(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
H03H9/25 C
(21)【出願番号】P 2020128156
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中里 寿春
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 亮太
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-115870(JP,A)
【文献】特開2019-216414(JP,A)
【文献】国際公開第2008/078481(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/186661(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられる圧電層と、
前記圧電層上に設けられ、弾性波を励振する複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛歯状電極と、
前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記圧電層の弾性定数の温度係数の符号とは弾性定数の温度係数の符号が反対である温度補償膜と、
前記支持基板と前記温度補償膜との間に設けられ、前記温度補償膜を伝搬するバルク波の音速より速くかつ前記支持基板を伝搬するバルク波の音速より遅いバルク波が伝搬する境界層と、
前記支持基板と前記境界層との間に設けられ、前記境界層のQ値
の0.2倍以下のQ値を有する中間層と、
を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記中間層の厚さは、前記複数の電極指の平均ピッチの0.1倍以上で
ある請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記境界層の厚さは、前記複数の電極指の平均ピッチの2.2倍以上である請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記温度補償膜の前記支持基板側の面と前記圧電層の前記一対の櫛歯状電極側の面との距離は、前記複数の電極指の平均ピッチの4倍以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記境界層と前記中間層とは接する請求項1から4のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記境界層の厚さは、前記複数の電極指の平均ピッチの10倍以下である請求項1から5のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記境界層の主成分と前記中間層の主成分は、同じである請求項1から6のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記圧電層は、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムを主成分とする単結晶であり、前記温度補償膜は酸化シリコンを主成分とする多結晶または非晶質であり、前記境界層は酸化アルミニウムを主成分とする多結晶または非晶質であり、前記中間層は酸化アルミニウムを主成分とする多結晶または非晶質である請求項1から7のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の弾性波デバイスを備えるフィルタ。
【請求項10】
請求項9に記載のフィルタを備えるマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサに関し、例えば一対の櫛歯状電極を有する弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の通信機器に用いられる弾性波共振器として、弾性表面波共振器が知られている。弾性表面波共振器を形成する圧電層を支持基板に接合することが知られている。圧電層の厚さを弾性表面波の波長以下とすることが知られている(例えば特許文献1)。圧電層と支持基板との間に温度補償膜または圧電層より音速の低い低音速膜を設けることが知られている(例えば特許文献2から5)。低音速膜と支持基板との間に圧電層より音速の速い高音速膜(境界層)を設けることが知られている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-034363号公報
【文献】特開2019-201345号公報
【文献】特開2015-115870号公報
【文献】米国特許第10020796号明細書
【文献】国際公開第2017/043427号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
温度補償膜または低音速膜と支持基板との間に高音速膜(境界層)を設けることでスプリアスを抑制することができる。しかしながら、よりスプリアスを抑制することが求められている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、スプリアスを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられる圧電層と、前記圧電層上に設けられ、弾性波を励振する複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛歯状電極と、前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記圧電層の弾性定数の温度係数の符号とは弾性定数の温度係数の符号が反対である温度補償膜と、前記支持基板と前記温度補償膜との間に設けられ、前記温度補償膜を伝搬するバルク波の音速より速くかつ前記支持基板を伝搬するバルク波の音速より遅いバルク波が伝搬する境界層と、前記支持基板と前記境界層との間に設けられ、前記境界層のQ値の0.2倍以下のQ値を有する中間層と、を備える弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記中間層の厚さは、前記複数の電極指の平均ピッチの0.1倍以上である構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記境界層の厚さは、前記複数の電極指の平均ピッチの2.2倍以上である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記温度補償膜の前記支持基板側の面と前記圧電層の前記一対の櫛歯状電極側の面との距離は、前記複数の電極指の平均ピッチの4倍以下である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記境界層と前記中間層とは接する構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記境界層の厚さは、前記複数の電極指の平均ピッチの10倍以下である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記境界層の主成分と前記中間層の主成分は同じである構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記圧電層は、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムを主成分とする単結晶であり、前記温度補償膜は酸化シリコンを主成分とする多結晶または非晶質であり、前記境界層は酸化アルミニウムを主成分とする多結晶または非晶質であり、前記中間層は酸化アルミニウムを主成分とする多結晶または非晶質である構成とすることができる。
【0014】
本発明は、上記弾性波デバイスを備えるフィルタである。
【0015】
本発明は、上記フィルタを備えるマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スプリアスを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)および
図1(b)は、実施例1における弾性波共振器の平面図および断面図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、比較例1に係る弾性波共振器の断面図および通過特性の模式図である。
【
図3】
図3(a)および
図3(b)は、比較例2に係る弾性波共振器の断面図および通過特性の模式図である。
【
図4】
図4(a)から
図4(c)は、シミュレーション1における実施例1および比較例2の周波数に対するアドミッタンスの大きさ|Y|を示す図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、シミュレーション1におけるそれぞれ比較例2および実施例1のインピーダンスのスミスチャートを示す図である。
【
図6】
図6(a)から
図6(e)は、シミュレーション2における周波数に対するアドミッタンスの大きさ|Y|を示す図である。
【
図7】
図7(a)から
図7(e)は、それぞれ
図6(a)から
図6(e)のスプリアス応答59付近の拡大図である。
【
図8】
図8(a)および
図8(b)は、シミュレーション2における中間層のQ値に対するそれぞれメイン応答ΔYおよびスプリアス応答maxΔYを示す図である。
【
図9】
図9(a)から
図9(e)は、シミュレーション3における周波数に対するアドミッタンスの大きさ|Y|を示す図である。
【
図11】
図11(a)および
図11(b)は、シミュレーション3における中間層の厚さT1に対するそれぞれメイン応答ΔYおよびスプリアス応答maxΔYを示す図である。
【
図12】
図12は、シミュレーション4における中間層の厚さおよびQ値に対するスプリアス応答maxΔYを示す図である。
【
図13】
図13(a)から
図13(c)は、シミュレーション5におけるそれぞれサンプルA、Bおよび比較例2の周波数に対するアドミッタンスの大きさ|Y|を示す図である。
【
図14】
図14(a)および
図14(b)は、シミュレーション5におけるそれぞれメイン応答ΔYおよびスプリアス応答maxΔYを示す図である。
【
図15】
図15(a)から
図15(d)は、シミュレーション6の比較例2における境界層の厚さT2に対する応答を示す図である。
【
図16】
図16(a)および
図16(b)は、シミュレーション6の実施例1における境界層の厚さT2に対するそれぞれメイン応答およびスプリアス応答を示す図である。
【
図17】
図17は、実施例1の変形例1に係る弾性波共振器の断面図である。
【
図18】
図18(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図、
図18(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0019】
実施例1では弾性波デバイスが弾性波共振器を有する例を説明する。
図1(a)および
図1(b)は、実施例1における弾性波共振器の平面図および断面図である。電極指の配列方向をX方向、電極指の延伸方向をY方向、支持基板および圧電層の積層方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、圧電層の結晶方位のX軸方向およびY軸方向とは必ずしも対応しない。圧電層が回転YカットX伝搬基板の場合、X方向は結晶方位のX軸方向となる。
【0020】
図1(a)および
図1(b)に示すように、支持基板10上に圧電層14が設けられている。支持基板10と圧電層14との間に温度補償膜13が設けられている。温度補償膜13と支持基板10との間に境界層12が設けられている。境界層12と支持基板10との間に中間層11が設けられている。支持基板10と中間層11との界面を界面30、中間層11と境界層12との界面を界面31、境界層12と温度補償膜13との界面を界面32、温度補償膜13と圧電層14との界面を界面33とする。中間層11、境界層12、温度補償膜13、圧電層14の厚さをそれぞれT1、T2、
T3およびT4とする。厚さとは支持基板10および圧電層14の積層方向であるZ方向における基板、層および膜の長さを意味する。
【0021】
圧電層14上に弾性波共振器26が設けられている。弾性波共振器26はIDT22および反射器24を有する。反射器24はIDT22のX方向の両側に設けられている。IDT22および反射器24は、圧電層14上の金属膜16により形成される。
【0022】
IDT22は、対向する一対の櫛歯状電極20を備える。櫛歯状電極20は、複数の電極指18と、複数の電極指18が接続されたバスバー19と、を備える。一対の櫛歯状電極20の電極指18が交差する領域が交差領域25である。交差領域25の長さが開口長である。一対の櫛歯状電極20は、交差領域25の少なくとも一部において電極指18が交互に設けられている。交差領域25において複数の電極指18が主に励振する弾性波は、主にX方向に伝搬する。一対の櫛歯状電極20のうち一方の櫛歯状電極20の電極指18のピッチがほぼ弾性波の波長λとなる。複数の電極指18のピッチ(電極指18の中心間のピッチ)をDとすると、一方の櫛歯状電極20の電極指18のピッチは電極指18の2本分のピッチDとなる。反射器24は、IDT22の電極指18が励振した弾性波(弾性表面波)を反射する。これにより弾性波はIDT22の交差領域25内に閉じ込められる。
【0023】
圧電層14は、例えば単結晶タンタル酸リチウム(LiTaO3)層または単結晶ニオブ酸リチウム(LiNbO3)層であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層または回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム層である。
【0024】
支持基板10は、例えばサファイア基板、シリコン基板または炭化シリコン基板である。サファイア基板は単結晶または多結晶Al2O3基板であり、シリコン基板は単結晶または多結晶のシリコン基板であり、炭化シリコン基板は多結晶または単結晶のSiC基板である。支持基板10のX方向の線膨張係数は圧電層14のX方向の線膨張係数より小さい。これにより、弾性波共振器の周波数温度依存性を小さくできる。また、支持基板10として例えば硬い材料および/または熱伝導率の高い材料を選択すると、支持基板10を伝搬するバルク波の音速は境界層12を伝搬するバルク波の音速より速くなる。
【0025】
温度補償膜13は、圧電層14の弾性定数の温度係数の符号と反対の符号の弾性定数の温度係数を有する。例えば圧電層14の弾性定数の温度係数は負であり、温度補償膜13の弾性定数の温度係数は正である。温度補償膜13は、例えば無添加または弗素等の添加元素を含む酸化シリコン(SiO2)膜であり、例えば非晶質層である。これにより、弾性波共振器の周波数温度係数を小さくできる。温度補償膜13が酸化シリコン膜の場合、温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルクの音速より遅くなる。
【0026】
温度補償膜13が温度補償の機能を有するためにはメイン応答の弾性波のエネルギーが温度補償膜13内にある程度存在することが求められる。弾性表面波のエネルギーが集中する範囲は弾性表面波の種類に依存するものの、典型的には弾性表面波のエネルギーは圧電層14の上面から2λ(λは弾性波の波長)の範囲に集中し、特に圧電層14の上面からλの範囲に集中する。そこで、圧電層14の厚さT4は、好ましくは2λ以下であり、より好ましくはλ以下であり、さらに好ましくは0.6λ以下である。
【0027】
境界層12を伝搬するバルク波の音速は、温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速より速い。これにより、圧電層14および温度補償膜13内に主モードの弾性波が閉じ込められる。さらに、境界層12を伝搬するバルク波の音速は、支持基板10を伝搬するバルク波の音速より遅い。境界層12は、例えば多結晶または非晶質であり、酸化アルミニウム膜、窒化シリコン膜または窒化アルミニウム膜である。境界層12は異なる材料からなる複数の層が積層されていてもよい。
【0028】
中間層11のQ値は境界層12のQ値より低い。誘電体材料におけるQ値は誘電正接tanδの逆数である。Q値の低い誘電体材料は伝搬損失が大きい。中間層11のバルク波の音速は、境界層12のバルク波の音速より速くてもよいし遅くてもよい。例えば、中間層11と境界層12は孔のない層であり、中間層11の材料を境界層12の材料よりQ値の小さい材料とする。例えば、中間層11を、孔を有する多孔質層とし、境界層12を多孔質でない層とする。この場合、中間層11の材料は境界層12の材料と同じでもよいし、異なっていてもよい。中間層11は、例えば酸化アルミニウム膜、窒化シリコン膜、窒化アルミニウム膜等の無機絶縁体、樹脂等の有機絶縁体、または導電体である。
【0029】
金属膜16は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)またはモリブデン(Mo)を主成分とする膜である。電極指18と圧電層14との間にチタン(Ti)膜またはクロム(Cr)膜等の密着膜が設けられていてもよい。密着膜は電極指18より薄い。電極指18を覆うように絶縁膜が設けられていてもよい。絶縁膜は保護膜または温度補償膜として機能する。
【0030】
弾性波の波長λは例えば1μmから6μmである。2本の電極指18を1対としたときの対数は例えば20対から300対である。IDT22のデュティ比は、電極指18の太さを電極指18のピッチで除した値であり、例えば30%から70%である。IDT22の開口長は例えば10λから50λである。
【0031】
表1に各材料のヤング率、ポアソン比、密度およびバルク波の音速を示す。バルク波の音速Vは、ヤング率E、ポアソン比γおよび密度ρを用い数式1により算出できる。
【数1】
【表1】
【0032】
表1において、LT、Al2O3、SiO2およびSAはそれぞれ単結晶タンタル酸リチウム、多結晶酸化アルミニウム、非晶質酸化シリコンおよびサファイア(単結晶酸化アルミニウム)である。LN、Si、AlN、SiNおよびSiCは、それぞれ単結晶ニオブ酸リチウム、多結晶シリコン、多結晶窒化アルミニウム、多結晶窒化シリコンおよび多結晶炭化シリコンである。
【0033】
表1のように、タンタル酸リチウム基板およびニオブ酸リチウム基板を圧電層14としたとき、温度補償膜13として酸化シリコン膜を用いると、温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速より遅くなる。境界層12として酸化アルミニウム膜、窒化アルミニウム膜または窒化シリコン膜を用いると、境界層12を伝搬するバルク波の音速は温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速より速くなる。支持基板10としてサファイア基板または炭化シリコン基板を用いると、支持基板10を伝搬するバルク波の音速は境界層12を伝搬するバルク波の音速より速くなる。境界層12が酸化アルミニウム膜のときは支持基板10をシリコン基板としても支持基板10を伝搬するバルク波の音速は境界層12を伝搬するバルク波の音速より速くなる。
【0034】
[比較例1]
図2(a)および
図2(b)は、比較例1に係る弾性波共振器の断面図および通過特性の模式図である。
図2(a)に示すように、比較例1では、中間層11および境界層12が設けられていない。支持基板10のバルク波の音速は温度補償膜13のバルク波の音速より速い。このため、主モードである弾性波(例えば弾性表面波)およびバルク波を含む遅い弾性波50は温度補償膜13と支持基板10との界面34において反射する。弾性波50より速い弾性波51は界面34を通過する。
【0035】
図2(b)に示すように、弾性波50に対応する低い周波数領域54には、メイン応答58およびバルク波に起因するスプリアス応答59が含まれる。弾性波51に対応する周波数領域55は領域54より高い。比較例1では、主モードの弾性波は圧電層14および温度補償膜13に閉じ込められるため、メイン応答58が大きくなる。しかし、界面34において反射されたバルク波によりスプリアス応答59(高周波スプリアス)が生じる。
【0036】
[比較例2]
図3(a)および
図3(b)は、比較例2に係る弾性波共振器の断面図および通過特性の模式図である。
図3(a)に示すように、比較例2では、中間層11が設けられていない。境界層12のバルク波の音速は温度補償膜13のバルク波の音速より速く、支持基板10のバルク波の音速は境界層12のバルク音速より速い。このため、主モードである弾性波を含む遅い弾性波50は温度補償膜13と境界層12との界面32において反射する。弾性波50より速いバルク波を含む弾性波52は、界面32を通過し、境界層12と支持基板10との界面35において反射する。弾性波52より速い弾性波51は界面32および35を通過する。
【0037】
図3(b)に示すように、弾性波50に対応する低い周波数領域54には、メイン応答58が含まれる。弾性波52に対応する周波数領域56は領域54より高く、バルク波に起因するスプリアス応答59が含まれる。弾性波51に対応する周波数領域55は周波数領域56より高い。比較例2では、比較例1と同様にメイン応答58が大きくなる。さらに、比較例1に比べ、バルク波を含む弾性波52は境界層12を通過するためスプリアス応答59が小さくなる。バルク波を含む弾性波52が支持基板10に漏洩しないため、損失を抑制できる。界面35において反射されたバルク波に起因するスプリアス応答59が小さくなるものの、スプリアス応答59は十分に小さくはない。
【0038】
比較例2において、スプリアス応答59を小さくするためには、境界層12を厚くすることが考えられる。また、弾性波52を界面35において散乱させるため、界面35を粗面とすることが考えられる。しかし、これらの方法では製造工程が増大および製造プロセスの難易度が上昇する。
【0039】
実施例1では、境界層12と支持基板10との間にQ値の低い中間層11を設けることで、弾性波52のシャープな反射が抑制される。これにより、バルク波に起因したスプリアスが抑制される。支持基板10のバルク波の音速は境界層12のバルク波の音速より速いため、バルク波を含む弾性波52が中間層11を通過して支持基板10へ漏洩することが抑制される。これにより、損失を抑制できる。
【0040】
[シミュレーション1]
実施例1と比較例2の通過特性をシミュレーションした。シミュレーション条件は以下である。
支持基板10:サファイア基板、
中間層11:酸化アルミニウム層、T1=1λ、Q=1/50×Q0
Q0は境界層12のQ値である。
境界層12:酸化アルミニウム層、T2=5λ
温度補償膜13:酸化シリコン膜、T3=0.3λ
圧電層14:42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板、T4=0.3λ
金属膜16:アルミニウム、厚さ0.1λ
弾性波の波長λ:5μm
比較例2では、中間層11が設けられていない。
【0041】
シミュレーションに用いる各材料のバルク波の音速を以下とした。
支持基板10 :7068.2m/s
中間層11 :4581.8m/s
境界層12 :4581.8m/s
温度補償膜13:3683.5m/s
圧電層14 :3750.8m/s
【0042】
図4(a)から
図4(c)は、シミュレーション1における実施例1および比較例2の周波数に対するアドミッタンスの大きさ|Y|を示す図である。
図4(b)および
図4(c)は、それぞれ
図4(a)の範囲AおよびBの拡大図である。
図4(a)および
図4(b)に示すように、メイン応答58の大きさは実施例1と比較例2とでほぼ同じである。
図4(a)および
図4(c)に示すように、スプリアス応答59の大きさは、比較例2に比べ実施例1において小さくなっている。
【0043】
図5(a)および
図5(b)は、シミュレーション1におけるそれぞれ比較例2および実施例1のインピーダンスのスミスチャートを示す図である。周波数範囲が500MHzから3000MHzにおける弾性波共振器のインピーダンスを示すスミスチャートである。
図5(a)および
図5(b)に示すように、実施例1では比較例2に比べ、高周波スプリアスによるインピーダンスのディスパリティが小さくなる。このように、実施例1では比較例2に比べ、メイン応答58の大きさを変えることなく、スプリアス応答59を小さくできる。
【0044】
[シミュレーション2]
シミュレーション2では、中間層11のQ値を1×Q0から1/50×Q0まで変化させた。中間層11のQ値が1×Q0のときは比較例2に相当する。Q0は境界層12のQ値である。その他の条件はシミュレーション1の実施例1と同じである。
【0045】
図6(a)から
図6(e)は、シミュレーション2における周波数に対するアドミッタンスの大きさ|Y|を示す図である。
図7(a)から
図7(e)は、それぞれ
図6(a)から
図6(e)のスプリアス応答59付近の拡大図である。
【0046】
図8(a)および
図8(b)は、シミュレーション2における中間層のQ値に対するそれぞれメイン応答ΔYおよびスプリアス応答maxΔYを示す図である。メイン応答ΔYは、
図6(a)から
図6(e)における750MHz付近の共振周波数におけるアドミッタンス|Y|と反共振周波数における|Y|との差である。スプリアス応答maxΔYは、
図7(a)から
図7(e)における1000MHzから2250MHzにおける応答のΔYのうち最も大きいΔYである。
【0047】
図6(a)から
図6(e)および
図8(a)に示すように、メイン応答58の大きさは中間層11のQ値を変えてもほとんど変わらない。中間層11のQ値が1×Q1のときと1/50×Q2のときとで、メイン応答ΔYはほぼ同じである。
【0048】
図7(a)から
図7(e)および
図8(b)に示すように、中間層11のQ値が小さくなるとスプリアス応答59が小さくなる。中間層11のQ値が0.2×Q0以下となるとスプリアス応答maxΔYは急激に小さくなる。中間層11のQ値が1/50×Q0のとき、Q値が1×Q0に比べスプリアス応答maxΔYは約1/7になる。
【0049】
以上のように、中間層11のQ値を境界層12のQ値Q0より小さくすると、メイン応答ΔYは変わらず、スプリアス応答maxΔYを小さくできる。
【0050】
[シミュレーション3]
シミュレーション3では、中間層11のQ値を1/10×Q0とし、中間層11の厚さT1を0.2λから1λまで変化させた。その他の条件はシミュレーション1の実施例1と同じである。
【0051】
図9(a)から
図9(e)は、シミュレーション3における周波数に対するアドミッタンスの大きさ|Y|を示す図である。
図10(a)から
図10(e)は、それぞれ
図9(a)から
図9(e)のスプリアス応答59付近の拡大図である。
図11(a)および
図11(b)は、シミュレーション3における中間層の厚さT1に対するそれぞれメイン応答ΔYおよびスプリアス応答maxΔYを示す図である。
【0052】
図9(a)から
図9(e)および
図11(a)に示すように、メイン応答58の大きさは中間層11の厚さT1を変えてもほとんど変わらない。
図10(a)から
図10(e)および
図11(b)に示すように、中間層11の厚さT1が厚くなるとスプリアス応答59が小さくなる。中間層11の厚さT1が1λのとき、T1が0.2λに比べスプリアス応答maxΔYは約1/2になる。以上のように、中間層11の厚さT1を厚くすると、スプリアス応答maxΔYを小さくできる。
【0053】
[シミュレーション4]
シミュレーション4では、境界層12の厚さT2を1.1λとし、中間層11のQ値および厚さT1を変え、スプリアス応答maxΔYをシミュレーションした。
図12は、シミュレーション4における中間層の厚さおよびQ値に対するスプリアス応答maxΔYを示す図である。
図12に示すように、中間層11の厚さT1を0.05λ以上とし、中間層11のQ/Q0を0.2以下とすると、スプリアス応答maxΔYはほぼ-20dB以下となり、中間層11のQ/Q0を0.1以下とすると、スプリアス応答maxΔYはほぼ-17.5dB以下となる。
【0054】
[シミュレーション5]
シミュレーション5では、中間層11のバルク波の音速を境界層12と異ならせた。中間層11の材料およびバルク波の音速を以下とした。
サンプルA:酸化アルミニウム、4581.8m/s
サンプルB:サファイア、7068.2m/s
中間層11のQは支持基板10のQ値Q0´としたとき、1/50×Q0´とした。中間層11の厚さT1を1λとしてその他の条件はシミュレーション1と同じである。
【0055】
図13(a)から
図13(c)は、シミュレーション5におけるそれぞれサンプルA、Bおよび比較例2の周波数に対するアドミッタンスの大きさ|Y|を示す図である。
図14(a)および
図14(b)は、シミュレーション5におけるそれぞれメイン応答ΔYおよびスプリアス応答maxΔYを示す図である。
【0056】
図14(a)に示すように、中間層11のバルク波の音速を変えてもメイン応答ΔYは比較例2とほぼ同じである。
図13(a)から
図13(c)および
図14(b)に示すように、サンプルBのように中間層11のバルク波の音速を
サンプルAより大きくするとスプリアス応答maxΔYは大きくなるものの比較例2より小さい。このように、中間層11のバルク波の音速を境界層12のバルク波の音速から変えてもメイン応答の大きさを変えずに高周波スプリアスを抑制できる。サンプルAとBの比較より、中間層11のバルク波の音速は遅い方が高周波スプリアスを抑制できる。
【0057】
[シミュレーション6]
シミュレーション6では、境界層12の厚さT2を変化させた。まず、中間層11を設けていない比較例2について境界層12の厚さT2を変化させた。厚さT2を変えていることと温度補償膜13の厚さT3を0.1λとしていること以外の条件はシミュレーション1の比較例2と同じである。
【0058】
図15(a)から
図15(d)は、シミュレーション6の比較例2における境界層の厚さT2に対する応答を示す図である。
図15(a)は、メイン応答を示し、
図15(b)は、メイン応答の厚さT2が10λ以下を拡大した図である。
図15(c)は、スプリアス応答を示し、
図15(d)は、スプリアス応答の厚さT2が10λ以下を拡大した図である。
【0059】
図15(a)および
図15(b)に示すように、境界層12の厚さT2を0λから70λとしてもメイン応答ΔYは変わらない。詳細にみると、厚さT2が1.1λ以下となるとメイン応答ΔYが若干小さくなり、厚さT2が1λ以下となるとメイン応答ΔYはさらに小さくなる。
【0060】
図15(c)および
図15(d)に示すように、境界層12の厚さT2が大きくなるとスプリアス応答maxΔYが小さくなる。
図15(c)に示すように、厚さT2が10λ以下となるとスプリアス応答maxΔYが大きくなり、
図15(d)に示すように厚さT2が1.1以下となると、スプリアス応答maxΔYは急激に大きくなり、20dB以上となる。
【0061】
次に、実施例1について境界層12の厚さT2を変化させた。厚さT2を変えていること以外の条件はシミュレーション1の実施例1と同じである。
【0062】
図16(a)および
図16(b)は、シミュレーション6の実施例1における境界層の厚さT2に対するそれぞれメイン応答およびスプリアス応答を示す図である。
図16(a)に示すように、メイン応答ΔYは境界層12の厚さT2にあまり依存しない。厚さT2が1.1λ以下になるとメイン応答ΔYが若干低下する。
図16(b)に示すように、スプリアス応答maxΔYは境界層12の厚さT2にあまり依存しない。厚さT2が1.1λ以下になるとスプリアス応答maxΔYが若干低下する。
【0063】
シミュレーション6では、比較例2と実施例1とで温度補償膜13の厚さT3が異なるため、単純には比較できないものの、実施例1では比較例2に比べ境界層12の厚さT2が薄くなってもメイン応答ΔYは低下せず、スプリアス応答maxΔYは大きくならない。このように、境界層12を薄くしてもスプリアス応答を抑制できる。よって、境界層12を厚くすることによる製造工程の増加を抑制できる。
【0064】
図3(a)の比較例2では、境界層12を伝搬するバルク波の音速は温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速より速くかつ支持基板10を伝搬するバルク波の音速より遅い。このとき、
図3(a)のように、バルク波を含む弾性波52が境界層12と支持基板10との界面35において反射する。このため、
図3(b)のように、メイン応答58より高い周波数範囲にスプリアス応答59が生じる。そこで、実施例1では、支持基板10と境界層12との間に、境界層12のQ値より低いQ値を有する中間層11を設ける。これにより、
図4(a)から
図4(c)のように、メイン応答58は劣化せず、スプリアス応答59を抑制できる。
【0065】
図12のように、中間層11の厚さT1を電極指18の平均ピッチDの0.1倍(0.05λ)以上とし、中間層11のQ値を境界層12のQ値Q0の0.2倍以下とする。これにより、スプリアス応答maxΔYを約-20dB以下とすることができる。スプリアス応答を抑制する観点から、中間層11の厚さT1は電極指18の平均ピッチDの0.2倍(0.1λ)以上が好ましく、0.4倍(0.2λ)以上がより好ましい。中間層11の厚さT1は例えば電極指18の平均ピッチDの10倍(5λ)以下である。スプリアス応答を抑制する観点から、中間層11のQ値は境界層12のQ値Q0の0.1以下が好ましく、0.05以下がより好ましい。中間層11のQ値は0より大きい。なお、複数の電極指18の平均ピッチDは、弾性波共振器26のうちIDT22のX方向の長さを電極指18の本数で除することにより算出できる。
【0066】
図16(a)のように、メイン応答ΔYを劣化させないため、境界層12の厚さT2は電極指18の平均ピッチDの2.2倍(1.1λ)以上が好ましく、3.0倍(1.5λ)以上がより好ましい。
図15(c)および
図15(d)のように、比較例2では境界層12の厚さT2が1.1λ以上でも厚さT1が厚くなるほどスプリアス応答maxΔYが抑制される。境界層12を厚くすると、製造工程が増大および製造プロセスの難易度が上昇する。一方、
図16(b)のように、実施例1では、境界層12の厚さT2が1.1λ以上ではスプリアス応答maxΔYはほとんど変わらない。すなわち、実施例1では、境界層12の厚さT2を比較例2ほど厚くしなくてもスプリアス応答を抑制できる。境界層12を薄くできるため、製造工程を削減し製造プロセスの難易度を低下できる。この観点から、境界層12の厚さT2は電極指18の平均ピッチDの10倍(5λ)以下が好ましく、8倍(4λ)以下がより好ましい。
【0067】
図3(b)のように、バルク波を含む弾性波52を境界層12に通過させる観点から、温度補償膜13の厚さT3は、電極指18の平均ピッチDの1.5倍(0.75λ)以下が好ましく、1倍(0.5λ)以下がより好ましい。温度補償膜13の温度補償機能を発揮させる観点から、厚さT3は、電極指18の平均ピッチDの0.05倍(0.1λ)以上が好ましく、0.1倍(0.2λ)以上がより好ましい。
【0068】
メイン応答の弾性波のエネルギーを温度補償膜13内に存在させる観点から、圧電層14の厚さT4は複数の電極指18の平均ピッチDの2倍(1λ)以下が好ましく、1倍(0.5λ)以下がより好ましい。圧電層14を機能させる観点から、圧電層14の厚さT4は複数の電極指18の平均ピッチDの0.05倍(0.1λ)以上が好ましく、0.1倍(0.2λ)以上がより好ましい。
【0069】
弾性表面波のエネルギーが圧電層14の表面から2λまでの範囲にほとんど存在する場合には、メイン応答の弾性波を圧電層14および温度補償膜13内に閉じ込め、かつスプリアス応答を抑制する観点から、温度補償膜13の支持基板10側の面と圧電層14の櫛歯状電極20側の面との距離(T3+T4)は複数の電極指18の平均ピッチDの4倍(2λ)以下が好ましく、3倍(1.5λ)以下がより好ましく、2倍(1λ)以下がより好ましい。
【0070】
バルク波を含む弾性波52が中間層11において反射されるため、境界層12と中間層11とは接することが好ましく、温度補償膜13と境界層12とは接することが好ましい。
【0071】
温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速より速くてもよいが、弾性波が温度補償膜13内に存在しやすくなるため、温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速より遅いことが好ましい。これにより、温度補償膜13としてより機能することができる。温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速の0.99倍以下が好ましい。温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速が遅すぎると、圧電層14内に弾性波が存在しにくくなる。よって、温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速の0.9倍以上が好ましい。
【0072】
境界層12を伝搬するバルク波の音速は、温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速の1.1倍以上が好ましく、1.2倍以上がより好ましい。また、境界層12を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速より大きいことが好ましい。境界層12を伝搬するバルク波の音速が速すぎると、バルク波を含む弾性波52が境界層12と温度補償膜13との界面32で反射されてしまう。この観点から境界層12を伝搬するバルク波の音速は温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速の2.0倍以下が好ましく、1.5倍以下がより好ましい。
【0073】
支持基板10を伝搬するバルク波の音速は境界層12を伝搬するバルク波の音速の1.1倍以上が好ましく、1.2倍以上がより好ましい。支持基板10を伝搬するバルク波の音速は境界層12を伝搬するバルク波の音速の2.0倍以下が好ましい。
【0074】
境界層12の主成分と中間層11の主成分を同じとすることで、境界層12と中間層11のバルク波の音速をほぼ同じにできる。実施例1のシミュレーション1から6のように、圧電層14は、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムを主成分とする単結晶とする。温度補償膜13は、酸化シリコンを主成分とする多結晶または非晶質とする。境界層12および中間層11は、酸化アルミニウムを主成分とする多結晶または非晶質とする。これにより、スプリアス応答を抑制できる。ここで、ある層がある材料を主成分とするとは、ある層が意図的または意図せず不純物を含むことを含み、例えばある層内にある材料を50原子%以上含むことであり、80原子%以上含むことである。例えば境界層12が酸化アルミニウムを主成分とするとは、境界層12内のアルミニウムと酸素の合計の組成を例えば50原子%含むことであり、80原子%以上含むことである。
【0075】
[実施例1の変形例1]
図17は、実施例1の変形例1に係る弾性波共振器の断面図である。
図17に示すように、圧電層14と温度補償膜13との間の接合層15が設けられている。接合層15は、圧電層14と温度補償膜13とを接合する。圧電層14と温度補償膜13とを直接接合させることが難しい場合、接合層15を設けてもよい。接合層15は、例えば、酸化アルミニウム膜、シリコン膜、窒化アルミニウム膜、窒化シリコン膜または炭化シリコン膜である。接合層15の厚さT5は、圧電層14および温度補償膜13の機能を損なわない観点から、20nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましい。接合層15としての機能を損なわない観点から、厚さT5は、1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましい。メイン応答の弾性波を圧電層14に閉じ込める観点から、接合層15を伝搬するバルク波の音速は温度補償膜13を伝搬するバルク波の音速より速いことが好ましい。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0076】
実施例1およびその変形例において、一対の櫛歯状電極20が主に励振する弾性波がSH(Shear Horizontal)波であるとき、不要波としてバルク波が励振しやすい。圧電層14が36°以上かつ48°以下回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層のとき、SH波が励振される。よって、このとき、境界層12を設けることが好ましい。一対の櫛歯状電極20が主に励振する弾性波は、SH波に限らず例えばLamb波であってもよい。
【実施例2】
【0077】
図18(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図である。
図18(a)に示すように、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の直列共振器S1からS3が直列に接続されている。入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の並列共振器P1およびP2が並列に接続されている。1または複数の直列共振器S1からS3および1または複数の並列共振器P1およびP2の少なくとも1つに実施例1およびその変形例の弾性波共振器を用いることができる。ラダー型フィルタの共振器の個数等は適宜設定できる。フィルタは、多重モード型フィルタでもよい。
【0078】
[実施例2の変形例1]
図18(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
図18(b)に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ40が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ42が接続されている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された高周波信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された高周波信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方を実施例2のフィルタとすることができる。
【0079】
マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0080】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0081】
10 支持基板
11 中間層
12 境界層
13 温度補償膜
14 圧電層
15 接合層
16 金属膜
18 電極指
20 櫛歯状電極
22 IDT
26 弾性波共振器
40 送信フィルタ
42 受信フィルタ