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特許7509574表皮材止着部材の製造方法と表皮材止着部材製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】表皮材止着部材の製造方法と表皮材止着部材製造装置
(51)【国際特許分類】
   A47C 31/02 20060101AFI20240625BHJP
   B68G 7/052 20060101ALI20240625BHJP
   B60N 2/58 20060101ALN20240625BHJP
【FI】
A47C31/02 B
B68G7/052 A
B60N2/58
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020087807
(22)【出願日】2020-05-20
(65)【公開番号】P2021180778
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】張 万里
(72)【発明者】
【氏名】奥山 光
(72)【発明者】
【氏名】中谷 淳志
(72)【発明者】
【氏名】米澤 誠一郎
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/163329(WO,A1)
【文献】特表2002-510986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 31/02
B68G 7/052
B60N 2/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮材(18)の端縁に取り付けられ、前記表皮材(18)を座席の表面を覆うように取り付け固定するための止着用クリップ(30)が係止される表皮材止着部材(10)の製造方法であって、
前記表皮材(18)の端縁に固定される帯状部材(12)の一方の端縁部(12a)に長手方向に沿って一体に設けられた樹脂製のクリップ係止部材(14)を形成するもので、
前記帯状部材(12)に樹脂製の前記クリップ係止部材(14)を形成する一対のロール(52,53)を設け、前記一対のロール(52,53)表面には、前記クリップ係止部材(14)を形成するキャビティ(54)が形成されており、
前記一対のロール(52,53)の前記キャビティ(54)が形成された周面の側方部分は、前記帯状部材(12)を挟持する挟持側面(52a,53a)であり、前記各挟持側面(52a,53a)は前記キャビティ(54)の外側端縁(54a)に対して段差を有して形成され、
前記一対のロール(52,53)の前記キャビティ(54)に対面して、前記クリップ係止部材(14)を形成する樹脂を前記キャビティ(54)に充填するノズル部材(60)が設けられ、
前記製造方法は、
回転する前記一対のロール(52,53)の各々の前記キャビティ(54)に、前記ノズル部材(60)を介して前記クリップ係止部材(14)を形成する樹脂を充填する成形工程と、
前記一対のロール(52,53)の回転に合わせて前記帯状部材(12)を前記一対のロール(52,53)間に通して、前記クリップ係止部材(14)を形成する樹脂を前記一対のロール(52,53)で押圧し、前記帯状部材(12)の両面に連続的に前記クリップ係止部材(14)を圧着させる圧着工程とを有することを特徴とする表皮材止着部材の製造方法。
【請求項2】
前記クリップ係止部材(14)は、前記帯状部材(12)の前記端縁部(12a)に長手方向に沿って形成された中央板状部(20)と、前記中央板状部(20)と交差する面を有して前記長手方向に所定間隔で交互に形成された複数のリブ部(28)と、前記リブ部(28)の間に形成された複数の係止凹部(29)とを有し、 前記一対のロール(52,53)の表面に、前記キャビティ(54)が各々設けられ、
前記一対のロール(52,53)の回転により、前記帯状部材(12)の両側に前記中央板状部(20)と、前記帯状部材(12)の少なくとも一方の面に前記リブ部(28)及び前記係止凹部(29)を形成する請求項1記載の表皮材止着部材の製造方法。
【請求項3】
前記一対のロール(52,53)の回転により、前記帯状部材(12)の両側に対称な位置又は/及び形状に、前記中央板状部(20)と、前記リブ部(28)及び前記係止凹部(29)を形成する請求項2記載の表皮材止着部材の製造方法。
【請求項4】
前記クリップ係止部材(14)を形成する樹脂は、前記圧着工程にて前記帯状部材(12)に圧着されるまでは、圧着面側が部分的又は全体的に溶融しており、前記帯状部材(12)に圧着された後に凝固する請求項3記載の表皮材止着部材の製造方法。
【請求項5】
表皮材(18)の端縁に取り付けられ、前記表皮材(18)を座席の表面を覆うように取り付け固定するための止着用クリップ(30)が係止される表皮材止着部材(10)の製造装置であって、
前記表皮材(18)の端縁に固定される帯状部材(12)の一方の端縁部(12a)に長手方向に沿って一体に設けられた樹脂製のクリップ係止部材(14)を形成するもので、
前記帯状部材(12)に樹脂製の前記クリップ係止部材(14)を形成する一対のロール(52,53)を備え、前記一対のロール(52,53)表面に前記クリップ係止部材(14)を形成するキャビティ(54)が形成され、
前記一対のロール(52,53)の前記キャビティ(54)が形成された周面の側方部分は、前記帯状部材(12)を挟持する挟持側面(52a,53a)であり、前記各挟持側面(52a,53a)は前記キャビティ(54)の外側端縁(54a)に対して段差を有して形成され、
前記一対のロール(52,53)の前記キャビティ(54)に対面して、前記クリップ係止部材(14)を形成する樹脂を前記キャビティ(54)に充填するノズル部材(60)が設けられ
回転する前記一対のロール(52,53)の間に前記帯状部材(12)を通して、前記ノズル部材(60)から前記キャビティ(54)に射出された前記樹脂を、前記帯状部材(12)の両面に連続的に一体成形可能に設けられたことを特徴とする表皮材止着部材製造装置。
【請求項6】
前記キャビティ(54)は、前記クリップ係止部材(14)の中央板状部(20)と、前記中央板状部(20)と交差する面を有して前記長手方向に所定間隔で設けられた複数のリブ部(28)と、前記リブ部(28)の間に設けられた複数の係止凹部(29)とを成形する形成部(20d,28a,29a)を連続的に備える請求項5記載の表皮材止着部材製造装置。
【請求項7】
前記キャビティ(54)の前記形成部(20d,28a,29a)は、前記リブ部(28)と前記係止凹部(29)を、前記係止部材の両面において対称な位置又は/及び形状とする請求項6記載の表皮材止着部材製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、椅子や座席等の表面を覆う表皮材を座席等に張設し、表皮材の端縁を所定位置に固定するための表皮材止着部材の製造方法と表皮材止着部材製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、室内で利用される椅子や車両の座席等では、座面や背当てなど人体に触れる部分にクッション材や柔軟なパッドを設置し、その表面を表皮材で被覆したものが多く用いられている。このような表皮材の被覆及び固定には様々な構造が採用されており、特に、表皮材を簡単且つきれいに固定しつつ、表皮材の端縁は外観的に隠蔽できる構造の表皮材止着部材が用いられている。表皮材止着部材の取付構造は、座席等のクッション材の溝内にワイヤを配置し、表皮材の端縁に沿って表皮材止着部材を縫い付け、この表皮材止着部材に所定間隔でクリップを係合させ、これらのクリップを、座席等に設けられたクッション材内のワイヤに係合させて、表皮材に張力をかけた状態で座席等に止着するものである。
【0003】
この表皮材止着部材は、例えば、特許文献1に開示されているように、シート材を縫い付けるための帯状部材であるテープ部材と、テープ部材の長手方向と平行な一端縁部であって、シート材とは反対側の端縁部に一体的に樹脂を成形して設けられたクリップ係止部材とから成り、テープ部材の長さに長尺状に形成されている。クリップ係止部材は、長手方向と直交する断面形状が、矢印状に形成され、長手方向に沿って所定の短い間隔で、長手方向と直交する方向に切られた溝状のジョイント部が設けられている。これにより、表皮材止着部材にクリップの一対の脚部を係合し、クリップが長手方向に移動することなく取り付けることができる。さらに、クリップは、表皮材止着部材のジョイント部での係止位置を変えることにより、長手方向の任意の位置に取り付けることができる。そして、クリップのフックをクッション材内のワイヤに係合させて、表皮材をクッション材表面に止着する。
【0004】
この表皮材止着部材は、テープ部材の表面にクリップ係止部材が一体成形により固定されているもので、長尺のテープ部材に連続的にクリップ係止部材を成形している。このクリップ係止部材の製造方法としては、例えば特許文献2に開示されている面ファスナーの製造方法と同様の方法が考えられる。即ち、クリップ係止部材の成形に一対の成形用ロールを用い、成形用ロール表面に形成されたキャビティにクリップ係止部材用の樹脂を注入して、テープ部材表面にクリップ係止部材を成形するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2013/069114号公報
【文献】特開平10-146206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示された製造方法は、多孔性シート材料に樹脂を一体成形するもので、溶融樹脂がシート材料に容易に侵入し一体化することができる。また、多孔性シートは表出することなく樹脂に内包されるため、樹脂と多孔性シートの結合強度は、高くなくても構わない。しかし、表皮材止着部材は、表皮材の止着にある程度の強度が要求されるので、テープ部材には緻密な構造で強度のあるものが用いられる。また、テープ部材の一端は、表皮材の縫い付けを容易にすべく表出していることが好ましいため、樹脂は、テープ部材の一端で固定されるべく強固に結合している必要がある。従って、特許文献2に開示された製造方法は、そのままでは表皮材止着部材のクリップ係止部材の成形に用いることができないものである。
【0007】
さらに、テープ部材が緻密な構造であることから、テープ部材の表面に強固に樹脂を一体に成形することが難しい。特に、成形用ロールを用いて、連続的に長尺のテープ部材表面に樹脂を一体成形する場合、テープ部材の樹脂への注入圧や、樹脂とテープ部材と圧接圧を高くすることが難しく、テープ部材とクリップ係止部材の結合強度を上げつつ連続性により効率良く製造することは相反する課題であり、難しいものであった。
【0008】
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、クリップ係止部材の連続成形が容易に可能であり、帯状部材とクリップ係止部材の結合強度も高くすることが可能な表皮材止着部材の製造方法と表皮材止着部材製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、表皮材の端縁に取り付けられ、前記表皮材を座席の表面を覆うように取り付け固定するための止着用クリップが係止される表皮材止着部材の製造方法であって、前記表皮材の端縁に固定される帯状部材の一方の端縁部に長手方向に沿って一体に設けられた樹脂製のクリップ係止部材を形成するもので、前記帯状部材に樹脂製の前記クリップ係止部材を形成する一対のロールを設け、前記一対のロール表面には、前記クリップ係止部材を形成するキャビティが形成されており、前記一対のロールの前記キャビティが形成された周面の側方部分は、前記帯状部材を挟持する挟持側面であり、前記各挟持側面は前記キャビティの外側端縁に対して段差を有して形成され、前記一対のロールの前記キャビティに対面して、前記クリップ係止部材を形成する樹脂を前記キャビティに充填するノズル部材が設けられ、前記製造方法は、回転する前記一対のロールの各々の前記キャビティに、前記クリップ係止部材を形成する樹脂を充填する工程と、前記一対のロールの回転に合わせて前記帯状部材を前記一対のロール間に通して、前記クリップ係止部材を形成する樹脂を前記一対のロールで押圧し、前記帯状部材の両面に連続的に前記クリップ係止部材を圧着させる圧着工程とを有する表皮材止着部材の製造方法である。
【0010】
前記クリップ係止部材は、前記帯状部材の前記一方の端縁部に長手方向に沿って形成された中央板状部と、前記中央板状部と交差する面を有して前記長手方向に所定間隔で交互に形成された複数のリブ部と、前記リブ部の間に形成された複数の係止凹部とを有し、前記一対のロールの表面に前記キャビティが各々設けられ、前記一対のロールの回転により、前記帯状部材の両側に前記中央板状部と、前記帯状部材少なくとも一方の面に前記リブ部及び前記係止凹部を形成するものである。
【0011】
前記一対のロールの回転により、前記帯状部材の両側に対称な位置又は/及び形状に、前記中央板状部と、前記リブ部及び前記係止凹部を形成するものである。
【0012】
前記クリップ係止部材を形成する樹脂は、前記圧着工程にて前記帯状部材に圧着されるまでは、圧着面側が部分的又は全体的に溶融しており、前記帯状部材に圧着された後に凝固するものである。
【0013】
またこの発明は、表皮材の端縁に取り付けられ、前記表皮材を座席の表面を覆うように取り付け固定するための止着用クリップが係止される表皮材止着部材製造装置であって、前記表皮材の端縁に固定される帯状部材の一方の端縁部に長手方向に沿って一体に設けられた樹脂製のクリップ係止部材を形成するもので、前記帯状部材に樹脂製の前記クリップ係止部材を形成する一対のロールを備え、前記一対のロール表面に前記クリップ係止部材を形成するキャビティが形成され、前記一対のロールの前記キャビティが形成された周面の側方部分は、前記帯状部材を挟持する挟持側面であり、前記各挟持側面は前記キャビティの外側端縁に対して段差を有して形成され、前記一対のロールの前記キャビティに対面して、前記クリップ係止部材を形成する樹脂を前記キャビティに充填するノズル部材が設けられ、回転する前記一対のロールの間に前記帯状部材を通して、前記ノズル部材から前記キャビティに射出された前記樹脂を、前記帯状部材の両面に連続的に一体成形可能に設けられた表皮材止着部材製造装置である。
【0014】
前記キャビティは、前記クリップ係止部材の中央板状部と、前記中央板状部と交差する面を有して前記長手方向に沿って所定間隔で設けられた複数のリブ部と、前記リブ部の間に設けられた複数の係止凹部とを成形する形成部を連続的に備えるものである。さらに、前記キャビティの形成部は、前記リブ部と前記係止凹部を、前記係止部材の両面において対称な位置又は/及び形状とするものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明の表皮材止着部材の製造方法と表皮材止着部材製造装置によれば、クリップ係止部材の連続成形が容易に可能であり、帯状部材とクリップ係止部材の結合強度も高い表皮材止着部材を製造することが可能である。特に、繊維が密に設けられ強度の高い帯状部材にも強固にクリップ係止部材を設けることができ、複雑な凹凸を有するクリップ係止部材を正確且つ確実に帯状部材に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の一実施形態の表皮材止着部材製造装置の成形用ロールを示す正面図である。
図2】この発明の一実施形態の表皮材止着部材製造装置の成形用ロールを示す右側面図である。
図3】この発明の一実施形態の表皮材止着部材製造装置の成形用ロールを示す斜視図である。
図4図1のA-A断面図である。
図5図4のB部の拡大断面図である。
図6】この発明の一実施形態の表皮材止着部材製造装置のノズル部材の正面図(a)、C-C断面図(b)である。
図7】この実施形態の表皮材止着部材製造装置により製造した表皮材止着部材を示す部分破断斜視図である。
図8】この実施形態の表皮材止着部材製造装置により製造した表皮材止着部材の右側面図である。
図9】この実施形態の表皮材止着部材製造装置により製造した表皮材止着部材の正面図(a)、底面図(b)である。
図10図9(a)のD-D断面図である。
図11】この発明の一実施形態の表皮材止着部材製造装置により製造した表皮材止着部材の使用状態を示す部分破断斜視図である。
図12】この発明の一実施形態の表皮材止着部材のクリップ係止部材に止着用クリップを係止した状態を示す右側面図(a)、YZ面断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の表皮材止着部材の製造方法と表皮材止着部材製造装置の一実施形態について、図面に基づいて説明する。先ず、この実施形態の製造方法と製造装置により製造される表皮材止着部材10は、図7図12に示すように、織布等の長尺状の帯状部材12と、帯状部材12の長手方向に沿って設けられたクリップ係止部材14とから成る。クリップ係止部材14は、ポリプロピレン,ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂により成形され、帯状部材12の表皮材18が固定される端縁部12bとは反対側の端縁部12aに、長手方向に沿って一体にインサート成形して設けられる。クリップ係止部材14は、後述する止着用クリップ30等を取り付けるものである。
【0018】
表皮材止着部材10は、図11に示すように、車両等の座席のクッション材16の表面の所定位置に、座席の表皮材18を張るために用いられる。表皮材18は、クッション材16の表面を覆う革や布、合成皮革シート等であり、クッション材16の溝16aに挿入される端縁18aに、表皮材止着部材10の帯状部材12が縫い糸17により縫い付けられて固定される。
【0019】
クッション材16は、座席の形状に成形された発泡ポリウレタン等の合成樹脂フォーム材であり、クッション材16に表皮材止着用の溝16aが形成され、溝16a内には、ワイヤ15が設置されている。ワイヤ15は金属製の線材であり、クッション材16の成形時にインサート成形で組み込むもので、位置ずれしないように強固に固定されている。
【0020】
この発明の表皮材止着部材10の説明では、図7図11他に示すように、互いに直交するXYZ軸方向を基準として方向を説明する。X軸方向は、表皮材止着部材10の長手方向と一致し、表皮材18の端縁が延びる方向と一致する。表皮材止着部材10をクッション材16の溝16aに挿入する挿入方向が、X軸方向と直交するZ軸方向であり、上下方向という。さらに、表皮材止着部材10の長手方向であるX軸方向、及び上下方向であるZ軸方向と直交する方向をY軸方向とし、左右方向という。この左右方向に平行な方向を側方ともいう。
【0021】
この実施形態の表皮材止着部材10の帯状部材12は、図7図12に示すように、Z軸方向に一定幅でX軸方向に長い帯状の長尺部材であり、表皮材18と同程度の強度を有した織布や不織布、編物、合成皮革、その他合成皮革と布地の積層体等で形成されている。帯状部材12を構成する材料は、ナイロン、ポリエステル、アクリル等適宜の材料を選択し得るものである。なお、帯状部材12は、クリップ係止部材14と別部材である他、クリップ係止部材14と一体に樹脂により形成されてもよい。
【0022】
帯状部材12の端縁部12aに沿って一体に設けられたクリップ係止部材14は、帯状部材12の端縁部12aを挟み込むように熱可塑性樹脂をインサート成形して、帯状部材12の長手方向に沿って設けられ、帯状部材12の長さに形成されている。
【0023】
クリップ係止部材14は、帯状部材12の面と平行な面を有して、X軸方向に一定幅で長尺状に設けられた中央板状部20を備えている。中央板状部20は、帯状部材12の表面12cと直交する方向のY軸方向の幅が、帯状部材12よりも大きく、帯状部材12を一体的に挟持するように設けられている。中央板状部20の長手方向に沿った一方の端縁であって、帯状部材12を保持した側である保持部20aには、中央板状部20の表面と直交する方向であってX軸方向に沿った面を有する基端側の端縁フランジ部22が一体に形成されている。端縁フランジ部22の帯状部材12側のX軸方向に沿った両側縁角部には、外側に湾曲した曲面状の面取りが施されている。さらに、中央板状部20のZ軸方向の中間部には、中央板状部20の表面と直交する方向であってX軸方向に沿った面を有し端縁フランジ部22よりもY軸方向の幅の広い中間フランジ部24が一体に形成されている。中間フランジ部24は、中央板状部20のZ軸方向の中心部を含むように形成されている。
【0024】
中間フランジ部24を挟んで保持部20aとは反対側の下端側の中央板状部20である下端部20bの端縁には、長手方向であるX軸方向に沿って下端側の端縁フランジ部26が一体に形成されている。端縁フランジ部26のX軸方向に沿った両側縁角部の下端側には、外側に湾曲した曲面状の面取りが施されている。端縁フランジ部22,26は、中央板状部20のX軸方向に平行に両端縁に形成され、Y軸方向の幅は、下端側の端縁フランジ部26の方が基端側の端縁フランジ部22よりも僅かに狭く形成されている。また、端縁フランジ部22,26のY軸方向の両側縁部間の幅は、中間フランジ部24のY軸方向の両側縁部間の幅よりも狭く形成されている。各端縁フランジ部22,26のZ軸方向の厚みは、中間フランジ部24よりも厚く形成されている。各フランジ部22,24,26は、中央板状部20の表面20cと直交するY軸方向の寸法が、中央板状部20の長手方向と直交するZ軸方向である上下方向の寸法よりも小さいものである。
【0025】
表皮材止着部材10は、中央板状部20の長手方向であるX軸方向と直交する面の断面形状が、図8に示すように、中央板状部20の上下方向であるZ軸方向の中心軸を中心として、端縁フランジ部22,26と中間フランジ部24が線対称に設けられている。さらに、中央板状部20の両面には、中央板状部20及び中間フランジ部24と下端側の端縁フランジ部26の各面に対して、各々直交するY軸方向に突出して、中央板状部20の長手方向に沿って一定間隔で複数のリブ部28と複数の凹部29が交互に形成されている。リブ部28と凹部29は、中央板状部20の両面に形成され、中間フランジ部24のZ軸方向の下面と、下端側の端縁フランジ部26のZ軸方向の上面につながるように突出して、一体に設けられている。リブ部28と凹部29は、クリップ係止部材14のX軸方向に沿って一定間隔で、中央板状部20の両面の互いに対向する位置に、中央板状部20を中心として線対称に形成されている。リブ部28の両表面間のY軸方向の幅は、中間フランジ部24から端縁フランジ部26に向かって、直線的に漸次小さくなるように形成され、中央板状部20の両側で、リブ部28がZ軸方向に斜面状に形成されている。
【0026】
この実施形態の表皮材止着部材10に係止される止着用クリップ30は、合成樹脂で一体に成形されたものであり、図11図12に示すように、一対の係止爪32を有する。係止爪32は互いに対向して形成され、係止爪32の基端部は、止着用クリップ30の係止爪基部34の両側に一体に設けられ、係止爪32は係止爪基部34から、図12においてZ軸方向の上方に突出し、上方へ行くにつれて互いの左右方向の間隔が広がるように形成されている。係止爪32の先端部はそれぞれ内側であるY軸方向に互いに向かい合って近づく方向に屈曲している。この係止爪32と係止爪基部34とで係止部31が形成される。係止爪32は、表皮材止着部材10のクリップ係止部材14の中間フランジ部24から下端側の端縁フランジ部26までを挟持して係止される。
【0027】
一対の係止爪32の互いに対向する内側面には、係止突起36が設けられている。係止突起36は、係止爪32の互いに向き合う方向に交差するX軸方向の中間の位置に、Y軸方向に互いに対向するように突出して設けられている。係止突起36のX軸方向の厚みほぼ一定であり、クリップ係止部材14の係止凹部29のX軸方向の幅よりも小さく、クリップ係止部材14の係止凹部29に嵌合可能であってリブ部28に係止される。従って、止着用クリップ30は、その位置をクリップ係止部材14のX軸方向に調節してリブ部28に係止することができる。
【0028】
係止爪基部34の、下面には、フック38が設けられている。フック38は、一対の係止爪32の一方の端部から連続して設けられ、Z軸方向下方に延出する延出部と、延出部の先端から図12における右方向に屈曲して、係止部31に向けて傾斜する爪状部とを有している。延出部と爪状部で囲まれたU字状の溝部が、ワイヤ15が挿通されるワイヤ保持空間37となっている。
【0029】
一対の係止爪32のうち、フック38の先端部38eと対向する係止爪32には、その係止爪32と一体にワイヤガイド片40が設けられている。ワイヤガイド片40は、係止爪32の突出方向の中間付近に設けられ、係止爪32から離れるにつれて下方に向かう傾斜方向に延出し、係止爪基部34の下面34bの側方付近で折り曲げられてフック38の延出部38aに対して平行にZ軸方向下方に延びている。そしてフック38の延出部38aの中間付近の位置で、略90°に折り曲げられている。ワイヤガイド片46とフック38の間は、ワイヤ15が挿入されるワイヤ挿通口となる。ワイヤ挿通口は、ワイヤ15よりも僅かに狭く、ワイヤ15を通過させた後は抜けることを防ぎ、確実にワイヤ保持空間37に保持するものである。そして、止着用クリップ30を、クリップ係止部材14のX軸方向に位置調節してリブ部28に係止するとともに、表皮材18に皺が生じないようにクッション16のワイヤ15に係合することにより、表皮材18をクッション材16にきれいに被せることができる。
【0030】
次に、この実施形態の表皮材止着部材10の長尺状の帯状部材12にクリップ係止部材14をインサート成形する製造装置と製造方法について説明する。表皮材止着部材製造装置50は、図1図5に示すように、帯状部材12の端縁部12aに樹脂製のクリップ係止部材14を形成する一対のロール52,53を備える。一対のロール52,53の表面には、クリップ係止部材14を形成するキャビティ54が各々形成され、一対のロール52,53の側面が互いに対向して、回転軸56,57により回動可能に設けられている。
【0031】
キャビティ54は、一対のロール52,53の円周上の側面に一周して所定のピッチで形成され、クリップ係止部材14を形成する樹脂が充填可能に形成されている。キャビティ54の形状は、帯状部材12を中心にしてクリップ係止部材14のY軸方向の半分の側面形状に対応した空間形状に形成され、クリップ係止部材14の中間板状部20の形成部20dの他、端縁フランジ部22の形成部22a、リブ部28の形成部28a、係止凹部29の形成部29a、その他端縁フランジ部26や中間フランジ部24の図示しない形成部等の部分を、所定のピッチで連続的に成形する形状に設けられている。
【0032】
一対のロール52,53のキャビティ54は、互いに対面した位置で、一対のロール52,53間の中央を中心に、対称な形状に形成されている。そして、成形するクリップ係止部材14が帯状部材12の厚み方向の中心線を中心に対称に形成されるように、一対のロール52,53のキャビティ54の位相が一致して対向している。一対のロール52,53のキャビティ54が形成された周面の側方部分は、帯状部材12の挟持する挟持側面52a,53aとなっており、キャビティ54の外側端縁54aに対して、帯状部材12の厚みの1/2以下の僅かの段差を有して形成されている。
【0033】
一対のロール52,53が互いに対向して、帯状部材12を挟持する位置から、一対のロール52,53の回転方向に対して逆方向にπ/2の位置には、ノズル部材60が一対のロール52,53に対面して位置している。各ノズル部材60は、一対のロール52,53の側面に接して、一対のロール52,53が回転可能に配置され、一対のロール52,53に接する面は、一対のロール52,53の湾曲と等しい湾曲面60aに形成されている。ノズル部材60のゲート部62aは、図4図6に示すように、一対のロール52,53の回転軸56,57の軸方向に長い偏平な形状に形成され、図示しない射出成形機に接続されている。ノズル部材60のゲート部62に連通し、キャビティ54と対面する注型部64は、回転軸56,57の軸方向であってクリップ係止部材14のZ軸方向の長さにさらに長く偏平に形成されている。
【0034】
次に、この実施形態の表皮材止着部材10の製造方法について説明する。この実施形態の表皮材止着部材10の製造方法は、表皮材18の端縁18aに固定される帯状部材12の一方の端縁部12aに、長手方向に沿って一体にクリップ係止部材14を成形するもので、クリップ係止部材14を形成する一対のロール52,53のキャビティ54に、ノズル部材60を介してクリップ係止部材14を形成する溶融樹脂を射出する(成形工程)。さらに、帯状部材12をロール52,53の挟持側面52a,53a間に挟持した状態で、ロール52,53を互いに対向させて反対方向に等しい速度で回転させる。このとき、ロール52,53の各キャビティ54は、互いに対称な位置及び形状で同期して回転させる。
【0035】
溶融樹脂の射出位置は、帯状部材12にクリップ係止部材14を成形するロール52,53表面の対向位置より、ロール52,53の回転方向上流側に、1/2πの位置である。この位置は、一対のロール52,53の回転速度や溶融樹脂の量、溶融樹脂の冷却具合等により、適宜設定されるもので、後述する溶融樹脂の帯状部材12への密着性等により、一対のロール52,53の回転方向上流側に、1/2π~3/2πの位置の間で適宜設定される。
【0036】
クリップ係止部材14の成形工程の後、図1に示すように、帯状部材12をロール52,53の挟持側面52a,53a間に挟持し、一対のロール52,53が回転すると、1/2πだけ上流側でノズル部材60から射出された溶融樹脂が、キャビティ54に充填された状態で、ロール52,53の対向位置に回動してくる。帯状部材12は、一対のロール52,53の挟持側面52a,53a間に挟持されており、キャビティ54に充填された溶融樹脂が帯状部材12の両面に圧着し、帯状部材12にキャビティ54の溶融樹脂が一体的に接合する(圧着工程)。これにより、一対のロール52,53の回転により、帯状部材12の一端縁部12aの両側面に対称に、中央板状部20、端縁フランジ部22,26、中間フランジ部24が一体に成形される。
【0037】
クリップ係止部材14を形成する樹脂は、圧着工程にて帯状部材12に圧着されるまでは、圧着面側が部分的又は全体的に溶融しており、帯状部材12に圧着された後に凝固する。これは、ロール52,53は金属製で、表面側の空気に接している面よりも、ロール52,53側の金属面と接触している方が冷めやすく、また、ロール52,53の内部に冷却水が循環しているため、内側では溶融樹脂の形が整いつつ、表面側が溶融状態で圧着し易い状態になっていることによる。
【0038】
ノズル部材60は、樹脂を射出する注型部64を備えているので、帯状部材12を挟持側面52a,53a間に挟持するともに、キャビティ54に充填された十分な樹脂が帯状部材12の両面に塗布される。そして、一対のロール52,53の回転により、キャビティ54に充填された樹脂が帯状部材12に圧着され、確実に樹脂が帯状部材12に接合する。さらに、一対のロール52,53は、挟持側面52a,53aに帯状部材12を挟持し、キャビティ54の周縁部には、外側端縁54aを有しているので、ノズル部材60から射出された樹脂がロール52,53の他の表面にはみ出すことがない。
【0039】
この実施形態の表皮材止着部材10の製造方法と表皮材止着部材製造装置50によれば、クリップ係止部材14を効率よく連続的に成形することができ、帯状部材12とクリップ係止部材14の結合強度も高い表皮材止着部材10を製造することができる。さらに、帯状部材12の表面へのクリップ係止部材14の樹脂のはみ出しもなく、きれいな成形が可能である。
【0040】
また、一定の弾力性があり剛性も高いクリップ係止部材14を容易に製造することができ、止着用クリップ30を所定の位置に確実に係止することができるクリップ係止部材14を連続的に高効率で製造することができる。特に、係止凹部29の位置を中央板状部20の両面で対向させて揃えることにより、クリップ係止部材14が相対的に薄くなる領域が形成され、クリップ係止部材14がY軸方向に曲がり易くなる。さらに、表皮材18の吊り込み用の溝16aがカーブしている箇所にも容易に対応可能となる。係止凹部29の形状を揃えることで、係止凹部29に対応する止着用クリップ30の一対の係止爪32を同じ形状にでき、止着用クリップ30とクリップ係止部材14を係合させる時に、形状を合わせる必要が無くなる。
【0041】
その他、繊維が密に設けられ強度の高い帯状部材12にも、高い接着強度で強固にクリップ係止部材14を設けることができる。また、複雑な形状の端縁フランジ部22,26、中間フランジ部24、リブ部28、及び係止凹部29等の凹凸を有するクリップ係止部材14を、正確且つ確実に帯状部材12に形成することができる。
【0042】
なお、この発明の表皮材止着部材の製造方法と製造装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、クリップ係止部材の形状及びそれを成形する一対のロールのキャビティの形状は、適宜設定することができるものである。ノズル部材の形状や、注型部の形状も、成形するクリップ係止部材の形状に合わせて、適宜設定可能なものである。
【符号の説明】
【0043】
10 表皮材止着部材
12 帯状部材
12a,12b 端縁部
14 クリップ係止部材
18 表皮材
20 中央板状部
22,26 端縁フランジ部
24 中間フランジ部
28 リブ部
29 係止凹部
30 止着用クリップ
32 係止爪
36 係止突起
50 表皮材止着部材製造装置
52,53 ロール
54 キャビティ
56,57 回転軸
60 ノズル部材
62 ゲート部
64 注型部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12