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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】情報処理システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/00 20230101AFI20240625BHJP
【FI】
G06Q40/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024053295
(22)【出願日】2024-03-28
【審査請求日】2024-03-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520493810
【氏名又は名称】デジタル証券準備株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122563
【弁理士】
【氏名又は名称】越柴 絵里
(74)【代理人】
【識別番号】100230765
【弁理士】
【氏名又は名称】越柴 洋哉
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩平
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-074500(JP,A)
【文献】国際公開第2008/087834(WO,A1)
【文献】特開2021-012460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有価証券に係る権利又は組合契約に基づく事業に係る権利であって、2以上の口数にデジタル的に分割され得る前記権利の売買を実現するための情報処理システムであって、
前記権利に係る所定の市場における市場価格が存在しない状況下で、前記権利を保有する売主に対して前記権利の基準価額に基づく価格を提供する売付情報提示手段と、
前記情報処理システム上で前記売主以外の投資家から前記権利の任意の購入希望価格が提示されていない状況下で、前記売主から、前記権利の任意の売却希望価格を含まない売り注文メールを受信する売り注文受付手段と、
前記売り注文メールを前記売主以外の投資家に向けて送信する注文情報送信手段と、
前記情報処理システム上で前記権利を保有する投資家から前記権利の任意の売却希望価格が提示されていない状況下で、送信された前記売り注文メールに応答し前記売主以外の投資家から前記権利の任意の購入希望価格を含まない買い注文メールを受信する買い注文受付手段と、
前記買い注文受付手段で受信された買い注文メールの中から買い注文を承認する承認手段と、
前記承認手段による承認後、前記権利の移転処理を実行する約定処理手段と、
を備えた情報処理システム。
【請求項2】
前記売付情報提示手段により前記基準価額を基にした所定の範囲の売値幅が前記売主に提供される場合にのみ、前記売り注文受付手段は前記売主が前記売値幅内で決定した前記権利の売却希望価格を含む売り注文メールを受信する、請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項3】
前記売り注文メールは前記権利に係る譲渡口数を含み、前記買い注文メールは前記権利に係る譲受口数を含む、請求項1又は2に記載の情報処理システム。
【請求項4】
前記基準価額は、前記権利に係る資産から負債を差し引いた純資産総額を単位口数に換算した金額に相当し、
前記売付情報提示手段は、前記基準価額と同一又は前記基準価額を所定の範囲内で加減した金額を前記売主に対して提供する、請求項1又は2に記載の情報処理システム。
【請求項5】
前記基準価額は、さらに不動産鑑定評価額と関連づけて決定されている、請求項に記載の情報処理システム。
【請求項6】
有価証券に係る権利又は組合契約に基づく事業に係る権利であって、2以上の口数にデジタル的に分割され得る前記権利の売買を実現するための情報処理システムにおいて実行されるプログラムであって、前記情報処理システムに、
前記権利に係る所定の市場における市場価格が存在しない状況下で、前記権利を保有する売主に対して前記権利の基準価額に基づく価格を提供すること、
前記情報処理システム上で前記売主以外の投資家から前記権利の任意の購入希望価格が提示されていない状況下で、前記売主から、前記権利の任意の売却希望価格を含まない売り注文メールを受信すること、
前記売り注文メールを前記売主以外の投資家に向けて送信すること、
前記情報処理システム上で前記権利を保有する投資家から前記権利の任意の売却希望価格が提示されていない状況下で、送信された前記売り注文メールに応答し、前記売主以外の投資家から前記権利の任意の購入希望価格を含まない買い注文メールを受信すること、
受信された前記買い注文メールの中から買い注文を承認すること、
前記承認の後、前記権利の移転処理を実行すること、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不動産等の資産を裏付資産とした有価証券又は出資持分(以下、「有価証券等」と省略することがある。)の譲渡に関連する技術であって、特に、投資家間の売買を仲介する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般投資家が株式等を市場で売買する場合、通常は証券取引所を経由するか若しくはPTS(proprietary trading system)市場で成立させる。PTSとは、証券取引所ではなく、証券会社が開設したコンピュータ・ネットワーク上の市場での取引を行うためのシステム、すなわち証券会社による取引所外での取引を電子的に行うシステムである。
【0003】
証券取引所における売買価格の決定方式は、価格優先の原則、時間優先の原則に従い、指定する売買価格が合致したものから順に約定する「ザラバ方式」で行われる。また、寄付や取引終了などの場合には、売注文と買注文から合致する価格を求め、その価格が単一の約定値となる「板寄せ方式」で行われる。
【0004】
PTS市場で採用される売買価格の決定方式にも複数の種類があり、取引所と同様のオークション方式で決定したり、証券会社(マーケットメイカー)が複数の売り気配値・買い気配値を提示し、これらに基づく価格を用いて行う売買気配提示方式がある。さらには、投資家の提示した指値が取引の相手方となる他の投資家の提示した指値と一致する場合にその指値を用いて売買する顧客注文対当方式や、顧客同士が価格や数量等の条件について交渉し、双方が合意に達した条件のもとで売買する顧客間交渉方式もある。
【0005】
金融庁の認可を受けた証券会社により運営されるPTS市場は開設数が少ない上、参加する投資家の数が限られていることもあって、価格の硬直性や流動性に課題がある。そのため、価格の適切なコントロールができる仕組みについて提案された以下の特許文献がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4205148号公報
【文献】特許第4682244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
証券取引所及びPTS取引における上述した売買方式のいずれも、売買を成立させるにあたり希望の価格をあらかじめ決めてから行われる。金融機関等の店頭で売り手と買い手が1対1で直接取引する店頭市場であっても、希望の売買価格を提示することを当然の前提として行っている。上記の特許文献1、2においても、発明の名称が「気配情報提示処理システム」や「売買価格決定方法」であることから示唆されるとおり、有価証券等の売買においては需要と供給の基本原理に基づき決定される“売買価格”をどのようにすれば適正に制御できるかに焦点が当てられている。
【0008】
有価証券等の売買価格が需給の関係で決定されるということは、すなわち、有価証券等の売買においては、売り手はできるだけ高い価格を求め、逆に買い手はできるだけ低い価格を求めるため、結果として価格競争が惹起されるということである。有価証券等の売買価格はこのような競争の過程において形成されることから価格変動が避けられない。不動産小口化商品の代表的なものにREITが知られているが、REITは株式市場に上場しているため、金利や株式相場の変動に影響されて価格が大きく動き、株式投資に近い成果になる傾向がある。
【0009】
一方で、本願発明が対象とする有価証券等、すなわち不動産等の資産を裏付資産とした有価証券又は出資持分を投資対象とする投資家は、安定した収益を志向する傾向がある。証券取引所等での公開株式のような時々刻々変動する価格を基にした取引で売買利益を狙うよりも、有価証券等の裏付資産である対象不動産が生み出す賃料収入から生じる比較的長期に亘る利回り益を所望しており、投資対象の価格変動が小さいことを投資選択の条件の一つにしている。
【0010】
また、不動産の特性として、同一の不動産というものは存在しない。それゆえ不動産取引には一般消費財のようないわゆる「定価」という概念がない。しかも、取引価格は不動産提供者である売主と不動産購入者である買主との当事者間において決められ、個別の事情により取引価格は大きく左右されてしまうという特徴がある。例えば、転勤による引越しがある場合、売主がとにかく早く売りたければ、近隣地域の同等の不動産が市場で売買される適正価格よりも安く取引されることが多い。一般の投資家がそのような個別的な取引事情を入手することは困難であり、仮に取引事情を入手できたとしてもそこに介在する個別の事情を把握した上で、個別の事情がなければ現実の市場でその対象不動産が適正な価格としていくらで取引されるかを把握し、指値として提示することは極めて困難である。
【0011】
そこで、本発明は、不動産等の資産を裏付資産とした有価証券又は出資持分に対する投資家に適した投資家間売買を実現できる仕組みの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、有価証券に係る権利又は組合契約に基づく事業に係る権利であって、2以上の口数にデジタル的に分割され得る前記権利の売買を実現するための情報処理システムであって、前記権利を保有する売主に対して前記権利の基準価額に基づく価格を提供する売付情報提示手段と、前記売主から、前記権利の売却希望価格を含まない売り注文メールを受信する売り注文受付手段と、前記売り注文メールを前記売主以外の投資家に向けて送信する注文情報送信手段と、送信された前記売り注文メールに応答して、前記投資家からの前記権利の購入希望価格を含まない買い注文メールを受信する買い注文受付手段と、前記買い注文受付手段で受信された買い注文メールの中から買い注文を承認する承認手段と、前記承認手段による承認後、前記権利の移転処理を実行する約定処理手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本願発明は、前記売り注文メールは前記権利に係る譲渡口数を含み、前記買い注文メールは前記権利に係る譲受口数を含むこと、さらに、前記基準価額は、前記権利に係る資産から負債を差し引いた純資産総額を単位口数に換算した金額に相当し、前記売付情報提示手段は、前記基準価額と同一又は前記基準価額を所定の範囲内で加減した金額を前記売主に対して提供することを特徴とする。また、前記基準価額は、さらに不動産鑑定評価額と関連づけて決定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る情報処理システムは、不動産等の資産を裏付資産とした有価証券又は出資持分の売買価格を予め確定し、確定価格として投資家に提示する。各投資家は売買注文時に注文数(売買口数)を提示することは可能であるが、投資対象に係る希望の売り指値及び買い指値を自由に入力設定することはできない。投資対象の任意の希望売買価格を受け付けることなく、情報処理システムが提示する確定価格(又は確定価格の近似価格)による取引を土台とすることから、価格変動が生じない。その結果、確定価格による売買が保証されることになるので、投資家はこれまでのように指値をいくらにするか悩む必要がなくなり、且つ価格変動のない安心した取引を投資家間で直接的に行うことができる。
【0015】
また、情報処理システムが提示する確定価格は、例えば投資対象の価値を評価する際に利用される時価純資産のNAV(Net Asset Value)や不動産鑑定士による鑑定評価額を基に設定されるため、投資対象を客観的に評価して算出した適正価格による取引を実現できる。したがって、投資家は、提示された価格が投資対象の適正価格(いわゆるフェアバリュー)であると信頼した上で取引することができる。
【0016】
これにより、不動産等の資産を裏付資産とした有価証券又は出資持分を投資対象とする投資家に対し、安定的な投資回収の機会を提供できるようになり、活発な投資を呼び込むことに繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る情報処理システムの一実施形態を含む全体スキームの概略を示す図である。
図2】情報処理システムが備える機能の概略を示す図である。
図3】投資家間で小口化証券の移転が行われるときの情報処理システムの主な処理手順を示したフローチャートである。
図4】情報処理システムが投資家等との間で各処理を実行する際のタイミングチャートである。
図5】売主投資家が保有するセキュリティ・トークンに関する基準価額が提供されたときの一覧画面である。
図6】売主投資家に提示される売り注文メールの一例である。
図7】売り注文メールを情報処理システムに送信した後に表示される画面例である。
図8】買主投資家に売り注文情報が送信されたときの一覧画面である。
図9】買主投資家に提示される買い注文メールの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を参照しながら、本発明に係る情報処理システムで実行される処理の一実施形態について説明する。本発明は、不動産等の資産を裏付資産とした有価証券等の投資家間での売買を対象とするが、本実施形態では現物不動産を裏付資産とした出資持分の投資家間における売買手続をする出資持分管理システム100として説明する。なお、必ずしも不動産の売買でなければならないというものではなく、船舶や航空機その他の動産やローン債権などの権利を売買取引の対象としてもよい。
【0019】
また、本実施形態では「出資持分管理システム」として示すが、「装置」又は「サーバ」に置き換えることができる。
【0020】
以下の説明において、投資家とは、個人(自然人)のみならず、法人や適格機関投資家等も含む。適格機関投資家とは、金融商品取引法2条3項1号において規定されている、「有価証券に対する投資に係る専門的知識および経験を有する者として内閣府令で定める者」のことである。いわゆるプロの投資家であり、証券会社や投資信託委託業者、銀行、保険会社、投資顧問会社、年金資金運用基金などが該当する。
【0021】
本実施形態に係る出資持分管理システム100を含む全体スキームの概略を示したのが図1である。図1に示すように、特別目的会社1は、投資家2との間で匿名組合契約を締結した上で、投資家2から集めた出資金等を基に不動産所有者から不動産3を取得する。その後、特別目的会社1は、対象とする不動産3の賃貸や売却行為から得た利益(賃料や売却益)を投資家2に分配することを前提とする。
【0022】
ここで「匿名組合契約」とは、本実施形態においては金融商品取引法第2条第2項第5号に記載された匿名組合契約であり、「特別目的会社」とは、不動産特定共同事業法第58条に規定する「特例事業者」を意味する。
【0023】
出資持分管理システム100が、特別目的会社1による投資家の登録、管理、及び利益の分配を実行する。出資持分管理システム100は、投資家2の投資家端末とはインターネット等の通信回線を経由して通信可能に接続されている。なお、特別目的会社1は、販売や管理など業務の一部を所定の委託会社4に委任することを含む。
【0024】
後述するとおり、本実施形態の出資持分管理システム100はブロックチェーンに代表される分散型台帳技術を基に情報の記録管理をする。各投資家の匿名組合出資持分は、分散型台帳技術により生成・発行されるセキュリティ・トークン(以下、「ST」と省略することもある。)という形で付与される。
【0025】
以上をまとめると、出資持分管理システム100は、投資家2から所定の出資金総額が集まった時点(クラウドファンディングで募集する場合は、ファンド成立時点)で、特別目的会社1と投資家2との間の匿名組合契約に基づく出資持分をブロックチェーン基盤を用いてトークン化した上でトークンを発行し、各投資家の出資割合に応じて、各投資家の個別ウォレット宛てにこのセキュリティ・トークンを移転する。また、運用期間中に投資家間でセキュリティ・トークンの譲渡による移転があれば、当事者のウォレット間でセキュリティ・トークンの直接的な移転が行われる。そして、運用の終了時では、償還金の支払いと同時に、投資家2のウォレットのセキュリティ・トークンが、特別目的会社1が管理するウォレット宛てに移転されるということになる。
【0026】
なお、投資家は必ず特別目的会社1を介して匿名組合契約を締結しなければならないというものではなく、様々なスキームによる取引形態においても本願発明は適用され得る。
【0027】
以下、現物不動産を裏付資産とした出資持分の権利を投資家間で売買できるようにする出資持分管理システム100の機能について具体的な説明を行う。出資持分に係る権利は、2以上の口数にデジタル的に分割可能である。すなわち、多額の出資金が、例えば1万円や10万円等の単位で小口化され、その一部又は全部が投資家間で直接的に取引される。以下の説明にあたり、所定の出資金総額が集まった時点やクラウドファンディングで募集したファンド成立時点で、匿名組合契約に基づき契約した投資家2は、出資割合に応じたセキュリティ・トークンを保有しているものとする。
【0028】
図2に示すとおり、出資持分管理システム100は、投資家間での取引を成立させるため、売付情報提示手段100a、売り注文受付手段100b、注文情報送信手段100c、買い注文受付手段100d、約定処理手段100eを備える。
【0029】
売付情報提示手段100aは、出資持分の権利に対応するセキュリティ・トークンを保有する売主投資家5に対して1口あたりの基準価額を提供する。基準価額の具体的な算出方法は、本実施形態の場合、投資対象の価値を評価する際に利用される時価純資産のNAV(Net Asset Value)を基礎とする。時価純資産(NAV)は、金融・証券の業界において企業やファンド等の投資対象の価値や業績を評価する際に使われる指標であり、当該投資対象の貸借対照表(バランスシート)の資産から負債を差し引いた額である。このNAVを単位口数に換算したのが基準価額という関係である。したがって、投資家は、馴染みがあり且つ客観的データとして信頼性のある評価指標からこの基準価額が算出されていると認識することになる。なお、基準価額の算定にあたっては、NAVを基礎とする以外の現物不動産の資産価値を評価する手法を適用してもよい。
【0030】
売付情報提示手段100aは、NAVによる基準価額自体、或いはNAVによる基準価額に対して所定の範囲内で加減した金額を設定する。本実施形態の売付情報提示手段100aは、所定の範囲内で加減した金額を設定することとし、この金額を以下では提示基準価額と言うことにする。また、提示基準価額は、不動産価格に関する専門家である不動産鑑定士による鑑定評価額と関連づけ、乖離が生じないよう整合が取れていることが望ましい。
【0031】
売り注文受付手段100bは、売付情報提示手段100aから提供された提示基準価額を参照した投資家から、売り注文メールを受信する。つまり、売主投資家5による自己出資持分に係る権利の売却意思を受け付けることである。出資持分に係る権利はセキュリティ・トークンとして小口化されているため、売主投資家5の売り注文メールには何口分のセキュリティ・トークンを売却したいかという情報を含んでいるが、ここで留意すべき点は、売主投資家5はセキュリティ・トークンの売却希望価格を示すことができないことである。一口あたりのセキュリティ・トークンの売却価格も、売却総額価格も希望指値として提示することができない。一口あたりのセキュリティ・トークンの価格は、売付情報提示手段100aから提供された提示基準価額で設定されている。
【0032】
注文情報送信手段100cは、売り注文受付手段100bで受信した売り注文メールを、出資持分管理システム100内で既に登録している投資家に向けて送信する。当該投資家とは、他者の出資持分に係る権利(ST)を購入する可能性がある買主投資家6である。売り注文メールを例えば一斉送信することにより、各買主投資家6は現在どのSTが売り出されているかの情報を公平に把握することが可能になる。なお、メール送信するために、各投資家のメールアドレスをデータベース7等に事前に登録していることは言うまでもない。
【0033】
買い注文受付手段100dは、注文情報送信手段100cによって送信された売り注文メールを参照した投資家からの買い注文メールを受信する。つまり、買主投資家6による売出し出資持分に係る権利の購入意思を受け付けることである。売り注文受付手段100bと同様に、買主投資家6の買い注文メールには何口分のセキュリティ・トークンを購入したいかという情報を含んでいるが、買主投資家6はセキュリティ・トークンの購入希望価格を示すことができない。一口あたりのセキュリティ・トークンの購入価格も、購入総額価格も希望指値として提示することができない。一口あたりのセキュリティ・トークンの価格は、売付情報提示手段100aから提供された提示基準価額で設定されている。各買主投資家6は、購入希望の口数を指定し、買い注文メールとして出資持分管理システム100へ返信することができる。
【0034】
なお、株式等の売買注文の一つに「成行」といって価格を指定しない注文方法がある。価格を指定しないという点で、本願発明は一見すると従来の成行注文と同じであると解釈されるかもしれない。しかしながら、成行の買い注文は、最も低い価格の売り注文に対応して、即座に注文が成立し、同様に、成行の売り注文は、最も高い価格の買い注文に対応して、即座に注文が成立する。すなわち、成行注文の反対注文では価格が提示されており、本願発明のような売り注文及び買い注文のどちらにおいても価格を指定しない(できない)場合とは全く異なる。
【0035】
買い注文受付手段100dが買い注文メールを受信すると、所定の手続を経て買い注文が承認され、これにより売主投資家5と買主投資家6との間で直接的にセキュリティ・トークンの売買取引が成立することになる。ここで、「直接的に」とは、売主投資家5のセキュリティ・トークンをまずは証券会社等が買取り、これを買主投資家6に売却するという形態とは異なり、証券会社等が売買当事者として介在することなく、売主投資家5から買主投資家6へ直接ST移転が行われることを意味する。その際には出資持分管理システム100を経由することになるが、証券会社等の買取り・売却に伴う手数料という本来は不要な間接コストを省くことができるため、投資家間での直接的な取引は各投資家にとって低コストによる売買を可能にするというメリットがある。
【0036】
約定処理手段100eは、売主投資家5と買主投資家6との間における出資持分に係る権利の移転処理を実行し、売主投資家5のウォレットから買主投資家6のウォレットへ売買に伴い移転すべき口数分のセキュリティ・トークンを移転させるための処理を行う。
【0037】
図3は、出資持分管理システム100により実行される処理の手順を示したフローチャート、図4はタイミングチャートである。出資持分管理システム100によって提供される画面例を示しながら順に説明する。
【0038】
出資持分管理システム100の売付情報提示手段100aは、時価純資産(NAV)に基づき決定された一口あたりの基準価額に対応する価格を設定し(図3のステップS301)、売主投資家5に対して提示基準価額として提供する(図3のステップS302)。提示基準価額は、投資家が出資持分管理システム100を利用するための対価に相当するシステム利用料を基準価額に加算させるようにしてもよい。本実施形態の場合、不動産鑑定士等の専門家が投資対象の現物不動産を査定し、その鑑定評価額と提示基準価額とを関連づけ、鑑定評価額に整合した提示基準価額が提供されるようにする。
【0039】
図5は、或る売主投資家5が2つの投資対象不動産(ファンド名が「ABC」及び「DEF」)に係るセキュリティ・トークン(ST)を保有している場合に、売付情報提示手段100aによって各提示基準価額が売主投資家5の情報端末に表示されたときの一覧画面例である。図5の「基準価額」が、提示基準価額に相当する。いま、売主投資家5がABCファンドを売却したいとする。売主投資家5の情報端末の画面上でABCファンドを選択すると、図6に示すような売り注文メールが表示される。保有する100口(但し、注文可能トークン数は80口)のSTのうち、10口分だけを売りたい場合、注文数の欄6aに“10”を入力する。売り口数分に対応する売却総額が自動計算され6b欄に表示される。売主投資家5は画面表示の内容を確認し、送信ボタン6cを押下する(図4の401)。売主投資家5に対し図7に示すような画面が表示され、売主投資家5は売り注文が受け付けられたことを確認する。
【0040】
売主投資家5からの売り注文メールは、出資持分管理システム100の売り注文受付手段100bで受信される(図3のステップS303)。出資持分管理システム100が売り注文メールを受信すると、その売り注文を仮登録すると共に、二重譲渡を防止するため当該売主投資家5が保有する売り注文分のSTをロックする(図3のステップS304,図4の402)。
【0041】
投資家との間で匿名組合契約を締結した特別目的会社1(図4における運営業者)は、出資持分管理システム100が仮登録した売り注文の情報についての承認をするか否かを判断する(図3のステップS305,図4の403)。本実施形態の場合、一般の株式売買のような日常的に発生する膨大な取引を完全自動処理しないため、特別目的会社1による売買取引の承認作業を介在させており、証券取引所やPTSと等価ではない。例えば、毎営業日15:00になると人手で承認作業を実行する。ただし、他の実施形態においては、特別目的会社1による人手の承認作業をすることなく、出資持分管理システム100上で承認作業を自動化してもよく、自動承認を必ずしも排除するわけではない。
【0042】
売り注文を承認した場合、当該売り注文は仮登録から本登録へ変更する(図4の404)。売り注文を承認しない場合、当該売り注文を無効化する(図3のステップS306)。
【0043】
次に、注文情報送信手段100cは、承認された売り注文を出資持分管理システム100内で既に登録している投資家の情報端末に送信する(図3のステップS307,図4の404)。本実施形態では、複数の投資家に対して売り注文メールを一斉送信するものとする。図8は、投資家、すなわち買主投資家6に2件の売り注文情報が送信されたときの一覧画面例である(図4の405)。注文情報送信手段100cは、当該売り注文メールを売り注文受付手段100bに送信した売主投資家5に対しても、確認の意味でこの売り注文メールを送信するようにしてもよい。
【0044】
或る買主投資家6がABCファンドを購入したいとする。買主投資家6の情報端末の画面上でABCファンドを選択すると、図9に示すような買い注文メールが表示される。購入可能な売り注文数のうち、希望する購入口数を注文数の欄9aに例えば“10”と入力する。購入口数分に対応する購入総額が自動計算され9b欄に表示される。買主投資家6は画面表示の内容を確認し、送信ボタン9cを押下する(図4の406)。なお、売主投資家5に対して表示した図7に示す画面に相当する確認画面を、買主投資家6に対して表示するようにしてもよい。これにより、買主投資家6は買い注文が受け付けられたことを確認できる。
【0045】
図9が示すとおり、買い注文メールにおいても、買主投資家6はセキュリティ・トークンの購入口数を入力できるが、購入希望価格を入力するようにはなっていない。セキュリティ・トークンの購入価格は、提示基準価額に限定されている。
【0046】
買主投資家6からの買い注文メールは、出資持分管理システム100の買い注文受付手段100dで受信される(図3のステップS308)。出資持分管理システム100は買い注文メールを受信すると、その買い注文を仮登録するとともに、二重譲受を防止するため当該買主投資家6の購入口数分の投資余力をロックする(図3のステップS309,図4の407)。
【0047】
売り注文の承認と同様に、特別目的会社1(図4における運営業者)は、出資持分管理システム100が仮登録した買い注文の情報について承認するか否かを判断する(図3のステップS310,図4の408)。本実施形態では、特別目的会社1による人手の承認作業を行うこととする。ただし、他の実施形態においては、特別目的会社1による人手の承認作業をすることなく、出資持分管理システム100上で承認作業を自動化してもよく、自動承認を必ずしも排除するわけではない。
【0048】
また、上述したように、公平性の観点から複数の投資家に対して売り注文メールを一斉送信しているが、買い注文メールについても買い注文受付手段100dが受信した順序で買い注文メールを採択することとする。売り注文メールの全口数を一括買取りに限定する指定がある場合は、最初に受信した買い注文メールが採択されることになる。
【0049】
なお、売り注文メールを一斉送信せず、例えば、投資余力が所定の額以上であることや購入実績等を考慮して特定の投資家群に対して優先的に売り注文メールを送信するようにしてもよい。また、買い注文メールの採択についても、必ずしもメール到着順で決定しなくてもよい。
【0050】
買い注文を承認した場合、当該買い注文は仮登録から本登録へ変更する(図4の409)。買い注文を承認しない場合、当該買い注文を無効化する(図3のステップS311)。
【0051】
買い注文が承認されると、セキュリティ・トークンの売買取引が成立したことになる。そこで、約定処理手段100eは、売主投資家5と買主投資家6との間における出資持分に係る権利の約定処理を実行する(図3のステップS312,図4の411)。また、売主投資家5のウォレットから買主投資家6のウォレットへ当該売買によって移転すべき口数分のセキュリティ・トークンを移転させるための処理を行う(図3のステップS312,図4の412)。また、当該約定処理に伴う投資家への通知がなされる(図3のステップS313,図4の413及び414)。
【0052】
最後に、入金振込処理を実行し(図3のステップS314,図4の415)、売主投資家5への入金(図4の418)や入金振込処理に伴う投資家への通知がなされる(図4の416及び417)。
【0053】
上述してきたとおり、本願発明の特徴は、売買当事者である投資家が売却又は購入するセキュリティ・トークンに対する任意の売却希望価格及び購入希望価格を提示することができない点にあるが、厳格に希望価格の受入れを拒絶することが投資家保護に欠ける場合には、提示基準価額を基準価格としながらも一定幅に制限した範囲内での価格設定を可能にするようにしてもよい。但し、証券取引所等における株式等の任意の価格設定が可能であるのとは異なり、例えば、提示基準価額(例えば、10,000円とする。)を中心値として、9,000円~11,000円の範囲内での価格設定を可能にするというように、出資持分管理システム100が設定可能な価格幅での選択肢を提供し、投資家はその中から売却希望価格又は購入希望価格を選ぶという程度の自由度にとどめる。
【0054】
ところで、本実施形態の出資持分管理システム100は、ブロックチェーン技術に代表される分散型台帳技術によりセキュリティ・トークンを発行し、且つセキュリティ・トークンの移転等が発生するたびにその記録管理を行っている。
【0055】
セキュリティ・トークンが発行され、出資持分管理システム100と投資家2との間においてセキュリティ・トークンが移転された場合、及び投資家間でセキュリティ・トークンの移転がされた場合、瞬時に出資持分管理システム100により管理される分散型台帳の書き換えを行うため、セキュリティ・トークンの移転状況はリアルタイムで把握することが可能である。また、分散型台帳の参照は投資家又は特別目的会社1からの要請に応じて参照できるようになっている。これにより、出資持分管理システム100の管理者のみならず、投資家もトークンの保有や移転の状況を把握することが可能であって、分散型台帳がトークン発行者又は出資持分管理システム100の管理者の内部で単に事務的又は恣意的に作成されたものではないことを示すことができる。
【0056】
なお、ブロックチェーン技術はすでに公知の技術である。データブロック毎にハッシュ値を算出し、分散型台帳にはハッシュ値とともに取引データをチェーンのごとく繋げながら記録する方法について本明細書で詳述することは省略するが、その優位性についての概要を以下に挙げておく。
【0057】
ブロックチェーン技術に代表される分散型台帳技術の特徴は、トランザクション及びアクションの正当性を決定する際に特定のサーバに依存した検証に依存することなく、複数の端末間の通信接続を非中央集権的なピア・ツー・ピア(P2P)型ネットワークを基盤にしているという点にある。特定のサーバがトランザクション等に関する台帳を統括して管理するのではなく、複数の端末が過去から現在に至るまでの自己のデータベースへの更新情報を一繋がりの帳簿データとして管理する。しかも、各端末が同一の帳簿データを管理することによって、新たなトランザクション等に対してどの台帳においても矛盾が生じないと認められた場合にのみ、各台帳に追加する正規なトランザクション等として扱い、データベース上のデータの真正性を確保している。
【0058】
このような特徴により、ブロックチェーン技術は、(1)過去の取引データの改ざんが不可能、(2)データを管理する一部の端末が故障しても他の端末のデータを利用することでサービスを継続することが可能であり、システム障害に強く可用性が高い、(3)ブロックチェーン内部の通信は暗号化され、かつ証明書による検証が行われているため、そもそも改ざんは極めて困難である。
【0059】
また、出資持分管理システム100と投資家の間又は投資家間における各種データの送受信は、電子署名又は電子証明書を利用するようにしてもよい。これらの技術についても公知であるため本明細書では省略する。
【0060】
本発明は、CD-ROM等の光学ディスク、磁気ディスク、半導体メモリなどの各種の記録媒体を通じて、又は通信ネットワークなどを介してダウンロードすることにより、コンピュータにインストール又はダウンロードしたプログラム、及びこれら記憶媒体を発明の範疇として含む。
【0061】
さらに、ネットワークを介して出資持分管理システム100と通信接続する端末は、インターネットや専用線等のネットワークに接続されたコンピュータである。具体的には、例えばPC(Personal Computer)、携帯電話やスマートフォン、PDA(Personal Digital Assistants)、タブレット、ウェアラブル(Wearable)端末等が挙げられる。また、投資家2の携帯端末として、例えば携帯電話やスマートフォン、PDA、タブレット、ウェアラブル端末等が挙げられる。ネットワークに有線又は無線で接続された端末及び携帯端末が互いに通信可能に設定されることにより、出資持分管理システム100を含むビジネススキームを構成する。また、上述した実施形態において出資持分管理システム100はP2P型のシステムであるが、必ずしもP2P型の分散型台帳技術でなくてもよく、ASP(Application Service Provider)と連携するシステムとして構成されてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 特別目的会社
2 投資家
3 不動産
5 売主投資家
6 買主投資家
100 出資持分管理システム
【要約】
【課題】有価証券又は出資持分の権利を投資家間で売買されるようにした情報処理システムにおいて、投資対象の価格変動が小さいことを重視する投資家に適した投資家間売買を実現できる仕組みの提供を目的とする。
【解決手段】有価証券又は出資持分の権利の売買価格を予め確定し、確定価格として投資家に提示する。各投資家は売買注文時に注文数(売買口数)を提示できるが、投資対象に係る希望の売り指値及び買い指値を自由に入力設定できない構成にすることにより、投資対象の価格変動が抑制され、投資対象の確定価格による売買が保証されることになる。これにより、投資家は指値をいくらにするか悩む必要がなくなり、且つ安定的な投資回収の機会を確保できる。
【選択図】図2
図1
図2
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図9