(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】固体電池ならびにその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20240625BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240625BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240625BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20240625BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240625BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240625BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20240625BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M10/0562
H01M4/13
H01M10/058
H01M10/054
H01B1/06 A
C01B25/45 H
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2021539046
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(86)【国際出願番号】 DE2020000004
(87)【国際公開番号】W WO2020160719
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】102019000841.3
(32)【優先日】2019-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ラン・トゥ
(72)【発明者】
【氏名】マ・キァンリ
(72)【発明者】
【氏名】ティーツ・フランク
(72)【発明者】
【氏名】ギヨン・オリヴィエ
【審査官】窪田 陸人
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-517146(JP,A)
【文献】特開2010-218686(JP,A)
【文献】特開2008-235076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
H01B 1/06
C01B 25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電池用電極の製造方法であって、
-少なくとも、1つの緻密層ならびに1つの多孔質層を含む多層セラミック固体電解質を準備する工程と
ここで、前記緻密層は25℃での少なくとも1mS/cmのイオン全電気伝導率を有し、かつ、
ここで、前記多孔質層は、平均孔径が1~50μmである連続開孔を有し、
-電極材料の少なくとも1つの前駆体がその中に溶解状態で存在し、かつ少なくとも部分的に炭素に変換され得る少なくとも1つの有機添加物を有する水性浸潤流体を準備する工程と、
-電極材料の少なくとも1つの前駆体を有する浸潤流体を固体電解質の少なくも一つの多孔質層内に導入する工程と、
-固体電解質を、還元雰囲気中400℃~900℃の間の温度における焼結の形の熱処理にさらす工程であって、電極材料の前駆体から、細孔の表面上でin-situに電極材料を合成する工程と
を含む、製造方法。
【請求項2】
無機溶
液または、アルコール、エステルもしくはケトン
から選択される有機溶液を含む浸潤流体を準備する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
浸潤流体にさらに少なくとも1つの安定剤を添加する、請求項1~2のいずれか一つに記載の方法。
【請求項4】
浸潤流体にさらに、アルカノールアミン、カルボン酸もしくはアンモニウム塩を含む安定剤および/または界面活性剤を添加する、請求項1~3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
浸潤流体にさらに電子伝導性材料を添加する、請求項1~4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
-β-Na
2O-11Al
2O
3または
-β’’-Na
2O-5Al
2O
3または
-A
1+x+yM’
xM’’
2-x(XO
4)
3-y(SiO
4)
y(A=Na、M’=Hf、Zr、M’’=La~LuまたはScまたはY、ならびにX=PまたはAs、ならびに0<x<2および0<y<3)の形のナトリウム超イオン伝導体
を含むナトリウムイオン伝導性固体電解質を使用する、請求項1~5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
25℃での少なくとも3mS/cmのイオン全電気伝導率を有するナトリウムイオン伝導性固体電解質を使用する、請求項1~6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
その多孔質層が、平均直径10μm未満の連続開孔を有する固体電解質を使用する、請求項1~7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
カソード材料用の前駆体として酸化物、リン酸塩、フルオロリン酸塩、金属硫化物または金属ケイ酸塩を使用する、請求項1~8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
アノード材料用の前駆体としてリン酸塩または二元金属硫酸塩を使用する、請求項1~9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
電極材料用の前駆体を、浸潤流体中において30~40重量%の分率で使用する、請求項1~10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
電極材料の少なくとも1つの前駆体を含む浸潤流体を、固体電解質の多孔質領域内に複数回連続して導入して乾燥させてから、固体電解質を400℃から900℃の間の温度における熱処理にさらす、請求項1~11のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温において高い容量収率(Kapazitaetsausbeute)および優れたサイクル特性で動作可能である固体電池ならびにそのような固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
充電式電池(二次電池同じく蓄電池)は、今日、日常生活において重要な役割を果たしている。市販の充電式電池の中では、リチウムイオン電池(LIB)が、その高いエネルギー密度および長い寿命ゆえに広く普及している。
【0003】
もっとも、電池市場が近年大きく成長したことから、リチウム資源の減りつつある備蓄およびLIBの費用の上昇への不安が著しく高まっている。ナトリウムイオン電池(NIB)は、LIBと多くの類似性を有し、その入手しやすさおよびナトリウム含有原料にかかる比較的低い費用ゆえ、特に定置用途、例えば、風力発電所または太陽光発電所のエネルギー貯蔵に適した将来性のある代替品と見なされている。
【0004】
上記の普及している、液体電解質を有するリチウムイオン電池とは異なり、固体電池は、例えば、セラミックスからなる固体電解質を使用することにより、化学的および温度的に安定になる。その結果、液体電解質の着火性が回避される。
【0005】
ナトリウムイオン電池に関しては、ナトリウムイオンの比較的自由な循環を可能にするものの、リチウムイオン電池中の液体電解質と比べると可燃性でないホウ素含有無機電解質が公知である。
【0006】
それゆえ、リチウムイオン電池の場合と同様に、固体材料のみを使用する、ナトリウムイオン電池の「全固体」設計が、学術分野および産業分野からますます注目されている。基本的に、固体電池は、リチウムイオン電池と比べて、その上より多くのエネルギーを貯蔵できる。
【0007】
電池内において液体を回避することにより、固体電池(英語:all-solid-state)は、その上、非可燃性であり、かつ電極室を分離する緻密なセラミック膜により望ましくない物質輸送が起こり得ないという利点を有する。そのため、リチウムイオン電池において知られているクロスコンタミネーションが回避される。
【0008】
さらに、電解質材料および電極材料の理想的な形態では、特にアノードでの界面反応(リチウムイオン電池におけるグラファイトと液体電解質との反応による「固体電解質界面形成」)による容量の劣化を回避できる。
【0009】
その上、新規の固体電池は、従来のリチウムイオン電池とは異なり、液体電解質中の添加剤として毒性または有害な物質を実質的に使用せずにすむ。
【0010】
しかしながら、リチウム固体電池またはナトリウム固体電池(NSSB)を製造するための既存の技術は、まだ満足のゆくものではない。これまでのところ商品化されたナトリウム固体電池は存在せず、学術誌に記載されたナトリウム固体電池のうちの大部分は、従来、65℃超の温度でのみ動作可能である。
【0011】
ナトリウム固体電池の室温での動作に関する報告書[1]では、充填/放電の電流密度はむしろ低かったにもかかわらず(5A/cm2)、比較的高い容量低下(10サイクル後の80%損失)および比較的低いクローン効率(第1のサイクルで75%未満、第3のサイクルでは50%未満)が開示される。
【0012】
クローン効率(充電効率)とは、充電されたアンペア時に対する放電されたアンペア時の比率と理解される。クローン効率は、充電・放電時の電池の電荷損失に関する情報を与える。
【0013】
従来、ナトリウム固体電池の両方ともの電極または電極のうちの少なくとも一方は、電極材料と電解質材料との機械的混合によって製造される。ナトリウム固体電池の、ナトリウムイオン伝導体の形の電解質と固体電極材料との間の接触は、両方とも固体相の限定的な粒間界面に基づく。これは、液体ナトリウムイオン伝導体と電極材料との間の完全に均質な接触を示す、液体電解質を有する最新のナトリウムイオン電池とは異なる。ナトリウム固体電池における限定的な界面接触は、充電・放電時に、ナトリウムイオンの吸蔵(Einlagerung)および脱離(Extraktion)によって電極材料の体積が変化すると頻繁に損なわれる。この問題は、通常、電極構造の不安定性をもたらし、それは、リチウム固体電池と同様にナトリウム固体電池でも頻繁に認められる。
【0014】
この問題を解決するためには、動作中のエネルギー貯蔵材料の膨張および収縮が、電極の構造安定性に不利に作用しない、固体電池の新規の電極を提供する必要がある。
【0015】
上記の問題を解決するためには、例えば、懸濁液を使用して固体電解質の細孔内へと、ナノメートルサイズの電極粒子を導入することによる浸潤が、例えば、期待のもてる方法である。その際、使用する固体電解質が電池セルの機械的支持構成要素であり、電極材料の体積変化は孔隙内で起こるため、電極および界面のセラミック主要構造には不利に作用しないであろう。
【0016】
浸潤それ自体は、特に、ナノメートルサイズの電極粒子を使用する場合、新規の方法ではなく、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セルおよび膜セパレータなどのような別の電気化学装置においてすでに包括的に使用された。
【0017】
しかしながら、浸潤は、充電式ナトリウム電池用の電極材料の製造との関連では、これまでまだその使用に成功していなかった。
【0018】
M.Kotobuki等の論文[2]から、例えば、3次元秩序マクロ多孔質構造(3DMO)を有する充電式リチウムイオン電池の製造が公知であり、その製造では、まずLi0.35La0.55TiO3を含むミルフィーユ構造を電解質として製造し、ただし、両方の外側多孔質層にはそれぞれLiMn2O4を浸潤させた。最初の調査は、1.0V超の動作電圧による、そのような電池の原則的な適性を示した。
【0019】
さらに、Y.Ren等[3]が、Li7La3Zr2O12(LLZO)ベースの電解質を有するリチウム電池用の電極材料を製造する際の浸潤について報告している。それによると、まず、アルミニウムを有するLi6.75La3Zr1.75Ta0.25O12(LLZTO)電解質材料を含む、1つの多孔質層と1つの緻密層とを有するモノリス焼結小片が製造される。多孔質Li6.75La3Zr1.75Ta0.25O12層にゾルゲル法を介して活性カソード材料としてのLiCoO2を浸潤させ、緻密層は金属Liアノードと接触させる。しかしながら、該論文中で製造されたリチウムイオン電池は、不利なことには、充電および放電中の著しい劣化(10サイクル後の30%)ならびにかなり低いクローン効率(第1のサイクルに対する34%、第2のサイクルに対する60%、第10のサイクルに対する80%)を示す。
【0020】
上記の充電式リチウム電池の全体として不十分な出力の考えられる理由は、使用したセラミック電解質の不十分なイオン伝導性であるかもしれない。
【0021】
リチウムイオンに関して最善の酸化物セラミックス[4](Li6.55Ga0.15La3Zr2O12)は、室温において1.3x10-3S/cmのリチウムイオン伝導率を有するのに対して、ナトリウムイオンに関して最善の酸化物セラミックス、例えば、独国特許出願公開第102015013155号(特許文献1)からのNa3.4Sc0.4Zr1.6Si2PO12(NASICON)またはβ’’-酸化アルミニウム[5]は、3~5x10-3S/cmを有し、通常、はるかに高い。その上、別のセラミックス、例えば、硫化物、チオリン酸塩またはクロソボランも優れた伝導率値を有する。
【0022】
図1は、混合系列(Mischungsreihe)Na
3+xZr
2(SiO
4)
2+x(PO
4)
1-xおよびNa
3+xSc
xZr
2-x(SiO
4)
2(PO
4)の組成に依存した、25℃でのイオン全電気伝導率を示す。両系列ともx=0.4において最高の伝導率が得られる。
【0023】
さらに、米国特許出願公開第2014/0287305号(特許文献2)から、多層電解質が1つの多孔質領域と1つの緻密領域とを有し、該多孔質領域が少なくとも部分的にアノード材料またはカソード材料を有するリチウム固体電池が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【文献】独国特許出願公開第102015013155号
【文献】米国特許出願公開第2014/0287305号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の課題は、室温における固体電池の効果的な動作、高い容量収率および優れたサイクル特性を可能にする改善された固体電池用電極を提供することである。
【0026】
さらに、本発明の課題は、上記の電極の製造方法を示すことである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の課題は、主要請求項の特徴を有する、固体電池用電極の製造方法、ならびに他の独立請求項に記載の特徴を有する、電極または固体電池によって解決される。
【0028】
該方法および該電極の有利な形態は、それぞれの関連する請求項から得られる。
【0029】
本発明の主題
本発明において、充電式固体電池用電極を製造する際に、浸潤が適切な手段であり得ることが見出された。電極を製造するために活性電極材料のナノ粒子を固体電解質からなるフレームワーク(多孔質電解質層)へと浸潤させると、有利には、該電極の主要セラミック構造が、充電/放電時に不利な影響を受けない。そのため、そのような電極を含む充電式固体電池の動作中の比較的高いサイクル安定性がもたらされ得る。
【0030】
これまで公知の方法とは異なり、固体電池用電極の本発明による製造方法では、ナノ粒子の形のすでに活性状態の電極材料を多孔質固体電解質層に導入するのではなく、浸潤流体を利用して、単に、該電極材料の前駆体を固体電解質の開孔内深くまで導入し、該前駆体を、還元雰囲気(本明細書では、例えば、Ar/2%H2)中における焼結の形での熱処理によりはじめて、続くin-situで活性電極材料へと合成することを提案し、その電極材料は、その場合、好ましくは均質に分配された状態で、多孔質固体電解質層の細孔の表面上に配置されている。
【0031】
一方ではカソード材料をその還元型で製造するため、またはその中に含有されている、原子価が変わるカチオンをその低原子価変種にするためには、還元雰囲気が欠かせない(本明細書ではV3+、ただしカチオンFe2+、Cr3+、Mn2+、Co2+の安定化にも有効)。
【0032】
他方では、本発明によると、浸潤溶液は、有機添加物(本明細書では例えばエチルアミン)が炭素に変換可能であるように構成されており、それが、特にカソード材料が放電して自身が電子伝導性を失う場合に、有利には、電子伝導率の上昇をもたらす。したがって、少なくとも1つの有機添加物(例えばエチルアミン)の添加は、浸潤流体の表面張力の著しい低下による浸潤の改善をもたらすのみならず、その上、必須の炭素源としても機能する。少なくとも部分的に炭素へと変換され得る有機添加物としては、エチルアミンの他に、さらには別の水溶性かつ易還元性の有機化合物、例えば、糖誘導体、ポリエーテル、ポリアルコールまたはポルフィリンも使用可能である。
【0033】
本発明は、電極の製造、特にカソードの製造に関し、ただし、該カソードは、固体電池、例えば、リチウム電池、リチウム/酸素電池またはナトリウム/酸素電池での使用に適切である。本発明による方法は、その上、アノードの製造にも適切である。
【0034】
少なくとも1つの本発明による電極を含む固体電池の図解を
図2に示す。
【0035】
固体電池の電極用の本発明による製造方法の第1の工程は、少なくとも1つの多孔質層と少なくとも1つの緻密層とを含む多層固体電解質の準備であり、ただし、緻密層と呼ばれるのは、理論密度の95%超を有する層である。
【0036】
そのようなセラミック固体電解質は、例えば、選択された電解質材料からなる相当する素地の焼結によって製造できる。
【0037】
固体電解質としては、本発明による方法に関して、1つの多孔質層と1つの緻密層とを有する二層系と同様に、1つの中間の緻密層ならびにさらなる2つの外側の多孔質層とを有する三層系も使用できる。
【0038】
1つの多孔質層と1つの緻密層とを有する二層固体電解質の場合、該多孔質層を本発明によりカソードまたはアノードへと変換させるのに対して、それぞれ他方の電極(アノードまたはカソード)は、最終加工工程において電池を組み立てる際に、例えば、後に、二層固体電解質の緻密層のもう一方の側に配置することができる。
【0039】
1つの中間の緻密層ならびに2つの外側の多孔質層を有する三層固体電解質を使用する場合、両方の外側の多孔質層を、好ましくは直接にアノードおよびカソードの製造に使用することができる。
【0040】
固体電解質の緻密層は、好ましくは、選択した電池の種類に応じて、室温での高いイオン全電気伝導率を有するNaイオン伝導性材料またはLiイオン伝導性材料を含み、そのイオン全電気伝導率は、有利には、Liイオン伝導体の場合1mS/cm超でありNaイオン伝導体の場合3mS/cm超であるべきであり、1mS/cm未満であるべきではない。固体電解質では、「イオン全電気伝導率」は、結晶粒内部のイオン伝導率の寄与部分と結晶粒界のイオン伝導率の寄与部分とから構成される。電子伝導率は無視できることから、固体電解質では、頻繁には、伝導率という用語を、「イオン全電気伝導率」の同義語として使用する。
【0041】
さらに、本発明を、主には、本発明の特別な一実施形態、特にナトリウムイオン固体電極またはナトリウムイオン固体電池をもとに説明するが、それに限定する意図はない。
【0042】
当業者は、その専門知識において、まず、本発明は、別のアルカリ金属イオンを有する固体電極または固体電池に対して容易に適用可能であると考えるであろう。しかしながら、より詳細に観察すると、ナトリウムのより軽量の同族体に関してもより重量の同族体に関しても単純な類似は得られないことが分かる。すなわち、すでに前述のNaイオン伝導体は、最高5mS/cmの電子伝導率を有し、リチウムの類似組成物はこれまでのところ公知にはなっておらず、似た組成物は、非常に低い伝導率を有する。系Li3-xSc2-xZrx(PO4)3
[6]およびLi3+xSc2(SiO4)x(PO4)3-x
[7]では、単に10-6~10-5S/cmの間の伝導率が報告された。この種の組成はカリウムでは公知ではない。ただし、NASICON構造を有するリチウム化合物は公知であり、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3(x=0.3~0.5)に関しては、室温において0.6~1.5x10-3S/cmの最高伝導率[8]に達する。それに対して、Na1+xAlxTi2-x(PO4)3の場合は、およそ10-7S/cmの値しか達成されず[9]、類似のカリウム化合物は、絶縁体であり、NASICON構造において結晶化しない。
【0043】
電極材料に関しても、類似のLi材料とNa材料とが非常に異なる物理挙動および(電気)化学挙動を示す[10e]ことが公知であるため、公知のLi含有材料がNa含有変種としても有効に使用可能であり逆もそうであるかどうかはきわめて慎重に点検する必要がある。
【0044】
多層固体電解質用の可能かつ適切なNaイオン伝導性材料は、例えば、頻繁には相混合物(Na-β/β’’-酸化アルミニウム)として現れるβ-酸化アルミニウム(Na2O・11Al2O3)またはβ’’-酸化アルミニウム(Na2O・5Al2O3)、ならびにA1+x+yM’xM’’2-x(XO4)3-y(SiO4)y(A=Na;M’=Hf、Zr;M’’=La~LuまたはScまたはY、ならびにX=PまたはAs、ならびに0<x<2および0<y<3)の形のナトリウム超イオン伝導体(NASICON)である。La~Luという表示は、ランタノイドLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuと理解される。
【0045】
準備した固体電解質用の効果的なLiイオン伝導性材料は、例えば、A=Li;M’=Ti、Ge、Hf、Zr;M’’=Al、Ga、Sc、Y、La~LuおよびX=PまたはAsである、類似のイオン伝導体である。
さらに、柘榴石、例えば、Li7-3xM’xLa3Zr2M’’yO12(M’=Al、Ga)またはLi7-xLa3Zr2-xM’’xO12(=Ta、Nb)またはペロブスカイト、例えばLi0.35La0.55TiO3が考慮に値する。
【0046】
固体電解質の多孔質層は連続貫通開孔を有するため、この層の深い領域まで、濡れ性に優れた浸潤流体の侵入が可能になる。そのために、固体電解質の多孔質層は、平均孔径がおよそ1~50μmである細孔を有する。
【0047】
浸潤流体は、望ましいカソード材料またはアノード材料の前駆体の形の適切な原料および適宜さらなる添加剤を、無機または有機の水溶液中に溶解することで製造する。適切な有機溶液は、例えば、炭化水素、アルコール、エステルまたはケトンを含む。
【0048】
ナトリウムイオン固体電池用の可能かつ適切なカソード材料は、NaxMO2(M=Ni、Co、Mn、Fe、V、Crまたは上記の元素のうちの複数の組合せ、0<x<1)の形の酸化物、リン酸塩(例えば、Na3V2P3O12、Na3Fe2P3O12、Na3Ti2P3O12)、フルオロリン酸塩(例えば、Na1.5VOPO4F0.5、Na2FePO4F)、およびNa2M(SO4)2またはNa2MSiO4(M=Fe、Co、Ni、V、Crまたは上記の元素のうちの複数の組合せ)の形の二元金属硫酸塩(Bimetallsulfat)または二元金属ケイ酸塩である。
【0049】
その上、リン酸塩においてもフルオロリン酸塩においても、金属M=Fe、Co、Ni、V、Crまたは上記の元素のうちの複数の組合せの少量を置換基、例えばMgによって置換してもよい。
【0050】
本発明の浸潤方法は、前述のカソード材料のうちの1つを有する電池に対して有利に適用できる。
【0051】
リン酸塩(例えば、Na3V2P3O12、Na3Fe2P3O12、Na3Ti2P3O12)、Na2M(SO4)2またはNa2MSiO4(M=Fe、Co、Ni、V、Crまたは上記の元素のうちの複数の組合せ)の形の二元金属硫酸塩または二元金属ケイ酸塩および炭素が、典型的かつ適切なアノード材料として挙げられる。
【0052】
本発明により浸潤流体中で使用される、選択された前駆体化合物は、熱処理後にin-situで、望ましい電極材料を形成し、その際に不純物を形成したり前駆体化合物の残部を残したりすることはない。
【0053】
その上、前駆体化合物は、選択された有機溶媒または無機溶媒中で十分に溶けやすい。前駆体化合物は、浸潤流体中で安定に並存し、溶媒、可能な添加剤、または固体電解質材料と反応することはない。
【0054】
上記の適切な電極材料用には、浸潤流体中で使用可能である多数の様々な種類の可溶性前駆体が存在する。以下では単にいくつか少数の例を列挙し、ただし、例の中のNaは、それぞれLiで置換することも可能である。
【0055】
酸化物、例えばNaxMO2(M=Co、Ni、Mn、Fe、V、Crなど、または該元素のうちの複数の組合せ):
例えば、NaOHとCo3O4とを水に溶解することにより、in-situでカソード材料NaCoO2を生成する相当する前駆体を製造できる。
【0056】
適宜、置換元素も有するリン酸塩、例えば、Na3V2P3O12、Na3Fe2P3O12、Na3Ti2P3O12:
例えば、NaH2PO4とNH4VO3とを、エタノールアミン(安定剤)と水とからなる混合物中で溶解することにより、in-situでカソード材料Na3V2P3O12を生成する相当する前駆体を製造できる。
【0057】
適宜、置換元素も有するフルオロリン酸塩、例えば、Na1.5VOPO4F0.5、Na2FePO4F:
例えば、NaH2PO4とNH4VO3とHFとを、エタノールアミン(安定剤)と水とからなる混合物中で溶解することにより、in-situでカソード材料Na1.5VOPO4F0.5を生成する相当する前駆体を製造できる。
【0058】
金属硫酸塩、例えばNa2M(SO4)2(M=Fe、Co、Ni、V、Crなど、または該元素のうちの複数の組合せ):
例えば、Na2SO4とFeSO4とを水に溶解することにより、in-situでカソード材料Na2Fe(SO4)2を生成する相当する前駆体を製造できる。
【0059】
金属ケイ酸塩、例えばNa2MSiO4(M=Fe、Co、Ni、V、Crなど、または該元素のうちの複数の組合せ):
例えば、NaOH、オルトケイ酸テトラエチルおよび酢酸鉄(II)四水和物を水に溶解することにより、in-situでカソード材料Na2FeSiO4を生成する相当する前駆体を製造できる。
【0060】
浸潤流体用に選択した溶媒は、選択した前駆体化合物に対する著しい可溶性を有する。浸潤流体が、室温において、10重量%~90重量%の分率の、溶解した、活性電極材料の前駆体化合物を有する場合、著しい可溶性が存在する。
【0061】
いくつかの出発原料においては、場合により、錯アニオンのオリゴマー化、例えば、ポリリン酸またはメタリン酸、ポリケイ酸塩またはポリバナジン酸塩の形成が起こり得て、浸潤流体の混濁を伴うゾル形成またはゲル形成、そして最終的にはナノ粒子の形成(1~50nm)をもたらし得る。これは、該ナノ粒子が、緻密な電解質層との境界までの浸潤を妨げない限り、本発明の趣旨で許容される。そのような浸潤流体(懸濁液)中では、分散媒がナノ粒子の十分な量(10重量%~90重量%)を安定化できる、すなわち懸濁状態に保てるべきである。
【0062】
浸潤流体用に選択した溶媒は、その上、前駆体化合物と共に安定な溶液をもたらすべきである、すなわち、数日間にわたり、活性電極材料の出発化学物質、反応生成物またはナノ粒子からなる沈殿物を形成させるべきでない。溶媒単独ではまだ前駆体化合物をかなりの量では溶解できないか、または前駆体化合物が溶解したものの浸潤流体が十分に安定ではない場合、場合により少なくとも1つの安定剤を添加してもよい。
【0063】
適切な安定剤は、例えば、前駆体化合物と配位子錯体を形成できるため、浸潤流体中での前駆体化合物の溶解度を改善させることができる。そのために適切な安定剤は、例えば、有機化学物質、例えば、アルカノールアミン(アミノアルコール)、アンモニウム塩またはカルボン酸でもある。
【0064】
その際、場合により添加する安定剤の選択は、選択した前駆体材料に依存し得る。例えば、バナジウム含有前駆体化合物を使用する場合、アルカノールアミドの添加が、浸潤流体の安定化には非常に有利であると判明した。
【0065】
浸潤流体のもう1つの重要な特性は、多層電解質のイオン伝導性材料に対する優れた濡れ性である。その際、接触角<90°が有利である。接触角が小さければ小さいほど、濡れ性がますます良くなり、浸潤流体が、固体電解質の貫通孔内の最深の領域までいっそう容易に侵入できる。
【0066】
必要に応じて、例えば、浸潤媒体に関して、多層電解質のイオン伝導性材料に対する90°未満の接触角を調整するため、または90°未満の接触角をさらに小さくするため、それゆえ、浸潤流体の濡れ特性を改善するためには、さらに少なくとも1つの界面活性剤を添加してもよい。本明細書中、界面活性剤とは、疎水基と同様に親水基も有する両親媒性有機化合物と理解される。この趣旨での界面活性剤は、例えば、アルカノールアミン、ステアリン酸またはアンモニウム塩である。浸潤流体への少なくとも1つの界面活性剤の添加は、有利には、濡れ性を最適化し、浸潤をより迅速かつより効果的にすることができる。
【0067】
前述の安定剤および界面活性剤の他に、浸潤流体用の本発明による可能なさらなる添加剤は、固体電解質または選択した電極材料の熱処理後に電子伝導相を形成できる材料も含む。
【0068】
多孔質層内に導入された電極前駆体と共に固体電解質を、例えば、還元雰囲気中で熱処理し、かつ有機溶媒を使用すると、電極材料がその中でin-situで合成される多孔質固体電解質層中で、該有機溶媒が、通常、それ自体が100%蒸発しない限りは、焼結後でさえも電子伝導性炭素を形成できる。これは、通常、例えば、高沸点の溶媒、安定剤または界面活性剤を使用する場合に起こるが、溶液中に含有されていることがある有機アニオンの使用時にも起こり得る。
【0069】
別の場合、例えば、溶媒として水を使用する場合には、製造される電極の電子伝導性は、第2の熱処理後に、浸潤流体へのさらなる導電性添加物、例えば、粉末状炭素または粉末状金属によっても確保され得る。
【0070】
浸潤工程を開始するためには、浸潤流体と固体電解質の多孔質層との間の接触が欠かせない。この接触は、例えば、溶液中への固体電解質の部分的もしくは完全な浸漬により、または多層固体電解質の多孔質層の表面上への、溶液の塗装、注ぎかけ、滴下により、または別の典型的な浸潤方法により達成できる。
【0071】
浸潤流体が、固体電解質のイオン伝導性材料に対して、例えば、接触角<90°の優れた濡れ性を有すると、浸潤は通常、浸潤流体と多孔質電解質との接触時に毛管力を介して自動的に起こる。
【0072】
適宜、比較的大きな濡れ角を有する浸潤流体を使用することになる場合でさえも、例えば、ある装置、例えば、担体の周辺の空気圧を変えられる空気ポンプを装備した真空チャンバが、浸潤流体の速度および量に関して浸潤工程を改善できる。それによって、例えば、まず空気圧の低下により電解質の細孔から空気を圧送し、浸潤流体を、施与に続く圧力の上昇により細孔内に押し込む。
【0073】
1回限りの浸潤ではまだ電極材料の望ましい量を多孔質層内に導入できない場合は、浸潤を、好ましくは複数回続けて行うことも可能である。
【0074】
その際、固体電解質の多孔度および孔径が、溶液の最高充填または濃度、浸潤工程ごとの量を決定する。
【0075】
すでに浸潤した前駆体化合物を活性電極材料の形で細孔表面上に固定するためには、2回の浸潤の間に第1の熱処理、例えば乾燥を行ってもよい。乾燥とは、本明細書中、最高150℃での熱処理と理解される。
【0076】
溶媒の浸潤および適宜、乾燥後に、製造された電極-固体電解質構成要素をさらなる第2の熱処理にさらす。その場合、電極材料のin-situ合成を引き起こさせるため、かつ電極材料の純相を細孔の表面上に形成させるために、400℃から900℃の間の温度で熱処理を行う。
【0077】
第2の熱処理の雰囲気および温度プロファイルは、使用する電極材料の特性に応じて選択および最適化する。その際、雰囲気としては、例えば、純水素、水素とアルゴンとからなる混合物、純アルゴン、空気さらには純酸素も使用可能である。
【0078】
例えばFe2+カチオンまたはV3+カチオンを有するいくつかのカソード材料の場合、還元雰囲気の想定が必須であるが、別のカソード材料は、酸化雰囲気、例えば空気中で熱処理することが望ましい。
【0079】
浸潤させた固体電解質ベースの電気化学セルがついに組立て可能になる。三層固体電解質(多孔質-緻密-多孔質)を使用する場合、本発明の浸潤によりすでに、電極と固体電解質とが製造される。二層固体電解質を使用する場合、通常、本発明の浸潤により一方の電極しか生成されず、他方の電極は、別の方法、例えば、ナトリウム金属の直接適用によって製造可能である。
【0080】
続いて、電気化学セルを、通常のやり方でケースと伝導接続できる。その際、電気化学セルは機能性電池として、個別にまたはスタックとして配置可能である。
【0081】
本発明により製造された電池の、mAh/gで示される比容量は、選択された例示的実施形態において、理論容量の90%超であった。
【0082】
電池の劣化は、0.1C~1.0Cの充電/放電速度での100サイクルにおいて、初期容量の10%未満へと下げることができた。その電池によって達成されるクローン効率は、第1のサイクル後に99%超であった。
【0083】
本発明により製造された電池は、これまで公知の電池と比べて明らかな利点を有することが判明した。これは、特に、ナトリウム固体電池に対して当てはまる。
【0084】
該ナトリウム固体電池は、例えば、室温で動作可能である従来のナトリウム固体電池([1]:10サイクル後に80%の容量損失、クローン効率は75%未満)よりも優れたパフォーマンスを示し、その上、80℃で動作する従来のナトリウム固体電池([11]:40サイクル後に35%の容量損失)よりも優れたパフォーマンスをも示す。
【0085】
本発明は、従来公知の固体電池と比べて、電池性能の点で明らかな利点をもたらす。有利な作用機序は、不断の電子・イオン伝導路をもたらす、固体電解質と電解質材料との間の能動的接触(aktiver Kontakt)に基づく。その際、利点は、多孔質セラミック固体電解質の微細構造およびin-situで生成される、細孔の表面上の電極材料から得られる。
【0086】
本発明によると、提案された浸潤流体は、従来よりも好都合に、固体電解質の多孔質構造の深い領域に侵入し、一方では、電極材料の非常に均質な分配をもたらし、他方では、そのように生成された電極内で電極材料の高い物質密度をもたらす。
【0087】
本発明による充電式固体電池用電極の製造には、まず活性電極材料の前駆体を、一方では活性の電極材料前駆体のできるだけ高い濃度を含み、かつ他方では浸潤流体がその中へと浸潤する、固体電解質のイオン伝導体材料に対する高い濡れ性を有する溶液としてまたは適宜、さらなる添加剤と共に懸濁液として準備することが提案される。
【0088】
活性の電極材料前駆体を含む溶液を、続いて、層状に形成された多孔質固体電解質の多孔質部分へと浸潤させる。浸潤流体を乾燥させ、かつ電極材料前駆体化合物を細孔内で固定させるための第1の熱処理が続く。この両工程は、十分な量の電極材料前駆体化合物を多孔質電極の細孔内へと導入するためには、必要に応じて、複数回繰り返してもよい。
【0089】
有利には、浸潤した電極前駆体材料が、細孔内を、固体電解質の多孔質層と緻密層との移行部まで到達する。
【0090】
理想的には、電極材料前駆体化合物が、細孔を完全に充填する。
【0091】
浸潤工程を最低限に抑えるためには、好ましくはできるだけ高濃度の浸潤流体を使用してもよい。
【0092】
特別な記載部
出願の上記部分では、本発明を、好ましい一形態において、特にナトリウムイオン伝導性固体電解質および相当する電極をもとに詳細に記載および図解したのに対して、同じく以下の記載および図も単に例と見なされ限定的に作用することはない。
【0093】
当業者は、その専門知識において、自身で、以下の特許請求の範囲の保護範囲によって合わせてカバーされる、特許請求の範囲のさらなる変更および変形を行うことができ、行ってもよいものとする。特に、本発明において、個々の例示的実施形態の言及される特徴のあらゆる種類の組合せを有するさらなる実施形態が、合わせて含まれている。
【0094】
本発明の様々な実施形態の特徴およびそのそれぞれの利点は、以下で説明する例示的実施形態の読解において、図との関連で開示される。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【
図1】混合系列Na
3+xZr
2(SiO
4)
2+x(PO
4)
1-xおよびNa
3+xSc
xZr
2-x(SiO
4)
2(PO
4)の組成に依存した、25℃でのイオン全電気伝導率を示す。
【
図2】本発明による固体電池の図解を示し、上図:多孔質層の細孔内にある活性電極材料を有する二層固体電解質ならびに集電体および第2の電極、下図:上側多孔質層にも下側多孔質層にも活性電極材料を有する三層固体電解質。
【
図3】異なる電流密度における25℃でのNVP-NZSP-Na電池セルのサイクル特性:ここでは個々のサイクル(40)の放電容量およびクローン効率を示す。
【
図4】25℃での20mA(0.1C)の電流密度におけるNVP-NZSP-Na電池セルのサイクル特性:ここでは最初の50サイクルに対する放電容量およびクローン効率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0096】
本発明の有利な一形態では、多層固体電解質それ自体も製造可能である。
【0097】
その際、固体電解質の多孔質層が、好ましくは、緻密層中に存在するのと同じNaイオン伝導性材料またはLiイオン伝導性材料ならびにさらに細孔形成剤を含む。
【0098】
細孔形成剤としては、例えば、好ましくは直径10μm未満の適切なサイズを有する連続的な、すなわち貫通し開いた孔を多孔質固体電解質層中に生み出せる高分子有機化合物を使用できる。
【0099】
できるだけ多くの活性電極材料を表面に配置するために、多孔度は、一方では、非常に高く選択するべきである。他方では、電解質のある程度の安定性を確保する必要があるため、多孔質層に関して、通常、電解質材料が、固体電解質の体積の30~40%をなす。
【0100】
細孔形成剤の適切な化合物として、本明細書では、例えば、好ましくは0.5~50mmの範囲の細孔を形成する様々な種類のデンプン、セルロースおよびポリマーを挙げる。
【0101】
固体電解質用の原料を選択する際には、特に、Naイオン伝導性材料またはLiイオン伝導性材料の伝導率、および細孔形成剤の適切な種類、例えば、細孔形成剤の粒子形状に注意する。
【0102】
例えば、文献においてすでに使用されているLi7La3Zr2O12(LLZO)ベースのリチウムイオン固体電池用電解質[1]は、特に該論文中で存在する多孔度では、本発明の趣旨で効果的なイオン伝導体と見なされるためには十分に高い伝導性を有さないことが判明した。その上、上記の例における細孔形成剤としてのグラファイトの使用は、細孔の不十分な開孔性しかもたらさないため、浸潤作用の低下につながった。その点では、グラファイトは、本発明の趣旨では細孔形成剤として適切でない。
【0103】
固体電池用の固体電解質層の素地は、少なくとも1つの緻密電解質層と少なくとも1つの多孔質電解質層との合一によって準備できる。該合一の可能な方法は、例えば、2つまたは複数の粉末層の圧縮、少なくとも2つの層のストリップ鋳造、および既存の層上での1つの層のスクリーン印刷である。
【0104】
一方では、電解質層として想定される層を圧縮するため、他方では、後に電極を形成することになる、固体電解質の少なくとも1つの多孔質層から細孔形成剤を取り除くことによって後の電極内に貫通孔を形成するためには、固体電解質層の素地を、酸化雰囲気中、各材料の高密度化温度(800~1300℃)に応じて焼結できる。
【0105】
混合物中での細孔形成剤の量は、通常、10~90体積%の間である。素地の準備および焼結は、使用するイオン伝導性材料の焼結特性に基づいて最適化可能である。目標は、緻密層の高密度(理論密度の95%超)、多孔質層の高多孔度(体積の20~80%)、ならびに両層の間の良好な結合を達成することである。それは、例えば、焼結によって達成できる。
【0106】
本発明の好ましい一例示的実施形態では、ナトリウム電池用の、Na3.4Zr2Si2.4P0.6O12(NZSP)を含む二層固体電解質を製造する。そのためには、まず、NZSP粉末を、例えば独国特許出願公開第102015013155号明細書(特許文献1)に記載のように製造してもよい。
【0107】
多孔質層用には、NZSP粉末を、細孔形成剤として使用される米デンプン10重量%と混合し、エタノール中で24時間、ボールミルで粉砕する。
【0108】
続いて、NZSP粉末0.3gと、上で製造した1~2μmの間の粒径を有する混合物50mgとを、13mmの直径を有するシリンダ状プレス金型に層状に供給してから、プレス機により、15kNの一軸荷重で1.5分間、素地へと圧縮する。続いて、該素地を1280℃で6時間焼結する。Na3.4Zr2Si2.4P0.6O12を含む、1つの緻密層ならびに1つの多孔質層を有する白色二層電解質ペレットが生じる。
【0109】
この例示的実施形態では、Na3V2(PO4)3(NVP)をカソード材料として選択する。
【0110】
浸潤流体用には、NH4VO3(NV)、NaH2PO4(NHP)および水中のエタノールアミン(EA)からなる混合物を製造する。その際、NVおよびNHPは、カソード材料NVP用の原料(前駆体化合物)である。エタノールアミン(EA)は、一方では安定剤として作用すると同時に界面活性剤としても作用する。EA、水、NVおよびNHPの重量比は、1:2:0.46:0.71である。
【0111】
続いて、準備した浸潤流体を二層電解質ペレットの多孔質領域に浸潤させる。そのためには、浸潤流体を、10~15°の間の濡れ角で、多孔質層の表面に滴下する。
【0112】
浸潤の工程を3回繰り返し、そのつど1回の、乾燥の形の熱処理が続く。
【0113】
続いて、電解質ペレットを、さらなる第2の熱処理にさらす。そのためには、電解質ペレットを、Ar/H2雰囲気中で3時間730℃に加熱して、細孔の表面上で活性カソード材料Na3V2(PO4)3(NVP)を形成させる(in-situ合成)。
【0114】
続いて、固体電解質の浸潤した多孔質層の微細構造を、例えば、電解質ペレットの横断面の走査型電子顕微鏡写真を介して点検することができる。
【0115】
そのように製造したNVP-NZSPナトリウム半電池にもう1つの電極を装備し、ナトリウム固体電池へと組み立てる。
【0116】
そのためには、まず、多層電解質の多孔質表面上に金をスパッタリングする。次いで、縁部での金または炭素の出現を避けるために、研磨紙で外縁部を除去する。電解質の緻密層の外側表面も同じく研磨紙で研磨する。
【0117】
浸潤させた多層電解質を、続いてAr充填したグローブボックスに移し、その中で、一片の円形金属ナトリウムをアノードとして、電解質の緻密層上に押し付ける。
【0118】
このセルを、Swagelok社製電池ケース内に溶接して固定する。
【0119】
本発明により製造したナトリウムイオン固体電池の電池試験は、電気化学試験システムを用いて行った。NVP-NZSP-Na電池セルを、異なる電流密度で充電および放電した。その際に測定された、最初の40サイクルに対する比容量を
図3に示す。非常にわずかな劣化が認められる。
【0120】
伝導率測定には、粉砕した粉末を、8~13mmの直径を有するシリンダ状プレス金型に導入し、室温において、100MPaの一軸圧で加圧した。加圧したペレットを、次いで5h、1250~1300℃において焼結した。得られたペレットは、6.5~10.5mmの直径およびおよそ1mmの厚さを有した。
【0121】
緻密なペレットの両側を金で蒸着した。試料のインピーダンススペクトルを、25℃において、2つの市販の電気化学システム(Keysight E4991BおよびBiologic VMP-300)を用いて、3GHz~1MHzまたは3MHz~1Hzの周波数範囲で測定した。結果は、試料の大きさに応じて、伝導面での掛け算および試料厚での割り算により計算し、ソフトウェア「Z-view」(Scribner Associates Inc.)で調整した。温度は、人工気候室(Voetsch、VT4002)を利用して調節した。
本発明は、以下の項目を含む。
[項目1]
固体電池用電極の製造方法であって、
-少なくとも、1つの緻密層ならびに1つの多孔質層を含み、
25℃での少なくとも1mS/cmのイオン全電気伝導率を有する、多層セラミック固体電解質を準備する工程と、
-電極材料の少なくとも1つの前駆体がその中に溶解状態で存在し、かつ少なくとも部分的に炭素に変換され得る少なくとも1つの有機添加物を有する浸潤流体を準備する工程と、
-電極材料の少なくとも1つの前駆体を有する浸潤流体を固体電解質の多孔質領域内に導入する工程と、
-固体電解質を、還元雰囲気中400℃~900℃の間の温度における焼結の形の熱処理にさらす工程であって、電極材料の前駆体から、細孔の表面上でin-situに電極材料を合成する工程と
を含む、製造方法。
[項目2]
水性浸潤流体を準備する、項目1に記載の方法。
[項目3]
無機溶液、特にCS
2
もしくはPB
3
、または有機溶液、特にアルコール、エステルもしくはケトンを含む浸潤流体を準備する、項目1に記載の方法。
[項目4]
浸潤流体にさらに少なくとも1つの安定剤を添加する、項目1~3のいずれか一つに記載の方法。
[項目5]
浸潤流体にさらに、アルカノールアミン、カルボン酸もしくはアンモニウム塩を含む安定剤および/または界面活性剤を添加する、項目1~4のいずれか一つに記載の方法。
[項目6]
浸潤流体にさらに電子伝導性材料を添加する、項目1~5のいずれか一つに記載の方法。
[項目7]
-β-Na
2
O-11Al
2
O
3
または
-β’’-Na
2
O-5Al
2
O
3
または
-A
1+x+y
M’
x
M’’
2-x
(XO
4
)
3-y
(SiO
4
)
y
(A=Na、M’=Hf、Zr、M’’=La~LuまたはScまたはY、ならびにX=PまたはAs、ならびに0<x<2および0<y<3)の形のナトリウム超イオン伝導体
を含むナトリウムイオン伝導性固体電解質を使用する、項目1~6のいずれか一つに記載の方法。
[項目8]
25℃での少なくとも3mS/cmのイオン全電気伝導率を有するナトリウムイオン伝導性固体電解質を使用する、項目1~7のいずれか一つに記載の方法。
[項目9]
その多孔質層が、平均直径10μm未満の連続開孔を有する固体電解質を使用する、項目1~8のいずれか一つに記載の方法。
[項目10]
カソード材料用の前駆体として酸化物、リン酸塩、フルオロリン酸塩、金属硫化物または金属ケイ酸塩を使用する、項目1~9のいずれか一つに記載の方法。
[項目11]
アノード材料用の前駆体としてリン酸塩または二元金属硫酸塩を使用する、項目1~10のいずれか一つに記載の方法。
[項目12]
電極材料用の前駆体を、浸潤流体中において30~40重量%の分率で使用する、項目1~11のいずれか一つに記載の方法。
[項目13]
電極材料の少なくとも1つの前駆体を含む浸潤流体を、固体電解質の多孔質領域内に複数回連続して導入して乾燥させてから、固体電解質を400℃から900℃の間の温度における熱処理にさらす、項目1~12のいずれか一つに記載の方法。
[項目14]
多層セラミック固体電解質を含む固体電池であって、
-少なくとも、1つの緻密層ならびに1つの多孔質層を有し、
-緻密層が、25℃での少なくとも1mS/cmのイオン全電気伝導率を有し、
-多孔質層が、平均直径10μm未満の連続開孔を有し、かつ孔の表面上に活性電極材料が配置されている、
固体電池。
[項目15]
その緻密層が25℃での少なくとも3mS/cmのイオン全電気伝導率を有するナトリウムイオン伝導性固体電解質を含む、項目14に記載の固体電池。
【0122】
明細書中で引用した非特許文献:
[1] Atsushi Inoishi, Takuya Omuta, Eiji Kobayashi, Ayuko Kitajou, Shigeto Okada, A Single-Phase, All-Solid-State Sodium Battery Using Na3-xV2-xZrx(PO4)3 as the Cathode, Anode, and Electrolyte, Adv. Mater. Interfaces 2017, 4, 1600942.
[2] Masashi Kotobuki, Hirokazu Munakata, Kiyoshi Kanamura, Fabrication of all-solid-state rechargeable lithium-ion battery using mille-feuille structure of Li0.35La0.55TiO3, Journal of Power Sources, Volume 196, Issue 16, 15 August 2011, Pages 6947-6950.
[3] Yaoyu Ren, Ting Liu, Yang Shen, Yuanhua Lin, Ce-Wen Nan, Garnet-type oxide electrolyte with novel porous-dense bilayer configuration for rechargeable all-solid-state lithium batteries, Ionics 2017. 23(9): Seiten 2521 bis 2527, https://doi.org/10.1007/s11581-017-2224-5.
[4] Carlos Bernuy-Lopez William Manalastas Jr. Juan Miguel Lopez del Amo, Ainara Aguadero, Frederic Aguesse, John A. Kilner, Atmosphere Controlled Processing of Ga-Substituted Garnets for High Li-Ion Conductivity Ceramics, Chem. Mater., 2014, 26, Seiten 3610 bis 3617, DOI: 10.1021/cm5008069.
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