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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】車両の振動低減装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20240625BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
F16F15/02 B
B60T13/74 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021016270
(22)【出願日】2021-02-04
(65)【公開番号】P2022119280
(43)【公開日】2022-08-17
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 恒
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-123972(JP,A)
【文献】特開2011-173521(JP,A)
【文献】特開2012-245826(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0193698(US,A1)
【文献】特開2004-332926(JP,A)
【文献】特開2009-275827(JP,A)
【文献】特開平8-74926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
B60T 13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバによるブレーキペダルの踏力を電動モータの動力により倍力してマスタシリンダに伝達する電動式ブレーキブースタと、
前記電動式ブレーキブースタの駆動を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、車両に発生するフロア振動に基づいて前記電動モータを連続で反転駆動させる、車両の振動低減装置。
【請求項2】
前記フロア振動を検出する振動センサを備え、
前記制御部は、前記振動センサにより検出される前記フロア振動と逆位相の振動が発生するように前記電動モータを反転駆動させる、請求項1に記載の車両の振動低減装置。
【請求項3】
前記車両の運転状態と、発生する前記フロア振動と、の関係を記憶した記憶部を備え、
前記制御部は、前記車両の運転状態の情報を取得するとともに、取得した前記車両の運転状態から推定される前記フロア振動と逆位相の振動が発生するように前記電動モータを反転駆動させる、請求項1に記載の車両の振動低減装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記電動モータの駆動により前記車両にブレーキ力を発生させない出力の範囲内で前記電動モータを反転駆動させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の車両の振動低減装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記車両にブレーキ力を発生させる場合、前記電動モータの反転駆動を停止させる、請求項1~4のいずれか1項に記載の車両の振動低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の振動低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両において、エンジンを含む駆動系の作動により、あるいは、タイヤを介して路面の凹凸が車体に伝達されることにより、車体のフロアが振動し、乗り心地が低下したり車室内のこもり音が大きくなったりする場合がある。
【0003】
このようなフロア振動に起因する問題に対して、特許文献1及び2に示すように、車体に加振器を設け、振動センサを用いて検出される車体振動に対する逆位相の加振力を発生させることにより、車体振動を低減する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-275827号公報
【文献】特開平08-074926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された制振装置は、所定の質量を有する補助質量を備えたリニアアクチュエータを車体フレームに追加的に装着するものであり、車両に設けられる部品点数が増加するだけでなく、車体重量が増加するという問題がある。また、特許文献2に開示された振動低減装置は、エンジンの後部を支持するエンジンマウントラバーに加振器を内蔵させるものであり、同様に車両に設けられる部品点数が増加するだけでなく、車体重量が増加するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、追加的に設けられる装置を用いることなく車体重量を増加させずに車両の振動を低減することができる車両の振動低減装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、ドライバによるブレーキペダルの踏力を電動モータの動力により倍力してマスタシリンダに伝達する電動式ブレーキブースタと、電動式ブレーキブースタの駆動を制御する制御部と、を備え、制御部は、車両に発生するフロア振動に基づいて電動モータを連続で反転駆動させる車両の振動低減装置が提供される。
【0008】
上記の車両の振動低減装置は、フロア振動を検出する振動センサを備え、制御部は、振動センサにより検出されるフロア振動と逆位相の振動が発生するように電動モータを反転駆動させてもよい。
【0009】
上記の車両の振動低減装置は、車両の運転状態と、発生する前記フロア振動と、の関係を記憶した記憶部を備え、制御部は、車両の運転状態の情報を取得するとともに、取得した車両の運転状態から推定されるフロア振動と逆位相の振動が発生するように電動モータを反転駆動させてもよい。
【0010】
上記の車両の振動低減装置において、制御部は、電動モータの駆動により車両にブレーキ力を発生させない出力の範囲内で電動モータを反転駆動させてもよい。
【0011】
上記の車両の振動低減装置において、制御部は、車両にブレーキ力を発生させる場合、電動モータの反転駆動を停止させてもよい。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば、追加的に設けられる装置を用いることなく車体重量を増加させずに車両の振動を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る車両の振動低減装置の構成例を示す模式図である。
図2】電動ブレーキブースタの固定方法の例を示す説明図である。
図3】同実施形態に係る車両の振動低減装置の構成例を示すブロック図である。
図4】電動モータの反転駆動時の最大許容電流値を示す説明図である。
図5】同実施形態に係る車両の振動低減装置による作用を示す説明図である。
図6】同実施形態に係る車両の振動低減装置の動作例を示すフローチャートである。
図7】本発明の第2の実施の形態に係る車両の振動低減装置の構成例を示すブロック図である。
図8】同実施形態に係る車両の振動低減装置の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
<<1.第1の実施の形態>>
まず、本発明の第1の実施の形態に係る車両の振動低減装置を説明する。第1の実施の形態に係る車両の振動低減装置は、フロア振動を検出する振動センサを備え、当該振動センサにより検出されるフロア振動に基づいて電動式ブレーキブースタの電動モータを連続で反転駆動させてフロア振動を低減する装置として構成される。
【0016】
<1-1.構成例>
図1は、本実施形態に係る車両の振動低減装置1を適用した車両の一部を示す模式図である。車両の振動低減装置1が適用される車両は、電動ブレーキブースタ30を含むブレーキシステム20を備えている。
【0017】
ブレーキシステム20について簡単に説明する。ブレーキシステム20は、電動ブレーキブースタ30、マスタシリンダ23、ブレーキ液圧ユニット25、ブレーキ制御装置27及びブースタ制御装置50を備えている。マスタシリンダ23には、マスタシリンダ23にブレーキ液を供給するリザーバタンク21が取り付けられている。電動ブレーキブースタ30は、入力軸15を介してブレーキペダル11に接続されている。ドライバDによりブレーキペダル11が踏み込まれると、ブレーキペダル11に加えられた踏力が、電動ブレーキブースタ30により増幅されて液圧発生源としてのマスタシリンダ23に伝達される。これにより、マスタシリンダ23内のブレーキ液が加圧され、ブレーキ液圧ユニット25内へ供給される。
【0018】
例えば車両が四輪の自動車である場合、マスタシリンダ23内には二つの加圧室が形成され、それぞれの加圧室は、ブレーキ液圧ユニット25を介してそれぞれ二つの車輪のホイールシリンダに接続されている。したがって、ブレーキペダル11の踏み込みによりマスタシリンダ23から各車輪のホイールシリンダにブレーキ液が供給され、各車輪にブレーキ力が発生する。ブレーキ液圧ユニット25は、図示しない電動ポンプ及び複数の制御弁を備え、各車輪のホイールシリンダの液圧を調節可能に構成されている。ブレーキ液圧ユニット25の駆動は、ブレーキ制御装置27により制御される。これにより、ABS(Antilock Brake System)制御あるいはESC(Electronic Stability Control)制御が実行可能となっている。
【0019】
電動ブレーキブースタ30は、マスタシリンダ23内に設けられた加圧ピストンに当接する図示しないプッシュロッドをマスタシリンダ23側へ前進させ、又は、ブレーキペダル11側へ後退させる電動モータ31を含む。電動モータ31としては、例えばステータ及びロータを含むブラシレスのDCDCモータが用いられる。電動モータ31は、供給される電流の向きを切り替えることにより、プッシュロッドを前進させる正回転及びプッシュロッドを後退させる逆回転が可能になっている。
【0020】
電動モータ31の駆動は、ブースタ制御装置50により制御される。電動ブレーキブースタ30は、ブレーキペダル11の踏み込みによって前進するプッシュロッドと、プッシュロッドと同軸にプッシュロッドと相対移動可能に設けられたバルブボディとの相対変位量を検出する変位センサ45を備えている。変位センサ45は、センサ信号として、プッシュロッドとバルブボディとの相対変位量に応じた電圧又は電流をブースタ制御装置50へ出力する。ブースタ制御装置50は、変位センサ45から出力されるセンサ信号に応じて電動モータ31に供給する電流の向き及び大きさを制御し、バルブボディ及びプッシュロッドをマスタシリンダ23側へ前進させ又はブレーキペダル11側へ後退させる。
【0021】
電動ブレーキブースタ30は、車体のフロア3から立ち上がるトーボード4に取付けられている。ブレーキペダル11に接続された入力軸15は、トーボード4を貫通して電動ブレーキブースタ30に接続されている。電動ブレーキブースタ30は、電動モータ31の反転駆動による振動が効率的にトーボード4に伝達されるように取り付けられることが好ましい。
【0022】
図2は、トーボード4への電動ブレーキブースタ30の固定方法の例を示す説明図である。電動ブレーキブースタ30は、トーボード4のうち、電動モータ31の回転軸Ax_mtrの軸方向に直交する取付面4aに対して、図示しない複数のタイロッドを用いて固定される。トーボード4の一部は、取付面4aから前方に迫り出した振動受面4bとして構成されている。取付面4aから前方に迫り出した振動受面4bは、電動モータ31の回転軸Ax_mtrの軸方向に対する角度(形成される2つの角度のうち小さい方の角度)が90°未満となっている。図2に示した例では、電動モータ31の回転軸Ax_mtrの軸方向に対して振動受面4bが成す角度が約45°となっている。電動ブレーキブースタ30は、当該振動受面4bに対しても図示しないタイロッドを用いて固定される。
【0023】
図2に示した例では、電動ブレーキブースタ30のハウジング等にフランジ部33が設けられるとともに、当該フランジ部33の一部に、電動モータ31の回転軸Ax_mtrの軸方向に対する角度が、トーボード4の振動受面4bが成す角度と等しい傾斜部33aが形成されている。この傾斜部33aとトーボード4の振動受面4bとが合わせられて、タイロッドにより固定される。これにより、電動モータ31の反転駆動により、回転軸Ax_mtrの軸方向に直交する方向に発生する振動Fmの一部が、回転軸Ax_mtrの軸方向に交差する振動成分Faとなって振動受面4bに伝達される。したがって、トーボード4の取付面4aに伝達されにくい振動Fmを、効率的にトーボード4に伝達させることができる。
【0024】
また、車両の振動低減装置1は、第1の振動センサ41及び第2の振動センサ43を含む。第1の振動センサ41及び第2の振動センサ43は、少なくともフロア3に発生する振動が伝達される位置に設けられ、車両に発生するフロア振動を検出する。振動センサとしては、例えば静電容量式又は渦電流式のセンサ、圧電式のセンサ等の適宜のセンサを用いることができる。振動センサは、センサ信号として、検知される振動の大きさに応じた電圧又は電流を出力する。本実施形態では、振動センサとして振動の大きさに応じた電圧値を出力する圧電式の振動センサが用いられる例を説明する。
【0025】
フロア振動は、例えば図示しないエンジンの駆動、駆動力を各車輪に伝達する動力系の駆動あるいは各車輪を介して伝達される路面凹凸等に起因して、様々な周波数及び振幅で発生する。図1に示した例では、第1の振動センサ41は、フロア3に設置されたシートレール9上で運転席5を支持するシートレッグ7に設けられている。また、第2の振動センサ43は、フロア3から立ち上がるトーボード4に設けられている。
【0026】
なお、振動センサは1つであってもよく、3つ以上であってもよい。ただし、異なる位置に設けられた複数の振動センサを用いることにより、後述するように、優先的に減衰させる振動を特定してより効果的に振動を低減することができる。本実施形態では、二つの第1の振動センサ41及び第2の振動センサ43を用いてフロア振動を低減する例を説明する。また、第1の振動センサ41及び第2の振動センサ43の設置位置は上記の例に限られない。例えば振動センサは、フロア3上に直接設置されていてもよい。また、第1の振動センサ41は、運転席5ではなく、助手席等の他の座席のシートレッグ又はシートレールに設けられていてもよい。ただし、第1の振動センサ41が運転席5のシートレッグ7又はシートレール9に設けられることにより、検出される振動にドライバが体感するフロア振動が反映されやすくなる。また、第2の振動センサ43がトーボード4に設けられることにより、電動ブレーキブースタ30に近い位置でフロア振動を検出することができる。
【0027】
図3は、車両の振動低減装置1の構成例を示すブロック図である。車両の振動低減装置1は、第1の振動センサ41、第2の振動センサ43、ブースタ制御装置50及び電動モータ31を備える。ブースタ制御装置50は、第1の振動センサ41及び第2の振動センサ43から出力されるセンサ信号を取得可能に構成されている。また、ブースタ制御装置50は、電動ブレーキブースタ30に設けられた変位センサ35から出力されるセンサ信号を取得可能に構成されている。この他、ブースタ制御装置50は、ブレーキ制御装置27からのメッセージを取得可能に構成されていてもよい。
【0028】
ブースタ制御装置50は、例えばCPU(Central Processing Unit)又はDSP(Digital Signal Processor)等の少なくとも一つの演算処理装置を備えて構成される。また、ブースタ制御装置50は、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)等の記憶素子、あるいは、HDD(Hard Disk Drive)やCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、SSD(Solid State Drive)、USB(Universal Serial Bus)フラッシュ、ストレージ装置等の記憶媒体を備える。記憶素子等は、演算処理装置により実行されるソフトウェアプログラムや、演算処理に用いられる種々のパラメータ、取得したデータ、演算結果等を記憶する。ブースタ制御装置50は、図示しないROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)等の記憶素子に記憶されたプログラムを実行することにより所定の演算処理を実行し、電動モータ31の駆動を制御する。
【0029】
図3に示すように、ブースタ制御装置50は、振動検出部51及び制御部53を備える。これらの各部の一部又は全部は、それぞれ所定の演算処理を実行する演算処理装置によるプログラムの実行により実現される一機能であってもよい。
【0030】
振動検出部51は、第1の振動センサ41及び第2の振動センサ43から出力されるセンサ信号が示す電圧値を検出する。第1の振動センサ41及び第2の振動センサ43により検出されるセンサ信号は、それぞれの設置位置におけるフロア振動の振幅(大きさ)及び周波数を現している。
【0031】
制御部53は、電動モータ31の駆動を制御するための演算処理を実行する。制御部53は、ドライバDがブレーキペダル11を踏み込んでいる間、電動ブレーキブースタ30に設けられた変位センサ45のセンサ信号に基づいて電動モータ31への供給電流を制御し、マスタシリンダ23からブレーキ液圧ユニット25へ供給するブレーキ液の量を調節する。つまり、ドライバDがブレーキペダル11を踏み込んでいる間、制御部53は、フロア振動を低減するために機能することがなく、フロア振動の低減よりも車両の走行安全が優先される。
【0032】
一方、制御部53は、ドライバDがブレーキペダル11を踏み込んでいない場合、発生するフロア振動に基づいて電動モータ31を連続で反転駆動させ、フロア振動を低減する。具体的には、制御部53は、振動検出部51により検出されたセンサ信号に基づいて電動モータ31を連続で反転駆動させ、フロア振動を低減する。電動ブレーキブースタ30は、フロア3から立ち上がるトーボード4に取付けられており、電動モータ31を駆動させることによってトーボード4を介してフロア3を振動させることができる。これを利用して、制御部53は、車両に発生しているフロア振動とは逆位相のフロア振動が発生するように電動モータ31を連続で反転駆動させる。
【0033】
本実施形態では、制御部53は、電動モータ31への供給電流の増減を繰り返すことにより電動モータ31を反転駆動させてフロア3に振動を与えながら、振動検出部51により検出されるセンサ信号が示す電圧値が低減するように供給電流の増減の周期及び大きさを調節する。例えば制御部53は、第1の振動センサ41及び第2の振動センサ43により検出されるセンサ信号に基づいて、電動ブレーキブースタ30を利用して優先的に減衰させるフロア振動を特定し、当該フロア振動を低減するように供給電流を制御してもよい。
【0034】
具体的に、制御部53は、トーボード4に設けられた第2の振動センサ43のセンサ信号により複数の振動のピークが検出された場合、第2の振動センサ43のセンサ信号と、運転席5のシートレッグ7に設けられた第1の振動センサ41のセンサ信号とを高速フーリエ変換(FFT)等の手段により比較することで、トーボード4からシートレッグ7までの間での各振動の減衰度合いを比較する。制御部53は、判定結果に基づいて、トーボード4からシートレッグ7までの間での減衰度合いが低い振動を特定し、当該振動とは逆位相のフロア振動が発生するように電動モータ31を反転駆動させる。
【0035】
例えば第2の振動センサ43のセンサ信号には大きなピークとなって現れる一方、第1の振動センサ41のセンサ信号には小さなピークとなって現れるフロア振動Xがあるとする。フロア振動Xは、トーボード4からシートレッグ7までの間での減衰度合いが大きい振動である。また、第2の振動センサ43のセンサ信号及び第1の振動センサ41のセンサ信号それぞれに大きなピークとなって現れる別のフロア振動Yがあるとする。フロア振動Yは、トーボード4からシートレッグ7までの間での減衰度合いが小さい振動である。この場合、制御部53は、フロア振動Yを減衰させるフロア振動が発生するように電動ブレーキブースタ30の電動モータ31への供給電流の増減の周期及び大きさを調節する。これにより、電動ブレーキブースタ30を利用してトーボード4に対して与えたフロア振動が効率的にシートレッグ7の位置まで伝達され、運転席5に伝わるフロア振動を効果的に低減させることができる。
【0036】
ただし、フロア振動を低減させるための電動モータ31の制御方法は、上述の例に限られない。例えば制御部53は、電流の供給開始時に適宜の周期及び大きさで電流の供給を開始するとともに、振動検出部51により検出される電圧値に応じて、フロア振動が低減するように供給電流の周期及び大きさを調節してもよい。あるいは、制御部53は、振動検出部51により検出されるセンサ信号が示す電圧値が負から正の値に変化するフロア振動又は負から正の値に変化するフロア振動を低減し得る電動モータ31の供給電流の増減の向きをあらかじめ求め、検出される電圧値の変動に応じて供給電流の大きさを設定してもよい。
【0037】
このとき、電動モータ31の反転駆動によりマスタシリンダ23のピストンを前進させてしまうと、マスタシリンダ23内のブレーキ液が加圧されてブレーキ液圧ユニット25に供給され、車両にブレーキ力を発生させることになる。したがって、制御部53は、ピストンを前進させない程度の回転角度の範囲で電動モータ31を反転駆動させる。
【0038】
具体的に、マスタシリンダ23からブレーキ液圧ユニット25にブレーキ液が供給され、各車輪のホイールシリンダの液圧が上昇することによって車両にブレーキ力が発生し始めるマスタシリンダ23内のブレーキ液の圧力はあらかじめ求めることができる。したがって、ブレーキペダル11が踏み込まれていない状態で、マスタシリンダ23内のブレーキ液の圧力が当該圧力となり得る電動モータ31の回転角度(以下、「許容回転量」と称する)をあらかじめ求めることができる。制御部53は、電動モータ31の回転角度が許容回転量となる供給電流の値(以下、「最大許容電流値」と称する)を超えない範囲内で、電動モータ31への供給電流を繰り返し増減する。これにより、制御部53は、マスタシリンダ23のピストンを前進させないように電動モータ31を反転駆動させることができる。
【0039】
図4は、フロア振動を低減するための電動モータ31の反転駆動時の最大許容電流値I_limを示す説明図である。電動モータ31への供給電流の値をゼロから増加させるにつれて、マスタシリンダ23内のブレーキ液の圧力は増加する。このとき、電動モータ31への供給電流の値が最大許容電流値I_limに到達するまで車両にブレーキ力は発生せず、電流値が最大許容電流値I_limを超えた後に、ブレーキ力が増加する。したがって、電動モータ31への供給電流の値が最大許容電流値I_lim以下であれば、車両にブレーキ力を発生させることなく電動モータ31を反転駆動させることができる。
【0040】
また、制御部53は、ブレーキ制御中における電動ブレーキブースタ30への供給電流値と車両の減速度の情報に基づいて、最大許容電流値を適時に診断してもよい。つまり、制御部53は、通常のブレーキ制御中に、車両の減速度が上昇し始める供給電流値を判定し、最大許容電流値を更新してもよい。これにより、最大許容電流値が変動した場合であっても、電動モータ31の反転駆動によって車両にブレーキ力が発生することを防ぐことができる。例えば車輪に設けられるブレーキパッドの遊び(ブレーキディスクとブレーキパッドと間の隙間)の減少等に伴い最大許容電流値が低下した場合であっても、予期しないブレーキ力が発生することを防ぐことができる。
【0041】
また、制御部53は、フロア振動の大きさが小さい場合、電動モータ31の反転駆動を停止してもよい。具体的に、制御部53は、第1の振動センサ41及び第2の振動センサ43から出力されるセンサ信号が示す電圧値が所定の下限値以上の場合に、電動モータ31を反転駆動させるように設定されていてもよい。これにより、ドライバDや他の乗員が不快に感じない程度の軽微な振動に対して振動を低減する制御が行われることが抑制され、車両の振動低減装置1の無駄な動作を低減できるとともに電力消費量を低減させることができる。下限値は、ドライバD等が不快に感じ始めるフロア振動に対応する電圧値に基づいてあらかじめ適切な値に設定される。
【0042】
<1-2.作用>
次に、本実施形態に係る車両の振動低減装置1の作用を説明する。
図5は、車両の振動低減装置1の一構成例による作用を示す説明図である。
【0043】
電動モータ31を反転駆動させない状態で発生するフロア振動の大きさが小さい領域Aでは、第1の振動センサ41又は第2の振動センサ43から出力されるセンサ信号が示す電圧値が所定の下限値未満であるとする。この場合、制御部53は、電動モータ31への供給電流をゼロにして、電動モータ31の反転駆動を停止させる。したがって、電動モータ31の反転駆動によりフロア3に伝達される逆位相のフロア振動が生じないため、領域Aで発生するフロア振動(振動低減処理後フロア振動)は電動モータ31を反転駆動させない状態で発生するフロア振動と同じになる。ただし、フロア振動の大きさは小さいため、ドライバDや他の乗員が不快に感じることがない。
【0044】
電動モータ31を反転駆動させない状態で発生するフロア振動の大きさが中程度の領域B及び大きい領域Cでは、第1の振動センサ41又は第2の振動センサ43から出力されるセンサ信号が示す電圧値が所定の下限値以上であるとする。この場合、制御部53は、第1の振動センサ41又は第2の振動センサ43のセンサ信号に基づいてフロア振動が低減するように電動モータ31への供給電流を制御し、電動モータ31を連続で反転駆動させる。これにより、電動モータ31を反転駆動させない状態で発生するフロア振動とは逆位相のフロア振動がフロア3に伝達され、発生するフロア振動(振動低減処理後フロア振動)が低減する。
【0045】
ただし、領域Cでは、第1の振動センサ41又は第2の振動センサ43のセンサ信号に基づいて設定される電動モータ31への供給電流が最大許容電流値I_limに制限される。このため、電動モータ31を反転駆動させない状態で発生するフロア振動とは逆位相のフロア振動の大きさが抑えられて、発生するフロア振動(振動低減処理後フロア振動)の低減度合は小さくなるもののフロア振動が低減している。
【0046】
<1-3.動作>
次に、本実施形態に係る車両の振動低減装置1の動作を説明する。
図6は、車両の振動低減装置1の一構成例の動作を示すフローチャートである。以下に説明するフローチャートは、車両のシステムが起動している間に常時実行されてもよく、振動低減機能がオンに設定されている状態において実行されてもよい。
【0047】
まず、ブースタ制御装置50の制御部53は、電動モータ31を駆動させるブレーキ制御が必要か否かを判別する(ステップS11)。具体的に、制御部53は、電動ブレーキブースタ30に設けられた変位センサ45のセンサ信号に基づいて、ドライバDがブレーキペダル11を踏み込んでいるか否かを判別する。また、制御部53は、ESC制御やABS制御、あるいは衝突回避ブレーキ制御を実行するため、電動ブレーキブースタ30の駆動指令を受信しているか否かを判別する。
【0048】
電動モータ31を駆動させるブレーキ制御が必要である場合(S11/Yes)、制御部53は、ブレーキ制御の指令に基づいて電動モータ31への供給電流を設定して電動モータ31を駆動させる(ステップS13)。ブレーキ制御の指令に基づく電動モータ31の駆動の制御は、特に限定されるものではないため、詳細な説明は省略する。
【0049】
一方、電動モータ31を駆動させるブレーキ制御が必要ではない場合(S11/No)、ブースタ制御装置50の振動検出部51は、第1の振動センサ41又は第2の振動センサ43のうちの少なくとも一方の振動センサから出力されるセンサ信号を取得する(ステップS15)。次いで、制御部53は、取得されたセンサ信号が示す電圧値が、あらかじめ設定された下限値を超えているか否かを判別する(ステップS17)。電圧値が下限値を超えている場合(S17/Yes)、制御部53は、電動モータ31の反転駆動を実行中であるか否かを判別する(ステップS19)。電動モータ31の反転駆動を実行中である場合(S19/Yes)、電動モータ31を反転駆動させているにもかかわらずフロア振動が低減されていない状態であるため、制御部53は、電動モータ31の反転駆動を停止させてスタートに戻る。
【0050】
一方、電動モータ31の反転駆動を実行中でない場合(S19/No)、制御部53は、検出された電圧値に基づいて、フロア振動と逆位相のフロア振動を発生させ得る供給電流の値及び供給電流の増減の周期を算出する(ステップS25)。本実施形態では、制御部53は、トーボード4に設けられた第2の振動センサ43のセンサ信号と、運転席5のシートレッグ7に設けられた第1の振動センサ41のセンサ信号とを高速フーリエ変換(FFT)等の手段により比較することで、第2の振動センサ43のセンサ信号により検出される、異なるピーク値の複数の振動について、トーボード4からシートレッグ7までの間での各振動の減衰度合いを比較する。また、制御部53は、判定結果に基づいて、トーボード4からシートレッグ7までの間での減衰度合いが低い振動を特定し、当該振動とは逆位相のフロア振動を発生させ得る供給電流の値及び供給電流の増減の周期を算出する。
【0051】
次いで、制御部53は、算出された供給電流の値が、あらかじめ設定された最大許容電流値I_lim以下であるか否かを判別する(ステップS27)。算出された供給電流の値が最大許容電流値I_lim以下である場合(S27/Yes)、制御部53は、算出された供給電流の値をそのまま供給電流の指示値に設定する(ステップS29)。一方、算出された供給電流の値が最大許容電流値I_limを超える場合(S27/No)、制御部53は、最大許容電流値I_limを供給電流の指示値に設定する(ステップS31)。
【0052】
次いで、制御部53は、設定された供給電流の指示値及び周期にしたがって電動モータ31への供給電流を制御する(ステップS33)。これにより、フロア振動と逆位相の振動がフロア3に伝達され、フロア振動が低減する。したがって、ドライバDや他の乗員がフロア振動に対して不快感を持つおそれを低減することができる。
【0053】
また、上記のステップS17において、電圧値が下限値を超えていない場合(S17/No)、制御部53は、電動モータ31の反転駆動を実行中であるか否かを判別する(ステップS23)。電動モータ31の反転駆動を実行中でない場合(S23/No)、低減すべきフロア振動が発生していない状態であるため、制御部53は、電動モータ31の反転駆動を停止させた状態を維持してスタートに戻る。一方、電動モータ31の反転駆動を実行中である場合(S23/Yes)、電動モータ31の反転駆動によってフロア振動が低減されている状態であるため、制御部53は、そのままステップS33へ進み、現在設定されている供給電流の値及び供給電流の増減の周期にしたがって電動モータ31への供給電流を制御する(ステップS33)。これにより、フロア振動が低減された状態が維持される。
【0054】
<1-4.効果>
以上説明したように、本実施形態に係る車両の振動低減装置1は、ブレーキシステムの構成要素として搭載された電動ブレーキブースタ30の電動モータ31を反転駆動させて、車両に発生するフロア振動を低減する。したがって、フロア振動を低減するために追加的に設けられる装置を用いることなく車体重量を増加させずに車両の振動を低減することができる。また、追加的に設けられる装置を用いることがないため、車両の生産コストの増加を防ぐことができる。
【0055】
また、本実施形態に係る車両の振動低減装置1は、フロア振動を検出する振動センサを備え、制御部53は、振動センサにより検出されるフロア振動と逆位相の振動が発生するように電動モータ31を反転駆動させるように構成されている。このため、発生するフロア振動に対して、適切な大きさの逆位相のフロア振動をフロア3に伝達させることができ、フロア振動を低減する効果を高めることができる。
【0056】
また、本実施形態に係る車両の振動低減装置1では、制御部53は、電動モータ31の駆動により車両にブレーキ力を発生させない出力の範囲内で電動モータ31を反転駆動させる。したがって、フロア振動を低減するために車両にブレーキ力が発生することを防ぐことができる。
【0057】
また、本実施形態に係る車両の振動低減装置1では、制御部53は、ドライバDがブレーキペダル11を踏み込んだ場合や、ESC制御又はABS制御あるいは衝突回避ブレーキ制御によるブレーキ制御の指令を受信した場合、電動モータ31の反転駆動によりフロア振動を低減する制御を停止させる。これにより、車両のブレーキ制御の精度の低下を防ぎ、車両の走行安全を維持することができる。
【0058】
また、本実施形態に係る車両の振動低減装置1では、シートレッグ7に設けられた第1の振動センサ41により検出される振動とトーボード4に設けられた第2の振動センサ43により検出される振動とを比較することにより、トーボード4からシートレッグ7までの間の減衰度合いが低い振動を特定し、電動ブレーキブースタ30を利用してフロア振動を低減する。これにより、効率的にフロア振動を低減することができる。
【0059】
<<2.第2の実施の形態>>
続いて、本発明の第2の実施の形態に係る車両の振動低減装置を説明する。第2の実施の形態に係る車両の振動低減装置は、振動センサのセンサ信号を用いる代わりに、車両の運転状態からフロア振動を推定し、推定されるフロア振動と逆位相の振動が発生するように電動モータを反転駆動させてフロア振動を低減する装置として構成される。以下、本実施形態の車両の振動低減装置について、主として第1の実施の形態に係る車両の振動低減装置と異なる点を説明する。
【0060】
<2-1.構成例>
図7は、本実施形態に係る車両の振動低減装置1Aの構成例を示すブロック図である。車両の振動低減装置1Aは、エンジン回転数センサ61、シフトポジションセンサ63、車速センサ65、ブースタ制御装置70及び電動モータ31を備える。ブースタ制御装置70は、エンジン回転数センサ61、シフトポジションセンサ63及び車速センサ65から出力されるセンサ信号を取得可能に構成されている。また、ブースタ制御装置70は、電動ブレーキブースタ30に設けられた変位センサ35から出力されるセンサ信号を取得可能に構成されている。この他、ブースタ制御装置70は、ブレーキ制御装置27からのメッセージを取得可能に構成されていてもよい。
【0061】
エンジン回転数センサ61、シフトポジションセンサ63及び車速センサ65は、それぞれ車両のフロア振動の振幅や周期に影響する情報を検出し、ブースタ制御装置70へセンサ信号を出力する。具体的に、エンジン回転数センサ61は、エンジンのクランクシャフトの回転数を検出する。シフトポジションセンサ63は、シフトレバーの位置を検出する。車速センサ65は、ドライブシャフトの回転数に基づいて車速を検出する。これらはいずれも、発生するフロア振動に影響する車両の状態量を検出するセンサである。車両の状態量を検出するセンサとして、さらに別のセンサを備えていてもよい。
【0062】
本実施形態において、ブースタ制御装置70は、振動推定部71、制御部73及び記憶部75を備える。記憶部75は、例えばRAM又はROM等の記憶素子からなり、エンジン回転数、シフトレバーの位置及び車速等の車両の状態量と、発生するフロア振動との関係をあらかじめ定めた、推定振動データの情報を記憶する。推定振動データは、例えばエンジン回転数、シフトレバーの位置及び車速等の運転状態の情報と、これらの運転状態の情報に対応するフロア振動の振幅及び周期との関係を定めたマップデータとすることができる。当該マップデータは、例えばシミュレーションにより得られた情報に基づいて生成されたデータであってもよく、実際に車両を走行させて取得したデータに基づいて生成されたデータであってもよい。
【0063】
あるいは、推定振動データは、マップデータ以外に、実際に車両を走行させて取得したエンジン回転数、シフト位置、車速並びにフロア振動の振幅及び周期のデータを学習用データとして入力することにより生成された振動推定モデルであってもよい。振動推定モデルは、例えばサポートベクタマシン、近傍法、ディープラーニング等のニューラルネットワーク又はベイジアンネットワーク等を用いた機械学習モデルであってよい。
【0064】
また、記憶部75は、発生するフロア振動と、各フロア振動が電動ブレーキブースタ30まで伝達される遅れ時間との関係をあらかじめ定めた、遅れ時間データの情報を記憶する。遅れ時間データは推定振動データと同様に、例えばエンジン回転数、シフトレバーの位置及び車速等の運転状態の情報と、対応する遅れ時間の情報とに基づいて生成されるマップデータであってもよく、これらのデータを学習用データとして生成される遅れ時間モデルであってもよい。
【0065】
振動推定部71は、エンジン回転数センサ61、シフトポジションセンサ63及び車速センサ65等の車両の状態量を検出するセンサから出力されるセンサ信号を取得するとともに、検出された車両の状態量のデータに基づいて、発生するフロア振動の振幅及び周期を推定する。具体的に、振動推定部71は、記憶部75に記憶されたマップデータを参照し、取得した車両の状態量のデータに対応するフロア振動の振幅及び周期を特定することにより、フロア振動の振幅及び周期を推定する。あるいは、振動推定部71は、取得したエンジン回転数、シフトレバーの位置及び車速等の車両の状態量のデータを振動推定モデルに入力して得られるフロア振動の振幅及び周期の出力を得ることにより、フロア振動の振幅及び周期を推定してもよい。
【0066】
制御部73は、電動モータ31の駆動を制御するための演算処理を実行する。制御部73は、ドライバDがブレーキペダル11を踏み込んでいる間、電動ブレーキブースタ30に設けられた変位センサ45のセンサ信号に基づいて電動モータ31への供給電流を制御し、マスタシリンダ23からブレーキ液圧ユニット25へ供給するブレーキ液の量を調節する。
【0067】
一方、制御部73は、ドライバDがブレーキペダル11を踏み込んでいない場合、発生するフロア振動に基づいて電動モータ31を連続で反転駆動させ、フロア振動を低減する。本実施形態において、制御部73は、振動推定部71により推定されたフロア振動の振幅及び周期に基づいて電動モータ31を連続で反転駆動させる。具体的に、制御部73は、振動推定部71により推定されるフロア振動の振幅に応じて供給電流の大きさを設定する。本実施形態においても同様に、制御部73は、電動モータ31の反転駆動により車両にブレーキ力を発生させないように、最大許容電流値I_limを超えない範囲内で、電動モータ31への供給電流値を設定する。また、制御部73は、振動推定部71により推定されるフロア振動の周期に同期させて電動モータ31への供給電流を増減させる。その際に、制御部73は、例えば以下のようにして電動モータ31の反転駆動により発生させる振動の位相を設定する。
【0068】
制御部73は、振動推定部71により検出されるエンジン回転数センサ61、シフトポジションセンサ63及び車速センサ65等の車両の状態量を検出するセンサから出力されるセンサ信号をモニタリングする。制御部73は、低減させるべきフロア振動が発生する車両の状態量の組み合わせになったときに、あらかじめ記憶部75に記憶された遅れ時間のデータを参照し、低減させるべきフロア振動に対応する遅れ時間tdを求める。制御部73は、求めた遅れ時間tdに基づいて電動モータ31の反転駆動により発生させる振動の位相ωを設定する。
【0069】
例えば振動発生源の振動の位相をω(t)とすると、振動発生源の振動による電動ブレーキブースタ30の振動の位相はω(t-td)であることから、制御部73は、当該位相ω(t-td)の逆位相の振動が発生するように電動モータ31の反転駆動により発生させる振動の位相ωを設定する。遅れ時間tdに基づく電動モータ31の反転駆動により発生させる振動の位相ωは、演算式を用いて求められてもよく、あらかじめ記憶部75に記憶されたテーブルを参照して求められてもよい。
【0070】
なお、制御部73は、求めた供給電流値及び周波数に基づいて電動モータ31を反転駆動させて適宜の位相の振動を発生させながら、フロア振動が低減するように位相を調節してもよい。
【0071】
これにより、制御部73は、マスタシリンダ23のピストンを前進させないように電動モータ31を反転駆動させて、フロア振動を低減することができる。
【0072】
また、制御部73は、フロア振動の大きさが小さい場合、電動モータ31の反転駆動を停止してもよい。具体的に、制御部73は、振動推定部71により推定されるフロア振動の振幅が、あらかじめ設定された下限値以上の場合に、電動モータ31を反転駆動させるように設定されていてもよい。これにより、ドライバDや他の乗員が不快に感じない程度の軽微な振動に対して振動を低減する制御が行われることが抑制され、車両の振動低減装置1Aの無駄な動作を低減できるとともに電力消費量を低減させることができる。下限値は、ドライバD等が不快に感じ始めるフロア振動の振幅に基づいてあらかじめ適切な値に設定される。
【0073】
<2-2.動作>
次に、本実施形態に係る車両の振動低減装置1Aの動作を説明する。
図8は、車両の振動低減装置1Aの一構成例の動作を示すフローチャートである。図8に示すフローチャートにおいて、第1の実施の形態で説明したフローチャート(図6)と同じ処理を実行するステップには同一の符号が付されている。つまり、図8に示したフローチャートでは、図6に示したフローチャートのうち、振動センサのセンサ信号に基づいて実行されるステップS15~ステップS17の処理が、状態量センサのセンサ信号に基づいて実行されるステップS41~ステップS45の処理に置き換えられるとともにステップS47の処理が追加される。以下、図6に示したフローチャートと同じ処理を実行するステップについての詳細な説明は省略する。
【0074】
ブースタ制御装置70の制御部73は、電動モータ31を駆動させるブレーキ制御が必要か否かを判別する(ステップS11)。電動モータ31を駆動させるブレーキ制御が必要である場合(S11/Yes)、制御部73は、ブレーキ制御の指令に基づいて電動モータ31への供給電流を設定して電動モータ31を駆動させる(ステップS13)。
【0075】
一方、電動モータ31を駆動させるブレーキ制御が必要ではない場合(S11/No)、ブースタ制御装置70の振動推定部71は、エンジン回転数センサ61、シフトポジションセンサ63又は車速センサ65等の状態量センサから出力されるセンサ信号を取得する(ステップS41)。
【0076】
次いで、振動推定部71は、取得されたセンサ信号が示すエンジン回転数、シフトレバーの位置、車速等の状態量の情報に基づいて、車両に発生しているフロア振動の振幅及び周期を推定する(ステップS43)。具体的に、振動推定部71は、記憶部75に記憶されたマップデータを参照し、取得した車両の状態量のデータに対応するフロア振動の振幅及び周期を特定することにより、フロア振動の振幅及び周期を推定する。あるいは、振動推定部71は、取得したエンジン回転数、シフトレバーの位置及び車速等の車両の状態量のデータを振動推定モデルに入力して得られるフロア振動の振幅及び周期の出力を得ることにより、フロア振動の振幅及び周期を推定してもよい。
【0077】
次いで、制御部73は、振動推定部71により推定されたフロア振動の振幅が、あらかじめ設定された下限値を超えているか否かを判別する(ステップS45)。フロア振動の振幅が下限値を超えている場合(S45/Yes)、制御部73は、電動モータ31の反転駆動を実行中であるか否かを判別する(ステップS19)。電動モータ31の反転駆動を実行中である場合(S19/Yes)、電動モータ31を反転駆動させているにもかかわらずフロア振動が低減されていない状態であるため、制御部73は、電動モータ31の反転駆動を停止させてスタートに戻る。
【0078】
一方、電動モータ31の反転駆動を実行中でない場合(S19/No)、制御部73は、検出された電圧値に基づいて、フロア振動と逆位相のフロア振動を発生させ得る供給電流の値及び供給電流の増減の周期を算出する(ステップS25)。本実施形態では、制御部73は、振動推定部71により推定されるフロア振動の振幅に応じて供給電流の大きさを設定するとともに、振動推定部71により推定されるフロア振動の周期を、電動モータ31への供給電流を増減させる周期として設定する。
【0079】
次いで、制御部73は、算出された供給電流の値が、あらかじめ設定された最大許容電流値I_lim以下であるか否かを判別する(ステップS27)。算出された供給電流の値が最大許容電流値I_lim以下である場合(S27/Yes)、制御部73は、算出された供給電流の値をそのまま供給電流の指示値に設定する(ステップS29)。一方、算出された供給電流の値が最大許容電流値I_limを超える場合(S27/No)、制御部73は、最大許容電流値I_limを供給電流の指示値に設定する(ステップS31)。
【0080】
次いで、制御部73は、電動モータ31の反転駆動により発生させる振動の位相ωを設定する(ステップS47)。上述のとおり、本実施形態では、制御部73は、低減させるべきフロア振動が発生する車両の状態量の組み合わせになったときの振動発生源の振動による電動ブレーキブースタ30の振動の位相ω(t-td)を求め、当該位相ω(t-td)の逆位相の位相を発生させる振動の位相ωに設定する。制御部73は、遅れ時間tdに基づき、演算式を用いて位相ωを求めてもよく、あらかじめ記憶部75に記憶されたテーブルを参照して位相ωを求めてもよい。
【0081】
次いで、制御部73は、設定された供給電流の指示値及び周期にしたがって電動モータ31への供給電流を制御する(ステップS33)。これにより、振動推定部71により推定されるフロア振動と逆位相の振動がフロア3に伝達され、フロア振動が低減する。したがって、ドライバDや他の乗員がフロア振動に対して不快感を持つおそれを低減することができる。
【0082】
また、上記のステップS45において、フロア振動の振幅が下限値を超えていない場合(S45/No)、制御部73は、電動モータ31の反転駆動を実行中であるか否かを判別する(ステップS23)。電動モータ31の反転駆動を実行中でない場合(S23/No)、低減すべきフロア振動が発生していない状態であるため、制御部73は、電動モータ31の反転駆動を停止させた状態を維持してスタートに戻る。一方、電動モータ31の反転駆動を実行中である場合(S23/Yes)、電動モータ31の反転駆動によってフロア振動が低減されている状態であるため、制御部73は、そのままステップS33へ進み、現在設定されている供給電流の値及び供給電流の増減の周期にしたがって電動モータ31への供給電流を制御する(ステップS33)。これにより、フロア振動が低減された状態が維持される。
【0083】
<2-3.効果>
以上説明したように、本実施形態に係る車両の振動低減装置1Aは、ブレーキシステムの構成要素として搭載された電動ブレーキブースタ30の電動モータ31を反転駆動させて、車両に発生するフロア振動を低減する。したがって、フロア振動を低減するために追加的に設けられる装置を用いることなく車体重量を増加させずに車両の振動を低減することができる。また、追加的に設けられる装置を用いることがないため、車両の生産コストの増加を防ぐことができる。
【0084】
また、本実施形態に係る車両の振動低減装置1Aは、エンジン回転数センサ61、シフトポジションセンサ63及び車速センサ65等の車両の状態量を検出するセンサを備え、振動推定部71は、これらのセンサにより検出される車両の状態量の情報に基づいてフロア振動を推定し、制御部73は、推定されるフロア振動と逆位相の振動が発生するように電動モータ31を反転駆動させるように構成されている。このため、推定されるフロア振動に対して、適切な大きさの逆位相のフロア振動をフロア3に伝達させることができ、フロア振動を低減する効果を高めることができる。
【0085】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0086】
例えば、上記実施形態では、電動モータ31への供給電流の大きさを、振動センサから出力される電圧値あるいは推定されるフロア振動の振幅に応じて設定していたが、本発明はかかる例に限定されない。電動モータ31を反転駆動させる場合の供給電流の大きさは、車両にブレーキ力を発生させない範囲において一定の値に設定されてもよい。この場合においても、少なくともフロア振動を低減させることができる。
【0087】
また、上記実施形態に係る車両の振動低減装置は、主として運転席5に伝達されるフロア振動を低減する装置として説明したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば車両の振動低減装置は、ブレーキペダル11を介してドライバの足に伝達される振動を低減する装置として構成されてもよい。例えばブレーキペダル11に生じる振動を検出又は推定し、当該振動を低減可能な振動を電動ブレーキブースタ30を利用して発生させることにより、ブレーキペダル11に足を乗せて当該ブレーキペダル11を踏み込む際に、踏み始めから実際にブレーキ力が発生するまでの区間における不快なペダル振動を低減することができる。
【0088】
また、上記実施形態に係る車両の振動低減装置は、ドライバ等の乗員に対して警告を通知する装置として使用することもできる。例えばドライバの居眠り時や注意力が低下している状態が検出されたとき等において、振動センサにより検出された振動をさらに増幅するように電動ブレーキブースタ30の電動モータ31を連続的に反転駆動することにより、ドライバの不快感を誘発する警告装置として機能させることができる。
【符号の説明】
【0089】
1…車両の振動低減装置、3…フロア、4…トーボード、5…運転席、7…シートレッグ、9…シートレール、11…ブレーキペダル、20…ブレーキシステム、23…マスタシリンダ、25…ブレーキ液圧ユニット、27…ブレーキ制御装置、30…電動ブレーキブースタ、31…電動モータ、41…第1の振動センサ、43…第2の振動センサ、50…ブースタ制御装置、51…振動検出部、53…制御部、61…エンジン回転数センサ、63…シフトポジションセンサ、65…車速センサ、70…ブースタ制御装置、71…振動推定部、73…制御部、75…記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8