(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】セメント混和材、膨張材、及びセメント組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 22/14 20060101AFI20240625BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240625BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20240625BHJP
C04B 103/60 20060101ALN20240625BHJP
【FI】
C04B22/14 D
C04B28/02
C04B22/06 Z
C04B22/14 B
C04B22/14 Z
C04B103:60
(21)【出願番号】P 2022517097
(86)(22)【出願日】2021-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2021016338
(87)【国際公開番号】W WO2021215509
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2020076574
(32)【優先日】2020-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】島崎 大樹
(72)【発明者】
【氏名】森 泰一郎
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特許第6641057(JP,B1)
【文献】特許第6568291(JP,B1)
【文献】特表2014-525890(JP,A)
【文献】特開2015-187068(JP,A)
【文献】特開昭53-099228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
C04B 103/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フリーライム、無水セッコウ、イーリマイト、及びテルネサイトを含み、前記テルネサイトに対する前記イーリマイトの質量比(イーリマイト/テルネサイト)が、0.5~40であ
り、
セメント混和材100質量部に対して、前記フリーライムを20~80質量部、前記無水セッコウを3~50質量部、前記イーリマイトを5~30質量部、前記テルネサイトを1~20質量部含有するセメント混和材。
【請求項2】
前記フリーライムを20~
70質量%含む請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項3】
前記テルネサイトに対する前記フリーライム及び前記無水セッコウの合計の質量比((フリーライム+無水セッコウ)/テルネサイト)が、20~90である請求項1又は2に記載のセメント混和材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のセメント混和材からなる膨張材。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のセメント混和材を含有してなるセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、土木・建築分野において使用されるセメント混和材、膨張材、及びセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント・コンクリートのひび割れ低減は、コンクリート構造物の信頼性、耐久性、美観等の観点から重要であり、これらを改善する効果のあるセメント混和材、すなわち、セメント系膨張材のさらなる技術の進展が望まれている。
【0003】
これまで、少ない添加量で優れた膨張特性を有するコンクリート膨張材(特許文献1)や、遊離石灰の表面を炭酸カルシウムで被覆したセメント用膨張材(特許文献2)等が提案されている。又近年、膨張材と収縮低減剤の併用が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許4244261号公報
【文献】特開昭54-93020号公報
【文献】特開2003-12352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の膨張材は、高温(30℃以上)時において良好な流動保持性が得られにくかったり、又は、優れた初期強度発現性が得られにくかったりすることがあった。
【0006】
以上から、本発明は、高温時においても良好な流動保持性を有し、かつ、優れた初期強度発現性をも発揮し得る、膨張材として好適なセメント混和材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み鋭意検討した結果、本発明者らは、特定組成のセメント混和材で、テルネサイトに対するイーリマイトの質量比(イーリマイト/テルネサイト)を所定の範囲とすることで当該課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は下記のとおりである。
【0008】
[1] フリーライム、無水セッコウ、イーリマイト、及びテルネサイトを含み、前記テルネサイトに対するイーリマイトの質量比(イーリマイト/テルネサイト)が、0.5~40であるセメント混和材。
[2] 前記フリーライムを20~80質量%含む[1]に記載のセメント混和材。
[3] 前記テルネサイトに対する前記フリーライム及び前記無水セッコウの合計の質量比((フリーライム+無水セッコウ)/テルネサイト)が、20~90である[1]又は[2]に記載のセメント混和材。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載のセメント混和材からなる膨張材。
[5] [1]~[3]のいずれかに記載のセメント混和材を含有してなるセメント組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温時においても良好な流動保持性を有し、かつ、優れた初期強度発現性をも発揮し得る、膨張材として好適なセメント混和材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るセメント混和材、膨張材及びセメント組成物について説明する。なお、本明細書で使用する部及び%は、特に規定しない限り質量基準である。
【0011】
[1.セメント混和材及び膨張材]
本実施形態に係るセメント混和材は、フリーライム、無水セッコウ、イーリマイト、及びテルネサイトを含む。以下、詳細に説明する。
【0012】
(イーリマイト)
本実施形態に係るイーリマイトとは、3CaO・3Al2O3・CaSO4で表され、アウイン(Ca2Na6Al6SiO6O24(SO4)2)に類似する構造を持つ鉱物である。セッコウ等の存在下で水和してエトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O)を形成し初期強度の向上に寄与する。
【0013】
イーリマイトの粒度は、反応性の観点から、ブレーン比表面積で4,500~12,000cm2/gであることが好ましく、5,000~10,000cm2/gであることがより好ましい。
【0014】
イーリマイトの含有量は、セメント混和材100部に対して、5~30部が好ましく、8~25部がより好ましい。5~30部であることで、初期強度を良好にすることができる。
【0015】
(テルネサイト)
テルネサイトは、5CaO・2SiO2・SO3で表される鉱物であり、イーリマイトの水硬反応を促進する。また、テルネサイト自体はほとんど反応しないためフィラーのような役割を果たして、流動性保持性を良好にすると推定される。そのため、高温時でもスランプロスを少なくすることができる。
【0016】
テルネサイトの含有量は、セメント混和材100部に対して、1~20部が好ましく、3~18部がより好ましく、5~15部がさらに好ましい。1~20部であることで、イーリマイトの硬化促進と流動性保持性をともに良好にすることができる。
【0017】
ここで、テルネサイトに対するイーリマイトの質量比(イーリマイト/テルネサイト)は0.5~40とし、4~40とすることが好ましく、6~30とすることがより好ましく、8~25とすることがさらに好ましい。当該質量比が0.5未満であると、膨張材に適用とした際に良好な膨張特性、特に大きな長さ変化率が得られなくなることがある。また、当該質量比が40を超えるとテルネサイトによるイーリマイトの硬化促進効果が得られにくくなる。
【0018】
(フリーライム)
フリーライム(f-CaO)とは、遊離石灰ともよばれ、本実施形態に係るセメント混和材中に含有されることで、膨張特性が付与される結果、乾燥収縮が抑制される。
フリーライムの含有量は、セメント混和材100部に対して、20~80部が好ましく、25~60部がより好ましい。20~80部含有することで、長期強度発現性の低下を生じさせずに乾燥収縮の抑制効果を発現させることができる。
セメント混和材を作製する際の焼成において、その焼成温度を高くしたり、あるいはCaO原料以外の投入原料の配合量と粒度を適度に調整するなどによって、セメント混和材中のフリーライムの結晶粒子径を大きくしたり、あるいは含有量を高めることができる。
【0019】
(無水セッコウ)
本実施形態に係る無水セッコウとは、特に限定されるものではないが、II型の無水セッコウを使用することが好ましく、中でも、pHが4.5以下の酸性無水セッコウを利用することが好ましい。
ここで、無水セッコウのpHとは、純水100mLに無水セッコウ1gを入れて撹拌した際の上澄み液のpHを意味する。
【0020】
セッコウの粒度は、初期強度発現性の観点から、ブレーン比表面積で2,000cm2/g以上が好ましく、3,000~6,000cm2/gがより好ましい。なお、本明細書におけるブレーン比表面積値は、JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に準拠して求めることができる。
【0021】
セッコウの含有量は、セメント混和材100部に対して、3~50部が好ましく、10~40部がより好ましい。
なお、セメント混和材中のセッコウの含有量が少ない場合には、別にセメント混和材100部に対して3~50部の範囲となる量のセッコウを添加することができる。
【0022】
また、テルネサイトに対するフリーライム及びセッコウの合計の質量比((フリーライム+セッコウ)/テルネサイト)は、20~90であることが好ましく、30~70とであることがより好ましい。当該質量比が20~90であることで、フリーライム及びセッコウによる良好な膨張特性が得られやすくなる。
【0023】
本実施形態に係るセメント混和材のブレーン比表面積は、2,000~6,000cm2/gであることが好ましく、2,500~5,000であることがより好ましい。ブレーン比表面積が、2,000~6,000cm2/gであることで、膨張材に適用とした際に長期に渡る膨張でコンクリート組織が壊れるのを防ぐことができ、また、膨張性能を良好に維持できる。
【0024】
本発明のセメント混和材は、CaO原料、Al2O3原料、SiO2原料、及びCaSO4原料等を適宜混合して焼成して得られる。
【0025】
CaO原料としては石灰石や消石灰が挙げられ、Al2O3原料としてはボーキサイトやアルミ残灰等が挙げられ、SiO2原料としては珪石等が、CaSO4原料としては二水石膏、半水石膏及び無水石膏が挙げられる。
【0026】
これら原料には不純物を含む場合があるが、本発明の効果を阻害しない範囲内では特に問題とはならない。不純物としては、MgO、TiO2、MnO、P2O5、Na2O、K2O、Li2O、硫黄、フッ素、塩素等が挙げられる。
【0027】
セメント混和材は、上記原料を所望の鉱物組成となるように配合し、焼成を行って製造することができる。焼成の前若しくは後で適宜粉砕等を行ってもよい。
焼成方法は特に限定されるものではないが、電気炉やキルン等を用いて1,100~1,600℃の温度で焼成することが好ましく、1,200~1,500℃がより好ましい。1,100℃未満では膨張性能が充分でなく、1,600℃を超えるとセッコウ(特に無水セッコウ)が分解する場合がある。
また、粉砕をする場合は、ブレーン比表面積が、2,000~6,000cm2/gとなるように公知の方法で行うことが好ましい。
【0028】
以上のようにして作製されたセメント混和材における鉱物の含有量は、従来一般の分析方法で確認することができる。例えば、粉末X線回折装置により粉砕した試料の生成鉱物を確認するとともにデータをリートベルト法にて解析し、鉱物を定量することができる。また、化学成分と粉末X線回折の同定結果に基づいて、鉱物量を計算によって求めることもできる。本実施形態では、化学成分と粉末X線回折の同定結果に基づいて、鉱物量を計算によって求めることが好ましい。
なお、化学成分の含有量は、蛍光X線により求めることができる。
【0029】
本実施形態に係るセメント混和材は、同一粒子中にフリーライム、セッコウ、イーリマイト、及びテルネサイトが存在する粒子を含有していることが好ましい。
フリーライム、セッコウ、イーリマイト、及びテルネサイトが同一粒子中に存在しているかどうかは電子顕微鏡などによって確認することができる。具体的には、セメント混和材を樹脂で包埋し、アルゴンイオンビームで表面処理を行い、粒子断面の組織を観察するとともに、元素分析を行うことでフリーライム、セッコウ、イーリマイト、及びテルネサイトが同一粒子内に存在しているかを確認することができる。
【0030】
以上のような本実施形態に係るセメント混和材は、例えば、膨張材として使用することが好ましい。すなわち、本実施形態に係る膨張材は、既述のセメント混和材からなる。これにより、高温時においても良好な流動保持性を有しているため作業性が良好となり、また、優れた初期強度発現性をも発揮し得る。
【0031】
[2.セメント組成物]
本実施形態に係るセメント組成物は、既述のセメント混和材を含有してなる。ここで、セメント組成物で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱などの各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、石灰石粉末や高炉徐冷スラグ微粉末などを混合したフィラーセメント、並びに、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)などのポルトランドセメントが挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上が使用可能である。なお、セメント混和材は本実施形態に係る膨張材であってもよい。
【0032】
本実施形態では、セメント、セメント混和材、及び砂等の細骨材や砂利等の粗骨材の他に、早強剤、急硬材、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、凝結低減剤、水和熱抑制剤、高分子エマルジョン、ベントナイトなどの粘土鉱物、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体、高炉水砕スラグ微粉末や高炉徐冷スラグ微粉末などのスラグ、石灰石微粉末、シリカ質微粉末、石膏、ケイ酸カルシウム、火山灰等の混和材料からなる群のうち一種又は二種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することが可能である。また、有機系材料として、ビニロン繊維、アクリル繊維、炭素繊維等の繊維状物質との併用も可能である。
【0033】
セメント混和材(又は膨張材)の使用量(配合量)は、コンクリートの配合によって変化するため特に限定されるものではないが、通常、セメントとセメント混和材(又は膨張材)を含むセメント組成物100部中、3~12部が好ましく、4~7部がより好ましい。3部以上であることで充分な膨張性能が得られる。また、12部以下であることで過膨張となることがなく、コンクリートに膨張クラックが生じるのを防ぐことができる。
【実施例】
【0034】
「実験例1」
CaO原料、Al2O3原料、SiO2原料、CaSO4原料を表1に示す鉱物割合となるように配合し、混合粉砕した後1,200℃で焼成してクリンカを合成し、ボールミルを用いてブレーン比表面積で3,000cm2/gに粉砕して、セメント混和材を作製した。
なお、鉱物組成は蛍光X線から求めた化学組成と粉末X線回折の同定結果に基づいて計算により求めた。
【0035】
このセメント混和材を使用して、セメントとセメント混和材からなるセメント組成物100部中、セメント混和材を10部使用し、水/セメント組成物比=50%、セメント組成物/砂比=1/3(質量比)のモルタルを20℃の室内で調製して、長さ変化率、高温時の流動保持性、及び圧縮強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0036】
(使用材料)
CaO原料:石灰石
Al2O3原料:ボーキサイト
SiO2原料:珪石
CaSO4原料:無水石膏
砂:JIS標準砂
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
【0037】
(試験方法)
・圧縮強度:JIS R 5201に準じて4×4×16cmの試験体を作製し、材齢7日(7d)及び28日(28d)の圧縮強度を測定した。
・長さ変化率:JIS A 6202に準拠して、材齢7日(7d)、材齢28日(28d)のそれぞれについて測定した。
・高温時の流動保持性:JIS R 5201-2015「セメントの物理試験方法」に準じてモルタルを混練し、練り上り直後の15打点フロー値を測定した。その後60分間静置した後の15打点フロー値を測定し、練り上がり直後に対する60分静置後の値の割合を評価して30℃における流動保持性を測定した。
【0038】
【0039】
「実験例2」
CaO原料、Al2O3原料、SiO2原料、CaSO4原料を表2に示す鉱物割合となるように配合し、混合粉砕した後1,200℃で焼成してクリンカを合成し、ボールミルを用いてブレーン比表面積で3,000cm2/gに粉砕して、セメント混和材を作製した。
なお、鉱物組成は蛍光X線から求めた化学組成と粉末X線回折の同定結果に基づいて計算により求めた。
【0040】
このセメント混和材を使用して、セメントとセメント混和材からなるセメント組成物100部中、セメント混和材を7部使用し、水/セメント組成物比=50%、セメント組成物/砂比=1/3(質量比)のモルタルを20℃の室内で調製して、実験例1と同様に、長さ変化率、高温時の流動保持性、及び圧縮強度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0041】
【0042】
「実験例3」
CaO原料、Al2O3原料、SiO2原料、CaSO4原料を表3に示す鉱物割合となるように配合し、混合粉砕した後1,200℃で焼成してクリンカを合成し、ボールミルを用いてブレーン比表面積で3,000cm2/gに粉砕して、セメント混和材を作製した。
なお、鉱物組成は蛍光X線から求めた化学組成と粉末X線回折の同定結果に基づいて計算により求めた。
【0043】
このセメント混和材を使用して、セメントとセメント混和材からなるセメント組成物100部中、セメント混和材を7部使用し、水/セメント組成物比=50%、セメント組成物/砂比=1/3(質量比)のモルタルを20℃の室内で調製して、実験例1と同様に、長さ変化率、高温時の流動保持性、及び圧縮強度の測定を行った。結果を表3に示す。
【0044】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のセメント混和材は、コンクリートを用いる、土木・建築分野で幅広く使用することができる。