IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社奥村組の特許一覧

特許7509679隣接建築物の沈下防止構造およびその方法
<>
  • 特許-隣接建築物の沈下防止構造およびその方法 図1
  • 特許-隣接建築物の沈下防止構造およびその方法 図2
  • 特許-隣接建築物の沈下防止構造およびその方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】隣接建築物の沈下防止構造およびその方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/48 20060101AFI20240625BHJP
   E02D 17/04 20060101ALI20240625BHJP
   E02D 5/18 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
E02D27/48
E02D17/04 Z
E02D5/18 101
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020214270
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022100109
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】清水 博之
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-170099(JP,A)
【文献】特開2001-098552(JP,A)
【文献】特開2005-180015(JP,A)
【文献】特開2018-168621(JP,A)
【文献】特開2007-308951(JP,A)
【文献】米国特許第06352390(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/48
E02D 17/04
E02D 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物を建築する予定の敷地である建築予定地に隣接する隣接敷地に建てられた隣接建築物の沈下を防止する隣接建築物の沈下防止構造であって、
前記建築予定地に打ち込まれた親杭と、
前記隣接建築物の基礎の側面にアンカーで固定されて設けられた被支持体と、
前記親杭に固定されると共に、前記被支持体の下方まで伸びて前記被支持体を下方から支持することによって、前記被支持体の下降を阻止する支持体と、
を備えることを特徴とする隣接建築物の沈下防止構造。
【請求項2】
請求項1記載の隣接建築物の沈下防止構造であって、
前記建築予定地に、前記隣接敷地の前記建築予定地側への崩落を防ぐ山留が設けられていることを特徴とする隣接建築物の沈下防止構造。
【請求項3】
請求項2記載の隣接建築物の沈下防止構造であって、
前記山留はソイルセメント列柱壁で構成されていることを特徴とする隣接建築物の沈下防止構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の隣接建築物の沈下防止構造であって、
前記被支持体が溝形鋼によるものとなっていることを特徴とする隣接建築物の沈下防止構造。
【請求項5】
建築物を建築する予定の敷地である建築予定地に隣接する隣接敷地に建てられた隣接建築物の沈下を防止する隣接建築物の沈下防止方法であって、
前記建築予定地に親杭を打ち込む親杭打込み工程と、
前記隣接建築物の基礎の側面にアンカーで固定して被支持体を設ける被支持体設置工程と、
前記被支持体の下降を阻止する支持体を、前記被支持体の下方まで伸びて前記被支持体を下方から支持するように配置して、前記親杭に固定する支持体固定工程と、
を備えることを特徴とする隣接建築物の沈下防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣接建築物の沈下防止構造およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の沈下を防止するための沈下防止構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1のものでは、隣接建築物との距離が狭い場合でも建築物の沈下を防止できるように工夫された沈下防止構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-180015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、建築予定の建築物と、この建築物の敷地に隣接する隣接建築物との距離が狭い場合、隣接建築物が不同沈下する可能性も想定され、隣接建築物が沈下しないように配慮する必要がある。
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、建築予定地に隣接する隣接建築物の沈下を容易に防止することができる隣接建築物の沈下防止構造およびその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]上記目的を達成するため、本発明の隣接建築物の沈下防止構造は、
建築物を建築する予定の敷地である建築予定地に隣接する隣接敷地に建てられた隣接建築物の沈下を防止する隣接建築物の沈下防止構造であって、
前記建築予定地に打ち込まれた親杭と、
前記隣接建築物の基礎に設けられた被支持体と、
前記被支持体の沈下を阻止するように前記被支持体の下方に配置され、且つ前記親杭に固定された支持体と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、隣接敷地に親杭を打ち込むことなく、建築予定地に打ち込まれた親杭によって、建築予定地に隣接する隣接建築物の沈下を容易に防止することができる。
【0008】
[2]また、本発明においては、前記建築予定地に、前記隣接敷地の前記建築予定地側への崩落を防ぐ山留を設けることが好ましい。本発明によれば、隣接敷地の近くで建築予定地を深く掘り下げても隣接敷地が崩落することを防止することができる。
【0009】
[3]また、本発明においては、前記山留をソイルセメント列柱壁で構成することがでいる。本発明によれば、隣接敷地の近くで建築予定地を深く掘り下げても隣接敷地が崩落することを防止することができる。
【0010】
[4]また、本発明においては、前記被支持体を前記基礎の側面に設けることが好ましい。本発明によれば、隣接敷地の地面の掘削量を押さえつつ被支持体を基礎に設置することができる。
【0011】
[5]また、本発明の隣接建築物の沈下防止方法は、
建築物を建築する予定の敷地である建築予定地に隣接する隣接敷地に建てられた隣接建築物の沈下を防止する隣接建築物の沈下防止方法であって、
前記建築予定地に親杭を打ち込む親杭打込み工程と、
前記隣接建築物の基礎に被支持体を設ける被支持体設置工程と、
前記被支持体の沈下を阻止するように前記被支持体の下方に支持体を配置し、且つ前記支持体を前記親杭に固定する支持体固定工程と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、隣接敷地に親杭を打ち込むことなく、建築予定地に打ち込まれた親杭によって、建築予定地に隣接する隣接建築物の沈下を容易に防止することができる。
【0013】
[6]また、本発明においては、前記被支持体設置工程では、前記被支持体を前記基礎の側面に設けることが好ましい。本発明によれば、隣接敷地の地面の掘削量を押さえつつ被支持体を基礎に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】発明の実施形態の隣接建築物の沈下防止構造およびその方法を説明する説明図。
図2】本実施形態の隣接建築物の沈下防止方法の作業工程を示すフローチャート。
図3】本実施形態の隣接建築物の沈下防止構造を上方から模式的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を参照して、発明の実施形態の隣接建築物の沈下防止構造およびその方法を説明する。本実施形態の隣接建築物の沈下防止構造1及びその方法においては、前提条件として、液状化対策を施工する敷地2(本発明の建築予定地に相当する。)に対して隣接する敷地(以下、隣接敷地3という)が存在し、この隣接敷地3では、建築物(以下、隣接建築物4という)が建てられている。
【0016】
そして、敷地2の液状化対策による地盤改良は隣接敷地3の間際まで行う場合であって、且つ隣接建築物4が不同沈下しないようにするための対策が必要な状況下で、本実施形態によれば比較的容易に敷地2の液状化対策の地盤改良を行い、且つ隣接建物4の不同沈下を防止することができる。以下のその構造および方法を詳しく説明する。なお、本発明の建築予定地としては、必ずしも液状化対策を施工する敷地である必要はなく、親杭を打ち込むことができる建築予定地であればよい。
【0017】
まず、隣接敷地3に建てられている既存の隣接建築物4の基礎の溝形鋼製の被支持体5をアンカー5aで固定する(被支持体設置工程。図2のSTEP1参照。)。隣接建築物4の基礎に凸凹があり、基礎と被支持体5との間に隙間が生じる場合にはモルタルをその隙間に充填して被支持体5を隣接建築物4の基礎にしっかりと固定する。なお、被支持体5は基礎の下方に固定してもよいが、基礎の側面に被支持体5を固定することにより、隣接敷地3の地面を必要以上に掘り起こす必要がなくなり、作業が容易となる。
【0018】
また、被支持体設置工程の前後もしくは同時に、敷地2に対する液状化対策の地盤改良を施工する(改良地盤工程。図2のSTEP2参照。)。本実施形態においては、地盤改良工法としてテノコラム工法を用いた。テノコラム工法とは、敷地2の地面にセメント系固化材を注入しながら地盤と固化材を攪拌混合(固化材撹拌工程。図2のSTEP3参照。)することによって築造する深層混合処理工法である。地盤改良した部分では、最終出来形として、図3に平面視で模式的に示すように、一つ一つが大口径のソイルセメント列柱壁2aのような形状となる。本実施形態では、このソイルセメント列柱壁2aを一部が重なるように複数並べて山留を構成している。
【0019】
なお、本発明の山留は、ソイルセメント列柱壁2aには限らず、他の構造の山留を用いてもよい。例えば、本発明の山留として、一定の間隔でH形鋼の親杭を地中に打ち込み、親杭の間に横矢板を挿し込んで造るH鋼親杭横矢板工法や、専用に開発された多軸混練オーガー機で原地盤を削孔し、その先端よりセメントスラリーを吐出して1エレメントの削孔混練を行いソイルセメント壁体を造って連続一体のソイルセメント連続壁として、エレメント端の削孔混練軸を次エレメントに完全ラップさせて造成するSMW工法を用いてもよい。SMWとは土(Soil)とセメントスラリーを原位置で混合・攪拌(Mixing)し、地中に造成する壁体(Wall)の略称である。本発明の山留として、H鋼親杭横矢板工法やSMW工法を用いる場合には、H鋼親杭横矢板工法のH鋼やSMW工法の芯材H鋼に本発明の支持体を固定すればよい。
【0020】
また、改良地盤工程で、敷地2の改良地盤が硬化する前に(例えば、2~3時間後)、H鋼からなる親杭6を打ち込む(親杭打込み工程。図2参照のSTEP4。)。改良地盤工程では、改良地盤の硬化を遅らせるべく遅延剤を混ぜてもよい。本実施形態においては、改良地盤工程(図2のSTEP2参照。)には、固化材撹拌工程(図2のSTEP3参照。)と親杭打込み工程(図2のSTEP4参照。)とが含まれる。
【0021】
敷地2の改良地盤が硬化した後、親杭6に支持体7を固定する(支持体固定工程。図2のSTEP5参照。)。この支持体7は、被支持体5の下方まで伸びており、被支持体5の下降を阻止する役割を果たす。本実施形態の隣接建築物の沈下防止構造は、アンダーピニング工法の改良型ということができる。
【0022】
本実施形態によれば、改良地盤に親杭を打設するための孔を掘削させるなどの損傷させることなく、隣接建築物4の不同沈下を防止することができる。
【0023】
また、親杭6を利用して敷地2の地盤改良がされていない部分の敷地2と隣接敷地3との境界の隣接敷地3の地盤が崩れないように、敷地2の地盤改良がされていない部分に山留壁を構築できる。また、建物の敷地が狭くても山留壁を構築できる。
【0024】
液状化対策杭を計画する物件では、敷地2の全面に対策杭を打設する場合があり、山留を構築する場合は、液状化対策で行った地盤改良に干渉しながら、山留杭を打設する必要が出てくる場合がある。また、液状化対策の地盤改良を損傷させる場合には、施主や監理者に承認してもらう必要があり面倒である。
【0025】
また、液状化対策の地盤改良に干渉しない位置に山留を打設する場合、ゼロパイラー工法などの特殊山留が必要となり、費用の増大と適用条件の制約を受ける。しかしながら、本実施形態の隣接建築物の沈下防止構造1およびその方法を用いれば、親杭6を山留杭としても活用することができ、山留専用の杭のための掘削を行う必要がなく、隣接敷地3の地盤が崩れることを防止する山留を容易に構築することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 沈下防止構造
2 敷地
2a ソイルセメント列柱壁
3 隣接敷地
4 隣接建築物
5 被支持体
5a アンカー
6 親杭
7 支持体
図1
図2
図3