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特許7509416肉厚測定システム、肉厚測定方法及び肉厚測定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】肉厚測定システム、肉厚測定方法及び肉厚測定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/90 20210101AFI20240625BHJP
   G01B 7/06 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
G01N27/90
G01B7/06 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020157112
(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公開番号】P2022050920
(43)【公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(72)【発明者】
【氏名】時岡 良宜
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第6725778(JP,B1)
【文献】特開昭62-266454(JP,A)
【文献】特開2002-005897(JP,A)
【文献】特開2014-062762(JP,A)
【文献】特開平05-281199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-27/9093
G01B 7/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被測定箇所に誘導電流を発生させて各被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定システムであって、
送信コイル及び受信コイルと、該受信コイルに生じた誘導起電力を検出する誘導起電力検出部と、を有するパルス渦電流プローブであって、互いに異なる前記被測定箇所に当接するように設置された複数のパルス渦電流プローブと、
前記複数のパルス渦電流プローブのうちから選択した1のパルス渦電流プローブの前記送信コイルに対して、パルス電流が出力されるように制御する測定制御部と、
を備え、
前記測定制御部は、前記選択した1のパルス渦電流プローブの前記送信コイルへのパルス電流の出力開始前に、基準値に基づいて、該選択した1のパルス渦電流プローブの前記誘導起電力検出部によって検出された検出信号のノイズレベルが測定不可レベルであるか否かを判定し、測定不可レベルの場合には該パルス電流の出力は行わず、別の1のパルス渦電流プローブを選択する、
肉厚測定システム。
【請求項2】
前記誘導起電力検出部によって検出された誘導起電力の検出信号に含まれるノイズを除去するフィルタ、をさらに備え、
前記基準値には、前記フィルタによって除去できないノイズレベルが測定不可レベルと判定される値が設定される、
請求項1に記載の肉厚測定システム。
【請求項3】
前記測定制御部及び前記フィルタは、前記複数のパルス渦電流プローブと通信可能な第一装置に設けられている請求項2に記載の肉厚測定システム。
【請求項4】
送信コイル及び受信コイルを有するパルス渦電流プローブであって、互いに異なる被測定箇所に当接するように設置された複数のパルス渦電流プローブを用いて、複数の前記被測定箇所に誘導電流を発生させて各被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定方法であって、
前記受信コイルに生じた誘導起電力を検出する誘導起電力検出工程と、
前記複数のパルス渦電流プローブのうちから選択した1のパルス渦電流プローブの前記送信コイルに対して、パルス電流が出力されるように制御する測定制御工程と、
を含み、
前記測定制御工程では、前記選択した1のパルス渦電流プローブの前記送信コイルへのパルス電流の出力開始前に、基準値に基づいて、該選択した1のパルス渦電流プローブの前記誘導起電力検工程で検出された検出信号のノイズレベルが測定不可レベルであるか否かを判定し、測定不可レベルの場合には該パルス電流の出力は行わず、別の1のパルス渦電流プローブを選択する、
を含む肉厚測定方法。
【請求項5】
送信コイル及び受信コイルを有するパルス渦電流プローブであって、互いに異なる被測定箇所に当接するように設置された複数のパルス渦電流プローブを用いて、複数の前記被測定箇所に誘導電流を発生させて各被測定箇所の肉厚を算出するコンピュータに、
前記受信コイルに生じた誘導起電力を検出する誘導起電力検出機能と、
前記複数のパルス渦電流プローブのうちから選択した1のパルス渦電流プローブの前記送信コイルに対して、パルス電流が出力されるように制御する測定制御機能と、
を実現させ、
前記測定制御機能では、前記選択した1のパルス渦電流プローブの前記送信コイルへのパルス電流の出力開始前に、基準値に基づいて、該選択した1のパルス渦電流プローブの前記誘導起電力検出機能で検出された検出信号のノイズレベルが測定不可レベルであるか否かを判定し、測定不可レベルの場合には該パルス電流の出力は行わず、別の1のパルス渦電流プローブを選択する、
肉厚測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パルス電流プローブを備え、被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
配管等の金属物品の被測定物の傷の有無や肉厚等を検査する方法として、電流を使用したパルス流探傷法が知られている(例えば、特許文献1参照)。このパルス流探傷法を適用したパルス流探傷装置では、被測定物に電流(誘導電流)を発生させる。この電流によって、プローブ(受信コイル)に誘導起電力が発生する。そして、受信コイルに生じた誘導起電力(検出信号)を検出する。この検出信号に基づいて、傷の有無や肉厚の測定等が行われる。1の被測定箇所での肉厚の測定には、少なくとも数分程度の時間を要する。また、検出信号には、ノイズ(ノイズ成分)が混入する場合がある。ノイズの除去は、特許文献1に記載のように、各種フィルタを用いて行う手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-99043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の検出信号に含まれるノイズは、フィルタでは十分に除去することが困難な大きなノイズの場合もある。この場合、肉厚の測定等の算出処理の精度が低下することになり、正確なデータ解析ができない。そうすると、測定時間も無駄になってしまい、測定効率も悪くなる。
【0005】
この発明は、測定を開始する前の被測定箇所のノイズ状態に応じて測定可否を判定し、測定効率を向上させる肉厚測定システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面によって提供される肉厚測定システムは、複数の被測定箇所に誘導電流を発生させて各被測定箇所の肉厚を算出する。また、肉厚測定システムは、複数のパルス電流プローブ及び測定制御部を備える。複数のパルス電流プローブは、送信コイル及び受信コイルと、受信コイルに生じた誘導起電力を検出する誘導起電力検出部と、を有し、互いに異なる被測定箇所に当接するように設置される。測定制御部は、複数のパルス電流プローブのうちから選択した1のパルス電流プローブの送信コイルに対して、パルス電流が出力されるように制御する。また、測定制御部は、選択した1のパルス電流プローブの送信コイルへのパルス電流の出力開始前に、基準値に基づいて、選択した1のパルス電流プローブの誘導起電力検出部によって検出された検出信号のノイズレベルが測定不可レベルであるか否かを判定し、測定不可レベルの場合にはパルス電流の出力は行わず、別の1のパルス電流プローブを選択する。
【0007】
上記誘導起電力検出部によって検出された誘導起電力の検出信号に含まれるノイズを除去するフィルタ、をさらに備え、上記基準値には、フィルタによって除去できないノイズレベルが測定不可レベルと判定される値が設定されてもよい。
【0008】
上記測定制御部及びフィルタは、複数のパルス電流プローブと通信可能な第一装置に設けられていてもよい。
【0009】
本発明の第2の側面によって提供される肉厚測定方法は、送信コイル及び受信コイルを有するパルス電流プローブであって、互いに異なる被測定箇所に当接するように設置された複数のパルス電流プローブを用いて、複数の被測定箇所に誘導電流を発生させて各被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定方法であって、受信コイルに生じた誘導起電力を検出する誘導起電力検出工程と、複数のパルス電流プローブのうちから選択した1のパルス電流プローブの送信コイルに対して、パルス電流が出力されるように制御する測定制御工程と、を含む。また、測定制御工程では、選択した1のパルス電流プローブの送信コイルへのパルス電流の出力開始前に、基準値に基づいて、選択した1のパルス電流プローブの誘導起電力検工程で検出された検出信号のノイズレベルが測定不可レベルであるか否かを判定し、測定不可レベルの場合にはパルス電流の出力は行わず、別の1のパルス電流プローブを選択する。
【0010】
本発明の第3の側面によって提供される肉厚測定プログラムは、送信コイル及び受信コイルを有するパルス電流プローブであって、互いに異なる被測定箇所に当接するように設置された複数のパルス電流プローブを用いて、複数の被測定箇所に誘導電流を発生させて各被測定箇所の肉厚を算出するコンピュータに、受信コイルに生じた誘導起電力を検出する誘導起電力検出機能と、複数のパルス電流プローブのうちから選択した1のパルス電流プローブの送信コイルに対して、パルス電流が出力されるように制御する測定制御機能と、を実現させる。また、測定制御機能では、選択した1のパルス電流プローブの送信コイルへのパルス電流の出力開始前に、基準値に基づいて、選択した1のパルス電流プローブの誘導起電力検工程で検出された検出信号のノイズレベルが測定不可レベルであるか否かを判定し、測定不可レベルの場合にはパルス電流の出力は行わず、別の1のパルス電流プローブを選択する。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、パルス電流の出力開始前に、選択した1のパルス電流プローブの誘導起電力検出部によって検出された検出信号のノイズレベルが測定不可レベルの場合には、選択した1のパルス電流プローブの測定は行われず、別のパルス電流プローブが新たに選択される。したがって、肉厚の測定が開始される前にノイズ状態に応じた測定可否の判定が行われるので、肉厚の測定時間が無駄になってしまうことがなく、測定効率も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明の実施形態に係る肉厚測定システムの概要を示す斜視図である。
図2】この発明の実施形態に係る肉厚測定システムの構成図である。
図3】誘導起電力の減衰曲線の一例を示す図である。
図4】送信コイルへのパルス電流の出力前において誘導起電力検出部によって取得された検出信号の時間的変化の一例を示す図である。
図5】測定制御部の実行可否判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照してこの発明の実施形態に係る肉厚測定システム(肉厚測定方法、肉厚測定プログラム)について説明する。なお、この発明の構成は、実施形態に限定されるものではない。また、以下で説明するフローを構成する各種処理の順序は、処理内容に矛盾等が生じない範囲で順不同である。
【0014】
図1は、この発明の実施形態に係る肉厚測定システム1の概要を示す図である。図2は、この発明の実施形態に係る肉厚測定システムの構成図である。本実施形態の肉厚測定システム(測定システム)1は、化学プラント等に設置された配管(被測定物)Pの肉厚を測定する。測定システム1は、複数のパルス電流プローブ2、ハブ端末3(第一装置の例)及びサーバ装置4等を備える。
【0015】
測定システム1は、順々に、各被測定箇所の肉厚測定を行う。また、測定システム1は、肉厚測定を開始する前に被測定箇所のノイズ状態に応じて測定可否を判定する。
【0016】
複数のパルス電流プローブ2は、配管Pに設定されたそれぞれ異なる被測定箇所(配管Pの外周面)に当接するように設置されている。複数のパルス電流プローブ2とハブ端末3とは有線接続されており、接続線Lを介して電力供給及び情報通信が行われる。ハブ端末3とサーバ装置4とは、互いに無線通信可能に構成されている。
【0017】
パルス電流プローブ2は、図2に示すように、送信コイル21、受信コイル22及びマイクロコントローラ23等を有する。マイクロコントローラ23の給電制御部231は、ハブ端末3の測定制御部311からの制御信号(測定の実行指示)に従って、送信コイル21にパルス電流を流すように制御する。具体的には、給電制御部231は、上記制御信号に従って一定期間だけパルス電流を流すように制御する。送信コイル21へのパルス電流が遮断されると、急激な磁界変化によって、パルス電流プローブ2が当接する被測定箇所に誘導電流(電流)が発生する。
【0018】
受信コイル22は、被測定箇所で発生した誘導電流による磁界によって、誘導起電力を発生させる。誘導起電力検出部232は、パルス電流の出力停止後、受信コイル22に生じた誘導起電力を電圧信号(検出信号)として検出する。誘導起電力検出部232は、受信コイル22における電圧信号の検出を所定期間(例えば1000ms)継続し、記憶部(不図示)に記憶させる。検出される誘導起電力の減衰曲線の例を図3に示す。図3は、ノイズが除去された状態の誘導起電力の減衰曲線の一例を示す。
【0019】
なお、以下の説明では、給電制御部231が送信コイル21にパルス電流を流すように制御し、誘導起電力検出部232が受信コイル22に生じた誘導起電力を検出する一連の動作を、「測定を実行する」という場合がある。
【0020】
なお、パルス電流プローブ2の各個体は、識別情報Idにより識別される。識別情報Idは、例えば、ハブ端末3から近い順に01、02、03、…としてディップスイッチを用いて設定可能である。また、各パルス電流プローブ2の識別情報Idは、被測定箇所を特定する識別情報でもある。以下の説明では、識別情報Idにより特定されるパルス電流プローブ2が設置された被測定箇所を、単に識別情報Idにより特定される被測定箇所という場合がある。
【0021】
また、誘導起電力検出部232は、送信コイル21にパルス電流が流される前において、受信コイル22における電圧信号の検出も行う。具体的には、誘導起電力検出部232は、送信コイル21へのパルス電流の出力前において、受信コイル22における電圧信号の検出を所定期間(例えば500ms)継続し、記憶部(不図示)に記憶させる。この検出は、後述する検出信号のノイズレベルを判定するために行われる。
【0022】
図4(A)~図4(C)は、或るパルス電流プローブ2の送信コイル21へのパルス電流の出力前において誘導起電力検出部232によって取得された検出信号の時間的変化の一例を示す図である。
【0023】
送信コイル21にパルス電流が流される前、受信コイル22には誘導起電力は発生しない。そのため、誘導起電力検出部232によって取得された検出信号は、基本的には、図4(A)に示すような検出信号となる。図4(A)は、検出信号にほとんどノイズが含まれていない状態を示す。しかし、検出信号には、ノイズが混入する場合がある。例えば、モーター機器(ファン、ドリル等)のノイズが電源を介して混入する場合がある。ノイズが含まれる場合、図4(B)及び図4(C)に示すような検出信号となる。
【0024】
すなわち、送信コイル21へのパルス電流の出力前において誘導起電力検出部232によって取得された検出信号からは、検出信号に含まれるノイズ状態が特定される。この検出信号のノイズレベルが測定不可レベルか否かによって、肉厚測定の測定可否が判定される。なお、送信コイル21へのパルス電流の出力停止後、受信コイル22に生じた誘導起電力の検出を起電力検出とし、送信コイル21へのパルス電流の出力前におけるノイズ状態の検出をノイズ検出とする。
【0025】
誘導起電力検出部232は、送信コイル21にパルス電流が流された場合、起電力検出を行う。また、誘導起電力検出部232は、ハブ端末3の測定制御部311からの制御信号に従ってノイズ検出の実行指示があった場合、ノイズ検出を行う。マイクロコントローラ23(誘導起電力検出部232)は、検出信号を、識別情報Idを付してハブ端末3に送出する。
【0026】
次に、ハブ端末3について説明する。ハブ端末3は、ハブ側演算装置31及びハブ側通信部32等を有する。ハブ側演算装置31は、測定制御部311、フィルタ処理部312及び減衰解析部313を含む。ハブ側演算装置31は、例えばマイクロコントローラとして実装される。ハブ端末3は、電源(不図示)から電力供給を受けて動作するとともに、各パルス電流プローブ2に電力を供給する。
【0027】
測定制御部311は、複数のパルス電流プローブ2のうち、いずれのパルス電流プローブ2を用いた肉厚測定を実行するかを制御する。測定制御部311は、サーバ装置4の測定回数分配部412により算出された測定実行回数に基づいて、パルス電流プローブ2を制御する。測定制御部311は、各パルス電流プローブ2に分配された測定実行回数が充足されるように、複数のパルス電流プローブ2の送信コイル21に順次パルス電流が流れるようにパルス電流プローブ2を制御する。
【0028】
測定制御部311は、測定実行回数が充足されるように、複数のパルス電流プローブ2のうちから一つのパルス電流プローブ2を選択する。その後、測定制御部311は、選択した一つのパルス電流プローブ2に対して、後述する実行可否判定処理を実行する。実行可否判定処理において測定可能であると判定された場合、測定制御部311は、選択したパルス電流プローブ2にパルス電流が流れるように指示する制御信号を発信する。すなわち、上記選択した電流プローブ2を用いた肉厚測定が開始される。制御信号には、選択されたパルス電流プローブ2を識別する識別情報Id及び測定の実行指示の情報が含まれる。選択されたパルス電流プローブ2のマイクロコントローラ23は、識別情報Idに基づいて当該制御信号が自身宛であることを認識し、送信コイル21にパルス電流を流す制御を実行する。
【0029】
一方、実行可否判定処理において測定不可であると判定された場合、測定制御部311は、上記選択したパルス電流プローブ2を用いた肉厚測定は実行しない。そして、測定制御部311は、測定実行回数が充足されるように別のパルス電流プローブ2を新たに選択し、別のパルス電流プローブ2に対しても上述と同様に実行可否判定処理を実行していく。
【0030】
図5は、測定制御部311が実行する実行可否判定処理のフローチャートである。実行可否判定処理では、測定制御部311が選択したパルス電流プローブ2の誘導起電力検出部232にノイズ検出を実行させ、検出信号のノイズレベルに基づいて、このパルス電流プローブ2を用いた肉厚測定の実行可否が判定される。ノイズレベルは、誘導起電力検出部232で検出された信号の大きさ(電圧値)である。
【0031】
実行可否判定処理において、測定制御部311は、最初に、選択したパルス電流プローブ2にノイズ検出の実行を指示する制御信号を発信する(ステップS10)。制御信号には、選択されたパルス電流プローブ2を識別する識別情報Id及びノイズ検出の実行指示の情報が含まれる。選択されたパルス電流プローブ2のマイクロコントローラ23は、識別情報Idに基づいて当該制御信号が自身宛であることを認識し、ノイズ検出を実行する。
【0032】
次に、測定制御部311は、ノイズ検出による検出信号を誘導起電力検出部232から取得し(ステップS11)、検出信号のノイズレベルが測定可能なレベルであるか否かを判定する(ステップS12)。判定には、基準値(上限基準値及び下限基準値)が用いられる。具体的には、取得した検出信号の電圧値が上限基準値及び下限基準値の範囲を超えている場合には、測定不可レベルとして判定される。
【0033】
例えば、図4(A),図4(B)に例示された検出信号のノイズレベルは、常に上限基準値及び下限基準値の範囲内であるので、測定可能レベルと判定される。一方、図4(C)に例示された検出信号のノイズレベルは、上限基準値及び下限基準値の範囲を超えているので、測定不可レベルと判定される。なお、上限基準値及び下限基準値には、図4(A)等に示す判定基準の上限値及び下限値が設定されている。
【0034】
検出信号のノイズレベルが測定可能レベルであった場合(ステップS12:YES)、測定制御部311は、この実行可否判定処理を終了し、上述したように、選択したパルス電流プローブ2(送信コイル21)にパルス電流が流れるように指示する制御信号を発信する。一方、検出信号のノイズレベルが測定不可レベルであった場合(ステップS12:NO)、測定制御部311は、ハブ側通信部32を介して、サーバ装置4に対して、肉厚測定が不可であったことを含むデータの送出を行う(ステップS13)。具体的には、測定不可を示す情報、上記選択されたパルス電流プローブ2の識別情報Id及び判定日時が上記データに含まれる。その後、測定制御部311は、実行可否判定処理を終了し、別のパルス電流プローブ2を新たに選択する。
【0035】
なお、上述の基準値は、任意の値を設定可能である。例えば、ノイズを除去するフィルタの能力に応じて設定すればよい。この場合、フィルタによるノイズ除去ができないノイズレベルが測定不可レベルとなるように基準値を設定すればよい。また、フィルタを有しない場合には、肉厚測定することを許容できないノイズレベルが測定不可レベルとなるように基準値を設定すればよい。なお、基準値は、制御データとしてハブ側演算装置31に記憶しておけばよい。
【0036】
次に、フィルタ処理部(フィルタ)312は、起電力検出において検出された誘導起電力(検出信号)を誘導起電力検出部232から取得し、検出信号に含まれるノイズを除去するフィルタ処理を実行する。例えば、フーリエ変換によるフィルタ処理がある。減衰解析部312は、フィルタ処理部312によるノイズ除去後の検出信号の継続時間τを算出する。図3に示すように、誘導起電力は、t-n(tは時間)に比例する曲線部分(急激な減衰を示す曲線部分)S2と、t-nから外れる曲線部分(緩やかな減少を示す曲線部分)S1とに区分される。減衰解析部312は、減衰曲線の形状を解析して曲線部分S1と曲線部分S2との境界の時刻を特定し、これに基づいて継続時間τを決定する。
【0037】
なお、継続時間τを決定するための演算処理は、比較的演算負荷が大きい。そのため、減衰解析部312の演算速度によって測定システム1全体の能力が決定づけられる。具体的には、例えば、測定システム1が一日あたりに実行できる測定の回数は、減衰解析部312が一回あたりの演算処理に要する時間で24時間(1440分)を除した値になる。
【0038】
なお、フィルタ処理部312及び減衰解析部312は、測定制御部311が選択したパルス電流プローブ2に、測定の実行指示の情報が含まれる制御信号が発信された場合に動作する。すなわち、フィルタ処理部312及び減衰解析部312は、測定制御部311が選択したパルス電流プローブ2を用いて肉厚測定の実行が開始された場合に動作する。
【0039】
ハブ側通信部32は、サーバ装置4のサーバ側通信部43と無線通信可能に構成される。ハブ側通信部32は、減衰解析部312が算出した継続時間τに、測定制御部311が選択したパルス電流プローブ2を特定する識別情報Id及び測定日時(肉厚の算出に用いられた継続時間τを測定した日時。)を付して、サーバ装置4に送出する。また、測定回数分配部412が決定した各パルス電流プローブ2の測定実行回数を表す測定回数テーブルを受信する。
【0040】
次に、サーバ装置4について説明する。サーバ装置4は、サーバ側演算装置41、記憶部42及びサーバ側通信部43等を有する。サーバ側演算装置41は、肉厚演算部411及び測定回数分配部412を含む演算装置である。サーバ側演算装置41は、例えばCPUとして実装される。
【0041】
記憶部42には、肉厚演算部411により算出された肉厚及び継続時間τが、被測定箇所(パルス電流プローブ2)を特定する識別情報Id及び測定日時に関連付けられて記憶されている。また、記憶部42には、、肉厚測定の測定不可を示す情報も被測定箇所(パルス電流プローブ2)を特定する識別情報Id及び測定日時に関連付けられて記憶されている。また、記憶部42には、それぞれの被測定箇所について当初肉厚及び下限肉厚が記憶されている。当初肉厚は、配管Pが設置された当初の被測定箇所の肉厚である。下限肉厚は、使用不可となる下限の肉厚である。
【0042】
サーバ側通信部43は、ハブ端末3のハブ側通信部32と無線通信可能に構成にされる。サーバ側通信部43は、各パルス電流プローブ2の測定実行回数を表す測定回数テーブルをハブ端末3に送出する。また、ハブ端末3から継続時間τを受け取る。
【0043】
肉厚演算部411は、ハブ端末3から送出された継続時間τに基づいて、識別情報Idにより特定される被測定箇所の肉厚を算出する。具体的には、継続時間τと肉厚とがおおむね比例関係にあることに基づいて肉厚を算出する。算出された肉厚は、識別情報Id及び測定日時と関連付けられて記憶部42に記憶される。
【0044】
また、肉厚演算部411は、肉厚の減少速度であるコロージョンレートを算出する。コロージョンレートは、肉厚減少量の一年あたりの数値で表される。算出されたコロージョンレートは、識別情報Id及び算出された日時に関連付けられて記憶部42に記憶される。また、肉厚演算部411は、当初肉厚、下限肉厚及び算出された肉厚に基づいて、減肉厚率を算出する。算出された減肉厚率は、識別情報Id及び算出された日時に関連付けられて記憶部42に記憶される。
【0045】
測定回数分配部412は、コロージョンレート及び減肉厚率に基づいて、複数のパルス電流プローブ2のそれぞれについて、肉厚測定を実行する回数(測定実行回数)を決定する。測定実行回数は、例えば、一日あたりの肉厚測定の実行回数である。1の電流プローブ2において一日あたりの肉厚測定の実行回数が複数の場合もある。測定制御部311は、例えば、選択した1の電流プローブ2において肉厚測定を1回実行した場合、次の電流プローブ2を選択して肉厚測定を実行すればよい。例えば、識別情報Idの順に1の電流プローブ2を選択していけばよい。その際、測定回数が、測定実行回数を満たしている場合には、次の電流プローブ2を選択すればよい。そして、複数の電流プローブ2の肉厚測定が一巡した後、2回目の肉厚測定を順次行っていけばよい。
【0046】
なお、測定実行回数は、上述のように決定する構成に限定されるものではない。例えば、複数の電流プローブ2のそれぞれの測定実行回数は、固定値であってもよい。具体的には、複数の電流プローブ2のそれぞれの測定実行回数を、一日あたり3回としてもよい。
【0047】
なお、選択した1の電流プローブ2において、測定不可と判定されて肉厚測定が実行されなかった場合でも、測定回数は1回実行されたことになる。例えば、測定実行回数が一日あたり3回の電流プローブ2において、初回に測定不可と判定されて肉厚測定が実行されず、2回目及び3回目に肉厚測定が実行された場合であっても、規定された測定実行回数は消化されたものとして処理される。測定制御部311は、例えば、一日単位で、実際に実行された肉厚の測定回数(実行回数)を電流プローブ2(識別情報Id)毎に記憶しておけばよい。そして、測定不可と判定された場合も測定回数が1としてカウントされる。
【0048】
以上のように、パルス電流の出力開始前に、選択した1のパルス電流プローブの誘導起電力検出部によって検出された検出信号のノイズレベルが測定不可レベルの場合には、選択した1のパルス電流プローブの測定は行われず、別のパルス電流プローブが新たに選択される。したがって、肉厚の測定が開始される前にノイズ状態に応じた測定可否の判定が行われるので、肉厚の測定時間が無駄になってしまうことがなく、測定効率も向上させることができる。
【0049】
なお、上述の実施形態の肉厚測定システムは、複数のパルス電流プローブ、ハブ端末及びサーバ装置等を備える構成を説明したが、特にこれに限定されるものではない。肉厚測定システムにおける給電制御部及び測定制御部等の各部を設ける機器の振り分けは任意である。例えば、給電制御部及び測定制御部をハブ端末(第一装置)に設け、フィルタ処理部、減衰解析部、肉厚演算部及び測定回数分配部をサーバ装置(第二装置)に設けてもよい。また、給電制御部、誘導起電力検出部、測定制御部、フィルタ処理部、減衰解析部、肉厚演算部及び測定回数分配部を全て一台の装置に設けてもよい。
【0050】
上述の実施形態では、パルス電流プローブとハブ端末とが有線接続され、ハブ端末3とサーバ装置とが無線通信可能に構成されていたが、特にこれに限定されるものではない。装置間の通信接続は、有線接続であっても無線接続であってもよい。例えば、パルス電流プローブとハブ端末との間で無線通信を可能にする無線通信モジュールを設けてもよい。この場合、パルス電流プローブに電力供給用のバッテリを搭載すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
この発明は、測定を開始する前の被測定箇所のノイズ状態に応じて測定可否を判定し、測定効率を向上させるのに有用である。
【符号の説明】
【0052】
1 肉厚測定システム
2 パルス電流プローブ
3 ハブ端末
4 サーバ装置
21 送信コイル
22 受信コイル
232 誘導起電力検出部
311 測定制御部
P 配管
図1
図2
図3
図4
図5