(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
A63B 37/00 20060101AFI20240625BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240625BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20240625BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240625BHJP
C08G 18/10 20060101ALI20240625BHJP
C08G 18/79 20060101ALI20240625BHJP
C08G 18/42 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
A63B37/00 314
A63B37/00 324
A63B37/00 328
C09D7/65
C09D175/04
C09D5/00 Z
C08G18/10
C08G18/79 020
C08G18/42
(21)【出願番号】P 2020130570
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-06-14
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】篠原 宏隆
(72)【発明者】
【氏名】大平 隆志
【審査官】田中 洋行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-010190(JP,A)
【文献】特開2011-072776(JP,A)
【文献】特開2013-176530(JP,A)
【文献】特開2017-209298(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0280699(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00-47/04
C09D 7/65
C09D 175/04
C09D 5/00
C08G 18/10
C08G 18/79
C08G 18/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、前記コアの外側に設けられ、ディンプルが形成されているカバーと、前記カバーの外側に設けられ、90°以上の接触角を有する材料から形成されている外表層とを備えるゴルフボールであって、
前記ゴルフボールの動摩擦係数が0.52以上であり、
前記外表層を形成する材料が、撥水性添加剤を含有したウレタン塗料を含み、前記ウレタン塗料が、硬化剤としてポリイソシアネートを含み、前記ポリイソシアネートが、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト体とイソシアヌレート体との2つを含むゴルフボール。
【請求項2】
前記撥水性添加剤が、フッ素系界面活性剤、シリコーン変性アクリレート、または疎水性シリカを含む請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
前記ヘキサメチレンジイソシアネートの前記イソシアヌレート体と前記アダクト体との混合比率(イソシアヌレート体/アダクト体)が、質量比で、95/5~40/60である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
前記ウレタン塗料が、主剤としてポリオールと溶剤を含み、前記ポリオールが、ポリエステルポリオールを含む請求項1~3のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項5】
前記ポリエステルポリオールが、重量平均分子量(Mw)の異なる2種類のポリエステルポリオール(A)、(B)を含み、前記ポリエステルポリオール(A)のMwが20,000~30,000であり、前記ポリエステルポリオール(B)のMwが800~1,500である請求項4に記載のゴルフボール。
【請求項6】
前記ポリエステルポリオール(A)の量が、溶剤も含む主剤全量に対し、20~30質量%であり、前記ポリエステルポリオール(B)の量が、溶剤も含む主剤全量に対し、2~18質量%である請求項5に記載のゴルフボール。
【請求項7】
前記撥水性添加剤が疎水性シリカの微粒子を含み、前記接触角が120
°以上である請求項1~6のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項8】
前記撥水性添加剤の量が、溶剤も含む主剤全量に対して、0.1~10質量%である請求項1~7のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項9】
前記撥水性添加剤が、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系界面活性剤を含み、前記パーフルオロアルキル基のアルキル基鎖長が7以下である請求項1~8のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項10】
前記カバーが、ショアDで55以下の硬度を有する材料で形成されている請求項1~9のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項11】
前記外表層の厚さが8~20μmである請求項1~10のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールに関し、さらに詳しくは、撥水性の高いゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフは雨天時にもプレーされるが、晴天時と比べて、ゴルフボールの表面が水に濡れて空気抵抗が高くなることから、ドライバーで打った際のキャリー飛距離が落ちるという問題があった。そこで、例えば、特開平6-114125号公報には、ゴルフボールの外表面を、フッ素系ポリマーやシリコーン樹脂等の90°以上の接触角を有する撥水性の物質から構成することが記載されている。
【0003】
また、特開2001-214131号公報には、ゴルフボール表面の汚れを取り易くするという目的のために、ゴルフボール表面のクリアペイントとして、有機ケイ素化合物を含有するウレタン樹脂を用い、表面の接触角を90°以上にすることが記載されている。
【0004】
特開2014-527222号公報には、ゴルフボールの軟質表面コーティングにおいて表面エネルギーを低下させることが記載されているが、段落0056~0061に記載されているように、表面エネルギーを低下させると、ゴルフボールの表面の摩擦係数は低下し、ゴルフボールの表面の接触角は大きくなることが記載されている。
【0005】
特表2015-503400号公報には、ゴルフボールの表面の一部を接触角が90°以上の疎水性とするとともに、ゴルフボールの表面の他の一部を接触角が90°未満の親水性とすることで、湿潤プレー条件では、水分は、疎水性部分によって弾かれ、親水性部分に引き付けられるため、疎水性部分の表面は、ゴルフクラブヘッドとゴルフボール表面との間の摩擦が減少されないように、乾燥したままであり、結果として、湿潤プレー条件によって悪影響を受けないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-114125号公報
【文献】特開2001-214131号公報
【文献】特開2014-527222号公報
【文献】特表2015-503400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、ゴルフボールの表面を疎水性、すなわち、接触角が90°以上となるようにすることで、雨天時でのプレーにおいて特にドライバーショットの飛距離が落ちるのを防止することができるものの、ゴルフボール表面の接触角を大きくすると、摩擦係数は低下してしまうことから、グリーン周りでのアプローチショットにおいて十分なスピン量を得ることが難しくなるという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、雨天時でのプレーにおいてドライバーショットのキャリー飛距離が落ちるのを防ぐことができるとともに、アプローチショットにおいて優れたスピン性能を発揮することができるゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明に係るゴルフボールは、コアと、前記コアの外側に設けられ、ディンプルが形成されているカバーと、前記カバーの外側に設けられ、90°以上の接触角を有する材料から形成されている外表層とを備え、前記ゴルフボールの動摩擦係数を0.52以上としたものであり、前記外表層を形成する材料が、撥水性添加剤を含有したウレタン塗料を含み、前記ウレタン塗料は、硬化剤としてポリイソシアネートを含んでよく、前記ポリイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト体とイソシアヌレート体との2つを含む。
【0010】
前記撥水性添加剤は、フッ素系界面活性剤、シリコーン変性アクリレート、または疎水性シリカを含んでよい。
【0011】
前記ヘキサメチレンジイソシアネートの前記イソシアヌレート体と前記アダクト体との混合比率(イソシアヌレート体/アダクト体)は、質量比で、95/5~40/60であってよい。
【0012】
前記ウレタン塗料は、主剤としてポリオールと溶剤を含んでよく、前記ポリオールは、ポリエステルポリオールを含んでよい。前記ポリエステルポリオールは、重量平均分子量(Mw)の異なる2種類のポリエステルポリオール(A)、(B)を含んでよく、前記ポリエステルポリオール(A)のMwは20,000~30,000であってよく、前記ポリエステルポリオール(B)のMwは800~1,500であってよい。前記ポリエステルポリオール(A)の量は、溶剤も含む主剤全量に対し、20~30質量%であってよく、前記ポリエステルポリオール(B)の量は、溶剤も含む主剤全量に対し、2~18質量%であってよい。
【0013】
前記撥水性添加剤は、疎水性シリカの微粒子を含んでよく、これにより、前記接触角は120°以上となる。前記撥水性添加剤の量は、溶剤も含む主剤全量に対して、0.1~10質量%であってよい。また、前記撥水性添加剤は、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系界面活性剤を含んでよく、前記パーフルオロアルキル基のアルキル基鎖長は7以下であってよい。
【0014】
前記カバーは、ショアDで55以下の硬度を有する材料で形成されていることが好ましい。また、前記カバーを形成する材料は、熱可塑性ポリウレタンを含むことが好ましい。
【0015】
前記外表層の厚さは、8~20μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
接触角が90°以上の材料で外表層を形成すると、ゴルフボールの表面が撥水性となるので、ゴルフボールの表面の摩擦係数が低下し、よって、雨天時でのプレーにおいてドライバーの飛距離が落ちるのを防ぐことができるものの、グリーン周りでのアプローチショットにおいて十分なスピン量を得ることができない。本発明によれば、外表層を形成する材料として、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト体とイソシアヌレート体との2つを含む硬化剤を含有したウレタン塗料を用いたことから、接触角が90°以上の材料で外表層を形成しても、ゴルフボールの動摩擦係数を0.52以上とすることができ、アプローチショットにおいて十分なスピン量を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るゴルフボールの一実施の形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明に係るゴルフボールの動摩擦係数の測定器を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るゴルフボールの一実施の形態について説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態のゴルフボール1は、ボールの中心に位置するコア10と、このコア10の外周を包囲するカバー20と、カバーの外側を包囲する外表層30とを主に備える。カバー20の表面には、複数のディンプル22が形成されている。外表層30は、このディンプル22の窪みに沿ってカバー20の表面を実質的に均一の厚さで覆っている。なお、本実施の形態では、コアとカバーの2層構造を有するゴルフボールについて説明するが、本発明はこれに限定されず、コア10とカバー20との間に中間層を設けたり、コアを2層以上の複層コアとしたり、3層以上の複数層構造を有するゴルフボールであってもよい。
【0020】
コア10は、主に基材ゴムにより形成することができる。基材ゴムとしては、広くゴム(熱硬化性エラストマー)を用いることができ、例えば、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリウレタンゴム(PU)、ブチルゴム(IIR)、ビニルポリブタジエンゴム(VBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ニトリルゴム(NBR)、シリコーンゴムを用いることができるが、これらに限定されない。ポリブタジエンゴム(BR)としては、例えば、1,2-ポリブタジエンやシス1,4-ポリブタジエン等を用いることができる。
【0021】
コア10には、主成分となる基材ゴムの他、任意に、例えば、共架橋材、架橋剤、充填材、老化防止剤、異性化剤、素練り促進剤、硫黄、及び有機硫黄化合物を添加することができる。また、主成分として、基材ゴムに代えて、熱可塑性エラストマー、アイオノマー樹脂、またはこれらの混合物を用いることもできる。
【0022】
コア10は、実質的に球状の形状を有している。コア10の外径は、上限として、約42mm以下が好ましく、約41mm以下がより好ましく、約40mm以下がさらに好ましい。また、コア10の外径は、下限として、約5mm以上が好ましく、約15mm以上がより好ましく、約25mm以上が最も好ましい。コア10は、
図1では中実のコアを示したが、これに限定されず、中空のコアであってもよい。また、コア10は、
図1では一層として示したが、これに限定されず、例えば、センターコアとその包囲層などの複数の層からなるコアとしてもよい。
【0023】
コア10の成形法は、ゴルフボールのコアの公知の成形法を採用することができる。例えば、これに限定されないが、基材ゴムを含む材料を混練機で混練した後、この混練物を丸型金型で加圧加硫成形して得ることができる。また、複数の層を有するコアの成形法は、多層構造のソリッドコアの公知の成形法を採用することができる。例えば、センターコアを、材料を混練機で混練し、この混練物を丸型金型で加圧加硫成形して得た後、包囲層として、材料を混練機で混練し、この混練物をシート状に成形し、このシートでセンターコアを覆ったものを丸型金型で加圧加硫成形することで、複数層のコアを得ることができる。
【0024】
カバー20は、これらに限定されないが、熱可塑性ポリウレタン、アイオノマー樹脂、またはこれらの混合物を使用して形成することができ、特に、外表層30との相性から、熱可塑性ポリウレタンを使用することが好ましい。
【0025】
熱可塑性ポリウレタン材料の構造は、高分子ポリオール(ポリメリックグリコール)からなるソフトセグメントと、ハードセグメントを構成する鎖延長剤及びポリイソシアネートからなる。ここで、原料となる高分子ポリオールとしては、特に限定されるものではないが、本発明では、ポリエステル系ポリオール及びポリエーテル系ポリオールが好ましい。ポリエステル系ポリオールとしては、具体的には、ポリエチレンアジペートグリコール、ポリプロピレンアジペートグリコール、ポリブタジエンアジペートグリコール、ポリヘキサメチレンアジペートグリコール等のアジペート系ポリオールやポリカプロラクトンポリオール等のラクトン系ポリオールが挙げられる。ポリエーテルポリオールとしては、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)及びポリ(テトラメチレングリコール)等が挙げられる。
【0026】
鎖延長剤としては、特に限定されるものではないが、本発明では、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有し、かつ分子量が2,000以下である低分子化合物を用いることができ、その中でも炭素数2~12の脂肪族ジオールが好ましい。具体的には、1,4-ブチレングリコール、1,2-エチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等を挙げることができ、その中でも特に1,4-ブチレングリコールが好ましい。
【0027】
ポリイソシアネート化合物としては、特に限定されるものではないが、本発明では、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5-ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートからなる群から選択された1種又は2種以上を用いることができる。ただし、イソシアネート種によっては射出成形中の架橋反応をコントロールすることが困難なものがあり、よって、本発明では、生産時の安定性と発現される物性とのバランスとの観点から、芳香族ジイソシアネートである4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0028】
アイオノマー樹脂としては、これに限定されないが、以下の(a)成分及び/又は(b)成分をベース樹脂とするものを用いることができる。また、このベース樹脂には、任意に、以下の(c)成分を添加することができる。(a)成分は、オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はその金属塩、(b)成分は、オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はその金属塩、(c)成分は、ポリオレフィン結晶ブロック、ポリエチレン/ブチレンランダム共重合体を有する熱可塑性ブロックコポリマーである。
【0029】
また、カバー20には、上記の熱可塑性ポリウレタンまたはアイオノマー樹脂の主成分の他に、熱可塑性ポリウレタン以外の熱可塑性樹脂又はエラストマーを配合することができる。具体的には、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、アイオノマー樹脂、スチレンブロックエラストマー、水添スチレンブタジエンゴム、スチレン-エチレン・ブチレン-エチレンブロック共重合体又はその変性物、エチレン-エチレン・ブチレン-エチレンブロック共重合体又はその変性物、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体又はその変性物、ABS樹脂、ポリアセタール、ポリエチレン及びナイロン樹脂から選ばれ、その1種又は2種以上を用いることができる。特に、生産性を良好に維持しつつ、イソシアネート基との反応により、反発性や耐擦過傷性が向上することなどの理由から、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー及びポリアセタールを採用することが好適である。上記成分を配合する場合、その配合量は、カバー材の硬度の調整、反発性の改良、流動性の改良、接着性の改良などに応じて適宜選択され、特に制限されるものではないが、熱可塑性ポリウレタン成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上とすることができる。また、配合量の上限も特に制限されないが、熱可塑性ポリウレタン成分100質量部に対して、好ましくは100質量部以下、より好ましくは75質量部以下、更に好ましくは50質量部以下とすることができる。その他、ポリイソシアネート化合物、脂肪酸又はその誘導体、塩基性無機金属化合物、充填材などを添加することができる。
【0030】
カバー20の厚さは、これに限定されないが、下限として、約0.2mm以上が好ましく、約0.4mm以上がより好ましい。また、カバー20の厚さは、上限として、約4mm以下が好ましく、約3mm以下がより好ましく、約2mm以下が更に好ましい。カバー20の表面には、複数のディンプル22が形成されている。ディンプル22の大きさ、形状、数などは、ゴルフボール1の所望する空気力学的特性に応じて、適宜、設計することができる。
【0031】
カバー20の硬度は、これに限定されないが、上限として、ショアDにて、約55以下が好ましく、約53以下がより好ましく、約50以下が更に好ましい。また、カバー20の硬度は、下限として、ショアDにて、約38以上が好ましく、約40以上がより好ましく、約43以上が更に好ましい。カバー20の硬度は、カバー層の樹脂材料を厚さ2mmのシート状に成形し、2週間以上放置し、その後、ショアD硬度として、ASTM D2240-95規格に準拠して計測する。
【0032】
カバー20の形成法は、ゴルフボールのカバーの公知の成形法を採用することができる。例えば、特に限定されないが、カバー20は、金型内にカバー用の材料を射出成形することによって形成する。このカバー成型用の金型はカバーを成型するためのキャビティを有し、このキャビティの壁面にはディンプルを形成するための複数の凸部を有する。キャビティの中央にコア10を配置することで、コア10を覆うようにカバー20が形成される。
【0033】
コア10とカバー20との間には、任意に中間層(図示省略)を設けてもよい。コア的な機能を有する中間層を設けてもよいし、カバー的な機能を有する中間層を設けてもよい。また、複数の中間層を設けてもよく、例えば、コア的またはカバー的な機能を有する複数の中間層を設けてもよいし、コア的な機能を有する第1の中間層とカバー的な機能を有する第2の中間層を設けてもよい。
【0034】
外表層30は、これに限定されないが、主剤であるポリオールと硬化剤であるポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を主成分として使用して形成することができる。この主成分には、外表層30を形成する材料が、90°以上の接触角を有するように、添加剤として撥水性添加剤を添加する。各成分について以下に説明する。
【0035】
ポリオールとしては、これに限定されないが、ポリエステルポリオールを用いることが好ましく、2種類のポリエステルポリオール、すなわち、ポリエステルポリオール(A)とポリエステルポリオール(B)とを用いてもよい。これらの2種類のポリエステルポリオールを用いる場合は、重量平均分子量(Mw)が異なるものであり、(A)成分の重量平均分子量(Mw)が20,000~30,000であり、且つ、(B)成分の重量平均分子量(Mw)が800~1,500であることが好適である。(A)成分の重量平均分子量(Mw)は22,000~29,000がより好ましく、23,000~28,000が更に好ましい。(B)成分の重量平均分子量(Mw)は900~1,200がより好ましく、1,000~1,100が更に好ましい。
【0036】
ポリエステルポリオールは、ポリオールと多塩基酸との重縮合により得られる。このポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ジメチロールヘプタン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のジオール類、トリオール、テトラオール、脂環構造を有するポリオールが挙げられる。多塩基酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸等の脂環構造を有するジカルボン酸、トリス-2-カルボキシエチルイソシアヌレートが挙げられる。特に、(A)成分のポリエステルポリオールとしては、樹脂骨格に環状構造が導入されたポリエステルポリオールを採用することができ、例えば、シクロヘキサンジメタノール等の脂環構造を有するポリオールと多塩基酸との重縮合、或いは、脂環構造を有するポリオールとジオール類又はトリオールと多塩基酸との重縮合により得られるポリエステルポリオールが挙げられる。一方、(B)成分のポリエステルポリオールとしては、多分岐構造を有するポリエステルポリオールを採用することができ、例えば、東ソー社製の「NIPPOLAN 800」等の枝分かれ構造を有するポリエステルポリオールが挙げられる。
【0037】
また、上述したようなポリエステルポリオールを用いた場合、主剤全体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは13,000~23,000であり、より好ましくは15,000~22,000である。また、主剤全体の数平均分子量(Mn)は、好ましくは1,100~2,000であり、より好ましくは1,300~1,850である。これらの平均分子量(Mw及びMn)が上記範囲を逸脱すると、塗膜の耐摩耗性が低下するおそれがある。なお、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、示差屈折率計検出によるゲルパーミェーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略称する)測定による測定値(ポリスチレン換算値)である。2種類のポリエステルポリオールを用いた場合も主剤全体のMwとMnは上述した範囲である。
【0038】
上記2種類のポリエステルポリオール(A)、(B)成分の配合量は、特に限定されないが、(A)成分の配合量は、溶剤も含む主剤全量に対して20~30質量%であり、(B)成分の配合量が主剤全量に対して2~18質量%であることが好ましい。
【0039】
ポリイソシアネートとしては、特に限定されないが、一般的に用いられている芳香族、脂肪族、脂環式などのポリイソシアネートであり、具体的には、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1-イソシアナト-3,3,5-トリメチル-4-イソシアナトメチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらは、単独または混合で使用することができる。
【0040】
上記のヘキサメチレンジイソシアネートの変性体としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのポリエステル変性体やウレタン変性体などが挙げられる。上記のヘキサメチレンジイソシアネートの誘導体としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)のヌレート体(イソシアヌレート体)やビュレット体、アダクト体が挙げられる。アダクト体とは、ジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加体をいう。ヌレート体とは、ジイソシアネートの三量体をいう。特に、柔軟性に優れるアダクト体と、比較的強靭なヌレート体との2種類のHMDIを併用することにより、高いスピン性能を得ることができる。HMDIのヌレート体としては、例えば、商品名コロネート2357(東ソー社製)、スミジュールN3300(住化コベストロウレタン社製)、デュラネートTPA-100(旭化成社製)、タケネートD170N、タケネートD177N(いずれも三井化学社製)、バーノックDN-980(DIC社製)がある。また、HMDIのアダクト体としては、例えば、商品名コロネートHL(東ソー社製)、タケネートD160N(三井化学社製)、デュラネートE402-80B、デュラネートE405-70B(いずれも旭化成社製)、バーノックDN-955、バーノックDN-955S(いずれもDIC社製)がある。ヌレート体とアダクト体との混合比率(イソシアヌレート体/アダクト体)は、質量比で、95/5~40/60が好ましく、80/20~55/45がより好ましい。
【0041】
外表層30の主成分であるポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料において、ポリオールが有する水酸基(OH基)とポリイソシアネートが有するイソシアネート基(NCO基)とのモル比(NCO基/OH基)は、下限として、0.6以上が好ましく、0.65以上がより好ましい。また、このモル比は、上限として、1.5以下が好ましく、1.0以下がより好ましく、0.9以下が更に好ましい。このモル比が上記の下限値を下回ると、場合には未反応の水酸基が残り、ゴルフボール用塗膜としての性能及び耐水性が悪くなるおそれがある。一方、上記の上限値を超えるとイソシアネート基が過剰となるため、水分との反応でウレア基(脆い)が生成することになり、その結果、ゴルフボール用塗膜の性能が低下するおそれがある。
【0042】
ポリオールとポリイソシアネートの反応を促進する硬化触媒(有機金属化合物)としては、アミン系触媒や有機金属系触媒を使用することができ、この有機金属化合物としては、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、スズ等の金属石鹸等、従来から2液硬化型のウレタン塗料の硬化剤として配合されているものを好適に使用することができる。
【0043】
主剤であるポリオールと硬化剤であるポリイソシアネートは、それぞれ、塗装条件により各種の有機溶剤と混合することができる。このような有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルプロピオネート等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶剤、ミネラルスピリット等の石油炭化水素系溶剤等が使用できる。
【0044】
撥水性添加剤としては、これに限定されないが、例えば、シリコーン樹脂や、シリコーンオイル、シリコーンゴム、フッ素系界面活性剤、疎水性シリカ等、又はこれらの組み合わせを使用することができる。シリコーン樹脂としては、これに限定されないが、シリコーン変性アクリレートを使用することができる。シリコーン変性アクリレートとは、アクリル構造とシリコーン構造を一分子中に組み込んだ表面調整剤である。アクリル骨格にポリシロキサン鎖がついていることで、通常のポリロタキサン系のシリコーンと異なり、添加量を増やしてもスリップしにくく、撥水性を上げることができる。シリコーン変性アクリレートとしては、例えば、商品名BYK3550、BYK3700(いずれもビックケミー社製)がある。シリコーンオイルとしては、例えば、メチルハイドロジェンシリコーンオイルやジメチルシリコーンオイル等が挙げられる。
【0045】
フッ素系界面活性剤は、一般的な炭化水素系の界面活性剤やシリコーン系の界面活性剤と比べて、より少ない添加量でより高い撥水性を得ることができる。フッ素系界面活性剤としては、これに限定されないが、例えば、テトラフルオロエチレンやポリテトラフルオロエチレン等が挙げられ、特に、アルキル基鎖長が7以下であるパーフルオロアルキル基を有するフッ素系界面活性剤が好ましい。このようなフッ素系界面活性剤としては、商品名S-242、S-243、S-420、S-421(いずれもAGCセイミケミカル社製)が挙げられる。
【0046】
疎水性シリカとしては、疎水性シリカの微粒子を用いることが好ましく、例えば、商品名SS-50B(東ソー社製)が挙げられる。疎水性シリカの微粒子の粒子径は、0.3~10.0μmが好ましく、1~5.0μmがより好ましい。粒子径が小さすぎても粗すぎても、撥水性能が劣ってしまう。
【0047】
撥水性添加剤は、主剤に添加する使用することが好ましい。撥水性添加剤の配合量は、外表層30を形成する材料が90°以上の接触角を有する量であり、例えば、主剤全量に対して、下限として、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、上限として、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0048】
接触角は、下限として、95°以上が好ましく、100°以上がより好ましく、110°以上が更に好ましい。一方、接触角は、大き過ぎると、外表層とカバーの密着性が低下し、外表層がカバーに付着し難しくなる、又は剥がれやすくなるといった傾向があることから、上限として、160°以下が好ましく、150°以下がより好ましい。接触角の測定は、材料を塗布して15μmの膜厚に形成した樹脂シートに5μLの水滴を垂らして、接触角計にて測定することによって行う。なお、外表層を形成して製造したゴルフボールでも接触角の測定を行うことができ、この場合、ゴルフボールのディンプルのエッジ部分に上記水滴を垂らして測定することで、上記の測定方法と同等の接触角を測定することができる。
【0049】
また、外表層30を形成する材料には、必要に応じて、公知の塗料配合成分を添加してもよい。具体的には、増粘剤や紫外線吸収剤、蛍光増白剤、スリッピング剤、顔料等を適量配合することができる。
【0050】
外表層30の厚さは、特に限定されないが、下限として、8μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、上限として、22μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。外表層30は、
図1では、1層として表したが、これに限定されず、2層以上の複数層としてもよい。例えば、外表層をカバー側の内層と外側の外層との2層構造とし、内層を、撥水性添加剤を含有しないウレタン塗料を主成分とするクリア層とし、外層を、上述したような撥水性添加剤を含有するウレタン塗料を主成分とする撥水層としてもよい。これは、上述したように外表層に接触角が大きい(例えば140°以上)材料を使用する時に特に有効である。
【0051】
カバー20の表面に外表層30を形成する方法は、特に限定されず、カバー表面にゴルフボール塗料を塗装する公知の方法を用いることができ、エアガン塗装法や静電塗装法などの方法を用いることができる。
【0052】
上記のようにカバー20表面に外表層30が形成されたゴルフボール1は、その動摩擦係数が0.52以上である。この動摩擦係数を測定する方法としては、特開2013-176530号公報に記載された接触力試験機とほぼ同様のものを用いて測定することができ、但し、本発明では、
図2に示すように、90cmの高さの発射部41からゴルフボール1を落下させて、落下方向との角度αを20°に傾斜させて設けた衝突板42に衝突させ、衝突板42に設置した圧力センサ43で、その時の動摩擦係数を測定する。衝突板の角度αを20°としたのは、アプローチショット時のアイアンクラブのフェース部分が開き目である状態をイメージしたものである。動摩擦係数は、以下の数式により求められる。
動摩擦係数=せん断方向の接触力(Ft(t))/落下方向の接触力(Fn(t))
【0053】
ゴルフボール1の動摩擦係数は、下限として、0.53以上が好ましく、0.54以上がより好ましく、0.55以上が更に好ましく、上限として、0.60以下が好ましく、0.59以下がより好ましく、0.58以下が更に好ましい。このように接触角が90°以上の材料で外表層30を形成しても、ゴルフボール1の動摩擦係数を0.52以上と動摩擦係数を高くする手段としては、例えば、カバー20の硬度を下げて柔らかくしたり、外表層自体の摩擦力を向上させるといった手段が用いられる。
【0054】
ゴルフボール1の直径は、下限として、ルール上、42.67mm(1.68インチ)以上であり、上限として、44mm以下が好ましく、43.5mm以下がより好ましく、43mm以下が更に好ましい。ゴルフボール1の重さは、上限として、ルール上、45.93g(1.620オンス)以下であり、下限としては、44.5g以上が好ましく、44.7g以上がより好ましく、45.2g以上が更に好ましい。
【実施例】
【0055】
表1、表2に示す構成のゴルフボールをそれぞれ作製し、ゴルフボールの飛距離およびスピン性能を測定する試験を行った。表1、表2中の外表層を形成する材料である主剤と硬化剤の各成分の配合量は、主剤および硬化剤においてそれぞれ質量%で表したものである。表1、表2に示すカバーの材料の配合A、Cについては表3に示す。なお、表3中の各成分の配合量は、質量部で表した。
【0056】
【0057】
【0058】
表1、表2中の実施例1~5及び比較例1~5の主剤のポリオールとしては、以下の方法によって合成したポリエステルポリオールを用いた。環流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管及び温度計を備えた反応装置に、トリメチロールプロパン140質量部、エチレングリコール95質量部、アジピン酸157質量部、1,4-シクロヘキサンジメタノール58質量部を仕込み、撹拌しながら200~240℃まで昇温させ、5時間加熱(反応)させた。その後、酸価4、水酸基価170、重量平均分子量(Mw)28,000のポリエステルポリオールを得た。
【0059】
表1、表2中の添加剤、すなわち、撥水性添加剤は、いずれも市販品を用い、種類a、bがシリコーン系添加剤であり、種類aがシリコーン変性アクリレート(ビックケミー社製の商品名BYK3700)、種類bは有機変性ポリシロキサン(ビックケミー社製の商品名BYK370)である。また、種類cとしてフッ素系撥水剤(パーフルオロアルキル基を有するフッ素系界面活性剤であり、アルキル基鎖長が7以下)を添加し、種類dとしては疎水性シリカの微粒子(東ソー社製の商品名SS-50B)を添加した。
【0060】
表1中の実施例1~5では、硬化剤のイソシアネートとして、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)のヌレート体(イソシアヌレート体)である旭化成社製の商品名デュラネートTPA-100(NCO含有量23.1%、不揮発分100%)とともに、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)のアダクト体である旭化成社製の商品名デュラネートE402-80B(NCO含有量7.6%、不揮発分80%)を用いた。各実施例におけるヌレート体とアダクト体の混合比率(質量%)は表1の通りである。そして、各実施例において溶剤を添加して、溶剤も含む硬化剤全量に対して、イソシアネートの配合量(濃度)が表1に記載の値になるよう調整した。なお、比較例1~5では、いずれもHMDIのヌレート体のみを用いた。
【0061】
主剤の溶剤としては、酢酸ブチルを用い、硬化剤の溶剤としては、酢酸エチルと酢酸ブチルを用いた。
【0062】
接触角は、上記の主剤と硬化剤との混合物を塗布して15μmの膜厚に形成した樹脂シート上に5μLの水滴を垂らして、接触角計(協和界面化学社製の型番CA-VP)にて測定した。
【0063】
【0064】
カバーの配合を示す表3中の各成分は、以下のものを使用した。
T-8290、T-8283は、DICBayerPolymer社製の商標パンデックス、エーテルタイプ熱可塑性ポリウレタン。
ハイミラン1557は、三井・ダウポリケミカル社製のZnイオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体のアイオノマー樹脂。
ハイミラン1601は、三井・ダウポリケミカル社製のNaイオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体のアイオノマー樹脂。
ハイトレル4001は、東レ・デュポン株式会社製の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー。
ニュクレルAN4319は、三井・ダウポリケミカル社製のエチレン-メタクリル酸共重合体。
酸化チタンは、石原産業社製のタイペークR-550。
ポリエチレンワックスは、三洋化成社製の商品名サンワックス161P。
イソシアネート化合物は、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート。
【0065】
コアの配合は実施例および比較例において全て共通とした。基材ゴムとしてポリブタジエンA(JSR社製の商品名BR51)を20重量部、ポリブタジエンB(JSR社製の商品名BR730)を80重量部、アクリル酸亜鉛(和光純薬社製)を39.3重量部、有機過酸化物としてジクミルパーオキサイド(日本油脂社製の商品名パークミルD)を0.6重量部、老化防止剤として2,2-メチレンビス(4-メチル-6-ブチルフェノール)(大内新興化学工業社製の商品名ノクラックNS-6)を0.1重量部、酸化亜鉛(堺化学工業社製の商品名三種酸化亜鉛を20.4重量部、有機硫黄化合物としてペンタクロロチオフェノール亜鉛塩(和光純薬社製)を1重量部とし、加硫は温度155℃、時間15分の条件で行った。コアの配合比重は1.1702で、実比重は1.1462であった。
【0066】
動摩擦係数は、上述した
図2に示す接触力試験機にて測定した。接触力試験機の詳しい仕様について説明する。発射部41は、高さ90cmより落下させるように設定されている。衝突板42は、ベース板と表層板と表層材から構成されており、ベース板は、スチールからなり、80mm×80mm×15mm(厚さ)のサイズを有し、その外側の表層板は、ステンレススチール(SUS-630)からなり、80mm×80mm×20mmのサイズを有し、更に外側の打撃面である表層材は、チタン合金からなり、溝形状なしで、平均粗さRa:0.146μm、最大高さRy:1.132μmを有し、80mm×80mm×10mmのサイズを有するものを用いた。衝突板42に設置した圧力センサ43は、キスラー社の3成分力センサ(型式9067)を用いた。チャージアンプ(図示省略)は、キスラー社の型式5011Bを用いた。
【0067】
動摩擦係数の測定手順については、次の方法で行った。
(a)衝突板42の傾斜角度αを20°に調整して固定する。
(b)発射部41からゴルフボール1を落下させる。
(c)衝突板42にゴルフボール1が衝突した際の落下方向の接触力Fn(t)とせん断方向の接触力Ft(t)を圧力センサ43で測定し、Ft(t)/Fn(t)の最大値を算出する。
【0068】
表1、表2の「雨天の飛距離」は、晴天時と雨天時において、ゴルフ打撃ロボットにドライバー(W#1)(ブリヂストンスポーツ社製の商品名TourStageX-Drive415(ロフト角:10.5°))を装着し、ヘッドスピード(HS)45m/sでゴルフボールを打撃した時のキャリー飛距離をそれぞれ測定し、雨天時の飛距離から晴天時の飛距離を引いた値である。-3mm以上を◎+と評価し、-5m以上を◎と評価し、-8m以上を○と評価し、-8m以下を×と評価した。なお、上記雨天時とは降水量が5mmである状態を示す。また、雨天時であっても打撃ポイント(クラブとボールが接触するインパクトポイント)は上記クラブとボールに雨があたらないよう(濡れないよう)にし、晴天時も雨天時も上記同じ打出条件とし、キャリー飛距離差を測定した。
【0069】
表1、表2の「HS20m/sスピン量」は、雨天時において、ゴルフ打撃ロボットにサンドウェッジ(ブリヂストンスポーツ社製の商品名X-WEDGE H8101 58度)を装着し、ヘッドスピード20m/sでゴルフボールを打撃した時の打撃直後のボールを初期条件計測装置で測定したスピン量(rpm)である。3600rpm以上を◎と評価し、3400rpm以上を○と評価し、3200rpm以上を△と評価し、それ未満を×と評価した。
【0070】
表1、表2に示すように、接触角が90°以上の材料で外表層を形成しても、ゴルフボールの動摩擦係数を0.52以上とした実施例1~5はいずれも、雨天時でのドライバーの飛距離が大きく落ちるのを防ぐことができたとともに、晴天時のアプローチショットでのスピン量が3500rpm以上となり十分なスピン量を得ることができた。特に、実施例1~5では、硬化剤として、ヌレート体のHMDIのみではなく、柔軟性に優れるアダクト体のHMDIを混合して使用することで、高摩擦化でき、より高いスピン量を得ることができた。なお、実施例4では、撥水性添加剤としてシリコーン変性アクリレートを用いても、フッ素系界面活性剤と同程度のスピン量を得ることができた。また、実施例4では、撥水性添加剤として疎水性シリカを用いたことで、接触角が顕著に大きくなり、雨天時でのドライバーの飛距離が落ちるのをより大きく防ぐことができた。
【0071】
一方、接触角が90°以上の材料で外表層を形成しても、ゴルフボールの動摩擦係数が0.50であった比較例1、4はいずれも、雨天時でのドライバーの飛距離が大きく落ちるのを防ぐことができたものの、晴天時のアプローチショットでのスピン量が3200rpm以下となり十分なスピン量を得ることができなかった。
【0072】
また、接触角が90°未満の材料で外表層を形成した比較例2、5はいずれも、雨天時でのドライバーの飛距離が約8m以上と大きく落ちた。
【符号の説明】
【0073】
1 ゴルフボール
10 コア
20 カバー
22 ディンプル
30 外表層
41 発射部
42 衝突板
43 圧力センサ