IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビオポロジェの特許一覧

特許7509520H3アンタゴニストとノルアドレナリン再取り込み阻害剤との新規の組合せ、及びその治療的使用
<>
  • 特許-H3アンタゴニストとノルアドレナリン再取り込み阻害剤との新規の組合せ、及びその治療的使用 図1
  • 特許-H3アンタゴニストとノルアドレナリン再取り込み阻害剤との新規の組合せ、及びその治療的使用 図2
  • 特許-H3アンタゴニストとノルアドレナリン再取り込み阻害剤との新規の組合せ、及びその治療的使用 図3
  • 特許-H3アンタゴニストとノルアドレナリン再取り込み阻害剤との新規の組合せ、及びその治療的使用 図4
  • 特許-H3アンタゴニストとノルアドレナリン再取り込み阻害剤との新規の組合せ、及びその治療的使用 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】H3アンタゴニストとノルアドレナリン再取り込み阻害剤との新規の組合せ、及びその治療的使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4453 20060101AFI20240625BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 31/381 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 31/4545 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 31/5375 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 31/55 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240625BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240625BHJP
   A61P 25/26 20060101ALI20240625BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240625BHJP
   A61P 25/30 20060101ALI20240625BHJP
   A61P 25/32 20060101ALI20240625BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
A61K31/4453
A61K31/137
A61K31/381
A61K31/4545
A61K31/5375
A61K31/55
A61K45/00
A61P25/24
A61P25/26
A61P25/28
A61P25/30
A61P25/32
A61P43/00 111
A61P43/00 121
【請求項の数】 11
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019137983
(22)【出願日】2019-07-26
(65)【公開番号】P2020015724
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-06-27
(31)【優先権主張番号】18306017.7
(32)【優先日】2018-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507324887
【氏名又は名称】ビオポロジェ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】グザヴィエ・リニョー
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・ランデ
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィド・ペラン
(72)【発明者】
【氏名】ジャンヌ・マリー・ルコント
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・シャルル・シュヴァルツ
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】Expert Opinion on Pharmacotherapy,2017年,Vol.18, No.8,809-817
【文献】Pharmacology, Biochemistry and Behavior,2007年,Vol.86, No.3,468-476
【文献】Neurobiology of Disease,2008年,Vol.30, No.1,74-83
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
・ 以下の化合物:
【化1】
のうちの1つ及びこれらの薬学的に許容される塩のいずれか、又は溶媒和物から選択されるH3アンタゴニスト又はインバースアゴニストと、
・ デュロキセチン、レボキセチン及びアトモキセチンから選択されるノルアドレナリン再取り込み阻害剤と
の組合せ。
【請求項2】
前記H3アンタゴニスト/インバースアゴニストが、
【化2】
の塩酸塩である、請求項1に記載の組合せ。
【請求項3】
【化3】
又は薬学的に許容されるその塩と、デュロキセチンとの組合せである、請求項1又は2に記載の組合せ。
【請求項4】
【化4】
又は薬学的に許容されるその塩と、デュロキセチンとの組合せである、請求項1又は2に記載の組合せ。
【請求項5】
両方の成分が、同時に、別々に、又は時間をずらして投与される、請求項1から4のいずれか一項に記載の組合せを含む医薬組成物。
【請求項6】
ノルアドレナリン放出不全を患う患者において、過剰な日中の眠気、物質の乱用障害、並びに/又は注意欠陥及び認知欠陥から選択される障害を処置及び/又は予防する医薬を調製するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の組合せの使用。
【請求項7】
前記障害が、過剰な日中の眠気であり、以下:
- カタプレキシーを伴う、及び伴わないナルコレプシー、
- 特発性睡眠過剰、
- 日中の眠気障害、
- 閉塞性睡眠時無呼吸、
- 概日リズム睡眠覚醒障害、
- パーキンソン病、又は
- プラダーウィリ症候群
を患う患者に生じる、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記障害が、注意欠陥及び認知欠陥であり、注意欠陥多動性障害(ADHD)を患う患者に生じる、請求項6に記載の使用。
【請求項9】
前記障害が、過剰な日中の眠気、注意欠陥及び認知欠陥であり、うつ病を患う患者に生じる、請求項6に記載の使用。
【請求項10】
前記障害が、物質乱用離脱症候群から選択される、請求項6に記載の使用。
【請求項11】
前記物質の乱用障害が、アルコールの乱用障害である、請求項6に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルアドレナリン放出不全を患う患者において覚醒状態の障害を処置するための新規の組合せ及びこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
覚醒状態は、脳内のいくつかのモノアミン作動性ニューロン系、主に覚醒中に活発であり、睡眠中に静かなヒスタミン作動性及びノルアドレナリン作動性の系により制御されている。したがって、ヒスタミン又はノルアドレナリン放出の増加は、睡眠状態の代わりに覚醒の促進をもたらす。
【0003】
ヒスタミンH3受容体アンタゴニスト/インバースアゴニスト(X. Ligneauら、J. Pharmacol. Exp Ther.、2007年、320巻、365頁、J.S. Linら、Neurobiology of Disease、2008年、30巻、74頁、RX Guoら、Brit. J. Pharmacol.、2009年、157巻、104頁)は、覚醒状態を増加させて睡眠/覚醒をモジュレートすることが知られる。
【0004】
WO2006/117609は、H3リガンド、例えば、本明細書では「化合物(A)」と呼ばれる式:
【0005】
【化1】
【0006】
の(3S)-4-{4-[3-(3-メチルピペリジン-1-イル)プロポキシ]フェニル}ピリジン1-オキシド及びこれらの薬学的に許容される塩、水和物、又は水和塩等を開示している。
【0007】
ピトリサント(Wakix(登録商標))、すなわち1-{3-[3-(4-クロロフェニル)プロポキシ]プロピル}ピペリジン一塩酸塩は、最初に市販されたH3アンタゴニスト/インバースアゴニストのうちの1つであり、現在では、カタプレキシーを伴う、又は伴わないナルコレプシーの処置に対して欧州で認可を得ている。
【0008】
ノルアドレナリンに対するH3アンタゴニストの効果は、AD Medhurstら(J. Pharmacol. Exp. Ther.、2007年、321巻、1032~1045頁)、G. Flikら(J. Mol. Neurosci.、2015年、56巻、320~328頁)及びJ.S. Linら(Neurobiology of Disease、2008年、30巻、74~83頁)に開示されている。
【0009】
ノルアドレナリン再取り込み阻害特性を有する抗うつ剤、例えば、デュロキセチン、レボキセチン、アトモキセチン、ベンラファキシン等…(C. Sanchezら、Pharmacol. Biochem. Behay.、2007年、86巻、468頁)は、深い睡眠及び/又はREM睡眠の代わりに覚醒を増加させる。
【0010】
Kallweitら(EXPERT OPINION ON PHARMACOTHERAPY、18巻、8号、2017年、809~817頁)は、うつ病を伴うナルコレプシーの薬理学的管理について報告しており、例えば、ベンラファキシンを提案している。
【0011】
Linら(Neurobiology of Disease、30巻、1号、2008年、74~83頁)は、モダフィニルと組み合わせたチプロリサントの使用を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】WO2006/117609
【非特許文献】
【0013】
【文献】X. Ligneauら、J. Pharmacol. Exp Ther.、2007年、320巻、365頁
【文献】J.S. Linら、Neurobiology of Disease、2008年、30巻、74頁
【文献】RX Guoら、Brit. J. Pharmacol.、2009年、157巻、104頁
【文献】、AD Medhurstら(J. Pharmacol. Exp. Ther.、2007年、321巻、1032~1045頁)
【文献】G. Flikら(J. Mol. Neurosci.、2015年、56巻、320~328頁)
【文献】J.S. Linら(Neurobiology of Disease、2008年、30巻、74~83頁)
【文献】C. Sanchezら、Pharmacol. Biochem. Behay.、2007年、86巻、468頁
【文献】Kallweitら(EXPERT OPINION ON PHARMACOTHERAPY、18巻、8号、2017年、809~817頁)
【文献】Linら(Neurobiology of Disease、30巻、1号、2008年、74~83頁)
【文献】Remington: The Science and Practice of Pharmacy、20版;Gennaro、A.R.編、Lippincott Williams & Wilkins: Philadelphia、PA、2000年
【文献】R.P. Louisら(J. Neurosci. Methods、2004年、133巻、71~80頁)
【文献】H. Kleinlogel(Neuropsychobiol.、1990~91年、23巻、197~204頁)
【文献】G. Flikら、J. Mol. Neurosci.、2015年、56巻、320頁
【文献】F.P. Bymasterら、Current Pharmaceutical Design、2005年、11巻、1475頁
【文献】F.P. Bymasterら、Neuropsychopharmacol.、2002年、27巻、699頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
H3アンタゴニストと、ノルアドレナリン再取り込み阻害剤から選択される抗うつ剤との組合せが、安静覚醒の大きな増加及びREM睡眠の低減を予想外にもたらし、これらが、単独で投与された各化合物の効果と比較して、超相加的、相乗的にそれぞれ増強/減弱されることが今や発見された。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、第1の目的によると、本発明は、
・ 式:
【0016】
【化2】
【0017】
(式(I)において、
R1はH又はメチルであり、
R2はCl又は
【0018】
【化3】
【0019】
であり、ここで、
【0020】
【化4】
【0021】
は、フェニル環への結合の位置を表し、
nは0又は1である)
のH3アンタゴニスト又はインバースアゴニストと、
・ ノルアドレナリン再取り込み阻害剤から選択される抗うつ剤と
の組合せに関する。
【0022】
ある実施形態によると、前記H3アンタゴニスト/インバースアゴニストは、以下の化合物のうちの1つ
【0023】
【化5】
【0024】
及びこれらの薬学的に許容される塩のいずれか、又はその溶媒和物から選択される。
【0025】
特に、前記H3アンタゴニスト/インバースアゴニストは、
【0026】
【化6】
【0027】
の塩酸塩である。
【0028】
特に、前記H3アンタゴニスト/インバースアゴニストは、
【0029】
【化7】
【0030】
(本明細書ではBP1.3656Bと呼ぶ)のジヒドロクロリド、四水和物である。
【0031】
ある実施形態によると、化合物は、これらの遊離塩基の形態、又は代わりに、薬学的に許容される塩、例えば、塩酸塩、シュウ酸塩、二塩酸塩、臭化水素酸塩、二臭化水素酸塩、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸塩、硫酸塩、エタン-1,2-ジスルホン酸塩、シクラミン酸塩、トルエンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩、チオシアン酸塩、硝酸塩、メタンスルホン酸塩、ドデシル硫酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ジクロロ酢酸塩、グリセロリン酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、アスパラギン酸塩、マレイン酸塩、リン酸塩、エタンスルホン酸塩、カンファー-10-スルホン酸塩、グルタミン酸塩、アルギン酸塩、パモ酸塩、2-オキソ-グルタル酸塩、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸塩、マロン酸塩、ゲンチシン酸塩、サリチル酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、ガラクタル酸塩、クエン酸塩、グルクロン酸塩、ラクトビオン酸塩、4-アミノサリチル酸塩、グリコール酸塩、セスキグリコール酸塩(sesquiglycolate)、グルコヘプトン酸塩、ピログルタミン酸塩、マンデル酸塩、リンゴ酸塩、馬尿酸塩、ギ酸塩、グルコン酸塩、乳酸塩、オレイン酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩、コハク酸塩、4-アセトアミド安息香酸塩、グルタル酸塩、ケイヒ酸塩、アジピン酸塩、セバシン酸塩、カンファー酸塩、酢酸塩、カプロン酸塩、ニコチン酸塩、イソ酪酸塩、プロピオン酸塩、カプリン酸塩、カプリル酸塩、カプロン酸塩、ラウリン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ウンデセン-10-オエート、カプリル酸塩、オロト酸塩、炭酸塩、5-スルホカリシレート(sulfocalicylate)、1-ヒドロキシ-2-ナフトエート(naphtoate)、3-ヒドロキシ-2-ナフトエート等;及び/又は溶媒和物、例えば、水和物、エタノール付加物、ヘミエタノール付加物等の形態であってよい。
【0032】
したがって、「化合物」という表現は、本明細書で使用される場合、他に明記していない限り、薬学的に許容されるその塩及び/又は前記の溶媒和物も指す。
【0033】
ある実施形態によると、抗うつ剤は、デュロキセチン、レボキセチン、アトモキセチン、デシプラミン、ベンラファキシン、デスベンラファキシンから選択される、特にデュロキセチンである。ある実施形態によると、前記抗うつ剤はベンラファキシンではない。ある実施形態によると、前記抗うつ剤は、デュロキセチン、レボキセチン、アトモキセチン、デシプラミン、デスベンラファキシン、特にデュロキセチン、レボキセチン、アトモキセチン、デシプラミンから選択されるノルアドレナリン再取り込み阻害剤である。
【0034】
ある実施形態によると、前記H3アンタゴニスト/インバースアゴニストは、以下の化合物のうちの1つ:
【0035】
【化8】
【0036】
及びこれらの薬学的に許容される塩のいずれか、又は溶媒和物から選択され、前記ノルアドレナリン再取り込み阻害剤は、デュロキセチン、レボキセチン、及びアトモキセチンから選択される。
【0037】
ある実施形態によると、この組合せは、
【0038】
【化9】
【0039】
(ピトリサント)と、デュロキセチンとの組合せである。
【0040】
別の目的によると、本発明はまた、本発明による組合せを含む医薬組成物であって、両方の成分が同時に、別々に、又は時間をずらして投与される医薬組成物に関する。
【0041】
別の目的によると、本発明はまた、ノルアドレナリン放出不全を患う患者において、過剰な日中の眠気、アルコール等の物質の乱用障害、並びに/又は注意欠陥及び認知欠陥から選択される障害を処置及び/又は予防するための使用のための本発明の組合せに関する。
【0042】
本明細書に記載の疾患及び状態の処置を必要とするような対象の特定は、十分に当業者の能力及び知識の範囲内である。当技術分野における熟練した臨床医は、臨床試験、健康診断、遺伝子検査及び病歴/家族歴の使用によって、このような処置を必要とするような対象を容易に特定することができる。
【0043】
ある実施形態によると、前記障害は過剰な日中の眠気であり、
- カタプレキシーを伴う、及び伴わない、ナルコレプシー、
- 特発性睡眠過剰、
- 日中の眠気障害、
- 閉塞性睡眠時無呼吸、
- 概日リズム睡眠覚醒障害、
- パーキンソン病、又は
- プラダーウィリ症候群
を患う患者に生じる。
【0044】
代替の実施形態によると、前記障害は注意欠陥及び認知欠陥であり、注意欠陥多動性障害(ADHD)を患う患者に生じる。
【0045】
さらなる代替の実施形態によると、前記障害は過剰な日中の眠気、注意欠陥及び認知欠陥であり、うつ病を患う患者に生じる。
【0046】
またさらなる代替の実施形態によると、前記障害は物質乱用離脱症候群から選択される。
【0047】
上記代替の実施形態は相互に排他的でなく、互いに足し合って考慮し得ることに留意すべきである。
【0048】
化合物の実際の用量レベルは、特定の組成物及び投与方法に対する所望の治療応答を得るのに有効な活性成分の量を得るように変化させることができる。したがって、選択される用量レベルは、所望の治療効果、投与経路、所望の処置期間及び他の要因、例えば、患者の状態に依存する。
【0049】
治療有効量は、担当診断医により、当業者として、従来技術を使用し、類似の状況で得た結果を観察することによって容易に決定することができる。治療有効量を判定する上で、これらに限定されないが、対象の種;そのサイズ、年齢、及び全般的な健康状態;関与する特定の疾患;疾患の関与の程度又は重症度;個々の対象の応答;投与される特定の化合物;投与モード;投与される調製物のバイオアベイラビリティーの特徴;選択された投与計画;併用薬の使用;並びに他の関連する状況を含むいくつかの要因が担当診断医により考慮される。
【0050】
所望の生物学的効果を達成するのに必要とされる化合物の量は、投与される薬物の製剤の種類、疾患の種類、患者の病態及び投与経路を含むいくつかの要因に応じて変動することになる。
【0051】
一般論として、投与される薬物の好ましい用量は、疾患又は障害の種類及びその進行の程度、特定の患者の全体的な健康状態、選択された化合物の相対的な生物学的効力、並びに混ぜ合わせた賦形剤を用いた該化合物の製剤、及びその投与経路等の変数に依存する可能性が高い。
【0052】
H3アンタゴニスト/インバースアゴニスト(I)の1日用量は一般的に、患者1人当たり1日1μgから50mgの間で構成されてもよい。例示として、ピトリサントに対する好ましい用量は5~40mg/日、より好ましくは10~30mg/日であり、BP1.3656Bに対しては1~100μg/日、好ましくは5~30μg/日である。
【0053】
抗うつ剤の1日用量は一般的に、患者1人当たり、1日2mgから250mgの間で構成されてもよい。例示された用量は以下に詳述されている:
デシプラミン:10~300mg/日、好ましくは25~200mg/日;デュロキセチン:20~120mg/日、好ましくは30~60mg/日;ベンラファキシン:35~375mg/日、好ましくは35~225mg/日;デスベンラファキシン:50~400mg/日、好ましくは50~100mg/日;アトモキセチン:10~100mg/日、好ましくは10~60mg/日;レボキセチン:2~12mg/日、好ましくは2~8mg/日。
【0054】
さらなる実施形態によると、本発明の方法また、レボドパ、ロピニロール、リスリド、ブロモクリプチン、プラミキセポル(pramixepole)等の抗パーキンソン薬から選択される、又はモダフィニルを含む別のクラスからの抗ナルコレプシー若しくは抗ナルコレプシーと称する薬物から選択される1種又は複数種のさらなる活性成分の投与も含む。
【0055】
化合物は、1種又は複数種の薬学的に許容される賦形剤との混和により、同じ又は異なる医薬組成物へと製剤化することができる。
【0056】
組成物は、好都合には単位剤形で投与してもよく、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy、20版;Gennaro、A.R.編、Lippincott Williams & Wilkins: Philadelphia、PA、2000年に記載されているような、薬学分野で周知の方法のいずれかにより調製してもよい。
【0057】
化合物は、1又は2つの医薬組成物内で活性成分を薬学的に許容される賦形剤又はビヒクルと組み合わせて、様々な投与経路、例えば、経口;皮下、筋肉内、静脈内を含む非経口;舌下、局所的;局在的;気管内;鼻腔内;経皮的又は直腸等で投与することができる。
【0058】
特に、非経口投与に適切な製剤は滅菌されており、乳剤、懸濁剤、水性及び非水性注射液を含み、これらは、懸濁剤及び増粘剤及び抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、並びに対象とするレシピエントの血液と製剤を等張にし、適切に調節されたpHを有する溶質を含有し得る。局所的塗布のため、本発明の組成物は、クリーム剤、ゲル剤、軟膏剤又はローション剤として使用することができる。
【0059】
本発明によると、適当な製剤中の化合物(I)又は組成物の経口投与は有利に使用される。患者へ経口投与されるのに適した製剤は、それぞれが既定量の式(I)の化合物を含有する個別の単位、例えば、軟質又は硬質ゼラチン等のカプセル剤、錠剤を含む。これらはまた、散剤;粒剤;水性液体若しくは非水性液体中の液剤若しくは懸濁剤、又は水中油型液体乳剤若しくは油中水型液体乳剤を含む。消化管耐性製剤もまた、経口製剤に対して、特にデュロキセチンに対して想定されている。
【0060】
「薬学的に」又は「薬学的に許容される」とは、適宜に動物又はヒトに投与された場合、有害な、アレルギー性の、又は他の有害な反応を生じない分子構成体及び組成物を指す。
【0061】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される賦形剤、ビヒクル又は担体」は特に希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルを含む。医薬活性物質に対するこのような成分の使用は当技術分野では周知である。
【0062】
本発明に関して、「処置する」又は「処置」という用語は、本明細書で使用される場合、このような用語が適用される障害若しくは状態、又はこのような障害若しくは状態の1つ若しくは複数の症状を逆行させる、緩和する、その進行を阻害する、又は予防することを意味する。
【0063】
「治療有効量」とは、所望の治療効果を生じるのに有効な本発明による化合物/医薬の量を意味する。
【0064】
本発明によると、「患者」、又は「それを必要とする患者」という用語は、上記障害により影響を受けた又は影響を受ける可能性が高いヒト又はヒト以外の哺乳動物を意図する。好ましくは、患者はヒトである。
【0065】
化合物は単位剤形で投与してもよいが、「単位用量」という用語は、患者に投与することが可能であり、容易に取り扱い、包装することができ、活性化合物自体を含む物理化学的に安定な単位用量として、又は1若しくは2つの薬学的に許容される組成物として存続する単一の用量を意味する。
【0066】
適当な単一剤形は、経口の形態、舌下、口腔内、気管内、眼内、鼻腔内の形態、吸入によるもの、局所的、経皮的、皮下、筋肉内又は静脈内、及び直腸からの形態並びにインプラントを含む。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1図1は、ラットにおける投薬後12時間にわたる睡眠覚醒バランスの薬物誘発性変化(15~16の個々の値の平均値±SEM)を、ピトリサント及びデュロキセチンの投与後の安静覚醒期間(図1A)及びREM睡眠期間(図1B)において表している。
図2図2は、ラットにおける投薬後12時間にわたる睡眠覚醒バランスの薬物誘発性変化(15~16の個々の値の平均値±SEM)を、BP1.3656B化合物及びデュロキセチンの投与後の安静覚醒期間(図2A)及びREM睡眠期間(図2B)において表している。
図3図3は、ラットにおける投薬後12時間にわたる睡眠覚醒バランスの薬物誘発性変化(15~16の個々の値の平均値±SEM)を、ピトリサント及びレボキセチンの投与後の安静覚醒期間(図3A)及びREM睡眠期間(図3B)において表している。
図4図4は、ラットにおける投薬後12時間にわたる睡眠覚醒バランスの薬物誘発性変化(15~16の個々の値の平均値±SEM)を、ピトリサント及びアトモキセチンの投与後の安静覚醒期間(図4A)及びREM睡眠期間(図4B)において表している。
図5図5は、ピトリサント及びデュロキセチンの投与後の、ラット前頭前皮質のノルアドレナリン放出における、基礎放出(投薬後、150分間にわたるAUC)に対する薬物誘発性増加(6~9の個々の値の平均値±SEM)を表している。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0068】
(実施例1)
睡眠/覚醒に対する効果
雄のWistarラットにおいて、睡眠/覚醒パラメーターに対する効果について調査した。簡単に説明すると、運動活性及びEEGシグナルの取得、転送及び保存のための遠隔測定システム(Data Sciences Int.社、Saint Paul、MN、USA)を使用して、脳電図(EEG)記録のための皮質電極をラットに定位固定して移植した。R.P. Louisら(J. Neurosci. Methods、2004年、133巻、71~80頁)により提案されたアルゴリズムから適応した手順、及び継続期間8秒のEEGエポックの高速フーリエ変換後のH. Kleinlogel (Neuropsychobiol.、1990~91年、23巻、197~204頁)による覚醒段階の分析に従いEEGシグナルを分析した。これは、その覚醒段階の各エポックに対する判定(すなわち活動的覚醒状態、安静覚醒状態(quiet wakefulness)、浅い又は深い徐波睡眠及び逆説的睡眠とも名付けられているREM睡眠)を可能にする。点灯開始の約30分前に、ビヒクル、薬物又は合剤をラットに経口的に(強制投与)与えた。次いで、EEGシグナルを連続的に記録し、日中相12時間にわたりこれを更に統合した。
【0069】
ラットにおいて記録された、単独又は組み合わせた薬物の睡眠/覚醒に対する効果が、図1(ピトリサント/デュロキセチン)、図2(BP1.3656B/デュロキセチン)、図3(ピトリサント/レボキセチン)及び図4(ピトリサント/アトモキセチン)に提示されている:
【0070】
ピトリサント/デュロキセチン組合せの場合、この組合せは、+19%の累積増加と比較して、+35%の安静覚醒の増加をもたらすことが示された。加えて、2種の化合物を組み合わせた場合、ピトリサントそれ自体は12時間にわたりいかなる有意な効果も有さないのに対して、デュロキセチンにより誘発されるREM睡眠の低減は、デュロキセチン単独での効果と比較して増強した(-35%対-23%)。
【0071】
(実施例2)
前頭前皮質におけるノルアドレナリン放出
ヒスタミンH3受容体アンタゴニスト/インバースアゴニスト(J.S. Linら、Neurobiology of Disease、2008年、30巻、74頁、G. Flikら、J. Mol. Neurosci.、2015年、56巻、320頁)及びノルアドレナリン再取り込み阻害剤(F.P. Bymasterら、Current Pharmaceutical Design、2005年、11巻、1475頁、F.P. Bymasterら、Neuropsychopharmacol.、2002年、27巻、699頁)の両方は、前頭前皮質において細胞外ノルアドレナリンを増強し、ノルアドレナリン作動性神経伝達の活性化を反映することが知られている。しかし、どちらの場合も、その増強は限定されている。
【0072】
AD Medhurstら(J. Pharmacol. Exp. Ther.、2007年、321巻、1032~1045頁)及びG. Flikら(J. Mol. Neurosci.、2015年、56巻、320~328頁)に記載されているように、不眠の雄のWistarラットにおいて、前頭前皮質におけるノルアドレナリン放出についての効果をミクロ透析によりin vivoで調査した。簡単に説明すると、麻酔したラットに、前頭前皮質でのサンプリングのためのガイドカニューレを移植した。手術後少なくとも1週間かけて回復させた後、ミクロ透析プローブをガイドカニューレに挿入し、人工脳脊髄液(CSF)を連続的に灌流させた。ミクロ透析ケージに対してラットを約3時間慣らした。次いで、ラットに経口的に(強制投与)ビヒクル、薬物又は合剤を与えた。これらのノルアドレナリン含有量について、30分ごとに収集したCSF試料を電気化学的検出に連結したHPLCで分析した。ノルアドレナリン試料レベルは、ビヒクル又は薬物での処置前の1.5時間にわたり記録した、ノルアドレナリンの基礎放出のパーセンテージで表現した。
【0073】
予想外に、2種類の化合物を組み合わせた場合、前頭前皮質におけるノルアドレナリン作動性神経伝達の活性化が、以下のデータにより示され、図5に例示されているように、相乗的に増強される:
【0074】
【表1】
【0075】
したがって、2つのクラスの化合物を合わせることは、各構成成分の用量の低減と、これによって、耐性の増強を可能にし得る。
図1
図2
図3
図4
図5