(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】インクカートリッジ、それを用いたインクジェット記録方法、及び印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20240625BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C09D11/30
B41M5/00 120
(21)【出願番号】P 2018244969
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-09-14
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000183923
【氏名又は名称】株式会社DNPファインケミカル
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山崎 史絵
(72)【発明者】
【氏名】白石 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大柿 めぐ美
(72)【発明者】
【氏名】杉田 行生
【合議体】
【審判長】関根 裕
【審判官】山田 貴之
【審判官】塩見 篤史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-159037(JP,A)
【文献】特開2013-173288(JP,A)
【文献】特開2004-143330(JP,A)
【文献】特開2005-075961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク組成物が充填されたインク用容器を収容するインクジェット記録用のインクカー
トリッジであって、
前記インク組成物が、水と有機溶剤とを含有する溶剤と、樹脂と、界面活性剤と、を含
有し、
前記水は前記インク組成物100質量部中30質量部以上であり、
前記インク組成物に含有される前記樹脂の少なくとも一部は樹脂エマルジョンとして含
有し、
前記インク用容器に充填される前記インク組成物の体積と、前記インク用容器中に含有
される空隙の体積と、の合計体積に対する前記空隙の体積の比で定義される空隙率が
10%以下であ
り(空隙率ゼロ%を除く)、室温における溶存酸素が1ppm以上5ppm以下であるインクカートリッジ。
【請求項2】
前記インク用容器は、可撓性を有する容器である請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインクカートリッジを用いてインクジェット方式にて基材の表面に前記インクカートリッジに収容されたインク用容器に充填されたインク組成物を吐出するインクジェット記録方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のインクカートリッジを用いてインクジェット方式にて基材の表面に前記インクカートリッジに収容されたインク用容器に充填されたインク組成物を吐出する工程を含む印刷物の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のインクカートリッジを備えたインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にインク組成物が充填されたインク用容器を収容するインクジェット記録用のインクカートリッジ、それを用いたインクジェット記録方法、印刷物の製造方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用のインク組成物として、各種の水溶性染料を水、又は水と有機溶剤との混合液に溶解させたインク組成物が広く用いられている。このインク組成物をインクジェット方式により紙等の基材に直接吐出し、付着させて混合液が乾燥することにより文字や画像を得ることができる。
【0003】
上記のインクジェット記録用のインク組成物のなかでも水がインク組成物中30質量%以上含有されるような水を主成分とするインク組成物が用いられている。水は、インク組成物に含有される他の溶剤よりも沸点が低い。又、水は有機溶剤のように引火することがなく安全であり環境面でも優れる溶剤である。
【0004】
そして、インク組成物の適応範囲を拡大するため、樹脂エマルジョン(ラテックス樹脂粒子)を含有することで、インク塗膜の性能を向上させる試みがなされてきている(例えば、特許文献1、2)。
【0005】
樹脂エマルジョン(ラテックス樹脂粒子)は、連続相が水溶性溶媒であり、分散粒子が樹脂微粒子である水性分散液を意味する。樹脂エマルジョンを形成することによって、樹脂が静電反発力や立体反発力により樹脂微粒子としてインク組成物中に分散することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-019431号公報
【文献】特開2007-099913号公報
【文献】特開2006-007685号公報
【文献】特表2005-518974号公報
【文献】特開2013-144774号公報
【文献】特開2015-193824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、樹脂エマルジョンを含有するインク組成物は、インク組成物が記録媒体に塗布されたときに、インク組成物に含有される水溶性溶媒が蒸発や記録媒体に浸透して、記録媒体上に樹脂エマルジョンが増粘・凝集する。それにより、樹脂エマルジョンを含有するインク組成物は、インク組成物に含有される色材を記録媒体に定着させることができる。
【0008】
一方、樹脂エマルジョンを含有するインク組成物は、インクカートリッジ内のインク用容器に充填され長期間保管されたときに、樹脂エマルジョンが増粘又は凝集する場合があることが本発明者らによって見出された。樹脂エマルジョンが増粘又は凝集したインク組成物は、インクジェット記録装置の流路内やインクジェットヘッドの流路やノズルを詰まらせるおそれがあり、インク組成物のインクジェット吐出性を悪化させるおそれがある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、インク用容器に充填されたインク組成物中の樹脂エマルジョンの増粘又は凝集を抑制して安定性を保つことができるインクジェット記録用のインクカートリッジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした。その結果、インク用容器の空隙率が調整されたインクカートリッジであれば上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0011】
(1)インク組成物が充填されたインク用容器を収容するインクジェット記録用のインクカートリッジであって、
前記インク組成物が、水と有機溶剤とを含有する溶剤と、樹脂と、界面活性剤と、を含有し、
前記水は前記インク組成物100質量部中30質量部以上であり、
前記インク組成物に含有される前記樹脂の少なくとも一部は樹脂エマルジョンとして含有し、
前記インク用容器に充填される前記インク組成物の体積と、前記インク用容器中に含有される空隙の体積と、の合計体積に対する前記空隙の体積の比で定義される空隙率が30%以下であるインクカートリッジ。
【0012】
(2)前記インク用容器は、可撓性を有する容器である(1)に記載のインクカートリッジ。
【0013】
(3)(1)又は(2)に記載のインクカートリッジを用いてインクジェット方式にて基材の表面に前記インクカートリッジに収容されたインク用容器に充填されたインク組成物を吐出するインクジェット記録方法。
【0014】
(4)(1)又は(2)に記載のインクカートリッジを用いてインクジェット方式にて基材の表面に前記インクカートリッジに収容されたインク用容器に充填されたインク組成物を吐出する工程を含む印刷物の製造方法。
【0015】
(5)(1)又は(2)に記載のインクカートリッジを備えたインクジェット記録装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明のインクカートリッジは、インク用容器に充填されたインク組成物中の樹脂エマルジョンの増粘又は凝集を抑制して安定性を保つことができるインクジェット記録用のインクカートリッジである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態のインク用容器が収容されているインクカートリッジの斜視図である。
【
図2】
図1におけるA-A断面図であって、インク用容器内のインクと空隙とを表した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
<インクカートリッジ>
本実施形態のインクカートリッジ1は、インク用容器を収容するインクジェット記録用のインクカートリッジである。
図1に本実施形態のインクカートリッジ1の斜視図を示す。インク用容器12が外枠(ケース)11に収容されている。又、インク用容器12には、インク組成物123が充填されている。尚、本実施形態のインクカートリッジ1は、必要に応じてその他の部材を有するものであってもよい。
【0020】
尚、
図1に記載のインクカートリッジ1は、一般のインクカートリッジに用いられる程度剛性を有する外枠(ケース)11と、2枚以上のフィルムを使用し、フィルムの周縁部をヒートシールすることにより作成されたインク用容器12(パウチ容器)から構成されるインクカートリッジであるが、本発明のインクカートリッジは、この態様に限定されるものではない。インク用容器についてもパウチ容器に限定されず、例えば、内側に折り畳み可能な直方体状の樹脂製の容器(例えば、キュービテナー)のような可撓性を有する容器を用いてもよく、外枠にダンボールのような紙製容器を用いてもよい。
【0021】
そして、本実施形態のインクカートリッジ1は、インク組成物123が充填されたインク用容器12の空隙率はインク用容器12の全容量中30%以下である。
【0022】
図2にインク用容器12内の断面図を示す。樹脂エマルジョンを含有するインク組成物123は、インクカートリッジ1内のインク用容器12に充填され長期間保管されたときに、インク組成物123とインク用容器12中の空隙aとの界面でインク組成物123中の樹脂エマルジョンの増粘又は凝集、あるいは塗膜化が起きることがあり、インクジェット記録装置の流路内やインクジェットヘッドの流路やノズルが詰まったり、インクの物性の変化によって吐出性が悪くなることがあることが本発明者らによって見出された。
【0023】
そこで、本実施形態のインクカートリッジ1は、インク用容器12の空隙率が30%以下と特定されている。そのため、インク組成物123と空隙aとの界面の面積を減らすことができる。又、インク用容器12の空隙率が30%以下にすることにより、インク組成物に含有される溶剤の揮発を抑制してインク組成物123と空隙aの界面でのインクの乾燥が抑制される。これにより、インクカートリッジ1内のインク用容器12に充填され長期間保管されたときであっても樹脂エマルジョンが増粘・凝集、あるいは塗膜化することを抑制することができる。更に、空隙率が30%以下にすることによりインク組成物中の溶存気体を減らすことができる。インクジェットヘッド中で溶存気体に起因する気泡の発生を抑制できるようになるためインク組成物の保存安定性の低下や吐出性が悪化することを抑制することができる。
【0024】
尚、本明細書において空隙率とは、空隙率(%)=インク用容器中の空隙の体積/((インク用容器中のインク組成物の体積)+(インク用容器中の空隙の体積))×100で定義される。インク組成物の体積及び空隙の体積は、室温で大気圧、大気雰囲気下でシリンジを使用してインク用容器から気体及びインク組成物を抜き取ってインク組成物及び空隙(気体)の体積をそれぞれ測定して求めることができる。
【0025】
例えば特許文献3には、空隙率が10%超50%以下のインク容器が開示されている。しかしながら、特許文献3に記載のインク容器に充填されるインク組成物は、記録媒体上に塗布され、光(紫外線)の被照射により硬化する光(紫外線)硬化性インクである(文献3[0035])。水溶性溶媒が蒸発や記録媒体に浸透すること等により水溶性溶媒が減少して、記録媒体上に樹脂エマルジョンが増粘・凝集する本実施形態に係るインク組成物とはインク組成物が記録媒体に定着する原理、及びインク組成物の成分及び組成比が明確に異なる。すなわち、特許文献3に記載のインク組成物は、インク用容器内で樹脂エマルジョンが増粘・凝集、あるいは塗膜化するという課題は発生しない。
【0026】
本実施形態のインクカートリッジは、樹脂エマルジョンを含有するインク組成物がインクカートリッジ内のインク用容器に充填され長期間保管されたときにインク組成物の吐出性が悪化することを抑制することを課題として、インク用容器の空隙率が調整されたインクジェット記録用のインクカートリッジである。このようなインクカートリッジは新規のインクカートリッジである。
【0027】
尚、本実施形態のインクカートリッジは後述するインクジェット記録装置に着脱可能であることが好ましい。
【0028】
[インク用容器]
本実施形態のインクカートリッジに備えられるインク用容器12(以下、「本実施形態に関するインク用容器12」、又は単に「インク用容器12」等と表記することがある。)は、インクカートリッジ1に収容される容器である。インク用容器12は、内部に一定量のインク組成物123が充填できるようになっており、インク用容器12内に充填されているインク組成物123をインク供給口122を介してインクジェットヘッドに供給する。
【0029】
尚、インク用容器12は、インクカートリッジ内に1つ収容されていてもよいし、2つ以上収容されていてもよい(図示せず)。インク用容器がインクカートリッジ内に2つ以上収容されている場合には、各インク用容器に充填されている各インク組成物は同一であっても異なっていてもよい。種類が異なる場合の、インク組成物の組み合わせとしては、例えば、インク組成物に含有される色材の種類が異なり、異なる色のインク塗膜を形成可能なインク組成物の組み合わせを挙げることができる。
【0030】
本実施形態に関するインク用容器12の材質としては、インク組成物123を密封することができる材質であるならばどのような素材を使用してもよく、バリア性、加工性の観点から、インク用容器12の材質は、特に熱可塑性樹脂製が好ましい。
【0031】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、2軸延伸ナイロン6、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ビニリデンクロライドポリマー、ナイロン11、ナイロン12、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドや、ポリプロピレン、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などを挙げることができる。
【0032】
具体例としては、熱可塑性樹脂よりなるシート、これらシートにアルミニウム等の金属箔をラミネートしてなるシート、アルミニウム等の金属を蒸着してなるシート、これらのシートを他の熱可塑性樹脂に貼り合わせてなる積層シート等を単独で用いて容器を形成したものや、複数のシートを組み合わせて用いて容器を形成したものが挙げられる。
【0033】
又、無機物蒸着層を介して上方又は片側に透明な可撓性シートを積層することや、少なくとも一方の最内層が熱可塑性樹脂で形成されていることも挙げられる。
【0034】
無機物蒸着膜としては例えば、アルミニウムや亜鉛等の金属、アモルファスシリカ、硫化亜鉛等の無機硫化物、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機酸化物、等が用いられる。
【0035】
本実施形態に関するインク用容器12は、可撓性を有する容器であることが好ましい。インク用容器12に充填されているインク組成物123の量に応じてインク用容器12の形状が可撓性により変化してインク用容器12の密閉状態を維持することができる。又、インク用容器12に充填されたインク組成物123が使用され、インク用容器中のインク組成物の体積が減少したとしても、可撓性を有するインク用容器であれば、その体積減少に伴いインク用容器12の容量が減少するようにインク用容器12の形状が変化する。そのため、インク用容器に大気が入り込むことによるインク用容器中における空隙の体積増加を抑制することができる。
【0036】
本実施形態に関するインク用容器12の形状は従来公知の形状でよい。例えば正面視において略長方形状や楕円形状のケースや袋状体のパウチ容器等を例示することができる。パウチ容器とは、少なくとも2枚以上のフィルムを使用し、フィルムの周縁部をヒートシールすることにより作成される容器である。
【0037】
本実施形態に関するインク用容器12の容量は、0.01リットル以上が好ましく0.1リットル以上がより好ましい。本実施形態に関するインク用容器の容量は、10リットル以下が好ましく5リットル以下がより好ましい。
【0038】
(空隙)
本実施形態に関するインク用容器12の内部には、空隙aを備える。本明細書において空隙とはインク用容器内においてインク組成物以外の空気等の気体が占めるインク用容器内の空隙をいう。
【0039】
空隙aを構成する気体は、例えば空気、窒素、アルゴン等の希ガス等を挙げることができる。
【0040】
本実施形態に関するインク用容器12の空隙率(%)は、30%以下であり、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。
【0041】
[外枠(ケース)]
本実施形態に関する外枠(ケース)11の材質は特に限定されず、ガラス類、金属類及び熱可塑性樹脂製などを挙げることができる。このうち、耐久性、衝撃耐性、軽量性、搬送容易性及びコストの観点から、特に熱可塑性樹脂が好ましい。又、一般のインクカートリッジに用いられる外枠(ケース)のようにある程度剛性を有する容器であってもよく、ダンボールのような紙製容器を用いてもよい。
【0042】
外枠(ケース)11は、例えば、特許文献4~6等に記載される上ケース及び下ケースを用いたケース等と同様の外枠(ケース)を使用することができる。
【0043】
[インク組成物]
本実施形態に関するインク組成物は、溶剤と、樹脂と、界面活性剤と、を含有するインク組成物である。又、溶剤は水と有機溶剤とを含有する。水はインク組成物100質量部中30質量部以上である。
【0044】
本実施形態に関するインク組成物は、インク組成物中の水の含有量が30質量部以上であることにより、インク組成物の引火性が低減し、安全なインク組成物となる。又、水は沸点が低いため、インク組成物中の水の含有量が50質量部以上であることにより、インク組成物の乾燥性を向上させることができる。尚、インク組成物中の水の含有量が30質量部以上であるインク組成物を「水を主成分とするインク組成物」等と表記することがある。
【0045】
次に、本実施形態に関するインク組成物に含有される各成分について各々説明する。
【0046】
(溶剤)
本実施形態に関するインク組成物に含有される溶剤は、水と有機溶剤とを含有する溶剤である。含有される水としては、種々のイオンを含有するものではなく、脱イオン水を使用することが好ましい。水の含有量としては、インク組成物100質量部中30質量部以上であれば特に限定されるものではないが、インク組成物100質量部中40質量部以上であることが好ましく、インク組成物100質量部中45質量部以上であることが好ましい。水の含有量が、インク組成物100質量部中30質量部以上であることにより、インク組成物の引火性が低減し、安全なインク組成物となる。又、水は沸点が低いため、インク組成物中の水の含有量が30質量部以上であることにより、インク組成物の乾燥性を向上させることができる。
【0047】
又、含有される有機溶剤としては、特に限定されるものではなく、本実施形態に関するインク組成物における設計上の性能を損なわない範囲であれば特に限定されるものではないが、有機溶剤の沸点は、120℃以上であることが好ましい。又は有機溶剤の沸点は、300℃以下であることが好ましい。本実施形態に関するインク組成物に含有される有機溶剤の沸点が120℃以上であることにより、低沸点溶剤の揮発によるインク組成物の臭気を抑制することができ、又、低沸点成分の有機溶剤がインクジェットヘッドやインクジェット記録装置の樹脂部材の膨潤あるいは溶解することによる不具合が発生する危険性を軽減することができる。又、沸点120℃以上300℃以下の有機溶剤を含有することによって、基材が樹脂基材であってもインク組成物がはじかれにくく、適切に画像を形成することができ、インクの安定性、インクジェットヘッドのノズル保湿性、吐出安定性を良好にすることができる。有機溶剤の沸点が300℃以下であることにより、インク組成物の乾燥性が向上し、印刷物の耐ブロッキング性が向上する。
【0048】
120℃以上300℃以下の有機溶剤としては、例えば、アルカンジオール化合物や複素環式化合物を挙げることができる。
【0049】
複素環式化合物としては、例えば2-ピロリドン、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ピロリドンカルボン酸、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、α-ラクタム、β-ラクタム、γ-ラクタム、δ-ラクタム、等を挙げることができる。
【0050】
アルカンジオール化合物は、有機溶剤100質量部中3質量部以上含有されることが好ましく、有機溶剤100質量部中10質量部以上含有されることがより好ましい。
【0051】
アルカンジオール化合物としては、例えば、2-メチル-1,3-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ブタンジオール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、エチレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等を挙げることができる。
【0052】
アルカンジオール化合物の中でも、2-メチル-1,3-ペンタンジオール及び/又は2-メチル-1,3-プロパンジオールを含有することが好ましい。2-メチル-1,3-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオールは、基材へのインクの濡れ広がりを向上させることができ、又、基材へのインク定着性も良好なものにすることができる。
【0053】
(樹脂)
本実施形態に関するインク組成物は樹脂を含有する。インク組成物に樹脂を含有することで、印刷物の定着性や耐水性が向上する。又、本実施形態に関するインク組成物では、含有する樹脂の少なくとも一部は、樹脂エマルジョンとして含有する。本実施形態に関するインク組成物において、樹脂エマルジョンとは、連続相が水溶性溶媒であり、分散粒子が樹脂微粒子である水性分散液を意味する。樹脂エマルジョンを形成することによって、樹脂が静電反発力や立体反発力によって樹脂微粒子としてインク組成物中に分散することができる。上記樹脂エマルジョンは、一般に連続相である水溶性溶媒が蒸発や浸透等により減少すると、増粘・凝集する性質を持ち、色材の基材への定着を促進する効果を有する。
【0054】
インク中にバインダー成分として樹脂が含有されると耐性が良好なインク塗膜を形成することができるが、水溶性樹脂の含有量が多くなりすぎると、インク塗膜の耐水性や吐出安定性が低下する可能性がある。又、樹脂エマルジョンとすることによって、高分子量の樹脂を含有することができ、インク塗膜物性を良好なものとすることができる。そのため、含有する樹脂の少なくとも一部は、樹脂エマルジョンとして含有することが好ましい。
【0055】
本実施形態に関するインク組成物に含有される樹脂が少なくとも一部が樹脂エマルジョンとして含有される。樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル塩化ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ウレタン樹脂、アクリルポリエステル樹脂、ウレタンアクリル樹脂、シリコーン(シリコン)樹脂、アクリルアミド樹脂、エポキシ樹脂、あるいはこれらの共重合樹脂や混合物を用いることができる。本発明においては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリルポリエステル樹脂、スチレンアクリル樹脂、アクリル塩化ビニル樹脂等であることが好ましく、なかでも、アクリル樹脂であることが好ましい。アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーに由来する構成単位(アクリル系構成単位)を主成分として含むものであれば特に限定されるものではないが、例えば、スチレン、スチレンのα-、o-、m-、p-アルキル、ニトロ、シアノ、アミド、エステル誘導体、ビニルトルエン、クロルスチレン等の芳香族ビニルモノマー、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸モノブチルエステル、ビニル安息香酸、シュウ酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、フタル酸2-メタクリロイルオキシエチル、カルボキシル基末端カプロラクトン変性(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和二重結合及びカルボキシル基を有するカルボキシル基含有モノマー、のいずれかのモノマー由来の繰り返し単位を含む共重合体であることがより好ましい。これにより、インク組成物中のインク塗膜物性をより良好なものとすることができる。
【0056】
なお、アクリル樹脂は、これらのモノマーを用いて形成可能なものであるが、モノマーの共重合の形態については、特に限定されるものではなく、例えばブロックコポリマー、ランダムコポリマー、グラフトコポリマー等とすることができる。樹脂エマルジョンは、例えば、乳化重合反応させ、反応後に中和させて製造することができる。乳化剤としては、通常の高分子型界面活性剤を用いてもよく、不飽和結合を有する反応性界面活性剤を用いてもよい。合成方法については、特に限定されるものではないが、例えば、反応性界面活性剤、非反応性界面活性剤、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体等の存在下で水と、モノマーと、乳化剤と、重合開始剤とを混合して乳化重合することができる。又、樹脂エマルジョンは、乳化重合反応させることなく、樹脂溶液を、界面活性剤とともに、水と混合することによっても得ることができる。例えば、(メタ)アクリル酸エステル又はスチレンと(メタ)アクリル酸エステルからなる樹脂の溶液及び界面活性剤を水中に添加して混合することにより得ることができる。更に、上記アクリル樹脂を、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン(シリコン)樹脂等のアクリル樹脂以外の樹脂と共重合させてもよい。
【0057】
市販の樹脂エマルジョンとしては、例えば、アクリットWEM-031U、WEM-200U、WEM-321、WEM-3000、WEM-202U、WEM-3008、(大成ファインケミカル(株)製、アクリル-ウレタン樹脂エマルジョン)、アクリットUW-550CS、UW-223SX、AKW107、RKW-500(大成ファインケミカル(株)製、アクリル樹脂エマルジョン)、LUBRIJET N240(ルーブリゾール製、アクリル樹脂エマルジョン)、スーパーフレックス150、210、470、500M、620、650、E2000、E4800、R5002(第一工業製薬(株)製、ウレタン樹脂エマルジョン)、ビニブラン701FE35、701FE50、701FE65、700、701、711、737、747(日信化学(株)製、塩化ビニル-アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2706、2685(日信化学(株)製、アクリル樹脂エマルジョン)、モビニール743N、6600、7470、7720、(日本合成化学(株)製、アクリル樹脂エマルジョン)、等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
樹脂エマルジョンの平均粒子径は、インク組成物中での分散安定性と、インクジェット吐出性の観点から、30nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましい。又、300nm以下が好ましく、250nm以下がより好ましい。なお、本実施形態において、顔料の数平均粒子径は、測定温度25℃にて濃厚系粒径アナライザー(大塚電子(株)製、FPAR-1000)を用いて測定することができる。
【0059】
樹脂エマルジョンの質量平均分子量は、膜耐水性の観点から、10000以上が好ましく、100000以上がより好ましい。樹脂エマルジョンの質量平均分子量は、インク組成物の安定性の観点から1000000以下が好ましく、500000以下がより好ましい。なお、本実施形態において樹脂の分子量は、質量平均分子量Mwを示すものであり、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値であり、東ソー(株)製の「HLC-8120GPC」にて、校正曲線用ポリスチレンスタンダードを標準にして測定することができる。
【0060】
樹脂エマルジョンのガラス転移点(Tg)は、低吸収性基材や非吸収性基材に印刷した場合でも、耐水性、耐溶剤性及び耐擦過性を有する印刷物を形成可能であることから、又、印刷物を形成するために高い温度をかけることを回避でき、多くのエネルギーを不要とすることや、印刷基材が熱による損傷を受けにくいものとすることができることから、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上が更に好ましい。又、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下が更に好ましい。なお、ガラス転移温度(Tg)は、例えば島津製作所(株)製の示差走査熱量計「DSC-50」にて測定することができる。
【0061】
樹脂エマルジョンは、カチオン性、ノニオン性、アニオン性いずれかに限定されるものではないが、樹脂エマルジョンの酸価は、インク組成物の保存安定性等の観点から、0.01mgKOH/g以上であることが好ましい。樹脂エマルジョンの酸価は、印刷物の耐水性、インク組成物の保存安定性等の観点から、25mgKOH/g以下であることが好ましい。なお、本発明において酸価とは、試料(樹脂の固形分)1g中に含まれる酸性成分を中和するために要する水酸化カリウムの質量(mg)を示すものであり、JIS K 0070に記載の方法に準ずる方法により測定することができるものである。
【0062】
本実施形態のインク組成物において、インク組成物100質量部中に含まれる樹脂(樹脂エマルジョン)の質量部は、所望の耐水性及び耐溶剤性を有する印刷物を形成可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、インク組成物中に0.05質量部以上であることが好ましく、中でも、0.1質量部以上であることが好ましく、更に0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。又、インク組成物中に25質量部以下であることが好ましく、中でも、20質量部以下であることが好ましく、更に15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0063】
[界面活性剤]
本実施形態のインク組成物には界面活性剤が含有される。界面活性剤は、特に限定されるものではないが、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルやポリオキシアルキレンベンジルフェニルエーテルやアルキレンオキサイド変性されていてもよいアセチレングリコール系界面活性剤等の非イオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤を挙げることができる。
【0064】
本実施形態のインク組成物においては、中でも、ポリオキシアルキレンベンジルフェニルエーテル、フッ素系界面活性剤、及びポリシロキサン系界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の界面活性剤を含有することが好ましい。インク用容器に充填されたインク組成物中の樹脂エマルジョンの増粘又は凝集を抑制して安定性を保つことができる。
【0065】
ポリオキシアルキレンベンジルフェニルエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル(例えば、花王(株)製、エマルゲンB66)等を挙げることができる。
【0066】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンフッ素化アルキルエーテル、フッ素化アルキル親水性基含有オリゴマー、フッ素化アルキルエステル付加重合物、等が挙げられ、中でもノニオン性ポリオキシアルキレンフッ素化アルキルエーテルを含有することがより好ましい。基材に対する濡れ広がり性をより優れたものとすることができる。フッ素系界面活性剤としては、市販品としては、例えば、メガファック(フッ素系界面活性剤;DIC株式会社製)、サーフロン(フッ素系界面活性剤;AGCセイミケミカル社製)等を挙げることができる。
【0067】
ポリオキシアルキレンフッ素化アルキルエーテルを含有することにより、水を主成分とする本実施形態のインク組成物であっても静的表面張力を大きく下げる効果を有するため、静的表面張力を好ましい範囲にすることができる。そのため、本実施形態のインク組成物に含有される界面活性剤として、ポリオキシアルキレンフッ素化アルキルエーテルを含有する界面活性剤を用いることが好ましい。
【0068】
ポリシロキサン系界面活性剤としては、有機変性ポリシロキサン系のノニオン性界面活性剤が好ましく、本発明においては、中でもポリエーテル基を有するポリエーテル基変性ポリシロキサン化合物を好ましく用いることができる。
【0069】
ポリシロキサン化合物は、市販品としては、例えば、FZ-2122、FZ-2110、FZ-7006、FZ-2166、FZ-2164、FZ-7001、FZ-2120、SH 8400、FZ-7002、FZ-2104、8029 ADDITIVE、8032 ADDITIVE、57 ADDITIVE、67 ADDITIVE、8616 ADDITIVE(いずれも、東レ・ダウコーニング社製)、KF-6012、KF-6015、KF-6004、KF-6013、KF-6011、KF-6043、KP-104、110、112、323、341、(いずれも、信越化学(株)製)、BYK-300/302、BYK-301、BYK-306、BYK-307、BYK-320、BYK-325、BYK-330、BYK-331、BYK-333、BYK-337、BYK-341、BYK-342、BYK-344、BYK-345/346、BYK-347、BYK-348、BYK-349、BYK-375、BYK-377、BYK-378、BYK-UV3500、BYK-UV3510、BYK-310、BYK-315、BYK-370、BYK-UV3570、BYK-322、BYK-323、BYK-3455、BYK-Silclean3700(いずれも、ビックケミー社製)、シルフェイスSAG503A、シルフェイスSJM-002、シルフェイスSJM-003(いずれも、日信化学工業(株)製)、TEGO Twin 4000、TEGO Twin 4100、TEGO Wet 240、TEGO Wet 250、TEGO Wet 240、(いずれも、エボニック社製)等を挙げることができる。
【0070】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等が挙げられる。中でもポリオキシエチレンアルキルエーテルを好ましく用いることができる。インク用容器に充填されたインク組成物中の樹脂エマルジョンの増粘又は凝集を抑制して安定性を保つことができる。
【0071】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、例えば、ノニオンP-208、P-210、P-213、E-202S、E-205S、E-215、K-204、K-220、S-207、S-215、A-10R、A-13P、NC-203、NC-207(日本油脂(株)製)、エマルゲン106、108、707、709、A-90、A-60(花王(株)製)、フローレンG-70、D-90(共栄社化学(株)製)、ポエムJ-0081HV(理研ビタミン(株)製)、アデカトールNP-620、NP-650、NP-660、NP-675、NP-683、NP-686、アデカコールCS-141E、TS-230E((株)アデカ製)等、ソルゲン30V、40、TW-20、TW-80、ノイゲンCX-100(第一工業製薬(株)製)等が例示される。
【0072】
アルキレンオキサイド非変性アセチレングリコール系界面活性剤としては、具体的には、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3-ヘキシン-2,5-ジオール、2-ブチン-1,4-ジオール等が挙げられる。又、市販品としては、サーフィノール61、82、104(いずれも、エアープロダクツ社製)等を用いることができる。
【0073】
アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤としては、具体的には、サーフィノール420、440、465、485、TG、2502、ダイノール604、607(いずれも、エアープロダクツ社製)、サーフィノールSE、MD-20、オルフィンE1004、E1010、PD-004、EXP4300、PD-501、PD-502、SPC(いずれも、日信化学工業(株)製)、アセチレノールEH、E40、E60、E81、E100、E200(いずれも、川研ファインケミカル(株)製)等が挙げられる。
【0074】
これらの界面活性剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。界面活性剤の含有量は、インク混和性や洗浄性、流路内壁への濡れ性、インクジェット吐出性に合わせて適宜調整され、インク組成物100質量部中、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上含有される。又、インク組成物100質量部中、好ましくは5質量部以下、3質量部以下含有される。
【0075】
(色材)
本実施形態に関するインク組成物は、色材を含有してもよい。色材は、インク組成物に一般的に用いられる、染料又は顔料を用いることができる。顔料は、無機顔料や有機顔料等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。尚、本実施形態に関するインク組成物は、色材を含有しない、いわゆるクリアインクであってもよい。
【0076】
有機顔料としては、例えば、不溶性アゾ顔料、溶性アゾ顔料、染料からの誘導体、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、ジオキサジン顔料、ニッケルアゾ顔料、イソインドリノン顔料、ピランスロン顔料、チオインジゴ顔料、縮合アゾ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、キノフタロン顔料、イソインドリン顔料、キナクリドン系固溶体顔料、ペリレン系固溶体顔料等の有機固溶体顔料、その他の顔料として、カーボンブラック等が挙げられる。
【0077】
有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで例示すると、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、20、24、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、117、120、125、128、129、130、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185、213、214;C.I.ピグメントレッド5、7、9、12、48、49、52、53、57、97、112、122、123、149、168、177、180、184、192、202、206、209、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254;C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、64、71;C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50;C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64;C.I.ピグメントグリーン7、36、58;C.I.ピグメントブラウン23、25、26等が挙げられる。
【0078】
無機顔料としては、例えば、硫酸バリウム、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸バリウム、硫酸バリウム、シリカ、クレー、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、合成マイカ、アルミナ、亜鉛華、硫酸鉛、黄色鉛、亜鉛黄、べんがら(赤色酸化鉄(III))、カドミウム赤、群青、紺青、酸化クロム緑、コバルト緑、アンバー、チタンブラック、合成鉄黒、無機固溶体顔料等を挙げることができる。
【0079】
顔料の平均分散粒径は、所望の発色が可能なものであれば特に限定されるものではない。顔料の種類によっても異なるが、顔料の分散安定性が良好で、充分な着色力を得る点から、300nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましい。10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましい。平均分散粒径が300nm以下であれば、インクジェットヘッドのノズル目詰まりを起こしにくく、再現性の高い均質な画像を得ることができる。平均分散粒径が10nm以上であれば、得られる印刷物の耐光性を良好なものとすることができる。
【0080】
顔料の含有量としては、所望の画像を形成可能であれば特に限定されるものではなく、適宜調整されるものである。具体的には、顔料の種類によっても異なるが、インク組成物100質量部中に対して0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましい。又、インク組成物100質量部中に対して20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。顔料の含有量が20質量部以下であることにより、顔料の分散安定性と着色力のバランスに優れたものとすることができる。
【0081】
(顔料分散剤)
本実施形態に関するインク組成物には顔料分散剤が含有されていてもよい。ここで顔料分散剤とは、顔料表面の一部に付着することでインク内での顔料の分散性を向上させる機能を有する樹脂又は界面活性剤のことを意味する。
【0082】
本実施形態に関するインク組成物において、用いることのできる顔料分散剤は特に限定されない。例えば、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性、シリコーン(シリコン)系、フッ素系等の界面活性剤を使用できる。界面活性剤の中でも、次に例示するような高分子界面活性剤(高分子分散剤)が好ましい。
【0083】
本実施形態に関するインク組成物において用いることのできる顔料分散剤としては、水溶性高分子分散剤を好ましく用いることができる。水溶性高分子分散剤としては、例えば、ポリエステル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリカプトラクトン系の主鎖を有し、側鎖に、アミノ基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等の極性基を有する分散剤等が挙げられる。例えば、ポリアクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステルの(共)重合体類;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物とアクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステルの共重合体類;ポリアクリル酸等の不飽和カルボン酸の(共)重合体の(部分)アミン塩、(部分)アンモニウム塩や(部分)アルキルアミン塩類;水酸基含有ポリアクリル酸エステル等の水酸基含有不飽和カルボン酸エステルの(共)重合体やそれらの変性物;ポリウレタン類;不飽和ポリアミド類;ポリシロキサン類;長鎖ポリアミノアミドリン酸塩類;ポリエチレンイミン誘導体(ポリ(低級アルキレンイミン)と遊離カルボキシル基含有ポリエステルとの反応により得られるアミドやそれらの塩基);ポリアリルアミン誘導体(ポリアリルアミンと、遊離のカルボキシル基を有するポリエステル、ポリアミド又はエステルとアミドの共縮合物(ポリエステルアミド)の3種の化合物の中から選ばれる1種以上の化合物とを反応させて得られる反応生成物)等が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル樹脂を含有する水溶性高分子分散剤が、インクの分散安定性と、印刷物の画像鮮明性の観点から好ましい。
【0084】
水溶性高分子分散剤の具体例としては、SARTOMER社製SMA1440、SMA2625、SMA17352、SMA3840、SMA1000、SMA2000、SMA3000、BASFジャパン社製JONCRYL67、JONCRYL678、JONCRYL586、JONCRYL611、JONCRYL680、JONCRYL682、JONCRYL690、JONCRYL819、JONCRYL-JDX5050、EFKA4550、EFKA4560、EFKA4585、EFKA5220、EFKA6230、ルーブリゾール社製SOLSPERSE20000、SOLSPERSE27000、SOLSPERSE41000、SOLSPERSE41090、SOLSPERSE43000、SOLSPERSE44000、SOLSPERSE46000、SOLSPERSE47000、SOLSPERSE54000、ビックケミー社製BYKJET-9150、BYKJET-9151、BYKJET-9170、DISPERBYK-168、DISPERBYK-190、DISPERBYK-198、DISPERBYK-2010、DISPERBYK-2012、DISPERBYK-2015、等が挙げられる。これらの顔料分散剤は、本実施形態のインク組成物において好適に用いることができる。
【0085】
本実施形態に関するインク組成物において、用いることのできる顔料は、顔料を顔料分散剤によって水溶性溶媒中に分散させた顔料分散体、であっても、顔料の表面に直接に親水性基を修飾した自己分散型顔料とした顔料分散体であってもよい。本実施形態において、インクジェット記録用インクに用いることのできる顔料は、複数の先述した有機顔料や無機顔料を併用してもよく、先述した顔料分散剤によって水溶性溶媒中に分散させた顔料分散体と後述する自己分散型顔料を併用したものであってもよい。
【0086】
(その他の添加剤)
本実施形態に関するインク組成物には、必要に応じて、更に、従来公知の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、粘度調整剤、界面活性剤、pH調整剤、表面張力調整剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、電荷調整剤、湿潤剤等の公知の添加剤が任意成分として挙げられる。
【0087】
<インク組成物の製造方法>
本実施形態に関するインク組成物を製造する方法は、色材と、樹脂と、水と有機溶剤とを含有する溶剤と、を混合することによりインク組成物を製造する製造方法を挙げることができる。
【0088】
例えば、有機溶剤、水、色材、樹脂、界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法、水と有機溶剤とを含有する溶剤に、色材と分散剤を加えて分散した後、樹脂、界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法、水と有機溶剤とを含有する溶剤に色材と樹脂と界面活性剤と必要に応じてその他の成分を添加した後、色材を分散して調製する方法等が挙げられる。
【0089】
<インク用容器の製造方法>
本実施形態に関するインク用容器12は、例えば、以下の方法により製造することができる。まず、少なくとも2枚以上のフィルムを使用し、フィルムの周縁部をヒートシールすることによりパウチ容器を製造する。そして、上記により作製したインク組成物123をパウチ容器に、空隙率が30%以下になるように充填する。
【0090】
インク組成物123をインク用容器(パウチ容器)に充填する方法は、従来公知の方法を用いることができる。インク組成物中の溶存気体を脱気する方法は、例えば、密閉容器中での減圧や、インク流路に中空糸膜を用いた中空糸脱気モジュール(例えばDIC社製 製脱気モジュールSEPAREL)により行うことができる。
【0091】
<インクカートリッジの製造方法>
本実施形態のインクカートリッジ1の製造方法は、インク組成物123が充填されたインク用容器12を収容することができるように製造すれば特に限定されず、従来公知の方法で製造することができる。尚、インク用容器12と、インク用容器12を収容する外枠(ケース)11は、その一部が融着等されていてもよい。
【0092】
外枠(ケース)11は、上記に記載した外枠(ケース)と同様のものを使用することができる。
【0093】
<インクジェット記録装置>
尚、インクジェット記録装置は、上記の実施形態のインクカートリッジ1を備えることが可能であれば、従来公知のインクジェット記録装置を用いることができる。インクカートリッジ1は、インクジェット記録装置に着脱可能であることが好ましい。
【0094】
<インクジェット記録方法>
本実施形態のインクカートリッジ1を用いたインクジェット記録方法において、基材は特に制限されず、上記に記載した通り、吸収性基材、低吸収性基材、及び非吸収性基材のいずれも好適に用いることができる。
【0095】
本実施形態のインクカートリッジ1を用いたインクジェット記録方法は、特に限定されるものではないが、例えば、基材上にインクジェット方式にて基材の表面にインクカートリッジ1に収容されたインク用容器12に充填されたインク組成物123を吐出するインクジェット記録方法を挙げることができる。本実施形態のインクカートリッジ1を用いることにより、インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置の部材適性が良好でメンテナンス性に優れたインクジェット記録方法を実現することができる。
【0096】
本実施形態のインクカートリッジは、ピエゾ方式、サーマル方式、静電方式等のいずれのインクジェット記録装置にも適用することができる。いずれの方式のインクジェット記録装置においても、インクカートリッジ内のインク組成物中の樹脂エマルジョンが増粘又は凝集、あるいは塗膜化することによるインクジェット記録装置の流路内やインクジェットヘッドの流路やノズルの詰まりを抑制することができ、又、インク組成物の物性の変化によって吐出性が悪くなることを抑制することができる。
【0097】
中でも、本実施形態のインクカートリッジは、圧力発生素子として圧電振動子を用い、圧電振動子の変形により圧力室内を加圧・減圧してインク滴を吐出させる方式であるピエゾ方式のインクジェット記録装置に用いられることが好ましい。
【0098】
ピエゾ方式は、サーマル方式と比べて、高速で流体(インク組成物)を往復動作させる距離が長い。又、近年のインクジェット方式の高密度高精度化によりノズルに連結する流路の幅も狭くなり、ノズル孔は縮小及び高密度化している。そのため、ピエゾ方式によりインク組成物を吐出した場合には、インク組成物の吐出に不具合が起こる可能性が高くなってきている。水を主成分とするインク組成物であって、更に樹脂エマルジョンや他の成分(例えば色材)を含有するインク組成物は、インク組成物に含有される水の蒸発(揮発)によってインクジェット記録装置におけるヘッドの内部やノズルの近傍にインク組成物に含有される成分が析出物として発生する可能性が水を主成分としないインク組成物と比較して高くなる傾向がある。
【0099】
しかしながら、本実施形態のインクカートリッジではインク組成物が充填されたインク用容器の空隙率はインク用容器の全容量中30%以下であることから、樹脂エマルジョンの増粘又は凝集を抑制してインク組成物の安定性を保つことができる。
【0100】
インクジェット印刷方法の形式は特に限定されず、シリアルヘッド型のインクジェット方式であっても、ラインヘッド型のインクジェット方式であってもよい。
【0101】
<印刷物の製造方法>
本実施形態のインクカートリッジ1を用いて印刷物を製造することができる。例えば上記に記載したインクジェット方式にて基材の表面に吐出する工程を含む印刷物の製造方法を挙げることができる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0103】
<インク組成物の調整>
色材(顔料分散体)、樹脂(樹脂エマルジョン)、水(イオン交換水)と有機溶剤を用いて下記のように各インク組成物を調整した。顔料分散体、樹脂(樹脂エマルジョン)、の調整方法を下記に示す。
【0104】
1.顔料分散液A~Cの調整
下記方法により、顔料分散液を調製した。
【0105】
100℃に保たれたトルエン200g中にスチレン90g、アクリル酸15g、メタクリル酸15g、アクリル酸ブチル30gとtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート3.6gとの混合物を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃で2時間反応させた後冷却して、樹脂溶液を得た。樹脂溶液から樹脂をヘキサンにて精製して、分子量18000、酸価65mgKOH/gの顔料分散樹脂を得た。
【0106】
(顔料分散液A)
イオン交換水80gに、顔料分散樹脂SOLSPERSE47000(分子量280000、酸価20mgKOH/g)3gと、PR122(C.I.ピグメントレッド122)を15.0gとサーフィノール104PGを0.05g加え、ジルコニアビーズを用いてペイントシェーカーにて分散して、顔料分散液A(表1中「顔料A」と表記。)を得た。
【0107】
(顔料分散液B)
イオン交換水80gに、上記で得られた顔料分散剤1を2gと、N,N-ジメチルアミノエタノール0.2gを溶解させ、PR122(C.I.ピグメントレッド122)を15.0gと消泡剤(エアープロダクツ社製「サーフィノール104PG」)を0.05g加え、ジルコニアビーズを用いてペイントシェーカーにて分散して、顔料分散液B(表1中「顔料B」と表記)を得た。
【0108】
(顔料分散液C)
イオン交換水80gに、上記で得られた顔料分散剤1を2gと、N,N-ジメチルアミノエタノール0.2gを溶解させ、PBk7(C.I.ピグメントブラック7)を15.0gと消泡剤(エアープロダクツ社製「サーフィノール104PG」)を0.05g加え、ジルコニアビーズを用いてペイントシェーカーにて分散して、顔料分散液C(表1中「顔料C」と表記)を得た。
【0109】
2.樹脂エマルジョンの調整
(樹脂エマルジョンA)
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えたフラスコ内を十分に窒素ガスで置換した後、反応性界面活性剤(花王(株)製、商品名:ラテムルPD-104)0.75g、過硫酸カリウム0.04g、メタクリル酸1gと純水(脱イオン水)150gを仕込み、25℃にて攪拌し混合した。これに、メタクリル酸メチル60g、アクリル酸メチル45g、スチレン22.5g、αメチル-スチレン22.5gの混合物を滴下してプレエマルジョンを調製した。又、機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えたフラスコ内を十分に窒素ガスで置換した後、反応性界面活性剤(花王(株)製、商品名:ラテムルPD-104)3g、過硫酸カリウム0.01gと純水(脱イオン水)200gを70℃にて攪拌し混合した。その後、調製した前記プレエマルジョンを3時間かけてフラスコ内に滴下した。70℃で更に3時間加熱熟成した後冷却し、N,N-ジメチルエタノールアミンでpHを8となるよう調整し、#150メッシュ(日本織物製)にて濾過し、固形分30質量%、500gの樹脂エマルジョン1(ガラス転移温度76℃、酸価4mgKOH/g、平均粒子径90nm)を得た。
【0110】
(樹脂エマルジョンB)
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えたフラスコ内を十分に窒素ガスで置換した後、反応性界面活性剤(花王(株)製、商品名:ラテムルPD-104)0.75g、過硫酸カリウム0.04g、アクリル酸2g、メタクリル酸2gを仕込み、25℃にて攪拌し混合した。これに、メタクリル酸ブチル37g、アクリル酸メチル38g、メタクリル酸メチル71gの混合物を滴下してプレエマルジョンを調製した。又、機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えたフラスコ内を十分に窒素ガスで置換した後、反応性界面活性剤(花王(株)製、商品名:ラテムルPD-104)3g、過硫酸カリウム0.01gと純水(脱イオン水)200gを70℃にて攪拌し混合した。その後、調製した前記プレエマルジョンを3時間かけてフラスコ内に滴下した。70℃で更に3時間加熱熟成した後冷却し、N,N-ジメチルエタノールアミンでpHを8となるよう調整し、#150メッシュ(日本織物製)にて濾過し、固形分30質量%、500gの樹脂エマルジョン2(ガラス転移温度54℃、酸価19mgKOH/g、平均粒子径100nm)を得た。
【0111】
3.インクの調製
顔料分散体、樹脂エマルジョン、水溶性溶媒、界面活性剤、イオン交換水を用いて表1のインク組成物を調整した。
【0112】
【0113】
表1中、「界面活性剤A」とは、ポリエーテル変性ポリシロキサン(日信化学工業(株)製、シルフェイスSAG503A)である。
表1中、「界面活性剤B」とは、ポリオキシエチレンフッ素化アルキルエーテル(AGCセイミケミカル(株)製、サーフロンS-241)である。
表1中、「界面活性剤C」とは、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル(花王(株)製、エマルゲンB66)である。
【0114】
4.インクカートリッジの製造
上記のインクを用いてインクカートリッジを製造した。具体的には、空隙率(インク用容器中の空隙の体積/((インク用容器中のインク組成物の体積)+(インク用容器中の空隙の体積))×100)が表2になるようにインク用容器(ポリエチレンテレフタレート/アルミニウム蒸着/ポリエチレンの順で積層した積層フィルムを使用し、2枚の積層フィルムのポリエチレン積層面を対面させるように重ね合わせフィルムの周縁部をヒートシールすることにより作成されたパウチ容器)に上記のインク組成物を室温(25℃程度)で大気圧、大気雰囲気下で充填した。インク用容器の容量は1リットルである。そしてインク組成物が充填されたインク用容器をカートリッジに収容し、実施例及び比較例のインクカートリッジを製造した。そして実施例及び比較例のインクカートリッジを1月間保管し、以下の評価を行った。
【0115】
[評価]
実施例及び比較例のインクカートリッジを室温で1月保管したものからシリンジを用いてインク組成物を抜き取り、インクジェットプリンターに充填して印字を行い、各項目の評価を行った。具体的には、OKトップコート+(コート紙;王子製紙(株)製)、及びIMAGin JT5829R(ポリ塩化ビニルフィルム;MACtac社製)上にピエゾ方式のインクジェットプリンター(セイコーエプソン製PX-105)(以下プリンターAと表記)、及びサーマル方式のインクジェットプリンター(キヤノン製iP7230)(以下プリンターBと表記)にて印字を行い、印刷を行った。各評価を下記の評価基準により評価した。評価結果を表2に示す。
【0116】
[吐出回復性評価]
実施例及び比較例のインクカートリッジにおけるインク用容器に充填されたインク組成物について、吐出回復性試験を行った。具体的には、インク組成物をプリンターAにて印字を行ったノズルについて、1時間放置後にクリーニングを行い、吐出状態を確認した。A、Bが実使用範囲である。
A:クリーニング5回以下で全てのノズルから吐出した。
B:クリーニング5回以上10回未満で全てのノズルから吐出した。
C:クリーニングを10回以上繰り返しても曲がりや不吐出のノズルがあった。
【0117】
[吐出安定性評価]
実施例及び比較例のインクカートリッジにおけるインク用容器に充填されたインク組成物について、吐出安定性試験を行った。具体的には、インク組成物をプリンターBにて3時間連続印字を行い、曲がりや不吐出のノズル数を確認した。A、Bが実使用範囲である。
A:曲がりや不吐出のノズル数が全ノズル中1%未満である。
B:曲がりや不吐出のノズル数が全ノズル中1%以上3%未満である。
C:曲がりや不吐出のノズル数が全ノズル中3%以上である。
【0118】
[ろ過性評価]
実施例及び比較例のインクカートリッジにおけるインク用容器に充填し、室温で1月保管したインク組成物について、ろ過性試験を行った。具体的には、インク組成物10mlを孔径10μm、直径25mmのフィルターにて、ろ過試験を行った。A、Bが実使用範囲である。
A:全量問題なく通過した。
B:わずかにろ過速度が低下したが、全量通過した。
C:ろ過速度が著しく低下した。
【0119】
【0120】
表2より、インク用容器の空隙率が30%以下の実施例1~8のインクカートリッジは、インク組成物が充填されてから1月間保管されていたにも関わらず吐出安定性、吐出回復性及びろ過性いずれも良好であることが分かる。一方、インク用容器の空隙率が30%超の比較例1~5のインクカートリッジは、吐出安定性、吐出回復性及びろ過性が低下し、インク組成物の粘度が経時的に上昇していることが推認される。
【0121】
本発明のインクカートリッジは、本発明のインクカートリッジは、インク用容器に充填されたインク組成物中の樹脂エマルジョンの増粘又は凝集を抑制して安定性を保つことができるインクジェット記録用のインクカートリッジであることが確認された。
【符号の説明】
【0122】
1 インクカートリッジ
11 外枠(ケース)
12 インク用容器
121 インク用容器の外枠
122 インク供給口
123 インク組成物
a 空隙