(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】アルコールの濃度を測定する試験片および測定する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/26 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
C12Q1/26
(21)【出願番号】P 2019203068
(22)【出願日】2019-11-08
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】591045677
【氏名又は名称】関東化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相澤 大輔
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-188097(JP,A)
【文献】特開2004-267067(JP,A)
【文献】実開昭60-139267(JP,U)
【文献】実開平01-117736(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12Q 1/00- 3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールの濃度を測定する試験片であって、
試験片が、変色に必要なアルコールの濃度が各々異なる2以上の担体を有し、
2以上の担体が、基材上に設けられ、
担体が、アルコールが一定の濃度を超えると変色する試薬を含み、
試薬が、
アルコールオキシダーゼと、変色剤と、
糖アルコール、シクロデキストリン、トレハロースおよびスクロースから選択される安定化剤とを含有する、前記試験片。
【請求項2】
変色剤が、4-アミノアンチピリンおよび3-メチル-2-ベンゾチアゾリノンヒドラゾンから選択される少なくとも1種と、フェノール性化合物およびアニリン誘導体から選択される少なくとも1種との組み合わせから選択される2種類以上の組み合わせの変色剤である、請求項
1に記載の試験片。
【請求項3】
試薬が、さらに還元剤を含有し、還元剤がアスコルビン酸である、請求項1
または2に記載の試験片。
【請求項4】
唾液中のアルコールの濃度を測定するための、請求項1~
3のいずれか一項に記載の試験片。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の試験片を用いたアルコールの濃度を測定する方法であって、変色した担体の個数および/または色の濃さによりアルコールの濃度を測定する前記方法。
【請求項6】
請求項
5に記載のアルコールの濃度を測定する方法であって、変色した担体の個数および/または色の濃さを点数化することを含む、前記方法。
【請求項7】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の試験片、および、アルコールの濃度と担体の変色との対応関係を示す色見本を含む、請求項
5または
6に記載の方法に用いるための測定用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールの濃度を測定する試験片および測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコールの濃度の正確な定量は、ガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーなどの分析機器によって行われる。しかし、これらの機器は高価であり、操作に熟練が必要で、結果を得るまで長時間を要するため、経済性や迅速性に難点がある。そのため、特別な装置や技術を要することなく、任意の場所で簡便、かつ安価にアルコールを検出する方法の開発が行われてきた。例えば、担体に酵素などの試薬群を固相化し、これを土台となる支持体の上に設置したアルコール試験紙が開発されている(例えば、下記特許文献1~4を参照)。
【0003】
担体に固相化する試薬群は大きく2種類に分類される。一つ目は、(a)アルコールデヒドロゲナーゼ、(b)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドフォスフェイト(NADP)、(c)ジアホラーゼ、(d)変色剤からなる群である(特許文献1、2)。変色剤としては例えばホルマザン色素やメチレンブルーなどが挙げられる。(a)-(d)によってエタノールが呈色する原理を
図1に示す。原料に由来する微量なNADHが問題になる場合には、これを消去する目的で過硫酸カリウムなどの(e)酸化剤を加えることもある。二つ目は、(a)’アルコールオキシダーゼ、(b)’ペルオキシダーゼ、(c)’変色剤からなる群である(特許文献3、4)。変色剤としては例えば1種類で呈色する3,3’-ジアミノベンジジン、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)や、4-アミノアンチピリンと酸化縮合して呈色する所謂トリンダー試薬などが挙げられる。(a)’-(c)’によってエタノールが呈色する原理を
図2に示す。原料に由来する微量な過酸化水素が問題となる場合には、これを消去する目的でアスコルビン酸などの(d)’還元剤を加えることもある。
【0004】
何れの方法もエタノールを検出することが可能であるが、エタノール濃度の測定は、変色剤の変色に要する時間、または変色剤の色調変化を基準にしているため、測定者の主観や色調の認知能力に大きく依存しており、定量的にエタノールを測定することはできなかった。
【0005】
また、変色した試薬の個数により検体の硬度などの濃度を測定する方法は報告されているが(特許文献5)、アルコールの濃度を簡便かつ安価に測定するものはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭60-164498号公報
【文献】特開昭59-166098号公報
【文献】特開昭60-172298号公報
【文献】特開平03-004799号公報
【文献】特開2009-42013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特別な装置や技術を要することなく、任意の場所で簡便、かつ安価にエタノールの濃度を測定する方法は、食品製造のプロセス管理、ヒトの血液や唾液を検体とした飲酒運転の取り締まりおよび変死体に対する検視用途などにおいて、多くの需要がある。しかしながら、従来技術による濃度を測定する方法においては、変色剤の変色に要する時間、または変色剤の色調変化を基準にしている。そのためエタノールの濃度は、測定者の主観や色調の認知能力に大きく依存し、濃度の測定は不正確であった。
そこで本発明は、特別な装置や技術を要することなく、任意の場所で簡便にエタノールなどのアルコールの濃度を測定する試験片および測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、アルコールが一定の濃度を超えると変色する試薬を含む、変色に必要なアルコールの濃度が各々異なる2以上の担体を有する、アルコールの濃度を測定する試験片を、例えば
図3に表すとおりに設計した。変色した担体の個数および/または色の濃さを点数化したところ、アルコールとの間に直線関係が認められ、アルコールの濃度を測定できることを見出した。
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]アルコールが一定の濃度を超えると変色する試薬を含む、変色に必要なアルコールの濃度が各々異なる2以上の担体を有する、アルコールの濃度を測定する試験片。
[2]試薬が、アルコールオキシダーゼを含有する、[1]に記載の試験片。
[3]唾液中のアルコールの濃度を測定するための、[1]または[2]に記載の試験片。
[4]2以上の担体が基材上に設けられている、[1]~[3]のいずれか一つに記載の試験片。
[5][1]~[4]のいずれか一つに記載の試験片を用いたアルコールの濃度を測定する方法であって、変色した担体の個数および/または色の濃さによりアルコールの濃度を測定する前記方法。
[6][5]に記載のアルコールの濃度を測定する方法であって、変色した担体の個数および/または色の濃さを点数化することを含む、前記方法。
[7][1]~[4]のいずれか一つに記載の試験片、および、アルコールの濃度と担体の変色との対応関係を示す色見本を含む、[5]または[6]に記載の方法に用いるための測定用キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明の試験片により測定する方法は、従来技術により測定する方法より、測定者の主観によらずに、アルコールの濃度の測定が可能である。
本発明の試験片により測定する方法は、ガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーなどの特別な装置や技術を必要とせず、検体を担体に含浸させるという簡単な操作により、安価にアルコールの濃度を測定することができる。
本発明の試験片により測定する方法は、変色した担体の個数と各担体の色の濃さとの2つの観点からアルコールの濃度を測定することにより、個数のみにより濃度を測定する方法と比較して、少ない個数の担体で測定できる。
本発明の試験片は、アルコールを含むヒトの唾液を検体とした場合においてもアルコールの濃度を測定できるため、飲酒運転の取り締まりや変死体に対する検視用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、アルコールデヒドロゲナーゼを用いたエタノールの呈色法を表す図である。
【
図2】
図2は、アルコールオキシダーゼを用いたエタノールの呈色法を表す図である。
【
図3】
図3は、本発明の、アルコールの濃度を測定する試験片の模式図を表す図である。
【
図4】
図4は、蒸留水中のエタノールを検体とした、本発明の測定する方法による試験を表す図である。
【
図5】
図5は、呈色の程度(色の濃さ)と呈色した担体の個数に応じた、本発明の試験片の点数化を表す図である。
【
図6】
図6は、蒸留水中のエタノールの定量性を表す図である。
【
図7】
図7は、唾液中のエタノールを検体とした、本発明の測定する方法による試験を表す図である。
【
図8】
図8は、唾液中エタノールの定量性を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の試験片は、変色に必要なアルコールの濃度が各々異なる2以上の担体を有する。変色に必要なアルコールの濃度は、試薬の濃度を変えることにより異なってもよい。担体の個数は2以上であれば特に限定されないが、アルコールの測定可能な濃度範囲ならびに試験片および担体の製造の簡便性などの観点から、通常2~10個であり、好ましくは2~5個、より好ましくは2~4個、なおより好ましくは2~3個である。
本発明の試験片の2以上の担体に含まれる試薬は、アルコールが一定の濃度を超えると変色するものであれば、特に限定されない。変色は、本明細書において、呈色および退色を包含する。本発明の試薬は、例えば特許文献1~4などに記載の発明の原理に基づく試薬でもよい。
【0012】
本発明の好ましい態様において、本発明の試験片の2以上の担体に含まれる試薬は、アルコールオキシダーゼを含有し、より好ましい態様において、アルコールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、変色剤、および還元剤を含有し、なおより好ましくは、アルコールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、変色剤、還元剤、および安定化剤を含有する。
本発明の好ましい態様において、アルコールオキシダーゼはEC 1.1.3.13に分類されるものであって、例えば酵母由来のものが挙げられる。
本発明の好ましい態様において、ペルオキシダーゼはEC 1.11.1.7に分類されるものであって、例えば西洋わさび由来のものが挙げられる。
本発明の好ましい態様において、変色剤は、単独でも2種類以上の組み合わせで使用してもよい。単独の変色剤は、例えば3,3’-ジアミノベンジジンまたはその塩、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジンまたはその塩、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)またはその塩、などが挙げられる。また2種類以上の組み合わせの変色剤は、例えば4-アミノアンチピリンや3-メチル-2-ベンゾチアゾリノンヒドラゾンなどと、フェノール性化合物やアニリン誘導体などとの組み合わせが挙げられ、好ましくは4-アミノアンチピリンとTOOS(Sodium 3-(N-ethyl-3-methylanilino)-2-hydroxypropanesulfonate)との組み合わせである。
本発明の好ましい態様において、還元剤は、アルコールオキシダーゼの自己酸化などに由来する、検体の適用前に生じる過酸化水素を還元できるものであれば特に限定されず、例えばアスコルビン酸、還元型グルタチオン、システイン、などが挙げられ、好ましくはアスコルビン酸である。
本発明の好ましい態様において、安定化剤は、例えば多糖類、オリゴ糖類、二糖類、単糖類、およびこれらの誘導体などであり、好ましくは還元性のない糖アルコール、シクロデキストリン、トレハロース、スクロースであり、最も好ましくはスクロースである。
【0013】
本発明の試験片により測定されるアルコールの濃度範囲は、例えば、試薬の成分または担体の個数を変化させることなどにより調節可能である。
本発明の試験片により測定されるアルコールの濃度範囲は特に限定されないが、人体に影響を及ぼす血中エタノールの濃度範囲の観点から、好ましくは、0.01~0.64%、なおより好ましくは0.02~0.4%である。
本発明の好ましい態様において、アルコールオキシダーゼの濃度範囲は特に限定されないが、測定されるアルコールの濃度などの観点から、好ましくは、0.1U/mL~100U/mLの範囲、より好ましくは0.5U/mL~20U/mLの範囲、なおより好ましくは1U/mL~9U/mLの範囲である。
本発明の好ましい態様において、ペルオキシダーゼの濃度は特に限定されないが、測定されるアルコールの濃度などの観点から、好ましくは、0.1U/mL~1000U/mLの範囲、より好ましくは0.5U/mL~500U/mLの範囲、なおより好ましくは50U/mLである。
本発明の好ましい態様において、変色剤の濃度は、特に限定されないが、測定されるアルコールの濃度などの観点から、好ましくは、0.01mmol/L~100mmol/Lの範囲、より好ましくは0.1mmol/L~10mmol/Lの範囲、なおより好ましくは1mmol/Lである。
本発明の好ましい態様において、還元剤の濃度は、特に限定されないが、測定されるアルコールの濃度などの観点から、好ましくは0mmol/L~100mmol/Lの範囲、より好ましくは0.1mmol/L~10mmol/Lの範囲、なおより好ましくは1mmol/Lである。
本発明の好ましい態様において、安定化剤の濃度は、特に限定されないが、、好ましくは、0%~30%の範囲、より好ましくは1%~20%の範囲、なおより好ましくは10%である。
【0014】
本発明の試験片に適用される検体は、アルコール以外に任意の物質を含んでもよいが、好ましくは水溶液中のアルコールまたは唾液中のアルコールである。
本発明の試験片に適用される検体のアルコールは、本発明の試薬により変色を示すものであれば、特に限定されないが、好ましくは、1級アルコール、最も好ましくはエタノールである。
【0015】
本発明の担体は、常温で水、唾液、およびアルコールに不溶性または難溶性のものであれば限定されない。例えば、ゼラチン、寒天、シクロデキストリン、セルロース、紙、キチン、グルカンなどに代表される天然物の低分子から高分子のものや、レーヨン、ビニロン、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ナイロン、アクリルなどの反合成から合成高分子などを用いてもよい。吸水性と保水性の観点から、好ましくはポリビニルアルコールである。
本発明の担体は、大きさ、厚さ、形状などは任意のものを用いてもよい。
本発明の担体は、基材上に設けられてもよい。基材の材質は特に限定されず、例えば、紙、プラスチック、ゴム、樹脂などでもよい。また、基材の形状は、棒状、円形状、多角形状など、特に限定されない。
本発明のアルコールの濃度を測定する方法は、変色した担体の個数および/または色の濃さを点数化することを含む。点数化は、変色した担体の個数によって行われ得る。例えば、試験片の担体が0個変色した場合0点、1個変色した場合1点、2個変色した場合2点などと、単調減少または単調増加するよう行われる。さらに点数化は、例えば、各担体の色の濃さによって、変色しない場合0点、淡く変色した場合1点、次に淡く変色した場合2点などと、単調減少または単調増加するよう行われる。各担体の色の濃さによる点数化は、各担体につき、任意の段階で行われてもよいが、色の濃さの判断の容易さなどの観点から、2~4段階、好ましくは3段階で行われる。さらにまた、点数化は、担体の個数と各担体の色の濃さとの両方の組み合わせにより行われてもよい。
【0016】
本発明の測定用キットは、本発明の試験片、および、アルコールの濃度と担体の変色との対応関係を示すために、色見本を含んでもよい。測定の現場で簡易にできる比色法として、アルコールの濃度に対応する色見本の複数を点数化して配列した評価用サンプルを作製し、検体による変色が色見本のどの色に対応するか比べることにより、アルコールの濃度をより高い精度で測定することができる。前記評価用サンプルは、写真または印刷物などでもよい。
【0017】
実施例
以下に、本発明の実施例を参照してより詳細に説明するが、これは本発明の特定の具体例を示すものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
表1に示す処方で試薬1、2、3を作製した。それぞれの試薬をポリビニルアルコール性の担体に染み込ませ、一晩減圧乾燥したものを担体1、2、3とした。担体1、2、3を基材に並べて設置し、これを発明品とした。
蒸留水で希釈した0.01%~0.64%のエタノールを発明品に供し、5分後の外観を観察した。呈色の程度(色の濃さ)と呈色した担体の個数によって0.01%~0.64%のエタノールを区別することができた。一方、既存品で同様の試験を行ったところ、0.01%~0.64%のエタノールを区別することはできなかった(
図4)。発明品の定量性の有無を確認するため、呈色の程度(色の濃さ)と呈色した担体の個数に応じて試験結果に0点~9点の点数をつけた(
図5)。
図4の結果を点数化したところ、エタノール濃度(対数)との間に直線関係が認められた(
図6)。
【0018】
唾液で希釈したエタノールに対して同様の検討を行った。発明品は唾液の影響を殆ど受けずに0.01%~0.64%のエタノールを区別することができ(
図7)、エタノール濃度(対数)との間に直線関係が認められた(
図8)。
【0019】