(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】軟磁性粉末材とそれを用いた圧粉磁心
(51)【国際特許分類】
H01F 1/26 20060101AFI20240625BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240625BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240625BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20240625BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240625BHJP
【FI】
H01F1/26
H01F27/255
B22F1/00 Y
B22F1/102 100
B22F3/00 B
(21)【出願番号】P 2021181349
(22)【出願日】2021-11-05
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】喜多村 明
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 功太
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-069470(JP,A)
【文献】特開2002-246219(JP,A)
【文献】特開2015-005581(JP,A)
【文献】特開2018-073946(JP,A)
【文献】特開2015-128116(JP,A)
【文献】特開2014-072367(JP,A)
【文献】特開2012-230965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/20 - 1/26
H01F 27/255
B22F 1/00
B22F 1/102
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末の表面に結着性樹脂と非シリコーン系化合物の混合物が付着しており、
前記非シリコーン系化合物がオキサジン系化合物、イミド系化合物、シアネート系化合物の少なくとも1つを含み、
前記イミド系化合物がマレイミド系化合物であり、
前記結着性樹脂は、シリコーン樹脂又はアクリル樹脂であり、
前記混合物100%に対する前記結着性樹脂の量が95wt%以下50wt%以上であり、
前記混合物100%に対する前記非シリコーン
系化合物の量が50wt%以上95wt%以下で混合され、
前記軟磁性粉末に対して、前記混合物が0.06wt%以上添加されていること、
を特徴とする軟磁性粉末材。
【請求項2】
前記軟磁性粉末に対して、前記混合物が1.8wt%以下添加されている請求項1に記載の軟磁性粉末材。
【請求項3】
前記結着性樹脂は20℃で液状の樹脂である請求項1又は請求項2に記載の軟磁性粉末材。
【請求項4】
前記非シリコーン系化合物が、ベンゾオキサジン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタンから選択された1つまたは複数である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の軟磁性粉末材。
【請求項5】
請求項1乃至
4の何れかに記載の軟磁性粉末材を備え、
オキサジン系化合物、イミド系化合物、シアネート系化合物の少なくとも1つから選択された非シリコーン系化合物、及び/又は前記非シリコーン系化合物の加熱残渣が、軟磁性粉末の表面に付着している圧粉磁心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性粉末材とそれを用いた圧粉磁心に関する。
【背景技術】
【0002】
リアクトルは、OA機器、太陽光発電システム、自動車、無停電電源をはじめ、種々の用途で使用されている。このリアクトルのコアとして、例えば、圧粉磁心が使用される。圧粉磁心は、圧粉成形体を熱処理することで製造される。圧粉成形体は、例えば、粒子表面に絶縁被膜が形成された軟磁性粉末を加圧成形することにより形成される。
【0003】
この加圧成形は、10~20ton/cm2という高い圧力で行われる。そのため、軟磁性粉末間の結着力が弱いと、圧粉成形体に欠けやクラックが生じ、場合によっては、圧粉成形体の脚が完全に取れてしまうなど、所望の形状の圧粉成形体に成形できない虞がある。このような問題点を解決するために、特許文献1に示すように、軟磁性粉末にシリコーン樹脂など混合することで、圧粉成形体に欠けやクラックが発生することを抑制する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のような従来技術は、圧粉成形体における欠けやクラックの発生を抑制することに優れた効果がある。また、成形された圧粉磁心の密度を向上させることが可能となるため、得られた圧粉磁心は鉄損の低減という観点でも優れている。
【0006】
しかし、最近では、リアクトルに対する高性能化の要求に伴い、より優れた電気的、磁気的特性を有する圧粉磁心の出現が望まれている。特に、車両用のように、高温、高湿環境下においても、磁気特性の劣化が生じないリアクトルが望まれており、軟磁性粉末にシリコーン系樹脂を主成分とする樹脂を混合する従来技術では、特性向上に限界があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものである。本発明の目的は、高耐熱化、及び加湿時の磁気特性の向上を可能とした軟磁性粉末材とそれを用いた圧粉磁心を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の軟磁性粉末材は、軟磁性粉末の表面に結着性樹脂と非シリコーン系化合物の混合物が付着しており、前記非シリコーン系化合物がオキサジン系化合物、イミド系化合物、シアネート系化合物の少なくとも1つを含み、前記イミド系化合物がマレイミド系化合物であり、前記結着性樹脂は、シリコーン樹脂又はアクリル樹脂であり、前記混合物100%に対する前記結着性樹脂の量が95wt%以下50wt%以上であり、前記混合物100%に対する前記非シリコーン系化合物の量が50wt%以上95wt%以下で混合され前記軟磁性粉末に対して、前記混合物が0.06wt%以上添加されていること、を特徴とする。
【0009】
本発明は、以下のような態様を包含する。
(1)前記軟磁性粉末に対して、前記混合物が1.8wt%以下添加されている。
(2)前記結着性樹脂は20℃で液状の樹脂である。
(3)前記非シリコーン系化合物が、熱重量分析(TGA)において10℃/minの昇温速度で加熱した場合の600℃における加熱減量が80%未満である。
(4)前記非シリコーン系化合物が、ベンゾオキサジン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタンから選択された1つまたは複数である。
【0010】
本発明の圧粉磁心は、上記軟磁性粉末材を備え、オキサジン系化合物、イミド系化合物、シアネート系化合物の少なくとも1つから選択された非シリコーン系化合物、及び/又は前記非シリコーン系化合物の加熱残渣が、軟磁性粉末の表面に付着している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高耐熱化、及び加湿時の磁気特性の向上を可能とした軟磁性粉末材とそれを用いた圧粉磁心を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の圧粉磁心の製造方法を示すフローチャート。
【
図2】本発明の実施例における非シリコーン系化合物と初透磁率の関係を示すグラフ。
【
図3】第1実施例における非シリコーン系化合物の混合割合と鉄損の関係を示すグラフ。
【
図4】第2実施例における非シリコーン系化合物の混合割合と鉄損の関係を示すグラフ。
【
図5】非シリコーン系化合物とシリコーン樹脂のTGデータを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態に係る軟磁性粉末材と圧粉磁心の構成について説明する。本実施形態の軟磁性粉末材は、軟磁性粉末の表面に結着性樹脂と非シリコーン系化合物の混合物が付着している。
【0014】
(1)軟磁性粉末
軟磁性粉末としては、鉄を主成分とする軟磁性粉末であって、Fe粉末、FeSi合金粉末、FeNi合金粉末、FeSiAl合金粉末(センダスト)、純鉄粉、非晶質合金粉末、ナノ結晶合金粉末、又はこれら2種以上の粉末の混合粉などが使用できる。特に、FeSiAl合金粉末、非晶質合金粉末又はナノ結晶合金粉末が好ましい。
【0015】
これらの軟磁性粉末は保形性が良くないが、本実施形態のように結着性樹脂と非シリコーン系化合物の混合物を付着させると優れた保形性を得られる。保形性とは、プレス成形後における圧粉成形体の粉砕のしにくさをいい、保形性を向上させることで、圧粉成形体に生じるクラックや圧粉成形体が欠けることを抑制することができる。
【0016】
軟磁性粉末の平均粒子径D50は、10μm以上が好ましく、10μm~100μmがより好ましい。軟磁性粉末の平均円形度は0.895以上が好ましい。円形度がこれ以上低いと、軟磁性粉末間に空隙が生じ、密度が低下する。
【0017】
(2)非シリコーン系化合物
非シリコーン系化合物としては、オキサジン系化合物、イミド系化合物、シアネート系化合物の少なくとも1つが使用できる。
【0018】
オキサジン系化合物としては、例えば、下記のものが使用できる。
6,6’,6’’-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス(3-フェニル-3,4-ジヒドロ-2H-1,3-ベンゾオキサジン)
P-d型ベンゾオキサジン(3,3’(メチレン-1,4-ジフェニレン)ビス(3,4-ジヒドロ--2H-1,3-ベンゾオキサジン))
F-a型ベンゾオキサジン
【0019】
イミド系化合物としては、例えば、下記のものが使用できる。
ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン
ビスフェノールAビス(4-マレイミドフェニルエーテル)
1,6-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン
2,2-ビス-[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン
ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン
4,4'-ビスマレイミドジフェニルメタン
4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド
m-フェニレンビスマレイミド
【0020】
シアネート系化合物としては、例えば、下記のものが使用できる。
1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン
1,1-ビス(4-シアナトフェニル)イソブタン
2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン
2,2-ビス(4-シアナトフェニル)ブタン
2,2-ビス(4-シアナトフェニル)-4-メチルペンタン
4,4’-イソプロピリデンビス(シアナトベンゼン)
ビスフェノールAジシアナート
【0021】
前記の非シリコーン系化合物の中でも、熱重量分析(TGA)において10℃/minの昇温速度で加熱した場合の600℃における加熱減量が80%未満であるものが、圧粉磁心の熱処理温度の関係から、鉄損を減少させるために好ましい。これを充足する非シリコーン系化合物としては、
図5に示すように、ベンゾオキサジン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタンから選択された1つまたは複数の化合物が使用できる。
【0022】
前記オキサジン系化合物、イミド系化合物、シアネート系化合物の少なくとも一つに対して、他の非シリコーン系化合物を混合することも可能である。また、前記オキサジン系化合物、イミド系化合物、シアネート系化合物以外の他の非シリコーン系化合物を単独で使用することも可能である。この場合、他の非シリコーン系化合物としては、エポキシ系化合物、フェノール系化合物、アジリジン系化合物、メラミン系化合物、オキサゾリン系化合物、アゾ―ル系化合物、アジン系化合物が使用可能である。
【0023】
前記オキサジン系化合物、イミド系化合物、シアネート系化合物の少なくとも一つに対して、非シリコーン系化合物よりも少量のシリコーン系化合物を混合することも可能である。
【0024】
(3)結着性樹脂
結着性樹脂としては、シリコーン系化合物、非シリコーン系化合物など、圧粉磁心の製造にあたって使用される公知の材料が使用できるが、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂が使用することができる。
【0025】
結着性樹脂として、軟磁性粉末を結着させるに有効なシランカップリング剤などの他の添加物を使用することもできる。シランカップリング剤としては、例えば、アミノシラン系、エポキシシラン系、イソシアヌレート系、エトキシシラン系、エメキシシラン系、メトキシシラン系を使用することができ、特に、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、トリス-(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートが挙げられる。
【0026】
結着性樹脂は、20℃(常温)で液状の樹脂が好ましい。この場合、液状とは、樹脂自体が常温で液状のもの以外に、固体の樹脂が溶媒に溶解している状態の樹脂も含む。なお、溶解の場合の樹脂の量とは、液中の溶媒を除いた結着性樹脂の量である。軟磁性粉末に非シリコーン系化合物を添加して、軟磁性粉末の表面に非シリコーン系化合物を付着させる場合、結着性樹脂が液状であると、混合時に結着性樹脂が両者の表面になじんで広がり、非シリコーン系化合物が軟磁性粉末の表面全体に薄い層状に付着する。その結果、結着性樹脂が、軟磁性粉末同士、軟磁性粉末と非シリコーン系化合物間のバインダーとして効果的に機能し、軟磁性粉末材の加圧成形時に軟磁性粉末間の隙間が減少し、成形された圧粉磁心の密度が高くなる利点がある。
【0027】
非シリコーン系化合物は、結着性樹脂に対して5wt%以上95wt%以下の比率で混合される。すなわち、混合物100%に対する結着性樹脂の量が95wt%以下5wt%以上であり、混合物100%に対する非シリコーン化合物の量が5wt%以上95wt%以下で混合されている。この範囲を外れると、得られた圧粉磁心における鉄損の増加が著しい。鉄損の減少という観点からすると、結着性樹脂に対して、非シリコーン系化合物は50wt%以上95wt%以下が好ましく、50wt%以上80wt%以下がより好ましい。
【0028】
結着性樹脂と非シリコーン系化合物の混合物は、軟磁性粉末の総量に対して0.06wt%以上1.8wt%以下添加されていることが好ましく、0.06wt%以上1.2wt%以下がより好ましい。すなわち、混合物の添加量が増加すると、圧粉成形体内における樹脂量が増大し、圧粉成形体を加熱処理して圧粉磁心を製造した場合に、得られた圧粉磁心内における空隙量や樹脂の残渣が多くなり、圧粉磁心の密度が低下して、鉄損が増加する可能性がある。混合物の添加量が0.06wt%に満たない場合には、軟磁性粉末と非シリコーン系化合物を均等に混合することができず、軟磁性粉末の表面に非シリコーン系化合物を十分付着することが困難になる。
【0029】
(4)潤滑剤
本実施形態においては、軟磁性粉末と非シリコーン系化合物の混合時、及び/又は軟磁性粉末材の加圧成形時に、潤滑剤を添加することができる。潤滑剤は、軟磁性粉末を被覆した被膜層の表面を被覆する。潤滑剤としては、例えば、ステアリン酸及びその金属塩並びにエチレンビスステアルアミド、エチレンビスステアラマイド、エチレンビスステアレートアミドなどが挙げられる。潤滑剤の添加量は、軟磁性粉末に対して、0.1wt%~0.6wt%程度であることが好ましい。さらに好ましくは、潤滑剤の添加量は、軟磁性粉末に対して、0.3wt%~0.5wt%程度である。この範囲にすることで、軟磁性粉末間の滑りをより向上させることができる。
【0030】
(5)混合処理
本実施形態の軟磁性粉末材は、前記の軟磁性粉末に対して、結着性樹脂と非シリコーン系化合物、その他必要に応じて、他の樹脂や潤滑剤を混合して撹拌し、その後、所定の乾燥温度、例えば130℃で、所定時間、例えば2時間乾燥させる。この場合、非シリコーン系化合物が粉末のもの(例えば、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン)や、他の添加物が粉末の場合には、液状の結着性樹脂或いは潤滑剤を添加して混合することで、軟磁性粉末の表面に均等に非シリコーン系化合物を付着させることができる。非シリコーン系化合物は、軟磁性粉末の表面全体に層状に付着されることが好ましいが、必ずしも表面全体を覆う必要もなく、また、層状ではなく、非シリコーン系化合物が分散された状態で付着していてもよい。
【0031】
所定時間乾燥した軟磁性粉末材は、非シリコーン系化合物を介して軟磁性粉末が塊状に付着している部分を含むことから、造粒機などを使用して全体の粒子径を整える処理を施すことが好ましい。また、造粒粉末篩いで解砕し、必要とする粒子径を有する粉末状の軟磁性粉末材を得ることが好ましい。
【0032】
(6)圧粉磁心
本実施形態の圧粉磁心は、前記軟磁性粉末材を加圧成形及び熱処理することにより得られる。例えば、
図1に示すように、軟磁性粉末を製造する粉末製造工程(ステップS01)、軟磁性粉末と非シリコーン系化合物の混合工程(ステップS02)、混合された軟磁性粉末と非シリコーン系化合物の混合物の乾燥工程(ステップS03)、乾燥された軟磁性粉末材の篩分け工程(ステップS04)、軟磁性粉末材を加圧成形する成形工程(ステップS05)、及び焼鈍する熱処理工程(ステップS06)を経て製造される。
【0033】
(6-1)粉末製造工程
軟磁性粉末は、ガスアトマイズ法や水アトマイズ法あるいは水ガスアトマイズ法で製造されたものを使用することができるが、ガスアトマイズ法による軟磁性粉末は、ほぼ球状の粒子であることから、そのまま使用することが可能である。水アトマイズ法で製造された軟磁性粉末は、その表面に凹凸が形成された非球状の粒子であることから、ボールミルなどで粉砕して球状に形成した後、表面改質装置を用いて平均円形度を0.895以上とすることが好ましい。また、この軟磁性粉末は、軟磁性金属塊をゾークラッシャー、ハンマーミル、アトリションミル、スタンプミル又はボールミル加工等によって機械的に粉砕し、振動櫛等により平均粒径D50で10μm以上となるように篩い分けたものを使用することが好ましい。
【0034】
(6-2)混合工程
混合工程は、軟磁性粉末に対して、結着性樹脂と非シリコーン系化合物を添加して混合する工程である。本実施形態では、結着性樹脂として、シリコーン樹脂又はアクリル樹脂を用いた。アクリル樹脂は、アセトン、トルエン、キシレンなどの有機溶剤に溶解して添加することが好ましい。また、結着性樹脂に加えて、シランカップリング剤を添加した。本実施形態では、軟磁性粉末に対して、非シリコーン系化合物、シランカップリング剤、シリコーン樹脂又はアクリル樹脂の順で順次添加させたが、これらをすべて同時に軟磁性粉末に添加してもよい。なお、結着性樹脂と非シリコーン系化合物、及びシランカップリング剤を予め混合した上で軟磁性粉末に添加することは好ましくない。先に混合すると、軟磁性粉末に添加する前に各樹脂が反応してしまい、軟磁性粉末に均一に付着させることができない可能性がある。
【0035】
(6-3)乾燥工程
乾燥工程は、混合工程によって添加・混合された軟磁性粉末、非シリコーン系化合物、結着性樹脂(シリコーン樹脂又はアクリル樹脂)及びシランカップリング剤を乾燥させて、軟磁性粉末の表面に樹脂を付着させ、軟磁性粉末材を得る工程である。乾燥温度は、100℃以上200℃以下であることが好ましく、例えば、130℃である。温度が低いと、乾燥時間が長くなる、乾燥が不十分となるといった問題が生じる。一方、乾燥温度が高いと、樹脂の熱分解が生じ、樹脂と軟磁性粉末との付着が不十分になり、軟磁性粉末間に不要な空隙が生じる可能性がある。乾燥時間は、乾燥温度によっても異なるが、例えば、2時間である。
【0036】
(6-4)篩分け工程
篩分け工程は、表面に樹脂が付着した状態で乾燥された軟磁性粉末材を所定の粒度に選別する工程である。本実施形態では、造粒粉末篩いで解砕し、乾燥された軟磁性粉末材の粒度を揃えた。例えば、振動ふるい機(KFC-500-1DC)を用い、目開き850μmの篩の上に軟磁性粉末材を載せて、電動機(200V、0.4kW)、周波数(50Hz)という条件で30秒間振動させ、篩の下に落ちた軟磁性粉末材を後述する成形工程で使用する軟磁性粉末材として選別した。
【0037】
(6-5)成形工程
成形工程は、前記のようにして得られた軟磁性粉末材を加圧成形することにより、圧粉成形体を成形する工程である。成形工程では、加圧成型に先立ち、軟磁性粉末材に対して潤滑剤を添加し、混合することが好ましい。潤滑剤を混合することにより、粉末同士の滑りをよくすることができるので、成形密度を高くすることができる。さらに、成形時の上パンチの抜き圧低減、金型と粉末の接触によるコア壁面の縦筋の発生を防止することが可能である。潤滑剤としては、ステアリン酸、潤滑剤の混合量は、軟磁性粉末に対して0.1以上0.6wt%程度以下が好ましく、0.3wt%~0.5wt%程度がより好ましい。0.3~0.5wt%の潤滑剤を追加することで抜き圧をほぼゼロにすることができる。成形時の圧力は10~20ton/cm2であり、平均で12~15ton/cm2程度が好ましい。
【0038】
(6-6)熱処理工程
熱処理工程では、成型体を焼鈍して歪を除去する。加熱環境の温度帯としては、650℃以上850℃以下、例えば700℃が好ましい。650℃未満であると、歪除去の効果が限定的となる。850℃超であると、軟磁性粉末の表面に付着した非シリコーン系化合物が熱分解され、渦電流損失の低減効果が減殺される。加熱時間は、温度にもよるが、例えば、700℃で1時間である。
【0039】
熱処理工程は、不活性雰囲気中又は還元雰囲気中で行ってもよい。不活性雰囲気及び還元雰囲気中は、反応性ガスが低量であり、不活性ガス又は中性ガスで満たされた雰囲気である。反応性ガスは、酸素、水蒸気又は炭素ガス等である。不活性ガスは、アルゴンやヘリウム等である。中性ガスは、窒素やアンモニア等である。不活性雰囲気中で熱処理工程を行っても、圧粉磁心は良好な初透磁率を得られる。熱処理工程は、大気中などの酸素雰囲気中で行っても良い。大気中で熱処理を行うことにより、樹脂成分が熱分解して炭素として残ることがないので、機械的強度が改善できる。
【実施例】
【0040】
(1)第1実施例
第1実施例は、非シリコーン系化合物を添加した圧粉磁心が、シリコーン樹脂のみを添加した圧粉磁心に比較して、高温高湿環境下における磁気的特性が優れていることを示すものである。
【0041】
第1実施例では、平均粒子径30μmのガスアトマイズのFeSiAl合金に対して、潤滑剤としてステアリン酸0.3wt%を混合した。その後、シランカップリング剤を0.5wt%と、表1の実施例1~3、比較例1に示す量の結着性樹脂を添加し、混合した。表1におけるオキサジン系化合物としてベンゾオキサジンを、シアネート系化合物として1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタンを、イミド系化合物として4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタンを使用する。4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタンは粉末状のため、潤滑剤混合と同じタイミングでFeSiAl合金と混合した後、シランカップリング剤と結着性樹脂を添加した。それ以外の化合物は液状のため、結着性樹脂と同じタイミングで添加した。
【0042】
軟磁性粉末への混合物成分の添加量は0.72wt%であり、結着性樹脂としてはシリコーン樹脂を使用し、実施例1~3では、結着性樹脂と非シリコーン系化合物の割合は50wt%ずつである。比較例1では、結着性樹脂のシリコーンのみを添加し、非シリコーン系化合物は添加しない。軟磁性粉末と混合物を混合した後は、乾燥温度130℃で2時間乾燥させる。なお、軟磁性粉末に対する混合物の合計添加量0.72wt%は、混合物について、溶剤成分を抜いた混合物量として0.72wt%となるように混合物を調製した。
【0043】
軟磁性粉末と混合物を混合し、乾燥させた後は、得られた実施例1~3及び比較例1の軟磁性粉末材を使用して圧粉磁心を製造する。まず、乾燥された軟磁性粉末材を造粒粉末篩い(目開き850μm)で解砕し、粒径を整えた後、潤滑剤として0.2wt%のステアリン酸を混合する。潤滑剤を添加した軟磁性粉末材を金型内に充填し、成形圧力12ton/cm2で、外径16.5mm、内径11mm、高さ5mmのリング状の加圧成形体を作製した。この加圧成形体をN2雰囲気にて、700℃、2時間で熱処理を実施し、リング状の圧粉磁心を作製した。実施例1~3及び比較例1で得られた圧粉磁心の密度は表1のとおりである。
【0044】
この圧粉磁心にφ0.5mmの銅線で1次巻線17ターン、2次巻線17ターンの巻線を巻回し、高温高湿試験(温度130℃、湿度85%、時間100h)の前後による鉄損及び透磁率を測定した。透磁率及び鉄損の測定条件は、周波数100kHz、最大磁束密度Bm=100mTとした。
【0045】
鉄損については、磁気計測機器であるBHアナライザ(岩通計測株式会社:SY-8219)を用いて算出した。この算出は、鉄損の周波数曲線を次の(1)~(3)式で最小2乗法により、ヒステリシス損失係数、渦電流損失係数を算出することで行った。
【0046】
Pcv=Kh×f+Ke×f2・・(1)
Ph=Kh×f・・(2)
Pe=Ke×f2・・(3)
Pcv:鉄損
Kh:ヒステリシス損失係数
Ke:渦電流損失係数
f:周波数
Ph:ヒステリシス損失
Pe:渦電流損失
【0047】
透磁率は、鉄損の測定時に最大磁束密度Bmを設定したときの振幅透磁率とし、LCRメータ(アジレント・テクノロジー株式会社製:4284A)を使用して算出した。なお、表1に示す透磁率は、磁界の強さが0H(A/m)の時の初透磁率を示す。
【0048】
【0049】
以上の測定結果を表1及び
図2に示す。表1において、混合物成分とは、「結着性樹脂に含まれる溶媒を除いた樹脂成分」と、「非シリコーン系化合物の化合物成分(溶媒に溶けている場合は溶媒を除いた量、固体の物は固体そのものの添加量)」の合計量である。
図2は、軟磁性粉末に対する非シリコーン系化合物の添加の有無と、初透磁率の変化率の関係を示す。表1及び
図2から明らかなように、高温高湿環境に晒した後の透磁率の変化率は、比較例1に対して実施例1~3が優れていることが確認された。
【0050】
(2)第2実施例
表2に示す第2実施例は、マレイミド系化合物として4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタンを使用し、結着性樹脂としてシリコーン樹脂を使用して、両者の割合が圧粉磁心の特性にどのように関係するか、即ち、非シリコーン系化合物の添加量と圧粉磁心の特性との関係を調べたものである。実施例4~8は、本発明の請求項に規定された非シリコーン系化合物の添加量を段階的に増減させたものであり、比較例2は非シリコーン系化合物の添加量が0wt%、比較例3は結着性樹脂を添加せず、非シリコーン系化合物の添加量を100wt%としたものである。
【0051】
第2実施例では、軟磁性粉末として、平均粒子径30μmの水アトマイズの純鉄粉末に球形化処理を施した粉末を使用し、軟磁性粉末への混合物成分添加量は0.72wt%とした。その他の基本的な条件は第1実施例と同様であるが、潤滑剤の添加時期や量が異なる。以下、第2実施例の圧粉磁心の製造方法を説明する。
【0052】
平均粒子径30μmの水アトマイズの純鉄粉末に球形化処理を施した粉末に対して、シランカップリング剤を0.5wt%と、表2の実施例4~8、比較例2及び3に示す量の結着性樹脂及び非シリコーン系化合物を添加し、混合した。この場合、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタンは粉末状のため、予め純鉄粉末と混合した後、シランカップリング剤、結着性樹脂を添加した。その後、軟磁性粉末と各樹脂の混合物を、乾燥温度130℃で2時間乾燥させた。
【0053】
このようにして得られた軟磁性粉末材について、造粒粉末篩い(目開き850μm)で解砕し、潤滑剤(ステアリン酸)を0.5wt%混合し、成形圧力9.5ton/cm2で、外径16.5mm、内径11mm高さ5mmのリング状の加圧成形体を作製した。その後、この加圧成形体をN2+H2雰囲気(H2:20%)にて、700℃、1時間で熱処理を実施し、リング状の圧粉磁心を作成した。
【0054】
以下、この圧粉磁心にφ0.5mmの銅線で1次巻線17ターン、2次巻線17ターンの巻線を巻回し、鉄損及び透磁率を測定した。透磁率及び鉄損の測定条件は、周波数20kHz、最大磁束密度Bm=200mTとした。この条件で、軟磁性粉末に対して添加する樹脂成分添加量と非シリコーン化合物の添加量と、圧粉磁心の物理的特性の関係を確認する試験を行った。その結果が表2及び
図3である。この結果から明らかなように、非シリコーン系化合物を5wt%から95wt%とした実施例4~8は、非シリコーン系化合物を0wt%とした比較例2及び非シリコーン系化合物を100wt%とした比較例3に比較して、透磁率及び鉄損のいずれについても優れていることが確認された。特に、鉄損の減少という観点からすると、50wt%以上95wt%以下が優れており、50wt%以上80wt%以下が特に優れている。
【0055】
【0056】
(3)第3実施例
表3に示す第3実施例は、前記第2実施例と同様にして製造した圧粉磁心について、軟磁性粉末に対する混合物成分の添加量と圧粉磁心の物理的特性との関係を示すものである。第3実施例では、軟磁性粉末に対する混合物成分の添加量を0.06wt%から1.80wt%に段階的に変化させた実施例9~13及び実施例6について、第2実施例の実施例6と同様な条件で透磁率と鉄損を計測した。
【0057】
表3及び
図4に示すように、混合物成分の添加量が0.06wt%以上1.8wt%以下において、優れた透磁率が得られるとともに、鉄損の増加も抑えられている。特に鉄損の減少の観点からは、0.06wt%以上1.2wt%以下がより優れた効果が得られている。
【0058】
【0059】
(4)第4実施例
第4実施例は、結着性樹脂としてシリコーン樹脂以外の樹脂の使用可能性を確認したものであり、具体的にはシリコーン樹脂に代えてアクリル樹脂を使用したものである。他の部分については、第2実施例と同様な方法で圧粉磁心を製造し、第2実施例と同様な試験を実施し、透磁率と鉄損の変化を確認した。その結果、表4の実施例14に示すように、結着性樹脂としてアクリル樹脂を使用した場合においても、シリコーン樹脂を使用した場合と同等の効果が得られることが確認された。
【0060】
【0061】
(5)他の実施形態
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。上記のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。