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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】キャンドモータポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 13/06 20060101AFI20240625BHJP
   F04D 5/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
F04D13/06 F
F04D13/06 C
F04D5/00 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022550586
(86)(22)【出願日】2021-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2021033947
(87)【国際公開番号】W WO2022059709
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2020155547
(32)【優先日】2020-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000176383
【氏名又は名称】三相電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】曹 銀春
(72)【発明者】
【氏名】長野 浩忠
(72)【発明者】
【氏名】今川 優
(72)【発明者】
【氏名】則定 健太
(72)【発明者】
【氏名】福島 正和
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-154282(JP,A)
【文献】特開2001-231213(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0056616(US,A1)
【文献】特開2009-299628(JP,A)
【文献】特開2008-057513(JP,A)
【文献】特開2008-075462(JP,A)
【文献】特開2012-202320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 13/06
F04D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項4】
ポンプ部が渦流ポンプであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のキャンドモータポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シャフトに取り付けられたモータのロータ(回転子)が被駆動部のポンプの羽根車とともに作動させようとする液体に浸っている、キャンドモータポンプに関する。キャンドモータポンプでは、シャフトに取り付けられたロータは、これを収容する液密構造の円筒形のバックケーシング(キャン)によって、モータのステータ(固定子)との間を液密に仕切られているところ、とりわけ、キャンの内圧が高くなる渦流式ポンプにも好適なキャンドモータポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
通常のポンプでは羽根車の収容されたポンプ部とモータとをメカニカルシールでシールしているが、ポンプ部ケーシングの軸シール部分などから液が漏洩しやすいリスクがある。キャンドモータポンプでは、シャフトに取り付けられたロータと、ステータの間を、円筒形のバックケーシング(キャン)によって液密に間仕切り、ロータやシャフト部の周囲を羽根車で作動させようとする流体(取り扱い液)に浸す構造としているので、羽根車のあるポンプ部からモータのロータ部までが一体的となっており、取り扱い液は軸受等の潤滑や冷却もしつつ、ポンプ部とモータ部の間で取り扱い液が漏出することなく液密に保たれるようになっている。
【0003】
キャンドモータポンプのキャンは、水密な状態で圧力が加わる部品であることから、ステンレス鋼などの金属製であることも多いが、製造コストや重量増などに鑑みて、合成樹脂製のケーシングで代替することが試みられてきている。
【0004】
もっとも、合成樹脂をキャンなどのケーシングに用いる場合には、たとえば円筒状のキャンの底部中央などに軸受保持部を設けて成型した後、この軸受保持部に軸受を圧入し、ロータを取り付けたシャフトを回転可能に軸支するなどしている。キャンに用いられる合成樹脂は耐熱性や、強度、剛性の観点から、たとえばガラスファイバーで繊維強化されたPPS(Polyphenylene sulfide)などが用いられている(たとえば特許文献1参照。)
。他方、圧入でインサートされる軸受の材質は、アルミナ系セラミックス、SiC、カーボンなどである。キャンの合成樹脂と圧入される軸受とでは、通常は材質が異なっている。
【0005】
たとえば、PPSの線膨張係数は、2.6×10-5/℃であるところ、アルミナセラミックスの線膨張係数は、7.2×10-6/℃、SiCの線膨張係数は、3.7×10-6/℃、カーボンの線膨張係数は、5.0×10-6/℃である。
【0006】
ポンプの稼働中に軸受摺動部の発熱や使用液の温度が上昇すると、合成樹脂製のバックケーシングと軸受のそれぞれの材料が異なるので、両者の熱膨張率の違いによって、軸受保持枠に圧入によりインサートされていた軸受が軸受保持枠から軸方向に迫り出すことがある。すると、ロータの端部とのクリアランスが失われてシャフトがロックし、ロータの回転に支障が生じ、ポンプが停止するなどのトラブルが生じる懸念がある。また、バックケーシングの合成樹脂の厚さを薄くすると、水圧による部品変形により部品寸法精度の確保が困難となり、また、樹脂割れによる水漏れのリスクもある。
【0007】
そこで、シャフトがロックしてしまった場合の対策として、軸方向の貫通孔からマイナスドライバなどを差し入れて強制的に回転可能としてロックを解除する手段が提案されている。これは、アルミニウム等の金属製のモータケースを用いたキャンドモータポンプのキャンの底部に、ねじで取り付けられた筒状支持部材と、その中心を軸方向の貫通する貫通孔を設け、この貫通孔を着脱可能なプラグで蓋したものであり、ロックした際には、プラグを外して軸方向の貫通孔内へとマイナスドライバを差し入れてシャフトを回転させるものである(特許文献2参照。)。もっとも、この提案はあくまでロックしてしまってからの対処にすぎず、ロック自体が抑止されるわけではない。また、ケーシングや筒状支持部材が金属製であるなど、合成樹脂製に比して重く、かつ加工にも難があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-132916号公報
【文献】特開2009-299628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、キャンドモータポンプにおけるモータ部のロータの部分を覆う円筒状のバックケーシング(キャン)を、加工の容易な成型性に優れた合成樹脂製として軽量化しつつも、強度や水密を確保させるものであること、さらに、合成樹脂製のキャンとは異なる材質の軸受が、熱膨張率の違いから、キャンの軸受保持枠から軸方向に移動するように迫り出してしまうこと、迫り出すことでロータと当接してモータの回転がロックして停止してしまうことを回避するために、軸受が迫り出して当接することがないよう、ロックを抑制するキャン構造を備えたキャンドモータポンプを提供することである。
【0010】
とりわけ、高揚程な特性の渦流ポンプについてみると、一般的な遠心ポンプなどに比して、キャンの内部の水圧が高まりやすいものとなっている。すると、水圧によってバックケーシング自体も変形しやすいものとなるので、バックケーシングの水密性確保のためには高い部品精度が求められる。また、圧力によりバックケーシングが割れて水漏れすることを防止することも要請される。
【0011】
さらに発明者らは、ポンプの取り扱い液の液温が上昇していくと、性能が低下する傾向を呈することを見出した。熱膨張等によって寸法精度が悪化したり、軸芯がブレるなどしたためであると考えられる。
【0012】
そこで、本発明のさらなる課題は、バックケーシングの割れによる水漏れを防止し、部品精度を向上させ、安定性を向上させた熱膨張に強いキャンドモータポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するための第1の手段は、シャフトに取り付けられたロータと、ロータの外周に配されるステータとの間を仕切る円筒状の樹脂製バックケーシングを備えたキャンドモータ部と、シャフト前方に取り付けられた羽根車がモータの回転に従動して液体を作動させるポンプ部と、からなるキャンドモータポンプにおいて、
バックケーシングの後端に設けられた底面中央の軸受保持部にはインサート部材である後方軸受がインサート成形により保持されており、
後方軸受の外周に設けられた凹部は軸受保持部の内周の突出部と嵌め合わされており、
バックケーシングの底面外周部には筒状外延部としてシャフトの軸方向と平行に延設された外筒壁があり、
外筒壁の先端に蓋体が嵌合されて封着されており、
モータ部とポンプ部の間に前方軸受を保持する中間ケーシングを備え、
後方軸受と前方軸受はシャフトを回転自在に支持しており、
さらに、バックケーシング、筒状外延部と蓋体およびステータの外周は、樹脂モールドによって一体に被覆形成されていること、
を特徴とするキャンドモータポンプである。
【0014】
この蓋体の内面に筒状外延部の外筒壁に対向する内筒壁を設けて嵌合させることとしてもよい。さらに、外筒壁と内筒壁の間隙にOリングを配することでバックケーシングのシールド性を高めることとしてもよい。
【0015】
また、筒状外延部と蓋体とは、いずれも樹脂製であるから、超音波等で熱溶着することによって簡易に封着でき、バックケーシングのシールド性を高めることができる。
【0016】
後方軸受は、従来の圧入ではなく、あらかじめ軸受をインサートした状態で樹脂成型するインサート成型としている。インサート成型時に、軸受の外周に設けたリブ状あるいはリング状の凹部に、バックケーシングの軸受保持枠の突出部が密着形成されることから、凹部と突出部が噛み合って抜け止めとなるので、熱膨張によって軸受が軸方向に移動することを抑止しやすくなっている。
【0017】
その第2の手段は、筒状外延部の外筒壁には、その外周に、周方向にわたって逃げ溝となる窪みが設けられていること、を特徴とする第1の手段に記載のキャンドモータポンプである。
【0018】
窪みの溝は、外筒壁の外周面上に周方向に設けた溝である。たとえば半径1mm程度の深さの断面半円状の窪みを外周面上にぐるっと形成させてある。すると、この溝が逃げ溝となって、熱による変形の歪みを吸収し、軸受の軸方向への変形量を抑制することとなる。
【0019】
その第3の手段は、中間ケーシングは、金属製の主要部材と樹脂製の補強部材からなり、主要部材と補助部材に遊離部を備えていること、を特徴とする、第1又は第2の手段に記載のキャンドモータポンプである。
【0020】
中間ケーシングの主要部材は、中間ケーシングの前方軸受を保持する部材であり、金属製とすることで寸法変形を抑えつつ、耐食性と強度を確保している。液体に浸かることからステンレス鋼が好適である。金属製の主要部材と、樹脂製補強部材を組み合わせることで軽量化と強度確保とを両立させているが、中間ケーシングの主要部材と樹脂製補強部材とを一体的に密着させるのではなく、両部材の一部を離間させた遊離構造とすると、両部材の熱膨張の違いに伴う応力を逃がすことができるので、変形による作動効率の低下を避けることができる。
【0021】
さらに、主要部材と補助部材の間隙にOリングを配した遊離接触部を備えていること、を特徴とするキャンドモータポンプとしてもよい。
中間ケーシングの主要部材と樹脂製補強部材とを一体的に密着させるのではなく、両部材の一部を離間させたフローティング構造とし、Оリングを介して両部材が接触する構造とすると、両部材の熱膨張の違いに伴う応力を逃がしつつも、両部材の隙間からの圧力損失を抑止してシールド性を確保することができるので、変形による作動効率の低下を避けることができる。
【0022】
その第4の手段は、ポンプ部が渦流ポンプであることを特徴とする、第1から第3のいずれか1の手段に記載のキャンドモータポンプである。
【0023】
本発明のキャンドモータ部の工夫は、ポンプ部の羽根車のタイプに特段の限定なく組み合わせて適用することが可能であるが、とりわけ渦流ポンプに適用すると、回転数が上昇した際に効率を落とさずに所望の性能を発揮しやすくなる。渦流ポンプでは、ポンプ部の羽根車の外周部に放射状の多数のベーンの溝が備わっており、羽根車が回転することで、ポンプ内の内壁に沿って渦を発生させて繰り返し加圧させ、比較的少量の液を高圧で移送することができる。渦流ポンプは、ポンプの回転数を上げることで高揚程とすることができる。すなわち、渦流ポンプは小型である一方で高揚程なポンプであることから、バックケーシング全体に高い圧力を生じるものとなる。高圧となるため一般に変形しやすく、また、熱膨張の影響も受けやすいので、使用中に効率を維持しうることが重要となる。そこで、樹脂製バックケーシングから後方軸受が抜け出しにくいインサート成型による製造に適した構造であって、シールド性が確保されていることは、高い圧力が発生する渦流ポンプに適している。
【0024】
とりわけ、渦流ポンプなどの高揚程なポンプとして用いる場合には、羽根車の周囲は高い圧力となるところ、金属製の主要部材と樹脂製補強部材との間の隙間から圧力が逃げてしまうこととなればポンプの能力を低下させてしまうこととなる。
そこで、さらに、遊離接触部の隙間にОリングを配することで水密に保つと、羽根車の周囲の圧力低下を抑止することとなり、使用中のポンプ効率を維持することとなる。
【発明の効果】
【0025】
従来は、樹脂製バックケーシングは断面がコの字状に閉じており、円筒状の底を備えていたが、小型のものでは成型が難しく寸法精度が悪くなりやすいので、成型後に後方軸受を圧入して組み込むといった一般的な製造方法を用いると、圧入した軸受が、ポンプ稼働中に熱膨張によって前方に押し出されてしまい、抜け出しやすかった。
【0026】
他方、本発明のように、バックケーシングの底を開口した状態とし、底部開口の外周に設けた筒状外延部の外筒壁と、蓋体を超音波溶着することで封止するといった構成にすると、開口状態のバックケーシング内にインサート部材の後方軸受を配置した状態で成型することが容易となるので、成型後に後方軸受を圧入する手法をとらずとも、後方軸受をインサート成型で保持することができる。
【0027】
あらかじめ後方軸受をインサートした状態で樹脂成型するインサート成型とすることによってバックケーシング内に保持することとし、さらに後方軸受の外周に設けたリブ状あるいはリング状の凹部に、キャンの軸受保持枠の突出部が密着形成されることとなるので、凹部と突出部が嵌め合い、強固な抜け止めとなって軸受が軸方向に移動することが抑止されることとなる。すると、後方軸受が軸方向(前方)に抜け出しにくくなるので、ロータと軸受が接触してロックするといったトラブルが抑止されることとなる。また、筒状外延部の外筒壁と蓋体が封着されているので、水密に保たれる。
【0028】
また、合成樹脂製の円筒形のバックケーシング本体と、筒状外延部と、蓋体およびステータの周囲を、一体的に樹脂でモールドすると、全体が一体的にホールドされることで補強されることとなるので、バックケーシングの割れによる水漏れを防止でき、また部品精度が安定するので、熱膨張などの使用による変化に強くなり、ポンプの回転がロックされることも抑止され、より安定性が向上することとなる。
【0029】
さらに、筒状外延部の外筒壁の外周の一部を溝状に窪ませて逃げ溝とすることで、熱等による変形の歪みを解消して逃がすことができる。そこで、軸受の軸方向への変形量をより抑制することができるので、ポンプがよりスムーズに安定して稼働できる。
【0030】
また、中間ケーシングに金属製部材を用いると、寸法変形を抑制しつつ、耐食性も確保できるので、ポンプの取り扱い液の液温が上昇した際にも、寸法変形が少ないので、軸受の軸方向への変形量を抑えることができ、回転がロックするなどの支障が抑制される。すなわち、前方軸受を保持する中間ケーシングの主たる部材の材質をステンレス鋼などの金属製とすることは、強度が強く変形を抑制できるので厳密な寸法を維持するうえで有用であり、変形による効率低下を避けることができ、液体に浸かることから耐食性も確保できる。
【0031】
さらに、金属製の主要部材と、樹脂製補強部材を組み合わせることで、羽根に面する部分を樹脂により所望の形状へと加工しやすいものとなる。そこで、金属のみの場合に比して、羽根回りの空間を最適な形状としやすく、ポンプの効率をより発揮しやすいものとなる。また、羽根車(インペラー)の回転が立ち上がる際には、軸方向にブレやすいため、羽根車が周囲の壁に接触することがあるが、樹脂製補強部材を羽根車近くに位置させることができるので、たとえ羽根車が接触することがあっても樹脂同士であれば金属より羽根車の摩耗が低減できるため、故障が回避しやすくなり、ポンプ能力の低下が抑えられる。
【0032】
また、中間ケーシングの主要部材と樹脂製補強部材とを一体的に密着させるのではなく、両部材の一部を離間させた遊離構造としているので、両部材の熱膨張の違いに伴う応力を逃がすことができるので、変形による作動効率の低下を避けることができる。
【0033】
さらに、水圧が高いので、キャンの内圧が高まると、樹脂製のバックケーシングの全体形状が変化しやすい。そこで、モールドでモータ部全体を一体的に被覆することによって形状が安定的に維持され寸法が狂いにくいものとなるので、水密性が保持しやすいものとなる。とりわけ、小型で高圧な渦流ポンプにおいて、寸法精度の変化が抑制され、狂いが少なくなれば、より安定したスムーズな運転を稼働中確保しつづけることが容易となる。
【0034】
渦流ポンプは高揚程なポンプであることから、キャンの内部の水圧も高くなりやすく漏洩が生じやすく、液温が上昇するときに求められる寸法精度もよりシビアなものとなっている。狂いが生じると、所望していた特性からの低下が他のポンプよりも目立ちやすい。本発明のキャンドモータ部を渦流ポンプの羽根車と組み合わせて適用すると、精度が維持しやすいので、損失が少なく小型で高揚程のポンプが得られる。すなわち、バックケーシングの底部を開口して筒状外延部と蓋体でシールする構造とすることで、より前方に抜け出しにくい軸受の保持方法が可能となり、さらに全体を一体的に樹脂でモールドしたことで、寸法変化が抑制されるので、寸法精度が保持されることとなる。そこで、水密でロックしにくい安定的な渦流ポンプを提供することができる。すると、高効率な高揚程の渦流ポンプの特性が減衰されにくくなるので、想定どおりの高い性能を発揮することができるものとなる。
【0035】
さらに、本発明に加えて、中間ケーシンングの主要部材と補助部材の遊離部の間隙にOリングを配してОリングを介して接触させる構造とすると、両部材の熱膨張の違いに伴う応力を逃がすことができるのでことに加えて、水密に保つことができるので、変形による作動効率の低下を避けることができ、主要部材と樹脂補強部材との隙間からの圧力損失を抑えることができるので、圧力が下がってポンプの能力が低下することを避けることができる。
【0036】
また、本発明に加えて、バックケーシングの底の蓋体の内面に筒状外延部の外筒壁と対向する内筒壁を設けて両壁の間にOリングを配すると、蓋体と筒状外延部の水密性がより高まり、より安定的となる。樹脂製バックケーシングの底に位置する蓋体は、軸受の圧入では精度が確保しづらい小型のポンプにも適用しやすい構造であり、製造上のメリットがある一方で、溶着でシールするとはいえ、一体のバックケーシングに比して水密性の確保は容易ではない。内部に作動液が満たされるのみならず、ポンプ内の高い圧力が加わることとなるので、Оリングを配することは水密にシールドすることに資する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の実施態様の一形態のキャンドモータ部のバックケーシングの断面模式図である。
図2】本発明の実施態様の一形態のキャンドモータ部のバックケーシングの分解図である。
図3】本発明の実施態様の一形態のキャンドモータポンプの部分断面図である。
図4図3の実施図でバックケーシング内を液体が流動する様子を矢印で模式的に示した図である。
図5図3のキャンドモータポンプをポンプ室側からみた側面図である。
図6】本発明の他の実施態様のキャンドモータ部のバックケーシングの断面であり、逃げ溝を備えない態様の例である。
図7図3に示す実施態様の渦流式のキャンドモータポンプの、分速3960回転における性能曲線図である。
図8】中間ケーシングの構造の違いによるモータの消費電力の違いを示した図である。実線は図8のように、中間ケーシングが金属製の主要部材と樹脂製補強部材を組み合わせて隙間をОリングでシールドされた構造のキャンドモータポンプの場合であり、点線は図11のような中間ケーシングが樹脂製ケーシングの一体構造を用いた場合である。60℃の液体を全揚程50m,流量13L/minで搬送した場合である。
図9】本発明の実施態様の金属製主要部材と樹脂製補強部材を用いた中間ケーシングの構成の説明図である。
図10】従来のキャンドモータ部のバックケーシングの断面図である。
図11】従前のキャンドモータポンプの説明図である。
図12】既存形状の樹脂製の中間ケーシングの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の実施の形態について適宜図面を用いつつ説明する。なお、実施の形態の例では、渦流ポンプと組み合わせる場合を例に説明する。本発明のキャンドモータ部の構造は、羽根車のタイプを渦流ポンプのみに限定するものではないことから、遠心ポンプなどの他のポンプ構造とも組み合わせることができるのであって、キャンドモータポンプ全般に適用しうるものである。あくまで実施例で説明に用いる渦流ポンプは本発明の好適に適用しうる一態様である。渦流ポンプは回転数が増すと高揚程になることから、内部が高圧となるなど、キャンドモータ部のシールドや寸法安定性などがシビアに要請されるので、シビアな運用が求められる渦流ポンプを実施の形態の例を代表例として、以下、キャンドモータポンプの説明をする。
【0039】
本発明のキャンドモータポンプ(1)は、シャフト前方のポンプ部(3)とシャフト後方のモータ部(キャンドモータ部(2))からなっている。図3では、図面右が前方でポンプ部(3)、図面左が後方でモータ部(2)である。実施例の渦流ポンプは小型で高効率のポンプであることから、図3のポンプの全長は、約16cmで、ポンプ部が約5cm、キャンドモータ部が約11cmである。ポンプの横幅は約15cm、吐出部を除いたと高さは約11cmである。モータ部(2)はロータ(8)を取り付けたシャフト(7)が、ロータ(8)の周囲にロータ(8)と離間して配されるステータ(9)の発生させる磁力によって回転する駆動部である。
【0040】
本発明では、シャフト(7)に取り付けられたロータ(8)とステータ(9)の間が円筒形の合成樹脂のバックケーシング(キャン)(4)で水密になるように仕切られており、シャフト(7)の後方は、バックケーシング(4)の後方中央に設けられた軸受保持枠(10)に保持される後方軸受(5)によって回転自在に支持されている。図3のバックケーシング(4)は、円筒の外径は約5cmで円筒部の樹脂の厚さはたとえば約1mm、シャフトの長さは約12cmである。
【0041】
なお、以下の実施例におけるキャンなどに用いる合成樹脂は、ガラスファイバーで繊維強化されたPPS(Polyphenylene sulfide)である。また、金属製の部材は、ステンレ
ス鋼(SUS304)などである。軸受は、アルミナ系セラミックス、SiC、カーボンなどでできており、熱膨張率が合成樹脂のPPSとは異なっている。
【0042】
シャフト(7)の前方部には、モータ部(2)の回転で従動する羽根車(12)を取り付けてモータ部(2)によってシャフトを回転させることで、吸込口(23)から取り入れられた液体(22)を作動させて、吐出口(24)へと吐出する。
【0043】
シャフト(7)は後方軸受(5)と、モータ部とポンプ部の間の中間ケーシング(11)に保持された前方軸受(6)とで回転自在に支持されており、ポンプ部(3)からバックケーシング(キャン)(4)の内部までは、羽根車(12)の回転で搬送される液体(22)と同じ液体(22)で満たされている。
【0044】
図4に矢印で模式的に示したように、液体(22)は、羽根車(12)の近傍から中間ケーシング(11)を経てローター周辺へと進入し、前後の軸受とシャフトの間隙を通過するなどして、バックケーシング(4)の内部を満たすこととなる。
【0045】
他方、バックケーシングの外とは水密にシールドされているので、この液体(22)はバックケーシング(4)の円筒状の部分から外部に漏洩することはなく、バックケーシング(4)の内部は水密に保たれている。
【0046】
なお、この実施形態の例では、中間ケーシング(11)は、ステンレス鋼製の主要部材(13)とガラス繊維で強化されたPPS製の補助部材(14)が向かい合って組み合わさり、キャン(4)の前端に固定されて前方軸受(6)を保持するものである。中間ケーシング(11)の樹脂製補助部材(14)を羽根車の後方面に近接配置して組み合わせ、中間ケーシング(11)としてあるので、近接している羽根車(12)が起動するとき、回転数が上がるにつれてシャフトが軸方向にブレて補助部材(14)と接触してしまうことがあるが、補助部材(14)が樹脂製であるから金属製の部材に接触する場合に比して羽根車が摩耗しにくいものとなっている。
【0047】
モータ部(2)のバックケーシング(4)の前端とポンプ部の羽根車(12)との間に設けられた中間ケーシング(11)は、バックケーシング(4)の前端と前方軸受(6)とを保持するステンレス鋼製の主要部材(13)と、樹脂製補強部材(14)とが向かいあって嵌め合わされるようになっており、キャン(4)の前端、主要部材(13)、樹脂製補強部材(14)の順で重ね合わせたバックケーシング(4)の前端とビス止めされ、また、主要部材(13)の中心には前方軸受(5)が嵌まり、ビスで締結保持されている。向かい合って組み合わさる主要部材(13)と補強部材(14)との隙間には、Oリング(32)が配されており、Oリングが隙間を塞ぐようにして接している。主要部材(13)と補強部材(14)との間の隙間は、密着しきらずとも、また、ポンプの作動液が高温であっても、熱膨張率の違う素材を組み合わせてあっても、Oリング(32)を介してシールドされる構造となっている。自由度を持たせたフローティング構造としつつも、Oリング(32)によって水密に維持されるため、羽根車周辺の高い圧力が隙間から逃げることがなく、また、シャフトの周辺の熱膨張による狂い自体はOリングが緩衝することで、逃がすことができるので、高温の流体を作動させるポンプであっても、損失なく適用できる。
【0048】
なお、中間ケーシング(11)をすべて合成樹脂製とすることもできる。もっとも、図8に点線で示すように、図12の態様の中間ケーシングの場合は、主要部材(13)と補助部材(14)を組み合わせた場合に比して、高温運転時に効率が落ちやすい。
他方、主要部材(13)と補助部材(14)を組み合わせる図9の本発明の態様の場合は、2種類のパーツを単に密着させあうのではなく、Oリング(32)でシールドさせるので、互いの隙間を密着させきる必要がなく、熱膨張の差を意識せずとも、羽根車の回転で高まる圧力を隙間から逃がすことがなく、図8の実線で示すように、ポンプの効率が低下しにくいものとなる。
【0049】
中間ケーシング(11)は、前方軸受(6)を保持しているので、熱や圧力の変化によって寸法が狂うと、シャフトの回転にブレやロスが生じやすくなるので、温度や回転数が高まったときにポンプ性能に差となって表れやすい。そこで、中間ケーシング(11)の少なくとも一部の部品をステンレス鋼製とすることで、前方軸受(6)の周囲を安定させるようにすると、本発明を高回転で稼働させる渦流ポンプに適用する場合であっても、所望の能力、高揚程の特性を十分に得ることができる。
【0050】
図1図2に示すバックケーシング(4)は、後端中央の開口部の外周に、筒状外延部(16)の円筒状の外筒壁(17)を例えば5~8mm程度延設し、開口の径にみあった径の合成樹脂製の円形の蓋体(20)を嵌め合わせ、超音波溶着することで封止している。
【0051】
なお、蓋体(20)の内面には、外筒壁(17)よりもやや小径の内筒壁(18)を外筒壁(17)に対向するように設け、内筒壁(18)と外筒壁(17)との間にOリング(19)を配して、シールド性を高めてから、蓋体(20)と外筒壁(17)とを溶着して封止することにしてもよい。図1、2に示す実施の形態では、蓋体(20)に内筒壁(18)とOリング(19)を備えている。なお、蓋体は合成樹脂製であり、溶着しうるが、蓋体の強度を増すために、内筒壁(18)と蓋体(20)の内面(25)との間に、適宜リブを設けるなどして補強することとしてもよい。また、蓋体(20)の外表面にも適宜リブを設けると、変形の抑制になる。すなわち、ポンプの起動時に軸受とポンプシャフト部の摺動部からくる回転トルクによるバックケーシングの変形への対策として、蓋体(20)のリブ周りをモールド樹脂で覆って固定することによって、変形を抑制することができる。
【0052】
後方軸受(5)は、バックケーシング(4)の後方中央の後方軸受保持枠(10)によって、保持されている。
ところで、従来、軸受は合成樹脂製のバックケーシングを成型した後、軸受保持枠の空洞内に圧入される形で実装されてきた。しかし、本発明のように渦流ポンプにも用いる場合には、圧力が高まりやすく、要求される寸法精度がよりシビアとなることから、断面コの字状に後方の底を閉じた形のままで、軸受を圧入するだけでは、抜け出してしまいロックしやすいといった問題があった。
他方、バックケーシングのキャンの底部を大きく確保せずに、単に圧入をインサート成型に置き換えようとすると、図10の従来例に示すように、底部中央にシャフトの後端の収まりのために少し膨らませる程度の底面形状となると考えられるが、シャフトの後端の周囲の径が成型時に狭まりやすいので、バリや余計な樹脂の堆積によって、シャフト後端周りの余裕がなくなり、シャフトが奥深くまで挿し入れにくくなる、といったトラブルが起こりやすくなる。
【0053】
そこで、本発明では、インサート成形であらかじめ後方軸受を保持させるために、蓋体(20)を設けることでバックケーシングの底面中央が開口した状態で、樹脂成形をすることとし、後方軸受(5)をインサート成形であらかじめ組み込むこととする。これにより、インサート成型時の不都合を回避する工夫を講じているのである。
【0054】
また、本発明に用いる軸受は、アルミナ、SiC、カーボンなどであるところ、バックケーシングの合成樹脂とは熱膨張率が大きく異なっている。そこで、合成樹脂が熱で膨張すると、バックケーシングの後方軸受保持枠の空洞の径が拡がってしまい、内部に圧入されていた軸受が抜け出てしまい、軸方向に移動したりする。すると、ロータと軸受が当接して回転がロックするなど、トラブルが生じやすいこととなる。
【0055】
そこで、本発明では、円筒状のバックケーシング(4)の底を開口し、蓋体(20)でシールする構造とすることで、後方軸受(5)を後方軸受保持枠(10)に圧入する以外の製造方法で、抜け出しにくい工夫ができるようにしている。すなわち、バックケーシング(4)の成型段階で、後方軸受保持枠(10)の中心位置に後方軸受(5)をインサートした状態で成型するインサート成型を採用することで、軸受をケーシングと一体化し、軸方向への移動を抑制することとしている。
【0056】
具体的には、後方軸受(5)にリブまたは溝状の凹部(27)を設け、その凹部(27)と嵌め合うように、後方軸受保持枠(10)中央の空洞部に突出部(28)を形成し、互いを嵌合させることによって、抜け出しを抑止することとした。このようにインサート成型による製造上の工夫を講ずることによって、容易に抜け出すことが防止できる嵌め合い形状を得ることができる。
【0057】
バックケーシングやキャンに用いる合成樹脂としては、耐熱性や、強度、剛性の観点から、たとえばガラスファイバーで繊維強化されたPPS(Polyphenylene sulfide)が好
適である。これらの合成樹脂を成型して所望の形状を得る。なお、渦流ポンプの場合は、寸法精度をできるだけ高めることが望ましい。
【0058】
なお、バックケーシング(4)の後端付近、蓋体(20)や外筒壁(17)の周囲には取り扱い液の圧力や、液温上昇による合成樹脂の熱膨張などによる変形や歪みの要因があり、寸法精度が狂いやすく、シャフトの回転にブレ等を招来しやすい。そこで、バックケーシング(4)の後方の歪みを解消するべく、外筒壁(17)の外表面の一部外周に半径1mm程度の窪みからなる逃げ溝(21)を形成し、変形による歪みを吸収することにすると、寸法精度の狂いが抑制されるので好ましい。図3のように逃げ溝(21)を備えたものは、図6の逃げ溝を備えない態様よりも、より安定した特性を示す。
【0059】
また、水密に保ち、寸法精度を維持することが、高圧力条件下や液温が高い条件下でポンプを適切に稼働させて高効率を得るためには重要となる。そこで、バックケーシング(4)を軽量化やコストなどの観点から合成樹脂化する際に、シャフトの振動や回転ブレを抑え、安定的な回転を確保するために、キャンの周囲と、ステータの周囲を樹脂でモールドして一体的に固めるとよい。そこで、本発明の実施の態様では、図3に示すように、モールド樹脂(29)でバックケーシング(4)とステータ(9)の周囲を一体に固めている。
【0060】
モータのステータの周囲やバックケーシング(キャン)を一体に被覆するモールド樹脂は、固定子の鉄芯や巻き線の周囲をモールド樹脂で被覆することで振動を抑制し静音性を図るとともに、熱伝導性の高い樹脂を用いることで巻き線温度の低減を図ることもできる。
【0061】
本発明における、モールド用の樹脂としては、たとえば不飽和ポリエステル樹脂を主成分としたBMCを好適に用いることができる。BMCとは、不飽和ポリエステル樹脂を主成分として低収縮剤としての熱可塑性ポリマー、硬化剤、充填材、離型剤を均一に混合したマトリックスに補強材として繊維(主としてガラス繊維)を使用した熱硬化性成形材料である。図3に示すように、キャンとステータの周囲を厚くモールド樹脂(29)で固めている。ステータの冷却を考慮して、熱伝導性の高い樹脂であればBMCに限らず好適に用いることができるので、一般的なモールドモータに用いる樹脂であればいずれも適用可能である。
【0062】
また、ポンプ部は、シャフト(7)の前方部、前方軸受より前方に羽根車(12)を配する。渦流ポンプの羽根車では、多数のベーンの溝が放射状に備えられている。
【0063】
図3に示すうように、樹脂モールドされたキャンドモータ部やポンプ部の全体をアウターケーシングで囲ってボルト等で緊締し一体化し、外装を備えたキャンドモータポンプ(1)とする。
【0064】
実施例に示した渦流ポンプではポンプ部を小型化することができるので、小型で高効率とすることが容易である。図3に示す本発明の実施の形態に示した渦流ポンプの、分速3960回転における性能曲線図をその特性の一例として図7に示す。
【0065】
図8に、既存形状の樹脂製の中間ケーシングの場合と、本発明の金属製主要部材と樹脂製補助部材からなるOリングを介したフローティング構造の中間ケーシングを用いた場合の、モータ消費電力の違いを示す。点線で示す従来のものでは、20℃の流体では差はなかったものの、60℃の流体を搬送すると、使用中にモータ消費電力にブレが認められた。すなわち、50mの全揚程と流量13L/minを確保するために、従来例では時折余計な電力消費が認められ、高温の液を作動させるときには、損失が生じていることが確認された。他方、本発明の場合には、このような損失は認められず、効率が低下しない高い性能が得られることが確認された。消費電力が増加する時には、軸受摺動部の異常摩耗が発生するなどしていると考えられる。
【0066】
同様に、搬送する液温が70℃、80℃の場合も、従来の構造の場合にはモータ消費電力にブレが認められ、モータの効率に低下がみられたが、本発明では、効率の低下が生じておらず、所望の効率が維持されるものとなった。
【符号の説明】
【0067】
1 キャンドモータポンプ
2 キャンドモータ部
3 ポンプ部
4 バックケーシング(キャン)
5 後方軸受
6 前方軸受
7 シャフト
8 ロータ
9 ステータ
10 後方軸受保持枠
11 中間ケーシング
12 羽根車
13 金属製主要部材
14 樹脂製補助部材
15 開口部
16 筒状外延部
17 外筒壁
18 内筒壁
19 Oリング
20 蓋体
21 逃げ溝
22 液体
23 吸込口
24 吐出口
25 内面
26 リブ
27 凹部
28 突出部
29 モールド樹脂
30 底
31 ビス
32 Oリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12