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  • 特許-鋼床版及び、鋼床版のユニット製造方法 図1
  • 特許-鋼床版及び、鋼床版のユニット製造方法 図2
  • 特許-鋼床版及び、鋼床版のユニット製造方法 図3
  • 特許-鋼床版及び、鋼床版のユニット製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】鋼床版及び、鋼床版のユニット製造方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
E01D19/12
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020204352
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091489
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 慶雲
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-176463(JP,A)
【文献】特開2010-031605(JP,A)
【文献】特開2008-307561(JP,A)
【文献】特開2003-105716(JP,A)
【文献】実開平04-070313(JP,U)
【文献】特開2007-197962(JP,A)
【文献】特開2019-203356(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0077758(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の床面を構成する鋼床版において、
複数用意され互いに略平行に配置された、中空構造で断面が略矩形の金属製筒体と、
該金属製筒体同士を繋ぐように配置される板材よりなる接続プレートと、を備え、
前記接続プレートの端部が、前記金属製筒体の側面に対して完全溶け込み溶接によって接合され、前記金属製筒体の一辺と、前記接続プレートの一面とで、舗装材を受ける上面を形成すること、
を特徴とする鋼床版。
【請求項2】
鋼床版のユニット製造方法において、
中空構造で断面が略矩形の金属製筒体を互いに略平行に複数配置し、
前記金属製筒体の間をつなぐ接続プレートを配置し、
前記金属製筒体と前記接続プレートの端面とを突き合わせた状態で、完全溶け込み溶接によって接合してデッキプレートユニットを構成すること、
を特徴とする鋼床版のユニット製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼床版及びその製造方法に関し、具体的には鋼床版を構成する鋼材について裏はつりを行うことのできる完全溶け込み溶接にて接合する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁に用いられている鋼床版には、構造的強度を増すために補強材としてUリブを備えているケースが多い。一般的にはデッキプレートの下側(裏側)にUリブを溶接することで、強度を増す構造となっている。しかしこうしたUリブを用いた構造の場合、Uリブの内側から溶接をすることが難しく、外側の隅肉溶接または部分溶け込み溶接により接合されていることが多い。ところが、隅肉溶接または部分溶け込み溶接を用いると溶接部分に沿ったひび割れが発生するケースが確認されている。
【0003】
こうした鋼床版のひび割れは、大型車交通量の多い場所で多く発見されており、また、溶接ビード部分が亀裂の起点となっていることが確認されているため、金属疲労が原因で発生すると考えられている。この金属疲労に起因する亀裂発生に対しては、完全溶け込み溶接による応力集中の緩和が有効であることが分かっている。
【0004】
したがって、鋼床版の製造時より完全溶け込み溶接によりUリブのような補強材料をデッキプレートに溶接することが好ましい。例えば、特許文献1には、デッキプレートの溶接方法、及び補強構造に関する技術が開示されている。閉断面構造のリブをデッキプレートに溶接することによるデッキプレートの補強方法において、リブの止端部とデッキプレートとは裏波完全溶け込み溶接方法によって溶接する。リブの止端部は大電流パルスMAGによるガウジングレス完全溶け込み溶接方法で溶接する。
【0005】
特許文献2には、デッキプレートと閉断面リブとの接合部の補修方法に関する技術が開示されている。補修予定部とそれに隣接するUリブの側壁とを除去することによって、補修予定部に隣接している部分のデッキプレートと、補修予定部Rに隣接している部分の側壁との間に、開先部を形成してから、溶接用の裏当て材を、開先部に側壁の内側から固定した後、開先部を側壁の外側から溶接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-118032号公報
【文献】特開2007-197962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の技術では、ガウジングレス完全溶け込み溶接を行う為に、大電流パルスMAG溶接を行う必要がある。このため、製作コストが大きくなると考えられ、リブとデッキプレートの内側は完全溶け込み溶接がされる保証も記載されていない。一方で、特許文献2に記載の方法では裏はつり作業が出来ないため、裏当て材、リブ、デッキ間欠陥ができる可能性を否定できない。
【0008】
そもそも、道路橋示方書には、完全溶け込み溶接においては、初層に割れなどの溶接欠陥が発生しやすく、裏はつりを行わない場合、必要な溶接品質を確保できないおそれがあり、原則として裏はつりを行う必要があるとされている。ところが、特許文献1及び特許文献2に開示されるいずれの技術においても裏はつりを行えないなどの事情があるため、道路橋示方書にある「完全溶け込み溶接」に関する技術とは言えない。
【0009】
そこで、本発明はこの様な課題を解決し、裏はつりを行うことの出来る完全溶け込み溶接を用いた構造の鋼床版及び鋼床版製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による鋼床版は、以下のような特徴を有する。
【0011】
(1)橋梁の床面を構成する鋼床版において、
複数用意され互いに略平行に配置された、中空構造で断面が略矩形の金属製筒体と、
該金属製筒体同士を繋ぐように配置される板材よりなる接続プレートと、を備え、
前記接続プレートの端部が、前記金属製筒体の側面に対して完全溶け込み溶接によって接合され、前記金属製筒体の一辺と、前記接続プレートの一面とで、舗装材を受ける上面を形成すること、
を特徴とする。
【0012】
上記(1)に記載の態様によって、中空構造の金属製筒体と板材よりなる接続プレートを完全溶け込み溶接によって接合し、デッキプレートとして機能させる。デッキプレートを構成する金属製筒体の側面と板材の端面を突き合わせて完全溶け込み溶接にすることで、振動などの要因で溶接部分に割れが発生することを抑制することが可能となる。そして、このように突き合わせ溶接をするにあたって、接続プレートの上側と下側の両方からトーチでアクセスが可能な構造としたことで、溶接及び裏はつりの作業が容易となるので、完全溶け込み溶接の実現が可能となり、加工性を改善させることができる。
【0013】
また、前記目的を達成するために、本発明の別の態様による鋼床版のユニット製造方法は、以下のような特徴を有する。
【0014】
(2)鋼床版のユニット製造方法において、
中空構造で断面が略矩形の金属製筒体を互いに略平行に複数配置し、
前記金属製筒体の間をつなぐ接続プレートを配置し、
前記金属製筒体と前記接続プレートの端面とを突き合わせた状態で、完全溶け込み溶接によって接合してデッキプレートユニットを構成すること、
を特徴とする。
【0015】
上記(2)に記載の態様によって、デッキプレートユニットを構成することで、(1)に示した様な鋼床版の加工性の向上を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態の、鋼床版の模式図である。
図2】本実施形態の、鋼床版の部分断面図である。
図3】本実施形態の、溶接部分の部分拡大断面図である。
図4】変形例の、鋼床版の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本発明の実施形態について、図面を用いて説明を行う。図1に、本実施形態の、鋼床版の模式図を示す。車両等が通行する目的で作られる橋梁100には、鋼床版10を用いる場合があり軽量で施工期間の短縮が可能などのメリットがある。この鋼床版10は、主桁50と横リブ51及び横桁52により支持される。
【0018】
また鋼床版10の両端部分には壁高欄20が設けられている。鋼床版10のデッキプレート30の上には、舗装15が形成されている。主桁50は、図示しない支承を介して橋脚60上に配置されて支えられている。
【0019】
図2に、鋼床版の部分断面図を示す。図3に、溶接部分の拡大断面図を示す。デッキプレート30は、角形鋼管31と接続プレート32よりなり、接続プレート32の端面が角形鋼管31の側面に当接した状態で溶接されている。角形鋼管31は図1に示すように、橋梁100に設けられた主桁50と略平行に配置され、その断面が概ね300mm×300mmの大きさで、板厚12mmのものを用いている。
【0020】
ただし、断面が略矩形の金属製筒体に相当する角形鋼管31は、必要に応じて正方形タイプでは無く長方形タイプのものを選び、或いは板材を加工して形成した台形断面のものを選んでも良い。また、板厚に関しても必要に応じて適宜変更が可能である。
【0021】
角形鋼管31は等間隔で複数並べられ、その間に配置された接続プレート32によって接続される。すなわちデッキプレート30は、交互に配置された角形鋼管31と接続プレート32よりなる構成となっている。接続プレート32は板厚12mmの鋼板を用いている。こちらも板厚は必要に応じて適宜変更が可能である。
【0022】
また、デッキプレート30は複数のデッキプレートユニット30aよりなり、デッキプレートユニット30aの大きさは道路交通法で定められる輪送可能なサイズにあわせて構成され、現場での施工時に接続されてデッキプレート30として機能する。デッキプレートユニット30a同士の接続は、図示しないフランジを用いて現場溶接で一体化される。尤も、このデッキプレートユニット30a同士の接合方法に関しては特に限定されるものではなく、溶接以外の接合方法、例えばボルト接合などを行うことを妨げない。
【0023】
デッキプレートユニット30aは工場などで製造され、角形鋼管31の側面に対して接続プレート32の端面が突き当てられ、図3に示すように接続プレート32のその当接部分が完全溶け込み溶接によって溶接される。溶接にあたっては、片側を溶接した後に反対側より裏はつりを行うことで、完全溶け込み溶接の品質が保証される。すると、ビードbが図3に示すように形成され、角形鋼管31の側面に対して接続プレート32の端面が接合される。角形鋼管31の一辺31aと接続プレート32の一面32aとの高さの差aは20mm以内に設定されていることが望ましい。
【0024】
このように形成されたデッキプレート30の上面に、アスファルト舗装15がなされて鋼床版10が形成される。なお、アスファルト舗装15とデッキプレート30との間には、必要に応じて補強コンクリート層を設けたり、接着剤層を設けたりすることを妨げない。
【0025】
本実施形態の鋼床版は上記構成であるため、以下に示すような作用及び効果を奏する。
【0026】
まず、本実施形態の効果として、溶接部分にひび割れが生じることを防ぐ効果が得られる点が挙げられる。これは、主桁50に支持されてなる鋼床版10が、複数用意され略平行に配置された中空構造で断面が略矩形の金属製筒体に相当する角形鋼管31と、角形鋼管31同士を繋ぐように配置される板材よりなる接続プレート32と、を備え、接続プレート32の端部が、角形鋼管31の側面に対して完全溶け込み溶接によって接合され、角形鋼管31の少なくとも一辺と、接続プレート32の一面とで、舗装材となるアスファルト舗装15を受ける上面を形成するからである。
【0027】
角形鋼管31の側面に対して接続プレート32の端面を当接させてデッキプレート30を構成し鋼床版10を成すので、角形鋼管31と接続プレート32との完全溶け込み溶接を行うことが容易となる。課題に示した様にUリブを補強材として用いた場合には、Uリブの内部に溶接を行う際に使うトーチを挿入したり裏当て材を挿入したりする必要があるため作業性が悪く、場合によってはトーチが届かないところも出てきてしまうことが考えられる。一方で、角形鋼管31の側面に対して接続プレート32の端面を突き当てて溶接する構造を採用することで、デッキプレート30の片側から溶接作業を、反対側から裏はつり作業を行う作業性が向上し、完全溶け込み溶接を行い易くなる。
【0028】
こうした溶接作業は工場内で行うことができ、角形鋼管31と接続プレート32の溶接を行ってデッキプレートユニット30aを作成することで、安定した品質の完全溶け込み溶接が実現できる。橋梁100にデッキプレートユニット30aを組み込んでデッキプレート30を構成すると、完全溶け込み溶接によって角形鋼管31と接続プレート32とが溶接されていることで、溶接ビードを貫通する亀裂の発生や、溶接ビードの端部を起点にデッキプレートを貫通する亀裂の発生を防ぐことができる。この結果、デッキプレート30の構造強度を向上させると共に、橋梁10の寿命を延ばすことが可能になる。
【0029】
また、上記の鋼床版10において、金属製筒体に相当する角形鋼管31の一辺と、接続プレート32の一面までの高さの差が20mm以内であることが好ましい。これにより、角形鋼管31と接続プレート32との溶接における施工性を損なわずに作業が可能である。
【0030】
中空構造で断面が略矩形の角形鋼管31は板材を曲げ加工して作ることも考えられるが、サイズなどの条件に適合すれば規格として用意された角形鋼管31を用いることが好ましい。そして、曲げ加工した板材を用いた場合でも規格角形鋼管を用いた場合でも、角部が曲面で構成されていることが多い。このため、こうした曲面を避けて、角形鋼管31の上側にくる一辺と接続プレートの上側に来る一面の高さの差を20mm程度以内に抑えて配置し、突き合わせ溶接を行うことで、裏はつりを行うことができ、完全溶け込み溶接をし易くすることができる。
【0031】
なお、20mm以内とすることで、角形鋼管31の上面から接続プレート32の上面までの凹み部分にアスファルト舗装などが入り込むことで鋼床版10の重量を抑えることができる。鋼床版10を使用するメリットの1つに橋梁100の軽量化ということがあるため、加工性と軽量化のバランスをとる目的である。
【0032】
図4に、別のパターンの溶接部分の断面図を示す。角形鋼管31と接続プレート32の溶接位置について、図2のパターンとは変えたものを示す。図3では、角形鋼管31の上面の高さと接続プレート32の上面の高さの差aが20mm以内になるようにすることが望ましいとしているが、これは完全溶け込み溶接のし易さを考慮したもので、可能であれば図4に示すような差aが0となるような位置でデッキプレート30を形成する事が好ましい。
【0033】
この場合、接続プレート32の端部は角形鋼管31の角部にあわせて加工される必要があり加工の手間が増えるが、角形鋼管31の上面の高さと接続プレート32の上面の高さの差が0となることで、図2の構造を比較してアスファルト舗装15の重量を減らすことに貢献することが可能となる。
【0034】
角形鋼管31と接続プレート32よりなるデッキプレートの機能面から考えても、角形鋼管31の一辺と接続プレート32の一面の高さが異なっていても問題なく使うことが可能となる。そして、角形鋼管31と接続プレート32が完全溶け込み溶接によって接合されていることで、溶接部分からの割れの発生を防ぐことが可能となる。
【0035】
以上、本発明に係る鋼床版10及び鋼床版10のユニット製造方法に関する説明をしたが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、主桁50の構成を変更したり、壁高欄20の有無など鋼橋10の構成を変更したりすることを妨げない。
【符号の説明】
【0036】
10 鋼床版
15 アスファルト舗装
30 デッキプレート
31 角形鋼管
32 接続プレート
50 主桁
図1
図2
図3
図4