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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】既設トンネルの補強構造
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/00 20060101AFI20240625BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
E21D11/00 Z
E21D11/10 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021046670
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2022145314
(43)【公開日】2022-10-04
【審査請求日】2023-06-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・土木施工 第61巻第7号・通巻763号 (令和2年6月22日 株式会社オフィス・スペース発行) ・令和2年度土木学会全国大会第75回年次学術講演会[講演概要集]DVD-ROM版(令和2年8月1日 公益社団法人土木学会発行)
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小出 昌克
(72)【発明者】
【氏名】福田 勝也
(72)【発明者】
【氏名】森 淳
(72)【発明者】
【氏名】楢崎 雄一
(72)【発明者】
【氏名】大野 誠
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-025997(JP,A)
【文献】特開2001-271599(JP,A)
【文献】特開平03-241200(JP,A)
【文献】特開平04-306398(JP,A)
【文献】特開2021-092029(JP,A)
【文献】特開2002-188399(JP,A)
【文献】特開2014-009522(JP,A)
【文献】特開平03-125798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設のトンネル覆工体を補強するための既設トンネルの補強構造であって、
トンネルの延長方向および周方向に所定の間隔をおいて、前記既設のトンネル覆工体の内周部分に配置・固定された、周方向スライド面板部を有する台座プレート部材と、
内側にパネル取付け面部を備えると共に外側にスライド面部を備えてなり、前記台座プレート部材に対し周方向にスライド可能に支持された状態で、前記トンネル覆工体の内周面に沿って設置された支保体と、
前後に隣接する一対の前記支保体の前記パネル取付け面部に跨るようにして、前記支保体に支持されて周方向に連設して取り付けられた複数の被覆パネル部材と、
前記被覆パネル部材と前記既設のトンネル覆工体との空間に充填されて、前記支保体と前記被覆パネル部材と前記既設のトンネル覆工体とを一体化させる硬化性材料とを含んで構成されており、
前記支保体は、複数の支保ピースを周方向に連結して形成されるようになっており、
前記台座プレート部材は、前記既設のトンネル覆工体の両側の下部側面部における、下端部分の前記支保ピースの配置位置に、上下に間隔をおいて各々2か所に取り付けられている既設トンネルの補強構造。
【請求項2】
前記支保体は、I形鋼又はH形鋼からなり、外側フランジが前記スライド面部として前記台座プレート部材の前記周方向スライド面板部に接して配置されるようになっており、前記台座プレート部材は、前記周方向スライド面板部と、該周方向スライド面板部に対しボルト締結される挟み込みプレート片とを含んでおり、前記支保体の外側フランジの両側の側部を前記周方向スライド面板部と前記挟み込みプレート片との間に挟み込んだ状態で、前記ボルトの締め付けを調整することによって、前記支保体をスライド可能に支持するよう構成されている請求項1に記載の既設トンネルの補強構造。
【請求項3】
前記挟み込みプレート片は、平板形状の挟み込み本体部と、該挟み込み本体部の端部に一体として設けられた、前記支保体の外側フランジの厚さと同様の高さを有するスペーサリブ部とを有している請求項2に記載の既設トンネルの補強構造。
【請求項4】
前記既設のトンネル覆工体の底部と前記支保体の下端部との間に着脱自在に介設されたジャッキの伸縮によって、前記スライド面部を前記周方向スライド面板部に沿ってスライドさせつつ、前記支保体の高さが調整されるように構成されている請求項1~3のいずれか1項に記載の既設トンネルの補強構造。
【請求項5】
前記既設のトンネル覆工体は、少なくとも上部が湾曲する断面形状となった内周面を備えている請求項1~4のいずれか1項に記載の既設トンネルの補強構造。
【請求項6】
前記既設のトンネル覆工体は、矩形状の断面形状となった内周面を備えている請求項1~4のいずれか1項に記載の既設トンネルの補強構造。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の既設トンネルの補強構造における支保体の設置方法であって、
前記支保体は、複数の支保ピースを周方向に連結して形成されるようになっており、
前記台座プレート部材を、前記既設のトンネル覆工体の両側の下部側面部に取り付けておき、
下端部分に配置される両側の支保ピースを、前記台座プレート部材に支持させながら前記周方向スライド面板部に沿って上下にスライドさせることで高さ調整した後に、前記台座プレート部材に固定し、しかる後に、両側の下端部分に固定された前記支保ピースの上方に、残りの支保ピースを順次連結していくことにより、前記支保体を前記既設のトンネル覆工体の内周面に沿った所定の位置に設置する支保体の設置方法。
【請求項8】
前記台座プレート部材を、前記既設のトンネル覆工体の両側の下部側面部における下端部分の前記支保ピースの配置位置に、上下に間隔をおいて各々2か所に取り付けておく請求項7に記載の支保体の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設のトンネル覆工体を補強するための既設トンネルの補強構造、及び該既設トンネルの補強構造における支保体の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設のトンネルが老朽化すると、トンネルの内壁面を覆うセグメントやコンクリート等による既設のトンネル覆工体に、例えば周囲の地盤の圧密沈下や、海に近い地域では塩害等の影響によって、ひび割れや腐食等による損傷個所が生じる場合がある。
【0003】
このような既設のトンネルの覆工体に、ひび割れや腐食等による損傷個所が生じた場合の補修方法として、損傷個所が生じたトンネルの覆工体の内側に、支保工材やコンクリート等を用いて、新たに補強用の覆工体を形成することが考えられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-271599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、既設のトンネル覆工体の内側に、支保工材やコンクリート等を用いて新たに補強用の覆工体を形成する際に、例えば既設のトンネル覆工体が、地下鉄等の鉄道トンネル用のものや、道路トンネル用のものであると、補強用の覆工体を形成するための施工時間は、例えば電車や車両の走行に支障を生じない深夜の時間帯等の短時間に限られる場合があることから、短時間での作業を、繰り返して行なう必要がある。また、例えば鉄道トンネルには、車両走行中に侵入してはならない空間区画としての車両限界があるため、構築中の支保部材も含め、補強用の覆工体が車両限界を侵さないように形成できるようにすることが必要である。
【0006】
さらに、老朽化したトンネルの場合には、周囲の地盤の圧密沈下等の影響によって、既設のトンネル覆工体が変形したり変位したりしていることも懸念されるため、このような変形や変位をも吸収して、より精度良く補強用の覆工体を形成できるようにする技術の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、トンネルの内周面に沿って形成された既設のトンネル覆工体を、好ましくは短時間での作業を繰り返して効率良く補強できると共に、補強用の覆工体をより精度良く形成することのできる既設トンネルの補強構造及び支保体の設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、既設のトンネル覆工体を補強するための既設トンネルの補強構造であって、
トンネルの延長方向および周方向に所定の間隔をおいて、前記既設のトンネル覆工体の内周部分に配置・固定された、周方向スライド面板部を有する台座プレート部材と、内側にパネル取付け面部を備えると共に外側にスライド面部を備えてなり、前記台座プレート部材に対し周方向にスライド可能に支持された状態で、前記トンネル覆工体の内周面に沿って設置された支保体と、前後に隣接する一対の前記支保体の前記パネル取付け面部に跨るようにして、前記支保体に支持されて周方向に連設して取り付けられた複数の被覆パネル部材と、
前記被覆パネル部材と前記既設のトンネル覆工体との空間に充填されて、前記支保体と前記被覆パネル部材と前記既設のトンネル覆工体とを一体化させる硬化性材料とを含んで構成されており、前記支保体は、複数の支保ピースを周方向に連結して形成されるようになっており、前記台座プレート部材は、前記既設のトンネル覆工体の両側の下部側面部における、下端部分の前記支保ピースの配置位置に、上下に間隔をおいて各々2か所に取り付けられている既設トンネルの補強構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
また、本発明の既設トンネルの補強構造は、前記支保体が、I形鋼又はH形鋼からなり、外側フランジが前記スライド面部として前記台座プレート部材の前記周方向スライド面板部に接して配置されるようになっており、前記台座プレート部材は、前記周方向スライド面板部と、該周方向スライド面板部に対しボルト締結される挟み込みプレート片とを含んでおり、前記支保体の外側フランジの両側の側部を前記周方向スライド面板部と前記挟み込みプレート片との間に挟み込んだ状態で、前記ボルトの締め付けを調整することによって、前記支保体をスライド可能に支持するよう構成されていることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明の既設トンネルの補強構造は、前記挟み込みプレート片が、平板形状の挟み込み本体部と、該挟み込み本体部の端部に一体として設けられた、前記支保体の外側フランジの厚さと同様の高さを有するスペーサリブ部とを有していることが好ましい。
【0011】
さらにまた、本発明の既設トンネルの補強構造は、前記既設のトンネル覆工体の底部と前記支保体の下端部との間に着脱自在に介設されたジャッキの伸縮によって、前記スライド面部を前記周方向スライド面板部に沿ってスライドさせつつ、前記支保体の高さが調整されるように構成されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の既設トンネルの補強構造は、前記既設のトンネル覆工体が、少なくとも上部が湾曲する断面形状となった内周面を備えていることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の既設トンネルの補強構造は、前記既設のトンネル覆工体が、矩形状の断面形状となった内周面を備えていることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上記の既設トンネルの補強構造における支保体の設置方法であって、前記支保体は、複数の支保ピースを周方向に連結して形成されるようになっており、前記台座プレート部材を、前記既設のトンネル覆工体の両側の下部側面部に取り付けておき、下端部分に配置される両側の支保ピースを、前記台座プレート部材に支持させながら前記周方向スライド面板部に沿って上下にスライドさせることで高さ調整した後に、前記台座プレート部材に固定し、しかる後に、両側の下端部分に固定された前記支保ピースの上方に、残りの支保ピースを順次連結していくことにより、前記支保体を前記既存のトンネル覆工体の内周面に沿った所定の位置に設置する支保体の設置方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0015】
そして、本発明の支保体の設置方法は、前記台座プレート部材を、前記既設のトンネル覆工体の両側の下部側面部における下端部分の前記支保ピースの配置位置に、上下に間隔をおいて各々2か所に取り付けておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の既設トンネルの補強構造又は支保体の設置方法によれば、トンネルの内周面に沿って形成された既設のトンネル覆工体を、好ましくは短時間での作業を繰り返して効率良く補強できると共に、補強用の覆工体をより精度良く形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の好ましい一実施形態に係る既設トンネルの補強構造によって補強される既設のトンネル覆工体を例示する、シールドトンネルの略示横断面図である。
図2図1のA部拡大図である。
図3】(a)は被覆パネル部材を取り付ける前の状態の図2のB部拡大図、(b)は(a)のC-Cに沿った断面図、(c)は(a)を左側から見た正面図である。
図4】挟み込みプレート片を説明する、(a)は平面図、(b)は側面図である。
図5】複数の支保ピースを連結して形成される支保体の略示側面図である。
図6】支保体のパネル取付け面に固着されたナット部材を説明する、(a)は支保体の断面図、(b)は支保体の部分内面図である。
図7】(a)は被覆パネル部材の正面図、(b)は背面図、(c)は(b)のD-Dに沿った断面図、(d)は(c)のE部拡大図である。
図8】複数の被覆パネル部材を既設のトンネル覆工体の内周面に沿って周方向に連設して取り付けた状態を説明する、被覆パネル部材の展開配置図である。
図9】一対の支保体のパネル取付け面に跨るようにして、複数の被覆パネル部材を取り付ける状況を説明する、(a)は部分略示内面図、(b)は(a)のF-Fに沿った略示縦断面図、(c)は(a)のG-Gに沿った部分略示横断面図である。
図10】本発明の好ましい一実施形態に係る既設トンネルの補強構造を説明する、図2のH-Hに沿った、押付け固定部材が取り付けられると共に硬化性材料が充填されて固化した状態の部分縦断面図である。
図11】矩形状の断面形状の内周面に沿って、支保体を台座プレート部材にスライド可能に支持させて取り付けた状態を説明する略示断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の好ましい一実施形態に係る既設トンネルの補強構造10は、図1に示すように、既設のトンネル50として、例えば円形状の断面形状を備えるシールドトンネルの内壁面51を覆う、好ましくは鉄筋コンクリート製セグメントや合成セグメントによる既設のトンネル覆工体55を、硬化性材料14(図10参照)として、好ましくは無収縮モルタル等のセメント系の硬化性材料を用いて、効率良く補強して行くための構造として採用されたものである。すなわち、本実施形態では、シールドトンネル50は、例えば地下鉄用の鉄道トンネルとして供用されており、供用の開始から相当の期間が経過していることで、老朽化によって、ひび割れや腐食等による損傷個所が生じていることから、本実施形態の既設トンネルの補強構造10を採用することで、損傷個所が生じた既設のトンネル覆工体55を、補強用の覆工体58(図10参照)によって補強するようになっている。また、本実施形態の既設トンネルの補強構造10は、シールドトンネル50が例えば鉄道トンネルとなっていて、施工時間が、電車が走っていない深夜の時間帯の短時間に限られる場合でも、短時間での作業を繰り返し行って、補強用の覆工体58を効率良く形成できるようにすると共に、補強用の覆工体58が車両限界に食い込まないように、より精度良く形成できるようにするものとなっている。
【0019】
そして、本実施形態の既設トンネルの補強構造10は、既設のトンネル覆工体55として、例えば円形の断面形状を備える鉄道トンネルを構成するシールドトンネル50に設けられた、好ましくは鉄筋コンクリート製セグメントや合成セグメントによる既設のトンネル覆工体55を補強するための補強構造であって、シールドトンネル50の延長方向X(図10参照)および周方向に所定の間隔をおいて、既設のトンネル覆工体55の内周部分に配置・固定された、周方向スライド面板部12dを有する台座プレート部材12(図2参照)と、内側にパネル取付け面部11aを備えると共に外側にスライド面部11bを備えてなり、台座プレート部材12に対し周方向にスライド可能に支持された状態で、トンネル覆工体55の内周面に沿って設置された支保体11と、前後に隣接する一対の支保体11のパネル取付け面部11aに跨るようにして(図9(a)~(c)参照)、支保体11に支持されて周方向に連設して取り付けられた複数の被覆パネル部材13と、被覆パネル部材13と既設のトンネル覆工体55との空間56に充填されて、支保体11と被覆パネル部材13と既設のトンネル覆工体55とを一体化させる硬化性材料14(図10参照)とを含んで構成されている。
【0020】
また、本実施形態では、図3(a)~(c)に示すように、支保体11は、I形鋼又はH形鋼からなり、外側フランジがスライド面部11bとして台座プレート部材12の周方向スライド面板部12dに接して配置されるようになっており、台座プレート部材12は、周方向スライド面板部12dと、周方向スライド面板部12dに対しボルトナット部材16によりボルト締結される挟み込みプレート片15とを含んでおり、スライド面部11bである支保体11の外側フランジ11bの両側の側部を周方向スライド面板部12dと挟み込みプレート片15との間に挟み込んだ状態で、ボルトナット部材16によるボルトの締め付けを調整することによって、支保体11をスライド可能に支持するよう構成されている。
【0021】
ここで、挟み込みプレート片15は、図4(a)、(b)にも示すように、平板形状の挟み込み本体部15aと、挟み込み本体部15aにおける周方向スライド面板部12d側の面の端部に一体として設けられた、支保体11の外側フランジ11bの厚さと同様の高さを有するスペーサリブ部15cとを有している。挟み込みプレート片15が、外側フランジ部11bの厚さと同様の高さを備えるスペーサリブ部15cを有していることにより、支保体11の外側フランジ部11bを周方向スライド面板部12dと挟み込みプレート片15との間に挟み込んだ状態で、ボルトナット部材16を締着して、支保体11を台座プレート部材12に接合する際に、平板形状の挟み込み本体部15aが斜めに傾くことで、安定した状態で接合できなくなるのを効果的に回避することが可能になる。
【0022】
本実施形態では、シールドトンネル50の内壁面51を覆う、既設のトンネル覆工体55は、好ましくは鉄筋コンクリート製セグメントや合成セグメントによる覆工体となっており、シールドトンネル50が例えば円形状の断面形状の内壁面51を有していることで、少なくとも上部が湾曲する断面形状となった内周面を備えている。例えば鉄筋コンクリート製セグメントや合成セグメントによる既設のトンネル覆工体55の内周面における、コンクリートの露出した部分に、所定の深さでアンカー孔を削孔し、削孔したアンカー孔に好ましくはアンカーボルトの基部を埋設固定することにより、後述する周方向スライド面板部12dを所定の高さ位置に支持固定するための雄ネジボルト部材12a(図3(a)、(b)参照)を、これらのアンカーボルトの突出部分によって、所定の位置に精度良く容易に取り付けることができるようになっている。
【0023】
また、本実施形態では、支保体11は、好ましくは亜鉛メッキされたI形鋼又はH形鋼(本実施形態では、H150×75のI形鋼)からなり、内側フランジ部によってパネル取付け面11aが形成されている。例えばI形鋼による支保体11は、図5にも示すように、好ましくは予め工場等において、底部のインバートコンクリート部57(図1参照)よりも上方の、トンネル50の側壁部から上部に至るまでの既設のトンネル覆工体55の内壁面51に沿った形状を、適宜分割した形状に加工された、複数の支保ピース11’として現場に搬入される。支保体11は、ボルト部材等を用いた公知の方法により、端面同士を互いに連結することで一体化される複数の支保ピース11’によって形成されることで、トンネル50の側壁部から上部に至るまでの内壁面51に沿って、周方向に延設させて容易に設置することができる。例えばI形鋼による支保体11は、トンネル50の延長方向Xに例えば900mm程度の所定の中心間ピッチで、複数体設置される。
【0024】
さらに、本実施形態では、支保体11のパネル取付け面11aとなる内側フランジ部の内側面には、周方向に好ましくは後述する被覆パネル部材13の連設方向Y(図9(a)参照)の幅と同様の間隔をおいて、図5及び図6(a)、(b)に示すように、後述する押付け固定部材20を支保体11に締着させるためのナット部材21が、好ましくは横幅方向の中央部分に溶接等によって固着されている。
【0025】
そして、本実施形態では、I形鋼による鋼製支保部材11は、上述のように、既設のトンネル覆工体55の内周部分において、トンネルの延長方向Xおよび周方向に所定の間隔をおいて配置・固定された、周方向スライド面板部12dを有する複数の台座プレート部材12(図3(a)~(c)参照)を介することによって、トンネル50の延長方向Xに所定の間隔をおいて、周方向に延設して精度良く安定した状態で取り付けられることになる。
【0026】
台座プレート部材12を構成する周方向スライド面板部12dは、好ましくは亜鉛メッキされた9mm程度の厚さの鋼製プレートからなり、例えば一辺が250~280mm程度の大きさの、矩形又は正方形の平面形状を備えるように形成されている。周方向スライド面板部12dには、上述のアンカーボルトの突出部分による雄ネジボルト部材12aの位置に対応させて、4箇所の角部分の内側に、外側締着孔12cが4箇所に配置されて各々開口形成されている。4箇所の外側締着孔12cの内側には、例えば縦60mm程度、横105mm程度の大きさの仮想の矩形の角部に配置されて、内側締着孔12eが4箇所に配置されて各々開口形成されている。
【0027】
開口形成された4箇所の外側締着孔12cに、上述のアンカーボルトによる雄ネジボルト部材12aを挿通し、各々の雄ネジボルト部材12aに螺着した一対のナット部材12bにより当該周方向スライド面板部12dを挟み込んだ状態で、これらのナット部材12bを外側締着孔12cの周囲に締着することによって、台座プレート部材12を構成する周方向スライド面板部12dを、既設のトンネル覆工体55の内周面からの高さを適宜調整可能にすると共に、傾きを適宜調整可能にした状態で、既設のトンネル覆工体55から離間させた所定の位置に、精度良く固定することが可能になる。なお、周方向スライド面板部12dが固定される所定の位置は、雄ネジボルト部材12aが埋設される位置よりも優先されることから、雄ネジボルト部材12aが所定の位置からずれて固定されている場合には、設置現場において、外側締着孔12cを広げたり開け直したりすることによって、位置のずれた雄ネジボルト部材12aの雄ネジ部分を挿通させて、周方向スライド面板部12dが所定の位置に精度良く取り付けられるようにすることができる。
【0028】
また、各々の周方向スライド面板部12dに開口形成された4箇所の内側締着孔12eには、周方向スライド面板部12dと、上述の挟み込みプレート片15の挟み込み本体部15aとの間に、支保体11のスライド面部11bとなる外側フランジを挟み込んだ状態で、合致した当該内側締着孔12e及び挟み込みプレート片15の締着孔15b(図4(a)、(b)参照)に挿通されるボルトナット部材16が、締着されるようになっている。これによって、台座プレート部材12の周方向スライド面板部12dにおける、支保体11のスライド面部11bが接する位置を調整した状態で、支保体11を、既設のトンネル覆工体55の内周形状に沿って容易に固定して、予め所定の位置に精度良く取り付けられた台座プレート部材12に、安定して支持させることができるようになっている。またボルトナット部材16による締着状態を緩めることによって、支保体11の外側フランジによるスライド面部11bを、周方向スライド面板部12dに沿わせるようにスライドさせて、支保体11を、周方向に移動可能な状態とすることができるようになっている。
【0029】
そして、本実施形態では、既設のトンネル覆工体55の内周面に沿って支保体11を設置する作業に先立って、トンネルの延長方向Xおよび周方向に所定の間隔をおいて予め配置・固定された、周方向スライド面板部12dを有する台座プレート部材12を利用することによって、好ましくは短時間での作業を繰り返しながら、好ましくはI形鋼やH形鋼からなる支保体11を、既設のトンネル覆工体55の内周面に沿って、精度良くスムーズに取り付けることが可能になる。
【0030】
すなわち、本実施形態では、例えば既設のトンネル覆工体55の内周面に沿った形状に組み付けた支保体11を、設置現場まで搬入し、予め配置・固定された複数の台座プレート部材12を使用して、各々の周方向スライド面板部12dと挟み込みプレート片15との間に支保体11のスライド面部11bとなる外側フランジを挟み込んだ状態で、ボルトナット部材16を締着する。これにより短時間の作業によって、組み付けた支保体11を、所定の設置位置に、台座プレート部材12に周方向にスライド可能に支持させた状態で、スムーズに仮固定しておくことが可能になる。
【0031】
また、仮固定された支保体11は、例えば翌日の作業として、ボルトナット部材16による締着状態を緩めることにより、スライド面部11bを周方向スライド面板部12dに沿わせるようにして、周方向にスライド移動可能な状態とする。しかる後に、好ましくは既設のトンネル覆工体55の底部と当該支保体11の下端部との間に着脱自在に介設されたジャッキ17(図1参照)の伸縮によって、スライド面部11bを台座プレート部材12の周方向スライド面板部12dに沿ってスライドさせつつ、支保体11を上下に移動させることによって、支保体11の高さ位置を精度良く調整することが可能になる。高さが調整された支保体11は、緩めたボルトナット部材16を締着し直すと共に、隣接する支保ピース11’を連結するボルト部材等を締め直すことによって、既設のトンネル覆工体55の内周面に沿った所定の位置に、精度良く安定した状態で設置されて固定されることになる。
【0032】
本実施形態では、支保体11は、複数の支保ピース11’を周方向に連結して形成されるようになっているので、上述の台座プレート部材12を、既設のトンネル覆工体55の両側の下部側面部に取り付けておき、下端部分に配置される両側の支保ピース11’を、台座プレート部材12に支持させながら周方向スライド面板部12dに沿って上下にスライドさせることで高さ調整した後に、ボルトナット部材16を締着することで台座プレート部材12に固定し、しかる後に、両側の下端部分に固定されたこれらの支保ピース11’の上方に、残りの支保ピース11’を順次連結していくことにより、支保体11を既存のトンネル覆工体55の内周面に沿った所定の位置に設置するようにすることもできる。
【0033】
この際に、台座プレート部材12は、既設のトンネル覆工体55の両側の下部側面部における下端部分の支保ピース11’の配置位置に、上下に間隔をおいて2か所に取り付けておき、これらの2か所の台座プレート部材12によって、下端部分の支保ピース11’を支持固定させるようにすることが好ましい。
【0034】
本実施形態では、各隣接する一対の支保体11のパネル取付け面11aに、跨るようにして取り付けられる複数の被覆パネル部材13は、各々、図7(a)~(d)に示すように、例えば20mm程度の厚さを有する、好ましくは繊維補強コンクリート製のパネル部材となっている。被覆パネル部材13は、各隣接する一対の支保体11のパネル取付け面11aに跨る大きさとして、支保体11のトンネル50の延長方向Xの中心間ピッチよりも若干小さい、870mm程度の延長方向Xの横幅を備えると共に、470mm程度の、周方向である連設方向Yの縦幅を備える、矩形状の平面形状を有している。
【0035】
また、被覆パネル部材13は、既設のトンネル覆工体55の内周面と対向して配置される背面側が、凹凸面13aとなっており、この凹凸面13aは、例えば均等に分散して配置された多数の陥没穴13bによって形成されている。本実施形態では、陥没穴13bは、六角形や円形の陥没穴となっている。被覆パネル部材13の背面側が凹凸面13aとなっていることにより、後に注入充填される無収縮モルタル14との付着面積を広くして、被覆パネル部材13の背面に無収縮モルタル14をより強固に付着させることが可能になる。また、凹凸面13aが均等に分散して配置された多数の六角形や円形の陥没穴13bによって形成されていることにより、鋭角部をなくすことで、陥没穴13b内での無収縮モルタル14の未充填箇所が生じないようにして、無収縮モルタル14を被覆パネル部材13の背面により強固に一体化させることが可能になる。
【0036】
さらに、本実施形態では、好ましくは既設のトンネル覆工体55の内周面と対向して配置される背面側には、アンカー筋13e(図9(b)、図10参照)を取り付けるための、ナット部材13cが埋設固定されている。ナット部材13cは、M10程度の大きさの、フランジ付きナットとなっている。ナット部材13cは、フランジ部を繊維補強コンクリート中に埋設すると共に、雌ネジ孔を背面側に開口させて状態で、分散配置されて4箇所に固定されている。各々のナット部材13cには、L字状に折れ曲がった形状の例えばD10程度の太さのアンカー筋13eを、被覆パネル部材13と、既設のトンネル覆工体55の内周面との間の空間56に突出させて、着脱可能に取り付けることができる。
【0037】
複数の被覆パネル部材13は、例えば後述する押付け固定部材20を用いて、支保体11に支持させて、図1及び図8に示すように、トンネル50のインバートコンクリート部57よりも上方の側壁部から上部に至るまでのトンネル50の内周面に沿って、周方向に連設して配置されることになる。連設して配置される複数の被覆パネル部材13の中央部のパネルである、トンネル50の天端部に配置される被覆パネル部材13’には、硬化性材料として好ましくは無収縮モルタルを空間56に供給して充填するための、φ60程度の大きさのモルタル供給孔13dが開口形成されている。モルタル供給孔13dは、例えばソケット部材を用いて、開閉可能に閉塞しておくことができる。
【0038】
本実施形態では、被覆パネル部材13は、好ましくは繊維補強コンクリートを用いて、平坦な矩形状の平面形状を備えるように形成されている。被覆パネル部材13は、トンネル50の湾曲断面形状部分の湾曲形状に沿った、湾曲形状を備えるように形成することもできる。被覆パネル部材13を、トンネル50の湾曲断面形状部分の湾曲形状に沿った湾曲形状を備えるように形成することにより、地山側からの外力に対して、より強固なアーチアクション効果を発揮させることが可能になる。
【0039】
そして、本実施形態の既設トンネルの補強構造10では、図9(a)~(c)に示すように、トンネル50の延長方向Xに所定の中心間ピッチで、湾曲断面形状部分を有するトンネル50の内壁面51に沿って複数設置されたI形鋼による支保体11の、各隣接する一対の支保体11のパネル取付け面11aに跨るようにして、上述の被覆パネル部材13を、複数、周方向に連設して取り付けると共に、図10に示すように、取り付けられた被覆パネル部材13と既存のトンネル覆工体55との間の空間56に、硬化性材料として、好ましくは無収縮モルタル14を充填して硬化させることにより、補強用の覆工体58を形成する。
【0040】
本実施形態では、被覆パネル部材13は、図9(a)~(c)に示すように、当該被覆パネル部材13を支保体11のパネル取付け面11aに押付けた状態で固定するための、押付け固定部材20を用いて、周方向に連設して支保体11に支持させた状態で各々取り付けられる。押付け固定部材20は、例えば1辺が60mm程度の大きさの矩形断面を有する角パイプからなり、各隣接する一対の支保体11のパネル取付け面11aの外側辺部の間の間隔よりも僅か長い、1100mm程度の長さを備えている。押付け固定部材20は、周方向に連設して配置された各々の被覆パネル部材13における、連設方向Yの縦幅の中央部分において、トンネルの延長方向Xに延設させると共に、隣接する一対の支保体11の各々と垂直に交差させるようにして取り付けられる。
【0041】
押付け固定部材20は、支保体11のパネル取付け面11aに固着されたナット部材21に螺着される、例えばリブ座金や締着ナットを備える固定ボルト部材22を当該ナット部材21に締め着けることにより、リブ座金との間に挟み込むようにして両側の端部を支保体11に締着することで、連設する被覆パネル部材13を、支保体11に押付けた状態で各々強固に固定しておくことができる。本実施形態では、隣接する一対の支保体11に跨るようにして設置される、周方向に連設する各々の段の被覆パネル部材13について、トンネルの延長方向Xに隣接する各一対の被覆パネル部材13を各々押え付ける押付け固定部材20を、被覆パネル部材13の縦幅方向の中央部分において上下にずらして配置することにより、これらの隣接する被覆パネル部材13の中央部に配置される支保体11に、これらの隣接する被覆パネル部材13を各々押え付ける一対の押付け固定部材20の端部を、一本の固定ボルト部材22によって、リブ座金を介して同時に締着できるようになっている。これらの押付け固定部材20、ナット部材21、固定ボルト部材22によって被覆パネル部材13を支保することができるので、1日の作業終了後に、これらの部材の内側に被覆パネル部材13を取付けるための部材が存在しなくなって、例えば車両限界を侵すことになるのを、確実に回避することが可能になる。
【0042】
押付け固定部材20及び固定ボルト部材22を用いて、支保体11のパネル取付け面11aに被覆パネル部材13を、複数、周方向に連設して取り付けることによって、各隣接する一対の支保体11により挟まれる部分には、取り付けられた被覆パネル部材13と、既存のトンネル覆工体55の内周面との間に、硬化性材料として好ましくは無収縮モルタル14が充填される空間56が形成される。被覆パネル部材13の背面側に、アンカー筋13eを取り付けておくことで、これらのアンカー筋13eを硬化性材料14が充填される空間56に突出させておくことができる。アンカー筋13eによって、被覆パネル部材13と、空間56に充填される無収縮モルタル14との一体性を高めることができる。被覆パネル部材13と無収縮モルタル14との一体性を効果的に高める観点、及び上下の被覆パネル部材13、13間で干渉しないようする観点から、L字状に折れ曲がった形状のアンカー筋13eは、折れ曲がり方向が、トンネルの延長方向Xに沿うように配置することが好ましい(図9(b)参照)。
【0043】
また、硬化性材料14が充填される空間56には、好ましくは被覆パネル部材13を支保体11のパネル取付け面11aに取り付けるのに先立って、内部に鉄筋(図示せず)を配設しておくこともできる。硬化性材料14が充填される空間56の内部に鉄筋が配設されていることにより、形成される補強用の覆工体58の強度を効果的に高めることができる。
【0044】
さらに、本実施形態では、図1に示すように、湾曲断面形状部分を有する既存のトンネル覆工体55の下部から硬化性材料14が充填される空間56に突出して、硬化性材料14に埋設される下部アンカー部材19が取り付けられていることが好ましい。下部アンカー部材19は、例えばD19程度の太さの鉄筋棒からなり、硬化性材料14とトンネル覆工体55との界面のせん断耐力向上と両者の付着力向上による一体化を目的として、アンカー筋13eと同様に、L字状に折れ曲がった形状を備えている。下部アンカー部材19は、上記にように、好ましくは鉄筋コンクリート製セグメント又は合成セグメントによる既設のトンネル覆工体55のコンクリート部分に基部を埋設して固定された、アンカーボルトによるものとなっており、好ましくは折れ曲がり方向をトンネル50の周方向に沿わせた状態で、両側の側壁部の各々3箇所に固定される。既存のトンネル覆工体55の下部から硬化性材料14が充填される空間56に突出して、下部アンカー部材19が設けられていることにより、補強用の覆工体58の自重を含めた大きな荷重が作用する、補強用の覆工体58の下部と既存のトンネル覆工体55との界面を、効果的に補強し、且つ両者の連成構造を形成して強固な覆工体とすることが可能になる。
【0045】
本実施形態の既設トンネルの補強構造10によれば、上述のようにして形成された、各隣接する一対の支保体11によって挟まれる部分における、周方向に連設して配置された被覆パネル部材13と既存のトンネル覆工体55との間の、1又は2以上の各空間56に、硬化性材料として好ましくは無収縮モルタル14を各々充填することにより、湾曲断面形状部分を有する既存のトンネル覆工体55の内周面を覆う補強用の覆工体58を形成することができる。
【0046】
すなわち、周方向に連設して配置された複数の被覆パネル部材13のうちの、トンネル50の上部の天端部に配置される被覆パネル部材13’には、硬化性材料14を空間56に供給するためのモルタル供給孔13dが形成されているので(図1参照)、例えばこれらのモルタル供給孔13dにモルタルの供給配管(図示せず)を接続して、無収縮モルタル14を供給することにより、被覆パネル部材13と既存のトンネル覆工体55との間の空間56に、無収縮モルタル14を各々充填することができる。充填した無収縮モルタル14が硬化して被覆パネル部材13と一体化した時点で、被覆パネル部材13を支保体11に締着固定していた、固定ボルト部材22や押付け固定部材20を取り外すことにより、支保体11、複数の被覆パネル部材13、及び硬化した無収縮モルタル14が一体となった、既存のトンネル覆工体55の内周面を覆う補強用の覆工体58が容易に形成されることになる。
【0047】
したがって、本実施形態によれば、内側にパネル取付け面11aを備える複数の支保体11を、湾曲断面形状部分を有する既設のトンネル覆工体55の内周部分の複数箇所に配置・固定された台座プレート部材12を介することで、トンネル50の延長方向Xに所定の間隔をおいて、周方向に延設させて取り付ける支保部材設置工程と、トンネルの延長方向Xに隣接する各一対の支保体11のパネル取付け面11aに跨るようにして、複数の被覆パネル部材13を、支保体11に支持させて周方向に連設して取り付けるパネル部材設置工程と、被覆パネル部材13と既存のトンネル覆工体55との間の空間に、支保体11と被覆パネル部材13と既設のトンネル覆工体55とを一体化させる硬化性材料14を充填する裏込め充填工程とを含んで構成される既設トンネルの補強方法によって、湾曲断面形状部分を有するトンネル50に設けられた、既設のトンネル覆工体55を、効率良く且つ効果的に補強してゆくことが可能になる。
【0048】
そして、上述の構成を備える本実施形態の既設トンネルの補強構造によれば、トンネルの内周面に沿って形成された既存のトンネル覆工体55を、好ましくは短時間での作業を繰り返して効率良く補強することが可能になると共に、補強用の覆工体58をより精度良く形成することが可能になる。
【0049】
すなわち、本実施形態によれば、既設トンネルの補強構造は、シールドトンネル50の延長方向Xおよび周方向に所定の間隔をおいて、既設のトンネル覆工体55の内周部分に配置・固定された、周方向スライド面板部12dを有する台座プレート部材12と、内側にパネル取付け面部11aを備えると共に外側にスライド面部11bを備えてなり、台座プレート部材12に対し周方向にスライド可能に支持された状態で、トンネル覆工体55の内周面に沿って設置された支保体11と、前後に隣接する一対の支保体11のパネル取付け面部11aに跨るようにして、支保体11に支持されて周方向に連設して取り付けられた複数の被覆パネル部材13と、被覆パネル部材13と既設のトンネル覆工体55との空間56に充填されて、支保体11と被覆パネル部材13と既設のトンネル覆工体55とを一体化させる硬化性材料14とによる補強用の覆工体58を含んで構成されている。
【0050】
これによって、本実施形態によれば、予め台座プレート部材12の各々を、既設のトンネル覆工体55の内周部分の所定の位置に、短時間の作業を繰り返しながら精度良く取り付けておくことができ、支保体11は、当該支保体11に特別な加工を施すことなく、予め設置された台座プレート部材12に支持させて短時間で精度良く取り付けることができ、複数の被覆パネル部材13は、設置された支保体11に対して、短時間の作業を繰り返しながら周方向に連設して精度良く取り付けてゆくことができるので、例えば各隣接する一対の支保体11によるスパン毎に硬化性材料14を充填することによって、短時間の作業を繰り返しながら、既存のトンネル覆工体55の内周面を覆う補強用の覆工体58を効率良く形成して、既設のトンネル覆工体55を効果的に補強することが可能になる。また、支保体11は、予め精度良く設置された台座プレート部材12に支持させて、スライド面部11bを周方向スライド面板部12dに沿ってスライド移動させながら、設置位置を微調整しつつ所定の位置に容易に設置することができるので、補強用の覆工体58をより精度良く形成することが可能になる。
【0051】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、本発明の既設トンネルの補強構造は、短時間での作業を繰り返しながら施工される必要は必ずしもない。既設のトンネル覆工体が補強されるトンネルは、シールドトンネル以外の、山岳トンネルや、その他の種々のトンネルであっても良い。既設のトンネル覆工体は、少なくとも上部が湾曲する断面形状となった内周面を備えている必要は必ずしも無く、例えば図11に示すように、好ましくは鉄筋コンクリート製のボックスカルバートによる、矩形状の断面形状となった内周面を備える、トンネルの内周面を形成する壁体55’によるものであっても良い。このような矩形状の断面形状となった内周面を備える壁体による既設のトンネル覆工体55’であっても、これの内周部分に配置・固定された、周方向スライド面板部12d’を有する台座プレート部材12’に、矩形状の断面形状の内周面に沿った形状を備える支保体11や支保ピース11’を、スライド可能に支持して取り付けることによって、上述と同様の作用効果を奏することになる。
【0052】
また、既設のトンネル覆工体は、コンクリート製の他、鋼製や鋳鉄製等のものであっても良い。支保体は、I形鋼やH形鋼である必要は必ずしも無く、内側にパネル取付け面を設けることが可能な、溝形鋼や山形鋼等のその他の種々の鋼製部材であっても良い。被覆パネル部材は、繊維補強コンクリート製の部材である必要は必ずしも無く、合成樹脂製や鋼製、鋳鉄製等のその他の材料からなるものであっても良い。被覆パネル部材とトンネルの内壁面との間の空間に充填される硬化性材料は、無収縮モルタルの他、通常のモルタル、コンクリート、セメントミルク等のセメント系硬化材料やセメント系以外の硬化性材料であっても良い。
【符号の説明】
【0053】
10 既設トンネルの補強構造
11 支保体(I形鋼)
11’ 支保ピース
11a パネル取付け面
11b スライド面部
12,12’ 台座プレート部材
12a 雄ネジボルト部材
12b ナット部材
12c 外側締着孔
12d,12d’ 周方向スライド面板部
12e 内側締着孔
13 被覆パネル部材
13a 凹凸面
13b 陥没穴
13c ナット部材
13d モルタル供給孔
13e アンカー筋
14 無収縮モルタル(硬化性材料)
15 挟み込みプレート片
15a 挟み込み本体部
15b 締着孔
15c スペーサリブ
16 ボルトナット部材
17 伸縮ジャッキ
19 下部アンカー部材
20 押付け固定部材
21 ナット部材
22 固定ボルト部材
50 トンネル
51 内壁面
55 既設のトンネル覆工体
55’ ボックスカルバートによる壁体(既設のトンネル覆工体)
56 空間
57 インバートコンクリート部
58 補強用の覆工体
X トンネルの延長方向
Y 被覆パネル部材の連設方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11