いてもよい。これにより、ヒト以外の動物に対してマイクロニードル300で投与した薬剤の浸透状態を解析することができる。又は、その解析結果をヒトに投与した薬剤の浸透状態と仮定することができる。
【0041】
マイクロニードル300は角質から皮下組織に向けて侵襲的に挿入することで薬剤を投与するものである。そこで、針部301を生体試料200側に向けてシート302を薄膜フィルム202に密着させることで、針部301は生体試料200に侵襲的に挿入される。
【0042】
発明者らは、実験的に生体試料200にマイクロニードル300を侵襲的に挿入してセンサ50で断層画像を取得し、図2の断層画像F1~F6を得た。図2の断層画像は、挿入から0分後の断層画像F1、20分後の断層画像F2、40分後の断層画像F3、60分後の断層画像F4、106分後の断層画像F5、及び、295分後の断層画像F6である。なお、実験においては、生体試料200は、肉部201をブタの皮下組織とし、薄膜フィルム202は食品用ラップフィルムなどである樹脂フィルムを用いた。また、マイクロニードル300の針部301は、生体内溶解性ポリマーであるヒアルロン酸で形成され、生体内で溶解してヒアルロン酸を放出する、つまり、投与する薬剤はヒアルロン酸とした。
【0043】
図2の断層画像F1~F6において、白く見える箇所、つまり、輝度、又は受光強度を表す画素値が高い部分と、黒く見える部分、つまり、画素値が低い部分とでは、照射光の反射率が異なる、つまり、光学特性が異なることを示している。
【0044】
発明者らは、断層画像F1~F6を詳細に観察することで、肉部201に相当する画像領域の光学特性が場所に応じて異なることを発見した。また、時間経過に伴って光学特性が変化していることも発見した。
【0045】
この現象について、発明者らは次のように考察した。すなわち、生体試料200に投与されたヒアルロン酸は、細胞間の間質液に浸透して間質液の濃度を変化させ、細胞内には浸透しない薬剤である。その結果、ヒアルロン酸が投与されることによって生体試料200では細胞内液との間の濃度バランスが変化する。このため、細胞壁を挟んで細胞内外で浸透圧が生じ、細胞内液が細胞壁から流出する。それにより、細胞が縮小する。
【0046】
個々の細胞のサイズが小さくなると、反射頻度は低下する。つまり、間質液の領域を照射光が通過する可能性が高くなる。しかしながら、縮小した細胞は細胞内液が凝縮されて反射率が向上する。そのため、全体として散乱光が多くなり、受光強度が高くなる。すなわち、断層画像F1~F6において白っぽく現れている範囲が、ヒアルロン酸が間質液に浸透したために細胞のサイズが小さくなった領域、つまり、ヒアルロン酸が浸透した領域と考えられる。
【0047】
なお、薬剤によっては、間質液の濃度と細胞内液との間の濃度バランスがヒアルロン酸の場合とは逆となる場合も考えられる。すなわち、細胞膜を透過して細胞内液に浸透する薬剤の場合、細胞壁を挟んで細胞内外で浸透圧が生じ、上の例とは逆に、間質液が細胞内に流入する。それにより、細胞が膨張する。その場合には、反射頻度は高くなるものの、個々の細胞の反射率は低下する。つまり、この場合であっても上記と同様に光学特性が変化する。
【0048】
断層画像F1~F6を時間経過に沿って比較すると、白い範囲がマイクロニードル300を挿入した上面から徐々に下に向けて広がっている。ヒアルロン酸は、投与開始から徐々に肉部201内に浸透していくため、断層画像において白く現れている範囲が、ヒアルロン酸が肉部201に浸透した範囲であると考えられる。
【0049】
この考察に基づき、発明者らは、薬剤として、間質液と細胞内液との浸透圧のバランスがセンサ50での断層画像における画素値が変化する程度に変化する物質を投与した場合、この光学特性の変化をマイクロニードル300による薬剤の生体試料200への浸透状態の特定に用いることの着想を得た。センシングシステム100における解析装置10ではこの原理を利用し、センサ50で取得した断層画像における光学特性の変化に基づいて薬剤の生体試料200への浸透状態を特定する解析を行うための演算を実行する。
【0050】
詳しくは、図3を参照して、解析装置10は、プロセッサ11とメモリ12とを有するコンピュータで構成される。メモリ12は、一次記憶装置であってもよいし、二次記憶装置であってもよい。また、解析装置10は、センサ50と接続するためのセンサインタフェース(I/F)13を有する。センサI/F13は、断層画像の入力を受け付ける入力部として機能する。なお、入力部の他の例として、断層画像を記憶した記憶媒体から画像データを読み込む装置や、インターネットなどの通信網を介して画像データを受信する通信装置、などであってもよい。以降の説明では、図2の断層画像F1~F6が入力されたものとする。
【0051】
メモリ12は、入力された断層画像を記憶するための断層画像記憶部122を有する。プロセッサ11は、センサI/F13を介してセンサ50から入力された断層画像F1~F6を、断層画像記憶部122に書き込む。また、プロセッサ11は、解析対象とする断層画像F1~F6を断層画像記憶部122から読み込む。また、メモリ12は、プロセッサ11によって実行されるコンピュータプログラム(以下、プログラム)121を記憶している。
【0052】
プロセッサ11は、ディスプレイ14に接続され、解析結果などを出力させることができる。ディスプレイ14は情報出力装置の一例であって、情報出力装置は、ディスプレイ14に替えて、又は加えて、スピーカ、ライト、プリンタ、又は、その組み合わせ、などであってよい。
【0053】
プロセッサ11は、入力装置15に接続され、解析のための演算に必要なユーザ操作などの入力を受け付けることができる。入力装置15は、例えば、タッチパネル、ボタン、キーボード、マイク、又は、その組み合わせ、などであってよい。
【0054】
プロセッサ11は、プログラム121を実行することによって、検出処理111を実行する。検出処理111は、解析対象とする断層画像F1~F6を断層画像記憶部122から読み出し、画像の各位置の光学特性の変化を検出する処理である。光学特性は、一例として、輝度を表す画素値である。そこで、検出処理111は、各画素の画素値を特定することを含む。画素値の変化は、マイクロニードル300を侵襲的に挿入して薬剤が投与されたことによる、生体試料200への薬剤の浸透によって生じる。
【0055】
検出処理111は、第1検出処理1111と、第2検出処理1112とを含む。第1検出処理1111は、断層画像F1~F6それぞれについて、異なる位置の画素値を比較して光学特性の変化を検出する処理である。この処理で得られた光学特性の変化を第1変化と称する。第1変化は、生体試料200のマイクロニードル300を侵襲的に挿入した表面からの深度ごとの画素値の分布を表している。
【0056】
第2検出処理1112は、断層画像F1~F6それぞれの同一箇所に対応した画素の画素値を比較して光学特性の変化を検出する処理である。この処理で得られた光学特性の変化を第2変化と称する。第2変化は、生体試料200の同一箇所に対応した画素の画素値の経時変化を表している。
【0057】
プロセッサ11はプログラム121を実行することによって、浸透状態特定処理112を実行する。浸透状態特定処理112は、検出処理111によって検出された画素値の変化に基づいて薬剤の生体試料200への浸透状態を特定する。
【0058】
浸透状態特定処理112で特定する浸透状態は、生体試料200への薬剤の浸透範囲を含む。浸透範囲は、投与開始から特定時間後にどの範囲まで薬剤が浸透しているかを表しており、薬剤の浸透状態を示す1つの指標となり得る。
【0059】
浸透範囲を特定するため、浸透状態特定処理112は、ニードル特定処理113を含む。ニードル特定処理113は、断層画像F1~F6それぞれからマイクロニードル300に対応した画素を特定する処理である。
【0060】
マイクロニードル300は薄膜フィルム202側から挿入される。そのため、ニードル特定処理113は、一例として、生体試料200の薄膜フィルム202側、図2では上方付近の範囲において、予め記憶している第1の閾値よりも高い画素値を有する画素を検出することを含む。第1の閾値は、マイクロニードル300に相当する画素の画素値として予め記憶されている閾値である。これにより、断層画像中のマイクロニードル300の形状が特定される。
【0061】
プロセッサ11が図2の断層画像F1~F6それぞれを対象としてニードル特定処理113を実行した場合、各断層画像から検出された画素は、図4に示されるように、曲線C1~C6で表される。曲線C1~C6は、それぞれ、断層画像F1~F6中のマイクロニードル300の輪郭に相当する。
【0062】
浸透範囲を特定するため、浸透状態特定処理112は、深達度特定処理114を含む。深達度は、断層画像中の画素値の、予め記憶されている第2の閾値よりも高い画素値の連続する範囲の、生体試料200の薄膜フィルム202側からの長さを指す。第2の閾値は、薬剤が浸透している箇所に相当する画素の画素値として予め記憶されている閾値である。これにより、肉部201に薬剤が浸透した範囲が得られる。
【0063】
プロセッサ11が図2の断層画像F1~F6それぞれを対象として深達度特定処理114を実行した場合、図4に示されるように、各断層画像から深達度L1~L6が特定される。深達度L1~L6は、一例として、断層画像F1~F2それぞれの上辺からシート302の厚み及び薄膜フィルム202の厚みを加えた長さの位置から、第2の閾値よりも高い画素値の連続する範囲の下辺までの長さである。
【0064】
浸透状態特定処理112で特定する浸透状態は、生体試料200への薬剤の浸透範囲の経時変化を含む。浸透範囲の経時変化は、投与開始からの薬剤の浸透速度を表しており、薬剤の浸透状態を示す1つの指標となり得る。
【0065】
浸透範囲の経時変化を特定するため、浸透状態特定処理112は、深達度変化率算出処理115を含む。深達度変化率算出処理115は、断層画像F1~F6それぞれから得られた深達度L1~L6の時間経過に伴う変化率を算出する処理である。
【0066】
図5は、深達度変化率算出処理115によって複数の断層画像から得られた深達度を時間経過に沿ってプロットしたグラフであって、図5では、断層画像F1~F6に加えて、その間の時刻で得られた図示しない断層画像から得られた深達度もプロットされている。深達度の変化率は、一例として、これらプロットされた近似直線の傾きで表される。
【0067】
図5から、投与直後の0分~60分までの第1の期間Aと、それ以降の第2の期間Bとで深達度の変化の傾向が異なっているのがわかる。図5の深達度が得られている場合、プロセッサ11は深達度変化率算出処理115を実行することによって、期間Aの深達度の近似直線A1の傾きα1、及び、期間Bの深達度の近似直線A2の傾きα2を深達度の変化率として得ることができる。
【0068】
浸透状態特定処理112で特定する浸透状態は、浸透範囲に浸透した薬剤の濃度を含む。浸透範囲に浸透した薬剤の濃度は、どの範囲にどの濃度で薬剤が浸透しているかの濃度分布を表しており、薬剤の浸透状態を示す1つの指標となり得る。浸透範囲に浸透した薬剤の濃度は、生体試料200に対する薬剤の投与量と浸透範囲とを用いて得られる。
【0069】
浸透範囲に浸透した薬剤の濃度を特定するために用いる薬剤の投与量を得るため、浸透状態特定処理112は、投与量特定処理116を含む。マイクロニードル300が固形の薬剤で形成されて生体試料200に薬剤を放出するものの場合、薬剤の投与量はマイクロニードル300から生体試料200に放出される薬剤の量となり、マイクロニードル300の溶解量となる。そのため、投与量特定処理116は、溶解したマイクロニードル300の体積を算出することを含む。
【0070】
図6及び図7を用いて、投与量特定処理116の原理について説明する。図6の画像FF1~FF6は、それぞれ、図2の断層画像F1~F6のマイクロニードル300の部分の拡大図であって、針部301の長さd1~d6の光学的距離及び物理距離が示されている。光学的距離は断層画像を直接計測して得られる距離であり、物理距離は、光学的距離を屈折率で除して得られる距離である。プロセッサ11は、投与量特定処理116において、一例として、図2の断層画像F1~F6それぞれの針部301の物理距離d1~d6を算出する。
【0071】
画像FF1に含まれるマイクロニードル300の画像は、針部301の長さd1の、溶解していない状態のマイクロニードル300の形状である。画像FF2~FF6それぞれに含まれるマイクロニードル300の像は、溶解後のマイクロニードル300の形状である。
【0072】
図7は、画像FF1に含まれるマイクロニードル300の画像N1と、針部301の長さdで示された、画像FF2~FF6に含まれるマイクロニードル300の画像N2とを模式的に表している。溶解量は、図7でハッチングを付して示されている、画像N1と画像N2との差分を、針部301の軸を回転軸として回転させて得られる回転体の体積で模式的に表される。
【0073】
この原理を利用して、一例として、投与量特定処理116では、断層画像F2~F6それぞれから得られた針部301の形状と、投与開始時の断層画像F1から得られた針部301の形状との差分の形状を、針部301の軸を回転軸として回転させて得られる回転体の体積として算出することによって得られた体積に、マイクロニードル300に含まれる針部301の数を乗じて得られる値を投与量とする処理であってよい。
【0074】
なお、マイクロニードル300が中空型マイクロニードルである場合、投与量特定処理116は、中空を通過して注入された薬剤の量を特定することを含む。この場合の投与量は、入力装置15から入力されたユーザ操作から特定されてもよいし、注入用の薬剤を貯蔵する外部タンクなどに設置された、注入量を測定するセンサからのセンシング信号より特定されてもよい。
【0075】
浸透範囲に浸透した薬剤の濃度を特定するため、浸透状態特定処理112は、濃度算出処理117を含む。濃度算出処理117は、投与量特定処理116で特定された薬剤の投与量を浸透範囲で除することを含む。浸透範囲は、深達度特定処理114によって特定された深達度に予め記憶している生体試料200の断面積に対応した係数を乗じることで得られる。
【0076】
浸透状態特定処理112で特定する浸透状態は、浸透範囲に浸透した薬剤の濃度の経時変化を含む。浸透範囲に浸透した薬剤の濃度の経時変化は、投与開始からの薬剤の拡散速度を表しており、薬剤の浸透状態を示す1つの指標となり得る。
【0077】
浸透範囲に浸透した薬剤の濃度の経時変化を特定するため、浸透状態特定処理112は、濃度変化率算出処理118を含む。濃度変化率算出処理118は、濃度算出処理117によって断層画像F1~F6それぞれで得られた浸透範囲における薬剤の濃度の、時間経過に伴う変化率を算出する処理である。一例として、プロセッサ11は、濃度変化率算出処理118において、断層画像F1~F6それぞれで得られた浸透範囲における薬剤の濃度を時間経過に沿ってプロットし、その近似直線の傾きを求めることで濃度変化率を得ることができる。
【0078】
好ましくは、プロセッサ11は、プログラム121を実行することによって、判定処理119を実行する。判定処理119は、浸透状態特定処理112によって特定された浸透状態と、予定の浸透状態として予め記憶している浸透モデルMとを比較することで、特定された浸透状態が予定の浸透状態であるか否かを判定する。
【0079】
判定処理119は、一例として、薬剤の浸透範囲が予定の浸透範囲であるか否かを判定する。その場合、浸透モデルMは深達度の閾値であって、判定処理119は、深達度特定処理114で特定された深達度と上記閾値とを比較することで予定の浸透範囲まで浸透したか否かを判定するものである。
【0080】
判定処理119は、一例として、薬剤の浸透速度が予定の浸透速度であるか否かを判定する。その場合、浸透モデルMは、深達度変化率の閾値であって、例えば、図5のグラフのような変化を表す曲線であってもよい。又は、浸透モデルMは、図5のグラフに示されたような、深達度の変化を表す近似直線A1,A2の傾きα1,α2の閾値であってもよい。判定処理119は、深達度特定処理114で特定された深達度で得られる図5のグラフと浸透モデルMとして記憶している変化を表す曲線とを比較することによって、又は、深達度変化率算出処理115で算出された深達度の変化率と上記閾値とを比較することによって、薬剤の浸透速度が予定の浸透速度であるか否かを判定するものである。
【0081】
好ましくは、プロセッサ11は、プログラム121を実行することによって、表示処理120を実行する。表示処理120は、浸透状態特定処理112によって特定された浸透状態を画像表示するようディスプレイ14に表示用データを出力する処理である。
【0082】
表示される画像は、例えば、図4の表示であってもよい。すなわち、図4に示されたように、断層画像F1~F6を時系列で並べ、さらに、断層画像F1~F6それぞれに特定された深達度L1~L6を重ねて表示するものであってよい。これにより、各時間での浸透範囲が把握されるとともに、浸透範囲の時間変化も把握できる。
【0083】
また例えば、表示される画像は、図5のグラフであってもよい。すなわち、図5に示されたように、断層画像F1~F6から得られた深達度を時系列に従ってプロットしたグラフであってもよい。さらに、図5に示されたように、そのプロットの近似直線A1,A2を重ねて表示してもよい。これにより、各時間での浸透範囲が把握されるとともに、浸透速度の時間変化も把握できる。
【0084】
好ましくは、表示処理120は、判定処理119での判定結果をディスプレイ14に表示させることを含む。判定結果を表示させることは、判定結果が特定の結果の場合のみ表示させることを含む。一例として、薬剤の浸透範囲が予定の浸透範囲にない場合に、その旨をディスプレイ14で表示するようにしてもよい。これにより、判定結果を把握することができる。
【0085】
解析装置10での解析方法について、図8のフローチャートを用いて説明する。図8を参照して、解析装置10のプロセッサ11は、解析対象とする断層画像F1~F6を断層画像記憶部122から読み込む(ステップS101)。プロセッサ11は、以降、読み込んだ断層画像F1~F6の1つずつについて以降の処理を実行する。
【0086】
すなわち、プロセッサ11は、読み込んだ断層画像F1~F6のうちの1つの断層画像F1について、薬剤の浸透による生体試料200に対応した領域の画素値を特定することで(ステップS103)、画素値の変化を検出する。そして、プロセッサ11は、光学特性の変化に基づいて薬剤の生体試料200への浸透状態を特定するための以降の処理を実行する。
【0087】
すなわち、プロセッサ11は、断層画像F1について、画素値を上記の第1の閾値と比較することによって、断層画像F1におけるマイクロニードル300の画像を特定する(ステップS105)。また、プロセッサ11は、断層画像F1について、画素値を上記の第2の閾値と比較することによって、それぞれの深達度L1を特定する(ステップS107)。
【0088】
断層画像F1が得られた薬剤の投与開始の時点では、マイクロニードル300が溶解していないため、薬剤の投与量を0として算出し(ステップS109)、生体試料200に浸透した薬剤の濃度を算出する(ステップS111)。
【0089】
プロセッサ11は、ステップS101で読み出した断層画像F1~F6のうちの上記ステップS103~S111の処理を行っていない断層画像が存在する場合(ステップS113でYES)、残る断層画像F2~F6についても上記ステップS103~S111の処理を行って、それぞれ、深達度L2~L6、濃度などの浸透状態を得る。すなわち、断層画像F2については、投与開始時点の断層画像F1に含まれるマイクロニードル300の断層画像と、断層画像F2に含まれるマイクロニードル300の断層画像とを比較することで溶解したマイクロニードル300の量を算出し、溶解によって生体試料200に放出された薬剤の量を、断層画像F2の画像取得時点での薬剤の投与量として算出する(ステップS109)。そして、算出された薬剤の投与量を、ステップS107で特定された深達度L2より得られる浸透範囲で除することによって、生体試料200に浸透した薬剤の濃度を算出する(ステップS111)。
【0090】
上記ステップS103~S111を断層画像F1~F6のすべてについて行うと(ステップS113でNO)、プロセッサ11は、断層画像F1~F6それぞれから得られた深達度L1~L6の時間変化に従う変化率を算出する(ステップS115)。また、断層画像F1~F6それぞれから得られた生体試料200に浸透した薬剤の濃度の時間変化に従う変化率を算出する(ステップS117)。
【0091】
好ましくは、プロセッサ11は、上記の処理によって特定された少なくとも1つの浸透状態について、予定の浸透状態として予め記憶している浸透モデルMと比較することによって、特定された浸透状態が前記予定の浸透状態であるか否かを判定する(ステップS119)。
【0092】
以上の処理の後、プロセッサ11は、解析結果をディスプレイ14に表示させるように表示データを生成し、ディスプレイ14に制御信号とともに送信する(ステップS121)。また、好ましくは、ステップS121では、ステップS119で行った判定の結果もディスプレイ14に表示させる。これにより、ディスプレイ14に、特定された浸透状態や判定結果が表示され、把握することができる。なお、ステップS121の処理は、ステップS107で浸透範囲が特定されたり、ステップS111で濃度が算出されたりした時点で行われてもよい。それにより、処理中にも浸透状態を把握することができる。
【0093】
以上の例では、浸透状態を示す指標として、薬剤の投与開始から所定のタイミングにおける浸透範囲を示す深達度L1~L2、浸透範囲における薬剤の濃度、深達度L1~L2の時間変化の変化率、浸透範囲における薬剤の濃度の時間変化の変化率を特定しているが、その他の指標を用いてもよい。その他の指標は、例えば、断層画像F1~F6それぞれの強度プロファイルの分布や、平均強度プロファイルや、平均強度プロファイルから得られる強度減衰係数の時間変化などである。
【0094】
浸透状態の指標として、例えば、断層画像F1からは図9の強度プロファイルの分布が得、図12の開始後295分経過した断層画像F6からは図10の強度プロファイルの分布を得ることができる。さらに、図9図10のそれぞれから、一例として、マイクロニードル300の針部301に相当する深度での平均強度プロファイルの変化率δ1、δ2を得ることができる。また、図11に示されるような、断層画像F1~F6それぞれの平均強度プロファイルから強度減衰係数を算出して時間経過に配列することによって強度減衰係数の経時変化を得ることができる。強度減衰係数は、所定量の光量が低下するのに要する距離で算出される係数である。
【0095】
この解析方法によって断層画像F1~F6を解析したところ、図4の深達度L1~L6に示されたように、マイクロニードル300によるヒアルロン酸の投与を開始すると、徐々に深達度が増加し、深部まで浸透が進むことがわかった。
【0096】
特定された深達度L1~L6をより詳細に検討すると、図5について上記したように、投与開始から60分までの第1の期間Aと、その後の第2の期間Bとで、深達度の変化率が異なっている。
【0097】
この変化率の違いに関し、発明者らは、断層画像F1~F6中のマイクロニードル300の形状の時間変化を拡大した図6を用いて針部301の長さの時間変化を測定すると、図12に表されたように、投与開始後60分までの期間Aにおいて針部301の長さが急速に減少し、その後、期間Bでは減少の度合が極めて小さくなっていることがわかった。これは、投与開始後60分までの期間Aにおいて針部301の先端部分が溶解し、期間Bにおいては根元部分が溶解しているためと考察された。
【0098】
図12に示された針部301の長さより、マイクロニードル300が溶解し、生体試料200に放出されたヒアルロン酸の量を算出すると、図13に示されたように、投与開始後60分までの期間Aにおいて放出量が急速に増加し、その後、期間Bでは増加の度合が緩やかになる。つまり、マイクロニードル300を溶解させることで薬剤を注入する場合、針部301の先端部分は急激に溶解して投与量が時間経過とともに増加し、先端部分が溶解し終わると投与量の増加が小さくなる、という傾向があることがわかった。
【0099】
この観察結果と図5に得られた深達度の変化率の変化とを比較すると、期間Aでは投与量が増加するために浸透範囲が急激に拡大し、期間Bでは投与量の増加が小さくなるために浸透範囲の拡大が小さくなる、と考えられる。つまり、本センシングシステム100で採用した、肉部201に相当する画像領域の光学特性の変化が浸透状態を表しているという発明者らの考察が検証されたと考えられる。
【0100】
<3.付記>
【0101】
解析装置10での処理を実現するプログラム121は、コンピュータ読取り可能である非一時的な記録媒体に記録されたプログラム製品として提供されてもよい。プログラム121は、ネットワークを介したダウンロードによって提供されてもよい。
【0102】
解析装置10での処理を実現するプログラム121は、解析装置10での処理のためのプログラムコードを有する。プログラム121は、プログラム121が格納されたメモリ12に接続されたプロセッサ11によって読み取られ、実行される。
【0103】
解析装置10での処理を実現するプログラム121は、アプリケーションプログラムとして提供されてもよいし、その一部または全部が、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)に含まれていてもよい。
【0104】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0105】
10 :解析装置
11 :プロセッサ
12 :メモリ
13 :センサI/F
14 :ディスプレイ
15 :入力装置
50 :センサ
100 :センシングシステム
111 :検出処理
112 :浸透状態特定処理
113 :ニードル特定処理
114 :深達度特定処理
115 :深達度変化率算出処理
116 :投与量特定処理
117 :濃度算出処理
118 :濃度変化率算出処理
119 :判定処理
120 :表示処理
121 :プログラム
122 :断層画像記憶部
200 :生体試料
201 :肉部
202 :薄膜フィルム
300 :マイクロニードル
301 :針部
302 :シート
1111 :第1検出処理
1112 :第2検出処理
A :期間
A1 :近似直線
A2 :近似直線
B :期間
F1 :断層画像
F2 :断層画像
F3 :断層画像
F4 :断層画像
F5 :断層画像
F6 :断層画像
FF1 :画像
FF2 :画像
FF3 :画像
FF4 :画像
FF5 :画像
FF6 :画像
L1 :深達度
L2 :深達度
L3 :深達度
L4 :深達度
L5 :深達度
L6 :深達度
M :浸透モデル
N1 :取得画像
N2 :取得画像
d1 :物理距離
d2 :物理距離
d3 :物理距離
d4 :物理距離
d5 :物理距離
d6 :物理距離
α1 :傾き
α2 :傾き
δ1 :変化率
δ2 :変化率
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13