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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
H01L21/68 R
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020104459
(22)【出願日】2020-06-17
(65)【公開番号】P2021197502
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】三輪 要
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-162899(JP,A)
【文献】国際公開第2018/216797(WO,A1)
【文献】特表2015-515760(JP,A)
【文献】国際公開第2016/132909(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/126534(WO,A1)
【文献】特開2019-145770(JP,A)
【文献】国際公開第2013/118781(WO,A1)
【文献】特開2021-28958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と、前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面と、前記第1の面と前記第2の面との間を貫通する第1貫通孔とを備える第1部材と、
第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面と、前記第3の面と前記第4の面との間を貫通して前記第1貫通孔に連通する第2貫通孔とを備える第2部材と、
前記第1部材の前記第2の面と前記第2部材の前記第3の面との間に配置され、前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合層とを備え、
前記第1部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記第1部材の前記第2の面側に前記第1貫通孔を囲むように形成され、環状のシール部材が配置される有底環状のシール部材配置部と、
前記第2貫通孔に挿入され、前記シール部材配置部の底面とで前記シール部材を挟み込む筒状部材とを有し、
前記シール部材は、前記筒状部材の先端部が食い込んで弾性変形している
ことを特徴とする保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載する保持装置において、
前記第1部材を構成する材料の熱膨張率と前記第2部材を構成する材料の熱膨張率とは異なり、
前記筒状部材は、前記先端部の側周面と前記シール部材配置部の側周面との間に隙間が形成されるようにして、前記第2部材に固定されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する保持装置において、
前記第1部材を構成する材料の熱膨張率と前記第2部材を構成する材料の熱膨張率とは異なり、
前記筒状部材は、その外周面と前記接合層との間に隙間が形成されるように配置されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項4】
請求項1から請求項に記載するいずれか1つの保持装置において、
前記第2部材の前記第2貫通孔は、前記筒状部材の軸線方向への移動を規制する規制部を備え、
前記筒状部材は、前記規制部に当接する当接部を備えている
ことを特徴とする保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象物を保持する保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
保持装置として、例えば、特許文献1に、静電チャック部(第1部材)と、静電チャック部を冷却するベース部(第2部材)と、静電チャックとベース部とを接着して一体化する接着層(接合層)とを備える保持装置が開示されている。そして、第1部材には、第1の貫通孔が形成され、第2部材には、第1の貫通孔に連通する第2貫通孔が形成されている。
【0003】
このような保持装置では、第1の貫通孔を通じて保持装置内にプラズマ等が流入し、このプラズマ等が接合層に接触して接合層が腐食するおそれがある。そのため、この保持装置では、接合層の腐食を防止するために、第1部材に、第1の貫通孔を囲む環状の溝部を設け、その溝部に環状のシール部材を配置している。そして、環状の溝部に配置した環状のシール部材を、溝部の底面と第2の貫通孔に固定される筒状の絶縁碍子(筒状部材)の先端面とで挟み込むことにより、そのシール部材によってプラズマ等の接合層への侵入を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6084906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の保持装置では、筒状部材の先端面の幅寸法(先端部の肉厚)が、シール部材の幅寸法(内周縁と外周縁との間の径方向距離)よりも大きいため、筒状部材の平坦な先端面が、シール部材の平坦に変形した平坦面に接触するようにして、筒状部材の先端面がシール部材に密着している。そのため、筒状部材の先端部とシール部材との間の密着性を十分に確保できない場合があり、筒状部材の先端部と溝部の底面との間の気密性を、シール部材によって十分に確保することができないおそれがあった。そして、このようにシール部材のシール性が低下してしまうと、プラズマ等が、筒状部材の先端部とシール部材配置部の底面との間を通過して、接合層に侵入し接触し、接合層を腐食させてしまう。
【0006】
そこで、本開示は上記した問題点を解決するためになされたものであり、シール部材によるシール性を向上させることができる保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本開示の一形態は、
第1の面と、前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面と、前記第1の面と前記第2の面との間を貫通する第1貫通孔とを備える第1部材と、
第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面と、前記第3の面と前記第4の面との間を貫通して前記第1貫通孔に連通する第2貫通孔とを備える第2部材と、
前記第1部材の前記第2の面と前記第2部材の前記第3の面との間に配置され、前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合層とを備え、
前記第1部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記第1部材の前記第2の面側に前記第1貫通孔を囲むように形成され、環状のシール部材が配置される有底環状のシール部材配置部と、
前記第2貫通孔に挿入され、前記シール部材配置部の底面とで前記シール部材を挟み込む筒状部材とを有し、
前記シール部材は、前記筒状部材の先端部が食い込んで弾性変形していることを特徴とする。
【0008】
この保持装置では、第1部材の第2の面側に、第1貫通孔を囲むように形成され、環状のシール部材が配置される有底環状のシール部材配置部を有している。すなわち、第1部材には、第2の面側に開口する有底環状のシール部材配置部が、第1貫通孔を囲むように形成されている。また、第1部材のシール部材配置部内に配置された環状のシール部材と、第2部材の第2貫通孔に挿入され、シール部材配置部の底面とでシール部材を挟み込む筒状部材とを有している。
【0009】
そして、この保持装置では、シール部材は、筒状部材の先端部が食い込んで弾性変形している。すなわち、筒状部材の先端部が、シール部材に食い込むようにして、シール部材を弾性変形させている。例えば、筒状部材の先端部の肉厚を、シール部材の幅寸法(内周縁と外周縁との距離)よりも小さくすることで、筒状部材の先端部をシール部材に食い込ませている。
【0010】
このようにすることにより、筒状部材の先端部とシール部材との密着性を高めることができるので、筒状部材の先端部とシール部材配置部の底面との間の気密性を高めることができる。従って、ガスやプラズマが、第1部材の第1の面側から第1貫通孔を通じて保持装置内に侵入した場合に、プラズマ等が、筒状部材の先端部とシール部材配置部の底面との間を通過して、接合層に侵入して接触することを防止できる。
【0011】
なお、シール部材配置部としては、例えば、環状溝やサグリ孔などを挙げることができる。また、第1貫通孔は、第1の面と第2の面との間を真っ直ぐ延びる貫通孔の他、第1の面と第2の面との間で屈曲する形態の貫通孔や、第2の面から第1の面に向かう途中で複数に分岐して複数の開口が第1の面に形成される貫通孔も含む。
【0012】
上記課題を解決するためになされた本開示の別形態は、
第1の面と、前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面と、前記第1の面と前記第2の面との間を貫通する第1貫通孔とを備える第1部材と、
第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面と、前記第3の面と前記第4の面との間を貫通して前記第1貫通孔に連通する第2貫通孔とを備える第2部材と、
前記第1部材の前記第2の面と前記第2部材の前記第3の面との間に配置され、前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合層とを備え、
前記第1部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記第1部材の前記第2の面側に前記第1貫通孔を囲むように形成され、環状のシール部材が配置される有底環状のシール部材配置部と、
前記第2貫通孔に挿入され、前記シール部材配置部の底面とで前記シール部材を挟み込む先端部を備える筒状部材とを有し、
前記筒状部材は、前記先端部より肉厚が厚い本体部を備えることを特徴とする。
【0013】
この保持装置では、筒状部材が、シール部材配置部の底面とでシール部材を挟み込む先端部と、この先端部より肉厚が厚い本体部とを備えている。このように本体部の肉厚(径方向の厚み)よりも先端部の肉厚(径方向の厚み)を薄くすることで、筒状部材の先端部をシール部材に食い込ませて、シール部材を弾性変形させることが可能となる。具体的には、例えば、筒状部材の先端部の肉厚を、シール部材の幅寸法(内周縁と外周縁との距離、径方向の厚み)よりも小さくすることで、筒状部材の先端部をシール部材に食い込ませることができる。これにより、筒状部材の先端部とシール部材との密着性を高めることができるため、筒状部材の先端部とシール部材配置部の底面との間の気密性を高めることができる。そして、筒状部材について、本体部の肉厚を先端部の肉厚よりも厚くすることで、筒状部材の強度を高めることができる。
【0014】
なお、本体部は、先端部よりも肉厚が厚ければ良く、肉厚が一定である場合に限らず、肉厚が異なる複数の筒状部によって本体部が構成されている場合も含む。また、筒状部材の先端部としては、本体部の先端から突出する1または複数の環状(筒状部材の軸線を囲む環状)の突出部(環状突出部)を挙げることができる。
【0015】
ここで、筒状部材が第2部材に固定され、第1部材を構成する材料の熱膨張率と第2部材を構成する材料の熱膨張率とが異なっている場合、その熱膨張差により第1部材と第2部材との間で面方向(第2の面または第3の面に沿う方向をいう、以下同じ)に変位(ズレ)が生じる可能性がある。その際、筒状部材の先端部に剪断応力が発生し、筒状部材の先端部に亀裂等が発生するおそれがある。
【0016】
例えば、第1部材よりも第2部材が、熱膨張率が大きい場合において、保持部材が加熱されると、第1部材よりも第2部材が大きく膨張することによって、第1部材が第2の面に沿う方向へ変位する量よりも、第2部材が第2の面に沿う方向へ変位する量が大きくなる。このとき、第2部材に固定されている筒状部材は、第2部材とともに、第2の面に沿う方向へ変位する(第2部材と同等の変位量だけ変位する)ことになるが、筒状部材の先端部の側周面がシール部材配置部の側周面に接触するように、筒状部材の先端部がシール部材配置部内に配置されていると、筒状部材の先端部は、シール部材配置部内において第2の面に沿う方向(シール部材配置部の側周面に交差する方向)へ動くことができない。そのため、筒状部材の先端部は、第1部材と同等の変位量しか第2の面に沿う方向へ変位することができず、第2部材と同等に第2の面に沿う方向へ変位することができない。この変位量の差によって、筒状部材の先端部に剪断応力が発生し、この剪断応力によって筒状部材の先端部に亀裂等が発生するおそれがある。
【0017】
逆に、第2部材よりも第1部材が、熱膨張率が大きい場合は、筒状部材のうち先端部が相対的に大きく第2の面に沿う方向へ変位することになり、やはり、筒状部材における変位量の差によって、筒状部材の先端部に剪断応力が発生し、この剪断応力によって筒状部材の先端部に亀裂等が発生するおそれがある。
【0018】
そこで、上記した保持装置において、
前記第1部材を構成する材料の熱膨張率と前記第2部材を構成する材料の熱膨張率とは異なり、
前記筒状部材は、前記先端部の側周面と前記シール部材配置部の側周面との間に隙間が形成されるようにして、前記第2部材に固定されていることが好ましい。
【0019】
この保持装置では、筒状部材は、先端部の側周面とシール部材配置部の側周面との間に隙間が形成されるようにして、第2部材に固定されている。そのため、第1部材と第2部材との熱膨張差によって、第1部材が第2の面に沿う方向へ変位する量と、第2部材が第2の面に沿う方向へ変位する量との間に差が生じた場合、筒状部材の先端部が、シール部材配置部内において第2の面に沿う方向へ動く(シール部材配置部に対して相対的に動く)ことができる(シール部材配置部の側周面に接触するまで移動可能である)。そして、シール部材が弾性体なので、筒状部材の先端部の側周面とシール部材配置部の側周面との間に隙間が形成され、その隙間にシール部材が配置されていても、筒状部材の先端部が第2の面に沿う方向へ動くことができる。従って、筒状部材の全体が、第2部材とともに、第2の面に沿う方向へ同等に変位することができ、第1部材と第2部材との熱膨張差の影響による剪断応力が筒状部材の先端部に発生することを低減できるので、筒状部材の先端部に亀裂等が発生しにくくなる。
【0020】
なお、筒状部材の先端部の側周面とシール部材配置部の側周面との間の隙間(第2の面に沿う方向の距離)は、第1部材と第2部材との熱膨張差によって、第1部材と第2部材との間において生じうる面方向への最大変位量(両部材のズレの最大値)以上とすることが好ましい。
【0021】
こうすることにより、第1部材と第2部材との熱膨張差によって、第1部材と第2部材との間において面方向に変位が生じた場合に、筒状部材の先端部がシール部材配置部に対して相対的に移動することができるので、第1部材と第2部材との熱膨張差の影響による剪断応力が筒状部材に発生することを確実に防止できる。
【0022】
上記した保持装置において、
前記第1部材を構成する材料の熱膨張率と前記第2部材を構成する材料の熱膨張率とは異なり、
前記筒状部材は、その外周面と前記接合層との間に隙間が形成されるように配置されていることが好ましい。
【0023】
この保持装置では、筒状部材の外周面と接合層との間に隙間が設けられている。このため、第1部材と第2部材との熱膨張差によって、第1部材と第2部材との間において面方向に変位が生じた場合に、筒状部材の先端部がシール部材配置部に対して相対的に移動することが、接合層に妨げられることなく可能となる。これにより、第1部材と第2部材との熱膨張差の影響による剪断応力が筒状部材の先端部に発生することを低減できるため、筒状部材の先端部に亀裂等が発生しにくくなる。
【0024】
なお、筒状部材の外周面と接合層との隙間(面方向の隙間)は、第1部材と第2部材との熱膨張差によって、第1部材と第2部材との間において生じうる面方向への最大変位量(両部材のズレの最大値)以上とすることが好ましい。
【0025】
上記した保持装置において、
前記第2部材の前記第2貫通孔は、前記筒状部材の軸線方向への移動を規制する規制部を備え、
前記筒状部材は、前記規制部に当接する当接部を備えていることが好ましい。
【0026】
こうすることにより、筒状部材の軸線方向における位置を、規制部と当接部とによって定めることができる。つまり、シール部材に対する筒状部材の先端部の位置(筒状部材の軸線方向における位置)を、第2部材の規制部と第2貫通孔の規制部とにより、適切な位置(例えば、筒状部材の先端部がシール部材に過剰に食い込まない位置)に定めることができる。
【0027】
これにより、筒状部の先端部が、シール部材に対して過剰に食い込んで、シール部材あるいは筒状部材の先端部が損傷することを防止できる。その結果、筒状部材の先端部によってシール部材を適切に弾性変形させることができ、筒状部材の先端部とシール部材配置部の底面との間を、シール部材によって適切にシールすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本開示によれば、シール部材によるシール性を向上させることができる保持装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】第1実施形態の静電チャックを示す斜視図である。
図2】第1実施形態の静電チャックを示す断面図である。
図3】第1実施形態の静電チャック示す平面図である。
図4図2に示すB部の拡大図である。
図5】第2実施形態の静電チャックを示す断面図である。
図6図5に示すC部の拡大図である。
図7】第1変形例の静電チャックの部分拡大断面図である。
図8】第2変形例の静電チャックの部分拡大断面図である。
図9】第3変形例の静電チャックの部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[第1実施形態]
本開示に係る実施形態である保持装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態では、対象物である半導体ウエハWを保持する静電チャック1を例示して説明する。本実施形態の静電チャック1について、図1図4を参照しながら説明する。
【0031】
本実施形態の静電チャック1は、半導体ウエハW(対象物)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば、半導体製造装置の真空チャンバー内で半導体ウエハWを固定するために使用される。図1に示すように、静電チャック1は、セラミックス部材10と、ベース部材20と、セラミックス部材10とベース部材20とを接合する接合層40とを有する。なお、セラミックス部材10は本開示の「第1部材」の一例であり、ベース部材20は本開示の「第2部材」の一例である。
【0032】
なお、以下の説明においては、説明の便宜上、図1に示すようにXYZ軸を定義する。ここで、Z軸は、静電チャック1の軸線方向(中心軸AXに沿う方向、図1において上下方向)の軸であり、X軸とY軸は、静電チャック1の径方向の軸である。なお、静電チャック1の軸線方向(静電チャック1の中心軸AXに沿う方向)は、筒状部材70の軸線方向(筒状部材70の軸線CLに沿う方向)に一致する方向(図1図2において上下方向、Z軸方向)である。
【0033】
セラミックス部材10は、図1に示すように、円盤状の部材であり、セラミックスにより形成されている。具体的には、セラミックス部材10は、直径の異なる2つの円盤が中心軸を共通にして重なる(詳細には、大きな直径を有する円盤状の下段部の上に、小さな直径を有する円盤状の上段部が重なる形態の)段付きの円盤状をなしている。セラミックスとしては、様々なセラミックスが用いられるが、強度や耐摩耗性、耐プラズマ性等の観点から、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ、Al)または窒化アルミニウム(AlN)を主成分とするセラミックスが用いられることが好ましい。なお、ここでいう主成分とは、含有割合の最も多い成分(例えば、体積含有率が90vol%以上の成分)を意味する。
【0034】
図1図2に示すように、セラミックス部材10は、半導体ウエハWを保持する吸着面11と、セラミックス部材10の厚み方向(Z軸方向に一致する方向、上下方向)について吸着面11とは反対側に設けられる下面12とを備えている。なお、図2は、筒状部材70の軸線CLを通る位置で、静電チャック1を、筒状部材70の軸線方向(軸線CLに沿う方向、図2では上下方向)に切断した断面図である。また、吸着面11は本開示の「第1の面」の一例であり、下面12は本開示の「第2の面」の一例である。
【0035】
また、セラミックス部材10の直径は、上段部が例えば150~300mm程度であり、下段部が例えば180~350mm程度である。セラミックス部材10の厚さは、例えば2~6mm程度である。なお、セラミックス部材10の熱伝導率は、10~50W/mK(より好ましくは、18~30W/mK)の範囲内が望ましい。
【0036】
セラミックス部材10の吸着面11は、凹凸形状をなしている。具体的には、吸着面11には、図2図3に示すように、その外縁付近に環状の環状凸部16が形成され、環状凸部16の内側に複数の独立した柱状の凸部17が形成されている。なお、環状凸部16は、シールバンドとも呼ばれる。環状凸部16の断面(XZ断面)の形状は、図2に示すように、略矩形である。環状凸部16の高さ(Z軸方向の寸法)は、例えば、10μm~20μm程度である。また、環状凸部16の幅(X軸方向の寸法)は、例えば、0.5mm~5.0mm程度である。
【0037】
各凸部17は、図3に示すように、Z軸方向視(平面視)で略円形をなしており、略均等間隔で配置されている。また、各凸部17の断面(XZ断面)の形状は、図2に示すように、略矩形である。凸部17の高さは、環状凸部16の高さと略同一であり、例えば、10~20μm程度である。また、凸部17の幅(Z軸方向視での凸部17の最大径)は、例えば、0.5~1.5mm程度である。なお、セラミックス部材10の吸着面11における環状凸部16より内側において、凸部17が形成されていない部分は、凹部18となっている。
【0038】
そして、半導体ウエハWは、セラミックス部材10の吸着面11における環状凸部16と複数の凸部17とに支持されて、静電チャック1に保持される。半導体ウエハWが静電チャック1に保持された状態では、半導体ウエハWの表面(下面)と、セラミックス部材10の吸着面11(詳細には、吸着面11の凹部18)との間に、空間Sが存在することとなる(図2参照)。この空間Sには、不活性ガス(例えば、ヘリウムガス)が供給されるようになっている。
【0039】
また、セラミックス部材10は、その内部にチャック電極(図示省略)を備えている。チャック電極は、Z軸方向視で略円形をなしており、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成される。このチャック電極に図示しない電源から電圧が印加されることによって、チャック電極に静電引力が発生し、この静電引力によって半導体ウエハWが吸着面11に吸着されて保持される。
【0040】
セラミックス部材10には、吸着面11と下面12との間を厚み方向(Z軸方向、図2において上下方向)に貫通する円筒形状の第1貫通孔15が形成されている。
【0041】
そして、セラミックス部材10の下面12側には、第1貫通孔15を囲むように、有底円環状のシール部材配置部14が形成されている。すなわち、セラミックス部材10には、下面12側に開口する有底環状のシール部材配置部14が、第1貫通孔15を囲むように形成されている。このシール部材配置部14内には、円環状のシール部材50が配置される。本実施形態では、シール部材配置部14は、第1貫通孔15との間に隔壁を挟んで第1貫通孔15を囲むように下面12側に開口する円環状溝である。
【0042】
ベース部材20は、図1に示すように、円柱状の部材である。このベース部材20は、金属(例えば、アルミニウムやアルミニウム合金等)により形成されていることが好ましいが、金属以外であってもよい。このベース部材20は、図1図2に示すように、上面21と、ベース部材20の厚み方向(Z軸方向に一致する方向、上下方向)にて上面21とは反対側に設けられる下面22とを備えている。なお、上面21は本開示の「第3の面」の一例であり、下面22は本開示の「第4の面」の一例である。
【0043】
ベース部材20の直径は、例えば180mm~350mm程度である。また、ベース部材20の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば20mm~50mm程度である。なお、ベース部材20(アルミニウムを想定)の熱伝導率は、180~250W/mK(好ましくは、230W/mK程度)の範囲内が望ましい。
【0044】
また、図2に示すように、ベース部材20には、冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)を流すための冷媒流路23が形成されている。冷媒流路23は、ベース部材20の下面22に設けられた不図示の供給口と排出口とに接続しており、供給口からベース部材20に供給された冷媒が、冷媒流路23内を流れて排出口からベース部材20の外へ排出される。このようにして、ベース部材20の冷媒流路23内に冷媒を流すことにより、ベース部材20が冷却され、これにより、接合層40を介してセラミックス部材10が冷却される。
【0045】
また、ベース部材20には、上面21と下面22との間を厚み方向(Z軸方向、図2において上下方向)に貫通する円筒形状の第2貫通孔25が形成されている。なお、第2貫通孔25は、第1貫通孔15と同軸である。この第2貫通孔25は、図4に示すように、直径の異なる3つの孔部25b,25c,25dが、この順で上面21側からZ軸方向に連なって構成されている。3つの孔部25b,25c,25dの直径の大きさは、25b<25c<25dの関係を満たしている。
【0046】
接合層40は、セラミックス部材10の下面12とベース部材20の上面21との間に配置され、セラミックス部材10とベース部材20とを接合する。この接合層40を介して、セラミックス部材10の下面12とベース部材20の上面21とが熱的に接続されている。
【0047】
この接合層40は、例えばシリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の接着材により構成されている。なお、接合層40の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば0.1~1.0mm程度である。また、接合層40の熱伝導率は、例えば1.0W/mKである。なお、接合層40(シリコーン系樹脂を想定)の熱伝導率は、0.1~2.0W/mK(好ましくは、0.5~1.5W/mK)の範囲内が望ましい。
【0048】
また、接合層40には、第1貫通孔15と第2貫通孔25との間に位置する円筒形状の中間貫通孔45が形成されている(図2参照)。なお、中間貫通孔45は、第1貫通孔15及び第2貫通孔25と同軸である。中間貫通孔45の直径は、第1貫通孔15よりも大きく、第2貫通孔25の孔部25bと同等である。第1貫通孔15と中間貫通孔45と第2貫通孔25とは、Z軸方向(静電チャック1の軸線方向)に連なって配置されている。
【0049】
そして、このような静電チャック1には、図2図4に示すように、シール部材配置部14内に配置された円環状のシール部材50(例えば、Oリング)と、ベース部材20の第2貫通孔25及び接合層40の中間貫通孔45に挿入された筒状部材70とが設けられている。筒状部材70は、円筒形状をなし、シール部材配置部14の底面14bとの間でシール部材50を挟み込んでいる。筒状部材70の筒孔70b(筒状部材70の軸線方向に延びる貫通孔)は、第1貫通孔15に繋がっている(連通している)。筒状部材70は、例えばセラミックスからなる。セラミックスとしては、様々なセラミックスが用いられるが、強度や耐摩耗性、耐プラズマ性等の観点から、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ、Al)または窒化アルミニウム(AlN)を主成分とするセラミックスが用いられることが好ましい。円環状のシール部材50はゴム又はエラストマー樹脂などの弾性体からなるOリングである。断面形状は、例えば、円形および矩形であるが、これらの形状に限定されない。
【0050】
このように、本実施形態の静電チャック1では、接合層40(中間貫通孔45の周面45b)が、筒状部材70の外周面70dよりも径方向外側に配置される。これにより、半導体製造装置にて静電チャック1を使用している際に、セラミックス部材10の吸着面11側から第1貫通孔15を通じて内部に侵入するプラズマ等から、接合層40を保護するようになっている。
【0051】
ここで、筒状部材70は、図4に示すように、円筒形状の本体部72と、本体部72の先端面72bから吸着面11側(上方)に突出する円環状の先端部71とを備えている。筒状部材70の先端部71は、シール部材配置部14の底面14bとの間でシール部材50を挟み込んでいる。本体部72は、ベース部材20の下面22側に位置する円筒状の第1筒状部74と、第1筒状部74に対して吸着面11側(上側)に隣接する円筒状の第2筒状部73とを有する。第1筒状部74の外径は、第2筒状部73の外径よりも大きい。そのため、第1筒状部74の外周面74dが、第2筒状部73の外周面73dよりも径方向外側に位置している。一方、第1筒状部74の内径は、第2筒状部73の内径と同等である。そのため、第1筒状部74の肉厚(内周面74cと外周面74dとの間の径方向寸法)は、第2筒状部73の肉厚(内周面73cと外周面73dとの間の径方向寸法)よりも厚い。
【0052】
そして、筒状部材70において、本体部72を構成する第1筒状部74及び第2筒状部73の肉厚は、先端部71の肉厚(内周面71cと外周面71dとの間の径方向寸法)よりも厚くされている。言い換えると、先端部71の肉厚は、本体部72を構成する第1筒状部74及び第2筒状部73の肉厚よりも薄くされている。詳細には、筒状部材70の先端部71の肉厚を、シール部材配置部14の幅寸法(内周面14cと外周面14dとの間の径方向寸法)よりも小さく、且つ、シール部材50の幅寸法(内周縁と外周縁との間の径方向寸法)よりも小さくしている。
【0053】
このようにすることにより、筒状部材70の先端部71をシール部材50に確実に食い込ませて、シール部材50を弾性変形させることが可能となる。そのため、図4に示すように、本実施形態の静電チャック1では、シール部材50は、筒状部材70の先端部71が食い込んで弾性変形している。すなわち、筒状部材70の先端部71が、シール部材50に食い込むようにして、シール部材50を弾性変形させている。
【0054】
その結果、筒状部材70の先端部71とシール部材50との密着性を高めることができるとともに、シール部材50とシール部材配置部14の底面14bとの密着性を高めることができる。従って、筒状部材70の先端部71とシール部材配置部14の底面14bとの間の気密性を高めることができる。これにより、プラズマ等が、セラミックス部材10の吸着面11側から第1貫通孔15を通じて静電チャック1の内部に侵入した場合に、このプラズマ等が、筒状部材70の先端部71とシール部材配置部14の底面14bとの間を通過して接合層40(中間貫通孔45の周面45b)に侵入して接触することを防止できる。
【0055】
また、本実施形態の静電チャック1では、筒状部材70において、本体部72を構成する第1筒状部74及び第2筒状部73の肉厚を先端部71の肉厚よりも厚くしているので、筒状部材70の強度を高めることができる。
【0056】
なお、筒状部材70は、ベース部材20に固定されている。具体的には、筒状部材70は、ベース部材20の第2貫通孔25及び接合層40の中間貫通孔45に挿入されて、シール部材配置部14に配置されているシール部材50を、先端部71によって筒状部材70の軸線方向(筒状部材70の軸線CLに沿う方向、Z軸方向に一致する方向)に押圧した状態で、固定部材80を用いてベース部材20に固定されている。
【0057】
より詳細には、図4に示すように、ベース部材20のうち第2貫通孔25の孔部25cの周囲に位置する部位に、孔部25cの外周面と孔部25dの外周面とを繋ぐ円環状の環状面25fからZ軸方向に延びる雌ねじ孔28が、周方向に等間隔で複数形成されている。また、固定部材80は、孔部25d内に収容可能な円盤状であり、固定部材80が孔部内に収容された状態で雌ねじ孔28と同軸に配置される貫通孔83が、周方向に等間隔で複数形成されている。
【0058】
そして、ベース部材20の第2貫通孔25及び接合層40の中間貫通孔45に挿入した筒状部材70を、孔部25d内に収容した固定部材80によって、筒状部材70の軸線方向の先端側(図4では上側)に押圧した状態で、雌ねじ孔28の雌ねじに螺合する雄ねじ86を有するボルト85によって、固定部材80をベース部材20に固定する。詳細には、固定部材80の貫通孔83は、ボルト85の雄ねじ86を有する軸部が挿通する挿通孔81と、ボルト85の頭部が収容される収容孔82とを有している。そして、ボルト85の軸部を固定部材80の挿通孔81に挿通しつつ、雄ねじ86をベース部材20の雌ねじ孔28に螺合させることで、固定部材80をベース部材20に固定している。
【0059】
これにより、筒状部材70の先端部71とシール部材配置部14の底面14bとの間でシール部材50を挟み込んでいる。詳細には、筒状部材70の先端部71をシール部材50に食い込ませて、シール部材50を弾性変形(圧縮)させている。
【0060】
また、本実施形態の静電チャック1では、図4に示すように、筒状部材70が、先端部71の側周面(内周面71cと外周面71d)とシール部材配置部14の側周面(内周面14cと外周面14d)との間に、円環状の隙間G1,G2が形成されるように、ベース部材20に固定されている。具体的には、筒状部材70の先端部71の外周面71dがシール部材配置部14の外周面14dから離間することによって、筒状部材70の先端部71の外周面71dとシール部材配置部14の外周面14dとの間に円環状の隙間G2が形成されている。さらに、筒状部材70の先端部71の内周面71cがシール部材配置部14の内周面14cから離間することによって、筒状部材70の先端部71の内周面71cとシール部材配置部14の内周面14cとの間に円環状の隙間G1が形成されている。さらに、本実施形態の静電チャック1では、筒状部材70の外周面70dが接合層40の中間貫通孔45の周面45bから離間することによって、筒状部材70の外周面70dと接合層40の中間貫通孔45の周面45bとの間に、円環状の隙間G3が形成されている。
【0061】
さらに、本実施形態の静電チャック1では、ベース部材20の第2貫通孔25に、筒状部材70の軸線方向の先端側(Z軸方向の一方側、図4において上側)への移動を規制する規制部26が設けられ、筒状部材70に、規制部26に当接する当接部76を設けられている。この規制部26は、ベース部材20のうち、第2貫通孔25の孔部25bの外周面と孔部25cの外周面とを繋ぐ円環状の規制面26b(ベース部材20の下面22側を向く面)を有する部位によって構成されている。また、当接部76は、第1筒状部74のうち、第1筒状部74の外周面74dと第2筒状部73の外周面73dとを繋ぐ円環状の当接面76b(ベース部材20の上面21側を向く面)を有する部位によって構成されている。
【0062】
そして、固定部材80の中心部には、図4に示すように、Z軸方向に貫通する円筒状の貫通孔84が形成されている。この固定部材80の貫通孔84と、筒状部材70の筒孔70bと、セラミックス部材10の第1貫通孔15とはZ軸方向に連なっており、静電チャック1をZ軸方向に貫通するリフトピン挿入孔35を形成している。このリフトピン挿入孔35(第1貫通孔15と筒孔70bと貫通孔84)には、半導体ウエハWを吸着面11上から押し上げるリフトピン60が、ベース部材20の下面22側から挿入されている。このリフトピン60は、円柱形状(丸棒形状)をなしており、リフトピン挿入孔35内をZ軸方向に移動する。リフトピン60がZ軸方向の一方側(図4では上側)に移動して、リフトピン60の先端部(上端部)がセラミックス部材10の吸着面11から外部に突出することで、吸着面11上に載置されている半導体ウエハWを吸着面11から離間させる(リフトピン60によって半導体ウエハWを持ち上げる)ようになっている。
【0063】
なお、本実施形態の静電チャック1では、リフトピン挿入孔35が3個(すなわち、第1貫通孔15と筒孔70bと貫通孔84が3個ずつ)形成されており、各々のリフトピン挿入孔35内にリフトピン60が挿入されている。なお、3個のリフトピン挿入孔35は、静電チャック1の周方向に等間隔で形成されている(図3参照)。
【0064】
ここで、本実施形態の静電チャック1では、セラミックス部材10を構成する材料の熱膨張率とベース部材20を構成する材料の熱膨張率とが異なっている。具体的には、セラミックス部材10を構成する材料の熱膨張率より、ベース部材20を構成する材料の熱膨張率が大きい。また、筒状部材70は、図4に示すように、ベース部材20の第2貫通孔25及び接合層40の中間貫通孔45に挿入されるとともに、その先端部71がセラミックス部材10のシール部材配置部14内に配置された状態で、ベース部材20に固定されている。
【0065】
そのため、例えば、筒状部材70の先端部71の側周面(内周面71cと外周面71d)がシール部材配置部14の側周面(内周面14cと外周面14d)に接触するように、筒状部材70の先端部71がシール部材配置部14内に配置されていると、セラミックス部材10を構成する材料の熱膨張率とベース部材20を構成する材料との熱膨張差の影響で、セラミックス部材10とベース部材20との間で面方向(セラミックス部材10の下面12またはベース部材20の上面21に沿う方向をいう、XY平面方向に一致する)に変位(ズレ)が生じた場合に、筒状部材70の先端部71に剪断応力が発生し、筒状部材70の先端部71に亀裂等が発生するおそれがある。
【0066】
具体的には、セラミックス部材10を構成する材料の熱膨張率よりも、ベース部材20を構成する材料の熱膨張率のほうが大きいため、静電チャック1が加熱された場合、セラミックス部材10よりベース部材20が大きく膨張する。そのため、セラミックス部材10が面方向(例えば、図4では左側)へ変位する量より、ベース部材20が面方向(例えば、図4では左側)へ変位する量が大きくなる。このとき、ベース部材20に固定されている筒状部材70は、ベース部材20とともに、面方向へ変位する(ベース部材20と同等の変位量だけ変位する)。
【0067】
ところが、筒状部材70の先端部71の側周面(内周面71cと外周面71d)がシール部材配置部14の側周面(内周面14cと外周面14d)に接触するように、筒状部材70の先端部71がシール部材配置部14内に配置されていると、筒状部材70の先端部71は、シール部材配置部14内においてベース部材20とともに、面方向へ動くことができなくなる。このため、筒状部材70の先端部71は、セラミックス部材10と同等の変位量しか面方向へ変位することができず、ベース部材20と同等に面方向へ変位することができない。
【0068】
このように、筒状部材70における先端部71と他の部位(第1筒状部74及び第2筒状部73)との間において、面方向への変位量に差が生じる場合に、筒状部材70の先端部71に剪断応力が発生し、この剪断応力によって筒状部材70の先端部71に亀裂等が発生するおそれがある。
【0069】
そこで、本実施形態の静電チャック1では、筒状部材70の先端部71の外周面71dとシール部材配置部14の外周面14dとの間に隙間G2を設けるとともに、筒状部材70の先端部71の内周面71cとシール部材配置部14の内周面14cとの間に隙間G1を設けている。そのため、本実施形態の静電チャック1では、セラミックス部材10とベース部材20との熱膨張差によって、セラミックス部材10が面方向へ変位する量と、ベース部材20が面方向へ変位する量との間に差が生じた場合でも、筒状部材70の先端部71が、シール部材配置部14内において面方向へ動く(シール部材配置部14に対して相対的に動く)ことができる(シール部材配置部14の側周面に接触するまで移動可能である)。従って、筒状部材70の全体が、ベース部材20とともに、面方向へ同等に変位することができる。これにより、セラミックス部材10とベース部材20との熱膨張差の影響による剪断応力が筒状部材70の先端部71に発生することを低減することができるため、筒状部材70の先端部71に亀裂等が発生しにくくなる。
【0070】
なお、筒状部材70の先端部71の側周面(内周面71cと外周面71d)とシール部材配置部14の側周面(内周面14cと外周面14d)との間の隙間G1,G2の大きさは、セラミックス部材10とベース部材20との熱膨張差によって、セラミックス部材10とベース部材20との間において生じ得る面方向への最大変位量(両部材のズレの最大値)以上とするのが好ましい。
【0071】
こうすることにより、セラミックス部材10とベース部材20との熱膨張差によって、セラミックス部材10とベース部材20との間において面方向に変位が生じた場合に、筒状部材70の先端部71がシール部材配置部14に対して相対的に移動することができるため、筒状部材70の先端部71に剪断応力が発生することを防止できるからである。
【0072】
また、本実施形態の静電チャック1では、筒状部材70の外周面70dと接合層40の中間貫通孔45の周面45bとの間に、円環状の隙間G3が設けられている。そのため、セラミックス部材10とベース部材20との熱膨張差によって、セラミックス部材10とベース部材20との間において面方向に変位が生じた場合に、接合層40に妨げられることなく、筒状部材70の先端部71がシール部材配置部14に対して相対的に移動することができる。これにより、セラミックス部材10とベース部材20との熱膨張差の影響による剪断応力が筒状部材70の先端部71に発生することを低減することができるため、筒状部材70の先端部71に亀裂等が発生しにくくなる。
【0073】
なお、筒状部材70の外周面70dと接合層40の中間貫通孔45の周面45bとの隙間G3は、セラミックス部材10とベース部材20との熱膨張差によって、セラミックス部材10とベース部材20との間において生じうる面方向への最大変位量(両部材のズレの最大値)以上とすればよい。
【0074】
ところで、本実施形態の静電チャック1では、筒状部材70の先端部71とシール部材配置部14の底面14bとによって、シール部材50を挟み込んでいる。このため、筒状部材70の先端部71によってシール部材50を過剰に弾性変形(圧縮)する(具体的には、シール部材50に対して筒状部材70の先端部71を過剰に食い込ませる)と、シール部材50または筒状部材70の先端部71が損傷するおそれがある。
【0075】
そこで、本実施形態の静電チャック1では、第2貫通孔25に規制部26を設け、筒状部材70に当接部76を設けている。そして、筒状部材70の当接部76(当接面76b)がベース部材20の規制部26(規制面26b)に当接した状態で、筒状部材70がベース部材20に固定されている。従って、筒状部材70の軸線方向(Z軸方向)における位置が、ベース部材20の規制部26によって定められる。これにより、シール部材50に対する筒状部材70の先端部71の位置(筒状部材70の軸線方向にかかる位置)を、ベース部材20の規制部26によって、適切な位置(具体的には、筒状部材70の先端部71がシール部材50に過剰に食い込まない位置)に定めることができる。
【0076】
このようにして、本実施形態の静電チャック1では、筒状部材70の先端部71をシール部材50に過剰に食い込ませることなく、筒状部材70の先端部71によってシール部材50を適切に弾性圧縮する(詳細には、筒状部材70の先端部71をシール部材50に適度に食い込ませる)ことができる。従って、シール部材50または筒状部材70の先端部71が損傷することを抑制するとともに、筒状部材70の先端部71とシール部材配置部14の底面14bとの間を、シール部材50によって適切にシールすることができる。
【0077】
以上のように、本実施形態の静電チャック1によれば、シール部材配置部14に配置したシール部材50に筒状部材70の先端部71を食い込ませている。そして、筒状部材70の当接部76(当接面76b)をベース部材20の規制部26(規制面26b)に当接させた状態で、筒状部材70をベース部材20に固定している。これにより、筒状部材70の先端部71をシール部材50に過剰に食い込ませることなく、筒状部材70の先端部71によってシール部材50を適切に弾性変形させているため、シール部材50によるシール性を向上させることができる。従って、プラズマ等が第1貫通孔15を通じて内部に侵入した場合でも、シール部材50によって、プラズマ等が接合層40に侵入して接触することを確実に防止できる。
【0078】
また、本実施形態の静電チャック1によれば、筒状部材70の先端部71の内周面71cとシール部材配置部14の内周面14cとの間に隙間G1を設け、筒状部材70の先端部71の外周面71dとシール部材配置部14の外周面14dとの間に隙間G2を設け、筒状部材70の外周面70dと接合層40の中間貫通孔45の周面45bとの間に隙間G3を設けて、筒状部材70をベース部材20に固定している。これにより、セラミックス部材10及び接合層40とベース部材20との熱膨張差の影響による剪断応力が筒状部材70の先端部71に発生することを低減することができるため、筒状部材70の先端部71に亀裂等の損傷の発生を防止することができる。
【0079】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について、図5図6を参照しながら説明する。第2実施形態は、第1実施形態と基本的な構成は同じであるが、第1貫通孔及びシール部材配置の各形状が第1実施形態とは異なる。そこで、第1実施形態と同様の構成については同符号を付して説明を適宜省略し、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0080】
本実施形態の静電チャック101では、図5図6に示すように、第1貫通孔115が、セラミックス部材110の下面112から吸着面111に向かう途中で屈曲して、下面112に沿う方向(XY平面に沿う方向)に延びつつ途中で複数に分岐して、複数の開口部115cが吸着面111(凹部118)に形成されている。そして、固定部材80の貫通孔84と筒状部材70の筒孔70bとセラミックス部材110の第1貫通孔115とによって、不活性ガス(例えば、ヘリウムガス)が流通するガス流路135を形成している。これにより、ベース部材20の下面22側からガス流路135内に不活性ガス(例えば、ヘリウムガス)を供給することで、セラミックス部材110の吸着面111(凹部118)に開口する複数の開口部115cを通じて、半導体ウエハWの下面とセラミックス部材110の吸着面111(凹部118)との間の空間S内に、この不活性ガスを充填することができるようになっている。なお、図5は、筒状部材70の軸線CLを通る位置で、静電チャック101を、筒状部材70の軸線方向(軸線CLに沿う方向、図5では上下方向)に切断した断面図である。
【0081】
また、静電チャック101では、シール部材配置部114を、第1貫通孔115との間に隔壁を有することなく第1貫通孔115に隣接する形態で、下面112側に開口する有底環状(サグリ孔形状)としている。なお、静電チャック101において、シール部材配置部の形状を、第1実施形態と同様のシール部材配置部14にすることもできる。
【0082】
このような静電チャック101でも、図6に示すように、筒状部材70は、シール部材配置部114の底面114bとの間でシール部材50を挟み込んでいる。そして、シール部材50は、筒状部材70の先端部71が食い込んで弾性変形している。すなわち、筒状部材70の先端部71が、シール部材50に食い込むようにして、シール部材50を弾性変形させている。これにより、筒状部材70の先端部71とシール部材50との密着性を高めることができるとともに、シール部材50とシール部材配置部114の底面114bとの密着性を高めることができるので、筒状部材70の先端部71とシール部材配置部114の底面114bとの間の気密性を高めることができる。従って、従って、プラズマ等が第1貫通孔115を通じて内部に侵入した場合でも、シール部材50によって、プラズマ等が接合層40に侵入して接触することを確実に防止できる。
【0083】
また、静電チャック101でも、筒状部材70は、先端部71の側周面(外周面71d)とシール部材配置部114の側周面(外周面114d)との間に、円環状の隙間G2が形成されるようにして、ベース部材20に固定されている。具体的には、筒状部材70の先端部71の外周面71dがシール部材配置部114の外周面114dから離間することによって、筒状部材70の先端部71の外周面71dとシール部材配置部114の外周面114dとの間に円環状の隙間G2が形成されている。これにより、セラミックス部材110とベース部材20との熱膨張差によって、セラミックス部材110とベース部材20との間において面方向に変位が生じた場合に、筒状部材70の先端部71がシール部材配置部114に対して相対的に面方向へ移動することができるので、筒状部材70の先端部71に剪断応力が発生することを防止できる。
【0084】
<第1変形例>
ここで、上記実施形態における変形例について、図7図9を参照しながら説明する。まず、第1変形例について、図7を参照しながら説明する。第1変形例は、上記実施形態と基本的な構成は同じであるが、筒状部材70をベース部材20に固定する構成が上記実施形態とは異なる。そこで、上記実施形態と同様の構成については同符号を付して説明を適宜省略し、上記実施形態との相違点を中心に説明する。
【0085】
第1変形例の静電チャック201では、図7に示すように、筒状部材270の第1筒状部274の外周面274dに雄ねじを形成し、ベース部材220の第2貫通孔225の孔部225cを雌ねじ孔とし、筒状部材270の第1筒状部274をベース部材220の孔部225c(雌ねじ孔)に螺挿することで、筒状部材270をベース部材220に固定している。
【0086】
<第2変形例>
次に、第2変形例について、図8を参照しながら説明する。第2変形例は、上記実施形態と基本的な構成は同じであるが、筒状部材70の位置決め機構である規制部及び当接部の構成が上記実施形態とは異なる。そこで、上記実施形態と同様の構成については同符号を付して説明を適宜省略し、上記実施形態との相違点を中心に説明する。
【0087】
第2変形例の静電チャック301では、図8に示すように、ベース部材320の第2貫通孔325を、上記実施形態と同様の孔部25dと、この孔部25dと接合層40の中間貫通孔45との間に位置する孔部325bとによって構成し、規制部を、孔部325bの外周面から径方向内側に突出する円環状の部位である規制部326によって構成している。また、当接部を、筒状部材370の第1筒状部374のうち、第1筒状部374の外周面374dと第2筒状部373の外周面373dとを繋ぐ円環状の当接面376bを有する部位である当接部376によって構成し、筒状部材370の当接部376(当接面376b)がベース部材320の規制部326(規制面326b)に当接するように、筒状部材370を設けている。
【0088】
<第3変形例>
最後に、第3変形例について、図9を参照しながら説明する。第3変形例は、上記実施形態と基本的な構成は同じであるが、筒状部材の先端部の形状が上記実施形態とは異なる。そこで、上記実施形態と同様の構成については同符号を付して説明を適宜省略し、上記実施形態との相違点を中心に説明する。
【0089】
第3変形例の静電チャック401では、図9に示すように、筒状部材470の先端部471を、本体部72の先端面72bから吸着面11側(上方)に突出する複数の環状の部位により構成している。具体的に、静電チャック401では、先端部471を円環状の2つの部位(第1環状突出部477と第2環状突出部478、Z軸方向視で二重の円)によって構成している。なお、第2環状突出部478は、第1環状突出部477よりも径方向外側に位置し、第1環状突出部477を囲むように設けられている。これにより、シール部材50と筒状部材470の先端部471との間のシールが二重となるため、シール部材50によるシール性をより向上させることができる。
【0090】
そして、静電チャック401でも、筒状部材470は、先端部471の側周面(内周面471cと外周面471d)とシール部材配置部14の側周面(内周面14cと外周面14d)との間に、円環状の隙間G1,G2が形成されるようにして、ベース部材20に固定されている。具体的には、筒状部材470の先端部471の外周面471d(すなわち、第2環状突出部478の外周面)がシール部材配置部14の外周面14dから離間することによって、筒状部材470の先端部471の外周面471dとシール部材配置部14の外周面14dとの間に円環状の隙間G2が形成されている。さらには、筒状部材470の先端部471の内周面471c(すなわち、第1環状突出部477の内周面)がシール部材配置部14の内周面14cから離間することによって、筒状部材470の先端部471の内周面471cとシール部材配置部14の内周面14cとの間に円環状の隙間G1が形成されている。
【0091】
これにより、セラミックス部材10とベース部材20との熱膨張差によって、セラミックス部材10とベース部材20との間において面方向(XY平面方向)に変位が生じた場合に、筒状部材470の先端部471がシール部材配置部14に対して相対的に面方向へ移動することができるので、筒状部材470の先端部471に剪断応力が発生することを防止できる。
【0092】
なお、上記の実施形態は単なる例示にすぎず、本開示を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記の実施形態では、本開示を静電チャックに適用した場合を例示したが、本開示は、静電チャックに限られることなく、表面に対象物を保持する保持装置全般について適用することができる。
【0093】
また、上記の第1実施形態では、シール部材配置部の形状として、環状溝であるシール部材配置部14を例示したが、ザグリ孔であるシール部材配置部114としてもよい。
【0094】
また、上記の第1実施形態では、第1貫通孔、第2貫通孔がリフトピン挿入孔である場合を例示し、上記の第2実施形態では、第1貫通孔、第2貫通孔がガス流路である場合を例示したが、上記の実施形態において第1貫通孔、第2貫通孔は、ガス流路又はリフトピン挿入孔のどちらでもよく、また、これらの孔に限定されることはない。
【0095】
また、上記実施形態では、筒状部材70をベース部材20に対してボルト85を用いて固定しているが、接着剤によって筒状部材70をベース部材20に接着することによって、筒状部材70をベース部材20に固定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0096】
1 静電チャック
10 セラミックス部材
11 吸着面
12 下面
14 シール部材配置部
14c 内周面
14d 外周面
15 第1貫通孔
20 ベース部材
21 上面
22 下面
25 第2貫通孔
26 規制部
40 接合層
50 シール部材
70 筒状部材
71 先端部
71c 内周面
71d 外周面
72 本体部
76 当接部
101 静電チャック
110 セラミックス部材
111 吸着面
112 下面
114 シール部材配置部
114d 外周面
115 第1貫通孔
201 静電チャック
220 ベース部材
225 第2貫通孔
270 筒状部材
301 静電チャック
320 ベース部材
325 第2貫通孔
326 規制部
370 筒状部材
376 当接部
401 静電チャック
470 筒状部材
471 先端部
471c 内周面
471d 外周面
G1 隙間
G2 隙間
G3 隙間
W 半導体ウエハ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9