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特許7509578光走査装置、対象物認識装置および光走査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】光走査装置、対象物認識装置および光走査方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20240625BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20240625BHJP
   G01S 17/34 20200101ALI20240625BHJP
   G01S 7/491 20200101ALI20240625BHJP
【FI】
G02B26/10 101
G02B26/08 E
G01S17/34
G01S7/491
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020089978
(22)【出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2021184067
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】蘆田 雄樹
【審査官】小濱 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/031327(WO,A1)
【文献】特開2001-041706(JP,A)
【文献】特表2011-501211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/08-26/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が連続的に変化する基準光および測定光を生成する波長掃引光生成部と、
前記測定光を反射する複数の格子要素を有し、前記格子要素を変位させることで前記測定光に位相変調を実行する空間位相変調素子と、
前記空間位相変調素子によって位相変調が実行された前記測定光を直線状に成形することで、直線状に延びる前記測定光を対象物に投影する投影光学系と、
直線状に配列された複数のフォトディテクタを有し、前記対象物で反射された前記測定光を前記複数のフォトディテクタに導く受光部と
を備え、
前記受光部は、前記基準光と重ね合わせた前記測定光を前記複数のフォトディテクタに導き、
前記複数のフォトディテクタは、重ね合わされた前記基準光および前記測定光を検出し、
前記空間位相変調素子は、前記複数の格子要素それぞれの変位を制御することによって前記測定光が前記空間位相変調素子から出射される方向を変更することで、前記測定光を前記対象物に対して走査する光走査装置。
【請求項2】
前記投影光学系は、延設方向に前記測定光を広げつつ前記延設方向からの視点において前記測定光をコリメートすることで、前記延設方向に直線状に延びる前記測定光を前記対象物に投影する請求項1に記載の光走査装置。
【請求項3】
前記受光部は、前記複数のフォトディテクタにそれぞれ対応して直線状に配列された複数のレンズを有し、
前記対象物で反射された前記測定光が前記複数のレンズに入射し、
前記レンズは、入射してきた前記測定光を対応する前記フォトディテクタに導く請求項1または2に記載の光走査装置。
【請求項4】
前記受光部は、前記複数のフォトディテクタにそれぞれ対応して直線状に配列された複数の光合成器をさらに有し、
前記光合成器は、同一の前記フォトディテクタに対応する前記レンズを透過した前記測定光に前記基準光を重ね合わせてから、対応する前記フォトディテクタに前記測定光および前記基準光を導く請求項3に記載の光走査装置。
【請求項5】
前記波長掃引光生成部と前記空間位相変調素子との間に設けられた照射光学系をさらに備え、
前記複数の格子要素は配列方向に配列され、
前記格子要素は前記配列方向に直交する長尺方向に延びた形状を有し、
前記照射光学系は、前記長尺方向において前記空間位相変調素子に対して前記測定光を収束させるとともに、前記長尺方向からの視点において前記空間位相変調素子に対して前記測定光をコリメートする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の光走査装置。
【請求項6】
前記空間位相変調素子は、前記測定光の波長が連続的に変化する波長掃引が実行されている間は、前記格子要素の変位を静止させる、請求項1に記載の光走査装置。
【請求項7】
前記投影光学系は、前記空間位相変調素子による前記測定光の反射角を広げるよう構成される、請求項1に記載の光走査装置。
【請求項8】
請求項1ないしのいずれか一項に記載の光走査装置と、
前記光走査装置が備える複数のフォトディテクタによる検出結果に基づき対象物との位置関係を算出する制御部と
を備えた対象物認識装置。
【請求項9】
波長が連続的に変化する基準光および測定光を生成する工程と、
前記測定光を反射する複数の格子要素を有する空間位相変調素子の前記格子要素を変位させることで前記測定光に位相変調を実行する工程と、
位相変調が実行された前記測定光を直線状に成形することで、直線状に延びる前記測定光を対象物に投影する工程と、
前記対象物で反射された前記測定光と前記基準光とを重ね合わせる工程と、
重ね合わされた前記測定光と前記基準光とを、直線状に配列された複数のフォトディテクタによって検出する工程と
を備え、
前記空間位相変調素子の前記複数の格子要素それぞれの変位を制御することによって前記測定光が前記空間位相変調素子から出射される方向を変更することで、前記測定光を前記対象物に対して走査する光走査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、対象物に投影した光の波長を掃引しつつ対象物で反射された光を検出することで対象物を認識する技術に関し、例えばLiDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging
Detection and Ranging)等で用いられる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばLiDAR等によって対象物を認識するにあたっては、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)が用いられている。このFMCWは、波長を掃引した光を対象物に投影しつつ対象物から反射された光をフォトディテクタで検出した結果に基づき対象物までの距離を計測する。
【0003】
かかる技術を用いて、例えば車両等の周囲に存在する対象物を認識するためには、対象物に対して光を二次元的に走査する必要がある。このような光の二次元走査は、例えば特許文献1に開示されているMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーにより実行できる。このMEMSミラーは、直交する2個の軸のそれぞれの周りで回動できる。MEMSミラーを一方の軸を中心に回動させつつMEMSミラーに光を反射させることで、光が主走査方向に走査される(主走査)。この主走査では、対象物に入射した光は、MEMSミラーに向けて反射され、さらにMEMSミラーによってフォトディテクタへ反射されて、フォトディテクタにより検出される。そして、他方の軸の周りでMEMSミラーを回動させて光の位置を副走査方向に変位させつつ主走査を繰り返すことで、二次元的に光を走査できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-016481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなMEMSミラーを用いた光の二次元走査では、副走査方向へ光の位置を変位させつつ主走査を繰り返す。そのため、走査に時間を要していた。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、光の二次元的な走査に要する時間を抑えることを可能とする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る光走査装置は、波長が連続的に変化する基準光および測定光を生成する波長掃引光生成部と、測定光を反射する複数の格子要素を有し、格子要素を変位させることで測定光に位相変調を実行する空間位相変調素子と、空間位相変調素子によって位相変調が実行された測定光を直線状に成形することで、直線状に延びる測定光を対象物に投影する投影光学系と、直線状に配列された複数のフォトディテクタを有し、対象物で反射された測定光を複数のフォトディテクタに導く受光部とを備え、受光部は、基準光と重ね合わせた測定光を複数のフォトディテクタに導き、複数のフォトディテクタは、重ね合わされた基準光および測定光を検出し、空間位相変調素子は、複数の格子要素それぞれの変位を制御することで、測定光を対象物に対して走査する。
【0008】
本発明に係る光走査方法は、波長が連続的に変化する基準光および測定光を生成する工程と、測定光を反射する複数の格子要素を有する空間位相変調素子の格子要素を変位させることで測定光に位相変調を実行する工程と、位相変調が実行された測定光を直線状に成形することで、直線状に延びる測定光を対象物に投影する工程と、対象物で反射された測定光と基準光とを重ね合わせる工程と、重ね合わされた測定光と基準光とを、直線状に配列された複数のフォトディテクタによって検出する工程とを備え、空間位相変調素子の複数の格子要素それぞれの変位を制御することで、測定光を対象物に対して走査する。
【0009】
このように構成された本発明(光走査装置および光走査方法)では、複数の格子要素を有する空間位相変調素子が用いられる。この空間光変調素子は、格子要素を変位させることで光に位相変調を実行する。かかる空間位相変調素子に測定光を入射させると、測定光は格子要素の変位態様に応じた方向へ射出される。つまり、格子要素の変位態様を制御することで、測定光が射出される方向を変更して、測定光を対象物に対して走査することができる。この際、空間位相変調素子によって位相変調が実行された測定光は、直線状に成形されてから対象物に投影される。すなわち、直線状の測定光が対象物に走査される。これに対応して、直線状に配列された複数のフォトディテクタが設けられており、対象物で反射された直線状の測定光は、複数のフォトディテクタによって検出される。したがって、直線状の測定光の長さと測定光を走査する幅とを有する範囲に対して測定光を一度に走査して、検出することができる。こうして、光の二次元的な走査に要する時間を抑えることが可能となっている。
【0010】
また、空間光変調素子により光を走査することで、次のような利点が期待できる。つまり、MEMSミラーを用いて光を走査しようとすると、測定光の波長が連続的に変化している期間にMEMSミラーが回動することで、適切な光の走査を実行するのが難しくなるおそれが想定される。これに対して、空間光変調素子は、所望の変位量で格子要素を的確に静止させることができ、このようなおそれがない。また、格子要素の変位量は比較的高速に変更できるため、格子要素の変位態様を瞬時に変更して測定光を高速に走査することができる。その結果、光の二次元的な走査に要する時間をより確実に抑えることが可能になると期待できる。
【0011】
また、投影光学系は、延設方向に測定光を広げつつ延設方向からの視点において測定光をコリメートすることで、延設方向に直線状に延びる測定光を対象物に投影するように、光走査装置を構成してもよい。これによって、コリメート光で構成された直線状の測定光を対象物に走査することができる。
【0012】
また、受光部は、複数のフォトディテクタにそれぞれ対応して直線状に配列された複数のレンズを有し、対象物で反射された測定光が複数のレンズに入射し、レンズは、入射してきた測定光を対応するフォトディテクタに導くように、光走査装置を構成してもよい。かかる構成では、対象物で反射された直線状の測定光を、複数のフォトディテクタのそれぞれに的確に導くことができる。
【0013】
また、受光部は、複数のフォトディテクタにそれぞれ対応して直線状に配列された複数の光合成器をさらに有し、光合成器は、同一のフォトディテクタに対応するレンズを透過した測定光に基準光を重ね合わせてから、対応するフォトディテクタに測定光および基準光を導くように、光走査装置を構成してもよい。かかる構成では、対象物で反射された直線状の測定光を、基準光と重ね合わせつつ、複数のフォトディテクタのそれぞれに的確に導くことができる。
【0014】
また、波長掃引光生成部と空間位相変調素子との間に設けられた照射光学系をさらに備え、複数の格子要素は配列方向に配列され、格子要素は配列方向に直交する長尺方向に延びた形状を有し、照射光学系は、長尺方向において空間位相変調素子に対して測定光を収束させるとともに、長尺方向からの視点において空間位相変調素子に対して測定光をコリメートするように、光走査装置を構成してもよい。かかる構成では、空間位相変調素子の複数の格子要素に対して測定光を収束させる。したがって、格子要素のうち、変位が比較的高い精度で制御されている範囲に測定光を絞ることができ、空間位相変調素子から所望の方向へ測定光を的確に射出することが可能となる。
【0015】
本発明に係る対象物認識装置は、上記の光走査装置と、光走査装置が備える複数のフォトディテクタによる検出結果に基づき対象物との位置関係を算出する制御部とを備える。したがって、光の二次元的な走査に要する時間を抑えることが可能となっている。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、光の二次元的な走査に要する時間を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る対象物認識装置を示すブロック図。
図2A】グレーティングライトバルブの構成を模式的に示す平面図。
図2B】グレーティングライトバルブの構成を模式的に示す側面図。
図2C】グレーティングライトバルブの動作を模式的に示す図。
図3】送信ユニットの構成を模式的に示す斜視図。
図4A】走査方向に直交する直交方向における送信ユニットの光学的動作を模式的に示す光線図。
図4B】走査方向における送信ユニットの光学的動作を模式的に示す光線図。
図5】投影光学系の変形例の光学的動作を模式的に示す光線図。
図6】空間位相変調素子の構成の他の例を概略的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は本発明に係る対象物認識装置を示すブロック図である。図1の対象物認識装置1は、周囲を走査することで周囲に存在する対象物Jまでの距離を測定して、対象物Jの存在範囲を認識する。この対象物認識装置1は、対象物Jに測定光ビームLmを送信する送信ユニット2と、対象物Jで反射された測定光ビームLmを受信する受信ユニット6と、送信ユニット2および受信ユニット6を制御する制御部9とを備える。
【0019】
送信ユニット2は、連続的に波長が変化する光ビームを射出する波長掃引光源21と、波長掃引光源21から射出された測定光ビームLmに対して位相変調を実行する空間位相変調素子22とを有する。対象物Jには、空間位相変調素子22によって位相変調が実行された測定光ビームLmが送信される。
【0020】
受信ユニット6は、一列に配列された複数のフォトディテクタで構成されたフォトディテクタアレイ61を有し、対象物Jで反射された測定光ビームLmはフォトディテクタアレイ61によって検出される。より詳しくは、受信ユニット6は、送信ユニット2から受信した基準光ビームLrと、対象物Jで反射された測定光ビームLmとを重ね合わせて合成波を生成し、フォトディテクタアレイ61はこの合成波を検出する。この合成波は、測定光ビームLmと基準光ビームLrとの干渉によって生じるビートを含む。
【0021】
制御部9は、CPU(Central Processing Unit)といったプロセッサあるいはFPGA(Field
Programmable Gate Array)等で構成される。この制御部9は、波長掃引光源21からの測定光ビームLmおよび基準光ビームLrの射出や、空間位相変調素子22による位相変調を制御する。さらに、制御部9は、フォトディテクタアレイ61が検出した測定光ビームLmと基準光ビームLrとの合成波に含まれるビートに基づき、対象物Jまでの距離を算出する。
【0022】
この対象物認識装置1で使用される空間位相変調素子22は、例えば図2A図2Bおよび図2Cに示すグレーティングライトバルブである。ここで、図2Aはグレーティングライトバルブの構成を模式的に示す平面図であり、図2Bはグレーティングライトバルブの構成を模式的に示す側面図であり、図2Cはグレーティングライトバルブの動作を模式的に示す図である。
【0023】
空間位相変調素子22は、方向Gxに配列された複数のリボン221を有する。図2Aに示すように平面視において、構成要素であるリボン221は、方向Gxに短くて方向Gyに長い矩形状を有する。ここで、方向Gyは方向Gxに直交する。リボン221は可撓性を有して、その表面は光ビームを正反射する反射面として機能する。図2Bには、撓んでいないリボン221と、撓んだリボン221(破線)とが併記されている。このように、リボン221は、撓むことで方向Gzに変位する。ここで、方向Gzは方向Gxおよび方向Gyに直交する。空間位相変調素子22は、制御部9からの信号に応じた静電気力によってリボン221を撓ませることで、当該信号が示す変位量だけリボン221を変位させる。これによって、多数の態様で複数のリボン221を変位させることができる。
【0024】
この点について、図2Cの例を用いて説明を行う。モードM1では、複数のリボン221の変位量は等しくゼロであり、空間位相変調素子22は鏡として機能する。モードM2、M3では、リボン221の変位量は方向Gxに周期的に変化して、空間位相変調素子22はブレーズド回折格子として機能する。つまり、空間位相変調素子22は、リボン221の変位量の周期に応じた角度へ測定光ビームLmを反射する。なお、モードM2とモードM3とでは、リボン221の変位の周期が異なり、空間位相変調素子22によって測定光ビームLm光が反射される角度は異なる。したがって、空間位相変調素子22は、複数のリボン221が変位する周期を変化させることで、測定光ビームLmを走査方向に走査することができる。
【0025】
図3は送信ユニットの構成を模式的に示す斜視図であり、図4Aは走査方向に直交する直交方向における送信ユニットの光学的動作を模式的に示す光線図であり、図4Bは走査方向における送信ユニットの光学的動作を模式的に示す光線図である。なお、図4Aでは受信ユニットの構成が併記されている。
【0026】
先ずは、直交方向Drの動作について説明する。波長掃引光源21は、制御部9からの指令に応じて、波長が連続的に変化する波長掃引光ビームLoを射出する。図4Aに示す走査方向Dsからの視点において(換言すれば、直交方向Drにおいて)、波長掃引光源21から射出された波長掃引光ビームLoは、シリンドリカルレンズCによってコリメートされる。こうしてコリメートされた波長掃引光ビームLoは、ビームスプリッタS1によって、基準光ビームLrと測定光ビームLmとに分割される。これによって、測定光ビームLmと同様に波長が連続的に変化する基準光ビームLrが生成される。この基準光ビームLrは送信ユニット2から受信ユニット6に送信されて、後述するビートの生成に使用される。
【0027】
一方、測定光ビームLmは、図4Aに示す走査方向Dsからの視点において、レンズFa1によって空間位相変調素子22に結像される。ここの例では、走査方向Dsが方向Gxに対応し、直交方向Drが方向Gyに対応する(図2図4A図4B)。したがって、測定光ビームLmは、方向Gyにおいて集光されて、各リボン221の中央に結像される。
【0028】
ちなみに、図3に示すように、レンズFa1と空間位相変調素子22との間には、偏光ビームスプリッタS2と1/4波長板Pとが配置されている。したがって、レンズFa1から射出された測定光ビームLmは、偏光ビームスプリッタS2によって反射されて、空間位相変調素子22に向けて直角に曲げられる。こうして偏光ビームスプリッタS2で反射された測定光ビームLmは、1/4波長板Pの通過に伴って1/4波長回転してから、空間位相変調素子22に入射する。
【0029】
空間位相変調素子22に入射した測定光ビームLmは、空間位相変調素子22によって、1/4波長板Pおよび偏光ビームスプリッタS2に向けて反射される。したがって、測定光ビームLmは、1/4波長板Pの通過に伴ってさらに1/4波長回転してから、偏光ビームスプリッタS2に入射する。測定光ビームLmは、2回の1/4波長板Pの通過によって1/2波長回転しているため、偏光ビームスプリッタS2に入射した測定光ビームLmは、偏光ビームスプリッタS2を通過して、レンズFa2、Fa3で構成される投影光学系Fa23に向かう。なお、図4A図4Bでは、説明を簡略化するため反射型の空間光変調素子22の光線の折り返しについては図示を省略している。
【0030】
図4Aに示す走査方向Dsからの視点において、空間位相変調素子22で反射された測定光ビームLmは、レンズFa2によってコリメートされた後に、レンズFa3によって結像される。レンズFa3によって測定光ビームLmが結像される結像点は、レンズFa3と対象物Jとの間に位置する。そのため、測定光ビームLmは、直交方向Drに広がりつつ対象物Jに入射する。このように投影光学系Fa23は、直交方向Drに広がる測定光ビームLmを成形して、対象物Jに照射する。
【0031】
次に、走査方向Dsの動作について説明する。シリンドリカルレンズCは走査方向Dsにはパワーを有さず、図4Bに示す直交方向Drからの視点において(換言すれば、走査方向Dsにおいて)、波長掃引光源21から射出された波長掃引光ビームLoは、シリンドリカルレンズCにより屈折されることなく進行して、測定光ビームLmとしてレンズFa1に入射する。
【0032】
直交方向Drからの視点において、レンズFa1に入射した測定光ビームLmは、レンズFa1によってコリメートされてから空間位相変調素子22に入射する。つまり、測定光ビームLmは、走査方向Dsにおいてコリメートされつつ上述の通り直交方向Drにおいて結像された状態で、空間位相変調素子22に入射する。したがって、方向Gxに平行に延びた測定光ビームLmが、空間位相変調素子22の方向Gyの中央に結像される。
【0033】
一方、空間位相変調素子22は、制御部9からの指令に応じた態様で複数のリボン221を変位させて、測定光ビームLmに対して位相変調を実行する。そのため、空間位相変調素子22に入射した測定光ビームLmは、複数のリボン221の変位態様に応じた角度で空間位相変調素子22によって反射される。図4Bでは、空間位相変調素子22によって4つの異なる角度へ反射された測定光ビームLmが併記されている。こうして、空間位相変調素子22によって反射された測定光ビームLmは、レンズFa2に入射する。
【0034】
ちなみに、上述のとおり、レンズFa1と空間位相変調素子22との間には、偏光ビームスプリッタS2と1/4波長板Pとが配置されている。したがって、測定光ビームLmは、偏光ビームスプリッタS2から1/4波長板Pを経由して空間位相変調素子22に入射する。さらに、測定光ビームLmは、空間位相変調素子22から1/4波長板Pを経由して偏光ビームスプリッタS2に入射する。これら偏光ビームスプリッタS2および1/4波長板Pの機能の詳細は上で説明した通りである。
【0035】
図4Bに示す直交方向Drからの視点において、空間位相変調素子22で反射された測定光ビームLmは、レンズFa2によって結像された後に、レンズFa3によってコリメートされる。図4Bに示すように、レンズFa2、Fa3で構成される投影光学系Fa23は、空間位相変調素子22から射出された測定光ビームLmの幅を狭める。また、上述のように、投影光学系Fa23は、直交方向Drには測定光ビームLmを広げる。つまり、投影光学系Fa23は、直交方向Drに広くて走査方向Dsに狭い直線状に測定光ビームLmを成形して、対象物Jに照射する。
【0036】
かかる構成では、空間位相変調素子22が測定光ビームLmを反射する角度を変更すると、直交方向Drに直線状に延びる測定光ビームLmが対象物Jに対して走査方向Dsに走査される。なお、図4Bに示すように、投影光学系Fa23は、空間位相変調素子22による測定光ビームLmの反射角を広げる。これによって、測定光ビームLmの走査範囲が広く確保されている。
【0037】
以上が送信ユニット2の詳細である。続いては、受信ユニット6について説明を行う。対象物Jで反射された測定光ビームLmは、送信ユニット2に戻らずに、送信ユニット2とは別に設けられた受信ユニット6に入射する。この受信ユニット6は、フォトディテクタアレイ61、光合成素子アレイ63、マイクロレンズアレイ65およびカメラレンズ67を有する。対象物Jで反射された測定光ビームLmは、カメラレンズ67によってマイクロレンズアレイ65に導かれる。そして、マイクロレンズアレイ65を透過した測定光ビームLmは、光合成素子アレイ63を経由してフォトディテクタアレイ61に入射する。
【0038】
フォトディテクタアレイ61は、アレイ方向Aに一列に配列された複数のフォトディテクタ611を有する。これに対して、光合成素子アレイ63は、複数のフォトディテクタ611に対応してアレイ方向Aに一列に配列された複数の光合成素子631を有し、マイクロレンズアレイ65は、複数のフォトディテクタ611に対応してアレイ方向Aに一列に配列された複数のマイクロレンズ651を有する。なお、フォトディテクタアレイ61の個数は、図4Aに示される個数に限られない点は言うまでもない。
【0039】
アレイ方向Aは直交方向Drに対応しており、対象物Jで反射された直線状の測定光ビームLmは、アレイ方向Aに沿って複数のマイクロレンズ651に照射される。そして、複数のマイクロレンズ651を透過した測定光ビームLmは、複数の光合成素子631を経由して複数のフォトディテクタ611に到達する。
【0040】
詳述すると、マイクロレンズ651は、入射してきた測定光ビームLmを対応するフォトディテクタアレイ61に向けて結像する。また、各光合成素子631には、ビームスプリッタS1で波長掃引光ビームLoから分割された基準光ビームLrが送信されており、光合成素子631は、対応するフォトディテクタ611に向けて結像される測定光ビームLmと基準光ビームLrとを重ね合わせて、フォトディテクタ611に向けて射出する。こうして、フォトディテクタ611は、測定光ビームLmと基準光ビームLrとの合成波を検出する。この合成波は、測定光ビームLmと基準光ビームLrとの干渉によって生じるビートを含み、制御部9はこのビートに基づき対象物Jまでの距離を算出する。
【0041】
ちなみに、上述の通り、測定光ビームLmおよび基準光ビームLrに対しては、波長を連続的に変化させる波長掃引が実行される。この波長掃引は、長波長から短波長へ波長を連続的に変化させる、あるいは短波長から長波長へ波長を連続的に変化させる動作である。波長掃引が実行されている間は、空間位相変調素子22は、測定光ビームLmを反射する角度(走査角)に応じた変位態様で複数のリボン221を静止させる。そして、走査角の変更は、この波長掃引が完了して次の波長掃引が開始される間に、複数のリボン221の変位態様を変化させることで実行される。
【0042】
以上に説明した実施形態では、複数のリボン221を有する空間位相変調素子22が用いられる。この空間位相変調素子22は、リボン221を変位させることで光に位相変調を実行するいわゆるグレーティングライトバルブである。かかる空間位相変調素子22に測定光ビームLm(測定光)を入射させると、測定光ビームLmはリボン221の変位態様に応じた方向へ射出される。つまり、リボン221の変位態様を制御することで、測定光ビームLmが射出される方向を変更して、測定光ビームLmを対象物Jに対して走査することができる。この際、空間位相変調素子22によって位相変調が実行された測定光ビームLmは、直線状に成形されてから対象物Jに投影される。すなわち、直線状の測定光ビームLmが対象物Jに走査される。これに対応して、直線状に配列された複数のフォトディテクタ611が設けられており、対象物Jで反射された直線状の測定光ビームLmは、複数のフォトディテクタ611によって検出される。したがって、直線状の測定光ビームLmの長さと、測定光ビームLmを走査する幅とを有する範囲に対して測定光ビームLmを一度に走査して、検出することができる。こうして、光の二次元的な走査に要する時間を抑えることが可能となっている。
【0043】
また、グレーティングライトバルブにより光を走査することで、次のような利点が期待できる。つまり、MEMSミラーを用いて測定光ビームLmを走査しようとすると、測定光ビームLmの波長が連続的に変化している期間にMEMSミラーが回動することで、適切な測定光ビームLmの走査を実行するのが難しくなるおそれが想定される。これに対して、グレーティングライトバルブは、測定光ビームLmの波長が掃引される間、走査角に応じた変位態様でリボン221を的確に静止させることができ、このようなおそれがない。また、リボン221は100kHz以上で動作でき、比較的高速に変更できるため、リボン221の変位態様を瞬時に変更して測定光ビームLmを高速に走査することができる。その結果、測定光ビームLmの二次元的な走査に要する時間をより確実に抑えることが可能になると期待できる。
【0044】
また、投影光学系Fa23は、直交方向Dr(延設方向)に測定光ビームLmを広げつつ直交方向Drからの視点において測定光ビームLmをコリメートすることで、直交方向Drに直線状に延びる測定光ビームLmを対象物Jに投影する。これによって、コリメート光で構成された直線状の測定光ビームLmを対象物Jに走査することができる。
【0045】
また、受信ユニット6(受光部)は、複数のフォトディテクタ611にそれぞれ対応して直線状に配列された複数のマイクロレンズ651(レンズ)を有し、対象物Jで反射された測定光ビームLmが複数のマイクロレンズ651に入射する。そして、マイクロレンズ651は、入射してきた測定光ビームLmを対応するフォトディテクタ611に導く。かかる構成では、対象物Jで反射された直線状の測定光ビームLmを、複数のフォトディテクタ611のそれぞれに的確に導くことができる。
【0046】
また、受信ユニット6は、複数のフォトディテクタ611にそれぞれ対応して直線状に配列された複数の光合成素子631(光合成器)をさらに有する。この光合成素子631は、同一のフォトディテクタ611に対応するマイクロレンズ651を透過した測定光ビームLmに基準光ビームLr(基準光)を重ね合わせてから、対応するフォトディテクタ611に測定光ビームLmおよび基準光ビームLrを導く。かかる構成では、対象物Jで反射された直線状の測定光ビームLmを、基準光ビームLrと重ね合わせつつ、複数のフォトディテクタ611のそれぞれに的確に導くことができる。
【0047】
また、空間位相変調素子22では、複数のリボン221は方向Gx(配列方向)に配列され、リボン221は方向Gy(長尺方向)に延びた形状を有する。これに対して、波長掃引光源21と空間位相変調素子22との間には、レンズFa1(照射光学系)が配置されている。このレンズFa1は、方向Gyにおいて空間位相変調素子22に対して測定光ビームLmを収束させるとともに、方向Gyからの視点において空間位相変調素子22に対して測定光ビームLmをコリメートする。このように、空間位相変調素子22の複数のリボン221に対して測定光ビームLmを収束させているため、リボン221のうち、変位が比較的高い精度で制御されている範囲(中央部)に測定光ビームLmを絞ることができ、空間位相変調素子22から所望の方向へ測定光ビームLmを的確に射出することが可能となる。
【0048】
以上に説明した実施形態では、対象物認識装置1が本発明の「対象物認識装置」の一例に相当し、送信ユニット2および受信ユニット6が本発明の「光走査装置」を構成し、波長掃引光源21およびビームスプリッタS1が本発明の「波長掃引光生成部」を構成し、空間位相変調素子22が本発明の「空間位相変調素子」の一例に相当し、リボン221が本発明の「格子要素」の一例に相当し、受信ユニット6が本発明の「受光部」の一例に相当し、フォトディテクタ611が本発明の「フォトディテクタ」の一例に相当し、光合成素子631が本発明の「光合成器」の一例に相当し、マイクロレンズ651が本発明の「レンズ」の一例に相当し、制御部9が本発明の「制御部」の一例に相当し、直交方向Drが本発明の「延設方向」の一例に相当し、レンズFa1が本発明の「照射光学系」の一例に相当し、投影光学系Fa23が本発明の「投影光学系」の一例に相当し、方向Gxが本発明の「配列方向」の一例に相当し、方向Gyが本発明の「長尺方向」の一例に相当し、対象物Jが本発明の「対象物」の一例に相当し、基準光ビームLrが本発明の「基準光」の一例に相当し、測定光ビームLmが本発明の「測定光」の一例に相当する。
【0049】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記の投影光学系Fa23は測定光ビームLmを対象物Jより前で結像することで、測定光ビームLmの走査角を広げていた。しかしながら、図5のように投影光学系を構成してもよい。ここで、図5は投影光学系の変形例の光学的動作を模式的に示す光線図である。同図では、4個の異なる走査角に投影された測定光ビームLmがそれぞれ併記されている。この投影光学系Fb14は、測定光ビームLmの角度をそれぞれ広げる4個のレンズFb1~Fb4で構成される。
【0050】
また、偏光ビームスプリッタS2および1/4波長板Pは必須の構成ではない。したがって、偏光ビームスプリッタS2および1/4波長板Pを設けずに送信ユニット2を構成してもよい。
【0051】
また、基準光ビームLrの生成方法は上記の例に限られない。例えば、図4Bに示す直交方向Drからの視点において、測定光ビームLmから基準光ビームLrを分割するビームスプリッタによって基準光ビームLrを生成してもよい。
【0052】
また、上述の例では、空間位相変調素子22の一例としてグレーティングライトバルブを用いて説明してきたが、これに限られるものではなく、平面ライトバルブを採用しても良い。平面ライトバルブについて、図6を用いて説明する。
【0053】
図6は空間位相変調素子22の構成の他の例として平面ライトバルブを概略的に示す図である。平面ライトバルブ22は、図示省略の基板上に隣接してマトリクス状に配置された複数の略矩形の反射素子223(格子要素)を備える。当該複数の反射素子223の表面が変調面となる。図6の示す例では、図中の縦方向にM個かつ横方向にN個の反射素子223が配置される。
【0054】
各反射素子223は、固定部材224と、可動部材225とを備える。固定部材224は、上記基板に固定された平面状の略矩形の部材であり、中央に略円形の開口が設けられる。可動部材225は、固定部材224の当該開口に設けられる略円形の部材である。固定部材224の上面(すなわち、図6中の紙面に垂直な方向における手前側の面)には固定反射面が設けられる。可動部材225の上面には可動反射面が設けられる。可動部材225は、図6の紙面に垂直な方向に移動可能である。
【0055】
反射素子223では、固定部材224と可動部材225との相対位置が、制御部9からの信号が示す変位量だけ変位する。この時、縦方向に並ぶ各反射素子223における可動部材225の変位量は同じである。つまり、1列単位(縦方向の単位)で変位量を制御する。したがって、上述したモードM2、M3の場合、列単位で可動部材225の変位量を横方向に周期的に変化させることでブレーズド回折格子として機能する。
【0056】
なお、このような平面ライトバルブを適用する場合、空間位相変調素子22に入射する光をM×Nのサイズとなる矩形状の光に成形する光学系、及び、縦方向に1列に並ぶ反射素子223からの反射光を積算し、直線状の測定光ビームに成形する光学系が搭載されることとなる。
【0057】
以上、説明したように平面ライトバルブを空間位相変調素子22として適用した場合でも、直線状の測定光の長さと測定光を走査する幅とを有する範囲に対して測定光を一度に走査して、検出することができる。こうして、光の二次元的な走査に要する時間を抑えることが可能となっている。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は光を走査させる光走査技術の全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1…対象物認識装置
2…送信ユニット(光走査装置)
21…波長掃引光源21(波長掃引光生成部)
22…空間位相変調素子
221…リボン(格子要素)
6…受信ユニット(光走査装置、受光部)
611…フォトディテクタ
631…光合成素子(光合成器)
651…マイクロレンズ(レンズ)
9…制御部
Dr…直交方向(延設方向)
Fa1…レンズ(照射光学系)
Fa23…投影光学系
Gx…方向(配列方向)
Gy…方向(長尺方向)
J…対象物
Lr…基準光ビーム(基準光)
Lm…測定光ビーム(測定光)
S1…ビームスプリッタ(波長掃引光生成部)
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5
図6