(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】テレスコピックカバー
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/08 20060101AFI20240625BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
B23Q11/08 B
B23Q11/08 A
B23Q11/00 N
(21)【出願番号】P 2022531794
(86)(22)【出願日】2021-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2021022474
(87)【国際公開番号】W WO2021256415
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2020103609
(32)【優先日】2020-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 龍太郎
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-346906(JP,A)
【文献】特開平01-140941(JP,A)
【文献】実開平04-002548(JP,U)
【文献】実開昭62-172540(JP,U)
【文献】実開昭57-140942(JP,U)
【文献】実開昭62-025139(JP,U)
【文献】特開2014-065083(JP,A)
【文献】特開2017-080860(JP,A)
【文献】実開平02-082451(JP,U)
【文献】特開2009-095891(JP,A)
【文献】特開2006-123053(JP,A)
【文献】特開2006-068823(JP,A)
【文献】特開2008-149384(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0172570(US,A1)
【文献】独国実用新案第29507798(DE,U1)
【文献】独国実用新案第09308352(DE,U1)
【文献】独国特許出願公開第19837926(DE,A1)
【文献】中国実用新案第209831342(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動部を水平方向に駆動する直動機構を覆うテレスコピックカバーであって、
入れ子状に配置され、前記可動部の駆動方向に相対移動可能に支持される複数のカバー片を備え、
内外に隣接する2つの前記カバー片のうち、外側の前記カバー片が、内側の前記カバー片の外面を拭い取るワイパーを備え、
内側の前記カバー片が、外側の前記カバー片と常時重なる領域の端縁に、前記外面から外側の前記カバー片の内面に向かって立ち上がる堰部を備えるとともに、該堰部または前記領域の少なくとも一部を切り欠いて、内側の前記カバー片の内外を接続
し、前記ワイパーにより拭い取られた前記外面の付着物を通過させる切り欠き部を備え、
該切り欠き部が、前記駆動方向に直交する水平方向に前記直動機構とは異なる位置に配置されているテレスコピックカバー。
【請求項2】
前記切り欠き部が、前記堰部の一部を切り欠いて形成されている請求項1に記載のテレスコピックカバー。
【請求項3】
各前記カバー片が、薄板材により構成され、
前記切り欠き部が、前記領域内の前記カバー片を板厚方向に貫通する貫通孔により構成されている請求項1または請求項2に記載のテレスコピックカバー。
【請求項4】
内側の前記カバー片が、前記切り欠き部を通過した液体を、前記切り欠き部の前記水平方向の中央に向かって導く案内部を備える請求項1から請求項3のいずれかに記載のテレスコピックカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、テレスコピックカバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械の摺動面上への切粉類の落下の防止には、複数枚のカバーが入れ子状に重ねられたテレスコピック構造の摺動面カバーが用いられる(例えば、特許文献1参照。)。
この摺動面カバーでは、重ねられたカバー同士の重複部に侵入した切粉類を回収し、摺動面外へ排出する回収樋が、各カバー端面に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の摺動面カバーにおいては、最外側のカバー以外の全てのカバーに切粉類を回収する回収樋を設ける必要があるため、摺動面カバーの構造は複雑化し、製造コストの上昇の一因となっている。
したがって、各カバーの重複部に侵入した切粉や切削液等から、直動機構をより確実に保護することができ、より簡易な構造のテレスコピックカバーが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、可動部を水平方向に駆動する直動機構を覆うテレスコピックカバーであって、入れ子状に配置され、前記可動部の駆動方向に相対移動可能に支持される複数のカバー片を備え、内外に隣接する2つの前記カバー片のうち、外側の前記カバー片が、内側の前記カバー片の外面を拭い取るワイパーを備え、内側の前記カバー片が、外側の前記カバー片と常時重なる領域の端縁に、前記外面から外側の前記カバー片の内面に向かって立ち上がる堰部を備えるとともに、該堰部または前記領域の少なくとも一部を切り欠いて、内側の前記カバー片の内外を接続し、前記ワイパーにより拭い取られた前記外面の付着物を通過させる切り欠き部を備え、該切り欠き部が、前記駆動方向に直交する水平方向に前記直動機構とは異なる位置に配置されているテレスコピックカバーである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本開示の一実施形態に係るテレスコピックカバーの全体構成図である。
【
図2】
図1のテレスコピックカバーの上面図である。
【
図3】
図1のテレスコピックカバーが短縮した状態における断面図である。
【
図4】
図1のテレスコピックカバーの第2カバー片または第3カバー片の斜視図である。
【
図5】
図1のテレスコピックカバーが伸長した状態における断面図である。
【
図6】
図1のテレスコピックカバーの第2カバー片または第3カバー片の第1の変形例の斜視図である。
【
図7】
図1のテレスコピックカバーの第2カバー片または第3カバー片の第2の変形例の斜視図である。
【
図8】
図1のテレスコピックカバーの第2カバー片または第3カバー片の第3の変形例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の一実施形態に係るテレスコピックカバー1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るテレスコピックカバー1は、例えば、工作機械のステージに設置される。
ステージは、
図1に示されるようにワークを搭載するテーブル(可動部)100と、テーブル100を水平な軸線L方向に移動可能に支持するガイドレール(直動機構)110とを備えている。また、ステージは、図示しないモータの作動によって軸線L回りに回転させられ、テーブル100を軸線L方向に駆動するボールネジ(直動機構)111を備えている。
【0008】
ガイドレール110は、床面に設置されたベース(不図示)に固定され、軸線Lに平行に、一定の間隔をあけて2本設置されている。ボールネジ111は、2本のガイドレール110の間隔方向の略中央に、各ガイドレール110に対して間隔をあけて平行に配置されている。
【0009】
また、テーブル100の下部には、ボールネジ111に噛み合うナット(不図示)がブラケット(不図示)により固定されている。ナットは、ボールネジ111の回転をガイドレール110に沿う方向の直線動作に変換する。
1本のボールネジ111と、2本のガイドレール110との間には、テーブル100の移動の際にナットおよびブラケットが通過するために、何も配置されていない2つの空間が、ガイドレール110のほぼ全長にわたって区画形成されている。
【0010】
テレスコピックカバー1は、
図1に示されるように、テーブル100を挟んで軸線L方向の両側にそれぞれ配置される。
各テレスコピックカバー1は、第1カバー片(カバー片)10と、第2カバー片(カバー片)20と、第3カバー片(カバー片)30とを備えている。
【0011】
第1カバー片10、第2カバー片20および第3カバー片30は、
図1および
図4に示されるように、それぞれ金属製平板を軸線L回りに湾曲させることにより、大きさの若干異なるU字状の横断面形状を有し、順次入れ子状に配置されている。そして、内外に隣接するカバー片10,20,30同士は、図示しないリンク機構等によって、互いの一部を常に重複させつつ、軸線L方向に相対移動可能に支持されている。
【0012】
第1カバー片10は、軸線L方向の一端縁を折り曲げて形成された取付部13を備えている。
取付部13には、第1カバー片10をテーブル100に固定するためのボルトを挿入する複数の貫通孔が設けられている。
【0013】
また、第1カバー片10および第2カバー片20は、
図2および
図3に示されるように、テーブル100とは反対側の端縁(他端縁)に全長にわたって固定されたワイパー11,21をそれぞれ備えている。
第1カバー片10のワイパー11は、第1カバー片10の内側に配置される第2カバー片20の外周面(外面)22に密着させられ、第2カバー片20のワイパー21は、第2カバー片20の内側に配置される第3カバー片30の外周面(外面)32に密着させられる。これらのワイパー11,21は、テレスコピックカバー1が伸縮させられる際に、外周面22,32に対してそれぞれ相対移動させられることにより外周面22,32の付着物を拭い取る。
【0014】
第2カバー片20および第3カバー片30は、
図3および
図4に示されるように、テーブル100側の端縁に堰部25と切り欠き部26とをそれぞれ備えている。
堰部25は、
図4に示されるように、第2カバー片20および第3カバー片30の水平部分の端縁を全長にわたって折り曲げることにより、外周面22,32から鉛直方向上方に立ち上がる鍔状に形成されている。
切り欠き部26は、第2カバー片20および第3カバー片30の水平部分のうち、堰部25に隣接する位置を板厚方向に貫通してそれぞれ設けられた複数の貫通孔である。切り欠き部26は、軸線Lに直交する水平方向にガイドレール110およびボールネジ111とは異なる位置、すなわち、ガイドレール110とボールネジ111との間の2つの空間の鉛直上方にそれぞれ設けられている。
【0015】
第3カバー片30のテーブル100とは反対側の端縁には、工作機械のベースに、第3カバー片30を固定するための固定部(不図示)が設けられている。
【0016】
このように構成された本実施形態に係るテレスコピックカバー1の作用について、以下に説明する。
テレスコピックカバー1は、工作機械に設けられたテーブル100を挟んで軸線L方向の両側において、2本のガイドレール110および1本のボールネジ111の上方および側方を覆う位置に配置される。
そして、各第1カバー片10の取付部13をテーブル100に固定し、各第3カバー片30の固定部をベースに固定することによりステージに装着される。
【0017】
モータの作動によってボールネジ111が軸線L回りに一方向に回転させられると、ボールネジ111と噛み合うナットが軸線Lに沿う一方向に移動させられる結果、テーブル100がガイドレール110にガイドされて軸線Lに沿う一方向へと移動させられる。ボールネジ111の回転方向が反転すると、テーブル100の移動方向も反転させられる。
【0018】
テーブル100が軸線L方向に移動させられると、その移動に連動して、第1カバー片10、第2カバー片20および第3カバー片30は、軸線Lに沿って相対移動させられる。
その結果、一側のテレスコピックカバー1は、隣接する各カバー片10,20,30同士の軸線L方向の重なりが減少することにより、全長が伸びる。また、他側のテレスコピックカバー1は、隣接する各カバー片10,20,30同士の軸線L方向の重なりが増大することにより、全長が縮められる。
【0019】
これにより、ベースに対してテーブル100の位置が変化しても、テーブル100の軸線L方向の両側に配置された一対のテレスコピックカバー1によって、ガイドレール110およびボールネジ111を外部に露出させることなく、被覆し続けることができる。
【0020】
第1カバー片10と第2カバー片20とが相対移動すると、ワイパー11が、第2カバー片20の外周面22上に付着している切削液等の大部分を拭い取る。また、第2カバー片20と第3カバー片30とが相対移動すると、ワイパー21が、第3カバー片30の外周面32上に付着した切削液等の大部分を拭い取る。
【0021】
ワイパー11,21によって拭い切れなかった切削液等の一部は、ワイパー11,21をくぐり抜けて、第1カバー片10あるいは第2カバー片20の内側へ進入することがある。
【0022】
そして、第1カバー片10あるいは第2カバー片20の内側に進入した切削液等は、
図5に示されるように、テレスコピックカバー1が伸長させられるときに、ワイパー11,21によってテーブル100側へと掻き集められる。
掻き集められた切削液等は、第2カバー片20あるいは第3カバー片30の端縁の堰部25によって堰き止められることにより、そのまま下方に掃き出されることが阻止される。また、掻き集められた切削液等の一部は、第2カバー片20あるいは第3カバー片30に設けられている切り欠き部26を経由して下方に排出される。
【0023】
切り欠き部26はガイドレール110とボールネジ111との間の空間の鉛直上方に配置されているので、切り欠き部26から下方に排出された切削液等は、ガイドレール110およびボールネジ111に降りかからない位置に排出される。
【0024】
すなわち、ワイパー11,21をくぐり抜けてカバー片10,20の内側に切削液等が進入しても、下方のガイドレール110またはボールネジ111に降りかからない位置でカバー片20,30の外周面22,32から掃き出すことができる。これにより、ガイドレール110およびボールネジ111を保護することができる。また、掻き集められた切削液等を切り欠き部26から下方に排出するので、堰部25を超えて溢れることも防止することができる。
【0025】
したがって、従来のように、堰部25を超えて溢れ出た切削液等を回収するための樋を設ける必要がない。その結果、第2カバー片20および第3カバー片30をより簡易な構造とすることができる。また、切削液等を回収することなく、ガイドレール110およびボールネジ111の下方に排出するので、切削液等に含まれる切粉等の堆積を防止することができる。
【0026】
なお、本実施形態においては、第2カバー片20および第3カバー片30の水平部分の端縁の全長に堰部25を設けた。これに代えて、
図6に示されるように、第2カバー片20および第3カバー片30の水平部分および堰部25の一部を切り欠いて、切り欠き部26を形成してもよい。また、堰部25のみに切り欠き部26を設けてもよい。
【0027】
また、本実施形態においては、堰部25は、第2カバー片20および第3カバー片30の端縁を直角に折り曲げて形成した。これに代えて、帯板状の金属製平板を、第2カバー片20および第3カバー片30の水平部分の端縁に突き合せて溶接することにより、堰部25を形成してもよい。
【0028】
例えば、
図7に示されるように、第2カバー片20および第3カバー片30のテーブル100側の端縁に、端縁に沿う方向に間隔をあけて金属製平板を溶接することにより堰部25および切り欠き部26を形成してもよい。
また、本実施形態においては、第2カバー片20および第3カバー片30は、それぞれ切り欠き部26を通過した切削液等の液体を、各切り欠き部26の水平方向の中央に向かって導く案内部27を備えてもよい。
【0029】
案内部27は、例えば、
図8に示されるように、第2カバー片20および第3カバー片30の端縁に溶接される金属製平板の下部に、切り欠き部26の水平方向の略中央の頂点に向かって下降する傾斜部28を設けることにより構成すればよい。
【0030】
切り欠き部26を通過した切削液等が堰部25を構成する金属製平板を伝って流れ落ちる際に、案内部27の傾斜部28に沿って流れることにより、切り欠き部26の水平方向の中央の頂点に向かって導かれる。これにより、切削液等をガイドレール110とボールネジ111との間の空間のガイドレール110およびボールネジ111から離れた位置に、より確実に排出することができる。
【0031】
また、本実施形態においては、3つのカバー片10,20,30を有するテレスコピックカバー1を例示したが、これに限定されるものではなく、2つまたは4つ以上のカバー片を備えてもよい。
また、切り欠き部26として矩形状の貫通孔を例示したが、これに限定されるものではなく、1以上の円形等の任意の形状の貫通孔を採用してもよい。
【0032】
また、案内部27としては、
図8の構成に限定されるものではなく、切削液等をガイドレール110とボールネジ111との間の空間の水平方向の中央に導く、他の任意の形態の案内部を採用してもよい。
【0033】
また、本実施形態においては、直動機構として、2本のガイドレール110と1本のボールネジ111とを有する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、ガイドレール110およびボールネジ111の配置が異なる場合には、それに合わせて切り欠き部26の位置を変更すればよい。また、ボールネジ111に代えて、シリンダ等の他のアクチュエータを採用してもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 テレスコピックカバー
10 第1カバー片(カバー片)
11 ワイパー
20 第2カバー片(カバー片)
21 ワイパー
22 外周面(外面)
25 堰部
26 切り欠き部
27 案内部
30 第3カバー片(カバー片)
32 外周面(外面)
100 テーブル(可動部)
110 ガイドレール(直動機構)
111 ボールネジ(直動機構)