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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】擁壁用防護柵およびその構築方法
(51)【国際特許分類】
   E01F 7/04 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
E01F7/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024002588
(22)【出願日】2024-01-11
【審査請求日】2024-01-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】398054845
【氏名又は名称】株式会社プロテックエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】西田 陽一
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-188296(JP,A)
【文献】特開2017-193857(JP,A)
【文献】特開2014-074311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の支柱と防護ネットとを具備し、崩落物を捕捉する既設擁壁の上部に構築した擁壁用防護柵であって、
既設擁壁の天端面上に現場で構築したコンクリート製の拡張支持層と、
前記拡張支持層を貫挿して背面地盤に定着して、拡張支持層を位置決めする複数のアンカー材とを具備し、
前記拡張支持層は既設擁壁の天端面より幅広の拡張天端面と、既設擁壁の天端面から斜面山側にはみ出した拡張部とを有し、
前記拡張支持層の拡張部の斜面山側の偏倚した位置にアンカー材の頭部を固定して拡張支持層を変位不能に位置決めし、
前記支柱の下部に設けたベースプレートを前記拡張支持層の拡張天端面に着床させ
前記ベースプレートの斜面山側の偏倚した位置にアンカー材の頭部を固定し前記支柱を立設したことを特徴とする、
擁壁用防護柵。
【請求項2】
前記拡張支持層の奥行幅が既設擁壁の天端面の奥行幅より大きい寸法関係にあることを特徴とする、請求項1に記載の擁壁用防護柵。
【請求項3】
前記拡張支持層に支柱の立設位置に合わせて複数のアンカーボルトが植設してあり、該複数のアンカーボルトを介して支柱の下部のベースプレートをボルト止めして立設したことを特徴とする、請求項1に記載の擁壁用防護柵。
【請求項4】
前記拡張支持層内に単数または複数の支圧板が埋設してあり、前記アンカーボルトが支圧板に固定してあることを特徴とする、請求項3に記載の擁壁用防護柵。
【請求項5】
前記拡張支持層が既設擁壁の天端面に沿って連続して形成してあることを特徴とする、請求項1に記載の擁壁用防護柵。
【請求項6】
既設擁壁の上部に複数の支柱と防護ネットとを具備した防護柵を構築する擁壁用防護柵の構築方法であって、
既設擁壁の天端面上に現場でコンクリート製の拡張支持層を構築し、
前記拡張支持層は既設擁壁の天端面より幅広の拡張天端面と、既設擁壁の天端面から斜面山側にはみ出した拡張部とを有し、
前記拡張支持層の拡張部にアンカー材の頭部を固定して拡張支持層を変位不能に位置決めしつつ、
前記支柱の下部に設けたベースプレートを前記拡張支持層の拡張天端面に着床させ
前記ベースプレートの斜面山側の偏倚した位置にアンカー材の頭部を固定し前記支柱を立設したことを特徴とする、
擁壁用防護柵の構築方法。
【請求項7】
前記拡張支持層を構築する際に該拡張支持層に支柱の立設位置に合わせて複数のアンカーボルトを植設し、該複数のアンカーボルトを介して支柱の下部のベースプレートをボルト止めして立設したことを特徴とする、請求項に記載の擁壁用防護柵の構築方法。
【請求項8】
前記拡張支持層内に単数または複数の支圧板を埋設し、前記アンカーボルトを支圧板に固定したことを特徴とする、請求項7に記載の擁壁用防護柵の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は崩落土砂、雪崩、落石等の崩落物を捕捉する防護柵に関し、特にもたれ擁壁等の既設擁壁の上部に構築する擁壁用防護柵およびその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
雪崩、落石、崩落土砂等の崩落物による災害を防止する防護施設として、複数の支柱と防護ネットを具備した防護柵が知られている。
防護ネットに作用した崩落物の運動エネルギーは最終的に支柱で支持する構造である。
これらの防護柵の支柱の立設手段のひとつとして、支柱の下部をコンクリート製の柵基礎に埋設する方法が知られていて、支柱に作用した運動エネルギーを柵基礎で支持する構造である(特許文献1)。
【0003】
一方、斜面を保護する重力式擁壁として、もたれながら自重によって土圧に対抗するもたれ式擁壁が知られている。
このもたれ式の既設擁壁の上部に防護柵を追加設置する場合がある。
もたれ式の既設擁壁の上部に防護柵を構築する方法として、既設擁壁の上部に天端面より幅広の大型のコンクリート製柵基礎を嵩上げして造成し、嵩上げして新たに設けた柵基礎に支柱を立設して防護柵を構築することが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-29070号公報
【文献】特開平8-134849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の防護柵の構築技術にはつぎのような改善すべき点がある。
<1>既設擁壁の山側斜面を掘削したり地盤改良を施したりする必要があることに加えて、既設擁壁の上部に大型の柵基礎を増設しなければならない。
そのため、既設擁壁の上部に防護柵を構築するには、多くの費用と工期を必要とする。
<2>もたれ式の既設擁壁の天端に支柱を立設することも考えられるが、一般的に既設の擁壁の天端面の奥行幅が50cm程度と非常に狭いために、擁壁の天端面に安定姿勢を保った状態で支柱を立設することが技術的に難しい。
<3>仮にもたれ式の既設擁壁の天端に支柱を立設して防護柵を構築できたとしても、受撃時に既設擁壁の天端が衝撃荷重に耐えきれずに破損してしまう。
【0006】
本発明は以上の点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、簡易な施工により既設の擁壁の天端面の真上に安定した姿勢で防護柵を構築できる擁壁用防護柵およびその構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の支柱と防護ネットとを具備し、崩落物を捕捉する既設擁壁の上部に構築した擁壁用防護柵であって、既設擁壁の天端面上に現場で構築したコンクリート製の拡張支持層と、前記拡張支持層を貫挿して背面地盤に定着して、拡張支持層を位置決めする複数のアンカー材とを具備し、前記拡張支持層は既設擁壁の天端面より幅広の拡張天端面と、既設擁壁の天端面から斜面山側にはみ出した拡張部とを有し、前記拡張支持層の拡張部の斜面山側の偏倚した位置にアンカー材の頭部を固定して拡張支持層を変位不能に位置決めし、前記支柱の下部に設けたベースプレートを前記拡張支持層の拡張天端面に着床させ、前記ベースプレートの斜面山側の偏倚した位置にアンカー材の頭部を固定し前記支柱を立設したものである。
本発明の他の形態において、前記拡張支持層の奥行幅が既設擁壁の天端面の奥行幅より大きい寸法関係にある。
本発明の他の形態において、前記拡張支持層に支柱の立設位置に合わせて複数のアンカーボルトが植設してあり、該複数のアンカーボルトを介して支柱の下部のベースプレートをボルト止めして立設してもよい。
本発明の他の形態において、前記拡張支持層内に単数または複数の支圧板が埋設してあり、前記アンカーボルトが支圧板に固定する。
本発明の他の形態において、前記拡張支持層が既設擁壁の天端面に沿って連続して形成してある
【0008】
本発明は、既設擁壁の上部に複数の支柱と防護ネットとを具備した防護柵を構築する擁壁用防護柵の構築方法であって、既設擁壁の天端面上に現場でコンクリート製の拡張支持層を構築し、前記拡張支持層は既設擁壁の天端面より幅広の拡張天端面と、既設擁壁の天端面から斜面山側にはみ出した拡張部とを有し、前記拡張支持層の拡張部にアンカー材の頭部を固定して拡張支持層を変位不能に位置決めしつつ、前記支柱の下部に設けたベースプレートを前記拡張支持層の拡張天端面に着床させ、前記ベースプレートの斜面山側の偏倚した位置にアンカー材の頭部を固定し前記支柱を立設したものである。
本発明の他の形態において、前記拡張支持層を構築する際に該拡張支持層に支柱の立設位置に合わせて複数のアンカーボルトを植設し、該複数のアンカーボルトを介して支柱の下部のベースプレートをボルト止めして立設してもよい。
本発明の他の形態において、前記拡張支持層内に単数または複数の支圧板を埋設し、前記アンカーボルトを支圧板に固定してもよい
【発明の効果】
【0009】
本発明は少なくとも次の一つの効果を奏する。
<1>本発明では、既設擁壁の天端面上に構築した拡張支持層と、拡張支持層を位置決めするアンカー材との組み合わせにより、既設の擁壁の天端面を有効活用して、防護柵の支柱を安定した姿勢で立設することができる。
<2>拡張支持層と既設擁壁の天端面との間を連結せずに、背面地盤に定着したアンカー材を活用することで、拡張支持層を変位不能に位置決めすることができる。
したがって、既設擁壁の上部に防護柵を簡易に構築することができる。
<3>既設擁壁の天端面を外れた拡張部にアンカー材の頭部を固定すれば、既設擁壁の天端面を貫通させずにアンカー材を短時間で、かつ簡単に設置することができる。
<4>支柱に伝えられた衝撃力はアンカー材を通じて背面地盤に支持されるので、拡張支持層や既設擁壁の天端面に対して過大な応力が集中することがなくなり、拡張支持層や既設擁壁の上部の破損を効果的に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一部を省略した本発明の実施例1に係る擁壁用防護柵の正面図
図2図1に示した擁壁用防護柵の横断面図
図3図1に示した擁壁用防護柵の平面図
図4】擁壁用防護柵の構築方法の説明図
図5】擁壁用防護柵の構築方法の説明図
図6】擁壁用防護柵の支柱の立設部の拡大断面図
図7】アンカー材により位置決めした拡張支持層の断面図
図8】一部を省略した本発明の実施例2に係る擁壁用防護柵の支柱の立設部の拡大断面図
図9図8に示した擁壁用防護柵の平面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
【0012】
<1>もたれ式の既設擁壁
図1~3を参照して説明すると、もたれ式の既設擁壁10は斜面に設けた重力式擁壁であり、場所打ちコンクリート構造物やブレキャスト製コンクリートブロックの積層構造物等を含む。
本発明では、既設擁壁10の上部に防護柵20を設置するにあたり、既設擁壁10の天端面11上にコンクリート製の拡張支持層30を現場で増築し、この拡張支持層30を支持基盤として防護柵20の支柱21を立設する。
【0013】
<1.1>拡張支持層
拡張支持層30は支柱21を支持するためのモルタル製またはコンクリート製の基盤層であり、既設擁壁10の天端面11より幅広の拡張天端面31と、天端面11から斜面山側にはみ出した拡張部32とを有する。
図4に示すように拡張支持層30には、支柱21の立設位置に合わせて複数のアンカーボルト33を植設する。
必要に応じて、拡張支持層30に金属製または繊維製の補強材を埋設するか、短繊維または長繊維を混入する等して拡張支持層30を補強する。
【0014】
拡張支持層30の拡張部32には、拡張支持層30の長手方向に沿って複数の貫通孔35が開設してあって、各貫通孔35に挿通したアンカー材40によって拡張支持層30が位置決め可能である。
【0015】
<1.1.1>拡張支持層の全長
拡張支持層30は、既設擁壁10の天端面11に沿って連続して形成するが、支柱21の立設位置に合わせて拡張支持層30を部分的(完結的)に形成してもよい。
【0016】
<1.1.2>拡張支持層の層厚(図5
拡張支持層30の層厚は全長に亘って均一であり、実用上は400mmほどの層厚があれば十分である。
【0017】
<1.1.3>拡張支持層の奥行寸法(図6
既設擁壁10の天端面11の奥行幅をB、拡張支持層30の拡張天端面31の奥行幅をBとした場合、拡張天端面31の奥行幅は天端面11の奥行幅Bより大きい寸法関係にある。
このような寸法関係にするのは、既設擁壁10の天端面11の奥行幅Bを実質的に拡張するためである。
【0018】
拡張支持層30の奥行幅Bは天端面11の奥行幅Bに拡張部32の突出寸法(100~150mm程度)を加算した寸法となる。
すなわち、天端面11の奥行幅Bが例えば500mmである場合、拡張天端面31の奥行幅Bは600~650mmとなる。
【0019】
<1.2>アンカー材
アンカー材40は既設擁壁10の背面地盤Gに反力を得て拡張支持層30を位置決めするための定着部材である。
拡張支持層30の拡張部32に設けた貫通孔35を通じてアンカー材40を挿通する。
アンカー材40の定着長部の長さは現場に応じて適宜選択する。
アンカー材40には安価な棒鋼やグランドアンカー等の引張材を使用する。
【0020】
<1.3>アンカー材の定着位置(図3,6)
貫通孔35は拡張支持層30の任意の位置に設けてもよいが、既設擁壁10の天端面11の形成範囲に形成すると、天端面11にアンカー材40を挿通するための貫通孔を新たに穿孔しなければならない。
貫通孔35を斜面山側に延出した拡張支持層30の拡張部32に形成することで、アンカー材40を既設擁壁10の天端面11を避けて背面地盤Gに定着することができる。
拡張支持層30に対するアンカー材40の定着位置を斜面山側に偏倚させることで、拡張支持層30の水平移動を効果的に抑止できるだけでなく、拡張支持層30および支柱21の転倒抑止効果が向上する。
【0021】
<2>防護柵の概要
図1,2を参照して説明する。防護柵20は雪崩対策用、崩落土砂対策用または落石対策用の防護施設であり、使途に応じて適宜選択する。
防護柵20は、拡張支持層30に立設した複数の支柱21と、隣り合う支柱21間に設けた防護ネット25とを具備する。
なお、図1において、支柱21の頭部間に形状維持ロープ29を横架しているが、形状維持ロープ29は必須ではない。
【0022】
<2.1>支柱
支柱21は端末支柱、中間支柱、または中間端末支柱を含む。
支柱21は、支柱21の下部に一体に設けたベースプレート22を具備する。
支柱21を構成する支柱本体には、例えば、鋼管、コラム、モルタル充填鋼管、H鋼等の公知の支柱構造体を使用できる。
ベースプレート22は支柱21の断面形より大きい寸法の鋼板であり、溶接等により支柱21に一体に固着する。
ベースプレート22はその周縁部に複数のボルト孔22aを有している(図4)。
【0023】
<2.2>支柱の立設手段
拡張支持層30には、拡張支持層30を形成する際に複数のアンカーボルト33と単数または複数の支圧板34を埋設する(図5)。
アンカーボルト33の支持耐力を増すため、各アンカーボルト33の頭部が拡張支持層30内で支圧板34と固定している。
支柱21は拡張支持層30から上向きに突出した複数のアンカーボルト33とナット37によりベースプレート22を固定する。
なお、支圧板34の設置数は2枚に限定されず、適宜選択が可能である。
【0024】
<2.3>防護ネット
防護ネット25は、複数のロープ材26とネット材27とを少なくとも含む。
防護ネット25は公知の緩衝装置を追加して含んでもよい。
【0025】
本例では複数スパンに亘って横架可能なロープ材26と、菱形金網製のネット材27を組み合わせた形態を示す。
各ロープ材26の両端部は端末支柱または中間端末支柱に連結してあり、中間支柱21bと各ロープ材26の交差部は中間支柱が各ロープ材26をスライド移動が可能な状態に係留している。
さらに、多段的に設けた複数のロープ材26の間には、複数の間隔保持材28が取り付けてあって、ロープ材26の間隔を保持している。
防護ネット25の構成は崩落物の種類や崩落量等に応じて適宜選択する。
【0026】
[防護柵の構築方法]
つぎに既設擁壁10の上部に防護柵20を構築する方法について説明する。
【0027】
<1>下準備
図4に示すように、既設擁壁10の天端面11には、老朽化したコンクリート片、コケ類、融雪剤等の塩分等の異物が付着している場合が多い。
そこで、公知のケレン工具やブラシ等を用いてこれらの異物を除去して天端面11を綺麗に掃除する。
【0028】
<2>拡張支持層の形成
既設擁壁10の上部に型枠を組み立てる。
型枠内に支柱21の立設予定位置に合わせて支圧板34と複数のアンカーボルト33をセットした後、型枠内にモルタルまたはコンクリートを打設して拡張支持層30を構築する。
拡張支持層30を構築する際、拡張支持層30の拡張部32に箱抜き用パイプ材等をセットして貫通孔35を形成する(図7)。
拡張支持層30は既設擁壁10の上部の天端面11と比べて面積が拡張されているので、天端面11の面積の影響を受けずに拡張支持層30内に複数のアンカー材40を植設することができる。
【0029】
<2.1>調整層の形成
拡張支持層30の上面であって、支柱21の立設予定位置に無収縮モルタル製の調整層36を形成する(図4)。
実用上、調整層36の層厚は30mm程度でよく、調整層36の平面積はベースプレート22を着床可能な最小寸法でよい。
なお、調整層36は必須ではなく、省略される場合もある。
【0030】
<3>アンカー材の定着
拡張支持層30に沿って複数のアンカー材40を既設擁壁10の背面地盤Gに定着し、各アンカー材40の頭部に座金41をセットした後、固定ナット42を締め付けて拡張支持層30を固定する(図7)。
【0031】
アンカー材40を既設擁壁10の天端面11に貫通させて定着することも可能であるが、既設擁壁10を穿孔する作業は多くの時間と労力を必要とする。
そこで、既設擁壁10の天端面11を外れた拡張部32に貫通孔32を形成すれば、天端面11を貫通させずにアンカー材40を短時間で、かつ簡単に設置することができる。
【0032】
<4>防護柵の組み立て
以降の作業を経て拡張支持層30上に防護柵10を組み立てる。
【0033】
<4.1>支柱の立設
調整層36から真上に突出する各アンカーボルト33にナット37を締め付けてベースプレート22を固定して、拡張支持層30の所定位置に支柱21を立設する(図5,6)。
【0034】
<4.2>防護ネットの取付け
図1に示すように、拡張支持層30に立設した支柱21の間に複数のロープ材26を多段的に横架し、各ロープ材26の端部を端末支柱21aに固定する。
多段的に設けた複数のロープ材26の間に間隔保持材28を交差して取り付ける。
複数のロープ材26の斜面山側をネット材27で被覆して防護ネット25を組み立てる。
ロープ材26とネット材27の交差部は、コイル材23等で連結する。
【0035】
必要に応じて、各支柱21の頭部と斜面山側アンカーとの間、または各支柱21の頭部と斜面谷側アンカーとの間に控えロープ(図示省略)を接続する。
【0036】
[防護柵の自立構造]
つぎに防護柵20の自立構造について説明する。
【0037】
<1>既設擁壁の天端面と拡張支持層との関係
図1,2に示すように、防護柵20は、既設擁壁10の上部に形成した拡張支持層30の上面に自立可能に立設されている。
既設擁壁10の天端面11と拡張支持層30との関係に説明すると、拡張支持層30は既設擁壁10の天端面11に対して載置されているだけであって、拡張支持層30と天端面11の間を直接連結する部材は存在しない。
【0038】
<2>拡張支持層の固定手段
拡張支持層30は、拡張支持層30の斜面山側に偏倚して形成した貫通孔35を通じて背面地盤Gに定着した複数のアンカー材40により水平方向の変位が不能な状態で位置決めされていて、アンカー材40を通じて拡張支持層30と背面地盤Gとの間における荷重伝達が可能である。
【0039】
<3>拡張支持層と支柱の関係
防護柵20を構成する支柱21の下部と拡張支持層30との間は、複数のアンカーボルト33とナット37により剛結されていて、支柱21と拡張支持層30との間における荷重伝達が可能である(図6)。
【0040】
<4>受撃荷重の支持
図2において、斜面山側から落石等の崩落物Wが落下して防護柵20の防護ネット25に衝突すると、防護ネット25が谷側にはらみ変形しつつ、崩落物Wの運動エネルギーを吸収する。
防護ネット25に作用した衝撃力は、支柱21に伝えられる。
支柱21に伝えられた衝撃力は、拡張支持層30の下面と既設擁壁10の天端面11との当接面の摩擦抵抗および拡張支持層30に連結した複数のアンカー材40のせん断強度および引張強度によって支持される。
したがって、防護ネット25を経て最終的に支柱21に伝えられた衝撃力は、アンカー材40を通じて背面地盤Gに支持される。
そのため、拡張支持層30や既設擁壁10の天端面11に対して過大な応力が集中することがなくなり、拡張支持層30や既設擁壁10の上部の破損を効果的に回避することができる。
【0041】
<5>拡張支持層(支柱)の転倒モーメント
防護ネット25に衝撃力が作用すると、支柱21に半時計周りの転倒モーメントが作用する。
支柱21に作用した転倒モーメントはアンカーボルト33と支圧板34を介して拡張支持層30に伝えられる。
【0042】
拡張支持層30に半時計周りの転倒モーメントがはたらくと、設擁壁10の天端面11に当接する拡張支持層30の前端部Pを支点として回動しようとするが、拡張支持層30の後端部に設けたアンカー材40が拡張支持層30の回動を効果的に拘束する。
【0043】
アンカー材40の定着位置が支柱21の立設位置に対して斜面山側に偏倚しているため、アンカー材40の定着位置を支柱21の立設位置に合わせた形態と比べて、受撃時におけるアンカー材40の支持反力が小さくて済む。
【0044】
[実施例2]
以降に他の実施例について説明するが、その説明に際し、前記した実施例と同一の部位は同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0045】
<1>構成
図8,9を参照して、エンドプレート22の一部にアンカー材40の頭部を固定した他の形態について説明する。
先の実施例1では、拡張支持層30にアンカー材40の頭部を固定した形態について説明したが、支柱21のベースプレート22の斜面山側にアンカー材40の頭部を固定してもよい。
支柱21のベースプレート22の斜面山側にアンカー孔22bを形成し、アンカー孔22bおよび拡張支持層30の貫通孔35を通じてアンカー材40を挿通する。
アンカー材40の頭部は、座金41および固定ナット42を介してベースプレート22に固定する。
【0046】
<2>本例の効果
本実施例にあっては、先の実施例1と同様の効果が得られることの他に、支柱21のベースプレート22の斜面山側をンカー材40の頭部で固定したことで、支柱21の姿勢の安定性がさらに向上すると共に、支柱21の立設位置における拡張支持層30と既設擁壁10の上部の破損抑止効果が向上する。
【符号の説明】
【0047】
G・・・・・既設擁壁の背面地盤
10・・・・既設擁壁
11・・・・既設擁壁の天端面
20・・・・防護柵
21・・・・支柱
21a・・・端末支柱
21b・・・中間支柱
22・・・・ベースプレート
22a・・・ベースプレートのボルト孔
22b・・・ベースプレートのアンカー孔
23・・・・コイル材
25・・・・防護ネット
26・・・・ロープ材
27・・・・ネット材
28・・・・間隔保持材
29・・・・形状維持ロープ
30・・・・拡張支持層
31・・・・拡張天端面
32・・・・拡張支持層の拡張部
33・・・・アンカーボルト
34・・・・支圧板
36・・・・調整層
37・・・・ナット
40・・・・アンカー材
41・・・・座金
42・・・・固定ナット
【要約】
【課題】簡易な施工により既設の擁壁の天端面の真上に安定した姿勢で防護柵を構築できる擁壁用防護柵およびその構築方法を提供すること。
【解決手段】既設擁壁10の天端面上に現場で構築したコンクリート製の拡張支持層30と、拡張支持層30を貫挿して背面地盤Gに定着して、拡張支持層30を位置決めする複数のアンカー材40とを具備し、拡張支持層30は既設擁壁10の天端面11より幅広の拡張天端面31と、既設擁壁10の天端面11から斜面山側にはみ出した拡張部32とを有し、拡張支持層30の拡張部32の斜面山側の偏倚した位置にアンカー材40の頭部を固定して拡張支持層30を変位不能に位置決めし、拡張支持層30の拡張天端面31に支柱21の下部を着床させて立設した。
【選択図】図2
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図9