(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】スキンケアのための情報の提供システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/10 20120101AFI20240625BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20240625BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20240625BHJP
G01N 21/76 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
G06Q50/10
A61B5/00 M
A61B10/00 E
G01N21/76
(21)【出願番号】P 2021513724
(86)(22)【出願日】2020-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2020016180
(87)【国際公開番号】W WO2020209377
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2019076422
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】土田 克彦
【審査官】宮地 匡人
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-515489(JP,A)
【文献】特開2000-095643(JP,A)
【文献】特表2009-540457(JP,A)
【文献】特表2006-516338(JP,A)
【文献】小林 正樹,4.超高感度CCDによるバイオフォトンイメージング,Electrochemistry,2014年04月05日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G16H 10/00-80/00
A61B 5/00
A61B 10/00
G01N 21/76
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
UPE測定部を含む端末装置と、通信部、処理部、及び記憶部を備える情報処理装置とを含む、スキンケアのための情報の提供システムであって、
端末装置のUPE測定部から測定された対象の顔のパーツ毎のUPE強度及び対象の付帯情報を、情報処理装置の通信部を介して入力し、
処理部が、予め記憶部に記憶された、対象の付帯情報により区分された顔のパーツ毎のUPE強度と、パーツ毎のUPE強度に応じたスキンケアのための情報との対応関係を参照し、入力された顔のパーツ毎のUPE強度に対応するスキンケアのための情報を決定し、
通信部を介して、入力された顔のパーツ毎のUPE強度に対応するスキンケアのための情報を端末装置に出力する
を含む、前記システム。
【請求項2】
UPE測定部を含む端末装置と、通信部、処理部、記憶部、学習部を備える情報処理装置とを含む、スキンケアのための情報の提供システムであって、
端末装置のUPE測定部から測定された対象の顔のパーツ毎のUPE強度及び対象の付帯情報を、情報処理装置の通信部を介して入力し、
予めUPE強度及び対象の付帯情報について、顔のパーツ毎の酸化特性に寄与する重みづけがされた学習部に、入力されたUPE強度及び/又は対象の付帯情報を入力し、顔のパーツ毎の酸化特性を決定し、
処理部が、予め記憶部に記憶された顔のパーツ毎の酸化特性と、酸化特性に応じたスキンケアのための情報との関係を示す表を参照し、酸化特性に応じたスキンケアのための情報を決定し、
通信部を介して、入力された顔のパーツ毎のUPE強度に対応するスキンケアのための情報を端末装置に出力する
を含む、前記システム。
【請求項3】
前記付帯情報が、性別、年齢、位置情報、スキンタイプからなる群から選択される少なくとも1の情報を含む、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記端末装置が、全顔UPEイメージング装置又は顔のパーツごとにUPE強度を測定するための光遮断用器具を備えた測定装置である、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記測定装置が、光電子増倍管を備えた装置又はカメラを備えた携帯端末装置である、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
顔のパーツ毎のUPE強度に対応したスキンケアのための情報が、パーツ毎に決定された所定の抗酸化成分又はUV阻害成分、並びにそれらの濃度に関する情報である、請求項1~5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
顔のパーツ毎のUPE強度に対応したスキンケアのための情報が、パーツ毎に決定された所定の製品、及びその使用方法に関する情報である、請求項1~5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記所定の製品が、UV阻害成分及び/又は抗酸化成分を規定の濃度で含む、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
使用方法に関する情報が、使用頻度及び使用量についての情報である、請求項7に記載のシステム。
【請求項10】
通信部を介して、パーツ毎に決定された所定の抗酸化成分又はUV阻害成分、並びにそれらの濃度に関する情報が入力される化粧品製造装置をさらに含み、
化粧品製造装置が、入力された情報に基づいて化粧品を製造する、請求項6に記載のシステム。
【請求項11】
UPE測定部を含む端末装置と、通信部、処理部、及び記憶部を備える情報処理装置とを含む、スキンケアのための情報の提供システムを制御するプログラムであって、以下の指令:
端末装置のUPE測定部から測定された対象の顔のパーツ毎のUPE強度及び対象の付帯情報を、情報処理装置の通信部を介して入力させ、
処理部に、予め記憶部に記憶された、対象の付帯情報により区分された顔のパーツ毎のUPE強度と、それに応じたスキンケアのための情報との関係を示す表を参照させ、入力された顔のパーツ毎のUPE強度に対応するスキンケアのための情報を決定させ、
通信部を介して、入力された顔のパーツ毎のUPE強度に対応するスキンケアのための情報を端末装置に出力させる
を含む、前記プログラム。
【請求項12】
UPE測定部を含む端末装置と、通信部、処理部、記憶部、学習部を備える情報処理装置とを含む、スキンケアのための情報の提供システムを制御するプログラムであって、以下の指令:
端末装置のUPE測定部から測定された対象の顔のパーツ毎のUPE強度及び対象の付帯情報を、情報処理装置の通信部を介して入力させ、
予めUPE強度及び対象の付帯情報について、顔のパーツ毎の酸化特性に寄与する重みづけがされた学習部に、入力されたUPE強度及び/又は対象の付帯情報を入力させ、顔のパーツ毎の酸化特性を決定させ、
処理部に、予め記憶部に記憶された顔のパーツ毎の酸化特性と、酸化特性に応じたスキンケアのための情報との関係を示す表を参照させ、酸化特性に応じたスキンケアのための情報を決定させ、
通信部を介して、入力された顔のパーツ毎のUPE強度に対応するスキンケアのための情報を端末装置に出力させる
を含む、前記プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔全体において測定されたUPE情報に基づくスキンケアのための情報を提供するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
UPE(Ultra-weak photon emission)とは、生体から放射される微弱な発光であり、生体内での生化学反応に伴う発光現象である。エネルギー代謝を始めとする、主に活性酸素が関与する生化学反応過程で放射される発光であり、そのメカニズムも多岐にわたる。またUPEはバイオフォトン、生物フォトン、生体極微弱発光、生体極微弱化学発光などと呼ばれることもある。
【0003】
すなわち、UPEによる発光は主に、生化学反応過程における酸化還元反応により産生されるエネルギーにより生じる。特にUPEによる発光は、活性酸素やフリーラジカルの生成を伴う生化学反応において生じ、実際の発光は、生体を構成する多様な物質の酸化的修飾過程で生じる分子の励起による。
【0004】
生体における活性酸素の産生は、生体内における代謝過程や、紫外線、放射線、薬剤、環境汚染物質などの外的要因が引き起こす酸化ストレスと深く関連している。また、生体における活性酸素の産生によるUPEの増加は、酸化ダメージなどのストレスと関連しており、例えば紫外線などの電磁波の照射によって皮膚の酸化が進むと、UPEの放出量が増加する。特に外部刺激によって増加したUPEは遅延発光と呼ばれる。
【0005】
紫外線(UV)が皮膚に与える研究の一環として、角質層や表皮に対する紫外線の透過率を測定した研究結果が報告されている(非特許文献1)。
【0006】
一方、UPEを計測する技術として、超高感度CCD(Charge Coupled Device、電荷結合素子)を用いた方法が紹介されており(非特許文献2)、光電子増倍管(PMT)を備えたフォトンカウンターを用いた方法も紹介されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Photochemistry and Photobiology Vol. 40, No. 4, pp. 485-494, 1984
【文献】Electrochemistry, 82(4), 294-298 (2014)
【文献】J Photochem Photobiol B. 2014 Oct 5;139:63-70. doi: 10.1016/j.jphotobiol.2013.10.003. Epub 2013 Oct 26.
【文献】医器学 vol. 68, No. 8 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
生体から放射される微弱な発光であり、生体内での生化学反応に伴う発光現象であるUPEを局所的に測定することが行われてきている。しかしながら、UPEの測定には、光電子増倍管(PMT)を備えたフォトカウンタや、超高感度CCD(Charge Coupled Device、電荷結合素子)を用いる必要があったため、その測定場所が限定されること、またそうして測定されたUPE強度についての情報の利用が限られていたという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、暗室下で超高感度CCD(Charge Coupled Device、電荷結合素子)を用いることにより、全顔でUPEイメージングを行う方法を開発している。こうした方法で得られた情報の活用について鋭意検討を行い、UPE情報を用いてスキンケアのための情報を提供するシステムを開発するに至った。
【0010】
そこで、本発明は下記に関する:
[1] UPE測定部を含む端末装置と、通信部、処理部、及び記憶部を備える情報処理装置とを含む、スキンケアのための情報の提供システムであって、
端末装置のUPE測定部から測定された対象の顔のパーツ毎のUPE強度及び対象の付帯情報を、情報処理装置の通信部を介して入力し、
処理部が、予め記憶部に記憶された、対象の付帯情報により区分された顔のパーツ毎のUPE強度と、パーツ毎のUPE強度に応じたスキンケアのための情報との対応関係を参照し、入力された顔のパーツ毎のUPE強度に対応するスキンケアのための情報を決定し、
通信部を介して、入力された顔のパーツ毎のUPE強度に対応するスキンケアのための情報を端末装置に出力する
を含む、前記システム。
[2] UPE測定部を含む端末装置と、通信部、処理部、記憶部、学習部を備える情報処理装置とを含む、スキンケアのための情報の提供システムであって、
端末装置のUPE測定部から測定された対象の顔のパーツ毎のUPE強度及び対象の付帯情報を、情報処理装置の通信部を介して入力し、
予めUPE強度及び対象の付帯情報について、顔のパーツ毎の酸化特性に寄与する重みづけがされた学習部に、入力されたUPE強度及び/又は対象の付帯情報を入力し、顔のパーツ毎の酸化特性を決定し、
処理部が、予め記憶部に記憶された顔のパーツ毎の酸化特性と、酸化特性に応じたスキンケアのための情報との関係を示す表を参照し、酸化特性に応じたスキンケアのための情報を決定し、
通信部を介して、入力された顔のパーツ毎のUPE強度に対応するスキンケアのための情報を端末装置に出力する
を含む、前記システム。
[3] 前記付帯情報が、性別、年齢、位置情報、及びスキンタイプからなる群から選択される少なくとも1の情報を含む、項目1又は2に記載のシステム。
[4] 前記端末装置が、全顔UPEイメージング装置又は顔のパーツごとにUPE強度を測定するための光遮断用器具を備えた測定装置である、項目1~3のいずれか一項に記載のシステム。
[5] 前記測定装置が、光電子増倍管を備えた装置又はカメラを備えた携帯端末装置である、項目4に記載のシステム。
[6] 顔のパーツ毎のUPE強度に対応したスキンケアのための情報が、パーツ毎に決定された所定の抗酸化成分又はUV阻害成分、並びにそれらの濃度に関する情報である、項目1~5のいずれか一項に記載のシステム。
[7] 顔のパーツ毎のUPE強度に対応したスキンケアのための情報が、パーツ毎に決定された所定の製品、及びその使用方法に関する情報である、項目1~5のいずれか一項に記載のシステム。
[8] 前記所定の製品が、UV阻害成分及び/又は抗酸化成分を規定の濃度で含む、項目7に記載のシステム。
[9] 使用方法に関する情報が、使用頻度及び使用量についての情報である、項目7に記載のシステム。
[10] 通信部を介して、パーツ毎に決定された所定の抗酸化成分又はUV阻害成分、並びにそれらの濃度に関する情報が入力される化粧品製造装置をさらに含み、
化粧品製造装置が、入力された情報に基づいて化粧品を製造する、項目6に記載のシステム。
[11] UPE測定部を含む端末装置と、通信部、処理部、及び記憶部を備える情報処理装置とを含む、スキンケアのための情報の提供システムを制御するプログラムであって、以下の指令:
端末装置のUPE測定部から測定された対象の顔のパーツ毎のUPE強度及び対象の付帯情報を、情報処理装置の通信部を介して入力させ、
処理部に、予め記憶部に記憶された、対象の付帯情報により区分された顔のパーツ毎のUPE強度と、それに応じたスキンケアのための情報との関係を示す表を参照させ、入力された顔のパーツ毎のUPE強度に対応するスキンケアのための情報を決定させ、
通信部を介して、入力された顔のパーツ毎のUPE強度に対応するスキンケアのための情報を端末装置に出力させる
を含む、前記プログラム。
[12] UPE測定部を含む端末装置と、通信部、処理部、記憶部、学習部を備える情報処理装置とを含む、スキンケアのための情報の提供システムを制御するプログラムであって、以下の指令:
端末装置のUPE測定部から測定された対象の顔のパーツ毎のUPE強度及び対象の付帯情報を、情報処理装置の通信部を介して入力させ、
予めUPE強度及び対象の付帯情報について、顔のパーツ毎の酸化特性に寄与する重みづけがされた学習部に、測定されたUPE強度及び/又は対象の付帯情報を入力させ、顔のパーツ毎の酸化特性を決定させ、
処理部に、予め記憶部に記憶された顔のパーツ毎の酸化特性と、酸化特性に応じたスキンケアのための情報との関係を示す表を参照させ、酸化特性に応じたスキンケアのための情報を決定させ、
通信部を介して、入力された顔のパーツ毎のUPE強度に対応するスキンケアのための情報を端末装置に出力させる
を含む、前記プログラム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、測定されたUPE情報に基づいて、スキンケアのための情報が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1Aは、通信部と、記憶部と、処理部とを備えた情報処理装置を模式的に表した図である。
図1Bは、端末装置と情報処理装置とがインターネットを介して接続されていることを模式的に表した図である。
【
図2】
図2は、端末装置から、UPE強度及び付帯情報を入力した際の、情報処理装置における処理の流れを示す模式図である。
図2の情報処理装置は学習部を含まず、記憶部に予め記憶されたパーツ毎のUPE強度と、それに応じたスキンケアのための情報との対応関係を読み出すことにより、スキンケアのための情報を決定する。
【
図3】
図3は、記憶部に記憶された付帯情報により区分されたパーツ毎のUPE強度と、スキンケアのための情報との対応関係を示す表の一例を示す。
【
図4】
図4は、教師データとしてUPE強度、付帯情報及び酸化特性を入力することにより、学習モデルを作成するための流れを示す模式図である。
【
図5】
図5は、端末装置から、UPE強度及び付帯情報を入力した際の、情報処理装置における処理の流れを示す模式図である。
【
図6】
図6は、UPE強度解析にあたり、顔のパーツの分類を示す。
【
図7】
図7は、UPEイメージングにより撮影された全顔におけるフォトン発生強度を示す写真である。
【
図8】
図8は、顔の各部位(額、眉間、目じり、上瞼、下瞼、鼻、鼻きわ、鼻下、頬、唇、顎)におけるUPE強度について、全年代(20代、30代、40代、50代、60代)の平均値を示すグラフである。
【
図9】
図9は、顎のUPE強度を100とした場合の、他の部位のUPE強度を表す。
【
図10】
図10は、上瞼及び目じりにおけるUPE強度と年齢との相関を示すグラフである。
【
図11】
図11は、20代~40代の被験者について、下瞼から目じりの領域において、UPE強度と、領域あたりのシワ数との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、スキンケアのための情報の提供システムに関する。本発明のシステムは、UPE測定部を含む端末装置と、通信部、処理部、記憶部を備える情報処理装置とを含む。本発明のシステムは、以下の工程:
端末装置のUPE測定部から測定された対象の顔のパーツ毎のUPE強度及び対象の付帯情報を、情報処理装置の通信部を介して入力し、
処理部が、予め記憶部に記憶された、対象の付帯情報により区分された顔のパーツ毎のUPE強度と、それに応じたスキンケアのための情報との対応関係を参照し、入力された顔のパーツ毎のUPE強度に対応するスキンケアのための情報を決定し、
通信部を介して、入力された顔のパーツ毎のUPE強度に対応するスキンケアのための情報を端末装置に出力する
を実行する。このシステムにより、パーツ毎のUPE強度と、対象の付帯情報とを入力することにより、対象の付帯情報により区分された顔のパーツ毎のUPE強度と、それに応じたスキンケアのための情報との関係を示す表を参照することで、UPE強度に応じたスキンケアのための情報が提供される。使用者は、スキンケアのための情報に基づいて、製品やスキンケアの方法についてアドバイスされうる。本発明のさらなる態様では、本発明のシステムを制御するプログラム又は制御する方法にも関する。さらにシステムを制御するプログラムを格納するコンピュータ可読媒体にも関する。
【0014】
本発明の別態様では、本発明のスキンケアのための情報の提供システムは、UPE測定部を含む端末装置と、通信部、処理部、学習部、及び記憶部を備える情報処理装置とを含む。本発明のシステムは、以下の:
端末装置のUPE測定部から測定された対象の顔のパーツ毎のUPE強度及び対象の付帯情報を、情報処理装置の通信部を介して入力し、
予めUPE強度及び対象の付帯情報について、顔のパーツ毎の酸化特性に寄与する重みづけがされた学習部に、入力されたUPE強度及び/又は対象の付帯情報を入力し、学習部が顔のパーツ毎の酸化特性を出力し、
処理部が、予め記憶部に記憶された顔のパーツ毎の酸化特性と、出力された酸化特性に応じたスキンケアのための情報との関係を示す表を参照し、酸化特性に応じたスキンケアのための情報を決定し、
通信部を介して、酸化特性に応じたスキンケアのための情報を端末装置に出力する
工程を実行する。このシステムは、学習部を含むことにより、パーツ毎のUPE強度と、対象の付帯情報とを入力することにより、パーツ毎の酸化特性を決定することができる。さらに本発明のシステムは、学習部により決定された酸化特性に応じて、スキンケアのための情報が提供される。使用者は、スキンケアのための情報に基づいて、製品やスキンケアの方法についてアドバイスされうる。本発明のさらなる態様では、本発明のシステムを制御するプログラム又は制御する方法にも関する。さらにシステムを制御するプログラムを格納するコンピュータ可読媒体にも関する。
【0015】
図1Aは、記憶部11、通信部12と、学習部13と、処理部14とを備えた情報処理装置10を模式的に表した図である。学習部13が、情報処理装置10内に存在していてもよいし、存在しなくてもよい。学習部13が外部の学習装置に存在し、全体としてシステムを形成していてもよい。
図1Bは、情報処理装置10に、端末装置20が接続されていることを示す。接続は、有線で接続されていてもよいし、無線で接続されていてもよい。1例として、イントラネットやインターネットを介して接続されていてもよい。端末装置20は、UPE測定部15、入力部16、出力部17、及び通信部12を備えうる。
【0016】
図2は、端末装置20から、UPE強度及び付帯情報を入力した際の、情報処理装置10における処理の流れを示す模式図である。
図2の情報処理装置10は学習部を含まず、記憶部に予め記憶されたパーツ毎のUPE強度と、それに応じたスキンケアのための情報を読み出すことにより、スキンケアのための情報を決定する。パーツ毎のUPE強度と、それに応じたスキンケアのための情報との対応関係は、一例として対応表として記憶されており、特に対象の付帯情報に応じて区分して記憶されている。
図3は、記憶部において記憶されている情報の一例を示す。対象の付帯情報に応じて区分して記憶されており、目的のパーツについてのUPE強度により、スキンケアのための情報が対応して記憶されている。通信部12から、付帯情報とUPE強度を入力される。次に、処理部14において、記憶部11に記憶される対応関係を読み出し、スキンケアのための情報が決定される。決定されたスキンケアのための情報は、通信部12を介して、端末装置20へと送信される。
【0017】
図4は、学習モデル作成にあたり、通信部12、記憶部11、処理部14及び学習部13において行われる処理の流れの一例を示す模式図である。パーツ毎のUPE強度、対象の付帯情報、並びに酸化特性とが通信部12から入力され、記憶部11に記憶されたのちに、処理部14及び学習部13において処理される。学習部13では、パーツ毎の酸化特性を目的変数とし、UPE強度及び対象の付帯情報とを説明変数として、目的変数を得るために重みづけがされた学習モデルを作成する。具体的に、説明変数と目的変数を教師データとして、ニューラルネットワークに入力し、学習させることで学習済みのモデルが作成される。学習済みの学習部13に、UPE強度と付帯情報とを入力すると、酸化特性が出力される。
【0018】
本発明のシステムが、パーツ毎のUPE強度と対象の付帯情報とを入力して、パーツ毎の酸化特性を決定する流れを
図5に示す。本発明のシステムは、構築された学習モデルを利用することができる。本発明のシステムは、情報処理装置10内に、学習モデルを含む学習部13を含んでもよいし(
図1A)、情報処理装置外に、学習モデルを含む学習部13を含み、通信部を介して接続されていてもよい。本発明の方法、評価システム、及びプログラムは、通信部12を介してパーツ毎のUPE強度と対象の付帯情報を情報処理装置10に入力することができる。入力されたパーツ毎のUPE強度と対象の付帯情報は、学習部13に入力され、学習部13がパーツ毎の酸化特性を出力する。処理部14は、記憶部11に予め記憶されたパーツ毎の酸化特性に応じたスキンケアのための情報を読み出し、通信部12にスキンケアのための情報を出力する。各工程の処理の結果は、それぞれ記憶部11に記憶してもよい。通信部12は、スキンケアのための情報に加えて、学習部13により決定された酸化特性も送信することができる。
【0019】
パーツ毎のUPE強度は、UPE測定部15を備えた端末装置20により測定することができる。端末装置20は、UPE測定部15の他に、情報処理装置10と通信を可能にする通信部12、付帯情報などを入力する入力部16、情報処理装置10により決定されたスキンケアのための情報を出力するための出力部17を含んでもよい。
【0020】
端末装置20の一例としては、UPEイメージング装置又は光電子増倍管(PMT)を備えたフォトンカウンターなどの測定装置であってもよい。さらに別の態様では、スマートフォンなどの携帯端末装置を用いてUPE強度を測定することができる。スマートフォンを用いる場合には、光遮断用器具や光電子増幅を可能とする器具を測定装置に装着してUPE強度を測定しうる。顔の部位としては、例えば額、眉間、鼻、鼻下、唇、顎、目じり、上瞼、下瞼、頬、鼻きわ等の領域が挙げられ、さらに右側、左側など細かく分類することもできる(
図6)。顔の部位に応じて、UPE強度が大きく異なることが示された(
図7A)。鼻、鼻きわ、眉間、額にかけて高いUPE強度を示すことから、酸化レベルがこれらの部位で高いことが示された。理論に限定されることを意図するものではないが、これらの部位は脂質産生量の高いことが知られており、過酸化脂質によるストレスが酸化レベルに寄与すると考えられる。
【0021】
UPEイメージング装置を用いる場合、UPE強度の測定には暗室において馴化工程を行うことができる。暗室における馴化工程は、紫外線による遅延発光の影響を排除することができる。馴化時間は、紫外線による遅延発光の影響を排除する観点から、5分以上、より好ましくは10分以上、さらに好ましくは15分以上行われうる。方法の簡易化の観点から、通常、馴化時間は、1時間以内であり、より好ましくは15分以下である。外部の影響を避けるため、二重暗室において馴化することもできる。紫外線による遅延発光の影響を排除した場合のUPE強度は、活性酸素やフリーラジカルの生成を伴う生体内の生化学反応に伴う発光現象のみを正確に反映している。皮膚においては、生化学反応が高いほど酸化レベルが高いことから、馴化工程を経て測定されたUPE強度は、皮膚の酸化レベルを示す(非特許文献4:医器学 vol. 68, No. 8 1998)。
【0022】
測定されるUPE強度は、使用する端末装置において変動しうる。したがって、個人間で変動が少ない部位でのUPE強度を対照として用いることで、UPE強度の比較が可能となる。パーツ毎のUPE強度を対照部のUPE強度により標準化することができる。対照部としては、腕、腹、背中などの非露光部を用いてもよいし、顔の部位を使用することもできる。一例として、顔部位において比較的酸化度が低く、対象間での変動の少ない顎部を使用することができる。また、非露光部は、紫外線の影響が少なく、対象間での変動が少ないために、対照部として使用しうる。
【0023】
対象の付帯情報として、酸化特性に影響する年齢、位置情報、スキンタイプ、性別等
が選択されうる。付帯情報は、端末装置20の入力部16を介して入力することができる。これらの付帯情報が、通信部12を介して情報処理装置10へと入力され、説明変数として使用されうる。年齢については、1歳区切り、2歳区切り、5歳区切りなど任意の区切りでグループ化することができる。
図10に示されるように、年齢とパーツ毎のUPE強度は相関しており、UPE強度は酸化特性に強く影響する。位置情報については、通常、居住地のついての情報が使用されるが、スマートフォンなどを用いる場合にはGPSによる位置情報に基づいて決定されてもよい。具体的には、国や地方、都市などに応じて分類されてもよいし、緯度による分類が行われてもよい。位置情報は、紫外線強度に関連し、紫外線により引き起こされる酸化特性に影響する。例えば東北地方や北海道などの高緯度地域に住む対象は紫外線暴露量が少なくなる。スキンタイプは、Fitzpatrick Skin Type分類が用いられてもよい。この分類では、紫外線を浴びた際の皮膚の反応により、スキンタイプI~VIに分類される。スキンタイプにより皮膚色が変わることから、スキンタイプのUPE強度への影響が大きく、また紫外線により引き起こされる酸化特性にも影響する。性別により、UV予防習慣や化粧習慣が異なることから、性別により酸化特性は異なりうる。
【0024】
学習モデルを用いて特定された酸化特性とは、皮膚における酸化の程度をいい、角層タンパク質の酸化状態や過酸化脂質などを測定することで決定することができる。皮膚の酸化特性の決定には、侵襲性を伴ったり、試薬を用いた試験が必要とされ、対象が容易に使用できる情報として提供されていなかった。UPEは生体内での生化学反応に伴う発光現象であることから酸化特性に密接に関わる。したがって、UPE強度を説明変数として用い、酸化特性に影響しうるその他の付帯情報を説明変数として用いることで、皮膚の酸化特性の決定に使用しうる。
【0025】
提供されるスキンケアについての情報として、一例として、部位ごとに適した美容成分及びその濃度についての情報が挙げられる。提供されるスキンケアについての情報として、さらには、そのような美容成分を含んだ、部位ごとに適した化粧料についての情報も挙げられる。このような化粧料には、美容成分として、例えば抗酸化剤、抗シワ剤、抗シミ剤などが配合されうる。また、選択された化粧料について、使用頻度や使用方法ついての情報も提供することができる。
【0026】
情報処理装置10により決定されたスキンケアについての情報に加えて、端末装置20の出力部17には、製品情報とともに、この商品を注文するための注文ボタンも表示することができる。使用者は、注文ボタンをクリックすることで、自分のパーツ毎の酸化特性に応じた化粧料の購入が可能となる。
【0027】
出力部17から出力された、スキンケアのための情報に基づいて、カウンセリングを行うことができる。カウンセリングにおいて、各パーツの酸化特性に応じて、パーツ毎に適した美容成分やその濃度、美容成分を含む化粧料の提供、さらにはそれらの使用方法が提供される。
【0028】
化粧料に含まれる美容成分としては、抗酸化剤、保湿剤、美白剤、UV阻害剤、抗炎症剤、抗シワ剤、抗シミ剤などが含まれる。UPEを減少させる観点から、抗酸化剤及びUV阻害剤が特に好ましい。UPE強度とシワとの相関が高いことから(
図11)、UPE強度が高いパーツに対しては、抗シワ剤の適用が有効である。
【0029】
化粧料に配合されうる抗酸化成分としては、例えばビタミンC、ビタミンE、βカロテン、アスタキサンチンなど、及びそれらの誘導体が挙げられる。また、植物エキスの中には抗酸化作用を示すことが知られているものがある。そのような植物エキスとしては、一例として、アロエエキス、イチョウエキス、ウーロン茶エキス、ウコンエキス、ウコン根茎エキス、ウスバサイシン根茎/根エキス、エーデルワイスエキス、オリーブ葉エキス、加水分解シルク末、カワラヨモギエキス、カワラヨモギ花エキス、カンゾウエキス、キイチゴエキス、クチナシエキス、クワエキス、ゲンチアナ根エキス、ゲンノショウコエキス、チャエキス、コーヒーエキス、ゴマエキス、コメヌカエキス、ゴレンシ葉エキス、サイシンエキス、サクラ葉エキス、シロキクラゲ多糖体、スターフルーツ葉エキス、セイヨウノコギリソウエキス、セージエキス、セージ葉エキス、センキュウエキス、トウモロコシエキス、ドクダミエキス、トマトエキス、パセリエキス、ブドウ種子エキス、ベニバナエキス、ボタンエキス、マグワ根皮エキス、マドンナリリー根エキス、メマツヨイグサ種子エキス、ユリエキス、ルイボスエキス、ローズマリーエキスなどが挙げられる。
【0030】
化粧料に配合されうるUV阻害剤としては、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、オキシベンゾン-3(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン)、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン、アボベンゾン、オクトクリレン、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、ジヒドロキシジメトキシベンゾフェノン、酸化チタン、酸化亜鉛などが挙げられる。
【0031】
通信部12は、情報処理装置10をネットワークに接続するためのLANやポート等の通信インターフェイスに関する。通信部12は、外部の装置等から受信したデータを処理部14に提供し、処理部14が処理したデータを外部の各装置へと送信する。学習部13において学習モデルを作成する際には、通信部12からの入力に代えて、別途備え付けられた入力部からデータセットを入力してもよい。
【0032】
記憶部11は、RAM、ROM、フラッシュメモリ等のメモリ装置、ハードディスクドライブ等の固定ディスク装置、又はフレキシブルディスク、光ディスク等の可搬用の記憶装置などを有する。記憶部11は、通信部12からの入力された情報や、学習部13で決定された酸化特性を記憶する他、コンピュータの各種処理に用いられるプログラム、データベース、出力フォームなどを記憶する。コンピュータプログラムは、例えばCD-ROM、DVD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体や、インターネットを介してインストールされてもよい。コンピュータプログラムは、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶部11にインストールされる。
【0033】
処理部14は、通信部12から入力された顔パーツ毎のUPE強度についての情報と、付帯情報とに基づいて、記憶部11に予め記憶されたスキンケアのための情報を読み出し、スキンケアのための情報を決定することができる。情報処理装置10が学習部13を備える場合には、通信部12から入力された顔パーツ毎のUPE強度についての情報と、付帯情報とを学習部13に入力し、学習部13により決定された酸化特性に基づき、記憶部11に予め記憶されたスキンケアのための情報を読み出し、スキンケアのための情報を決定することができる。決定されたスキンケアについての情報を通信部12から送信するように制御する。処理部14は、記憶部11に記憶しているプログラムに従って各種の演算処理を実行する。演算処理は処理部に含まれるプロセッサによりおこなわれる。このプロセッサは、記憶部11、通信部12、学習部13を制御する機能モジュールを含み、各種の制御を行うことができる。これらの各部は、それぞれ独立した集積回路、マイクロプロセッサ、ファームウェアなどで構成されてもよい。
【0034】
学習部13は、例えば、ディープラーニング等の公知の機械学習技術を用いて、UPE強度及び付帯情報と、酸化特性との関係性を学習する。ディープラーニングは、入力層、中間層及び出力層から構成される多層構造ニューラルネットワークを用いた機械学習である。入力層の各ノードには、UPE強度及び付帯情報との特徴ベクトルが入力される。中間層の各ノードは、入力層の各ノードから出力された各特徴ベクトルに重みを乗算した値の総和を出力し、さらに、出力層は、中間層の各ノードから出力された各特徴ベクトルに重みを乗算した値の総和を出力する。学習部は、各重みを調整しながら、出力層からの出力値と酸化特性データとの差分が小さくなるように学習する。
【0035】
入力部16は、インターフェイスを含む。インターフェイスは、例えば、キーボード、マウス等の操作部、CD-ROM、DVD-ROM、BD-ROM、メモリースティックなどの外部記憶装置に接続されていてもよい。対象の付帯情報が、入力部を介して入力される。また、情報処理装置10において、学習モデルを作成する際には、付帯情報、UPE強度、及び酸化特性を含むデータセットが入力部から入力されて、記憶部11に記憶されてもよい。
【0036】
出力部17は、情報処理装置10が送信するスキンケアについての情報を表示する。情報処理装置10において、決定された酸化特性についても同時に表示されうる。出力部は、液晶ディスプレイ等の表示装置、プリンタ等の出力手段であってもよいし、外部記憶装置への出力又はネットワークを介して出力するためのインターフェイス部であってもよい。
【実施例】
【0037】
実施例1:顔全体のUPEイメージング
20~60代の女性50名を被験者とした。洗顔後、二重暗室下で15分間馴化させ、冷却CCDカメラ(Spectral Instruments, Inc製:600S Series)により15分間にわたり顔全体を撮影した。撮影結果を
図7(A)に示す。冷却CCDカメラによる撮影後に、明視下で撮影した画像を撮影し、冷却CCDカメラによる撮影画像とMergeして示した(
図7(B))。鼻や鼻際、眉間額において、フォトン発生強度(photon emission intensity)が強く、UPEの発生が強いことが示された。UPE強度を、部位ごとに20代から60代まですべての被験者で平均して示した(
図8)。
【0038】
UPE強度に基づいて、顔の酸化レベルを評価することを目的として、顎部位UPEを指標として各部位を比較した(
図9)。
【0039】
実施例2:フォトン発生強度と、その他の指数との相関
上瞼及び目じりについて、フォトン発生強度と、年齢との相関性を調べたところ、相関係数がr=0.50及び0.46であった。(
図10)
【0040】
20~40代の被験者(30名)において、目じり及び下瞼のシワを、VISIA(Canfield scientific)により解析した。シワと、フォトン発生強度との相関を調べたところ、相関係数がr=0.52であった(
図11)。
【符号の説明】
【0041】
10 情報処理装置
11 記憶部
12 通信部
13 学習部
14 処理部
15 UPE測定部
16 入力部
17 出力部
20 端末装置
100 システム