(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】含油排水分離装置およびその方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/36 20230101AFI20240625BHJP
【FI】
C02F1/36
(21)【出願番号】P 2020142527
(22)【出願日】2020-08-26
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000219820
【氏名又は名称】株式会社トーエネック
(74)【代理人】
【識別番号】100131406
【氏名又は名称】福山 正寿
(72)【発明者】
【氏名】加藤 勇治
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-072008(JP,A)
【文献】特開2008-068230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/20- 1/26
1/30- 1/38
1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含油スカムを減容化するための含油排水分離装置であって、
底面を有すると共に前記含油スカムを貯留可能な貯留槽と、
前記含油スカムの液面側を向く上面を有し、該上面が前記液面に対して所定角度傾斜した状態
、かつ、前記底面との間に空間を有する態様で前記貯留槽内に配置される振動子と、
該振動子に高周波電力を供給可能に該振動子に電気的に接続された発振器と、
を備える含油排水分離装置。
【請求項2】
前記上面は、前記液面に対して15度以上25度以下、好ましくは約20度の傾斜角度を有している
請求項1に記載の含油排水分離装置。
【請求項3】
前記振動子は、前記上面のうち前記液面に最も近い部位と、前記液面と、の距離が5cm以上となるよう前記貯留槽内に配置されている
請求項1または2に記載の含油排水分離装置。
【請求項4】
前記含油スカムに出力される超音波周波数は、20kHz以上100kHz以下、好ましくは約40kHzである
請求項1ないし
3のいずれか1項に記載の含油排水分離装置。
【請求項5】
前記貯留槽に貯留される前記含油スカムは、20L以上30L以下、好ましくは30Lであり、
前記高周波電力は、400W以上600W以下、好ましくは600Wである
請求項1ないし
4のいずれか1項に記載の含油排水分離装置。
【請求項6】
前記発振器は、前記含油スカム1Lあたり20W以上30W以下、好ましくは20Wの前記高周波電力を前記振動子に供給する
請求項1ないし
5のいずれか1項に記載の含油排水分離装置。
【請求項7】
前記含油スカムの温度を10℃以上40℃以下に調節可能な温度調節器をさらに備える
請求項1ないし
6のいずれか1項に記載の含油排水分離装置。
【請求項8】
含油スカムを減容化するための含油排水分離方法であって、
(a)貯留槽に前記含油スカムを貯留し、
(b)前記含油スカムの液面に対して上面が所定角度傾斜した状態
、かつ、前記振動子と前記貯留槽の底面との間に空間を有する態様で振動子を前記貯留槽内に配置し、
(c)前記振動子に高周波電力を供給する
含油排水分離方法。
【請求項9】
前記ステップ(b)は、前記上面を前記液面に対して15度以上25度以下、好ましくは約20度の傾斜角となるように前記振動子を前記貯留槽内に配置するステップを含んでいる
請求項
8に記載の含油排水分離方法。
【請求項10】
前記ステップ(b)は、前記上面のうち前記液面に最も近い部位と、前記液面と、の距離が5cm以上となるよう振動子を前記貯留槽に配置するステップを含んでいる
請求項
8または
9に記載の含油排水分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含油スカムを減容化するための含油排水分離装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2011-45846号公報(特許文献1)には、製鉄工場において発生する含油排水から分離された含油スカムを、目開きの異なる複数段の振動篩に掛けることで、当該含油スカムから水分(含油排水)を分離させて減容化を図る装置が記載されている。当該装置では、多くの薬剤や熱エネルギーを用いることなくスカムの減容化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した公報に記載の含油排水分離装置は、複数段の振動篩を配置する必要があるため、広い設置スペースが必要となり、処理効率の向上と省スペース化との両立という点において、なお改良の余地がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、含油スカムから含油排水を分離するに際し、処理効率の向上および省スペース化の両立に資する技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る含油排水分離装置の好ましい形態によれば、含油スカムを減容化するための含油排水分離装置が構成される。当該含油排水分離装置は、底面を有すると共に含油スカムを貯留可能な貯留槽と、振動子と、当該振動子に高周波電力を供給可能に当該振動子に電気的に接続された発振器と、を備えている。そして、振動子は、含油スカムの液面側を向く上面を有し、当該上面が含油スカムの液面に対して所定角度傾斜した状態、かつ、前記底面との間に空間を有する態様で貯留槽内に配置される。
【0007】
本発明によれば、振動子が発生した超音波により含油スカム中に微細気泡を発生させ、音圧変化によって積極的にキャビテーションさせることができる。これにより、含油スカムに付着した微細気泡が消滅(崩壊)する際に発生する衝撃圧によって、含油スカムから水分(含油排水)やゴミなどを効果的に分離させることができる。なお、振動子の上面が含油スカムの液面に対して所定角度傾斜しているため、含油スカムから分離された水分(含油排水)が当該上面に留まることがない。即ち、振動子の上面に、常に含油スカムを存在させることができるため、キャビテーション効果による含油スカムからの水分(含油排水)やゴミの分離を促進することができる。また、振動子の上面を含油スカムの液面に対して所定角度傾斜させるのみであるため、省スペースかつ簡易な構造で含油スカムから水分(含油排水)やゴミを分離できる。また、本発明によれば、含油スカムから分離された水分(含油排水)が振動子と底面との間の空間に流れ込み、対流効果によって含油スカムを振動子の上面側に移動させることができる。また、振動子が含油スカムから分離された水分(含油排水)に埋没してしまうことを良好に回避できる。これにより、キャビテーション効果による含油スカムからの水分(含油排水)やゴミの分離をより一層促進することができる。
【0008】
本発明に係る含油排水分離装置の更なる形態によれば、振動子の上面は、液面に対して15度以上25度以下、好ましくは約20度の傾斜角度を有している。
【0009】
本発明者は、鋭意研究の結果、振動子の上面の液面に対する傾斜角度が15度以上25度以下、好ましくは約20度のときに、含油スカムの削減率が高くなることを見出した。ここで、削減率とは、含油スカムから水分(含油排水)が除去されたことによる容積の低減率として規定され、具体的には、「貯留槽内における減容化前(処理前)の含油スカムの容積」から「貯留槽内における減容化後(処理後)の含油スカムの容積」を減じた値を「貯留槽内における減容化前(処理前)の含油スカムの容積」で除した後、100を乗じた値として規定される。この研究結果を踏まえて、本形態では、振動子の上面の液面に対する傾斜角度を、15度以上25度以下、好ましくは約20度とする構成とした。これにより、含油スカムの減容化をより促進することができる。
【0010】
本発明に係る含油排水分離装置の更なる形態によれば、振動子は、上面のうち液面に最も近い部位と、液面と、の距離が5cm以上となるように貯留槽内に配置されている。
【0011】
本発明者は、鋭意研究の結果、振動子の上面と含油スカムの液面との間の距離が狭いと、含油スカムの液面の振動が激しくなり、超音波の効果で分離した含油スカムが瞬時に再混合されるといった現象が生じることを見出した。この研究結果を踏まえて、本形態では、振動子の上面と含油スカムの液面との距離を、5cm以上とする構成とした。これにより、含油スカムの減容効果が低減することを抑制することができる。
【0014】
本発明に係る含油排水分離装置の更なる形態によれば、含油スカムに出力される超音波周波数は、20kHz以上100kHz以下、好ましくは約40kHzである。
【0015】
本発明者は、鋭意研究の結果、特定の超音波周波数帯域において、含油スカムから水分(含油排水)やゴミを効果的に分離できることを見出した。この研究結果を踏まえて、本形態では、含油スカムに出力される超音波周波数を20kHz以上100kHz以下、好ましくは約40kHzとした。これにより、含油スカムから水分(含油排水)やゴミを効果的に分離することができる。
【0016】
本発明に係る含油排水分離装置の更なる形態によれば、貯留槽に貯留される含油スカムは、20L以上30L以下、好ましくは30Lであり、高周波電力は、400W以上600W以下、好ましくは600Wである。即ち、発振器は、含油スカム1Lあたり20W以上30W以下、好ましくは20Wの高周波電力を振動子に供給する。
【0017】
本発明者は、鋭意研究の結果、振動子に供給する高周波電力の値と、処理する含油スカムの量と、に相関があることを見出した。出力を600Wより大きくすると、分離された水分(含油排水)の水質が低下する。一方、出力を400W未満にすると、処理時間が長くなってしまう。この研究結果を踏まえて、本形態では、含油スカムの量を20L以上30L以下、好ましくは30Lとし、振動子に供給する高周波電力を400W以上600W以下、好ましくは600Wとする構成とした。即ち、発振器によって、含油スカム1Lあたり20W以上30W以下、好ましくは20Wの高周波電力を振動子に供給する構成とした。これにより、含油スカムから水分(含油排水)やゴミをより効果的に分離することができる。
【0018】
本発明に係る含油排水分離装置の更なる形態によれば、含油スカムの温度を10℃以上40℃以下に調節可能な温度調節器をさらに備えている。
【0019】
本発明者は、鋭意研究の結果、含油スカムの温度が低すぎると、含油スカムの粘度が高くなり、分離後(減容化後)の含油スカムを処理する際に目詰まりなどが発生してしまい、また、含油スカムの温度が高すぎると、分離効果は向上するが、濃縮された(減容化された)含油スカムや浮上油が超音波の効果で含油排水に溶けやすくなり、分離効果が低下してしまうことを見出した。この研究結果を踏まえて、本発明では、含油スカムの温度を10℃以上40℃以下に調節する構成とした。これにより、含油スカムから水分(含油排水)やゴミをより効果的に分離することができる。
【0020】
本発明に係る含油排水分離方法の好ましい形態によれば、含油スカムを減容化するための含油排水分離方法が構成される。当該含油排水分離方法は、(a)貯留槽に含油スカムを貯留し、(b)含油スカムの液面に対して上面が所定角度傾斜した状態、かつ、前記振動子と前記貯留槽の底面との間に空間を有する態様で振動子を貯留槽内に配置し、(c)振動子に高周波電力を供給する。
【0021】
本発明によれば、振動子が発生した超音波により含油スカム中に微細気泡を発生させ、音圧変化によって積極的にキャビテーションさせることができる。これにより、含油スカムに付着した微細気泡が消滅(崩壊)する際に発生する衝撃圧によって、含油スカムから水分(含油排水)やゴミなどを効果的に分離させることができる。なお、振動子の上面が含油スカムの液面に対して所定角度傾斜しているため、含油スカムから分離された水分(含油排水)が当該上面に留まることがない。即ち、振動子の上面に、常に含油スカムを存在させることができるため、キャビテーション効果による含油スカムからの水分(含油排水)やゴミの分離を促進することができる。また、振動子の上面を含油スカムの液面に対して所定角度傾斜させるのみであるため、省スペースかつ簡易な構造で含油スカムから水分(含油排水)やゴミを分離できる。また、本発明によれば、含油スカムから分離された水分(含油排水)が振動子と底面との間の空間に流れ込み、対流効果によって含油スカムを振動子の上面側に移動させることができる。また、振動子が含油スカムから分離された水分(含油排水)に埋没してしまうことを良好に回避できる。これにより、キャビテーション効果による含油スカムからの水分(含油排水)やゴミの分離をより一層促進することができる。
【0022】
本発明に係る含油排水分離方法の更なる形態によれば、ステップ(b)は、上面を液面に対して15度以上25度以下、好ましくは約20度の傾斜角となるように振動子を貯留槽内に配置するステップを含んでいる。
【0023】
本発明者は、鋭意研究の結果、振動子の上面の液面に対する傾斜角度が15度以上25度以下、好ましくは約20度のときに、含油スカムの削減率が高くなることを見出した。ここで、削減率とは、「貯留槽内における減容化前(処理前)の含油スカムの容積」から「貯留槽内における減容化後(処理後)の含油スカムの容積」を減じた値を「貯留槽内における減容化前(処理前)の含油スカムの容積」で除した後、100を乗じた値として規定される。この研究結果を踏まえて、本形態では、振動子の上面の液面に対する傾斜角度を、15度以上25度以下、好ましくは約20度とする構成とした。これにより、含油スカムの減容化をより促進することができる。
【0024】
本発明に係る含油排水分離方法の更なる形態によれば、ステップ(b)は、上面のうち液面に最も近い部位と、液面と、の距離が5cm以上となるように振動子を貯留槽に配置するステップを含んでいる。
【0025】
本発明者は、鋭意研究の結果、振動子の上面と含油スカムの液面との間の距離が狭いと、含油スカムの液面の振動が激しくなり、超音波の効果で分離した含油スカムが瞬時に再混合されるといった現象が生じることを見出した。この研究結果を踏まえて、本形態では、振動子の上面と含油スカムの液面との距離を、5cm以上とする構成とした。これにより、含油スカムの減容効果が低減することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、含油スカムから含油排水を分離するに際し、処理効率の向上および省スペース化の両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施の形態に係る含油排水分離装置1の構成の概略を示す構成図である。
【
図2】含油スカムScoilの量と,含油スカムScoilの削減率および含油排水Woil(分離水)中の油の量と,の関係についての実験結果を示した説明図である。
【
図3】含油スカムScoilに出力される超音波周波数と削減率との関係についての実験結果を示した説明図である。
【
図4】超音波発振器8の出力と削減率との関係についての実験結果を示した説明図である。
【
図5】含油スカムScoilの液面に対する超音波振動子4の上面4aの傾斜角度と変化率との関係についての実験結果を示した説明図である。
【
図6】変形例の含油排水分離装置1Aの構成の概略を示す構成図である。
【
図7】変形例の含油排水分離装置1Bの構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0031】
本実施の形態に係る含油排水分離装置1は、
図1に示すように、含油スカムを貯留可能な貯留槽2と、当該貯留槽2内に配置された超音波振動子4と、当該超音波振動子4を載置可能に貯留槽2内に配置された載置台6と、超音波振動子4に高周波電力を供給可能に当該超音波振動子4に電力ラインLを介して電気的に接続された超音波発振器8と、貯留槽2内の含油スカムの温度調節を行う温度調節器30と、を備えている。
【0032】
貯留槽2は、
図1に示すように、底壁2aが先細りの形状を有している。換言すれば、底壁2aは、中央に向かうほど深さが深くなる形状を有しているということができる。当該底壁2aの約中央には、バルブ付き吐出配管10が接続されている。即ち、バルブ付き吐出配管10は、貯留槽2の最も深さが深い箇所に接続されている。また、貯留槽2の側壁2bには、バルブ付き吐出配管12が接続されている。バルブ付き吐出配管12は、側壁2bのうち底壁2a寄りの位置、好ましくは底壁2aに隣接して配置されている。貯留槽2には、油水分離槽90からポンプPによって汲み上げられた含油スカムScoilがホースHを介して供給される。なお、油水分離槽90は、例えば金属加工工場内で発生した廃液や排水を浮上油Foil、含油スカムScoil、含油排水Woil、および、スラッジSlgに分離する装置である。
【0033】
超音波振動子4は、例えば、圧電セラミックスにより構成されており、交流電圧を付加することにより伸縮する性質を有している。即ち、超音波振動子4は、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する、より具体的には、超音波発振器8より供給される高周波電力を機械振動に変換して超音波を発生する。本実施の形態では、超音波振動子4として、貯留槽2内に沈める投込型振動子を用いる構成とした。なお、超音波振動子4は、約直方体形状を有している。
【0034】
載置台6は、
図1に示すように、所定の高さを有する格子状の台として構成されており、貯留槽2の上縁部に引っ掛けることにより当該貯留槽2に設置可能とされている。また、載置台6は、超音波振動子4を載置可能な載置面6aを有している。当該載置面6aは、貯留槽2に貯留される含油スカムScoilの液面に対して約20度の傾斜角度を有している。当該載置面6aに超音波振動子4が載置されることによって、超音波振動子4の上面4aも貯留槽2に貯留される含油スカムScoilの液面に対して約20度の傾斜角度を有する。また、載置台6の高さは、載置面6aに載置された超音波振動子4の上面4aのうち含油スカムScoilの液面に最も近い部位と、当該含油スカムScoilの液面と、の距離が5cm以上となるように設定されている。なお、超音波振動子4が載置台6の載置面6aに載置されるため、超音波振動子4と貯留槽2の底壁2aとの間には、所定の空間Rが構成される。なお、本実施の形態では、載置台6を格子状の台としたが、超音波振動子4の上面4aが貯留槽2に貯留される含油スカムScoilの液面に対して傾斜角度を有した状態で超音波振動子4を載置できれば如何なる構造であっても良いことは言うまでもない。
【0035】
温度調節器30は、図示しないヒーターと、当該ヒーターに通電する電流を断続可能な開閉器(図示せず)と、貯留槽2に貯留される含油スカムScoilの温度を測定する温度センサ(図示せず)と、温度センサによって測定された温度に基づいて開閉器を制御する制御装置(図示せず)と、を有している。制御装置は、測定された温度と、貯留槽2に貯留される含油スカムScoilの温度と、を比較して、含油スカムScoilの温度が所望の温度を維持するように開閉器を制御する。
【0036】
次に、こうして構成された本発明の実施の形態に係る含油排水分離装置1の動作について説明する。まず、貯留槽2内に載置台6および超音波振動子4を配置した状態で、貯留槽2内の含油スカムScoilの量が約30Lとなるまで、油水分離槽90から含油スカムScoilを貯留槽2内に供給する。このとき、超音波振動子4の上面4aは、含油スカムScoilの液面に対して約20度の傾斜角度を有している。また、超音波振動子4の上面のうち含油スカムScoilの液面に最も近い部位と、当該含油スカムScoilの液面と、の距離が5cm以上となるように設定されている。さらに、超音波振動子4と貯留槽2の底壁2aとの間には、所定の空間Rが構成されている。
【0037】
続いて、温度調節器30によって、含油スカムScoilの温度を10℃以上40℃以下に設定し、当該状態で、超音波発振器8から超音波振動子4に高周波電力を供給する。ここで、本実施の形態では、超音波発振器8から超音波振動子4に供給される高周波電力は、出力600Wに設定すると共に(即ち、超音波発振器8が、含油スカムScoil1Lあたり20Wの高周波電力を超音波振動子4に供給する構成)、含油スカムScoilに出力される超音波周波数が40kHzとなるように設定する構成とした。
【0038】
こうして貯留槽2内の含油スカムScoilに超音波振動を与えると、含油スカムScoilから含油排水Woil(分離水)が分離され、比較的比重の小さい含油スカムScoilが貯留槽2の上方に移動すると共に、比較的比重の大きい含油排水Woil(分離水)が貯留槽2の下方(底)に移動する。ここで、含油スカムScoilからの含油排水Woil(分離水)の分離は、以下のメカニズムによって行われる。即ち、含油スカムScoilに超音波振動を作用させることで、含油スカムScoil中に微細気泡を発生させ、音圧変化によって積極的にキャビテーションさせることができ、これにより、含油スカムScoilに付着した微細気泡が消滅(崩壊)する際に発生する衝撃圧によって、含油スカムScoilから含油排水Woil(分離水)やゴミなどが効果的に分離されるのである。
【0039】
なお、超音波振動子4の上面4aが含油スカムScoilの液面に対して20度の傾斜角度を有しているため、含油スカムScoilから分離された含油排水Woil(分離水)が当該上面4aに留まることがない。即ち、超音波振動子4の上面4aに、常に含油スカムScoilを存在させることができる。また、当該上面4aを流下した含油排水Woil(分離水)は、超音波振動子4と貯留槽2の底壁2aとの間の空間Rに流れ込み、対流効果によって当該空間Rに存在している含油スカムScoilを貯留槽2の上方に移動させることができる。さらに、超音波振動子4が載置台によってかさ上げされているため、超音波振動子4が含油スカムScoilから分離された含油排水Woil(分離水)に埋没してしまうことを良好に回避できる。これにより、キャビテーション効果による含油スカムScoilからの含油排水Woil(分離水)やゴミの分離を促進することができる。
【0040】
なお、超音波振動子4の上面のうち含油スカムScoilの液面に最も近い部位と、当該含油スカムScoilの液面と、の距離が5cm以上となるように設定されているため、含油スカムScoilの液面付近での激しい振動の発生を防止できる。これにより、含油スカムScoilの減容化効果が低減することを抑制できる。
【0041】
また、含油スカムScoilの量を30Lに設定すると共に、含油スカムScoilの油温を10℃以上40℃以下に設定し、さらに、含油スカムScoilに出力される超音波周波数を40kHzに設定すると共に、超音波発振器8の出力を600Wとしたため、含油スカムScoilから含油排水(分離水)やゴミの分離をより一層効果的に促進することができる。
【0042】
こうして貯留槽2内で含油スカムScoilから含油排水Woil(分離水)を分離した後、バルブ付き吐出配管10を開状態とすることによって、含油排水(分離水)を排出することができ、また、バルブ付き吐出配管12を開状態とすることによって、減容化された含油スカムScoilを排出することができる。
【0043】
図2は、含油スカムScoilの量と,含油スカムScoilの削減率および含油排水Woil(分離水)中の油の量と,の関係についての実験結果を示した説明図であり、
図3は、含油スカムScoilに出力される超音波周波数と削減率との関係についての実験結果を示した説明図であり、
図4は、超音波発振器8の出力と削減率との関係についての実験結果を示した説明図であり、
図5は、含油スカムScoilの液面に対する超音波振動子4の上面4aの傾斜角度と変化率との関係についての実験結果を示した説明図である。
【0044】
含油スカムScoilの量と含油スカムScoilの削減率との関係は、
図2に示すように、含油スカムScoilの量が増加するのに伴って削減率は減少する傾向を示す。ここで、削減率とは、含油スカムScoilから含油排水Woil(分離水)が除去されたことによる容積の低減率として規定され、具体的には、「貯留槽2内における減容化前(処理前)の含油スカムの容積」から「貯留槽2内における減容化後(処理後)の含油スカムの容積」を減じた値を「貯留槽2内における減容化前(処理前)の含油スカムの容積」で除した後、100を乗じた値として規定される。ここで、含油排水Woil(分離水)中の油の量(ノルマルヘキサン抽出物質量、以下、「n-Hex」という。単位は、<mg/L>)は、数値が大きいほど含油排水Woil(分離水)中に多くの油が溶け込んでいることを示し、水質が悪化することを意味する。なお、含油スカムScoilの量が45Lの場合に、削減率およびn-Hexともに最も小さい値を示しているが、処理効果が不安定であり、かつ、処理時間が長く掛かるという結果となった。以上の結果より、本実施の形態では、含油スカムScoilの量は、20L以上30L以下、好ましくは30Lとした。
【0045】
含油スカムScoilに出力される超音波周波数と削減率との関係は、
図3に示すように、40kHz付近において最も高い削減率を示す結果となった。当該結果より、本実施の形態では、含油スカムScoilに出力される超音波周波数は、20kHz以上100kHz以下、好ましくは約40kHzとした。
【0046】
超音波発振器8の出力と削減率との関係は、
図4に示すように、出力が600Wのときに最も大きい削減率を示す結果となった。出力を600Wより大きくすると、分離された含油排水Woil(分離水)の水質が低下し、出力を400W未満にすると、処理時間が長くなってしまう。以上の結果より、本実施の形態では、超音波発振器8の出力は、400W以上600W以下、好ましくは600Wとした。即ち、超音波発振器8が、含油スカムScoil1Lあたり20W以上30W以下、好ましくは20Wの高周波電力を超音波振動子4に供給する構成である。なお、含油スカムScoilに出力される超音波周波数を40kHzおよび超音波発振器8の出力を600Wに設定した場合、削減率は平均で39%を示した。
【0047】
含油スカムScoilの液面に対する超音波振動子4の上面4aの傾斜角度と変化率との関係は、
図5に示すように、傾斜角度が約17.5度において変化率が最も大きい値を示す結果となった。ここで、変化率とは、含油スカムScoilの液面に対する超音波振動子4の上面4aの傾斜角度が0度のときを1としたときの削減率の増減割合として規定される。以上の結果より、本実施の形態では、含油スカムScoilの液面に対する超音波振動子4の上面4aの傾斜角度は、15度以上25度以下、好ましくは約20度とした。
【0048】
以上、説明した本実施の形態に係る本発明の含油排水分離装置1によれば、超音波振動子4の上面4aが、含油スカムScoilの液面に対して20度の傾斜角度を有するように、超音波振動子4を貯留槽2に設置するのみであるため、省スペースかつ簡易な構造で含油スカムScoilから含油排水Woil(分離水)やゴミを分離できる。しかも、上面4aが含油スカムScoilの液面に対して傾斜しているため、含油スカムScoilから分離された含油排水Woil(分離水)が上面4aに滞留することがない。即ち、超音波振動子4の上面4aには、常に含油スカムScoilが存在することになるため、キャビテーション効果による含油スカムScoilからの含油排水Woil(分離水)やゴミの分離を促進することができる。この結果、低コストで含油スカムScoilの減容化を実現し得ると共に産廃排出量の削減も図ることができるため、産廃処理費用の削減に寄与することができる。
【0049】
また、本実施の形態に係る本発明の含油排水分離装置1によれば、超音波振動子4と、貯留槽2の底壁2aとの間に空間Rが存在するため、上面4aを流下した含油排水Woil(分離水)が、当該空間Rに流れ込み、対流効果によって当該空間Rに滞留している含油スカムScoilを貯留槽2の上方に移動させることができる。これにより、キャビテーション効果による含油スカムScoilからの含油排水Woil(分離水)やゴミの分離を促進することができる。
【0050】
さらに、本実施の形態に係る本発明の含油排水分離装置1によれば、超音波振動子4の上面のうち含油スカムScoilの液面に最も近い部位と、当該含油スカムScoilの液面と、の距離が5cm以上となるように設定するため、含油スカムScoilの液面に激しい振動が生じることを防止できる。これにより、含油スカムScoilの減容化効果が低減することを抑制することができる。
【0051】
また、本実施の形態に係る本発明の含油排水分離装置1によれば、含油スカムScoilの量を30Lに設定すると共に、含油スカムScoilの温度を10℃以上40℃以下に設定し、さらに、含油スカムScoilに出力される超音波周波数を40kHzに設定すると共に、超音波発振器8の出力を600Wとしたため、含油スカムScoilの粘度が高くなることにより、減容化後の含油スカムScoilの処理が困難になるといった不都合や、減容化後の含油スカムScoilや浮上油が超音波の効果で含油排水Woilに溶け込み分離効果が低下してしまうといった不都合、あるいは、分離された含油排水(分離水)の水質が悪化するといった不都合を抑制できる。これにより、含油スカムScoilから含油排水Woil(分離水)やゴミをより効果的に分離することができる。
【0052】
本実施の形態では、超音波振動子4は載置台6の載置面6aに載置することで、上面4aを含油スカムScoilの液面に対して約20度傾斜させると共に、超音波振動子4と貯留槽2の底壁2aとの間に空間Rを設ける構成としたが、これに限らない。例えば、
図6に示す変形例の含油排水分離装置1Aに例示するように、超音波振動子4の一端を持ち上げることにより、上面4aを含油スカムScoilの液面に対して約20度傾斜させると共に、超音波振動子4と貯留槽2の底壁2aとの間に空間Rを設ける構成としても良い。
【0053】
本実施の形態では、超音波振動子4の上面4aを含油スカムScoilの液面に対して約20度傾斜させたが、15度以上25度以下であれば如何なる傾斜角度であっても良い。
【0054】
本実施の形態では、貯留槽2には30Lの含油スカムScoilを貯留すると共に、超音波発振器8から超音波振動子4に供給される高周波電力を600Wとしたが、これに限らない。例えば、貯留槽2には20L以上30L以下の含油スカムScoilを貯留すると共に、超音波振動子4に400W以上600W以下の高周波電力を供給する構成、即ち、超音波発振器8が、含油スカムScoil1Lあたり20W以上30W以下の高周波電力を超音波振動子4に供給する構成としても良い。
【0055】
本実施の形態では、含油スカムScoilに出力される超音波周波数を40kHzとしたが、20kHz以上100kHz以下であれば如何なる周波数であっても良い。
【0056】
本実施の形態では、超音波振動子4の上面4aを含油スカムScoilの液面に対して傾斜させたが、これに限らない。例えば、
図7に例示する変形例の含油排水分離装置1Bに示すように、超音波振動子4の上面4aを含油スカムScoilの液面に対して傾斜させることなく、載置台6Bによって超音波振動子4をかさ上げした状態で載置する構成としても構わない。
【0057】
本実施の形態では、専用のヒーターによって含油スカムScoilを加熱する構成としたが、これに限らない。専用のヒーターに替えて、含油スカムScoilに熱伝達可能な位置に配置された機器、例えば、超音波振動子4などから生じる熱によって含油スカムScoilを加熱する構成としても良い。
【0058】
本実施の形態では、温度調節器30は、ヒーターと、開閉器と、温度センサと、制御装置と、を有し、含油スカムScoilの温度が所望の温度を維持するように開閉器を制御する構成としたが、これに限らない。例えば、温度調節器30は、冷却器と、当該冷却器に通電する電流を断続可能な第2開閉器と、をさらに有し、含油スカムScoilの温度が所望の温度を維持するように開閉器および第2開閉器を制御する構成としても良い。
【0059】
本実施の形態は、本発明を実施するための形態の一例を示すものである。したがって、本発明は、本実施形態の構成に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0060】
1 含油排水分離装置(含油排水分離装置)
1A 含油排水分離装置(含油排水分離装置)
1B 含油排水分離装置(含油排水分離装置)
2 貯留槽(貯留槽)
2a 底壁(底面)
2b 側壁
4 超音波振動子(振動子)
4a 上面(上面)
6 載置台
6B 載置台
6a 載置面
8 超音波発振器(発振器)
10 バルブ付き吐出配管
12 バルブ付き吐出配管
90 油水分離槽
30 温度調節器(温度調節器)
L 電力ライン
Scoil 含油スカム(含油スカム)
H ホース
P ポンプ
Foil 浮上油
Woil 含油排水
Slg スラッジ
R 空間