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特許7509423CAPEロードされた標的化微小胞抗がん剤およびその開発方法
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  • 特許-CAPEロードされた標的化微小胞抗がん剤およびその開発方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】CAPEロードされた標的化微小胞抗がん剤およびその開発方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/216 20060101AFI20240625BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240625BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20240625BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
A61K31/216
C12N5/071
C12N5/074
A61P35/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020533249
(86)(22)【出願日】2018-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 TR2018050816
(87)【国際公開番号】W WO2019132831
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】2017/20642
(32)【優先日】2017-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(73)【特許権者】
【識別番号】512081166
【氏名又は名称】イェディテペ・ウニヴェルシテシ
【氏名又は名称原語表記】YEDITEPE UNIVERSITESI
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(72)【発明者】
【氏名】フィクレッティン・シャヒン
(72)【発明者】
【氏名】パキゼ・ネスリハン・タシュル
(72)【発明者】
【氏名】オウス・カーン・キルバシュ
(72)【発明者】
【氏名】エズギ・アヴシャル・アプディク
(72)【発明者】
【氏名】ヒュセイン・アブディク
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】Maria COIMBRA et al.,“Critical factors in the development of tumor-targeted anti-inflammatory nanomedicines”,Journal of Controlled Release,2012年06月,Vol. 160, No. 2,p.232-238,DOI: 10.1016/j.jconrel.2011.10.019
【文献】ANDALOUSSI, S. EL et al,Extracellular vesicles: biology and emerging therapeutic opportunities,NATURE REVIEWS,2013年,Vol.12,pp.347-357
【文献】TOMIYAMA, R. et al,3,4-dihydroxybenzalacetone and caffeic acid phenethyl ester induce preconditioning ER stress and autophagy in SH-SY5Y cells,J Cell Physiol,2017年07月06日,Vol.233, Issue2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00- 33/44
A61P 1/00- 43/00
C12N 5/071
C12N 5/074
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん細胞に対する細胞毒性作用を提供するために使用される、bFGF、EGF、NGFからなる群から選択される成長因子で処理された幹細胞によって産生される微小胞に、薬物(CAPE(カフェイン酸フェネチルエステル))をローディングすることを含む、抗がん剤の製造方法であって、
12~14日に獲得される、腫瘍形成が観察される幹細胞の組織細胞への分化によって、神経芽細胞腫に特異的な幹細胞によって産生される微小胞が使用される、方法
【請求項2】
CAPEが、SH-SY5Y神経芽腫がんを標的とするCAPEロードされた微小胞抗がん剤を開発する目的で、神経細胞を介して産生された細胞微小胞に、5 μM~100 μMの範囲でローディングされる、請求項に記載の抗がん剤の製造方法。
【請求項3】
前記請求項1~のいずれか1つに記載のSH-SY5Y神経芽腫がんを標的とするCAPEロードされた微小胞抗がん剤の製造方法であって、以下のステップ:
培地に皮膚幹細胞、SH-SY5Y、PNT-1AまたはPC-3細胞を播種(培養)すること;
神経芽細胞腫認識の機能が細胞に提供され、それらを標的にすることができるようにするために、十分な密集度(70~80%)に達した培養培地中の細胞が6ウェル細胞培養プレートに播種されるようにする特殊化プロトコルを実装すること;
CAPE(カフェイン酸フェネチルエステル)をDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解することによって原液を調製すること;
特殊化皮膚細胞からの微小胞の単離を行うこと;
微小胞にCAPEを加えること;
溶液中に遊離し、微小胞にロードされていないCAPEから、CAPEロードされた微小胞を分離すること;
最終生成物であるSH-SY5Y神経芽腫がんを標的とするCAPEロードされた微小胞抗がん剤を得ること;
を含む方法。
【請求項4】
皮膚幹細胞、SH-SY5Y、PNT-1A、PC-3細胞が、37℃の温度および5% CO2の細胞培養インキュベーターにて、10%ウシ胎児血清および1% PSAを含むDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)培地中で培養される、請求項に記載の抗がん剤の製造方法。
【請求項5】
培養培地中で細胞を特殊化するステップ中に、10 ng/ml bFGF、10 ng/ml EGF、1% B7サプリメント、1% ITS(インスリン、トランスフェリンおよびセレン)、10% グルタミンおよび1% PSAを含むNeurobasal液を調製し、次いで、2日に1回、12~14日間、6ウェル細胞培養プレートに播種された細胞にこの特殊化溶液を投与することによって、特殊化プロトコルが適用される、請求項に記載の抗がん剤の製造方法。
【請求項6】
45.75 mgのCAPEを3.22 mLのDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解することによって、最終濃度が約50,000 μMである原液が調製される、請求項に記載の抗がん剤の製造方法。
【請求項7】
特殊化皮膚細胞からの微小胞単離の段階で、培養培地から収集した溶液を、300 gで10分間遠心分離して、不要細胞を除去する、請求項に記載の抗がん剤の製造方法。
【請求項8】
遠心後のチューブ上部に残っている上澄みを新しいチューブに移し、可能性のある細胞成分を除くために14000 gで30分間遠心する、請求項に記載の抗がん剤の製造方法。
【請求項9】
遠心後のチューブ上部に残っている上澄みを新しいチューブに移し、1/2体積のA液を加え、+4度にて1日間インキュベートする、請求項に記載の抗がん剤の製造方法。
【請求項10】
1日後、16000 gで1時間遠心した後、沈殿した物質ロードペレットを蒸留水(dH2O)に溶解する、請求項に記載の抗がん剤の製造方法。
【請求項11】
CAPEの微小胞構造へのローディングが、室温でのインキュベーションによって行われる、請求項に記載の抗がん剤の製造方法。
【請求項12】
微小胞溶液を、最終濃度が100 μg/mlになるように、2 mlのPBSで調製した50 μM CAPE溶液に添加し、混合物を室温(25℃)にて20分間インキュベートする、請求項11に記載の抗がん剤の製造方法。
【請求項13】
物質ロードされた小胞を得るために、沈殿した物質ロードペレットが、蒸留水(dH2O)に溶解される、請求項10に記載の抗がん剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特殊化した皮膚細胞が培地中に残す微小胞にCAPEをロードすることによる、SH-SY5Y神経芽腫がんに特異的な薬物の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
CAPE(カフェイン酸フェネチルエステル)は、ポプラ型プロポリスの最も広く研究されている活性成分の1つである。CAPEには、抗酸化作用、抗新生物作用、抗腫瘍作用および細胞保護作用がある。CAPEは発がん、細胞周期および転移を抑制し、アポトーシスを誘発する[1]。CAPEの興味深い重要な効果の1つは、さまざまな抗生物質(ストレプトマイシン、バンコマイシン、イソニアジド、エタンブトール)および抗がん剤(マイトマイシン、ドキソルビシン、シスプラチン、メトトレキサート)と併用した場合である;それは、上記の薬物に従属して発生する毒性を減少させる[2]。
【0003】
CAPE(40 μM)は用量依存的に細胞増殖を停止させ、細胞周期の停止とアポトーシスを誘発し、エストロゲン受容体陽性(ER+)MCF-7、エストロゲン受容体陰性(ER-)MDA-MB-231、およびトリプルネガティブ(ER-、PR-、HER2-)TNBC乳がん細胞株における血管新生を抑制することが示されている[3]。さらに、CAPE(40 μM)が乳がん幹細胞の増殖を阻害することも確認されている[4]。CAPEは、LNCaP、DU-145およびPC-3前立腺がん細胞株およびAktシグナル伝達経路における細胞増殖を用量依存的に阻害することが示されている[5]。CAPE(50μM)は、SおよびG2/M期の細胞周期停止を誘導することによって増殖を妨げ、ME180子宮頸がん細胞株の細胞にアポトーシスを誘導することが実証されている[6]。CAPE(100μM)処理により、G1期の細胞集団が減少し、G2/M期の細胞集団が増加し、TW2.6口腔扁平上皮癌細胞株のAktシグナル伝達経路を阻害することにより、細胞にアポトーシスが誘導されることが判明した[7]。CAPE(30ug/ml)とTRAILの併用治療が適用されたSK-1 Hep1肝がん細胞株では、カスパーゼ活性化が増加し、細胞死受容体がJNKおよびp38シグナル伝達経路を介して活性化され、アポトーシスが細胞に誘導されることが判明している[8]。実験的研究では、CAPEは、化学療法および放射線療法中に発生する毒性を阻害することが観察された。ラットにおいて、CAPEの予防的投与により、腎臓[9]、心臓[10]および脳[11]の組織におけるドキソルビシンによって引き起こされる損傷が防止され、シスプラチン[12]およびタモキシフェン[13]の投与に依存する肝臓の損傷が防止されることが報告されている。CAPE治療により、ラットの放射線誘発性肺損傷が減少することも示されている[14]。SH-SY5Y神経芽細胞腫細胞株においてCAPEを用いて行われた研究では、CAPEは4~20μMの範囲で適用されたが、SH-SY5Y細胞では、効果は観察されなかった[15]。
【0004】
もう1つの研究では、CAPE(100μg/ml)がメトキシポリ(エチレングリコール)-b-ポリ(ε-カプロラクトン)(CE)コポリマーにロードされ、CT26大腸がん細胞株に適用された。結果をCAPEの同伴なしの適用と比較すると、細胞増殖および死への影響に違いは認められなかった[16]。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最先端の適用において発生する問題は、次のようにリストアップすることができる:
・細胞および組織特異的ではない。
・高濃度での使用を必要とする。
・単核食細胞系の活性化。
・がん組織が薬剤用途で耐薬品性を示す。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概略
本発明の目的は、組織細胞の培養およびその後の特殊化(分化)の結果として得られた微小胞にCAPEをロードすることにより、細胞特異的な標的化小胞の開発(development)を提供することである。
【0007】
本発明のもう1つの目的は、最新の用途と比較して低濃度でCAPEを使用して、標的細胞以外の細胞および身体の両方に対するその毒性を最小限にすることである。
【0008】
発明の詳細な記載
本発明の目的を達成するために開発された「SH-SY5Y神経芽腫がんを標的とするCAPEロードされた微小胞抗がん剤の開発」は、添付の図に示される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】SH-SY5Y、PC3、およびPNT-1細胞から得られた微小胞にCAPEをロードすることによって形成された組み合わせを、48時間適用されたSH-SY5Y細胞の細胞生存率のグラフ表示である(CAPE:カフェイン酸フェネチルエステル、MV:微小胞、*:P<0.05)
図2】SHPEの細胞生存率に対する、幹細胞から健康な神経細胞に分化する細胞から得られた微小胞にCAPE(カフェイン酸フェネチルエステル)の異なる用量をロードすることによって得られた組み合わせを、48時間適用されたSY5Y細胞の細胞生存率に対する効果のグラフ表示である。(CAPE:カフェイン酸フェネチルエステル、MV:微小胞、*:P<0.05)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、分化した皮膚幹細胞によって産生される微小胞に薬物(CAPE)をロードすることによって得られる抗がん剤であり、がん細胞に対するこれらの細胞小胞の細胞毒性効果ゆえに適用される。薬物は細胞の小胞にロードされ、神経細胞の特性を提供するために適用された成長因子で処理されることによって特殊化される。本発明の範囲内で、12~14日間、好ましくは10 ng/ml bFGF、10 ng/ml EGF、1% B7 サプリメント、1% ITS (インスリン、トランスフェリンおよびセレン)、10% グルタミンおよび1% PSAを含むNeurobasal溶液を投与することによって、小胞をSHSY5Yがん細胞に標的化するこの方法によって新規な特性を有する、分化する細胞が提供される。本発明により、細胞小胞はCAPEをロードされ、それによってSHSY5Yがん細胞を特異的に認識する特徴を獲得する。
【0011】
本発明の範囲内には2つの実施態様がある。第1の実施形態では、細胞(幹細胞、細胞株、プライマー細胞、がん細胞、組織から得られた細胞)自体の成長条件に加えて、薬物(CAPE(カフェイン酸フェネチルエステル)ローディングにより、細胞の成長を可能にする37℃の温度、pH、5%二酸化炭素、DMEM、F12、RPMI培地などの因子を変化させることによって産生される細胞小胞に、細胞毒性特性が付与される。第2の実施態様では、細胞自体の成長条件に加えて、薬物(CAPE(カフェイン酸フェネチルエステル)ローディングにより、細胞(幹細胞、細胞株、プライマー細胞、がん細胞、組織から得られた細胞)を他の化学物質(bFGF、EGF、NGFなどの成長因子;メラトニン、インスリン、ラクトフェリンなどのホルモン;アスコルビン酸、葉酸などのビタミン;カルシウム、マグネシウム、ホウ素などのミネラル)で処理することによって産生される細胞小胞に、細胞毒性特性が付与される。図1に示されるように、神経細胞に分化した幹細胞から収集されたこれらの小胞は、神経細胞認識機能を示しながら、12~14日間の処理後にSHSY5Yに特異的な細胞毒性を示すことが観察されている。
「特殊化した」という用語は、図1に示されるように、SHSY5Y細胞を他の細胞と比較した結果として得られる。
【0012】
本発明の1つの実施態様では、25~30日よりもむしろ12~14日に獲得される、前記腫瘍形成が観察される、細胞の組織細胞への分化によって、特定のがんタイプに特異的な細胞によって産生される微小胞が使用される。したがって、神経細胞分化に付された幹細胞の分化によって獲得されるSHSY5Y細胞の特異的特徴は、25~30日よりもむしろ12~14日での分化による神経分化の初期段階で行われるので、該細胞によって産生された微小胞が使用される。
【0013】
本発明の1つの実施態様では、SH-SY5Y神経芽腫がんを標的とするCAPEロードされた微小胞抗がん剤を開発する目的で、神経細胞を介して産生された細胞微小胞に、5 μM~100 μMの濃度でCAPEローディングを行う;これらの値は、文献の以前の個々のCAPE用途で適用された100 μM以上の毒性の高い量よりもはるかに有利である。
【0014】
本発明の範囲で得られたCAPEロードされた特殊化細胞微小胞により製造される抗がん剤生成物は、健康な細胞および他の細胞株に対して毒性作用を示さず、特定のタイプのがんに対してのみ毒性作用を示す。図1に示すように、また上記のように、特殊化微小胞は、SHSY5Y細胞に対してのみ細胞毒性作用を示す。
【0015】
SH-SY5Y神経芽腫がんを標的とするCAPEロードされた微小胞抗がん剤の進歩的な開発は、以下のステップを含む:
培地に皮膚幹細胞を播種(培養)すること;
神経芽細胞腫認識の機能が細胞に提供され、それらを標的にすることができるようにするために、十分な密集度(70~80%)に達した培養培地中の細胞が6ウェル細胞培養プレートに播種されるようにする特殊化プロトコルを実装すること;
CAPE(カフェイン酸フェネチルエステル)をDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解し、原液を調製すること(したがって、異なる濃度が、より高濃度の原液から得ることができる);
特殊化皮膚細胞からの微小胞の単離を行うこと;
微小胞にCAPEを加えること;
溶液中に遊離し、微小胞にロードされていないCAPEから、CAPEロードされた微小胞を分離すること;
最終生成物であるSH-SY5Y神経芽腫がんを標的とするCAPEロードされた微小胞抗がん剤を得ること。
【0016】
本発明の好ましい実施態様では、皮膚幹細胞の培養を実施するステップの間、皮膚幹細胞、SH-SY5Y、PNT-1A、PC-3細胞は、好ましくは、37℃および5% CO2の細胞培養インキュベーターにて、10%ウシ胎児血清および1% PSAを含むDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)培地中で培養されるのが好ましい。
【0017】
本発明の好ましい実施態様では、培養培地中で細胞を特殊化するステップ中に、好ましくは10 ng/ml bFGF、10 ng/ml EGF、1% B7サプリメント、1% ITS(インスリン、トランスフェリンおよびセレン)、10% グルタミンおよび1% PSAを含むNeurobasal液を調製し、次いで、2日に1回、12~14日間、6ウェル細胞培養プレートに播種された細胞にこの特殊化溶液を投与することによって、特殊化プロトコルが適用される。
【0018】
本発明の好ましい実施態様では、原液を調製する段階において、45.75 mgのCAPEを3.22 mLのDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解する。得られた最終濃度は、約50,000 μMである。
【0019】
本発明の好ましい実施態様では、特殊化皮膚細胞からの微小胞単離の段階で、培養培地から収集した溶液を、300 gで10分間遠心分離して、不要細胞を除去する。遠心後のチューブ上部に残っている上澄みを新しいチューブに移し、可能性のある細胞成分を除くために14000 gで30分間遠心する。遠心後のチューブ上部に残っている上澄みを新しいチューブに移し、1/2体積のA液を加え、+4度にて1日間インキュベートする。翌日、16000 gで1時間遠心した後、ペレットを蒸留水(dH2O)に溶解する。
【0020】
本発明の好ましい実施態様では、CAPEの微小胞構造へのローディングは、室温でのインキュベーションによって行われる。微小胞溶液を、最終濃度が100 μg/mlになるように、好ましくは2 mlのPBSで調製した50 μM CAPE溶液に添加し、混合物を室温(25℃)にて20分間インキュベートする。次に、単離キットを使用して、沈殿プロセスを行い、物質がロードされた小胞を得る。得られた物質ロードペレットを蒸留水(dH2O)に溶解する。
【0021】
本発明の「SHSY5Y神経芽細胞がんを標的とするCAPEロードされた微小胞抗がん剤(Micro-CAPE)」では、皮膚幹細胞、PNT-1A、PC-3およびSH-SY5Y細胞が使用される。幹細胞の分化により得られる、標的微小胞のSH-SY5Y細胞への毒性が観察された。この研究で得られた微小胞にCAPEをローディングすることによって、以前に文献で使用された濃度と比較してはるかに低い濃度のCAPEを使用することにより、他の細胞および身体の両方に対する毒性が最小限に抑えられる細胞特異的標的化小胞が開発される。
【0022】
本発明の範囲内で、まず、皮膚幹細胞、SH-SY5Y、PNT-1AおよびPC-3細胞を、10%ウシ胎児血清(Invitrogen)および1% PSA (Biological Industries、Beit Haemek、イスラエル)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中、5% CO2の細胞培養インキュベーター内で37℃の温度にて培養した。十分な密集度(70~80%)に達した培養液中の細胞を6ウェル培養プレートに播種し、1日おきに培地を交換して、10 ng/ml bFGF、10 ng/ml EGF、1% B7サプリメント、1% ITS(インスリン、トランスフェリン、セレン)、10%グルタミン、1% PSAを含むNeurobasal溶液で13日間、専用プロトコルを適用する。その一方で、原液の調製プロセスを開始する。この目的のために、45.75 mgのCAPEを、3.22 mLのDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解する。得られる最終濃度は、50,000Mμである。
【0023】
微小細胞は、特殊化プロトコルが適用される皮膚細胞から単離される。EX01 Exo-spin(商標)キットを用いて、本発明の範囲内の特殊化皮膚細胞から微小胞を単離した。不要細胞を除去するために、培養培地から回収された培地を300 gで10分間遠心分離する。上清を新しいチューブに移し、可能性がある細胞成分を除去するために14000 gで30分間遠心分離する。この遠心分離により得られた上清を新しいチューブに移し、溶液Aの1/2体積を加え、+4度で1日インキュベートする。翌日、16000 gで1時間遠心分離した後、ペレットを蒸留水(dH2O)に溶解する。
【0024】
別の溶液として調製されるCAPEの微小胞へのローディングは、室温で行われる。2 mlのPBS中で調製した50 μM CAPEの溶液に、最終濃度が100 ug/mlになるように微小胞溶液を添加する。混合物を室温(25℃)にて20分間インキュベートした後、単離キットを使用して沈殿プロセスを行い、CAPEロードされた小胞を得る。得られた物質ローディングペレットを蒸留水(dH2O)に溶解する。
【0025】
本発明の「SHSY5Y神経芽細胞がんを標的とするCAPEロードされた微小胞抗がん剤(Micro-CAPE)の開発」により、該薬剤は、
より低い濃度(5μM)で使用する;
細胞の種類に特異的である;
血液脳関門を通過する;
炎症を起こさない;
身体への毒性がない;、
がん型の抵抗性を防止する;
使用後に細胞内で代謝される;
長時間循環内に留まる;
ことが可能になる。
【0026】
実験的研究
ロードされるCAPEの量の測定
ローディングプロセスの後、分光測光法に基づいて、微小胞構造に移動したCAPEの量を測定した。ロードされたCAPEの量を測定する場合、波長323 nmにおける分子の固有放射線を利用した。異なる濃度(1-100 μM)のCAPEを323 nmの波長で測定し、標準曲線を作成した。ロードされたCAPEの量を、2つの相互に関連する方法を使用して決定した。第一に、ロードされたCAPEの量を、CAPEをロードされた微小胞の沈殿後に上清中に残っている量を測定することによって決定した。第二に、ロードされたCAPEの量を、沈殿した物質でロードされた微小胞の膜構造の分画、および小胞構造にロードされたCAPEの量の測定によって決定した。
【0027】
毒性決定
培養液に10%ウシ胎児血清(Invitrogen)および1% PSA(Biological Industries、Beit Haemek、イスラエ)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中、96ウェル培養プレート(Corning Glasswork、Corning、NY)に細胞を5000細胞/ウェルにて播種した後、細胞の生存率レベルを1日目、2日目および3日目に測定した。細胞生存率は、3-(4,5-ジ-メチル-チアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシ-メトキシ-フェネチル)-2-(4-スルホ-フェネチル)-2H-テトラゾリウム(MTS)法を用いて決定した(CellTiter 96 Aqueous One Solution;Promega, Southampton, UK)。10 μlのMTS溶液を100 μlの培地中の細胞に添加し、37℃にて暗所で2時間インキュベートした。インキュベーション処理の後、ELISAプレートリーダー(Biotek、Winooski、VT)デバイスを介して490 nmの波長にて吸光度を測定することによって、細胞生存率を観察した。
【0028】
参考文献

[1]. Lin, H.P., Lin, C.Y., Liu, C.C., Su, L.C., Huo, C., Kuo, Y.Y., Tseng, J.C., Hsu, J.M., Chen, C.K., Chuu, C.P. 2013. "Caffeic Acid phenethyl ester as a potential treatment for advanced prostate cancer targeting akt signaling", Int J Mol Sci., 6;14(3):5264-83. doi: 10.3390/ijms14035264。

[2]. Tolba, M.F., Omar, H.A., Azab, S.S., Khalifa, A.E., Abdel-Naim, A.B., Abdel-Rahman, S.Z. 2014. "Caffeic acid phenethyl ester: A review of its antioxidant activity, protective effects against ischemia-reperfusion injury and drug adverse reactions", Crit Rev Food Sci Nutr.,DOI: 10.1080/10408398.2013.821967。

[3]. Wu, J., Omene, C., Karkoszka, J., Bosland, M., Eckard, J., Klein, C.B., Frenkel, K. 2011. "Caffeic acid phenethyl ester (CAPE), derived from a honeybee product propolis, exhibits a diversity of anti-tumor effects in pre-clinical models of human breast cancer", Cancer Lett.,1;308(1):43-53. doi: 10.1016/j.canlet.2011.04.012.

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図1
図2