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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】アネキシンA5の用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20240625BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240625BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240625BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
A61K38/17 ZNA
A61P9/10
A61P43/00 105
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P37/06
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022513985
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-11
(86)【国際出願番号】 CN2020112217
(87)【国際公開番号】W WO2021037230
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-02-28
(31)【優先権主張番号】201910815496.0
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522078392
【氏名又は名称】蘇州亜宝薬物研発有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】楊磊
(72)【発明者】
【氏名】連国寧
(72)【発明者】
【氏名】高暁平
(72)【発明者】
【氏名】朱琳
(72)【発明者】
【氏名】王川
(72)【発明者】
【氏名】朱桃桃
(72)【発明者】
【氏名】王星星
(72)【発明者】
【氏名】ヂゥオ,ラン
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-254992(JP,A)
【文献】特表2017-520578(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0291086(US,A1)
【文献】特表2008-500368(JP,A)
【文献】特表2011-506590(JP,A)
【文献】特表2018-518503(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0258584(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0152513(US,A1)
【文献】国際公開第2016/179430(WO,A1)
【文献】Peptides, 2002, Vol.23, pp.1249-1263
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 45/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FASTA
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物の調製におけるアネキシンA5の使用方法であって、前記薬物は血液脳関門の損傷の予防及び/又は治療に使用される、使用方法
【請求項2】
記血液脳関門の損傷は、血漿と脳細胞及び/又は脳脊髄液との間の関門の損傷、破裂又は障害から選択される、請求項1に記載の使用方法。
【請求項3】
前記血液脳関門の損傷は、毛細血管壁と神経膠細胞で形成される血漿と脳細胞との間の関門の損傷及び/又は脈絡叢で形成される血漿と脳脊髄液との間の関門の損傷から選択される、請求項1に記載の使用方法。
【請求項4】
前記血液脳関門の損傷は、脳卒中又は頭蓋骨損傷に起因する血液脳関門の損傷である、請求項1に記載の使用方法。
【請求項5】
前記血液脳関門の損傷は、外力に起因する頭蓋脳外傷から選択される、請求項1に記載の使用方法。
【請求項6】
前記薬物は、損傷した血液脳関門を修復するために用いられる、請求項1に記載の使用方法
【請求項7】
前記アネキシンA5は、全長の天然に存在するヒトアネキシンA5ポリペプチド又はその変異体から選択される、請求項1に記載の使用方法
【請求項8】
前記アネキシンA5は、原核生物発現系により発現される組換えヒトアネキシンA5から選択される、請求項1に記載の使用方法。
【請求項9】
前記アネキシンA5のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1に示される、請求項に記載の使用方法
【請求項10】
前記薬物は、注射剤である、請求項に記載の使用方法
【請求項11】
単位剤形の前記薬物における前記アネキシンA5の含有量は、0.025mg~250mgである、請求項10に記載の使用方法。
【請求項12】
単位剤形の前記薬物における前記アネキシンA5の含有量は、1~100mgである、請求項10に記載の使用方法。
【請求項13】
前記薬物が、
(i)アネキシンA5と、
(ii)他の薬物と、の混合物を含む組合せであって、
前記他の薬物は、アネキシンA5以外の活性成分から選択され前記活性成分は、脳卒中、神経行動学的障害、神経変性疾患、神経損傷、脳内免疫細胞の過剰な活性化、血液脳関門の損傷、脳浮腫、カルシウムイオン含有量の増加、興奮毒性、NOSの過剰な活性化及び上記疾患又は状況の少なくとも1つに起因する疾患又は状況から選択される疾患又は状況を予防及び/又は治療するために使用される、請求項10~12のいずれか1項に記載の使用方法。
【請求項14】
前記脳卒中を治療する他の薬物は、血栓溶解薬、抗血小板薬、抗凝血薬、抗線維薬、容量拡張薬、血管拡張薬又は他の脳血液循環の改善用薬物及び神経保護剤の少なくとも1つから選択される、請求項13に記載の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本願は、2019年8月30日に中国国家知識産権局に提出された特許出願番号が201910815496.0で、名称が「脳卒中の治療におけるアネキシンA5の用途」の先行出願の優先権を主張し、上記先行出願の全文は援用により本願に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は生物医薬分野に関し、具体的にはアネキシンA5の用途に関する。
【背景技術】
【0003】
アネキシン(Annexin)は、カルシウムイオン依存性リン脂質結合タンパク質ファミリーであり、広く発現され、様々な重要な機能を有する。一部のアネキシン、例えばアネキシンA1は、腫瘍と密接に関連しており、膵臓がん、肝臓がん、頭頸部腫瘍において高度に発現される。一部のアネキシン、例えばアネキシンA5(Annexin A5、又はA5)は、抗炎症及び抗凝血などの機能を有する。膜タンパク質A5は、1970年にヒト胎盤に最初に見出され、その遺伝子が染色体4q26~q28に位置し、13個のエキソン及び12個のイントロンを有する。アネキシンA5は、カルシウムイオン依存性の、負に帯電したリン脂質表面に結合できるチャネルタンパク質として、分子量が約34 kDa程度であり、主に細胞膜及び小胞体膜上に存在し、その大きな分子量により脳組織に一般的に入らないため、神経系関連の研究ではあまり注目されていない。
【0004】
「脳卒中」(cerebral stroke)は、「卒中」、「脳血管障害」(cerebral vascular accident,CVA)とも呼ばれ、急性脳血管疾患である。当該疾患は、主に脳部血管の急な破裂、又は血管閉塞により血液が脳部及び一部の組織に流入できないことによる脳組織損傷に起因し、虚血性脳卒中及び出血性脳卒中を含む。そのうち、虚血性脳卒中の発症率は、出血性脳卒中よりも高く、脳卒中の総数の60%~70%を占める。臨床研究から、様々な要因により脳卒中が誘発されることを示した。脳卒中は、発症率、後遺障害率、再発率、死亡率がいずれも高いという特性を有するため、その薬物治療に対して、更に新しい治療剤を開発し、治療効果を改善する必要がある。
【0005】
なお、神経行動学的障害、神経変性疾患、神経損傷、脳内免疫細胞の過剰な活性化、血液脳関門の損傷、カルシウムイオン含有量の増加、興奮毒性、NOSの過剰な活性化などの疾患又は状況に対する治療方法にも更なる改善が求められており、新しい治療剤の開発が急務とされている。
【0006】
アネキシンA5の構造研究の結果が明らかになっているが、その機能及び応用への研究はまだ、研究者によって絶えず探求され、実験によって開発及び実証されることが期待されている。それと同時に、当該タンパク質を疾患の予防及び/又は治療に用いられる時の安全性を更に考慮する必要がある。
【発明の概要】
【0007】
上記技術問題を改善するために、本発明は、脳卒中、神経行動学的障害、神経変性疾患、神経損傷、脳内免疫細胞の過剰な活性化、血液脳関門の損傷、脳浮腫、カルシウムイオン含有量の増加、興奮毒性、NOSの過剰な活性化及び上記疾患又は状況の少なくとも1つに起因する疾患又は状況の予防及び/又は治療におけるアネキシンA5の用途を提供する。
【0008】
本発明の実施形態によれば、本発明は、上記疾患又は状況及び上記疾患又は状況の少なくとも1つに起因する疾患又は状況を予防及び/又は治療するための薬物の調製におけるアネキシンA5の用途を提供する。
【0009】
本発明の実施形態によれば、前記神経行動学的障害、神経変性疾患、神経損傷、脳内免疫細胞の過剰な活性化、血液脳関門の損傷、脳浮腫、カルシウムイオン含有量の増加、興奮毒性、NOSの過剰な活性化は、脳卒中又は他の原因に起因する前記疾患又は状況から選択されてもよい。
【0010】
本発明の実施形態によれば、前記脳卒中は、虚血性脳卒中又は出血性脳卒中から選択され、例えば、急性期及び/又は回復期の虚血性脳卒中、並びに急性期及び/又は回復期の出血性脳卒中、特に急性虚血性脳卒中又は急性期にある虚血性脳卒中から選択される。
【0011】
本発明の実施形態によれば、前記神経行動学的障害は、肢体麻痺及び/又は肢体無力を含むが、それらに限定されない。
【0012】
本発明の実施形態によれば、前記神経変性疾患は、急性神経変性疾患及び/又は慢性神経変性疾患を含み、例えば、脳虚血(CI)、脳損傷(BI)、癲癇といった急性神経変性疾患から選択され、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、異なる病型の脊髄小脳失調症(SCA)、Pick病といった慢性神経変性疾患から選択される。
【0013】
本発明の実施形態によれば、前記神経損傷は、例えば脳外傷、脳血管硬化、脳炎、髄膜炎、脱髄疾患などの脳血管疾患に起因する脳神経損傷;例えば嗅覚神経損傷、視覚神経損傷、聴覚神経損傷、味覚神経損傷などの認知神経損傷;及び顔面神経損傷から選択される。
【0014】
本発明の実施形態によれば、前記神経損傷は、酸素グルコース欠乏又は興奮毒性に起因する脳神経損傷であってもよい。
【0015】
本発明の実施形態によれば、神経変性疾患、神経損傷又はそれに起因する疾患又は状況は、気分障害、うつ病、大うつ病性障害、産後うつ病、双極性障害に関するうつ病、アルツハイマー病、精神病、パーキンソン病、ハンチントン病、不安障害、全般性不安障害、社会不安障害、強迫性障害、パニック障害、パニック発作、恐怖症、社会恐怖症、広場恐怖症、尿失禁、嘔吐、部分応答、治療抵抗性うつ病、認知障害、記憶力の低下、ADHD(注意欠陥及び多動性障害)、気分変調症又はPTSD(心的外傷後ストレス障害)から選択される。
【0016】
本発明の実施形態によれば、前記脳内免疫細胞の過剰な活性化における「脳内免疫細胞」という用語は、中枢神経系(CNS)免疫反応性細胞、特に小膠細胞を含む。
【0017】
本発明の実施形態によれば、前記血液脳関門の損傷は、血漿と脳細胞及び/又は脳脊髄液との間の関門の損傷、破裂又は障害、例えば、毛細血管壁と神経膠細胞で形成される血漿と脳細胞との間の関門の損傷及び/又は脈絡叢で形成される血漿と脳脊髄液との間の関門の損傷から選択されるものを含む。前記血液脳関門の損傷は、上記疾患又は状況に起因してもよく、頭蓋骨損傷(例えば、頭蓋が外力によって打撃されることによる頭蓋脳外傷)による血液脳関門の損傷であってもよい。
【0018】
本発明の実施形態によれば、前記脳浮腫とは、脳内の水分が増加し、脳容積が増大する病理学的現象を意味し、頭蓋内高血圧を誘発し、脳組織を損傷することが可能である。脳浮腫は、頭蓋骨損傷、血液脳関門の損傷、微小循環障害、脳出血、脳虚血、脳低酸素又は他の原因に起因する脳浮腫から選択されてもよい。
【0019】
本発明の実施形態によれば、前記カルシウムイオン含有量の増加とは、脳組織中のカルシウムイオン濃度が上昇し、正常範囲を超えることを意味する。
【0020】
本発明の実施形態によれば、前記興奮毒性は、N-メチル-D-アスパラギン酸により誘発される興奮毒性である。
【0021】
本発明の実施形態によれば、前記NOSの過剰な活性化とは、NOSの活性化によるNOの過剰合成を意味する。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記神経行動学的障害、神経変性疾患、神経損傷、脳内免疫細胞の過剰な活性化、血液脳関門の損傷、カルシウムイオン含有量の増加、興奮毒性、NOSの過剰な活性化は、脳卒中により誘発されてもよい。従って、前記アネキシンA5又はそれにより調製される薬物の用途が脳卒中の予防又は治療に関わる場合、前記アネキシンA5の用途は、以下の技術的特徴を更に含むことができる。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態において、前記脳卒中は、虚血性脳卒中、特に急性虚血性脳卒中又は急性期にある虚血性脳卒中である。よって、アネキシンA5は、例えば、肢体麻痺及び無力などの、虚血性脳卒中による神経行動学的障害を改善し、脳梗塞面積を減少させ、虚血性脳卒中を治療する目的を達成することができる。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態において、前記脳卒中は、脳内免疫細胞の過剰な活性化を伴う。アネキシンA5によって脳内免疫細胞の過剰な活性化を抑制することができ、それにより、脳内免疫細胞の過剰な活性化による神経損傷を緩和し、脳卒中を治療することができる。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態において、前記脳卒中は、脳神経損傷を伴う。アネキシンA5は、脳部において神経保護剤の機能を発揮し、脳部の神経損傷を修復し、脳卒中を治療することができる。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態において、前記脳卒中は、損傷した血液脳関門を伴う。アネキシンA5は、損傷した血液脳関門を修復し、脳部に対する更なる損傷を回避し、脳卒中を治療することができる。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態において、前記免疫細胞は小膠細胞である。小膠細胞の過剰な活性化により、大量の神経毒性因子を放出し、神経変性疾患の発生を引き起こすが、アネキシンA5は、小膠細胞の過剰な活性化を抑制することができる。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態において、前記神経損傷は、酸素グルコース欠乏による脳神経損傷である。アネキシンA5は、酸素グルコース欠乏による脳神経損傷を軽減することができる。脳内低酸素又はグルコース減少により、神経損傷を誘発するが、アネキシンA5は、酸素グルコース欠乏による神経損傷を軽減し、脳卒中を治療することができる。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態において、前記神経損傷は、興奮毒性により誘発される脳神経損傷である。興奮毒性により脳組織内のカルシウムイオン含有量を増加させることができ、NOSが大量に活性化され、大量のNOの合成などの一連の生理学的又は病理学的変化を引き起こし、脳神経損傷を誘発するが、アネキシンA5は、前記神経損傷を修復し、脳卒中を治療することができる。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態において、前記興奮毒性は、N-メチル-D-アスパラギン酸により誘発される興奮毒性である。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態において、前記アネキシンA5は、脳内免疫細胞の過剰な活性化を抑制することができる。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態において、前記アネキシンA5は、脳神経損傷を修復することができる。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態において、前記アネキシンA5は、損傷した血液脳関門を修復することができる。
【0034】
当業者であれば、前記神経行動学的障害、神経変性疾患、神経損傷、脳内免疫細胞の過剰な活性化、血液脳関門の損傷、脳浮腫、カルシウムイオン含有量の増加、興奮毒性、NOSの過剰な活性化は、脳卒中以外の他の原因に起因してもよいことを理解すべきである。例えば、頭蓋骨外傷により誘発される血液脳関門の損傷である。
【0035】
本発明の実施形態によれば、前記アネキシンA5は、全長の天然に存在するヒトアネキシンA5ポリペプチド又はその変異体であってもよいが、それらに限定されない。天然単離物又は組換え又は合成源又はこれらの適切な組み合わせなどの任意の供給源又は方法によってA5ポリペプチドを提供することができる。アネキシンA5のポリペプチド配列は、完全的に又は部分的に天然に存在するアミノ酸配列又はこれらの完全的に又は部分的に天然に存在するアミノ酸配列の変異体に基づいてもよい。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態において、前記アネキシンA5は、ヒトの天然のアネキシンA5である。本発明のいくつかの実施形態において、前記アネキシンA5は、原核生物発現系により発現される組換えヒトアネキシンA5である。よって、原核生物発現系により、所望の組換えヒトアネキシンA5を速やかで効率的に取得することができ、コストが高くない。また、それは、免疫毒性を持たず、非常に低い免疫原性を有し、且つラット及びカニクイザルの両方において、アネキシンA5の耐量が4500 μg/kg以上に達し、ラットにおいて9000 μg/kg以上にも達し、安全性が良好であり、高い用量で投与される場合でも、薬物使用のリスクをもたらさず、脳卒中のような急性の脳血管疾患に対し、重要な治療的意義を有することが検証される。本発明のいくつかの実施形態において、原核生物発現系により発現される前記アネキシンA5のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1に示される。前記SEQ ID NO:1に示されるアミノ酸配列は、天然のヒトアネキシンA5のアミノ酸配列と一致し、前記配列のN末端アミノ酸がアラニン(A)であるのに対し、天然のヒトアネキシンA5のN末端がアセチル化アラニンであるという点のみで異なり、効率的で速やかに取得することができ、また、安全性が非常に良好であり、高い用量で投与される場合でも、薬物使用のリスクをもたらさず、前記疾患又は状況の予防及び/又は治療に対して重要な価値を有することが証明される。
【0037】
研究により、アネキシンA5は、配列保存を有し、異なる種で相同性が高く、類似又は同一の機能を発揮し、相同性が高いか又は配列保存を有するこれらのアネキシンA5は、脳卒中の治療又は脳卒中を治療する薬物の調製に用いられることができることが見出された。例えば、本発明のいくつかの実施形態において、前記アネキシンA5は、天然のヒトアネキシンA5と比べ、又はSEQ ID NO:1に示される配列と比べ、相同性が96%以上であり、例えば96.5%以上、97%以上、97.5%以上、98%以上、98.3%以上、98.5%以上、98.8%以上、99%以上、99.3%以上、99.5%以上である。本発明のいくつかの実施形態において、前記アネキシンA5は、SEQ ID NO:1と比べ、1つの保存的アミノ酸置換を生じさせ、2つの保存的アミノ酸置換を生じさせ、3つの保存的アミノ酸置換を生じさせ、4つの保存的アミノ酸置換を生じさせ、又は5つの保存的アミノ酸置換を生じさせる。高相同性又は保存的アミノ酸置換を示すこれらのアネキシンA5は、人工的に設計されることで合成されてもよく、自然界に天然に存在するアネキシンA5によって分離又は合成されてもよい。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態において、前記薬物は、注射剤などの製剤の形態である。単位剤形の前記薬物におけるアネキシンA5の含有量は0.025 mg~250 mgである。アネキシンA5の日用量が約0.05 mg~500 mgであることを考慮し、薬物の調製中に、単位剤形の薬物におけるアネキシンA5の含有量を0.025 mg~250 mgの間に適応的に調整することができ、例えば、0.1~50 mgの間、0.1~100 mgの間、0.1~200 mg、又は0.1~250 mgの間、又は1~50 mgの間、1~100 mg、1~200 mg又は1~250 mgの間であってもよく、好ましくは、1~100 mgの間、例えば1 mg、10 mg、20 mg、30 mg、40 mg、50 mg、60 mg、70 mg、80 mg、90 mg又は100 mgであってもよい。アネキシンA5製剤を調製することにより、前記疾患又は状況の治療を実現することができ、且つ安全性が良好であり、毒性及び副作用がない。単位剤形(又は単位用量)の薬物とは、薬物が異なる剤形に調製される時に設計された1つの単位を指す。例えば、錠剤に設計され、錠剤の大きさが400 mgに設計されると、400 mgは、単位剤形の薬物である。更に例えば、薬物は、注射剤として設計され、各注射剤の個別包装は、単位剤形の薬物である。通常、単位剤形の薬物は、1日の日用量であるか、又は半日の日用量である。これらの単位剤形の薬物におけるアネキシンA5の含有量は、0.025~250 mgの間で変動してもよく、他の薬学的に利用可能な担体と更に組み合わせ、単位剤形の薬物に調製される。
【0039】
これらの「薬学的に受容可能な担体」は、生理学的に適合する任意の又は全ての溶剤、分散媒体、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張化剤及び吸収遅延剤などを含むことができる。具体的な実例は、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、グルコース、グリセロール、エタノールなど及びそれらの組成物の1つ又は複数であってもよい。多くの場合、例えば糖類、ポリオール(例えばマンニトール、ソルビトール)又は塩化ナトリウムなどの一部の等張化剤であってもよい。当然、薬学的に受容可能な担体は、抗体の保存期間又は効力を延長するために、例えば湿潤剤又は乳化剤、防腐剤又は緩衝剤などの微量の補助物質を更に含んでもよい。
【0040】
本発明は、脳卒中、神経行動学的障害、神経変性疾患、神経損傷、脳内免疫細胞の過剰な活性化、血液脳関門の損傷、脳浮腫、カルシウムイオン含有量の増加、興奮毒性、NOSの過剰な活性化及び上記疾患又は状況の少なくとも1つに起因する疾患又は状況から選択される疾患又は状況を予防及び/又は治療するために用いられる、アネキシンA5を含む薬物を更に提供する。
【0041】
本発明は、アネキシンA5と他の薬物とを含む医薬的連合体を更に提供する。
【0042】
本発明の実施形態によれば、前記他の薬物は、アネキシンA5以外の薬物、例えば、脳卒中、神経行動学的障害、神経変性疾患、神経損傷、脳内免疫細胞の過剰な活性化、血液脳関門の損傷、脳浮腫、カルシウムイオン含有量の増加、興奮毒性、NOSの過剰な活性化及び上記疾患又は状況の少なくとも1つに起因する疾患又は状況から選択される疾患又は状況を予防及び/又は治療するための活性成分から選択される。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態において、脳卒中を予防及び/又は治療するための他の薬物は、血栓溶解薬、抗血小板薬、抗凝血薬、抗線維薬、容量拡張薬、血管拡張薬又は他の脳血液循環の改善用薬物及び神経保護剤の少なくとも1つから選択されてもよい。これらの薬物と組み合わせて投与することにより、脳卒中の多角度及び多段階の治療を実現し、脳卒中を迅速に治療することができる。
【0044】
本発明は、患者に有効量のアネキシンA5を投与することを含み、前記疾患又は状況が脳卒中、神経行動学的障害、神経変性疾患、神経損傷、脳内免疫細胞の過剰な活性化、血液脳関門の損傷、脳浮腫、カルシウムイオン含有量の増加、興奮毒性、NOSの過剰な活性化及び上記疾患又は状況の少なくとも1つに起因する疾患又は状況から選択される、疾患又は状況を予防及び/又は治療する方法を更に提供する。
【0045】
本文における「状況」とは、患者が示す異常な生理学的状態、例えば、患者が示す疾患の症状又は生理学的に異常な生理指標などを意味する。
【0046】
本文における「有効量の」又は「治療上有効量の」とは、前記疾患又は状況に対して緩和又は回復などの治療的機能を発揮できる薬物用量を意味する。
【0047】
「患者」という用語は、上記疾患を罹患したか又は前記障碍が存在するか、又は上記疾患を罹患したか又は前記障碍が存在するリスクがある個体又は集団、例えば被験者であってもよい。前記患者は、ヒト及び哺乳動物を含む。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態において、前記アネキシンA5の用量は、0.05 mg~500 mgの日用量であり、好ましくは2~200 mgの日用量である。通常、1 mg~500 mg/日であってもよく、1 mg~450 mg/日、例えば1 mg~400 mg/日、1 mg~350 mg/日、1 mg~300 mg/日、1 mg~250 mg/日、1 mg~200 mg/日などであってもよい。当然、一部の軽度脳卒中の患者に投与される場合、アネキシンA5の用量は、より少なくてもよく、例えば1 mg~100 mg/日、又は1 mg~80 mg/日などであってもよい。
【0049】
前記アネキシンA5又はその薬物は、単回投与であってもよく、複数回の反復投与であってもよい。前記アネキシンA5又はその薬物は、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、髄腔内注射、鼻腔用スプレー、口腔用スプレーなどの形態の投与を採用することができる。迅速な静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、髄腔内注射、鼻腔用スプレー、口腔用スプレーなどを含むが、これらに限定されない短時間迅速投与であってもよい。持続徐放する静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、髄腔内注射などを含むが、これらに限定されない持続的曝露投与であってもよい。アネキシンA5がタンパク質薬物に属することを考慮し、好ましくは、それを注射剤の形態に調製できることにより、例えばそれを凍結乾燥粉末又は特定の規格の他の注射薬物に調製できることにより、迅速な治療及び生体内での高生体利用性を実現することができる。
【0050】
治療時、アネキシンA5は、上記疾患又は状況(例えば、脳卒中)の急性期及び回復期の投与に使用されてもよく、卒中後の二次予防投与に使用されてもよく、画像の徴候があるが臨床症状がない潜在的な脳卒中の患者の予防的投与に更に使用されてもよい。
【0051】
なお、アネキシンA5は、脳卒中を治療する単独投与であってもよく、手術又は他の薬物との組み合わせ投与であってもよい。手術は、血管内インターベンション治療(例えば、機械的血栓摘出、血管形成術又はステント留置術など)を含むが、これらに限定されず、他の薬物は、血栓溶解薬(例えば、組換え組織型プラスミノーゲンアクチベータrtPA及びウロキナーゼなど)、抗血小板薬(例えば、アスピリン、クロピドグレルなど)、抗凝血薬、抗線維薬(例えば、デフィブラーゼ及びバトロキソビンなど)、容量拡張薬、血管拡張薬、他の脳血液循環の改善用薬物及び神経保護剤(例えば、エダラボンなど)を含むが、これらに限定されない。組み合わせ投与により、脳卒中の多角度の治療を実現することができ、脳卒中を迅速に治療することができる。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態において、被験者に有効量のアネキシンA5を投与した後、脳内免疫細胞の過剰な活性化を抑制することができ、例えば、脳内小膠細胞の過剰な活性化を抑制し、免疫細胞の過剰な活性化による神経損傷を間接的に修復する。同時に、脳部の神経損傷を直接修復することができ、例えば、酸素グルコース欠乏による脳神経損傷を軽減し、興奮毒性、例えばN-メチル-D-アスパラギン酸によるニューロン損傷を軽減することができる。脳卒中の治療中に、アネキシンは、損傷した血液脳関門を通して脳部に入り、治療的機能を発揮することができ、同時に損傷した血液脳関門を修復し、病態の更なる悪化を阻止し、更に治療目的を達成することができる。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態において、使用されるアネキシンは、原核生物発現系によって発現され、例えば、大腸菌発現系によって発現され、アネキシンA5のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1に示される。
【0054】
発明者が長時間にわたって研究した結果、アネキシンA5は、脳卒中を治療し、脳部の神経損傷を修復するために使用することができると見出した。ラット虚血再灌流モデルにより実証されるように、アネキシンA5は、ラットの脳梗塞面積を減少し、神経欠損症状を改善し、長時間の運動回復を促進することができることを見出した。例えば、光照射によってラット大脳皮質の局所的虚血モデルを取得し、その後、尾静脈からアネキシンA5を投与し、検出によりラットの神経欠損症状が改善され、脳梗塞面積が顕著に低下することを見出した。更に例えば、ラット自己由来の動脈血の脳内注射による損傷により、ラット出血性脳卒中モデルを取得し、その後、アネキシンA5を尾静脈注射投与し、検出によりラットの神経欠損症状が明確に改善され、脳梗塞面積も低下することを見出した。
【0055】
発明者は、アネキシンA5が脳卒中に関連する損傷に対して修復及び緩和作用を有し、脳卒中疾患を治療するために使用できることを更に見出した。
【0056】
発明者は、急性損傷の場合(脳卒中、外傷など)、血液脳関門が破壊され、脳部に入ることがあり、放射標識されたアネキシンA5が現像剤として脳中に分布することを更に見出した。アネキシンA5を投与した後、被験者の血液脳関門の損傷、及び脳神経損傷又は上記関連病変を顕著に修復することができる。なお、脳に入ったアネキシンA5は、脳部疾患を治療し、脳神経損傷を修復し、例えば、脳虚血又は再灌流損傷を修復でき、以上に記載の疾患又は状況を予防又は治療するために使用することができる。驚くべきことに、上記優れた治療効果を取得すると同時に、治療中に、被験者に出血のリスクが認められず、本発明の薬物は、優れる安全性を更に有することが分かった。
【0057】
本文における「修復」又は「緩和」とは、上記脳損傷を低減する任意の形態又は作用手段を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】神経欠損症状に対する、本発明の実施例により提供されるアネキシンA5溶液の影響結果を示す図である。
図2】脳梗塞範囲に対する、本発明の実施例により提供されるアネキシンA5溶液の影響結果を示す図である。
図3】初代皮質ニューロンOGD損傷に対する、本発明の実施例4により提供されるアネキシンA5の影響結果を示す図である。
図4】NMDA誘発のラット初代皮質ニューロンの興奮性損傷に対する、本発明の実施例5により提供されるアネキシンA5の保護作用結果を示す図である。
図5】脳組織のEB含有量に対する、本発明の実施例6により提供されるアネキシンA5の検出結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、図面を参照しながら説明される実施形態は、例示的なものであり、本発明を解釈するために用いられ、本発明を限定するものではないと理解すべきである。
【0060】
発明者は、修復又は損傷緩和を発揮できるか、又は本発明の予防及び/又は治療作用を発揮できるアネキシンA5が天然に存在するヒトアネキシンA5ポリペプチドの全長又はその一部のアミノ酸配列であってもよく、天然に存在するヒトアネキシンA5ポリペプチドの全長又は一部のアミノ酸配列に基づく変異体配列であってもよいことを見出した。当然、これらの天然に存在するアネキシン又は変異体を調製又は取得する場合、天然に存在する物質から直接分離されるか、又は直接、人工的に合成されるか、又は以上のこれらの方法の任意の組み合わせなどの任意の供給源又は方法に基づいてもよい。
【0061】
ヒトの天然の全長アネキシンA5を例にし、使用できるアネキシンA5は、ヒトの天然の全長アネキシンA5と比べ、相同性が少なくとも97%以上であり、好ましくは98%以上であり、例えば、少なくとも98.5%以上であり、少なくとも98.8%以上であり、より好ましくは99%以上であり、例えば、少なくとも99.3%以上であり、少なくとも99.5%以上であり、更に例えば99.6%以上である。ヒトの天然の全長アネキシンA5と比べて相同性を示すこれらのアミノ酸配列は、1つのアミノ酸の違い、2つのアミノ酸の違い、3つのアミノ酸の違い、4つのアミノ酸の違い、更には5つのアミノ酸、6つのアミノ酸、7つのアミノ酸の違いを示すことができる。これらのアミノ酸の違いは、ヒトの天然の全長アネキシンA5配列のアミノ酸で生じた保存的アミノ酸置換であってもよい。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸が別のアミノ酸の生物学的、化学的又は構造的に類似する残基で置換されることを意味してもよい。構造的に類似することは、アミノ酸がアラニン、グリシン又はセリンなどの類似した長さの側鎖を有するか、又は類似した大きさの側鎖を有することを意味する。化学的類似性とは、アミノ酸が同じ電荷を有するか、又はいずれも親水性又は疎水性であることを意味する。例えば、疎水性残基であるイソロイシン、バリン、ロイシン又はメチオニンは、互いに置換される。或いは、極性アミノ酸で、例えばアルギニンでリシンを置換し、グルタミン酸でアスパラギン酸を置換し、グルタミンでアスパラギンを置換し、セリンでスレオニンを置換する、等々。
【0062】
相同性を示す上記アミノ酸配列又は保存的アミノ酸置換を示す配列は、人工的に設計して合成することで取得されてもよく、自然界の他の種に直接存在してもよい。研究により、アネキシンA5が配列保存を有し、異なる種に高い相同性を示すことを見出した。SEQ ID NO:1に示されるアミノ酸配列は、天然のヒトアネキシンA5のアミノ酸配列と一致し、SEQ ID NO:1に示される配列のN末端アミノ酸がアラニン(A)であるのに対し、天然のヒトアネキシンA5のN末端がアセチル化アラニンであるという点のみ異なる。従って、以下の表1に示されるのは、異なる種に存在する変異部位及び変異アミノ酸がSEQ ID NO:1配列を例にして行われた比較であり、自然界の異なる種において、アネキシンA5の配列と天然のヒトアネキシンA5の差異も反映される。SEQ ID NO:1配列と比べ、Gorillaゴリラにおいて変異し、第3位のアミノ酸は、バリンからイソロイシンに変異した。更に例えば、文献J. Mol. Biol. 223 (3), 683~704 (1992)及び文献J. Mol. Biol. 223 (3), 683~704 (1992)において、ヒトの天然ヒトアネキシンにも変異が存在し、即ち、天然のヒトアネキシンA5と比べて、第76位のアミノ酸がグルタミン酸からグルタミンに変異したか又はグルタミン酸からグリシンに変異したことも報告されている。以下の表1には、SEQ ID NO:1配列と比べ、一部の種に存在する変異部位及び対応する変異アミノ酸を列挙し、これらの配列は、全てNCBI Access Numberに基づいてNCBIから取得されてもよく、対応する参照文献から直接取得されてもよい。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
以下、実施例を参照しながら本発明の実施形態を説明する。当業者であれば、以下の実施例は、本発明の実施形態を例示的に解釈して説明するためのものに過ぎず、本発明の請求範囲を制限するものではないと理解すべきである。実施例に具体的な技術又は条件が記載されていない場合、本分野の文献に記載された技術又は条件に従って、又は製品の説明書に従って行われる。製造者の記載がなく使用される試薬又は機器は、全て市場で入手できる通常の製品である。
【0066】
実施例1
本実施例及び以下の実施例で使用されるアネキシンA5(以下、A5タンパク質と略称される)は、ヒト由来の全長アネキシンA5であり、組換えベクターを構築することで、原核生物である大腸菌生体内に大量に発現され、発現されたA5タンパク質が配列決定され、そのアミノ酸配列は、以下の通りである。
【0067】
AQVLRGTVTDFPGFDERADAETLRKAMKGLGTDEESILTLLTSRSNAQRQEISAAFKTLFGRDLLDDLKSELTGKFEKLIVALMKPSRLYDAYELKHALKGAGTNEKVLTEIIASRTPEELRAIKQVYEEEYGSSLEDDVVGDTSGYYQRMLVVLLQANRDPDAGIDEAQVEQDAQALFQAGELKWGTDEEKFITIFGTRSVSHLRKVFDKYMTISGFQIEETIDRETSGNLEQLLLAVVKSIRSIPAYLAETLYYAMKGAGTDDHTLIRVMVSRSEIDLFNIRKEFRKNFATSLYSMIKGDTSGDYKKALLLLCGEDD(SEQ ID NO:1)
SEQ ID NO:1に示すように、大腸菌発現系により発現されるA5タンパク質は、319個のアミノ酸を含有し、その完成したcDNA配列が320個のアミノ酸のコドンによってコードされ、N末端のメチオニンが発現中に切断される。当該SEQ ID NO:1のアミノ酸配列は、天然のヒトアネキシンA5のアミノ酸配列と一致し、当該系により発現されるA5タンパク質のN末端アミノ酸がアラニン(A)であるのに対し、天然のヒトアネキシンA5のN末端がアセチル化アラニンであるという点のみ異なる。
【0068】
その後、実施例1で得られたA5タンパク質を利用して以下の実験を行う。
【0069】
実施例2
文献Behavioral deficits and recovery following transient focal cerebral ischemia in rats: glutamatergic and GABAergic receptor densities(Jolkkonen J, Gallagher NP, Zilles K, Sivenius J.Behav Brain Res 2003;138:187~200)及び文献Reversible middle cerebral artery occlusion without craniectomy in rats. (Longa EZ, Weinstein PR, Carlson S, Cummins R.Stroke 1989;20:84~91)に記載の内容を参照すると、内頚動脈縫合法によって大脳動脈閉塞(Middle cerebral artery occlusion, MCAO)脳虚血再灌流モデルを構築し、それぞれA5 0.1 mg/kg、A5 1.0 mg/kg、A5 10.0 mg/kg群を設置し、エダラボンの静脈内投与(6.0 mg/kg)を陽性対照群とし、モデル群及び偽手術群を別途設置する。モデル群及び偽手術群に同体積の0.9%の塩化ナトリウム注射液を投与する。A5タンパク質の各用量群に再灌流時に1回投与することができ、再灌流の1h後に更に1回投与し、他の各群に再灌流した直後に1回投与する。脳虚血の24時間後に神経行動学的障害の症状評価及び脳梗塞面積の測定を行う。
【0070】
1. 試験材料
(1)実験動物
Sprague Dawley(SD)ラット、SPF級、雄性、年齢が6~8週程度、体重250~280 g。
【0071】
動物は、実験中に以下の場合で除外される。a)麻酔中に死亡し、b)脳虚血中に死亡し、c)再灌流後に指標を評価するまで死亡し、d)脳を取り出した後に頭蓋底出血を発見し、e)TTC染色後に右脳に梗塞領域がない。
【0072】
(2)試薬
A5タンパク質溶液は、即ち、実施例1で調製されたA5タンパク質を0.9%の塩化ナトリウム水溶液で希釈して調製してなる。
【0073】
対照品:エダラボン注射液(南京先声東元製薬有限公司から購入される)であり、1:1の割合でエダラボン注射液と0.9%の塩化ナトリウム注射液を混合して希釈し、陽性対照とする。
【0074】
2. 試験設計
(1)用量設計
【0075】
【表3】
【0076】
(2)投与
各群の動物に尾静脈から静脈内注射で投与し、静脈内注射による投与の速度は、約1.5~2.5 mL/分間である。
【0077】
各処置群に対して、脳虚血の24時間後に神経行動学的障害の症状評価及び脳梗塞面積の測定を行う。
【0078】
3. 評価方法
(1)神経欠損症状のスコア
文献Rat middle cerebral artery occlusion, evaluation of the model and development of a neurologic examination(Bederson JB, Pitts LH, Tsuji M, Nishimura MC, Davis RL, Bartkowski H. 1986.Stroke 17: 472-476)に記載の方法を参照し、動物に対して24 h虚血した後に改良されたBederson 5点法によって神経欠損の症状評価を行う。
【0079】
(2)脳梗塞程度の測定
文献Evaluation of 2,3,5-triphenyltetrazolium chloride as a stain for detection and quantification of experimental cerebral infarction in rats(Bederson JB, Pitts LH, Germano SM, Nishimura MC, Davis RL, Bartkowski HM. Stroke 1986;17:1304-8)及び文献Quantification of infarct size on focal cerebral ischemia model of rats using a simple and economical method(Yang Y, Shuaib A, Li Q. J Neurosci Methods 1998;84:9~16)に記載の内容を参照し、TTC染色法によって脳梗塞程度の測定を行う。
【0080】
脳梗塞面積の計算:写真をImage Jソフトウェアを用いて処理し、公式で左脳の対応する面積及び右脳の非梗塞巣の面積を計算し、梗塞範囲の百分率を求める。
【0081】
梗塞体積計算法:
V=t(A1+A2+A3+ ………+An)
tは、切片の厚さであり、Aは梗塞面積である。
%I=(V-V)/V×100%
%Iは、梗塞範囲の百分率であり、Vは、対照側(左脳半球)の脳体積であり、Vは、梗塞側(右脳半球)の非梗塞領域の体積である。
【0082】
(3)評価指標
脳梗塞範囲及び神経行動学的スコアを主な評価指標とし、同時に動物臨床症状を観察する。
【0083】
定量資料は、平均値±標準誤差で示し、各薬効指標は、GraphPad Prism(6.01)ソフトウェアを用いて一元配置分散分析(one-way ANOVA)を行い、分散検定が有意になった後に更にFisher’s LSD testを用いて群間の差異を検定する。P<0.05を有意差があるものと定義する。
4. 実験結果
(1)神経欠損症状に対するA5タンパク質の影響
一元配置分散分析により、各群の間に統計学的差異(F(4. 69) = 2.305、P = 0.0669)が認められない。しかし、各群に対してそれぞれモデル群とT検定を行い、エダラボン6.0 mg/kg群(P<0.01)及びA5 10.0 mg/kg群(P<0.05)は、虚血性動物の神経行動学的障害の症状を顕著に改善することができ、A5 1.0 mg/kg群及びA5 0.1 mg/kg群は、虚血性動物の神経行動学的障害の症状を改善する傾向を有するが、統計学的差異が認められない。神経行動学的障害の症状に対するA5タンパク質の影響を表3及び図1に詳述する。
【0084】
【表4】
【0085】
(2)脳梗塞範囲に対するA5タンパク質の影響
一元配置分散分析により、各群の間に統計学的差異(F(4. 69) = 2.240、P = 0.0735)が認められない。しかし、各群に対してそれぞれモデル群とT検定を行い、A5 10.0 mg/kg群(P<0.05)は、モデル動物の脳梗塞面積を顕著に低減することができ、エダラボン6.0 mg/kg群、A5 1.0 mg/kg群は、モデル動物の脳梗塞面積を低減する傾向を有するが、統計学的差異が認められず、A5 0.1 mg/kg群は、モデル動物の脳梗塞面積を低減する作用を有さない。脳梗塞面積に対するA5タンパク質の影響を表3及び図2に詳述する。
【0086】
今回の試験において、モデル群における動物の脳梗塞範囲の群内の差異は、実質的に平均値1/3以内(Mean±SD、42.53±12.65)であり、モデル可用率は69.81%(偽手術群における動物を含まない)であり、当該実験系は、信頼性が高く、薬効評価に使用することができる。
【0087】
モデル群と比べ、A5 10.0 mg/kg群は、モデルラットの脳梗塞面積(P<0.05)を顕著に低減することができ、エダラボン6.0 mg/kg、A5 1.0 mg/kg群は、モデルラットの脳梗塞面積を低減する傾向を有するが、統計学的差異が認められず、A5 0.1 mg/kgは、モデル動物の脳梗塞面積を低減する作用を有さない。モデル群と比べ、エダラボン6.0 mg/kg及びA5 10.0 mg/kg群は、虚血性動物の神経行動学的障害の症状(p<0.01、p<0.05)を顕著に改善することができ、他の各群は、当該指標で顕著な改善作用を示さない。
【0088】
今回の実験において、A5 10.0 mg/kg群は、虚血性ラットの脳梗塞面積を顕著に低減すると共に、虚血性動物の神経行動学的障害の症状を改善することができる。アネキシンA5で治療される実験群にいずれも出血のリスクが認められない。
【0089】
実施例3
小膠細胞は、中枢神経系の炎症過程に重要な役割を果たす。小膠細胞の適度な活性化は、ニューロンに対して保護作用を有するが、過剰に活性化された小膠細胞は、一酸化炭素のような大量の神経毒性因子を放出し、これらの神経毒性因子は、神経変性疾患の発症を引き起こす。リポ多糖(LPS)は、小膠細胞を活性化させるが、小膠細胞が過剰に活性化されると、ニューロンが損傷される。A5を用いてLPS刺激による小膠細胞の過剰な活性化の影響を観察する。
【0090】
実験中にLPS刺激による精製した初代小膠細胞を対照群として採用し、同時にA5タンパク質を実験群として追加する。上記処理に対して、それぞれMTT法によって細胞生存性を検出し、免疫細胞化学法によって細胞形態の変化を観察する。
【0091】
実験結果により、LPSは、初代小膠細胞を明らかに活性化させることができるが、細胞生存性に影響を与えないことを示す。A5タンパク質は、LPS刺激による小膠細胞の過剰な活性化に対して抑制作用を有する。よって、A5タンパク質は、脳内免疫細胞の過剰な活性化を抑制し、例えば、小膠細胞の過剰な活性化を抑制するために使用することができる。
【0092】
実施例4
酸素グルコース欠乏(oxygen glucose deprivation/OGD)モデルは、細胞レベルで虚血/低酸素の刺激モデルをシミュレートし、細胞培養条件を変更し、例えば、細胞を低酸素チャンバに入れるか又は無糖の培地に交換することで、細胞が虚血/低酸素状態での損傷をシミュレートする。
【0093】
ラット初代皮質ニューロンを選択してOGDモデルを構築し、A5タンパク質の検出濃度は、それぞれ0、41.15、123.5、370.4、1111、3333、10000 nMである。まず、PBSで培養プレート中の細胞を2回洗浄し、事前に95%N+5%COで30 min置換した無糖DMEMを加え、37 ℃、94%N+1%O+5%COの低酸素インキュベータに迅速に入れる。8 h低酸素培養した後、対応する薬物含有培地(即ち、A5を含有するDMEM培地)を加え、37 ℃、5%COの細胞インキュベータに再度入れて24 h再酸素化して培養する。正常条件に戻して24 h培養し続けた後に、倒立顕微鏡下で細胞の形態学的変化を観察し、CCK-8比色法によって細胞生存率を検出し、フローサイトメトリーによって細胞アポトーシス率を検出する。同時に、正常酸素圧及び正常グルコースの処置群を対照群として設置する。細胞相対活性の計算式は、以下の通りである。
【0094】
細胞相対活性(%)=(投与群-背景群)/(対照群-背景群)×100%
モデル群と比べ、A5タンパク質は、41.15~1111 nMの濃度範囲内でOGDによるニューロン損傷への保護作用(P>0.05)を示せず、且つ3333~10000 nMの濃度下でOGDによるニューロン損傷後の活性(P<0.05、図3)を顕著に低下させる。
【0095】
実験結果により、A5タンパク質は、3333~10000 nMの濃度下で酸素グルコース欠乏によるニューロン細胞への損傷を軽減することができ、神経保護作用を有することを示した。
【0096】
実施例5
実施例5は、NMDA(N-メチル-D-アスパラギン)誘発のラット皮質ニューロンの興奮毒性損傷に対するA5タンパク質の神経保護作用を研究した。NMDAは、NMDA受容体を活性化して脳組織内のCa2+含有量を増加させることができ、NOSが大量に活性化されると、大量のNOの合成などの一連の生理学的又は病理学的な変化を引き起こし、脳内ニューロンを損傷させる。実験は、A5タンパク質を予め採用することでニューロンを前処理し、興奮毒性によるニューロンへの損傷に対するA5タンパク質の神経保護作用を観察する。
【0097】
実験は、胚が17dのSDラットを選択して使用し、皮質ニューロンを接種して培養する。その後、ニューロンを対照群、NMDA中毒群及びA5前処置群に分け、そのうち、NMDA中毒群は、ニューロンをNMDAに加えて中毒化させ、対照群は、如何なる処理を行わず、A5前処置群は、予めニューロンをA5タンパク質と共に一定時間インキュベートした後、NMDAを加えて中毒化させる。異なる処置群に対して、トリパンブルー染色によって細胞生存性を評価し、TUNEL染色によってアポトーシス細胞を検出し、免疫蛍光細胞化学技術によってニューロン形態を測定する。細胞相対活性の計算式は、以下の通りである。
【0098】
細胞相対活性(%)=(投与群-背景群)/(対照群-背景群)×100%
図4に示すように、100 μM濃度のNMDAは、ラット初代皮質ニューロンの細胞活性を低下させるように(P<0.001、正常controlと比べる)誘発することができ、モデルの構築に成功したことを示した。A5タンパク質は、検出濃度41.15~3333 nMの範囲内で、NMDAによる初代皮質ニューロン興奮性損傷への顕著な軽減作用(P>0.05、Model群と比べる)が認められないが、検出濃度10000 nMでNMDAによる初代皮質ニューロン興奮性損傷への顕著な軽減作用(P<0.05、Model群と比べる)を示す。
【0099】
実験結果により、NMDA中毒群と比べ、A5前処置群は、10000 nMの検出濃度で興奮毒性によるニューロンへの損害を軽減することができることを示した。
【0100】
実施例6
血液脳関門は、脳微小血管内皮細胞、星状膠細胞及び基底膜という3つの成分で構成される。血液脳関門の損傷は、卒中脳損傷の重要な病理の1つである。
【0101】
実験中に自然に形質転換した内皮細胞系及び単離精製されたラット星状膠細胞を利用して共培養してインビトロ血液脳関門モデルを構築する。インビトロ血液脳関門モデルは、刺激処理後に損傷し、その後、A5タンパク質で刺激処理後の血液脳関門モデルを処理する。頭蓋骨への打撃によるラット頭蓋骨損傷モデルを用いて血液脳関門の完全性を評価し、それぞれA5 10 mg/kg、A5 30 mg/kg、モデル群を設置する。A5タンパク質の各用量群及びモデル群にモデル構築の1h、2h後にそれぞれ1回投与し、合計で2回投与し、投与形態は、尾静脈内注射投与である。モデル構築の23h後に、ラットを麻酔した後、尾静脈から4 ml/kgの用量で2%のEB(Evans blue)染料溶液を注射し、殺す前に染料をラット体内で1時間循環させる。無色の灌流が得られるまでラット左心室を通して食塩水で心臓に灌流する。殺す後、大脳を取り出し、秤量し、カルボキサミド(3 μl/mg)でホモジナイズし、室温で48時間インキュベートする。遠心後、上清液を収集して625 nmで光学密度を測定し、EB染料の相対量を決定するために使用し、結果を表4及び図5に示す。
【0102】
【表5】
【0103】
結果により、モデル群と比べ、A5 10 mg/kg群の脳組織中のEB含有量には有意差(P>0.05)が認められず、A5 30 mg/kg群の脳組織中のEB含有量が顕著に減少する(P<0.05)ことを示した。今回の実験において、A5 30 mg/kg群は、頭蓋骨への打撃によるラット血液脳関門の損傷に対して修復作用を有する。
【0104】
実験結果により、刺激により、既に構築された血液脳関門は、顕著に破壊され、A5は、破壊された血液脳関門を修復することができることを示した。
【0105】
実施例7 免疫毒性及び免疫原性の研究(SDラット及びカニクイザルの反復投与毒性研究を伴う)
1、SDラットの毒性実験研究
SDラットに28日間連続でA5タンパク質を静脉内注射し、4週間の回復期間を設置し、ラットから生じた毒性反応及びその重症度、主な毒性の潜在的標的器官及び損害の可逆度を観察する。投与用量は、それぞれ0(ブランクアジュバント)、30、150及び750 μg/kgである。採血して免疫毒性(CD4、CD8 T細胞)及び免疫原性の検出を行う。ここで、試験を4群に分け、1群当たり8匹のラットを設定し、サンプルの採取は合計で4つの時間点にし、即ち、各ラットに対して4つの時間点の血清サンプルを採取する。
【0106】
ここで、免疫毒性結果から、対照群と比べて、試験期間における各用量の投与群の動物の末梢血中のTリンパ球亜群の割合及び比率(CD4、CD8+ T細胞測定値)には統計学的な有意差が認められないことが分かった。
【0107】
免疫原性結果を表4に示す。ここで、表4における各群のサンプル数は、1群当たり8匹のラットを示し、4つの時間点に分けて血清を採取し、各群は、合計で32個のサンプル数であり、陽性個体数は、各群のサンプル数から陽性サンプルを検出した数である。
【0108】
【表6】
【0109】
表4の結果から明らかなように、SDラットにA5タンパク質ブランクアジュバントを静脈内注射投与した後、抗薬物抗体(ADA)が検出されなかった。異なる用量のA5タンパク質を静脈内注射した後、陽性サンプルの検出率は65.6%でした。各用量群の間に有意差が認められず、陽性サンプルは、主に最終投与後及び回復期の最後に集中し、抗薬物抗体がインビボで産生されるプロセスに合致する。
【0110】
2、カニクイザルの毒性実験研究
研究において、カニクイザルを28日間連続でA5タンパク質を静脈内注射し、4週間の回復期間を設置し、カニクイザルから生じた毒性反応及びその重症度、主な毒性の潜在的標的器官及び損害の可逆度を観察する。投与用量は、それぞれ0(ブランクアジュバント)、15、75及び375 μg/kgである。免疫原性の採血及び免疫毒性(CD4、CD8 T細胞)の検出を行う。
【0111】
免疫毒性結果から、対照群と比べて、試験期間における各用量の投与群の動物の末梢血中のTリンパ球亜群の割合及び比率(CD4、CD8 T細胞測定値)には統計学的な有意差が認められないことが分かった。
【0112】
免疫原性結果を表5に示す。上記ラットと同様の群分け及び処理形態を採用し、異なるのは、サンプリングする場合、各群のサンプル数が2つ多いことであり、即ち、各群のサンプル数が2つ多い。
【0113】
【表7】
【0114】
表5の結果から容易に分かるように、カニクイザルにA5タンパク質ブランクアジュバントを静脈内注射投与した後、ADAが検出されなかった。異なる用量のA5タンパク質を静脈内注射した後、陽性サンプルの検出率は25.5%であり、陽性サンプルは、投与4週間後及び回復期の最後に集中し、抗薬物抗体がインビボで産生されるプロセスに合致する。
【0115】
実験結果により、ラット及びカニクイザルの両方において免疫毒性が認められないことを示した。免疫原性試験において、カニクイザルは、ラットと比べて、陽性発生率が有意に低下する。A5タンパク質がヒト由来タンパク質に属することを考慮し、人体上に免疫原性の発生率が顕著に低下することが予想される。
【0116】
実施例8 SDラット及びカニクイザルにA5タンパク質を静脈内注射する単回投与毒性研究
1、SDラットにA5タンパク質を静脈内注射する単回投与毒性研究
研究において、SDラットにA5タンパク質を単回静脈内注射し、動物から生じた急性毒性反応及びその重症度、主な毒性の潜在的標的器官を観察する。投与用量は、それぞれ0(ブランクアジュバント)、1000、3000及び9000 μg/kgである。静脈内注射し、投与後に動物の姿勢、歩行姿勢、反応状態、神経活動、食欲、被毛、眼、耳、口、鼻、四肢、呼吸、糞便などの臨床症状を連続的に観察する。その後、投与後14日目まで観察し続け、動物の毒性反応の回復状況を考察する。投与15日間後に動物を解剖して肉眼的病理学検査を行う。試験期間に全ての動物の臨床症状に異常が認められず、投与群における雌性及び雄性の動物の体重変化に異常が認められず、肉眼的病理学検査における各組織器官にいずれも異常が認められない。本試験条件下で、A5タンパク質の単回静脈内注射の耐量(MTD)は、9000 μg/kg以上である。
【0117】
2、カニクイザルにA5タンパク質を静脈内注射する単回投与毒性研究
研究において、カニクイザルにA5タンパク質を単回静脈内注射し、動物から生じた急性毒性反応及びその重症度、主な毒性の潜在的標的器官を観察する。投与用量は、それぞれ0(ブランクアジュバント)、500、1500及び4500 μg/kgである。単回静脈内注射して投与し、投与後15日目まで投与後の動物の臨床症状(糞便、外観、呼吸、神経反応、活動状況などを含む)を観察する。投与後に摂餌量を1日に1回測定し、体重を週1回測定する。投与の当日にそれぞれ投与前後で動物の体温、血圧及び心電図を測定し、投与後1、7、15日目に1回再測定する。投与後1、7、15日目に全ての動物に血液学(血液凝固を含有する)及び血清生化学検査を行い、投与後14日目に尿検査を行う。投与後15日目に動物を解剖して肉眼的病理学検査を行い、必要に応じて組織病理学検査を行う。結果から分かるように、各群の動物の臨床症状及び注射部位の観察、体重、摂餌量、体温、血圧、心電図、尿検査、血清生化学及び病理学的検査には、いずれも被験物に関連する明らかな変化が認めらない。検疫期間の13日目に、投与後1日目から投与後15日目に各群の動物のプロトロンビン時間(PT)、活性部分トロンボプラスチン時間(APTT)及びトロンビン時間(TT)に明らかな変化が認められない。本試験条件で、カニクイザルの動物耐量(MTD)は、4500 μg/kg以上である。
【0118】
以上の実験結果により、SDラット及びカニクイザルの両方において、A5タンパク質の耐量は、いずれも4500 μg/kg以上であり、SDラットにおいて、A5タンパク質の耐量は、更には9000 μg/kg以上であることを示した。結果により、A5タンパク質が脳卒中の保護作用を発揮する等価用量で、ラット及びカニクイザルの明らかな毒性が認められない。これにより、A5タンパク質が脳卒中の治療に使用される場合、安全性が良好であり、且つ高い用量で投与される場合でも、薬物使用のリスクを全く又はほとんどもたらさないことを示唆する。
【0119】
本明細書の説明において、「実施形態」、「実施例」、「例」などの用語の説明を参照することは、当該実施形態、実施例又は例に記載の具体的な特徴、構造、材料又は特性と組み合わせて本発明の少なくと1つの実施形態、実施例又は例に含まれることを意味する。本明細書において、上記用語の例示的な説明は、必ずしも同じ実施形態、実施例又は例を指すとは限らない。また、記載された具体的な特徴、構造、材料又は特性は、任意の1つ又は複数の実施形態、実施例又は例において適切な方法で組み合わせることができる。なお、当業者は、互いに矛盾しない限り、本明細書に記載されている異なる実施形態、実施例又は例及び異なる実施形態、実施例又は例の特徴を組み合わせることができる。
【0120】
以上、本発明の実施例を示して説明したが、上記実施例は、例示的なものであり、本発明の請求範囲を制限するものではないと理解すべきである。当業者は、本発明の範囲内で上記実施例に対して変更、修正、置換及び変形を行うことができ、これらの変更、修正、置換及び変形は、いずれも本発明の請求範囲に含まれるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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