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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】気分障害の齧歯類モデル
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/0278 20240101AFI20240625BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240625BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20240625BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
A01K67/0278 ZNA
C12N5/10
C12N15/85 Z
C12Q1/02
【請求項の数】 42
(21)【出願番号】P 2021540415
(86)(22)【出願日】2020-01-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-04
(86)【国際出願番号】 US2020013801
(87)【国際公開番号】W WO2020150426
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】62/793,523
(32)【優先日】2019-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/899,849
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ドラモンド サミュエルソン、メーガン
(72)【発明者】
【氏名】ザンブロヴィッチ、ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】ライ、カ-マン ヴィーナス
(72)【発明者】
【氏名】ハント、チャーリーン
(72)【発明者】
【氏名】ブリッジス、スザンナ
(72)【発明者】
【氏名】マーフィー、アンドリュー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザガ-ハウレギ、クラウディア
(72)【発明者】
【氏名】ロハス、ホセ
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドリ-ハーバー、ニコル
(72)【発明者】
【氏名】ブリース、ロバート
(72)【発明者】
【氏名】クロール、スーザン ディ.
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/022967(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/061209(WO,A2)
【文献】特表2009-513126(JP,A)
【文献】特開2004-321184(JP,A)
【文献】SCHEER N. et al.,Generation and utility of genetically humanized mouse models,Drug Discovery Today,2013年,vol. 18,p. 1200-1211
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノムが、内在性齧歯類Gpr156座位でヒト化Gタンパク質共役受容体156(GPR156)遺伝子を含む、遺伝子改変された齧歯類であって、
前記ヒト化Gpr156遺伝子が、齧歯類Gpr156核酸部分およびヒトGPR156核酸部分を含み、
前記ヒトGPR156核酸部分が、ヒトGPR156遺伝子のATG開始コドンから停止コドンまでを含み、
前記齧歯類Gpr156核酸部分が、齧歯類Gpr156遺伝子の5’非コードエクソン配列および/または3’非コードエクソン配列を含み、
前記ヒト化Gpr156遺伝子が、全長野生型ヒトGPR156タンパク質における533位に対応するアミノ酸位置でAspを含む(E533Dバリエーション)変異体ヒトGPR156タンパク質をコードし、かつ
前記ヒト化Gpr156遺伝子の発現が、前記内在性齧歯類Gpr156座位で齧歯類Gpr156プロモーターの制御下にある、遺伝子改変された齧歯類。
【請求項2】
前記ヒトGPR156核酸部分が、前記ヒトGPR156遺伝子の3’UTRをさらに含む、請求項に記載の齧歯類。
【請求項3】
前記ヒト化Gpr156遺伝子が、前記内在性齧歯類Gpr156座位での内在性齧歯類Gpr156遺伝子の齧歯類ゲノム断片の、前記ヒトGPR156核酸部分での置換から形成される、請求項に記載の齧歯類。
【請求項4】
前記ヒトGPR156核酸部分が、前記ヒトGPR156遺伝子の前記ATG開始コドンから最終のエクソンまでを含むヒトゲノム断片を含む、請求項に記載の齧歯類。
【請求項5】
置換されている前記内在性齧歯類Gpr156遺伝子の前記齧歯類ゲノム断片が、前記内在性齧歯類Gpr156遺伝子の前記ATG開始コドンから前記停止コドンまでを含む、請求項に記載の齧歯類。
【請求項6】
E533Dバリエーションを含む前記変異体ヒトGPR156タンパク質が、配列番号5、配列番号6、配列番号7、または配列番号8に記載されるアミノ酸配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の齧歯類。
【請求項7】
前記齧歯類が、前記ヒト化Gpr156遺伝子についてヘテロ接合性である、請求項1~のいずれか一項に記載の齧歯類。
【請求項8】
前記齧歯類が、前記ヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性である、請求項1~のいずれか一項に記載の齧歯類。
【請求項9】
前記齧歯類が、内在性齧歯類Gpr156タンパク質を発現することができない、請求項1~のいずれか一項に記載の齧歯類。
【請求項10】
前記齧歯類が、マウスまたはラットである、請求項1~のいずれか一項に記載の齧歯類。
【請求項11】
ゲノムが、内在性齧歯類Gpr156座位でヒト化Gpr156遺伝子を含む、単離された齧歯類細胞または組織であって、
前記ヒト化Gpr156遺伝子が、齧歯類Gpr156核酸部分およびヒトGPR156核酸部分を含み、
前記ヒトGPR156核酸部分が、ヒトGPR156遺伝子のATG開始コドンから停止コドンまでを含み、
前記齧歯類Gpr156核酸部分が、齧歯類Gpr156遺伝子の5’非コードエクソン配列および/または3’非コードエクソン配列を含み、
前記ヒト化Gpr156遺伝子が、E533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードし、かつ、
前記ヒト化Gpr156遺伝子の発現が、前記内在性齧歯類Gpr156座位で前記齧歯類Gpr156のプロモーターの制御下にある、単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項12】
前記ヒトGPR156核酸部分が、前記ヒトGPR156遺伝子の3’UTRをさらに含む、請求項11に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項13】
前記ヒト化Gpr156遺伝子が、前記内在性齧歯類Gpr156座位で内在性齧歯類Gpr156遺伝子の齧歯類ゲノム断片の、前記ヒトGPR156核酸部分での置換から形成される、請求項11に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項14】
前記ヒトGPR156核酸部分が、前記ヒトGPR156遺伝子の前記ATG開始コドンから最終のエクソンまでを含むヒトゲノム断片を含む、請求項13に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項15】
置換されている前記内在性齧歯類Gpr156遺伝子の前記齧歯類ゲノム断片が、前記内在性齧歯類Gpr156遺伝子の前記ATG開始コドンから前記停止コドンまでを含む、請求項13に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項16】
前記ヒト化Gpr156遺伝子が、E533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードし、前記変異体ヒトGPR156タンパク質が、配列番号5、配列番号6、配列番号7、または配列番号8に記載されるアミノ酸配列を含む、請求項11~15のいずれか一項に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項17】
前記単離された齧歯類細胞または組織が、前記ヒト化Gpr156遺伝子についてヘテロ接合性である、請求項11~16のいずれか一項に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項18】
前記単離された齧歯類細胞または組織が、前記ヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性である、請求項11~16のいずれか一項に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項19】
前記齧歯類細胞または組織が、内在性齧歯類Gpr156タンパク質を発現することができない、請求項11~18のいずれか一項に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項20】
前記齧歯類細胞が、齧歯類胚性幹(ES)細胞である、請求項11~19のいずれか一項に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項21】
前記齧歯類細胞または組織が、マウス細胞もしくは組織、またはラット細胞もしくは組織である、請求項11~20のいずれか一項に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項22】
遺伝子改変された齧歯類を作製する方法であって、
改変されたゲノムは、内在性齧歯類Gpr156座位でヒト化Gpr156遺伝子を含むように、齧歯類ゲノムを改変することであって、
前記ヒト化Gpr156遺伝子は、齧歯類Gpr156核酸部分およびヒトGPR156核酸部分を含み、
前記ヒトGPR156核酸部分が、ヒトGPR156遺伝子のATG開始コドンから停止コドンまでを含み、
前記齧歯類Gpr156核酸部分が、齧歯類Gpr156遺伝子の5’非コードエクソン配列および/または3’非コードエクソン配列を含み、
前記ヒト化Gpr156遺伝子は、E533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードし、かつ
前記ヒト化Gpr156遺伝子の発現は、前記内在性齧歯類Gpr156座位で前記齧歯類Gpr156のプロモーターの制御下にある、改変すること、および
前記改変されたゲノムを含む遺伝子改変された齧歯類を得ることを含む、方法。
【請求項23】
前記齧歯類ゲノムが、
(a)標的化ベクターを齧歯類ES細胞に導入することであって、前記標的化ベクターが、内在性齧歯類Gpr156座位に統合されるべき前記ヒトGPR156核酸部分を含み、これにより、内在性齧歯類Gpr156座位でヒト化Gpr156遺伝子を形成する、導入すること;
(b)ゲノムが、前記ヒト化Gpr156遺伝子を含む、遺伝子改変された齧歯類ES細胞を得ること;および
(c)(b)の遺伝子改変された齧歯類ES細胞を使用し、齧歯類を作製すること、を含む工程により改変される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ヒトGPR156核酸部分が、前記ヒトGPR156遺伝子の3’UTRをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ヒト化Gpr156遺伝子が、前記内在性齧歯類Gpr156座位での内在性齧歯類Gpr156遺伝子の齧歯類ゲノム断片の、前記ヒトGPR156核酸部分での置換から形成される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記ヒトGPR156核酸部分が、ヒトGPR156遺伝子の前記ATG開始コドンから前記停止コドンまでを含むヒトゲノム断片を含み、前記ヒトGPR156遺伝子が、全長野生型ヒトGPR156タンパク質における533位に対応するアミノ酸位置でGluまたはAspをコードするヌクレオチドを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記ヒトゲノム断片が、前記ヒトGPR156遺伝子の前記ATG開始コドンから最終のエクソンまでを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
置換されている前記内在性齧歯類Gpr156遺伝子の前記齧歯類ゲノム断片が、前記内在性齧歯類Gpr156遺伝子の前記ATG開始コドンから前記停止コドンまでを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記齧歯類が、前記ヒト化Gpr156遺伝子についてヘテロ接合性である、請求項22~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記齧歯類が、前記ヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性である、請求項22~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記齧歯類が、内在性齧歯類Gpr156タンパク質を発現することができない、請求項22~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記齧歯類が、マウスまたはラットである、請求項22~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
標的化ベクターであって、
齧歯類Gpr156座位でヌクレオチド配列に相同である5’ヌクレオチド配列および3’ヌクレオチド配列が隣接する、内在性齧歯類Gpr156座位で齧歯類Gpr156遺伝子に統合されるべきヒトGPR156核酸を含み、
前記ヒトGPR156核酸の前記齧歯類Gpr156遺伝子への統合が、前記内在性齧歯類Gpr156座位での内在性齧歯類Gpr156遺伝子の齧歯類ゲノム断片の、前記ヒトGPR156核酸での置換をもたらして、ヒト化Gpr156遺伝子を形成し、
前記ヒトGPR156核酸が、E533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードし、ヒトGPR156遺伝子のATG開始コドンから停止コドンまでを含み、
前記ヒト化Gpr156遺伝子の発現が、前記内在性齧歯類Gpr156座位で前記齧歯類Gpr156のプロモーターの制御下にある、標的化ベクター。
【請求項34】
前記ヒトGPR156核酸が、前記ヒトGPR156遺伝子の前記ATG開始コドンから最終のエクソンまでを含む、請求項33に記載の標的化ベクター。
【請求項35】
置換されている前記内在性齧歯類Gpr156遺伝子の前記齧歯類ゲノム断片が、前記内在性齧歯類Gpr156遺伝子の前記ATG開始コドンから前記停止コドンまでを含む、請求項34に記載の標的化ベクター。
【請求項36】
前記齧歯類が、マウスまたはラットである、請求項33~35のいずれか一項に記載の標的化ベクター。
【請求項37】
単極性うつ病または不安障害を治療するための剤の効果を試験する方法であって、
前記剤を請求項1~10のいずれか一項に記載の齧歯類に投与すること;
前記齧歯類を、単極性うつ病または前記不安障害を示す前記齧歯類における挙動を評価するための試験に供すること、および
前記剤が、前記齧歯類における前記挙動に対する効果を有するかどうかを決定することを含む、方法。
【請求項38】
前記試験が、強制水泳試験である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記試験が、ガラス玉覆い隠し試験である、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
請求項1~10のいずれか一項に記載の遺伝子改変された齧歯類を含む、気分障害の齧歯類モデル。
【請求項41】
請求項20に記載の齧歯類胚性幹細胞を含む、齧歯類胚。
【請求項42】
前記齧歯類はマウスまたはラットである、請求項41に記載の齧歯類胚。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒト疾患の動物モデルに関する。より具体的には、本開示は、単極性うつ病および不安障害などの気分障害の齧歯類モデルに関する。全長野生型ヒトGPR156タンパク質における533位に対応するアミノ酸位置でAspを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードするヒト化Gタンパク質共役受容体156(GRP156)遺伝子を有する遺伝子改変された齧歯類動物が、本明細書において開示される。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年1月17日に出願された米国仮出願第62/793,523号および2019年9月13日に出願された米国仮出願第62/899,849号の優先権を主張し、その両方の内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
参照による配列表の援用
2020年1月8日に作成され、EFS-Webを介して米国特許商標庁に提出された36506PCT_10269WO01_SequenceListing.txtという名称の1299KBのASCIIテキストファイルの配列表が、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
特許、特許出願、受託番号、技術論文および学術論文を含む様々な参考文献が、本明細書に引用される。各参考文献は、参照によりその全体が、全ての目的について本明細書に組み込まれる。
【0005】
Gタンパク質共役受容体(GPCR)は、7つのらせん膜貫通ドメインと、N末端細胞外ドメインおよびC末端細胞内ドメインによって特徴付けられる細胞表面受容体の大きなスーパーファミリーである(非特許文献1)。GPCRは、様々な細胞型で発現され、細胞膜を超えて、細胞内部に細胞外シグナルを導入するのに関与する(非特許文献2)。2012年、GPCRがどのように機能するかを同定した2人の科学者に、ノーベル化学賞が授与された(非特許文献3)。
【0006】
GPR156(Gタンパク質共役受容体156)は、代謝型グルタミン酸受容体サブファミリーに属するGPCRをコードするヒト遺伝子である(非特許文献4)。文献においてGPR156を参照するために使用されてきたその他の名称は、GABABL(GABAB様またはGABABL)およびPGR28である(非特許文献5)。マウスでは、GPR156は、Gpr156またはGabablとして言及される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Cherezov Vら、Science 318:1258~1265(2007)
【文献】Kobilka R、Biochim.Biophys.Acta 1768:794~807(2007)
【文献】Clark R、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 110:5274~5275(2013)
【文献】Calver Aら、Brain Res.Mol.Brain Res.110:305~307(2003)
【文献】Vassilatis D,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:4903~4908(2003)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
単極性うつ病および不安障害などの気分障害の動物モデルとしての使用に適した遺伝子改変された齧歯類が、本明細書において開示される。より具体的には、内在性齧歯類Gpr156座位にてヒト化Gpr156遺伝子を有する遺伝子改変された齧歯類動物(例えば、マウスまたはラット)が、本明細書において開示され、ヒト化Gpr156遺伝子は、野生型ヒトGPR156タンパク質または全長野生型ヒトGPR156タンパク質(「E533Dバリエーション」としても本明細書において言及される)における533位に対応するアミノ酸位置でAspを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードする。遺伝子改変された齧歯類を作製する方法およびそのための標的化ベクター、交配方法、ならびに治療剤をスクリーニングし、試験するための気分障害の動物モデルとしての遺伝子改変された齧歯類の使用もまた、本明細書において開示される。
【0009】
一態様では、ゲノムが、内在性齧歯類Gpr156座位でヒト化Gpr156遺伝子を含む遺伝子改変された齧歯類が、本明細書において開示され、ヒト化Gpr156遺伝子は、齧歯類Gpr156核酸部分およびヒトGPR156核酸部分を含み、ヒト化Gpr156遺伝子の発現は、内在性齧歯類Gpr156座位で齧歯類Gpr156プロモーターの制御下にある。齧歯類Gpr156核酸部分およびヒトGPR156核酸部分各々は、ゲノムDNAまたはcDNAであり得る。
【0010】
一部の実施形態では、齧歯類におけるヒト化Gpr156遺伝子は、E533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードする。
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子におけるヒトGPR156核酸部分は、ヒトGPR156遺伝子のコード配列を含み、コード配列は、ヒトGPR156遺伝子の最初のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最後のコードエクソンにおける停止コドンを含み、ヒトGPR156遺伝子は、E533Dバリエーションをコードするヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子におけるヒトGPR156核酸部分は、ヒトGPR156遺伝子の5’非コードエクソン配列もしくは3’非コードエクソン配列、またはその組み合わせをさらに含む。ヒトGPR156遺伝子の5’非コードエクソン配列は、例えば、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンの任意の5’非コードエクソン、および/または5’非コーディング部分を含み得る。ヒトGPR156遺伝子の3’非コードエクソン配列は、例えば、ヒトGPR156遺伝子の3’UTRを含み得る。特定の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子におけるヒトGPR156核酸部分は、ヒトGPR156遺伝子の最初のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のエクソン(すなわち、3’UTRを含む)を、E533Dバリエーションをコードするヌクレオチドを含むヒトGPR156遺伝子と共に含む。
【0011】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子における齧歯類Gpr156核酸部分は、齧歯類Gpr156遺伝子の5’非コードエクソン配列もしくは3’非コードエクソン配列、またはその組み合わせを含む。齧歯類Gpr156遺伝子が、マウスGpr156遺伝子である実施形態では、5’非コードエクソン配列は、例えば、マウスGpr156遺伝子のエクソン1、エクソン2(第一のコードエクソン)の5’非コード部分、またはその組み合わせを含み得、3’非コードエクソン配列は、例えば、マウスGpr156遺伝子のエクソン10(第9および最後のコードエクソン)の3’UTRを含み得る。齧歯類Gpr156遺伝子が、ラットGpr156遺伝子である実施形態では、5’非コードエクソン配列は、例えば、ラットGpr156遺伝子のエクソン1(第一のコードエクソンでもある)の5’非コード部分を含み得、3’非コードエクソン配列は、例えば、ラットGpr156遺伝子のエクソン9(最後のコードエクソンでもある)の3’UTRを含み得る。
【0012】
特定の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、齧歯類Gpr156遺伝子の5’非コードエクソン配列、およびヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のエクソンを、E533Dバリエーションをコードするヌクレオチドを含むヒトGPR156遺伝子と共に含み、ある特定の実施形態では、かかるヒト化Gpr156遺伝子は、ヒトGPR156遺伝子の最終エクソンの下流に位置する、齧歯類Gpr156遺伝子の3’非コードエクソン配列をさらに含む。
【0013】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子における齧歯類Gpr156核酸部分をもたらす齧歯類Gpr156遺伝子は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子である。
一部の実施形態では、齧歯類におけるヒト化Gpr156遺伝子は、内在性齧歯類Gpr156座位での内在性齧歯類Gpr156遺伝子の齧歯類ゲノム断片の、E533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードするヒトGPR156核酸での置換から形成される。ヒトGPR156核酸は、ゲノムDNAまたはcDNAであり得る。
【0014】
一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質をコードするヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のコードエクソンにおける停止コドンを含むコード配列(例えば、ゲノムまたはcDNA配列)を含み、ヒトGPR156遺伝子は、E533Dバリエーションをコードするヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子におけるヒトGPR156核酸部分は、ヒトGPR156遺伝子の5’非コードエクソン配列もしくは3’非コードエクソン配列、またはその組み合わせをさらに含む。一部の実施形態では、ヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンの5’非コード配列もしくは3’UTR、またはその組み合わせを含む。特定の実施形態では、ヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のエクソン(すなわち、3’UTR)を、E533Dバリエーションをコードするヌクレオチドを含むヒトGPR156遺伝子と共に含む。
【0015】
一部の実施形態では、置換されている齧歯類ゲノム断片は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子のATG開始コドン(第一のコードエクソンにおける)から停止コドン(最終のコードエクソンにおける)を含む。一部の実施形態では、置換されている齧歯類ゲノム断片は、齧歯類Gpr156遺伝子の5’非コードエクソン配列もしくは3’非コードエクソン配列、またはその組み合わせをさらに含む。
【0016】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、E533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードし、変異体タンパク質は、814アミノ酸の全長GPR156タンパク質である。一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号5に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号6に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号5または配列番号6に実質的に同一であるアミノ酸配列を含む。
【0017】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、810アミノ酸の短いアイソフォームGPR156タンパク質であり、E533Dバリエーションを含む、変異体ヒトGPR156タンパク質をコードする。一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号7に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号8に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号7または配列番号8に実質的に同一であるアミノ酸配列を含む。
【0018】
さらなる実施形態では、齧歯類におけるヒト化Gpr156遺伝子は、野生型ヒトGPR156タンパク質をコードする。
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子におけるヒトGPR156核酸部分は、ヒトGPR156遺伝子のコード配列(例えば、ゲノムまたはcDNA配列)を含み、コード配列は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のコードエクソンにおける停止コドンを含む。一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子におけるヒトGPR156核酸部分は、ヒトGPR156遺伝子の5’非コードエクソン配列もしくは3’非コードエクソン配列、またはその組み合わせをさらに含む。一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子におけるヒトGPR156核酸部分は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンの5’非コード配列もしくは3’UTR、またはその組み合わせを含む。特定の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子におけるヒトGPR156核酸部分は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のエクソン(すなわち、3’UTR)を含む。
【0019】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子における齧歯類Gpr156核酸部分は、齧歯類Gpr156遺伝子の5’非コードエクソン配列もしくは3’非コードエクソン配列、またはその組み合わせを含む。齧歯類Gpr156遺伝子が、マウスGpr156遺伝子である実施形態では、ヒト化Gpr156における齧歯類Gpr156核酸部分は、マウスGpr156遺伝子のエクソン1、エクソン2における5’非コード配列、もしくはエクソン10の3’UTR、またはその組み合わせを含んでもよい。
【0020】
特定の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、齧歯類Gpr156遺伝子の5’非コードエクソン配列、およびヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のエクソンを含み、ある特定の実施形態では、かかるヒト化Gpr156遺伝子は、ヒトGPR156遺伝子の最終のエクソンの下流に位置する、齧歯類Gpr156遺伝子の3’非コードエクソン配列をさらに含む。齧歯類Gpr156遺伝子が、マウスGpr156遺伝子である実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、マウスGpr156遺伝子のエクソン1、エクソン2における5’非コード配列、もしくはエクソン10の3’UTR、またはその組み合わせを含んでもよく、マウスGpr156遺伝子のエクソン10の3’UTRは、存在するとき、ヒトGPR156遺伝子の最終のエクソンの下流に位置する。
【0021】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子における齧歯類Gpr156核酸部分をもたらす齧歯類Gpr156遺伝子は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子である。
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、内在性齧歯類Gpr156座位の内在性齧歯類Gpr156遺伝子の齧歯類ゲノム断片の、野生型ヒトGPR156タンパク質をコードするヒトGPR156核酸での置換から形成される。ヒトGPR156核酸は、ゲノムDNAまたはcDNAであり得る。
【0022】
一部の実施形態では、野生型ヒトGPR156タンパク質をコードするヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のコードエクソンにおける停止コドンを含むコード配列(例えば、ゲノムまたはcDNA配列)を含む。一部の実施形態では、ヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の5’および/または3’非コードエクソン配列をさらに含む。一部の実施形態では、ヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおける5’非コード配列もしくは3’UTR、またはその組み合わせを含む。特定の実施形態では、ヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のエクソン(すなわち、3’UTR)を含む。
【0023】
一部の実施形態では、置換されている齧歯類ゲノム断片は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のコードエクソンにおける停止コドンを含む。一部の実施形態では、置換されている齧歯類ゲノム断片は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子の5’および/または3’非コードエクソン配列をさらに含む。齧歯類がマウスである実施形態では、置換されているマウスゲノム断片は、内在性マウスGpr156遺伝子のエクソン1、エクソン2における5’非コード配列、もしくはエクソン10の3’UTR、またはその組み合わせを含んでもよい。
【0024】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、野生型ヒトGPR156タンパク質をコードし、野生型タンパク質は、814アミノ酸の全長野生型ヒトGPR156タンパク質である。一部の実施形態では、全長野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、全長野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号2に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、全長野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号1または配列番号2に実質的に同一であり、533位でGluを含むアミノ酸配列を含む。
【0025】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、810アミノ酸の短いアイソフォーム野生型ヒトGPR156タンパク質である野生型ヒトGPR156タンパク質をコードする。一部の実施形態では、野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号3に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号3または配列番号4に実質的に同一であり、529位でGluを含む、810アミノ酸のアミノ酸配列を含む。
【0026】
一部の実施形態では、本明細書において開示される齧歯類は、ヒト化Gpr156遺伝子についてヘテロ接合性である。一部の実施形態では、本明細書において開示される齧歯類は、ヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性である。
【0027】
一部の実施形態では、本明細書において開示される齧歯類は、内在性齧歯類Gpr156タンパク質を発現することができない。
一部の実施形態では、本明細書に開示される齧歯類は、マウスまたはラットである。
【0028】
別の態様では、ゲノムが、内在性齧歯類Gpr156座位でヒト化Gpr156遺伝子を含む、単離された齧歯類細胞または組織が、本明細書において開示され、ヒト化Gpr156遺伝子は、齧歯類Gpr156核酸部分およびヒトGPR156核酸部分を含み、ヒト化Gpr156遺伝子の発現は、内在性齧歯類Gpr156座位で齧歯類Gpr156プロモーターの制御下にある。齧歯類Gpr156核酸部分およびヒトGPR156核酸部分各々は、ゲノムDNAまたはcDNAであり得る。
【0029】
一部の実施形態では、単離された齧歯類細胞または組織におけるヒト化Gpr156遺伝子は、E533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードする。
【0030】
一部の実施形態では、単離された齧歯類細胞または組織におけるヒト化Gpr156遺伝子におけるヒトGPR156核酸部分は、ヒトGPR156遺伝子のコード配列を含み、コード配列は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のコードエクソンにおける停止コドンを含み、ヒトGPR156遺伝子は、E533Dバリエーションをコードするヌクレオチド(最終のコードエクソンにおける)を含む。一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子におけるヒトGPR156核酸部分は、ヒトGPR156遺伝子の5’および/または3’非コードエクソン配列をさらに含む。一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子におけるヒトGPR156核酸部分は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンの5’非コード配列もしくは3’UTR、またはその組み合わせを含む。特定の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子におけるヒトGPR156核酸部分は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のエクソン(すなわち、3’UTR)を、E533Dバリエーションをコードするヌクレオチドを含むヒトGPR156遺伝子と共に含む。
【0031】
一部の実施形態では、単離された齧歯類細胞または組織におけるヒト化Gpr156遺伝子における齧歯類Gpr156核酸部分は、齧歯類Gpr156遺伝子の5’非コードエクソン配列もしくは3’非コードエクソン配列、またはその組み合わせを含む。齧歯類Gpr156遺伝子が、マウスGpr156遺伝子である実施形態では、単離された齧歯類細胞または組織におけるヒト化Gpr156遺伝子における齧歯類Gpr156核酸部分は、マウスGpr156遺伝子のエクソン1、エクソン2における5’非コード配列、もしくはエクソン10の3’UTR、またはその組み合わせを含んでもよい。
【0032】
特定の実施形態では、単離された齧歯類細胞または組織におけるヒト化Gpr156遺伝子は、齧歯類Gpr156遺伝子の5’非コードエクソン配列、およびヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のエクソンを、E533Dバリエーションをコードするヌクレオチドを含むヒトGPR156遺伝子と共に含み、ある特定の実施形態では、かかるヒト化Gpr156遺伝子は、ヒトGPR156遺伝子の最終のエクソンの下流に位置する、齧歯類Gpr156遺伝子の3’非コードエクソン配列をさらに含む。
【0033】
一部の実施形態では、単離された齧歯類細胞または組織におけるヒト化Gpr156遺伝子における齧歯類Gpr156核酸部分をもたらす齧歯類Gpr156遺伝子は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子である。
【0034】
一部の実施形態では、単離された齧歯類細胞または組織におけるヒト化Gpr156遺伝子は、内在性齧歯類Gpr156座位での内在性齧歯類Gpr156遺伝子の齧歯類ゲノム断片の、E533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードするヒトGPR156核酸での置換から形成される。ヒトGPR156核酸部分は、ゲノムDNAまたはcDNAであり得る。
【0035】
一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質をコードするヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のコードエクソンにおける停止コドンを含むコード配列(例えば、ゲノムまたはcDNA配列)を含み、ヒトGPR156遺伝子は、E533Dバリエーションをコードするヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、ヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の5’および/または3’非コードエクソン配列をさらに含む。一部の実施形態では、ヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンの5’非コード部分もしくは3’UTR、またはその組み合わせを含む。特定の実施形態では、ヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のエクソン(すなわち、3’UTRを含む)を、E533Dバリエーションをコードするヌクレオチドを含むヒトGPR156遺伝子と共に含む。
【0036】
一部の実施形態では、置換されている齧歯類ゲノム断片は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のコードエクソンにおける停止コドンを含む。一部の実施形態では、置換されている齧歯類ゲノム断片は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子の5’および/または3’非コードエクソン配列をさらに含む。齧歯類細胞または組織が、マウス細胞または組織である実施形態では、置換されているマウスゲノム断片は、内在性マウスGpr156遺伝子のエクソン1、エクソン2における5’非コード配列、もしくはエクソン10の3’UTR、またはその組み合わせを含んでもよい。
【0037】
一部の実施形態では、単離された齧歯類細胞または組織におけるヒト化Gpr156遺伝子は、E533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードし、変異体タンパク質は、814アミノ酸の全長GPR156タンパク質である。一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号5に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号6に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号5または配列番号6に実質的に同一であるアミノ酸配列を含む。
【0038】
一部の実施形態では、単離された齧歯類細胞または組織におけるヒト化Gpr156遺伝子は、810アミノ酸の短いアイソフォームGPR156タンパク質であり、E533Dバリエーションを含む、変異体ヒトGPR156タンパク質をコードする。一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号7に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号8に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号7または配列番号8に実質的に同一であるアミノ酸配列を含む。
【0039】
さらなる実施形態では、単離された齧歯類細胞または組織におけるヒト化Gpr156遺伝子は、野生型ヒトGPR156タンパク質をコードする。
一部の実施形態では、単離された齧歯類細胞または組織におけるヒト化Gpr156遺伝子におけるヒトGPR156核酸部分は、ヒトGPR156遺伝子のコード配列(例えば、ゲノムまたはcDNA配列)を含み、コード配列は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のコードエクソンにおける停止コドンを含む。一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子におけるヒトGPR156核酸部分は、ヒトGPR156遺伝子の5’および/または3’非コードエクソン配列をさらに含む。一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子におけるヒトGPR156核酸部分は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンの5’非コード部分もしくは3’UTR、またはその組み合わせを含む。特定の実施形態では、単離された齧歯類細胞または組織におけるヒト化Gpr156遺伝子におけるヒトGPR156核酸部分は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のエクソン(すなわち、3’UTRを含む)を含む。
【0040】
一部の実施形態では、単離された齧歯類細胞または組織におけるヒト化Gpr156遺伝子における齧歯類Gpr156核酸部分は、5’非コードエクソン配列および/または3’非コードエクソン配列を含む。齧歯類細胞または組織が、マウス細胞または組織である実施形態では、単離されたマウス細胞または組織におけるヒト化Gpr156遺伝子における齧歯類Gpr156核酸部分は、マウスGpr156遺伝子のエクソン1、エクソン2における5’非コード配列、もしくはエクソン10の3’UTR、またはその組み合わせを含んでもよい。
【0041】
特定の実施形態では、単離された齧歯類細胞または組織におけるヒト化Gpr156遺伝子は、齧歯類Gpr156遺伝子の5’非コードエクソン配列、およびヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のエクソンを含み、ある特定の実施形態では、かかるヒト化Gpr156遺伝子は、ヒトGPR156遺伝子の最終のエクソンの下流に位置する、齧歯類Gpr156遺伝子の3’非コードエクソン配列をさらに含む。
【0042】
一部の実施形態では、単離された齧歯類細胞または組織におけるヒト化Gpr156遺伝子における齧歯類Gpr156核酸部分をもたらす齧歯類Gpr156遺伝子は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子である。
【0043】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、内在性齧歯類Gpr156座位の内在性齧歯類Gpr156遺伝子の齧歯類ゲノム断片の、野生型ヒトGPR156タンパク質をコードするヒトGPR156核酸での置換から形成される。ヒトGPR156核酸は、ゲノムDNAまたはcDNAであり得る。
【0044】
一部の実施形態では、野生型ヒトGPR156タンパク質をコードするヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のコードエクソンにおける停止コドンを含むコード配列(例えば、ゲノムまたはcDNA配列)を含む。一部の実施形態では、ヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の5’および/または3’非コードエクソン配列をさらに含む。一部の実施形態では、ヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンの5’非コード部分もしくは3’UTR、またはその組み合わせを含む。特定の実施形態では、ヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のエクソン(すなわち、3’UTRを含む)を含む。
【0045】
一部の実施形態では、置換されている齧歯類ゲノム断片は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のコードエクソンにおける停止コドンを含む。
【0046】
一部の実施形態では、単離された齧歯類細胞または組織におけるヒト化Gpr156遺伝子は、野生型ヒトGPR156タンパク質をコードし、野生型タンパク質は、814アミノ酸の全長野生型ヒトGPR156タンパク質である。一部の実施形態では、野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、全長野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号2に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、全長野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号1または配列番号2に実質的に同一であり、533位でGluを含むアミノ酸配列を含む。
【0047】
一部の実施形態では、単離された齧歯類細胞または組織におけるヒト化Gpr156遺伝子は、810アミノ酸の短いアイソフォーム野生型ヒトGPR156タンパク質である野生型ヒトGPR156タンパク質をコードする。一部の実施形態では、野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号3に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号3または配列番号4に実質的に同一であり、529位でGluを含む、810アミノ酸のアミノ酸配列を含む。
【0048】
一部の実施形態では、本明細書において開示される単離された齧歯類細胞または組織は、ヒト化Gpr156遺伝子についてヘテロ接合性である。一部の実施形態では、本明細書において開示される単離された齧歯類細胞または組織は、ヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性である。
【0049】
一部の実施形態では、本明細書において開示される単離された齧歯類細胞または組織は、内在性齧歯類Gpr156タンパク質を発現することができない。
一部の実施形態では、単離された齧歯類細胞は、齧歯類胚性幹(ES)細胞である。
【0050】
一部の実施形態では、単離された齧歯類細胞または組織は、マウス細胞もしくは組織、またはラット細胞もしくは組織である。
さらなる態様では、遺伝子改変された齧歯類を作製する方法が、本明細書において開示され、方法は、改変されたゲノムが、内在性齧歯類Gpr156座位でヒト化Gpr156遺伝子を含むように、齧歯類ゲノムを改変することであって、ヒト化Gpr156遺伝子は、齧歯類Gpr156核酸部分およびヒトGPR156核酸部分を含み、ヒト化Gpr156遺伝子の発現は、内在性齧歯類Gpr156座位で齧歯類Gpr156プロモーターの制御下にある、改変すること、および改変されたゲノムを含む齧歯類を得ることを含む。齧歯類Gpr156核酸部分およびヒトGPR156核酸部分各々は、ゲノムDNAまたはcDNAであり得る。
【0051】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、E533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードする。一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、野生型ヒトGPR156タンパク質をコードする。
【0052】
一部の実施形態では、齧歯類ゲノムは、(a)標的化ベクターを齧歯類ES細胞に導入して、ゲノムがヒト化Gpr156遺伝子を含む、改変された齧歯類ES細胞を得ること;および(b)(a)の改変された齧歯類ES細胞を使用して齧歯類を作製することにより、改変される。
【0053】
一部の実施形態では、標的化ベクターは、内在性齧歯類Gpr156座位に統合されるヒトGPR156核酸を含み、これにより、内在性齧歯類Gpr156座位でヒト化Gpr156遺伝子を形成する。ヒトGPR156核酸は、ゲノムDNAまたはcDNAであり得る。
【0054】
一部の実施形態では、ヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のコードエクソンにおける停止コドンを含むコード配列(例えば、ゲノムまたはcDNA配列)を含み、ヒトGPR156遺伝子は、Glu(野生型)またはE533Dバリエーション(変異体)のいずれかをコードするヌクレオチド(最終のコードエクソンにおける)を含む。一部の実施形態では、ヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の5’および/または3’非コードエクソン配列をさらに含む。一部の実施形態では、ヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンの5’非コード配列もしくは3’UTR、またはその組み合わせを含む。特定の実施形態では、ヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のエクソン(すなわち、3’UTRを含む)を、Glu(野生型)またはE533Dバリエーション(変異体)のいずれかをコードするヌクレオチドを含むヒトGPR156遺伝子と共に含む。
【0055】
一部の実施形態では、置換されている齧歯類ゲノム断片は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のコードエクソンにおける停止コドンを含む。一部の実施形態では、置換されている齧歯類ゲノム断片は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子の5’および/または3’非コードエクソン配列をさらに含む。齧歯類がマウスである実施形態では、置換されているマウスゲノム断片は、内在性マウスGpr156遺伝子のエクソン1、エクソン2における5’非コード配列、もしくはエクソン10の3’UTR、またはその組み合わせを含んでもよい。
【0056】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、E533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードし、変異体タンパク質は、814アミノ酸の全長GPR156タンパク質である。一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号5に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号6に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号5または配列番号6に実質的に同一であるアミノ酸配列を含む。
【0057】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、810アミノ酸の短いアイソフォームGPR156タンパク質であり、E533Dバリエーションを含む、変異体ヒトGPR156タンパク質をコードする。一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号7に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号8に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号7または配列番号8に実質的に同一であるアミノ酸配列を含む。
【0058】
さらなる実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、野生型ヒトGPR156タンパク質をコードし、野生型タンパク質は、814アミノ酸の全長野生型ヒトGPR156タンパク質である。一部の実施形態では、野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、全長野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号2に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、全長野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号1または配列番号2に実質的に同一であり、533位でGluを含むアミノ酸配列を含む。
【0059】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、810アミノ酸の短いアイソフォーム野生型ヒトGPR156タンパク質である野生型ヒトGPR156タンパク質をコードする。一部の実施形態では、野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号3に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号3または配列番号4に実質的に同一であり、529位でGluを含む、810アミノ酸のアミノ酸配列を含む。
【0060】
一部の実施形態では、本方法に従い作製された齧歯類は、ヒト化Gpr156遺伝子についてヘテロ接合性である。一部の実施形態では、本方法に従い作製された齧歯類は、ヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性である。
【0061】
一部の実施形態では、本方法に従い作製された齧歯類は、内在性齧歯類Gpr156タンパク質を発現することができない。
一部の実施形態では、本方法に従い作製された齧歯類は、マウスまたはラットである。
【0062】
さらなる態様では、齧歯類Gpr156座位でのヌクレオチド配列に相同である5’ヌクレオチド配列および3’ヌクレオチド配列が隣接し、内在性齧歯類Gpr156座位での齧歯類Gpr156遺伝子に統合されるべきヒトGPR156核酸を含む標的化核酸ベクターが、本明細書において開示され、ヒトGPR156核酸の齧歯類Gpr156遺伝子への統合が、内在性齧歯類Gpr156座位での内在性齧歯類Gpr156遺伝子の齧歯類ゲノム断片の、ヒトGPR156核酸での置換が、ヒト化Gpr156遺伝子の形成をもたらし、ヒト化Gpr156遺伝子の発現が、内在性齧歯類Gpr156座位で齧歯類Gpr156プロモーターの制御下にある。ヒトGPR156核酸(およびヒト化Gpr156遺伝子)は、野生型ヒトGPR156タンパク質またはE533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質のいずれかをコードする。
【0063】
一部の実施形態では、ヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のコードエクソンにおける停止コドンを含むコード配列(例えば、ゲノムまたはcDNA配列)を含む標的化ベクターであり、ヒトGPR156遺伝子は、全長野生型ヒトGPR156タンパク質(例えば、配列番号1または2)における533位に対応するアミノ酸位置でGlu(野生型)またはAsp(変異体)のいずれかをコードするヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、標的化ベクターにおけるヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のエクソンを含む。
【0064】
一部の実施形態では、標的化ベクターは、置換されている内在性齧歯類Gpr156遺伝子の齧歯類ゲノム断片が、内在性齧歯類Gpr156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のコードエクソンにおける停止コドンを含むように、設計される。一部の実施形態では、置換されている齧歯類ゲノム断片は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子の5’および/または3’非コードエクソン配列をさらに含む。齧歯類がマウスである実施形態では、標的化ベクターは、置換されているマウスゲノム断片が、内在性マウスGpr156遺伝子のエクソン1、エクソン2における5’非コード配列、もしくはエクソン10の3’UTR、またはその組み合わせを含み得るように、設計される。
【0065】
一部の実施形態では、標的化ベクターは、齧歯類のゲノムにヒトGPR156核酸が統合されるように設計され、齧歯類は、マウスまたはラットである。
別の態様では、ゲノムが、内在性齧歯類Gpr156座位でヒト化Gpr156遺伝子を含む第一の齧歯類を、第二の齧歯類と交配させ、ゲノムが、ヒト化Gpr156遺伝子を含む子孫齧歯類をもたらすことを含む方法が、本明細書において開示され、ヒト化Gpr156遺伝子の発現が、内在性齧歯類Gpr156座位で齧歯類Gpr156プロモーターの制御下にある。
【0066】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、E533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードする。一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、野生型ヒトGPR156タンパク質をコードする。
【0067】
一部の実施形態では、第一の齧歯類および第二の齧歯類は、マウスである。一部の実施形態では、第一の齧歯類および第二の齧歯類は、ラットである。
さらなる態様では、ゲノムが、内在性齧歯類Gpr156座位でヒト化Gpr156遺伝子を含む、子孫齧歯類が開示され、子孫齧歯類は、ゲノムが、ヒト化Gpr156遺伝子を含む第一の齧歯類を第二の齧歯類と交配することを含む方法により生成され、ヒト化Gpr156遺伝子の発現は、内在性齧歯類Gpr156座位で齧歯類Gpr156プロモーターの制御下にある。
【0068】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、E533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードする。一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、野生型ヒトGPR156タンパク質をコードする。
【0069】
一部の実施形態では、子孫齧歯類は、ヒト化Gpr156遺伝子についてヘテロ接合性である。一部の実施形態では、子孫齧歯類は、ヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性である。
【0070】
一部の実施形態では、子孫齧歯類は、マウスである。一部の実施形態では、子孫齧歯類は、ラットである。
一態様では、ゲノムが遺伝子改変されたGpr156座位を含む齧歯類が、本明細書において開示され、遺伝子改変は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子における欠損を含み、任意選択で、レポーター遺伝子の挿入も含み、レポーター遺伝子は、座位で内在性齧歯類Gpr156プロモーターに作動可能に結合される。
【0071】
一部の実施形態では、第一のコードエクソンにおける開始コドン後のヌクレオチドから始まり、続くコードエクソン(例えば、第二、第三、第四、第五、第六、第七、第八、または第九のコードエクソン)までのゲノム断片は、欠損され、一部のかかる実施形態では、レポーター遺伝子は、挿入され、内在性齧歯類Gpr156遺伝子の第一のコードエクソンにおける開始コドンに作動可能に結合される。これらの実施形態では、レポーター遺伝子の発現は、改変されていない内在性齧歯類Gpr156遺伝子の発現パターンに似ている。
【0072】
一部の実施形態では、レポーター遺伝子は、LacZであるか、またはルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、強化GFP(eGFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、強化黄色蛍光タンパク質(eYFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、強化青色蛍光タンパク質(eBFP)、DsRed、およびMmGFPからなる群から選択されるタンパク質をコードする遺伝子である。
【0073】
一部の実施形態では、齧歯類は、遺伝子改変についてホモ接合性である。一部の実施形態では、齧歯類は、遺伝子改変についてヘテロ接合性である。
一部の実施形態では、齧歯類は、マウスである。一部の実施形態では、齧歯類は、ラットである。
【0074】
別の態様では、単極性うつ病または不安障害などの気分障害の齧歯類モデルが、開示される。
一部の実施形態では、気分障害の齧歯類モデルは、ゲノムが、内在性齧歯類Gpr156座位でヒト化Gpr156遺伝子を含む、遺伝子改変された齧歯類を含み、ヒト化Gpr156遺伝子は、E533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードし、ヒト化Gpr156遺伝子の発現は、内在性齧歯類Gpr156座位で齧歯類Gpr156プロモーターの制御下にある。齧歯類は、ヒト化Gpr156遺伝子についてヘテロ接合性またはホモ接合であり得る。
【0075】
一部の実施形態では、気分障害の齧歯類モデルは、ゲノムが、内在性齧歯類Gpr156座位でヒト化Gpr156遺伝子を含む、遺伝子改変された齧歯類をさらに含み、ヒト化Gpr156遺伝子は、野生型ヒトGPR156タンパク質をコードし、ヒト化Gpr156遺伝子の発現は、内在性齧歯類Gpr156座位で齧歯類Gpr156プロモーターの制御下にある。齧歯類は、ヒト化Gpr156遺伝子についてヘテロ接合性またはホモ接合であり得る。
【0076】
一部の実施形態では、気分障害の齧歯類モデルは、ゲノムが、遺伝子改変されたGpr156座位を含む、遺伝子改変された齧歯類をさらに含み、遺伝子修飾は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子における欠損および任意選択で、レポーター遺伝子の挿入を含み、レポーター遺伝子は、座位で内在性齧歯類Gpr156プロモーターに作動可能に結合される。齧歯類は、遺伝子改変についてヘテロ接合性またはホモ接合性であり得る。
【0077】
本開示に従い、E533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードするヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性であるか、または内在性齧歯類Gpr156遺伝子における欠損についてホモ接合性である齧歯類は、強制水泳試験を完了することができず、一方、対照齧歯類(野生型ヒトGPR156タンパク質をコードするヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性である齧歯類、または遺伝子改変またはヒト化を有さない齧歯類)は、強制水泳試験を行うことができる。強制水泳試験を終える能力は、抗うつ病/抗不安薬での処置後に、E533D変異体齧歯類またはGpr156欠損齧歯類において改善される。したがって、E533Dバリアントをコードするヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性であるか、または内在性齧歯類Gpr156遺伝子における欠損についてホモ接合性である齧歯類における強制水泳試験を完了することができないことは、気分障害の特性または指標として働くことができ、齧歯類を使用して、単極性うつ病および不安障害などの気分障害の治療のための治療剤をスクリーニングするか、試験することができる。
【0078】
さらなる態様では、単極性うつ病または不安障害の治療のための治療剤をスクリーニングするか、または試験する方法が、本明細書において開示され、方法は、剤を本明細書において開示される齧歯類に投与すること、一つまたは複数のアッセイ(例えば、強制水泳試験またはガラス玉覆い隠し試験)を行い、剤が、一つまたは複数のアッセイにおいて齧歯類の能力に対して効果を有するかどかを決定することを含む。剤が、例えば、強制水泳試験における機能障害を低減すること、排除すること、もしくは予防すること、または強制水泳試験を行い、完了する能力を改善することにより、あるいは覆い隠したガラス玉の数における増加を低減すること、排除することもしくは防ぐことにより評価される齧歯類に対する治療効果を有するとき、剤は、治療候補として同定され得る。
【図面の簡単な説明】
【0079】
図1】上、内在性マウスGpr156座位(斜線で描いたコード領域で);中、マウスGpr156エクソン2(一部、ATG後のコドンから)およびエクソン3~5の欠損、ならびにLacZコード配列の挿入を有する遺伝子改変されたマウスGpr156座位;および下、マウスGpr156遺伝子のエクソン2におけるATG開始コドンからエクソン10における停止コドンまでのマウスゲノム断片の、ヒトGPR156遺伝子(野生型ヒトGPR156遺伝子またはE533Dバリアントをコードする変異体ヒトGPR156遺伝子のいずれか)の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のコードエクソン(最終のエクソンでもある)における停止コドンまでのヒトゲノム断片での置換を有する遺伝子改変されたマウスGpr156座位。この図において示されるマウスGpr156座位でのヒト化Gpr156遺伝子についてのエクソン(「Ex」)ナンバリングは、マウスエクソンナンバリングに従った。
図2】水泳試験の合計時間(秒)。マウスは、6分間の強制水泳試験について試験した;全てのマウスが、課題を行うことができたわけではない。グラフは、左から右に、オスGpr156+/+、オスGpr156-/-、オスGPR156hum/hum(野生型ヒトGPR156についてホモ接合性)、オスGPR156E533D/E533D、メスGpr156+/+、メスGpr156-/-、メスGPR156hum/hum、およびメスGPR156E533D/E533Dの、試験される異なるGpr156遺伝子タイプについての水泳試験の持続時間を示す。データを、各動物群について平均±SEMとして表した。
図3A】左パネル:9週間のフルオキセチン10mg/kgの腹腔内注射(1週間毎に6日間の日常的な注射)での日常的な処置の前および後の水泳試験の総時間(秒)。マウスは、3週間毎に、6分間の強制水泳について試験した。グラフは、試験された異なるGpr156遺伝子タイプ:処置GPR156E533D/E533Dマウス、処置オスGPR156hum/hum、処置メスGPR156E533D/E533D、処置メスGPR156hum/hum、および未処置メスGPR156E533D/E533Dについての水泳試験の平均±SEM持続時間を示す。フルオキセチンでの処置は、GPR156E533D/E533Dマウスにおける損傷された水泳表現型を改善する。右パネル:フルオキセチンの腹腔内注射の3週間、6週間および9週間後に試験した異なるGPR156遺伝子タイプについて水泳試験を達成するマウスの割合。GPR156E533D/E533Dマウスのいずれ(0/13)も、フルオキセチンでの9週間処置後、水泳試験1回目を行うことができなかった一方、GPR156E533D/E533Dマウスの53%(7/13)は、試験を達成した(8番目のマウスが、350秒で試験を失敗した)。
図3B】水泳試験における挙動を、9週間に渡り、図3Aにおける実験において研究された個々のGPR156E533D/E533Dマウスからプロットし、これは、フルオキセチンでの処置が、GPR156E533D/E533Dマウスにおける損傷された水泳表現型を改善することを示している。フルオキセチンでの9週間の処置後、マウスの53%が、試験をやり遂げた。一方で、未処置群では、いく匹かのマウスが、それらの能力を改善し、1/11匹のマウスが、9週間で水泳試験をやり遂げた。
図3C】イミプラミンでの処置は、GPR156E533D/E533Dマウスにおける損傷された水泳表現型を改善する。図3C:オスとメスのマウスを別々にプロットされた、イミプラミンでの処置前、およびイミプラミン15mg/kgを6日/週(月曜日から土曜日)腹腔内注射した9週間後に試験された異なるGpr156遺伝子型についての水泳試験の総時間(秒)。図3D:各遺伝子型についてオスとメスのマウスを組み合わせた、イミプラミンを用いた9週間の処置の前後で試験された、異なるGPR156遺伝子型についての水泳試験の総時間(秒)。
図3D】イミプラミンでの処置は、GPR156E533D/E533Dマウスにおける損傷された水泳表現型を改善する。図3C:オスとメスのマウスを別々にプロットされた、イミプラミンでの処置前、およびイミプラミン15mg/kgを6日/週(月曜日から土曜日)腹腔内注射した9週間後に試験された異なるGpr156遺伝子型についての水泳試験の総時間(秒)。図3D:各遺伝子型についてオスとメスのマウスを組み合わせた、イミプラミンを用いた9週間の処置の前後で試験された、異なるGPR156遺伝子型についての水泳試験の総時間(秒)。
図4】左から右に、異なる遺伝子タイプ:オスGpr156+/+、オスGpr156-/-、オスGPR156hum/hum、オスGPR156E533D/E533D、メスGpr156+/+、メスGpr156-/-、メスGPR156hum/hum、およびメスGPR156E533D/E533Dのマウスによる、10分間での覆い隠したガラス玉の数。遺伝子改変され、E533Dバリエーションをコードするヒト化GPR156遺伝子についてホモ接合性のオスマウス、または遺伝子改変され、マウスGpr156遺伝子の欠失についてホモ接合性のオスマウスは、10分間での覆い隠したガラス玉の数の増大を示した。データを、各動物群について平均±SEMとして表した。
【発明を実施するための形態】
【0080】
単極性うつ病および不安障害などの気分障害の動物モデルとしての使用に適した遺伝子改変された齧歯類が、本明細書において開示される。特に、内在性齧歯類Gpr156座位でヒト化Gpr156遺伝子を有する遺伝子改変された齧歯類動物(例えば、マウスまたはrat)が、本明細書において開示され、ヒト化Gpr156遺伝子は、野生型ヒトGPR156タンパク質または全長野生型ヒトGPR156タンパク質における533位に対応するアミノ酸位置でAspを含む変異体ヒトGPR156タンパク質(「E533Dバリエーション」としても本明細書において言及される)をコードする。遺伝子改変された齧歯類を作製する方法およびそのための標的化ベクター、交配方法、ならびに治療剤をスクリーニングし、試験するための気分障害の動物モデルとしての遺伝子改変された齧歯類の使用もまた、本明細書において開示される。
【0081】
本開示の様々な態様が、以下のセクションで詳細に記載される。
GPR156
GPR156(Gタンパク質共役受容体156)は、グループCのGタンパク質共役受容体ファミリーに属し、GABA受容体サブファミリーに最も密接に関連する、タンパク質をコードする(Calver Aら、Brain Res.Mol.Brain Res.110:305~307(2003))。GPR156タンパク質は、シグナルペプチドを含まず、7つの膜貫通型ドメイン、N末端の細胞外ドメイン、およびC末端の細胞内ドメインを含有すると推定される(Calverら、上記)。GPR156のC末端配列は、推定上の多重コイルドメイン、ジロイシン、およびいくつかのRXR(R)ER保持モチーフを含有し、それらの全てが、GABA受容体サブユニット機能において重要であることが示されている(Calverら、上記)。さらに、中枢神経系におけるGPR156の分布は、他の既知のGABAサブユニットの分布を連想させる(Calverら、上記)。
【0082】
ヒトGPR156遺伝子(例えば、GenBank受託番号NC_000003.12において入手可能)は、染色体3の3q13と3q22の間に位置し、約120kbの長さである。ヒト遺伝子は、第一のコードエクソンであるエクソン2を含む、10個のエクソンを有すると推定されるが、基準の転写物は、推定される転写物に存在する5’非コードエクソンを含まないと思われ、第一のコードエクソンでもある第一のエクソンも含む、9個のエクソンを有する。相同マウス遺伝子(例えば、GenBank受託番号NC_000082.6において入手可能)は、染色体16に位置し、第一のコードエクソンであるエクソン2を含む、10個のエクソンを有すると文書化されている。相同ラット遺伝子(例えば、GenBank受託番号NC_005110.4で入手可能)は、染色体11に位置し、第一のコードエクソンであるエクソン1を含む、9個のエクソンを有すると文書化されている。全長または短いアイソフォーム、野生型またはE533Dバリアント、ヒトGPR156タンパク質のいずれかをコードする例としてのヒトゲノムDNA配列が、配列番号9~16に記載される。例としてのラットおよびマウス転写物cDNAならびにタンパク質配列は、配列番号25(NM_153295.1)、配列番号26(NM_153394.2)、配列番号27(NP_695207.1)、および配列番号28(NP_700443.2)において記載される。
【0083】
GPR156は、それぞれ、ヒトタンパク質と、87.5%同一であるマウスおよびラットタンパク質、69.3%同一であるマウスおよびラットタンパク質、ならびに69.5%同一であるマウスおよびラットタンパク質で、種をまたぎ高度に保存されている(Calverら、上記)。
【0084】
ヒトGPR156タンパク質の二つの野生型アイソフォームが報告されている。より長いアイソフォームは、本明細書では全長野生型ヒトGPR156タンパク質とも呼称され、814個のアミノ酸からなる。より短いアイソフォームは、12個のヌクレオチドのインフレーム欠失の結果として、より長いアイソフォームの198位~201位に対応する位置に4個のアミノ酸の欠失を含有する。各アイソフォームについて、二つのバリアントが存在し、より長いアイソフォーム中の516位に対応するアミノ酸位置、またはより短いアイソフォーム中の512位に対応するアミノ酸位置にグルタミン酸またはアスパラギン酸のいずれかを有する。
【0085】
一部の実施形態では、全長野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号1に記載されるアミノ酸配列により表される。一部の実施形態では、全長野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号2に記載されるアミノ酸配列により表される。配列番号1および配列番号2の両方は、814個のアミノ酸からなり、516位のみで異なっており、配列番号1は、この位置にグルタミン酸を有し、配列番号2は、アスパラギン酸を有する。一部の実施形態では、全長野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号1または配列番号2に記載されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列により表されてもよい。
【0086】
所与のアミノ酸配列を、参照配列と「実質的に同一である」と言及する場合、所与のアミノ酸配列が、参照配列に少なくとも98%同一、少なくとも98.5%同一、少なくとも99%同一、または少なくとも99.5%同一である実施形態を含み、例えば、所与のアミノ酸配列は、参照配列と1個、2個、3個、4個、または5個のアミノ酸、または5個、4個、3個、2個、もしくは1個以下のアミノ酸(複数可)だけ異なる。
【0087】
一部の実施形態では、短い野生型ヒトGPR156タンパク質アイソフォームは、配列番号3に記載されるアミノ酸配列により表される。一部の実施形態では、短い野生型ヒトGPR156タンパク質アイソフォームは、配列番号4に記載されるアミノ酸配列により表される。配列番号3および配列番号4の両方は、810個のアミノ酸からなり、512位のみで異なっており、配列番号3は、この位置にグルタミン酸を有し、配列番号4は、アスパラギン酸を有する。一部の実施形態では、短い野生型ヒトGPR156タンパク質アイソフォームは、配列番号3または配列番号4に記載されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列により表されてもよい。
【0088】
本開示による全ての野生型ヒトGPR156タンパク質、全長タンパク質と短いアイソフォームタンパク質の両方が、全長野生型ヒトGPR156タンパク質(例えば、配列番号1または配列番号2)中の533位に対応する位置にGlu残基を有する。
【0089】
本明細書で使用される場合、所与のポリペプチドまたは核酸分子内の位置のナンバリングの文脈で使用される場合の、語句「対応する」またはその文法的変形は、所与のアミノ酸または核酸分子が参照分子(例えば、全長野生型ヒトGPR156のポリペプチドまたは核酸分子である本明細書の参照分子)と比較された場合に、指定された参照ポリペプチドまたは核酸分子のナンバリングを指す。言い換えれば、所与のポリマー中のアミノ酸残基またはヌクレオチドの位置は、所与のポリマー内のアミノ酸残基またはヌクレオチドの実際の数値の位置によってではなく、参照分子に対して指定される。例えば、所与のアミノ酸配列は、二つの配列間の残基一致を最適化するためにギャップを導入することによって、参照配列に整列され得る。これらの場合、ギャップが存在するが、所与のアミノ酸配列または核酸配列中の残基のナンバリングは、それが整列された参照配列に対して行われる。
【0090】
例えば、タンパク質が、配列番号1の533位に対応する位置にグルタミン酸を含む、「GPR156タンパク質」という語句は、GPR156タンパク質のアミノ酸配列が配列番号1の配列に対して整列されている場合、GPR156タンパク質は、配列番号1の533位に対応する位置にグルタミン酸を有することを意味する。一例として、配列番号1の533位に対応する配列番号3の野生型GPR156タンパク質の短いアイソフォームの位置は、529位である。
【0091】
上述のように、全長野生型ヒトGPR156タンパク質の533位に対応するGPR156タンパク質内の位置は、所与のGPR156タンパク質と全長野生型ヒトGPR156タンパク質(例えば、配列番号1または配列番号2)のアミノ酸配列との間の配列アラインメントを行うことによって容易に特定することができる。配列番号1または2の533位に対応するアミノ酸位置を特定するために配列アライメントを行うために使用できる様々な計算アルゴリズムが存在する。例えば、NCBI BLASTアルゴリズム(Altschulら、1997 Nucleic Acids Res.25:3389~3402)またはCLUSTALWソフトウェア(SieversおよびHiggins、2014、Methods Mol.Biol.1079:105~116)を使用することにより、配列アライメントが行われてもよい。しかしながら、配列は、手動で整列することもできる。
【0092】
単極性うつ病および不安障害と関連するヒトGPR156における変更/変異
罹患した家族メンバーにおける単極性うつ病の表現型と分けるヒトGPR156遺伝子の希少バリアントが、米国出願公開第2018/0030114A1において報告されている。より具体的には、全長ヒトGPR156タンパク質(例えば、配列番号1または2)における533位に対応する位置のアミノ酸を、GluからAspへと変化させるヒトGPR156遺伝子の遺伝子改変は、罹患したファミリーメンバーにおける単極性うつ病の表現型と分けるものとして、米国公開第2018/0030114A1号で特定されている。かかるタンパク質は、本明細書では、「E533D変異」または「E533Dバリエーション」を有する変異体ヒトGPR156タンパク質とも呼ばれる。E533Dバリエーションを有するさらなる家族は、不安障害の確定した診断を有していた。したがって、ヒトGPR156におけるE533Dバリエーションは、単極性うつ病および不安障害などの発症している気分障害に増加した感受性を示すことが、提案されている。
【0093】
本開示によれば、齧歯類中の内在性Gpr156座位は、E533D変動を含む、すなわち、全長野生型ヒトGPR156タンパク質中の533位に対応する位置にAspを含む、変異体ヒトGPR156タンパク質をコードし、発現する核酸を有するように改変(またはヒト化)されている。本明細書で示されるように、かかる遺伝子改変された齧歯類は、単極性うつ病および不安障害などの気分障害を反映し、それゆえ、気分障害の齧歯類モデルとしての役目を果たすことができる。
【0094】
ヒト化Gpr156遺伝子を含む齧歯類
本開示は、ゲノムが、内在性齧歯類Gpr156座位にヒト化Gpr156遺伝子を含む、遺伝子改変された齧歯類を提供し、ヒト化Gpr156遺伝子は、ヒトGPR156タンパク質をコードし、内在性齧歯類Gpr156座位で齧歯類Gpr156プロモーターの制御下にある。
【0095】
本明細書で使用される場合、「ヒト化Gpr156遺伝子」は、ヒトGPR156核酸部分と齧歯類Gpr156核酸部分の両方を含む、Gpr156遺伝子を含む。例えば、齧歯類Gpr156遺伝子を改変して、ヒトGPR156核酸(例えば、ヒトGPR156遺伝子の一部)で置換された齧歯類Gpr156遺伝子の一部を有することができる。一部の実施形態では、内在性齧歯類Gpr156座位の内在性齧歯類Gpr156遺伝子は、内在性齧歯類Gpr156座位の内在性齧歯類Gpr156遺伝子の一部が、ヒトGPR156核酸(例えば、ヒトGPR156遺伝子の一部)によって置換されるように改変されている。
【0096】
遺伝子の「一部」は、本明細書において、遺伝子の「断片」と互換的に使用され、それは、例えば、5’調節領域(例えば、プロモーター)、5’非コードエクソン配列、3’非コードエクソン配列、5’もしくは3’非翻訳領域(UTR)、完全もしくは部分的なエクソン、完全もしくは部分的なイントロン、最終のエクソンの下流の3’領域、またはその組み合わせを含む、遺伝子の連続ヌクレオチド配列の一部への言及を含む。一部の実施形態では、遺伝子の一部は、遺伝子のコード領域、例えば、遺伝子のATG開始コドンから停止コドンまでを含む核酸(ゲノムDNAまたはcDNA)を指す。
【0097】
「核酸」、「核酸分子」、「核酸配列」、「ヌクレオチド配列」、「ポリヌクレオチド」、または「オリゴヌクレオチド」は、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を含有することができ、RNA(例えば、mRNA)またはDNA(例えば、ゲノムDNAもしくはcDNA)を含んでもよく、一本鎖、二本鎖、または複数の鎖状であり得る。したがって、「ヒトGPR156核酸」への言及は、例えば、ヒトGPR156遺伝子のゲノム形態とcDNA形態の両方を、全部または一部で含むことができる。
【0098】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、野生型ヒトGPR156タンパク質であるGPR156タンパク質をコードする。
一部の実施形態では、野生型ヒトGPR156タンパク質は、全長野生型ヒトGPR156タンパク質である。一部の実施形態では、全長野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号1に記載されるアミノ酸配列により表される。一部の実施形態では、全長野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号2に記載されるアミノ酸配列により表される。一部の実施形態では、全長野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号1または配列番号2に記載されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列によって表されてもよい。
【0099】
一部の実施形態では、野生型ヒトGPR156タンパク質は、短いアイソフォーム野生型ヒトGPR156タンパク質である。一部の実施形態では、短いアイソフォーム野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号3に記載されるアミノ酸配列により表される。一部の実施形態では、短いアイソフォーム野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号4に記載されるアミノ酸配列により表される。一部の実施形態では、短いアイソフォーム野生型ヒトGPR156タンパク質は、配列番号3または配列番号4に記載されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列により表されてもよい。
【0100】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、814個のアミノ酸の全長GPR156タンパク質をコードし、GPR156タンパク質は、全長野生型ヒトGPR156タンパク質(例えば、配列番号1または配列番号2)中の533位に相当する位置にGlu残基を含み、GPR156タンパク質は、配列番号1または配列番号2に記載されるアミノ酸配列と実質的に同一なアミノ酸配列を含む。
【0101】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、810個のアミノ酸の短いアイソフォームGPR156タンパク質をコードし、GPR156タンパク質は、全長野生型ヒトGPR156タンパク質(例えば、配列番号1または配列番号2)中の533位に対応する位置にGluを含み、GPR156タンパク質は、配列番号3にまたは配列番号4に記載されるアミノ酸配列と実質的に同一なアミノ酸配列を含む。
【0102】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、E533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質、すなわち、全長野生型ヒトGPR156タンパク質(例えば、配列番号1または2)中の533位に対応するアミノ酸位置にAspを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードする。一部の実施形態では、E533Dバリエーションは、野生型ヒトGPR156タンパク質と比較して、変異体ヒトGPR156タンパク質における唯一の変動であり、この場合、変異体GPR156タンパク質は、E533Dバリアントとも呼ばれる。
【0103】
一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、全長ヒトGPR156タンパク質である。一部の実施形態では、全長変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号5に記載されるアミノ酸配列により表される。一部の実施形態では、全長変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号6に記載されるアミノ酸配列により表される。一部の実施形態では、全長変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列により表されてもよい。
【0104】
一部の実施形態では、変異体ヒトGPR156タンパク質は、短いアイソフォームヒトGPR156タンパク質である。一部の実施形態では、短いアイソフォーム変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号7に記載されるアミノ酸配列により表される。一部の実施形態では、短いアイソフォーム変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号8に記載されるアミノ酸配列により表される。一部の実施形態では、短いアイソフォーム変異体ヒトGPR156タンパク質は、配列番号7または配列番号8に記載されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列により表されてもよい。
【0105】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、814個のアミノ酸の全長変異体GPR156タンパク質をコードし、全長変異体GPR156タンパク質は、E533Dバリエーションを含み、配列番号5または配列番号6に記載されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む。
【0106】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、810個のアミノ酸の短いアイソフォーム変異体GPR156タンパク質をコードし、GPR156タンパク質は、E533Dバリエーションを含み、変異体GPR156タンパク質は、配列番号7または配列番号8に記載されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む。
【0107】
上述のように、ヒト化Gpr156遺伝子は、ヒトGPR156核酸部分および齧歯類Gpr156核酸部分を含み得る。
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子中のヒトGPR156核酸部分は、本明細書において上で記載されたGPR156タンパク質、例えば、野生型ヒトGPR156タンパク質(全長もしくは短いアイソフォームのいずれか)、または変異体ヒトGPR156タンパク質(全長もしくは短いアイソフォームのいずれか)のコード配列を含む。
【0108】
一部の実施形態では、コード配列は、ゲノムDNAの形態である。一部の実施形態では、コード配列は、cDNAの形態である(すなわち、イントロン配列を含まない)。コード配列の提供における使用に適した核酸配列の例は、配列番号9~24に記載され、タンパク質配列に対するそれらの該当は、以下に要約されている。
【0109】
【表1-1】
【0110】
【表1-2】
【0111】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子中のヒトGPR156核酸部分は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソン中のATG開始コドンから最後のコードエクソン(また最終のエクソン)中の停止コドンを含むコード配列を含む。ヒトGPR156遺伝子は、全長野生型GPR156タンパク質の533位に対応するアミノ酸位置にGluをコードする最後のコードエクソンを有する野生型遺伝子、または全長野生型GPR156タンパク質の533位に対応するアミノ酸位置にAspをコードする最後のコードエクソンを有する変異体遺伝子であり得る。
【0112】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子中のヒトGPR156核酸部分は、GPR156タンパク質のコード配列に加えて、5’非コードエクソン配列(例えば、ATG開始の上流にある第一のコードエクソンの5’部分)、3’非コードエクソン配列(例えば、停止コドンの下流の最終のエクソンの3’部分、すなわち、3’UTR)、ヒトGPR156遺伝子の最終のエクソンの下流のヌクレオチド配列、またはその組み合わせを含む。
【0113】
本開示のヒト化Gpr156遺伝子において、ヒトGPR156核酸部分は、齧歯類Gpr156核酸部分に作動可能に結合されている。一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子中の齧歯類Gpr156核酸部分は、齧歯類Gpr156遺伝子の5’非コードエクソン配列もしくは3’非コードエクソン配列、またはそれらの組み合わせを含み得る。齧歯類Gpr156遺伝子が、マウスGpr156遺伝子である実施形態では、5’非コードエクソン配列は、例えば、マウスGpr156遺伝子のエクソン1、エクソン2(第一のコードエクソン)の5’非コード部分、またはその組み合わせを含み得、3’非コードエクソン配列は、例えば、マウスGpr156遺伝子のエクソン10(第9および最後のコードエクソン)の3’UTRを含み得る。齧歯類Gpr156遺伝子がラットGpr156遺伝子である実施形態では、5’非コードエクソン配列は、例えば、ラットGpr156遺伝子のエクソン1の5’非コード部分(また第一のコードエクソンである)を含むことができ、3’非コードエクソン配列は、例えば、ラットGpr156遺伝子のエクソン9の3’UTR(また、最後のコードエクソンおよび最終のエクソンである)を含むことができる。
【0114】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、ヒトGPR156遺伝子の3’UTRを含む。一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、齧歯類Gpr156遺伝子の3’非コードエクソン配列(例えば、3’UTR)を含む。一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、ヒトGPR156遺伝子の3’UTRと齧歯類Gpr156遺伝子の3’UTRの両方を、ヒトGPR156遺伝子の3’UTRの下流に位置する齧歯類3’UTRと共に含む。
【0115】
一部の特定の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソン中のATG開始コドンから最終のエクソン(3’UTRを含む)、続いて齧歯類Gpr156遺伝子の3’非コードエクソン配列を含むヒトGPR156核酸に作動可能に結合された、齧歯類Gpr156遺伝子の5’非コードエクソン配列を含む。特定の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、ヒトGPR156遺伝子のATG開始コドンから最終のエクソン(3’UTRを含む)、続いてマウスGpr156遺伝子のエクソン10の3’UTRを含むヒトGPR156核酸に作動可能に結合された、マウスGpr156遺伝子のエクソン2(第一のコードエクソン)のエクソン1および5’非コード部分を含む。
【0116】
一部の実施形態では、ヒト化Gpr156遺伝子は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子座の内在性齧歯類Gpr156遺伝子の齧歯類ゲノム断片の、野生型ヒトGPR156タンパク質またはE533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質のいずれかをコードするヒトGPR156核酸での置換から形成される。ヒトGPR156核酸部分は、ゲノムDNAまたはcDNAであり得る。
【0117】
一部の実施形態では、ヒトGPR156タンパク質をコードするヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソン中のATG開始コドンから最後のコードエクソン中の停止コドンを含むヒトゲノム断片を含み、ヒトGPR156遺伝子は、Glu残基(野生型)またはE533Dバリエーションのいずれかをコードするヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、ヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の5’非コードエクソン配列(例えば、第一のコードエクソン中の5’非コード配列)、もしくは3’非コードエクソン配列(例えば、3’UTR)、またはそれらの組み合わせをさらに含む。特定の実施形態では、ヒトGPR156核酸は、ヒトGPR156遺伝子の第一のコードエクソンのATG開始コドンから最終のエクソン(すなわち、3’UTRを含む)を含む。
【0118】
一部の実施形態では、置換されている齧歯類ゲノム断片は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子の第一のコードエクソンにおけるATG開始コドンから最終のコードエクソンにおける停止コドンを含む。一部の実施形態では、置換されている齧歯類ゲノム断片は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子の5’および/または3’非コードエクソン配列をさらに含む。齧歯類がマウスである実施形態では、置換されているマウスゲノム断片はまた、内在性マウスGpr156遺伝子のエクソン1、エクソン2の5’非コード配列、またはエクソン10の3’UTR、またはそれらの組み合わせを含んでもよい。
【0119】
一部の実施形態では、内在性齧歯類Gpr156座位中にヒト化Gpr156遺伝子を含む、本明細書に開示される齧歯類動物は、ヒト化Gpr156遺伝子についてヘテロ接合性またはホモ接合性であってもよい。
【0120】
一部の実施形態では、本明細書に開示される齧歯類動物は、内在性齧歯類Gpr156タンパク質を発現することができない。例えば、内在性齧歯類Gpr156遺伝子が、破壊されるか、または欠失されるか、または改変されるか、またはヒト化Gpr156遺伝子で置換されている齧歯類が提供される。一部の実施形態では、二つの内在性齧歯類Gpr156対立遺伝子の各々におけるゲノム断片は、ヒトGPR156核酸で置換され、結果として、二つのヒト化Gpr156対立遺伝子および内在性齧歯類Gpr156タンパク質を発現することができない齧歯類動物がもたらされる。一部の実施形態では、一方の内在性齧歯類Gpr156対立遺伝子のゲノム断片は、ヒトGPR156核酸で置換され、他の内在性齧歯類Gpr156対立遺伝子は、破壊または欠失を含有するよう改変され、内在性齧歯類Gpr156タンパク質を発現することができない齧歯類動物をもたらす。
【0121】
ゲノムが、遺伝子改変されたGpr156座位を含む齧歯類も本明細書において提供され、遺伝子改変は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子の欠失を含み、任意選択的にレポーター遺伝子の挿入も含み、レポーター遺伝子は、座位で内在性齧歯類Gpr156プロモーターに作動可能に結合される。齧歯類は、遺伝子改変についてヘテロ接合性またはホモ接合性であり得る。
【0122】
一部の実施形態では、第一のコードエクソンの開始コドンの直後のヌクレオチドから始まり、続くコードエクソン(例えば、第二、第三、第四、第五、第六、第七、第八、または第九のコードエクソン)までのゲノム断片が、欠失され、レポーター遺伝子は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子の開始コドンのすぐ下流に挿入される。かかる結合において、レポーター遺伝子の発現は、改変されていない内在性齧歯類Gpr156遺伝子の発現パターンに似ていると予想される。
【0123】
複数のレポーター遺伝子が、当該技術分野で公知であり、本明細書での使用に適している。一部の実施形態では、レポーター遺伝子は、lacZ遺伝子である。一部の実施形態では、レポーター遺伝子は、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、強化GFP(eGFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、強化黄色蛍光タンパク質(eYFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、強化青色蛍光タンパク質(eBFP)、DsRed、およびMmGFPからなる群から選択されるタンパク質をコードする遺伝子である。
【0124】
本明細書に記載される実施形態のいずれについても、齧歯類は、例えば、マウス、ラット、およびハムスターを含み得る。
一部の実施形態では、齧歯類は、マウスである。一部の実施形態では、齧歯類は、C57BL系統、例えば、C57BL/A、C57BL/An、C57BL/GrFa、C57BL/KaLwN、C57BL/6、C57BL/6J、C57BL/6ByJ、C57BL/6NJ、C57BL/10、C57BL/10ScSn、C57BL/10Cr、およびC57BL/Olaから選択されるC57BL系統のマウスである。別の実施形態では、齧歯類は、129系統、例えば、129P1、129P2、129P3、129X1、129S1(例えば、129S1/SV、129S1/SvIm)、129S2、129S4、129S5、129S9/SvEvH、129/SvJae、129S6(129/SvEvTac)、129S7、129S8、129T1、129T2からなる群から選択される129系統のマウスである(例えば、Festing et al.(1999),Mammalian Genome 10:836、Auerbach et al.(2000),Biotechniques 29(5):1024~1028,1030,1032を参照されたい)。いくつかの実施形態では、齧歯類は、前述の129系統および前述のC57BL/6系統を混合したマウスである。特定の実施形態では、マウスは、前述の129系統の混合(すなわち、交雑)、または前述のC57BL系統の混合、またはC57BL系統および129系統の混合である。特定の実施形態では、当該マウスは、C57BL/6系統と129系統の混合である。特定の実施形態では、マウスは、VGF1系統であり、これは、C57BL/6および129の交雑であるF1H4系統としても知られる。他の実施形態では、マウスは、BALB系統、例えばBALB/c系統である。一部の実施形態では、マウスは、BALB系統および別の前述の系統の混合である。
【0125】
一部の実施形態では、齧歯類は、ラットである。特定の実施形態では、ラットは、Wistarラット、LEA系統、Sprague Dawley系統、Fischer系統、F344、F6、およびDark Agoutiから選択される。他の実施形態では、ラットは、Wistar、LEA、Sprague Dawley、Fischer、F344、F6、およびDark Agoutiからなる群から選択される二つ以上の系統の混合である。
【0126】
標的化ベクター、ヒト化Gpr156遺伝子を含む齧歯類を作製する方法、および交配方法
ヒト化Gpr156遺伝子を含む齧歯類は、様々な方法を使用して作製することができる。一部の実施形態では、ヒトGPR156核酸を担持する標的化核酸構築物(すなわち、標的化ベクター)が構築される。ヒトGPR156核酸は、本明細書において上で記載されたGPR156タンパク質、例えば、野生型ヒトGPR156タンパク質(全長もしくは短いアイソフォームのいずれか)、または変異体ヒトGPR156タンパク質(全長もしくは短いアイソフォームのいずれか)のコード配列を含み得る。サイズに応じ(例えば、ゲノムDNAまたはcDNAのどちらが使用されるかどうか)、ヒトGPR156核酸は、cDNA源から直接クローニングするか、または合成的に作製することができる。或いは、細菌人工染色体(BAC)ライブラリーは、ヒトGPR156核酸配列を提供し得る。
【0127】
標的化ベクターは、相同な組み換えおよび内在性齧歯類Gpr156遺伝子にヒトGPR156核酸への挿入を仲介し、内在性齧歯類Gpr156座位でヒト化Gpr156遺伝子を形成するように、ヒトGPR156核酸に加えて、適当な長さであり、内在性齧歯類Gpr156座位で齧歯類Gpr156遺伝子配列に対して相同である隣接核酸配列を含むことができる。
【0128】
一部の実施形態では、標的化ベクターは、選択可能なマーカー遺伝子(例えば、米国特許第8,697,851号、同第8,518,392号、および同第8,354,389号(これらはすべてが、参照により本明細書に組み込まれる)に記載の選択可能なマーカー遺伝子を含有する自己欠失型カセット)も含み、これらは、部位特異的組み換え部位(例えば、loxP、Frtなど)に隣接するか、またはこれらを含むことができる。選択可能なマーカー遺伝子をヒトGPR156核酸に隣接する標的化ベクター上に置いて、トランスフェクタントの容易な選択を可能にすることができる。
【0129】
一部の実施形態では、ヒトGPR156核酸を担持する標的化ベクター(例えば、BACベクター)は、例えば、電気穿孔により、齧歯類胚性幹(ES)細胞に導入することができる。マウスES細胞とラットES細胞の両方が、共に当技術分野で説明されている。例えば、米国特許第7,576,259号、米国特許第7,659,442号、米国特許第7,294,754号、および米国公開第2008-0078000A1号(これらの全てが、参照により本明細書に組み込まれる)は、マウスES細胞および遺伝子改変されたマウスを作製するVELOCIMOUSE(登録商標)法を記載し、米国公開第2014/0235933A1号および米国公開第2014/0310828A1(これらの全てが、参照により本明細書に組み込まれる)は、ラットES細胞および遺伝子改変されたラットを作製する方法を記載する。
【0130】
齧歯類ゲノム内に統合されたヒトGPR156核酸を有するES細胞を選択することができる。選択後、陽性のESクローンは、例えば、必要に応じて、自己欠失型カセットを除去するように改変することができる。次に、ゲノムに統合されたヒトGPR156核酸配列を有するES細胞を、VELOCIMOUSE(登録商標)法(例えば、米国特許第7,576,259号、米国特許第7,659,442号、米国特許第7,294,754号、および米国公開第2008-0078000A1号を参照)、または米国公開第2014/0235933A1号および米国公開第2014/0310828A1号に記載される方法を使用することにより、桑実期以前の胚(例えば、8細胞期胚)への注入のためのドナーES細胞として使用される。ドナーES細胞を含む胚は、胚盤胞期まで培養され、次に、代理母に移植して、ドナーES細胞に完全に由来するF0齧歯類を生成する。突然変異対立遺伝子を有する齧歯類の仔は、ヒトGPR156核酸配列または選択可能なマーカー遺伝子の存在を検出する対立遺伝子(MOA)アッセイ(Valenzuelaら、上記)の変法を使用して、尾切片から単離されたDNAの遺伝子型解析により同定することができる。
【0131】
本明細書に記載される遺伝子改変された齧歯類を、別の齧歯類と交配する方法、ならびにかかる交配から得られる子孫がさらに本明細書において提供される。
一部の実施形態では、本明細書において上で記載された第一の遺伝子改変された齧歯類(例えば、ゲノムが、内在性齧歯類Gpr156座位にヒト化Gpr156遺伝子を含む齧歯類であって、ヒト化Gpr156遺伝子の発現が、内在性齧歯類Gpr156座位で齧歯類Gpr156プロモーターの制御下にある)を、第二の齧歯類と交配させ、ゲノムがヒト化Gpr156遺伝子を含む子孫齧歯類を生成することを含む方法が提供される。上記のように、ヒト化Gpr156遺伝子は、野生型ヒトGPR156タンパク質、またはE533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードしてもよい。子孫は、交配で使用される第二の齧歯類から遺伝する他の望ましい表現型または遺伝子改変を有してもよい。一部の実施形態では、子孫齧歯類は、ヒト化Gpr156遺伝子についてヘテロ接合性である。一部の実施形態では、子孫齧歯類は、ヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性である。
【0132】
一部の実施形態では、ゲノムが、内在性齧歯類Gpr156座位にヒト化Gpr156遺伝子を含む子孫齧歯類が提供され、子孫齧歯類は、本明細書に上で記載された第一の遺伝子改変された齧歯類(例えば、ゲノムが、内在性齧歯類Gpr156座位にヒト化Gpr156遺伝子を含む齧歯類であって、ヒト化Gpr156遺伝子の発現が、内在性齧歯類Gpr156座位で齧歯類Gpr156プロモーターの制御下にある)と第二の齧歯類を交配させることを含む方法により生成される。一部の実施形態では、子孫齧歯類は、ヒト化Gpr156遺伝子についてヘテロ接合性である。一部の実施形態では、子孫齧歯類は、ヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性である。
【0133】
気分障害の齧歯類モデル
単極性うつ病および不安障害などの気分障害の齧歯類モデルが、本明細書において開示される。
【0134】
American Psychiatric Association、Washington D.C.、2013年により公開された精神障害の診断および統計マニュアルによると、単極性うつ病は、大うつ病性障害、気分変調性障害、混合性うつ病性障害、抑うつ気分による調整障害、およびそうでない場合、特定されていないうつ病(NOS)からなる。うつ病のDSMIV基準は、2週間以上の、次の:i)ほぼ毎日、1日の大半、気分が落ち込むこと、ii)すべてまたはほぼすべての活動に対する関心または快楽が著しく低下、iii)著しい体重減少または食欲低下、iv)不眠または過眠、v)精神運動性興奮または運動遅延、vi)疲労またはエネルギーの喪失、vii)無価値または過度な罪悪感、viii)思考力もしくは集中力の低下、または決断力の欠如、およびix)反復的な死の思考から5つ以上の症状である。気分変調性障害のDSMIV基準は、少なくとも2年間、ほぼ毎日、数日以上の抑うつ気分を呈する、圧倒的でありながら慢性的な抑うつ状態を特徴とする。この障害に罹患している人は、次の症状:i)食欲不足または過食、ii)不眠または過眠、iii)低エネルギーまたは疲労、iv)低自尊心、v)集中力の低下または意思決定の困難、およびvi)絶望感の二つ以上と共に、2か月より長く経過してはいけない。
【0135】
不安障害の生理学的症状には、筋肉の緊張、心動揺、発汗、めまい、および息切れが含まれるが、これらに限定されない。情動症状には、情動不安、差し迫った運命の感覚、死の恐怖、恥ずかしさまたは屈服の恐怖、および恐ろしい出来事の恐怖が含まれるが、これらに限定されない。
【0136】
一部の実施形態では、気分障害の齧歯類モデルは、ゲノムが、内在性齧歯類Gpr156座位でヒト化Gpr156遺伝子を含む、遺伝子改変された齧歯類を含み、ヒト化Gpr156遺伝子は、E533Dバリエーションを含む変異体ヒトGPR156タンパク質をコードし、ヒト化Gpr156遺伝子の発現は、内在性齧歯類Gpr156座位で齧歯類Gpr156プロモーターの制御下にある。
【0137】
一部の実施形態では、気分障害の齧歯類モデルは、ゲノムが、内在性齧歯類Gpr156座位でヒト化Gpr156遺伝子を含む、遺伝子改変された齧歯類をさらに含み、ヒト化Gpr156遺伝子は、野生型ヒトGPR156タンパク質をコードし、ヒト化Gpr156遺伝子の発現は、内在性齧歯類Gpr156座位で齧歯類Gpr156プロモーターの制御下にある。かかる齧歯類は、野生型齧歯類(ヒト化を有さない)と同様に、強制水泳試験を完了できることが本明細書に示されており、したがって、比較されるべき追加の対照齧歯類として有用である。
【0138】
一部の実施形態では、気分障害の齧歯類モデルは、ゲノムが、遺伝子改変されたGpr156座位を含む、遺伝子改変された齧歯類をさらに含み、遺伝子修飾は、内在性齧歯類Gpr156遺伝子における欠損および任意選択で、レポーター遺伝子の挿入を含み、レポーター遺伝子は、座位で内在性齧歯類Gpr156プロモーターに作動可能に結合される。齧歯類は、遺伝子改変についてヘテロ接合性またはホモ接合性であり得る。内在性齧歯類Gpr156遺伝子内の欠失についてホモ接合性の齧歯類は、強制水泳試験を完了できず、指定された時間内に覆い隠されたガラス玉の数が増加することが本明細書において示されており、したがって、比較されるべき追加の対照齧歯類として有用である。
【0139】
一部の実施形態では、遺伝子改変された齧歯類は、強制水泳試験において評価される。強制水泳試験の例示的な実施形態では、齧歯類を、水で満たされた容器またはビーカー内に配置して、齧歯類が尾部でさえ、容器の底部に触れないことを確実にすることができる。水は、室温または30℃で維持され得る。試験は、約5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、または10分間継続することができる。一部の実施形態では、試験は、約6分続く。齧歯類が試験を行うことができない(例えば、試験期間が終了する前に浮上し続けることができない)なら、それが苦痛の兆候を示すとすぐに、それは水から引き上げられる。本明細書で確立されるように、E533Dバリエーションをコードするヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性または内在性齧歯類Gpr156遺伝子の欠失についてホモ接合性の齧歯類が、強制水泳試験を行うことができないことは、うつ病または不安などの気分障害の特徴的な反映である。野生型齧歯類(内在性齧歯類Gpr156を発現する)およびヒト化Gpr156遺伝子(E533D変異なし)についてホモ接合性である遺伝子改変された齧歯類は、水泳試験の完了に困難はなく、対照として使用することができる。一部の実施形態では、水泳試験を行う能力の改善は、例えば、異なる時間ポイントで、または処置の前および後に、個々の齧歯類の評価に基づいて決定することができる。一部の実施形態では、水泳試験を行う能力の改善は、例えば、異なる時間ポイントで、または処置の前および後に、同じ遺伝子改変を有する齧歯類の群の評価に基づいて決定され、試験を首尾よく行うことができる群における齧歯類の割合の増加は、改善された能力を示す。水泳試験を行う能力の変化(例えば、増加または改善)は、同じ遺伝子型を有する齧歯類の別個の未処置の群に対する齧歯類の処置された群の比較に基づいて、または処置後の齧歯類の同じ群に対する処置前の齧歯類の群の比較に基づいて決定することができる。
【0140】
強制水泳試験(またはPorsolt試験、Porsoltら、Arch Int Pharmacodyn Ther.229(2):327~336(1977))は、齧歯類が不快な環境にどのように反応するかに基づいて無力性を評価するために、当該技術分野で使用される。無力感は、うつ病の特徴である。水中に置かれる齧歯類(例えば、マウス)は、典型的には脱出を試みる。しかし、齧歯類が抑制行動を呈する場合、齧歯類は、救助されるまで脱出しようと試みることなく単に浮遊する。学習性無力感は、1970年代にSeligmanとその同僚によって最初に発見され、探索された現象である(Seligman、Annu Rev Med.23(1):407~412(1972))。このモデルの大きな魅力の一つは、事象がネガティブに見られ、制御不可能であると解釈され、それに対処する際に不安感や無力感につながる、うつ病の認知的視野に由来することである。動物とヒトのうつ状態において学習性無力感には多くの類似点がある。例えば、齧歯類で観察されるうつ病様の挙動を促進する、制御不能なストレスの多い事象は、同様に、ヒトにおけるいくつかの臨床的うつ病の発症に先行する(Goldら、N Eng J Med.319(6):348~353(1988);Lloyd、Arch Gen Psychiatry 37(5):541~548(1980))。さらに、類似だが、制御可能な事象への動物の曝露は、関連する挙動変化をもたらさない(CorumおよびThurmond、Psychosom Med.39(6):436~43(1977)、Weissら、A model for neurochemical study of depression、In M.Spiegelstein and A.Levy Eds.、Elsevier、Amsterdam、1982、195~223頁)。当技術分野で記載されるように、Porsolt強制水泳試験は、訓練日である1日目および試験日である2日目を含み、2日間にわたる。訓練挑戦中、動物は、タンクからの脱出は不可能であることを学習する。試験日(2日目)に、動物を5分間、水の容器に入れる。2日目の間、動物が動かない時間の長さは、依存変数として測定される。
【0141】
E533Dバリエーションをコードするヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性の遺伝子改変されたマウスおよびマウスGpr156遺伝子の欠失についてホモ接合性の遺伝子改変されたマウスは、訓練セッションに対応する6分間の強制水泳試験を行うことができなかったことが本明細書に示された。マウスは、当初は泳ぐことができたが、脱出口を見つけようとした2~3分後には、マウスが水中で「パニックである」かのように見えた。次に、これらのマウスは、熱水泳、反復ダイビング、および水中でのスピニングを特徴とする異常な挙動を示し始め、浮上したままでいられなくなった。すぐに水から回収されない場合、これらのマウスはおぼれた。対照的に、野生型マウス(内在性マウスGpr156を発現する)およびヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性の遺伝子改変されたマウス(突然変異なし)は、6分間の水泳試験を完了するのに困難はなかった。
【0142】
E533Dバリエーションをコードするヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性の遺伝子改変されたマウスまたはマウスGPR156遺伝子の欠失についてホモ接合性の遺伝子改変されたマウスによって示される特有の挙動は、文献において他者によって説明されていない。これらのマウスが試験を完了できないという事実から、発明者らは、学習性無力性を測定することができなかった。しかしながら、発明者らは、E533Dバリエーションをコードするヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性であるメスの90%およびオスの60%の遺伝子改変されたマウスが、訓練水性セッションに失敗し、一方で、野生型ヒトGPR156タンパク質をコードするヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性である遺伝子改変されたマウスが、試験を容易に完了したことを観察した。同様に、マウスGpr156遺伝子の欠失についてホモ接合性のメスの90%およびオスの53%の遺伝子改変されたマウスは、訓練水泳セッションに失敗し、一方、その野生型同腹仔は、試験を完了した。室温(約23℃)の代わりに30℃で加熱された水で、またはより大きく、プラットフォーム(脱出オプション)と共に呈する水迷路装置を使用したとき、同様の結果が得られた。
【0143】
また、E533Dバリエーションをコードするヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性の齧歯類が、フルオキセチン(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)またはイミプラミン(ノルエピネフリン、アセチルコリン、ドーパミンおよびセロトニンの再取り込み阻害剤)を用いた処置後に、水泳試験を行うそれらの能力を改善することも示されている。フルオキセチン(10mg/kg、i.p.、1日1回)またはイミプラミン(15mg/kg、i.p.、1日1回、6日/週)で9週間処置した後、GPR156E533D/E533Dマウスについて、6分間の水泳試験行う能力の改善が観察された。
【0144】
一部の実施形態では、遺伝子改変された齧歯類は、ガラス玉覆い隠し試験において評価される。ガラス玉覆い隠し作業は、強迫的な行動および/または不安のような行動の指標として使用される。OCD様症状を有する齧歯類は、高度な反復行動(掘り込みを含む)に関与する傾向があり、高度な不安を有する齧歯類は、新規の状況において高度な掘り込みを行う傾向がある。
【0145】
一部の実施形態では、ガラス玉覆い隠し試験は、以下のように行うことができる。齧歯類のケージは、トウモロコシの穂軸の寝藁で均等に充填することができ、ガラス玉は、寝藁の上部に均等に間隔をあけられる。各齧歯類をケージの中心に配置し、約10分間試験を実行する。10分後、動物をケージから取り出し、少なくとも3分の2が隠されたガラス玉をカウントする。
【0146】
例として、E533Dバリエーションをコードするヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性の遺伝子改変されたオスのマウスまたはマウスGPR156遺伝子の欠失についてホモ接合性の遺伝子改変されたオスのマウスは、10分間で覆い隠したガラス玉の数が増加する傾向を示したことが、本明細書において示されている(例えば、図4を参照)。
【0147】
本明細書に開示される齧歯類およびモデルにより、GPR156タンパク質の機能および気分障害の発生についてよりよく理解することが可能となる。さらに、このような齧歯類は、単極性うつ病または不安障害などの気分障害の治療のための治療薬のスクリーニング、試験および開発に使用されてもよい。
【0148】
一部の実施形態では、単極性うつ病または不安障害を治療するための治療剤の効果は、本明細書に開示される齧歯類、例えば、E533Dバリアントをコードするヒト化Gpr156遺伝子を担持する齧歯類に剤を投与すること、および齧歯類を一つまたは複数の試験(例えば、強制水泳試験またはガラス玉覆い隠し試験)に供すること、候補治療剤が、試験における齧歯類の性能に何らかの効果、例えば、水泳試験を完了する能力のいずれかの改善、またはガラス玉覆い隠し試験において覆い隠されたガラス玉の数のいずれかの減少を有するかを決定することにより、本明細書において決定される。
【0149】
本明細書に開示される齧歯類で試験され得る治療剤は、市販の抗うつ薬と抗不安薬の両方、ならびに単極性うつ病および不安障害を治療するための開発中の候補化合物を含む。小分子化学化合物および核酸(例えば、遺伝子治療薬)の両方が含まれる。
【0150】
一部の実施形態では、抗うつ薬は、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)である。SSRIの適当な例には、シタロプラム(Celexa(登録商標))、Esシタロプラム(Lexapro(登録商標)、Cipralex(登録商標))、パロキセチン(Paxil(登録商標)、Seroxat(登録商標))、フルオキセチン(Prozac(登録商標))、フルボキサミン(Luvox(登録商標))、およびセルトラリン(Zoloft(登録商標)、Lustral(登録商標))が含まれるが、これらに限定されない。
【0151】
一部の実施形態では、抗うつ薬は、セロトニン-ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)である。SNRIの適切な例には、デスベンラファキシン(Pristiq(登録商標))、デュロキセチン(Cymbalta(登録商標))、レボミルナシプラン(Fetzima(登録商標))、ミルナシプラン(Ixel(登録商標)、Savella(登録商標))、トフェナセン(Elamol(登録商標)、トファシン(登録商標))、およびベンラファキシン(Effexor(登録商標))が含まれるが、これらに限定されない。
【0152】
一部の実施形態では、抗うつ薬は、ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(NRI)である。NRIの適切な例には、レボキセチン(Edronax(登録商標))、ビロキサジン(Vivalan(登録商標))、およびアトモキセチン(Strattera)が含まれるが、これらに限定されない。
【0153】
一部の実施形態では、抗うつ薬は、リチウムである。
一部の実施形態では、抗うつ薬は、セロトニン調節剤および刺激剤(SMS)である。SMSの適切な例には、ビラゾドン(Viibryd(登録商標))およびボルチオキセチン(Trintellix(登録商標))が含まれるが、これらに限定されない。
【0154】
一部の実施形態では、抗うつ薬は、セロトニン拮抗薬および再取り込み阻害剤(SARI)である。SARIの適切な例には、エトペリドン(Axiomin(登録商標)、Etonin(登録商標))、ネファゾドン(Nefadar(登録商標)、Serzone(登録商標))、およびトラゾドン(Desyrel(登録商標))が含まれるが、これらに限定されない。
【0155】
一部の実施形態では、抗うつ薬は、三環式抗うつ薬(TCA)である。TCAの適切な例には、アミトリプチリン(Elavil(登録商標)、Endep(登録商標))、アミトリプチリンオキシド(Amioxid(登録商標)、Ambivalon(登録商標)、Equilibrin(登録商標)、クロミプラミン(Anafranil(登録商標))、デシプラミン(Norpramin(登録商標)、Pertofrane(登録商標))、ジベンゼピン(Noveril(登録商標)、Victoril(登録商標))、ジメタクリン(Istonil(登録商標))、ドスルピン(Prothiaden(登録商標))、ドキセピン(Adapin(登録商標))、Sinequan(登録商標))、イミプラミン(Tofranil(登録商標))、ロフェプラミン(Lomont(登録商標)、Gamanil(登録商標))、メリトラセン(Dixeran(登録商標)、Melixeran(登録商標)、Trausabun(登録商標))、ニトロキサゼピン(Sintamil(登録商標))、ノルトリプチリン(Pamelor(登録商標)、Aventyl(登録商標))、ノキシプチリン(Agedal(登録商標)、Elronon(登録商標)、Nogedal(登録商標))、ピポフェジン(Azafen(登録商標)/Azaphen(登録商標))、プロトリプチリン(Vivactil(登録商標))、およびトリミプラミン(Surmontil(登録商標))が含まれるが、これらに限定されない。また、ブトリプチリン(Evadyne(登録商標))、デメキシプチリン(Deparon(登録商標)、Tinoran(登録商標))、イミプラミノキシド(Imiprex(登録商標)、Elepsin(登録商標))、イプリンドール(Prondol(登録商標)、Galatur(登録商標)、Tetran(登録商標))、メタプラミン(Timaxel(登録商標))、プロピゼピン(Depressin(登録商標)、Vagran(登録商標))、およびキヌプラミン(Kinupril(登録商標)、Kevopril(登録商標))も含まれる。また、オピプラモル(Insidon(登録商標))およびチアネプチン(Stablon(登録商標))も含まれる。
【0156】
一部の実施形態では、抗うつ薬は、四環式抗うつ薬(TeCA)である。TeCAの適切な例には、アモキサピン(Asendin(登録商標))、マプロチリン(Ludiomil(登録商標))、ミアンセリン(Bolvidon(登録商標)、Norval(登録商標)、Tolvon(登録商標))、ミルタザピン(Remeron(登録商標))、およびSetiptiline(Tecipul(登録商標))が含まれるが、これらに限定されない。
【0157】
一部の実施形態では、抗うつ薬は、モノアミンオキシダーゼ阻害剤(MAOI)である。MAOIの適切な例には、イプロニアジド(Marsilid(登録商標))、イソカルボキサジド(Marplan(登録商標))、フェネルジン(Nardil(登録商標))、セレギリン(Eldepryl(登録商標)、Zelapar(登録商標)、Emsam(登録商標))、トラニルシプロミン(Parnate(登録商標))、メトラリンドール(Inkazan(登録商標))、モクロベミド(Aurorix(登録商標)、Manerix(登録商標))、ピルリンドール(Pirazidol(登録商標))、およびトロキサトン(Humoryl(登録商標))が含まれるが、これらに限定されない。その他には、例えば、ベンモキシン(Neuralex(登録商標))、カルオキサゾン(Surodil(登録商標)、Timostenil(登録商標))、イプロクロジド(Sursum(登録商標)、メバナジン(Actomol(登録商標))、ニアルアミド(Niamid(登録商標))、オクタモキシン(Ximaol(登録商標))、フェニプラジン(Catron(登録商標))、フェノキシプロパジン(Drazine(登録商標))、ピブヒドラジン(Tersavid(登録商標))、サフラジン(Safra(登録商標))、エプロベミジン(Befol(登録商標))、およびミナプリン(Brantur(登録商標)、Cantor(登録商標))が含まれる。
【0158】
一部の実施形態では、抗うつ薬は、非定型抗精神病薬である。非定型抗精神病薬の適切な例には、アミスルプリド(Solian(登録商標))、ルラシドン(Latuda(登録商標))、およびクエチアピン(Seroquel(登録商標))が含まれるが、これらに限定されない。
【0159】
一部の実施形態では、抗うつ薬は、アゴメラチン(Valdoxan(登録商標))、ビフェメラン(Alnert(登録商標)、Celeport(登録商標))、ブプロピオン(Wellbutrin(登録商標))、ケタミン(Ketalar(登録商標))、タンドスピロン(Sediel(登録商標))、またはテニロキサジン(Lucelan(登録商標)、Metatone(登録商標))である。
【0160】
一部の実施形態では、抗不安剤は、アルプラゾラム(Xanax(登録商標))、ブロマゼパム(Lectopam(登録商標)、Lexotan(登録商標)、クロルジアゼポキシド(Librium(登録商標))、クロナゼパム(Klonopin(登録商標)、Rivotril(登録商標))、クロラゼパム(Tranxene(登録商標))、ジアゼピン(Valium(登録商標))、フルラゼパム(Dalmane(登録商標))、ロラゼパム(Ativan(登録商標))、オキサゼパム(Serax(登録商標)、セラパックス(登録商標))、テマゼパム(Restoril(登録商標))、トリアゾラム(Halcion(登録商標))、およびトフィソパム(Emandaxin(登録商標)、Grandaxin(登録商標))を含むが、これらに限定されない、ベンゾジアゼピンである。
【0161】
一部の実施形態では、抗不安剤は、メプロバマート(Miltown(登録商標)、Equanil(登録商標))を含むが、これらに限定されない、カルバメートである。
一部の実施形態では、抗不安薬は、ヒドロキシジン(Atarax(登録商標))、クロルフェニラミン(Chlor-Trimeton(登録商標))、およびジフェンヒドラミン(ベナドリル(登録商標))を含むが、これに限定されない、抗ヒスタミン剤である。
【0162】
一部の実施形態では、抗不安薬は、ブスピロネ(Buspar(登録商標))およびタンドスピロネ(Sediel(登録商標))を含むが、これらに限定されない、アザピロンである。
【0163】
一部の実施形態では、抗不安剤は、本明細書に記載される、SSRI、SNRI、TCA、TeCA、またはMAOIである。
一部の実施形態では、抗不安薬は、メビカル(Mebicarum(登録商標))、ファボモチゾール(Afobazole(登録商標))、セランク、ブロマンタン、エモキシピン、プレガバリン、イソ吉草酸メンチル、またはイソ吉草酸メンチル(Validol(登録商標))である。
【0164】
齧歯類への抗うつ薬または抗不安剤の投与は、非経口、静脈内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、くも膜下腔内、腹腔内、局所的、鼻腔内、または筋肉内を含むが、これらに限定されない、任意の適切な経路によるものであり得る。投与は、連続注入、局所投与、インプラント(ゲル、膜など)からの持続放出、および/または静脈内注射による場合もある。
【0165】
薬剤は、例えば、3、4、5、6、7、8、9、または10週間、または必要に応じてより長い期間、適切な期間、齧歯類に与えることができる。
本記述は、以下の実施例により、さらに例示されるが、決して限定するものとして解釈されるべきではない。全ての引用参考文献(本出願全体で引用される文献参照、発行特許、および公表された特許出願を含む)は、参照により本明細書に明確に組み込まれる。
【実施例
【0166】
実施例1.遺伝子改変したマウスの生成。
Gpr156標的化構築物を以下のように設計した。マウスGpr156のノックアウトのため、マウスGpr156ゲノム配列を含有する細菌人工染色体(BAC)を、ヒトUBC(ユビキチン)プロモーターの制御下にネオマイシン耐性遺伝子を含有するloxPを導入したlacZレポーターカセットが、開始ATGコドンの直後のGpr156エクソン2(またはコードエクソン1、すなわち、第一のコードエクソン)をエクソン5の末端(またはコードエクソン4)に置換した。LacZコード配列が、開始ATGコドンとインフレームであるように、カセットをクローニングした。この構築物を、100%C57Bl/6NTacマウス胚性幹細胞にエレクトロポレーションした。Gpr156座位をヒト化するために、ゲノム配列を停止するマウスATGを、3’非翻訳領域の末端を超えてヒトGPR156 ATGから100bpまで置換した。このヒトGPR156 DNAは、516位でGlu(E)を有する長いアイソフォーム(814個のアミノ酸)をコードする。自己欠失ネオマイシン耐性カセットを、ヒト化の直後に、Gpr156座位の3’末端に配置した。次いで、この標的化構築物を、ヒトGPR156コードエクソン9に単一のAからT塩基対への置換を加することによってさらに改変して、E533Dヒト変異を生成し、ピューロマイシン耐性カセットを、ネオマイシンバージョンに置換した。これらの構築物を、50%C57Bl/6NTac/50%129SvEvTacマウス胚性幹細胞株にエレクトロポレーションした。全てのエレクトロポレーションからの首尾よく標的化されたクローンを、TAQMAN解析によって同定した。Gpr156-/+、Gpr156humIn/+、およびGpr156humIn G533D/+マウスを、VelociGene(登録商標)法(Valenzuela 2003 Nat Biotech PMID:12730667; Poueymirou 2007 Nat Biotech PMID:17187059)を使用して生成し、必要に応じて C57Bl/6NTacに戻し交配した。
【0167】
実施例2.レポーターを介したGpr156の発現の評価
レポーター遺伝子は、内在性マウスGpr156座位で内在性マウスGpr156プロモーターに作動可能に結合される、内在性マウスGpr156遺伝子に欠失およびレポーター遺伝子の挿入を含む遺伝子改変したマウスを使用して、本発明者らは、成体マウスの脳においてGpr156の発現を確認することができ、眼角球、海馬、手綱、反屈束、および丘において有意な発現を有する。脳のこれらの領域は、うつ病のヒトおよび動物モデルにおけるうつ病および不安と関連している。最強の発現を、手綱で検出し、内側および外側の手綱は、うつ病性障害を有する患者において減少した体積を示す。ヒトにおける機能的画像研究は、負の結果が選択的に活性化する、外側の手綱を強調した(Shepardら、Schiz Bull.32:417~421(2006)、Ullspergerおよびvon Cramon、J Neurosci.23:4308~4314(2003))。さらに、齧歯類およびヒトにおいて蓄積した証拠は、外側の手綱が、様々な種類のストレス因子への曝露に関連する活性の増加を伴う、大うつ病のいくつかのモデルにおいて超活性であることを実証している(Liら、Nature 470:535~539(2011)、Mirrioneら、Front.Hum.Neurosci.8:29(2014)、Morrisら、NeuroImage 10:163~172(1999)、Shumakeら、Neuro Res.963:274~281(2003)、Wirtshafterら、Neuro Res.633:21~26(1994))。手綱はまた、うつ病の処置における深部脳刺激の新規標的として十分に試験されている(Sartoriusら、Biol.Psychiatry 67:e9~e11(2010))。
【0168】
実施例3.遺伝子改変された齧歯類の評価に使用する方法
動物
全ての手法は、Regeneron Pharmaceuticalsの動物実験委員会(IACUC)により承認を受けたプロトコールに準拠して行われた。全てのマウスを、12時間の明暗サイクル(午前7時から午後7時)で収容し、水および食餌に自由にアクセスできた。
【0169】
ガラス玉覆い隠し作業
ガラス玉覆い隠し作業は、強迫的な行動および/または不安のような行動の指標として使用される。マウスを新規のケージ内に置くとき、一般的な応答は、穴掘り行動の増加である。この試験を使用して、抗強迫特性を有する薬物によって低減される、ガラス玉を覆い隠すというマウスの自然かつ反復的挙動に対する薬物の効果を評価する(Njung’eおよびHandley、Br J Pharmacol.104:105~112(1991b)、Thomasら、Psychopharmacol.204:361~373(2009))。
【0170】
テクニプラストマウスケージ(39×19×16cm)を、5cmのトウモロコシの穂軸寝床で均等に充たした。24個の透明なガラスビー玉(直径15cm)を、4×6グリッドパターンで、寝床の上に均等に間隔を置いた。各マウスをケージの中心に配置し、試験を10分間行った。10分後、動物をケージから取り出し、少なくとも3分の2隠されたガラス玉の数をカウントした。
【0171】
強制水泳試験
マウスを、4リットルの23~25℃の水道水を充填した5リットルの透明なプラスチックビーカー(25×直径18cm)に入れ、マウスが尾部でさえフラスコの底部に触れないようにした。ANY-maze(商標)ビデオトラッキングシステム(Stoelting Co.)を使用して、4匹の動物を同時に記録した。データを6分間記録した。フラスコを、3つの側面のある白色のプラスチックパーティション(高さ40cm×幅25cm)で分けた。水泳試験を6分間記録した。記録した時間が、各マウスについて特定できるように、フラスコ内に動きがあった場合、記録が自動的に開始されるように設定した。マウスが試験を行うことができない場合、それが苦痛の兆候を示すとすぐに水から引き上げた。
【0172】
6分間の記録を、三つの時間セグメント(0~100秒、101~200秒、および残り158秒)に分割し、経時的な挙動のより良いサンプリングを得た。
FSTについて分析した主なデータ点は、泳ぐ時間、移動時間、移動時間、速度、移動距離、泳ぐゾーンでの飼育、移動エピソード、および移動不能エピソードであった。不動性を、2秒間不動である総体重の60%として定義する。このパラメータにより、後脚と足の小さな動きが、バランスを保ち、活動的な水泳とはみなされない、水を踏むことが可能になる。
【0173】
平均台
平均台(Maze Engineers社)を使用して、協調および感音バランスを評価した。マウスを、一端にオープンプラットフォーム、および終了ポイントとしてオープンサイドの黒色のボックスを備えた、1メートルの長さ、6mm幅の台を歩くように訓練した。台を布のハンモックの上に持ち上げて、台を滑り落ちるマウスを捕獲した。訓練セッション中、マウスをまず、端のボックスのすぐ隣に配し、その後、マウスが台を歩くことができるまで、そこからさらに漸進的に配置した。その後、3回の連続する1分間の試験を、実行の間に30秒の休憩と共に実行した。マウスを、オープンプラットフォームの強制終了ポイントの前に配置し、滑った回数および終了ポイントに到達するのにかかった時間についてスコア付けした。
【0174】
ロータロッド試験
運動協調性と平衡を、IITCライフサイエンスシリーズ8の加速ロータロッドによって評価した。マウスを、ケージ床の上につるした、水平に配向した回転シリンダ上に3分間置いた。シリンダの回転は、動物を損傷させないほど十分に遅く、落下の回避を誘導するほど十分に速かった。所与の動物がこの回転するロッド上に滞在する時間の長さは、それらのバランス、協調性、身体状態、および運動計画の測定値である。動物をまず、漸進的に速い速度で回転する(最大速度15rpm、3回の試行)、ロータロッド(直径3.5cm、幅9cm)上に留まるように訓練した。翌日、各マウスを、1回の試験当たり180秒間、3回の連続試験(試験間隔30分間)の間、最大15rpmのロータロッド上に置いた。脱落までの潜伏を記録するか、または動物が脱落しなかった場合、最大180のスコアを割り当てた。各マウスについて3つの試験の中央値スコアを、解析に使用した。
【0175】
キャットウォーク
足取りと歩行の変化を評価するために、最大35の歩行パラメータ(フットプリントサイズから運動動態まで)の定量的評価を可能にする、CatWalk(商標)XT(Noldus)ビデオベースの自動自由歩き歩行解析システムを使用して、マウスを評価した。このシステムにより、動物は、ヒトにおける臨床歩行試験と同様の様式で、好ましい速度で自発的に移動することが可能となる。ランウェイの開始地点に動物を置き、それらの正面に開口端を置いた。マウスはランウェイの端まで自発的に走り、逃げようとする。3回キャットウォーク走行を成功するまで、各マウスを評価し、マウスは、カウントするべき走行のため、5秒以内に通路の記録領域を移動しなければならない。装置は、直線への移動を制限する調整可能な路地のある130cm長の硬化ガラスプラットフォーム、赤い頭上光、ガラスプラットフォームに取り付けた緑色のLED光、およびプラットフォームの下に取り付けられた高速カラーカメラからなっていた。装置に取り付けた緑色のLED光は、ガラス板に光を放射し、この光は、齧歯類の肢がガラスに接触する場所でのみ屈折し、これにより、高速デジタルカメラが、リアルタイムで正確な齧歯類の肢の配置を捕捉することが可能になった。頭上の赤色の光は、体の輪郭を記録するためにコントラストを生み出していた。画像データをデジタル化し、備え付けのコンピュータに転送し、ここで、CatWalk(商標)XTソフトウェアを、足跡間の距離、時間、および強度の差異による静的および動的歩行運動の半自動標識および解析に使用することができた。その後、足取りデータを、データ記録およびその後の解析のために転送した。
【0176】
カメラが記録し、システムのソフトウェアが足取りを測定した。足取りを、肢の配置の異常について解析した。
開放フィールド
開放フィールドは、動物の活性を測定する、空の比較的大きく、明るく照らされた長方形の道場である。評価は、新規の環境探検、一般的な運動活動を反映しており、齧歯類における不安に関連する挙動についての初期スクリーニングを提供することができる。マウスを、開放フィールド装置(Kinder scientific、16”W×16”L×15”Hのチャンバー)に入れ、60分間スコア付けした。チャンバーを、二つのゾーンとして設定し、中心ゾーングリッド(6”×6”)および外側のゾーングリッド(16”×16”)、ならびに動物の移動を、32個の赤外線光ビームによって収集する。中心ゾーンへの探索行動の減少は、不安表現型と関連していた。マウスがグリッド線を横断する(すなわち、一方のグリッドから別のグリッドに移動する)回数、ならびに飼育回数、不動に費やされた時間、およびグルーミング現象の回数をカウントした。Kinder Scientific装置において、これらの事象は、コンピュータソフトウェアおよび開放フィールド周辺の赤外線ビームを介して自動的にカウントした。
【0177】
尾の巻き付け
尾の巻き付けは、可能性のある前庭機能障害をスクリーニングするために使用できる単純な方法である。マウスを平らな表面に置き、マウスが、その背に向くように、マウスの尾の中ほどを掴むことで、尾を巻き付けた。動物が、自身で足に戻るのが困難であった場合、これは、前庭欠損を示し得る。
【0178】
正向反射
正向反射は、運動協調および前庭機能障害を評価するための単純なアッセイである。マウスを、平らな表面上に背中を下にして置いた。それ自体を正すのにかかった時間(最大30秒まで)を測定した。
【0179】
ワイヤぶら下がり試験
ワイヤぶら下がりは、後肢または前肢のいずれかの握力を測定するための代替的な試験である。足を滑らせたり、またはぶら下がることができないことは、不足を示し得る。青色のパッドと共に、テーブルトップから少なくとも12インチ離して吊り下げられたワイヤケージトップを使用した。マウスは、その後肢または前肢のいずれかでワイヤケージトップを掴み、マウスが棒を握った総時間を、60秒の間隔で測定した。マウス1匹当たり3回、60秒の間隔を測定した。転倒までの潜伏を、記録した。
【0180】
実施例3.様々な行動アッセイにおけるマウスの評価
強制水泳試験
マウスを、6分間の強制水泳試験で評価したが、全てのマウスが、作業を行うことができたわけではなかった。図2は、試験した異なるGPR156/Gpr156遺伝子型についての水泳試験の持続時間を示す。データを、各動物群について平均±SEMとして表した。
【0181】
データは、E533Dバリエーションをコードするヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性の遺伝子改変されたマウスおよびマウスGpr156遺伝子の欠失についてホモ接合性である遺伝子改変されたマウスは、強制水泳試験を行うことができないことを示した。マウスは、当初は泳ぐことができたが、脱出口を見つけようとした2~3分後には、マウスが水中で「パニックである」かのように見えた。次に、これらのマウスは、熱水泳、反復ダイビング、および水中でのスピニングを特徴とする異常な挙動を示し始め、浮上したままでいられなくなった。すぐに水から回収されない場合、これらのマウスはおぼれた。対照的に、野生型マウス(内在性マウスGpr156を発現する)およびヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性の遺伝子改変されたマウス(突然変異なし)は、6分間の水泳試験を完了するのに困難はなかった。
【0182】
E533Dバリエーションをコードするヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性の遺伝子改変されたマウスまたはマウスGpr156遺伝子の欠失についてホモ接合性の遺伝子改変されたマウスによって示される特有の挙動は、文献において他者によって説明されていない。これらのマウスが試験を完了できないという事実から、発明者らは、学習性無力性を測定することができなかった。しかしながら、本発明者らは、E533Dバリエーションをコードするヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性であるメスの85%およびオスの90%の遺伝子改変したマウスが、水泳セッションの訓練に失敗し、一方、野生型ヒトGPR156タンパク質をコードするヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性である遺伝子改変された齧歯類は、試験を容易に完了したことを観察した。同様に、マウスGpr156遺伝子の欠失についてホモ接合性のメスの90%およびオスの53%の遺伝子改変されたマウスは、訓練水泳セッションに失敗し、一方、その野生型同腹仔は、試験を完了した。室温(約23℃)の代わりに30℃で加熱した水で、またはより大きく、プラットフォーム(脱出オプション)と共に呈する水迷路装置を使用したとき、同様の結果を得た。強制水泳試験の知見は、E533D点変異が、GPR156タンパク質の機能における不足または喪失を導くことを示唆する。
【0183】
マウスをまた、それらの協調、平衡および運動機能、それらの一般的な運動活性、ならびにロータロッド、キャットウォーク、平均台、開放フィールド、正向反射、尾ぶら下がり運動およびワイヤぶら下がり試験について評価した。E533Dバリエーションまたは野生型ヒト化Gpr156遺伝子をコードするヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性の遺伝子改変したマウスは、以下の表2に要約するように、平衡、および協調もしくは運動障害、および/または前庭機能障害においていかなる肉眼的欠損も呈さなかった。
【0184】
水泳試験を行うことができないことが、不安の特徴であり得るかどうかを調べるために、マウスを、4週間毎日、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI、10mg/kg)であるフルオキセチンの腹腔内注射で処置した。マウスを、フルオキセチン10mg/kgの腹腔内注射で4週間、毎日処置する前および後に、毎週6分間の強制水泳試験について試験した。フルオキセチンでの毎日の処置の前および後の水泳試験の総時間(秒)を記録した。図3Aにおいて示す通り、最初の強制水泳試験(ベースライン、処置前)において、試験したE533Dバリエーションをコードするヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性のマウスのいずれも、6分間の水泳試験を行うことができなかった。フルオキセチンでの4週間の処置後、62.5%のオス(マウス8匹中5匹)および50%のメス(10匹中5匹)が、6分間の水泳試験を首尾よく行うことができた。未処置のメスのGPR156E533Dの群も、対照として並行して実行し、4週間後に、メスの20%(5匹中1匹)のみが、水泳試験を達成した。データを、各動物群についての平均±SEMとして表した。
【0185】
フルオキセチンが、障害された水泳試験表現型を逆転させることができるかどうかを試験するために、GPR156hum/humおよびGPR156E533D/E533Dマウスを、フルオキセチン10mg/kg(i.p)で毎日、6日間/週、9週間処置した。GPR156-/-マウスと同様に、GPR156E533D/E533Dマウスは、水泳試験において障害を示し、約85%のメスおよび90%のオスが、6分間の水泳試験を完了できなかった。したがって、マウスを、水泳試験(ベースライン)に供し、6分間の水泳試験を行うことができる動物を、研究から除外した。次いで、残りのマウスを2群、フルオキセチンで処置および未処理に分けた。図3Bにおいて示す通り、GPR156E533Dマウスのいずれも(0/13)、1回目に水泳試験を行うことができず、9週間のフルオキセチンでの処置後、マウスの61%(8/13)が、試験を達成した。対照的に、未処置の群において、一部のマウスはそれらの能力を改善する一方、1/11マウスのみが、9週目に水泳試験を達成した(図3Cを参照、図3Bも参照)。
【0186】
別の抗うつ薬であるイミプラミン(トフラニル)での処置は、GPR156E533D/E533Dにおける損なわれた水泳表現型も改善する。イミプラミンは、ノルエピネフリン、アセチルコリン、ドーパミンおよびセロトニンの再取り込みを阻害する三環系抗うつ薬である。この研究のため、マウスを、水泳試験(ベースライン)に供し、6分間の水泳試験を行うことができる動物を研究から除外した。マウスを、イミプラミン15mg/kg(i.p)で毎日、6日/週、9週間処置した。図3Dにおいて示す通り、イミプラミンを用いた処置はまた、水泳試験を完了するGPR156E533D/E533Dマウスの能力の改善を誘導した。
【0187】
マウスを、ガラス玉覆い隠し試験でさらに評価した。図4において示す通り、E533Dバリエーションをコードするヒト化Gpr156遺伝子についてホモ接合性の遺伝子改変したオスのマウス、またはマウスGpr156遺伝子の欠失についてホモ接合性の遺伝子改変したオスのマウスは、10分間で覆い隠したガラス玉の数の増加傾向を示した。データを、各動物群について平均±SEMとして表した。
【0188】
【表2】
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
【配列表】
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