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特許7509900優れた水及び酸安定性を有するクロムフリー水素化触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】優れた水及び酸安定性を有するクロムフリー水素化触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/72 20060101AFI20240625BHJP
   B01J 35/60 20240101ALI20240625BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20240625BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20240625BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20240625BHJP
   C07C 29/141 20060101ALI20240625BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20240625BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240625BHJP
【FI】
B01J23/72 Z
B01J35/60 G
B01J37/04 102
B01J37/08
B01J37/16
C07C29/141
C07C31/20 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022550960
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2021055910
(87)【国際公開番号】W WO2021180717
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】102020106964.2
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】596081005
【氏名又は名称】クラリアント・インターナシヨナル・リミテツド
(74)【代理人】
【識別番号】100145333
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 弓子
(72)【発明者】
【氏名】ドーフェル クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】プァンツェルト マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ブルグフェルス ゴッツ
(72)【発明者】
【氏名】グロスマン フランク
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-158147(JP,A)
【文献】特表2017-528313(JP,A)
【文献】特表2000-507155(JP,A)
【文献】特開2012-115771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 39/74
C07C 31/20
C07C 29/141
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強熱減量後の触媒成形体の総重量に基づいて、銅を17.5重量%~34.5重量%含有し、当該銅は、少なくとも70%、好ましくは70%~98%の範囲内、より好ましくは70%~95%の範囲内、さらにより好ましくは75%~90%の範囲内、最も好ましくは80%~90%の範囲内で銅スピネルCuAl2O4の形で存在することを特徴とする、有機化合物中のカルボニル基の水素化のためのCu-Al触媒成形体。
【請求項2】
前記銅が、強熱減量後の触媒成形体の総重量に基づいて、25.0~34.5重量%、好ましくは27.5~31重量%の割合で存在する、請求項1に記載の触媒成形体。
【請求項3】
前記触媒成形体はタブレット型である、請求項1または2に記載の触媒成形体。
【請求項4】
サイドクラッシュ強度が、80~300N、好ましくは150~250N、より好ましくは170~230Nである、請求項1~3のいずれかに記載の触媒成形体。
【請求項5】
強熱減量後の触媒成形体の総重量に基づいて、Alを21.2重量%から、好ましくは21.8重量%から、より好ましくは24.9重量%から、より好ましくは29.0重量%から、さらにより好ましくは29.5重量%から、最も好ましくは30.1重量%から、38.3重量%まで、好ましくは36.9重量%まで、より好ましくは36.7重量%まで、より好ましくは36.4重量%まで、特に好ましくは35.1重量%まで、最も好ましくは34.7重量%まで含有する、請求項1~4のいずれかに記載の触媒成形体。
【請求項6】
前記触媒成形体中のCu/Al2原子比率は、1未満、好ましくは0.97未満、より好ましくは0.94未満である、請求項1~5のいずれかに記載の触媒成形体。
【請求項7】
前記Cu/Al2の原子比率が、0.49より大きく1未満、好ましくは0.57より大きく0.97未満、より好ましくは0.58より大きく0.94未満、特に好ましくは0.79より大きく0.94未満である、請求項6に記載の触媒成形体。
【請求項8】
サイドクラッシュ強度が、80~300Nの範囲内、好ましくは150~250Nの範囲内、より好ましくは170~230Nの範囲内である、請求項1~7のいずれかに記載の触媒成形体。
【請求項9】
BET比表面積が、20~150 m2/gの範囲内、好ましくは70~120 m2/gの範囲内である、請求項1~8のいずれかに記載の触媒成形体。
【請求項10】
以下のステップを含む:
a) (i)少なくとも1の、銅化合物、アルミニウム化合物、および任意の遷移金属化合物の水溶液Aと、(ii)少なくとも1のアルカリ水溶液Bとを合わせて、沈殿物を形成する、ここで、溶液Aおよび/または溶液Bは、さらに溶解アルミニウム化合物を含む、
b) 当該沈殿物を分離し、任意で当該沈殿物を洗浄する、
c) 当該沈殿物を乾燥し、乾燥沈殿物を得る、
d) ステップc)の乾燥沈殿物を、200~800℃の温度で30分~4時間、か焼する、
e) ステップd)のか焼沈殿物を成形して成形体を得る、
請求項1~9のいずれかに記載の触媒成形体の製造方法、
ここで、当該触媒成形体は、銅を、強熱減量後の触媒成形体に基づいて、17.5~34.5重量%、好ましくは25.0~34.5重量%、最も好ましくは27.5~31重量%の割合で含む。
【請求項11】
ステップe)で得られた当該成形体を、ステップf)において、200~800℃の温度で30分~4時間、好ましくは400~700℃の温度で1時間~3時間、熱処理する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
ステップe)における成形は、バインダーを用いて行われる、請求項10および11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
ステップf)の後に、前記成形体を還元する、請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1~9のいずれかに記載の触媒成形体、または請求項10~13のいずれかに記載の製造方法によって製造された触媒成形体を用いて、有機化合物中のカルボニル基を水素化する方法。
【請求項15】
オキソアルデヒドをオキソアルコールへ水素化する、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物中のカルボニル基の水素化のための触媒成形体に基づく改良された触媒に関する。当該触媒成形体は、17.5重量%~34.5重量%の銅を含み、当該銅は、少なくとも70%が銅スピネルCuAl2O4の形で存在することを特徴とする。さらに、本発明は、当該触媒成形体の製造方法、および、当該触媒成形体の有機化合物中のカルボニル基の水素化における使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
エステル、ジエステル、アルデヒドまたはケトンなどの有機化合物中のカルボニル基を水素化するための触媒プロセスは、工業的に非常に重要である。それらの目的は、カルボン酸またはそれらのエステル、特に脂肪酸のエステルを、対応するアルコールに変換することを含む。
【0003】
ここで適切な触媒は、遷移金属元素と組み合わせた銅をベースとする系である。当触媒は、典型的にはタブレット型、押出型またはペレットの形態である。
【0004】
特許文献1(WO2004/085356)は、カルボニル化合物の水素化のための触媒の製造方法を記載している。当該触媒は、銅およびアルミニウムのみならず、ランタン、タングステン、モリブデン、チタンまたはジルコニウムのうち少なくとも1の酸化物を含み、さらに粉末またはフレークの銅、セメント粉末またはグラファイトが添加されている、
【0005】
特許文献2(DE4021230A1)は、銅、ジルコニウム、および酸素からなる銅ジルコニウム触媒の存在下で、有機カルボン酸エステル化合物を水素化して対応するアルコール、例えば高級アルコールまたは二価アルコールなどを得るアルコールの製造方法を記載している。
【0006】
特許文献3(EP0434062A1)は、Mg、Zn、Ti、Zr、Sn、Ni、Co、およびそれらの混合物から選択される金属の共沈によって調製される触媒を使用した、物質の混合物を水素化して対応するアルコールにするための方法を提供する。
【0007】
特許文献4(EP0552463A1)において開示されている有機化合物中のカルボニル基の水素化触媒は、その酸化物形態において、組成CuaAlbZrcMndOdを有し、式中、a>0;b>0;c>0;d>0;a>b/2;b>a/4;a>c;a>dであり、xは電気的中性を維持するために、式の単位当たりに必要とされる酸素イオンの数である。
【0008】
特許文献5(US2018/0280940A1)は、ケトンのアルコールへの水素化のための、NiAl2O4またはCuAl2O4をベースとする粉末状の触媒の使用を提供している。分析された試料は、少なくとも42.7重量%の銅含有量を有する。
【0009】
特許文献6(US6455464B1)に記載されている触媒は、本質的に銅およびアルミニウムからなり、60重量%未満のスピネル含有量を有する。当触媒は、水素化分解に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】WO2004/085356
【文献】DE4021230A1
【文献】EP0434062A1
【文献】EP0552463A1
【文献】US2018/0280940
【文献】US6455464B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
水素化プロセスにおける出発化合物は、一般に微量の酸性化合物を含む。これらは、例えばエステル化反応において副生成物として存在するカルボン酸である。水素化反応の反応条件下で、これらの化合物は触媒に作用し、機械的安定性の低下をもたらし、そして、場合によっては触媒活性金属を浸出させてしまうため、生成物と共に反応器から排出されたものを分離しなければならない。さらに、触媒活性金属の放出が進行すると触媒活性を低下させるということもある。
【0012】
このような反応には、銅およびクロムを含有する触媒が使用される。これらは、典型的には酸の作用に対する安定性が向上する。より厳しい環境規制のために、クロム触媒の使用に対する要求はますます高まっており、既存のCuCrシステムを、同等の触媒特性および物理的特性を維持しつつ、環境適合性のある代替物へ置き換える必要がある。
【0013】
したがって、本発明の目的は、改善された機械的安定性を特徴とし、酸性化合物または水の作用を受けにくい、有機化合物中のカルボニル基の水素化のための触媒を提供することである。さらに、当触媒は、特に酸性および/または水性媒体中で行われる水素化において使用することが可能である。この目的は、本発明の触媒によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、強熱減量後の触媒成形体の総重量に基づいて、銅を17.5重量%~34.5重量%含有し、当該銅は、少なくとも70%が銅スピネルCuAl2O4の形で存在することを特徴とするCu-Al触媒成形体に関する。
【0015】
当該触媒成形体は種々の形態、例えば、押出型、球体、ペレットまたはタブレット型の形で存在し得る。好ましい実施態様において、当該触媒成形体は、タブレット型の形で存在する。
【0016】
当該タブレット型の触媒成形体は、様々な寸法で存在してよい。当該タブレットの直径は、2~6 mm、好ましくは3~5 mmであってよい。当該直径は、特に好ましくは4.4~4.6 mmである。当該タブレットの高さは、2~6 mm、好ましくは2~4 mmであってよい。高さは、特に好ましくは2.5~3.5 mmである。
【0017】
本発明の触媒成形体は、80~300 N、好ましくは150~250 N、より好ましくは170~230 Nのサイドクラッシュ強度を有する。好ましくは、本発明の触媒成形体は、3~5 mmの直径、2~4 mmの高さ、および、170~230 Nのサイドクラッシュ強度を有する。
【0018】
水銀ポロシメトリ法により測定される本発明の触媒成形体の細孔容積は、100~500 mm3/g、好ましくは150~400 mm3/g、より好ましくは200~400 mm3/gである。
【0019】
前記触媒成形体のBET比表面積は、20~150 m2/g、好ましくは70~120 m2/gである。
【0020】
以下に述べる本発明の触媒成形体中の銅およびアルミニウムの量は、元素がCu(II)およびAl(III)として酸化形態で存在する、触媒成形体の酸化物非還元形態に係る。
【0021】
一実施態様では、酸化物形態の当該触媒成形体は、強熱減量後の触媒成形体の総重量に基づいて、Cuを、22.1重量%から、好ましくは24.5重量%から、さらに好ましくは25.0重量%から、より好ましくは24.5重量%から、より好ましくは25.0重量%から、さらにより好ましくは27.0重量%から、最も好ましくは27.5重量%から、33.8重量%まで、好ましくは31.0重量%まで、より好ましくは30.4重量%まで含む。
【0022】
別の実施態様において、当該触媒成形体は、強熱減量後の触媒成形体の総重量に基づいて、Alを21.2重量%から、好ましくは21.8重量%から、より好ましくは24.9重量%から、より好ましくは29.0重量%から、さらにより好ましくは29.5重量%から、最も好ましくは30.1重量%から、38.3重量%まで、好ましくは36.9重量%まで、より好ましくは36.7重量%まで、より好ましくは36.4重量%まで、特に好ましくは35.1重量%まで、最も好ましくは34.7重量%まで含有する。
【0023】
当該銅は、当該触媒中において少なくとも70%が銅スピネルCuAl2O4の形で存在する。好ましい実施態様では、当割合が70~98%の範囲内、より好ましくは70~95%の範囲内、さらにより好ましくは75~90%の範囲内、最も好ましくは80~90%の範囲内である。
【0024】
一実施態様において、Cu/Al2原子比率は、1未満、好ましくは0.97未満、より好ましくは0.94未満である。別の実施態様では、Cu/Al2原子比率は、0.49より大きくかつ1未満、好ましくは0.57より大きくかつ0.97未満、より好ましくは0.58より大きくかつ0.94未満、特に好ましくは0.79より大きくかつ0.94未満である。
【0025】
一実施態様では、当触媒は、酸化形態または金属形態のマンガンおよびジルコニウムを含有しない。別の実施態様では、当触媒は、銅以外、酸化形態または金属形態のさらなる遷移金属を含有しない。
【0026】
本発明の触媒成形体は、本発明により、以下のステップによって製造される:
a) (i)銅化合物および任意の遷移金属化合物の水溶液Aと、(ii)アルカリ水溶液Bとを合わせて、沈殿物を形成する、ここで溶液Aおよび/または溶液Bは、さらに溶解アルミニウム化合物を含む、
b) 当該沈殿物を分離し、任意で当該沈殿物を洗浄する、
c) 当該沈殿物を乾燥し、乾燥沈殿物を得る、
d) ステップc)の当該乾燥沈殿物を、200~800℃の温度で30分~4時間、か焼する、
e) ステップd)のか焼沈殿物を成形して成形体を得る。
【0027】
ステップa)で使用される銅、アルミニウム、および任意の遷移金属の化合物に適した出発化合物は、原則として、水または塩基性もしくは酸性水溶液に可溶性である全ての化合物である。炭酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、酸化物、硫酸塩、酢酸塩またはギ酸塩を使用することが好ましい。
【0028】
ここで、アルミニウム化合物は、銅含有溶液A中に既に存在していてもよく、またはアルカリ水溶液Bの形態で沈殿剤と一緒に添加されてもよい。
【0029】
ステップa)における溶液A中の銅化合物の割合は、最終触媒中の銅の割合が、強熱減量後の触媒成形体の総重量に基づいて、17.5重量%~34.5重量%となるように選択される。
【0030】
一実施態様では、ステップa)における沈殿物は、沈殿剤を含むアルカリ水溶液Bを、銅および任意の遷移金属の溶解化合物を含む溶液Aに、好ましくは当金属含有溶液を撹拌しながら、入れることによって形成される。
【0031】
別の実施態様では、ステップa)における沈殿物は、沈殿剤およびアルミニウム化合物を含むアルカリ水溶液Bを、銅および任意の遷移金属の溶解化合物を含む溶液Aに、好ましくは当金属含有溶液を撹拌しながら、入れることによって形成される。
【0032】
別の実施態様では、沈殿剤を含むアルカリ水溶液Bを、金属含有溶液Aと一緒に同じ沈殿容器に入れる。
【0033】
ステップa)における混合溶液の温度は、通常10~90℃の範囲内、好ましくは30~90℃の範囲内、より好ましくは50~85℃の範囲内である。
【0034】
ステップa)における金属含有化合物の沈殿中のpHは、6.0~8.0の範囲内、好ましくは6.5~7.5の範囲内、より好ましくは6.5~7.0の範囲内である。
【0035】
沈殿後、得られた沈殿物を分離する。これは、典型的にはフィルター(ろ過)によって行われる。あるいは、当沈殿物は、デカントまたは遠心分離によって分離することもできる。
【0036】
任意で、分離された沈殿物は、次いで、過剰の水酸化物イオンまたはアルカリ金属イオンなどの付着不純物を除去するために、1つまたは複数の洗浄ステップに供することができる。ここで、当該沈殿物を、フィルターケークの状態で、フィルターチャンバー中にそのまま留めて、洗浄媒体、好ましくは脱イオン水を通してもよく、また、それを洗浄媒体中でスラリー化し、フィルタープレス、デカンテーションまたは遠心分離によって再度分離してもよい。このプロセスは、通常、洗浄媒体の導電率が特定の値を下回るまで繰り返される。これは、典型的には0.5 mS/cm、特に0.3 mS/cmである。当導電率は、DIN38404、part8に従って測定される。
【0037】
分離および任意の洗浄後、当該沈殿物は、50~150℃の範囲内、好ましくは70~130℃の範囲内、より好ましくは80~120℃の範囲内の温度で乾燥される。当乾燥は、噴霧乾燥機中で行うことができる。あるいは、当乾燥は固定オーブン中で行うこともでき、その場合、乾燥時間は通常、30分~6時間の範囲内である。
【0038】
次いで、当該乾燥粉末をか焼する。これは、200~800℃、好ましくは400~800℃、より好ましくは600~750℃の温度で行われる。当該か焼時間は、30分~4時間、好ましくは1~3時間、より好ましくは1.5~2.5時間である。
【0039】
乾燥およびか焼された沈殿物は、次いで成形プロセスに供される。通常の成形プロセスは、タブレット型化、押出、およびペレット化である。好ましい実施態様において、か焼された沈殿物はタブレット型化される。
【0040】
タブレット型化は、通常、Kilian Pressimaプレスなどのタブレットプレスを用いて行われる。タブレット型化は、好ましくは潤滑剤、例えばグラファイト、油またはステアレート、好ましくはグラファイトを添加して実施される。この目的のために、ステップd)で得られたか焼沈殿物は、少なくとも1種の潤滑剤と混合され、任意で圧密および/または造粒され、次いでタブレット型化される。混合物中の潤滑剤の割合は、通常、タブレット型化組成物の総重量に基づいて、0.5重量%~5.0重量%、好ましくは1重量%~4重量%である。
【0041】
一実施態様では、成形される沈殿物にバインダーを添加する。原則として、成形体の機械的安定性を増大させる全ての化合物がバインダーとして適している。好適なバインダーは、酸化アルミニウム、例えば、擬ベーマイト、ベーマイトまたはコランダム、シリカ、アルミン酸カルシウム、ケイ酸カルシウムまたは粘土鉱物、例えば、ベントナイトである。
【0042】
当該バインダーは、通常、成形体中のバインダーの含有量が、強熱減量後の成形体の総重量に基づいて、2重量%~30重量%の範囲内、好ましくは2重量%~10重量%の範囲内、より好ましくは2重量%~5重量%の範囲内となるよう、混合物に添加される。
【0043】
次いで、ステップe)で得られた成形体を、ステップf)においてさらに熱処理することができる。これは、200~800℃、好ましくは400~700℃、より好ましくは400~600℃の温度で行われる。この熱処理時間は、30分~4時間、好ましくは1~3時間、より好ましくは1.5~2.5時間である。
【0044】
本発明の方法によって得られる触媒成形体は、さらなるステップとして、触媒反応に使用される前に還元されてもよい。
【0045】
当還元は、好ましくは触媒成形体を還元雰囲気中で加熱することによって行われる。還元雰囲気は特に水素である。当還元は、例えば、150℃~450℃の範囲内、好ましくは160℃~250℃の範囲内、より好ましくは170℃~200℃の範囲内の温度で行われる。当還元は、例えば、1時間~20日の期間にわたって、好ましくは2時間~120時間の期間にわたって、より好ましくは24~48時間の期間にわたって行われる。好ましい実施態様では、当還元は、190℃~210℃の範囲内の温度で、24~48時間の期間にわたって行われる。
【0046】
好ましい実施態様では、当成形触媒体は、還元後に湿式または乾式で安定化される。湿式安定化の場合、当触媒成形体は、酸素との接触を最小限に抑えるために液体で覆われる。好適な液体は、有機液体および水を含み、好ましくは有機液体を含む。好ましい有機液体は、20℃で0.5 hPa以下の蒸気圧を有するものである。そのような適切な有機液体の例は、イソデカノール、Nafol、脂肪アルコール、ヘキサデカン、2-エチルヘキサノール、プロピレングリコール、およびそれらの混合物であり、特にイソデカノールである。
【0047】
乾式安定化の場合、酸素または酸素含有ガス、好ましくは空気と、アルゴンまたは窒素などの不活性ガスとの混合物が、還元スペースに計量供給される。混合物中の酸素の濃度は、好ましくは約0.04体積%から約21体積%に増加する。例えば、空気と不活性ガスとの混合物を計量供給することができるが、ここで、空気と不活性ガスとの割合は、最初は空気が約0.2体積%、不活性ガスが99.8体積%である。そして、最終的に、空気の不活性ガスに対する割合は、徐々に(例えば、連続的にまたは段階的に)増加し、例えば、最終的に空気が100体積%となるまで(約21体積%の酸素濃度に相当する)増加させる。
【0048】
いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、空気または酸素の計量添加は触媒の表面において薄い酸化膜を形成し、成形触媒体をさらなる酸化から保護すると考えられ、その厚みは、例えば、0.5~50 nm、好ましくは1~20 nm、より好ましくは1~10 nmである。乾式安定化の場合、反応器温度は、好ましくは100℃以下、より好ましくは20℃~70℃、最も好ましくは30℃~50℃である。還元は、触媒成形体が導入される反応系外、又は、反応系内において行うことができる。
【0049】
一実施態様では、還元成形体中の銅の結晶子サイズは、7~12 nmの範囲内、好ましくは8~11 nmの範囲内、より好ましくは9~11 nmの範囲内である。
【0050】
還元後のタブレット型触媒成形体のサイドクラッシュ強度は、50~250 N、好ましくは60~200 N、より好ましくは70~150 Nである。
【0051】
還元後、本発明の触媒成形体または本発明の製造方法によって得られる触媒成形体は、Cu(0)(すなわち、酸化状態0の銅)を含み、特に、強熱減量後の還元触媒の総重量に基づいて、5~36重量%、好ましくは10~34重量%、より好ましくは20~32重量%の割合で含む。
【0052】
本発明の触媒は、酸性媒体または水含有媒体、例えば、不純物として酸および/または水を含有する有機溶液または有機ガス混合物に対する安定性が改善される。成形触媒体のサイドクラッシュ強度改善に加えて、触媒活性に重要な銅イオンの材料からの損失量も減少する。さらに、本発明の触媒成形体は、金属イオンの全体的な損失もまた少なく、個々の金属イオン浸出に関し固体構造の安定性が増大したためである。
【0053】
酸の作用に対する本発明の触媒成形体の安定性を測るため、成形体を酸および水含有媒体中で処理し、その後、このように処理された成形体のサイドクラッシュ強度および酸および水含有媒体中の金属イオンの割合を測定する。
【0054】
本発明はさらに、酸および/または水含有媒体中で起こる有機化合物中のカルボニル基の接触水素化における、本発明の触媒の使用を提供する。考えられる反応としては、アルデヒドのアルコールへの水素化、特にオキソアルデヒドのオキソアルコールへの水素化、脂肪酸の水素化、例えばエステル化により特に脂肪酸メチルエステルへの水素化、およびその後の水素化分解、または、ケトンの対応するアルコールへの水素化が挙げられる。
【0055】
ここで用いられる反応媒体の典型的な酸価は、0.1~3.4 mgKOH/gsolutionの範囲内、好ましくは0.2~1.0 mgKOH/gsolutionの範囲内である。酸価は溶液中の、例えばカルボン酸などの酸性OH基の存在量を示し、例えば対応溶液をKOH溶液で中和点まで滴定することによって測定することができる。このときのKOH溶液の滴定量は、溶液の重量に基づいて、mgKOH/gsolutionで表される酸価に相当する。このような反応媒体中の含水量は、通常、0.1重量%~5.0重量%の範囲内、より好ましくは0.2重量%~5.0重量%の範囲内、特に好ましくは0.5重量%~3.0重量%の範囲内である。
【0056】
本発明において水素化される脂肪酸は、飽和または不飽和脂肪酸であり、これは、鎖長に従って、短鎖(最大6から8個の炭素原子)、中鎖(6から8~12個の炭素原子)、および長鎖(13~21個の炭素原子)の脂肪酸に分類される。さらに、22個を超える炭素原子を有する脂肪酸も使用することができる。
【実施例
【0057】
本発明における強熱減量は、DIN51081に従って、分析物の約1~2 gをサンプル試料とし、それを大気雰囲気下で900℃に加熱し、この温度で3時間保持することによって測定した。次いで、当該試料を不活性雰囲気下で冷却し、残留重量を測定した。熱処理前後の重量の差は、強熱減量に相当する。
【0058】
サイドクラッシュ強度(SCS)は、タブレットを予備乾燥せず、ASTM04179-01に従って測定した。当測定は、統計的に十分な数のタブレット(少なくとも20個のタブレット)を測定し、個々の測定値の算術平均を計算することによって行った。この平均は、特定のサンプル試料のサイドクラッシュ強度に対応する。
【0059】
化学元素は、DIN EN ISO 11885に従って、ICP(誘導結合プラズマ)測定によって定めた。
【0060】
酸価は、サンプル試料溶液約4 gにプロパノール25 mLを加え、指示薬としてフェノールフタレインを加えて測定した。当溶液を、色が変化するまで、室温で水酸化テトラブチルアンモニウム溶液(2-プロパノール/メタノール中0.1 mol/L)で滴定した。酸価AV(mgKOH/gsolution)は、以下に従って計算される。
【数1】

式中、AV=酸価、Volume consumed=水酸化テトラブチルアンモニウム溶液の消費量(mL)、c=水酸化テトラブチルアンモニウム溶液濃度、M=KOHのモル質量、および、Sample weight=サンプル試料溶液使用量(g)である。
【0061】
BET比表面積は、DIN66131に従って窒素吸着によって測定した。触媒成形体の細孔容積は、DIN66133に従って水銀ポロシメトリ法により、1~2000 barの圧力範囲で測定した。
【0062】
触媒成形体中の銅スピネルCuAl2O4の重量割合および銅の結晶子サイズを、X線回折およびリートベルト法により測定した。これは、サンプル試料を、5~90°2θの範囲にわたってBruker D4 Endeavor中で分析することによって行った(ステップシーケンス0.020°2θ、ステップ当たり1.5秒の測定時間)。使用した放射線はCuKα1放射線(波長1.54060 Å、40 kV、35 mA)であった。測定中、試料ステージを、30回転/分の速度で軸を中心に回転させた。得られた反射強度のディフラクトグラムをリートベルト法で定量的に計算し、サンプル試料中の銅スピネルCuAl2O4の割合を決定した。それぞれの結晶相の割合を、BrukerからのTOPASソフトウェア、バージョン6を用いて決定した。銅の結晶子サイズは、43.3°2θでの反射に基づいて、Scherrer式を用いてソフトウェアによって計算した。
【0063】
実施例1:参照粉末の製造
4482 gのCu(NO3)2・2.5H2Oを3000 mLの純水に添加して、水溶液1を調製した。次いで、当混合溶液を3000 mLの硝酸(65重量%のHNO3)と混合した。当酸性溶液を、純水で総量23,300 mLにした。当溶液のpHは、-0.20であった。次いで、当溶液を80℃に加熱した。
【0064】
さらに、1,600 gのNa2CO3および4,625 gのNaAlO2を26,670 mLの純水に溶解した;当該溶液のpHは12.43であった。
【0065】
沈殿のために沈殿容器を用意し、8000 mLの純水を注いだ。これに、銅含有溶液および炭酸塩含有溶液を同時に入れた。沈殿溶液が約6.5のpHを有するように、添加速度を調整した。
【0066】
添加終了時および沈殿完了後、沈殿物をフィルターし、純水で洗浄して、付着不純物を除去した。次いで、フィルターケーキを8000 mLの純水に再懸濁し、乾燥させた。当噴霧乾燥粉末を、次に、750℃で2時間か焼した。相対的重量割合は、強熱減量後の全重量に基づいて、Cu=30重量%、Al=30重量%であった。
【0067】
実施例2:本発明の触媒1の製造
実施例1で得られた1529 gのか焼粉末を、36 gのPural SCFバインダー、5 gの純水、および31 gのグラファイトと合わせ、10分間混合して、均質な混合物を得た。この混合物をまず圧密・造粒し、次いでKilian Pressimaタブレットプレスで、幅4.5 mmおよび高さ3 mmのタブレット型にプレスした。最後に、当タブレットを450℃で2時間か焼した。こうして得られた当タブレットのかさ密度は、1,111 g/lであり、当タブレットのサイドクラッシュ強度は198 Nであった。当触媒成形体に存在する銅の84%が、銅スピネルCuAl2O4の形であった。還元後の成形体中の銅の結晶子サイズは9.5 nmであった。細孔容積は、314 mm3/g、BET比表面積は、103 m2/gであった。
【0068】
実施例3:本発明の触媒2の製造
本発明の触媒2の製造のために、実施例1で得られた360 gのか焼粉末を7.2 gのグラファイトと合わせ、10分間混合し、均質な混合物を得た。この混合物をまず圧密・造粒し、次いでKilian Pressimaタブレットプレスで幅4.5 mmおよび高さ3 mmのタブレット型にプレスした。最後に、当タブレットを450℃で2時間か焼した。当タブレットのサイドクラッシュ強度は155 Nであった。
【0069】
比較例1(触媒A)
触媒Aは、銅およびクロム含有沈殿物を沈殿させ、それを熱処理によって酸化物形態に変換し、それを幅4.5 mmおよび高さ3 mmを有するタブレット型にプレスすることによって製造された。相対的重量割合は、強熱減量後の全重量に基づいて、Cu=37.5重量%、Cr=23.0重量%であった。
【0070】
比較例2(触媒B)
触媒Bを製造するために、1250 gのCu(NO3)2・3H2O、220 gのMn(NO3)2・4H2O、および1800 gのAl(NO3)3・9H2Oを9000 gの蒸留水に溶解し、水溶液1を準備した。1720 gのNa2CO3を7500 gの蒸留水に溶解することによって、水溶液2を準備した。二つの当溶液を、別々に、攪拌しながら80℃に加熱した。次いで、二つの当溶液を、連続的に撹拌しながら沈殿容器に計量供給した。得られた沈殿物をフィルターし、蒸留水で洗浄して、当洗浄水の導電率が0.25 mS未満になるまで、付着した不純物を除去した。次いで、フィルターケーキを乾燥させた。次いで、当乾燥粉末を750℃で3時間熱処理した。当タブレット中の相対的重量割合は、強熱減量後の全重量に基づいて、Cu=44.8重量%、Mn=7.0重量%、およびAl=17.92重量%であった。
【0071】
1706 gのこの粉末を、51 gのSecar 71バインダー、5 gの純水、および34 gのグラファイトと合わせ、10分間混合して、均質な混合物を得た。この混合物をまず圧密・造粒し、次いでKilian Pressimaタブレットプレスで、幅4.5 mmおよび高さ3 mmを有するタブレット型にプレスした。最後に、当タブレットを600℃で2時間か焼した。当タブレット中の相対的重量割合は、強熱減量後の全重量に基づいて、Cu=43.5重量%、Zr=6.8重量%、Al=18.5重量%、及びCa=0.6重量%であった。
【0072】
比較例3(触媒C)
触媒Cの粉末を、Mn(NO3)2・4H2Oの割合が、得られた粉末中のマンガンの重量割合が強熱減量後の重量に基づいて0.1重量%となるように選択されたこと以外は、触媒Bの粉末の製造方法に従って製造した。相対的重量割合は、強熱減量後の全重量に基づいて、Cu=49.7重量%、Mn=0.1重量%、Al=20.0重量%であった。このようにして得られた粉末1706 gを5 gの純水および34 gのグラファイトと合わせて、10分間混合して、均質な混合物を得た。この混合物を最初に圧密・造粒し、次いでKilian Pressimaタブレットプレスで圧縮して、幅4.5 mmおよび高さ3 mmを有するタブレット型にした。タブレット中の相対的重量割合は、強熱減量後の全重量に基づいて、Cu=49.7重量%、Mn=0.1重量%、およびAl=20.0重量%であった。得られたタブレットのかさ密度は1152 g/Lであった。
【0073】
タブレット型化後に得られた比較触媒A、B、およびCならびに本発明の触媒1の一部を、還元した。これは、2体積%のH2と98体積%のN2の混合気体中で、200℃の熱処理を行い、酸化物状態で存在する銅を還元することにより行った。次いで、サンプル試料を窒素下で室温まで冷まし、イソデカノール液下で保存した。次に、このサンプル試料のサイドクラッシュ強度を測定し、使用例1~3にて使用した。
【0074】
使用例1:安定性試験
本発明の触媒1および比較触媒A、BおよびCについて、酸安定性を、それぞれ、タブレット型化、還元および安定化したサンプル試料の合計25 gを、75 gのオキソアルデヒド溶液、1重量%の水、および0.2 mgKOH/gsolutionの酸価からなる混合液と合わせて、測定した。この混合物を窒素雰囲気下で120℃で4日間加熱した。タブレット型のサンプル試料を、試験の最後に当液体混合物から分離した。その後直ちに、そのサイドクラッシュ強度を測定した。
【0075】
当試験の実施後、当オキソアルデヒド溶液をCu、Al、Cr、およびMnの存在について分析した。
【0076】
【表1】
【0077】
表1は、本発明の還元後の触媒のサイドクラッシュ強度が、先行技術の触媒のそれよりも既に高くなっていることを明示している。酸および水に対する安定性の向上は、試験終了時のサイドクラッシュ強度値によってより明確である。本発明の触媒は、ここでもサイドクラッシュ強度について最も高い値を有する一方、対照的に、クロムを含まないタブレット型CuAlMn触媒は、試験中に破壊され、サイドクラッシュ強度の有意義な測定は不可能であった。
【0078】
【表2】
【0079】
表2からのデータは、本発明の触媒が厳しい試験条件下で銅種の損失に対してほぼ安定である一方で、比較触媒は銅種の損失が著しく高いことを示している。全体としても、本発明の触媒は、比較触媒と比較して、金属の総損失が低い。
【0080】
使用例2:オキソアルデヒドのオキソアルコールへの水素化
還元かつ湿潤安定化された形態の本発明の触媒1を100 mLの体積で有する床を、反応器に導入し、窒素流下で120~180℃の範囲内の温度で、各温度反応時間として2日間、加熱した。次いで、45重量%のアルデヒド、25重量%の対応アルコール、および30重量%の副生成物(パラフィン、オレフィン、その他)を含有し、0.7重量%の含水量および0.2の酸価を有する液相を反応器に通した。
【0081】
当該反応器の下流における生成物流の成分をガスクロマトグラフィーで分析した。それぞれの温度で全実施時間にわたって計算された当該生成物流中の転化率およびアルコール含有量を表3に示す。比較のために、比較触媒Aのサンプルおよび比較触媒Bのサンプル試料を同条件に供し、得られた結果を同様に表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
本発明の触媒1は、比較可能な試験条件下にて、市販のクロム含有触媒Aとおおよそ同等のアルデヒド転化率を得られることが、表3から明らかである。同様の挙動が対応アルコールの形成についても実証される。したがって、本発明の触媒は、従来のクロム含有触媒の環境に優しい代替物である。上記データは、比較触媒Bが同等の転化率および著しく改善されたアルコール形成も示しているが、その低い物理的安定性から、過酷な反応条件下では、長期間の使用に適さない。