(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】積層体の製造方法及びその製造装置
(51)【国際特許分類】
B32B 37/10 20060101AFI20240625BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240625BHJP
B29C 65/02 20060101ALI20240625BHJP
H05K 3/38 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
B32B37/10
B32B15/08 J
B29C65/02
H05K3/38 A
(21)【出願番号】P 2023018842
(22)【出願日】2023-02-10
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】305052986
【氏名又は名称】プロマティック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 和宏
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-343610(JP,A)
【文献】特開2020-006685(JP,A)
【文献】特開2014-128913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 63/00-63/48、65/00-65/82
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔が積層された積層体の製造方法であって、
前記熱可塑性ポリマーフィルムの表面に、第1の銅箔を重ねた状態で、一対の加熱加圧ロールに導入して、前記熱可塑性ポリマーフィルムと前記第1の銅箔とを、前記熱可塑性ポリマーフィルムが軟化する温度で熱圧着する工程(A)と、
前記工程(A)の後、前記熱可塑性ポリマーフィルムを、前記第1の銅箔が積層されていない前記熱可塑性ポリマーフィルムの裏面を開放状態にして、前記熱可塑性ポリマーフィルムの融点付近の温度で加熱する工程(B)と、
前記工程(B)の後、前記熱可塑性ポリマーフィルムの裏面に、第2の銅箔を重ねた状態で、一対の加熱加圧ロールに導入して、前記熱可塑性ポリマーフィルムと前記第2の銅箔とを、前記熱可塑性ポリマーフィルムが軟化する温度で熱圧着する工程(C)と、
前記工程(C)の後、前記熱可塑性ポリマーフィルムを、前記熱可塑性ポリマーフィルムの両面に前記第1の銅箔及び前記第2の銅箔が積層された状態で、前記熱可塑性ポリマーフィルムの融点付近の温度で加熱する工程(D)と
を含み、
前記工程(A)及び前記工程(C)において、熱圧着温度は、前記熱可塑性ポリマーフィルムの軟化温度以上であって、前記熱可塑性ポリマーフィルムの軟化温度よりも20℃高い温度以下であり、
前記工程(B)及び前記工程(D)において、加熱温度は、前記熱可塑性ポリマーフィルムの融点よりも20℃低い温度以上であって、前記熱可塑性ポリマーフィルムの融点よりも50℃高い温度以下であり、
前記工程(A)、前記工程(B)、前記工程(C)、及び前記工程(D)は、ロール・ツー・ロール方式により、連続して実行される、積層体の製造方法。
【請求項2】
前記工程(C)における熱圧着温度は、前記工程(A)における熱圧着温度よりも高く設定される、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記工程(D)における加熱温度は、前記工程(B)における加熱温度よりも低く設定される、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記工程(B)及び前記工程(D)において、前記熱可塑性ポリマーフィルムは、前記第1の銅箔及び前記第2の銅箔を、それぞれ、誘導加熱コイルを用いた電磁誘導により加熱して、前記第1の銅箔及び前記第2の銅箔からの熱伝導により加熱される、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記工程(B)及び前記工程(D)において、加熱温度は、前記熱可塑性ポリマーフィルム、及び/又は、前記第1及び第2の銅箔の表面の反射スペクトルを検知することによって制御される、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記工程(A)の前に、前記熱可塑性ポリマーフィルムの表面をプラズマ処理する工程と、
前記工程(B)の後であって、前記工程(C)の前に、前記熱可塑性ポリマーフィルムの裏面をプラズマ処理する工程と、
をさらに含む、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
熱可塑性ポリマーフィルムは、液晶ポリマーフィルムからなる、請求項1~
6の何れかに記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
ロール・ツー・ロール方式により熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔が積層された積層体の製造装置であって、
前記熱可塑性ポリマーフィルムを供給する第1の繰出し軸と、
第1の銅箔を供給する第2の繰出し軸と、
第2の銅箔を供給する第3の繰出し軸と、
前記第1の繰出し軸から供給された前記熱可塑性ポリマーフィルムの表面に、前記第2の繰出し軸から供給された前記第1の銅箔を重ねた状態で、前記熱可塑性ポリマーフィルムと前記第1の銅箔とを、前記熱可塑性ポリマーフィルムが軟化する温度で熱圧着する一対の第1の加熱加圧ロールと、
前記一対の第1の加熱加圧ロールにより前記第1の銅箔が積層された前記熱可塑性ポリマーフィルムを、前記第1の銅箔が積層されていない前記熱可塑性ポリマーフィルムの裏面を開放状態にして、前記熱可塑性ポリマーフィルムの融点付近の温度で加熱する第1の加熱手段と、
第1の加熱手段で加熱された前記熱可塑性ポリマーフィルムの裏面に、前記第3の繰出し軸から供給された前記第2の銅箔を重ねた状態で、前記熱可塑性ポリマーフィルムと前記第2の銅箔とを、前記熱可塑性ポリマーフィルムが軟化する温度で熱圧着する一対の第2の加熱加圧ロールと、
前記一対の第2の加熱加圧ロールにより前記第2の銅箔が積層された前記熱可塑性ポリマーフィルムを、前記熱可塑性ポリマーフィルムの両面に前記第1の銅箔及び前記第2の銅箔が積層された状態で、前記熱可塑性ポリマーフィルムの融点付近の温度で加熱する第2の加熱手段と、
前記第2の加熱手段で加熱された前記熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔が積層された積層体を巻き取る巻き取り軸と、
を備
え、
前記第1及び第2の加熱加圧ロールで行う熱圧着温度は、前記熱可塑性ポリマーフィルムの軟化温度以上であって、前記熱可塑性ポリマーフィルムの軟化温度よりも20℃高い温度以下であり、
前記第1及び第2の加熱手段で行う加熱温度は、前記熱可塑性ポリマーフィルムの融点よりも20℃低い温度以上であって、前記熱可塑性ポリマーフィルムの融点よりも50℃高い温度以下である、積層体の製造装置。
【請求項9】
前記第1の加熱手段及び前記第2の加熱手段は、それぞれ、前記第1の銅箔及び前記第2の銅箔を、電磁誘導により加熱する誘導加熱コイルを備えた電磁誘導加熱手段で構成されている、請求項
8に記載の積層体の製造装置。
【請求項10】
前記一対の第1の加熱加圧ロールの前段に、前記熱可塑性ポリマーフィルムの表面をプラズマ処理する第1のプラズマ処理装置と、
前記一対の第2の加熱加圧ロールの前段に、前記熱可塑性ポリマーフィルムの裏面をプラズマ処理する第2のプラズマ処理装置と、
をさらに備えた、請求項
8に記載の積層体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔が積層された積層体の製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル配線基板の多くは、熱可塑性ポリマーフィルムと銅箔とが積層された積層体で構成されている。積層体の銅箔をエッチングすることによって、回路パターンが形成されている。
【0003】
熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔が積層された積層体の製造方法として、例えば、特許文献1には、熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔を重ね合わせて、一対の加熱加圧ロールで熱圧着することにより積層体を形成する方法が開示されている。この方法は、ロール・ツー・ロール方式により、熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔を同時に熱圧着できるため、熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔が積層された積層体を、生産性良く製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱可塑性ポリマーフィルムの両面に積層された銅箔をエッチングすることによって、回路パターンが形成されたフレキシブル配線基板において、回路パターンの高密度化や、伝送信号の高周波化に伴い、熱可塑性ポリマーフィルムの薄膜化が図られている。
【0006】
一対の加熱加圧ロールを用いて、熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔を熱圧着する際、熱可塑性ポリマーフィルムと銅箔との接合強度を高めるために、熱可塑性ポリマーフィルムを融点付近の温度に加熱して行われる。
【0007】
熱可塑性ポリマーフィルムを融点付近の温度に加熱すると、熱可塑性ポリマーフィルムからガスが放出される。一対の加熱加圧ロールを用いて、熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔を、熱可塑性ポリマーフィルムの融点付近の温度で熱圧着する際、熱可塑性ポリマーフィルムの両面に積層された銅箔は、一対の加熱加圧ロールから圧力を受ける。このとき、熱可塑性ポリマーフィルムの両面は、銅箔で挟まれた状態であるため、熱可塑性ポリマーフィルムから放出されたガスは、逃げ道を失い、一対の加熱加圧ロールからの圧力が解放されたとき、熱可塑性ポリマーフィルムの内部や銅箔との界面で、放出されたガスが発泡する。その結果、熱可塑性ポリマーフィルムの絶縁不良が発生したり、熱可塑性ポリマーフィルムと銅箔との接合強度が低下したりするという問題が生じる。
【0008】
特に、熱可塑性ポリマーフィルムが薄膜化された場合(例えば、厚みが100μm以下)、数十μm程度のミクロな発泡が生じても、熱可塑性ポリマーフィルムの絶縁不良の発生や、接合強度の低下が顕著となる。
【0009】
ところで、融点付近の温度で熱圧着したときに発生する発泡を防止するために、まず、熱可塑性ポリマーフィルムの一方の面に銅箔を重ねて、融点付近の温度で熱圧着し、その後、熱可塑性ポリマーフィルムの他方の面に銅箔を重ねて、融点付近の温度で熱圧着して、熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔が積層された積層体を製造する方法が考えられる。
【0010】
しかしながら、この方法では、熱可塑性ポリマーフィルムの融点付近の温度で熱圧着した場合、銅箔が重ねられていない側の熱可塑性ポリマーフィルムの表面が、ロールと粘着して剥がれなくなるという問題が生じる。
【0011】
この問題を解決するために、銅箔が重ねられていない側の熱可塑性ポリマーフィルムの表面に離型フィルムを設けることが考えられるが、この場合、熱可塑性ポリマーフィルムの両面が、銅箔と離型フィルムで覆われることになる。そのため、熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔を同時に熱圧着する場合と同様に、熱可塑性ポリマーフィルムの内部や銅箔との界面で、熱可塑性ポリマーフィルムから放出されたガスが発泡する。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、一対の加熱加圧ロールを用いて、熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔が積層された積層体を製造する製造方法及び製造装置において、熱可塑性ポリマーフィルムと銅箔との接合強度を維持しつつ、熱可塑性ポリマーフィルムの内部や銅箔との界面での、熱可塑性ポリマーフィルムからの放出ガスによる発泡を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る積層体の製造方法は、熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔が積層された積層体の製造方法であって、熱可塑性ポリマーフィルムの表面に、第1の銅箔を重ねた状態で、一対の加熱加圧ロールに導入して、熱可塑性ポリマーフィルムと第1の銅箔とを、熱可塑性ポリマーフィルムが軟化する温度で熱圧着する工程(A)と、工程(A)の後、熱可塑性ポリマーフィルムを、第1の銅箔が積層されていない熱可塑性ポリマーフィルムの裏面を開放状態にして、熱可塑性ポリマーフィルムの融点付近の温度で加熱する工程(B)と、工程(B)の後、熱可塑性ポリマーフィルムの裏面に、第2の銅箔を重ねた状態で、一対の加熱加圧ロールに導入して、熱可塑性ポリマーフィルムと第2の銅箔とを、熱可塑性ポリマーフィルムが軟化する温度で熱圧着する工程(C)と、工程(C)の後、熱可塑性ポリマーフィルムを、熱可塑性ポリマーフィルムの両面に第1の銅箔及び第2の銅箔が積層された状態で、熱可塑性ポリマーフィルムの融点付近の温度で加熱する工程(D)とを含み、工程(A)、工程(B)、工程(C)、及び工程(D)は、ロール・ツー・ロール方式により、連続して実行される。
【0014】
本発明に係る積層体の製造装置は、ロール・ツー・ロール方式により熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔が積層された積層体の製造装置であって、熱可塑性ポリマーフィルムを供給する第1の繰出し軸と、第1の銅箔を供給する第2の繰出し軸と、第2の銅箔を供給する第3の繰出し軸と、第1の繰出し軸から供給された熱可塑性ポリマーフィルムの表面に、第2の繰出し軸から供給された第1の銅箔を重ねた状態で、熱可塑性ポリマーフィルムと第1の銅箔とを、熱可塑性ポリマーフィルムが軟化する温度で熱圧着する一対の第1の加熱加圧ロールと、一対の第1の加熱加圧ロールにより第1の銅箔が積層された熱可塑性ポリマーフィルムを、第1の銅箔が積層されていない熱可塑性ポリマーフィルムの裏面を開放状態にして、熱可塑性ポリマーフィルムの融点付近の温度で加熱する第1の加熱手段と、第1の加熱手段で加熱された熱可塑性ポリマーフィルムの裏面に、第3の繰出し軸から供給された第2の銅箔を重ねた状態で、熱可塑性ポリマーフィルムと第2の銅箔とを、熱可塑性ポリマーフィルムが軟化する温度で熱圧着する一対の第2の加熱加圧ロールと、一対の第2の加熱加圧ロールにより第2の銅箔が積層された熱可塑性ポリマーフィルムを、熱可塑性ポリマーフィルムの両面に第1の銅箔及び第2の銅箔が積層された状態で、熱可塑性ポリマーフィルムの融点付近の温度で加熱する第2の加熱手段と、第2の加熱手段で加熱された熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔が積層された積層体を巻き取る巻き取り軸とを備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一対の加熱加圧ロールを用いて、熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔が積層された積層体を製造する製造方法及び製造装置において、熱可塑性ポリマーフィルムと銅箔との接合強度を維持しつつ、熱可塑性ポリマーフィルムの内部や銅箔との界面での、熱可塑性ポリマーフィルムからの放出ガスによる発泡を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態における積層体の製造方法の各工程を示したフローチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態における積層体の製造装置を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態における積層体の製造方法の各工程を示したフローチャートである。
図2は、本発明の一実施形態における積層体の製造装置を模式的に示した図である。本実施形態における積層体は、熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔が積層された構造をなし、
図2に示した製造装置を用いて、ロール・ツー・ロール方式により製造される。
【0019】
熱可塑性ポリマーフィルムの材料としては、液晶ポリマー、ポリフェニレンサルファイド、シクロオレフィン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレンーテトラフルオロエチレンコポリマー等が用いられる。特に、熱可塑性ポリマーフィルムとして、誘電損失および誘電正接の小さい、液晶ポリマーフィルムが好ましい。熱可塑性ポリマーフィルムの厚みは、10~200μmが好ましく、25~75μmがより好ましい。
【0020】
図1に示すように、熱可塑性ポリマーフィルムの表面をプラズマ処理する(ステップS1)。具体的には、
図2に示すように、第1の繰出し軸20から供給された熱可塑性ポリマーフィルム10の表面を、プラズマ処理装置30aを用いてプラズマ処理する。プラズマ処理に用いるガスは、例えば、アルゴン、窒素等が用いられる。
【0021】
プラズマ処理は、例えば、大気圧プラズマにより行うことができる。プラズマ処理により、熱可塑性ポリマーフィルム10の表面に官能基が付与され、これにより、熱可塑性ポリマーフィルム10に銅箔を熱圧着したとき、熱可塑性ポリマーフィルム10と銅箔との化学結合が得られ、熱可塑性ポリマーフィルム10と銅箔との接合強度を高めることができる。なお、このプラズマ処理は、熱可塑性ポリマーフィルム10と銅箔との接合強度を高める目的で行うもので、必ずしも行わなくてもよい。また、同じ目的で、銅箔の表面にシランカップリング剤を付与してもよい。
【0022】
次に、
図1に示すように、熱可塑性ポリマーフィルム10の表面に、第1の銅箔11aを重ねた状態(第1の銅箔/ポリマーフィルム)で、熱可塑性ポリマーフィルム10と第1の銅箔11aとを、熱可塑性ポリマーフィルム10が軟化する温度で熱圧着する(ステップS2)。この時、加熱加圧ロール22または24は必ずしもそれぞれ一対で同じ温度に設定する必要はないが、異なる温度とする場合は高い方の温度を熱圧着温度とする。
【0023】
具体的には、
図2に示すように、第1の繰出し軸20から供給された熱可塑性ポリマーフィルム10の表面に、第2の繰出し軸21から供給された第1の銅箔11aを重ねた状態で、ガイドロール50を用いて、一対の第1の加熱加圧ロール22に導入して、熱可塑性ポリマーフィルム10と第1の銅箔11aとを熱圧着する。
【0024】
熱圧着する際、軟化した熱可塑性ポリマーフィルム10が、第1の銅箔11a表面の微細な凹凸に入り込んで固まることによりアンカー効果が発現し、これにより、熱可塑性ポリマーフィルムと銅箔とが仮接合される。
【0025】
熱可塑性ポリマーフィルム10の表面をプラズマ処理した場合は、アンカー効果による機械的結合に加え、熱可塑性ポリマーフィルム10と銅箔との化学結合が得られるため、熱可塑性ポリマーフィルム10と銅箔との接合強度がより高まる。
【0026】
熱可塑性ポリマーフィルム10と第1の銅箔11aとを熱圧着する温度は、熱可塑性ポリマーフィルムの軟化温度以上であって、熱可塑性ポリマーフィルムの軟化温度よりも20℃高い温度以下であることが好ましい。熱圧着温度が、熱可塑性ポリマーフィルムの軟化温度より低いと、熱可塑性ポリマーフィルム10と第1の銅箔11aとの界面に空気が噛み込むため、十分なアンカー効果が発揮されず、熱可塑性ポリマーフィルム10と銅箔11aとの仮接合が十分に得られないため、好ましくない。また、熱圧着温度が、熱可塑性ポリマーフィルムの軟化温度よりも20℃高い温度を超えると、第1の銅箔11aが重ねられていない側の熱可塑性ポリマーフィルム10の表面が、加熱加圧ロール22と粘着して剥がれなくなるため、好ましくない。
【0027】
熱可塑性ポリマーフィルムの軟化温度は、動的粘弾性測定(DMA)法を用いて、JISK7244-4:1999に準じて、損失正接(tanδ=損失弾性率/貯蔵弾性率)のピーク温度から測定することができる。具体的には、動的粘弾性測定装置(レオロジ社製「DVE-V4FTレオスペクトラー」)を使用して、引張りモード(周波数:11Hz)で、昇温速度を3℃/分で、材料に合わせて、適宜、低温から高温まで昇温して、貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E’’)及び損失正接(tanδ)を測定し、損失正接のピーク温度より軟化温度を測定することができる。
【0028】
本実施形態において、熱可塑性ポリマーフィルム10と第1の銅箔11aとの熱圧着は、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点よりも低い軟化温度付近で行われるため、熱圧着時に、熱可塑性ポリマーフィルム10からガスが放出されることはない。そのため、熱圧着工程において、熱可塑性ポリマーフィルムの内部や銅箔との界面で、熱可塑性ポリマーフィルムからの放出ガスによる発泡が生じることはない。
【0029】
次に、
図1に示すように、熱可塑性ポリマーフィルム10を、第1の銅箔11aが積層されていない熱可塑性ポリマーフィルム10の裏面を開放状態(第1の銅箔/ポリマーフィルム)にして、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点付近の温度で加熱する(ステップS3)。
【0030】
具体的には、
図2に示すように、一対の第1の加熱加圧ロール22により第1の銅箔11aが積層された熱可塑性ポリマーフィルム10を、ガイドロール51、52を用いて、第1の加熱手段40aの近傍に導いて、熱可塑性ポリマーフィルム10を加熱する。
【0031】
融点付近で液化した熱可塑性ポリマーフィルム10は、第1の銅箔11aとの界面で「濡れ」が発現し、これにより、液化した熱可塑性ポリマーフィルム10が、第1の銅箔11a表面の微細な凹凸に隙間なく入り込んで固まることにより、より高いアンカー効果が得られる。その結果、熱可塑性ポリマーフィルム10と第1の銅箔11aとを、一対の加熱加圧ロールで熱圧着させることなく、熱可塑性ポリマーフィルム10と第1の銅箔11aとの強い結合を得ることができる。
【0032】
なお、熱可塑性ポリマーフィルム10として、液晶ポリマーフィルムを用いた場合、液晶ポリマーフィルムは、融点付近で分子配向がランダムになるため、厚み方向の強度が増し、液晶ポリマーフィルムと第1の銅箔との接合強度をより高めることができる。
【0033】
ここで、熱可塑性ポリマーフィルム10を加熱する温度は、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点よりも20℃低い温度以上であって、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点よりも50℃高い温度以下であることが好ましい。加熱温度が、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点よりも20℃低い温度より低いと、熱可塑性ポリマーフィルム10と第1の銅箔11aとの接合強度が得られないため、好ましくない。また、加熱温度が、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点よりも50℃高い温度を超えると、熱可塑性ポリマーフィルム10の熱分解が進みすぎて接合強度が低下するため、好ましくない。
【0034】
熱可塑性ポリマーフィルム10の融点は、示差走査熱量測定(DSC)法を用いて測定することができる。具体的には、示差走査熱量計(日立ハイテクサイエンス製、DSC7200)を用い、窒素ガス(30mL/分)を流して、昇温速度は10℃/分の条件で、約10mgの試料を、10℃/分の昇温速度で、室温から予想される融点以上の温度まで加熱し、溶融したときに観測される吸熱ピークのピークトップの温度から融点を求めることができる。
【0035】
本実施形態において、熱可塑性ポリマーフィルム10を融点付近で加熱する際、第1の銅箔11aが積層されていない熱可塑性ポリマーフィルム10の裏面が開放状態になっている。そのため、融点付近での加熱工程において、熱可塑性ポリマーフィルム内から放出されたガスを、熱可塑性ポリマーフィルム10の裏面から、外部に開放することができる。その結果、熱可塑性ポリマーフィルム10の内部や、第1の銅箔11aとの界面での発泡を防止することができる。
【0036】
第1の加熱手段40aは、例えば、電磁誘導加熱手段を用いることがきる。電磁誘導加熱手段は、熱可塑性ポリマーフィルム10の近傍に、複数の誘導加熱コイルを配置し、誘導加熱コイルに電流を流すことにより、第1の銅箔11aを、電磁誘導により直接加熱するものである。これにより、第1の銅箔11aが接合された熱可塑性ポリマーフィルム10を、第1の銅箔11aからの熱伝導により加熱することができる。
【0037】
なお、第1の銅箔11aは、非磁性体であるが、銅箔の厚みが約100μm以下であれば、抵抗損失が生じるため、電磁誘導の周波数や、第1の銅箔11aと誘導加熱コイルとの位置関係を適正化することによって、銅箔内部で誘導される渦電流によるジュール熱で、第1の銅箔11aを加熱することが可能となる。銅箔の厚みは20μm以下であると発熱させやすいが、1μm以下になると発熱量が不足して、熱可塑性ポリマーフィルム10を十分に加熱しにくくなるので好ましくない。
【0038】
加熱された熱可塑性ポリマーフィルム10の温度は、
図2に示すように、熱可塑性ポリマーフィルム10の近傍に配置したハイパースペクトルカメラ41aを用いて、熱可塑性ポリマーフィルム10、又は第1の銅箔の加熱履歴による表面の反射スペクトルの僅かな不可逆的な変化を検知することによって測定することができる。電磁誘導加熱は、応答性に優れているため、ハイパースペクトルカメラ41aで測定された温度を、電磁誘導加熱手段にフィードバックすることによって、熱可塑性ポリマーフィルム10を加熱する温度を、素早く制御することができる。
【0039】
第1の加熱手段40aは、電磁誘導加熱手段の他に、ヒータ加熱手段、ランプ加熱手段等を用いてもよい。
【0040】
次に、
図1に示すように、熱可塑性ポリマーフィルム10の裏面をプラズマ処理する(ステップS4)。具体的には、
図2に示すように、第1の加熱手段40aで加熱された熱可塑性ポリマーフィルム10を、ガイドロール53を用いて、プラズマ処理装置30bの近傍に導き、熱可塑性ポリマーフィルム10の裏面を、プラズマ処理装置30bを用いてプラズマ処理する。
【0041】
このプラズマ処理は、ステップS2で行った熱可塑性ポリマーフィルム10表面のプラズマ処理と同じ目的で行うため、説明は省略する。
【0042】
次に、
図1に示すように、熱可塑性ポリマーフィルム10の裏面に、第2の銅箔11bを重ねた状態(第1の銅箔/ポリマーフィルム/第2の銅箔)で、熱可塑性ポリマーフィルム10と第2の銅箔11bとを、熱可塑性ポリマーフィルム10が軟化する温度で熱圧着する(ステップS5)。
【0043】
具体的には、
図2に示すように、プラズマ処理装置30bでプラズマ処理された熱可塑性ポリマーフィルム10の裏面に、第3の繰出し軸23から供給された第2の銅箔11bを重ねた状態で、ガイドロール54を用いて、一対の第2の加熱加圧ロール24に導入して、熱可塑性ポリマーフィルム10と第2の銅箔11bとを熱圧着する。
【0044】
熱圧着する際、軟化した熱可塑性ポリマーフィルム10が、第2の銅箔11b表面の微細な凹凸に入り込んで固まることによりアンカー効果が発現し、これにより、熱可塑性ポリマーフィルム10と第2の銅箔11bとが仮接合される。
【0045】
ここで、熱可塑性ポリマーフィルム10と第2の銅箔11bとを熱圧着する温度は、熱可塑性ポリマーフィルム10の軟化温度以上であって、熱可塑性ポリマーフィルム10の軟化温度よりも20℃高い温度以下であることが好ましい。熱圧着温度が、熱可塑性ポリマーフィルムの軟化温度より低いと、熱可塑性ポリマーフィルム10と第2の銅箔11bとの界面に空気が噛み込むため、アンカー効果が十分に発揮されず、熱可塑性ポリマーフィルム10と第2の銅箔11bとの仮接合が十分に得られないため、好ましくない。
【0046】
ステップS2の熱圧着工程における温度と、ステップS5の熱圧着工程における温度とは、必ずしも同じ温度でなくてもよい。例えば、熱可塑性ポリマーフィルム10は、融点付近の温度まで加熱すると、軟化温度が上昇する場合がある。ステップS5の熱圧着工程は、ステップS3の融点付近の温度まで加熱する加熱工程の後に実行される。従って、ステップS5の熱圧着工程における熱可塑性ポリマーフィルム10の軟化温度は、ステップS3の加熱工程後における熱可塑性ポリマーフィルム10の軟化温度を意味する。ステップS3の加熱工程で、熱可塑性ポリマーフィルム10の軟化温度が上昇した場合には、ステップS5の熱圧着工程における温度を、ステップS2の熱圧着工程における温度よりも高く設定してもよい。
【0047】
次に、
図1に示すように、熱可塑性ポリマーフィルム10を、熱可塑性ポリマーフィルム10の両面に第1の銅箔11a及び第2の銅箔11bが積層された状態(第1の銅箔/ポリマーフィルム/第2の銅箔)で、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点付近の温度で加熱する(ステップS6)。
【0048】
具体的には、
図2に示すように、一対の第2の加熱加圧ロール24により、両面に第1の銅箔11a及び第2の銅箔11bが積層された熱可塑性ポリマーフィルム10を、ガイドロール55、56を用いて、第2の加熱手段40bの近傍に導いて、熱可塑性ポリマーフィルム10を加熱する。
【0049】
第2の加熱手段40bは、例えば、電磁誘導加熱手段を用いることがきる。また、加熱された熱可塑性ポリマーフィルム10の温度は、
図2に示すように、熱可塑性ポリマーフィルム10の近傍に配置したハイパースペクトルカメラ41bを用いて測定することができる。第2の加熱手段40bは、電磁誘導加熱手段の他に、ヒータ加熱手段、ランプ加熱手段等を用いてもよい。
【0050】
融点付近で液化した熱可塑性ポリマーフィルム10は、第2の銅箔11bとの界面で「濡れ」が発現し、これにより、液化した熱可塑性ポリマーフィルム10が、第2の銅箔11b表面の微細な凹凸に隙間なく入り込んで固まることにより、より高いアンカー効果が得られる。その結果、熱可塑性ポリマーフィルム10と第2の銅箔11bとが強く結合される。
【0051】
ここで、熱可塑性ポリマーフィルム10を加熱する温度は、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点よりも20℃低い温度以上であって、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点よりも50℃高い温度以下であることが好ましい。加熱温度が、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点よりも20℃低い温度より低いと、熱可塑性ポリマーフィルム10と第1の銅箔11aとの接合強度が得られないため、好ましくない。また、加熱温度が、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点よりも50℃高い温度を超えると、熱可塑性ポリマーフィルム10の熱分解が進みすぎて接合強度が低下するため、好ましくない。
【0052】
本実施形態において、熱可塑性ポリマーフィルム10を融点付近の温度で加熱する際、熱可塑性ポリマーフィルム10の両面に、第1の銅箔11a及び第2の銅箔11bが積層されていても、ステップS3において、既に、熱可塑性ポリマーフィルム10は融点付近の温度で加熱されているため、熱可塑性ポリマーフィルム10からガスが新たに放出されることはない。そのため、熱可塑性ポリマーフィルム10の内部や、第1の銅箔11a及び第2の銅箔11bとの界面で、熱可塑性ポリマーフィルム10からの放出ガスによる発泡が生じることはない。
【0053】
ステップS3の加熱工程における温度と、ステップS6の加熱工程における温度とは、必ずしも同じ温度でなくてもよい。例えば、熱可塑性ポリマーフィルム10は、融点付近の温度まで加熱すると、融点が上昇する場合がある。ステップS6の加熱工程は、ステップS3の加熱工程の後に実行される。従って、ステップS6の加熱工程における熱可塑性ポリマーフィルム10の融点は、ステップS3の加熱工程後における熱可塑性ポリマーフィルム10の融点を意味する。ステップS3の加熱工程で、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点が上昇した場合には、ステップS6の加熱工程における温度を、ステップS3の加熱工程における温度よりも高く設定してもよい。
【0054】
あるいは、ステップS6の加熱工程における温度を、ステップS3の加熱工程における温度よりも低く設定してもよい。もし、ステップS3の加熱工程後に、熱可塑性ポリマーフィルム10内にガスが残存していても、ステップS6の加熱温度を、ステップS3の加熱温度よりも低く設定することによって、残存するガスの放出を抑制することができる。
【0055】
最後に、
図2に示すように、第2の加熱手段40bで加熱された熱可塑性ポリマーフィルム10を、巻き取り軸25で巻き取ることにより、熱可塑性ポリマーフィルム10の両面に第1の銅箔11a及び第2の銅箔11bが積層された積層体が得られる。
【0056】
以上、説明したように、本実施形態によれば、熱可塑性ポリマーフィルム10と第1の銅箔11a及び第2の銅箔11bとの接合強度を維持しつつ、熱可塑性ポリマーフィルム10の内部や、第1の銅箔11a及び第2の銅箔11bとの界面に、熱可塑性ポリマーフィルム10からの放出ガスによる発泡を生じさせることなく、熱可塑性ポリマーフィルム10の両面に、第1の銅箔11a及び第2の銅箔11bが積層された積層体を製造することができる。
【0057】
また、熱可塑性ポリマーフィルム10の一方の面に第1の銅箔11aを熱圧着する工程、片面に第1の銅箔11aが積層された熱可塑性ポリマーフィルム10を加熱する工程、熱可塑性ポリマーフィルム10の他方の面に第2の銅箔11bを熱圧着する工程、及び、両面に第1の銅箔11a及び第2の銅箔11bが積層された熱可塑性ポリマーフィルム10を加熱する工程を、ロール・ツー・ロール方式により、連続して実行することによって、生産性良く、熱可塑性ポリマーフィルム10の両面に第1の銅箔11a及び第2の銅箔11bが積層された積層体を製造することができる。
【0058】
本実施形態における積層体の製造装置は、
図2に示すように、熱可塑性ポリマーフィルム10を供給する第1の繰出し軸20、第1の銅箔11aを供給する第2の繰出し軸21、第2の銅箔11bを供給する第3の繰出し軸23、積層体を巻き取る巻き取り軸25、一対の第1の加熱加圧ロール22、一対の第2の加熱加圧ロール24、第1の加熱手段40a、及び第2の加熱手段40bを備えている。
【0059】
一対の第2の加熱加圧ロール24は、第1の繰出し軸20から供給された熱可塑性ポリマーフィルム10の表面に、第2の繰出し軸21から供給された第1の銅箔11aを重ねた状態で、熱可塑性ポリマーフィルム10と第1の銅箔11aとを、熱可塑性ポリマーフィルム10が軟化する温度で熱圧着する。
【0060】
第1の加熱手段40aは、一対の第1の加熱加圧ロール22により第1の銅箔11aが積層された熱可塑性ポリマーフィルム10を、第1の銅箔11aが積層されていない熱可塑性ポリマーフィルム10の裏面を開放状態にして、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点付近の温度で加熱する。
【0061】
一対の第2の加熱加圧ロール24は、第1の加熱手段40aで加熱された熱可塑性ポリマーフィルム10の裏面に、第3の繰出し軸23から供給された第2の銅箔11bを重ねた状態で、熱可塑性ポリマーフィルム10と第2の銅箔11bとを、熱可塑性ポリマーフィルム10が軟化する温度で熱圧着する。
【0062】
第2の加熱手段40bは、一対の第2の加熱加圧ロール24により第2の銅箔11bが積層された熱可塑性ポリマーフィルム10を、熱可塑性ポリマーフィルム10の両面に第1の銅箔11a及び第2の銅箔11bが積層された状態で、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点付近の温度で加熱する。
【0063】
巻き取り軸25は、第2の加熱手段40bで加熱された、熱可塑性ポリマーフィルム10の両面に第1の銅箔11a及び第2の銅箔11bが積層された積層体を巻き取る。
【実施例】
【0064】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0065】
実施例及び比較例では、以下の液晶ポリマーフィルム、及び銅箔を用いた。
液晶ポリマーフィルム:千代田インテグレ株式会社製、商品名「ぺリキュール」(厚み:50μm、幅:130mm、軟化温度:170℃、融点:280℃)
銅箔:JX金属株式会社製、電解銅箔、品番「JXEFL-V2」(厚み:12μm、幅:270mm)
積層体は、
図2に示したロール・ツー・ロール方式の製造装置を用いて作製した。加工速度は、1m/min、液晶ポリマーフィルム10の繰出し張力は、100N/m、第1及び第2の銅箔11a、11bの繰出し張力は、100N/m、積層体の巻取張力は、150N/mとした。
【0066】
プラズマ処理装置30a、30bは、大気圧プラズマ装置を用い、電力:0.5W・min/cm2、周波数:50kHz~100kHzでプラズマ照射した。プラズマガスは、窒素95%、乾燥空気5%、総流量100L/min/台とした。
【0067】
一対の加熱加圧ロール22、24は、ローラーの径:6インチ、ローラーの幅:500mm、フィルムプレス面積:2.6cm2のものを用い、プレス圧力を150MPaとした。
【0068】
加熱手段40a、40bは、自社開発の電磁誘導加熱手段を用いた。
【0069】
熱可塑性ポリマーフィルム10及び第1または第2の銅箔11a、11bの温度は、以下の方法により行った。
【0070】
まず、熱可塑性ポリマーフィルム10及び第1または第2の銅箔11a、11bの表面を、ハイパースペクトルカメラ(Specim製「FX10」)41a、41bで観測し、得られた反射スペクトルから、色度a*値またはb*値を算出した。これと、予め、既知の温度のホットプレートに対して同様の方法で求めておいたa*値またはb*値とを検量線を用いて、熱可塑性ポリマーフィルム10及び第1または第2の銅箔11a、11bの温度を算出した。なお、赤外放射温度計を用いる場合は、加熱により熱可塑性ポリマーフィルム10や銅箔11aまたは11bが変色して放射係数が変化すると、正確に温度を測定できなくなるが、ハイパースペクトルカメラ41a、41bを用いた場合は、色の変化から検量線により正確に温度を算出できる。また、観測箇所の温度ではなく、そこに至る最高温度の履歴を観測できる。
【0071】
[評価方法]
液晶ポリマーフィルム10と第1及び第2の銅箔11a、11bとの接合強度は、IPC-TM-650に準拠した方法でピール強度を測定することにより評価した。
【0072】
熱可塑性ポリマーフィルム10と第1及び第2の銅箔11a、11bとの界面での発泡の有無は、第1及び第2の銅箔11a、11bの表面を目視により観察して、ピンホールやクレータの有無により評価した。
【0073】
表1は、ステップS2(熱圧着工程)における熱圧着温度、ステップS3(加熱工程)における加熱温度、ステップS5(熱圧着工程)における熱圧着温度、及びステップS6(加熱工程)における加熱温度をそれぞれ変えて、積層体を作製したときの評価結果を示した表である。
【0074】
【0075】
表1の実施例1~4に示すように、ステップS2及びステップS5(熱圧着工程)における熱圧着温度を170℃~195℃の範囲で行い、ステップS3及びステップS6(加熱工程)における加熱温度を280℃で行った場合、ピール強度が良好で、かつ、ピンホールやクレータの発生はなかった。なお、実施例4では、ステップS5の熱圧着温度を、ステップS2の熱圧着温度よりも5℃高くした結果、熱可塑性ポリマーフィルム10と銅箔11bの噛み合わせが改善し、裏面のピール強度が表面と同等まで改善できた。また、ステップS6の加熱温度を、ステップS3の加熱温度よりも5℃低くした結果、熱可塑性ポリマーフィルム10と、第2の銅箔11bとの界面での熱可塑性ポリマーフィルム10から発生する水分や低分子量体の揮発に起因する発泡を抑制できた。
【0076】
これにより、熱可塑性ポリマーフィルム10の表面に、第1の銅箔11aを、熱可塑性ポリマーフィルム10の軟化温度(170℃)付近で熱圧着させて仮接合した後、裏面を開放状態にして、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点(280℃)付近で加熱し、さらに、熱可塑性ポリマーフィルム10の裏面に、第2の銅箔11bを、熱可塑性ポリマーフィルム10の軟化温度(170℃)付近で熱圧着させて仮接合した後、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点(280℃)付近で加熱することによって、熱可塑性ポリマーフィルム10と、第1及び第2の銅箔11a、11bとの接合強度を維持しつつ、熱可塑性ポリマーフィルム10と、第1及び第2の銅箔11a、11bとの界面での噛み込みエア、及び熱可塑性ポリマーフィルム10から発生する水分や低分子量体の揮発に起因する発泡を防止できることを確認できた。
【0077】
これに対して、比較例1に示すように、熱可塑性ポリマーフィルム10と第1の銅箔11a及び第2の銅箔11bとの熱圧着温度を、熱可塑性ポリマーフィルム10の軟化温度(170℃)より低い温度(160℃)で行った場合、十分なピール強度が得られず、発泡も見られた。これは、熱可塑性ポリマーフィルム10が十分軟化していないため、第1の銅箔11a及び第2の銅箔11bの凹凸に十分入り込まなかったためにアンカー効果が発揮されず、熱可塑性ポリマーフィルム10と第1の銅箔11a及び第2の銅箔11bとの仮接合が不十分であったため、その後、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点(280℃)付近で加熱しても、接合強度の向上が図られず、第1及び第2の銅箔11a、11bの凹凸谷部に噛み込んだエアが発泡したためと考えられる。
【0078】
また、比較例2に示すように、熱可塑性ポリマーフィルム10と、第1及び第2の銅箔11bとの熱圧着温度を、熱可塑性ポリマーフィルム10の軟化温度(170℃)より20℃を超える温度(200℃)で行った場合、熱可塑性ポリマーフィルム10が、加熱加圧ロールと粘着して破れてしまった。
【0079】
また、比較例3に示すように、仮接合を行った後の加熱温度が、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点(280℃)より20℃を超える低い温度(240℃)で行った場合、アンカー効果が不十分であったため、十分なピール強度は得られなかった。
【0080】
また、比較例4に示すように、仮接合を行った後の加熱温度が、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点(280℃)より50℃を超える高い温度(350℃)で行った場合、熱可塑性ポリマーフィルム10の熱分解が進み、十分なピール強度が得られなかった。
【0081】
なお、比較例5に示すように、熱可塑性ポリマーフィルム10の両面に、第1の銅箔11a及び第2の銅箔11bを、熱可塑性ポリマーフィルム10の融点(280℃)付近で熱圧着した場合、熱可塑性ポリマーフィルム10と第1及び第2の銅箔11a、11bとの界面に、ピンホール、発泡またはクレータが発生した。また、ピンホール、発泡またはクレータの発生により、十分なピ-ル強度が得られず、絶縁耐圧も著しく低下した。
【符号の説明】
【0082】
10 熱可塑性ポリマーフィルム
11a 第1の銅箔
11b 第2の銅箔
20 第1の繰出し軸
21 第2の繰出し軸
22 一対の第1の加熱加圧ロール
23 第3の繰出し軸
24 一対の第2の加熱加圧ロール
25 巻き取り軸
30a、30b プラズマ処理装置
40a 第1の加熱手段
40b 第2の加熱手段
41a、41b ハイパースペクトルカメラ
50~56 ガイドロール
【要約】
【課題】熱可塑性ポリマーフィルムの両面に銅箔が積層された積層体の製造方法において、熱可塑性ポリマーフィルムの内部や銅箔との界面での発泡を防止する。
【解決手段】積層体の製造方法は、熱可塑性ポリマーフィルム10の表面に第1の銅箔11aを重ねた状態で、該ポリマーフィルムと第1の銅箔とを、該ポリマーフィルムが軟化する温度で熱圧着する工程(A)と、熱可塑性ポリマーフィルムを融点付近の温度で加熱する工程(B)と、熱可塑性ポリマーフィルムの裏面に第2の銅箔11bを重ねた状態で、該ポリマーフィルムと第2の銅箔とを、該ポリマーフィルムが軟化する温度で熱圧着する工程(C)と、熱可塑性ポリマーフィルムを融点付近の温度で加熱する工程(D)とを、ロール・ツー・ロール方式により、連続して実行する。
【選択図】
図1