(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
H01L21/68 R
(21)【出願番号】P 2021151746
(22)【出願日】2021-09-17
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100144510
【氏名又は名称】本多 真由
(72)【発明者】
【氏名】森 智史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-106280(JP,A)
【文献】特開2017-126640(JP,A)
【文献】特開2017-037721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を保持する保持装置であって、
第1面と、前記第1面の裏面である第2面と、を有する保持部と、
前記保持部の前記第2面側に配置された冷却部と、
前記保持部と前記冷却部との間に配置され、前記保持部と前記冷却部とを接合する接合部と、
を備え、
前記保持部は、
セラミックスを主成分とし、前記第1面側に配置されるセラミックス基板と、
無機材料を主成分とする熱伝導率が3W/(m・K)以下の無機基板であって、前記セラミックス基板に対して前記第2面側に配置された無機基板と、
を有し、
前記セラミックス基板の厚みは2mm以上であり、かつ
前記無機基板は緻密体であり、かつ
前記セラミックス基板の厚み(mm)と、前記無機基板の弾性率(GPa)の積が2以上200以下であることを特徴とする、
保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の保持装置であって、
前記セラミックス基板を形成する材料と前記無機基板を形成する材料の熱膨張率の差が10ppm以下であることを特徴とする、
保持装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の保持装置であって、
前記無機基板の厚みが5mm以下であることを特徴とする、
保持装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記接合部はシリコーン樹脂を主成分とすることを特徴とする、
保持装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記セラミックス基板の厚みは前記無機基板の厚みより厚いことを特徴とする、
保持装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記セラミックス基板に、ヒーターが配置されることを特徴とする、
保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物を保持する保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体を製造する際にウェハ等の対象物を保持する保持装置として、例えば、静電チャックが用いられる。静電チャックは、対象物が載置されるセラミックス基板と、セラミックス基板を冷却する冷却部と、セラミックス基板と冷却部とを接合する接合部と、を備える。静電チャックを、例えば、250℃以上の高温プロセスで使用する場合、シリコーン接着剤などにより形成された接合部が、熱により劣化し、剥がれるという問題があった。この問題に対し、セラミックス基板と接合部との間に、樹脂製の断熱材を挿入し、接合部を熱保護する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、静電チャックを上記のような高温で使用する際には、セラミックス基板と断熱材の下部には大きな温度差が生じることがある。この温度差により断熱材内部で生じる力や、セラミックス基板と断熱材との熱膨張率差に伴い生じる力により、セラミック基板の表面に反りが生じる虞がある。また樹脂製の断熱材を高温で使用する場合、劣化によって強度が低下し、材料内部で破壊する虞がある。
【0005】
このような課題は、静電チャックに限らず、CVD(chemical vapor deposition)、PVD(physical vapor deposition)、PLD(Pulsed Laser Deposition)等の真空装置用ヒーター装置、サセプタ、載置台等の保持装置に共通する課題である。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、対象物を保持する保持装置において、セラミックス基板の反りを抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、対象物を保持する保持装置が提供される。この保持装置は、第1面と、前記第1面の裏面である第2面と、を有する保持部と、前記保持部の前記第2面側に配置された冷却部と、前記保持部と前記冷却部との間に配置され、前記保持部と前記冷却部とを接合する接合部と、を備え、前記保持部は、セラミックスを主成分とし、前記第1面側に配置されるセラミックス基板と、無機材料を主成分とする熱伝導率が3W/(m・K)以下の無機基板であって、前記セラミックス基板に対して前記第2面側に配置された無機基板と、を有し、前記セラミックス基板の厚みは2mm以上であり、かつ前記セラミックス基板の厚み(mm)と、前記無機基板の弾性率(GPa)の積が2以上200以下である。
【0009】
この形態の保持装置によれば、無機基板の熱伝導率が3W/(m・K)以下であるため、例えば、250℃の高温稼働において、無機基板の厚みを比較的薄くしても所望の断熱性を得ることができる。これにより接合部を熱保護することができる。無機基板の厚みを薄くすることにより、セラミック基板と無機基板の下部との温度差により無機基板の内部で生じる力を小さくすることができ、セラミック基板の変形を抑制することができる。さらに、セラミックス基板の厚みが2mm以上と厚く、無機基板の弾性率とセラミックス基板の厚みの積を2以上200以下とすることにより、無機基板の内部で力が生じてもセラミックス基板は変形し難くなる。したがって、無機基板の変形をセラミックス基板により押さえつけることができ、セラミックス基板の反りを抑制することができる。
【0010】
(2)上記形態の保持装置であって、前記セラミックス基板を形成する材料と前記無機基板を形成する材料の熱膨張率の差が10ppm以下であってもよい。このようにすると、両者の熱膨張差が小さくなるため、セラミックス基板の反りを抑制することができる。
【0011】
(3)上記形態の保持装置であって、前記無機基板の厚みが5mm以下であってもよい。このようにすると、無機基板の内部で発生する力と、セラミックス基板との間で発生する力を小さくすることができ、セラミックス基板の反りをさらに抑制することができる。
【0012】
(4)上記形態の保持装置であって、前記接合部はシリコーン樹脂を主成分としてもよい。このようにすると、接合部と保持部との剥がれを適切に抑制することができる。
【0013】
(5)上記形態の保持装置であって、前記セラミックス基板の厚みは前記無機基板の厚みより厚くてもよい。このようにすると、セラミックス基板により、無機基板の変形をより押さえつけることができる。
【0014】
(6)上記形態の保持装置であって、前記セラミックス基板に、ヒーターが配置されてもよい。このようにすると、保持装置に保持された対象物を容易に高温にすることができる。
【0015】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、保持装置を含む半導体製造装置などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態の静電チャックの外観構成を概略的に示す説明図である。
【
図2】静電チャックのXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図3】セラミック基板および無機基板の厚みの測定方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態>
図1は、実施形態の静電チャック10の外観構成を概略的に示す説明図である。
図2は、静電チャック10のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
図1、
図2には、方向を特定するために、互いに直交するXYZ軸が示されている。
図2において、Y軸正方向は、紙面裏側に向かう方向である。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、静電チャック10は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。本実施形態における静電チャック10を、「保持装置」とも呼ぶ。
【0018】
静電チャック10は、対象物(例えばウェハW)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバー内でウェハWを固定するために使用される。静電チャック10は、上下方向(Z軸方向)に並べて配置された保持部100と、冷却部200と、保持部100と冷却部200とを接合する接合部300と、を備える。
【0019】
保持部100は、第1面S1と、第1面S1の裏面である第2面S2と、を有し、第1面S1側にセラミックス基板110が配置され、第2面S2側に無機基板120が配置されている。本実施形態において、無機基板120は、同時焼成によりセラミックス基板110に接合されている。他の実施形態では、無機基板120は、例えば、接着剤によりセラミックス基板110に接合されてもよいし、熱圧着によりセラミックス基板110に接合されてもよい。セラミックス基板110と無機基板120とを接着剤によって接合する場合には、耐熱性が高い無機材料の接着剤を用いるのが好ましい。例えば、無機基板120の形成材料と同一の材料を主成分としてもよい。このようにすると、セラミックス基板110の温度が、例えば、250℃等の高温になる場合にも用いることができる。
【0020】
セラミックス基板110は、保持部100の第1面S1である第1面S1と、第1面S1の裏面である第3面と、を有する板状部材である。詳しくは、セラミックス基板110は、略円形平面状の第1面S1を有する板状部材である第1セラミックス部112(
図1)と、第1セラミックス部112より径が大きい略円形平面状の第3面S3を有する板状部材である第2セラミックス部114と、が積層された形状であり、全体として、下に向かって(Z軸マイナス方向に向かって)階段状に拡径する板状部材である。本実施形態において、セラミックス基板110の第1面S1は、ウェハWが載置される載置面として機能する。セラミックス基板110は、いわゆるファインセラミックス、ニューセラミックスと言われるセラミックス(例えば、アルミナや窒化アルミニウム等)を主成分とする緻密体である。第1セラミックス部112の第1面S1の直径は、例えば、50mm~500mm程度(通常は200mm~350mm程度)である。
【0021】
セラミックス基板110の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された吸着電極116(
図2)が配置されている。Z軸方向視での吸着電極116の形状は、例えば略円形である。吸着電極116に電源(不図示)から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWがセラミックス基板110の第1面S1に吸着固定される。
【0022】
また、セラミックス基板110の内部には、吸着電極116よりも下側(Z軸マイナス側)に、Z軸方向視で渦巻き型のヒーター118(
図2)が配置されている。本実施形態において、ヒーター118は、タングステンやモリブデン等により形成されたメタライズ層である。ヒーター118の形状は、本実施形態に限定されず、例えば、円盤形状等でもよい。他の実施形態では、セラミックス基板110は、ヒーター118を備えなくてもよい。
【0023】
無機基板120は、セラミックス基板110の第2面S2と径が等しい略円形平面状の板状部材である。無機基板120は、無機材料を主成分とする熱伝導率が3W/(m・K)以下の板状部材である。無機基板120の熱伝導率は、セラミックス基板110より低く、断熱材として機能する。無機材料としては、例えば、ガラス・シリカ等のセラミックス基板より熱伝導率の低い材料を主成分とする天然鉱物、いわゆるファインセラミックス、ニューセラミックスと言われるセラミックスを用いることができる。すなわち、無機材料は、セラミックスと天然鉱物を含む概念である。本実施形態において無機基板120は緻密体であり、静電チャック10は良好な気密性を得ることができる。無機基板120は、熱伝導率が3W/(m・K)以下であればよく、複数の気孔を有する多孔質体であってもよい。例えば、セラミックス基板110と同一のセラミックスから成る多孔質体を、無機基板として用いてもよい。
【0024】
セラミックス基板110の厚みは2mm以上であり、かつセラミックス基板110の厚み(mm)と無機基板の弾性率(GPa)の積が2以上200以下である。このようにすると、セラミックス基板110の反りを抑制することができる。
【0025】
セラミックス基板110を形成する材料と無機基板120を形成する材料の熱膨張率の差は、特に限定されないが、10ppm以下であることが好ましい。このようにすると、セラミックス基板110と無機基板120との温度差により生じる力が小さくなるため、セラミックス基板110の反りを抑制することができる。
【0026】
無機基板120の厚さは特に限定されないが、5mm以下であることが好ましい。このようにすると、無機基板の内部で発生する力と、セラミックス基板との間で発生する力を小さくすることができ、セラミックス基板110の反りをさらに抑制することができる。
【0027】
また、セラミックス基板110の厚みは、無機基板120の厚みより厚いことがさらに好ましい。このようにすると、セラミックス基板110により無機基板120の変形を抑制することができるため、セラミックス基板110の反りをさらに抑制することができる。
【0028】
冷却部200は、セラミックス基板110より径が大きい略円形平面状の板状部材である。冷却部200は、熱伝導率が高い金属によって形成されている。例えば、アルミニウム、チタン、モリブデン、これらのそれぞれを主成分とする合金等を用いることができる。冷却部200の直径は、例えば、220mm~550mm程度(通常は220mm~350mm)であり、冷却部200の厚さは、例えば、20mm~40mm程度である。
【0029】
冷却部200の内部には冷媒流路210(
図2)が形成されている。静電チャック10の保持部100に保持されたウェハWを、プラズマを利用して加工する際、ウェハWに対してプラズマから入熱され、ウェハWの温度が上昇する。冷却部200に形成された冷媒流路210に冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)が流されると、冷却部200が冷却される。接合部300を介した冷却部200と保持部100との間の伝熱により保持部100が冷却され、保持部100の第1面S1に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度制御が実現される。他の実施形態では、冷却部は内部に冷媒流路が形成されていなくてもよく、外部から冷却してもよい。
【0030】
接合部300は、無機基板120の径と等しい略円形平面状の板状部材であり、無機基板120と冷却部200とを接合することにより、保持部100と冷却部200とを接合する。接合部300は、有機材料を主成分とする接着剤から形成されており、有機材料としては、例えば、シリコーン、アクリル、ポリイミド等を用いることができる。有機材料として、柔軟性が高く、耐熱性も有するシリコーンを用いると、例えば、250℃等の高温下で静電チャック10を使用する場合にも、剥離を抑制することができるため、好ましい。
【実施例】
【0031】
実施例により本発明を更に具体的に説明する。
上記実施形態の静電チャック10の実施例1~5と、比較例1~6を用いて、セラミック基板の反りを評価した。
【0032】
表1は、実施例1~5、および比較例1~6の諸元、およびセラミック基板の反り量を示す。表1において、後述する要件の番号とその内容を記載し、その要件を満たさないものには、数値の後ろに括弧書きで×印を付している。
【0033】
【0034】
1.保持装置の製造
実施例および比較例の保持装置は、下記の方法により製造された。
・実施例1
まず、公知の方法により、アルミナを主成分とするセラミックスグリーンシートを作製する。セラミックスグリーンシート上にヒーターや吸着用電極、ビア、通気孔を作製し、複数のセラミックグリーンシートを積層して熱圧着した後、還元雰囲気下1400℃~1600℃で焼成を行い、厚み10mmのセラミックス基板を得た。
無機基板としてロックウールおよびシリカ、アルミナを主成分とした、緻密な無機基板(熱膨張率CTE=19×10-6 1/℃)を使用した。無機基板の弾性率は18GPaであった。無機基板を所定のサイズに切断し、穴あけ加工し、所定の厚さまで研磨を行った後、シランカップリング剤を含む無機バインダーを塗布し、熱圧着によりセラミック基板と接合した。
次いで、セラミック基板と無機基板の接合体と、冷却部をシリコーン接着剤により接合することで、保持装置を得た。
・実施例2
まず、公知の方法により、アルミナを主成分とするセラミックスグリーンシートを作製する。セラミックスグリーンシート上にヒーターや吸着用電極、ビア、通気孔を作製し、複数のセラミックグリーンシートを積層して熱圧着した後、還元雰囲気下1400℃~1600℃で焼成を行い、厚み6mmのセラミックス基板を得た。
無機基板としてロックウールおよびシリカ、アルミナを主成分とした、緻密な無機基板(CTE=18×10-6 1/℃)を使用した。無機基板の弾性率は1.8GPaであった。無機基板を所定のサイズに切断し、穴あけ加工し、所定の厚さまで研磨を行った後、シランカップリング剤を含む無機バインダーを塗布し、熱圧着によりセラミック基板と接合した。
次いで、セラミック基板と無機基板の接合体と、冷却部をシリコーン接着剤により接合することで、保持装置を得た。
・実施例3
まず、公知の方法により、アルミナを主成分とするセラミックスグリーンシートを作製する。セラミックスグリーンシート上にヒーターや吸着用電極、ビア、通気孔を作製し、複数のセラミックグリーンシートを積層して熱圧着した後、還元雰囲気下1400℃~1600℃で焼成を行い、厚み6mmのセラミックス基板を得た。
無機基板としてガラスウールおよびシリカを主成分とした、緻密な無機基板(CTE=12×10-6 1/℃)を使用した。無機基板の弾性率は4GPaであった。無機基板を所定のサイズに切断し、穴あけ加工し、所定の厚さまで研磨を行った後、シランカップリング剤を含む無機バインダーを塗布し、熱圧着によりセラミック基板と接合した。
次いで、セラミック基板と無機基板の接合体と、冷却部をシリコーン接着剤により接合することで、保持装置を得た。
・実施例4
まず、公知の方法により、アルミナを主成分とするセラミックスグリーンシートを作製する。セラミックスグリーンシート上にヒーターや吸着用電極、ビア、通気孔を作製し、複数のセラミックグリーンシートを積層して熱圧着した後、還元雰囲気下1400℃~1600℃で焼成を行い、厚み2mmのセラミックス基板を得た。
無機基板としてガラスクロスおよびシリカを主成分とした、緻密な無機基板(CTE=10×10-6 1/℃)を使用した。無機基板の弾性率は6GPaであった。無機基板を所定のサイズに切断し、穴あけ加工し、所定の厚さまで研磨を行った後、シランカップリング剤を含む無機バインダーを塗布し、熱圧着によりセラミック基板と接合した。
次いで、セラミック基板と無機基板の接合体と、冷却部をシリコーン接着剤により接合することで、保持装置を得た。
・実施例5
まず、公知の方法により、アルミナを主成分とするセラミックスグリーンシートを作製する。セラミックスグリーンシート上にヒーターや吸着用電極、ビア、通気孔を作製し、複数のセラミックグリーンシートを積層して熱圧着した後、還元雰囲気下1400℃~1600℃で焼成を行い、厚み2mmのセラミックス基板を得た。
無機基板としてガラスウールおよびシリカを主成分とした、緻密な無機基板(CTE=10×10-6 1/℃)を使用した。無機基板の弾性率は1GPaであった。無機基板を所定のサイズに切断し、穴あけ加工し、所定の厚さまで研磨を行った後、シランカップリング剤を含む無機バインダーを塗布し、熱圧着によりセラミック基板と接合した。
次いで、セラミック基板と無機基板の接合体と、冷却部をシリコーン接着剤により接合することで、保持装置を得た。
・比較例1
まず、公知の方法により、アルミナを主成分とするセラミックスグリーンシートを作製する。セラミックスグリーンシート上にヒーターや吸着用電極、ビア、通気孔を作製し、複数のセラミックグリーンシートを積層して熱圧着した後、還元雰囲気下1400℃~1600℃で焼成を行い、厚み1mmのセラミックス基板を得た。
無機基板としてアルミナアースシリケートウールを押し固めた、緻密な無機基板(CTE=19×10-6 1/℃)を使用した。無機基板の弾性率は1GPaであった。無機基板を所定のサイズに切断し、穴あけ加工し、所定の厚さまで研磨を行った後、無機接着剤によってセラミック基板と接合した。
次いで、セラミック基板と無機基板の接合体と、冷却部をシリコーン接着剤により接合することで、保持装置を得た。
・比較例2
まず、公知の方法により、アルミナを主成分とするセラミックスグリーンシートを作製する。セラミックスグリーンシート上にヒーターや吸着用電極、ビア、通気孔を作製し、複数のセラミックグリーンシートを積層して熱圧着した後、還元雰囲気下1400℃~1600℃で焼成を行い、厚み1mmのセラミックス基板を得た。
無機基板として無機バインダーと共にアルミナアースシリケートウールを押し固めた、緻密な無機基板(CTE=11×10-6 1/℃)を使用した。無機基板の弾性率は1.2GPaであった。無機基板を所定のサイズに切断し、穴あけ加工し、所定の厚さまで研磨を行った後、シランカップリング剤を含む無機バインダーを塗布し、熱圧着によりセラミック基板と接合した。
次いで、セラミック基板と無機基板の接合体と、冷却部をシリコーン接着剤により接合することで、保持装置を得た。
・比較例3
まず、公知の方法により、アルミナを主成分とするセラミックスグリーンシートを作製する。セラミックスグリーンシート上にヒーターや吸着用電極、ビア、通気孔を作製し、複数のセラミックグリーンシートを積層して熱圧着した後、還元雰囲気下1400℃~1600℃で焼成を行い、厚み1mmのセラミックス基板を得た。
無機基板としてガラスウールおよびシリカを主成分とした、緻密な無機基板(CTE=11×10-6 1/℃)を使用した。無機基板の弾性率は1.2GPaであった。無機基板を所定のサイズに切断し、穴あけ加工し、所定の厚さまで研磨を行った後、シランカップリング剤を含む無機バインダーを塗布し、熱圧着によりセラミック基板と接合した。
次いで、セラミック基板と無機基板の接合体と、冷却部をシリコーン接着剤により接合することで、保持装置を得た。
・比較例4
まず、公知の方法により、アルミナを主成分とするセラミックスグリーンシートを作製する。セラミックスグリーンシート上にヒーターや吸着用電極、ビア、通気孔を作製し、複数のセラミックグリーンシートを積層して熱圧着した。
無機基板としてアルミナおよびカーボン粒子を主成分とするセラミックスグリーンシートを作製する。セラミックスグリーンシート上にビア、通気孔を作製し、上記で作製したセラミックスグリーンシート積層体に積層し、熱圧着した。
得られた積層体を、還元雰囲気下1400℃~1600℃で同時焼成を行った。無機基板の層は多孔体となり断熱機能を有するようになる。焼成後、セラミックス基板の厚みは7mmであり、無機基板の厚みは5mmであった。また無機基板はCTE=16×10-6 1/℃であり、弾性率は32GPaであった。
次いで、セラミック基板と無機基板の接合体と、冷却部をシリコーン接着剤により接合することで、保持装置を得た。
・比較例5
まず、公知の方法により、アルミナを主成分とするセラミックスグリーンシートを作製する。セラミックスグリーンシート上にヒーターや吸着用電極、ビア、通気孔を作製し、複数のセラミックグリーンシートを積層して熱圧着した。
無機基板としてアルミナおよびカーボン粒子を主成分とするセラミックスグリーンシートを作製する。セラミックスグリーンシート上にビア、通気孔を作製し、上記で作製したセラミックスグリーンシート積層体に積層し、熱圧着した。
得られた積層体を還元雰囲気下1400℃~1600℃で同時焼成を行った。無機基板の層は多孔体となり断熱機能を有するようになる。焼成後、セラミックス基板の厚みは6mmであり、無機基板の厚みは5mmであった。また無機基板はCTE=16×10-6 1/℃であり、弾性率は35GPaであった。
次いで、セラミック基板と無機基板の接合体と、冷却部をシリコーン接着剤により接合することで、保持装置を得た。
・比較例6
まず、公知の方法により、アルミナを主成分とするセラミックスグリーンシートを作製する。セラミックスグリーンシート上にヒーターや吸着用電極、ビア、通気孔を作製し、複数のセラミックグリーンシートを積層して熱圧着した。
無機基板としてアルミナ、シリカおよびカーボン粒子を主成分とするセラミックスグリーンシートを作製する。セラミックスグリーンシート上にビア、通気孔を作製し、上記で作製したセラミックスグリーンシート積層体に積層、熱圧着した。
得られた積層体を、還元雰囲気下1400℃~1600℃で同時焼成を行った。この時、セラミックス基板の厚みは2mmであり、無機基板の厚みは5.5mmであった。また無機基板はCTE=11×10-6 1/℃であり、弾性率は6GPaであった。
次いで、セラミック基板と無機基板の接合体と、冷却部をシリコーン接着剤により接合することで、保持装置を得た。
【0035】
2.各パラメータの調整方法
実施例および比較例における各パラメータは下記の方法により調整した。
・無機基板の熱伝導率
無機基板の熱伝導率は、緻密質の場合は、使用する材料組成よって調整することができ、多孔質の場合は、使用する材料組成、気孔率によって調整することができる。
・無機基板の弾性率(ヤング率)
無機基板の弾性率(ヤング率)は使用する材料組成や、不純物量、密度によって調整することができる。
・熱膨張率差
セラミックス基板は高密度のセラミックスであるため、熱膨張率を制御することは難しい。そこで、熱膨張率差は無機基板の組成および気孔率によって調整することができる。無機基板にセラミックス基板と同等の熱膨張率を有する材料を用いることで、セラミックス基板との熱膨張率差を小さくすることができる。また無機基板中の気孔率を小さくすることでも熱膨張率差を小さくすることができる。
【0036】
3.各物性の測定方法および評価方法
以下に説明する方法により、実施例および比較例の保持装置におけるセラミックス基板および無機基板の物性の測定、および保持装置の評価を行った。
【0037】
・セラミックス基板および無機基板の厚み
図3は、セラミック基板および無機基板の厚みの測定方法の説明図である。セラミックス基板および無機基板(断熱板)の厚みは、保持装置の中央部を、5mmの幅で垂直方向(Z軸方向)に切断し、得られた切断片CPを光学顕微鏡で観察することで測定した。
図3(A)は、実施形態の静電チャック10の平面構成を概略的に示しており、切断線CLを一点鎖線で図示し、切断片CPに斜線ハッチングを付して示している。測定は端部から約7cm間隔で計5点行い、セラミックス基板および無機基板のそれぞれについて、最も薄い厚みを、各基板の厚みとして選択した。
図3(B)は、切断片CPの断面構成を概略的に図示しており、測定点をP1~P5として図示している。
【0038】
・弾性率
セラミックス基板および無機基板の弾性率は、ナノインデンテーション法により測定した。シリコーン溶解剤を用いて、保持部を冷却部と分離し、保持部を適切な大きさに切断した後、セラミックス基板および無機基板のそれぞれの面に対して、弾性率(ヤング率)の測定を行った。測定はISO14577に準拠して行った。
【0039】
・熱伝導率
無機基板の熱伝導率は保持装置から無機基板の部分を切り出し、非定常平面熱源法による測定を行った。装置はRigaku製のTCiを使用し、室温(23℃)環境下で測定した。
【0040】
・熱膨張率
各材料の熱膨張率は、熱機械分析装置Thermo plus(RIGAKU製)により測定した。
【0041】
・反り(評価)
セラミックス基板表面が150℃となるようヒーター電極に通電し、冷却部には30℃の冷却水を流し水冷した状態で、セラミックス基板表面の反りを測定した。レーザー式の3次元測定機(NEXIV)を使用し、セラミックス基板表面を1cm間隔で900点測定することで反りを測定した。全測定点における最大値と最小値の差を反りとした。
【0042】
3.評価結果
表1に示すように、実施例1~5は比較例1~6と比べて保持部の反り量を抑制することができ、反り量は250μm以下であった。
【0043】
実施例1、2は、下記〔1〕~〔3〕の要件を満たしている(表1)。
〔1〕無機基板の熱伝導率が3W/(m・K)以下である。
〔2〕セラミックス基板の厚みは2mm以上である。
〔3〕セラミックス基板の厚み(mm)と、無機基板の弾性率(GPa)の積が2以上200以下である。
【0044】
実施例3は、上記〔1〕~〔3〕の要件に加え、さらに、下記〔4〕の要件を満たしている。
〔4〕セラミックス基板を形成する材料と無機基板を形成する材料の熱膨張率の差が10ppm以下である。
【0045】
実施例4、5は、上記〔1〕~〔4〕の要件に加え、さらに、下記〔5〕の要件を満たしている。
〔5〕無機基板の厚みが5mm以下である。
【0046】
これに対して、比較例1~6は、上記〔1〕~〔3〕のいずれかの要件を満たしていない。比較例1はさらに要件〔4〕、〔5〕を満たしておらず、比較例2および比較例6はさらに要件〔5〕を満たしていない。
【0047】
上述の通り、実施例1~5は、要件〔1〕~〔3〕を全て満たしている。無機基板の熱伝導率が小さいため、無機基板における高さ方向(Z軸方向)の温度勾配を抑制することができ、無機基板における内部応力の発生に伴う変形を抑制することができた。また、セラミックス基板の厚みが2mm以上であり、比較的厚いため、無機基板の変形をセラミックス基板により押さえつけることができた。さらに、セラミックス基板厚み(mm)×無機基板の弾性率(GPa)は反りの程度を示すパラメータを表しており、値が大きい程反りが大きくなる傾向を示すことを、発明者らは見出した。実施例1~5はセラミックス基板厚み(mm)×無機基板の弾性率(GPa)が2以上200以下であるため、無機基板が比較的変形しにくく、セラミックス基板の反りを抑制することができた。
【0048】
実施例3~5は、さらに、セラミックス基板と無機基板との熱膨張率の差が10ppm以下であるため、セラミックス基板と無機基板との熱膨張率差に伴う変形を抑制することができ、セラミックス基板の反りを、実施例1、2よりさらに抑制することができた。
【0049】
実施例4、5は、さらに、無機基板の厚みが5mm以下であるため、無機基板の内部で発生する応力と、無機基板とセラミックス基板との間で発生する力を小さくすることができ、セラミックス基板の反りを、実施例3よりさらに抑制することができた。
【0050】
比較例1~3は、無機基板の熱伝導率は3(W/(m・K))以下と小さいものの、セラミック基板が薄く(1mm)、セラミックス基板厚み(mm)×無機基板の弾性率(GPa)も2より小さいため、セラミックス基板の反り量が実施例1~5より大きくなった。
【0051】
比較例4はセラミックス基板の厚みは2mm以上であり(7mm)、熱伝導率も3.0(W/(m・K))と小さいものの、セラミックス基板厚み(mm)×無機基板の弾性率(GPa)が200より大きいため、セラミックス基板の反り量が実施例1~5より大きくなった。
【0052】
比較例5はセラミックス基板の厚みは2mm以上(6mm)であるものの、セラミックス基板厚み(mm)×無機基板の弾性率(GPa)が200より大きく、無機基板の熱伝導率が3(W/(m・K))以上であるため、セラミックス基板の反り量が実施例1~5より大きくなった。
【0053】
比較例6はセラミックス基板の厚みは2mm以上(2mm)であり、セラミックス基板厚み(mm)×無機基板の弾性率(GPa)が2以上200以下(12)であるものの、無機基板の熱伝導率が3(W/(m・K))以上(3.5)であるため無機基板における高さ方向(Z軸方向)の温度勾配が比較的大きく、かつ無機基板の厚みが5mm以上(5.5mm)と厚いため、無機基板の内部応力が比較的大きくなり、反り量が実施例1~5より大きくなった。
【0054】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0055】
・上記実施形態では、セラミックス基板110の第1面S1の上に対象物が保持される例を示したが、セラミックス基板110の上に、さらに別のセラミックス基板を接合し、その上に対象物が保持される構成にしてもよい。
【0056】
・上記実施形態において、保持装置として静電チャックを例示したが、保持装置は、静電チャックに限定されない。例えば、CVD、PVD、PLD(Pulsed Laser Deposition)等の真空装置用ヒーター装置、サセプタ、載置台として構成することができる。
【0057】
・上記実施形態において、保持装置として、略円形平面の板状部材の積層体を備える例を示したが、平面形状は上記実施形態に限定されない。例えば、矩形、多角形等であってもよい。
【0058】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0059】
10…静電チャック
100…保持部
110…セラミックス基板
112…第1セラミックス部
114…第2セラミックス部
116…吸着電極
118…ヒーター
120…無機基板
200…冷却部
210…冷媒流路
300…接合部
CL…切断線
CP…切断片
S1…第1面
S2…第2面
S3…第3面
W…ウェハ