(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ポリエチレンナフタレート樹脂組成物からなる成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20240625BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20240625BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240625BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20240625BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C08L67/02
B29C45/00
C08J5/04 CFD
C08J5/04 CFG
C08K7/02
C08L79/08 B
(21)【出願番号】P 2020169208
(22)【出願日】2020-10-06
【審査請求日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2020047838
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】服部 良平
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-109547(JP,A)
【文献】特開2003-201390(JP,A)
【文献】特開2018-104654(JP,A)
【文献】国際公開第2008/142787(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/03
B29C 45/00
C08J 5/04
C08K 7/02
C08L 79/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエチレンナフタレート樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)ポリエーテルイミド樹脂(B成分)を10~90重量部
および(C)繊維状充填材(C成分)を10~170重量部含有する樹脂組成物からなる成形体。
【請求項2】
C成分がガラス繊維および炭素繊維よりなる群より選ばれる少なくとも1種の繊維状充填材であることを特徴とする請求項
1に記載の樹脂組成物からなる成形体。
【請求項3】
C成分が、繊維断面の長径の平均値が10~50μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5~8である扁平状断面ガラス繊維であることを特徴とする請求項
2に記載の樹脂組成物からなる成形体。
【請求項4】
樹脂組成物を流路が縮小する制限ゲートを通過させキャビティに流入させることにより成形することを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の成形体
の製造方法。
【請求項5】
制限ゲートが、下記式(1)を満たすことを特徴とする請求項
4に記載の成形体
の製造方法。
【数1】
(式中、S
L
はランナー断面積(mm
2)、S
G
はゲート部断面積(mm
2)を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制限ゲートを使用した場合に発生するゲート部での白化現象が抑制されたポリエチレンナフタレート樹脂組成物からなる成形品および白化現象を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりポリエチレンナフタレート樹脂は機械特性、耐熱性、耐薬品性に優れ様々な用途に用いられている。またポリエチレンナフタレート樹脂はポリエチレンテレフタレート樹脂に比べ静置場での結晶化速度が遅いため、射出成形により容易に透明な成形品が得られる特徴があり、透明射出成形品用途にも用いられている。しかしながら、ポリエチレンナフタレート樹脂はポリエチレンテレフタレート樹脂とは異なり射出成形品のゲート部等の急縮小流路において、せん断により配向結晶化し白化する問題点がある。そのため、薄肉や小型の透明射出成形品用途に広く使用するのには至っていない。また、大型の成形品であっても、ゲート部での白化現象を抑制するためスプルーダイレクトゲートに代表される非制限ゲートを用いなければならず、ゲートシールし難く成形サイクルが長くなること、また、ゲート部を取り除く後工程が必要になるため量産性に課題があった。
【0003】
ポリエチレンナフタレート樹脂のゲート部での白化現象の抑制に関しては、特許文献1にポリエチレンナフタレート樹脂およびガラス転移温度が80℃以上の非晶性共重合ポリエステル樹脂からなる樹脂組成物が例示されている。しかしながら、80℃以上の非晶性共重合ポリエステル樹脂を混合することによりゲート部での白化現象の抑制効果はみられたものの、得られた樹脂組成物はポリエチレンナフタレート樹脂に比べ耐熱性が低下してしまっておりポリエチレンナフタレート樹脂本来の特徴が損なわれていた。特許文献2には、エチレンテレフタレート単位とエチレンナフタレート単位とからなる共重合ポリエステル樹脂およびポリエーテルイミド樹脂を含む樹脂組成物が例示されている。しかしながら、エチレンナフタレート単位がモル比にて5~30と少ない領域での検討であり、ホモのポリエチレンナフタレート樹脂に関する記載はなく、ゲート部での白化現象の抑制の検討もなされていなかった。特許文献3には、ポリアルキレンナフタレート樹脂にポリエーテルイミド樹脂を添加することを特徴とするポリアルキレンナフタレート樹脂の蛍光防止方法が例示されている。また、特許文献4には、ポリエチレンナフタレート樹脂およびポリエーテルイミド樹脂のブレンド物からなる写真フィルムベースが例示されているが、いずれも射出成形体のゲート部に発生する白化現象を抑制に関して検討はなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-104654号公報
【文献】特開平7-228761号公報
【文献】特開平10-101916号公報
【文献】特開平9-179242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、流動性および耐熱性に優れ、かつ制限ゲートを使用した場合に射出成形品のゲート部に発生する白化現象が低減された樹脂組成物からなる成形体並びに該白化現象を低減させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成せんとして鋭意検討を重ねた結果、ポリエチレンナフタレート樹脂にポリエーテルイミド樹脂を特定量添加することにより、流動性および耐熱性が改善され、かつ制限ゲートを使用した場合に射出成形品のゲート部に発生する白化現象が低減されることを見出し、上記課題を解決するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の課題は、(A)ポリエチレンナフタレート樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)ポリエーテルイミド樹脂(B成分)を10~90重量部含有する樹脂組成物からなる成形体により達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、流動性および耐熱性に優れ、かつ制限ゲートを使用した場合に射出成形品のゲート部に発生する白化現象が低減された樹脂組成物からなる成形体を提供することができ、本発明により得られた射出成形品は、電気電子機器外装の薄肉成形部材、眼鏡のテンプル部やゲーム機のボタン等の小型成形品に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、更に本発明の詳細について説明する。
【0010】
<A成分について>
本発明のA成分であるポリエチレンナフタレート樹脂は、ナフタレンジカルボン酸および/またはナフタレンジカルボン酸のエステル形成誘導体を主とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするグリコール成分を用いて製造することができる。
【0011】
ナフタレンジカルボン酸成分としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸を主成分とするが、特性を損なわない範囲であれば、他のジカルボン酸を併用することができる。他のカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4′-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。他のカルボン酸の使用量は全酸成分に対して好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。ナフタレンジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、2,7-ナフタレンジカルボン酸ジメチルを主成分とするが、特性を損なわない範囲であれば、他のジカルボン酸のエステル形成性誘導体を併用することができる。他のジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4′-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル等が挙げられ、これらの1種若しくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。他のジカルボン酸のエステル形成性誘導体の使用量は、全ジカルボン酸のエステル形成性誘導体成分に対して好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。
【0012】
また、少量のトリメリット酸のような三官能性以上のカルボン酸成分を用いてもよく、無水トリメリット酸のような酸無水物を少量用いてもよい。また、乳酸、グリコール酸のようなヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル等を少量用いてもよく、目的に
よって任意に選ぶことができる。
【0013】
グリコール成分としてはエチレングリコールを主成分とするが、特性を損なわない範囲で他のグリコール成分を併用することができる。他のグリコール成分としては、例えば、1、4-ブタンジオール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、ネオペンチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリ(オキシ)エチレングリコール、ポリ(オキシ)テトラメチレングリコール、ポリ(オキシ)メチレングリコール等のアルキレングリコールの1種若しくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。さらに少量のグリセリンのような多価アルコール成分を用いてもよい。また少量のエポキシ化合物を用いてもよい。他のグリコール成分の使用量は、全グリコール成分に対して好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。
【0014】
上記のポリエチレンナフタレート樹脂は、従来公知の製造方法によって製造することができる。すなわちジカルボン酸成分とジオール成分とを直接反応させて水を留去しエステル化した後、減圧下に重縮合を行う直接エステル化法、またはジカルボン酸ジメチルエステルとジオール成分とを反応させてメチルアルコールを留去しエステル交換させた後、減圧下に重縮合を行うエステル交換法により製造される。更に極限粘度数を増大させるために固相重合を行うことができる。
【0015】
上記のエステル交換反応、エステル化反応および重縮合反応時には、触媒および安定剤を使用することが好ましい。エステル交換触媒としてはMg化合物、Mn化合物、Ca化合物、Zn化合物などが使用され、例えばこれらの酢酸塩、モノカルボン酸塩、アルコラート、および酸化物などが挙げられる。またエステル化反応は触媒を添加せずに、ジカルボン酸およびジオールのみで実施することが可能であるが、後述の重縮合触媒の存在下に実施することもできる。重縮合触媒としては、Ge化合物、Ti化合物、Sb化合物などが使用可能であり、例えば二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムアルコラート、チタンテトラブトキサイド、チタンテトライソプロポキサイド、および蓚酸チタンなどが挙げられる。安定剤としてはリン化合物を用いることが好ましい。好ましいリン化合物としては、リン酸およびそのエステル、亜リン酸およびそのエステル並びに次亜リン酸およびそのエステルなどが挙げられる。またエステル化反応時には、ジエチレングリコール副生を抑制するためにトリエチルアミンなどの第3級アミン、水酸化テトラエチルアンモニウムなどの水酸化第4級アンモニウム、および炭酸ナトリウムなどの塩基性化合物を添加することもできる。また得られたポリエステル樹脂には、各種の安定剤および改質剤を配合することができる。
【0016】
A成分の固有粘度は0.5~1.0dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.6~0.95dl/gであり、さらに好ましくは0.65~0.85dl/gである。A成分の固有粘度が0.5dl/g未満では靭性に劣る場合があり、1.0dl/gを超えると制限ゲートを使用した場合におけるゲート部の白化の抑制効果が不十分な場合がある。
【0017】
<B成分について>
本発明のB成分であるポリエーテルイミド樹脂は、環状イミド構造を含有する樹脂であり、本発明の目的に使用できるものであれば特に限定されないが、脂肪族または芳香族系のエーテル単位と環状イミド基を繰り返し単位として含有するポリエーテルイミド樹脂が好ましい。また、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、ポリイミドの主鎖に環状イミドおよびエーテル単位以外の構造単位、例えば、芳香族、脂肪族エステル単位、オキシカルボニル単位等が含有されても良い。
【0018】
本発明で好ましく使用できるポリエーテルイミド樹脂の具体例としては、下記式(1)で示されるポリエーテルイミド樹脂を挙げることができる。
【0019】
【0020】
式(1)中R1は、6~30個の炭素原子を含有する2価の芳香族または脂肪族基、R2は6~30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基、2~20個の炭素原子を有するアルキレン基、2~20個の炭素原子を有するシクロアルキレン基、および2~8個の炭素原子を有するアルキレン基で連鎖停止されたポリジオルガノシロキサン基からなる群より選択された2価の有機基である。
【0021】
上記R1、R2としては、例えば下記式(2)~(8)で示される芳香族残基およびアルキレン基を挙げることができる。
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【化8】
(式(8)中、nは2以上の整数を表す。)
【0029】
なお本発明では、ポリエチレンナフタレート樹脂との相容性の観点から下記式(9)で示されるポリエーテルイミド樹脂が好ましい。
【0030】
【化9】
(式(9)中、nは2以上の整数を表す。)
【0031】
このポリエーテルイミド樹脂としては、SABICジャパン合同会社製の“ULTEM1010”等が挙げられる。
【0032】
B成分の含有量は、A成分100重量部に対し10~90重量部であり、好ましくは15~70重量部であり、より好ましくは25~45重量部である。B成分の含有量が10重量部未満の場合、制限ゲートを使用した場合におけるゲート部での白化の抑制効果および耐熱性が不十分であり、90重量部を超えると流動性が低下する。
【0033】
<C成分について>
本発明のC成分である繊維状充填材は、ガラス繊維および炭素繊維よりなる群より選ばれる少なくとも1種の繊維状充填材であることが好ましい。ガラス繊維としては、丸型断面を有するガラス繊維、繊維長断面の長径の平均値が5~50μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5~8である扁平断面ガラス繊維およびガラスミルドファイバーが好適に例示されるが、特に繊維長断面の長径の平均値が10~40μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5~8である扁平断面ガラス繊維が引張り強度、寸法精度の点でより好ましい。
【0034】
上記のガラス繊維のガラス組成は、Aガラス、Cガラス、およびEガラス等に代表される各種のガラス組成が適用され、特に限定されない。かかるガラス繊維は、必要に応じてTiO2、SO3、およびP2O5等の成分を含有するものであってもよい。これらの中でもEガラス(無アルカリガラス)がより好ましい。かかるガラス繊維は、周知の表面処理剤、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、またはアルミネートカップリング剤等で表面処理が施されたものが機械的強度の向上の点から好ましい。また、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂およびウレタン系樹脂等で集束処理されたものが好ましく、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂が機械的強度の点から特に好ましい。集束処理されたガラス繊維の集束剤付着量
は、ガラス繊維100重量%中、好ましくは0.1~3重量%、より好ましくは0.2~1重量%である。
【0035】
炭素繊維としては、例えば金属コートカーボンファイバー、カーボンミルドファイバー、気相成長カーボンファイバー等のカーボンファイバーおよびカーボンナノチューブ等が挙げられる。カーボンナノチューブの繊維径は0.003~0.1μmであることが好ましく、単層、2層、および多層のいずれであってもよいが、多層(いわゆるMWCNT)が好ましい。
【0036】
これらの中でも機械的強度に優れる点において、カーボンファイバーが好ましい。カーボンファイバーとしては、セルロース系、ポリアクリロニトリル系およびピッチ系などのいずれも使用可能である。また芳香族スルホン酸類またはそれらの塩のメチレン型結合による重合体と溶媒よりなる原料組成を紡糸または成形し、次いで炭化するなどの方法に代表される不融化工程を経ない紡糸を行う方法により得られたものも使用可能である。更に汎用タイプ、中弾性率タイプおよび高弾性率タイプのいずれも使用可能である。これらの中でも特にポリアクリロニトリル系の高弾性率タイプが好ましい。
【0037】
また、カーボンファイバーの表面はマトリックス樹脂との密着性を高め、機械的強度を向上する目的で酸化処理されることが好ましい。酸化処理方法は特に限定されないが、例えば、(1)炭素繊維を酸もしくはアルカリまたはそれらの塩、あるいは酸化性気体により処理する方法、(2)炭素繊維化可能な繊維または炭素繊維を、含酸素化合物を含む不活性ガスの存在下、700℃以上の温度で焼成する方法および(3)炭素繊維を酸化処理した後、不活性ガスの存在下で熱処理する方法などが好適に例示される。
【0038】
金属コートカーボンファイバーは、カーボンファイバーの表面に金属層をコートしたものである。金属としては、銀、銅、ニッケル、およびアルミニウムなどが挙げられ、ニッケルが金属層の耐腐食性の点から好ましい。金属コートの方法としては、メッキ法および蒸着法等の公知の方法が挙げられ、中でもメッキ法が好適に利用される。また、かかる金属コートカーボンファイバーの場合も、元となるカーボンファイバーとしては上記のカーボンファイバーとして挙げたものが使用可能である。金属被覆層の厚みは好ましくは0.1~1μm、より好ましくは0.15~0.5μmである。更に好ましくは0.2~0.35μmである。
【0039】
かかるカーボンファイバー、金属コートカーボンファイバーは、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂およびウレタン系樹脂等で集束処理されたものが好ましい。特にウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂で処理された炭素繊維は、機械的強度に優れることから本発明において好適である。
【0040】
C成分の含有量は、A成分およびB成分からなる成分100重量部に対し、10~170重量部であることが好ましく、より好ましくは20~140重量部、さらに好ましくは40~130重量部である。含有量が10重量部未満の場合強度が劣る場合があり、170重量部を超えると押し出しが困難になる場合がある。
【0041】
(その他の添加剤について)
なお、本発明の樹脂組成物は、本発明の趣旨に反しない範囲で、酸化防止剤、離型剤等の各添加剤を含むことが出来る。
【0042】
<酸化防止剤>
本発明の樹脂組成物は酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系化合物、ホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物およびチオエーテル系化合物からなる群より選ばれる
少なくとも1種の酸化防止剤を含むことができる。酸化防止剤を配合することにより、成形加工時の色相や流動性が安定するだけでなく、耐加水分解性の向上にも効果がある。
【0043】
ヒンダードフェノール系化合物としては、例えば、α-トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n-オクタデシル-β-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェル)プロピオネート、2-tert-ブチル-6-(3’-tert-ブチル-5’-メチル-2’-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、2,2’-ジメチレン-ビス(6-α-メチル-ベンジル-p-クレゾール)2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-ブチリデン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-N-ビス-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、1,6-へキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2-tert-ブチル-4-メチル6-(3-tert-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1,-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’-ジ-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-トリ-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2-チオジエチレンビス-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4-ビス(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、N,N’-ヘキサメチレンビス-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス2[3(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、およびテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが例示される。上記化合物の中でも、テトラキス[メチレン-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート]メタン、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、および3,9-ビス[2-{3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンが好ましく利用される。特にオクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。これらはいずれも入手容易である。上記ヒンダードフェノール系化合物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
ホスファイト系化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-iso-プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-n-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス{2,4-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェニル}ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。さらに他のホスファイト系化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、および2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。好適なホスファイト系化合物は、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびビス{2,4-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェニル}ペンタエリスリトールジホスファイトである。
【0045】
また、例えば2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン〔「スミライザーGP」(住友化学株式会社製)として市販されている。〕、2,10-ジメチル-4,8-ジ-t-ブチル-6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[3-(3、5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、2,4,8,10-テトラ-t-ペンチル-6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-12-メチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、2,10-ジメチル-4,8-ジ-t-ブチル-6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、2,4,8,10-テトラ-t-ペンチル-6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-12-メチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、2,10-ジメチル-4,8-ジ-t-ブチル-6-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾイルオキシ)-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾイルオキシ)-12-メチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、2,10-ジメチル-4,8-ジ-t-ブチル-6-[3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ]-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、2,10-ジエチル-4,8-ジ-t-ブチル-6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[2,2-ジメチル-3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピンなどを挙げることができる。これらはいずれも入手容易である。上記ホスファイト系化合物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0046】
ホスホナイト系化合物としては、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-n-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト等が挙げられる。テトラキス(ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト系化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト系化合物との併用可能であり好ましい。ホスホナイト系化合物としてはテトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイトが好ましく、該ホスホナイトを主成分とする安定剤は、Sandostab P-EPQ(商標、Clariant社製)およびIrgafos P-EPQ(商標、CIBA SPECIALTY CHEMICALS社製)として市販されておりいずれも利用できる。上記ホスホナイト系化合物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
チオエーテル系化合物の具体例として、ジラウリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-オクタデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ミリスチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-ステアリルチオプロピオネート)等が挙げられる。上記チオエーテル系化合物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
酸化防止剤の含有量は、A成分100重量部に対し、0.01~2重量部が好ましく、より好ましくは0.03~1重量部、さらに好ましくは0.05~0.5重量部である。酸化防止剤の含有量が0.01重量部より少ない場合は酸化防止効果が不足し、成形加工時の色相や流動性が不安定になるだけでなく、耐加水分解性も悪化する場合がある。また
、かかる含有量が2重量部よりも多い場合、酸化防止剤由来の反応成分などがかえって耐加水分解性を悪化させてしまう場合がある。
【0049】
また、前記ヒンダードフェノール系化合物とホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物、チオエーテル系化合物のいずれか2種類以上を組み合わせて使用することが好ましい。ヒンダードフェノール系化合物とホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物、チオエーテル系化合物のいずれか2種類以上を組み合わせて使用することで、安定剤としての相乗効果が発揮され、より成形加工時の色相、流動性の安定化、耐加水分解性の向上に効果がある。
【0050】
<離型剤>
本発明の樹脂組成物は離型剤を含むことができる。離型剤として具体的には、脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、パラフィン、低分子量のポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸部分鹸化エステル、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステルおよび変性シリコーン等を挙げることができる。これらを配合することで機械特性、成形性、耐熱性に優れた成形品を得ることができる。
【0051】
脂肪酸としては炭素数6~40のものが好ましく、具体的には、オレイン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、アラキドン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、パルミチン酸、モンタン酸およびこれらの混合物等が挙げられる。脂肪酸金属塩としては炭素数6~40の脂肪酸のアルカリ(土類)金属塩が好ましく、具体的にはステアリン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム等が挙げられる。
【0052】
オキシ脂肪酸としては1,2-オキシステリン酸等が挙げられる。パラフィンとしては炭素数18以上のものが好ましく、流動パラフィン、天然パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタム等が挙げられる。
【0053】
低分子量のポリオレフィンとしては例えば分子量5000以下のものが好ましく、具体的にはポリエチレンワックス、マレイン酸変性ポリエチレンワックス、酸化タイプポリエチレンワックス、塩素化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等が挙げられる。
【0054】
脂肪酸アミドとしては炭素数6以上のものが好ましく、具体的にはオレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド等が挙げられる。
【0055】
アルキレンビス脂肪酸アミドとしては炭素数6以上のものが好ましく、具体的にはメチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0056】
脂肪族ケトンとしては炭素数6以上のものが好ましく、高級脂肪族ケトン等が挙げられる。
【0057】
脂肪酸部分鹸化エステルとしてはモンタン酸部分鹸化エステル等が挙げられる。脂肪酸低級アルコールエステルとしてはステアリン酸エステル、オレイン酸エステル、リノール酸エステル、リノレン酸エステル、アジピン酸エステル、ベヘン酸エステル、アラキドン酸エステル、モンタン酸エステル、イソステアリン酸エステル等が挙げられる。
【0058】
脂肪酸多価アルコールエステルとしては、グリセロールトリステアレート、グリセロー
ルジステアレート、グリセロールモノステアレート、ペンタエリスルトールテトラステアレート、ペンタエリスルトールトリステアレート、ペンタエリスルトールジミリステート、ペンタエリスルトールモノステアレート、ペンタエリスルトールアジペートステアレート、ソルビタンモノベヘネート等が挙げられる。脂肪酸ポリグリコールエステルとしてはポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリトリメチレングリコール脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0059】
変性シリコーンとしてはポリエーテル変性シリコーン、高級脂肪酸アルコキシ変性シリコーン、高級脂肪酸含有シリコーン、高級脂肪酸エステル変性シリコーン、メタクリル変性シリコーン、フッ素変性シリコーン等が挙げられる。
【0060】
そのうち脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸部分鹸化エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミドが好ましく、脂肪酸部分鹸化エステル、アルキレンビス脂肪酸アミドがより好ましい。なかでもモンタン酸エステル、モンタン酸部分鹸化エステル、ポリエチレンワックス、酸価ポリエチレンワックス、ソルビタン脂肪酸エステル、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドが好ましく、特にモンタン酸部分鹸化エステル、エチレンビスステアリン酸アミドが好ましい。
【0061】
離型剤は、1種類で用いても良いし2種以上を組み合わせて用いても良い。離型剤の含有量は、A成分100重量部に対し、好ましくは0.01~3重量部、より好ましくは0.03~2重量部である。
【0062】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えば各成分、並びに任意に他の成分を予備混合し、その後溶融混練し、ペレット化する方法を挙げることができる。予備混合の手段としては、ナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などを挙げることができる。予備混合においては場合により押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより造粒を行うこともできる。予備混合後、ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練、およびペレタイザー等の機器によりペレット化する。溶融混練機としては他にバンバリーミキサー、混練ロール、恒熱撹拌容器などを挙げることができるが、ベント式ニ軸押出機が好ましい。他に、各成分、並びに任意に他の成分を予備混合することなく、それぞれ独立に二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法も取ることもできる。
【0063】
<成形体について>
本発明の樹脂組成物を用いてなる成形体は、上記の如く製造されたペレットを成形して得ることができる。好適には、射出成形、押出成形により得られる。射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体を注入する方法を含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、多色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形等を挙げることができる。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。コールドランナーを用いて成形品を得る場合、成形品への流入口であるゲート部は制限ゲートでも非制限ゲートのどちらでも良いが、後加工性の観点より制限ゲートの方が好ましい。非制限ゲートとは、ゲート部で流路断面積が縮小しないゲートであり、制限ゲートとはゲート部で流路断面積が縮小するゲートである。なお、制限ゲートは下記式(1)を満たすことが好ましい。
【0064】
【数1】
(式中、S
Gはランナー断面積(mm
2)、S
Lはゲート部断面積(mm
2)を表す。)
【0065】
非制限ゲートとしては、スプルーゲートが挙げられ、制限ゲートとしては、ピンポイントゲート、サイドゲート、タブゲート、オーバーラップゲート、フィルムゲート、ファンゲート、ディスクゲート、サブマリンゲート等が挙げられる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を実施する形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、諸物性の評価は以下の方法により実施した。
【0067】
[樹脂組成物の評価]
(1)白化抑制効果
下記方法で得られたペレットを120℃で5時間乾燥した後に射出成形機(東芝機械(株)製 EC130SXII―4Y)によりシリンダー温度310℃、金型温度90℃の条件にてゲート模擬金型にて射出成形を行った。ゲート模擬金型はランナー模擬部およびゲート模擬部の二つからなる金型である。
前記、ランナー模擬部は、形状が高さ6mm、幅13mm、長さ5mmであり、ゲート模擬部は幅13mm、長さ125mmであり、高さが任意に変更可能である。ゲート模擬部の高さを任意に選択し、下記式(1)に記載のSG/SLの数値を変更し白化抑制効果の評価を行った。
【0068】
【数2】
(式中、S
Gはランナー断面積(mm
2)、S
Lはゲート部断面積(mm
2)を表す。)
【0069】
なお、白化抑制効果は、125mmのゲート模擬部末端まで樹脂を充填させた時に発生する白化長さLを測定し以下の通り評価した。
◎: L=0mm
〇: 0mm<L≦50mm
△: 50mm<L≦100mm
×: 100mm<L≦125mm
【0070】
(2)流動性
流動性は、流路厚み2mm、流路幅8mmのアルキメデス型スパイラルフローの金型を使用して評価を行った。スパイラルフロー長の測定は、下記方法で得られたペレットを120℃で5時間乾燥した後に射出成形機(住友重機械工業(株)製SG150U)によりシリンダー温度310℃、金型温度90℃、射出圧力98.1MPaでの条件にて評価を行った。スパイラルフロー長は、90mm以上であることが必要である。
【0071】
(3)耐熱性
下記の方法で得られたペレットを120℃で5時間乾燥した後に射出成形機(東芝機械(株)製 EC130SXII―4Y)によりシリンダー温度310℃、金型温度90℃にて試験片を作製し、ISO75-1および75-2に従い荷重たわみ温度を測定した。耐熱性は、1.8MPaの荷重条件にて100℃以上であることが必要である。
【0072】
(4)引張強度
下記の方法で得られたペレットを120℃で8時間乾燥した後に射出成形機(東芝機械(株)製 EC130SXII―4Y)によりシリンダー温度320℃、金型温度80℃にて試験片を作製し、ISO527-1および527-2に従い試験温度85℃、試験速度5mm/minの条件にて引張試験を実施し引張強度を測定した。引張強度は50MPa以上であることが必要である。
【0073】
[実施例1-17、比較例1-2]
表1で示した含有量に従って、A成分およびB成分を第1供給口より別々に、C成分を第2供給口よりサイドフィーダーを用いて二軸押出機に供給し、スクリュー回転数200rpm、吐出量20kg/h、ベントの真空度3kPa、310℃の温度にて溶融混練押出してペレット化した。ここで第1供給口とは根元の供給口のことであり、第2供給口とは押出機のダイスと第1供給口の間に位置する供給口である。二軸押出機は、径30mmΦのベント式二軸押出機((株)日本製鋼所製:TEX30α-31.5BW-2V)を使用した。
【0074】
本発明の実施例および比較例には、以下の材料を使用した。
(A成分)
A-I:製造例Iで得られたポリエチレンナフタレート樹脂
<製造例I>
ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル100重量部およびエチレングリコール60重量部を酢酸コバルト四水和物0.010重量部(10ミリモル%)および酢酸マンガン四水和物0.030重量部(30ミリモル%)の存在下、常法によりエステル交換反応させ、メタノール溜出20分後に三酸化アンチモン0.012重量部(10ミリモル%)を添加し、エステル交換反応終了前に正リン酸0.020重量部(50ミリモル%)を添加し、次いで295℃、高真空下重縮合反応を行い固有粘度0.51dl/gのポリエチレンナフタレート樹脂(a)を得た。得られたポリエチレンナフタレート樹脂(a)を、温度227℃、真空度0.5Torrの条件にて8時間固相重合を行い固有粘度が0.68dl/gのポリエチレンナフタレート樹脂を得た。
(B成分)
B-I:SABICジャパン合同会社製 ULTEM1010
(C成分)
C-I:ガラス繊維:扁平断面チョップドガラス繊維(日東紡績(株)製:CSG 3PA-830(製品名)、長径28μm、短径7μm、カット長3mm、エポキシ系集束剤)
C-II:ガラス繊維:丸形断面チョップドガラス繊維(日東紡績(株)製:CSG 3PE-941(製品名)、カット長3mm、エポキシ系集束剤)
C-III;炭素繊維:PAN系炭素繊維(帝人(株)製 IM P303(商品名)、繊維径7μm、カット長3mm、エポキシ系集束剤)
(その他の成分)
安定剤-I:リン系安定剤(ソンウォンインターナショナルジャパン(株)製 SONGNOX6260PW(商品名)(ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト))
安定剤-II:ヒンダードフェノール系安定剤((株)ADEKA製 アデカスタブAO-50(商品名)(オクタデシル-3-(3、5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート))
【0075】
【0076】
<実施例1~17>
本請求の範囲内にある組成物であるため、流動性、耐熱性に優れ、制限ゲートを使用した場合に発生するゲート部における白化現象が抑制された成形体を得ることができた。
【0077】
<比較例1>
B成分を含まないため、耐熱性の向上および制限ゲートを使用した場合に発生するゲート部における白化現象の抑制効果が認められなかった。
【0078】
<比較例2>
B成分の含有量が上限を超えるため、流動性に劣る結果であった。