(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F16C 9/02 20060101AFI20240625BHJP
F02F 7/00 20060101ALI20240625BHJP
F16M 1/021 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
F16C9/02
F02F7/00 301F
F16M1/021 B
(21)【出願番号】P 2021081990
(22)【出願日】2021-05-13
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕史
(72)【発明者】
【氏名】森本 達也
(72)【発明者】
【氏名】西村 文秀
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】濱田 和也
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-210045(JP,A)
【文献】特開2003-074408(JP,A)
【文献】特開2014-057984(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0362793(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00 - 1/42
7/00
F16C 3/00 - 9/06
F16M 1/021
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸を軸支する軸受ケースが、シリンダブロックに形成される支持孔に嵌入され、
前記支持孔を有する孔形成壁とシリンダ壁との境部に、前記支持孔のクランク軸心方向での端とシリンダ孔のシリンダ軸心方向での端との間に位置する切欠き状面が
設けられ、
前記切欠き状面は、前記シリンダブロックの型成形により形成された面である
エンジン。
【請求項2】
前記切欠き状面は、前記シリンダ軸心及び前記クランク軸心のいずれに対しても傾いた傾斜面に形成されている請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記切欠き状面は、前記支持孔及び前記シリンダ孔の双方に対して凹んだ凹状湾曲面に形成されている請求項1又は2に記載のエンジン。
【請求項4】
互いに隣り合うシリンダ孔どうしの間に位置する前記孔形成壁においては、クランク軸心方向での両側に前記切欠き状面が形成されている請求項1~3のいずれか一項に記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク軸を軸支する軸受ケースが、シリンダブロックに形成される支持孔に嵌入されている構成を備えたエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
農機や建機などの産業用のエンジンや自動車用のエンジンにおいては、クランクケース部を有する構造のシリンダブロックが用いられている。クランクケース部の下側には、一般的にはオイルパンが取付けられる。
【0003】
特許文献1や特許文献2に開示されるように、クランクケース部には、クランク軸が軸支される軸受ケースを嵌入装着するための支持孔が形成されている。例えば、直列4気筒エンジンの場合(特許文献2を参照)には、隣り合うシリンダ孔どうしの間の3箇所、及び2ケ所のクランク軸端のうちのいずれか1ケ所の計4箇所に支持孔が形成されている。
【0004】
軸受ケース(軸受ハウジングとも言われる)は、クランク軸に外嵌される軸受を内嵌支持するものであって、クランクケース部の支持孔に嵌入されて固定されている。軸受ケースは、クランク軸心方向に沿ってのスライド移動により支持孔に嵌入されるとともに、ボルト等の取付け手段により、位置固定状態でクランクケース部に組付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-68156号公報
【文献】特開平9-210045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリンダブロックのシリンダ部には、ピストンが嵌合されるシリンダ孔が形成されており、クランクケース部の支持孔及びシリンダ孔は、共にシリンダブロックの形成後における機械加工(切削加工)によって形成される。エンジンの機種や構造によっては、シリンダ孔の下端(クランク軸側端)が支持孔まで及ぶ構成となることがある。
【0007】
支持孔とシリンダ孔とが、即ち、支持孔のクランク軸心方向での端とシリンダ孔のシリンダ軸心方向での端とが交差する部分では、それぞれの機械加工が重なることから加工の重なりによるバリが発生し易い傾向がある。そのバリにより、軸受ケースをクランク軸心方向に動かしての支持孔への嵌入作業に悪影響が出るおそれがあるため、事前に面取りなどのバリ取り作業が行われているのが実情であった。
【0008】
本発明の目的は、クランクケース部における支持孔周辺の構造見直しにより、支持孔とシリンダ孔とが交差する箇所のバリ取り作業が省略できるようにして、シリンダブロックの生産性向上が図れるエンジンを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、エンジンにおいて、
クランク軸を軸支する軸受ケースが、シリンダブロックに形成される支持孔に嵌入され、
前記支持孔を有する孔形成壁とシリンダ壁との境部に、前記支持孔のクランク軸心方向での端とシリンダ孔のシリンダ軸心方向での端との間に位置する切欠き状面が設けられ、
前記切欠き状面は、前記シリンダブロックの型成形により形成された面であることを特徴とする。
【0010】
前記切欠き状面は、シリンダ軸心及びクランク軸心のいずれに対しても傾いた傾斜面、或いは、支持孔及びシリンダ孔の双方に対して凹んだ凹状湾曲面に形成されていると好都合である。互いに隣り合うシリンダ孔どうしの間に位置する孔形成壁においては、クランク軸心方向での両側に切欠き状面が形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、詳しくは実施形態の項にて述べるが、シリンダ孔の機械加工によってシリンダ孔の下端からクランク軸心方向に出っ張るバリが生じることがあっても、その出代は、支持孔とシリンダ孔との境部に形成されている切欠き状面の幅内で収まるようになる。故に、軸受ケースをクランク軸心方向に沿って動かしての支持孔に嵌入時に、バリが噛み込んだりする悪影響が生じないようになる。従って、従来行っていたバリ取り作業は不要になる。
【0012】
その結果、クランクケース部における支持孔周辺の構造見直しにより、支持孔とシリンダ孔とが交差する箇所のバリ取り作業が省略できるようにして、シリンダブロックの生産性向上が図れるエンジンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】立形直列4気筒エンジンの構造を示す一部切欠きの左側面図
【
図2】軸受ケースを示し、(A)は平面図、(B)は正面図
【
図3】支持孔及びその周辺を示すクランクケース部の断面図
【
図4】(A)シリンダブロックを下方から斜めに見上げた斜視図、(B)切欠き状面を示す要部Zの拡大図
【
図5】(A)シリンダブロックを後方下方から見上げた斜視図、(B)切欠き状面及び孔形成壁の上部を示す拡大斜視図
【
図6】支持孔部分で切ったシリンダブロックの断面図
【
図7】(A)切欠き状面を示す要部の拡大断面図、(B)従来のシリンダ孔形成工程
【
図8】支持孔及びシリンダ孔の製法を示し、(A)は支持孔形成工程、(B)はシリンダ孔形成工程
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明によるエンジの実施の形態を、立形で直列4気筒の産業エンジンの場合について、図面を参照しながら説明する。なお、エンジンEにおいては、伝動ケース5のある側を前、フライホイール13のある側を後、とする。
【0015】
〔実施例1〕
図1に、直列4気筒エンジン(以下、単に「エンジン」と呼ぶ)Eは、シリンダブロック1の上に、シリンダヘッド2が組付けられ、シリンダヘッド2の上にはヘッドカバー3が組付けられている。シリンダブロック1の後にはフライホイールハウジング4が組付けられ、前には伝動ケース5が組付けられている。シリンダブロック1の下にはオイルパン6が組付けられている。
図1において、12は動弁装置、13はフライホイール、14は冷却ファン軸、15はウォータフランジである。
【0016】
シリンダブロック1は、
図1及び
図6に示されるように、4つのシリンダ孔8を有するシリンダ部1Aと、シリンダ部1Aの下側に位置してクランク軸9を枢支するクランクケース部1Bとを有している。シリンダ部1Aは、ピストン11が内嵌される4つのシリンダ孔8を有し、クランクケース部1Bには、クランク軸9を軸支する軸受ケース7を内嵌するための支持孔10が4箇所形成されている。
【0017】
クランク軸9は、4ヶ所のクランクピン9aそれぞれの両側の計5ヶ所に、クランク軸心Pを有する支軸部(クランクジャーナル)9Aが形成されている。各支軸部9Aは、軸受メタル16を介して軸受ケース7に内嵌されており、各軸受ケース7は、クランクケース部1Bに形成されている4ヶ所の支持孔10に内嵌係止されている。最もフライホイール側から遠い5番目(最前端部)の支軸部9Aが、軸受メタル16を介してクランクケース部1Bの前端壁(符記省略)に軸支されている。
【0018】
図2(A),(B)に示されるように、軸受ケース7は、側面視で略凸状をなすケース上部7Aと、その下にボルト(ボルトは図示省略)で連結されるケース下部7Bとによりなる。ケース上部7A及びケース下部7Bには、円筒状の支持孔10に嵌入(圧入又は密嵌入又は嵌め合い嵌入)させるための外周面7Gが形成されている。7Nは、軸受メタル16が内嵌される嵌合孔(内周面)であり、7kは、連結ボルト(図示省略)のボルト頭部逃し用の切欠き部である。なお、ケース下部7Bの下部には、支持孔10に嵌入された状態の軸受ケース7をクランクケース部1Bにボルト止めするためのナット部18が形成されている。
【0019】
図1及び
図3~
図6に示されるように、支持孔10は、クランクケース部1Bの後部壁1b及び前後中間で3カ所の中間縦壁1tに形成されており、クランク軸心Pを中心とする半径rの下円弧内周面10Bと、同じく半径rの上円弧内周面10Aとを有している。上下の円弧内周面10A,10Bの上下間の左右には、半径がrより大きい大径内周部10Cが形成されている。なお、
図6は3つの中間縦壁1tのうちの1つを示す背面視である。
【0020】
シリンダ孔8は、シリンダ部1Aに形成されており、シリンダ孔8の周囲部分であるシリンダ壁1aにおける隣り合うシリンダ孔8,8の間の部分の下端は支持孔10に及んでいる。つまり、シリンダ孔8を形成する機械加工(切削加工)の範囲と、支持孔10を形成する機械加工(切削加工)の範囲とが、寸法上、前後方向及び上下方向で交差(重複)する部分がある設計になっている。
【0021】
図3~
図5に示されるように、支持孔10を有する中間縦壁(孔形成壁の一例)1tとシリンダ壁1aとの境部17に、支持孔10の後端(「クランク軸心P方向での端」の一例)とシリンダ孔8の下端(「シリンダ軸心Q方向での端」の一例)との間に位置する切欠き状面aが設けられている。
【0022】
切欠き状面aは、
図7(A)や
図8に示されるように、支持孔10の内周面10A,10B及びシリンダ孔8の内周面(符記省略)の双方に対して凹んだ凹状湾曲面に形成されているが、シリンダ軸心Q及びクランク軸心Pのいずれに対しても傾いた傾斜面に形成されてもよい。例えば、傾斜面には、
図7(A)に示されるような凹状湾曲面を含んでいるとともに、波状の傾斜面、或いは両端部に傾斜した面がある切欠き状面aも含んでいる。凹状湾曲面などによる切欠き状面aは、シリンダブロック1の型成形により形成された面、即ち鋳肌面であって機械加工されていない未加工面である。
【0023】
支持孔10及びシリンダ孔8の機械加工方法について説明する。まず、
図8(A)に示されるように、クランク軸心Pに沿ってフライホイール側(後側)から伝動ケース側(前側)に向けて(矢印X方向)の機械加工により、支持孔10が形成される支持孔形成工程が行われる。次に、
図8(B)に示されるように、シリンダ軸心Qに沿う方向(矢印Y方向又は矢印Y方向及び反矢印Y方向の双方の方向)の機械加工により、シリンダ孔8が形成されるシリンダ孔形成工程が行われる。
【0024】
シリンダ孔形成工程により、場合によっては、
図8(B)に示されるように、シリンダ孔8の下端縁にバリ(加工バリ:意図しない突起や残留物)bが生じることがあり、そのバリbは、シリンダ孔8の下端からクランク軸心P方向(下方)に出っ張るように形成される。しかしながら、バリbの下方突出量は、切欠き状面aのシリンダ軸心Q方向の幅(半径rの方向幅)よりも十分小さい。従って、軸受ケース7をクランク軸心P方向に沿う矢印V方向に動かしての支持孔10への嵌入時に、バリbが支持孔10の内周面10Aと軸受ケース7の外周面7Gとの間に噛み込んだりする悪影響を及ぼすことは生じない。なお、
図7,8において、バリbは理解し易くするためにやや誇張又は変容して描いてある。
【0025】
切欠き状面aを持たない従来のシリンダブロックにおいては、
図7(B)に示されるように、シリンダ孔8の下端は支持孔10に及んでおり、シリンダ孔形成工程においてバリbが生じると、そのバリbは支持孔10の半径rの範囲内に及ぶように突出する。故に、軸受ケース7をスライド移動させて支持孔10へ嵌入する際に、バリbが支持孔10の内周面10Aと軸受ケース7の外周面7Gとの間に噛み込んだりして、うまく嵌入できないおそれがあった。
【0026】
そこで従来では、シリンダ孔形成工程の後に、バリbを取るために支持孔10とシリンダ孔8との境部17を削り取るブラッシングをするなどのバリ取り作業(バリ取り工程)が行われていた。これに対して、切欠き状面aを有する本願発明では、前述のようにシリンダ孔8の加工時にバリbが生じても悪影響が出ない。従って、バリ取り作業(工程)が不要による生産性向上の効果が得られる。また、加工バラツキへの対応が不要になることに因る生産性向上も図れる。
【0027】
切欠き状面aは、
図3に示されるように、互いに隣り合うシリンダ孔8,8どうしの間に位置する3箇所の中間縦壁1tにおいては、クランク軸心P方向での両側に形成されており〔
図7(A)も参照〕、後部壁1bにおいては、クランク軸心P方向でシリンダ孔8のある側(前側)に形成されている。
【0028】
図1に示されるように、最も後側の軸受ケース7は、これと後部壁1bとに跨るフライホイールハウジング4の前壁部(符記省略)を用いてのボルト止めにより、支持孔10への嵌入組付け状態が維持されている。その他3か所の軸受ケース7は、各々のナット部18を用いて中間縦壁1tの下部から上に向かうボルト(符記省略)により対応する支持孔10への嵌入組付け状態が維持されている。
【0029】
〔別実施形態〕
切欠き状面aは、断面形状がクランク軸心P及びシリンダ軸心Qの双方に対して傾斜した直線となる構造や、緩やかな凸曲面となる構造のものでも良い。
3か所の中間縦壁1tそれぞれの境部17においては、切欠き状面aを、軸受ケース7を支持孔10に嵌入させる方向の上手側の角部にのみ設ける構成でもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 シリンダブロック
1a シリンダ壁
1t 孔形成壁(中間縦壁)
7 軸受ケース
8 シリンダ孔
9 クランク軸
10 支持孔
17 境部
P クランク軸心
Q シリンダ軸心
a 切欠き状面