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特許7509573多置換エーテル性置換基を有するオキシスチレン化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】多置換エーテル性置換基を有するオキシスチレン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 41/30 20060101AFI20240625BHJP
   C07C 43/205 20060101ALI20240625BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20240625BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240625BHJP
【FI】
C07C41/30
C07C43/205 A
B01J31/24 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020087781
(22)【出願日】2020-05-20
(65)【公開番号】P2021038196
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2019154191
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】和田 佳奈子
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-205710(JP,A)
【文献】特開平06-194842(JP,A)
【文献】特開2001-158779(JP,A)
【文献】特開平05-201912(JP,A)
【文献】特開平01-106835(JP,A)
【文献】特開平02-160739(JP,A)
【文献】特開2005-290001(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0218532(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107628990(CN,A)
【文献】国際公開第2019/063418(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0071413(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立して、1-エトキシエチル基、1-シクロヘキシルオキシエチル基、または2-テトラヒドロピラニルを示し、Xは塩素原子または臭素原子またはヨウ素原子を示す。)
で表される芳香族ハロゲン化合物とイソプロピルマグネシウムクロリドの塩化リチウム複合体とを、分子内に2以上の窒素原子と1以上の3級アミノ基とを含む非環式脂肪族アミン化合物の存在下で反応させ、
次いで得られた反応生成物と臭化ビニルまたは塩化ビニルとを、ニッケル触媒の存在下で反応させることを特徴とする、一般式(2)
【化2】
(一般式(2)中、RおよびRはそれぞれ独立して、1-エトキシエチル基、1-シクロヘキシルオキシエチル基、または2-テトラヒドロピラニル基をす。
で表されるオキシスチレン化合物の製造方法であって、
前記非環式脂肪族アミン化合物の使用量が、前記芳香族ハロゲン化合物に対して、0.9当量から1.3当量の範囲であり、 前記非環式脂肪族アミン化合物が、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルプロピレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル、またはビス(ジメチルアミノプロピル)エーテルである
方法。
【請求項2】
非環式脂肪族アミン化合物が、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン及び/又はN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンである、請求項1に記載のオキシスチレン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多置換エーテル性置換基を有するオキシスチレン化合物の新規な製造方法に関する。更に詳しくは、エーテル性置換基を複数有するハロゲン化アリールから有機金属化合物を調製し、当該有機金属化合物とハロゲン化ビニルとのクロスカップリング反応によるスチレン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシスチレンをはじめとするオキシスチレン系重合体は、各種の産業分野で機能性高分子材料として使用されている。例えば、電子材料の分野、特に半導体レジスト用樹脂成分の原料としての使用を挙げることができる。また、半導体素子などの層間絶縁膜や表面保護膜に用いられる感光性樹脂成分としての利用も検討されている。
【0003】
そこで、オキシスチレン系重合体の原料となるオキシスチレン化合物を高純度で製造することができる方法の開発が必要とされている。この問題を解決するため、ハロゲン化アリールを原料として、クロスカップリング反応により製造される方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、p-(1-エトキシエトキシ)ブロモベンゼンと金属マグネシウムとからグリニャール試薬を調製し、ニッケル触媒下、臭化ビニルとクロスカップリング反応させて、p-(1-エトキシエトキシ)スチレンを製造する方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2や特許文献3において、パラヒドロキシスチレンとエチルビニルエーテルとから酸触媒下、反応させて製造する方法も提案されている。
【0006】
しかし、多置換エーテル性置換基を有するオキシスチレン化合物をクロスカップリングによって製造する例は、基質適用範囲に限界があるため、提案されていなかった。
【0007】
一般に、ジオキサンをはじめとする二官能以上のエーテル化合物は、前駆体となるグリニャール試薬の調製においてマグネシウムハライドと不溶性の錯体を形成し、反応不活性のマグネシウムとなることが知られている。エーテル性置換基を複数有するハロゲン化アリールの場合も、ジオキサンなどと同様に不溶性のマグネシウム錯体を形成し、カップリング反応に不活性となる課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-194842号公報
【文献】特開平11-255820号公報
【文献】特開2014-122972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来公知の製造方法よりも高収率、簡便な工程で多置換エーテル性置換基を有するオキシスチレン化合物を製造する方法、特にグリニヤール化反応およびクロスカップリング反応の反応性、選択性を両立する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題の解決を図るべく、多置換エーテル性置換基を有するハロゲン化アリールからのグリニャール試薬調製反応と、調製したグリニャール試薬とハロゲン化ビニルとのクロスカップリング反応を詳細に検討した。
その結果、グリニャール化およびクロスカップリング反応を共に高反応性、高収率で進行させ、高収率でオキシスチレン化合物を製造する条件を見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
即ち、本発明の多置換エーテル性置換基を有するオキシスチレン化合物の製造方法は下記の通りである。
【0012】
下記一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立して、1-エトキシエチル基、1-シクロヘキシルオキシエチル基、または2-テトラヒドロピラニルを示し、Xは塩素原子または臭素原子またはヨウ素原子を示す。)
で表される芳香族ハロゲン化合物とイソプロピルマグネシウムクロリドの塩化リチウム複合体とを、分子内に2以上の窒素原子と1以上の3級アミノ基とを含む非環式脂肪族アミン化合物の存在下で反応させ、
次いで得られた反応生成物と臭化ビニルまたは塩化ビニルとを、ニッケル触媒の存在下で反応させることを特徴とする、一般式(2)
【化2】
(一般式(2)中、RおよびRはそれぞれ独立して、1-エトキシエチル基、1-シクロヘキシルオキシエチル基、または2-テトラヒドロピラニル基をす。
で表されるオキシスチレン化合物の製造方法であって、
上記の非環式脂肪族アミン化合物の使用量が、前記芳香族ハロゲン化合物に対して、0.9当量から1.3当量の範囲である、方法に係る。
【0013】
また本発明は、上記の非環式脂肪族アミン化合物が、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、またはこれら2種類のアミンを任意の比率で含む混合物であることを特徴とするオキシスチレン化合物の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0014】
上述の通り、本発明によれば、高収率、簡便な工程で多置換エーテル性置換基を有するオキシスチレン化合物を製造する方法が提供され、特にグリニヤール化反応およびクロスカップリング反応の反応性、選択性を両立する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の多置換エーテル性置換基を有するオキシスチレン化合物の製造方法は次の通りである。
【0017】
下記一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立して、1-エトキシエチル基、1-シクロヘキシルオキシエチル基、または2-テトラヒドロピラニルを示し、Xは塩素原子または臭素原子またはヨウ素原子を示す。)
で表される芳香族ハロゲン化合物とイソプロピルマグネシウムクロリドの塩化リチウム複合体とを、分子内に2以上の窒素原子と1以上の3級アミノ基とを含む非環式脂肪族アミン化合物の存在下で反応させ、
次いで得られた反応生成物と臭化ビニルまたは塩化ビニルとを、ニッケル触媒の存在下で反応させることを特徴とする、一般式(2)
【化2】
(一般式(2)中、RおよびRはそれぞれ独立して、1-エトキシエチル基、1-シクロヘキシルオキシエチル基、または2-テトラヒドロピラニル基をす。
で表されるオキシスチレン化合物の製造方法であって、
上記の非環式脂肪族アミン化合物の使用量が、前記芳香族ハロゲン化合物に対して、0.9当量から1.3当量の範囲である、方法に係る。
【0018】
ここで、本明細書において、上記一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物とイソプロピルマグネシウムクロリドの塩化リチウム複合体とを、分子内に2以上の窒素原子と1以上の3級アミノ基とを含む非環式脂肪族アミン化合物の存在下で反応させて反応生成物を得る工程をグリニャール化工程またはグリニャール化反応と定義する。
【0019】
さらに、グリニャール化工程またはグリニャール化反応により得られる生成物と臭化ビニルまたは塩化ビニルとを、ニッケル触媒の存在下で反応させて、上記一般式(2)で表されるオキシスチレン化合物を得る工程をクロスカップリング工程またはクロスカップリング反応と定義する。
【0020】
一般式(1)において、ベンゼン環にRO基、RO基が結合しているが、その結合位置は限定されず、Xで表される基に対して、オルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよい。
【0021】
一般式(2)において、ベンゼン環にRO基、RO基が結合しているが、その結合位置は限定されず、ビニル基に対して、オルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよい。
【0022】
イソプロピルマグネシウムクロリドの塩化リチウム複合体は、市場から容易に入手できるテトラヒドロフラン溶液等の市販の薬品を使用してもよいし、公知の方法で製造、調製したものを使用してもよい。
【0023】
イソプロピルマグネシウムクロリドの塩化リチウム複合体の使用量としては、一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物に対して、0.8倍モル~2.0倍モルの範囲であれば良い。さらに、経済的な点から1.0倍モル~1.4倍モルの範囲であることがより好ましい。
【0024】
本発明において使用される、分子内に2以上の窒素原子と1以上の3級アミノ基とを含む非環式脂肪族アミン化合物としては、特に限定するものではないが、分子内に2以上の窒素原子含み、さらに1以上の3級アミノ基を含む化合物であることが好ましい。その理由は、グリニヤール化反応において、アミド化合物が生成することを極力回避するためである。
【0025】
またこの化合物は、直鎖状もしくは分岐状の、すなわち非環式の、脂肪族アミン化合物であることが好ましい。その理由は、グリニヤール化反応およびクロスカップリング反応の反応性、選択性を両立する上でより好ましいからである。
【0026】
具体的には、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルプロピレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’-ヘキサメチルトリエチレンテトラミンなどのポリエチレンポリアミン類等の非環式脂肪族アミン化合物や、ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル、ビス(ジメチルアミノプロピル)エーテル等のエーテル結合を有する非環式脂肪族アミン化合物を挙げることができる。これらの内でも、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンはグリニヤール化反応およびクロスカップリング反応の反応性、選択性を両立する上でより好ましく用いられる。
【0027】
窒素原子の数が2つ以上の脂肪族アミン化合物の使用量としては、一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物に対して、0.9倍モル~1.3倍モルの範囲であれば良い。さらに、経済性から1.0倍モル~1.2倍モルの範囲であることがより好ましい。
【0028】
クロスカップリング反応における臭化ビニルまたは塩化ビニルの使用量は、一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物に対して、1.0倍モル以上であればよく、経済性や後処理工程での煩雑さを考慮すると、1.4倍モル以下であることが好ましい。
【0029】
本発明の方法において使用されるニッケル触媒は、ニッケル化合物であれば特に限定されるものではなく、具体的な例として、Ni(acac)、NiCl等が例示される。
【0030】
また、各種の配位子を併用しても良く、配位子の添加方法としては、ニッケル化合物と配位子を予め系外で反応させてから添加する方法、反応系にニッケル化合物と配位子を添加し、系内で調製する方法がとられる。配位子としては、ニッケル化合物に配位するものであれば何れでも良く、リン系化合物、チッソ系化合物、オレフィン系化合物等が選ばれる。特にリン系化合物が配位子として好ましい。
【0031】
配位子の具体的な例としては、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン[dppe]、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン[dppp]、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン[dppb]、トリフェニルホスフィン、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン[dppf]、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1-ビナフチル[BINAP]、ビス(2-ジフェニルホスフィノフェニル)エーテル[DPEphos]、9,9-ジメチル-4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)ザンテン[XANTphos]、トリ-tert-ブチルホスフィン、1,5-シクロオクタジエン[COD]、2,2’-ビピリジル等が例示される。
【0032】
ニッケル触媒の使用量としては、一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物に対して、0.01モル%~10モル%の範囲であれば良く、経済性や後処理工程での煩雑さを考慮すると、0.1モル%~2.0モル%であることが好ましい。また、配位子の使用量は特に限定されないが、ニッケル化合物の金属に対し、0.5倍モル量~10倍モル量の範囲が選ばれる。
【0033】
本発明の方法において使用されるグリニャール反応およびその後のクロスカップリング反応の溶媒としては格別の限定はないが、好ましくはエーテル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒が用いられ、具体的には、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が例示される。また、溶媒は単一で用いても混合して用いてもどちらでも良い。
【0034】
本発明の方法におけるグリニャール化反応の温度は、-80℃~溶媒の還流温度の範囲である。好ましくは-20℃~40℃の範囲である。また、カップリング反応の温度は、-10℃~溶媒の還流温度の範囲であり、好ましくは0℃~50℃の範囲である。
【0035】
本発明の方法におけるカップリング反応の実施形態としては、製造したグリニャール試薬の溶液中に、臭化ビニルまたは塩化ビニルを添加する反応で実施しても良いし、臭化ビニルまたは塩化ビニル中にグリニャール試薬を添加して反応を実施しても良い。
【0036】
本発明の方法におけるニッケル触媒の使用量に格別の限定はないが、上記一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物に対し、0.001モル%~10.0モル%の範囲であり、好ましくは0.01モル%~1.0モル%の範囲である。また、配位子の使用量は特に限定されないが、ニッケル化合物の金属に対し、0.5倍モル量~10倍モル量の範囲が選ばれる。
【0037】
反応終了後は、常法に従い反応液に酸性水溶液を加えて処理した後、有機層を分離する。続いて、有機層を水洗処理し、溶媒を留去した後、通常の精製操作、例えば、蒸留、再結晶などの操作により、目的とするオキシスチレン化合物を得る。
【実施例
【0038】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されて解釈されるものではない。
【0039】
なお、グリニャール試薬の調製反応の成績について、ガスクロマトグラフィー分析を以下の条件により行ない、そのピーク面積比から原料の転化率および目的物の選択率を算出した。
・装置:島津製作所製 GC-2014(株式会社島津製作所製)
・カラム:キャピラリーカラムNB-5(ジーエルサイエンス株式会社製)
【0040】
グリニャール化反応原料転化率(%)=100-原料GC面積%
グリニャール試薬選択率(%)=(グリニャール試薬のGC面積%/(100-原料GC面積%))×100
【0041】
更に、カップリング反応の成績について、ガスクロマトグラフィー分析を上記と同様の条件により行ない、そのピーク面積比からグリニャール試薬の転化率および目的物の選択率を算出した。
カップリング反応原料転化率(%)=((調製後グリニャール試薬面積%-未反応グリニャール試薬面積%)/調製後グリニャール試薬面積%)×100
カップリング反応選択率(%)=(目的物GC面積%/(調製後グリニャール試薬-未反応グリニャール試薬GC面積%))×100
【0042】
また、クロスカップリング反応により取得した化合物の純度については、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。
・装置:東ソー製 LC-8020シリーズ(CCPM-II型ポンプ、UV-8020型UV検出器(測定波長254nm)CO-8020型カラムオーブン)
・移動層:アセトニトリル:水=7:3(体積比)
・カラム:GLサイエンス製 Inertsil ODS-3V
【0043】
合成例1
温度計を装着した200mL四つ口フラスコに、室温、窒素雰囲気下において、4-ブロモカテコール 113.41g(600mmol)、トリフルオロ酢酸 0.68g(6.0mmol)、トルエン 466.67gを加え、エチルビニルエーテル 103.84g(1.44mol)を25℃で3時間かけて滴下した。同温にて3日間熟成した。
【0044】
反応終了後、得られた反応液を10℃まで冷却し、20%水酸化ナトリウム水溶液137gを加え、30分間撹拌した。分液後、溶媒を減圧留去し、赤褐色液体として3,4-ビス(1-エトキシエトキシ)ブロモベンゼンを198.07g(収率99%)を得た。
【0045】
実施例1 3,4-ビス(1-エトキシエトキシ)スチレンの合成
温度計を装着した100mL三つ口丸底フラスコに、室温、窒素雰囲気下において、合成例1で取得した3,4-ビス(1-エトキシエトキシ)ブロモベンゼン 5.92g(15.01mmol)、1,2-ジメトキシエタン 33.55g、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン 3.12g(18.01mmol)を加え、撹拌下に0℃まで冷却し、イソプロピルマグネシウムクロリド 塩化リチウム錯体・テトラヒドロフラン溶液(濃度14%) 18.68g(18.01mmol)を同温にて1時間かけて滴下した。滴下後、10℃で24時間熟成してグリニャール試薬を得た。
【0046】
上記の通り取得した化合物を分析し、3,4-ビス(1-エトキシエトキシ)ブロモベンゼンの転化率は100%、選択率は97%であった。
【0047】
上記の操作によって得られたグリニャール試薬に、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)ジクロリド 69.8mg(0.13mmol)とトルエン 33.55gを加えた後、反応温度を5~10℃に保ちながら、塩化ビニルガス 1.41g(22.5mmol)を1.5時間かけて吹き込んだ。
【0048】
反応終了後、反応液に15%塩化アンモニウム水溶液を加えて生成した塩を溶解し、有機層を分離した。得られた有機層を2%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄後、溶媒を減圧留去した。さらに、減圧蒸留により、無色透明液体 3.31gを得た。
【0049】
取得した化合物を核磁気共鳴分析、質量分析により分析し、その結果、当該無色溶液は、3,4-ビス(1-エトキシエトキシ)スチレンであることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、3,4-ビス(1-エトキシエトキシ)スチレンの純度は、98.4%であった(収率79%)。
【0050】
またクロスカップリング反応におけるグリニャール試薬の転化率は93%、選択率は92%であった。
【0051】
実施例2 3,4-ビス(1-エトキシエトキシ)スチレンの合成
実施例1において、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミンの代わりにN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンを使用した以外は、実施例1と同様に行い、無色溶液3.20gを得た。
【0052】
上記の通り取得した化合物を分析し、グリニャール試薬調製時の転化率は96%、選択率は93%であった。また、グリニャール試薬の転化率は93%、選択率は93%であった。
【0053】
実施例3 アミンの使用量
実施例1において、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミンの使用量を2.73g(15.76mmol)とした以外は、実施例1と同様に行い、無色溶液2.47gを得た。
【0054】
上記の通り取得した化合物を分析し、グリニャール試薬調製時の転化率は98%、選択率は92%であった。また、グリニャール試薬の転化率は93%、選択率は98%であった。
【0055】
実施例4 ニッケル触媒の配位子
実施例1において、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)ジクロリドの代わりに[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル(II)ジクロリドを使用した以外は、実施例1と同様に行い、無色溶液3.41gを得た。
【0056】
上記の通り取得した化合物を分析し、グリニャール試薬調製時の転化率は99%、選択率は92%であった。また、グリニャール試薬の転化率は97%、選択率は99%であった。
【0057】
実施例5 ニッケル触媒の配位子
実施例1において、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)ジクロリドの代わりにビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリドを使用した点、および塩化ビニルガスの吹き込み後、同温にて1日熟成させた点、以外は、実施例1と同様に行った。
【0058】
上記の通り取得した化合物を分析し、グリニャール試薬調製時の転化率は99%、選択率は92%であった。また、グリニャール試薬の転化率は95%、選択率は88%であった。
【0059】
比較例1 アミン種の影響
実施例1において、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミンの代わりにN,N-ジイソプロピルエチルアミンを使用した以外は、実施例1と同様に行い、無色溶液1.52gを得た。
【0060】
上記の通り取得した化合物を分析し、グリニャール試薬調製時の転化率は98%、選択率は76%であった。また、グリニャール試薬の転化率は91%、選択率は99%であった。
【0061】
比較例2 アミン種の影響
実施例1において、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミンの代わりにN,N’-ジメチルピペラジンを使用した以外は、実施例1と同様に行い、無色溶液1.45gを得た。
【0062】
上記の通り取得した化合物を分析し、グリニャール試薬調製時の転化率は87%、選択率は85%であった。また、グリニャール試薬の転化率は90%、選択率は93%であった。
【0063】
比較例3 アミン種の影響
実施例1において、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミンの代わりに1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンを使用した以外は、実施例1と同様に行った。グリニャール試薬調製時の反応液が粘性の高いペースト状で撹拌不能となり、後のクロスカップリング反応を行うことができなかった。
【0064】
なお、上記の通り取得した化合物を分析し、グリニャール試薬調製時の転化率は99%、選択率は69%であった。
【0065】
比較例4 アミンの使用量
実施例1において、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミンの使用量を3.64g(21.01mmol)とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0066】
上記の通り取得した化合物を分析し、グリニャール試薬調製時の転化率は98%、選択率は92%であった。また、グリニャール試薬の転化率は39%、選択率は99%であった。
【0067】
比較例5 アミン種の影響
実施例1において、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミンを使用しなかった以外は、実施例1と同様に行い、無色溶液2.47gを得た。
【0068】
上記の通り取得した化合物を分析し、グリニャール試薬調製時の転化率は51%、選択率は68%であった。また、グリニャール試薬の転化率は82%、選択率は80%であった。
【0069】
以上の実施例1~5および比較例1~5の結果を表1にまとめた。なお、表1中、アミンを略式で記載した。略式記載の内、PMDETAはN,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、TMEDAはN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、DMPIPはN,N’-ジメチルピペラジン、DIPEAはN,N-ジイソプロピルエチルアミン、DABCOは1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンをそれぞれ表す。
また、dpppは1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、dppeは1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンをそれぞれ表す。
【0070】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の多置換エーテル性置換基を有するオキシスチレン化合物を製造する方法は、高収率、簡便な工程で多置換エーテル性置換基を有するオキシスチレン化合物を製造することが可能である。従って本発明は、産業上非常に有効である。