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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】地盤改質方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20240625BHJP
   E02D 5/18 20060101ALI20240625BHJP
   E02D 27/34 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
E02D3/12 101
E02D5/18 101
E02D27/34 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019044576
(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公開番号】P2020147941
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-10-05
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 尚志
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】安達 直人
(72)【発明者】
【氏名】秀川 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康嗣
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳峰
【合議体】
【審判長】居島 一仁
【審判官】有家 秀郎
【審判官】西田 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-157700(JP,A)
【文献】特開2018-104914(JP,A)
【文献】特開2016-196763(JP,A)
【文献】特開2019-11630(JP,A)
【文献】特開2017-48617(JP,A)
【文献】特許第5190615(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非液状化層と、その上方に位置する液状化層とからなる地盤において、前記液状化層を構成する地盤内に設けられた遮水壁で囲まれた領域の地盤に地盤改質材(ただしセメントを含まない。)を注入する、地盤改質方法であって、
前記地盤改質材は、尿素を含む液体であり、
前記地盤改質材を注入する前に、前記領域の地盤から地下水を揚水して前記地下水の水位を前記非液状化層に達する程度にまで下げる、地盤改質方法。
【請求項2】
前記遮水壁は、セメント系固化材によって前記地盤が固化したものである、請求項1記載の地盤改質方法。
【請求項3】
前記遮水壁の壁面のうち、前記領域を構成する側とは反対側の面に沿って、矢板が伴っている、請求項記載の地盤改質方法。
【請求項4】
前記液体は、ウレアーゼ活性を有する微生物、前記微生物の栄養源、及び、カルシウム源からなる群から選択される少なくとも一種を更に含む、請求項1~のいずれか一項記載の地盤改質方法。
【請求項5】
前記領域上には、建物が建設されている、又は、舗装がなされている、請求項1~のいずれか一項記載の地盤改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内陸地や岸壁における地盤の液状化対策として、例えばセメント系固化材を注入して地盤を改質し、強度を高めることが行われている。セメント系固化材の注入箇所を連続させ格子を形成するように地盤を区画することで、注入箇所を少なくしながら広範囲にわたって地盤を改質することができる。
【0003】
ただし、地盤を改質した部分は大地震が起こったとき等でも液状化しないが、格子の内部の領域は改質されていないので液状化する虞がある。液状化した地盤が沈下すると、沈下しなかった改質部分との間で地表に凹凸が生じ、通行の妨げになったり建築物が傾いたりする。この状況を改善すべく、従来、格子状に遮水壁が設けられたその内部の地盤を不飽和化することによって液状化を防止する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5190615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、地盤を不飽和化すること、及び、地盤を固化することを目的として、微細気泡を混入したシリカを地盤に注入している。しかしながら、この方法では微細気泡を得るためにバブル発生装置を必要とし、シリカは環境への配慮が必要となる。
【0006】
本発明は、より安価で、環境への負荷がより小さい材料を用いながら液状化を抑制することができる地盤改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、液状化層を構成する地盤内に設けられた遮水壁で囲まれた領域の地盤に地盤改質材を注入する、地盤改質方法であって、地盤改質材は、尿素を含む液体である、地盤改質方法を提供する。
【0008】
地盤改質材として尿素を含む液体を用いると、地盤中に存在する微生物が有するウレアーゼ活性によって尿素が分解され、地盤が改質される。より具体的には、尿素が分解されて生じる炭酸が地盤中のカルシウムと結合して炭酸カルシウムとなり、これが土粒子同士を結合させることで地盤が固化する。これによって、液状化層が液状化しにくい性状となる。改質対象とする領域の地盤は遮水壁で囲まれているため、周囲の地下水の影響を抑えながら実施することができる。また、尿素を含む液体を用いる地盤改質方法は、従来の方法に比べて、より安価で環境への負荷も小さい。
【0009】
本発明では、地盤改質材を注入する前に、又は、地盤改質材を注入するのと同時に、領域の地盤から揚水することが好ましい。地下水を揚水することで地下水位が下がるので、水圧の都合から地盤改質材を注入しやすくなる。また、揚水と地盤改質材の注入とを分けて行う場合は、揚水後に対象領域の地盤が不飽和化することとなり、すなわち土粒子同士の間隙に空気が入り込むこととなり、当該間隙が地下水で満たされていた場合と比べて液状化しにくい性状となることが期待される。
【0010】
本発明では、遮水壁は、セメント系固化材によって地盤が固化したものであることが好ましい。また、この遮水壁の壁面のうち、領域を構成する側とは反対側の面に沿って、矢板が伴っていてもよい。一般に、岸壁のように土圧が開放されている場所には矢板を設けて地盤の変形を抑えているところ、当該場所を改質対象とする場合にも本発明を適用することができる。
【0011】
液体は、ウレアーゼ活性を有する微生物、微生物の栄養源、及び、カルシウム源からなる群から選択される少なくとも一種を更に含むことが好ましい。これらの要素が地盤中に乏しい場合に、その乏しい要素を併せて添加することによって、地盤中の微生物を一層活性化し、地盤の固化を促進させることができる。
【0012】
また、本発明において、対象領域の上には建物が建設されていてもよく、舗装がなされていてもよい。本発明はこのように、既に何らかの構造物が存在する土地に対しても適用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、より安価で、環境への負荷がより小さい材料を用いながら液状化を抑制することができる地盤改質方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】遮水壁の構成を示す平面図である。
図2】地盤改質方法の適用対象である地盤の様子を示す端面図である。
図3】地盤改質方法を示す端面図である。
図4】地盤改質方法を示す端面図である。
図5】地盤改質方法を示す端面図である。
図6】改質された地盤を示す端面図である。
図7】他の実施形態の地盤改質方法の適用対象である地盤の様子を示す端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
本実施形態の地盤改質方法は、大地震等に起因して地盤が液状化することを防止するために、地盤の液状化層に対して液状化対策を施すものである。ここで「液状化層」とは、地盤のうち、比較的液状化しやすいと推定されている層をいう。液状化しやすいかどうかは、地盤の土質、粒度分布、ボーリングに基づくN値等を事前に調査することによって推定することができる。また、液状化する虞が小さいと推定されている層を「非液状化層」と呼ぶ。
【0017】
本実施形態の地盤改質方法の適用対象は、図1及び図2に示されているとおり、非液状化層11と、その上方に位置して地表面に達している液状化層12とからなる地盤10のうち、液状化層12を構成する地盤内に設けられた遮水壁1で囲まれた領域の地盤2である。
【0018】
本実施形態において、遮水壁1は、セメント系固化材を注入することによって形成されたものである。すなわち、液状化層12に対して、地表から少なくとも非液状化層11に達する程度の深さまでセメント系固化材を注入し、鉛直方向にその高さを有する円柱状の改質領域1Aを形成する。そして、その隣り合う地盤において同様にセメント系固化材を注入し、別の改質領域1Aを形成する。隣り合う改質領域1Aは、一部が互いに重複するようにする。このようにセメント系固化材の注入位置を水平方向にずらしながら改質領域1Aを連続的に形成することによって、液状化層12内において遮水壁1が構成されてゆく。そして、複数の改質領域1Aが平面視で環を形成するように繋げると、遮水壁1で囲まれた対象地盤2が区画される。図1では、平面視正方形となる対象地盤2の領域が一方向に連続して構成された様子を示している。
【0019】
ここで、対象地盤2の平面視における広さは、4~20m×4~20mであることが好ましい。また、平面視において、遮水壁1及び対象地盤2の合計面積に対する対象地盤2の面積(未改良率)は、20%~80%であることが好ましい。すなわち、置換率(改良率)は80%~20%であることが好ましい。
【0020】
図3に示されているとおり、対象地盤2に対して、揚水井戸3を設置する。そして、対象地盤2から揚水し、地下水の水位を下げる。ここで、対象地盤2を囲んでいる改質領域1A(遮水壁1)は、液状化層12がセメント系固化材によって固化されたものであるので、液状化層12よりも透水係数が小さくなっている。このため、遮水壁1の外側の液状化層12から対象地盤2へ地下水が浸透してくることが防止されており、対象地盤2の地下水の水位を安定して下げることができる。
【0021】
対象地盤2の地下水の水位を非液状化層11に達する程度にまで下げた後(図4)、対象地盤2に注入管4を突き刺し、ポンプを用いて地盤改質材を圧入する。なお、ポンプを用いる代わりに水頭差を利用して注入してもよい。
【0022】
ここで地盤改質材とは、対象地盤に生息するウレアーゼ活性を有する微生物の活動を活性化し、地盤を固化させるものをいう。本実施形態において、地盤改質材は尿素を含むものである。地盤改質材は更に、ウレアーゼ活性を有する微生物、当該微生物の栄養源、及び、カルシウム源等を含んでいてもよい。これらの要素が地盤中に乏しい場合に、その乏しい要素を併せて添加することによって地盤中の微生物を一層活性化し、地盤の固化を促進させることができる。地盤改質材は、上記各要素を水に混合し、水溶液、懸濁液、乳濁液等(以下、これらをまとめて「液体」と呼ぶ場合がある。)の状態で注入する。
【0023】
微生物は、ウレアーゼ活性を有する微生物を用いる。用いる微生物は、対象地盤2から採取した微生物を培養したものであってもよく、国内の他の場所から採取又は購入した微生物であってもよい。なお、ウレアーゼは当該微生物が産生する酵素であり、尿素を加水分解して炭酸とアンモニアを生成する反応を触媒する。
【0024】
微生物の栄養源として用いるものには特に制限はなく、例えば、肉エキスや、グルコース等の糖類や、デンプン等の多糖類が挙げられる。含有量としては、水1リットル当たり1~30gであってもよく、4~20gであってもよい。
【0025】
尿素の含有量は、水1リットル当たり0.1~10モル(mol)であってもよく、0.2モル~5モルであってもよく、0.3~0.7モルであってもよい。尿素の含有量が高すぎると微生物の動きが悪くなり、地盤の固化効果が小さくなる傾向がある。
【0026】
カルシウム源としては、水に溶解してカルシウムイオンを放出するものであればよく、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、硝酸カルシウム等が挙げられる。含有量としては、水1リットル当たり0.1~10モル(mol)であってもよく、0.2モル~5モルであってもよく、0.3~0.7モルであってもよい。カルシウム源の含有量が高すぎると微生物の動きが悪くなり、地盤の固化効果が小さくなる傾向がある。
【0027】
地盤改質材は、上記の他にも種々の成分を含んでいてもよい。例えば、塩化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、空気等が挙げられる。地盤改質材の比重が高い場合は地下水中で沈む傾向があるため、空気を含ませることで地盤改質材が沈むことを防止することができる。また、地盤改質材は、場合によって増粘剤を含んでいてもよい。増粘剤としてはセルロース誘導体が好ましく、中でも、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが好ましい。増粘剤の含有量としては、地盤改質材の粘度が水の粘度の1~10倍、又は、2~5倍となるように含むことが好ましい。
【0028】
図5に示されているとおり、地盤改質材を含む液体を注入することで、揚水した地下水に換わって当該液体が対象地盤2に浸透する。注入を続けると、当該液体の水位が地下水位となり、対象地盤2内が地盤改質材で満たされる。
【0029】
注入した地盤改質材に含まれている尿素は、微生物が有するウレアーゼ活性によって分解されて炭酸とアンモニアになる。炭酸は地盤中のカルシウム(又は地盤改質材に含まれているカルシウム)と結合して炭酸カルシウムとなり、これが土粒子同士を結合(セメンテーション)させることで対象地盤2が固化する(図6)。これによって、液状化層12が液状化しにくい性状となる。一旦不飽和化した対象地盤2が再飽和するための期間、及び、固化するための期間としては、例えば数か月間の養生期間を要する。対象地盤2が十分に固化すれば、遮水壁1に対する変形応力を緩和することができる。
【0030】
本実施形態の地盤改質方法によれば、尿素を含む地盤改質材を用いるため、従来の方法に比べて、より安価で環境への負荷が小さい材料を用いながら液状化を抑制することができ、地盤沈下を抑制することができる。また、対象地盤2から一旦揚水していることから、対象地盤2が不飽和化し、すなわち土粒子同士の間隙に空気が入り込み、当該間隙が地下水で満たされていた場合と比べて地盤が液状化しにくい性状となることが期待される。また、対象地盤2は遮水壁1で囲まれているため、周囲の液状化層12の地下水の影響を抑えながら地盤改質方法を実施することができる。
【0031】
なお、上記実施形態ではその地盤上に建物が建設されていない場合について示したが、既に建物が建設されている地盤に対しても、建物の耐圧盤に孔をあけて、建物内部から孔に注入管を通して地盤に貫入し、地盤改質材を注入することで、上記地盤改良方法を適用することができる。この場合、建物の周囲を囲むように改質領域1Aを形成して環状の遮水壁1を構成し、その内側の領域に対して上記地盤改良方法を適用する。地盤表面が舗装されている場合でも同様であり、作業に必要な箇所の舗装を剥がして、セメント系固化材の注入、揚水、地盤改質材の注入を行えばよい。このように、本実施形態の土壌改質方法は、液状化対策が必要である土地に対して、建物や舗装の有無にかかわらず適用することができる。
【0032】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では地盤改質材を注入する前に対象地盤2から揚水して対象地盤2の地下水位を下げたが、対象地盤2からの揚水と地盤改質材の注入とは同時に行ってもよい。ここで、揚水による対象地盤2の不飽和化が起きない場合であっても、炭酸カルシウムによって土粒子同士が強く結合することで土粒子間の水が圧縮されにくくなるので、液状化が十分に抑制される。
【0033】
また、上記実施形態では遮水壁を構成する手段としてセメント系固化材を用いて改質領域を形成することを採用したが、地盤を改質するのではなく、矢板のような物理的な板材を用いて遮水壁を構成してもよい。
【0034】
また、上記実施形態では、遮水壁の平面視形状として、平面視正方形となる領域が一方向に連続して区画された態様を示したが(図1)、当該正方形が格子状に配列された態様としてもよい。
【0035】
また、上記実施形態では、内陸地において本発明の地盤改質方法を適用する態様を示したが、岸壁において適用してもよい。一般に、岸壁のように土圧が開放されている場所には矢板を設けて地盤の変形や崩落を抑えているところ、図7に示されているとおり、海6に面して設けられた矢板5に接触するように遮水壁1を設けることができる。すなわち、遮水壁1が成す壁面のうち、対象地盤2を囲う側とは反対側の面と矢板5とが接触するように遮水壁1を設ける。この態様でも、遮水壁1内部の対象地盤2が固化することで、液状化が防止され、遮水壁1に対する変形応力が緩和される。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、地盤の液状化対策として利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…遮水壁、1A…改質領域、2…対象地盤、3…揚水井戸、4…注入管、5…矢板、6…海、10…地盤、11…非液状化層、12…液状化層。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7