(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 25/12 20060101AFI20240625BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20240625BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20240625BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240625BHJP
C08F 265/06 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C08L25/12
C08L51/06
C08L69/00
C08K3/04
C08F265/06
(21)【出願番号】P 2021508987
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2020010321
(87)【国際公開番号】W WO2020195798
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2019057665
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】園山 亜里紗
(72)【発明者】
【氏名】真部 友也
(72)【発明者】
【氏名】芳村 大輝
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-260948(JP,A)
【文献】国際公開第2018/174395(WO,A1)
【文献】特表2006-509101(JP,A)
【文献】特表2014-530957(JP,A)
【文献】特表2014-516104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 251/00-283/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シード、前記シード表面に形成されたコア層、及び、前記コア層表面に形成されたシェル層から構成される粒子状のグラフト共重合体、及び、マトリクス樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
前記マトリクス樹脂は、アクリロニトリル-スチレン樹脂を含み、
前記シードは、
メタクリル酸アルキルエステルを含むモノマー成分の重合体からなり、
前記シードを構成する前記重合体における芳香族ビニル化合物の含有量が0~20重量%であり、
前記シードの屈折率と、前記マトリクス樹脂の屈折率の差が0.07以上であり、
前記コア層は、少なくとも1種のアクリル酸エステルを含むモノマー成分の重合体であって架橋構造を有する重合体からなり、
前記シェル層は、
少なくとも芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むモノマー成分の重合体からなり、
前記グラフト共重合体は、下記式(1)及び式(2)を満足
し、
前記グラフト共重合体が、前記マトリクス樹脂と前記グラフト共重合体の合計に対して占める重量割合が1~60重量%である、熱可塑性樹脂組成物。
300≦2
×r2≦700 (1)
40≦r2-r1≦210 (2)
(式中、r1は前記シードの半径(nm)を表し、r2は前記シードと前記コア層から構成される粒子の半径(nm)を表す。)
【請求項2】
前記コア層が、前記グラフト共重合体中に占める重量割合が83重量%以下である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記シードが、(メタ)アクリル酸エステル80~100重量%及び芳香族ビニル化合物0~20重量%を重合してなる重合体からなる、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記シードが、メタクリル酸アルキルエステル40~100重量%、アクリル酸アルキルエステル0~35重量%、芳香族ビニル化合物0~10重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他のモノマー0~15重合%を重合してなる重合体からなる、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記シードを構成する重合体が、架橋構造を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記コア層が、互いに異なる2種以上の層から構成される、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記マトリクス樹脂が、ポリカーボネート樹脂をさらに含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記アクリロニトリル-スチレン樹脂と前記ポリカーボネート樹脂の重量比が、25:75~5:95である、請求項
7に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記グラフト共重合体が、前記マトリクス樹脂と前記グラフト共重合体の合計に対して占める重量割合が2~20重量%である、請求項
7又は
8に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
下記試験片作製条件に従って作製された、長さ63.5mm、幅12.7mm、厚さ3.2mm、vノッチ付きの試験片1について、下記測定条件に従って測定されるIzod衝撃強度が、30kJ/m
2以上である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[試験片作製条件]:
(a)粘度平均分子量19,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(帝人(株)製パンライトL-1225WX)74.4重量部
(b)アクリロニトリル-スチレン樹脂(旭化成(株)製STYLAC T8701)16重量部
(c)前記グラフト共重合体9重量部
(d)カーボンブラック30重量%含有ポリカーボネート樹脂マスターバッチ(濤和化学(株)製)0.65重量部
前記(a)~(d)の混合物を、バレル温度200~250℃に加熱した二軸押出機(株式会社日本製鋼所社製TEX44SS)にてスクリュー回転数100rpmの条件で混錬し、押出ペレットを得る。このペレットを熱風乾燥機にて80℃で5時間乾燥し、射出成形機(ファナック(株)社製FAS100B)にて成形温度250℃、金型温度70℃の条件で試験片を作製する。
[測定条件]:
ASTM D256規格に準拠する方法によって、10℃でのIzod衝撃強度を測定する。
【請求項11】
請求項
10に記載の試験片作製条件に従って作製された、ASTM D638規格のダンベル型、厚さ3.2mmの試験片2について、下記測定条件に従って測定されるL値が、20以下である、請求項1~
10のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[測定条件]:
JIS K8722規格に準じ、日本電色工業社製の色差計(型式:SE-2000)にて反射L値を測定する。
【請求項12】
請求項
10に記載の試験片作製条件中の手順に従って作製された押出ペレットについて、下記測定条件に従って測定されるMFR値が、21以上である、請求項1~
11のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[測定条件]:
JIS K7210 A法に準じ、前記押出ペレットを熱風乾燥機にて80℃で5時間乾燥させた後、測定温度260℃、荷重5kgの条件にてMFR値を測定する。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物が成形されてなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂の耐衝撃性を改良する技術として、ゴム成分を含むグラフト共重合体を熱可塑性樹脂に配合する方法が知られている。
【0003】
しかし、このようなゴム含有グラフト共重合体を配合した熱可塑性樹脂組成物から成形体を作製すると、グラフト共重合体によって成形体の色合いが変化して、発色性が低下する場合があった。
【0004】
耐衝撃性を改善しつつ、良好な発色性を有する熱可塑性樹脂組成物を得るためには、マトリクス樹脂とグラフト共重合体の屈折率差を低減する方法が一般的である。その場合に好適なグラフト共重合体として、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン樹脂(MBS)が広く使用されている。しかし、MBSはブタジエンゴムを含むものであるため、紫外線劣化等を受けやすく、それによる耐衝撃性や発色性の悪化が課題となって、用途が屋内でのものに制限される傾向がある。
【0005】
このような制限を有するブタジエンゴムではなく、アクリルゴムを含むグラフト共重合体も知られている。
【0006】
特許文献1では、アクリルゴムを含むグラフト共重合体であるASA(アクリロニトリル-アクリレート-スチレン)系グラフト共重合体と、マトリクス樹脂を含有する樹脂組成物が開示されている。ここでは、シード、コア層及びシェル層から構成されるグラフト共重合体のシード及びシェル層の屈折率と、マトリクス樹脂の屈折率の差を小さく、0.035未満になるように、シードとシェル層のモノマー組成を選択する一方、マトリクス樹脂との屈折率差が大きいコアの厚み(r2-r1)を薄くすることで、発色性を改善したことが記載されている。
【0007】
一方、自動車内外装用途などで使用される成形体に用いる熱可塑性樹脂として、スチレン-アクリロニトリル共重合体や、これとポリカーボネート樹脂のアロイを用いることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の方法によると、シードとマトリクス樹脂の屈折率差を小さくする必要があるため、シードのモノマー組成が限定されることになる。しかし、特許文献1に記載のシードの組成では重合速度が遅く、特に大粒径のシードを製造しようとすると生産性が低下するという欠点があった。加えて、耐衝撃性を確保する機能を有するコア層の厚みを薄くする必要があるため、耐衝撃性が低下する傾向があった。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、グラフト共重合体とマトリクス樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物において、グラフト共重合体のシードとマトリクス樹脂の屈折率差を低減することなく、優れた耐衝撃性と発色性を示す熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、自動車内外装用途などで幅広く使用されているスチレン-アクリロニトリル共重合体を含むマトリクス樹脂に対し配合することで、優れた耐衝撃性と発色性を発揮し得るグラフト共重合体を検討した。その結果、シード、コア層及びシェル層から構成されるグラフト共重合体において、シードとコア層から構成される粒子の直径と、コア層の厚みをそれぞれ特定範囲に設定することで、シードとマトリクス樹脂の屈折率差を低減するようなシードのモノマー組成を採用しなくとも、優れた耐衝撃性と発色性を発揮し得ることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、シード、前記シード表面に形成されたコア層、及び、前記コア層表面に形成されたシェル層から構成される粒子状のグラフト共重合体、及び、マトリクス樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、前記マトリクス樹脂は、アクリロニトリル-スチレン樹脂を含み、前記シードは、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、及びシアン化ビニル化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含むモノマー成分の重合体からなり、前記シードの屈折率と、前記マトリクス樹脂の屈折率の差が0.07以上であり、前記コア層は、少なくとも1種のアクリル酸エステルを含むモノマー成分の重合体であって架橋構造を有する重合体からなり、前記シェル層は、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、及びシアン化ビニル化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含むモノマー成分の重合体からなり、前記グラフト共重合体は、下記式(1)及び式(2)を満足する、熱可塑性樹脂組成物に関する。
300≦2xr2≦700 (1)
40≦r2-r1≦210 (2)
(式中、r1は前記シードの半径(nm)を表し、r2は前記シードと前記コア層から構成される粒子の半径(nm)を表す。)
【0013】
好ましくは、前記コア層が、前記グラフト共重合体中に占める重量割合が83重量%以下である。好ましくは、前記シードが、(メタ)アクリル酸エステル80~100重量%及び芳香族ビニル化合物0~20重量%を重合してなる重合体からなる。好ましくは、前記シードにおける前記(メタ)アクリル酸エステルが、メタクリル酸アルキルエステルを含む。好ましくは、前記シードを構成する重合体が、架橋構造を有する。好ましくは、前記コア層が、互いに異なる2種以上の層から構成される。好ましくは、前記シェル層が、少なくとも芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を重合してなる重合体からなる。好ましくは、前記グラフト共重合体が、前記マトリクス樹脂と前記グラフト共重合体の合計に対して占める重量割合が3~50重量%である。
【0014】
好ましくは、前記マトリクス樹脂が、ポリカーボネート樹脂をさらに含む。好ましくは、前記アクリロニトリル-スチレン樹脂と前記ポリカーボネート樹脂の重量比が、25:75~5:95である。好ましくは、前記グラフト共重合体が、前記マトリクス樹脂と前記グラフト共重合体の合計に対して占める重量割合が3~15重量%である。
【0015】
また本発明は、前記熱可塑性樹脂組成物が成形されてなる成形体にも関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、グラフト共重合体とマトリクス樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物において、グラフト共重合体のシードとマトリクス樹脂の屈折率差を低減することなく、優れた耐衝撃性と発色性を示す熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。また、本発明の好適な実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、溶融時の流動性に優れており、そのため、薄肉成形や大型の成形体にも容易に対応することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0018】
(熱可塑性樹脂組成物)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、マトリクス樹脂と、耐衝撃性改良剤としてグラフト共重合体を含有するものである。マトリクス樹脂とグラフト共重合体の使用比率は特に限定されず、マトリクス樹脂の組成に応じて適宜設定することができる。優れた耐衝撃性を発揮しながら、良好な発色性も確保する観点から、マトリクス樹脂とグラフト共重合体の合計に対して占めるグラフト共重合体の重量割合は、通常、1~60重量%の範囲であって良い。より具体的に述べると、マトリクス樹脂がアクリロニトリル-スチレン樹脂のみからなる場合には、前記重量割合は、5~55重量%が好ましく、10~50重量%がより好ましく、15~45重量%が更に好ましい。また、マトリクス樹脂がアクリロニトリル-スチレン樹脂とポリカーボネート樹脂の混合物からなる場合には、前記重量割合は、2~20重量%が好ましく、3~19重量%がより好ましく、4~18重量%が更に好ましく、5~17重量%が特に好ましい。
【0019】
(マトリクス樹脂)
本発明におけるマトリクス樹脂は、少なくとも、アクリロニトリル-スチレン樹脂を含む。該アクリロニトリル-スチレン樹脂(略称AS樹脂、別名SANプラスチック)は、アクリロニトリルとスチレンの共重合体であり、透明性や耐熱性に優れた熱可塑性樹脂として知られている樹脂である。
【0020】
本発明におけるマトリクス樹脂は、アクリロニトリル-スチレン樹脂のみからなるものであってもよいし、アクリロニトリル-スチレン樹脂以外の熱可塑性樹脂をさらに含有するものであっても良い。
【0021】
アクリロニトリル-スチレン樹脂以外の熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂等が挙げられる。これらは1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0022】
なかでも、ポリカーボネート樹脂が好ましい。ポリカーボネート樹脂は、2価以上のフェノール系化合物と、ホスゲンまたはジフェニルカーボネート等の炭酸ジエステル化合物とを反応させて得られるものが好ましい。
【0023】
前記2価以上のフェノール系化合物としては特に限定されないが、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-(4-イソプロピルフェニル)メタン、ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1-ナフチル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1-フェニル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2-メチル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1-エチル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、4-メチル-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ノナン、1,10-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンなどのジヒドロキシジアリールアルカン類、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロデカンなどのジヒドロキシジアリールシクロアルカン類、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)スルホンなどのジヒドロキシジアリールスルホン類、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エーテルなどのジヒドロキシアリールエーテル類、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンなどのジヒドロキシジアリールケトン類、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルフィドなどのジヒドロキシジアリールスルフィド類、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシドなどのジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルなどのジヒドロキシジフェニル類、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどのジヒドロキシアリールフルオレン類などが挙げられる。また、上記2価フェノール化合物以外に、ヒドロキノン、レゾルシノール、メチルヒドロキノンなどのジヒドロキシベンゼン類、1,5-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレンなどのジヒドロキシナフタレン類などが2価のフェノール系化合物として使用できる。
【0024】
3価以上のフェノール系化合物も、得られるポリカーボネート樹脂が熱可塑性を維持する範囲で使用できる。前記3価以上のフェノール系化合物の例としては、2,4,4’-トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,4,4’-トリヒドロキシフェニルエーテル、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシフェニルエーテル、2,4,4’-トリヒドロキシジフェニル-2-プロパン、2,2’-ビス(2,4-ジヒドロキシ)プロパン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシジフェニルメタン、2,4,4’-トリヒドロキシジフェニルメタン、1-[α-メチル-α-(4’-ジヒドロキシフェニル)エチル]-3-[α’,α’-ビス(4”-ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、1-[α-メチル-α-(4’-ジヒドロキシフェニル)エチル]-4-[α’,α’-ビス(4”-ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、α,α’,α”-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリイソプロピルベンゼン、2,6-ビス(2-ヒドロキシ-5’-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4’-ヒドロキシフェニル)-2-ヘプテン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4’-ヒドロキシフェニル)-2-ヘプタン、1,3,5-トリス(4’-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス[4,4-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル]プロパン、2,6-ビス(2’-ヒドロキシ-5’-イソプロピルベンジル)-4-イソプロピルフェノール、ビス[2-ヒドロキシ-3-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルベンジル)-5-メチルフェニル]メタン、ビス[2-ヒドロキシ-3-(2’-ヒドロキシ-5’-イソプロピルベンジル)-5-メチルフェニル]メタン、テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、トリス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2’,4’,7-トリヒドロキシフラバン、2,4,4-トリメチル-2’,4’,7-トリヒドロキシフラバン、1,3-ビス(2’,4’-ジヒドロキシフェニルイソプロピル)ベンゼン、トリス(4’-ヒドロキシフェニル)-アミル-s-トリアジンなどが挙げられる。
【0025】
これらの2価以上のフェノール系化合物は、それぞれ単独で用いても良く、2種以上を組み合わせても良い。
【0026】
ポリカーボネート樹脂には、必要に応じて、3価以上のフェノール系化合物以外にも、分岐ポリカーボネート系樹脂にするための成分を、熱可塑性を損なわない範囲で含有させることができる。前記分岐ポリカーボネート系樹脂を得るために用いられる3価以上のフェノール系化合物以外の成分(分岐剤)としては、例えば、フロログルシン、メリット酸、トリメリット酸、トリメリット酸クロリド、無水トリメリット酸、没食子酸、没食子酸n-プロピル、プロトカテク酸、ピロメリット酸、ピロメリット酸二無水物、α-レゾルシン酸、β-レゾルシン酸、レゾルシンアルデヒド、トリメチルクロリド、イサチンビス(o-クレゾール)、トリメチルトリクロリド、4-クロロホルミルフタル酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸などが挙げられる。
【0027】
ポリカーボネート樹脂の共重合成分として、この他に、例えば、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの直鎖状脂肪族2価カルボン酸を用いても良い。
【0028】
ポリカーボネート樹脂の成分として、必要に応じて、重合時の末端停止剤として使用される公知の各種のものを、本発明の効果を損なわない範囲で用いることができる。具体的には、1価フェノール系化合物である、フェノール、p-クレゾール、p-t-ブチルフェノール、p-t-オクチルフェノール、p-クミルフェノール、ブロモフェノール、トリブロモフェノール、ノニルフェノールなどが挙げられる。
【0029】
ポリカーボネート樹脂の原料として使用する炭酸ジエステル化合物としては、ジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネートや、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのジアルキルカーボネートが挙げられる。
【0030】
ポリカーボネート樹脂の好ましい具体例としては、例えば、ビスフェノールAとホスゲンとを反応させる界面重縮合法により得られるポリカーボネート樹脂、ビスフェノールAとジフェニルカーボネートとを反応させる溶融重合法により得られるポリカーボネート樹脂などが挙げられる。
【0031】
本発明において特に好ましいマトリクス樹脂は、アクリロニトリル-スチレン樹脂とポリカーボネート樹脂の混合物である。当該混合物におけるアクリロニトリル-スチレン樹脂とポリカーボネート樹脂の比率は特に限定されず、当業者が適宜設定することができるが、アクリロニトリル-スチレン樹脂:ポリカーボネート樹脂の重量比率が、50:50~1:99であることが好ましく、40:60~2:98がより好ましく、30:70~3:97がさらに好ましい。特に、優れた耐衝撃性が得られるため、25:75~5:95が最も好ましい。
【0032】
(グラフト共重合体)
本発明におけるグラフト共重合体は、シード、前記シード表面に形成されたコア層、及び、前記コア層表面に形成されたシェル層から構成される粒子状のものである。
【0033】
(シード)
シードは、グラフト共重合体を構成する粒子の最も内側に存在する小粒子であり、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、及びシアン化ビニル化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含むモノマー成分の重合体から構成される。
【0034】
前記(メタ)アクリル酸エステルとしては特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸ベンジルなどの芳香環含有(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアルキル(メタ)アクリレートなどのグリシジル(メタ)アクリレート類;アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類等が挙げられる。なお本願において、(メタ)アクリルとは、アクリルとメタクリルをまとめて表記したものである。
【0035】
前記芳香族ビニル化合物としては特に限定されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等が挙げられる。
【0036】
シアン化ビニル化合物としては特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
【0037】
これらに加えて、アクリル酸、メタクリル酸などのビニルカルボン酸類;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどのアルケン類などを併用してもよい。
【0038】
本発明は、グラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂において良好な発色性を発揮することができるが、前記シードの屈折率と前記マトリクス樹脂の屈折率の差が小さくなるように調節する必要がなく、前記屈折率の差は0.07以上である。よって、特許文献1に記載のように、前記屈折率差が0.035未満になるようにシードのモノマー組成を選択する必要がない。特に、特許文献1で開示されているスチレンを主体とするモノマー組成では、シードを形成するための重合速度が遅く、生産性が低下する問題がある。しかし、本発明では特許文献1で開示されているシードのモノマー組成を選択する必要がなく、そのような生産性低下の問題を回避することができる。また、前記屈折率差が0.07未満であると、耐衝撃性、特に低温での耐衝撃性が十分でない。前記屈折率差は、好ましくは0.08以上であり、より好ましくは0.085以上、さらに好ましくは0.09以上である。前記屈折率差の上限値については特に限定されないが、例えば0.15以下であってもよいし、0.13以下であってもよいし、0.11以下であってもよい。
【0039】
なお、前記シードの屈折率は、シードを形成するモノマーの屈折率である。シードが2種以上のモノマーから形成される場合、シードの屈折率は、各モノマーの屈折率と、シード全体に占める各モノマーの重量割合から算出する。また、マトリクス樹脂の屈折率はJIS K7142規格に準じて測定されたものである。マトリクス樹脂が混合物である場合、マトリクス樹脂の屈折率は、各樹脂の屈折率と、マトリクス樹脂全体中の各樹脂の重量割合から算出する。
【0040】
本発明の好適な実施形態によると、シードを構成する重合体は、(メタ)アクリル酸エステルを主体とする重合体であり、具体的には、(メタ)アクリル酸エステル80~100重量%及び芳香族ビニル化合物0~20重量%を重合してなる重合体である。このようなモノマー組成を有する重合体から構成されるシードは、前述したシードとマトリクス樹脂の屈折率差0.07以上を達成することが容易であり、耐衝撃性、特に低温での耐衝撃性を改善することができる。また、前記シードは、特許文献1に記載のスチレンを主体とするシードと比較して、速い速度で重合できるため、生産性を高めることができる。なお、前記各モノマーの割合は、シードを構成する重合体全体に占める各モノマーの重量割合である。より高い耐衝撃性と生産性の観点から、好ましくは(メタ)アクリル酸エステルが85重量%以上、芳香族ビニル化合物が15重量%以下であり、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステルが90重量%以上、芳香族ビニル化合物が10重量%以下であり、さらに好ましくは(メタ)アクリル酸エステルが95重量%以上、芳香族ビニル化合物が5重量%以下である。芳香族ビニル化合物が占める割合は0重量%であってもよい。
【0041】
シードにおいて用いる(メタ)アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸アルキルエステルを用いることが好ましい。シードでメタクリル酸アルキルエステルを用いることにより、シードを硬質の重合体から構成することができ、発色性の改善に有利となる。なかでも、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0042】
シードにおいて用いる(メタ)アクリル酸エステルとしては、1種又は2種以上のメタクリル酸アルキルエステルのみであってもよいし、1種又は2種以上のメタクリル酸アルキルエステルと、1種又は2種以上のアクリル酸アルキルエステルの併用であってもよい。後者は、後述する熱安定性の観点から好ましい。アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸ブチルを使用することが特に好ましい。
【0043】
本発明の特に好適な実施形態によると、シードを構成する重合体のモノマー組成は、メタクリル酸アルキルエステル40~100重量%、アクリル酸アルキルエステル0~35重量%、芳香族ビニル化合物0~10重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他のモノマー0~15重合%であることが好ましく、メタクリル酸アルキルエステル40~99.9重量%、アクリル酸アルキルエステル0.1~35重量%、芳香族ビニル化合物0~10重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他のモノマー0~15重合%であることがより好ましく、メタクリル酸アルキルエステル40~99.8重量%、アクリル酸アルキルエステル0.1~35重量%、芳香族ビニル化合物0.1~10重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他のモノマー0~15重合%であることがさらに好ましく、メタクリル酸アルキルエステル51~96.9重量%、アクリル酸アルキルエステル3.1~29重量%、芳香族ビニル化合物0~10重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他のモノマー0~10重量%であることがより更に好ましい。この範囲であれば、グラフト共重合体の熱安定性を高くでき、高温成形にも耐え得るものとなる。具体的には、主成分であるメタクリル酸アルキルエステルは高温成形時にジッピング解重合を起こしやすく、熱分解しやすいが、アクリル酸アルキルエステル、及び芳香族ビニル化合物を上記範囲で含有することにより、ジッピング解重合を抑制しやすく、熱安定性を高くすることが可能となる。
【0044】
シードは、架橋構造が導入されていない重合体から構成されていてもよいが、架橋構造を有する重合体から構成されていることが好ましい。これによって、シードを硬質の重合体から構成することができ、発色性の改善に有利となる。架橋構造を導入する方法としては特に限定されないが、例えば、モノマー成分を重合してシードを合成する際に、多官能性モノマー又はメルカプト基含有化合物等の架橋性モノマーを使用すればよい。
【0045】
前記多官能性モノマーとしては、アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレート等のアリルアルキル(メタ)アクリレート類;アリルオキシアルキル(メタ)アクリレート類;(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレート類;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン等が挙げられる。好ましくはアリルメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンであり、特に好ましくはアリルメタクリレートである。
【0046】
前記多官能性モノマーの使用比率としては、シードの重合体を構成するモノマー成分(多官能性モノマー以外のモノマー)の合計100重量部に対して、好ましくは0.01~10重量部であり、より好ましくは0.1~8重量部であり、さらに好ましくは0.5~6重量部である。
【0047】
シードがグラフト共重合体中に占める重量割合は、発色性の観点から、3~40重量%が好ましく、4~30重量%がより好ましく、5~25重量%がさらに好ましい。また、耐衝撃性付与の観点から、20重量%以下がより好ましく、15重量%以下がより好ましく、10重量%以下が特に好ましい。
【0048】
(コア層)
前記コア層は、シード粒子の表面に形成された重合体層であり、少なくとも1種のアクリル酸エステルを含むモノマー成分の重合体であって、かつ、架橋構造を有する重合体から構成される層である。このコア層が、主に、マトリクス樹脂に対して耐衝撃性を付与する機能を有する。コア層を構成する重合体は、シードを構成する重合体に対しグラフトしていることが好ましい。コア層は、シード粒子の表面の全体を被覆するものではなく、シード粒子の表面の少なくとも一部を被覆していればよい。
【0049】
コア層を構成する重合体は、アクリル酸エステルを含むモノマー成分の重合体である。アクリル酸エステルの具体例としては、シードに関して列挙したものが挙げられる。特に、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸ブチルがより好ましい。また、アクリル酸エステル以外のモノマーを併用してもよいし、併用しなくともよい。他のモノマーとしては、シードに関して列挙したモノマーの中から適宜選択できる。コア層のモノマー成分全体に対してアクリル酸エステルの重量割合は50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましく、90重量%以上が特に好ましい。
【0050】
コア層を構成する重合体は架橋構造を有するものである。架橋構造を導入する方法や、多官能性モノマーの具体例に関しては、シードに関して前述したものと同様である。コア層における多官能性モノマーの総使用比率としては、コア層の重合体を構成するモノマー成分(多官能性モノマー以外のモノマー)の合計100重量部に対して、好ましくは0.01~10重量部であり、より好ましくは0.05~5重量部であり、さらに好ましくは0.1~3重量部である。
【0051】
また、前記コア層は、単層であってもよいが、2層以上から構成される層であってもよい。本発明の好ましい実施形態によると、コア層は、互いに組成が異なる2種以上の層から構成される。この場合、コア層は、シードの表面に形成された第一コア層と、第一コア層の表面に形成された第二コア層から構成される。第一コア層及び第二コア層の組成は上述のなかから適宜選択することができる。
【0052】
好適な態様によると、コア層全体に占める第二コア層の重量割合は、好ましくは1~50重量%、より好ましくは2~30重量%、さらに好ましくは3~10重量%であり、第二コア層における多官能性モノマーの使用比率を、第一コア層における多官能性モノマーの使用比率よりも高く設定する(即ち、第二コア層の架橋密度を、第一コア層の架橋密度よりも高く設定する)。このような二層構造のコア層においては、内側に位置する第一コア層によって、主に耐衝撃性を付与する。一方、外側に位置し且つ第一コア層よりも硬質の第二コア層によって、フリーポリマーの生成を調整し、これによりグラフト共重合体の粒子同士の凝集を抑制し、マトリクス樹脂とグラフト共重合体の相溶性を向上させることができる。これによって、マトリクス樹脂中でのグラフト共重合体の分散性が向上する結果、発色性と耐衝撃性をより向上させることが可能になる。
【0053】
具体的には、第一コア層における多官能性モノマーの使用比率は、第一コア層の重合体を構成するモノマー成分(多官能性モノマー以外のモノマー)の合計100重量部に対して、好ましくは0.01~5重量部であり、より好ましくは0.05~3重量部であり、さらに好ましくは0.1~1重量部であり、第二コア層における多官能性モノマーの使用比率は、第二コア層の重合体を構成するモノマー成分(多官能性モノマー以外のモノマー)の合計100重量部に対して、好ましくは0.5~10重量部であり、より好ましくは1~5重量部であり、さらに好ましくは1.5~4重量部である。
【0054】
コア層全体がグラフト共重合体中に占める重量割合は、発色性の観点から、83重量%以下であることが好ましい。この範囲において、発色性がより改善されやすくなる。より好ましくは73重量%以下であり、さらに好ましくは63重量%以下であり、より更に好ましくは53重量%以下であり、特に好ましくは50重量%以下である。前記重量割合の下限値は、耐衝撃性付与の観点から、20重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましく、35重量%以上がさらに好ましく、40重量%以上がより更に好ましい。
【0055】
本発明のグラフト共重合体においては、シードとコア層から構成される粒子の直径と、コア層の厚みがそれぞれ特定条件を満足することが特徴である。シードとコア層から構成される粒子の直径に関しては下記式(1)で表され、コア層の厚みに関しては下記式(2)で表される。
300≦2xr2≦700 (1)
40≦r2-r1≦210 (2)
【0056】
各式中、r1は前記シードの半径(nm)を表す。r2は、前記シードと前記コア層から構成される粒子(即ち、シードとコア層が形成されてシェル層が形成される前の粒子)の半径(nm)を表す。なお、2×r1及び2×r2は、それぞれ、シードのラテックスの状態、又は、シードとコア層が形成されてシェル層が形成される前の粒子のラテックスの状態で、日機装株式会社製のMICROTRAC UPA150を用いて体積平均粒子径(nm)として測定することができる。
【0057】
前記式(1)は、シードとコア層から構成される粒子の直径(以下、粒子径ともいう)が300~700nmであることを規定している。該直径が300nm未満であると、耐衝撃性、特に低温での耐衝撃性が十分でない。該粒子径は、好ましくは320nm以上であり、より好ましくは340nm以上であり、さらに好ましくは360nm以上であり、特に好ましくは380nm以上であり、最も好ましくは400nm以上である。本発明ではこのようにコア層までの粒子径を比較的大きくすることによって、光の散乱機構をレイリー散乱からミー散乱に変更し、そのため、大粒子であるにも関わらず、良好な発色性を実現したものである。このように散乱機構をミー散乱に変更して良好な発色性を実現しているため、シードとマトリクス樹脂との屈折率差が発色性に与える影響が緩和され、特許文献1に記載のように前記屈性率差を低減しないにも関わらず、良好な発色性を実現できると推測される。前記粒子径の上限値は特に限定されないが、生産性の観点から、650nm以下が好ましく、600nm以下が好ましく、550nm以下がさらに好ましく、500nm以下がより更に好ましい。
【0058】
前記式(2)は、コア層の厚みが40~210nmであることを規定している。この比較的厚みのあるコア層によって、優れた耐衝撃性と発色性のバランスを達成することができる。前記コア層の厚みは、45~200nmが好ましく、50~180nmがより好ましく、55~160nmがさらに好ましく、60~140nmがより更に好ましく、65~130nmが特に好ましい。
【0059】
(シェル層)
シェル層は、前記コア層の表面に形成された重合体層であって、グラフト共重合体粒子の最も外側に位置する層である。該シェル層によって、グラフト共重合体とマトリクス樹脂との相溶性が向上し、樹脂組成物又はそれよりなる成形体中において、グラフト共重合体が一次粒子の状態で分散することが可能になる。シェル層を構成する重合体は、コア層を構成する重合体にグラフトしていることが好ましい。また、シェル層を構成する重合体の一部は、シードを構成する重合体にグラフトしていてもよい。シェル層は、コア層の表面の全体を被覆するものではなく、コア層の表面の少なくとも一部を被覆していればよい。
【0060】
シェル層は、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、及びシアン化ビニル化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含むモノマー成分の重合体から構成される。これらモノマーは、シードについて上述したモノマーの具体例から適宜選択することができる。
【0061】
アクリロニトリル-スチレン樹脂を含むマトリクス樹脂との相溶性を向上する観点から、シェル層を構成する重合体は、少なくとも芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を重合してなる重合体からなることが好ましい。これら2種に加えて、さらに(メタ)アクリル酸エステルを用いてもよい。芳香族ビニル化合物としてはスチレンが好ましく、シアン化ビニル化合物としてはアクリロニトリルが好ましい。
【0062】
マトリクス樹脂との相溶性の観点から、シェル層を構成する重合体全体に占める芳香族ビニル化合物の重量割合は30~95重量%が好ましく、50~90重量%がより好ましく、60~85重量%がさらに好ましい。また、シアン化ビニル化合物の重量割合は、5~70重量%が好ましく、10~50重量%がより好ましく、15~40重量%がさらに好ましい。
【0063】
シェル層がグラフト共重合体中に占める重量割合は、上述したシード及びコア層の重量割合を考慮して適宜決定できるが、シード及びコア層の割合を確保しつつマトリクス樹脂との相溶性を達成する観点から、例えば5~75重量%であってよく、10~70重量%が好ましく、20~65重量%がより好ましく、30~60重量%がさらに好ましく、40~60重量%が特に好ましい。
【0064】
シェル層は、架橋構造を有する重合体から形成されていてもよいが、架橋構造が導入されていない重合体から形成されていることが好ましい。即ち、シェル層は、多官能性モノマー等の架橋性モノマーを使用せずに合成された重合体から形成されていることが好ましい。シェル層で架橋性モノマーを使用しないことで、フリーポリマーを生成することが可能になり、マトリクス樹脂とグラフト共重合体の相溶性を向上させることができる。
【0065】
(グラフト共重合体の製造方法)
本発明のグラフト共重合体の製造方法は常法によることができるが、具体例を以下に記載する。グラフト共重合体を製造するにあたっては、まず、シードを形成する。シードは、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などによって製造することができ、例えば国際公開第2005/028546号に記載の方法を用いることができる。
【0066】
次いで、コア層を形成する。コア層は、シードの存在下で、コア層用のモノマー成分を公知のラジカル重合により重合することによって形成することができる。シードをエマルジョンとして得た場合には、コア層用のモノマー成分の重合は乳化重合法により行うことが好ましい。コア層が第一コア層と第二コア層から構成される場合、第一コア層用のモノマー成分を重合した後、第二コア層用のモノマー成分を重合すればよい。
【0067】
さらに、シェル層を形成する。シェル層は、シードとコア層からなる粒子の存在下で、シェル層用のモノマー成分を公知のラジカル重合により重合することによって形成することができる。シードとコア層が形成されてシェル層が形成される前の粒子をエマルジョンとして得た場合には、シェル層用のモノマー成分の重合は乳化重合法により行うことが好ましく、例えば、国際公開第2005/028546号に記載の方法に従って製造することができる。
【0068】
乳化重合において用いることができる乳化剤(分散剤)としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを使用可能である。また、ポリビニルアルコール、アルキル置換セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸誘導体などの分散剤を使用してもよい。上記乳化剤のうちアニオン性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、次の化合物が挙げられる:ラウリン酸カリウム、ヤシ脂肪酸カリウム、ミリスチン酸カリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸カリウムジエタノールアミン塩、オレイン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、混合脂肪酸ソーダ石けん、半硬化牛脂脂肪酸ソーダ石けん、ヒマシ油カリ石けんなどの脂肪酸石鹸;ドデシル硫酸ナトリウム、高級アルコール硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸トリエタノールアミン、ドデシル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、2-エチルヘキシル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム;ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウムなどのジアルキルスルホコハク酸ナトリウム;アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム;アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム;アルキルリン酸カリウム塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどのリン酸エステル塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩;ポリカルボン酸型高分子アニオン;アシル(牛脂)メチルタウリン酸ナトリウム;アシル(ヤシ)メチルタウリン酸ナトリウム;ココイルイセチオン酸ナトリウム;α-スルホ脂肪酸エステルナトリウム塩;アミドエーテルスルホン酸ナトリウム;オレイルザルコシン;ラウロイルザルコシンナトリウム;ロジン酸石けんなど。
【0069】
また、上記乳化剤のうち非イオン性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、次の化合物が挙げられる:ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルあるいはポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタンエステル類、ポリエチレングルコールモノラウレート、ポリエチレングルコールモノステアレート、ポリエチレングルコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、オキシエチレン/オキシプロピレンブロックコポリマーなど。
【0070】
また、上記乳化剤のうちカチオン性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、次の化合物が挙げられる:ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート、オクタデシルアミンアセテート、テトラデシルアミンアセテートなどのアルキルアミン塩;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩など。
【0071】
また、上記乳化剤のうち両性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、次の化合物が挙げられる:ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ジメチルラウリルベタインなどのアルキルベタイン;ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム;アミドベタイン;イミダゾリン;ラウリルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインなど。
【0072】
これらの乳化剤(分散剤)は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。乳化剤の使用量を調節することによって、上述したr1やr2を制御することができる。
【0073】
ポリマー粒子の水性ラテックスの分散安定性に支障を来さない限り、乳化剤(分散剤)の使用量は少なくすることが好ましい。また、乳化剤(分散剤)は、その水溶性が高いほど好ましい。水溶性が高いと、乳化剤(分散剤)の水洗除去が容易になり、最終的に得られる樹脂組成物又は成形体への悪影響を容易に防止できる。
【0074】
乳化重合法を採用する場合には、公知の開始剤、すなわち2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどを熱分解型開始剤として用いることができる。
【0075】
また、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ヘキシルパーオキサイドなどの有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物といった過酸化物と、必要に応じてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、グルコースなどの還元剤、および必要に応じて硫酸鉄(II)などの遷移金属塩、さらに必要に応じてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムなどのキレート剤、さらに必要に応じてピロリン酸ナトリウムなどのリン含有化合物などを併用したレドックス型開始剤を使用することもできる。
【0076】
レドックス型開始剤系を用いた場合には、前記過酸化物が実質的に熱分解しない低い温度でも重合を行うことができ、重合温度を広い範囲で設定できるようになり好ましい。中でもクメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物をレドックス型開始剤として用いることが好ましい。前記開始剤の使用量、レドックス型開始剤を用いる場合には前記還元剤・遷移金属塩・キレート剤などの使用量は公知の範囲で用いることができる。またラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーを重合するに際しては公知の連鎖移動剤を公知の範囲で用いることができる。追加的に界面活性剤を用いることができるが、これも公知の範囲である。
【0077】
重合に際しての重合温度、圧力、脱酸素などの条件は、公知の範囲のものが適用できる。
【0078】
本発明で使用するラジカル共重合体は、下記特性(i)-(iii)のいずれか1つ以上を満足することが好ましい。また、いずれか2以上を満足することがより好ましく、3つ全てを満足することがさらに好ましい。
【0079】
(i)下記試験片作製条件に従って作製された、長さ63.5mm、幅12.7mm、厚さ3.2mm、vノッチ付きの試験片1について、下記測定条件に従って測定されるIzod衝撃強度が、30kJ/m2以上である。好ましくは35kJ/m2以上であり、より好ましくは40kJ/m2以上であり、さらに好ましくは45kJ/m2以上である。
[試験片作製条件]:
(a)粘度平均分子量19,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(帝人(株)製パンライトL-1225WX)74.4重量部
(b)アクリロニトリル-スチレン樹脂(旭化成(株)製STYLAC T8701)16重量部
(c)前記グラフト共重合体9重量部
(d)カーボンブラック30重量%含有ポリカーボネート樹脂マスターバッチ(濤和化学(株)製)0.65重量部
前記(a)~(d)の混合物を、バレル温度200~250℃に加熱した二軸押出機(株式会社日本製鋼所社製TEX44SS)にてスクリュー回転数100rpmの条件で混錬し、押出ペレットを得る。このペレットを熱風乾燥機にて80℃で5時間乾燥し、射出成形機(ファナック(株)社製FAS100B)にて成形温度250℃、金型温度70℃の条件で試験片を作製する。
[測定条件]:
ASTM D256規格に準拠する方法によって、10℃でのIzod衝撃強度を測定する。
【0080】
(ii)前記(i)中の試験片作製条件に従って作製された、ASTM D638規格のダンベル型、厚さ3.2mmの試験片2について、下記測定条件に従って測定されるL値が、20以下である。好ましくは15以下であり、より好ましくは13以下であり、さらに好ましくは11以下であり、特に好ましくは10以下である。
[測定条件]:
JIS K8722規格に準じ、日本電色工業社製の色差計(型式:SE-2000)にて反射L値を測定する。
【0081】
(iii)前記(i)中の試験片作製条件中の手順に従って作製された押出ペレットについて、下記測定条件に従って測定されるMFR値が、21以上である。好ましくは23以上であり、より好ましくは24以上であり、さらに好ましくは25以上である。
[測定条件]:
JIS K7210 A法に準じ、前記押出ペレットを熱風乾燥機にて80℃で5時間乾燥させた後、測定温度260℃、荷重5kgの条件にてMFR値を測定する。
【0082】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、難燃剤、滑剤、抗菌剤、離型剤、核剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線安定剤、相溶化剤、顔料、染料及び無機物添加剤など任意の添加剤を配合することができる。各添加剤の配合量は当業者が適宜設定することができる。
【0083】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、原料の混合には、ヘンシェルミキサーやタンブラーミキサーなどが利用でき、溶融混練には、単軸または二軸押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、ミキシングロールなどの混練機を利用することができる。
【0084】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は各種用途に製造でき、建築用途、電気・電子用途、車輌用途等に利用することができ、例えば、パソコン、液晶ディスプレイ、プロジェクター、PDA、プリンター、コピー機、ファックス、ビデオカメラ、デジタルカメラ、携帯電話(スマートフォン)、携帯オーディオ機器、ゲーム機、DVDレコーダー、電子レンジ、炊飯器等の電気・電子用途;道路透光板、採光窓、カーポート、照明用レンズ、照明用カバー、建材用サイジング、ドア等の建築用途;ハンドル、シフトレバー、防振材等の自動車、電車の窓、表示、照明、運転席パネル等の車輌用途等に利用することができる。特に、優れた耐衝撃性と発色性を活かして、自動車内外装材、携帯電話やスマートフォンなどの電化製品の外装材、床、窓、内外壁、採光部、道路標識などの土木建築用内外装材などにおいて好適に利用することができる。
【実施例】
【0085】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0086】
(シードの屈折率)
シードの屈折率は、シードの形成時に用いた各モノマーの屈折率とその使用割合に基づいて算出した。具体的には以下のとおりである。メチルメタクリレート(以下MMAとする)の屈折率1.494、ブチルアクリレート(以下BAとする)の屈折率1.463、スチレン(以下STとする)の屈折率1.595、アクリロニトリル(以下ANとする)の屈折率1.516とし、以下の式1に基づき計算した。各モノマーの重量割合は、シード全体量に対する各モノマーの重量割合とする。
(式1)
シードの屈折率=(MMAの屈折率XMMAの重量割合/100)+(BAの屈折率XBAの重量割合/100)+(STの屈折率XSTの重量割合/100)+(ANの屈折率XANの重量割合/100)
【0087】
(マトリクス樹脂の屈折率)
AS樹脂又はポリカーボネート樹脂(以下PC樹脂とする)の2mmのプレートを用い、JIS K7142規格に準じて、アタゴ社製アッベ屈折計2Tを用いて、各樹脂の屈折率を測定した。マトリクス樹脂が混合物である場合に関しては、以下の式2に基づき計算した。
(式2)
マトリクス樹脂の屈折率=(AS樹脂の屈折率Xマトリクス樹脂全体に占めるAS樹脂の重量割合/100)+(PC樹脂の屈折率Xマトリクス樹脂全体に占めるPC樹脂の重量割合/100)
【0088】
(体積平均粒子径)
体積平均粒子径は、シードのラテックスの状態、又は、シードとコア層が形成されてシェル層が形成される前の粒子のラテックスの状態で測定した。測定装置として、日機装株式会社製のMICROTRAC UPA150を使用した。
【0089】
(重合転化率)
得られたラテックスの一部を採取・精秤し、それを熱風乾燥器中で120℃、1時間乾燥し、その乾燥後の重量を固形分量として精秤した。次に、乾燥前後の精秤結果の比率をラテックス中の固形成分比率として求めた。最後に、この固形成分比率を用いて、以下の式3により重合転化率を算出した。
(式3)
重合転化率=(仕込み原料総重量×固形成分比率-モノマー以外の原料総重量)/仕込みモノマー重量×100(%)
【0090】
(Izod衝撃強度)
各実施例及び比較例の混合物を、バレル温度200~250℃に加熱した二軸押出機(株式会社日本製鋼所社製TEX44SS)にてスクリュー回転数100rpmの条件で混錬し、押出ペレットを得た。このペレットを熱風乾燥機にて80℃で5時間乾燥し、射出成形機(ファナック(株)社製FAS100B)にて成形温度250℃、金型温度70℃の条件で、長さ63.5mm、幅12.7mm、厚さ3.2mm、vノッチ付きの試験片1を作製した。得られた試験片1について、ASTM D256規格に準拠する方法によって、-30℃、0℃、10℃、及び23℃でのIzod衝撃強度を測定した。
【0091】
(L値)
Izod衝撃強度の試験片1と同じ条件で、ASTM D638規格のダンベル型、厚さ3.2mmの試験片2を作製した。得られた試験片2について、JIS K8722規格に準じ、日本電色工業社製の色差計(型式:SE-2000)にて反射L値を測定した。なお、L値は低いほど、濃い黒色であることを示し、発色性が良いことを意味する。
【0092】
(MFR)
Izod衝撃強度に関して前述した条件で作製した押出ペレットを、JIS K7210 A法に準じ、熱風乾燥機にて80℃で5時間乾燥させた後、測定温度260℃、荷重5kgの条件にてMFR値を測定した。
【0093】
(実施例1~20及び比較例1~7)
各表に記載の重量割合に基づいてシード、コア層、及びシェル層から構成されるグラフト共重合体を作製した。作製の過程で、シードの体積平均粒子径(2×r1)、及び、又は、シードとコア層が形成されてシェル層が形成される前の粒子の体積平均粒子径(2×r2)を測定し、得られた2×r2の数値と、算出したr2-r1の数値を各表に示した。
【0094】
代表的なグラフト共重合体として、実施例6におけるグラフト共重合体を製造、取得した具体的な手順を以下に示す。また、比較例1のグラフト共重合体の製造手順についても別途後述する。なお、実施例6以外の実施例又は比較例1以外の比較例におけるグラフト共重合体の製造・取得手順は、実施例6に関する以下の記載に準ずるが、乳化剤の使用量は、シードの粒径やコア層の厚み、モノマーの使用量に応じて適宜変更した。また、グラフト共重合体におけるシード、コア層(第一コア層と第二コア層)、及びシェル層の重量割合は、各表に記載のとおりであるが、各層で使用したモノマー種は実施例6と同じで、また、各層中のモノマーの使用比率は実施例6におけるモノマーの使用比率と同じである。但し、実施例19と比較例6及び7に関してはシードで使用したモノマー種及びその使用比率を変更した。
【0095】
(実施例6のグラフト共重合体の製造)
温度計、攪拌機、還流冷却器、窒素流入口、及び、モノマーと乳化剤の添加装置を有するガラス反応器に、脱イオン水180重量部、及び、0.5重量%濃度のジオクチルスルホコハク酸ナトリウム水溶液0.023重量部を仕込み、窒素気流中で攪拌しながら60℃に昇温した。
【0096】
そこに、メチルメタクリレート(以下MMAとする)4.75重量部、ブチルアクリレート(以下BAとする)0.25重量部、アリルメタクリレート0.25重量部、及び、クメンハイドロパーオキサイド0.015重量部を混合したものを添加した。次に、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムと硫酸第一鉄を4:1の混合比で、0.5重量%濃度になるように脱イオン水で溶解した混合液を0.0033重量部と、5重量%濃度のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.04重量部を仕込んだ。その状態で60分間攪拌し、シード粒子を重合転化率97%で形成した。
【0097】
そこに、クメンハイドロパーオキサイド0.005重量部を仕込み、BA 42.5重量部、アリルメタクリレート0.2重量部の混合物を120分間かけて添加した。添加途中、重合進行度に応じてクメンハイドロパーオキサイド0.005重量部を添加した。添加後、65℃に昇温しながら60分間攪拌し、第一コア層を重合転化率98%で形成した。
【0098】
そこに、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムと硫酸第一鉄を4:1の混合比で、0.5重量%濃度になるように脱イオン水で溶解した混合液を0.0027重量部を仕込み、BA 2.5重量部、アリルメタクリレート0.06重量部、及び、クメンハイドロパーオキサイド0.0063重量部の混合物を、10分間かけて添加した。添加後60分間攪拌し、第二コア層を重合転化率99%で形成した。
【0099】
そこに、5重量%濃度のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.16重量部を仕込み、アクリロニトリル(以下ANとする)12.7重量部、スチレン(以下STとする)36.3重量部、BA1.0重量部、t-ドデシルメルカプタン0.12重量部、及び、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.2重量部を混合したものを180分間かけて添加した。添加後、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムと硫酸第一鉄を4:1の混合比で、0.5重量%濃度になるように脱イオン水で溶解した混合液を0.0051重量部、5重量%濃度のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.05重量部を仕込み10分間攪拌した。その後、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.05重量部を仕込み、20分間攪拌した。その後、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.05重量部を仕込み、40分間攪拌し、シェル層を重合転化率99.5%で形成した。以上により、シード、コア層(第一コア層と第二コア層)、及びシェル層から構成されるグラフト共重合体のラテックスを得た。
【0100】
(比較例1のグラフト共重合体の製造)
温度計、攪拌機、還流冷却器、窒素流入口、及び、モノマーと乳化剤の添加装置を有するガラス反応器に、脱イオン水155重量部、ホウ酸0.48重量部、炭酸ナトリウム0.05質量部、及び1.0重量%濃度のポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸水溶液0.016重量部を仕込み、窒素気流中で攪拌しながら50℃に昇温した。
【0101】
そこに、BA8.5重量部、アリルメタクリレート0.04重量部を混合したものを添加し、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.0017重量部を仕込んだ。次に、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムと硫酸第一鉄を4:1の混合比で、0.5重量%濃度になるように脱イオン水で溶解した混合液0.007重量部と、5重量%濃度のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.2重量部を仕込み50分間攪拌した。そこに、BA76.5重量部、アリルメタクリレート0.38重量部、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.025重量部、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸0.765重量部の混合物を、220分かけて添加した。添加途中に適宜、2重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液0.02重量部を添加した。混合物添加後、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.015重量部を添加し、45分間攪拌し、コア層を重合転化率98.5%で形成した。
【0102】
そこに、MMA13.5重量部、BA1.5重量部、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.007重量部、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸0.14重量部の混合物を、50分かけて添加した。添加途中に適宜、2重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液0.01重量部を添加した。混合物添加後、15分間攪拌し、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.015重量部を添加した。その後、15分間攪拌し、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.03重量部を添加し、更に30分間攪拌することで、シェル層を重合転化率100%で形成した。以上により、コア層と、シェル層のみから構成されるグラフト共重合体のラテックスを得た。
【0103】
(グラフト共重合体の白色樹脂粉末の取得)
脱イオン水500重量部、25重量%濃度の塩化カルシウム水溶液5重量部を70℃に昇温し、そこにグラフト共重合体のラテックスを投入し、凝固ラテックス粒子を含むスラリーを得た。その後、その凝固ラテックス粒子スラリーを95℃まで昇温し、脱水、乾燥させることにより、白色樹脂粉末としてグラフト共重合体を得た。
【0104】
(熱可塑性樹脂組成物の製造)
得られたグラフト共重合体の白色樹脂粉末と、粘度平均分子量19,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(帝人(株)製パンライトL-1225WX)、アクリロニトリル-スチレン樹脂(旭化成(株)製STYLAC T8701)、及び、カーボンブラック30重量%含有ポリカーボネート樹脂マスターバッチ(濤和化学(株)製)を、各表に記載の配合部数で混合して得られた混合物について、上述した条件に従って、Izod衝撃強度、MFR、及びL値を測定し、それらの結果を各表に示した。
【0105】
【0106】
表1の各実施例で得られた熱可塑性樹脂組成物は、10℃で測定したIzod衝撃強度が30kJ/m2以上、-30℃で測定したIzod衝撃強度が14kJ/m2以上で、かつL値が20以下であったことから、耐衝撃性と発色性の双方に優れていることが分かる。一方、シードを有しないグラフト共重合体を使用した比較例1で得られた熱可塑性樹脂組成物は、L値が21で、発色性に劣ることが分かる。また、コア層の厚みであるr2-r1が40nm未満のグラフト共重合体を使用した比較例2~4で得られた熱可塑性樹脂組成物は、10℃で測定したIzod衝撃強度が30kJ/m2未満で、耐衝撃性に劣ることが分かる。更に、シードとコア層から構成される粒子の直径である2xr2が300nm未満のグラフト共重合体を使用した比較例5で得られた熱可塑性樹脂組成物は、-30℃で測定したIzod衝撃強度が低く、低温での耐衝撃性に劣ることが分かる。
【0107】
【0108】
表2の実施例13~16は、グラフト共重合体の配合部数を変更したものであるが、いずれも良好な耐衝撃性と発色性を示した。また、実施例17及び実施例18は、マトリクス樹脂における樹脂組成を変更したものであるが、いずれも良好な耐衝撃性と発色性を示した。
【0109】
【0110】
表3の実施例19はシードの屈折率とマトリクス樹脂の屈折率の差を0.07としたもので、良好な耐衝撃性と発色性を示したのに対し、比較例6は前記屈折率の差を0.06としたもので、-30℃で測定したIzod衝撃強度が低く、低温での耐衝撃性に劣ることが分かる。
【0111】
【0112】
表4の実施例20と比較例7は、マトリクス樹脂における樹脂組成を変更したものである。実施例20はシードの屈折率とマトリクス樹脂の屈折率の差を0.073としたもので、比較例7は前記屈折率の差を0.03としたものであるが、実施例20は比較例7よりも耐衝撃性が良好であった。