(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】木耳の波打ち傘部の平坦乾燥矯正方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20240625BHJP
A23B 7/02 20060101ALI20240625BHJP
A01G 18/61 20180101ALI20240625BHJP
A01G 18/65 20180101ALI20240625BHJP
【FI】
A23L19/00 101
A23B7/02
A01G18/61
A01G18/65
(21)【出願番号】P 2024011306
(22)【出願日】2024-01-29
【審査請求日】2024-02-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524043190
【氏名又は名称】株式会社中村建設
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】池▲崎▼ 一彦
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1631241(CN,A)
【文献】特開2005-058154(JP,A)
【文献】家庭で簡単 菌床栽培 楽し美味しい夏のキノコ,きのこ栽培塾[オンライン],[検索日 2024.05.09],2022年08月20日,インターネット: <URL : https://web.archive.org/web/20220820061500/https://www.rakuten.ne.jp/gold/drmori1/kinsyo_kikurage.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
Google
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程よりなることを特徴とする木耳の波打ち傘部の平坦乾燥矯正方法。
1)高圧滅菌処理をした菌床に木耳子実体を培養する工程。
2)木耳菌糸を培養した菌床を包皮する包装袋の一部を切開してスリットを形成する工程。
3)木耳子実体の成長に伴い成長した子実体の一部を包装袋の外方へスリットから突出させて外部に曝し、突出した木耳子実体が成長して可食部となる傘部を形成させる工程。
4)スリットから突出しない木耳は成長を抑制し、スリットから突出した木耳は外気と接して栄養を吸収して大きく成長する木耳の間引き作業を行う工程。
5)包装袋のスリットから外気に曝した傘部を石づきから切削分離する工程。
6)石づきから切削分離した木耳の傘部を水洗いする工程。
7)その後、2枚の多孔の扁平加工形成具間で木耳傘部を挟持して木耳の乾燥を行う工程。
8)乾燥条件下で、上下の扁平加工形成具によって木耳傘部の波打ち形状の捩じれを矯正して可及的に扁平形状に形成する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木耳の子実体が成長して形成する波打ち形状の傘部を乾燥時に可及的に平坦形状となるように矯正する木耳の傘部の平坦乾燥矯正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木耳は、クヌギの原木やおがクズを菌床として栽培する。特にこの際、菌床を合成樹脂フィルムで包装して特定の栽培温度を維持して子実体の成長を促進し、菌子実体が成長して可食部の傘部を形成していき、菌床から切離して乾燥調理材として市場に流通する。
【0003】
食用として市場に流通する木耳は、アラゲキクラゲ、ホンキクラゲ、シロキクラゲなどがある。このような木耳は、しいたけやマッシュルーム等の他のきのこ類とは異なり、傘部の表面層と裏面層が頑丈な表皮で形成され、表皮内の内部組織は、水分を十分に含んだゼラチン層よりなる。
【0004】
このような特徴の組織層が形成されるのが木耳の特徴であり、食する際に噛み応えが口内に十分に伝わり、食感や歯ざわりが良好となり、特に、裏面の微小な繊毛の密集により、調理時にしっかりと味が絡みやすく料理に重宝されている。他方、木耳の表面は繊毛が少ない平滑状であり厚みのある層となっており、食する際の舌触りや歯ごたえを良好とする食感を呈する。
【0005】
かかる木耳は、栽培時に傘部が縮れて波打ち形状となることは避けられず、乾燥時に何らかの手を加えないと扁平状の傘部となる木耳はほとんど存在しないのが現状である。
【0006】
かかる木耳の栽培環境は、菌類の特徴として春~秋にかけて、16℃~28℃の温度下で行われるのが良いとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、上記引用文献の乾燥方法によると、木耳の新鮮な風味や色調を保持することができるものの、次のような課題があった。
【0009】
すなわち、従来の木耳の乾燥方法では、木耳の傘部が乾燥処理により、外周縁部から内方に巻き込むように捩じれる波打形状となり、外観の意匠性が悪く、調理時の味が低下しやすく、また、食感が悪くなる等の問題があった。
【0010】
特に、乾燥した木耳を調理前に水に浸漬すると、吸水しにくく、食感に悪影響をあたえやすい。
【0011】
本発明では、木耳の組織の特性を勘案して木耳の可食部となる傘部の形状を矯正しながら乾燥処理を施すことにより、傘部のねじれを可及的に扁平状に矯正し、上記課題、特に料理機能や呈味機能や意匠性を各段に向上することができる木耳の波打ち傘部の平坦乾燥矯正方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、次の工程からなることを特徴とする。
1)高圧滅菌処理をした菌床に木耳子実体を培養する工程。
2)木耳菌糸を培養した菌床を包皮する包装袋の一部を切開してスリットを形成する工程。
3)木耳子実体の成長に伴い成長した子実体の一部を包装袋の外方へスリットから突出させて外部に曝し、突出した木耳子実体が成長して可食部となる傘部を形成させる工程。
4)スリットから突出しない木耳は成長を抑制し、スリットから突出した木耳は外気と接して栄養を吸収して大きく成長する木耳の間引き作業を行う工程。
5)包装袋のスリットから外気に曝した傘部を石づきから切削分離する工程。
6)石づきから切削分離した木耳の傘部を水洗いする工程。
7)その後、2枚の多孔の扁平加工形成具間で木耳傘部を挟持して木耳の乾燥を行う工程。
8)乾燥条件下で、上下の扁平加工形成具によって木耳傘部の波打ち形状の捩じれを矯正して可及的に扁平形状に形成する工程。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、以下の効果がある。すなわち、木耳の子実体を菌床で培養する際に菌床を高圧滅菌して雑菌等を除去することにより、培養する木耳への雑菌混入による成長阻害を防止し、最終的に木耳製品の衛生管理が容易となる効果がある。
【0014】
また、菌床を包皮する合成樹脂フィルムの包装袋の一部を切開してスリットを形成したことにより、いわゆる木耳の成長の調整を行うことになり、十分に成長した可食部位の傘部とすることができる効果がある。すなわち、生育調整を行わなければ、木耳の子実体が全体的に成長するため、それぞれの木耳が小さくなり、商品価値が低下する虞がある。本工程では、商品価値を高めるために行う生育調整を包装袋のスリット形成という簡易的な方法で行うことにより、生育調整作業を迅速容易に行うことができる。
【0015】
また、スリットから外部に曝した木耳本体は、外気と接することにより栄養分を十分に吸収することができ、特に呼吸の増加により菌床内の栄養素の吸収量が増加し、傘部が更に成長することにより酸素との接触面積をより拡大させることができる。一方で、包装袋の内部に残った木耳本体は、酸素が十分に存在しない為に呼吸と栄養吸収が阻害され、十分に成長することができない。このような理由により、スリット外部に曝した木耳本体は、他の木耳(包装袋内の木耳)に接触することなく傘部を大きく広げながら成長できるため、傘部の捩じれ現象を可及的に抑制し平坦形状の育成がしやすくなる効果がある。
【0016】
また、木耳本体を流水で水洗いし、天日等で乾燥する際、収縮する傘部を上下面から人工的な挟圧処理を施すことにより、木耳の傘部が可及的に扁平な形状になるという効果がある。
【0017】
また、可及的に扁平な傘部とした木耳は、平滑状となるために食する際に舌触りや歯ごたえがあり食感の向上に貢献する効果がある。
【0018】
また、木耳の可食部の傘部において、扁平の表面層と裏面層の間の中間層は、ゼラチン質であるために、扁平状で噛みつく時に表裏面層と相俟って食感や歯ざわりを十分に感じることができ料理の中での木耳の存在感を大いに出すことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】本発明に係る平坦乾燥矯正方法を説明する図である。
【
図3】本発明に係る平坦乾燥矯正方法を施した乾燥木耳を示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は側面図である。
【
図4】従来の乾燥法を施した乾燥木耳を示す説明図である。
【
図5】本発明に係る平坦乾燥矯正方法において、木耳を2枚の多孔の扁平加工形成具で挟持する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、
1)高圧滅菌処理をした菌床に木耳子実体を培養する工程。
2)木耳菌糸を培養した菌床を包皮する包装袋の一部を切開してスリットを形成する工程。
3)木耳子実体の成長に伴い成長した子実体の一部を包装袋の外方へスリットから突出させて外部に曝し、突出した木耳子実体が成長して可食部となる傘部を形成させる工程。
4)スリットから突出しない木耳は成長を抑制し、スリットから突出した木耳は外気と接して栄養を吸収して大きく成長する木耳の間引き作業を行う工程。
5)包装袋のスリットから外気に曝した傘部を石づきから切削分離する工程。
6)石づきから切削分離した木耳の傘部を水洗いする工程。
7)その後、2枚の多孔の扁平加工形成具間で木耳傘部を挟持して木耳の乾燥を行う工程。
8)乾燥条件下で、上下の扁平加工形成具によって木耳傘部の波打ち形状の捩じれを矯正して可及的に扁平形状に形成する工程。
よりなることを要部とする。
【0021】
以下、本発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。なお、
図1は、従来の木耳乾燥方法mの説明図である。
図2は、本発明に係る平坦乾燥矯正方法Mを説明する図である。
図3は本発明に係る平坦乾燥矯正方法Mを施した乾燥木耳K3を示し、より詳細には
図3(a)は乾燥木耳K3の平面図を示し、
図3(b)は乾燥木耳K3の側面図を示す。
図4は、従来の木耳乾燥方法mを施した乾燥木耳K1を示す説明図である。
図5は、本発明に係る平坦乾燥矯正方法Mにおいて、木耳K2を2枚の多孔の扁平加工形成具30で挟持する様子を示す説明図である。
【0022】
従来の木耳乾燥方法mは、
図1に示すように、菌床に高圧滅菌処理を施し(符号m1-1)、木耳の種菌を高圧滅菌処理された菌床に播種し(符号m1-2)、菌床を包皮した包装袋にスリットを形成(符号m1-3a)しつつ、スリットから木耳子実体を突出(符号m1-3b)させる生育調整工程(m1-3)を含む木耳培養工程(符号m1)と、成長した木耳を菌床から分離する切削分離工程(符号m2)と、自然乾燥又はおよび人工乾燥により乾燥させる乾燥工程(符号m3)により構成されている。
【0023】
このような従来の木耳乾燥方法mでは、
図4に示すように、乾燥させた乾燥木耳K1の傘部10が外周縁部から内方に巻き込むように捩じれる波打形状となりがちであり、外観の意匠性が悪く、味のしみやすさが低下し、食感を悪くする等の問題があった。
【0024】
一方で、本発明にかかる平坦乾燥矯正方法Mは、
図2に示すように、木耳培養の土台となる菌床を高圧滅菌して殺菌除菌処理する菌床の滅菌処理工程M1-1と、木耳の種菌を菌床に播種する種菌の播種工程M1-2と、菌床を包皮した包装袋にスリットを形成するスリット形成工程M1-3a、およびスリットから木耳子実体を突出させる子実体突出工程M1-3bよりなる生育調整工程M1-3と、を有する木耳培養工程M1を含む。
【0025】
また、木耳培養工程M1で所定の大きさに成長した木耳は、菌床から分離する切削分離工程M2を経て、水洗いする水洗い工程M3-1と、木耳を扁平状に矯正しつつ乾燥させる扁平形状矯正自然乾燥M3-2a、および人工乾燥M3-2bを段階的に行う乾燥工程M3-2とよりなる扁平形状矯正工程M3により、扁平形状に矯正される。
【0026】
上記の構成よりなる平坦乾燥矯正方法Mであれば、上述の従来の木耳乾燥方法mの問題を解決することができる。すなわち、
図3に示すように、可及的に扁平形状に矯正した乾燥木耳K3を提供することができる。
【0027】
菌床は、クヌギなどの広葉樹のおがクズに米糠や麦糠などを追加するなど、適宜公知の菌床原料を採用することができる。
【0028】
成形した菌床は、次の工程で摂取する木耳の種菌だけを成長させるために、高圧滅菌を行い雑菌の除去を行う(
図2中の菌床の滅菌処理工程M1-1)。高圧滅菌の手段としては、一般的に流通しているキノコ栽培用高圧滅菌窯を使用することができる。このように、菌床中の雑菌の除去を行うことにより、栽培成長する木耳への雑菌混入による成長阻害を防止し、最終的に木耳製品の衛生管理を容易にすることができる。
【0029】
高圧滅菌処理後の菌床に木耳の種菌を播種しつつ、菌床全体を合成樹脂フィルムからなる包装袋で包被する(
図2中の種菌の播種工程M1-2)。その後、温度と湿度を管理した培養舎にて木耳の菌糸体が十分に培養されるまで放置し、菌糸体の十分な培養を確認する。
【0030】
次の工程では、生育調整工程M1-3として、種菌の播種工程M1-2で菌床を包被した包装袋の所定箇所にスリットを形成する(
図2中のスリット形成工程M1-3a)。具体的には、菌床から発生した木耳の子実体Kの中でも特に大きく形状に優れたものが包装袋の外方へと突出させる位置にカッターでスリットを形成することにより、一層良好な形状と呈味性と食感を備えた木耳を得ることができる。
【0031】
スリットは、包装袋の外部に突出した木耳の子実体Kが成長過程で互いに接触しない程度の距離を保持できる位置に形成することが好ましい。仮に、成長過程で隣り合う木耳同士が接触した場合、隣接した木耳の傘部が互いに押し合う状態となり、接触した傘部が互いに波打ち形状となる。したがって、このようにスリットの形成位置に工夫を施すことにより、可及的に扁平な木耳を栽培することができる。
【0032】
スリットを形成し、一部の木耳の子実体を外方へ突出させることにより、木耳の生育調整が完了する(
図2中の子実体突出工程M1-3b)。すなわち、木耳は成長の過程で呼吸により酸素を取り込み、菌床から得た栄養素を分解して自身の成長に利用している。外方に突出した木耳の子実体は、酸素が豊富な環境に曝されるため、酸素と栄養素を十分に利用することができ、より一層大きく成長することができる。一方で、包装袋の内部に残った木耳は、酸素を満足に取り込めないため、酸素と栄養素の利用が阻害され十分に成長することができなくなる。
【0033】
したがって、菌床を包皮する包装袋の所定箇所にスリットを形成して、一部の木耳の子実体を外方へ突出させることにより、木耳の傘部を大きく扁平状に成長させることができ、商品価値として優れた木耳を栽培することができる。
【0034】
スリットから包装袋の外方に突出させた木耳のうち、所定のサイズ(特に限定するものではないが、傘部の左右幅が10cm程度)に成長した木耳の石づきを切削し、菌床から分離する(
図2中の切削分離工程M2)。
【0035】
次いで、菌床から分離した木耳を乾燥させると共に扁平形状に矯正する(
図2中の扁平形状矯正工程M3)処理を行う。この扁平形状矯正工程M3では、まず、菌床から分離した木耳を流水で水洗いする(
図2中の水洗い工程M3-1)。
【0036】
水洗いされた木耳は、
図5に示すように、扁平加工形成具30を用いて扁平形状に加工矯正される。
【0037】
扁平加工形成具30は、例えば、エビラ31と、合成樹脂をメッシュ状に加工した滑り止めシート35とを使用する。
図5に示すように、エビラ31は、平面視において、略方形状の枠体32と、対向する枠体32間に扁平状の板体を架設して格子状に設けた格子体33を有する。枠体32および格子体33は、一体に形成されており、これらは、ステンレス製の素材で形成されている。
【0038】
二枚の上下エビラ31、31’間に水洗いした巻き木耳を展開状態に拡げて挟持する。この際、エビラ31、31’間には滑り止めシート35、35’を設け、上下の滑り止めシート35、35’の間に展開状態の巻き木耳を挟み、更に上下滑り止めシート35、35’を二枚の上下エビラ31、31’で挟持した状態で天日乾燥することで展開状態の木耳K2を形成できる。
【0039】
しかも、滑り止めシート35をポリ塩化ビニルなどの弾力のある合成樹脂で形成して展開状態の木耳K2を上下から挟持することにより、乾燥工程時において木耳の傷や折損を防ぐことができる。また、弾力のある素材よりなる滑り止めシート35が優しく包みながらエビラ31による挟持力を木耳K2に伝達するため、乾燥に伴う木耳K2の傷や折損を防ぎつつ傘部の波打ち形状の捩じれを矯正し、可及的に扁平状に広がった乾燥木耳K3を製造することができる。
【0040】
このように木耳を並べて乾燥させるステンレスからなる扁平加工形成具30では、エビラ31の天井面34や、エビラ31’の底面34’には滑り止めシート35、35’を張り付けて天井面34と底面34’に面する木耳の上面や下面を乾燥させることができる。
【0041】
このように扁平加工形成具30で矯正状態にある木耳K2は、自然乾燥と人工乾燥を段階的に行う乾燥工程M3-2を施される。乾燥工程M3-2では、まず自然乾燥にてゆっくりと乾燥処理される(
図2中の符号M3-2a)。自然乾燥は、例えば、天日乾燥や陰干しなどから自由に選択することができる。自然乾燥する時間は特に限定されるものではなく、木耳が所望の水分含量になるのであれば数時間~数日にわたって行うことができる。
【0042】
自然乾燥又は人工乾燥は、主に木耳の縮れの矯正を行うための工程であり、形状矯正された状態で乾燥させることにより、木耳の表面が硬化して縮れを防止できる。また、天日乾燥を施した木耳は、ビタミンDをより生成することができる。
【0043】
次に、人工乾燥によって木耳の水分含量を更に減らす(
図2中の符号M3-2b)。人工乾燥は、例えば、食品乾燥機を用いた温風乾燥、冷風乾燥、真空凍結乾燥、遠赤外線乾燥、近赤外線乾燥などから自由に選択することができる。
【0044】
人工乾燥で木耳の水分含量を更に減らすことにより、矯正された木耳の扁平形状を堅牢に保持できると共に、変色やカビの発生などによる品質の劣化を確実に防ぐことができる。
【0045】
このように扁平加工形成具30で挟圧矯正した木耳を自然乾燥、人工乾燥の順で水分含量を減少させることにより、以下の作用効果を奏する。
【0046】
すなわち、木耳を所望の形状に矯正すると共に、時間をかけてゆっくりと乾燥させる自然乾燥と、短時間で更に乾燥させる人工乾燥とを順に行うことにより、段階的に水分含量を低下させることができる。これにより、急激な水分含量の低下による表面の折曲がりや湾曲を防ぐことができる。また、カビの発生や変色などによる品質の劣化を確実に防ぐことができる。
【0047】
上述する木耳の波打ち傘部の平坦乾燥矯正方法Mによれば、可及的に扁平形状の乾燥木耳を提供することができる。しかも、この乾燥木耳は、調理する際に水に浸漬して元に戻しても扁平形状を保持しているため、等間隔に切断することが容易であり、また、そのまま使えば料理の美観に貢献する食材として使用することができる。
【0048】
本発明者らは、本発明に係る平坦乾燥矯正方法Mで処理した乾燥木耳K3を調理した際に、呈味性や食感が従来の乾燥木耳K1と比して良好であることを明らかにしている。この理由は明確ではないが、発明者らは、
図3(b)に示しているように、本発明に係る平坦乾燥矯正方法Mで処理した乾燥木耳K3の裏面層に繊毛20が多く残っていることが、呈味性や食感を良好にしているものと考えている。すなわち、従来の木耳乾燥方法mは、乾燥工程時に木耳がエビラ上を摺動したり人工乾燥時の強風に曝されることで繊毛20が木耳の裏面層から剥がれ落ちるのに対し、本発明に係る平坦乾燥矯正方法Mは、2枚の扁平加工形成具30で木耳を上下から挟圧しているため、摺動したり、強風に曝される際の影響が可及的に低減され、繊毛20の剥がれ落ちを防止している。
【0049】
また、木耳の波打ち傘部の平坦乾燥矯正方法Mによる木耳の呈味機能への影響について、実施例を参考にしながら詳細に説明する。
【実施例】
【0050】
以下、本発明に係る木耳の波打ち傘部の平坦乾燥矯正方法Mで乾燥させた木耳の官能試験について詳しく説明する。官能試験は、下記2種のサンプルで行った。
(1)サンプルA:本発明に係る平坦乾燥矯正方法M(
図2を参照)で乾燥させたアラゲキクラゲを食塩水で戻したサンプル。
(2)サンプルB:従来の木耳乾燥方法m(
図1を参照)で乾燥させたアラゲキクラゲを食塩水で戻したサンプル。
また、比較対象として、塩味をつけた生のアラゲキクラゲ(以下、単に「比較対象群」と称する。)を用意した。
【0051】
(1-1.サンプルAの調製)
アラゲキクラゲは、菌傘の直径が10cm前後に成長したものを収穫し、可食部(菌傘)と非可食部(石突等)と分離する。可食部100gを洗浄桶にとり水道水で洗浄して、水切りを行った。
【0052】
扁平加工形成具30でアラゲキクラゲの傘部を上下両側から挟圧し、天日乾燥を48時間行った。天日乾燥を経たアラゲキクラゲの重量は30gであった。
【0053】
次いで、扁平加工形成具30で挟圧矯正した状態のアラゲキクラゲを温風乾燥機に収納して人工乾燥処理を行った。人工乾燥処理では、60℃の温風を6時間にわたってアラゲキクラゲに吹き付けた。人工乾燥処理を経たアラゲキクラゲの重量は15gであった。
【0054】
次いで、990mLの水道水(25℃)に食塩10gを入れ、1%食塩水を調製した。同食塩水にアラゲキクラゲを浸漬し、1時間後に取り出し、水分を十分拭き取った。
【0055】
(1-2.サンプルBの調製)
サンプルAと同条件で可食部100gのアラゲキクラゲを用意し、浸漬処理をすることなく、水で洗浄して十分に水切りを行った。アラゲキクラゲをエビラ31に載置し、温風乾燥機に収納し、60℃の温風を24時間にわたってアラゲキクラゲに吹き付けた。乾燥処理後のアラゲキクラゲの重量は15gであった。
【0056】
次いで、990mLの水道水(25℃)に10gの食塩を入れ、1%食塩水を調製した。同食塩水にアラゲキクラゲを浸漬し、1時間後に取り出し、水分を十分拭き取った。
【0057】
(1-3.比較対象群の調製)
サンプルAと同条件で100gのアラゲキクラゲを用意し、浸漬処理をすることなく、水で洗浄し十分に水切りを行った。アラゲキクラゲに1gの食塩を振りかけてもみ込み、1時間放置した。
【0058】
(2.官能試験)
官能試験は、食品のOEM製造を行う事業所内にて長年にわたり商品試作や官能評価に携わる5名をパネリストとして選定し、上記の方法で調製したサンプルの食感や味について評価した。
【0059】
被験サンプルの内容は、比較対象群のみパネリストに対して開示し、その他のサンプルの内容は非開示とした。パネリストは、摂取したサンプルAおよびサンプルBが比較対象群と比較して食感と味が異なるか否かについて評価を行った。なお、食感と味の基準について確認が必要な時は、各パネリストは適宜比較対象群を摂取することを許可された。
【0060】
その結果を表1、2に示す。なお、表1は食感についての結果を示し、表2は味についての結果を示している。なお、各試験は、比較対象群と比較して「非常に劣る」、「劣る」、「同じ」、「優れる」、「非常に優れる」の5段階で評価し、表中の数字はその評価をした人数を示す。
【0061】
【0062】
【0063】
表1、表2に示すように、サンプルAの食感と味は、共にサンプルBよりも優れている結果となった。特に、味に関しては、サンプルAの方が比較対象群よりも優れているという判断をしたパネリストが多くみられた。
【0064】
このような結果となった理由は明らかではないが、本発明者は、扁平加工形成具30でアラゲキクラゲの形状を矯正することで傘部の表面層、裏面層、その間の内部空間組織が過剰に捩じれることを防ぐことで食感の向上に関与していると考えている。すなわち、サンプルBでは乾燥におけるキクラゲ組織の過剰な崩壊が食感を損なう原因となっており、サンプルAはその点を改善しているものと考えている。
【0065】
また、味に関しては自然乾燥を経ることによってアラゲキクラゲ中のタンパク質分解酵素がタンパク質に働きかけて旨味成分となるアミノ酸を生成することに加え、扁平加工形成具30によってアラゲキクラゲの過剰な変形(表裏層や内部構造の崩壊)を抑制するため、水に浸漬して元に戻す際に浸漬水が過剰に吸収されることと、旨味成分や香り成分等が浸漬水中に流出することとを防いでいるためであると考えている。
【0066】
したがって、本発明に係る木耳の波打ち傘部の平坦乾燥矯正方法によれば、意匠性、食感および味に優れる乾燥木耳を提供できる。
【0067】
なお、本発明は上述した実施形態に限られず、上述した実施形態の中で開示した各構成を相互に置換したり組合せを変更したりした構成、公知発明並びに上述した実施形態の中で開示した各構成を相互に置換したりした構成、等も含まれる。また、本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【符号の説明】
【0068】
M 平坦乾燥矯正方法
m 木耳の従来の乾燥方法
K1 従来の乾燥方法で乾燥させた木耳
K2 水に浸漬した木耳
K3 本発明に係る乾燥方法で乾燥させた木耳
10 傘部
20 繊毛
30 扁平加工形成具
31 エビラ
32 枠体
33 格子体
34 天井面
34’底面
35 滑り止めシート
【要約】
【課題】木耳の組織の特性を勘案して木耳の可食部となる傘部の形状を矯正しながら乾燥処理を施すことにより、傘部のねじれを可及的に扁平状に矯正し、上記課題、特に料理機能や呈味機能を各段に向上することができる木耳の波打ち傘部の平坦乾燥矯正方法を提供する。
【解決手段】木耳の波打ち傘部の平坦乾燥矯正方法は、次の工程からなることを特徴とする。菌床に木耳子実体を栽培する工程。菌床の一部にスリットを形成する工程。スリットから成長した子実体の一部を包装袋の外方へ突出させる工程。木耳の間引き作業を行う工程。木耳の傘部を石づきから切削分離する工程。木耳の傘部を水洗いする工程。2枚の多孔の扁平加工形成具間で木耳傘部を挟持して木耳本体の乾燥を行う工程。乾燥条件下で、上下の扁平加工形成具によって木耳傘部の波打ち形状の捩じれを矯正して可及的に扁平形状に形成する工程。
【選択図】
図2