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特許7509706マルチコア光ファイバのコア識別のための光学部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】マルチコア光ファイバのコア識別のための光学部材
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/02 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
G02B6/02 461
G02B6/02 416
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021019222
(22)【出願日】2021-02-09
(65)【公開番号】P2022122122
(43)【公開日】2022-08-22
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英憲
(72)【発明者】
【氏名】釣谷 剛宏
(72)【発明者】
【氏名】吉兼 昇
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/085879(WO,A1)
【文献】特開平07-159625(JP,A)
【文献】国際公開第2020/094478(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02- 6/10
G02B 6/44
G01M 11/00-11/08
H04B 10/00-10/90
H04J 14/00-14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
識別対象マルチコア光ファイバの各コアを識別するための光学部材であって、
第1コアから第Nコア(Nは2以上の整数)を有するマルチコア光ファイバであって、前記マルチコア光ファイバの長手方向の1つ以上の反射位置それぞれにおいて、前記第1コアから前記第Nコアは光を反射する様に構成されている、前記マルチコア光ファイバを有し、
反射波長をシフトさせるための力が前記第1コアから前記第Nコアに印加されていない場合、同じ反射位置での前記第1コアから前記第Nコアの反射波長が同じとなり、反射位置が異なれば反射波長異なる様に前記第1コアから前記第Nコアは構成されており
前記1つ以上の反射位置それぞれにおいて前記第1コアから前記第Nコアに前記反射波長をシフトさせるための力を印加するため、前記マルチコア光ファイバは、前記1つ以上の反射位置それぞれにおいて、回転軸と直交する平面内における湾曲形状に構成され
反射波長のシフト量の前記1つ以上の反射位置に渡るパターンは、コア毎に異なることを特徴とする光学部材。
【請求項2】
前記1つ以上の反射位置は、複数の反射位置であり、
前記複数の反射位置それぞれにおいて、前記回転軸の方向は異なることを特徴とする請求項に記載の光学部材。
【請求項3】
前記複数の反射位置それぞれにおける前記回転軸の方向は、πを前記複数の反射位置の数で除した値ずつ異なることを特徴とする請求項に記載の光学部材。
【請求項4】
識別対象マルチコア光ファイバの各コアを識別するための光学部材であって、
第1コアから第Nコア(Nは2以上の整数)を有するマルチコア光ファイバであって、前記マルチコア光ファイバの長手方向の1つ以上の反射位置それぞれにおいて、前記第1コアから前記第Nコアは、光を反射する様に構成されている、前記マルチコア光ファイバを有し、
反射波長をシフトさせるための力が前記第1コアから前記第Nコアに印加されていない場合、同じ反射位置での前記第1コアから前記第Nコアの反射波長が同じとなり、反射位置が異なれば反射波長異なる様に前記第1コアから前記第Nコアは構成されており
前記光学部材は、さらに、
前記1つ以上の反射位置それぞれにおいて、前記第1コアから前記第Nコアの少なくとも1つによる反射波長をシフトさせるための力を前記マルチコア光ファイバに印加するための印加部材を有し
前記印加部材が前記マルチコア光ファイバに前記力を印加することによる反射波長のシフト量の前記1つ以上の反射位置に渡るパターンは、コア毎に異なることを特徴とする光学部材。
【請求項5】
前記印加部材は、
前記マルチコア光ファイバを支持する支持部材と、
前記マルチコア光ファイバに対して前記支持部材とは反対側に設けられる加圧部材と、
を有し、
前記加圧部材は、前記マルチコア光ファイバに前記力を印加するために前記支持部材の方向に移動可能に構成されていることを特徴とする請求項に記載の光学部材。
【請求項6】
前記1つ以上の反射位置は、複数の反射位置であり、
前記複数の反射位置それぞれにおいて、前記加圧部材の移動方向は異なることを特徴とする請求項に記載の光学部材。
【請求項7】
前記複数の反射位置それぞれにおける前記加圧部材の移動方向は、πを前記複数の反射位置の数で除した値ずつ異なることを特徴とする請求項に記載の光学部材。
【請求項8】
前記加圧部材が前記力を印加する前記マルチコア光ファイバの面積は、前記支持部材が前記マルチコア光ファイバを支持する面積より小さいことを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載の光学部材。
【請求項9】
Nが偶数である場合、前記1つ以上の反射位置の数はN/2以上であり、
Nが奇数である場合、前記1つ以上の反射位置の数は(N-1)/2以上であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の光学部材。
【請求項10】
前記マルチコア光ファイバは、前記識別対象マルチコア光ファイバと同じコア配置を有することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の光学部材。
【請求項11】
前記1つ以上の反射位置それぞれにおいて、前記第1コアから前記第Nコアには、前記光を反射するためにファイバ・ブラッグ・グレーティングが形成されていることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチコア光ファイバの一方の端部と他方の端部とにおいて同じコアを識別するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、複数のシングルコア(SC)光ファイバを収容する通信ケーブルが2つの通信局舎間に敷設されている場合において、一方の通信局舎(以下、近端局舎)で当該通信ケーブル内の所定のSC光ファイバに対する作業を行う場合を考える。なお、作業対象のSC光ファイバは、他方の通信局舎(以下、遠端局舎)において決定・特定されるものとする。この場合、近端局舎において、通信ケーブルが収容する複数のSC光ファイバから作業対象のSC光ファイバを特定する必要がある。この目的のため、ファイバ・ブラッグ・グレーティング(FBG)を設けた光学部材が使用されている。具体的には、遠端局舎において当該光学部材を作業対象のSC光ファイバに接続する。FBGは特定波長の光を反射するため、近端局舎から通信ケーブル内の各SC光ファイバに光を入力し、当該特定波長の反射光が観測されたSC光ファイバを作業対象の光ファイバと近端局舎において特定することができる。
【0003】
一方、近年、1本の光ファイバによる伝送容量を増やすため、1本の光ファイバ内に複数のコアを設けたマルチコア(MC)光ファイバが使用されている。MC光ファイバにおいても、上述した様に、MC光ファイバ内の各コアを識別する必要が生じる。簡易な方法は、遠端局舎において、所謂、ファン・アウトデバイスを用いてMC光ファイバの各コアをSC光ファイバに接続し、SC光ファイバに上述したFBGを接続することである。但し、MC光ファイバの複数のコアの内、ある1つのコアに接続されているSC光ファイバのみにFBGを接続すると、MC光ファイバの複数のコアの内の1つのコアのみしか識別できない。MC光ファイバの複数のコアそれぞれを識別するには、遠端局舎においてFBGを接続するSC光ファイバを順に切り替えてもらう必要があり作業が煩雑になる。MC光ファイバの複数のコアそれぞれに接続されている総てのSC光ファイバに、異なる波長を反射するFBGを接続する構成を考えることもできるが部品数が多くなる。
【0004】
したがって、遠端局舎においてファン・アウトデバイスを用いてSC光ファイバに接続することなくMC光ファイバの各コアの識別を行えることが望ましい。このためには、MC光ファイバの各コアにFBGを設けた光学部材を使用する必要がある。ここで、特許文献1~特許文献3及び非特許文献1は、MC光ファイバの各コアにFBGを書き込む方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許6388445号公報
【文献】特開2020-148606号公報
【文献】国際公開第2017/195673号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Di Zheng,et.al.,"Multicore fiber-Bragg-grating-based directional curvature sensor interrogated by a broadband source with a sinusoidal spectrum",Opt.Lett.42,3710-3713,2017年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の方法では、MC光ファイバの各コアに同じFBGが書き込まれてしまう。よって、各コアの反射光の波長は同じとなりコアを識別することはできない。一方、特許文献3及び非特許文献1は、MC光ファイバの各コアに異なるFBGを書き込む方法を開示している。MC光ファイバの各コアに異なるFBGを書き込んだ光学部材を、例えば、遠端局舎において作業対象のMC光ファイバに接続することで、近端局舎においてMC光ファイバの各コアを識別することが可能になる。しかしながら、MC光ファイバの各コアに異なるFBGを書き込むには、コア数分の位相マスクが必要であり、かつ、各コアに個別のFBGを書き込むための作業が複雑でありコスト高となる。
【0008】
本発明は、MC光ファイバの各コアを識別するための、低コストで製造可能な光学部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によると、識別対象マルチコア光ファイバの各コアを識別するための光学部材は、第1コアから第Nコア(Nは2以上の整数)を有するマルチコア光ファイバであって、前記マルチコア光ファイバの長手方向の1つ以上の反射位置それぞれにおいて、前記第1コアから前記第Nコアは光を反射する様に構成されている、前記マルチコア光ファイバを有し、反射波長をシフトさせるための力が前記第1コアから前記第Nコアに印加されていない場合、同じ反射位置での前記第1コアから前記第Nコアの反射波長が同じとなり、反射位置が異なれば反射波長異なる様に前記第1コアから前記第Nコアは構成されており前記1つ以上の反射位置それぞれにおいて前記第1コアから前記第Nコアに前記反射波長をシフトさせるための力を印加するため、前記マルチコア光ファイバは、前記1つ以上の反射位置それぞれにおいて、回転軸と直交する平面内における湾曲形状に構成され、反射波長のシフト量の前記1つ以上の反射位置に渡るパターンは、コア毎に異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、MC光ファイバの各コアを識別するための、低コストで製造可能な光学部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態による光学部材の説明図。
図2】一実施形態による光学部材の説明図。
図3】一実施形態による光学部材の説明図。
図4】一実施形態による光学部材の説明図。
図5】一実施形態による光学部材の説明図。
図6】一実施形態による光学部材の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴うち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
<第一実施形態>
MC光ファイバのN個(Nは2以上の整数)のコアを識別するための本実施形態による光学部材1は、識別対象のMC光ファイバと同じコア数及びコア配置を有するMC光ファイバを使用して作成される。なお、以下の説明においては、光学部材1を構成するMC光ファイバを単に"MC光ファイバ"と表記し、コアの識別対象のMC光ファイバを"識別対象MC光ファイバ"と表記することで区別する。また、以下に説明する例において、コア数Nが偶数の場合には、MC光ファイバの断面(MC光ファイバの長手方向に垂直な断面)において、コアは、MC光ファイバの中心に対して同一半径の円状に等間隔で配置されているものとする。また、コア数が奇数Nの場合には、MC光ファイバの断面において、コアは、MC光ファイバの中心に1つのコアが配置され、残りのコアは、MC光ファイバの中心に対して同一半径の円状に等間隔で配置されているものとする。
【0014】
本実施形態においては、MC光ファイバの長手方向のM個の位置(以下、反射位置)それぞれにおいて、総てのコアにFBGを形成する。本実施形態では、コア数Nが偶数の場合、M=N/2とし、コア数Nが奇数の場合、M=(N-1)/2とする。なお、コアに形成するFBGは、反射位置が異なれば異なる。但し、同じ反射位置において各コアに形成するFBGは同じである。したがって、各反射位置において総てのコアは同じ波長の光を反射するが、反射位置が異なれば反射波長も異なることになる。
【0015】
図1(A)は、N=5の場合の本実施形態による光学部材1の長手方向に垂直な断面を示している。図1(A)において5つのコアをコア#1~コア#5と表記している。図2(A)は、図1(A)に示す光学部材1の説明図である。本例ではN=5であるため、M=2である。つまり、光学部材1のMC光ファイバは、長手方向の異なる2つの反射位置において異なるFBG(第1FBG及び第2FBG)が各コアに形成されている。なお、図2(A)には示していないが、光学部材1を構成するMC光ファイバの一端にはコネクタを設けることができる。光学部材1は、このコネクタにより識別対象MC光ファイバに接続され得る。
【0016】
図2(A)に示す様に、光学部材1は、FBGが設けられた各反射位置において湾曲形状にされる。なお、図2(A)においては、光学部材1をループ状に1回転させているが、ループ状にすることは必須ではなく、後述する様に、MC光ファイバを湾曲させることでN個のコアの内の少なくとも1つのコアのFBGによる反射波長がシフトすれば良い。なお、湾曲形状部分のMC光ファイバを含む平面とは垂直な方向の軸を、本実施形態では回転軸と表記する。
【0017】
図2(A)に示す様に、第1FBGが設けられた反射位置において、MC光ファイバは、回転軸20と垂直な平面において曲げられ、第2FBGが設けられた反射位置において、MC光ファイバは、回転軸21と垂直な平面において曲げられる。図1(A)に示す様に、回転軸20は、MC光ファイバの中心と、コア#1及びコア#2の中心とを通る方向と平行である。また、回転軸21は、MC光ファイバの中心と、コア#1及びコア#3の中心とを通る方向と平行である。よって、回転軸20と回転軸21の角度は90度である。図1(A)の各回転軸には、どちらを内側とし、どちらを外側としてMC光ファイバを湾曲形状とするかも示している。本例においては、図1(A)に示す様に、第1FBGが設けられた反射位置においては、コア#1及びコア#3が内側となる湾曲形状とし、第2FBGが設けられた反射位置においては、コア#3及びコア#4が内側となる湾曲形状とする。
【0018】
第1FBGは所定波長の光を反射し、第2FBGは第1FBGとは異なる所定波長の光を反射するものである。ここで、FBGが形成された部分を湾曲形状にすると、コアに長手方向の力が加わりグレーティングの間隔が変化する。これにより、FGBの反射波長がシフトする。なお、湾曲形状の内側から外側に向かうにつれて、コアに加わる長手方向の向きや大きさは変化する。具体的は、回転軸20と垂直な平面内において、図1(A)に示す様にコア#1及びコア#3が内側となる様に曲げると、コア#1及びコア#3には、長手方向においてコアを圧縮する方向の力が働き、グレーティング間隔が短くなる。このため、コア#1及びコア#3のFBGの反射波長は短波長側にシフトする。一方、外側のコア#2及びコア#4には、長手方向においてコアを伸張する方向の力が働き、グレーティング間隔は長くなる。このため、コア#2及びコア#4のFBGの反射波長は長波長側にシフトする。一方、その間にあるコア#5の反射波長はほとんどシフトしない。
【0019】
同様に、回転軸21と垂直な平面内において、図1(A)に示す様にコア#3及びコア#4が内側となる様に曲げると、コア#3及びコア#4のFBGの反射波長は短波長側にシフトし、コア#1及びコア#2のFBGの反射波長は長波長側にシフトし、コア#5の反射波長はほとんどシフトしない。
【0020】
この様子を図2(B)に示す。なお、図2(B)において、"-"は短波長側にシフトすることを示し、"+"は長波長側にシフトすることを示し、"0"はシフトが略0であることを示している。図2(B)に示す様に、反射波長のシフト量の各反射位置に渡るパターンはコア毎に異なる。なお、シフト量の"各反射位置に渡るパターン"とは、図2(B)の各行に対応する。具体的には、コア#1の2つの反射位置に渡るパターンは、"-,+"であり、コア#2の2つの反射位置に渡るパターンは"+,+"である。したがって、識別対象MC光ファイバの一端に光学部材1を接続し、第1FBGの反射波長及び第2FBGの反射波長を含む光を、識別対象MC光ファイバの他端から各コアに入力し、他端において、反射波長のシフト量のパターンを観察することでコア#1~コア#5を識別できることが分かる。
【0021】
なお、以下に説明する様に、回転軸の絶対的な方向は図1(A)の例に限定されない。図1(B)は、図1(A)の2つの回転軸を45度だけ回転させた状態を示している。なお、図1(B)においては、回転軸30をコア#2、コア#5及びコア#3を結ぶ直線と平行とし、回転軸31をコア#1、コア#5及びコア#4を結ぶ直線と平行としている。また、図3(A)に示す様に、第1FBGによる反射位置においては回転軸30と直交する平面内においてMC光ファイバを湾曲形状とし、第2FBGによる反射位置においては回転軸31と直交する平面内においてMC光ファイバを湾曲形状とするものとする。
【0022】
第1FBGの反射位置においては、コア#1が内側となり、コア#4が外側となる様に曲げられるため、コア#1の反射波長は短波長側にシフトし、コア#4の反射波長は長波長側にシフトする。なお、その間のコア#2、コア#5及びコア#3の反射波長は殆どシフトしない。同様に、第2FBGの反射位置においては、コア#3が内側となり、コア#2が外側となる様に曲げられるため、コア#3の反射波長は短波長側にシフトし、コア#2の反射波長は長波長側にシフトし、コア#1、コア#5及びコア#4の反射波長は殆どシフトしない。
【0023】
この様子を図3(B)に示す。図3(B)に示す様に、反射波長のシフト量の各反射位置に渡るパターンはコア#1~コア#5それぞれで異なる。したがって、識別対象MC光ファイバの各コアを識別することができる。この様に、回転軸のMC光ファイバに対する絶対的な位相は問題ではない。なお、4コアの場合は、コア#5が無くなるのみであるため、4コアであっても同様に各コアを識別できる。
【0024】
図4(A)は、N=7の場合の本実施形態による光学部材1の断面を示している。図4(A)において7つのコアをコア#1~コア#7と表記している。N=7であるため、M=3であり、よって、MC光ファイバの各コアには第1FBGと、第2FBGと、第3FBGが形成される。なお、第1FBGの反射位置においては回転軸40と垂直な平面内においてMC光ファイバを湾曲形状とし、第2FBGの反射位置においては回転軸41と垂直な平面内においてMC光ファイバを湾曲形状とし、第3FBGの反射位置においては回転軸42と垂直な平面内においてMC光ファイバを湾曲形状にするものとする。
【0025】
第1FBGの反射位置での湾曲形状においてはコア#4、#5、#6が内側となり、コア#1、#2、#3が外側となる。したがって、コア#4、#5、#6での反射波長は短波長側にシフトし、コア#1、#2、#3での反射波長は長波長側にシフトとする。以下、同様に、第2FBGの反射位置では、コア#5、#6、#1での反射波長は短波長側にシフトし、コア#2、#3、#4での反射波長は長波長側にシフトする。さらに、第3FBGの反射位置では、コア#3、#4、#5での反射波長は短波長側にシフトし、コア#6、#1、#2での反射波長は長波長側にシフトする。なお、いずれの反射位置においても、コア#7での反射波長は殆ど変化しない。
【0026】
この様子を図4(B)に示す。図4(B)に示す様に、反射波長のシフト量の3つの反射位置に渡るパターンはコア#1~コア#7それぞれで異なる。したがって、識別対象MC光ファイバの各コアを識別することができる。
【0027】
以上、本実施形態において、光学部材1は、識別対象MC光ファイバと同じコア配置のMC光ファイバで構成される。光学部材1のMC光ファイバには、その長手方向のM個の異なる反射位置においてFBGを形成する。本例において、Nが偶数の場合にはM=N/2であり、Nが奇数の場合にはM=(N-1)/2である。各反射位置に書き込むFBGは異なる。つまり、FBGの反射波長は、反射位置毎に異なる。但し、ある反射位置において各コアに形成するFBGは同じである。この様に、ある反射位置において各コアに形成するFBGは同じであるため、コア数分の位相マスクを必要とせず、その作業も簡易化でき、低コストで光学部材1を製造することができる。
【0028】
そして、光学部材1のMC光ファイバには、各反射位置において少なくとも1つのコアのFBGによる反射波長をシフトさせる様な力を加える。また、なお、反射波長のシフト量のM個の反射位置に渡るパターンは各コアで異なる様にする。このため、本実施形態では、各反射位置において回転軸を定義する。各反射位置においては、回転軸に垂直な平面内においてMC光ファイバを湾曲形状とする。そして、回転軸の方向は、反射位置毎に異ならせる。本実施形態において、M個の反射位置に対応するM個の回転軸は、π/Mずつ異なる様に設定される。
【0029】
なお、本実施形態では、Nが偶数の場合、M=N/2として、Nが奇数の場合M=(N-1)/2としたが、これらMの値は、Mの最小値であり、Mをこの最小値より大きくする構成とすることもできる。最小値より大きい場合、M個の反射位置における少なくとも2つの回転軸の方向は同じであっても良いが、それぞれを異ならせることでより精度良く識別対象MC光ファイバの各コアを識別することができる。なお、M個の回転軸の方向については、上記の通り同じ角度毎に設定することができるが、同じ角度毎に設定しなくとも良い。いずれにしても、各反射位置においてMC光ファイバに印加する力により、反射波長のシフト量の各反射位置に渡るパターンが各コアで異なれば良い。
【0030】
<第二実施形態>
続いて、本発明の第二実施形態について、第一実施形態との相違点を中心に説明する。第一実施形態では、各FBGが形成された反射位置においてMC光ファイバを湾曲形状とし、反射波長をシフトさせていた。本実施形態では、MC光ファイバを湾曲形状とはしない。代わりに、各反射位置においてMC光ファイバに力を印加する加圧部材を設ける。図5(A)は、本実施形態による光学部材1の説明図である。なお、図5(A)は、N=5の例である。したがって、MC光ファイバには第1FBGと第2FBGが形成される。
【0031】
図5(A)に示す様に、第1FBGの反射位置には加圧部材51が設けられ、第2FBGの反射位置には加圧部材52が設けられる。図6(A)は、加圧部材51が設けられた位置での光学部材1の断面図であり、図6(B)は、加圧部材52が設けられた位置での光学部材1の断面図である。
【0032】
加圧部材511は、本例では、MC光ファイバの円周の半分に渡ってMC光ファイバを支持する支持部材511と、可動部材(印加部材)512と、を有する。可動部材512は、MC光ファイバに対して支持部材511とは反対側の位置に設けられ、MC光ファイバを加圧する様に、移動可能に構成される。なお、可動部材512は、MC光ファイバの中心を通る直線に沿って移動可能に構成され、可動部材512がMC光ファイバに力を印加する面積は、支持部材511がMC光ファイバを支持している面積より小さくする。
【0033】
可動部材512によりMC光ファイバに側圧を加えることで、MC光ファイバの各コアには、コアの配置位置に応じた側圧が加わる。側圧が加わることにより、各コアに形成されたFBGの反射波長はいずれも長波長側にシフトする。ここで、長波長側へのシフト量は、コアに印加される側圧が大きい程、大きくなる。本実施形態において、可動部材512がMC光ファイバを加圧する面積は、支持部材511がMC光ファイバを支持している面積より小さいため、可動部材512によるMC光ファイバの加圧点からの距離が大きい程、コアに加わる側圧は小さくなる。したがって、図6(A)の場合、コア#1及びコア#3に印加される側圧より、コア#5に印加される側圧は大きく、さらに、コア#5に印加される側圧より、コア#2及びコア#4に印加される側圧は大きくなる。つまり、波長の長波長側へのシフト量は、コア#2及びコア#4が最も大きく、コア#1及びコア#3が最も小さく、コア#5はその中間となる。この様子を図5(B)に示す。なお、図5(B)においては、"+"の数が多い程、長波長側へのシフト量が大きいことを示している。
【0034】
加圧部材52は、加圧部材51と同様に、支持部材521と、可動部材522を有する。但し、図6(B)に示す様に、加圧部材52は、加圧部材51に対して90度だけ回転させる。よって、可動部材522の移動方向、つまり、可動部材522がMC光ファイバを加圧する方向と、可動部材512がMC光ファイバを加圧する方向(移動方向)は90度異なる。したがって、第2FBGでの各コアの反射波長のシフト量は、図5(B)の通りとなる。図5(B)に示す様に、反射波長のシフト量の2つの反射位置に渡るパターンはコア#1~コア#5それぞれで異なる。したがって、識別対象MC光ファイバの各コアを識別することができる。
【0035】
なお、図5は、M=2の例であったが、Mが3以上の場合も同様である。この場合、各FBGの位置に設けられるM個の加圧部材は、それぞれ、π/Mずつ回転される。なお、第一実施形態と同様に、Nが偶数の場合、M=N/2より大きくすることができ、Nが奇数の場合M=(N-1)/2より大きくすることもできる。この場合、M個の反射位置における少なくとも2つの加圧部材の移動方向は同じであっても良いが、それぞれを異ならせることでより精度良く識別対象MC光ファイバの各コアを識別することができる。なお、M個の加圧部材の移動方向については、上記の通り同じ角度毎に設定することができるが、同じ角度毎に設定しなくとも良い。いずれにしても、各反射位置においてMC光ファイバに印加する力により、反射波長のシフト量の各反射位置に渡るパターンが各コアで異なれば良い。
【0036】
なお、第一実施形態及び第二実施形態においては、コア数Nが偶数の場合には、MC光ファイバの断面において、コアは、MC光ファイバの中心に対して同一半径の円状に等間隔で配置され、コア数Nが奇数の場合には、1つのコアがMC光ファイバの中心に配置され、残りのコアをコア数Nが偶数の場合と同様に配置していた。そして、このコア配置を前提に、反射位置の数の最小値をN/2(Nが偶数の場合)又は(N-1)/2(Nが奇数の場合)としていた。しかしながら、MC光ファイバに力を印加することにより、各反射位置においてN個のコアの内の少なくとも1つのコアの反射波長をシフトさせ、かつ、反射波長のシフト量の1つ以上の反射位置に渡るパターンをコア毎に異ならせれば良く、反射位置の数の最小値は第一実施形態及び第二実施形態で説明した数に限定されない。
【0037】
以上の各実施形態の構成により、例えば、MC光ファイバの各コアを識別するための光学部材を低コストで製造可能になる。よって、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」に貢献することが可能となる。
【0038】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0039】
1:光学部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6