(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】プロトン供与性基を含有するプロトン伝導膜及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1018 20160101AFI20240625BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240625BHJP
H01M 8/1048 20160101ALI20240625BHJP
H01M 8/1067 20160101ALI20240625BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
H01M8/1018
H01M8/10 101
H01M8/1048
H01M8/1067
H01B1/06 A
(21)【出願番号】P 2021061640
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】安藤 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】野呂 篤史
(72)【発明者】
【氏名】梶田 貴都
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 克海
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-190647(JP,A)
【文献】特開2019-135715(JP,A)
【文献】特開2020-068130(JP,A)
【文献】特開2006-332066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
H01B 1/06
C08J 5/20- 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ポリマー及び可塑剤を含み、
前記架橋ポリマーが、プロトン供与性基を有する繰り返し単位を、前記架橋ポリマーを構成する繰り返し単位の10mol%以上含有し、
前記可塑剤の少なくとも60質量%が、pKa2.5以下のプロトン供与性化合物であり、かつ
20℃以上125℃以下の温度範囲で粘弾性固体であ
り、かつ
前記架橋ポリマー及び前記可塑剤の合計を100質量部としたときの前記可塑剤の含有量が、20質量部以上90質量部以下である、
プロトン伝導膜。
【請求項2】
前記可塑剤の少なくとも80質量%が、前記プロトン供与性化合物である、請求項1に記載のプロトン伝導膜。
【請求項3】
前記プロトン供与性基を有する繰り返し単位が、前記架橋ポリマーを構成する繰り返し単位の50mol%以上である、請求項1又は2に記載のプロトン伝導膜。
【請求項4】
前記可塑剤の、前記プロトン供与性基を有する繰り返し単位に対するモル比(可塑剤/プロトン供与性基を有する繰り返し単位)が、0.4~8.0である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロトン伝導膜。
【請求項5】
前記可塑剤の、前記プロトン供与性基を有する繰り返し単位に対するモル比(可塑剤/プロトン供与性基を有する繰り返し単位)が、1.0~8.0である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のプロトン伝導膜。
【請求項6】
前記架橋ポリマー及び前記可塑剤の合計を100質量部としたときの前記可塑剤の含有量が、50質量部以上90質量部以下である、請求項1~
5のいずれか一項に記載のプロトン伝導膜。
【請求項7】
前記プロトン供与性化合物が、硫酸及びリン酸から選択される1種以上である、請求項1~
6のいずれか一項に記載のプロトン伝導膜。
【請求項8】
前記プロトン供与性基が、スルホン酸基、ホスホン酸基、及びカルボン酸基からなる群より選択される少なくとも1種類である、請求項1~
7のいずれか一項に記載のプロトン伝導膜。
【請求項9】
前記架橋ポリマーが、前記プロトン供与性基を有するビニル系モノマーである第1モノマーと、架橋性ビニルモノマーである第2モノマーとの共重合体である、請求項1~
8のいずれか一項に記載のプロトン伝導膜。
【請求項10】
プロトン伝導率が、50℃において0.00048S/cm以上である、請求項1~
9のいずれか一項に記載のプロトン伝導膜。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項に記載のプロトン伝導膜を有する、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プロトン供与性基を含有するプロトン伝導膜及びそれを用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池用の電解質材料に用いられるプロトン伝導膜として、例えば、ナフィオン(登録商標、以下同じ)等のパーフルオロスルホン酸樹脂膜が知られている。しかしながら、このようなパーフルオロスルホン酸樹脂膜で高いプロトン伝導率を実現するには、水の存在が不可欠となる。そのため、このようなパーフルオロスルホン酸樹脂膜を備えた燃料電池は、使用温度を水の沸点未満に制限する必要があった。
【0003】
そこで、低湿又は無水の環境下で使用できるプロトン伝導膜が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、架橋ポリマー及び可塑剤を含み、前記架橋ポリマーが、プロトン受容性基を、前記架橋ポリマーを構成する繰り返し単位の10mol%以上有し、前記可塑剤が、pKa2.5以下のプロトン供与性化合物を含み、かつ50℃以上120℃以下の温度範囲で粘弾性固体である、プロトン伝導膜が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、ベンズイミダゾール単位を有するスルホン酸基含有ポリアゾールを含み、及び特定の工程を含むプロセスにより得られるプロトン-伝導性高分子膜が開示されている。
【0006】
また、特許文献3では、架橋ポリマー及び可塑剤を含み、前記架橋ポリマー及び可塑剤のうちの少なくとも一方はプロトン放出性基を有する、固体高分子電解質膜が開示されている。
【0007】
また、特許文献4では、固体高分子型燃料電池の電解質膜として用いられる固体高分子電解質膜であって、酸性または塩基性部位を持つ主ポリマーに、主ポリマーと共に酸/塩基複合構造を作ることが可能な副ポリマーを、主ポリマーの酸性または塩基性部位以外の部位に対して多く導入してなる固体高分子電解質膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-135715号公報
【文献】特開2011-080075号公報
【文献】特開2018-190647号公報
【文献】特開2001-236973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の低湿又は無水の環境下で使用できるプロトン伝導膜のプロトン伝導率は、依然として改善する余地がある。
【0010】
本開示は、上記の事情を改善しようとするものであり、その目的は、低湿又は無水の環境下においても、高いプロトン伝導率を示すプロトン伝導膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成する本開示は、以下のとおりである。
【0012】
〈態様1〉
架橋ポリマー及び可塑剤を含み、
前記架橋ポリマーが、プロトン供与性基を有する繰り返し単位を、前記架橋ポリマーを構成する繰り返し単位の10mol%以上含有し、
前記可塑剤の少なくとも60質量%が、pKa2.5以下のプロトン供与性化合物であり、かつ
20℃以上125℃以下の温度範囲で粘弾性固体である、
プロトン伝導膜。
〈態様2〉
前記可塑剤の少なくとも80質量%が、前記プロトン供与性化合物である、態様1に記載のプロトン伝導膜。
〈態様3〉
前記プロトン供与性基を有する繰り返し単位が、前記架橋ポリマーを構成する繰り返し単位の50mol%以上である、態様1又は2に記載のプロトン伝導膜。
〈態様4〉
前記可塑剤の、前記プロトン供与性基を有する繰り返し単位に対するモル比(可塑剤/プロトン供与性基を有する繰り返し単位)が、0.4~8.0である、態様1~3のいずれか一項に記載のプロトン伝導膜。
〈態様5〉
前記架橋ポリマー及び前記可塑剤の合計を100質量部としたときの前記可塑剤の含有量が、20質量部以上90質量部以下である、態様1~4のいずれか一項に記載のプロトン伝導膜。
〈態様6〉
前記可塑剤の、前記プロトン供与性基を有する繰り返し単位に対するモル比(可塑剤/プロトン供与性基を有する繰り返し単位)が、1.0~8.0である、態様1~5のいずれか一項に記載のプロトン伝導膜。
〈態様7〉
前記架橋ポリマー及び前記可塑剤の合計を100質量部としたときの前記可塑剤の含有量が、50質量部以上90質量部以下である、態様1~6のいずれか一項に記載のプロトン伝導膜。
〈態様8〉
前記プロトン供与性化合物が、硫酸及びリン酸から選択される1種以上である、態様1~7のいずれか一項に記載のプロトン伝導膜。
〈態様9〉
前記プロトン供与性基が、スルホン酸基、ホスホン酸基、及びカルボン酸基からなる群より選択される少なくとも1種類である、態様1~8のいずれか一項に記載のプロトン伝導膜。
〈態様10〉
前記架橋ポリマーが、前記プロトン供与性基を有するビニル系モノマーである第1モノマーと、架橋性ビニルモノマーである第2モノマーとの共重合体である、態様1~9のいずれか一項に記載のプロトン伝導膜。
〈態様11〉
プロトン伝導率が、50℃において0.00048S/cm以上である、態様1~10のいずれか一項に記載のプロトン伝導膜。
〈態様12〉
態様1~11のいずれか一項に記載のプロトン伝導膜を有する、燃料電池。
【発明の効果】
【0013】
本開示のプロトン伝導膜は、低湿又は無水の環境下においても、高いプロトン伝導率を示すことができる。
【0014】
したがって、本開示のプロトン伝導膜は、特に、燃料電池におけるプロトン伝導膜としての使用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本開示のプロトン伝導膜が機能を発現する機構を説明するための概略図である。
【
図2】
図2は、実施例1のプロトン伝導膜の写真である。
【
図3】
図3は、実施例1及び比較例1~3のプロトン伝導膜のプロトン伝導率を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例1~3及び比較例4~5のプロトン伝導膜のプロトン伝導率を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例1、4及び5並びに比較例1のプロトン伝導膜のプロトン伝導率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、発明の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0017】
《プロトン伝導膜》
本開示のプロトン伝導膜は、
架橋ポリマー及び可塑剤を含み、
架橋ポリマーが、プロトン供与性基を有する繰り返し単位を、架橋ポリマーを構成する繰り返し単位の10mol%以上含有し、
可塑剤の少なくとも60質量%が、pKa2.5以下のプロトン供与性化合物であり、かつ
20℃以上125℃以下の温度範囲で粘弾性固体である。
【0018】
以下では、
図1を用いて、本開示のプロトン伝導膜が機能を発現する機構を説明する。ただし、以下に説明する機構は、本開示を限定するものではない。
【0019】
図1は、本開示のプロトン伝導膜が機能を発現する機構を説明するための概略図である。
【0020】
図1に示されているように、本開示のプロトン伝導膜は、架橋ポリマー、及び可塑剤を含んでいる。ここで、架橋ポリマーは、プロトン供与性基を有する繰り返し単位を含有しており、架橋点において架橋して架橋構造を形成している。なお、
図1では、可塑剤は、「プロトン供与性化合物」と表示されている。また、この「プロトン供与性化合物」は、プロトン供与性の2塩基酸として表示されているが、この態様には限定されない。
【0021】
プロトン伝導膜のプロトン伝導率を向上させるためには、例えば、膜中に遊離プロトンを高濃度で配合させることが考えられる。しかしながら、従来のプロトン伝導膜では、膜中の遊離プロトンの濃度を上げることは簡単ではなかった。
【0022】
例えば、後述する比較例4に示されているように、ナフィオン膜に対して可塑剤としてのプロトン供与性化合物(硫酸)を導入することは試みたが、ナフィオン膜及び可塑剤の合計100質量部に対して15質量部程度の可塑剤しか導入できなかった。また、特許文献1に記載のプロトン伝導膜では、架橋ポリマーとして架橋ポリ(4-ビニルピリジン)(架橋P4VP)が用いられているが、プロトン受容性基を含有しているため、プロトン供与性可塑剤を導入しても架橋ポリマー中のプロトン受容性基により、プロトン供与性可塑剤から放出される遊離プロトンは消費されてしまう。したがって、特許文献1のプロトン伝導膜では、特に、プロトン供与性可塑剤の濃度が低い場合に、膜中の遊離プロトンの濃度を向上させることが難しく、後述する比較例5で示されるように、架橋P4VPとプロトン供与性可塑剤であるH2SO4とからなる膜合計100質量部に対して55質量部ものプロトン供与性可塑剤(すなわちH2SO4)が導入されていても、無加湿下、120℃で0.00015S/cm(0.15mS/cm)の低い伝導率であった。
【0023】
また、特許文献3にはプロトン伝導膜として、架橋ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)(架橋PAMPS)がプロトン供与性基を有する架橋ポリマーとして用いられ、未架橋のポリスチレンスルホン酸(未架橋PSS)とテトラエチレングリコール(TEG)からなる混合物(重量比1:7)がプロトン供与性の可塑剤として用いられ、上記架橋ポリマーと可塑剤から調製されたプロトン伝導膜が開示されている。膜全体の合計を100質量部としたとき、80質量部ものプロトン供与性可塑剤が導入されているが、可塑剤中のプロトン供与性基を有する化合物(すなわち未架橋PSS)の質量濃度は12.5質量%(=1/8)と低く、無加湿下95℃で、0.0018 S/cmの低い伝導率を示していた。
【0024】
同様に、特許文献3にはプロトン伝導膜として、架橋ポリアクリル酸-4-ヒドロキシブチル(架橋PHBA)がプロトン受容性基を有する架橋ポリマーとして用いられ、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(HTFSI)とテトラエチレングリコール(TEG)の混合物(重量比58:42)がプロトン供与性の可塑剤として用いられ、上記架橋ポリマーと可塑剤から調製されたプロトン伝導膜が開示されている。膜全体の合計を100質量部としたとき、63質量部ものプロトン供与性可塑剤が導入されているが、架橋ポリマーはプロトン供与性官能基を含んでおらず、また可塑剤中のプロトン供与性基を有する化合物(すなわち未架橋HTFSI)の質量濃度は58質量%と低く、無加湿下95℃で、0.0011S/cmの低い伝導率を示していた。
【0025】
これらに対して、本開示のプロトン伝導膜は、
図1に示されているように、架橋ポリマーがプロトン供与性基を含むと共に、可塑剤もプロトン供与性化合物を高濃度で(例えば、可塑剤の少なくとも60質量%で)含んでいる。したがって、膜中では、架橋ポリマーのプロトン供与性基及び可塑剤中の高濃度のプロトン供与性化合物は、プロトンを放出することによって、アニオンとなり得る。そして、遊離プロトンは、低湿又は無水の環境下においても、架橋ポリマーのアニオン部分及び可塑剤のアニオン部分を伝わって、容易に移動することができることから、高いプロトン伝導率を得ることができる。
【0026】
また、驚くべきことに、プロトン供与性基を含有する架橋ポリマーと可塑剤としてのプロトン供与性化合物との組合せを用いることで、本開示のプロトン伝導膜の中において、遊離プロトンと各アニオンとの間でイオン性相互作用を生じることができる。これによって、可塑剤は膜中からブリードアウトしにくいと考える。したがって、本開示のプロトン伝導膜に対して、比較的に多量の可塑剤(例えば、架橋ポリマー及び可塑剤の合計100質量部に対して90質量部程度の可塑剤)を配合することができ、従来よりも高いプロトン伝導率を得ることができる。
【0027】
また、その一方で、本開示にかかる架橋ポリマーの中に、プロトン供与性基が存在しているため、比較的に少量の可塑剤(例えば、架橋ポリマー及び可塑剤の合計100質量部に対して20質量部程度の可塑剤)でも、膜中の遊離プロトンの濃度を確保することができる。すなわち、本開示のプロトン伝導膜は、それと同程度の可塑剤を含んでいる特許文献1のプロトン伝導膜よりも高いプロトン伝導率を得ることができる。
【0028】
本開示において、「粘弾性固体」は、粘性及び弾性を有する固体であって、流動性を示さず、かつ形状を維持する固体を意味している。具体的には、この「粘弾性固体」である物質は、応力を加えて小さな変形を生じさせたときに、変形に対する応力が、変形直後に最大になり、かつ時間の経過とともに低下するものの、最終的に0ではない一定値となり、またその状態で変形させていた応力を取り除くと、変形が小さくなり、場合によっては元の形に戻る性質を有している。
【0029】
本開示のプロトン伝導膜は、20℃以上125℃以下の温度範囲で粘弾性固体でありうる。また、この温度範囲は、より具体的には、例えば15℃以上、10℃以上、5℃以上、又は0℃以上の範囲であってよく、また、130℃以下、140℃以下、又は150℃以下の範囲であってよい。
【0030】
本開示において、可塑剤がブリードアウトしないこととは、プロトン伝導膜を、電池の使用温度範囲において無荷重状態で1時間静置したときに、可塑剤が膜の外部に漏出しないことをいう。
【0031】
本開示において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸の双方を包含する概念である。「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリルアミド」等についてもこれに準じて理解されるべきである。「(ポリ)オキシアルキレン」とは、オキシアルキレン単位が1個であるか、又は2個以上のオキシアルキレン単位が連鎖していることを示す。
【0032】
また、本開示における「アルキレン基」とは、メチレン基、アルキルメチレン基、及びジアルキルメチレン基を包含する概念である。
【0033】
〈架橋ポリマー〉
本開示において、架橋ポリマーは、プロトン供与性基を有する繰り返し単位を、架橋ポリマーを構成する繰り返し単位の10mol%以上含有する。
【0034】
プロトン供与性基を有する繰り返し単位が、架橋ポリマーを構成する繰り返し単位の10mol%以上存在することは、膜中の遊離プロトンの濃度を確保し、十分に高いプロトン伝導率に寄与し、かつイオン性相互作用によって可塑剤のブリードアウトを抑制する観点から好ましい。
【0035】
また、この割合として、例えば、10mol%以上、20mol%以上、30mol%以上、40mol%以上、50mol%以上、60mol%以上、70mol%以上、80mol%以上、90mol%以上、又は100mol%であってよく、また100mol%以下、95mol%以下、又は90mol%以下であってもよい。ここで、割合が100mol%であることとは、架橋ポリマーを構成する繰り返し単位の全てが、プロトン供与性基を有していることを意味する。
【0036】
本開示において、プロトン供与性基は、スルホン酸基、ホスホン酸基、及びカルボン酸基からなる群より選択される少なくとも1種類であることが好ましく、スルホン酸基及びホスホン酸基からなる群より選択される少なくとも1種類であることがより好ましい。なお、本開示において、架橋ポリマーを構成する繰り返し単位は、プロトン供与性基を1種類又は2種類以上を含んでもよい。
【0037】
本開示において、架橋ポリマーは、架橋構造を有するために、ガラス転移点よりも高い温度においても膜形状を維持することができる。
【0038】
架橋ポリマーは、後述の可塑剤との混和性が良好なものであってもよい。架橋ポリマーと可塑剤との混和性が良好であることにより、両者の混合物であるプロトン伝導膜のガラス転移点Tgを十分に低くすることが可能となる。この場合、膜中のプロトン伝導混合相の分子運動性を十分に高くすることができるから、高いプロトン伝導性を示すこととなる。
【0039】
架橋ポリマーは、後述の可塑剤と組み合わさって、粘弾性固体であるプロトン伝導膜を形成し、それによって高い分子運動性を提供している。したがって、架橋ポリマー単独のガラス転移点Tgは、比較的高くてもよい。しかしながら、架橋ポリマーのガラス転移点が過度に高いと、可塑剤と混合された後にも分子運動性が十分に向上しない可能性がある。
【0040】
したがって、架橋ポリマーのガラス転移点は、400℃以下、350℃以下、300℃以下、又は250℃以下であってよい。また、架橋ポリマーは、ガラス転移点を2つ以上有していてもよい。架橋ポリマーが2つ以上のガラス転移点を有する場合、最も低いガラス転移点は、電池の使用温度範囲内であってよい。架橋ポリマーがこのような低いガラス転移点を有することにより、得られるプロトン伝導膜の稼働時に、架橋ポリマーが可塑剤とともに高い分子運動性を維持することができ、したがって、高いプロトン伝導性を得ることができる。
【0041】
架橋ポリマーの主鎖の構造は任意であってよい。例えば、架橋構造を有するビニル系ポリマー、架橋構造を有するエステル系ポリマー、架橋構造を有するアミド系ポリマー、架橋構造を有するシリコーン系ポリマー等であってもよい。また、各ポリマーの製造方法及び架橋構造の形成方法は公知であってよい。架橋ポリマーは上記のうち、モノマーの入手性に優れ、分子修飾が容易なことから、架橋構造を有するビニル系ポリマーが好ましい。また、架橋ポリマーの水素原子のうちの一部又は全部は、フッ素原子に置換されていてもよいが、架橋ポリマーの水素原子がフッ素で置換されていないことが硫酸等の可塑剤との親和性に関して好ましい。
【0042】
本開示において、架橋ポリマーは、例えば、プロトン供与性基を有するモノマーである第1モノマーの重合体であってよく、プロトン供与性基を有するモノマーである第1モノマーと、架橋性である第2モノマーとの共重合体であってよい。また、架橋ポリマーは、随意に、第1モノマー及び第2モノマーと合わせて、第3モノマーを更に有する共重合体であってもよい。以下では、これら第1、第2、及び第3ポリマーの例について説明する。
【0043】
(第1モノマー)
第1モノマーは、プロトン供与性基を有するモノマーであり、例えば、1つ以上のプロトン供与性基と1つ以上の重合性基とを有するモノマーであってよく、特に1つのプロトン供与性基と1つの重合性基とを有するモノマーであってよい。より具体的には、第1モノマーとして、プロトン供与性基を有するビニル系モノマーであってよい。これらのプロトン供与性基を有するビニル系モノマーの具体例として、以下のように挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
スルホン酸基を有するビニルモノマー:スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、又は2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸等;
【0045】
ホスホン酸基を有するビニルモノマー:スチレンホスホン酸、ビニルホスホン酸、又はアリルホスホン酸、(4-エテニルフェニル)メタンホスホン酸、又は3-(メタクリロイルオキシ)プロピルホスホン酸等;
【0046】
カルボン酸基を有するビニルモノマー:(メタ)アクリル酸、ビニル安息香酸等。
【0047】
(第2モノマー)
第2モノマーは、架橋性モノマーであり、例えば2つ以上の重合性基を有するモノマーであってよく、特に2つの重合性基を有するモノマーであってよい。
【0048】
第2モノマーとしては、例えば、ビニル系モノマーであってよく、より具体的には、例えば、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリル酸ビニル、(メタ)アクリル酸アリル、1,6-ヘキサジエン、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、又はジアリルエーテル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
(第3モノマー)
第3モノマーは、第1モノマー及び第2モノマー以外のモノマーであり、例えば、1つの重合性基を有し、かつプロトン供与性基を有さない非架橋性モノマーであってよい。
【0050】
第3モノマーとしては、例えば、ビニル系モノマーであってよく、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン及びその誘導体、共役ジエン等であってよい。より具体的には、第3モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-2-(2-エトキシエトキシ)エチル、スチレン、α-メチルスチレン、ブタジエン、イソプレン等挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
(各モノマーの共重合割合)
本開示の架橋ポリマーにおける各モノマーの共重合割合は、任意である。
【0052】
架橋ポリマーを構成するモノマーの合計を100質量部としたときの第1モノマーの割合は、例えば、5.0質量部以上、10質量部以上、15質量部以上、20質量部以上、25質量部以上、30質量部以上、35質量部以上、40質量部以上、45質量部以上、50質量部以上、55質量部以上、60質量部以上、65質量部以上、70質量部以上、75質量部以上、80質量部以上、85質量部以上、90質量部以上、95質量部以上、97質量部以上、又は99質量部以上であってよく、また100質量部以下であってよい。
【0053】
また、第2モノマーを用いる場合には、第1モノマー及び第2モノマーの合計を100質量部としたときの第2モノマーの量は、例えば、0.1質量部以上、0.5質量部以上、1.0質量部以上、1.5質量部以上、2.0質量部以上、又は2.5質量部以上であってよく、また、5.0質量部以下、4.5質量部以下、4.0質量部以下、3.5質量部以下、3.0質量部以下、2.5質量部以下であってよい。なお、第2モノマーの代わりに又は第2モノマーに加えて、架橋剤等を適宜添加して、架橋を形成することができる。第2モノマーの代わりに架橋剤を用いる場合の架橋剤の割合、及び第2モノマーと架橋剤とを併用する場合のその合計の割合は、特に限定されず、上記で列挙した第2モノマーの量と同じであってよい。
【0054】
また、第3モノマーを用いる場合には、第1モノマー、第2モノマー、及び第3モノマーの合計を100質量部としたときの第3モノマーの量は、例えば、0.1質量部以上、0.5質量部以上、1.0質量部以上、1.5質量部以上、2.0質量部以上、又は2.5質量部以上であってよく、また、50質量部以下、40質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、15質量部以下、10質量部以下、5質量部以下、又は1質量部以下であってよい。なお、第3モノマーを使用しなくてもよい。
【0055】
なお、本開示において、「質量部」と「質量%」とは、単なる表現上の違いであり、特記しない限り、同義と取り扱われる。例えば「合計を100質量部としたとき、成分Xの量がx質量部である」記載と、「合計を100質量%としたとき、成分Xの量がx質量%である」との記載とは、同義である。
【0056】
(架橋ポリマーの重合)
第1~第3モノマーの共重合体は、公知の重合方法、例えばラジカル重合法、カチオン重合法、アニオン重合法等によって得ることができ、ラジカル重合法によることが好ましい。
【0057】
ラジカル重合は、所定のモノマーの混合物をラジカル重合開始剤と接触させることによって行われてよい。ラジカル重合は、後述の可塑剤の存在下に行われてもよい。
【0058】
ラジカル重合開始剤は、例えば、アゾ化合物、過酸化水素、有機過酸化物等から選択されてよい。アゾ化合物は、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等から選択されてよい。有機過酸化物は、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ジイソブチルパーオキシド等から選択されてよい。
【0059】
ラジカル重合開始剤の使用割合は、モノマーの合計100質量部に対して、例えば、0.001質量部以上、0.01質量部以上、0.1質量部以上、又は0.2質量部以上であってよく、また、3.0質量部以下、2.0質量部以下、1.0質量部以下、0.5質量部以下、又は0.3質量部以下であってもよい。
【0060】
ラジカル重合は、無溶媒下で行われてよいし、任意的に適当な溶媒中で行われてよい。溶媒は、水及び有機溶媒から選択して使用されてよい。また、ラジカル重合の溶媒として、2種以上の溶媒の混合溶媒を用いてもよい。
【0061】
有機溶媒は、極性の有機溶媒であってもよく、例えば、メタノール等のアルコール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル;アセトン等のケトン;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物等であってもよい。また、ラジカル重合の溶媒の一部又は全部として、後述の可塑剤を使用してよい。
【0062】
溶媒の使用割合は任意である。しかしながら、モノマーの合計100質量部に対して、例えば、10質量以上1,000質量部以下の範囲を、溶媒の使用割合として例示することができる。
【0063】
ラジカル重合は、例えば、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、又は80℃以上、また、200℃以下、150℃以下、120℃以下、又は100℃以下の温度において、例えば、30分以上、1時間以上、2時間以上、3時間以上、5時間以上、又は7時間以上、また、10時間以下、8時間以下、5時間以下、又は3時間以下の時間にわたって行うことができる。
【0064】
重合後、未反応モノマー、低分子オリゴマー、ラジカル開始剤残滓等を除去するため、得られた重合体の精製を、適宜の方法によって行ってよい。精製方法は、例えば、溶媒置換、再沈殿等の方法であってもよい。
【0065】
〈可塑剤〉
本開示のプロトン伝導膜は、可塑剤を含む。また、本開示において、可塑剤の少なくとも60質量%が、pKa2.5以下のプロトン供与性化合物である。
【0066】
ここで、可塑剤は、架橋ポリマーに柔軟性を付与して、プロトン伝導膜のガラス転移点Tgを下げ、プロトン伝導膜中の架橋ポリマーの分子運動性を高める等の機能を有する成分であってよい。また、可塑剤は、電池の使用温度範囲(例えば、-40℃以上200℃未満、典型的には0℃以上150℃以下)において不揮発性であることが好ましい。可塑剤が電池の使用温度範囲において不揮発性であるとは、可塑剤の沸点が、例えば、150℃超、200℃以上、210℃以上、220℃以上、230℃以上、240℃以上、又は250℃以上と、十分に高いことをいう。また、可塑剤は、電池の使用温度範囲において分解しないことが望まれる。また、可塑剤は、プロトン伝導膜中の架橋ポリマーの分子運動性を高める機能を発揮するために、電池の使用温度範囲において液体状であることが望まれる。可塑剤が電池の使用温度範囲において電池の使用温度範囲において液体状であるとは、可塑剤の融点が、例えば、0℃以下、-2℃以下、-4℃以下、又は-6℃以下であることをいう。
【0067】
本開示において、可塑剤に用いられるプロトン供与性化合物は、pKa2.5以下、pKa2.3以下、pKa2.1以下、pKa2.0以下、pKa1.0以下、pKa0.0以下、pKa-1.0以下、又はpKa-2.0以下であってよい。したがって、可塑剤は、酸性度が大きいプロトン供与性化合物、すなわちプロトンを放出する傾向が大きい化合物を含む。なお、プロトン供与性化合物が多塩基酸であるとき、このpKaはpKa1を意味する。
【0068】
本開示において、可塑剤は、pKa2.5以下のプロトン供与性化合物のみから構成されていてよく、プロトン供与性化合物とその他の可塑剤とから構成されていてもよい。本開示の効果をより発揮させる観点から、可塑剤に含まれるpKa2.5以下のプロトン供与性化合物が多いほうが好ましい。したがって、可塑剤の、少なくとも60質量%、少なくとも65質量%、少なくとも70質量%、少なくとも80質量%、少なくとも90質量%、又は実質的に100質量%がpKa2.5以下のプロトン供与性化合物であってよい。
【0069】
本開示において、プロトン供与性化合物は、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、及びホスホン酸基から選択される1種以上の基を有する化合物であってよい。なお、硫酸のPKa(pKa1)は約-3.0であり、メタンスルホン酸のpKaは約-1.9であり、リン酸のpKa(pKa1)は約2.1であり、ホスホン酸のpKa(pKa1)は約1.5である。
【0070】
本開示において、プロトン供与性化合物は、電池の使用温度範囲において揮発蒸散又は分解しない程度の高い沸点又は分解温度を有することが好ましい。この観点から、プロトン供与性化合物の沸点又は分解温度は、例えば、150℃以上、又は200℃以上であってよい。
【0071】
プロトン供与性化合物は、より具体的には、例えば、硫酸及びリン酸から選択される1種以上であってよく、すなわち、硫酸、リン酸、又はそれらの混合物であってよい。なお、硫酸の沸点は約290℃(分解)であり、リン酸の沸点は約213℃(分解)である。
【0072】
その他の可塑剤としては、プロトン供与性を有さない可塑剤であってよく、具体的には例えば、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、ポリオールエステル等であってよい。その他の可塑剤の使用割合は、可塑剤の全量を100質量部としたときに、例えば、50質量部以下、30質量部以下、10質量部以下、5質量部以下、又は1質量部以下であってよく、その他の可塑剤を全く使用しなくてもよい。
【0073】
(可塑剤の、プロトン供与性基を有する繰り返し単位に対するモル比)
本開示において、可塑剤の、プロトン供与性基を有する繰り返し単位に対するモル比(可塑剤/プロトン供与性基を有する繰り返し単位)は、特に限定されず、例えば、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、1.0以上、1.1以上、1.2以上、1.3以上、1.4以上、1.5以上、1.6以上、1.7以上、1.8以上、1.9以上、2.0以上、2.5以上、3.0以上、3.5以上、4.0以上、4.5以上、5.0以上、5.5以上、6.0以上、6.5以上、7.0以上、又は7.5以上であってよく、また10以下、9.0以下、又は8.0以下であってよい。このモル比は、例えば、プロトン伝導率を向上させる観点からは1.0以上であることが好ましく、また可塑剤のブリードアウトを防止する観点からは8.0以下であることが好ましい。
【0074】
(架橋ポリマーと可塑剤との割合)
架橋ポリマーと可塑剤との使用割合に関しては、特に限定されず、架橋ポリマー及び可塑剤の合計を100質量部としたときの可塑剤の含有量は、例えば、20質量部以上、30質量部以上、40質量部以上、50質量部以上、60質量部以上、70質量部以上、又は80質量部以上であってよく、また90質量部以下、85質量部以下、又は80質量部以下であってよい。また、プロトン伝導率を向上させる観点から、架橋ポリマー及び可塑剤の合計を100質量部としたときの可塑剤の含有量は50質量部以上であることが好ましく、また、可塑剤のブリードアウトを防止する観点から、架橋ポリマー及び可塑剤の合計を100質量部としたときの可塑剤の含有量は90質量部以下であることが好ましい。
【0075】
〈プロトン伝導膜の性質〉
(プロトン伝導率)
本開示のプロトン伝導膜は、低湿又は無水環境下において、高いプロトン伝導率を示す。より具体的には、例えば以下のプロトン伝導率を示すことができる。
【0076】
本開示のプロトン伝導膜のプロトン伝導率は、50℃において、0.00048S/cm以上、0.001S/cm以上、0.010S/cm以上、0.020S/cm以上、0.023S/cm以上、0.025S/cm以上、0.030S/cm以上、0.040S/cm以上、0.050S/cm以上、0.055S/cm以上、0.080S/cm以上、0.100S/cm以上、又は0.110S/cm以上であってよい。
【0077】
また、本開示のプロトン伝導膜のプロトン伝導率は、80℃において、0.0018S/cm以上、0.010S/cm以上、0.020S/cm以上、0.030S/cm以上、0.040S/cm以上、0.050S/cm以上、0.080S/cm以上、0.100S/cm以上、0.110S/cm以上、0.150S/cm以上、又は0.180S/cm以上であってよい。
【0078】
また、本開示のプロトン伝導膜のプロトン伝導率は、120℃において、0.0051S/cm以上、0.010S/cm以上、0.050S/cm以上、0.060S/cm以上、0.061S/cm以上、0.080S/cm以上、0.086S/cm以上、0.100S/cm以上、0.160S/cm以上、0.200S/cm以上、又は0.250S/cm以上であってよい。
【0079】
(水含有率)
本開示のプロトン伝導膜は、膜中に水を含有しない場合でも、高いプロトン伝導率を示す。したがって、プロトン伝導膜の水含有率は、膜の全質量を100質量部としたときに、例えば、10質量部以下、5質量部以下、1質量部以下、0.1質量部以下、0.01質量部以下、又は0.001質量部以下であってよい。
【0080】
《プロトン伝導膜の製造方法》
本開示のプロトン伝導膜において、架橋ポリマーと可塑剤とは混合状態にある。
【0081】
本開示のプロトン伝導膜は、例えば、架橋ポリマーに可塑剤を含浸させることによって製造されてよい。また、これは、揮発性の高い適当な溶媒中で行われてよい。ここで使用される溶媒は、架橋ポリマーの重合溶媒として上記に例示したものの中から選択して使用してよい。架橋ポリマーに溶媒と共に可塑剤を含浸させた後、溶媒を除去することにより、本開示のプロトン伝導膜が得られる。
【0082】
本開示のプロトン伝導膜は、また、架橋ポリマーの重合を可塑剤の存在下で行った後に重合溶媒を除去することによって製造されてもよい。この場合には、例えば溶媒置換、再沈殿等の適宜の方法により、未反応モノマー、低分子オリゴマー、ラジカル開始剤残滓等を除去する工程を経ることが好ましい。
【0083】
プロトン伝導膜を膜状に成形するには、例えば、キャスト法、プレス法等の適宜に方法によってよい。
【0084】
《燃料電池》
本開示の燃料電池は、本開示のプロトン伝導膜を有する。特に本開示の燃料電池は、燃料流路を有する燃料極側セパレータ、燃料極側触媒層、本開示のプロトン伝導膜、空気極側触媒層、及び空気流路を有する空気極側セパレータがこの順で積層された積層体を有する。また特に本開示の燃料電池は、燃料流路を有する燃料極側セパレータ、燃料極側ガス拡散層、燃料極側触媒層、本開示のプロトン伝導膜、空気極側触媒層、空気極側ガス拡散層、及び空気流路を有する空気極側セパレータがこの順で積層された積層体を有する。
【実施例】
【0085】
以下に実施例を挙げて、本開示について更に詳しく説明を行うが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0086】
《実施例1》
〈実施例1のプロトン伝導膜の作製〉
実施例1では、下記スキーム1及び2にしたがって、プロトン供与性基がエステル化されたスチレンスルホン酸n-ブチルモノマーを合成し(第1の工程)、合成したスチレンスルホン酸n-ブチルモノマーと二官能性ビニルモノマーであるジビニルベンゼンとの共重合により架橋ポリマーを合成し(第2の工程)、この架橋ポリマーのエステル保護基を加水分解により脱保護することで、プロトン供与性基を有するスチレンスルホン酸をモノマー単位にほぼ100mol%有する架橋ポリマー膜(以下、「CL-SS膜」とも称する)(スチレンスルホン酸をモノマー単位として100mol%有するとすると、等価質量EWは184に相当)を合成した(第3の工程)。このCL-SSを可塑剤である硫酸(以下、「H2SO4」とも称する)で膨潤させることで、実施例1の無水系プロトン伝導膜(以下、「CL-SS/H2SO4膜」とも称する)を作製した(第4の工程)。
【0087】
【0088】
【0089】
(第1の工程)
工程1-1
スチレンスルホン酸n-ブチルモノマーの前駆体である、スチレンスルホン酸ナトリウムを10.0g(48.5mmol)を量り取り、アルミホイルで遮光した500mLのナスフラスコに入れて蒸留水100mLに溶解し、氷浴に浸した。硝酸銀(I)9.06g(53.3mmol)を蒸留水20mLに溶解して調製した硝酸銀(I)水溶液を、氷浴中で攪拌している反応容器に徐々に滴下した。0℃で2時間撹拌した後、吸引ろ過及び蒸留水で洗浄、ジエチルエーテルでの洗浄により白色固体の粗生成物を得た。なお、この粗生成物は光で分解するため、できるだけ暗所となるようにして実験操作を行った。
【0090】
上記の粗生成物をアセトニトリル300mLに溶解し、ろ過で不溶の不純物を除いて精製した。生成物を溶解したアセトニトリル溶液から揮発性溶媒(アセトニトリル)を減圧下で留去し、さらに真空乾燥器を用いて40℃で約3時間乾燥させることで揮発性溶媒を除去し、スチレンスルホン酸銀(I)を12.3g(42.3mmol、収率87%)の粉末状黄白色固体として得た。
【0091】
工程1-2
上記工程1-1で得られたスチレンスルホン酸銀(I)5.00g(17.2mmol)をアルミホイルで遮光した500mLのコック付き2ツ口ナスフラスコ内に加え、窒素置換を行い、反応器内を窒素雰囲気下とした。溶媒としてアセトニトリル40mLをシリンジで反応容器内に加え、攪拌することでスチレンスルホン酸銀(I)を溶解させた。この反応溶液にシリンジを用いて1-ヨードブタン2.37mL(20.9mmol)を徐々に滴下し、室温で約2日間攪拌した。反応溶液を濾過することで副生成物であるヨウ化銀(I)を除去し、減圧下で揮発性溶媒(アセトニトリル)を除去することで、黄色オイル状の粗生成物を得た。
【0092】
上記粗生成物に対し蒸留水とジエチルエーテルを用いた分液操作により、水溶性の不純物を除去した。無水硫酸マグネシウムを用いて生成物のジエチルエーテル溶液を脱水し、濾過をおこなうことで水及び硫酸マグネシウムなどの固体不純物を除去した。減圧下で揮発性溶媒(ジエチルエーテル)を除去したのち、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)で分離精製することで、スチレンスルホン酸n-ブチルモノマー2.94g(12.2mmol、収率71%)をオイル状無色透明液体として得た。
【0093】
スチレンスルホン酸n-ブチルを重クロロホルムに溶解し約1質量%の溶液を調製し、1H-NMR法により生成物の帰属を行った。δ=0.87、1.34、1.62、4.05、5.48、5.93、6.74、7.57、7.85に目的物であるスチレンスルホン酸n-ブチルモノマーに帰属されるシグナルが観測されたため、生成物がスチレンスルホン酸n-ブチルモノマーであることを確認した。
【0094】
(第2の工程)
塩基性アルミナを充填したカラムに未精製のスチレンスルホン酸n-ブチルモノマー及びジビニルベンゼンをそれぞれ通すことで、各モノマーを精製した。この精製したスチレンスルホン酸n-ブチルモノマー、ジビニルベンゼン、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)をそれぞれ1.00g(4.16mmol)、5.47mg(42.0μmol)、2.7mg(16.6μmol)ずつ量り取り、50mLサンプル瓶内で混合させることによって溶液を調製した。この原料液中のスチレンスルホン酸n-ブチルモノマー:ジビニルベンゼン:AIBNの質量比はおよそ、250:2.5:1あった。モノマーの仕込み比どおりで重合が進行すれば、得られる架橋ポリマーを構成する繰り返し単位のうち、スチレンスルホン酸n-ブチル繰り返し単位の割合(mol%)は、下記式(1)によって求めると、理論上約99mol%となる。
【0095】
スチレンスルホン酸n-ブチル繰り返し単位の割合(mol%)=[スチレンスルホン酸n-ブチルモノマーのモル数/(スチレンスルホン酸n-ブチルのモル数とジビニルベンゼンモノマーのモル数との和)]×100 (1)
【0096】
ゴム製のセプタムで封をした後に溶液に対して窒素ガスで20分間バブリングを行い、常圧でオイルバスを用いて80℃において重合を行った。7時間後にサンプル瓶を室温で静置することで重合反応を停止させたところ、得られた粗生成物はガラス状の膜になっていた。
【0097】
上述の粗生成物をサンプル瓶から取り出し、テトラヒドロフラン(THF)に浸漬させ、2時間静置させた後、浸漬に用いたTHFを取り除いた。THFに浸漬させる作業を計3回行い、未反応のモノマーや低分子オリゴマー、架橋されていないポリマー等を除去して精製した。50℃で4時間静置し揮発性溶媒(THF)を除去し、架橋されたスチレンスルホン酸n-ブチルポリマーを得た。
【0098】
(第3の工程)
水酸化ナトリウム5.00g(124mmol)、テトラブチルアンモニウムクロリド3.47g(12.5mmol)をTHF27mLと水3mLからなる混合溶媒に溶解させ、THFと水の間に界面を持つ塩基性溶液を調製した。この塩基性溶液30mLを50mLサンプル瓶に注ぎ、第1の工程で得られた架橋ポリマー約1.0gを浸漬させ、50℃で加水分解による脱保護反応を72時間行った。脱保護反応が適切に進行すると、得られる架橋ポリマーの繰り返し単位のうち、スチレンスルホン酸の割合は、約99mol%となる。
【0099】
上述の架橋ポリマーをサンプル瓶から取り出して水に浸漬させ、2時間静置した後、浸漬に用いた水を取り除いた。水に浸漬させる作業を計2回行い、架橋ポリマー中に残存する水酸化ナトリウムやテトラブチルアンモニウムクロリドを除去した。その後、濃度1Mの塩酸に浸漬させ、24時間静置した後、浸漬に用いた塩酸を取り除いた。さらに脱イオン水に浸漬させ2時間静置した後、浸漬に用いた脱イオン水を取り除く作業を3回行った。50℃で4時間静置し水を除去し、更に真空乾燥器を用いて約1日間乾燥させて水を除去した。この操作により架橋ポリマー中のナトリウムイオンをプロトンと交換し、過剰の塩酸を取り除くことでCL-SS膜を0.78g合成した。
【0100】
(第4の工程)
濃硫酸(97%)0.148gとメタノール1.51gからなる溶液をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製容器(内径4.3cm)に注ぎ、その溶液中にCL-SS膜0.0370gを浸漬させ、50℃で約2日間静置させることで揮発性溶媒(メタノール)を蒸発させた。その後、真空乾燥器を用いて50℃で約1日間乾燥させることで揮発性溶媒を除去し、CL-SS膜をH2SO4で膨潤させたCL-SS/H2SO4膜0.185g(厚さ1.17mm)を実施例1のプロトン伝導膜として得た。
【0101】
なお、実施例1のプロトン伝導膜では、CL-SSとH2SO4の質量比は20:80であり、H2SO4(可塑剤)の、スルホン酸基(すなわち、プロトン供与性基)を有する繰り返し単位に対するモル比は、下記式(2)によって求めると、7.6であった。
【0102】
H2SO4の、スルホン酸基を有する繰り返し単位に対するモル比=H2SO4のモル数/架橋ポリマー中のスチレンスルホン酸モノマーユニットのモル数 (2)
【0103】
実施例1で得られたプロトン伝導膜の写真は、
図2に示す。また、このプロトン伝導膜は、
図2に示されているように自立性を有していた。
【0104】
下記式(3)によってこのプロトン伝導膜の試料のプロトン伝導率を求めたところ、0.28S/cm(280mS/cm)であり、無加湿下にも関わらず極めて高いプロトン伝導率を示した。
【0105】
プロトン伝導率=電極間距離/(膜の厚さ×膜の幅×抵抗値) (3)
【0106】
次いで、測定条件を温度110℃及び相対湿度実質0%RHにして交流インピーダンス測定を行ったところ、ナイキストプロットのX軸の切片から読み取った測定試料の抵抗値は49Ωであり、プロトン伝導率は0.25S/cm(250mS/cm)の高い値を示した。
【0107】
また、測定条件を温度95℃及び相対湿度2.5%RHにして交流インピーダンス測定を行ったところ、ナイキストプロットのX軸の切片から読み取った測定試料の抵抗値は55Ωであり、プロトン伝導率は0.22S/cm(220mS/cm)の高い値を示した。
【0108】
また、測定条件を温度80℃及び相対湿度2.7%RHにして交流インピーダンス測定を行ったところ、ナイキストプロットのX軸の切片から読み取った測定試料の抵抗値は67Ωであり、プロトン伝導率は0.18S/cm(180mS/cm)の高い値を示した。
【0109】
また、測定条件を温度65℃及び相対湿度3.0%RHにして交流インピーダンス測定を行ったところ、ナイキストプロットのX軸の切片から読み取った測定試料の抵抗値は84Ωであり、プロトン伝導率は0.15S/cm(150mS/cm)の高い値を示した。
【0110】
また、測定条件を温度50℃及び相対湿度3.5%RHにして交流インピーダンス測定を行ったところ、ナイキストプロットのX軸の切片から読み取った測定試料の抵抗値は1.1×102Ωであり、プロトン伝導率は0.11S/cm(110mS/cm)の高い値を示した。
【0111】
また、測定条件を温度35℃及び相対湿度4.2%RHにして交流インピーダンス測定を行ったところ、ナイキストプロットのX軸の切片から読み取った測定試料の抵抗値は1.6×102Ωであり、プロトン伝導率は0.079S/cm(79mS/cm)であった。
【0112】
また、測定条件を温度20℃及び相対湿度5.1%RHにして交流インピーダンス測定を行ったところ、ナイキストプロットのX軸の切片から読み取った測定試料の抵抗値は2.4×102Ωであり、プロトン伝導率は0.052S/cm(52mS/cm)であった。
【0113】
実施例1のプロトン伝導率の測定結果は、下記の表1及び
図3に示されており、
図3の中では黒塗りの丸(●)のプロット点とそれを繋ぐ実線で表されている。
【0114】
図3に示されているように、実施例1のプロトン伝導膜は、温度の上昇に伴ってプロトン伝導率が大きくなる傾向がみられた。これは、温度の上昇に伴って擬流動状態のプロトン伝導混合相の分子運動性が上がり、その結果プロトン伝導性が向上したことによると考えられる。
【0115】
《比較例1》
比較例1のプロトン伝導膜は、プロトン供与性基の代わりに、塩基性官能基(プロトン受容性基)を持つ架橋ポリマー膜を4-ビニルピリジンモノマーと二官能性ビニルモノマーのN,N’-メチレンビスアクリルアミドとを共重合することによって合成し(以下、「CL-P膜」とも称する)、このCL-P膜を可塑剤であるH2SO4で膨潤させることで調製されたものであり(「CL-P/H2SO4膜」とも称する。)、特許文献1の実施例1で開示されているプロトン伝導膜と同じである。
【0116】
比較例1の無加湿下でのプロトン伝導率(厚さ0.13mm)を実施例1と同様に測定し、その結果を表1及び
図3に示し、
図3中では×印のプロット点とそれを繋ぐ点線で表されている。なお、120℃におけるプロトン伝導率は、相対湿度実質0%RHにして測定されたものである。
【0117】
なお、CL-PとH2SO4の質量比は18:82であり、H2SO4の、ピリジル基を有する繰り返し単位に対するモル比は、下記式(4)によって求めると、5.0であった。
【0118】
H2SO4の、ピリジル基を有する繰り返し単位に対するモル比=H2SO4のモル数/架橋ポリマー中の4-ビニルピリジンモノマーユニットのモル数 (4)
【0119】
無加湿条件下かつ50~120℃の温度の領域において、比較例1の膜は、例えば、95℃で0.14S/cm(140mS/cm)の伝導率であり、実施例1のプロトン伝導膜は、参考例1のプロトン伝導膜と比べてより高いプロトン伝導率を示すことが分かった。これは比較例1では塩基性官能基(プロトン受容性官能基)と等モル量のH2SO4分子がイオン錯体の形成に消費されてしまい、塩基性官能基と等モル量のH2SO4分子がプロトン伝導に寄与できないが、実施例1ではCL-SSは塩基性官能基を有さないため、CL-SSに浸透したほぼすべてのH2SO4分子がプロトン輸送に関与する遊離プロトン源として寄与するため高いプロトン伝導率を示したと考えられる。
【0120】
《比較例2》
比較例2では、CL-SSの代わりにナフィオン(登録商標、NR212、Aldrich)を用い、H2SO4で膨潤させず、加湿条件(相対湿度90%RH)で使用した。
【0121】
交流インピーダンス測定を加湿条件(相対湿度90%RH)以外は実施例1と同様に行い、比較例2のプロトン伝導膜のプロトン伝導率を測定した。
【0122】
測定結果は表1及び
図3に示し、
図3中では黒塗りの四角形(■)のプロット点と破線で表されている。加湿条件下かつ20~95℃の温度の領域において、比較例2の膜は例えば、95℃で0.054S/cm(54mS/cm)のプロトン伝導率を示した。実施例1のプロトン伝導膜は、無加湿下でも比較例2の加湿下のプロトン伝導膜と比べてより高いプロトン伝導率を示すことが分かった。
【0123】
《比較例3》
比較例3では、CL-SSの代わりにナフィオン(登録商標、NR212、Aldrich)を用い、H2SO4で膨潤させず、無加湿条件で使用した。
【0124】
交流インピーダンス測定を無加湿条件以外は実施例1と同様に行い、比較例3のプロトン伝導膜のプロトン伝導率を測定した。
【0125】
測定結果は表1及び
図3に示し、
図3中では黒塗りの三角形(▲)のプロット点と長鎖線で表されている。
【0126】
無加湿条件下かつ20~125℃の温度の領域において、比較例3の膜は例えば、125℃で0.00015S/cm(0.15mS/cm)の非常に低いプロトン伝導率を示すことが分かった。
【0127】
《比較例4》
比較例4ではナフィオン(登録商標、NR212、Aldrich)を用い、実施例1と同様の手法によりH2SO4で膨潤させた膜を無加湿条件下でプロトン伝導率測定を行った。
【0128】
なお、ナフィオンにはできるだけH2SO4を多く導入させようとしたが、ナフィオンは撥水性部位を多く有しており、導入できたH2SO4の量は最大で15質量%、つまりナフィオン膜とH2SO4の質量比は85:15であり、混ぜこもうとしたH2SO4の多くは膜上で弾いていたため、拭き取った。なお、この膜中において、H2SO4の、スルホン酸基を有する繰り返し単位に対するモル比は、下記式(5)によって求めると、0.52であった。
【0129】
H2SO4の、スルホン酸基を有する繰り返し単位に対するモル比=H2SO4のモル数/(ナフィオンの酸容量、0.92meq/g×ナフィオン膜の重量) (5)
【0130】
交流インピーダンス測定を実施例1と同様に行い、無加湿下でのプロトン伝導率を測定した。測定結果は表1及び
図4に示し、
図4中では黒塗りの四角形(■)のプロット点とそれを繋ぐ破線で表されている。なお、比較のため、
図4では、実施例1のプロトン伝導率の結果も併せて示している。
【0131】
無加湿条件下かつ20~125℃の温度の領域において、比較例4のプロトン伝導膜は例えば、125℃で0.00057S/cm(0.57mS/cm)の非常に低いプロトン伝導率を示すことが分かった。
【0132】
《実施例2》
実施例2では、実施例1と同じCL-SS膜を用い、使用するH2SO4及びメタノールの量を適宜変更した以外は実施例1と同様にして、CL-SS膜をH2SO4で膨潤させ、プロトン伝導膜(0.11cm)を調製した。なお、CL-SSとH2SO4の質量比は50:50であり、H2SO4(可塑剤)の、スルホン酸基(すなわち、プロトン供与性基)を有する繰り返し単位に対するモル比は、上記式(2)によって求めると、1.9であった。
【0133】
交流インピーダンス測定を実施例1と同様に行い、無加湿下でのプロトン伝導率を測定した。測定結果は表1及び
図4に示す。
図4中では黒塗りの三角形(▲)のプロット点とそれらを繋ぐ長鎖線で表されている。
【0134】
無加湿条件下かつ20~125℃の温度の領域において、実施例2のプロトン伝導膜は0.0094~0.10S/cm(9.4~100mS/cm)のプロトン伝導率を示すことが分かった、実施例2のプロトン伝導膜は、H2SO4導入量が少ないにも関わらず比較例1と比べて遜色ない高いプロトン伝導率を示すことが分かった。
【0135】
《比較例5》
比較例5の膜は比較例1で用いたCL-Pが用いられており、CL-PとH2SO4の質量比は45:55であり、H2SO4の、ピリジル基を有する繰り返し単位に対するモル比は、上記式(4)によって求めると、1.3であった。
【0136】
比較例5の膜に対して、比較例1と同様に無加湿下でのプロトン伝導率を測定した。その結果を表1及び
図4に示し、
図4中では星印(*)のプロット点とそれらを繋ぐ点線で表されている。
【0137】
無加湿条件下かつ50~120℃の温度の領域において、比較例5の膜は例えば120℃で0.00015S/cm(0.15mS/cm)の伝導率を示した。比較例5のプロトン伝導膜は、実施例2のプロトン伝導膜と比べて大きく劣っていることが分かった。これは、比較例5では塩基性官能基(プロトン受容性官能基)と等モル量のH2SO4がイオン錯体を形成し、浸透させたH2SO4の大部分を消費されており、遊離プロトン源として寄与するH2SO4がほぼなくなっているため伝導率が低くなっていると考えられる。実施例2ではH2SO4分子は消費されないため遊離プロトン源として寄与するH2SO4分子数が多くなり、また分子の運動性が高くなるはずで、ゆえに高い伝導率を発現できたと考えられる。
【0138】
《比較例6》
比較例6では、CL-SSの代わりに未架橋ポリスチレンスルホン酸(以下、PSS)を用い、H2SO4と混合することでプロトン伝導膜の調製を試みた。
【0139】
PSS水溶液(18wt%、Aldrich、Mw約75000)5.56gとH2SO41.00gを混合し、50℃で約1日間静置させることで揮発性溶媒(水)を蒸発させた。その後、真空乾燥器を用いて50℃で約1日間乾燥させることで揮発性溶媒を除去し、PSSをH2SO4で膨潤させたPSS/H2SO4の高粘性液体2.00gを得た。なお、PSSとH2SO4の質量比は50:50であり、H2SO4(可塑剤)の、スルホン酸基(すなわち、プロトン供与性基)を有する繰り返し単位に対するモル比は、上記式(2)によって求めると、1.9であった。
【0140】
比較例6は、真空乾燥器を用いて50℃で静置すると流動していたため、膜としての形状を維持できず、プロトン伝導膜として用いることはできなかった。なお、実施例1又は2では化学架橋を有しているため、比較例6のように流動することはなく、膜の形状を維持しており、ゆえにプロトン伝導膜として使用できることが分かった。
【0141】
《実施例3》
実施例3では、実施例1と同じCL-SS膜を用い、使用するH2SO4及びメタノールの量を適宜変更した以外は実施例1と同様にして、CL-SS膜をH2SO4で膨潤させ、プロトン伝導膜(0.10cm)を調製した。なお、CL-SSとH2SO4の質量比は80:20であり、H2SO4(可塑剤)の、スルホン酸基(すなわち、プロトン供与性基)を有する繰り返し単位に対するモル比は、上記式(2)によって求めると、0.48であった。
【0142】
流インピーダンス測定を実施例1と同様に行い、無加湿下でのプロトン伝導率を測定した。測定結果は表1及び
図4に示し、
図4中では黒塗りの菱形(◆)のプロット点とそれらを繋ぐ長破線で表されている。
【0143】
無加湿条件下かつ20~125℃の温度の領域において、実施例3のプロトン伝導膜は0.000086~0.0084S/cm(0.086~8.4mS/cm)のプロトン伝導率を示すことが分かった。実施例3のプロトン伝導率電解質膜は、H2SO4導入量がわずかであるにも関わらず比較例4と比べて高いプロトン伝導率を示すことが分かった。
【0144】
《実施例4》
実施例4では、実施例1と同じCL-SS膜を用い、使用する可塑剤をH2SO4よりやや弱い酸であるリン酸(以下、「H3PO4」とも称する)に変更し、メタノールの量を適宜変更した以外は実施例1と同様にしてCL-SS膜をH3PO4で膨潤させ、プロトン伝導膜(0.085cm)を調製した。なお、CL-SSとH3PO4の質量比は20:80であり、H3PO4(可塑剤)の、スルホン酸基(すなわち、プロトン供与性基)を有する繰り返し単位に対するモル比は、上記式(2)によって求めると、7.6であった。
【0145】
交流インピーダンス測定を実施例1と同様に行い、無加湿下でのプロトン伝導率を測定した。測定結果を表1及び
図5に示し、
図5中では黒塗りの四角形(■)のプロット点とそれを繋ぐ破線で表されている。なお、比較のため、
図5では、実施例1及び比較例1のプロトン伝導率の結果も併せて示している。
【0146】
無加湿条件下かつ20~125℃の温度の領域において、実施例4の膜は0.022~0.19S/cm(22~190mS/cm)の高い伝導率を示し、比較例1と遜色ないプロトン伝導率を示した。
【0147】
《実施例5》
実施例5は、第1の工程でスチレンスルホン酸n-ブチルを用いる代わりにアクリル酸tert-ブチルを用いることと、第2の工程でトリフルオロ酢酸、ジクロロメタンを用いること以外は実施例1と同様の手法を用いて、プロトン供与性基としてカルボン酸を有する架橋アクリル酸ポリマー膜、以下、CL-A膜を合成した。使用するH2SO4及びメタノールの量を適宜変更し、CL-A膜をH2SO4で膨潤させ、プロトン伝導膜(厚さ0.086cm)を調製した。なお、CL-AとH2SO4の質量比は20:80であり、H2SO4(可塑剤)の、カルボン酸基(すなわち、プロトン供与性基)を有する繰り返し単位に対するモル比は、下記式(6)によって求めると、3.0である。
【0148】
H2SO4の、カルボン酸基を有する繰り返し単位に対するモル比=H2SO4のモル数/架橋ポリマー中のアクリル酸モノマーユニットのモル数 (6)
【0149】
交流インピーダンス測定を実施例1と同様に行い、無加湿下でのプロトン伝導率を測定した。測定結果は表1及び
図5に示し、
図5中では黒塗りの三角形(▲)のプロット点とそれを繋ぐ破線で表されている。無加湿条件下かつ20~125℃の温度の領域において、実施例5のプロトン伝導膜は0.011~0.075S/cm(11~75mS/cm)のプロトン伝導率を示し、ポリマー中に含まれるプロトン供与性基の酸性度が低いにも関わらず、比較例1と比較して遜色ないプロトン伝導率を示した。
【0150】
なお、上述した各実施例及び比較例のプロトン伝導膜の詳細は、下記表2に示す。
【0151】
【0152】