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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】紙幣類搬送分岐機構および自動取引機
(51)【国際特許分類】
   B65H 29/58 20060101AFI20240625BHJP
   B65H 29/60 20060101ALI20240625BHJP
   G07D 11/16 20190101ALI20240625BHJP
【FI】
B65H29/58 A
B65H29/60 C
G07D11/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021141743
(22)【出願日】2021-08-31
(65)【公開番号】P2023035120
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】504373093
【氏名又は名称】日立チャネルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上村 歩夢
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 祐宣
(72)【発明者】
【氏名】西澤 直晃
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴博
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雄気
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-181977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 29/58
B65H 29/60
G07D 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙幣類が搬送される複数の搬送路のうちの一組の搬送路を接続して搬送経路を切り替えるために所定の複数の姿勢を取る切替ゲートであって、シャフトを中心として回動することにより前記所定の複数の姿勢のいずれかを取る切替ゲートと、
前記切替ゲートを回動させるアクチュエータと、
前記切替ゲートに当接して当該切替ゲートの回動範囲を規制する当接部と、
前記切替ゲートが回動する方向を切り替える切替位置で前記切替ゲートを検知するセンサと、
前記アクチュエータを制御すると共に、前記センサから出力される検知信号と、前記当接部に向かって前記切替ゲートを移動させる第一の動作量と、前記第一の動作量で移動した前記切替ゲートの停止位置から前記切替位置まで戻る第二の動作量とを記録する制御部と、を備えた紙幣類搬送分岐機構であって、
前記制御部は、前記第一の動作量が前記第二の動作量よりも大きい場合の、前記第一の動作量と前記第二の動作量とに基づいて、前記当接部と前記切替位置との間の位相を算出する紙幣類搬送分岐機構。
【請求項2】
前記アクチュエータは、ステッピングモータである、
請求項1に記載の紙幣類搬送分岐機構。
【請求項3】
前記切替ゲートは、可撓性を有して紙幣類を案内する樹脂製のガイド部と、前記シャフトから当該シャフトと直交する向きに延びる金属製の当接ピンとを備え、
前記当接部は、前記ガイド部と当接する第一の当接部と、前記当接ピンと当接する金属製の第二の当接部と、を備えている、
請求項1に記載の紙幣類搬送分岐機構。
【請求項4】
前記センサは、前記切替位置を検知する光電センサであり、
前記シャフトの外周には、前記光電センサの光軸を遮る遮蔽板が設けられている、
請求項1に記載の紙幣類搬送分岐機構。
【請求項5】
前記制御部は、起動する毎に前記当接部と前記切替位置との間の位相を算出する、
請求項1に記載の紙幣類搬送分岐機構。
【請求項6】
前記複数の搬送路は、第一搬送路と、第二搬送路と、第三搬送路とを備え、
前記制御部は、前記第一搬送路と第二搬送路とを接続して第一搬送経路を形成する第一姿勢と、前記第一搬送路と第三搬送路とを接続して第二搬送経路を形成する第二姿勢と、前記第一搬送路以外の搬送路を接続して第三搬送経路を形成する第三姿勢とに順に前記切替ゲートを回動させるように構成され、
前記切替位置は、前記第一の姿勢と前記第二の姿勢とに前記切替ゲートが回動する方向を切り替える位置、または前記第二の姿勢と前記第三の姿勢とに前記切替ゲートが回動する方向を切り替える位置である、
請求項1記載の紙幣類搬送分岐機構。
【請求項7】
前記紙幣類搬送分岐機構を備えた自動取引機であって、
前記紙幣類搬送分岐機構に請求項1乃至6の何れか一項に記載の紙幣搬送分岐機構を搭載する自動取引機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣類搬送分岐機構および自動取引機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、金融機関で使用される現金自動取引機には、紙幣取扱装置が実装されている。紙幣取扱装置は、紙幣入出金庫と、紙幣判別部と、一時収納庫と、リジェクト紙幣庫と、リサイクル庫と、紙幣搬送分岐機構と、紙幣搬送路と、を備えている。
【0003】
紙幣入出金庫は、利用者に出金紙幣を放出し、もしくは入金紙幣を投入して一枚ずつ繰り出す。紙幣判別部は、入金紙幣および出金紙幣を判別する。一時収納庫は、入金紙幣を一旦収納する。リジェクト紙幣庫は、紙幣判別部で所定の基準に達しないと判別されたリジェクト紙幣を収納する。リサイクル庫は、収納した入金紙幣を保管し、出金紙幣として繰り出す。紙幣搬送分岐機構は、各庫同士を接続するために複数の接続先を切り替える。紙幣搬送路は、紙幣を案内する搬送ガイドを有する。紙幣搬送路の途中には、紙幣搬送分岐機構が設けられている。
【0004】
紙幣搬送分岐機構は、一枚ずつ次々と繰り出される入金紙幣または出金紙幣を、紙幣判別部により決定される接続先に振り分けることが必須である。紙幣搬送路は、滞りなく紙幣を各接続先まで搬送できることが必須である。
【0005】
さらに、紙幣取扱装置の内部スペースおよびコストは限られている。そのため、紙幣搬送路を極力短縮することによって利用可能となったスペースが、各庫の容量に充てられることが望ましい。このため、近年、紙幣搬送分岐機構は、3種類以上の紙幣搬送路に分岐が可能な方式が採用されることがある。
【0006】
このような従来の紙幣取扱装置としては、例えば、特許文献1には、搬送分岐機構および紙葉類処理装置、特許文献2には、紙葉類分岐機構、紙葉類処理装置および紙葉類分岐方法、特許文献3には、媒体処理装置および自動取引装置がそれぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-280119号公報
【文献】特開2009-70056号公報
【文献】特開2019-128908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
紙幣取扱装置には、様々な種類の取引および券種を扱える紙幣搬送分岐機構が必要である。さらに、最も一般的な二分岐の紙幣搬送分岐機構よりも、三分岐以上の紙幣搬送分岐機構は、紙幣搬送路を短縮することができる。これにより、紙幣取扱装置の小型化および紙幣取扱装置内の搭載空間を効率よく紙幣収納容量に充てることが可能となるだけでなく、他の多くの利点を有する。しかし、紙幣搬送分岐機構を紙幣搬送路に組み付ける際には、紙幣搬送分岐機構と搬送ガイドの搬送面上とのつなぎ部分に段差を設けてはならない。したがって、従来は、組立作業者による高度な調整作業が必要であった。さらに、紙幣搬送分岐機構を構成する部品の公差によっても、位置精度が低下することもあった。
【0009】
本発明では、上記課題に鑑みてなされたもので、その目的は、紙幣類を適切に搬送する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、紙幣類が搬送される複数の搬送路のうちの一組の搬送路を接続して搬送経路を切り替えるために所定の複数の姿勢を取る切替ゲートであって、シャフトを中心として回動することにより前記所定の複数の姿勢のいずれかを取る切替ゲートと、前記切替ゲートを回動させるアクチュエータと、前記切替ゲートに当接して当該切替ゲートの回動範囲を規制する当接部と、前記切替ゲートが回動する方向を切り替える切替位置で前記切替ゲートを検知するセンサと、前記アクチュエータを制御すると共に、前記センサから出力される検知信号と、前記当接部に向かって前記切替ゲートを移動させる第一の動作量と、前記第一の動作量で移動した前記切替ゲートの停止位置から前記切替位置まで戻る第二の動作量とを記録する制御部と、を備えた紙幣類搬送分岐機構であって、前記制御部は、前記第一の動作量が、前記第二の動作量よりも大きい場合の、前記第一の動作量と前記第二の動作量に基づいて、前記当接部と前記切替位置との間の位相を算出する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、紙幣類を適切に搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】現金自動取引機の外観を示す斜視図。
図2】紙幣取扱装置の側面図。
図3】切替ゲートが第一の姿勢のときの紙幣搬送分岐機構の概略構成図。
図4】切替ゲートが第二の姿勢のときの紙幣搬送分岐機構の概略構成図。
図5】切替ゲートが第三の姿勢のときの紙幣搬送分岐機構の概略構成図。
図6】切替ゲートの斜視図。
図7】切替ゲートの側面図。
図8】切替ゲートの停止位相の推移を示す図。
図9】位置検知制御のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る現金自動取引装置の具体例を、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、実施例によって限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示される。
【0014】
図1は、現金自動取引機の外観を示す斜視図である。
【0015】
図1において、「自動取引機」の一例としての現金自動取引機100は、その内部に、紙幣取扱装置101と、カード・明細票処理装置102と、通帳処理装置103と、利用者操作部104と、本体制御部105とを備えている。
【0016】
紙幣取扱装置101は、利用者から紙幣が投入(入金)されると共に、利用者へ紙幣を放出(出金)する。カード・明細票処理装置102は、利用者が挿入したカードを処理し、取引明細票を印字して放出する。通帳処理装置103は、利用者が挿入した通帳に取引内容を記帳する。利用者操作部104は、利用者に操作案内を表示し、利用者からの指示の入力を受け付ける。本体制御部105は、これら各装置を監視制御する。ここで、紙幣は、紙葉類の一例である。以下、紙幣を取り扱う紙幣取扱装置101について説明する。
【0017】
図2は、紙幣取扱装置101の側面図である。
【0018】
紙幣取扱装置101は、入出金口70と、紙幣判別部71と、一時保管庫72と、リジェクトボックス73と、リサイクル庫74と、「搬送路」の一例としての紙幣搬送路75と、制御部76とを備えている。これらの要素70~76をユニットと呼ぶことがある。
【0019】
入出金口70は、利用者が投入した紙幣を紙幣搬送路75へ1枚ずつ繰り出すと共に、紙幣搬送路75を介して搬送される紙幣を集積して利用者へ放出する(利用者が取り出せるように紙幣を出す)。紙幣判別部71は、紙幣の光学的磁気的特徴を測定し、紙幣の金種および真偽を判別する。
【0020】
一時保管庫72は、取引が成立するまで紙幣を一時格納する。一時保管庫72は、例えば、利用者が入金した紙幣を一時保管し、利用者が取引を認めた場合は、リサイクル庫74に紙幣を収納し、利用者が取引を認めない場合は、入出金口70に紙幣を搬送して利用者へ現品を返却する。リジェクトボックス73は、入金時取引が成立した紙幣を格納する金庫である。リジェクトボックス73は、入金だけの紙幣と、紙幣取扱装置101による取扱いに適さない紙幣とを格納する。紙幣取扱装置101による取扱いに適さない紙幣とは、切れおよび折れを有する紙幣と、斜行されて搬送された紙幣である。
【0021】
リサイクル庫74は、入出金兼用の集積分離装置を有する。集積分離装置は、利用者によって投入された紙幣を格納すると共に、格納された紙幣を取引に応じて紙幣搬送路75へ繰り出して利用者へ出金する。尚、図2の紙幣取扱装置101は、リジェクトボックス73を1つ、リサイクル庫74を3つ実装している例である。しかし、これらのリジェクトボックス73とリサイクル庫74との組み合わせは自由であり、実装数も自由に設定できる。例えば、紙幣取扱装置101は、リジェクトボックス73を2つ、リサイクル庫74を2つ備えてもよい。
【0022】
紙幣搬送路75は、各ユニットに紙幣を搬送する。紙幣搬送路75は、例えば、後述する搬送ローラ42(図3参照)および切替ゲート10(図3参照)によって、紙幣の搬送方向を切替えることができる。したがって、紙幣は、取引動作ごとに、紙幣判別部71を双方向に通過し、入出金口70、一時保管庫72、リジェクトボックス73、およびリサイクル庫74それぞれの間を双方向に搬送される。
【0023】
制御部76は、各ユニットを監視制御する。制御部76は、現金自動取引機100の本体制御部105と電気接続されている。制御部76は、本体制御部105からの指令により紙幣取扱装置101を制御すると共に、紙幣取扱装置101の状態を本体制御部105へ報告する。
【0024】
図3~5は、紙幣搬送分岐機構1の概略構成図である。
【0025】
紙幣搬送路75は、「第一搬送路」の一例としての下流側搬送路30と、「第二搬送路」の一例としての上流側搬送路31と、「第三搬送路」の一例としての上流側搬送路32とを備えている。
【0026】
紙幣搬送路75の両側には、例えば、搬送される紙幣を挟むように図示しないベルトと、搬送ローラ42と、ピンチローラ43と、搬送ガイド44とが設けられている。図示しないベルトおよび搬送ローラ42は、紙幣搬送路75の外側に配置された搬送用アクチュエータ41によって駆動される。
【0027】
紙幣搬送路75の屈曲部P(下流側搬送路30と一対の上流側搬送路31,32との合流部(分岐点))には、搬送ガイドローラ44gと、他の搬送ローラ42よりも大径な搬送ローラ42aとが配置されている。搬送ガイドローラ44gは、搬送ローラ42aと同軸に設けられている。搬送ガイド44と、後述する切替ゲート10と、搬送ガイドローラ44gとは、各搬送路30~32と共に紙幣搬送路75を構成する。
【0028】
搬送ガイドローラ44gは、段付きの筒状に形成されており、外径が大きい搬送面17と、搬送面17よりも外径が小さい「第一の当接部」の一例としての樹脂製の非搬送面18とを有する。搬送面17は、紙幣を搬送する面である。非搬送面18は、紙幣とは接触しない面である。非搬送面18の一部は、後述する切替ゲート10の回動範囲を規制する「第一の当接部」の一例としての突当て部19b(図7参照)として機能する。このように、突当て部19bは、非搬送面18に設けられている。これら搬送面17と非搬送面18とは、外径のみが異なる。非搬送面18は、その一部が突当て部19bとして機能するため、搬送面17と同等の精度が確保されることが必要である。
【0029】
搬送ローラ42,42aは、搬送用アクチュエータ41が駆動することにより、回転力を得て連続的に回転する。ピンチローラ43は、搬送ローラ42から受ける摩擦力により回転する従動ローラである。これら搬送ローラ42およびピンチローラ43は、紙幣を挟持し、搬送方向への送り力を与える。これにより、紙幣搬送路75における紙幣は、各搬送経路33~35を双方向に移動することが可能となる。
【0030】
さらに、前述した各搬送路30~32において、切替ゲート10が回動すると、搬送ガイド44と、切替ゲート10の搬送面17との間には、つなぎ部が形成される。このつなぎ部は、平たんになっている。これにより、紙幣は、滞りなく紙幣搬送路75を移動できる。
【0031】
さらに、紙幣搬送路75の屈曲部Pには、「紙幣類搬送分岐機構」の一例としての紙幣搬送分岐機構1が設けられている。紙幣搬送分岐機構1は、切替ゲート10と、「アクチュエータ」の一例としての切替用アクチュエータ40と、後述する突当て部19bおよび一対の突当て部26(図6,7参照)と、図示しないセンサと、前述した制御部76と、を備えている。
【0032】
切替ゲート10は、下流側搬送路30および一対の上流側搬送路31,32のうちの一組の搬送路30,31,32を接続して搬送経路33~35を切り替える3種類の姿勢(位相)に回動する。
【0033】
第一の姿勢の切替ゲート10は、図3に示すように、下流側搬送路30と上流側搬送路31と接続して第一搬送経路33を形成する。第二の姿勢の切替ゲート10は、図4に示すように、下流側搬送路30と上流側搬送路32と接続して第二搬送経路34を形成する。第三の姿勢の切替ゲート10は、図5に示すように、下流側搬送路30以外の上流側搬送路31,32同士を接続して第三搬送経路35を形成する。
【0034】
切替用アクチュエータ40は、紙幣搬送路75の外側に配置されている。切替用アクチュエータ40は、切替ゲート10を第一の姿勢~第三の姿勢に回動させることによって、紙幣の搬送方向を切替えることができる。切替用アクチュエータ40は、電磁ソレノイドまたは後述する駆動モータ40a(図6参照)でよい。
【0035】
このように構成された紙幣取扱装置101は、取引動作ごとに、搬送用アクチュエータ41の回転方向と、切替用アクチュエータ40の回転方向を切替えることができる。これにより、紙幣は、紙幣判別部71を双方向に通過し、入出金口70、一時保管庫72、リジェクトボックス73、およびリサイクル庫74それぞれの間を双方向に搬送される。
【0036】
ここで、紙幣取扱装置101を安定して稼働させるためには、紙幣搬送路75を平たんにする必要がある。しかし、切替ゲート10は、紙幣搬送路75に組み付ける際に、切替用アクチュエータ40と、それを固定するための図示しないブラケットとの部品精度により、取付け姿勢にばらつきが生じる。そのため、組立作業者が精密に位置だし作業を実施することで平たんな紙幣搬送路75を確保する必要があった。
【0037】
図6は、切替ゲートの斜視図である。
【0038】
切替ゲート10は、紙幣を案内する複数のガイド部21と、シャフト22とを一体に備えている。ガイド部21は、断面V字状をなしている。各ガイド部21は、相互に同一な形状をなしており、紙幣搬送路75の幅方向に複数並んでいる。ガイド部21は、樹脂で形成されており、可撓性を有している。ガイド部21の先端部分は、搬送ガイドローラ44gの突当て部19bと当接する後述する突当て部19a(図7参照)として機能する。
【0039】
シャフト22は、切替ゲート10の回動中心となる。シャフト22は、紙幣搬送路75の内外に亘って延びている。シャフト22の紙幣搬送路75外の部分には、連結具23を介して駆動モータ40aが連結されている。これにより、駆動モータ40aの回転を遊びなくシャフト22へ伝えることができる。
【0040】
さらに、シャフト22には、シャフト22と直交する向きに延びる「当接ピン」の一例としての突当てピン24が取り付けられている。突当てピン24は、金属で形成されており、剛性を有している。
【0041】
図7は、切替ゲートの側面図である。
【0042】
搬送ガイドローラ44gの突当て部19bは、切替ゲート10が回動したときに、切替ゲート10の突当て部19aと相互に弾性変形しながら当接(衝突)することによって、切替ゲート10の回動範囲(揺動角度)を規制する。
【0043】
一方、「第二の当接部」の一例としての一対の突当て部26は、相互に間隔を空けて駆動モータ40aのケースからシャフト22と平行に延びている。突当て部26は、金属で形成されており、剛性を有している。突当て部26は、切替ゲート10が回動したときに、突当てピン24が当接(衝突)することによって、切替ゲート10の回動範囲(回動角度)を規制する。
【0044】
さらに、シャフト22の外周には、シャフト22と同軸に遮蔽板25が設けられている。遮蔽板25は、扇状をなしており、シャフト22と共に回動する。遮蔽板25は、その遮蔽板25の回動範囲に対向して設置された図示しないセンサの受発光軸を遮ることで、切替ゲート10の停止位置を検知することが可能である。これにより、切替ゲート10の回動範囲内において、後述する切替ゲート10の位置検知制御を可能とする。センサは、光電センサでよく、切替ゲート10の位置を検知可能であれば、他のセンサでもよい。
【0045】
例えば、センサは、切替ゲート10が回動する方向を切り替える切替位置で切替ゲート10を検知する。切替位置は、図4に示すように、第一の姿勢(図3参照)と第二の姿勢(図4参照)とに切替ゲート10が回動する方向を切り替える位置、または第二の姿勢と第三の姿勢(図5参照)とに切替ゲート10が回動する方向を切り替える位置である。即ち、切替位置は、切替ゲート10が第一の姿勢と第二の姿勢との中間姿勢の位置、または切替ゲート10が第二の姿勢と第三の姿勢との中間姿勢の位置となる。センサは、切替位置で切替ゲート10を検知すると、検知信号を制御部76に出力する。
【0046】
続いて、切替ゲート10の位置検知制御の方法について説明する。本制御の前提として、組立時に簡易な調整作業が必要である。従来の紙幣搬送分岐機構では、組立時に切替ゲート10と搬送ガイド44とのつなぎ部分の高低差が許容できる範囲内にあるかを測定する。切替ゲート10と搬送ガイド44とのつなぎ部分の高低差が許容できる範囲内にない場合、切替ゲート10および連結されている切替用アクチュエータ40の取付け姿勢を修正し、再度測定するため、複雑かつ作業時間を多く要する工程が必要であった。
【0047】
一方、紙幣搬送分岐機構1は、作業者による組立時に、搬送ガイドローラ44gの突当て部19aと切替ゲート10aの突当て部19bとが一致する位相で、一対の突当て部26,26のうちの一方の突当て部26が突当てピン24と一致する位置に固定される。紙幣搬送分岐機構1は、一対の突当て部26,26のうちの他方の突当て部26が突当てピン24と一致する位置にも固定される。これにより、紙幣搬送分岐機構1の各部材の位置調整は、完了することができる。しかし、突当て部19a,19bは、双方が樹脂で形成されている。このため、突当て部19a,19bは、駆動モータ40aの駆動力により弾性変形する。この結果、突当て部19a,19b同士が当接した際の衝撃を緩和できる。しかし、駆動モータ40aの回動範囲(可動角度)を決めることができないばかりか、突当て部19a,19bは、繰り返し強い突当て負荷を受けることで塑性変形したり、破損する懸念がある。これに対して、突当て部26および突当てピン24は、双方が金属製であり、駆動モータ40aの駆動力に十分耐えることが可能な強度を有している。
【0048】
上記のような作業者による簡易調整を終えたのち、制御部76は、位置検知制御を実施する。
【0049】
図8は、切替ゲートの停止位相の推移を示す図である。図8において、横軸は、切替ゲート10の停止位相であり、縦軸は、時間である。
【0050】
本実施例において、駆動モータ40aには、ステッピングモータが使用される。図8は、駆動モータ40aを一方向(突当て方向)に駆動させ続けて、突当てピン24を一対の突当て部26,26のうち一方の突当て部26に繰り返し突当てたときの切替ゲート10の停止位相の推移を示すものである。位置B’は、センサの出力が切り替わる位置であり、位置Aおよび位置AAは、突当て部26が配置されている位置である。切替ゲート10の回動範囲(稼働領域)は、2つの突当て部26によって決定されている。
【0051】
制御部76は、切替ゲート10が位置A~AAのいずれかに停止している状態から位置検知制御を開始する。ここで、位置AAから位置Aに向かう方向を突当て方向とする。制御部76は、切替ゲート10を位置A’から突当て方向に進相させる。切替ゲート10の停止位置は、突当て方向(進相方向)に障害物がない場合(時刻80a~80e)、切替ゲート10(被駆動体)が制御上の進相位置と一致しながら推移するため、制御上の進相位置と一致する。したがって、時刻80aから時刻80eまでの切替ゲート10の進相位置は、制御上の進相位置と一致している。しかし、位置Aにおいて切替ゲート10が障害物である突当て部26に干渉(当接)した後、時刻80fでは、切替ゲート10は、位置Aから位置D”に停止位置が変化することはできず、脱調と呼ばれる制御上の進相位置と実際の停止位置とが乖離した状態になる。
【0052】
さらに時刻80gでは制御部76が突当て方向に切替ゲート10を進相させると、切替ゲート10は、制御上の進相位置C”へは進めず、最も近くの安定相Cに移動する。このため、切替ゲート10の停止位置は、位置Cに変化する。このように停止位置Aから停止位置Cに切替ゲート10の跳ね返りが起こったあとも、時刻80h以降に制御部76は、切替ゲート10を進相させると、制御上の切替ゲート10の進相位置が位置C“以降も位置A”に向けて進み続ける。しかし、実際の切替ゲート10の停止位置は、上記の安定相Cで推移する。このため、突当て部26付近での切替ゲート10の挙動は、位置A、B、Cを繰り返し推移することとなる。
【0053】
したがって、制御部76は、駆動モータ40aにより、切替ゲート10を駆動させて少なくとも1回以上突当て部26に突き当たる量を突当て方向に進相させた場合、切替ゲート10の停止位相が位置A、B、Cのいずれかに限定することが可能となる。
【0054】
図8は、位置検知制御のフローチャートである。
【0055】
制御部76は、後述する変数XおよびXn-1を0で初期化する(S901)。次に、制御部76は、駆動モータ40aを駆動して、切替ゲート10を位置A~AAのいずれかの位置から、突当て部26に1回以上突き当たるように突当て方向に進相させる(S902)。したがって、切替ゲート10の停止位相は、位置A、B、Cのいずれかに限定される。
【0056】
次に、制御部76は、「第一の動作量」の一例としての突当て方向の進相数Xが、「第二の動作量」の一例としての突当て方向と反対方向である探索方向の進相数Xn-1よりも小さいか否かを判定する(S903)。S903の判定結果が偽の場合(S903:NO)、突当て方向の進相数Xは、探索に要した進相数Xn-1と等しい(S904)。即ち、この場合、突当てピン24は、突当て部26に突き当たっていないか、突当て部26に突き当たって跳ね返っていない状態である。
【0057】
次に、制御部76は、さらに位置を絞り込むために、探索方向に向けて切替ゲート10の進相を開始させて、探索方向の進相数を数えながらセンサの出力がLOWからHIGHに切り替わる切替位置を探索する(S905)。このとき、突当て方向の進相数Xは、探索方向の進相数Xn-1となる(S906)。
【0058】
例えば、制御部76は、探索前の切替ゲート10の停止位置が位置Cであったとすると、探索方向に3回進相した位置で探索が終了する。この場合、制御部76は、探索に要した進相数3をXn-1として記憶する。続けて、制御部76は、突当て方向に進相数X=Xn-1+1=4だけ切替ゲート10を進相させると(S907)、切替ゲート10の停止位置が位置Bに変化する。その後、制御部76は、S903の判定結果が真となるまで(S903:YES)、この処理を繰り返す。即ち、再びセンサ切替わり位置を探索する。これにより、時刻80fにおいて切替ゲート10の停止位置がAとなり、Xn=Xn-1+1=6まで増加した後、次の周回では進相数7となる。このとき、切替ゲート10は、突当て部26から跳ね返り、位置Cで停止する。
【0059】
制御部76は、この時も同様に切替ゲート10を探索方向に進相させると、切替ゲート10の停止位置は、位置D→A’→B’と推移する。このため、探索に要する進相数は3であり、位置検知制御において初めてX<Xn-1となる(S903:YES)。よって、制御部76は、終了条件X<Xn-1を満たすまで上記の繰り返し処理を実行する。これにより、センサの切替位置と、突当て部26との間の位相(進相数)を特定することができる(S908)。位置Cから位置検知制御を実行した場合、Xが3、4、5、6、3と変化している。したがって、Xn-1-1となる5が求める進相数であり、時刻80eにおいて突当てピン24(切替ゲート10)が突当て部26(位置A)に当接したことが分かる。
【0060】
さらに、制御部76は、他に位置Bから位置検知制御を実行した場合、Xが4、5、6、3と変化して、X<Xn-1を得られる。制御部76は、以上のように最初に確実に1回以上、切替ゲート10を突当て部26に突き当たるように突当て方向に進相させた後、上記繰り返し処理を実行することで、センサの切替位置と突当て部26との間の進相数を特定することができる。これは突当て部26の位置またはセンサの切替位置が、部品の組立位置精度および公差(寸法精度)で機器ごとに変動した場合でも、有効である。例えば、センサ切替わり位置がC’にある場合、両者の進相数が6となる。しかし、これは位置Cから位置検知制御を実行して進相数が4、5、6、7、4と変化して、X<Xn-1のときXn-1-1=6を得られるので、同様に位置を特定することができる。
【0061】
この構成によれば、紙幣搬送分岐機構1は、切替ゲート10と、切替用アクチュエータ40と、突当て部19b,26と、センサと、制御部76と、を備えている。切替ゲート10は、紙幣が搬送される下流側搬送路30および一対の上流側搬送路31,32のうちの一組の搬送路30~32を接続して搬送経路33~35を切り替える姿勢にシャフト22を中心として回動可能である。切替用アクチュエータ40は、切替ゲート10を回動させる。突当て部19b,26は、切替ゲート10に当接して切替ゲート10の回動範囲を規制する。センサは、切替ゲート10が回動する方向を切り替える切替位置で切替ゲート10を検知する。制御部76は、切替用アクチュエータ40を制御すると共に、センサから出力される検知信号と、突当て部26に向かって切替ゲート10を移動させる突当て方向の動作量と、その動作量で移動した切替ゲート10の停止位置から切替位置まで戻る探索方向の動作量とを記録する。制御部76は、突当て方向の動作量が、探索方向の動作量よりも大きい場合の、突当て方向の動作量と探索方向の動作量とに基づいて、突当て部19b,26と切替位置との間の位相を算出する。
【0062】
これにより、切替ゲート10、センサおよび突当て部19b,26に取付位置誤差と、切替ゲート10および突当て部19b,26に公差とがあっても、切替ゲート10および突当て部19b,26の位置精度を向上することができる。したがって、組立作業者による位置の調整作業を簡易化することができる。この結果、紙幣を適切に搬送することが可能となる。尚、本実施形態において、紙幣を適切に搬送するとは、例えば、各搬送経路33~35を紙幣が滞りなく搬送される状態を例として挙げる。
【0063】
さらに、アクチュエータは、ステッピングモータである。これにより、切替ゲート10が脱調したとしても、突当て部19b,26と切替位置との間の位相を算出する。
【0064】
さらに、切替ゲート10は、可撓性を有して紙幣を案内する樹脂製のガイド部21と、シャフト22からシャフト22と直交する向きに延びる金属製の突当てピン24とを備え、突当て部19b,26は、ガイド部21と当接する突当て部19bと、突当てピン24と当接する金属製の突当て部26と、を備えている、これにより、ガイド部21と突当て部19bとが当接したときに、ガイド部21が弾性変形して当接による衝撃を緩和させることができると共に、突当てピン24と金属製の突当て部26とが当接して、切替ゲート10の回動範囲を規定することができる。
【0065】
さらに、センサは、光電センサであり、シャフト22の外周には、切替位置を検知する光電センサの光軸を遮る遮蔽板25が設けられている。これにより、切替位置を検知する光電センサを利用して、突当て部19b,26と切替位置との間の位相を算出する。
【0066】
複数の搬送路30,31,32は、下流側搬送路30と、一対の上流側搬送路31,32と、を備えている。制御部76は、第一姿勢と、第二姿勢と、第三姿勢とに順に切替ゲート10を回動させるように構成されている。第一姿勢は、下流側搬送路30と上流側搬送路31とを接続して第一搬送経路33を形成する。第二姿勢は、下流側搬送路30と上流側搬送路32とを接続して第二搬送経路34を形成する。第三姿勢は、下流側搬送路30以外の上流側搬送路31,32を接続して第三搬送経路35を形成する。切替位置は、第二の姿勢の切替ゲート10の停止位置である。これにより、搬送経路が第一搬送経路33~第三搬送経路35に分岐する場合でも、切替ゲート10および突当て部26の位置精度を向上することができ、搬送ジャムを含む搬送障害を抑制することができる。
【0067】
現金自動取引機100は、紙幣搬送分岐機構1を搭載する。これにより、紙幣搬送分岐機構1の取付位置精度を向上することができ、メンテナンスの手間を省くことができる。
【0068】
本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。
【0069】
例えば、制御部76は、現金自動取引機100が起動する毎に突当て部19b,26と切替位置との間の距離を算出してもよい。これにより、切替ゲート10および突当て部26の位置精度をより向上することができる。
【0070】
例えば、制御部76は、突当てピン24を一対の突当て部26,26のうち一方の突当て部26に繰り返し突当てた後、他方の突当て部26に繰り返し突当ててよい。これにより、切替ゲート10および一対の突当て部26の位置精度をより向上することができる。
【符号の説明】
【0071】
1…紙幣搬送分岐機構、10…切替ゲート、19a…突当て部、19b…突当て部、21…ガイド部、22…シャフト、24…突当てピン、26…突当て部、30…下流側搬送路、31…上流側搬送路、32…上流側搬送路、33…第一搬送経路、34…第二搬送経路、35…第三搬送経路、40…切替用アクチュエータ、40a…駆動モータ、76…制御部、100…現金自動取引機
図1
図2
図3
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図7
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図9