(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】浴槽可動式浴室
(51)【国際特許分類】
A47K 3/16 20060101AFI20240625BHJP
A47K 3/02 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
A47K3/16
A47K3/02
(21)【出願番号】P 2021061841
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】501362906
【氏名又は名称】積水ホームテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】半田 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】上田 恭平
【審査官】秋山 斉昭
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第208769641(CN,U)
【文献】西独国特許出願公開第3525187(DE,A1)
【文献】実開平2-98784(JP,U)
【文献】実開昭52-72196(JP,U)
【文献】特開2004-173703(JP,A)
【文献】実開昭52-139045(JP,U)
【文献】特開2014-66011(JP,A)
【文献】実用新案登録第2551207(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 3/00-4/00
A61H 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴室床上に浴槽が幅方向へ移動可能に設置された浴槽可動式浴室であって、
前記浴槽が、上下に変位可能な浴槽本体と、前記浴槽本体の前面及び側面のうち少なくとも前面を覆うエプロンと、を備え、
前記エプロンが、前記浴槽本体と固定されたエプロン本体と、前記エプロン本体の下端部に設けられたエプロン裾部と、を備え、前記エプロン裾部が、裾支持部によって、前記浴室床に対して一定高さを保ち、かつ前記エプロン本体に対しては相対的に上下変位可能に支持されていることを特徴とする浴槽可動式浴室。
【請求項2】
前記エプロン裾部と前記浴室床との間には、前記エプロン裾部の長手方向に均一な隙間が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の浴槽可動式浴室。
【請求項3】
前記エプロン本体の下端部には該エプロン本体の上側部分より引っ込んだ凹み壁が設けられ、前記エプロン裾部が、前記凹み壁に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の浴槽可動式浴室。
【請求項4】
前記浴槽には、前記浴槽本体を支持する支柱が設けられ、
前記支柱が、前記浴槽本体及び前記エプロン本体と固定された第1支柱部と、前記第1支柱部に対して相対的に上下変位可能な第2支柱部とを含み、
前記エプロン裾部が前記第2支柱部に支持され、前記第2支柱部が前記裾支持部を構成していることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の浴槽可動式浴室。
【請求項5】
前記浴槽にはカム機構が設けられており、
前記カム機構が、前記浴槽本体もしくは第1支柱部又は前記第2支柱部に平常位置と作動位置との間で変位可能に連結されたカムと、前記第2支柱部又は前記浴槽本体もしくは第1支柱部に設けられて前記カムと相対昇降し合うように係合されたカム受け部と、前記カムを変位させる操作部と、を含み、
前記カムが前記平常位置のとき、前記第1支柱部が前記浴室床に着地されており、
前記カムが前記作動位置のとき、前記相対昇降によって前記浴槽本体及び前記第1支柱部が前記浴室床から浮上され、かつ前記第2支柱部が前記浴室床に着地されることを特徴とする請求項4に記載の浴槽可動式浴室。
【請求項6】
前記第2支柱部の下端部が、前記第1支柱部の下端部より前記浴室床に対する前記幅方向の摩擦抵抗が低いことを特徴とする請求項5に記載の浴槽可動式浴室。
【請求項7】
前記第2支柱部の下端部には、車輪が設けられていることを特徴とする請求項5又は6に記載の浴槽可動式浴室。
【請求項8】
前記第2支柱部の下端部、又は前記浴室床における前記第2支柱部との摺擦部分には、摺動材が設けられていることを特徴とする請求項5又は6に記載の浴槽可動式浴室。
【請求項9】
前記浴室床には、洗い場の床面を構成する洗い場パンと、前記浴槽が設置される浴槽パンとが設けられ、
これら洗い場パン及び浴槽パンどうしの境を挟んで、浴槽パン側に前記第1支柱部が配置され、洗い場パン側に前記第2支柱部が配置されていることを特徴とする請求項4~8の何れか1項に記載の浴槽可動式浴室。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動式の浴槽を有する浴室に関し、特に要介助者などの利用に適した浴槽可動式浴室に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅や介助施設における要介助者などのための浴室は、その身体機能や介助の仕方に合わせて、浴槽の位置を変更可能にしたものが知られている(特許文献1、2など参照)。
【0003】
特許文献1においては、浴槽の配置に合わせて、浴槽パンにおける浴槽が置かれずに空いた部分上に床ボードを設置している。
特許文献2においては、浴槽の底部の四隅に板バネを介して車輪が設けられている。浴槽パン上で車輪を転がすことにより、浴槽を容易に移動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-066011号公報([0034])
【文献】実用新案登録第2551207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の可動式の浴槽においては、移動のために浴槽を持ち上げて降ろす動作をする。このとき、エプロンの下端部と浴室床との間の隙間が増減されるために、その隙間に足の指が入って挟み付けてしまうおそれがある。
本発明は、かかる事情に鑑み、可動式の浴槽において、移動のために浴槽本体を浮かしたときでも、エプロンの下端部と浴室床との間の隙間に足の指を挟み付けるのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、浴室床上に浴槽が幅方向へ移動可能に設置された浴室であって、
前記浴槽が、上下に変位可能な浴槽本体と、前記浴槽本体の前面及び側面のうち少なくとも前面を覆うエプロンと、を備え、
前記エプロンが、前記浴槽本体と固定されたエプロン本体と、前記エプロン本体の下端部に設けられたエプロン裾部と、を備え、前記エプロン裾部が、裾支持部によって、前記浴室床に対して一定高さを保ち、かつ前記エプロン本体に対しては相対的に上下変位可能に支持されていることを特徴とする。
【0007】
浴槽を幅方向へ移動させる際は、浴槽本体を持ち上げる等して上方へ変位させる。このとき、エプロン本体は浴槽本体と一体に上方へ変位される。一方、エプロン裾部は、浮上されることなく、浴室床に対して一定の高さにとどまる。したがって、エプロンの下端部と浴室床との間の隙間の大きさを常時一定に維持できる。これによって、浴槽の移動作業中に前記隙間に足の指を挟むのを防止することができる。
【0008】
前記エプロン裾部と前記浴室床との間には、前記エプロン裾部の長手方向に均一な隙間が形成されていることが好ましい。前記隙間の大きさは、8mm未満であることが好ましい。これによって、前記隙間に足の指を挟むのを一層確実に防止できる。
【0009】
前記エプロン本体の下端部には該エプロン本体の上側部分より引っ込んだ凹み壁が設けられ、前記エプロン裾部が、前記凹み壁に設けられていることが好ましい。これによって、エプロン裾部をエプロン本体の上側部分より引っ込ませて配置できる。
【0010】
前記浴槽には、前記浴槽本体を支持する支柱が設けられ、
前記支柱が、前記浴槽本体及び前記エプロン本体と固定された第1支柱部と、前記第1支柱部に対して相対的に上下変位可能な第2支柱部とを含み、
前記エプロン裾部が前記第2支柱部に支持され、前記第2支柱部が前記裾支持部を構成していることが好ましい。
これによって、浴槽の移動に際して、浴槽本体を上方へ変位させると、第1支柱部が浴槽本体及びエプロン本体と一体に浮上される。一方、第2支柱部は浮上されることなく、浴室床に着地される。これと共に、エプロン裾部が浴室床に対して一定の高さにとどまる。これによって、浴槽の移動作業中、エプロンの下端部と浴室床との間の隙間に足の指を挟むのを防止できる。
【0011】
前記浴槽にはカム機構が設けられており、
前記カム機構が、前記浴槽本体もしくは第1支柱部又は前記第2支柱部に平常位置と作動位置との間で変位可能に連結されたカムと、前記第2支柱部又は前記浴槽本体もしくは第1支柱部に設けられて前記カムと相対昇降し合うように係合されたカム受け部と、前記カムを変位させる操作部と、を含み、
前記カムが前記平常位置のとき、前記第1支柱部が前記浴室床に着地されており、
前記カムが前記作動位置のとき、前記相対昇降によって前記浴槽本体及び前記第1支柱部が前記浴室床から浮上され、かつ前記第2支柱部が前記浴室床に着地されることが好ましい。
平常時は、カムを平常位置とする。このとき、第1支柱部が浴室床に着地されることで、浴槽本体が安定的に静置される。これによって、入浴などに支障を来すことが無い。
浴槽の移動時には、操作部によってカムを作動位置にする。これによって、カム及びカム受け部どうしが互いのカム作用によって相対昇降し合うことで、浴槽本体及び第1支柱部が浴室床から浮き上がる。第2支柱部だけが浴室床に着地される。これによって、浴槽を浴室幅方向へ軽い力で容易に移動させることができる。バネ等の振動によって浴槽が不安定になることは無く、移動操作を安定的に行うことができる。
浴槽を所望の位置まで移動させた後、操作部によってカムを平常位置に戻す。これによって、カムとカム受け部とのカム作用によって、カム及びカム受け部どうしが互いのカム作用によって平常の相対高さになり、第1支柱部が下降して浴室床に着地される。
【0012】
前記第2支柱部の下端部が、前記第1支柱部の下端部より前記浴室床に対する前記幅方向の摩擦抵抗が低いことが好ましい。
浴槽の移動時には、カムを作動位置にすることで、第2支柱部が浴室床に着地される一方、第1支柱部は浴室床から離れる。したがって、第2支柱部と浴室床との間には摩擦が働く一方、第1支柱部と浴室床との間には摩擦が働くことが無い。これによって、浴槽の移動時に作用する摩擦抵抗を低減することができる。
【0013】
前記第2支柱部の下端部には、車輪が設けられていることが好ましい。
これによって、浴槽の移動時に作用する摩擦抵抗を一層低減することができる。
【0014】
前記第2支柱部の下端部、又は前記浴室床における前記第2支柱部との摺擦部分には、摺動材が設けられていてもよい。
これによって、浴槽の移動時に作用する摩擦抵抗を確実に低減することができる。
【0015】
前記浴室床には、洗い場の床面を構成する洗い場パンと、前記浴槽が設置される浴槽パンとが設けられ、
これら洗い場パン及び浴槽パンどうしの境を挟んで、浴槽パン側に前記第1支柱部が配置され、洗い場パン側に前記第2支柱部が配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、可動式の浴槽において、移動のために浴槽本体を浮かしたときでも、エプロンの下端部と浴室床との間の隙間を一定に保持することで、該隙間に足の指を挟み付けるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る浴槽可動式浴室の平面図である。
【
図2】
図2(a)は、浴槽が幅方向の中央部に位置する前記浴槽可動式浴室の斜視図である。
図2(b)は、浴槽が幅方向の左側部に位置する前記浴槽可動式浴室の斜視図である。
図2(c)は、浴槽が幅方向の右側部に位置する前記浴槽可動式浴室の斜視図である。
【
図3(a)】
図3(a)は、前記浴槽を前側から見た斜視図である。
【
図3(b)】
図3(b)は、前記浴槽を奥側から見た斜視図である。
【
図4】
図4は、前記浴槽を着地位置にして示す、
図1のIV-IV線に沿う側面断面図である。
【
図5】
図5は、前記浴槽を浮上位置にして示す側面断面図である。
【
図6】
図6(a)は、前記浴槽を着地位置にして示す、
図3(a)のVI-VI線に沿う、浴槽の前側かつ下側部の側面断面図である。
図6(b)は、前記浴槽を浮上位置にして示す、浴槽の前側かつ下側部の側面断面図である。
【
図8】
図8は、
図7に表されたバックハンガー及び摺動レールを浴室前方かつ下方から矢視した斜視図である。
【
図9】
図9は、前記バックハンガーを浴室奥側から矢視した斜視図である。
【
図10】
図10は、本発明の第2実施形態に係る浴槽の前側かつ下側部の側面断面図である。
【
図11】
図11は、本発明の第3実施形態に係る浴槽の前側かつ下側部の側面断面図である。
【
図12】
図12は、本発明の第4実施形態に係る浴槽の前側部の側面断面図である。
【
図13】
図13は、本発明の第5実施形態に係る浴槽の前側部の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
<第1実施形態(
図1~
図9)>
図1に示すように、浴槽可動式浴室1は、浴室床2と、可動式の浴槽3を備えている。浴室床2は、洗い場パン2a及び浴槽パン4と敷設体5によって構成されている。浴室1の幅方向と直交する奥行方向の前側(
図1において下)に防水構造の洗い場パン2aが配置されている。洗い場パン2aによって、浴室1の洗い場の床面が構成されている。前記奥行方向における洗い場パン2aの奥側(
図1において上)に防水構造の浴槽パン4が配置されている。浴槽パン4上に複数(ここでは4つ)の四角形の床ボード5aが幅方向に並べられて敷設されている。これら床ボード5aによって敷設体5が構成されている。
図4に示すように、床ボード5aの上面ひいては敷設体5の上面には、浴室の奥側(
図4において右)へ向かって緩やかに下傾する排水勾配が形成されている。
【0019】
浴槽パン4上には、敷設体5を介して可動浴槽3が配置されている。
図1に示すように、可動浴槽3の幅は、浴槽パン4の幅より小さい。
図2(a)~同図(c)に示すように、可動浴槽3は、浴室1の幅方向に移動(位置変更)可能である。
【0020】
図4に示すように、浴槽3は、浴槽本体(バスタブ)10と、エプロン20と、支柱30を含む。浴槽本体10の上端部には、全周にわたって框12が設けられている。浴槽本体10の底部には、脚部17が設けられている。
図1に示すように、脚部17は、例えば浴槽本体10の幅方向の両側に配置され、奥行方向へ延びている。
【0021】
なお、浴槽本体10は、後述するように、支柱30の全体高さの伸縮によって、浮上位置と着地位置との間で上下に変位可能である(
図4、
図5参照)。以下、特に断らない限り、浴槽本体10は、着地位置にあるものとする。着地位置においては、脚部17が敷設体5に着地しており、浴槽本体10の荷重が、敷設体5ひいては浴槽パン4に直接受け渡されている。
【0022】
図3(a)及び同図(b)に示すように、エプロン20は、エプロン本体21と、エプロン裾部22を有し、浴槽本体10の前面および両側面を覆っている。エプロン本体21は、前面エプロン本体21aと、一対の側面エプロン本体21bを含む。これらエプロン本体21a,21bは、硬質樹脂によって構成されているが、これに限らず、金属に構成されていてもよい。
【0023】
前面エプロン本体21aは、浴槽本体10の前面(洗い場を向く面)に被さるとともに、上端部が前側框部12aに固定されている。一対の側面エプロン本体21bは、浴槽本体10の両側面にそれぞれ被さるとともに上端部が側方框部12bに固定されている。要するに、エプロン本体21は、浴槽本体10に対して位置決めされて取り付けられている。浴槽本体10が浮上位置と着地位置との間で上下に変位されるときは、これと一体にエプロン本体21も上下に変位される。
なお、エプロン20は、少なくとも浴槽本体10の前面を覆っていればよく、片側又は両側の側面のエプロンは省略してもよい。
【0024】
図4に示すように、エプロン本体21の下端部には、水平に引っ込む下向き段差21dを介して凹み壁24が垂設されている。凹み壁24は、エプロン本体21の段差21dより上側の部分よりも浴槽本体10側に引っ込んでいる。
【0025】
図4に示すように、凹み壁24にエプロン裾部22が設けられている。エプロン裾部22は、エプロン本体21より薄肉の樹脂によって断面U字状に形成されている。エプロン裾部22の内部に凹み壁24が差し入れられている。エプロン裾部22の下端部は、凹み壁24から下方へ延出されている。一方、エプロン裾部22は、凹み壁24ひいてはエプロン本体21には固定されていない。エプロン裾部22は、後述する第2支柱部32に支持されることで、浴室床2に対して一定の高さに配置され、エプロン本体21に対しては相対的に上下変位可能になっている。したがって、エプロン本体21が浴槽本体10と共に浴室床2に対して上下に変位されても、エプロン裾部22の浴室床2に対する位置は不変である。
【0026】
さらに、
図3(a)及び
図4に示すように、エプロン裾部22は、前面エプロン本体21aの下方の前面エプロン裾部22aと、側面エプロン本体21bの下方の側面エプロン裾部22bを含む。前面エプロン裾部22aは、前面エプロン本体21aの上側部分より奥側へ引っ込んでおり、かつ浴室床2における洗い場パン2aと敷設体5との境2bに沿って浴室1の幅方向へ延びている。前面エプロン裾部22aは、浴室床2を基準にして高さ調整されて取り付けられている。前面エプロン裾部22aの下端部と浴室床2との間には、エプロン裾部22aの長手方向に均一な隙間25aが形成されている。隙間25aの大きさ(上下寸法)は、0mm超~8mm未満である。前面エプロン裾部22aは、浴槽本体10の上下変位に拘わらず、浴室床2に対して一定高さに保持されるから、隙間25aの大きさが変わることはない。
【0027】
図3(a)及び
図4に示すように、側面エプロン裾部22bは、側面エプロン本体21bの上側部分より浴槽本体1の側部へ引っ込んで配置され、かつ敷設体5の傾斜に倣って浴室1の奥側へ向かうにしたがって下方するように斜めに設置されている。側面エプロン裾部22bは、浴室床2を基準にして高さ調整されて取り付けられている。側面エプロン裾部22bの下端部と敷設体5ひいては浴室床2との間には、側面エプロン裾部22bの長手方向に均一な隙間25bが形成されている。隙間25bの大きさ(上下寸法)は、0mm超~8mm未満である。側面エプロン裾部22bは、浴槽本体10の上下変位に拘わらず、浴室床2に対して一定高さに保持されるから、隙間25bの大きさは不変である。
【0028】
図4に示すように、可動浴槽3には、奥行方向の前側部及び奥側部をそれぞれ支持する支持構造が設けられている。
前側部の支持構造は、次のように構成されている。
図1に示すように、可動浴槽3の前側部の左右のコーナーに一対の支柱30が設けられている。支柱30によって浴槽3の前側部が支持されている。
図4に示すように、支柱30は、第1支柱部31と、第2支柱部32を含む。各支柱部31,32は、四角形断面の角筒形状になっているが、これに限らず円筒形状などであってもよい。
【0029】
図4に示すように、第1支柱部31の上端部は、ボルト等の連結手段によって浴槽本体10に連結されている。第1支柱部31の中間部は、支持ブラケット34,35を介してエプロン20に連結されている。したがって、第1支柱部31は、浴槽本体10及びエプロン20と固定されている。第1支柱部31の下端の脚底部材31bが、浴室床2の敷設体5に着地される。脚底部材31bの底面(下面)には、滑り止め材が設けられていてもよい。
【0030】
第2支柱部32は、第1支柱部31の前方(
図4において左方)にずれて配置されている。洗い場と浴槽の境2bを挟んで、第1支柱部31は浴槽側に配置され、第2支柱部32は洗い場側に配置されている。
【0031】
第2支柱部32は、支持ブラケット34,35に上下変位可能に支持されている。ひいては、第2支柱部32は、支持ブラケット34,35を介して第1支柱部31と相対的に上下変位可能に連結されている。
【0032】
第2支柱部32の下端部には、キャスター33(車輪)が設けられている。キャスター33の車軸は、浴室奥行方向へ向けられている。キャスター33は、洗い場パン2aにおける浴槽との境近くに着地可能、かつ洗い場パン2a上を浴室幅方向へ転動可能である。したがって、第2支柱部32の下端部は、第1支柱部31の下端部より浴室床2に対する浴室幅方向の摩擦抵抗が低い。キャスター33は、支柱30と浴室床2との間の摩擦を低減する前側摩擦低減手段を構成している。
キャスター33の前面部は、エプロン20と同じ質感のキャスターカバー23によって覆われている。
【0033】
さらに、第2支柱部32は、エプロン裾部22を支持する裾支持部を構成している。詳しくは、
図6(a)に示すように、左右の第2支柱部32に前面エプロン裾部22aの両端部が固定されている。かつ、側面エプロン裾部22bの前側の端部が、第2支柱部32に位置固定されて支持されている。エプロン裾部22は、キャスター33のコ字状の車輪ホルダー33hに固定されていてもよく、第2支柱部32の本体部32aに直接又はブラケット(図示せず)を介して固定されていてもよい。
なお、側面エプロン裾部22bの奥側の端部は、側面エプロン本体21bに連結軸27を介して連結されて支持されている。
【0034】
図4に示すように、可動浴槽3の前側部の幅方向の両側部には、各支柱30と連係するカム機構40が設けられている。カム機構40は、カム41と、カム受け部42と、操作レバー43(操作部)を含む。
【0035】
カム41は、第2支柱部32の上方における、エプロン20と第1支柱部31との間に形成されたスペースに配置され、支持ブラケット34に添えられている。支持ブラケット34にはカム軸41c(カム連結部)が設けられている。該カム軸41cのまわりに、カム41が、平常位置と作動位置の間で回転変位可能に取り付けられている。カム41は、カム軸41c及び支持ブラケット34を介して、浴槽本体10及び第1支柱部31に連結されている。カム41における平常位置から作動位置にかけて下を向く側面(第2支柱部32と対向する面)が、カム面41aを構成している。
【0036】
カム受け部42は、第2支柱部32の上端部に取り付けられ、第2支柱部32に対して位置固定されている。該カム受け部42がカム面41aに突き当てられることで、カム41とカム受け部42とが、互いのカム作用によって相対昇降し合うように係合されている。
【0037】
カム41から操作レバー43が延び出ている。操作レバー43の操作によって、カム41が平常位置と作動位置との間で変位される。前面エプロン本体21aには、カム41及び操作レバー43が収まる縦長の開口部21gが形成されている。
【0038】
図4に示すように、カム41が平常位置のときの操作レバー43は、前面エプロン本体21aに沿ってカム41から垂下され、開口部21gに収まっている。このとき、カム41及びカム受け部42どうしは、互いに平常の相対高さにあり、浴槽本体10が着地位置に配置されるとともに、第1支柱部31と第2支柱部32の下端部どうしが、略同じ高さに配置されて、それぞれ浴室床2に着地されている。すなわち、浴槽本体10の底部の脚部17が床ボード5aに着地されるとともに、第1支柱部31の下端の脚底部材31bが床ボード5aに着地され、第2支柱部32のキャスター33は、洗い場パン2aに着地されている。
【0039】
図5に示すように、カム41が作動位置のときの操作レバー43は、前面エプロン本体21aから前方へ突出される。このとき、カム41及びカム受け部42どうしは、平常時とは異なる相対高さになる。具体的には、カム軸41cとカム受け部42の高低差が前記平常位置のときより増大される。このため、支柱30の全体高さが平常位置のときより伸長される。これによって、
図5及び
図6(b)に示すように、浴槽本体10の前側部及び第1支柱部31が浴室床2から浮上されて、浴槽本体10が浮上位置に配置される。かつ、第2支柱部32のキャスター33が、第1支柱部31の脚底部材31bより下方へ突出され、第1支柱部31及び第2支柱部32のうち、第2支柱部32のキャスター33だけが、浴室床2に着地される。
【0040】
可動浴槽3における奥側部は、次のようにして支持されている。
図7に示すように、浴槽3の奥側部には、摺動レール60が設けられている。摺動レール60は、浴槽本体10の奥側框部12dの上板部に固定されている。摺動レール60は、概略四角形の一定断面に形成され、浴室1の幅方向へ直線状に延びている。摺動レール60は、低摩擦材料によって構成されている。低摩擦材料としては、ポリアセタール(POM)、フッ素系樹脂、高摺動性ポリエチレンなどが挙げられる。
【0041】
図7及び
図8に示すように、摺動レール60の底面及び前側面には、複数条の凹溝61が並んで形成されている。これによって、隣接する凹溝61の間に摺動突条62が形成されている。各凹溝61及び摺動突条62は、摺動レール60の長手方向(浴室の幅方向)へ真っ直ぐ延びている。摺動レール60の底面には、長手方向(浴室の幅方向)に間隔を置いて複数のクリック孔64が形成されている。
【0042】
図3(b)及び
図4に示すように、浴室1の奥側壁7には、1又は複数のバックハンガー50が設けられている。ここでは、2つのバックハンガー50が、互いに浴室幅方向に間隔を置いて設けられている。これらバックハンガー50によって、浴槽本体10の奥側框部12dが幅方向に移動可能に支持されている。
【0043】
詳しくは、
図9に示すように、バックハンガー50は、壁固定部材51と、ガイド部材52を含む。壁固定部材51は、硬質樹脂の成形品であり、上端が開口された概略角筒状に形成されている。壁固定部材51の材質としては、強度確保のために、POM、ガラス繊維強化ポリプロピレンなどを用いることが好ましい。なお、壁固定部材51は樹脂製に限らず、金属製であってもよい。
【0044】
壁固定部材51にガイド部材52が保持されている。ガイド部材52は、硬質樹脂の成形品であり、概略四角形の筒状に形成されている。ガイド部材52の材質としては、摺動を高めるために、POM、フッ素系樹脂、高摺動性ポリエチレンなどの低摩擦材料が用いられている。ガイド部材52を構成する低摩擦材料は、摺動レール60を構成する低摩擦材料と同一でもよく、異なっていてもよい。ガイド部材52は樹脂製に限らず、金属製であってもよい。
【0045】
図9に示すように、ガイド部材52の上端部には、上方へ開口する凹部状の摺動ガイド54が形成されている。
図7及び
図8に示すように、摺動レール60が、ガイド部材52に載せられ、摺動ガイド54に係合されている。摺動ガイド54は、摺動レール60の浴室幅方向への相対移動を許容し、かつ浴室奥行方向への相対移動を規制している。このようにして、可動浴槽3の奥側框部12dが、バックハンガー50によって浴室幅方向へ移動可能に支持されている。さらに、摺動ガイド54と摺動レール60との間のクリアランスやガイド部材52と壁固定部材51との間のクリアランス、ないしは各部材の弾性変形等によって、奥側框部12dが、浴室幅方向を向く軸線のまわりに回転可能になっている。ひいては、可動浴槽3が、バックハンガー50を回転支点として、水平な平常状態と、浴槽3の前側部が上側へ傾斜された浮上状態との間で回転可能になっている。
さらに、ガイド部材52には、浴槽3の前記傾斜時や浴室幅方向への移動時に奥側框部12dが奥側壁7にぶつからないように、奥側框部12dの奥側方向への変位を規制する奥側規制部54dが設けられている。
【0046】
図7に示すように、摺動ガイド54の凹底面54aには、わずかに隆起する部分球状のクリック凸部57が形成されている。摺動レール60ひいては浴槽3が浴室幅方向の所定位置に在るとき、クリック凸部57が所定のクリック孔64に嵌っている。
【0047】
かかる構造の可動浴槽3においては、
図4に示すように、通常使用時は、操作レバー43が開口部21g内に収まり、カム41が平常位置に配置され、カム軸41cとカム受け部42どうしの高低差が平常になっている。これによって、浴槽本体10及び第1支柱部31が床ボード5aに着地されている。したがって、可動浴槽3を浴室床2に安定的に載置でき、入浴に支障を来すことが無い。浴槽本体10に加わる荷重は、該浴槽本体10から浴室床2へ直接受け渡されるとともに、第1支柱部31から浴室床2へ受け渡される。したがって、第2支柱部32に加わる荷重を十分に小さくでき、カム機構40やキャスター33への負荷を軽減できる。
平常時におけるエプロン裾部22と浴室床2との隙間25a,25bの大きさは、最大で8mm程度であるため、該隙間25a,25bに足の指を挟むのを防止できる。
【0048】
図2(a)~同図(c)に示すように、可動浴槽3は、要介助者の身体機能などに応じて適切な浴室幅方向位置に配置されて利用される。可動浴槽3の配置変更は、次のようにして行われる。
浴槽本体10内に湯水が入っているときは、先ずそれを抜く。これによって、浴槽3に加わる荷重が軽くなる。
続いて、
図5に示すように、操作レバー43を手前側へ回すことによって、カム41を作動位置にする。これによって、カム41とカム受け部42が相対昇降される。具体的には、カム軸41cとカム受け部42の高低差が平常位置のときより増大される。これによって、支柱30の全体高さが伸長される。
このため、浴槽本体10の前側部が、バックハンガー50を回転支点として、浴室床2から浮き上がる。したがって、可動浴槽3の配置変更時に、浴槽本体10と浴室床2との間に働く摩擦抵抗を低減できる。かつ、浴槽本体10と一緒に第1支柱部31も浴室床2から浮き上がる。したがって、第1支柱部31と浴室床2との間に摩擦が働くことが無い。
【0049】
これに対し、第2支柱部32は、浮上されることなく、元の高さにとどまり、キャスター33が浴室床2に着地した状態を保持する。これによって、キャスター33を浴室床2に沿って転動させながら、可動浴槽3を浴室幅方向へ軽い力で容易に移動させることができる。バネ等の振動で可動浴槽3が不安定になることが無く、可動浴槽3の移動作業を安定的に行うことができる。
【0050】
エプロン本体21は、浴槽本体10の前側部及び第1支柱部31と一体に浮上される。一方、エプロン裾部22は、浮上されることなく、第2支柱部32と共に元の高さにとどまり、浴室床2に対して平常時と同じ高さを維持する。したがって、隙間25の大きさを常時8mm未満に維持でき、配置変更作業中に隙間25に足の指を挟むのを防止することができる。
【0051】
浴槽3の奥側部においては、摺動レール60に対して幅方向への移動力を付与することによって、クリック凸部57がクリック孔64から抜け出す。そして、摺動レール60が摺動ガイド54上を低摩擦で摺動される。浴槽3が浴室幅方向の1の所定位置まで移動された時、摺動レール60における1のクリック孔64がクリック凸部57と一致し、該クリック孔64にクリック凸部57が嵌入される。この時、クリック感が生じ、浴槽3が所定位置に来たことを感知できる。
【0052】
可動浴槽3を所望の所定位置まで移動させた後、
図4に示すように、操作レバー43を倒し、カム41を平常位置にする。これによって、カム軸41cとカム受け部42の高低差が平常に戻り、支柱30の全体高さが収縮されるとともに、浴槽本体10及び第1支柱部31が下降して床ボード5aに着地される。これによって、可動浴槽3を、変更後の位置に安定的に設置できる。
【0053】
可動浴槽3においては、エプロン本体21を厚肉にして強度を担わせることで、エプロン裾部22を薄肉にできる。エプロン裾部22をエプロン本体21とは別体にすることで、エプロン裾部22だけを交換等でき、メンテナンスが容易である。
【0054】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の実施形態と重複する構成に関しては図面に同一符号を付して説明を省略する。
<第2実施形態(
図10)>
図10に示すように、第2実施形態においては、エプロン裾部22Bが薄い平板状に形成されている。該エプロン裾部22Bが、鉛直に向けられて、エプロン本体21の凹み壁24の表側に被さっている。エプロン裾部22Bが薄くても、エプロン本体21の凹み壁24が添えられることによって強度を持たせることができ、エプロン裾部22Bの撓み変形などを防止できる。
【0055】
<第3実施形態(
図11)>
図11に示すように、第3実施形態においては、エプロン裾部22Cが厚肉の板状に形成されている。エプロン裾部22Cは、エプロン本体21の下方に鉛直に配置されている。エプロン裾部22Cの裏面の高さ方向の中間部には、補強リブ26が設けられている。これによって、エプロン裾部22Cに剛性が付与されている。
第3実施形態のエプロン本体21においては、下向き段差21dに続く凹み壁24(
図6(a)参照)が設けられていない。凹み壁24が無くても、厚肉エプロン裾部22Cに自立強度を持たせることができる。
【0056】
<第4実施形態(
図12)>
図12に示すように、第4実施形態においては、第2支柱部32の下端部に、キャスター33(
図4参照)に代えて、摺動材36が設けられている。摺動材36の材質としては、POM、フッ素系樹脂、高摺動性ポリエチレンなどの低摩擦材料が挙げられる。摺動材36が洗い場パン2aと接することで、可動浴槽3の移動時における摩擦抵抗を軽減できる。
【0057】
<第5実施形態(
図13)>
図13に示すように、第5実施形態においては、第2支柱部32の下端部の摺動材36に加えて、洗い場パン2aの上面に摺動材2sが設けられている。摺動材2sは、洗い場パン2aにおける浴槽との境2bに沿って浴室幅方向(
図13において紙面と直交する方向)へ延びる長板状に形成されている。摺動材2sの材質としては、POM、フッ素系樹脂、高摺動性ポリエチレンなどの低摩擦材料が挙げられる。該摺動材2sが、第2支柱部32の下端部の摺動材36と接している。これによって、可動浴槽3の移動時における摩擦抵抗を一層軽減できる。
【0058】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、裾支持部が、支柱とは別体に構成されていてもよく、該裾支持部が、浴室床上に配置されてエプロン裾部を支持していてもよい。
浴槽本体10の奥側部をバックハンガー50に代えて支柱で支持してもよい。該奥側部の支柱にもカム機構を設けて、浴槽本体10の奥側部をカム作用によって浮上させるようにしてもよい。
カム41が平常位置のとき、第1支柱部31及び浴槽本体10のうち少なくとも第1支柱部31が浴室床2に着地されていればよく、浴槽本体10は着地されていなくてもよい。
カム41が第2支柱部32に設けられ、カム受け部42が第1支柱部31に設けられていてもよい。カム41が第2支柱部32ひいては支柱30に設けられ、カム受け部42が浴槽本体10に設けられていてもよい。
カム機構は、操作部43の操作力を第1及び第2支柱部31,32どうしの相対高さ変位に変換するものであればよい。カム機構が、ネジ機構を含んでいてもよい。ネジ機構の雄ネジ及び雌ネジの一方がカムを構成し、雄ネジ及び雌ネジの他方がカム受け部を構成していてもよい。第1支柱部と第2支柱部がネジ結合されており、ネジを回すことで第1支柱部に対して第2支柱部が相対的に昇降され、支柱の全体高さが増減されるようになっていてもよい。
第5実施形態(
図13)において、摺動材2s,36のうち支柱側の摺動材36を省略してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、例えば介護施設における浴槽に適用できる。
【符号の説明】
【0060】
1 浴槽可動式浴室
2 浴室床
2a 洗い場パン
2s 摺動材
3 浴槽
10 浴槽本体
20 エプロン
21 エプロン本体
21a 前面エプロン本体
21b 側面エプロン本体
21d 下向き段差
22 エプロン裾部
22a 前面エプロン裾部
22b 側面エプロン裾部
24 凹み壁
25 隙間
25a 前面側の隙間
25b 側方の隙間
30 支柱
31 第1支柱部
32 第2支柱部(裾支持部)
33 キャスター(車輪)
36 摺動材
40 カム機構
41 カム
41a カム面
41c カム軸
42 カム受け部
43 操作レバー(操作部)