IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社I-deate&eng.の特許一覧

<>
  • 特許-構造性能評価装置 図1
  • 特許-構造性能評価装置 図2
  • 特許-構造性能評価装置 図3
  • 特許-構造性能評価装置 図4
  • 特許-構造性能評価装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】構造性能評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20240625BHJP
   G01M 7/02 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01M7/02 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024049994
(22)【出願日】2024-03-26
【審査請求日】2024-04-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523130914
【氏名又は名称】株式会社I-deate&eng.
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 順平
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-018111(JP,A)
【文献】特開2020-101431(JP,A)
【文献】特開2014-141873(JP,A)
【文献】特開2016-095180(JP,A)
【文献】特開2017-167883(JP,A)
【文献】田端 千夏子、大橋 好光,「微動測定とその耐震診断への応用の可能性-木造建築物の耐震診断法に関する研究 その2-」,日本建築学会構造系論文集,第616号,2007年06月,p.141-147
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/00-7/02
G01M 99/00
G06Q 50/08
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床に対して鉛直方向に立設される複数の構造部材を備える構造物の構造性能評価装置であって、
前記構造物であって評価対象とされる対象構造物の新築又は改修の施工過程の複数段階において前記対象構造物に設置された第1センサによって、前記施工過程の前記複数段階ごとに測定された常時微動による物理量又は測定された前記物理量に基づいて算出された物理量と、測定又は算出された前記物理量に対応付けられた、前記施工過程の前記複数段階ごとに算出された構造性能指標との対応情報が記録された記憶部と、
前記対象構造物の完成後において前記対象構造物に設置される第2センサによって測定された常時微動による物理量を取得する物理量取得部と、
前記物理量取得部によって取得された前記物理量と、前記記憶部に記録された前記対応情報に基づいて、前記第2センサによって前記物理量が測定されたときの前記対象構造物の構造性能指標である換算構造性能指標を算出する指標算出部と、
を備える構造性能評価装置。
【請求項2】
前記構造部材は、鉛直部材であり、
前記対象構造物は、前記鉛直部材が順に組み立てられることにより構築され、
前記第1センサによって測定される前記物理量は、複数の前記鉛直部材の数が異なる前記施工過程ごとに測定され、
測定された前記物理量に対応付けられた前記構造性能指標は、前記施工過程ごとに算出された値であり、
前記対応情報において、前記施工過程ごとに測定された前記物理量は、前記施工過程ごとの前記構造性能指標と対応付けられている請求項1に記載の構造性能評価装置。
【請求項3】
前記施工過程の前記複数段階は、前記対象構造物の水平力を負担する耐震要素が設置されていない段階と、前記耐震要素が設置された段階とを含む請求項1に記載の構造性能評価装置。
【請求項4】
前記記憶部に記録された前記対応情報の前記物理量は、前記第1センサによって測定された加速度、速度若しくは変位、又は、測定された前記物理量に基づいて算出された加速度、速度、変位、時刻歴データの二乗平均平方根若しくは時刻歴データの二乗平均平方根の増幅率である請求項1に記載の構造性能評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造性能評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新築又は既存の構造物について、構造性能を診断する診断技術が知られている。この診断技術としては、例えば、構造ヘルスモニタリングと呼ばれるものがある。構造ヘルスモニタリングでは、構造物にセンサが設置されて振動等の物理量が観測され、観測された物理量に基づいて、構造性能が算出される。
【0003】
例えば、特許文献1では、地震時の建物応答及び入力地震動を加速度センサによって計測し、残余耐震性能(建物にどの程度の地震まで耐えうる性能が残っているか)を判定して表示する技術が開示されている。この技術では、建物の性能曲線と要求曲線が求められ、それらの性能曲線と要求曲線の比較から残余耐震性能が判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-344213号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】日経ホームビルダー熊本地震取材班,“「2000年基準」も3~4割大被害、筋かい破断など多発 検証・熊本地震住宅倒壊(中)”,[online],2016年6月7日,日本経済新聞,[2024年3月18日検索],インターネット<URL:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO02757460V20C16A5000000/>
【文献】山田明,金野章子,“軸組木造住宅の常時微動特性に関する一分析”,日本建築学会技術報告集,一般社団法人日本建築学会,2021年10月,第27巻,第67号,p.1225-1230
【文献】鈴木有,安田雄三,“ある在来構法木造建物の建設過程における振動特性の変化”,日本建築学会北陸支部研究講演梗概集,社団法人日本建築学会,昭和60年6月,p.49-52
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、性能曲線の延長上にある建物の限界変形点が、本震の5%減衰での要求曲線に対して内側にあれば余震(通常、余震は本震を上回らないとされている)に対して危険と判断され、外側にあれば安全と判断される。
【0007】
したがって、要求曲線が耐震性の基準として用いられているが、要求曲線は解析条件によって変動する。耐震性が診断される各構造物は、地盤、材料の品質、施工の品質などが様々であり、これらの解析条件を各構造物において正確に反映して、信頼性の高い基準(要求曲線)を算出することは困難である。よって、要求曲線を基準とした耐震性の診断では、明確な結果を得られていない。
【0008】
他方、構造物は、木造構造物と非木造構造物(例えばRC造、SRC造など)に大きく分けることができるが、木造構造物と非木造構造物の両者では、損傷のメカニズムが根本的に異なる。しかし、従来の耐震性の判定基準では、木造構造物と非木造構造物に分けられておらず、それぞれに対して判定基準が設けられたものがない。非木造構造物では、従来の耐震基準を満たしていれば、大破や倒壊に到るケースはほとんどない。これに対して、非特許文献1で報告されているように、木造構造物の場合、2000年以降の新耐震基準を満たしていたとしても、大破や倒壊に至るケースがある。
【0009】
したがって、木造構造物に対して、地震後の損傷が適切に評価される技術が求められているといえる。適切な評価技術が確立されれば、居住者の避難、構造物の補修や補強などの必要な対応につなげることができる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、地震などの要因によって構造性能の影響を受けた構造物の構造性能を適切に評価することが可能な構造性能評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の構造性能評価装置は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係る構造性能評価装置は、床に対して鉛直方向に立設される複数の構造部材を備える構造物の構造性能評価装置であって、前記構造物の新築又は改修の施工時において前記構造物に設置された第1センサによって測定された常時微動による物理量と、測定された前記物理量に対応付けられた構造性能指標との対応情報が記録された記憶部と、前記構造物の完成後において前記構造物に設置される第2センサによって測定された常時微動による物理量を取得する物理量取得部と、前記物理量取得部によって取得された前記物理量と、前記記憶部に記録された前記対応情報に基づいて、前記第2センサによって前記物理量が測定されたときの前記構造物の構造性能指標である換算構造性能指標を算出する指標算出部とを備える。
【0012】
上記発明において、前記第1センサによって測定される前記物理量は、複数の前記構造部材の数が異なる施工過程ごとに測定され、測定された前記物理量に対応付けられた前記構造性能指標は、前記施工過程ごとに算出された値であり、前記対応情報において、前記施工過程ごとに測定された前記物理量は、前記施工過程ごとの前記構造性能指標と対応付けられてもよい。
【0013】
上記発明において、前記構造部材は、鉛直部材であり、前記構造物は、前記鉛直部材が順に組み立てられることにより構築され、前記第1センサによって測定される前記物理量は、複数の前記鉛直部材の数が異なる施工過程ごとに測定され、測定された前記物理量に対応付けられた前記構造性能指標は、前記施工過程ごとに算出された値であり、前記対応情報において、前記施工過程ごとに測定された前記物理量は、前記施工過程ごとの前記構造性能指標と対応付けられてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、地震などの要因によって構造性能の影響を受けた構造物の構造性能を適切に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る構造性能評価装置を示すブロック図である。
図2】仮想事例における耐震等級と実測固有振動数の関係を示すグラフである。
図3】施工過程の各段階の構造物を示す概略図である。
図4】物理量の測定及び耐震指標の記録を示すフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態に係る構造性能評価装置の使用方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の一実施形態に係る構造性能評価装置1について、図面を参照して説明する。
【0017】
本実施形態に係る構造性能評価装置1は、構造物において測定される常時微動による物理量、例えば、加速度、固有振動数などに基づいて、構造物の構造性能、例えば耐震性を評価する。本実施形態では、評価対象とされる構造物(以下「対象構造物」という。)において常時微動による物理量を測定して構造物の構造性能(以下「耐震性」という。)を評価する際、対象構造物の新築又は改修の施工時に測定された物理量と、その物理量に対応付けられた構造性能指標(以下「耐震指標」という。)との対応情報を用いることから、完成後の対象構造物の耐震性を適切に評価できる。そして、構造物ごとに適切な評価結果が得られることから、対象構造物が地震等の影響を受けた場合、居住者の避難、構造物の補修や補強などの必要性を判断できる。
【0018】
構造性能評価装置1は、耐震指標の算出において耐震性に寄与する要素(以下「耐震要素」という。)が鉛直部材である構造物を評価対象とする。ここで、耐震要素は、床に対して鉛直な面内に立設される構造部材であり、例えば壁及び筋交いである。また、後述するとおり、施工過程の複数段階で耐震指標を算出することから、対象構造物は、床、柱、梁、屋根、壁、筋交いなどが順に組み立てられることによって構築される構造物である。さらに、対象構造物は、新築時において耐震要素を新設する前段階と後段階、又は、改修時において耐震要素を追加する前段階と後段階で、現場に設置されている耐震要素に基づいて各々耐震指標を計算できる構造物である。耐震指標とは、耐震要素に基づいて計算によって算出される耐震性のことをいう。これらの条件を満たす、対象構造物は、例えば、木造構造物などである。
【0019】
耐震指標の算出は、既存の計算方法によって実施可能である。本実施形態において適用可能な計算方法は、(i)建築基準法施行令46条による壁量計算、(ii)住宅の品質確保の促進等に関する法律による性能表示壁量計算、(iii)建築基準法施行令82条の6による許容応力度等計算、(iv)一般診断法又は精密診断法(一般財団法人日本建築防災協会)などがある。
【0020】
また、耐震指標は、既存の耐震指標を用いることが可能である。耐震指標は、例えば、存在壁量/必要壁量、耐震等級、許容応力度等計算における鉛直構面のせん断力検定比、上部構造評点などである。これらの耐震指標は、上述した計算方法から算出可能である。
【0021】
構造性能評価装置1は、単一のパーソナルコンピュータでもよいし、単一又は複数のコンピュータからなるサーバ装置でもよいし、クラウドシステムでもよい。構造性能評価装置1は、図1に示すように、例えば、記憶部2と、制御部3と、入力部4と、出力部5と、送受信部6などを備える。入力部4は、例えば、キーボード、マウス、タッチパッドなどであり、ユーザによる操作を受け付ける。出力部5は、例えば、ディスプレイ、プリンタなどであり、ユーザによって入力された内容や評価結果等が表示されたり印刷されたりする。送受信部6によって、センサからセンサで測定されたデータが受信されたり、評価結果等が外部のコンピュータ等に送信されたりする。
【0022】
記憶部2は、ROM又はRAM等によるメモリであり、主記憶装置である。記憶部2には、構造物の新築又は改修の施工時において構造物に設置された第1センサ11によって測定された常時微動による物理量又は測定された物理量に基づいて算出された物理量と、測定又は算出された物理量に対応付けられた耐震指標との対応情報が記録されている。
【0023】
図3及び図4を参照して記憶部2に記録されている物理量と耐震指標との対応情報について説明する。
物理量は、構造物20の新築又は改修の施工時において構造物20に設置された第1センサ11(図3参照)によって測定される(ステップS11)。測定される物理量は、加速度、速度、変位、固有振動数などであり、第1センサ11は、加速度センサ、速度センサ、変位センサ、振動センサなどである。なお、記憶部2に記録される対応情報における物理量は、第1センサ11によって測定された測定値でもよいし、測定値に基づいて算出された算出値でもよい。算出値は、例えば、測定された加速度から導かれた固有振動数、速度若しくは変位、測定された速度から導かれた加速度若しくは変位、又は、測定された変位から導かれた加速度若しくは速度などである。また、算出値は他に、例えば、測定された加速度から算出された速度や変位から計算される時刻歴データの二乗平均平方根(RMS)又はその増幅率などである。
【0024】
第1センサ11によって測定される物理量は、耐震性を発揮している構造部材の数、例えば壁の数が異なる施工過程の複数の段階で測定される。例えば、図3に示すように、壁に用いられる構造用合板21及び筋交い22が設置されていない状態の第1段階(例えば耐震要素0%,図3(A)参照)、全体の約半数の構造用合板21及び筋交い22が設置された第2段階(例えば耐震要素50%,図3(B)参照)、全ての構造部材が設置された第3段階(例えば耐震要素100%,図3(C)参照)のそれぞれで第1センサ11によって物理量が測定される。
【0025】
また、記憶部2に記録される耐震指標は、施工過程の各段階での物理量に対応付けられた耐震指標である。すなわち、耐震指標は、施工過程の複数の段階ごとに算出される(ステップS12)。上記の例では、施工されている壁の位置及び数に基づいて、耐震要素0%、50%、100%それぞれで耐震指標が算出される。
【0026】
記憶部2に記録されている対応情報において、施工過程ごとに測定された物理量は、施工過程ごとの耐震指標と対応付けられている。記憶部2において、施工過程ごとに測定された物理量、物理量に対応付けられた施工過程ごとの耐震指標、及び、構造物20を特定するための識別子などが記録される(ステップS13)。
【0027】
制御部3は、CPUなどである。構造性能評価装置1は、プログラムによって各種の機能が実現される。構造性能評価装置1は、ネットワークに接続されてWebブラウザを介してアプリケーションが実行されてもよいし、コンピュータにアプリケーションがインストールされて実行されてもよい。
【0028】
制御部3は、物理量取得部7と、指標算出部8と、判断部9等を有する。
物理量取得部7は、第2センサ12(図3(D)参照)によって測定された常時微動による物理量を取得する。なお、図3(D)は、耐震要素100%の第3段階を示した図3(C)に対して、内装材や外装材等が更に設置された状態を示している。取得される物理量は、加速度、固有振動数などである。第2センサ12は、第1センサ11に対応して、加速度センサ、振動センサなどである。第2センサ12は、構造物20の完成後において構造物20に設置され、第2センサ12で測定された物理量が物理量取得部7へ送られる。第2センサ12は、構造物20において、常時設置されてもよいし、構造物20の耐震性評価で必要となる測定時のみに一時的に設置されてもよい。第2センサ12が常設されている場合、構造性能評価装置1は、常時微動計測における耐震性能の評価装置として使用可能である。
【0029】
指標算出部8は、物理量取得部7によって取得された物理量と、記憶部2に記録された対応情報に基づいて、第2センサ12によって物理量が測定されたときの構造物20の耐震指標である換算耐震指標を算出する。以下、指標算出部8によって算出された耐震指標を「換算耐震指標」という。なお、指標算出部8が換算耐震指標を算出する際の物理量は、第2センサ12によって測定された測定値でもよいし、測定値に基づいて算出された算出値でもよい。算出値は、例えば、測定された加速度から導かれた固有振動数などである。また、算出値は他に、例えば、測定された加速度から算出された速度や変位から計算される時刻歴データの二乗平均平方根(RMS)の増幅率などである。
【0030】
指標算出部8によって算出された換算耐震指標は、出力部5によって出力されたり、送受信部6を介して外部のコンピュータ等に送信されたりする。
【0031】
判断部9は、指標算出部8によって算出された換算耐震指標に基づいて、評価対象とされる構造物20が目標とする耐震指標を満たしているか否かを判断する。判断された結果は、出力部5によって出力されたり、送受信部6を介して外部のコンピュータ等に送信されたりする。
【0032】
次に、図5を参照して本実施形態に係る構造性能評価装置1の使用方法について説明する。
上述したとおり、記憶部2には、構造物20の新築又は改修の施工時において構造物20に設置された第1センサ11によって測定された物理量又は測定された物理量に基づいて算出された物理量と、測定された物理量に対応付けられた耐震指標との対応情報が記録されている。
【0033】
評価対象とされる構造物20については、記憶部2において、構造物20を特定するための識別子と関連づけて、上述した物理量と耐震指標の対応情報が記録されている。
【0034】
まず、図3(D)に示すように、評価対象とされる構造物20において、第2センサ12を設置する(ステップS21)。このとき、第2センサ12は、構造物20の新築又は改修の施工時において物理量を測定して記録するために設置した第1センサ11と同一位置に設置される。
【0035】
構造物20に第2センサ12が設置された後、第2センサ12によって物理量の測定を開始し、所定の期間、物理量を取得する(ステップS22)。そして、取得された物理量と、記憶部2に記録された対応情報に基づいて、構造物20の換算耐震指標を算出する(ステップS23)。
【0036】
なお、一般的な新築の施工過程の場合、耐震要素を設置した後、内装材及び外装材を設置するため、第1センサ11の測定時のほうが構造物20の重量が小さい。そこで、施工過程の複数の段階で第1センサ11による物理量と対応付ける耐震指標は、内外装含めた完成後の重量で計算して算出されてもよい。この場合、物理量と対応付けられた耐震指標は、より大きな地震力に対する耐震指標となる。これにより、構造物20が完成した後、第2センサ12によって物理量が測定されたときの換算耐震指標は安全側の評価となる。
【0037】
評価対象とされる構造物の耐震指標の算出において、水平力は、耐震要素(例えば壁や筋交い)が負担し、柱は水平力を負担しないという前提がある。また、耐震要素が負担する水平力は、耐震要素の長さ×壁倍率に基づいて計算される(一次関数)。さらに、耐震要素と接合部の関係について、地震時に耐震要素の破壊で構造物が終局になるように接合部が設計されている。よって、耐震要素の増加に応じて、耐震指標は一次関数的に増加し、耐震要素の減少に応じて、耐震指標は一次関数的に減少する。以上から、記憶部2に記録されている対応情報を用いて、物理量と耐震指標の関係から、第2センサ12によって物理量が測定されたときの換算耐震指標を算出できる。なお、本実施形態で示した図2に示した例では、測定時に算出される耐震指標は、B点からC点の間で一次関数で近似し、近似して得られた一次関数を用いて、完成後の換算耐震指標を算出している。
【0038】
目標とする耐震指標が予め設定されている場合は、算出された換算耐震指標に基づいて、構造物20が目標とする耐震指標を満たしているか否かを判断する(ステップS24)。
【0039】
算出された換算耐震指標が目標とする耐震指標を満たしているか否かの判断結果は、換算耐震指標と共に、出力部5によって出力されたり、送受信部6を介して外部のコンピュータ等に送信されたりする(ステップS25)。
【0040】
以下、仮想的な事例に基づいて、耐震指標及び換算耐震指標の算出方法を説明する。
【0041】
まず、新築時の施工過程において、第1センサ11によって3回に分けて物理量(本事例では固有振動数)を測定し、各段階での耐震指標(本事例では耐震等級)を算出すると、下記の表1,表2及び図2に示すような対応情報が得られる。
【0042】
【表1】
【表2】
【0043】
その後、完成後の構造物に対する耐震評価では、2回の地震(震度5強、震度7)の影響を受けて、算出された換算耐震指標である換算耐震等級が1近傍になっている(b点)。この状態は、新築時の施工段階における耐震要素50%の状態に近い。したがって、耐震要素が50%程度足りない状況になっているといえる。仮に、耐震等級が更に低く算出された場合は、耐震要素が50%未満となって、壁や筋交いによる水平力の保持が行われず、柱だけの状態に近くなっているといえる。
【0044】
一般に、地震の被害統計から耐震等級2の場合でも構造物が倒壊に至る可能性があることが知られている。そこで、補強工事を実施し、再度測定を行う。補強による目標の耐震等級が3の場合(c点)、測定結果によって算出される耐震等級が3になっていれば、補強が完了していることを確認できる。他方、耐震等級が3になっていなかった場合は、目標とする耐震等級までに足りない数値に応じて追加の補強が必要か否かを判断できる。
【0045】
構造物は、内外装材などによって構造部材が覆われているため、見た目では地震による被害の程度が分からない。本実施形態によれば、測定された物理量に基づいて、換算耐震指標が算出されるため、新築時の施工過程のどの段階に近いかどうかを数値で確認できる。
【0046】
地震などを経験した後、対象構造物に対する耐震評価において、対象構造物が目標とする耐震指標に到達していない場合は、居住者の避難、構造物の補修や補強などの必要な対応につなげることができる。また、上述したとおり、地震後の構造物の耐震性に関して、換算耐震指標を数値で示すことができることから、構造設計の指標として示すことができる。また、具体的な目標とする耐震指標まで回復させる回復工事の完了確認が可能となる。さらに、目標とする耐震指標からの低下率をもとに、回復工事の概算工事数量や工事費を示すこともできる。
【0047】
またさらに、構造物の完成後に、本実施形態によって、構造性能評価(耐震性評価)を定期的に行うことによって、躯体や外装材の経年劣化を数値で確認でき、耐震性の低下が深刻化する前に構造物の補修を行うことができる。また、新築時に測定された物理量及び対応付けられた耐震指標が、数値として蓄積されてデータベース化されており、対象構造物の耐震性評価の基準とされている。これにより、耐震性評価において、対象構造物の耐震指標を迅速かつ高精度に算出でき、対象構造物が目標とする耐震指標を満たしているか否かの判断結果を例えば現地にて即座に取得できる。
【0048】
上述した非特許文献2では、段階1は上棟直後で耐力壁が施工されていない軸組だけの状態(一部が配置されている場合もある)、段階2は耐力壁が配置された状態,段階3は内装・外装下地が施工された状態,段階4は仕上げ工事が完了した状態で常時微動計測が行われている。したがって、この文献は、耐震要素0%又は0%に近い段階、耐震要素100%の段階、内装・外装下地の施工後の段階、仕上げ工事完了の段階で計測が行われて、算出された固有振動数が、固有振動数の計算値と比較されている。結論として、固有振動数の計算値は実測値と合わず、1次固有振動数の計算値に対する実測値の比は約3であった(6.おわりに(6))。この原因は、実測値には、地盤や材料・施工品質による影響が含まれていることにあると考えられる。
【0049】
非特許文献2では、耐震要素0%又は0%に近い、耐震要素100%だけで計測しているため、この計測結果だけでは、地震後の損傷によって、耐震要素がどの程度減少したのかが把握できない。本実施形態は、施工過程の途中の段階(例えば耐震要素50%)でも計測を行い、この計測結果を用いることで、地震後の損傷を瞬時に評価できる。また、本実施形態では、耐震要素の増加・減少に連動する物理量(例えば、固有振動数やRMSの増幅率)が測定され、測定された物理量と耐震指標が対応付けられている。これに対して、非特許文献2では、固有振動数の実測値と耐震指標を対応させることや、実測値の違いに応じた耐震指標の比較がされていない。
【0050】
上述した非特許文献3は、建前直後(耐震要素0)、筋交いの入った後、筋交いの補強後、外壁を張った後の段階で、建物にワイヤーロープをかけ、弾性応答を生じる程度の適当な力で引張り、強制変位を与えた後、ロープを切断して建物を自由振動させて、その振動を記録している。しかし、非特許文献3では、本実施形態と異なり、施工過程の各段階の耐震指標を計算しておらず(特に筋交いの補強後の耐震指標は計算不可)、筋交いの入った後と筋交いの補強後では筋交いの本数が変わらず(耐震要素が増加していない)、測定される物理量が建物を自由振動させたときの振動によるものであり、常時微動によるものではない。
【符号の説明】
【0051】
1 :構造性能評価装置
2 :記憶部
3 :制御部
4 :入力部
5 :出力部
6 :送受信部
7 :物理量取得部
8 :指標算出部
9 :判断部
11 :第1センサ
12 :第2センサ
20 :構造物
21 :構造用合板
22 :筋交い
【要約】
【課題】地震などの要因によって構造性能の影響を受けた構造物の構造性能を適切に評価することが可能な構造性能評価装置を提供すること。
【解決手段】構造性能評価装置1は、床に対して鉛直方向に立設される複数の構造部材を備える構造物の構造性能評価装置1であって、構造物の新築又は改修の施工時において構造物に設置された第1センサによって測定された常時微動による物理量と、測定された物理量に対応付けられた構造性能指標との対応情報が記録された記憶部2と、構造物の完成後において構造物に設置される第2センサによって測定された常時微動による物理量を取得する物理量取得部7と、物理量取得部によって取得された物理量と、記憶部に記録された対応情報に基づいて、第2センサによって物理量が測定されたときの構造物の構造性能指標である換算構造性能指標を算出する指標算出部8とを備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5