(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】管路形状推定方法及び管路形状推定装置
(51)【国際特許分類】
G01B 21/00 20060101AFI20240625BHJP
G05D 1/46 20240101ALI20240625BHJP
E03F 7/00 20060101ALI20240625BHJP
G02B 23/24 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
G01B21/00 E
G05D1/46
E03F7/00
G02B23/24 A
(21)【出願番号】P 2020067261
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 広都
(72)【発明者】
【氏名】眞野 雄貴
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-105627(JP,A)
【文献】特開2017-219324(JP,A)
【文献】特開平02-201210(JP,A)
【文献】特開2012-139456(JP,A)
【文献】特開2019-108945(JP,A)
【文献】特開2014-228658(JP,A)
【文献】特開2018-005077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00 - 21/32
G05D 1/46
E03F 7/00
G02B 23/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直管部と曲管部とを有する管内を
、管軸方向に伸縮可能とされたユニットを複数連結し、連結されたユニットを所定の順序で周期的に伸縮させるサイクルを繰り返しながら
推進す
る移動体に、当該移動体の移動に伴う加速度及び姿勢の変化を検出可能な慣性計測装置を設け、前記移動体が前記管内を移動したときの加速度及び姿勢の時間変化の履歴を含む移動情報に基づいて、前記慣性計測装置の移動量及び移動方向を推定するための処理をコンピュータに実行させて管路形状を推定する管路形状推定方法であって、
前記加速度を積分し、前記移動に伴う速度の時間変化を示す第1の関数を算出するステップと
、
前記第1の関数における
1つのサイクルが開始する開始点及び
1つのサイクルが終了する停止点を検出するステップと、
1つのサイクルが開始する開始点及び
1つのサイクルが終了する停止点を通る第2の関数を設定するステップと、
前記第1の関数から前記第2の関数を減じて第3の関数を取得するステップと、
前記第3の関数において前記開始点及び前記停止点に対応する区間を積分し
、1つのサイクル
毎の前記慣性計測装置の移動量を取得するステップと
、を有する管路形状推定方法。
【請求項2】
前記姿勢の変化に基づいて、前記移動情報の各時刻において前記慣性計測装置が前記管の直管部及び曲管部のいずれかを移動しているかを検出し、前記移動情報に設定するステップと、
前記姿勢の変化に基づいて、前記曲管部の両端に接続された各直管部の延長方向を算出するステップと、
前記取得された各直管部の延長方向が交差する角度を算出するステップと、
前記取得された各直管部の延長方向が交差する角度に基づいて曲管部の角度を設定するステップと、を含む請求項1に記載の管路形状推定方法。
【請求項3】
直管部と曲管部とを有する管内を、管軸方向に伸縮可能とされたユニットを複数連結し、連結されたユニットを所定の順序で周期的に伸縮させるサイクルを繰り返しながら推進する移動体に設けられ、該移動体の移動に伴う加速度及び姿勢の変化を検出可能な慣性計測装置と、
検出された前記加速度及び前記姿勢の変化に基づいて、前記慣性計測装置の移動距離及び移動方向を推定し、前記慣性計測装置の移動軌跡を取得する管路形状処理装置と、を備え、
前記管路形状処理装置は、
前記加速度を積分し、前記移動に伴う速度の時間変化を算出する速度算出手段と、
前記速度算出手段により算出された速度の時間変化から1つのサイクルが開始する開始点及び1つのサイクルが終了する停止点を検出する移動点検出手段と、
1つのサイクルが開始する開始点及び1つのサイクルが終了する停止点を通り、前記速度の時間変化に含まれる誤差を除くための補正線を設定する補正線設定手段と、
前記速度の時間変化から前記補正線を減じて前記速度の時間変化に含まれる誤差を補正する誤差補正手段と、
前記誤差補正手段により補正された前記速度の時間変化において1つのサイクルが開始する開始点及び1つのサイクルが終了する停止点に対応する区間を積分して前記慣性計測装置の移動距離を算出する移動量算出手段と、を備えた管路形状推定装置。
【請求項4】
前記姿勢の変化に基づいて、移動情報の各時刻において前記慣性計測装置が前記管の直管部及び曲管部のいずれかを移動しているかを検出し、前記移動情報に設定する管形状設定手段と、
前記姿勢の変化に基づいて、前記曲管部の両端に接続された各直管部の延長方向を算出する延長方向算出手段と、
前記取得された各直管部の延長方向が交差する角度を算出する挟角算出手段と、前記算出された角度に基づいて、前記曲管
部の角度を判定する曲管形状判定手段と、を備えた請求項3に記載の管路形状推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管路形状推定方法及び管路形状推定装置に関し、特に、管路内に自走式ロボットを走行させて管路形状推定方法及び管路形状推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、下水道の整備が進められ、管路延長は約46万kmに上っている。その一方で、設置後50年以上が経過した老朽管が急増することも見込まれている。この老朽管が破損すると、道路陥没などの重大事故につながる虞があるにも関わらず、予算等の制限からすべての老朽管を直ちに補修・交換することは困難であり、優先的に交換すべき配管や補修箇所を効率的に発見するなどの早急な対策が求められている。優先的に交換すべき配管や補修箇所の発見には、管内の状態を検査することが有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、補修箇所や破損部位の特定に必要とされる管路図は、全管路図のおよそ4割が散逸しており、検査に加えて、管路形状を推定し、管路図を作成する必要もある。下水管の検査では、補修箇所や破損部位を特定するために長距離を安定して移動でき、散逸した管路図の作成において小型軽量で高精度な管路形状の推定が可能な計測システムが必要とされている。
例えば、下水管の検査には、主に押し込み式内視鏡や自走式ロボットが利用されている。押し込み式内視鏡では、作業者が配管の一端から内部に内視鏡を押し込み、先頭に搭載されたカメラによって内部の様子を確認することで検査される。しかし、内視鏡による検査は、長距離管や曲管において発生する屈曲摩擦により押し込み力を先頭まで伝達することが難しく、長距離の検査には不向きである。また、自走式ロボットでは、カメラを搭載したロボットを管内で走行させることで内部の映像を確認することで検査される。自走式ロボットには、車輪機構を搭載したロボットや、繊毛振動型ロボット、蠕動運動型ロボット(特許文献1)などの多くのロボットが提案されている。しかし、車輪機構を搭載したロボットは、牽引力が小さく、長距離管の検査が困難である。また、繊毛振動型ロボットは、本体全体を細毛で覆い、毛の振動を用いることで推進力を得て移動させているため、十分な牽引力を出すことが困難であり、垂直管や登攀管等の走行が難しいという問題がある。蠕動運動型ロボットは、下水道等の管内を検査するための管体内検査装置として収縮時に拡径し、伸長時に縮径する伸縮ユニットを複数連結し、ミミズの蠕動運動を模すように伸縮ユニットを順番に伸縮させることで、管内における推進力を発生させているため、十分な牽引力を生じさせ、長距離の移動も可能であり、下水管の検査において好適である。
管路形状の推定には、加速度計等の内界センサを用いた慣性航法による手法や、発信機を前述の検査ロボットに搭載し、地上の受信機で経路をプロットする手法などが知られている。慣性航法による手法は、使用するセンサ数が少なくなるため、システムを小型化できるという利点がある一方で、長距離を検査する場合にセンサのドリフトによる誤差が累積し、累積誤差が30%程度と大きくなるという問題がある。また、GPSや発信器を用いた手法は、小型であるが金属管内では電波を受信できず失探する虞がある。
そこで、本発明は、上記問題点を解決すべく、検査対象となる管の管路形状の計測精度を向上可能な管路形状計測方法及び管路形状計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための管路形状推定方法の態様として、直管部と曲管部とを有する管内を、管軸方向に伸縮可能とされたユニットを複数連結し、連結されたユニットを所定の順序で周期的に伸縮させるサイクルを繰り返しながら推進する移動体に、当該移動体の移動に伴う加速度及び姿勢の変化を検出可能な慣性計測装置を設け、前記移動体が前記管内を移動したときの加速度及び姿勢の時間変化の履歴を含む移動情報に基づいて、前記慣性計測装置の移動量及び移動方向を推定するための処理をコンピュータに実行させて管路形状を推定する管路形状推定方法であって、前記加速度を積分し、前記移動に伴う速度の時間変化を示す第1の関数を算出するステップと、前記第1の関数における1つのサイクルが開始する開始点及び1つのサイクルが終了する停止点を検出するステップと、1つのサイクルが開始する開始点及び1つのサイクルが終了する停止点を通る第2の関数を設定するステップと、前記第1の関数から前記第2の関数を減じて第3の関数を取得するステップと、前記第3の関数において前記開始点及び前記停止点に対応する区間を積分し、1つのサイクル毎の前記慣性計測装置の移動量を取得するステップと、を有する態様とした。
本態様によれば、移動体とともに移動する慣性計測装置の移動量を精度良く取得することができる。即ち、慣性計測装置が移動した軌跡は、管の延長方向に沿って移動した走行部の走行経路であるので、管路形状の推定において管路の長さを精度良く推定することができる。
また、管路形状推定方法の他の態様として、姿勢の変化に基づいて、移動情報の各時刻において慣性計測装置が管の直管部及び曲管部のいずれかを移動しているかを検出し、移動情報に設定するステップと、姿勢の変化に基づいて、曲管部の両端に接続された各直管部の延長方向を算出するステップと、取得された各直管部の延長方向が交差する角度を算出するステップと、取得された各直管部の延長方向が交差する角度に基づいて曲管部の角度を設定するステップとを含む態様とした。
本態様によれば、慣性計測装置により得られた情報から曲管部の形状を簡単に推定することができる。
また、上記課題を解決するための管路形状推定装置の構成として、直管部と曲管部とを有する管内を、管軸方向に伸縮可能とされたユニットを複数連結し、連結されたユニットを所定の順序で周期的に伸縮させるサイクルを繰り返しながら推進する移動体に設けられ、該移動体の移動に伴う加速度及び姿勢の変化を検出可能な慣性計測装置と、検出された前記加速度及び前記姿勢の変化に基づいて、前記慣性計測装置の移動距離及び移動方向を推定し、前記慣性計測装置の移動軌跡を取得する管路形状処理装置と、を備え、前記管路形状処理装置は、前記加速度を積分し、前記移動に伴う速度の時間変化を算出する速度算出手段と、前記速度算出手段により算出された速度の時間変化から1つのサイクルが開始する開始点及び1つのサイクルが終了する停止点を検出する移動点検出手段と、1つのサイクルが開始する開始点及び1つのサイクルが終了する停止点を通り、前記速度の時間変化に含まれる誤差を除くための補正線を設定する補正線設定手段と、前記速度の時間変化から前記補正線を減じて前記速度の時間変化に含まれる誤差を補正する誤差補正手段と、前記誤差補正手段により補正された前記速度の時間変化において1つのサイクルが開始する開始点及び1つのサイクルが終了する停止点に対応する区間を積分して前記慣性計測装置の移動距離を算出する移動量算出手段と、を備えた構成とした。
また、管路形状推定装置の他の構成として、姿勢の変化に基づいて、移動情報の各時刻において慣性計測装置が管の直管部及び曲管部のいずれかを移動しているかを検出し、移動情報に設定する管形状設定手段と、姿勢の変化に基づいて、曲管部の両端に接続された各直管部の延長方向を算出する延長方向算出手段と、取得された各直管部の延長方向が交差する角度を算出する挟角算出手段と、算出された角度に基づいて、曲管部の角度を判定する曲管形状判定手段とを備えた構成とした。
本構成によれば、慣性計測装置により得られた情報から曲管部の形状を簡単に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図10】走行部10の進行動作を示す模式図である。
【
図11】初期位置P1において設定される座標系を示す図である。
【
図12】走行部の移動特性から得られる1サイクルの速度の時間変化を示すグラフである。
【
図13】実際の測定時の速度の時間変化を示すグラフである。
【
図14】曲管部や直管部を慣性計測装置が通過したときの角速度の出力値を示す図である。
【
図15】慣性計測装置の姿勢角を用いた曲管部の種類を推定する模式図である。
【0007】
以下、発明の実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明される特徴の組み合わせのすべてが発明の解決手段に必須であるとは限らず、選択的に採用される構成を含むものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、各図に基づき説明する。
図1は、管5内を移動する自走式ロボット1の概略構成図である。本実施形態では、
図1に示す自走式ロボット1には、管路形状計測装置200を構成する慣性計測装置210が設けられ、自走式ロボット1が移動する管5の移動情報を取得する。慣性計測装置210により取得された移動情報は、管路形状計測装置200を構成する管路形状処理装置220において処理され、自走式ロボット1の移動の軌跡として計測される。
【0009】
まず、慣性計測装置210が搭載される自走式ロボット1について説明する。自走式ロボット1は、概略、管5内を移動する移動体としての走行部10と、走行部10を動作させるコンプレッサー70と、コントローラー80と、検査装置100と、慣性計測装置210とを備える。
【0010】
走行部10は、複数の伸縮ユニット20と、伸縮ユニット20同士を接続するジョイント40と、バルブユニット60と、先頭部90とを備える。以下の説明では、矢印X1に沿う方向を走行部10の進行方向とし、この進行方向に沿って前側、逆を後側としてその前後方向を特定する。
【0011】
図2は、伸縮ユニット20の一構成例を示す軸方向断面図である。伸縮ユニット20は、内筒21と、内筒21とともに二重管を形成するように内筒21の外周を囲むように配設される外筒22と、内筒21及び外筒22との端部に設けられる一対の端部部材23;23とを備える。
【0012】
内筒21は、軸方向に沿って伸縮可能な蛇腹構造を有する断面円形の筒体である。本実施形態の蛇腹構造は、螺旋状の蛇腹構造を有するものとして説明するが、これに限定されない。内筒21を構成する素材には、例えば、軸線の曲がりを許容し、内周側や外周側からの圧力により変形しにくい可撓性を有する素材で構成されることが好ましい。内筒21は、各端部が端部部材23に設けられた内筒固定部28に取り付けられる。
【0013】
図3は、
図2中のA1-A1矢視における外筒22の断面を誇張して示した図である。同図に示すように、外筒22は、弾性体より形成される円筒状の筒本体22Aと、当該筒本体22Aの内部において密に内挿された複数の繊維22Bとから構成される。筒本体22Aの材質としては、シリコーンゴム等の合成ゴム、或いは天然ラテックスゴム等の天然ゴム等の気密性及び伸縮性を有する弾性素材が好適である。
【0014】
繊維22Bは、一端側から他端側まで連続するように、軸線に沿って延長するように外筒22の壁厚内に配置され、本実施例では層状に複数積層して密に内挿される。なお、繊維22Bは、積層せずに単層であっても良い。繊維22Bは、筒本体22Aの軸方向に沿って延在するものとして示すが、軸方向に対して交差するように設けても良い。この外筒22は、各端部が端部部材23に設けられる外筒固定部29に取り付けられる。また、前述の一端側から他端側まで連続するようにとは、一本の繊維22Bが外筒22の一端側から他端側に到達する状態や、外筒22の軸方向長さよりも短い複数の繊維が、軸方向に連続的に分布することで一端側から他端側まで到達する状態を意図する。
【0015】
繊維22Bの素材には、軸方向への伸縮変化の小さい素材が好適である。例えば、繊維22Bの素材には、例えば、アラミド繊維、炭素(カーボン)繊維、ガラス繊維、ナイロン、ポリアミド系繊維やポリオレフィン系繊維、金属繊維等の被伸長性を有するものを適宜選択して用いることができる。繊維に適当なプライマー処理、又は、表面酸化処理を行うことで、接着性を十分に向上させることができるが、好ましくは、ゴムとの接着性に応じて選択すると良い。
また、繊維22Bの形態は、フィラメント、ヤーン(スパン・ヤーン及びフィラメント・ヤーン)、ストランド等のいずれの形態でも用いることができ、さらに、撚りをかけずに収束させた無撚繊維、これらの繊維を複数本撚って作成した繊維を用いることも可能である。繊維の種類にもよるが、二種類以上の素材の異なる繊維や形態の異なる繊維を組み合わせても良い。
【0016】
筒本体22Aを形成する素材は、後述する空気室Sへの圧縮空気の給排によってその形状が変化し得る材質であれば如何なる材質であっても良い。また、筒本体22Aの厚さや繊維22Bの配置については、外筒22の空気排出時の伸長する力等を考慮して決められる。
【0017】
端部部材23は、例えば樹脂や硬質のゴム、金属等により円筒状に形成された円筒体であって、内筒21を固定する内筒固定部28と、外筒22を固定する外筒固定部29とを備える。内筒固定部28は、内筒21の外周を嵌着可能に端部部材23の内周面の一端側に設けられる。本実施形態では、内筒21が螺旋状の蛇腹構造を有するものとしたことから内筒固定部28は、例えば、当該内筒21の螺旋形状を利用し、内筒21の外周をねじ込み可能な螺旋溝として形成される。以下、端部部材23において軸方向に内筒固定部28が設けられた側を内側といい、その逆側を外側という。
【0018】
例えば、内筒固定部28を形成する螺旋溝は、内筒21との気密性を考慮し、少なくとも内筒21の外周側において螺旋を描く山部の1ピッチ以上となるように形成すると良い。また、内筒固定部28は、例えば、内筒21の外周面としまりばめとなるように形成することにより、内筒21との気密性をより確実なものとすることができる。
【0019】
外筒固定部29は、端部部材23の外周面に形成される。外筒固定部29は、内筒固定部28に固定された内筒21の端面よりも所定距離軸方向外側に位置し、端部部材23の外周を軸方向外側に行くにしたがって外径が漸次小径となるように、例えば球面状やテーパー状等に形成される。外筒22は、端部が外筒固定部29を軸方向外側に過ぎるように外筒22を配置した状態において、端部部材23の軸方向外側からリング状のカシメ部材30を外筒22の外周面側に被せ、さらにカシメ部材30の外側から半円状に形成された一対の固定部材32で端部部材23の外周面に挟み込むように固定することで端部部材23に固定される。
【0020】
このように内筒21及び外筒22の端部を端部部材23;23に固定することにより、伸縮ユニット20には、内筒21の外周面と端部部材23の外周面、及び外筒22の内周面によって囲まれた閉空間としての空気室Sが形成される。
【0021】
さらに、端部部材23には、ジョイント40を固定するためのジョイント固定部34と、空気室Sへの空気を給排を可能にする給排孔36が設けられる。
ジョイント固定部34は、例えば、端部部材23に外筒22を固定した状態において前述の固定部材32よりも軸方向外側に露出して設けられる。ジョイント固定部34は、例えば、端部部材23の肉厚方向(半径方向)に貫通するねじ孔として形成される。
【0022】
給排孔36は、内周側から内筒固定部28と外筒固定部29との間に形成された空気室Sに空気を給排可能に形成される。例えば、給排孔36は、端部部材23の内周面から端部部材23の内側の端面に貫通する貫通孔として形成される。この給排孔36には、後述のバルブユニット60から延長するチューブが接続される。
【0023】
図4は、伸縮ユニット20の動作を示す図である。伸縮ユニット20は、空気室Sに空気を供給することにより、軸方向に長さがx1からx2へと収縮するとともに径方向に外径がd1からd2へと拡径する。また、空気室Sから空気を排出することにより軸方向の長さがx2からx1へと伸長するとともに径方向に外径がd2からd1へと収縮する。以下、管5の内壁に接するように空気室Sに空気が供給された状態を膨張状態、空気室Sから空気が排出された状態を収縮状態という。伸縮ユニット20は、空気を供給し、膨張させることにより、外筒22の外周面と管5の内壁とに摩擦を生じさせるアクチュエータとして機能する。
【0024】
図5は、ジョイント40の外観図である。
ジョイント40は、伸縮ユニット20に取り付けられる一対の取付体41と、取付体41同士を結合する結合体42と、コイルばね44とを備える。
取付体41は、例えば、端部部材23の外周に嵌着可能な大きさに形成された円筒状の基部41Aと、基部41Aの一側側において直径方向に互いに対向し、基部41Aの軸方向に沿って延長するように同一の長さで突設された一対の突片41B;41Bを備える。
【0025】
結合体42は、取付体41の突片41B;41Bの内周面側を摺動可能な外径を有する環状部材として形成される。ジョイント40は、一方の取付体41の突片41B;41Bと、他方の取付体41の突片41B;41Bとを対向させ、互いに90°捻じれた状態で結合体42に取り付けられる。各取付体41は、例えば、各突片41Bの肉厚方向及び結合体42の肉厚方向に軸部材43を介して連結することで、各取付体41が結合体42に対してそれぞれ軸部材43を軸として回転可能に取り付けられる。即ち、ジョイント40は、中空のユニバーサルジョイントとして機能する。
【0026】
図5(a),(b)に示すように、コイルばね44は、一方の取付体41の内周空間から結合体42の内周空間を経て他方の取付体41の内周空間に達するように設けられる。コイルばね44は、例えば、外径が結合体42の内径よりもやや小さく、一方の取付体41や他方の取付体41から脱落不能となるように取付体41;41に取り付けられる。
【0027】
上述のように、取付体41及び結合体42を環状にすることにより、伸縮ユニット20を連結したときに、伸縮ユニット20の内筒21の内側の空間を一続きに維持できるので、後述の伸縮ユニット20を動作させるためのチューブの挿通を妨げることがない。
【0028】
また、ジョイント40には、取付体41を端部部材23に対して所定の位置に配置したときに、ジョイント固定部34に螺入され、貫通したねじの先端が侵入する固定部46が設けられる。固定部46は、例えば、基部41Aの外周面から円筒状に窪む有底の凹部として設けられ、ジョイント40の固定部46を貫通するねじが進入し、底付きすることで端部部材23に可能に形成される。ジョイント40の各基部41A;41Aには、伸縮ユニット20を支持し、伸縮ユニット20の管5の内壁への接触を防止する支持手段50が設けられる。
【0029】
図6は、支持手段50の一例を示す図である。支持手段50は、取付体41の基部41Aの外周に装着可能に形成された台座51と、台座51の外周面側に触接される繊維群53とを備える。
図6に示すように、台座51は、例えば、内周面が基部41Aの外周形状に沿って嵌着可能な半円状に形成される。台座51の内周面には、該台座51を基部41Aに取り付けたときに、突片41B;41Bの間に挿入され、基部41Aに対する位置決めをする一対の位置決め片52が設けられている。
【0030】
繊維群53は、支持手段50を平面視したときに、半円状に形成された台座51の内周面の中心を中心とする放射状に延長するように複数の繊維53zが台座51の外周面に、例えば、ブラシを形成するように植設される。繊維群53を形成する繊維の素材には、例えば、ナイロン繊維などのように腰のある弾性を有するものが好ましい。より好ましくは、繊維群54を構成する繊維53zは、
図4に示すように伸縮ユニット20が収縮状態にあるときに、伸縮ユニット20が管5の内壁に接触しない(非接触とする)剛性を有するように、太さや素材を選ぶと良い。さらに好ましくは、繊維群53は、曲管部7を進行するときに、伸縮ユニット20やジョイント40が管5の内壁に接触しないように、支持可能に太さや素材、繊維53zの数量を選択すると良い。即ち、伸縮ユニット20が、管5の中心線上を移動するように、支持手段50を構成すると良い。また、繊維群53を形成する繊維53zが台座51から延長する方向は、前述の平面視において放射状に限定されず、走行部10が曲管部7を進行するときに、伸縮ユニット20やジョイント40が管5の内壁に接触しないように適宜変更すればよい。
【0031】
支持手段50は、基部41Aの外周において一周にわたり繊維群53が放射状に延長するように基部41Aに対で取り付けられる。繊維群53を形成する繊維53zの長さは、前述の管5内壁への伸縮ユニット20やジョイント40の接触を回避しつつ、管5内を走行部10の進行の妨げにならなければ、例えば、管5の内壁の全周にわたり先端が摺接するものでも良く、また、管5の内壁の一部に摺接するものでも良い。
【0032】
図7は、ジョイントの動作を示す図である。支持手段50が取り付けられたジョイント40により連結された伸縮ユニット20:20は、
図7(a)に示す直線状態や、
図7(b)に示すように、伸縮ユニット20同士の軸線が交差するように屈曲することが可能となる。
【0033】
なお、支持手段50は、
図7(b)に示すように、ジョイント40の折れ曲がりによって支持手段50の台座51同士が衝突し、連結された伸縮ユニット20の曲がりに規制を与えるが、台座51の幅を適宜変更することにより曲がりの角度を制御することができる。また、台座51同士の接触を制御することにより、伸縮ユニット20同士の不要な曲がりを抑制することにより、曲管部7における円滑な進行とともに推進速度を向上させることができる。
【0034】
図8は、バルブユニット60の概略構成図である。
バルブユニット60は、最後尾の伸縮ユニット20の後方に、例えば、前述のジョイント40を介して接続される。バルブユニット60は、各伸縮ユニット20の空気室Sに、コンプレッサー70から圧縮空気を供給、或いは、空気室Sに供給された圧縮空気を排出するための電磁弁62を備える。電磁弁62は、一つの伸縮ユニット20について2つ設けられ、本実施形態では、7つの伸縮ユニット20に対応して14個の電磁弁62が一つの収容体に一体的に収容される。
【0035】
各電磁弁62は、コントローラー80から出力される信号に基づいて、伸縮ユニット20への圧縮空気の供給、伸縮ユニット20からの圧縮空気の排出、圧縮空気の供給による伸縮ユニット20の膨張状態の維持、圧縮空気の排出による伸縮ユニット20の収縮状態の維持などが制御される。電磁弁62には、例えば、3方弁が適用できる。
【0036】
コンプレッサー70は、伸縮ユニット20を駆動するための駆動源であって、前述のバルブユニット60の電磁弁62に所定の圧力に加圧された圧縮空気を供給する。例えば、前述のバルブユニット60において分配管を介して各電磁弁62を連通させておくことにより、コンプレッサー70から一本の配管を延長し、バルブユニット60に接続すれば良い。
【0037】
コントローラー80は、ワンチップ等の所謂コンピューターであって、複数の電磁弁62に対して個別に信号を出力可能に接続される。コントローラー80は、ジョイント40を介して連結された複数の伸縮ユニット20が蠕動運動を模すように、所定の順序で膨張、収縮、膨張状態の維持、収縮状態の維持がなされるように、複数の電磁弁62に個別に信号を出力する。
【0038】
図9は、支持手段50の作用を示す図である。
図9(a)に示す曲管部7は、所謂エルボーと称されるもっとも曲率半径の小さい場合を示している。このような曲管部7では、
図9(b)に示すように直角に曲がる管内壁5sが形成される。例えば、前述の走行部10に支持手段50がない場合には、走行部10が曲管部7を通過するときに、直角の管内壁5sにこすれるように進行することになり、推進力に大きな抵抗を生じさせてしまう。
【0039】
一方、上記構成の走行部10によれば、管5内に
図1に示す曲管部7がある場合でもスムースに移動することができる。本実施形態で説明したように、走行部10のジョイント40が支持手段50を備えているため、繊維群53が直角の管内壁5sにこすれながら移動させることができるので、伸縮ユニット20やジョイント40を管内壁5sから遠ざけ、摩擦を小さくすることができる。これにより、走行部10は、曲管部7における推進力の低下が抑制され、スムースに通過することができる。
【0040】
また、
図1における直管部6においても、支持手段50の繊維群53が、
図9(c)に示すように伸縮ユニット20やジョイント40が管内壁5sから離れるように支持するため、走行部10が直管部6を進行するときの摩擦を低下させることができる。例えば、前述の支持手段50をジョイント40に取り付けられていない場合、
図4(a)に示すように、伸縮ユニット20が収縮(軸方向に伸長)した状態から、
図4(b)に示すように、伸縮ユニット20を膨張(軸方向に収縮)させると、伸縮ユニット20の軸線は、外筒22が管内壁5sに接触した状態にある位置から管内壁5sの中心線とほぼ一致する位置へと移動することになる。一方、本実施形態に示すように、支持手段50をジョイント40に取り付けた場合、伸縮ユニット20やジョイント40が管内壁5sから離れるように支持されるため、収縮(軸方向に伸長)した状態から膨張(軸方向に収縮)に至る伸縮ユニット20の軸線の変化を小さくすることができる。これにより、伸縮ユニット20の蠕動運動動作において、ジョイント40の折れ曲がる角度が小さくなり、効率良く推進力を得ることができる。
【0041】
なお、上記実施形態では、支持手段50を台座51及び繊維群53により構成するものとして説明したが、これに限定されず、例えば、スポンジ等のように、前述のように、伸縮ユニット20やジョイント40の管内壁5sとの直接的な接触を回避できる柔軟性及び復元性を有するものであれば適宜変更しても良い。
【0042】
進行方向先頭に位置する伸縮ユニット20Aには、先頭部90が取り付けられる。先頭部90には、例えば、管5内を照射する光源92と、管5内の情報を取得するためのカメラ94等の撮影手段とが設けられる。
【0043】
カメラ94は、例えば、光軸を進行方向前方に向け、管5の管内壁5sを撮影可能に取り付けられる。カメラ94には、管5内を連続的に撮影可能なものが好ましい。カメラ94によって撮影された画像は、電気信号に変換され、有線或いは無線などを介して管5外に設けられた検査処理手段96に出力される。検査処理手段96は、所謂コンピュータであって、ハードウェア資源として設けられたCPU等の演算手段、ROM,RAM等の記憶手段、モニター等の表示手段、操作者による入力を可能にするキーボード等の入力手段、カメラ94等の外部機器からの入力を可能にする通信手段等を備え、カメラ94により撮影された画像を表示手段に表示可能に構成される。
【0044】
図10は、走行部10の進行動作を示す模式図である。
図10では、走行部10の蠕動運動による進行動作を簡単に説明するために、伸縮ユニット20を3つ(伸縮ユニット20A~20Cという)連結したものを用いて説明する。
図10(a)は、管内に走行部10を配置した状態である。
図10(a)に示す状態から
図10(b)に示すように、すべての伸縮ユニット20A~20Cを収縮させて管内に固定する。次に、
図10(c)に示すように、進行方向x1の後端の伸縮ユニット20Aの収縮状態を維持させたまま、伸縮ユニット20B及び伸縮ユニット20Cを伸長させる。次に、
図10(d)に示すように、伸縮ユニット20Aの収縮及び伸縮ユニット20Bの伸長を維持したまま伸縮ユニット20Cのみを収縮させる。次に、
図10(e)に示すように、伸縮ユニット20Cの収縮状態を維持したまま、伸縮ユニット20Bを伸長、伸縮ユニット20Cを収縮させる。次に、
図10(f)に示すように、伸縮ユニット20C及び伸縮ユニット20Bの収縮状態を維持したまま、伸縮ユニット20Aを収縮させることで、走行部10が前進する。
図10(f)に示す動作状態は、
図10(b)に示す動作状態である。即ち、走行部10は、後端を基準として見た場合、
図10(b)~
図10(e)に示す工程を一つのサイクルとして前進、停止を交互に繰り返しながら進行する。
【0045】
慣性計測装置210は、走行部10の進行方向最後尾に設けられる。慣性計測装置210は、慣性計測装置210と3軸方向の加速度を検出可能な加速度センサ及び各軸周りの角速度を検出可能なジャイロセンサを備える所謂6軸のIMU(inertial measurement
unit)である。慣性計測装置210は、例えば、走行部10を管5内に配置したときに、管5の中心線C上に検出基準点が位置するように先頭部90内に設けられる。検出基準点とは、慣性計測装置210に予め設定された3つの軸の交点である。以下の説明では、この3つの軸で形成される座標系をセンサ座標といい、x軸、y軸、z軸等として示す。
【0046】
慣性計測装置210では、このx軸、y軸、z軸に沿う方向の加速度Ax,Ay,Azを個別に検出する。また、慣性計測装置210は、x軸周りに回転したときの角速度ωx、y軸周りに回転したときの角速度ωy、z軸周りに回転したときの角速度ωzを検出する。慣性計測装置210は、y軸が管5の延長方向に沿い、進行方向が正方向となるように走行部10に配置される。
なお、本実施形態では、慣性計測装置210のセンサ座標のy軸を管5の延長方向に沿うように設定したが、x軸やz軸等いずれであっても良い。センサ座標のいずれかの座標軸を管5の延長方向に沿って設定することにより、走行部10の進行に伴う移動量や移動方向等の処理を簡素化することができる。慣性計測装置210により検出された加速度及び角速度は、例えば、電気配線を介して管5外に設けられた管路形状処理装置220に出力される。
【0047】
管路形状計測装置200は、前述の慣性計測装置210と、慣性計測装置210により検出された加速度及び角速度に基づいて、管路の形状を計測するための処理を実行する管路形状処理装置220とを備える。
【0048】
管路形状処理装置220は、所謂コンピュータであって、ハードウェア資源として設けられたCPU等の演算手段、ROM,RAM等の記憶手段、ユーザーの手動操作により操作される操作パネル等の入力手段、慣性計測装置210等の外部機器と接続され、慣性計測装置210により検出された加速度や角速度等の情報の入力を可能にする入出力インターフェースを備える。記憶手段には、慣性計測装置210から入力された加速度や角速度が時系列データとして記憶される。この記憶手段に記憶された加速度や角速度の時系列データは、慣性計測装置210が管5内を移動したときの移動情報であり、管5の形状を間接的に示すものである。演算手段は、記憶手段に記憶されたプログラムを逐次処理を実行することにより、後述の各手段や各部として管路形状処理装置220を昨日させる。
【0049】
管路形状処理装置220は、距離推定手段222と、曲管推定手段224とを備え、慣性計測装置210により検出された加速度や角速度に基づいて、慣性計測装置210の移動量及び移動方向を算出し、対象となる管5の管路形状を計測する。
【0050】
距離推定手段222は、重力補正部222Aと、速度算出部222Bと、移動点検出部222Cと、補正線設定部222Dと、誤差補正部222Eと、移動量算出部222Fとを備え、慣性計測装置210から入力される加速度に基づいて、走行部10の動作により管5内を移動した慣性計測装置210の移動量を推定する。
【0051】
重力補正部222Aは、慣性計測装置210により検出された加速度における重力加速度(以下、単に重力という)Gの影響を補正する。3次元空間において慣性計測装置210により検出された加速度に基づいて移動量を算出する場合、検出された加速度には重力Gの分力が混在する。このため、重力補正部222Aでは、慣性計測装置210により検出された加速度から重力Gによる成分を除去するための処理を実行する。
【0052】
重力補正部222Aでは、慣性計測装置210の起動時を初期位置P1とし、このときの姿勢を基準として重力Gの影響を除去する。
図11は、初期位置P1において設定される座標系を示す図である。本実施形態では、慣性計測装置210の座標系をセンサ座標(座標軸を小文字のx,y,zで示す)、重力Gを座標軸に含む座標系をグローバル座標(座標軸を大文字のX,Y,Zで示す)として示す。また、センサ座標及びグローバル座標の原点Oは、慣性計測装置210が管5に設けられた初期位置P1に一致するように座標系を設定する。グローバル座標は、例えば、重力Gを含む座標軸をZ軸、東西方向を示す座標軸をX軸、南北を示す座標軸をY軸等として設定すると良い。
実際の下水管等では、管5に上流側から下流側に向けて所定の勾配が設けられているため、
図11に示すように、グローバル座標に対してセンサ座標がずれている。
【0053】
慣性計測装置210の移動のみの加速度の成分を(Ax,Ay,Az)、慣性計測装置210により計測された重力Gを含む加速度(センサ値)の成分を(Asx
,Asy,Asz)、重力Gの分力の加速度の成分を(gx,gy,gz)として示す。また、初期位置P1のセンサ座標に対する観測位置(移動後)のセンサ座標の角度をx軸,y軸,z軸の順にθx,θy,θzとして表す。θx,θy,θzは、ジャイロセンサにより検出された角速度ωx,ωy,ωzを時間積分して算出される。また、添え字のx,y,zは、センサ座標系である。
【0054】
慣性計測装置210により計測された加速度の成分Asx ,Asy,Aszには、以下の(式1)で与えられる大きさだけ重力Gの分力が加算されている。
【数1】
したがって、以下の(式2)に示すように、各方向の加速度Asx ,Asy,Aszから(式1)を差し引くことで、重力Gの影響を除外した移動のみの加速度の成分Ax,Ay,Azが得られる。
【数2】
そして、(式2)によって算出された加速度の成分Ax,Ay,Azを慣性計測装置210の移動量の算出に用いることで、慣性計測装置210の移動量を精度良く算出することができる。慣性計測装置210は、走行部10の動作によって、
図11に示すように管5の延長方向(中心線C)に沿って初期位置P1から位置P2へと移動することから、後述の移動量の算出では、加速度の成分Axについてのみを考慮すれば良い。
【0055】
図12は、走行部10が1回(1サイクル)の蠕動運動したときに、慣性計測装置210により検出された加速度を速度算出部222Bによって積分して得られた慣性計測装置210の移動に伴う速度の時間変化を示すグラフである。
速度算出部222Bは、(式2)によって算出された加速度の成分Ayを時間について積分し、慣性計測装置210が移動したときの速度の時間変化を算出する。
図12に示す線0-ABCDは、速度算出部222Bにより算出された速度の時間変化であり、これは時間tを変数とする関数V=f(t)(式3)として定義することができる。
【0056】
ここで、関数f(t)と走行部10の走行特性との関係について考える。走行部10は、前述のように、連結された伸縮ユニット20が蠕動運動を模すように所定の順序で伸縮することで管5内を移動する。蠕動運動では、進行方向に伸びた後に先端を基準として後方を収縮させて再び進行方向に伸ばすことを繰り返して移動することから、前進、停止を繰り返しながら移動する特性があると言える。
【0057】
つまり、慣性計測装置210は、走行部10の動作と同様に、前進、停止を繰り返しながら移動し、この動作を慣性計測装置210自身で検出している。そうすると、走行部10の移動特性によれば、速度ゼロから前進するためのプラスの加速度から停止(速度ゼロ)に至るマイナスの加速度として慣性計測装置210により検出されることになり、速度の時間変化としては山型のピークを有する形状となることが予測される。
【0058】
一方、
図12に示す関数f(t)には、速度の変化が単調増加する区間OA及び区間CDと、ピークを有する山型の区間ABCとが見られる。区間ABCでは、ピークを示す点Bに向けて速度が上昇する区間ABがプラスの加速、区間BCがマイナスの加速(減速)している。そうすると、関数f(t)の区間ABCが、慣性計測装置210の実質的な移動を示しているものと考えられ、それ以外の区間OA及び区間CDでは、慣性計測装置210は移動していないものと考えられる。
【0059】
一般に、慣性計測装置210により検出された加速度から速度の時間変化、移動量へと順次積分して得られた結果には、慣性計測装置210に特有のドリフトにより生じる誤差が累積し、単純には正確な移動量を算出することができないことが知られている。そうすると、前述の関数f(t)において、区間OA、区間CD及び区間OA及び区間CDを結ぶ線分ACよりも下の領域は、慣性計測装置210に特有のドリフトにより生じた累積誤差であると考えられる。
【0060】
即ち、関数f(t)において、線分ACよりも上の点ABCで囲まれる領域R1の面積が、慣性計測装置210が実際に移動した距離に相当し、関数f(t)の区間OA、線分AC、区間CDよりも下の領域R2が、ドリフトにより生じた累積誤差であると考えられる。したがって、関数f(t)上の点A及び点Cは、本来速度ゼロであり、時間軸上にあるべき点であることを考慮すれば、誤差を示す区間OA及び区間CDを結ぶ線分ACも時間軸上にあるべきと考えられる。
【0061】
そこで、移動点検出部222Cでは、関数f(t)から点A及び点Cを検出するための処理を実行する。即ち、移動点検出部222Cでは、速度算出部222Bで算出された速度の時間変化から慣性計測装置210が実質的に移動を開始した位置及び移動を停止した位置を検出する。以下、検出された点Aを移動開始点A、点Cを移動停止点Cという。
【0062】
移動点検出部222Cにおける処理は、例えば、関数f(t)を時間軸に沿って、例えば、慣性計測装置210のサンプリングレートで走査し、各時刻における速度の変化率に基づいて移動開始点A、移動停止点Cを検出することができる。
ここで、ある時刻における速度の変化率をHt、一つ前の時刻における速度の変化率をHt-1として、関数f(t)から移動開始点A及び移動停止点Cを検出するための処理の一例について説明する。
【0063】
図12に示す関数f(t)において、区間OA、区間CDは、前述のように、誤差が累積する区間である。したがって、関数f(t)における区間OA、区間CDでは、速度が単調に増加するものと仮定できる。また、区間ABは加速、区間BCは減速の加速度が検出された区間である。したがって、区間ABは、速度が単調に増加し、区間BCでは、速度が単調に減少するものと仮定できる。つまり、区間OA、AB、CDでは、速度の変化率が正値、区間BCでは、速度の変化率が負値となって算出されることが想定される。
そこで、関数f(t)のある時刻における変化率Ht及びこれに連続する1つ前の時刻における変化率Ht-1の符号に基づいて以下の判定処理を繰り返すことで、移動開始点A及び移動停止点Cを関数f(t)から検出する。
【0064】
変化率Ht及び変化率Ht-1の符号がともに正値である場合には、変化率Htから変化率Ht-1を減じて変化率の差を算出する。次に、算出された変化率の差をあらかじめ設定された閾値と比較し、閾値よりも大きいときには、例えば、1つ前の時刻が移動開始点Aであると判定し、閾値以下のときには移動開始点Aではないとして判定する。
【0065】
また、ある時刻の変化率Htが負値、1つ前の時刻の変化率Ht-1の符号が正値である場合には、例えば、1つ前の時刻を点Bとして判定する。
【0066】
また、ある時刻の変化率Htが負値、1つ前の時刻の変化率Ht-1の符号が負値である場合には、変化率Ht及び変化率Ht-1の絶対値をとり、変化率Htから変化率Ht-1を減じて変化率の差を算出する。次に、算出された変化率の差をあらかじめ設定された閾値と比較し、閾値よりも大きいときには、例えば、1つ前の時刻を共通点(移動停止点C及び移動開始点A)であると判定し、閾値以下のときには、移動停止点Cではないとして判定する。当該判定後走査を継続する。ここでいう共通点とは、
図13(b)に示すように、関数f(t)において上向きに突出する三角形ABCに連続し、下向きに突出する三角形ABCの境界を示す点である。ここで、上向きに突出する三角形ABCは、前述のように前進を示し、下向きに突出する三角形ABCは、走行部10等の滑りなどにより生じる後進を示している。なお、共通点であると判定された場合には、1つ前の時刻は移動停止点C及び移動開始点Aであることが移動情報に記憶される。
【0067】
また、ある時刻の変化率Htが正値、一つ前の時刻の変化率Ht-1の符号が負値である場合には、移動停止点Cとして判定する。
そして前記処理により判定された移動開始点A、移動停止点C及び点Bは、移動情報の該当する時刻に紐付けして記録される。
なお、関数f(t)を走査するときの時間間隔は、前述のサンプリングレートに限定されず、サンプリングレートの2倍、3倍等、所望の精度が得られるように適宜変更しても良い。
【0068】
補正線設定部222Dは、移動点検出部222Cにおいて検出された移動開始点A及び移動停止点Cを通る直線を設定する。移動開始点A及び移動停止点Cの2点を通る直線は、図中点線で示すように、関数V=αt+β(式4)として定義することができる。以下、(式4)で表される直線を補正線という。α,βは、移動開始点A及び移動停止点Cに基づいて設定される定数である。補正線設定部222Dおいて設定された直線は、前述の累積誤差領域R2と、移動領域R1とを区画する誤差域境界線といえる。
【0069】
前述の定数α,βは、例えば、次のように算出できる。αは、移動停止点Cにおける速度から移動開始点Aにおける速度を減じて得た速度差を、移動停止点Cにおける時刻から移動開始点Aにおける時刻を減じて得た時間差で除すことで得られる。また、βは、算出されたαを(式4)に設定し、(式4)のv,tに、例えば、移動開始点Aにおける速度vaと、時刻taを設定することで得られる。
【0070】
誤差補正部222Eは、(式3)から補正線設定部222Dにより得られた(式4)を減じることにより、(式3)をV=g(t)(式5)へと変換し、(式3)に含まれる累積誤差を除去する。これにより、関数f(t)上の点A,B,Cは、点A’,点B’,点C’へと移動する。
【0071】
移動量算出部222Fは、誤差補正部222Eの処理により移動後の点A’B’C’を頂点とする三角形A’B’C’の面積を算出する。移動量算出部222Fの具体的な処理としては、時間軸上に移動した点A’から点C’までの時間について(式5)を積分することで三角形A’B’C’の面積を算出する。算出された面積は、走行部10が1回の前進、停止動作をしたときの移動量である。
【0072】
実際の測定時には、走行部10が前進、停止を繰り返しながら管5内を進行するため、
図13(a)に示すように、加速度Ayを積分して得られた速度の時間変化を示す関数f(t)には、前述の三角形ABCに相当する領域が複数個間欠的に形成される。
図13(a)では、説明の便宜上、走行部10が管5に対してスリップすることなく、同じ速度で移動しているときを想定し、三角形領域を同じ大きさで示してある。また、走行部10が上り勾配を移動する場合などでは、例えば、走行部10が停止したときに、管5に対してスリップして後進することも考えられる。この場合、
図13(b)の時刻k1-k2で示すように、速度の時間変化に負の速度が生じる。この場合には、移動距離の算出時には減算される。
なお、前述の三角形ABCの大きさや形状は、走行部10の移動速度に応じて変化する。
【0073】
したがって、実際の測定には、移動点検出部222Cにより各三角形ABCに相当する領域の移動開始点A及び移動停止点Cを関数f(t)から検出し、移動開始点A及び移動停止点Cを検出する毎に、補正線設定部222Dにより補正線を設定し、誤差補正部222Eにより補正線を用いて三角形ABCを三角形A’B’C’へと移動させ、移動後の三角形A’B’C’の面積を移動量算出部222Fにおいて算出する工程を繰り返し、算出された移動量を加算することで、慣性計測装置210が管5を移動した総移動量を算出することができる。
【0074】
曲管推定手段224は、管形状設定部224Aと、方向ベクトル算出部224Bと、挟角算出部224Cと、曲管形状判定部224Dとを備え、検査対象の管5を構成する曲管部7の曲がり状態を推定する。一般に、曲管部7の前後(両端)には、直管部6が接続されるていることに着目し、曲管推定手段224では、曲管部7の前後に接続される2本の直管部6;6の延長方向に基づいて曲管部7の曲がり状態を推定する。
【0075】
図14は、曲管部7と直管部6とを慣性計測装置210が実際に通過したときの角速度の時間変化を示す図である。
図14に示すように、慣性計測装置210が、曲管部7を通過する場合、直管部6を通過しているときの角速度の変化に比べて、角速度が急激に変化する。そこで、この角速度の変化に着目し、検出された角速度の時間変化から曲管部7を判定することができると考えた。例えば、
図14に示す角速度の変化では、領域Q1,Q3が角速度の変化からそれぞれ曲管部7を通過している領域であり、その間の領域Q2が直管部6を通過している領域であると推定できる。
【0076】
そこで、管形状設定部224Aでは、曲管部7の曲がり状態を推定するための前処理として、検出された角速度の時間変化に基づいて、慣性計測装置210が通過した各時刻における管5の形状が直管部6であるか曲管部7であるかを設定する。本実施形態では、走行部10の進行方向であるy軸は、管5に対する走行部10のねじれを表すため、x軸、z軸周りの角速度ωx、角速度ωzの両方、又は、いずれか一方の時間変化に基づいて、直管部6であるか曲管部7であるかを設定する。
【0077】
管形状設定部224Aにおける直管部6と曲管部7を検出する処理としては、
例えば、角速度ωx,角速度ωzのそれぞれについて、微小時間で時間積分し、その微小時間における変化量に対してあらかじめ設定した閾値と比較し、閾値よりも小さい場合には直管部6、閾値以上のときには曲管部7等として判定することで、当該微小時間の範囲が直管部6であるか曲管部7であるかを設定することができる。管形状設定部224Aにおいて設定された直管部6、或いは曲管部7等の情報は、移動情報に紐付けして記録される。
【0078】
図15は、慣性計測装置210の姿勢角を用いた曲管部7の種類を推定する模式図である。方向ベクトル算出部224Bでは、曲管部7に接続された2つの直管部6;6が3次元空間ににおいて延長する方向を特定する3次元ベクトルVecを算出する。ここでいう3次元ベクトルVecとは、前述のグローバル座標において直管部6が延長する方向を意味する。
【0079】
直管部6の3次元ベクトルVecには、直管部6の中間点Mにおいて定義される。中間点Mとは、直管部6の長さの中点である。この直管部6の3次元ベクトルVecは、当該位置における慣性計測装置210の姿勢角から求められる。本実施形態では、前述のように、慣性計測装置210のセンサ座標のx軸を管5の延長方向に設定していることから、初期位置P1から各直管部6のそれぞれの中間点に至るx軸の姿勢角の変化の履歴から直管部6の3次元ベクトルVecを設定することができる。2つの直管部6;6の中間点におけるx軸の姿勢角の3次元ベクトルのなす角θx,θy,θzを算出する。
【0080】
挟角算出部224Cでは、設定された2本の直管部6;6の3次元ベクトルのなす角γを算出する。挟角算出部224Cでは、一方の直管部6と、他方の直管部6との内積を演算することで算出することができる。
【0081】
曲管形状判定部224Dでは、挟角算出部224Cにおいて算出された直管部6;6のなす角γと、規格化されている曲管の角度30°,45°,90°との差をそれぞれ算出し、差が最も小さい角度の曲管であると判定する。
【0082】
即ち、曲管推定手段224における処理では、下水管の管路に使用されている曲管が前述したように30度、45度、90度の3種類に規格で定められているため、厳密な演算をすることなく、曲管部7の両端に接続された直管部6;6の3次元ベクトルVecのなす角γに最も近い角度の曲管を選択することで曲管部7の形状を特定することができる。曲管推定手段224において特定された曲管の角度は、移動情報に紐付けして記憶される。
【0083】
以上説明したように、本実施形態によれば、管路を検査する場合に、前述の走行部10のように、蠕動運動を模した前進、停止を交互に繰り返しながら管内を移動する移動特性を有する自走式ロボットを用い、その自走式ロボットに慣性計測装置210を搭載して管内を移動させ、移動時に慣性計測装置210に作用する加速度や角速度の履歴を取得し、加速度に基づいて算出される慣性計測装置210の移動量の算出を、管路形状処理装置220により前述の移動特性に基づいて補正処理を実行することにより、センサの数を増やすことなく、慣性計測装置210から得られる情報のみで、管路の長さを高精度に計測することができる。また、加速度や角速度の履歴に基づいて、慣性計測装置210の姿勢の変化を処理することにより、慣性計測装置210の移動軌跡を取得でき、慣性計測装置210が移動した管路の形状を推定することができる。
【0084】
[基礎実験]
前述の手法の有効性を確認するために基礎実験を行った。以下、基礎実験の内容について説明する。
図16は、実験環境を示す図である。同図に示すように、直線状に延長するガイドレールに、当該ガイドレール上を移動可能に設けられたスライダに慣性計測装置210を取り付けた。慣性計測装置210は、USB接続により管路形状処理装置220として機能するコンピュータに接続され、検出した加速度及び角速度のデータをコンピュータに転送する。慣性計測装置210は、加速度や角速度を検出するサンプリング時間が0.005s、加速度レンジ±2G/±6G、角速度レンジ±200°/sのものを用いた。また、慣性計測装置210は、加速度の計測方向の一つであるy軸正方向が、スライダの移動方向と平行になるようにスライダに取り付けた。
【0085】
[実験方法]
ガイドレールにおけるスライダの最大移動量の600mmを直線的に移動させた。この移動は、停止状態から加減速させて停止させて、慣性計測装置210により加速度及び角速度を取得する。
【0086】
[実験結果]
図17(a)は、慣性計測装置210により計測された加速度にローパスフィルタを適用したグラフ、
図17(b)は、
図17(a)に示す加速度を1階積分して算出された速度の時間変化を示すグラフである。
図17(c)は、本実施形態に係る手法を適用した速度の時間変化を示すグラフである。
図17(b)に示すように、慣性計測装置210から入力された加速度から直接算出した速度には、計測終了時でも速度が継続的に増加する累積誤差が確認された。
【0087】
図17(b),(c)に示すグラフ上の点Aと点Cは、前述の蠕動運動の走行的特性から速度ゼロとして考えることができる。これによりグラフは、点Aと点Cによって区切られる上部の面積と点Aと点Cを結び、得られる直線と時間軸で囲まれた下部の面積に分けることができる。本グラフの三角形ABCの面積がIMUの移動量であり、三角形ODEの面積が累積誤差であると判断できる。
したがって、
図17(b)のグラフで示される関数f(t)から、2点AC間を通る(式6)で示す直線の方程式を引くことで
図17(c)で示す関数g(t)が得られる。
【数3】
ここに、t
a′,v
a′は、点Aおける時間と速度、t
c′,v
c′は、点Cにおける時間と速度である。また、切片をnとして示す。この式(6)は、前述の(式4)に対応する。
【0088】
図18(a)は、補正を適用した場合の推定移動距離及び補正を適用しない場合の推定移動距離のグラフを示し、
図18(b)は、実際の移動距離と推定移動距離とを比較した表である。
図18(a),(b)に示すように、補正がない場合、累積誤差によって実際の移動距離より約1.5倍大きな値が算出されている。一方、補正を適用した場合、停止時や運動時の挙動が正確に表現されている。また、移動量の誤差も約0.6%で推定され、管の距離を計測するために十分な精度があると言え、本手法による有効性が確認された。
【0089】
次に、管路が3次元管路形状の場合の計測実験を行った。
[実験環境]
図19は、実験環境である3次元の管路形状を示す斜視図及び各方向からの平面図である。
図19に示す管路は、全長3.614m、曲管には、規格化された30度管,45度管,90度管(曲率半径180mm)を用いた。
【0090】
[実験方法]
本実験では、慣性計測装置210の固定具の一端にワイヤを取り付け、そのワイヤを手動で引っ張り慣性計測装置210を移動させた。その際、y軸正方向に慣性計測装置210を移動させる。ここでいうy軸とは、管5の延長方向であり、正方向とは、慣性計測装置210の進行方向を意味する。
また、蠕動運動のように速度がゼロとなる点を作り出すように移動させた。即ち、慣性計測装置210の前進、停止の動作を間欠的に繰り返しながら管路を移動させた。本実験では、3次元形状の管路内を移動させるため、慣性計測装置210で検出される加速度には、重力Gの影響を受けることから、前述の重力Gの成分の検出された加速度から除く補正を行った。
【0091】
[実験結果]
図20(a)乃至(c)及び
図21に実験結果を示す。
図20(a)は、実験より得えられた加速度を1階積分して算出された速度の時間変化を示すグラフである。前述の基礎実験の実験結果と同様に基礎特性実験結果より図中のグレーで示す範囲が、累積誤差の領域R2、それ以外の範囲がセンサの移動量を表す領域R1であると考える。
【0092】
図20(b)に前述の補正処理を適用し、速度の時間変化を補正したグラフである。
図20(c)に補正を適用した場合と適用しない場合の推定移動距離のグラフである。
図20(b)において、破線は、補正前の速度の時間変化、実線は補正後の時間変化を示している。また、
図20(c)において、破線は、
図20(b)の破線で示す(補正をしなかったときの)速度の時間変化に基づいて算出した走行距離(移動距離)、実線は、
図20(b)の実線で示す(補正をしたときの)速度の時間変化に基づいて算出したグラフである。
【0093】
図21は、補正の有無による走行距離への影響を纏めた表である。
図21に示すように、補正を適用しない場合、約229%の誤差が発生しているが、本実施形態で説明した補正を適用することにより、約0.1%の誤差にとなった。
【符号の説明】
【0094】
1 自走式ロボット、5 管、5s 管内壁、6 直管部、7 曲管部、
10 走行部、20 伸縮ユニット、60 バルブユニット、
70 コンプレッサー、80 コントローラー、
90 先頭部、92 光源、94 カメラ、96 検査処理手段、
100 検査装置、
200 管路形状計測装置、210 慣性計測装置、220 管路形状処理装置、
222 距離推定手段、222A 重力補正部、222B 速度算出部、
222C 移動点検出部、222D 補正線設定部、222E 誤差補正部、
222F 移動量算出部、
224 曲管推定手段、224A 管形状設定部、
224B 曲管形状判定部、224C 挟角算出部。