(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】複合型不織布およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/732 20120101AFI20240625BHJP
D04H 3/16 20060101ALI20240625BHJP
D04H 1/498 20120101ALI20240625BHJP
D04H 5/03 20120101ALI20240625BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20240625BHJP
B32B 5/06 20060101ALI20240625BHJP
A47K 7/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
D04H1/732
D04H3/16
D04H1/498
D04H5/03
B32B5/26
B32B5/06 Z
A47K7/00 E
A47K7/00 G
A47K7/00 J
(21)【出願番号】P 2019237959
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 創
(72)【発明者】
【氏名】大篭 幸治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 義雄
(72)【発明者】
【氏名】原田 明子
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0227138(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0175556(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0023839(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0026753(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0136772(US,A1)
【文献】特開平05-179545(JP,A)
【文献】特表2013-508572(JP,A)
【文献】特開2019-119963(JP,A)
【文献】特開2019-115388(JP,A)
【文献】特開2019-039116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
B32B 1/00-43/00
A47K 7/00ー 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアレイド方式で得られたパルプ繊維ウエブがスパンボンド不織布上に積層されて一体化されている複合型不織布であって、
前記パルプ繊維ウエブに紙力剤が添加されており、
前記紙力剤は、前記パルプ繊維ウエブの表層部側に偏在し、
前記複合型不織布の坪量が51.0g/m
2以上85.0g/m
2未満、厚さが0.28mm以上0.48mm未満、且つ、前記紙力剤の固形分で換算した添加量が前記パルプ繊維ウエブの固形重量に対して0.1~2.0%である、ことを特徴とする複合型不織布。
【請求項2】
点滴吸水度が0.5~4.0秒、保水量が220~380g/m
2、且つ、ウエットテーバー値が少なくとも5回である、ことを特徴とする請求項1に記載の複合型不織布。
【請求項3】
前記スパンボンド不織布の坪量が7.0~20.0g/m
2であり、
前記スパンボンド不織布は当該スパンボンド不織布を形成している樹脂繊維同士を接続する融着点を複数含んでおり、前記融着点1個の面積が0.10~0.50mm
2であり、前記融着点の単位面積当たりの面積率が7~20%、且つ単位面積当たりの個数が10~150個/cm
2である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の複合型不織布。
【請求項4】
前記スパンボンド不織布の材質は、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリスチレンよりなる群から選択された1種類、または選択された2種類以上の混合である、ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の複合型不織布。
【請求項5】
前記パルプ繊維ウエブの坪量が40.0~70.0g/m
2であり、
前記スパンボンド不織布と前記パルプ繊維ウエブとの重量構成比が40/60~10/90(wt%)である、ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の複合型不織布。
【請求項6】
前記パルプ繊維ウエブは、ラジアータパイン、スラッシュパイン、サザンパイン、ロッジポールパイン、スプルースおよびダグラスファーからなる群から選択された針葉樹晒クラフトパルプの繊維からなる、ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の複合型不織布。
【請求項7】
スパンボンド不織布上に、エアレイド方式で供給されるパルプ繊維ウエブを載置した後に水流交絡処理を施し、前記水流交絡処理の後に前記パルプ繊維ウエブに
前記パルプ繊維ウエブの表層部側から紙力剤を
スプレー塗布して、請求項1から6のいずれかに記載の複合型不織布を製造する、こと特徴とする複合型不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプ繊維ウエブとスパンボンド不織布とを水流交絡させることによって得られる複合型の不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプ繊維ウエブとスパンボンド不織布とによる複合型の不織布は、パルプ繊維に基づく吸液性とスパンボンド不織布に基づく強度との両方を具備してなるので、ウエスなどの工業用ワイパー、或いは手ぬぐい、タオルなどの対人用のワイパー等の様々な用途で広く使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1で開示するように、パルプ繊維ウエブとスパンボンド不織布とを重ねた後に、高圧のウォータジェット(水流)を吹き付ける水流交絡処理によって一体化されている。ここでスパンボンド不織布は強度に優れるので製造された複合型不織布の裏打ち層的な機能を果たす。一方、パルプ繊維ウエブは優れた吸液機能を備えている。よって、このような複合型不織布は、水性、油性のいずれの液体に対しても吸収性が良好なパルプ繊維ウエブと、強度に優れるスパンボンド不織布との利点を併有している優れた複合型不織布として消費者に提供することができる。
【0004】
ところで、複合型の不織布は使用した際に、パルプ繊維が容易に脱落しないように商品設計されているのが好ましい。複合型不織布は乾いた状態、或いは濡れた状態のいずれでもワイパー等として使用される。使用された際に、パルプ繊維の脱落が目立つと商品価値が低下してしまう。
ところで、従来にあって、湿式抄紙法によるシート製造技術を流用して、パルプ繊維を含む不織布を製造する際に、パルプ繊維に紙力剤を予め十分に添加して製造することが知られている(例えば、特許文献2、3)。このように製造されたパルプ繊維ウエブでは、構成している繊維の状態が安定化されるので繊維の脱落を抑止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2533260号公報
【文献】特開2012-211412号公報
【文献】特表2018-535126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パルプ繊維ウエブとスパンボンド不織布とによる複合型不織布に用いるパルプ繊維ウエブについて、従来の湿式抄紙法で紙力剤が添加してあるパルプ繊維ウエブを用いることが容易に着想される。
しかしながら、エアレイド方式を採用した場合と比較して、湿式抄紙法によってパルプ繊維ウエブを製造すると製造設備が大型化するので製造コストが増加し、しかも抄紙工程では白水中を循環する異物を完全に除去することができないので、製造される複合型不織布にも異物が混入し易いという問題がある。
【0007】
よって、本発明の主な目的は、エアレイド方式で得られたパルプ繊維ウエブを用いても、パルプ繊維の脱落を抑止することができる、異物の混入が少なく使用感の良好な複合型不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、エアレイド方式で得られたパルプ繊維ウエブがスパンボンド不織布上に積層されて一体化されている複合型不織布であって、前記パルプ繊維ウエブに紙力剤が添加されており、前記複合型不織布の坪量が51.0g/m2以上85.0g/m2未満、、厚さが0.28mm以上0.48mm未満、且つ、前記紙力剤の固形分で換算した添加量が前記パルプ繊維ウエブの固形重量に対して0.1~2.0%である、ことを特徴とする複合型不織布により達成できる。
【0009】
そして、前記紙力剤は、前記パルプ繊維ウエブの表層部側に多くなるように偏在している状態であるのが好ましい。
【0010】
また、点滴吸水度が0.5~4.0秒、保水量が220~380g/m2、且つ、ウエットテーバー値が少なくとも5回であるのが好ましい。
【0011】
また、前記スパンボンド不織布の坪量が7.0~20.0g/m2であり、前記スパンボンド不織布は当該スパンボンド不織布を形成している樹脂繊維同士を接続する融着点を複数含んでおり、前記融着点1個の面積が0.10~0.50mm2であり、前記融着点の単位面積当たりの面積率が7~20%、且つ単位面積当たりの個数が10~150個/cm2であるのが好ましい。
【0012】
また、前記スパンボンド不織布の材質は、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリスチレンよりなる群から選択された1種類、または選択された2種類以上の混合とすることができる。
【0013】
前記パルプ繊維ウエブの坪量が40.0~70.0g/m2であり、前記スパンボンド不織布と前記パルプ繊維ウエブとの重量構成比が40/60~10/90(wt%)とするのが好ましい。
【0014】
前記パルプ繊維ウエブは、ラジアータパイン、スラッシュパイン、サザンパイン、ロッジポールパイン、スプルースおよびダグラスファーからなる群から選択された針葉樹晒クラフトパルプの繊維からなるものとするのが好ましい。
【0015】
上記の目的は、スパンボンド不織布上に、エアレイド方式で供給されるパルプ繊維ウエブを載置した後に水流交絡処理を施し、前記水流交絡処理の後に前記パルプ繊維ウエブに紙力剤を添加して、上記したいずれかの複合型不織布を製造する製造方法によっても、達成できる。
前記紙力剤の添加はスプレー塗布とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、エアレイド方式で得られたパルプ繊維ウエブを用いても、パルプ繊維の脱落を抑止することができる、異物の混入が少なく使用感の良好な複合型不織布を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(a)は本発明に係る複合型不織布WPの断面構成について示した図であり、(b)は湿式抄紙法によるシート製造技術を流用して製造したパルプ繊維ウエブを用いた複合型不織布の断面構成について示した図である。
【
図2】本発明に係る複合型不織布を製造するのに好適な装置について示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る複合型不織布について説明する。
図1(a)は本発明に係る複合型不織布WPの断面構成を模式的に示した図である。
複合型不織布WPは、スパンボンド不織布SWの上にパルプ繊維ウエブPFWが積層されて一体化された構造である。この構造は、後述するように水流交絡処理により形成することができる。
【0019】
複合型不織布WPは、坪量が51.0g/m2以上85.0g/m2未満、厚さが0.28mm以上0.48mm未満である。この複合型不織布WPは従来一般的な複合型不織布と比較して相対的に低坪量で、薄めの不織布として設計されている。このような低坪量の複合型不織布WPは、家庭や、食品工場などで使用される様々な粘性を有する液体の拭き取りの用途に最適であり、拭き心地が良く、相対的に弱い力であっても綺麗に拭き取れるなどのメリットがある。
【0020】
上側のパルプ繊維ウエブPFWは、エアレイド方式により得られたものである。エアレイド方式でパルプ繊維ウエブPFWを供給すると、湿式抄紙法を流用して製造する場合と比較して、製造コストを抑制でき、また異物の混入を防止できる。
その一方で、前述したように、エアレイド方式で提供されたパルプ繊維ウエブは繊維の脱落が懸念されるが、本発明者等はパルプ繊維ウエブに紙力剤を添加することによって繊維の脱落を効果的に防止できることを確認して本発明に至ったものである。
紙力剤としては、いわゆる湿潤紙力剤を用いることが望ましく、例えばポリアミドエピクロロヒドリン系、ポリアミドエポキシ系、ポリアミドポリアミン系などを好適に用いることができる。紙力剤の固形分で換算した添加量は前記パルプ繊維ウエブの固形重量に対して好ましくは0.1~2.0%であり、より好ましくは0.3~1.5%である。
添加量を上記範囲とすることによりパルプ繊維の脱落が抑制できかつ、複合型不織布を柔らかい拭き心地で使用することができる(紙力剤の添加量が多すぎると固くなり使用感が劣る)。なお、紙力剤の添加量は、微量窒素計を用いて測定することができる。
また、製品となった複合型不織布内のパルプ繊維への紙力剤の添加量は例えば以下のステップで確認可能である。
1)パルプの固形分重量:製品にセルラーゼ等を作用させ、パルプを溶解して除去する。
製品の重量から残った不織布の重量を差し引き、パルプの重量を確認する。
2)紙力剤の添加量:パルプ部分を「微量窒素計」で測定することにより、紙力剤の添加量を確認する。
3)上記1)、2)から、パルプ繊維ウエブの固形重量に対する紙力剤の固形分で換算した添加量を確認する。
【0021】
図1(b)は、
図1(a)に示した本発明に係る複合型不織布WPと比較のため、湿式抄紙法によるシート製造技術を流用して得たパルプ繊維ウエブを用いた場合の複合型不織布について模式的に示した図である。
図1(b)の複合型不織布は、パルプ繊維ウエブの全体に紙力剤SAが添加されている状態で繊維脱落が抑止されている。しかし、前述したように異物混入の問題がある。
これに対して、
図1(a)に示した本発明に係る複合型不織布WPはエアレイド方式で得られたパルプ繊維ウエブPFWに紙力剤SAを添加することによって繊維脱落の抑止と異物混入の防止を同時に実現できる。
【0022】
図1(a)の本発明に係る複合型不織布WPでは、パルプ繊維ウエブPFW側から液状の紙力剤SAが塗布されて製造されている。これにより、パルプ繊維ウエブPFWの表面部側に紙力剤SAがより多く存在する状態、すなわち
図1(a)で示すようにパルプ繊維ウエブPFWの表面部側に紙力剤SAが偏在している状態となっている。
図1(b)の状態よりも、
図1(a)の状態は相対的に少ない紙力剤の使用で繊維脱落を抑止している。
よって、本発明に係る複合型不織布WPは紙力剤SAを効率良く使用するので、この点でも製造コストを抑えることができる。
【0023】
上記複合型不織布WPは、点滴吸水度が0.5~4.0秒、保水量(T.W.A:Total Water Absorbency)が220~380g/m2であるのが好ましく、またテーバー試験によるウエットテーバー値は少なくとも5回であり、5回以上であるのが好ましい。
上記の条件範囲にある複合型不織布WPであれば、ワイパー等の製品に要求される保水性や耐久性を満足することができる。
【0024】
また、本発明の複合型不織布WPに含まれるスパンボンド不織布SWの坪量は7.0~20.0g/m2であるのが好ましい。また、スパンボンド不織布SWは当該スパンボンド不織布を形成している樹脂繊維同士を接続する融着点を複数含んでおり、この融着点1個の面積が0.10~0.50mm2であり、この融着点の単位面積当たりの面積率が7~20%、且つ単位面積当たりの個数が10~150個/cm2であるのが望ましい。このような条件を満たすスパンボンド不織布SWは、複合型不織布WPの形状を安定して保持できる。なお、上記融着点の形状について限定はないが、例えば円形、楕円形、多角形等を採用することができる。
上記の条件範囲にあるスパンボンド不織布を用いて作成した複合型不織布WPであれば、強度が適度に柔らかく使用感に優れるものとなる。
【0025】
上記スパンボンド不織布SWの材質は、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリスチレンよりなる群から選択された1種類、または選択された2種類以上の混合としてもよい。ポリプロピレンを用いることが、好ましい。
【0026】
また、上記パルプ繊維ウエブPFWの坪量は40.0~70.0g/m2とするのが好ましく、スパンボンド不織布SWとパルプ繊維ウエブPFWとの重量構成比が40/60~10/90(wt%)となるように設計するのが望ましい。
なお、パルプ繊維ウエブPFWは、ラジアータパイン、スラッシュパイン、サザンパイン、ロッジポールパイン、スプルースおよびダグラスファーからなら群から選択された針葉樹晒クラフトパルプの繊維から構成されているのが好ましい。
以上の条件を満たすように形成された本発明に係る複合型不織布は、エアレイド方式で得たパルプ繊維ウエブを用いてもパルプ繊維の脱落を抑止できると共に、異物混入の防止や製造コストの低減も期待することができる。
【0027】
以下、本発明の複合型不織布を製造するのに好適な製造装置を、
図2を参照して説明する。
先ず、複合型不織布の製造装置1の概略構成を説明する。
図2に示す製造装置1は、上流側にパルプ繊維ウエブを供給するためのエアレイド装置2、スパンボンド不織布を供給するスパンボンド不織布供給装置3、そしてサクション装置4が配設されている。サクション装置4はエアレイド装置2の下側に対向するように配置されている。
ウエブの搬送方向TDで、これらの装置2、3、4より下流には、上流側から順に、水流交絡処理を行うためのウォータジェットを噴射する水流交絡装置5、脱水処理を行うためのサクション装置6、乾燥装置7が配置されている。上記乾燥装置7の下流には連続して製造される複合型不織布WPを巻き取るための巻取装置8が設けてある。
【0028】
上記エアレイド装置2は、繊維同士が密集しシート状となっている原料パルプRPをパルプ繊維に解繊する解繊機21や、図示しない送風機を備えて解繊されたパルプ繊維PFをエアレイドホッパ23へと搬送するダクト22を有している。
【0029】
また、上記ダクト22よりも下流側にはエアレイドホッパ23が配置されている。このエアレイドホッパ23の内部では、解繊状態にあるパルプ繊維が分散しながら降下し、下面に設定した積層位置24に徐々に積み上りパルプ繊維ウエブPFWが形成されるように設計してある。
上記のように、エアレイド装置2は乾式でパルプ繊維ウエブを供給できる装置設備であり、湿式抄紙法を応用し湿式でパルプ繊維ウエブを製造する装置よりも設備コストを抑制できる。また、エアレイド装置2ではパルプの解繊から分散、降下まで閉鎖系空間となっており異物の混入が防止されているので、湿式抄紙法でパルプ繊維ウエブを供給する場合と比較して、異物の混入を圧倒的に低く抑えることができる。
【0030】
上記積層位置24の下側にはサクション装置4が対向配備してある。より詳細には、サクション装置4は装置本体41の上面にサクション部42を有しており、サクション部42が上記パルプ繊維ウエブPFWに吸引力(負圧)を作用させるべく積層位置24に対して設定してある。
なお、
図2では、エアレイドホッパ23とサクション装置本体41とを1つずつ一段での配置として、パルプ繊維ウエブPFWを形成する場合を例示している。しかし、これに限らず、上記パルプ繊維ウエブPFWの目付(坪量)や製造速度に応じて、上記エアレイドホッパ23とサクション装置本体41を2つ以上の多段とする配置に変更してもよい。
【0031】
また、サクション装置4の周囲にはウエブ搬送用の搬送ワイヤ43が配設してある。搬送ワイヤ43は、積層位置24においてパルプ繊維PFが堆積したパルプ繊維ウエブPFWが載置可能で、これを下流側に搬送するように配置されている。ただし、パルプ繊維ウエブPFWは直接、搬送ワイヤ43上に載置されない。これについては、後述の説明で明らかとなる。
搬送ワイヤ43はサクション部42の吸引力が、反対側(上側)に及ぶような目開き形態(メッシュ)で形成されている。
【0032】
上記エアレイド装置2の下側で、サクション装置4よりも上流側に、スパンボンド不織布供給装置3が配置してある。このスパンボンド不織布供給装置3には、予め準備されたスパンボンド不織布SWがロール状とされてセットされている。すなわち、前述したように、設計されたスパンボンド不織布SWが製造に伴って巻き取られてロール状とされており、これがスパンボンド不織布供給装置3から引出され、上述した搬送ワイヤ43に乗って上記積層位置24へと搬送されるようになっている。
【0033】
積層位置24に位置した、スパンボンド不織布SWの上に、前述したパルプ繊維ウエブPFWが載置される。その際に、積層位置24ではサクション装置4のサクション部42による吸引力が搬送ワイヤ43を通過し、その上のスパンボンド不織布SWおよびパルプ繊維ウエブPFWに作用する。よって、スパンボンド不織布SWとパルプ繊維ウエブPFWとが積層された状態となっている予備的積層体PWeb(積層ウエブ)が下流側へと搬送される。
上記のように予備的積層体PWebが形成されるときに、スパンボンド不織布SW上へのパルプ繊維ウエブPFWの供給量を制御することで、本装置で製造される複合型不織布に含まれるパルプ繊維ウエブPFWの坪量は例えば40.0~70.0g/m2とされて、従来の一般的な複合型不織布よりもパルプ繊維ウエブの比率が高くなるように設計するのが望ましい。そして、スパンボンド不織布SWの坪量は例えば7.0~20.0g/m2であり、製造される複合型不織布(スパンボンド不織布SW+パルプ繊維ウエブPFW)は51.0g/m2以上85.0g/m2未満とする。パルプ繊維ウエブの搬送速度やパルプ繊維ウエブPFWの時間当たりの供給量などを適宜に調整し、製造された複合型不織布のパルプ繊維ウエブPFWの坪量を確認することで、坪量が所望の範囲となるように設定すればよい。パルプ繊維ウエブの搬送速度は例えば150~300m/minとするのが好ましい。
【0034】
上記した予備的積層体PWebは、サクション装置4の吸引力によって、吸引圧縮されたことにより積層状態が維持されている。このとき上側のパルプ繊維ウエブPFWの繊維が密にされた状態ではある。しかし、このまま予備的積層体PWebを下流側の水流交絡装置5内に搬送投入すると、ウォータジェット(高圧の水流)によってパルプ繊維PFの一部が舞い上がるおそれがある。
そこで、本製造装置1では、予備的積層体PWebを上下から挟んでスパンボンド不織布SW上でのパルプ繊維ウエブPFWの載置状態を安定化させる為の挟持ローラ28、そして水流交絡装置5の上流側に繊維飛散防止用に水分を付与するプレウエット装置30が配備してある。プレウエット装置30は、好適には、予備的積層体PWebの上方からウォータミストを吹き付ける噴霧ノズル31と予備的積層体PWebの下側(すなわち、パルプ繊維ウエブPFWの下面)から吸引力を印加するサクション装置32とを含んで構成されている。
【0035】
なお、
図2では、上記のように水流交絡装置5前にプレウエット装置30を新たな装置として設ける場合を例示しているが、これに限らない。水流交絡装置5に含まれる後述するウォータジェットヘッド51とサクション装置52とからなるセットの複数について、先頭に位置するセットを上記プレウエット装置30として流用するような設計変更をしてもよい。この場合には先頭のウォータジェットヘッド51から低圧のウォータミストが噴霧されるように調整すればよい。
水流交絡処理を行うのに十分な、ウォータジェットヘッド51とサクション装置52とのセット数が確保されている水流交絡装置5の場合、上記のように先頭のウォータジェットヘッド51とサクション装置52をプレウエット装置として活用することは、装置設備コストの抑制に効果的である。
【0036】
そして、水流交絡装置5では、前処理部となる挟持ローラ28およびプレウエット装置30の処理を受けた予備的積層体PWebに高圧のウォータジェットを吹き付けることによりパルプ繊維同士の交絡を促進する。これにより上側に位置するパルプ繊維ウエブPFW層と下側に位置するスパンボンド不織布SW層との一体化が促進される(水流交絡処理)。
図2で例示的に示している水流交絡装置5は、搬送方向TDに沿って多段(
図2では例示しているのは4段)にウォータジェットヘッド51が配置されている。
なお、
図2では、搬送方向TDに対して直角な方向(ウエブの幅方向CD)において延在しているウォータジェットヘッド51に設けたノズルの様子は図示していないが、幅方向において複数のウォータジェットノズルが適宜の位置に配置してある。このウォータジェットノズルの穴直径φは、好ましくは0.06~0.15mmである。また、ウォータジェットノズルの間隔は0.4~1.0mmとするのが好ましい。
【0037】
上記水流交絡処理をする際の水圧は、パルプ繊維ウエブPFWとスパンボンド不織布SWとの坪量を勘案して設定するのが望ましい。例えば、1~30MPaの範囲において選択するのが好ましい。
【0038】
そして、上記ウォータジェットヘッド51と対向するように、サクション装置52が配設してある。ウォータジェットヘッド51から出る高圧のウォータジェットを上側に位置しているパルプ繊維ウエブPFWに吹き付けつつ、下側に位置しているスパンボンド不織布SWの下側にサクション装置52の吸引力を作用させる。ウォータジェットヘッド51とサクション装置52との協働作用によって、パルプ繊維ウエブPFW側のパルプ繊維が下側のスパンボンド不織布SWに入り込んだ状態や、スパンボンド不織布SWを貫通して反対側にまで至った状態などが形成されると推定される。その作用により2つの層の一体
化が促進される。
【0039】
水流交絡装置5にも、搬送ワイヤ55が配設してある。搬送ワイヤ55は前処理部28、30の下流で予備的積層体PWebを受けて、水流交絡装置5内へと搬送する。搬送ワイヤ55は水流交絡装置5のウォータジェットヘッド51とサクション装置52との間を、上流側から下流に向かって通過するように配設されている。
よって、搬送ワイヤ55上を搬送される予備的積層体PWebは、搬送方向TDで下流に向かう程に、より多くの水流交絡処理を受けることになり、水流交絡装置5を出るときには上側のパルプ繊維ウエブPFW層と下側のスパンボンド不織布SW層との十分な交絡処理が実現される。
水流交絡装置5を出た直後の複合型不織布にあっては、ウエット状態にあり、パルプ繊維同士などの結合は十分に確立されてはいない。
【0040】
そこで、
図2で示すように、水流交絡装置5の下流側にはパルプ繊維ウエブに残留する水分を吸引除去する脱水処理、その後に乾燥処理を行って、複合型不織布WPの製造を完了するためのサクション装置6および乾燥装置7が配備してある。このように複合型不織布WPの製造の後段で、サクション装置6および乾燥装置7による脱水処理、乾燥処理を行うと効率よく複合型不織布を製造でき、また、製造される水流交絡後の複合型不織布に大きな外圧を掛けることなく乾燥した複合型不織布を製造できる。
ここで、本発明の複合型不織布WPはパルプ繊維ウエブPFWから離脱するパルプ繊維を抑止できるように設計されている。そのために、本製造装置1には紙力剤を添加するための紙力剤添加装置9が配置されている。
【0041】
上記サクション装置6は、例えばバキューム式で水流交絡後の複合型不織布を下側から脱水する。搬送される複合型不織布WPを間にして、サクション装置6の上方には、紙力剤添加装置9が配設されている。
紙力剤添加装置9は、水流交絡装置5で複合化された後の複合型不織布WPの上側、すなわちパルプ繊維ウエブPWF側から紙力剤をスプレー塗布する。複合化が完了した複合型不織布のパルプ繊維ウエブ表面側から紙力剤を塗布するので、紙力剤はパルプ繊維ウエブPWFの表層部側に多くなるように偏在する。よって、全体に塗布または含浸する場合と比較し相対的に少ない紙力剤が効率的に作用してパルプ繊維同士を接続する機能を果たす。紙力剤添加装置9より下流では乾燥処理されるので、スプレー塗布された紙力剤が洗い流されて流出するなどの無駄もない。
下側にはサクション装置があるので、スプレーされて噴霧液状となった紙力剤がパルプ繊維ウエブ内に浸透するのに優位であり、これによってパルプ繊維の脱落を更に確実に抑止することができる。なお、紙力剤添加装置9については、製造される複合型不織布WPの状態を確認して、紙力剤の量をコントロールすることも容易に行える。
【0042】
なお、上記紙力剤添加装置9で紙力剤がスプレー塗布される際のパルプ繊維ウエブPWF部分の水分(紙力剤添加装置9に進入する直前の入口水分%)は例えば120~400%となるように調整しておくのが好ましい。走行するパルプ繊維ウエブが上記範囲の適正な水分を持つことで、スプレー塗布の際の紙力剤の飛び散り等が抑制され紙力剤の歩留まりが上がると共に、紙力剤がパルプ繊維ウエブになじみ易くなり、繊維脱落抑止の効果がより大きく発揮できる。
また、紙力剤のスプレー塗布後、10秒以内に脱水処理しておくのが好ましい。すなわち、上記
図2により説明したように紙力剤をスプレー塗布した直下で脱水してもよいし、スプレー塗布から少し離れた位置(搬送時間10秒以内の位置)で脱水処理してもよい。要するに、紙力剤をスプレー塗布した際のパルプ繊維ウエブPWF内部への薬液の浸透拡散状態を確認して、最適な時間(ただし、スプレー塗布後10秒以内)を適宜に決定すればよい。紙力剤のスプレー塗布と同時、もしくはスプレー塗布後10秒以内に脱水工程を経ることで、紙力剤の成分がパルプ繊維ウエブの内部にまで浸透し易くなり、繊維脱落抑止の効果がより大きく発揮できる。
なお、上記では紙力剤をパルプ繊維ウエブPWFに添加する形態としてスプレー塗布する場合について説明したが、これに限らず添加する形態としてサイズプレス、ロールコーティング、グラビアコーティング、ロッドバーコーティング、エアナイフコーティング等を採用してもよい。
【0043】
前記パルプ繊維ウエブPWFにおける紙力剤の固形分で換算した添加量が、パルプ繊維ウエブPWFの固形重量に対して0.1~2.0%となるように添加するのが好ましく、より好ましくは、パルプ繊維ウエブPWFの固形重量に対して0.3~1.5%となるように添加する。紙力剤の添加量が少なすぎると繊維脱落抑止の効果が低下し、逆に多すぎると繊維の脱落は抑止できるものの使用感(柔らかさ)が悪くなってしまう。
また、前記紙力剤は好ましくは濃度0.5~2.0%、より好ましくは、0.7~1.5%とし、好ましくは吐出圧力0.1~1.0Mpa、より好ましくは、0.3~0.8Mpaとしてパルプ繊維ウエブPWFにスプレー塗布する。圧力が低いと、搬送されているパルプ繊維ウエブによって起こされる風により紙力剤が飛び散ってしまい、歩留りが低下する。一方で、圧力が高過ぎると、搬送されているパルプ繊維ウエブの紙面で跳ね返りが発生して、この場合も歩留りが悪化する。
そして、上記紙力剤としては、例えばポリアミドエピクロロヒドリン系、ポリアミドエポキシ系、ポリアミドポリアミン系などから少なくとも1つを選択して用いることできる。ポリアミドエピクロロヒドリン系のものを用いるのが好ましく、例えば星光PMC社製の湿潤紙力剤WS4030、WS4038、WS4027等を用いることができる。ポリアミドエピクロロヒドリン系の紙力剤を用いることで、繊維脱落抑止の効果が好適に得られると共に、複合型不織布の使用感が良いものとなる。
【0044】
そして、上記サクション装置6及び紙力剤添加装置9の下流には、更に乾燥装置7が設置されており、紙力剤がスプレー塗布されたパルプ繊維ウエブPWFを備える複合型不織布WPが乾燥処理される。ここでの乾燥装置7は非圧縮型のドライヤ、好適にエアスルードライヤを採用することが好ましい。
図2で、エアスルードライヤの回転可能なドライヤ本体71は筒状体であり、その周表面には多数の貫通孔が設けてあり、図示しない熱源で加熱された熱風がドライヤ本体の外周から中心部側に向かって吸い込む構成とするのがよい。
このように連続的に製造される複合型不織布WPは乾燥後に巻取装置8のロール81に巻取られる。
【0045】
以上で説明した複合型不織布の製造装置1によると、エアレイド方式によるパルプ繊維ウエブを用いる場合でも、繊維脱落が少ない複合型不織布を製造することができる。また、使用する紙力剤の歩留まりを従来よりも上げることができ、紙力剤を効率的に使用して製造コストを抑制できる。また、複合型不織布WPへの異物の混入も抑制できる。
【0046】
(実施例)
以下、上記製造装置で製造した実施例の複合型不織布について説明する。
複合型不織布について坪量、厚さ、点滴吸水度、保水量(T.W.A)、ウエットテーバー値(回数)、紙力剤の添加量を特定し、またスパンボンド不織布SWについて坪量、融着点の面積、面積率、個数および材質を特定し、更に、パルプ繊維ウエブPFWについて坪量を特定すると共に、スパンボンド不織布SWとパルプ繊維ウエブPFWとの重量構成を特定した。
なお、点滴吸水度は紙パルプ技術協会 J.TAPPI No.32-2:2000(紙-吸水試験方法-第2部:滴下法)に準じて測定した。また、ウエットテーバー値は、JIS L 1096に規定の織物及び編物の生地試験方法に記載のテーバー形法に準拠したテーバー試験機で摩擦輪H-18を用い、湿潤状態の不織布を試験したときの値(回数)を用いた。
下記の表1に示すように実施例1~3の複合型不織布、およびその比較例1~3について製造して、複合型不織布の脱落繊維の少なさ(脱落繊維の抑止性)、異物混入および使用感(柔らかさ)について使用時の官能評価をした。また、紙力剤はエアレイド方式および湿式抄紙法の場合共に、星光PMC社製WS4030(ポリアミドエピクロロヒドリン系)を使用した。なお、いずれの複合型不織布もパルプ繊維ウエブについてはサザンパインを用いている。
1)脱落繊維の少なさ:複合型不織布使用時の脱落繊維
脱落繊維がほぼ見られない(優◎)
脱落繊維がややみられるものの、問題なく使用できるレベル(良○)
脱落繊維が多く使い難い(不可×)
2)異物混入:複合型不織布表面の異物
1m×1mの範囲で異物が全く見られない(良○)
1m×1mの範囲で1mm2以上の白色以外の色の異物が1個以上認められる(不可×)
3)使用感(柔らかさ):複合型不織布をワイプ用途で使用した際の使用感、柔らかさ
柔らかく使用感良好(優◎)
少し硬く感じるが問題なく使用できる(良○)
硬く使用感が劣る(不可×)
【0047】
【0048】
上記表1に示すように、実施例1~3は製品として提供できるものであるが、比較例1~3では、繊維脱落の抑止性、異物混入、使用感の官能評価のいずれかで不可であった。
上記実施例1~3は、いずれも坪量が51.0g/m2以上85.0g/m2未満、厚さが0.28mm以上0.48mm未満、且つ、前記紙力剤の固形分で換算した添加量が前記パルプ繊維ウエブの固形重量に対して0.1~2.0%の範囲内にある。
【0049】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0050】
1 複合型不織布の製造装置
2 エアレイド装置
3 スパンボンド不織布供給装置
4 サクション装置
5 水流交絡装置
6 サクション装置
7 乾燥装置
8 巻取装置
9 紙力剤添加装置
21 解繊機
22 ダクト
23 エアレイドホッパ
24 積層位置
28 挟持ローラ
30 プレウエット装置
31 噴霧ノズル
32 サクション装置
41 サクション装置本体
42 サクション部
43 搬送ワイヤ
51 ウォータジェットヘッド
52 サクション装置
55 搬送ワイヤ
SW スパンボンド不織布
PF パルプ繊維
PFW パルプ繊維ウエブ
PWeb 予備的積層体(積層ウエブ)
WP 複合型不織布
TD 搬送方向
CD 幅方向
SA 紙力剤