(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】合成物収集制御装置および合成物収集制御プログラム
(51)【国際特許分類】
C07B 61/00 20060101AFI20240625BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C07B61/00 C
B01J19/00 321
(21)【出願番号】P 2020120987
(22)【出願日】2020-07-14
【審査請求日】2023-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】517087417
【氏名又は名称】株式会社DFC
(74)【代理人】
【識別番号】100169926
【氏名又は名称】中西 康文
(72)【発明者】
【氏名】松本 一希
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-042713(JP,A)
【文献】特開2020-11948(JP,A)
【文献】特開2011-162481(JP,A)
【文献】特表2019-509885(JP,A)
【文献】国際公開第2020/66309(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の原料を流す微細な第1流路と、第2の原料を流す微細な第2流路と、前記第1の原料と前記第2の原料とを混合および反応させ合成物を生成する反応装置と、前記合成物を収集する収集装置と、前記反応装置から前記収集装置への第3流路と、を備えたフローケミストリーシステムにおける合成物収集制御装置であって、
前記合成物の収集区間を決定する収集区間決定部と、
前記収集区間に基づいて前記収集装置を制御する収集制御部と、を備え、
前記収集区間決定部は、前記第3流路中において理論的に定まる前記合成物が存在する区間である理論的収集区間の始点よりも所定量後ろに変位させた点を前記収集区間の始点とする合成物収集制御装置。
【請求項2】
前記収集区間決定部は、前記理論的収集区間の終点を前記所定量後ろに変位させた点よりも前に変位させた点を、前記収集区間の終点とする請求項1記載の合成物収集制御装置。
【請求項3】
前記収集区間決定部は、前記理論的収集区間の中央と、前記収集区間の中央と、が一致するように、前記収集区間を決定する請求項2記載の合成物収集制御装置。
【請求項4】
前記収集区間決定部は、前記収集区間の直前に第1予備収集区間と、前記収集区間の直後に前記第1予備収集区間よりも長い第2予備収集区間とを、決定し、
前記収集制御部は、前記収集区間と前記第1予備収集区間と前記第2予備収集区間とに基づいて前記収集装置を制御する請求項2または3記載の合成物収集制御装置。
【請求項5】
前記収集装置は、前記合成物を収集単位量毎に複数の収集容器に収集するように構成され、
前記収集区間と前記第1予備収集区間と前記第2予備収集区間との最大公約数を前記収集単位量として決定する収集単位量決定部を備え、
前記収集制御部は、前記収集単位量決定部によって決定された収集単位量を前記収集装置に指示する請求項4記載の合成物収集制御装置。
【請求項6】
第1の原料を流す微細な第1流路と、第2の原料を流す微細な第2流路と、前記第1の原料と前記第2の原料とを混合および反応させ合成物を生成する反応装置と、前記合成物を収集する収集装置と、前記反応装置から前記収集装置への第3流路と、を備えたフローケミストリーシステムを作動させるための機能をコンピュータに実現させる合成物収集制御プログラムであって、
前記合成物の収集区間を決定する収集区間決定機能と、
前記収集区間に基づいて前記収集装置を制御する収集制御機能と、を備え、
前記収集区間決定機能は、前記第3流路中において理論的に定まる前記合成物が存在する区間である理論的収集区間の始点よりも所定量後ろに変位させた点を前記収集区間の始点とする合成物収集制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローケミストリーにおける合成物の収集技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機合成の手法としてはバッチ方式と呼ばれる手法が主に用いられてきた。バッチ方式では、反応させる原料を比較的大きな容器内で反応させるため、多くの原料を必要とするため、コストの増大を招いていた。また、原料の混合の濃度ムラや得られる合成物に不純物が混じりやすいという問題点も存在した。
【0003】
これらの課題を解決するために、近年、有機合成の手法としてフローケミストリー(フロー合成)と呼ばれる手法が注目されている。フローケミストリーとは、微細管中に原料を流しつつ、混合、反応させるものである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1に開示されたようなフローケミストリーシステムを用いることにより、バッチ方式の課題をほぼ解決することはできる。しかしながら、フローケミストリーにおいても得られる合成物に不純物が混じるおそれがある。
【0006】
特許文献1に開示されたフローケミストリーでは、原料と溶媒等との混合液を用いているが、原料と溶媒とを混合するのではなく、流路中において原料が溶媒に挟まれた状態となっているフローケミストリーも存在する。そのようなフローケミストリーでは、原料どうしの全体が反応するように、原料の送出が制御されている。そのため、理論的には流路中で合成物が存在する部分を特定することができる。したがって、流路中を流れる物質のうち、その特定された部分を抽出すれば、合成物のみ、もしくは、高濃度の(不純物が少ない)合成物を得ることができる。
【0007】
しかしながら、送液における誤差を完全に排除することは困難である。このような誤差が存在する場合には、原料の一部が反応せずに残留し、不純物となる。また、原料が流路中を移動する間に、一部が溶媒に混じる可能性がある。この場合にも、上述の特定された部分を抽出しても不純物を含んでいる可能性がある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、フローケミストリーシステムにおいて、不純物の少ない合成物を取得する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る、第1の原料を流す微細な第1流路と、第2の原料を流す微細な第2流路と、前記第1の原料と前記第2の原料とを混合および反応させ合成物を生成する反応装置と、前記合成物を収集する収集装置と、前記反応装置から前記収集装置への第3流路と、を備えたフローケミストリーシステムにおける合成物収集制御装置の好適な実施形態の一つでは、前記合成物の収集区間を決定する収集区間決定部と、前記収集区間に基づいて前記収集装置を制御する収集制御部と、を備え、前記収集区間決定部は、前記第3流路中において理論的に定まる前記合成物が存在する区間である理論的収集区間の始点よりも所定量後ろに変位させた点を前記収集区間の始点とする。
【0010】
一方の原料の合流タイミングが理論的な合流時期よりも遅れた場合には、理論的収集区間の始点からその遅れ分の間には合成物は含まれておらず、他方の原料のみが含まれていると考えられる。そのため、この合成物収集制御装置では、合成物を収集する収集区間の始点を理論的収集区間の始点よりも後ろ側に変位させている。これにより、理論的収集区間の前端付近の合成物濃度が低いと考えられる部分の液体を収集しないようにすることができる。
【0011】
本発明に係る合成物収集制御装置の好適な実施形態の一つでは、前記収集区間決定部は、前記理論的収集区間の終点を前記所定量後ろに変位させた点よりも前に変位させた点を、前記収集区間の終点とする。
【0012】
この構成では、一方の原料の合流タイミングが理論的な合流時期よりも遅れた場合に、理論的収集区間の後端付近の合成物濃度が低いと考えられる部分の液体を収集しないようにすることができる。
【0013】
本発明に係る合成物収集制御装置の好適な実施形態の一つでは、前記収集区間決定部は、前記理論的収集区間の中央と、前記収集区間の中央と、が一致するように、前記収集区間を決定する。
【0014】
原料の合流のタイミングがずれたり、原料が溶媒に流れ出たりした場合には、理論的収集区間の前端および後端付近には不純物が含まれていると考えられる。すなわち、理論的収集区間の中央付近の合成物の濃度が最も高いと考えられる。そのため、この構成では、収集区間の中央と理論的収集区間の中央とを一致させることにより、不純物の少ない合成物を収集することができる。
【0015】
本発明に係る合成物収集制御装置の好適な実施形態の一つでは、前記収集区間決定部は、前記収集区間の直前に第1予備収集区間と、前記収集区間の直後に前記第1予備収集区間よりも長い第2予備収集区間とを、決定し、前記収集制御部は、前記収集区間と前記第1予備収集区間と前記第2予備収集区間とに基づいて前記収集装置を制御する。
【0016】
この構成では、第1予備収集区間と第2予備収集区間とを設定し、これらの区間の液体も収集するよう制御している。これにより、上述したように決定された収集区間の直前や直後に存在する、反応していない原料をも収集することができる。なお、原料の溶媒への流れ出しは、送液方向の下流側よりも上流側の方が大きいと考えられるため、第1予備収集区間よりも第2予備収集区間を長く設定している。
【0017】
本発明に係る合成物収集制御装置の好適な実施形態の一つでは、前記収集装置は、前記合成物を収集単位量毎に複数の収集容器に収集するように構成され、前記収集区間と前記第1予備収集区間と前記第2予備収集区間との最大公約数を前記収集単位量として決定する収集単位量決定部を備え、前記収集制御部は、前記収集単位量決定部によって決定された収集単位量を前記収集装置に指示する。
【0018】
この構成では、上述のように収集単位量を決定することにより、第1予備収集区間または第2予備収集区間にある液体と収集区間にある液体とが同じ収集容器に収集されないようにすることができる。そのため、高濃度の合成物と、低濃度の合成物と、を区別して収集することができる。
【0019】
また、本発明は、第1の原料を流す微細な第1流路と、第2の原料を流す微細な第2流路と、前記第1の原料と前記第2の原料とを混合および反応させ合成物を生成する反応装置と、前記合成物を収集する収集装置と、前記反応装置から前記収集装置への第3流路と、を備えたフローケミストリーシステムを作動させるための機能をコンピュータに実現させる合成物収集制御プログラムをも権利範囲としており、そのような合成物収集制御プログラムの好適な実施形態の一つでは、前記合成物の収集区間を決定する収集区間決定機能と、前記収集区間に基づいて前記収集装置を制御する収集制御機能と、を備え、前記収集区間決定機能は、前記第3流路中において理論的に定まる前記合成物が存在する区間である理論的収集区間の始点よりも所定量後ろに変位させた点を前記収集区間の始点とする。
【0020】
当然ながら、このような合成物収集制御プログラムも、上述した合成物収集制御装置と同様の付加的な特徴構成を付加することができ、同様の作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】フローケミストリーシステムの概略図である。
【
図2】フローケミストリーシステムにおけるリキッドハンドラの斜視図である。
【
図3】フローケミストリーシステムにおける収集装置の斜視図である。
【
図4】フローケミストリーシステムの送液処理の流れを表すフローチャートである。
【
図5】収集区間の決定方法を模式的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に図面を用いて、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態におけるフローケミストリーシステムの概略図である。フローケミストリーシステムは、3系統の原料送出装置1a,1b,1cと、2つのリアクタ2a,2b(本発明における反応装置の例)と、収集装置3と、制御装置4(本発明における合成物収集制御装置の例)と、を備えている。したがって、本実施形態におけるフローケミストリーシステムでは、原料送出装置1a,1bの各々から送出された液体の原料から合成された合成物を、さらに原料送出装置1cから送出された原料(本発明における第1の原料に相当)と合成した合成物を生成することができる。すなわち、リアクタ2bでは、リアクタ2aにおいて生成された合成物が一方の原料(本発明における第2の原料に相当)となる。
【0023】
なお、原料送出装置1a,1b,1cを特に区別する必要がない場合には、原料送出装置1と表記し、各々の原料送出装置1の構成部材も同様である。また、リアクタ2a,2bを特に区別する必要がない場合には、リアクタ2と表記し、各々のリアクタ2の構成部材も同様である。また、各々の原料送出装置1a,1b,1cの流路188等を区別する際にはa,b,cの符号を付しているが、それらを区別する必要がない場合には流路188等と表記する。
【0024】
原料送出装置1は、原料容器Aに入れられた液体の原料をリアクタ2に向けて送出する装置であり、リキッドハンドラ11、シリンジポンプ12、サンプルループ13、プランジャポンプ14、インジェクションバルブ15、原料側4方バルブ16、シリンジポンプ側4方バルブ17、流路181~188を備えている。また、流路181~188を区別する必要がない場合には、これらを流路18と表記する。
【0025】
流路18は、原料をリアクタ2に向けて送出するためのものであり、例えば内径1mm以下の微細管である。流路181は、リキッドハンドラ11と原料側4方バルブ16とを結んでいる。流路182は、原料側4方バルブ16とインジェクションバルブ15とを結んでいる。流路183は、インジェクションバルブ15とシリンジポンプ側4方バルブ17とを結んでいる。流路184は、シリンジポンプ側4方バルブ17とシリンジポンプ12とを結んでいる。流路185,176は、インジェクションバルブ15とサンプルループ13とを結んでいる。流路187は、プランジャポンプ14とインジェクションバルブ15とを結んでいる。流路188は、インジェクションバルブ15とリアクタ2とを結んでいる。本実施形態では、流路188cが本発明の第2流路に相当する。
【0026】
リキッドハンドラ11は、シリンジポンプ12と協働して、原料を保持する原料容器Aから原料を吸引するためのものであり、
図2に示すように、アーム111,ニードル支持部112,ニードル113,排出ポート114を備えており、複数の原料容器Aを2次元状(xy方向)に並べて保持することができる。ニードル113は流路181と液体が通流可能な状態で接続されている。
【0027】
アーム111は、y軸方向に平行移動可能に本体に支持されている。ニードル支持部112は、x軸方向に平行移動可能にアーム111に支持されている。ニードル113は、微細管であり、z方向に移動可能にニードル支持部112に支持されている。このような構成とすることによって、アーム111およびニードル支持部112をそれぞれy軸方向、x軸方向に移動させ、ニードル113をxy平面中で平行移動させることができ、自動的に使用する原料を切り替えることができる。なお、ニードル113をxy平面中で平行移動させる際には、ニードル113を上方(図中z軸正方向)に移動させておく。
【0028】
排出ポート114は、流路181やニードル113を洗浄する洗浄液としての溶媒を排出するために使用される。また、排出ポート114には、図示しないが、洗浄液としての溶媒を貯留する液体貯留部と、その液体貯留部から溢れた液体が排出される排出部が設けられている。これにより、流路181やニードル113の内部を洗浄した後に洗浄液を排出部から排出しつつ、ニードル113の内部を液体貯留部に貯留される洗浄液により洗浄することができる。また、洗浄後においては、汚れのない洗浄液としての溶媒を液体貯留部に貯留することができる。その溶媒は、後述のように、シリンジポンプ12により原料をサンプルループ13まで吸引する際に使用することができる。
【0029】
このようなリキッドハンドラ11を使用することにより、異なる種類の原料や、同じ原料でも濃度の異なるものなどをセットしておけば、自動的に異なる条件の合成を効率的に行うことができる。
【0030】
シリンジポンプ12は、ニードル113、流路181~186およびサンプルループ13を介して、原料を吸い出してサンプルループ13内に導入するために使用される。このとき、流路183と流路185、及び、流路183と流路186とが接続されるように、インジェクションバルブ15が制御される。なお、本実施形態では、原料を吸い出す際に、予め溶媒が充填されたニードル113の先端が原料より上にある状態でシリンジポンプ12に吸引動作をさせ、若干の空気を吸引する。その後、ニードル113の先端を原料中に降下させ、シリンジポンプ12の吸引動作によって原料を吸引する。そして、ニードル113の先端が原料より上方となるようにニードル113を上昇させ、再度シリンジポンプ12に吸引動作を行わせ、空気を吸引する。その後、ニードル113の先端を排出ポート114の液体貯留部に貯留された溶媒中に降下させ、シリンジポンプ12の吸引動作によって溶媒を吸引する。このように制御することによって、原料の前後に薄い空気層を形成する状態で原料を吸引することができる。
【0031】
サンプルループ13は、原料を一時的に滞留させるための流路であり、原料は、上述の如く、原料の前後に薄い空気層を形成する状態で、シリンジポンプ12のさらなる吸引により、ニードル113、流路181,182,185を介してサンプルループ13に導入される。
【0032】
また、後述するように、シリンジポンプ12は、シリンジポンプ側4方バルブ17に接続されている溶媒の流路(図示せず)から、シリンジポンプ12内に溶媒を吸引し、その取り込んだ溶媒を流路181~186、サンプルループ13およびニードル113に送出することにより、それらを洗浄する際にも使用される。
【0033】
プランジャポンプ14は、流路187、流路186、サンプルループ13、流路185、流路188を介してリアクタ2に向けて原料を送出するためのものである。このとき、流路187と流路186とが接続し、流路185と流路188とが接続するようにインジェクションバルブ15が制御される。なお、通常は、流路187と流路188とが接続するようにインジェクションバルブ15が制御されており、溶媒のみが送液されている。
【0034】
本実施形態におけるリアクタ2は、略Y字状の合流路21と、反応路22と、流出路23と、を備えている。合流路21は、2つの流路(例えば、流路188aと流路188b)から流れてくる原料を合流させ、混合する機能を有している。合流路21において混合された2つの原料は、反応路22を流れながら反応し、合成物が生成される。合成物は流出路23を介して流出する。リアクタ2aの流出路23aはリアクタ2bの合流路21bに接続され、リアクタ2bの流出路23bは、後述する自動背圧弁5を介して収集装置3に接続されている。したがって、本実施形態では、流出路23aが本発明の第1流路に相当し、流出路23bが本発明の第3流路に相当する。
【0035】
自動背圧弁5(ABPR)は、流路18とリアクタ2の内部の圧力を自動で調節するためのものである。自動背圧弁5は、後述する制御装置4によって制御されており、自動背圧弁5を任意の圧力に設定することにより、リアクタ2の内部による合成反応を設定圧力に加圧した状態で行うことが可能となる。本実施形態では、リアクタ2bの流出路23bに自動背圧弁5が設けられている。なお、流出路23bの収集装置3側は大気解放されているので、自動背圧弁5よりも収集装置3側の流出路23b内は大気圧となっている。
【0036】
収集装置3は、リアクタ2によって生成された合成物を収集するためのものである。
図3に示すように、収集装置3は、アーム31,滴下口32を備えている。収集される液体(合成物等)は、滴下口32から収集容器Bへと滴下する。また、この収集装置3は、複数の収集容器Bを2次元的に並べて保持することができる。本実施形態では、収集単位量の液体を各々の収集容器Bに収集するように構成されている。滴下口32は流出路23bと液体が通流可能な状態で接続されている。
【0037】
アーム31は、y軸方向に平行移動可能に本体に支持されている。滴下口32は、x軸方向に平行移動可能にアーム31に支持されている。このような構成とすることによって、滴下口32をxy平面中で平行移動させることができ、自動的に収集に使用する収集容器Bを切り替えことができる。
【0038】
制御装置4は、フローケミストリーシステムの種々の動作を制御するためのものであり、送液パラメータ算出部41、送液制御部42、収集区間決定部43、収集単位量決定部44、収集制御部45を備えている。本実施形態における制御装置4は汎用コンピュータによって構成されている。本実施形態では、各機能部はハードウェアとソフトウェアとが協働することによって構成されているが、制御装置4をハードウェアのみで構成しても構わない。
【0039】
送液パラメータ算出部41は、各々の原料送出装置1の原料の送液速度および送出タイミング(以下、送液パラメータと総称する)を算出する機能部である。各々の原料の送液パラメータは、原料の流路の内径や長さ、原料の濃度、原料の反応割合等の物理量によって算出される。例えば、原料送出装置1a,1bを流れる原料をそれぞれ原料a,bとすると、リアクタ2a内で原料aの全量と原料bの全量とが反応するように、原料の濃度、原料の反応割合等に基づいて各々の原料の送液速度が決定される。また、原料aの先頭と原料bの先頭とが同時にリアクタ2aに到達するように、原料の流路の内径や長さ、送液速度等に基づいて各々の原料の送出タイミングが決定される。
【0040】
送液制御部42は、送液パラメータに基づいて原料送出装置1の各部を制御し、原料をリアクタ2に送出する機能部である。
【0041】
収集区間決定部43は、リアクタ2(本実施形態ではリアクタ2b)によって生成された合成物を収集する区間を決定する機能部である。
【0042】
収集単位量決定部44は、収集装置3において各々の収集容器Bに収集する単位量(収集単位量)を決定する機能部である。
【0043】
収集制御部45は、収集区間決定部43によって決定された収集区間と、収集単位量決定部44によって決定された収集単位量とに基づいて収集装置3を制御する機能部である。
【0044】
以下に
図4のフローチャートを用いて本実施形態におけるフローケミストリーシステムの処理を説明する。なお、以下の処理に先立って、上で例示したような送液パラメータの算出に必要な物理量は予め設定され、それらに基づいて送液パラメータ算出部41が送液パラメータの算出を行っているものとする。また、上述したように、通常時は、プランジャポンプ14から流路186,インジェクションバルブ15を介して流路188に対して一定の速度(算出された送液速度)で溶媒が送り出されている。
【0045】
先ず、送液制御部42は、シリンジポンプ12によって原料を吸い出し、かつ、サンプルループ13内に移動させるために、原料側4方バルブ16,インジェクションバルブ15,シリンジポンプ側4方バルブ17を制御して、リキッドハンドラ11のニードル113からシリンジポンプ12までのサンプルループ13を含む流路181~186を接続する(#01)。この状態で、送液制御部42は、所定量の原料を吸い出すようにシリンジポンプ12を制御する(#02)。このとき、送液制御部42は、原料の前後に若干の空気を吸うようにシリンジポンプ12とリキッドハンドラ11とを制御する。これによって、原料はニードル113を介して吸い上げられ、前後を若干の空気層で挟まれた状態でニードル113及び流路181に移動する。
【0046】
次に、送液制御部42は、ニードル113及び流路181に移動した原料をサンプルループ13内に移動させるために、シリンジポンプ12によりさらなる吸引を行い、原料をニードル113、流路181,182,185を介してサンプルループ13に導入する(#03)。これにより、サンプルループ13内でも、原料の前後の空気層は維持されている。
【0047】
次に、送液制御部42は、サンプルループ13内の原料をリアクタ2に向けて流すために、インジェクションバルブ15を制御して、サンプルループ13を介して、プランジャポンプ14からリアクタ2までの流路187,流路188を接続する(#04)。この状態では、プランジャポンプ14から送り出された溶媒は、流路187,流路186を介してサンプルループ13に流入する。そして、サンプルループ13内に滞留している原料は、流路185を介して流路188に押し出される。これにより、原料はリアクタ2に向けて送出される(#05)。このとき、流路188内の原料は前後両端を空気層で挟まれ、さらに送出方向下流側の空気層の下流側には溶媒があり、送出方向上流側の空気層の上流側にも溶媒がある状態となっている。すなわち、原料は前後を空気層で挟まれ、空気層で挟まれた原料は更に前後を溶媒で挟まれた状態となっている。
【0048】
各々の原料送出装置1a,1b,1cでは、この処理が個別に行われる。原料をサンプルループ13内に滞留させるまでの処理(#01~#03)は、全ての原料送出装置1a,1b,1cで同時に行われても構わないが、サンプルループ13内の原料をリアクタ2に向けて送出する処理(#04~#05)は、算出された送出タイミングで行われる。
【0049】
上述したように、本実施形態におけるフローケミストリーシステムでは、異なる条件での合成を連続的に行うことができるため、条件を変更する前に流路18等を洗浄する必要がある。例えば、流路181やリキッドハンドラ11(特に、ニードル113)を洗浄する際には、送液制御部42は、原料側4方バルブ16とインジェクションバルブ15とシリンジポンプ側4方バルブ17を制御し、シリンジポンプ側4方バルブ17に接続されている溶媒の流路(図示せず)から、シリンジポンプ12までの流路18を接続する。この状態で、送液制御部42はシリンジポンプ12を吸引作動させ、シリンジポンプ12内に溶媒を取り込む。次に、送液制御部42は、原料側4方バルブ16を制御し、シリンジポンプ12からリキッドハンドラ11までの流路18を接続し、シリンジポンプ12を送出作動させる。これにより、溶媒がシリンジポンプ12からリキッドハンドラ11へと流出し、流路18やニードル113内を洗浄することができる。洗浄に使用された溶媒は、ニードル113から排出ポート114へと排出される。なお、この洗浄のタイミングは、次の合成が開始されるまでの任意のタイミングで構わないが、サンプルループ13内の原料をリアクタ2に向けて送出する処理が行われているタイミングに同時に行うと、時間のロスを少なくすることでき、好ましい。
【0050】
サンプルループ13や流路185,186の洗浄する際も、先ず、送液制御部42は、原料側4方バルブ16とインジェクションバルブ15とシリンジポンプ側4方バルブ17を制御し、シリンジポンプ側4方バルブ17に接続されている溶媒の流路(図示せず)から、シリンジポンプ12までの流路18を接続し、シリンジポンプ12を吸引作動させ、シリンジポンプ12内に溶媒を取り込む。次に、送液制御部42は、原料側4方バルブ16とインジェクションバルブ15とを制御し、シリンジポンプ12からサンプルループ13、さらに、リキッドハンドラ11までの流路18を接続し、シリンジポンプ12を送出作動させる。これにより、サンプルループ13の内部を洗浄することができる。この洗浄のタイミングも、次の合成が開始されるまでの任意のタイミングで構わないが、原料全体がサンプルループ13から流路188へと送出された状態で行うと、時間のロスを少なくすることでき、好ましい。
【0051】
次に、収集区間決定部43における収集区間の決定方法について説明する。上述したように、各々の原料は決められた分量だけ送液パラメータに基づいてリアクタ2に送られるため、流出路23に流出した液体のうちのどの部分が所望の合成物であるかは理論的に算出することができる。以下、この理論的に求められた合成物が存在する部分を理論的収集区間と称する。この理論的収集区間は、所定時刻からの経過時間、所定時刻から流出路23b(第3流路)を流れた液体の流量等の物理量として規定することができる。したがって、本発明における区間とは、これらの物理量を指す概念である。以下の説明では、区間は流出路23bを流れた液体の流量に基づいて設定する。そのため、以下の説明における「前」,「後ろ」は流量の「減少」,「増加」を意味している。
【0052】
上述したように、各々の原料の先頭が同時にリアクタ2に到達するように決定された送液パラメータに基づいて、各々の原料の送液が制御されている。具体的には、理論的に、各々の原料がリアクタ2の合流路21において合流する際に、その前端と後端とが揃うように送液が制御されている。しかしながら、様々な誤差によって、各々の原料の前端と後端とがずれるおそれがある。また、各々の原料は前後を溶媒に挟まれた状態で流れている。そのため、原料が溶媒中に流出するおそれもある。上述したように、溶媒と原料との間には空気層を形成しているため、原料が溶媒に流れ出しにくくはなっているが、完全に溶媒への流れ出しを防ぐことは困難である。これらのため、収集装置3において理論的収集区間の液体を収集すると、その区間の前端付近と後端付近では、合成物だけでなく、反応していない原料や溶媒をも収集している可能性がある。そのため、収集区間決定部43は、様々なユーザのニーズに対応できるように、複数の収集区間設定モードを備えている。
【0053】
図5は、この収集区間の決定方法を模式的に表した図である。
図5(a)は、理論的収集区間を表している。ここでは、理論的な合成物の量が1000μlであるとし、理論的収集区間の始点は、液体が所定の時刻からx(μl)流れた点であるとする。この場合、理論的収集区間は[x,x+1000]となる。なお、
図5において、黒塗り部分が理論的収集区間であり、縦線ハッチング部分が収集区間である。
【0054】
第1モードでは、
図5(b)に示すように、収集区間決定部43は、収集区間の始点を理論的収集区間の始点よりも所定量後ろとなるように、収集区間全体を後ろに変位させる。
図5(b)の例では、収集区間決定部43は、収集区間の始点を、液体が所定の時刻からx+100(μl)流れた点に設定している。すなわち、始点の変位量は100μlである。このモードでは、収集区間の終点も始点と同じ量だけ後ろに変位させている。したがって、この例では、収集区間は[x+100,x+1100]となる。上述したように、区間[x,x+100]にある100μlの液体には合成物以外(溶媒や反応していない原料)が含まれている可能性がある。したがって、この区間[x,x+100]の液体を収集区間から除外することによって、濃度の低い合成物を収集しないようにすることができる。
【0055】
第1モードでは収集区間の終点は収集区間の始点と同じ量だけ後ろに変位させたが、
図5(c)に示すように、第2モードでは収集区間の終点を第1モードの収集区間の終点よりも前に変位させている。
図5(c)の例では、収集区間決定部43は、収集区間の始点を、液体が所定の時刻からx+100(μl)流れた点に設定し、収集区間の終点を理論的収集区間の終点と同一にしている。この例では、収集区間は[x+100,x+1000]となり、第1モードと比べて、区間[x+1000,x+1100]の低濃度の合成物を収集しないようにすることができる。
【0056】
図5(d)は、第3モードにおける収集区間を表している。このモードでは、理論的収集区間の中央の点と、収集区間の中央の点と、が一致するように収集区間を決定している。この例では、収集区間の始点を理論的収集区間の始点から100μl分後ろに設定し、収集区間の終点を理論的収集区間の終点から100μl分前に設定している。したがって、この例の収集区間は[x+100,x+900]となる。一般的には、合成物の濃度は理論的収集区間の中央部分が最も高いと考えられるため、このように収集区間を設定することにより、高濃度の合成物のみを収集することができる。
【0057】
上述したモードでは、低濃度の合成物を除外して、高濃度の合成物のみを収集することを目的とするものであったが、収集区間の前後の液体を利用したいとの要望もある。例えば、この部分には低濃度の合成物だけではなく、反応していない原料が含まれている可能性があり、原料を精製して再利用したいとの要望がある。第4モードは、そのような要望に応えるため、収集区間の前後の液体を収集するための第1予備収集区間と第2予備収集区間とを設定する。
図5(e)に示すように、第1予備収集区間は収集区間の直前に設定される区間であり、第2予備収集区間は収集区間の直後に設定される区間である。これらの区間の長さは、送液速度や、溶媒に対する原料の混ざりやすさ等に基づいて決定することができるが、原料は、先行する溶媒(送液方向下流側)よりも後続する溶媒(送液方向上流側)に対して混ざりやすいと考えられるため、本実施形態では、第1予備収集区間よりも第2予備収集区間を長く設定している。この例では、収集区間は[x+100,x+900]であり、第1予備収集区間(図中左上がり線ハッチング部分)が200μl分の[x-100,x+100]、第2予備収集区間(図中右上がり線ハッチング部分)が300μl分の[x+900,x+1200]となっている。このように、第1予備収集区間と第2予備収集区間とを設定することにより、効率的に反応していない原料を回収することができる。
【0058】
ユーザは、図示しないユーザインタフェースを介して、所望の収集区間設定モードを選択することができる。また、収集区間決定部43が決定した収集区間をユーザに提示し、ユーザインタフェースを介してユーザが収集区間を修正できるようにすることもできる。
【0059】
上述の説明での、理論的収集区間の始点や終点に対する収集区間の始点や終点の変位量は飽くまで例示であり、適宜変更可能である。変位量をユーザが指定できるようにしても構わないし、原料や溶媒の特性や物理量等に基づいて決定しても構わない。
【0060】
次に、収集単位量決定部44の処理について説明する。上述したように、本実施形態におけるフローケミストリーシステムの収集装置3は、液体を複数の収集容器Bに収集できるように構成されている。各々の容器に収集する液体の分量(収集単位量)は、ユーザが任意に設定できるが、収集区間の決定方法の第4モードでは、収集単位量が自動的に設定される。第4モードでは、第1予備収集区間、収集区間、第2予備収集区間の3つの区間が設定されており、各々の区間に収集される液体に含まれる合成物の濃度が異なることが予想される。そのため、各々の区間に収集される液体は別の収集容器Bに収集されることが好ましい。そこで、本実施形態における収集単位量決定部44は、第1予備収集区間、収集区間、第2予備収集区間の最大公約数を収集単位量とする。例えば、第1予備収集区間が200μl、収集区間が800μl、第2予備収集区間が300μlとすると、収集単位量は100μlとなる。このように、収集単位量を決定することにより、各々の区間に収集される液体を別の容器に収集することができ、全ての容器の収集量を同一にすることができる。
【0061】
このようにして決定された収集区間および収集単位量は、収集制御部45に通知される。収集制御部45は、収集装置3に対して、収集区間および収集単位量に基づき液体を各々の収集容器Bに収集するよう制御する。上述の例では、第1予備収集区間では2本の収集容器Bが使用され、収集区間では8本の収集容器Bが使用され、第2予備収集区間では3本の収集容器Bが使用される。
【0062】
〔別実施形態〕
(1)上述の実施形態では、1つのリアクタ2に流入する原料の数は2としたが、3以上であっても構わない。
【0063】
(2)上述の実施形態では、2つのリアクタ2を備え、2段階の合成を行ったが、合成は1段階でも構わない。その場合には、
図1において、流出路23aが収集装置3に接続される。この場合には、流路188a,178bがそれぞれ本発明の第1流路,第2流路に相当し、流出路23aが本発明の第3流路に相当する。
【0064】
(3)上述の実施形態では、リキッドハンドラ11のニードル113により原料を吸い出す際に、原料を吸引する前と後において空気を吸引することにより、原料の前後に薄い空気層を形成する状態で原料をニードル113に吸引したが、原料を吸い出す際に、原料の前後に薄い空気層を形成しない状態で原料をニードル113に吸引してもよい。つまり、上述の実施形態では、ニードル113の先端を原料中に降下させて原料を吸引する前後において、ニードル113の先端が原料より上にある状態でシリンジポンプ12に吸引動作をさせて若干の空気を吸引したが、これに限らず、原料を吸引する前後において、シリンジポンプ12の吸引動作による若干の空気の吸引を省略してもよい。
【0065】
(4)上述の実施形態では、全ての原料送出装置1a,1b,1cはリキッドハンドラ11を備えたが、使用する原料が固定される場合には、原料送出装置1に代えて、原料が貯留されたサンプル瓶等の容器を用いてもよい。この場合、ニードル113を使用せずに流路181を原料が貯留された容器に接続することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、フローケミストリーにおける合成物の収集技術に利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
B:収集容器
188c:流路(第2流路)
2b:リアクタ(反応装置)
23a:流出路(第1流路)
23b:流出路(第3流路)
3:収集装置
4:制御装置(合成物収集制御装置)
43:収集区間決定部
44:収集単位量決定部
45:収集制御部