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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/50 20240101AFI20240625BHJP
   B01J 35/61 20240101ALI20240625BHJP
   B01J 27/053 20060101ALI20240625BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20240625BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20240625BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20240625BHJP
   B01J 35/57 20240101ALI20240625BHJP
【FI】
B01J35/50 311
B01J35/61
B01J27/053 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/24 L
F01N3/28 Q
B01J35/57 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019236718
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021104484
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】高▲さき▼ 孝平
(72)【発明者】
【氏名】大橋 達也
(72)【発明者】
【氏名】成田 慶一
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-361089(JP,A)
【文献】特許第6052250(JP,B2)
【文献】国際公開第02/020154(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/079908(WO,A1)
【文献】特開2014-091119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
F01N 3/24,3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
触媒層と、
前記基材および前記触媒層の間に配置された中間層と、
電極と、
を備える排ガス浄化用触媒であって、
前記基材は、SiCを含有し、
前記触媒層は、触媒成分としてPdを含有し、
前記中間層は、白金族金属を実質的に含有せず、
前記中間層の厚み(μm)と、前記中間層の比表面積(m/g)との積が1100以上であり、
前記中間層の厚みが、10μm~200μmであり、かつ前記中間層の比表面積が30m /g~500m /gであり、
通電加熱式触媒である、
排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記中間層の厚みが、10μm~100μmであり、かつ前記中間層の比表面積が30m /g~200m /gである、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記中間層の厚みが、20μm以上である、請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記中間層の比表面積が、40m/g以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関し、詳しくは、通電加熱式触媒として好適に使用可能な排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等のエンジンから排出される排ガスを浄化する触媒として、通電加熱式触媒(EHC)が注目されている。内燃機関用の排ガス浄化触媒が十分な浄化性能を発揮するためには、排ガス浄化触媒の温度が、触媒が活性化する温度まで上昇している必要がある。一般的な排ガス浄化用触媒は、排ガスの熱を利用して加熱されるため、エンジンの始動直後などのように排ガスの温度が低い場合には、高い浄化性能が得られない。これに対し、通電加熱式触媒では、エンジンの始動直後などのように排ガスの温度が低い場合でも、通電加熱によって短時間で触媒の温度を上昇させて触媒を活性化させることができる。そのため、排ガスの温度が低い場合でも、十分な浄化性能を得ることができ、これにより排ガスの浄化効率を高めることができる。
【0003】
通電加熱式触媒の典型的な構成は、基材と触媒層とを備え、基材は、抵抗発熱体として機能するSiCを含有し、一方、触媒層は、触媒成分として白金族金属(PGM)を含有する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6052250号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、上記説明した従来技術においては、高温耐久中に触媒層の白金族金属が基材へと移動するという問題があることを見出した。白金族金属の基材への移動量が多いと、排ガス浄化性能の低下を招く。また、排ガス浄化触媒が通電加熱式触媒である場合には、白金族金属の基材への移動量が多いと、通電状態に悪影響を及ぼす。その結果、排ガス浄化性能の高温耐久性の悪化を招く。
【0006】
そこで本発明は、高温耐久中の触媒層から基材への白金族金属の移動が抑制された、排ガス浄化触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される排ガス浄化用触媒は、基材と、触媒層と、前記基材および前記触媒層の間に配置された中間層と、を備える。前記基材は、SiCを含有する。前記触媒層は、触媒成分として白金族金属を含有する。前記中間層は、白金族金属を実質的に含有しない。前記中間層の厚み(μm)と、前記中間層の比表面積(m/g)の積は1100以上である。
このような構成によれば、中間層が、適切な厚みと適切な比表面積を有することによって白金族金属の移動を妨げる物理障壁として高い機能を発現する。すなわち、中間層が、有効なバリア層として機能し、高温耐久中の触媒層から基材への白金族金属の移動を抑制することができる。したがって、ここに開示される排ガス浄化触媒は、高温耐久性に優れたものになる。
【0008】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好適な一態様では、前記中間層の厚みが、30μm以上である。
このような構成によれば、中間層のバリア層としての機能がより高くなる。したがって、中間層が、高温耐久中の触媒層から基材への白金族金属の移動をより抑制することができ、排ガス浄化触媒は、より高温耐久性に優れたものになる。
【0009】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好適な他の一態様では、前記中間層の比表面積が、40m/g以上である。
このような構成によれば、中間層のバリア層としての機能がより高くなる。したがって、中間層が、高温耐久中の触媒層から基材への白金族金属の移動をより抑制することができ、排ガス浄化触媒は、より高温耐久性に優れたものになる。
【0010】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好適な他の一態様では、前記触媒層に含有される白金族金属が、Pdである。
この場合、白金族金属の中でもPdが特に高温耐久中に触媒層から基材へ移動し易いため、中間層による高温耐久性向上効果が特に高くなる。
【0011】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好適な他の一態様では、前記排ガス浄化用触媒は、さらに電極を備え、前記排ガス浄化用触媒が通電加熱式触媒である。
このような構成によれば、高温耐久性の高い通電加熱式触媒が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る排ガス浄化用触媒の一例を模式的に示す斜視図である。
図2図1の排ガス浄化用触媒の層構造を模式的に示す断面図である。
図3】比較例1の排ガス浄化用触媒の耐久試験前のFE-EPMAのPdマッピング結果を示す画像である。
図4】比較例1の排ガス浄化用触媒の耐久試験後のFE-EPMAのPdマッピング結果を示す画像である。
図5】実施例5の排ガス浄化用触媒の耐久試験後のFE-EPMAのPdマッピング結果を示す画像である。
図6】各実施例および各比較例の結果より得られた、中間層の厚みと比表面積との積と、Pd移動度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を適宜参照しつつ本発明の好適ないくつかの実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術知識とに基づいて実施することができる。なお、後述する図1図2は、本発明の内容を理解するために模式的に示したものであり、各図における寸法関係(長さ、幅、厚みなど)は、実際の寸法関係を反映するものではない。
【0014】
図1に、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒の一例を模式的に示す。図1は、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒を、通電加熱式触媒として構成する場合の例である。図2に、図1の排ガス浄化用触媒の層構造を模式的に示す。
【0015】
図1および図2に示すように、排ガス浄化用触媒10は、基材11と、触媒層20と、基材11および触媒層20の間に配置された中間層30と、を備える。
【0016】
<基材>
基材11は、中間層30を介して触媒層20を担持する部材である。
基材11は、SiC(炭化ケイ素)を含有する。基材11がSiCを含有することにより、熱サイクルによる基材のクラック発生が起こり難くなる。
また、SiCは抵抗発熱体として機能し得るため、基材11がSiCを含有することにより、排ガス浄化用触媒を通電加熱式触媒として用いることができる。基材11は、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内で、SiC以外の成分を含有していてもよい。
【0017】
基材11の形状は、公知の排ガス浄化用触媒と同様であってよい。例えば、基材11は、排ガス浄化触媒において一般的に使用されている、ストレートフロー型またはウォールフロー型のハニカム基材であってよい。
図1に示す例では、基材11は、円筒形の外形状を有している。基材11の外形状はこれに限られず、楕円筒形、多角筒形などであってもよい。
図1および図2の矢印は、排ガスの流通方向を示している。基材11は、排ガス流入側と排ガス流出側の両方の端部が開口した複数のセル15と、隣接したセル15を仕切る隔壁16とを有している。各セル15の形状は、特に限定されず、正方形、平行四辺形、長方形、台形などの四角形状;三角形状、六角形状、八角形状などのその他の多角形状;円形等であってよい。図示例の基材11を備えた排ガス浄化用触媒10では、排ガス流入側の端部からセル15内に流入した排ガスが、セル15内を通過して排ガス流出側の端部から流出する。
この基材11の少なくとも一部に、触媒層20および中間層30が形成される。図1では示されていないが、触媒層20および中間層30が、セル15内に形成されている。
【0018】
<触媒層>
触媒層20は、触媒成分として、白金族金属を含有する。すなわち、触媒層20は、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、およびイリジウム(Ir)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含有する。ここで、PdおよびPtは、一酸化炭素(CO)および炭化水素(HC)の浄化性能(酸化浄化能)に優れ、RhはNOxの浄化性能(還元浄化能)に優れる。よって、高い浄化能の観点から、触媒層20に含有される白金族金属は、Pt、Rh、およびPdからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、白金族金属の中でもPdが高温耐久中に触媒層20から基材11へ特に移動し易い。よって、中間層30による高温耐久性向上効果が特に高くなることから、触媒層20に含有される白金族金属としては、Pdが最も好ましい。
【0019】
白金族金属は、排ガスとの接触面積を高める観点から、微粒子状であることが好ましい。具体的には、白金族金属の平均粒子径は、好ましくは15nm以下であり、より好ましくは10nm以下であり、さらに好ましくは7nm以下であり、最も好ましくは5nm以下である。また、白金族金属の平均粒子径は、好ましくは1nm以上である。
なお、白金族金属の平均粒子径は、白金族金属の電子顕微鏡画像(TEM画像等)を取得し、画像中の任意に選ばれる20個以上の粒子の粒径の平均値として求めることができる。
【0020】
また、触媒層20は、通常、白金族金属を担持する担体を含有する。担体が白金族金属を担持する形態は、特に限定されない。担体の種類は、白金族金属を担持可能な限り特に制限されず、公知の排ガス浄化用触媒の触媒層の担体として使用されているものを用いてよい。担体の例としては、酸化セリウム(セリア:CeO)、該セリアを含む複合酸化物(例えば、セリア-ジルコニア複合酸化物(CZ又はZC複合酸化物))などの酸素吸蔵能(OSC)を有する無機材料(いわゆる、OSC材);アルミナ(Al)、チタニア(TiO)、ジルコニア(ZrO)、シリカ(SiO)等の酸化物;等が挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。OSC材は排ガス浄化の助触媒として機能し得ることから、担体は、OSC材を含むことが好ましく、セリア-ジルコニア複合酸化物を含むことがより好ましい。
【0021】
触媒層20は、触媒成分および担体以外の成分(例えば、バインダ、添加剤等)をさらに含有していてもよい。バインダの例としては、アルミナゾル、シリカゾル等が挙げられる。添加剤の例としては、NO吸着剤、安定化剤などが挙げられる。
【0022】
触媒層20における白金族金属の含有量は特に制限されない。例えば、触媒層に含まれる担体の全質量に対して、0.01質量%以上8質量%以下であり、あるいは、0.1質量%以上5質量%以下である。
【0023】
触媒層20は、単層構造であってもよいし、白金族金属を含有する2以上の層を備える複層構造であってもよい。触媒層20が複層構造を有する場合、各層に含まれる白金族金属は同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、触媒層20は、Pdを含む層の上に、Rhを含む層が形成された複層構造を有していてもよい。また、触媒層20は、フロント部とリア部で異なる白金族触媒を含有していてもよい。
【0024】
触媒層20の厚みや長さは、基材11のセル15の大きさ、排ガス浄化用触媒10に供給される排ガスの流量等に応じて適宜決定すればよい。触媒層20の厚みは、特に限定されないが、例えば、1μm以上500μm以下、あるいは5μm以上200μm以下である。
【0025】
<中間層>
中間層30は、白金族金属を実質的に含有しない。本明細書において、「実質的に含有しない」とは、白金族金属が、触媒成分として利用するために積極的に含有されていないものの、中間層製造時における白金族金属の混入や不純物による白金族金属の混入などは許容することを意味する。あるいは、本明細書において、「実質的に含有しない」とは、中間層30中における白金族金属の含有量(すなわち中間層30の全重量に対する白金族金属の含有量)が、0.001質量%未満であることを指し、中間層30中における白金族金属の含有量は、好ましくは、0.0005質量%未満であり、より好ましくは0%である(すなわち、中間層30は白金族金属を含有しない)。
【0026】
中間層30に含有される成分は、白金族金属を実質的に含有しない限り特に制限はない。中間層は、例えば、触媒層20に使用可能な担体(すなわち、上記例示したOSC材、酸化物等)を含有する。当該担体は、Ba、Sr等のアルカリ土類金属を含有していてもよい。例えば、中間層30は、触媒層20に含まれる担体と同じ種類の担体を含有する。中間層30は、白金族金属を実質的に含有していない点以外は触媒層と同じ組成であってよい。すなわち、中間層30は、白金族金属を実質的に含有しないが、触媒層20が実際に含有する担体、添加剤等を、触媒層20と同じ組成比で含有していてもよい。
【0027】
中間層30の厚み(μm)と中間層30の比表面積(m/g)との積(すなわち、中間層30の厚み(μm)×中間層30の比表面積(m/g)の値)は1100以上である。この場合、中間層30が白金族金属の移動を妨げる物理障壁として高い機能を発現する。すなわち、中間層30が、有効なバリア層として機能し、高温耐久中の触媒層20から基材11への白金族金属の移動を抑制することができる。このため、排ガス浄化触媒10は、高温耐久性に優れたものになる。
【0028】
中間層30の厚み(μm)と中間層30の比表面積(m/g)との積は、大きい方が好ましい。具体的には、この積は、好ましくは1200以上であり、より好ましくは1500以上であり、さらに好ましくは2000以上であり、最も好ましくは2500以上である。この積の上限は特に制限はなく、例えば、50000以下である。
【0029】
中間層30のバリア層としての機能がより高くなることから、中間層30の厚みは、20μm以上が好ましい。このとき、中間層30が、高温耐久中の触媒層20から基材11への白金族金属の移動をより抑制することができ、排ガス浄化触媒10は、より高温耐久性に優れたものになる。中間層30の厚みは、より好ましくは30μm以上であり、さらに好ましくは50μm以上である。一方、中間層30の厚みが大きすぎると、抵抗増大を招く。そのため、中間層30の厚みは、200μm以下が好ましく、100μm以下が好ましく、80μm以下が更に好ましい。
なお、中間層30の厚みは、公知方法に従い測定することができる。例えば、排ガス浄化触媒10の断面の電子顕微鏡画像を取得して、中間層30の厚みを計測することにより、求めることができる。電子顕微鏡により中間層30を特定しにくい場合には、排ガス浄化触媒10の断面を電子プローブ微小分析器(EPMA)によってEPMA観察画像を取得し、元素分析を行って中間層を特定し、EPMA観察画像より厚みを求めることができる。
【0030】
中間層30のバリア層としての機能がより高くなることから、中間層30の比表面積は、40m/g以上が好ましい。このとき、中間層30が、高温耐久中の触媒層20から基材11への白金族金属の移動をより抑制することができ、排ガス浄化触媒10は、より高温耐久性に優れたものになる。中間層30の比表面積は、より好ましくは50m/g以上であり、さらに好ましくは70m/g以上である。中間層30の比表面積の上限は特に限定されず、例えば、1000m/g以下、あるいは500m/g以下である。
なお、本明細書において、中間層30の比表面積は、吸着質として窒素ガスを用いた流動法によるBET1点法により測定される値を指す。
【0031】
なお、中間層30の厚み(μm)と中間層30の比表面積(m/g)との積の値は、中間層を形成するためのスラリーのコート量、当該スラリーに含まれる中間層の構成材料の粒子径等を調整することにより、制御することができる。
【0032】
中間層30は単層構造であってもよいし、白金族金属を実質的に含有しない2以上の層の複層構造であってもよい。製造の容易さの観点から、中間層30は、単層構造を有することが好ましい。
【0033】
排ガス浄化触媒10は、基材11、触媒層20および中間層30以外の要素を備えていてもよい。
図1に示す例では、排ガス浄化触媒10は、通電加熱式触媒として構成されている。そのため、排ガス浄化触媒10は、電極40をさらに備えている。電極40は、公知の通電加熱式触媒が備える電極と同様であってよく、電極40は、金属電極、カーボン電極等であってよい。図示例では、電極40は、基材11の外表面上に設けられた電極層42と、電極端子44とを備えている。電極層42は、電流を拡散する機能を有している。しかしながら、電極40の構成は、基材に通電可能な限りこれに限られない。
【0034】
排ガス浄化触媒10は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、基材11を用意する。また、中間層30の構成成分(例、OSC材、酸化物等)を含有するスラリーを調製する。このスラリーを基材11のセル15内に、塗布し、乾燥し、必要に応じて焼成を行う。これによりまず中間層30を形成する。次に、公知方法に従い、触媒層20を形成する。具体的に例えば、白金族金属源(例、白金族金属のイオンを含む溶液)、その担体(例、OSC材、酸化物等)、および分散媒を混合して、触媒層20の形成用のスラリーを調製する。このスラリーを、基材11のセル15内に形成された中間層30の上に、塗布し、乾燥した後焼成を行う。これにより、中間層30の上に触媒層20を形成する。
【0035】
あるいは、製造方法の別の例として、基材11を用意すると共に、中間層30の構成成分を含有するスラリーを調製する。このスラリーを基材11のセル15内に塗布し、乾燥して必要に応じ焼成する。これにより基材11上に層を形成する。その後、形成された層の上部に白金族金属のイオン等を含む溶液を含浸させ、乾燥した後、焼成を行う。このようにすれば、形成された層の下部が白金族金属を実質的に含有しない中間層30となり、形成された層の上部が白金族金属を担持する触媒層20となる。よって、このような方法によれば、基材11上に中間層30を形成すると共に、中間層30の上に触媒層20を形成することができる。
【0036】
以上、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒を、通電加熱式触媒として構成する場合の例について説明した。しかしながら、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒は、内燃機関の排ガス浄化に用いられる限り、これに限られない。例えば、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒は、ディーゼルエンジン用の排ガス浄化用触媒として構成することができる。ディーゼルエンジン用の排ガス浄化用触媒は、再生処理の際に加熱される。本実施形態に係る排ガス浄化用触媒がディーゼルエンジン用の排ガス浄化用触媒である場合、この加熱の際に高い高温耐久性が発揮され、触媒層から基材への白金族金属の移動を抑制することができる。
【0037】
本実施形態に係る排ガス浄化用触媒は、高温(例えば、900℃、あるいは1000℃)耐久中の触媒層から基材への白金族金属の移動が抑制されている。そのため、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒は、高温耐久性に優れる。
【0038】
本実施形態に係る排ガス浄化用触媒は、公知方法に従い、内燃機関の排ガス浄化に用いることができる。具体的に例えば、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒は、自動車エンジンの排気系(特に排気管)に配置されて使用される。ここで、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒が、図示例のようにETCである場合には、例えば、自動車のバッテリー等から電気が供給されるように、自動車と電気的に接続される。
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明をかかる実施例に限定することを意図したものではない。
【0040】
<排ガス浄化触媒の作製>
(比較例1)
基材として、炭化ケイ素製のハニカム基材(容積547mL、セル数600cpsi、隔壁厚み5ミル、セル形状四角、基材長500mm)を用意した。
硝酸パラジウム溶液と、アルミナ粉末と、CZ複合酸化物粉末と、硫酸バリウムと、イオン交換水とを混合してPd含有スラリーを調製した。
硝酸ロジウム溶液と、アルミナ粉末と、ZC複合酸化物粉末と、イオン交換水とを混合してRh含有スラリーを調製した。
Pd含有スラリーを、上記基材に流し込み、不要なスラリーをブロアーで吹き払うことにより、基材壁面をスラリーでコートした。次に、この基材を、120℃に設定された乾燥機に入れて、2時間乾燥させた。その後、この基材を、電気炉内にて500℃で2時間焼成して、Pd触媒層を形成した。
次いで、Rh含有スラリーを、上記基材に流し込み、不要なスラリーをブロアーで吹き払うことにより、基材壁面をスラリーでコートした。次に、この基材を、120℃に設定された乾燥機に入れて、2時間乾燥させた。その後、この基材を、電気炉内にて500℃で2時間焼成して、Rh触媒層を形成した。
なお、Pd含有スラリーおよびRh含有スラリーのコート量はそれぞれ、基材に対し80g/Lとした。
このようにして、基材上に、Pd触媒層およびRh触媒層が順に積層された、比較例1の排ガス浄化触媒を得た。
【0041】
〔各実施例およびその他の比較例〕
基材として、炭化ケイ素製のハニカム基材(容積547mL、セル数600cpsi、隔壁厚み5ミル、セル形状四角、基材長500mm)を用意した。
硝酸パラジウム溶液と、アルミナ粉末と、CZ複合酸化物粉末と、硫酸バリウムと、イオン交換水とを混合してPd含有スラリーを調製した。
硝酸ロジウム溶液と、アルミナ粉末と、ZC複合酸化物粉末と、イオン交換水とを混合してRh含有スラリーを調製した。
アルミナ粉末と、CZ複合酸化物粉末と、イオン交換水とを混合して中間層用スラリーを調製した。
中間層用スラリーを、上記基材に流し込み、不要なスラリーをブロアーで吹き払うことにより、基材壁面をスラリーでコートした。次に、この基材を、120℃に設定された乾燥機に入れて、2時間乾燥させた。その後、この基材を、電気炉内にて500℃で2時間焼成して、中間層を形成した。
次いで、Pd含有スラリーを、上記基材に流し込み、不要なスラリーをブロアーで吹き払うことにより、基材壁面をスラリーでコートした。次に、この基材を、120℃に設定された乾燥機に入れて、2時間乾燥させた。その後、この基材を、電気炉内にて500℃で2時間焼成して、Pd触媒層を形成した。
さらに、Rh含有スラリーを、上記基材に流し込み、不要なスラリーをブロアーで吹き払うことにより、基材壁面をスラリーでコートした。次に、この基材を、120℃に設定された乾燥機に入れて、2時間乾燥させた。その後、この基材を、電気炉内にて500℃で2時間焼成して、Rh触媒層を形成した。
この手順において、中間層に用いるアルミナ粉末およびCZ複合酸化物粉末の粒子径および表面積を変化させること、ならびに中間層用スラリーのコート量を変更することによって、中間層の比表面積および厚みを変化させた。
このようにして、基材上に、中間層、Pd触媒層、およびRh触媒層が順に積層された、各実施例およびその他の比較例の排ガス浄化触媒を得た。
【0042】
<中間層の厚み測定>
各実施例および各比較例の排ガス浄化触媒の断面を、電子プローブ微小分析器(EPMA)および走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、中間層の厚みを計測した。
【0043】
<中間層の比表面積測定>
各実施例および各比較例の排ガス浄化触媒から中間層を切り出して、または各実施例および各比較例の排ガス浄化触媒の中間層から粉末をかきとって、試料を作製した。この試料に対し、窒素ガスをパージガスとして用いたガスパージ法により、ガス流量25mL/分、加熱温度250℃、処理時間約23分の条件で前処理を施した。次いで、市販の全自動比表面積測定装置「Macsorb Model HM-1230」(マウンテック社製)を用いて、吸着質として窒素ガスを用いた流動法によるBET1点法により、このサンプルの比表面積を測定した。この測定において、使用ガスはN(30%)およびHe(70%)の混合ガスとし、吸着温度は液体窒素沸点温度とした。
【0044】
<高温耐久試験>
台上に設置したV型8気筒ガソリンエンジンの排気系に、各実施例および各比較例の排ガス浄化触媒を装着し、触媒床温1000℃で、所定のフューエルカットを含む条件で50時間の耐久試験を施した。
【0045】
<Pd移動度の評価>
耐久試験前後の各実施例および各比較例の排ガス浄化触媒の積層部を所定サイズに切り出し、樹脂に埋設後、断面を研磨した。断面にカーボンを蒸着し、この断面について、FE-EPMA装置「JXA-8530F」(JEOL製)を用いて分析を行った。
耐久試験前の触媒層に存在するPd量を100とした場合の、基材側に移動したPd量の割合を、Pd移動度(%)として求めた。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
図3に、比較例1の排ガス浄化用触媒の耐久試験前のFE-EPMAのPdマッピング結果を示す。図4に、比較例1の排ガス浄化用触媒の耐久試験後のFE-EPMAのPdマッピング結果を示す。図5に、実施例5の排ガス浄化用触媒の耐久試験後のFE-EPMAのPdマッピング結果を示す。
【0048】
図3図5は、基材の四角形のセルの角の部分におけるPdマッピング結果であり、このPdマッピング画像では、Pdが存在している部分が明るく表示される。基材の四角形のセルの角の部分においては、触媒層がL字状に形成されている。図3では、L字状に明るく表示されている領域が観察された。よって、耐久試験前においては、L字状の触媒層にPdが存在していることがわかる。図4では、L字状に明るく表示されている領域の左側および下側に、明るい領域が出現した。このことから、中間層がない比較例1においては、耐久試験後に、かなりの量のPdが触媒層から基材側へと移動していることがわかる。図5でも、L字状に明るく表示されている領域の左側および下側に、明るい領域が出現した。しかしながら、新たに出現した明るい領域の面積は、図4よりもはるかに小さい。このことから、中間層を設けることによって、Pdの触媒層から基材側への移動を顕著に抑制できていることがわかる。
【0049】
表1に示す結果に基づき、中間層の厚みと比表面積との積に対するPd移動度をプロットしたグラフを図6に示す。なお、図6では、比較例1および実施例3~5の結果はプロットしていない。
図6より、中間層の厚みと比表面積との積が大きくなると、Pd移動度が小さくなることがわかる。実験誤差の存在を考慮すると、Pdの移動を大きく抑制できているのは、中間層の厚みと比表面積との積が1100以上のときである。よって、以上の結果より、ここに開示される排ガス浄化用触媒によれば、高温耐久中の触媒層から基材への白金族金属の移動が抑制できることがわかる。
【0050】
図6の結果より、この積は、好ましくは1200以上であり、より好ましくは1500以上であり、さらに好ましくは2000以上であり、最も好ましくは2500以上であるといえる。
【0051】
また図6より、中間層の厚みが大きいほど、Pd移動度が小さくなることがわかる。図6の結果より、中間層の厚みは、中間層30の厚みは、20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましいといえる。
また図6より、中間層の比表面積が大きいほど、Pd移動度が小さくなることがわかる。図6の結果より、中間層の比表面積は、40m/g以上が好ましく、50m/g以上がより好ましく、70m/g以上がさらに好ましいといえる。
【0052】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0053】
10 排ガス浄化用触媒
11 基材
15 セル
16 隔壁
20 触媒層
30 中間層
40 電極
42 電極層
44 電極端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6