(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】積層電子部品
(51)【国際特許分類】
H01F 17/00 20060101AFI20240625BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20240625BHJP
H01G 4/40 20060101ALI20240625BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
H01F17/00 D
H01F27/00 S
H01G4/40 321A
H01F27/28 104
(21)【出願番号】P 2020177747
(22)【出願日】2020-10-23
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 普乙
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-192889(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030194(WO,A1)
【文献】特表2020-514960(JP,A)
【文献】特開平11-186038(JP,A)
【文献】特開2003-257740(JP,A)
【文献】国際公開第2010/082579(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00 -21/12
H01F 27/00
H01F 27/02
H01F 27/06
H01F 27/08
H01F 27/23
H01F 27/26 -27/30
H01F 27/32
H01F 27/36
H01F 27/42
H01F 38/42
H01G 4/00 - 4/10
H01G 4/14 - 4/22
H01G 4/224
H01G 4/255- 4/40
H01G 13/00 -17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層が積層方向に積層される積層体と、
前記複数の誘電体層に前記積層方向から見て重なって設けられる複数の導体層を含み、前記複数の導体層は前記積層方向において両側に位置する2つの外側導体層と前記2つの外側導体層に挟まれる1つ以上の中間導体層とを含み、前記1つ以上の中間導体層のうち少なくとも1つの中間導体層
の幅方向における端から幅寸法の1/10離れた位置での厚み
は、前記2つの外側導体層のそれぞれにおいて幅方向における端から幅寸法の1/10離れた位置での厚みよりも大きいインダクタと、を備える積層電子部品。
【請求項2】
前記2つの外側導体層及び前記1つ以上の中間導体層の前記積層方向の間隔は、前記2つの外側導体層及び前記1つ以上の中間導体層の幅寸法よりも小さい、請求項1に記載の積層電子部品。
【請求項3】
前記少なくとも1つの中間導体層は、幅方向における中央での厚みに対する幅方向における端から幅寸法の1/10離れた位置での前記厚みの割合が60%以上である、請求項1または2に記載の積層電子部品。
【請求項4】
前記少なくとも1つの中間導体層は、角部が湾曲又は傾斜する略矩形の断面形状を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の積層電子部品。
【請求項5】
前記1つ以上の中間導体層は全て、前記2つの外側導体層に比べて、幅方向における端から幅寸法の1/10離れた位置での前記厚みが大きい、請求項1から4のいずれか一項に記載の積層電子部品。
【請求項6】
前記少なくとも1つの中間導体層は、前記2つの外側導体層に比べて、幅方向における端から幅寸法の1/10離れた位置での前記厚みが1.5倍以上大きい、請求項1から5のいずれか一項に記載の積層電子部品。
【請求項7】
前記インダクタは、前記複数の導体層を含み且つ前記積層方向に伸びるコイル軸の周りを周回するコイル導体を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の積層電子部品。
【請求項8】
前記積層体内に設けられるコンデンサを備える、請求項1から7のいずれか一項に記載の積層電子部品。
【請求項9】
前記インダクタと前記コンデンサを含むフィルタを備える、請求項8に記載の積層電子部品。
【請求項10】
前記フィルタを含むマルチプレクサを備える、請求項9に記載の積層電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン又は携帯電話等の無線通信端末には、不要な妨害波を除去するフィルタ及びダイプレクサ等のマルチプレクサが用いられている。フィルタ及びマルチプレクサとして、複数の誘電体層が積層され、インダクタ及びコンデンサが設けられた積層体を用いることが知られている。インダクタのインダクタンス値を維持しつつQ値を高めるために、コイルの導体幅及び導体幅に対する厚みの比(アスペクト比)を所定範囲内にすることが知られている(例えば、特許文献1)。アスペクト比の高い導体パターンを形成するために、転写法を用いて導体パターンを形成することが知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-93734号公報
【文献】特開2005-302844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インダクタを構成する導体層の断面形状が略矩形状になるように製造しようとすると、製造コストが高くなってしまう。例えば、転写法を用いて導体層を形成することで断面形状を略矩形状にできるが、製造工数が多くなるため製造コストが高くなってしまう。一方、製造コストを低く抑えて導体層を形成しようとすると、断面形状が略矩形状になり難く、Q値が低くなってしまうことがある。例えば、印刷法を用いて導体層を形成すると、製造コストを低く抑えることができるが、断面形状が略矩形状になり難く、Q値が低くなってしまうことがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、Q値を高くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の誘電体層が積層方向に積層される積層体と、前記複数の誘電体層に前記積層方向から見て重なって設けられる複数の導体層を含み、前記複数の導体層は前記積層方向において両側に位置する2つの外側導体層と前記2つの外側導体層に挟まれる1つ以上の中間導体層とを含み、前記1つ以上の中間導体層のうち少なくとも1つの中間導体層の幅方向における端から幅寸法の1/10離れた位置での厚みは、前記2つの外側導体層のそれぞれにおいて幅方向における端から幅寸法の1/10離れた位置での厚みよりも大きいインダクタと、を備える積層電子部品である。
【0007】
上記構成において、前記2つの外側導体層及び前記1つ以上の中間導体層の前記積層方向の間隔は、前記2つの外側導体層及び前記1つ以上の中間導体層の幅寸法よりも小さい構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記少なくとも1つの中間導体層は、幅方向における中央での厚みに対する幅方向における端から幅寸法の1/10離れた位置での前記厚みの割合が60%以上である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記少なくとも1つの中間導体層は、角部が湾曲又は傾斜する略矩形の断面形状を有する構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記1つ以上の中間導体層は全て、前記2つの外側導体層に比べて、幅方向における端から幅寸法の1/10離れた位置での前記厚みが大きい構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記少なくとも1つの中間導体層は、前記2つの外側導体層に比べて、幅方向における端から幅寸法の1/10離れた位置での前記厚みが1.5倍以上大きい構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記インダクタは、前記複数の導体層を含み且つ前記積層方向に伸びるコイル軸の周りを周回するコイル導体を有する構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記積層体内に設けられるコンデンサを備える構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記インダクタと前記コンデンサを含むフィルタを備える構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記フィルタを含むマルチプレクサを備える構成とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高いQ値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例1に係る積層電子部品の断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1におけるインダクタの分解斜視図である。
【
図4】
図4は、実施例1に係る積層電子部品の製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】
図5(a)から
図5(c)は、シミュレーションに用いたインダクタモデルの断面図である。
【
図6】
図6は、Q値のシミュレーション結果である。
【
図7】
図7(a)から
図7(c)は、導体層を流れる電流について示す断面図である。
【
図8】
図8(a)から
図8(f)は、導体層の他の例を示す断面図である。
【
図9】
図9は、導体層の間隔とQ値の改善量との関係のシミュレーション結果である。
【
図10】
図10は、導体層の端部の厚みを変化させることについて説明する断面図である。
【
図11】
図11は、導体層の端部の厚みに対するQ値の変化のシミュレーション結果である。
【
図12】
図12は、実施例2におけるインダクタの断面図である。
【
図13】
図13は、実施例3におけるインダクタの断面図である。
【
図15】
図15は、実施例5に係るトリプレクサのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、実施例1に係る積層電子部品の断面図である。複数の誘電体層11の積層方向をZ方向、積層体10の平面形状の略矩形の短辺方向及び長辺方向をそれぞれX方向及びY方向とする。
図1はXZ平面の断面図に相当する。
図1に示すように、積層電子部品100は、積層体10と、積層体10内に設けられたインダクタ20及びコンデンサ40と、を有する。積層体10の-Z側の表面は下面12であり、+Z側の表面は上面13である。積層体10は複数の誘電体層11を有する。インダクタ20は積層体10内に設けられたコイル導体21を有する。コイル導体21は複数の誘電体層11に設けられた平坦な導体パターンである導体層22を含む。コイル導体21はZ方向に伸びるコイル軸25の周りを周回している。コンデンサ40は積層体10内に設けられたコンデンサ電極41を有する。積層体10の下面12にはインダクタ20及び/又はコンデンサ40に接続される端子50が設けられている。端子50は端子電極51とめっき層52を含む。
【0020】
インダクタ20は積層体10内の+Z側(上面13側)の領域14に設けられ、コンデンサ40は積層体10内の-Z側(下面12側)の領域15に設けられている。このように、インダクタ20を領域14に設けるのは、積層体10の下面12を実装基板に実装したときに、インダクタ20を実装基板から遠ざけることにより、実装基板内の導電体に起因した渦電流損を抑制するためである。なお、インダクタ20は積層体10内の-Z側の領域に設けられ、コンデンサ40は積層体10内の+Z側の領域に設けられる場合でもよい。
【0021】
誘電体層11は、セラミック材料からなり、主成分として例えばシリコン(Si)、カルシウム(Ca)、及びマグネシウム(Mg)の酸化物(例えばディオプサイド結晶であるCaMgSi2O6)を含む。誘電体層11の主成分は、Si、Ca、及び/又はMg以外の酸化物でもよい。更に、誘電体層11は、絶縁体材料としてチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、及びアルミニウム(Al)の少なくとも1つの酸化物を含んでもよい。なお、誘電体層11は、セラミック材料以外からなる場合でもよく、例えば樹脂材料又はガラス材料からなる場合でもよい。
【0022】
図2は、実施例1におけるインダクタの分解斜視図である。
図3は、
図2のA-A間の断面図である。
図3において、電流が流れる方向(通電方向)を矢印で示している。
図2に示すように、コイル導体21は、導体層22a~22cとビア配線26a~26dとを含む。導体層22aは誘電体層11aに設けられ、導体層22bは誘電体層11aと誘電体層11cに挟まれた誘電体層11bに設けられ、導体層22cは誘電体層11cに設けられている。誘電体層11a及び11cは、コイル導体21が設けられた誘電体層のうちZ方向において両側に位置する誘電体層である。導体層22a~22cはZ方向から見て重なっている。例えば、導体層22a~22cはZ方向から見て互いに導体幅の半分以上が重なっている。導体層22a~22cはZ方向から見て互いに導体幅の2/3以上が重なっている場合でもよいし、3/4以上が重なっている場合でもよいし、4/5以上が重なっている場合でもよい。
【0023】
導体層22aの一端はビア配線26aを介してコンデンサ40又は端子50に接続されている。導体層22aの他端は誘電体層11aを貫通するビア配線26bを介して導体層22bの一端に接続されている。導体層22bの他端は誘電体層11bを貫通するビア配線26cを介して導体層22cの一端に接続されている。導体層22cの他端はビア配線26dを介してコンデンサ40又は端子50に接続されている。例えば、ビア配線26aから導体層22a~22cに電流が供給され、導体層22a~22cを流れた電流はビア配線26dから外部に流れる。
【0024】
導体層22a~22c及びビア配線26a~26dは、例えば銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、金(Au)、Au-Pd合金、又はAg-Pt合金を主成分とする金属層である。なお、コンデンサ電極41及び端子電極51もこれらの金属又は合金を主成分とする金属層である。
【0025】
図3に示すように、導体層22a~22cの電流が流れる方向(通電方向)に直交する断面は、Z方向の厚みとZ方向に直交する方向(例えばY方向)の幅とを有する。以下において、導体層22a~22cの幅及び厚みは、電流が流れる方向に直交する断面における幅及び厚みである。導体層22aと22cは略同じ断面形状を有し、導体層22bは導体層22a及び22cとは異なる断面形状を有する。導体層22bの断面は例えば略矩形状をしている。導体層22a及び22cの断面はY方向における端部の厚みが中央部に比べて小さくなった形状をしている。例えば、導体層22a及び22cの断面は、上辺と下辺が略直線で、上辺と下辺を結ぶ側辺がくの字状に折れ曲がった形状をしている。
【0026】
導体層22aの幅寸法をW1、導体層22bの幅寸法をW2、導体層22cの幅寸法をW3とする。幅寸法は導体層の幅方向における一方の先端から他方の先端までの長さである。導体層22aの幅方向における中央での厚み寸法をT1、導体層22bの幅方向における中央での厚み寸法をT2、導体層22cの幅方向における中央での厚み寸法をT3とする。導体層22aにおいて、幅方向における端から幅寸法W1を1/10倍した長さW1/10だけ離れた箇所での厚み寸法をt1とする。導体層22bにおいて、幅方向における端から幅寸法W2を1/10倍した長さW2/10だけ離れた箇所での厚み寸法をt2とする。導体層22cにおいて、幅方向における端から幅寸法W3を1/10倍した長さW3/10だけ離れた箇所での厚み寸法をt3とする。
【0027】
導体層22a~22cの幅寸法W1~W3は例えば10μm以上400μm以下である。導体層22a~22cの幅寸法W1~W3は例えば略同じ大きさである。導体層22a~22cの厚み寸法T1~T3は例えば3μm以上30μm以下である。導体層22a~22cの厚み寸法T1~T3は例えば略同じ大きさである。略同じ大きさとは製造誤差程度の差を含む。導体層22a及び22cの断面は端部の厚みが中央部の厚みに比べて小さくなった形状をし、導体層22bの断面は略矩形状をしていることから、導体層22bの厚み寸法t2は導体層22aの厚み寸法t1及び導体層22cの厚み寸法t3よりも大きい。
【0028】
[製造方法]
図4は、実施例1に係る積層電子部品の製造方法を示すフローチャートである。
図4に示すように、シート状をした誘電体シートを複数枚形成する(ステップS10)。その後、各誘電体シートを貫通するビア配線を形成する(ステップS12)。例えば、各誘電体シートを貫通するビアホールをレーザ光照射により形成した後、スキージ法等を用いてビアホール内にビア配線を形成する。ビア配線は、
図2に示したビア配線26a~26dの他に、コンデンサ電極41に接続するビア配線(不図示)等も含む。
【0029】
ステップS12の後、各誘電体シートの表面に導体パターンを形成する(ステップS14)。導体パターンは、コイル導体21に含まれる導体層22a~22cとコンデンサ電極41と端子電極51とを含む。導体層22a及び22cはスクリーン印刷等の印刷法を用いて形成し、導体層22bは凹版転写法等の転写法を用いて形成する。このように、導体層22a及び22cを印刷法によって形成し、導体層22bを転写法によって形成することで、導体層22a~22cは
図3で説明したような断面形状となる。なお、導体層22a~22cが
図3で説明した断面形状となればその他の方法で形成してもよい。コンデンサ電極41及び端子電極51は印刷法及び転写法のどちらで形成してもよいが、製造コストの点からは印刷法を用いて形成することが好ましく、断面形状の点からは転写法を用いて形成することが好ましい。
【0030】
ステップS14の後、複数の誘電体シートを積層して積層体を形成する(ステップS16)。誘電体シートの積層には例えば熱加圧又は接着剤を用いる。その後、積層した誘電体シートを個片化し、個片化したチップ毎に積層体を焼成する(ステップS18)。焼成温度は例えば700℃以上である。これにより、焼結体となった複数の誘電体層11を有する積層体10が得られる。ステップS18の後、めっき法を用いて端子電極51にめっき層52を形成する(ステップS20)。めっき層52の形成には例えばバレルめっき法を用いる。これにより、端子電極51とめっき層52を含む端子50が形成される。
【0031】
[シミュレーション1]
図5(a)から
図5(c)に示すインダクタモデルを用いてQ値をシミュレーションした。
図5(a)から
図5(c)は、シミュレーションに用いたインダクタモデルの断面図である。
図5(a)から
図5(c)では、通電方向を矢印で示している。
図5(a)に示すように、第1インダクタモデル500は、実施例1におけるインダクタに相当するモデルであり、コイル軸5の周りを周回するコイル導体6は導体層2a~2cを含む。誘電体層1aに設けられた導体層2aの断面と誘電体層1cに設けられた導体層2cの断面とは同じ形状であり、上辺と下辺が直線で側辺がくの字状に折れ曲がった形状をしている。すなわち、導体層2a及び2cの断面は、端部の厚みが中央部に比べて小さくなっている。誘電体層1bに設けられた導体層2bの断面は長方形状をしている。これにより、導体層2bの幅方向における端から幅寸法Wの1/10倍した長さW/10だけ離れた箇所での厚み寸法t2は、導体層2a及び2cの幅方向における端から幅寸法Wを1/10倍した長さW/10だけ離れた箇所での厚み寸法t1及びt3よりも大きくなっている。
【0032】
図5(b)に示すように、第2インダクタモデル600は、比較例であり、導体層2aの断面は長方形状をし、導体層2b及び2cの断面は同じ形状で上辺と下辺が直線で側辺がくの字状に折れ曲がった形状をしている。これにより、導体層2aの幅方向における端から幅寸法Wを1/10倍した長さW/10だけ離れた箇所での厚み寸法t1は、導体層2b及び2cの幅方向における端から幅寸法Wを1/10倍した長さW/10だけ離れた箇所での厚み寸法t2及びt3よりも大きくなっている。
図5(c)のように、第3インダクタモデル700は、比較例であり、導体層2a~2cの全ての断面は同じ形状で上辺と下辺が直線で側辺がくの字状に折れ曲がった形状をしている。
【0033】
シミュレーション条件は以下とした。
誘電体層1a~1c:ディオプサイド
誘電体層1a~1cの誘電率:10F/m
導体層2a~2c:銀
インダクタンス値:4nH
導体層2a~2cの幅寸法W:50μm
導体層2a~2cの薄膜部の長さ寸法L1及びL2:10μm
導体層2a~2cの厚み寸法T:10μm
導体層2a~2cの間隔I:15μm
【0034】
図6は、Q値のシミュレーション結果である。
図6に示すように、第2インダクタモデル600は第3インダクタモデル700よりもQ値が高くなり、第1インダクタモデル500は第2インダクタモデル600及び第3インダクタモデル700よりもQ値が高くなった。第1インダクタモデル500のQ値が高くなった理由は以下のように考えられる。
【0035】
図7(a)から
図7(c)は、導体層を流れる電流について示す断面図である。
図7(a)から
図7(c)では、電流が多く流れる領域3を細かいハッチングで表し、電流があまり流れない領域4を粗いハッチングで表している。
図7(a)から
図7(c)に示すように、導体層2a~2cに高周波電流(例えば1GHz以上)が流れると、表皮効果によって、電流は導体層2a~2cの表面に集中して流れ、導体層2a~2cの中心部分はあまり電流が流れなくなる。更に、導体層2a~2cが近接している場合、近接効果によって、電流は導体層2a~2cが互いに近接している領域には電流があまり流れなくなる。このような表皮効果及び近接効果から、電流が多く流れる領域3は
図7(a)から
図7(c)に示すような領域となる。
【0036】
図7(b)のように、第2インダクタモデル600では導体層2aの断面形状は長方形状で、
図7(c)のように、第3インダクタモデル700では導体層2aの断面形状は端部の厚みが中央部よりも小さい形状である。このため、第2インダクタモデル600の導体層2aは第3インダクタモデル700の導体層2aに比べて電流が多く流れる領域3が大きくなり、その結果、直流抵抗が小さくなる。このため、第2インダクタモデル600は第3インダクタモデル700に比べてQ値が高くなったと考えられる。
【0037】
図7(a)のように、第1インダクタモデル500では導体層2bの断面形状が長方形状で、
図7(b)及び
図7(c)のように、第2インダクタモデル600及び第3インダクタモデル700では導体層2bの断面形状は端部の厚みが中央部よりも小さい形状である。このため、第1インダクタモデル500の導体層2bは第2インダクタモデル600及び第3インダクタモデル700の導体層2bに比べて電流が多く流れる領域3が大きくなる。また、第2インダクタモデル600のように導体層2aを長方形状にする場合に比べて、第1インダクタモデル500のように導体層2bを長方形状にする方が、電流が多く流れる領域3が大きくなる。したがって、直流抵抗が小さくなり、第1インダクタモデル500は第2インダクタモデル600及び第3インダクタモデル700に比べてQ値が高くなったと考えられる。
【0038】
ここで、Q値を高くするために、導体層の全ての断面を略矩形状にすることが考えられる。しかしながら、導体層の断面形状が略矩形状になるように製造しようとすると製造コストが高くなってしまう。例えば、断面形状が略矩形状の導体層は転写法を用いて形成できるが、転写法は製造工数が多くなるため製造コストが高くなってしまう。一方、製造コストを低く抑えて導体層を形成しようとすると、導体層の断面形状が略矩形状になり難くなってしまう。例えば、印刷法を用いて導体層を形成することで、製造コストを低く抑えることができるが、断面形状は端部が中央部よりも薄くなった形状になってしまう。したがって、製造コストを低く抑えつつ、高いQ値を得るためには、異なる断面形状の導体層を組み合わせることが好ましい。この際に、表皮効果及び近接効果を考慮すると、
図5(a)の第1インダクタモデル500のように、導体層2aと導体層2cは製造コストを低く抑えることを目的として断面形状において端部の厚みが小さくなることを許容し、導体層2bはQ値が高くなることを目的として略矩形の断面形状にすることが好ましい。
【0039】
実施例1によれば、
図3のように、積層体10内のインダクタ20は、複数の誘電体層11a~11cにZ方向(積層方向)から見て重なって設けられ、Z方向(積層方向)において両側に位置する導体層22a及び22c(外側導体層)と導体層22a及び22cに挟まれた導体層22b(中間導体層)とを含む。導体層22bは、導体層22a及び22cに比べて、幅方向における端から幅寸法の1/10離れた位置での厚みが大きい。すなわち、導体層22bの厚み寸法t2は導体層22a及び22cの厚み寸法t1及びt3よりも大きい。このような導体層22a及び22cは製造コストを低く抑えて形成でき、且つ導体層22bの端部の厚みが大きいことで高いQ値を得ることができる。
【0040】
Q値を高くする点から、導体層22bの厚み寸法t2は、導体層22aの厚み寸法t1及び導体層22cの厚み寸法t3に比べて、1.5倍以上大きい場合が好ましく、1.8倍以上大きい場合がより好ましく、2.0倍以上大きい場合が更に好ましい。
【0041】
インダクタ20は、導体層22a~22cを含み且つZ方向(積層方向)に伸びるコイル軸25の周りを周回するコイル導体21を有する場合が好ましい。このような場合、表皮効果及び近接効果によってQ値が低くなり易いため、導体層22bの端部の厚みを大きくすることが好ましい。なお、インダクタ20はコイル軸25の周りを周回するコイル導体21以外のインダクタ導体によって形成されている場合でもよい。
【0042】
図8(a)から
図8(f)は、導体層の他の例を示す断面図である。
図8(a)から
図8(d)は導体層22bの他の断面例であり、
図8(e)及び
図8(f)は導体層22a及び22cの他の断面例である。導体層22bの断面は、
図8(a)のように角部が傾斜している場合や、
図8(b)のように角部が湾曲している場合や、
図8(c)及び
図8(d)のように上辺及び下辺に対して側辺が傾斜している場合のような略矩形状である場合でもよい。また、導体層22bの断面の各辺は曲線である場合でもよい。導体層22a及び22cの断面は、
図8(e)のように楕円形状の場合でもよいし、
図8(f)のように上辺及び下辺が直線又は曲線で側辺が円弧状に丸みを帯びている場合でもよい。
図8(a)及び
図8(b)のように、導体層22bの断面が、角部が傾斜又は湾曲している略矩形状である場合、角部への電界集中が抑制されて損傷及び特性の劣化を抑制できる。
【0043】
[シミュレーション2]
図5(a)に示した第1インダクタモデル500と
図5(c)に示した第3インダクタモデル700を用いて、導体層2a~2cの間隔IがQ値の改善にどのような影響を及ぼすかをシミュレーションした。シミュレーションは、導体層2a~2cの幅寸法W、厚み寸法T、及び薄膜部の長さ寸法L1、L2は固定し、導体層2a~2cの間隔Iの長さを変えて行った。
【0044】
シミュレーションは以下の2通りの条件で行った。
条件1
誘電体層1a~1c:ディオプサイド
誘電体層1a~1cの誘電率:10F/m
導体層2a~2c:銀
インダクタンス値:4nH
導体層2a~2cの幅寸法W:50μm
導体層2a~2cの薄膜部の長さ寸法L1及びL2:10μm
導体層2a~2cの厚み寸法T:10μm
導体層2a~2cの間隔I:15μm、30μm、60μm、90μm
条件2
誘電体層1a~1c:ディオプサイド
誘電体層1a~1cの誘電率:10F/m
導体層2a~2c:銀
インダクタンス値:4nH
導体層2a~2cの幅寸法W:75μm
導体層2a~2cの薄膜部の長さ寸法L1及びL2:15μm
導体層2a~2cの厚み寸法T:10μm
導体層2a~2cの間隔I:15μm、30μm、60μm、90μm、120μm
【0045】
表1は、条件1のときの導体層の間隔とQ値の改善量との関係のシミュレーション結果である。表2は、条件2のときの導体層の間隔とQ値の改善量との関係のシミュレーション結果である。
図9は、導体層の間隔とQ値の改善量との関係のシミュレーション結果を表したグラフである。
図9の横軸は、導体層2a~2cの幅寸法Wと導体層2a~2cの間隔Iとの差(幅寸法W-間隔I)である。縦軸は、第1インダクタモデル500のQ値と第3インダクタモデル700のQ値との差(第1インダクタモデル500のQ値-第3インダクタモデル700のQ値)で示されるQ値の改善量である。
【表1】
【表2】
【0046】
表1、2及び
図9のように、導体層2a~2cの間隔Iが導体層2a~2cの幅寸法Wよりも小さく(
図9の横軸においてプラス側)なると、Q値の改善量が大きくなる。これは、導体層2a~2cの間隔Iが小さくなるほど近接効果が大きくなることから、第1インダクタモデル500のように導体層2bの端部を厚くして直流抵抗を下げることによってQ値を改善する効果が大きくなることを示している。
【0047】
したがって、実施例1において、導体層22a~22cの間隔は導体層22a~22cの幅寸法よりも小さい場合が好ましい。これにより、導体層22bの端部の厚みを大きくすることによるQ値の改善効果が大きくなる。また、導体層22a~22cの間隔が狭くなることで、積層電子部品100を低背化することができる。導体層22a~22cの間隔は、導体層22a~22cの幅寸法の0.8倍以下である場合が好ましく、0.7倍以下がより好ましく、0.6倍以下が更に好ましい。ここで、上記の導体層22a~22cの幅寸法は、導体層22a~22cそれぞれの幅寸法の平均値とすることができる。
【0048】
[シミュレーション3]
図5(a)に示した第1インダクタモデル500を用いて、導体層2bの端部の厚みを変化させたときのQ値の変化についてシミュレーションした。
図10は、導体層の端部の厚みを変化させることについて説明する断面図である。
図10に示すように、導体層2bの幅寸法Wは一定に保ちつつ、幅方向における端から幅寸法Wを1/10倍した長さW/10だけ離れた箇所での厚み寸法t2を変化させた。
【0049】
シミュレーション条件は以下とした。
誘電体層1a~1c:ディオプサイド
誘電体層1a~1cの誘電率:10F/m
導体層2a~2c:銀
インダクタンス値:4nH
導体層2a~2cの幅寸法W:50μm
導体層2a~2cの厚み寸法T:10μm
導体層2a~2cの間隔I:15μm
【0050】
図11は、導体層の端部の厚みに対するQ値の変化のシミュレーション結果である。
図11の横軸は、導体層2bの幅方向における中央での厚み寸法Tに対する導体層2bの幅方向における端から幅寸法Wの1/10離れた箇所での厚み寸法t2の割合(t2/T)である。縦軸はQ値である。
図11に示すように、厚み寸法Tに対する厚み寸法t2の割合(t2/T)が60%まではQ値の変化量が大きいが、60%以上になるとQ値の変化量は小さくなっている。このことは、導体層2bの端部の厚みを大きくしてQ値を改善させるには、t2/Tを60%以上にすることが好ましいことを示している。
【0051】
したがって、実施例1において、導体層22bは、幅方向における中央での厚さ寸法T2(
図3参照)に対する幅方向における端から幅寸法W2の1/10離れた位置での厚み寸法t2(
図3参照)の割合(t2/T2)は60%以上である場合が好ましい。これにより、Q値を効果的に改善させることができる。Q値の改善の点から、t2/T2は、65%以上である場合が好ましく、70%以上である場合がより好ましく、80%以上である場合が更に好ましく、90%以上である場合がより更に好ましい。
【実施例2】
【0052】
図12は、実施例2におけるインダクタの断面図である。
図12に示すように、実施例2では、誘電体層11aと誘電体層11cの間に、誘電体層11bと誘電体層11dが設けられている。コイル導体21は、誘電体層11a~11cに設けられた導体層22a~22cに加えて、誘電体層11dに設けられた導体層22dを含む。導体層22dの断面は導体層22bと同様に略矩形状をしている。すなわち、導体層22dの幅方向における端から幅寸法W4を1/10倍した長さW4/10だけ離れた箇所での厚み寸法t4は、導体層22a及び22cの幅方向における端から幅寸法W1及びW3を1/10倍した長さW1/10及びW3/10だけ離れた箇所での厚み寸法t1及びt3よりも大きい。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0053】
実施例2のように、Z方向(積層方向)において両側に位置する導体層22a及び22cの間に挟まれた導体層22b及び22dは全て、導体層22a及び22cに比べて、幅方向における端から幅寸法の1/10離れた位置での厚みが大きい場合でもよい。これにより、より高いQ値が得られるようになる。
【実施例3】
【0054】
図13は、実施例3におけるインダクタの断面図である。
図13に示すように、実施例3では、誘電体層11aと誘電体層11cの間に、誘電体層11bと誘電体層11dが設けられている。コイル導体21は、誘電体層11a~11cに設けられた導体層22a~22cに加えて、誘電体層11dに設けられた導体層22dを含む。導体層22dは導体層22a及び22cと略同じ断面形状をしている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0055】
実施例3のように、Z方向(積層方向)において両側に位置する導体層22a及び22cの間に挟まれた導体層22b及び22cのうち少なくとも1つの導体層22bが、導体層22a及び22cに比べて、幅方向における端から幅寸法の1/10離れた位置での厚みが大きい場合でもよい。
【0056】
実施例1から実施例3では、インダクタ20は3層又は4層の導体層が積層されて形成されている場合を例に示したが、5層以上の導体層が積層されて形成されている場合でもよい。
【実施例4】
【0057】
図14は、実施例4に係るフィルタの回路図である。実施例4ではバンドパスフィルタの場合を例に説明する。
図14に示すように、フィルタ200は、端子T1、T2、及びTgと、インダクタL1~L4と、コンデンサC1~C7と、を備える。フィルタ200は積層体10に設けられている。端子T1は高周波信号が入力する入力端子、端子T2は高周波信号が出力する出力端子、端子Tgはグランド電位が供給されるグランド端子である。
【0058】
端子T1と端子T2との間にノードN1~N4が設けられている。ノードN1と端子Tgとの間にコンデンサC1とインダクタL1が並列に接続され、ノードN2と端子Tgとの間にコンデンサC3とインダクタL2が並列に接続され、ノードN3と端子Tgとの間にコンデンサC4とインダクタL3が並列に接続され、ノードN4と端子Tgとの間にコンデンサC6とインダクタL4が並列に接続されている。ノードN1とノードN2との間にコンデンサC2が接続され、ノードN3とノードN4との間にコンデンサC5が接続され、ノードN1とノードN4との間にコンデンサC7が接続されている。インダクタL2とインダクタL3との間に線路L5が接続されている。
【0059】
インダクタL1~L4のうちの少なくとも1つのインダクタを実施例1から実施例3のインダクタ20とすることができる。コンデンサC1~C7のうちの少なくとも1つのコンデンサを実施例1のコンデンサ40とすることができる。フィルタとしてバンドパスフィルタの場合を例に示したが、フィルタはローパスフィルタ又はハイパスフィルタでもよい。
【実施例5】
【0060】
図15は、実施例5に係るトリプレクサのブロック図である。
図15に示すように、トリプレクサ300は、フィルタ60、61、及び62を備える。トリプレクサ300は積層体10に設けられている。共通端子Antと端子LB、MB、及びHBとの間にそれぞれフィルタ60、61、及び62が接続されている。共通端子Antにはアンテナ63が接続されている。
【0061】
フィルタ60は例えばローパスフィルタLPFであり、ローバンドの高周波信号を通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。フィルタ61は例えばバンドパスフィルタBPFであり、ローバンドより高い周波数のミドルバンドの高周波信号を通過させ、他の周波数を抑圧する。フィルタ62は例えばハイパスフィルタHPFであり、ミドルバンドより高い周波数のハイバンドの高周波信号を通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。
【0062】
フィルタ60~62の少なくとも1つのフィルタを実施例4のフィルタとすることができる。マルチプレクサとしてトリプレクサの場合を例に示したが、マルチプレクサはダイプレクサ、デュプレクサ、又はクワッドプレクサでもよい。
【0063】
以上、本願発明の実施形態について詳述したが、本願発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本願発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0064】
1a~1c 誘電体層
2a~2c 導体層
3 電流が多く流れる領域
4 電流はあまり流れない領域
5 コイル軸
6 コイル導体
10 積層体
11~11d 誘電体層
12 下面
13 上面
14、15 領域
20 インダクタ
21 コイル導体
22~22d 導体層
25 コイル軸
26a~26d ビア配線
40 コンデンサ
41 コンデンサ電極
50 端子
51 端子電極
52 めっき層
60~62 フィルタ
63 アンテナ
100 積層電子部品
200 フィルタ
300 トリプレクサ
500~700 第1~第3インダクタモデル
L1~L4 インダクタ
C1~C7 コンデンサ