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特許7509541紫外線波長変換物質及び有機系油相増粘剤を含有する乳化組成物
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  • 特許-紫外線波長変換物質及び有機系油相増粘剤を含有する乳化組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】紫外線波長変換物質及び有機系油相増粘剤を含有する乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/409 20060101AFI20240625BHJP
   A61K 31/07 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 31/51 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 31/525 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 31/4415 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 31/714 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 33/30 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 33/08 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240625BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240625BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 8/27 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 8/29 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 8/88 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240625BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240625BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20240625BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
A61K31/409
A61K31/07
A61K31/122
A61K31/51
A61K31/525
A61K31/4415
A61K31/714
A61K31/519
A61K33/30
A61K33/08
A61K9/107
A61K47/14
A61K47/26
A61K47/34
A61K47/36
A61K8/06
A61K8/27
A61K8/29
A61K8/36
A61K8/37
A61K8/49
A61K8/64
A61K8/67
A61K8/73
A61K8/88
A61K45/00
A61P43/00 107
A61Q17/04
A61Q19/08
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019239777
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021107368
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-10-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 稜哉
(72)【発明者】
【氏名】長井 宏一
【審査官】平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/068300(WO,A1)
【文献】特開2016-069325(JP,A)
【文献】特開平05-117127(JP,A)
【文献】特開2019-108303(JP,A)
【文献】特開2019-178126(JP,A)
【文献】特開昭62-000408(JP,A)
【文献】特開2009-209093(JP,A)
【文献】特開2017-036277(JP,A)
【文献】特開平03-284613(JP,A)
【文献】特開2018-076308(JP,A)
【文献】堺化学工業株式会社,「美肌色」に発光する無機蛍光材料 Lumate(ルーメイト),FRAGRANCE JOURNAL(2018),Vol.46,No.8,p.66-67
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00~ 8/99
31/00~33/44
41/00~41/47
45/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)紫外線波長変換物質及び(B)有機系油相増粘剤を含み、
前記(A)紫外線波長変換物質が、フィコビリ蛋白、ビタミンA、ビタミンK、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、酸化亜鉛蛍光体、及びチタン酸マグネシウム蛍光体からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、
前記(B)有機系油相増粘剤が、ショ糖トリ酢酸テトラステアリン酸エステル、パルミチン酸デキストリン、パルミチン酸、(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリル、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド、及びポリアミド-8からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、
乳化組成物。
【請求項2】
前記(A)紫外線波長変換物質の配合量が0.1~10質量%である、請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項3】
前記(A)紫外線波長変換物質と(B)有機系油相増粘剤の質量での配合比率[(A)/(B)]が0.3~50である、請求項1又は2に記載の乳化組成物。
【請求項4】
前記(A)紫外線波長変換物質が、酸化亜鉛蛍光体及びチタン酸マグネシウム蛍光体からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項5】
前記(A)紫外線波長変換物質が、フィコシアニンを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項6】
前記(A)紫外線波長変換物質が、フィコビリ蛋白、ビタミンA、ビタミンK、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、及び酸からなる群から選ばれる少なくとも一種と、酸化亜鉛蛍光体、及びチタン酸マグネシウム蛍光体からなる群から選ばれる少なくとも一種と、を含む、請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項7】
さらに(C)紫外線吸収剤を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項8】
さらに(D)紫外線散乱剤を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項9】
さらに(E)分散剤を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項10】
前記(E)分散剤が、PEG-10ジメチコン、ビスブチルジメチコンポリグリセリル-3、PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、ラウリルPEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、セチルPEG/PPG-10/ジメチコン、イソステアリン酸、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-2、カルボキシデシルトリシロキサン、PEG-12ジメチコン及びモノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンからなる群から選ばれる1又は複数種である、請求項9に記載の乳化組成物。
【請求項11】
乳化化粧料である、請求項1~10のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項12】
日焼け止め化粧料である、請求項1~11のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項13】
蛍光強度増大効果を示す、請求項1~12のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項14】
細胞賦活効果を示す、請求項1~13のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,細胞賦活作用を有する、紫外線波長変換物質及び有機系油相増粘剤を含有する乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線は体内にフリーラジカルを生成することにより、皮脂の酸化や細胞DNAの傷害を引き起こすとされている。紫外線のこのような作用による皮膚に対する弊害としては,例えば,皮膚癌,光老化,しみ,しわ,炎症といった悪影響があり,健康や美容の観点からも好ましくない。紫外線の利用としては殺菌効果を目的とするもの等が存在するものの,紫外線による弊害とのバランスを考えると,紫外線を積極的に利用するよりもむしろ防御することに焦点が当てられているのが現状である。
【0003】
よって,紫外線から肌を防御するための方策が数多く取られている。例えば,日焼け止め剤の使用や,日光に当たらないような屋内での活動,UVカット加工された帽子や衣類,紫外線カットフィルムの使用などが挙げられる。
【0004】
例えば特許文献11の実施例1には蛍光性酸化亜鉛を含む蛍光化粧料の記載があるが、細胞賦活効果を奏するための紫外線波長変換物質の記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6424656号公報
【文献】特許第6361416号公報
【文献】国際公開第2018/004006号
【文献】特開2018-131422号公報
【文献】特開平5-117127号公報
【文献】特許第4048420号公報
【文献】特許第4677250号公報
【文献】特許第3303942号公報
【文献】特開2017-88719号公報
【文献】国際公開第2018/117117号
【文献】特開平3-284613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は,紫外線を利用した細胞賦活作用を有する新規な乳化組成物の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは,紫外線を皮膚に対し有用に利用できるよう鋭意研究を行った。その結果,細胞賦活作用に優れた、紫外線波長変換物質を含有する乳化組成物に想到した。
【0008】
本願は,以下の発明を提供する。
(1)(A)紫外線波長変換物質及び(B)有機系油相増粘剤を含む乳化組成物。
(2)前記(A)紫外線波長変換物質の配合量が0.1~10質量%である、(1)に記載の乳化組成物。
(3)前記(A)紫外線波長変換物質と(B)有機系油相増粘剤の配合比率[(A)/(B)]が0.3~50である、(2)又は(3)に記載の乳化組成物。
(4)前記(B)有機系油相増粘剤がデキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリル脂肪酸エステル、脂肪酸もしくはその塩、及びポリアミドからなる群から選ばれる1又は複数種である、(1)~(3)のいずれか1項に記載の乳化組成物。
(5)前記(A)紫外線波長変換物質が無機紫外線波長変換物質である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の乳化組成物。
(6)前記無機紫外線波長変換物質が酸化亜鉛である、(5)に記載の乳化組成物。
(7)前記(A)紫外線波長変換物質が有機蛍光体である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の乳化組成物。
(8)前記有機紫外線波長変換物質がフィコシアニンである、(7)に記載の乳化組成物。
(9)前記(A)紫外線波長変換物質として無機紫外線波長変換物質と有機紫外線波長変換物質の双方が含まれる、(1)~(4)のいずれか1項に記載の乳化組成物。
(10)さらに(C)紫外線吸収剤を含む、(1)~(9)のいずれか1項に記載の乳化組成物。
(11)さらに(D)紫外線散乱剤を含む、(1)~(10)のいずれか1項に記載の乳化組成物。
(12)さらに(E)分散剤を含む、(1)~(11)のいずれか1項に記載の乳化組成物。
(13)前記(E)分散剤が、PEG-10ジメチコン、ビスブチルジメチコンポリグリセリル-3、PEG-ポリジメチルポリシロキサンエチルジメチコン、ラウリルPEG-ポリジメチルポリシロキサンエチルジメチコン、セチルPEG/PPG-10/ジメチコン、イソステアリン酸、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-2、カルボキシデシルトリシロキサン、PEG-12ジメチコン及びモノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンからなる群から選ばれる1又は複数種である、(12)に記載の乳化組成物。
(14)乳化化粧料である、(1)~(13)のいずれか1項に記載の乳化組成物。
(15)日焼け止め化粧料である、(1)~(14)のいずれか1項に記載の乳化組成物。
(16)蛍光強度増大効果を示す、(1)~(15)のいずれか1項に記載の乳化組成物。
(17)細胞賦活効果を示す、(1)~(16)のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る紫外線波長変換物質は,紫外線を有効活用して皮膚細胞を賦活させることに適しており,本発明の乳化組成物の成分組成は紫外線波長変換物質が紫外線を可視光に変換するために適している。従来,紫外線は皮膚に好ましくないため,皮膚をなるべく紫外線に当てないような対策を採るのが当分野の技術常識である。一方,本発明は紫外線波長変換物質が紫外線を逆に利用して細胞を賦活することにより、皮膚に好ましい作用を与えるという知見に基づいており,非常に驚くべきものである。従って,本発明に係る乳化組成物は,これまで美容や健康上の理由よりなるべく紫外線を避けていた者であっても積極的に外出する気分になれるといった生活の質の向上にもつながることもある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は,実験1および2の模式図である。
図2図2は,実験1における各紫外線を使用してUVを照射した際の細胞活性を示す。縦軸は,相対蛍光強度(au)を示す。
図3図3は,実験2における各濃度のC-フィコシアニンを使用して各強度のUVを照射した際の細胞活性を,相対蛍光強度(au)として示す。
図4図4は,実験3の模式図である。
図5図5は,実験3において細胞活性を一旦低下させた細胞にC-フィコシアニンを使用してUVを照射した際の細胞活性を,相対蛍光強度(au)として示す(P検定)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0012】
なお、本開示で引用する特許公報、特許出願公開公報、及び非特許文献等は、何れもその全体が援用により、あらゆる目的において本開示に組み込まれるものとする。
【0013】
本開示において、数値に対して適用された場合の「~」とは、規定された基準値以上で、かつ規定された基準値以下の範囲に入る値の範囲を指す。
【0014】
(A)紫外線波長変換物質
本発明の乳化組成物は,紫外線波長変換物質を有効成分として含有する。紫外線波長変換物質とは,入射光に含まれる紫外線の波長を変換して前記紫外線の波長よりも長い波長の出射光を放出する物質を指す。
【0015】
紫外線は,UVA,UVB,UVC等を含んでもよい。ある実施形態では,紫外線は,200nm~400nmにピーク波長を有する光である。また,例えば太陽光といった入射光に紫外線が含まれていてもよい。あるいは,入射光が紫外線であってもよく,人工的に生成された紫外線を用いてもよい。
【0016】
紫外線波長変換物質により放出される出射光は,紫外線よりも波長が長く,好ましくは500nm~700nmにピーク波長を有する。出射光は,例えば,限定されないものの,510nm,520nm,530nm,540nm,550nm,560nm,570nm,580nm,590nm,600nm,610nm,620nm,630nm,640nm,650nm,660nm,670nm,680nm,690nm,700nm,あるいはこれらの数値の任意の範囲内に1又は複数のピークを有してもよいし,あるいは,赤色光,橙色光,緑色光,青色光等であってもよい。ある実施形態では,紫外線波長変換物質は,200nm~400nmの励起光で励起した際に発する光の主波長が500nm~700nmを示す。
【0017】
紫外線波長変換物質の例として,以下の成分が挙げられる:アロフィコシアニン,C-フィコシアニン(LinaBlueなど),R-フィコシアニン,フィコエリスロシアニン,B-フィコエリスリン,b-フィコエリスリン,C-フィコエリスリン,R-フィコエリスリンなどのフィコビリ蛋白;ビタミンA,βカロテン,ビタミンK,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB6,ビタミンB12,葉酸,ナイアシン,リコピン,クチナシ,ベニバナ,ウコン,コチニール,シソ,赤キャベツ,フラボノイド,カロテノイド,キノイド,ポルフィリン類,アントシアニン類,ポリフェノール類などの天然由来又は合成成分;赤色401号,赤色227号,赤色504号,赤色218号,橙色205号P,黄色4号,黄色5号,緑色201号,ピラニンコンク,青色1号,塩酸2,4-ジアミノフェノキシエタノール,アリズリンパープルSS,紫色401号,黒色401号,へリンドンピンク,黄色401号,ベンチジンエローG,青色404号,赤色104号,メタアミノフェノールなどの色素;無機化合物にドープし蛍光を持たせた蛍光体,例えば,特許第6424656号に記載の非晶質シリカ粒子と,セリウムと,リン及び/又はマグネシウムとを含む青色蛍光体および特許第6361416号に記載のアルカリ土類金属硫化物とガリウム化合物との混晶物にユーロピウムを賦活した化合物を含む赤色蛍光体,国際公開第2018/004006号に記載の酸化亜鉛の蛍光体,特開2018-131422号に記載の酸化亜鉛の蛍光体;特開平5-117127号に記載の無機蛍光体;等が挙げられる(以下、酸化亜鉛に由来する蛍光体を「酸化亜鉛蛍光体」という。例えば、LunamateG)。ある実施形態では,無機蛍光体は,ZnO:Zn,Zn1+z,ZnO1-xのように表すことができる酸化亜鉛を国際公開第2018/004006号に記載の,例えば硫化亜鉛,硫酸亜鉛等の硫化塩及び/又は硫酸塩といった硫黄含有化合物でドープした蛍光体,MgTiO3,Mg2TiO4といったチタン酸マグネシウムをマンガンでドープしたチタン酸マグネシウムの蛍光体(以下、チタン酸マグネシウムに由来する蛍光体を「チタン酸マグネシウム蛍光体」という。例えば、LunamateR),及びCa(H2PO4)2,CaHPO4,Ca3(PO4)2といったリン酸カルシウムをセリウムでドープしたリン酸カルシウム蛍光体から選択される1種又は複数種の蛍光体である。
【0018】
紫外線波長変換物質は,動物,植物,藻類等の天然物から抽出などの方法により得ても,化学的な合成といった人工的な方法により得てもよい。例えば,フィコビリ蛋白は,スピルリナ(Spirulina platensis)などの藍藻類,チノリモ(Porphyridium purpureum)などの紅藻類といった藻類を,例えば特許第4048420号,特許第4677250号,特許第3303942号等に記載の方法で抽出することにより調製してもよい。酸化亜鉛蛍光体は,例えば国際公開第2018/004006号,特開2018-131422号,特開平5-117127号に記載の方法により製造してもよい。チタン酸マグネシウム蛍光体は,特開2017-88719号に記載の方法により製造してもよい。リン酸カルシウム蛍光体は,国際公開第2018/117117号に記載の方法により製造してもよい。
【0019】
これらの紫外線波長変換物質は,本発明の波長変換効果を損なわない限り,上で例示した成分から構成されてもよく,含まれていてもよく,単体で使用しても複数種を混合してもよい。例えば,上記フィコビリ蛋白や無機物蛍光体に他の紫外線波長変換物質,例えば,ビタミンB(ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB6,ビタミンB12等)を混合し相乗的な効果を目指してもよい。しかしながら,これらの成分は例示であり本発明の波長変換効果を奏するいかなる物質も使用可能である。
【0020】
また,本発明の乳化組成物における紫外線波長変換物質の含有量は本発明の波長変換効果を損なわない限り特に限定されず,紫外線波長変換物質の種類や紫外線波長変換物質を含む乳化組成物の用途により適宜決定できる。例えば,0.01~99.99重量%,0.1%~99.9重量%等の範囲内で任意である。
【0021】
本発明の一態様としては、乳化組成物における紫外線波長変換物質は酸化亜鉛蛍光体(例えば、LumateG)であり、本発明の乳化組成物での好ましい酸化亜鉛蛍光体の含有量は、乳化組成物全体に対して0.1重量%以上であり、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5重量%以上であり、さらに好ましくは2重量%以上であり、また、20重量%以下であり、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下であり、さらに好ましくは5重量%以下であり、また乳化組成物全体に対して0.01~99.99重量%,0.1~99.9重量%、0.1~50重量%、0.1~40重量%、0.1~30重量%、0.1~20重量%、0.1~10重量%または1~10重量%である。
【0022】
本発明の一態様としては、乳化組成物における紫外線波長変換物質は酸化チタン酸マグネシウム蛍光体(例えば、LumateR)であり、本発明の乳化組成物での好ましいチタン酸マグネシウム蛍光体の含有量は、乳化組成物全体に対して0.1重量%以上であり、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5重量%以上であり、さらに好ましくは2重量%以上であり、また、20重量%以下であり、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下であり、さらに好ましくは5重量%以下であり、また乳化組成物全体に対して0.01~99.99重量%,0.1~99.9重量%、0.1~50重量%、0.1~40重量%、0.1~30重量%、0.1~20重量%、0.1~10重量%または1~10重量%である。
【0023】
本発明の一態様としては、乳化組成物における紫外線波長変換物質はフィコシアニン(例えば、LinaBlue)であり、本発明の乳化組成物での好ましいフィコシアニンの含有量は、乳化組成物全体に対して0.00001重量%以上であり、好ましくは0.0001質量%以上であり、また、20重量%以下であり、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下であり、さらに好ましくは5重量%以下であり、また乳化組成物全体に対して0.00001~99.99重量%,0.0001~99.9重量%、0.0001~50重量%、0.0001~40重量%、0.0001~30重量%、0.0001~20重量%、0.0001~10重量%、0.0001~5重量%である。
【0024】
細胞賦活とは,限定されないものの,ヒトを含む動物の細胞,例えば,皮膚の線維芽細胞及び/又は角化細胞の新陳代謝やターンオーバーの促進,機能の向上,増殖の促進,酸化の抑制,疲労や外部刺激に対する耐性の向上,機能や活性の低下の抑制などが挙げられる。皮膚の細胞が賦活されると,しわ,シミ,皮膚老化,光老化等の予防・改善といった効果が期待される。
【0025】
細胞賦活効果の測定は,例えば実施例のように,Alamar Blueを用いて生細胞の生存率、還元能力や増殖を測定することで行ってもよいし,その他の色素アッセイ,ミトコンドリア膜電位異存的色素アッセイ,細胞内チトクロームcアッセイ、エラスターゼ切断色素アッセイ,ATP,ADEアッセイ,解糖フラックスと酸素消費アッセイ等任意の方法が使用できる。
【0026】
蛍光強度の測定は、例えば実施例のように,基体表面に組成物の塗膜を形成し、紫外線を照射したときの蛍光強度を、分光蛍光強度計を用いて測定することができる。基体としてポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ナイロン、又はアクリル板等の樹脂基板、ガラスや石英等の無機物板を用いることができ、例えば、表面にV字形状の溝を設けたPMMA板(「Sプレート」ともいう:特許第4453995号参照)等を用いることができる。蛍光強度の測定は特定の単一波長の蛍光値でもよく、特定の波長領域の積算値でもよい。
【0027】
(B)有機系油相増粘剤
本発明の乳化組成物は,有機系油相増粘剤を含有する。有機系油相増粘剤とは、油相の粘度を増加することができる有機化合物を指す。 本発明で使用し得る有機系油相増粘剤は、紫外線波長変換物質の機能を損なわない限り特に限定されず、デキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリル脂肪酸エステル、アミノ酸系ゲル化剤あるいは脂肪酸又はその塩等が好ましく、これらから選択される2種以上を配合するのが特に好ましい。
【0028】
デキストリン脂肪酸エステルは、デキストリンまたは還元デキストリンと高級脂肪酸とのエステルであり、化粧料に一般的に使用されているものであれば特に制限されず使用することができる。デキストリンまたは還元デキストリンは平均糖重合度が3~100のものを用いるのが好ましい。また、デキストリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸としては、炭素数8~22の飽和脂肪酸を用いるのが好ましい。具体的には、パルミチン酸デキストリン、オレイン酸デキストリン、ステアリン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、(パルミチン酸/2-エチルヘキサン酸)デキストリン等を挙げることができる。
【0029】
ショ糖脂肪酸エステルは、その脂肪酸が直鎖状あるいは分岐鎖状の、飽和あるいは不飽和の、炭素数12から22のものを好ましく用いることができる。具体的には、ショ糖カプリル酸エステル、ショ糖カプリン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル、ショ糖トリ酢酸テトラステアリン酸エステル等を挙げることができる。
【0030】
グリセリル脂肪酸エステルは、グリセリン、炭素数18~28の二塩基酸及び炭素数8~28の脂肪酸(ただし、二塩基酸を除く)を反応させることにより得られるエステル化反応生成物であり、具体的には、(ベヘン酸/イソステアリン酸/エイコサン二酸)グリセリル、(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリル、(ベヘン酸/エイコサン二酸)ポリグリセリル-10等を挙げることができる。
【0031】
アミノ酸系ゲル化剤は、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド、ジブチルエチルヘキサノイルグルタミド、ポリアミド‐8、ポリアミド-3等を挙げることができる。
【0032】
脂肪酸は、常温で固形のものを使用することができ、具体的には、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等を挙げることができる。また、脂肪酸の塩としては、これらのカルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等を挙げることができる。
【0033】
植物性硬化油は、パーム核硬化油、硬化ひまし油、水添ピーナッツ油、水添ナタネ種子油、水添パーム油、水添ツバキ油、水添大豆油、水添オリーブ油、水添マカダミアナッツ油、水添ヒマワリ油、水添小麦胚芽油、水添米胚芽油、水添米ヌカ油、水添綿実油、水添アボカド油等を挙げることができる。
【0034】
本発明の乳化組成物に含まれる好ましい有機系油相増粘剤としては、ショ糖トリ酢酸テトラステアリン酸エステル(第一工業製薬社製のシュガーワックス等)、パルミチン酸デキストリン(千葉製粉社製のレオパールKL等)、パルミチン酸、(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリル(日清オイリオグループ社製のノムコートHKG等)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド(味の素社製のGP-1等)、もしくはポリアミド‐8(クローダジャパン社製のオレオクラフト LP-20等)、またはこれらの2以上の組み合わせがあげられる。
【0035】
本発明の乳化組成物に含まれる有機系油相増粘剤の好ましい例としては、紫外線波長変換物質の機能を亢進することから、ショ糖トリ酢酸テトラステアリン酸エステル(第一工業製薬社製のシュガーワックス等)、パルミチン酸デキストリン(千葉製粉社製のレオパールKL等)、パルミチン酸、(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリル(日清オイリオグループ社製のノムコートHKG等)、もしくはポリアミド‐8(クローダジャパン社製のオレオクラフト LP-20等)、またはこれらの2以上の組み合わせがあげられる。
【0036】
また,本発明の乳化組成物における有機系油相増粘剤の含有量は本発明の波長変換効果を損なわない限り特に限定されず,紫外線波長変換物質の種類や紫外線波長変換物質を含む乳化組成物の用途により適宜決定できる。例えば,0.01~99.99重量%,0.1%~99.9重量%等の範囲内で任意である。
【0037】
本発明の乳化組成物における好ましい有機系油相増粘剤の含有量は、乳化組成物全体に対して0.01重量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1重量%以上であり、さらに好ましくは0.3重量%以上であり、また、10重量%以下であり、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以下であり、また乳化組成物全体に対して0.01~99.99重量%,0.1~99.9重量%、0.01~10重量%、0.01~5重量%、0.05~5重量%、0.1~5重量%、0.1~3重量%、0.1~3重量%、0.1~2重量%、0.1~1重量%または0.3~1重量%である。
【0038】
本発明の一態様としては、乳化組成物における有機系油相増粘剤はショ糖トリ酢酸テトラステアリン酸エステルであり、乳化組成物における分散剤の含有量は、乳化組成物全体に対して0.01重量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1重量%以上であり、さらに好ましくは0.3重量%以上であり、また、10重量%以下であり、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以下であり、また乳化組成物全体に対して0.01~99.99重量%,0.1~99.9重量%、0.01~10重量%、0.01~5重量%、0.05~5重量%、0.1~5重量%、0.1~3重量%、0.1~3重量%、0.1~2重量%、0.1~1重量%または0.3~1重量%である。
【0039】
本発明の一態様としては、乳化組成物における有機系油相増粘剤はパルミチン酸デキストリンであり、乳化組成物における分散剤の含有量は、乳化組成物全体に対して0.01重量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1重量%以上であり、さらに好ましくは0.3重量%以上であり、また、10重量%以下であり、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以下であり、また乳化組成物全体に対して0.01~99.99重量%,0.1~99.9重量%、0.01~10重量%、0.01~5重量%、0.05~5重量%、0.1~5重量%、0.1~3重量%、0.1~3重量%、0.1~2重量%、0.1~1重量%または0.3~1重量%である。
【0040】
本発明の一態様としては、乳化組成物における有機系油相増粘剤はパルミチン酸であり、乳化組成物における分散剤の含有量は、乳化組成物全体に対して0.01重量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1重量%以上であり、さらに好ましくは0.3重量%以上であり、また、10重量%以下であり、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以下であり、また乳化組成物全体に対して0.01~99.99重量%,0.1~99.9重量%、0.01~10重量%、0.01~5重量%、0.05~5重量%、0.1~5重量%、0.1~3重量%、0.1~3重量%、0.1~2重量%、0.1~1重量%または0.3~1重量%である。
【0041】
本発明の一態様としては、乳化組成物における有機系油相増粘剤は(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリルであり、乳化組成物における分散剤の含有量は、乳化組成物全体に対して0.01重量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1重量%以上であり、さらに好ましくは0.3重量%以上であり、また、10重量%以下であり、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以下であり、また乳化組成物全体に対して0.01~99.99重量%,0.1~99.9重量%、0.01~10重量%、0.01~5重量%、0.05~5重量%、0.1~5重量%、0.1~3重量%、0.1~3重量%、0.1~2重量%、0.1~1重量%または0.3~1重量%である。
【0042】
本発明の一態様としては、乳化組成物における有機系油相増粘剤はポリアミド‐8であり、乳化組成物における分散剤の含有量は、乳化組成物全体に対して0.01重量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1重量%以上であり、さらに好ましくは0.3重量%以上であり、また、10重量%以下であり、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以下であり、また乳化組成物全体に対して0.01~99.99重量%,0.1~99.9重量%、0.01~10重量%、0.01~5重量%、0.05~5重量%、0.1~5重量%、0.1~3重量%、0.1~3重量%、0.1~2重量%、0.1~1重量%または0.3~1重量%である。
【0043】
本発明の乳化組成物における好ましい(A)紫外線波長変換物質と(B)有機系油相増粘剤の質量での配合比率[(A)/(B)]は、十分な蛍光を発するため、及び幅広い剤形での安定性を保つために、0.01以上であり、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上であり、さらに好ましくは0.3以上であり、また、200以下であり、好ましくは100以下、より好ましくは75以下であり、さらに好ましくは50以下であり、また0.01~200,0.05~100、0.1~75、0.3~50である。
【0044】
分散剤
本発明の乳化組成物は,分散剤を含有してもよい。分散剤とは、水相または油相中に分散された粒子(粉体)の表面に吸着することで、水性または油性媒体中に均一に分散せしめることのできる物質を指す。本発明の乳化組成物に含まれる好ましい分散剤としては、PEG-10ジメチコン、ビスブチルジメチコンポリグリセリル-3、PEG-ポリジメチルポリシロキサンエチルジメチコン、ラウリルPEG-ポリジメチルポリシロキサンエチルジメチコン、セチルPEG/PPG-10/ジメチコン、イソステアリン酸、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-2、カルボキシデシルトリシロキサン、PEG-12ジメチコン、もしくはモノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンまたはこれらの2以上の組み合わせがあげられる。
【0045】
本発明の乳化組成物における好ましい分散剤の含有量は、乳化組成物全体に対して0.1重量%以上であり、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5重量%以上であり、さらに好ましくは2重量%以上であり、また、20重量%以下であり、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下であり、さらに好ましくは5重量%以下であり、また乳化組成物全体に対して0.01~99.99重量%,0.1~99.9重量%、0.1~50重量%、0.1~40重量%、0.1~30重量%、0.1~20重量%、0.1~10重量%、0.5~10重量%、1~10重量%、1.5~10重量%または0.8~3重量%である。
【0046】
紫外線吸収剤
紫外線吸収剤は、入射する紫外線を吸収するため、紫外線波長変換物質の機能を間接的に阻害してしまうと考えられるが、驚くべきことに、本発明の組成物は,紫外線吸収剤を含有することができ、紫外線波長変換物質の機能を発揮することができる。
【0047】
本発明の乳化組成物は,紫外線吸収剤を含有してもよい。紫外線吸収剤とは、紫外線を吸収し、熱や赤外線などのエネルギーに変化させて放出させる物質を指す。本発明で使用し得る紫外線吸収剤は、直接的に紫外線波長変換物質の機能を損なわない限り特に限定されず、たとえば、サリチル酸ホモメンチル、サリチル酸エチルヘキシル(サリチル酸オクチル)、ホモサレート、サリチル酸トリエタノールアミン等のサリチル酸系紫外線吸収剤;
パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、ジパラメトキシケイ皮酸モノ-2-エチルヘキサン酸グリセリル、2,5-ジイソプロピルケイ皮酸メチル、2,4,6-トリス[4-(2-エチルへキシルオキシカルボニル)アニリノ]-1,3,5-トリアジン(以下、「エチルヘキシルトリアゾン」とも呼ぶ。)、トリメトキシケイ皮酸メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルイソペンチル、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル・ジイソプロピルケイ皮酸エステル混合物、p-メトキシハイドロケイ皮酸ジエタノールアミン塩等のケイ皮酸系紫外線吸収剤;
2-フェニル-ベンズイミダゾール-5-硫酸、4-イソプロピルジベンゾイルメタン、4-tert-ブチル-4'-メトキシジベンゾイルメタン等のベンゾイルメタン系紫外線吸収剤;
オクトクリレン、ジメトキシベンジリデンジオキソイミダゾリジンプロピオン酸2-エチルヘキシル、1-(3,4-ジメトキシフェニル)-4,4-ジメチル-1,3-ペンタンジオン、シノキサート、メチル-O-アミノベンゾエート、3-(4-メチルベンジリデン)カンフル、オクチルトリアゾン、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン及びメチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノールが挙げられ、これらから選ばれる1種または2種以上を乳化組成物中に含むことができる。
【0048】
本発明の乳化組成物に含まれる(各)紫外線吸収剤の含有量は、入射光に含まれる紫外線を吸収しすぎないために、乳化組成物全体に対して、20重量%以下であり、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下であり、さらに好ましくは5重量%以下である。
【0049】
紫外線散乱剤
紫外線散乱剤は、入射する紫外線を散乱させるため、紫外線波長変換物質の機能を間接的に阻害してしまうと考えられるが、驚くべきことに、本発明の組成物は,紫外線散乱剤を含有することができ、紫外線波長変換物質の機能を発揮することができる。
【0050】
本発明の乳化組成物は,紫外線散乱剤を含有してもよい。紫外線散乱剤とは、紫外線を反射・散乱させて皮膚等を紫外線から防御することができる物質を指す。本発明で使用し得る紫外線散乱剤の材料としては、酸化チタン、成分(A)以外の酸化亜鉛、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等が挙げられる。また、紫外線散乱剤としてこれらの材料を微粒子化したものや、複合化したものが挙げられる。紫外線散乱剤は、好ましくは、酸化チタンおよび成分(A)以外の酸化亜鉛から選択される1種または2種以上を含む。
【0051】
紫外線散乱剤として用いられる酸化チタンおよび酸化亜鉛は、化粧料に通常用いられている酸化チタンおよび酸化亜鉛であってよい。好ましくはより分散性に優れたもの、たとえば必要に応じて公知の方法で表面を表面処理、具体的には疎水化処理したものを乳化組成物中に含有することができる。
【0052】
表面処理の方法としては、メチルハイドロゲンポリシロキサン、メチルポリシロキサン等のシリコーン処理;パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルコール等によるフッ素処理;N-アシルグルタミン酸等によるアミノ酸処理;オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン処理;その他、レシチン処理;金属石鹸処理;脂肪酸処理;アルキルリン酸エステル処理等が挙げられる。なかでも、表面をシリコーン処理した酸化亜鉛が好ましく用いられる。
【0053】
表面処理に用いられるシリコーンは制限されないが、たとえばメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロゲンポリシロキサン、メチルシクロポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、テトラデカメチルヘキサシロキサン、ジメチルシロキサン・メチル(ポリオキシエチレン)シロキサン・メチル(ポリオキシプロピレン)シロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチル(ポリオキシエチレン)シロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチル(ポリオキシプロピレン)シロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチルセチルオキシシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチルステアロキシシロキサン共重合体等の各種シリコーン油を挙げることができる。好ましくは、メチルハイドロゲンポリシロキサンやメチルポリシロキサンである。
【0054】
本発明の乳化組成物に含まれる(各)紫外線散乱剤の含有量は、入射光に含まれる紫外線を散乱しすぎないために、乳化組成物全体に対して、30重量%以下であり、好ましくは25重量%以下、より好ましくは20重量%以下であり、さらに好ましくは15重量%以下である。
【0055】
油分
本発明の乳化組成物は,油分を含有してもよい。油分とは、本発明の乳化組成物の成分である、水と相分離する疎水性の物質を指す。本発明で使用し得る油分は、特に限定されず、例えば、炭化水素油、エステル油、シリコーン油、液体油脂、固体油脂及び高級アルコールの少なくとも一種以上を含む
【0056】
炭化水素油としては、流動パラフィン、テトライソブタン、水添ポリデセン、オレフィンオリゴマー、イソドデカン、イソヘキサデカン、スクワラン、水添ポリイソブテン等が挙げられる。
【0057】
エステル油としては、セバシン酸ジイソプロピル、パルミチン酸オクチル、イソオクタン酸セチル(2-エチルヘキサン酸セチル)、トリエチルヘキサノイン、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、トリイソステアリン、リンゴ酸ジイソステアリル、ジピバリン酸PPG-3、コハク酸ジ2-エチルヘキシル、2-エチルヘキサン酸2-エチルヘキシル、オクタカプリル酸ポリグリセリル-6、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル等が挙げられる。
【0058】
シリコーン油としては、ジメチコン、アミノ変性ポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサン、フッ素変性ポリシロキサン等が挙げられる。
【0059】
液体油脂としては、アボカド油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、ミンク油、オリーブ油、ヒマシ油、ホホバ油、トリグリセリン、トリオクタン酸グリセリン等が挙げられる。
【0060】
固体油脂としては、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム油、牛脂、羊脂、モクロウ、硬化ヒマシ油等が挙げられる。
【0061】
高級アルコールとしては、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、ブチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体(例えば、PBG/PPG-9/1コポリマー)等が挙げられる。
【0062】
本発明の乳化組成物に含まれる油分全体の含有量は、乳化組成物全体に対して、5重量%以上であり、好ましくは10重量%以上、より好ましくは12重量%以上であり、さらに好ましくは15重量%以上である。
【0063】
(任意成分)
本発明の乳化組成物は、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、各種成分を適宜配合することができる。各種成分としては、化粧料に通常配合し得るような添加成分、例えば、粘土鉱物(ジメチルジステアリルアアンモニウムヘクトライト等)、粉末(ポリメタクリル酸メチル、架橋型シリコーン・網状型シリコーンブロック共重合体、シリカ、疎水化タルク、トウモロコシデンプン、疎水化処理ポリウレタン等)、キレート剤、香料、保湿剤(グリセリン、ジプロピレングリコール等)、防腐剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子、シリコーン化多糖類等の皮膜形成剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、各種抽出液、糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン、医薬品、医薬部外品、化粧品等に適用可能な水溶性薬剤、酸化防止剤、緩衝剤、酸化防止助剤、噴射剤、有機系粉末、顔料、染料、色素、水、酸成分、アルカリ成分等を挙げることができる。これらの任意成分は、油相中及び水相中に適宜配合することができる。さらに,本発明の効果を高めるために,他の細胞賦活化剤等を含有または併用してもよい。
【0064】
本発明の乳化組成物の一態様としては、油中水型乳化組成物がある。本発明の油中水型乳化組成物は通常の製造方法に従って製造することができる。
具体的には、以下の手順により本実施形態における乳化組成物が得られる。すなわち、80℃程度の温度において、成分(B)および適宜他の油性成分を混合して油相を調製する。つづいて、成分(A)および適宜他の水溶性成分を混合して水相を調製する。前記水相を油相に添加し、撹拌することにより、乳化組成物を得る。
【0065】
本発明の乳化組成物の一態様としては、粉末を含む油中水型乳化組成物がある。粉末としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、架橋型シリコーン・網状型シリコーンブロック共重合体、シリカ、疎水化タルク、トウモロコシデンプン、疎水化処理ポリウレタン等があり、本発明の粉末を含む油中水型乳化組成物は通常の製造方法に従って製造することができる。
【0066】
本発明の乳化組成物は、水中油型乳化乳化組成物である。本発明の水中油型乳化乳化組成物は通常の製造方法に従って製造することができる。
具体的には、以下の手順により本実施形態における乳化組成物が得られる。すなわち、25℃程度の温度において、水溶性成分および水等を混合して水相を調製する。一方、80℃程度の温度において、油分等の油性成分を混合して油相を調製する。つづいて、当該油相に成分(A)を加え混合した後、撹拌しながら25℃程度まで冷却する。前記水相に、油相およびその他の成分を添加し、撹拌することにより、乳化組成物を得る。
【0067】
本発明の乳化組成物の一態様としては、粉末を含む水中油型乳化乳化組成物がある。粉末としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、架橋型シリコーン・網状型シリコーンブロック共重合体、シリカ、疎水化タルク、トウモロコシデンプン、疎水化処理ポリウレタン等があり、本発明の粉末を含む水中油型乳化乳化組成物は通常の製造方法に従って製造することができる。
【0068】
本発明の乳化組成物としては、化粧下地、サンスクリーンクリーム等の日焼け止め化粧料等が含まれる。また、剤型としては、たとえば乳液類、クリーム類等とすることができる。
【0069】
本発明の乳化組成物は、皮膚、中でも頭髪を除く皮膚、好ましくは顔、身体、手足等のいずれかに適用、好ましくは塗布することにより、使用することができる。たとえば、本実施形態の乳化組成物を皮膚に適用、好ましくは塗布することにより、紫外線を防御して皮膚への悪影響を抑制するだけにとどまらず、皮膚細胞を賦活して肌に自然で好ましい明るさを与えることも可能となる。
【実施例1】
【0070】
次に実施例によって本発明を更に詳細に説明する。なお,本発明はこれにより限定されるものではない。
【0071】
実験1:各種紫外線波長変換物質の細胞賦活効果
実験1-1:紫外線波長変換物質の調製
紫外線波長変換物質を以下のように調製した。
(1)B-フィコエリスリン
B-フィコエリスリン(B-phycoerythrin)は,チノリモ(Porphiridium Cruentum)抽出物から得られ,吸収スペクトルは305nmにピーク波長を有し,発光スペクトルは570nmおよび610nmにピーク波長を有していた。
(2)C-フィコシアニン
C-フィコシアニン(C-phycocyanin)は,スピルリナ(Spirulina platensis)抽出物から得られ,吸収スペクトルは350nmにピーク波長を有し,発光スペクトルは640nmおよび700nmにピーク波長を有していた。DIC社製のLinablueを使用した。
(3)酸化亜鉛蛍光体
堺化学工業株式会社製のLumate Gを使用した。Lumate Gは,国際公開第2018/004006号に記載のようにZnOを硫黄含有化合物でドープした酸化亜鉛蛍光体であり,吸収スペクトルは365nmにピーク波長を有し,発光スペクトルは510nmにピーク波長を有していた。
(4)チタン酸マグネシウム蛍光体
堺化学工業株式会社製のLumate Rを使用した。Lumate Rは,MgTiO3をマンガンでドープしたチタン酸マグネシウム蛍光体であり,吸収スペクトルは365nmにピーク波長を有し,発光スペクトルは660~680nmの帯域にピーク波長を有していた。
(1)~(2)の紫外線波長変換物質を水に溶解し,1%及び5%の濃度の溶液を調製した。
(3)~(4)の紫外線波長変換物質はアルコールに分散し5%及び10%の分散液を調整した。
【0072】
実験1-2:細胞試料の調製
細胞試料を以下のように調製した。
1. Kurabo社から購入したヒト皮膚線維芽細胞およびヒト皮膚角化細胞を使用した。液体窒素で保存されていた細胞懸濁液(1mL)を湯浴(37℃)にかけ小さな氷ペレットが残る程度に解凍し,次いで9mLの温培地で希釈した。
2. 希釈物を穏やかに混合してからT75フラスコに移し,37℃で一晩インキュベートした。
3. 翌日,培地を10mLの新鮮培地に交換した。
4. 培地を定期的に交換し(線維芽細胞では2日に1回,角化細胞では2~3日に1回),細胞の増殖を継続した。その間,顕微鏡を用いて細胞を観察し,細胞が正しい形態で増殖していることを確認した。
5. 細胞が約80%のコンフルエントに達してから,細胞を継代した。細胞の継代は,10mLの温PBSで細胞を1回洗浄してから,5mLの温トリプシンをT75フラスコに加え,トリプシン溶液でフラスコの底面をカバーし1分間室温においてから吸引することにより行った。
6. 線維芽細胞では(最大)2分間,角化細胞では(最大)7分間,フラスコを37℃のオーブン内に静置した。顕微鏡を用いて細胞を観察し,細胞が小さく楕円形であることを確認した。
7. その後,T75フラスコの側面を軽く叩いて細胞を遊離させた。顕微鏡を用いて細胞を観察し,細胞が自由に動いていることを確認した。
8. 線維芽細胞は,5mLの温FGM(10%血清含有)に再懸濁し,滅菌50mLファルコンチューブに移した。フラスコをさらに5mLの温FGMで洗い流してファルコンチューブに加えることにより確実に全ての細胞を移すようにした。
9. 細胞を10,000rpmで5分間遠心し(4℃),細胞ペレットを乱さないよう注意しながら上清を除去した。
10. 細胞の種類に応じ,線維芽細胞は2×104cells/well(500μL),角化細胞は4×104cells/well(500μL)の濃度でFGMまたはKGMに再懸濁し,24ウェルプレートにプレーティングした。
11. 24ウェルプレートに細胞を播種し,培地を定期的に交換し(線維芽細胞では2日に1回,角化細胞では2~3日に1回),60~70%のコンフルエント(実験の種類により異なる)に達するまで細胞を増殖させた。(注:線維芽細胞は,2×104cells/wellの細胞密度だと24時間で所望のコンフルエンシーに達するはずである。細胞密度が,例えば1×104cells/well等と低い場合,線維芽細胞が所望のコンフルエンシーに達するのに48時間かかる。)
12. 照射の24時間前に,サプリメント無添加の培地(角化細胞の場合)または低濃度の血清を含有する(0.5%FCS)培地(線維芽細胞の場合)に変更した。
【0073】
実験1-3:紫外線の照射
1. 照射の少なくとも30分前にソーラーシミュレータの電源を入れてランプをウォームアップした。ソーラーシミュレータは,UG11フィルターを使用する設定にした。UG11フィルターは,UVBのみを通過させ他の波長光をカットするフィルターである。UG11フィルターを通過したUV光は300nm~385nmにピーク波長を有していた。
2. 温度制御プレートをオンにして33℃に設定した。
3. 実験1-2で調製した細胞を温PBSで1回洗浄した。
4. 各ウェルに0.5mLの温めたMartinez溶液(145mM NaCl, 5.5mM KCl, 1.2mM MgCl2.6H2O, 1.2mM NaH2PO4.2H2O, 7.5mM HEPES, 1mM CaCl2, 10mM D-グルコース)を加えた。
5. 図1に示すように,細胞ウェルをプレート上に載置し,更にその上に,実験1-1で調製した紫外線波長変換物質(1)~(4)を含む溶液を24ウェルプレートの各穴に0.4ml注入し,細胞入りのウェルを覆うように載置し,紫外線波長変換物質の溶液が細胞溶液と直接触れずに,UV光が紫外線波長変換物質の溶液を通過して細胞溶液に照射されるようにした。
6. 合計が100mJ/cm2の線量になるよう照射を行った。また,対照として,細胞ウェルの上に紫外線波長変換物質のプレートを載せず細胞に直接UV光を照射した試料と,細胞にUV光を照射せず暗所で培養した試料を作成した。
7. 照射後,Martinezを温めたKGM(サプリメント無添加)またはFGM(0.5%FCS含有)と交換し,プレートを37℃のインキュベータに戻した。
【0074】
実験1-4:細胞活性の測定
実験1-3の後インキュベータ内で48時間保持した細胞を用いて,以下の方法により活性を測定した。
1. 培地(サプリメント無添加のKGM培地または0.5%FCS含有FGM培地)に10%Alamar Blueを添加し37℃に温めた(溶液は暗所で保持)。
2. ウェル内の培地を500μLの上記10%Alamar Blue溶液に交換し,プレートを37℃のインキュベータに戻し約3時間保持した。対照のウェルも同様にインキュベータ内で保持した。これらの溶液を光から保護するため暗所で保持した。
3. 3時間後,100μLのアリコートを採取し,黒色の96ウェルプレートに移した。
4. 蛍光測定器 (OPwave+, Ocean Photonics)を用いて544nm/590nmでの蛍光測定値を読み取った。
【0075】
結果を図2に示す。UVを照射すると照射しない対照に比べて細胞活性が低下していた。しかし,紫外線波長変換物質を通してUVを照射した細胞の活性は,照射しない対照に比べていずれの紫外線波長変換物質でも上昇していた。以上の結果より,UV照射により細胞活性は低下するものの,紫外線波長変換物質を用いると細胞活性低下が抑制されることがわかった。
【0076】
実施例2:紫外線波長変換物質の濃度およびUVの強度の違いによる細胞活性への影響
紫外線波長変換物質としてC-フィコシアニンを使用し0%,0.4%,2%となるように添加した溶液入りのプレートで細胞培養物を覆い,0,10,25,50,75,100mJ/cm2の線量でUVを照射した以外は実験1と同じ方法を行った。
【0077】
結果を図3に示す。紫外線波長変換物質を用いない場合,UV照射量が上がるほど細胞活性は低下した。しかし,0.4%のC-フィコシアニンを添加するとUV照射しても細胞活性の低下は抑制されており,2%のC-フィコシアニンを添加するとUV照射をしない場合よりも細胞活性がむしろ亢進されていた。以上の結果より,UV照射により細胞活性は低下するものの,紫外線波長変換物質を用いると濃度依存的に細胞活性低下が抑制されるのみならず,細胞活性が亢進されることがわかった。
【0078】
実施例3:UV照射により低下した細胞活性の回復
図4に示すように,紫外線波長変換物質を使用せずに照射量が400mJ/cm2となるまでUV照射を行い細胞活性を一旦低下させた後に,紫外線波長変換物質としてC-フィコシアニンを0%,0.4%,2%となるように添加した溶液入りのプレートで細胞培養物を覆い,0,10,25,50,75,100,200mJ/cm2の線量になるまでUVを照射した以外は実験1と同じ方法を行った。
【0079】
結果を図5に示す。紫外線波長変換物質を使用せずUV照射により一旦活性が低下した細胞であっても,紫外線波長変換物質を用いてUV照射を施すことにより細胞活性が回復したことがわかる。また,この効果は,C-フィコシアニンが0.4%の濃度であっても2%の場合と同等であり,0.4%でも十分な細胞賦活効果があることが示唆される。一方,紫外線波長変換物質を用いずにUV照射を行った場合,細胞活性はUV線量依存的に低下した。
【0080】
以上,ヒト皮膚線維芽細胞についての結果を示したが,角化細胞についても同様の結果が見られた(データ示さず)。これらの結果により,紫外線波長変換物質はUV照射による細胞活性の低下を抑制するのみならず,UV光を利用して細胞を賦活する効果があることがわかった。皮膚の細胞が賦活されると,しわ,シミ,皮膚老化,光老化等の予防・改善が期待される。
【0081】
前記実施例1~3により、紫外線波長変換物質が紫外線を波長変換し、発光した可視光(主波長が500nm~700nmの蛍光)が線維芽細胞や角質細胞等の皮膚の細胞を賦活するものと考えられた。そこで、以下紫外線波長変換物質を含む種々の乳化組成物を製造して、紫外線照射時の発光する蛍光量について評価を行った。
【0082】
蛍光量の測定は、組成物をSプレート(特許第4453995号参照)に2mg/cm2で塗布し、乾燥させて組成物の塗膜を調製した。得られた塗膜に所定波長の紫外線を照射し、所定波長領域の蛍光積算値を分光蛍光光度計RF-5300PC(島津製作所)を用いて測定した。紫外線波長変換物質がLumateGの場合は365nmの紫外線で照射し、400-600nmの蛍光積算値を同様に測定した。紫外線波長変換物質がLumateRの場合は340nmの紫外線で照射し、550-800nmの蛍光積算値を同様に測定した。紫外線波長変換物質がLinaBlueの場合は350nmの紫外線で照射し、550-800nmの蛍光積算値を同様に測定した。
【0083】
実施例4:有機系油相増粘剤
表1に記載の組成の乳化組成物(処方例T1~T6)を通常の製造方法に従って製造した。処方例T1~T6は、それぞれ異なった有機系油相増粘剤を含む。また、有機系油相増粘剤を含まない比較例も同様に製造した。いずれの処方例も紫外線波長変換物質である酸化亜鉛蛍光体(LumateG)を含む。比較例の蛍光積算値が19133に対し、処方例T1~T6の蛍光積算値はそれぞれ、24136、23541、24023、25202、28317、23210であり、有機系油相増粘剤を加えることにより、紫外線波長変換物質の波長変換機能が亢進することが分かった。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例5:紫外線波長変換物質酸化亜鉛蛍光体の効果
表2に記載の組成の乳化組成物(処方例G1~G6)を通常の製造方法に従って製造した。いずれの処方例も紫外線波長変換物質である酸化亜鉛蛍光体(LumateG)を含む。G1~G6の各処方例の蛍光積算値はそれぞれ、669、2230、4273、16117、23515、43316であり、酸化亜鉛蛍光体は乳化組成物に含めても用量依存的に波長変換機能を有していることが分かった。
【0086】
【表2】
【0087】
実施例6:紫外線波長変換物質チタン酸マグネシウム蛍光体の効果
表3に記載の組成の乳化組成物(処方例R1~R5)を通常の製造方法に従って製造した。いずれの処方例も紫外線波長変換物質であるチタン酸マグネシウム蛍光体(LumateR)を含む。R1~R5の各処方例の蛍光積算値はそれぞれ、4986、7537、5797、5488、8746であり、チタン酸マグネシウム蛍光体は乳化組成物に含めても用量依存的に波長変換機能を有していることが分かった。
【0088】
【表3】
【0089】
実施例7:紫外線波長変換物質C-フィコシアニンの効果
表4に記載の組成の乳化組成物(処方例L1~L5)を通常の製造方法に従って製造した。いずれの処方例も紫外線波長変換物質であるC-フィコシアニン(LinaBlue)を含む。L1~L5の各処方例の蛍光積算値はそれぞれ、6308、11937、9287、5608、3946であり、C-フィコシアニンは乳化組成物に含めても波長変換機能を有しており、紫外線波長変換効果はLinaBlueが0.5%~3%の濃度で最適な、ベルシェイプな用量依存性であることが分かった。
【0090】
【表4】
【0091】
実施例11:チトクロームc含量への効果
前記実施例1~3にて、波長変換された可視光がAlamarBlueアッセイでミトコンドリア呼吸鎖からの電子受容による還元能力を亢進することがわかった。チトクロームcはミトコンドリアの電子伝達系に関与する分子であり、還元剤であるNDH分子の生産に重要な機能を果たす。そこで、次に本発明の組成物が細胞のチトクロームcの細胞内濃度に影響するかについて検討した。
【0092】
本発明の組成物を24well plateに0.1g/wellずつ塗布・分注し、乾燥させた。ヒト皮膚由来線維芽細胞(ScienCell Research Lab.#2320)を24well プレートに1x105 cells/wellの密度で播種し、DMEM培地で(Thermo Fisher, #11965-092)3日間培養した。細胞をPBSによる洗浄後に、1mLのPBSを添加した。乾燥させた組成物を含む24well plateを細胞を含む24well plateに重ね、約70cm離れた距離から人工太陽ライト(セリック社、XC-500BF)により最大出力量で40分間照射した。なお、すべての細胞プレートは20℃の蓄熱材の上に設置することにより、温度上昇を防止した。照射時間経過後に、PBSを除去し、0.3mLの細胞抽出液(RIPA buffer:50mM Tris-HCl(pH8.0), 150mM NaCl, 0.5%(w/v) Sodium Deoxycholate, 0.1%(w/v)SDS, 1.0%(w/v)NP-40 substitute, 1mM PMSF)を加え、ピペッティングにより細胞を完全に溶解した。細胞溶解液を4℃、10000×gで10分間遠心し、上清中のチトクロームcを測定した(Proteintech Group社、KE00079)。
【0093】
太陽光照射前後で細胞の外観に影響は見られなかった。組成物を介しない細胞でのチトクロームc含量が、3782pg/mLに対し、紫外線波長変換機能の高かった、処方例T5のチトクロームc含量は、それぞれ、9956pg/mLであり、細胞内のチトクロームcの含量を高めていることが分かった。
【0094】
以上,本発明の乳化組成物の実施の形態について説明してきた。しかしながら,本発明はこれらに限定されるものではなく,発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
図1
図2
図3
図4
図5