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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】医療用デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/09 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
A61M25/09 500
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022557242
(86)(22)【出願日】2020-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2020038525
(87)【国際公開番号】W WO2022079771
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅友
(72)【発明者】
【氏名】大島 史義
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-521742(JP,A)
【文献】特表2019-520128(JP,A)
【文献】特開2017-136158(JP,A)
【文献】特開平10-272118(JP,A)
【文献】特表2005-534407(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0227457(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状に形成され、先端側が体内に挿入されて用いられる医療用デバイスであって、
着磁されたマルテンサイト系ステンレス鋼を含む磁化部が先端側の一部に形成された磁化部材を備え
前記磁化部の両側に、前記磁化部と同じ向きに磁力線が延びる一対の永久磁石を備え
医療用デバイス。
【請求項2】
長尺状に形成され、先端側が体内に挿入されて用いられる医療用デバイスであって、
着磁されたマルテンサイト系ステンレス鋼を含む磁化部が先端側の一部に形成された磁化部材と、
前記磁化部材の表面の少なくとも一部を覆うように形成されて、マルテンサイト系ステンレス鋼よりも固有保磁力が高い材料を含む高保磁力層と、を備え、
前記磁化部は、前記磁化部材と共に前記高保磁力層が着磁されている
医療用デバイス。
【請求項3】
長尺状に形成され、先端側が体内に挿入されて用いられる医療用デバイスであって、
着磁されたマルテンサイト系ステンレス鋼を含む磁化部が先端側の一部に形成された磁化部材を備え
前記磁化部は、前記医療用デバイスの軸線方向に互いに離間して複数設けられており、
前記医療用デバイスの先端部には、前記医療用デバイスが特定の方向に折り曲げられた折り曲げ部が設けられており、
複数の前記磁化部のうちの一つである第1磁化部は、前記折り曲げ部よりも先端側に設けられており、
複数の前記磁化部のうちの他の一つである第2磁化部は、前記折り曲げ部よりも基端側に設けられており、
前記第1磁化部と前記第2磁化部とは、互いに異なる向きに磁力線が延びている
医療用デバイス。
【請求項4】
請求項1または2に記載の医療用デバイスであって、
前記磁化部は、前記医療用デバイスの軸線方向に互いに離間して複数設けられている
医療用デバイス。
【請求項5】
請求項4に記載の医療用デバイスであって、
複数の前記磁化部のうちの少なくとも2つの磁化部は、互いに異なる向きに磁力線が延びている
医療用デバイス。
【請求項6】
請求項4に記載の医療用デバイスであって、
前記医療用デバイスの先端部には、前記医療用デバイスが特定の方向に折り曲げられた折り曲げ部が設けられており、
複数の前記磁化部のうちの一つである第1磁化部は、前記折り曲げ部よりも先端側に設けられており、
複数の前記磁化部のうちの他の一つである第2磁化部は、前記折り曲げ部よりも基端側に設けられている
医療用デバイス。
【請求項7】
請求項6に記載の医療用デバイスであって、
前記第1磁化部と前記第2磁化部とは、互いに異なる向きに磁力線が延びている
医療用デバイス。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の医療用デバイスであって、
前記磁化部材はコアシャフトであり、
前記磁化部は、前記コアシャフトの先端部に設けられている
医療用デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医療用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
循環器系や消化器系等の生体管腔内への低侵襲な治療または検査のために、ガイドワイヤやカテーテル等の医療用デバイスが使用されている。このような医療用デバイスにおいては、体内に挿入した医療用デバイスの位置を検出できることが望まれる。例えば、特許文献1には、医療用チューブに複数個の磁石片を配置して、医療用チューブの位置を検出する構成が開示されている。また、特許文献2には、体内に挿入される医療用デバイスの挿入部に、磁界発生素子としてのソースコイルを配置して、ソースコイルが発生した磁界を検出することにより、挿入部を挿入した管腔臓器を検出する構成が開示されている。また、特許文献3には、医療用デバイスに設けた磁気機構であって、外部から加えられた磁場により磁化される強磁性体や常磁性体等の材料を含む磁気機構(磁気領域)を検出して、医療用デバイスの位置を検出する構成が開示されている。さらに、特許文献4には、ガイドワイヤ等の医療器具の先端部に磁石を埋設する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-99713号公報
【文献】特開2006-280591号公報
【文献】特表2019-520129号公報
【文献】特開2013-103075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1や特許文献4のように、医療用デバイスに磁石を配置する構成、あるいは、特許文献2のように医療用デバイスに電磁石としてのコイルを配置する構成は、医療用デバイスの柔軟性等の性質が影響を受ける、あるいは、医療用デバイスの構造の複雑化や大型化が引き起こされる、等の理由により、採用し難い場合がある。また、特許文献3のように、外部から加えられた磁場により磁化される磁気領域を設ける構成では、医療用デバイスの位置の検出時に、外部から磁場を加えるための装置が必要になり、位置検出システム全体の構成の複雑化や大型化が引き起こされる等の理由により、採用し難い場合がある。そのため、医療用デバイスの性能に対する影響を抑えると共に、装置の複雑化や大型化を抑えて、医療用デバイスの位置を検出する技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、長尺状に形成され、先端側が体内に挿入されて用いられる医療用デバイスが提供される。この医療用デバイスは、着磁されたマルテンサイト系ステンレス鋼を含む磁化部が先端側の一部に形成された磁化部材を備える。
【0006】
この形態の医療用デバイスによれば、着磁されたマルテンサイト系ステンレス鋼を含む磁化部が先端側の一部に形成された磁化部材を備えるため、医療用デバイスの位置を検出に用いることができる磁化部を、マルテンサイト系ステンレス鋼を含む磁化部材の着磁により設けることができる。そのため、例えば永久磁石等の磁化された部材をさらに医療用デバイスに組み込む場合とは異なり、医療用デバイスの構成の複雑化や大型化を抑えつつ、医療用デバイスの先端部の位置を検出することが可能になる。また、例えば永久磁石等の磁化された部材をさらに医療用デバイス内に組み込む場合とは異なり、磁化部の形成に伴う医療用デバイスの強度低下を抑えることができ、磁化部が医療用デバイスから剥離するリスクを抑えることができる。さらに、着磁されたマルテンサイト系ステンレス鋼を含む磁化部を備えるため、医療用デバイスの位置検出の際にさらに外部磁場を印加する必要がない。そのため、医療用デバイスおよび医療用デバイスの位置検出装置を含むシステム全体の構成の複雑化や大型化を抑えることができる。
【0007】
(2)上記形態の医療用デバイスにおいて、前記磁化部材はコアシャフトであり、前記磁化部は、前記コアシャフトの先端部に設けられていることとしてもよい。このような構成とすれば、医療用デバイスが備えるコアシャフトの着磁により磁化部を形成して、コアシャフトの先端部の位置検出を行うことができる。
【0008】
(3)上記形態の医療用デバイスにおいて、さらに、前記磁化部材の表面の少なくとも一部を覆うように形成されて、マルテンサイト系ステンレス鋼よりも固有保磁力が高い材料を含む高保磁力層を備え、前記磁化部は、前記磁化部材と共に前記高保磁力層が着磁されていることとしてもよい。このような構成とすれば、磁化部材と共に高保磁力層が着磁された磁化部を備えるため、高保磁力層を設けない場合に比べて、磁化部の磁場強度を高めることができる。その結果、磁化部を用いて医療用デバイスの位置を検出する精度を高めることができる。
【0009】
(4)上記形態の医療用デバイスにおいて、前記磁化部は、前記医療用デバイスの軸線方向に互いに離間して複数設けられていることとしてもよい。このような構成とすれば、複数の磁化部の位置を区別して検出することにより、医療用デバイスの先端部の3次元的な動きを、より精度良く把握することが可能になる。
【0010】
(5)上記形態の医療用デバイスにおいて、前記複数の磁化部のうちの少なくとも2つの磁化部は、互いに異なる向きに磁力線が延びていることとしてもよい。このような構成とすれば、複数の磁化部の磁力線の延びる向きを区別して検出することにより、医療用デバイスの先端部の3次元的な動きを把握する精度を、さらに高めることができる。
【0011】
(6)上記形態の医療用デバイスにおいて、前記医療用デバイスの先端部には、前記医療用デバイスが特定の方向に折り曲げられた折り曲げ部が設けられており、複数の前記磁化部のうちの一つである第1磁化部は、前記折り曲げ部よりも先端側に設けられており、複数の前記磁化部のうちの他の一つである第2磁化部は、前記折り曲げ部よりも基端側に設けられていることとしてもよい。このような構成とすれば、折り曲げ部よりも先端側の第1磁化部と、折り曲げ部よりも基端側の第2磁化部との、位置および磁力線の延びる向きを区別して検出することにより、医療用デバイスの先端部の3次元的な動きを把握する精度を、高めることができる。例えば、医療用デバイスの先端に負荷がかかって医療用デバイスにおいて曲げ等の変形が生じるときには、折り曲げ部よりも先端側が主として変形する。そのため、折り曲げ部よりも基端側の第2磁化部の位置および磁力線の延びる向きを基準とすることで、医療用デバイスの先端に負荷がかかる場合であっても、第1磁化部が設けられた箇所の3次元的な動きの検出精度を高めることができる。
【0012】
(7)上記形態の医療用デバイスにおいて、前記第1磁化部と前記第2磁化部とは、互いに異なる向きに磁力線が延びていることとしてもよい。このような構成とすれば、第1磁化部と第2磁化部の磁力線の延びる向きを区別して検出することにより、医療用デバイスの先端部の3次元的な動きを把握する精度を、さらに高めることができる。
【0013】
(8)上記形態の医療用デバイスにおいて、前記磁化部の両側に、前記磁化部と同じ向きに磁力線が延びる一対の永久磁石を備えることとしてもよい。このような構成とすれば、磁化部の磁力の低下を抑えることができる。
【0014】
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、医療用デバイスの製造方法や、医療用デバイスを備えると共に体内に挿入された医療用デバイスの位置を検出するためのシステムなどの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態のガイドワイヤの先端部の構成を示す部分断面図。
図2】コアシャフトの製造方法を表すフローチャート。
図3A】コアシャフトの先端部を着磁する着磁工程の様子を表す説明図。
図3B図3Aの着磁工程により形成される磁化部の様子を表す説明図。
図4A】コアシャフトの先端部を着磁する着磁工程の様子を表す説明図。
図4B図4Aの着磁工程により形成される磁化部の様子を表す説明図。
図5】第2実施形態のガイドワイヤの先端部の構成を示す部分断面図。
図6】第3実施形態のガイドワイヤの先端部の構成を示す部分断面図。
図7】コアシャフトの製造方法を表すフローチャート。
図8】第3実施形態の変形例のガイドワイヤの先端部の構成を示す部分断面図。
図9】第4実施形態のガイドワイヤの先端部の構成を示す部分断面図。
図10】着磁の方向が軸線方向に平行な磁化部において、磁束密度の変化を軸線方向に測定した様子を示す説明図。
図11】着磁の方向が軸線方向に垂直な磁化部において、磁束密度の変化を軸線方向に測定した様子を示す説明図。
図12】第5実施形態のガイドワイヤの先端部の構成を示す部分断面図。
図13】第6実施形態のガイドワイヤの先端部の構成を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.第1実施形態:
(A-1)ガイドワイヤの全体構成:
図1は、第1実施形態のガイドワイヤ10の概略構成を示す部分断面図である。ガイドワイヤ10は、長尺状に形成され、先端から体内に挿入して用いる医療用デバイスであり、例えば、血管や消化管にカテーテルを挿入する際に用いられる。ガイドワイヤ10は、コアシャフト20と、外側コイル30と、先端接合部40と、基端接合部42と、を備える。図1では、ガイドワイヤ10の中心を通る軸を、軸線O(一点鎖線)で表す。本実施形態では、コアシャフト20の中心を通る軸と、外側コイル30の中心を通る軸とは、いずれも軸線Oと一致する。しかし、コアシャフト20および外側コイル30のうちの少なくとも一方の中心を通る軸が、軸線Oとは相違することとしてもよい。軸線Oが延びる方向は、単に「軸線方向」とも呼ぶ。なお、図1は、各部の配置を模式的に表しており、各部の寸法の比率を正確に表すものではない。
【0017】
図1、および、後述する図3A図7図8図12図13には、相互に直交するXYZ軸が図示されている。X軸は、ガイドワイヤ10の軸線方向に対応し、Y軸は、ガイドワイヤ10の高さ方向に対応し、Z軸は、ガイドワイヤ10の幅方向に対応する。図1の左側(-X軸方向)をガイドワイヤ10および各構成部材の「先端側」と呼び、図1の右側(+X軸方向)をガイドワイヤ10および各構成部材の「基端側」と呼ぶ。また、ガイドワイヤ10および各構成部材の軸線方向(X軸方向)における両端のうち、先端側に位置する一端を「先端」と呼び、基端側に位置する他端を「基端」と呼ぶ。そして、先端を含む端部を「先端部」と呼び、基端を含む端部を「基端部」と呼ぶ。ガイドワイヤ10は、先端側から体内に挿入され、基端部において医師等の術者によって操作される。図1では、ガイドワイヤ10の先端部を含む部分の様子を示している。
【0018】
コアシャフト20は、軸線Oに沿って延びる長尺状の部材であり、ガイドワイヤ10の先端部から基端部にわたって配置されている。本実施形態のコアシャフト20は、全体として、軸線Oに垂直な横断面が円形となっているが、少なくとも一部において断面が楕円形となるなど、異なる形状としてもよい。コアシャフト20の先端部は、基端側が太径で先端側が細径とされた先細り形状となっている。図1では、コアシャフト20の先端に向かって縮径する部位の様子を示している。コアシャフト20の先端部において、コアシャフト20の先端に向かって縮径する程度は一定である必要はない。例えば、先端部に向かって縮径する部位に加えて、断面の径が一定である部位が設けられていてもよく、全体として先端に向かってコアシャフト20が縮径していればよい。
【0019】
本実施形態のコアシャフト20は、ステンレス鋼により形成されており、結晶構造が異なる相として、オーステナイト相と共にマルテンサイト相を備えている。また、図1に示すように、コアシャフト20は、その先端側の一部において、磁化部22が設けられている。磁化部22は、着磁されたマルテンサイト系ステンレス鋼を含み、コアシャフト20の一部を着磁することにより形成される。コアシャフト20は、「磁化部材」とも呼ぶ。コアシャフト20の着磁と磁化部22については、後に詳しく説明する。
【0020】
外側コイル30は、内部をコアシャフト20が貫通するように配置され、素線31を螺旋状に巻回して形成される略円筒形状の部材である。外側コイル30を設けることにより、ガイドワイヤ10の先端部における可撓性およびトルク伝達性を高めている。
【0021】
本実施形態では、外側コイル30は、1本の素線31を巻回して形成された単条コイルであるが、複数本の素線31を多条に巻回して形成された多条コイルであってもよく、複数本の素線31を撚り合わせて形成した1本の撚線を巻回して形成された単条撚線コイルであってもよく、複数本の素線31を撚り合わせて形成した撚線を複数本用いて、各撚線を多条に巻回して形成された多条撚線コイルであってもよい。また、単条コイル、多条コイル、単条撚線コイル、および、多条撚線コイルを任意に組み合わせて外側コイル30を構成してもよい。素線31の線径と、外側コイル30におけるコイル平均径(外側コイル30の外径の平均径および内径の平均径)とは、任意に決定できる。
【0022】
素線31は、例えば、SUS304、SUS316等のステンレス合金、ニッケル-チタン合金等の超弾性合金、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金等の放射線透過性合金で形成することができる。また、金、白金、タングステン、タンタル、イリジウム、パラジウム、これらの元素を含む合金(例えば、白金-ニッケル合金)等の放射線不透過性合金で形成することとしてもよい。なお、素線31は、上記以外の公知の材料によって形成されてもよい。
【0023】
外側コイル30の先端は、先端接合部40によりコアシャフト20の先端に固着されている。一方、外側コイル30の基端は、基端接合部42によりコアシャフト20に固着されている。先端接合部40および基端接合部42は、例えば、Ag-Sn合金、Au-Sn合金、Sn-Pb合金、Pb-Ag合金等の金属ロウによって形成することができる。先端接合部40と基端接合部42とは、同じ材料によって形成されてもよいし、異なる材料によって形成されてもよい。なお、ガイドワイヤ10は、コアシャフト20と外側コイル30とを固定するために、先端接合部40および基端接合部42以外の固定部をさらに設けてもよい。
【0024】
(A-2)コアシャフトの着磁と磁化部について:
以下では、コアシャフト20におけるステンレス鋼の相変化と、コアシャフト20の着磁による磁化部22の形成について説明する。
【0025】
図2は、コアシャフト20の製造方法を表すフローチャートである。コアシャフト20を製造する際には、まず、コアシャフト20に加工するための被加工部材を用意する(工程T100)。本実施形態では、被加工部材として、断面の径が一定である棒状(中実)あるいは管状(中空)の部材であって、常磁性体であるオーステナイト系ステンレス鋼(例えば、SUS304、SUS316等)から成る部材を用意している。
【0026】
次に、被加工部材が先端部に向かって縮径する形状となるように、被加工部材に対して塑性加工を施して、被磁化部材を得る(工程T110)。塑性加工としては、例えば、センタレス研削、絞り加工、スウェージング等を挙げることができる。オーステナイト系ステンレス鋼から成る被加工部材に対して上記塑性加工を施すことにより、加工強度が比較的強い部位、具体的には、コアシャフト20の先端近傍の縮径の程度が比較的大きい部位では、オーステナイト結晶が塑性誘起変態してマルテンサイト結晶になる。すなわち、加工誘起マルテンサイト変態が起こり、オーステナイト相の少なくとも一部が、強磁性体であるマルテンサイト相になる。そのため、塑性加工により得られる被磁化部材は、その先端付近において、マルテンサイト相を備えることになる。なお、コアシャフト20や被磁化部材を構成するステンレス鋼の結晶構造は、X線回折測定により特定することができる。
【0027】
その後、被磁化部材の先端近傍であって、塑性加工を施した部位の少なくとも一部に対して外部磁場を印加して着磁することにより、磁化部22を形成し(工程T120)、コアシャフト20を完成する。上記した外部磁場を発生させる着磁装置は、磁化部22を形成可能な磁場を発生可能であればよく、例えば、永久磁石、あるいは、電流を流すことで磁場を発生する空芯コイル等を備えることとすればよい。
【0028】
図3Aは、空芯コイル60を備える着磁装置を用いて、被磁化部材21の先端部を着磁する着磁工程の様子を表す説明図である。また、図3Bは、図3Aに示す着磁工程により形成される磁化部22の様子を表す説明図である。図3Aでは、被磁化部材21における磁化部22を形成すべき箇所を、空芯コイル60内に配置して着磁している。図3Aでは、一例として、空芯コイル60内の磁界の向きが軸線Oに平行な-X軸方向となっている様子を、破線の矢印で示している。
【0029】
図4Aは、永久磁石62を備える着磁装置を用いて、被磁化部材21の先端部を着磁する着磁工程の様子を表す説明図である。また、図4Bは、図4Aに示す着磁工程により形成される磁化部22の様子を表す説明図である。図4Aでは、被磁化部材21における磁化部22を形成すべき箇所を間に介して対向するように、永久磁石62を配置して着磁している。図4Aでは、一例として、着磁装置が発生する磁界の向きが軸線Oに垂直な-Y軸方向となっている様子を、破線の矢印で示している。
【0030】
図3Bおよび図4Bに示すように、印加された磁界の向きに応じた着磁方向にて、磁化部22が形成される。なお、着磁方向は、図3Aあるいは図4Bとは異なっていてもよい。磁化装置が発生する磁界の向きを変更することにより、磁化部22の着磁方向を任意に調節することができる。磁化部22は、着磁装置により印加された外部磁場が強いほど強い磁気を帯びる。磁化部22が帯びる磁気が強いほど望ましく、磁化部22の着磁状態が飽和着磁であることが最も望ましい。
【0031】
コアシャフト20となる被加工部材を構成するステンレス鋼として、加工によるマルテンサイト変態が生じやすいステンレス鋼を用いれば、より強い磁気を帯びた磁化部22を形成することが容易になる。オーステナイト系ステンレス鋼の中でも、例えばSUS304は、SUS316に比べて加工によるマルテンサイト変態が生じ易く、SUS302は、さらにマルテンサイト変態が生じ易い。また、加工によるマルテンサイト変態が生じやすいステンレス鋼として、オーステナイト系ステンレス鋼以外のステンレス鋼を用いてもよい。マルテンサイト変態が生じやすいオーステナイト系ステンレス鋼以外のステンレス鋼としては、例えば、フェライト系ステンレス鋼であるSUS444やSUS434、あるいは、析出硬化系ステンレス鋼であるSUS630を挙げることができる。
【0032】
上記のようにコアシャフト20を作製した後は、コアシャフト20の先端部を外側コイル30内に挿入して、コアシャフト20の先端と外側コイル30の先端とをロウ付けして先端接合部40を形成する。また、外側コイル30の基端とコアシャフト20とをロウ付けして基端接合部42を形成する。これにより、ガイドワイヤ10が得られる。
【0033】
上記のように先端部に磁化部22を備えるガイドワイヤ10を体内に挿入して、体内の磁界の強さや向きを検出することにより、ガイドワイヤ10の先端部の体内における位置を検出することができる。ガイドワイヤ10が体内のどの位置まで侵入しているのかを検出するために、磁化部22の位置は、ガイドワイヤ10の先端に近いほど望ましい。
【0034】
磁化部22の位置の検出のためには、磁化部22が発生する磁場の強さや向き等を検出可能となる公知の磁気センサを用いることができる。磁気センサとしては、例えば、GSRセンサ(GHz-Spin-Rotation Sensor)、磁気抵抗効果素子(MR)、磁気インピーダンス素子(MI)、超伝導量子干渉素子(SUQUID)を例示することができる。磁化部22の位置の検出のためには、例えば、このような磁気センサを縦横に複数並べてマトリックス状に配置した磁気センサアレイを用いることとすればよい。磁気センサアレイは、例えば、ガイドワイヤ10を用いた処置の対象である人体が横たわる台に配置することとすればよい。あるいは、磁気センサアレイは、ガイドワイヤ10を用いた処置の対象である人体に装着されるように構成してもよい。人体に装着する場合には、磁気センサアレイは、帯状に構成されて人体に巻き付けられてもよいし、衣服状や帽子状に構成されていてもよい。これらの場合には、人体の形状に沿って磁気センサを配置することができる。また、人体の前面と背面のうちの少なくとも一方の面と、人体の両側面のうちの少なくとも一方の面と、の各々に、板状の磁気センサアレイを3次元的に配置することとしてもよい。
【0035】
以上のように構成された本実施形態のガイドワイヤ10によれば、ガイドワイヤ10が本来備えているコアシャフト20を着磁することにより磁化部22が形成されている。そのため、例えば永久磁石等の磁化された部材をさらにガイドワイヤに組み込む場合とは異なり、ガイドワイヤ10の構成の複雑化や大型化を抑えつつ、ガイドワイヤ10の先端部の位置を検出することが可能になる。
【0036】
さらに、本実施形態によれば、コアシャフト20を着磁することにより磁化部22を形成するため、例えば永久磁石等から成る部材をガイドワイヤ内にさらに組み込んで磁化部を形成する場合とは異なり、磁化部22の形成に伴うガイドワイヤ10の強度低下を抑えることができる。また、永久磁石等から成る部材をガイドワイヤ内にさらに組み込んで磁化部を形成する場合とは異なり、形成した磁化部がガイドワイヤ10から剥離するリスクを抑えることができる。
【0037】
さらに、本実施形態によれば、着磁されたマルテンサイト系ステンレス鋼を含む磁化部22を備えるため、ガイドワイヤ10の位置検出の際にさらに外部磁場を印加する必要がない。そのため、ガイドワイヤ10およびガイドワイヤ10の位置検出装置を含むシステム全体の構成の複雑化や大型化を抑えることができる。
【0038】
本実施形態では、被磁化部材21を着磁して磁化部22を形成する着磁工程を、ガイドワイヤ10の組み立て工程に先立って行ったが、異なる構成としてもよい。例えば、組み立て工程の後、具体的には、磁化部22を有しない被磁化部材21に外側コイル30をロウ付けして先端接合部40および基端接合部42を形成した後に、外側コイル30が接合されたコアシャフト20に外部磁場を印加してもよい。このとき、外側コイル30が、強磁性体とは異なる材料から成る部材であれば、外側コイル30は着磁されず、コアシャフト20のみが着磁される。なお、外側コイル30が強磁性体を含む場合には、外側コイル30も磁化され得るが、このような構成は、第5実施形態として後に説明する。
【0039】
B.第2実施形態:
図5は、第2実施形態のガイドワイヤ110の先端部の概略構成を、図1と同様にして示す部分断面図である。第2実施形態において、第1実施形態のガイドワイヤ10と共通する部分には同じ参照番号を付す。ガイドワイヤ110は、磁化部22に代えて、複数(図5では2つ)の磁化部122a、122bが形成されたコアシャフト120を備える点において、ガイドワイヤ10と異なる。
【0040】
ガイドワイヤ110において、磁化部122aと磁化部122bとは、ガイドワイヤ110の軸線方向に互いに離間して設けられている。さらに、第2実施形態では、磁化部122aと磁化部122bとは、着磁の向きが異なっている。
【0041】
磁化部122aおよび磁化部122bは、被磁化部材21の特定箇所、具体的には磁化部122aおよび磁化部122bを形成すべき箇所において、互いに異なる向きの外部磁場を印加することにより、形成することができる。外部磁場の印加は、例えば、図3Aおよび図4Aで説明した方法と同様にして行えばよい。具体的には、例えば、磁化部122aは図3Aに示した方法で形成し、磁化部122bは図4Aに示した方法で形成することができる。これにより、印加された外部磁場の向きと同じ向きに延びる磁力線を発生する磁化部が形成されて、磁力線の延びる向きが互いに異なる磁化部122aおよび磁化部122bが形成される。図5では、磁化部122a、122bの各々において磁力線の延びる向き、すなわち、被磁化部材21に印加する外部磁場の向きを、白抜き矢印で示している。図5では、一例として、磁化部122aの磁力線の延びる向きが-X方向(軸線方向)であり、磁化部122bの磁力線の延びる向きが-Y方向である様子を示している。なお、第1実施形態で説明したように、磁化部122aおよび磁化部122bを形成するための着磁工程は、ガイドワイヤ110の組み立て工程に先立って行ってもよく、組み立て工程の後に行ってもよい。
【0042】
このような構成とすれば、ガイドワイヤ110が本来備えているコアシャフト120を着磁することにより磁化部122a、122bを形成するため、第1実施形態と同様の効果が得られる。さらに、コアシャフト120において、軸線方向に互いに離間して複数の磁化部122a、122bを設けているため、これらの磁化部122a、122bの位置を区別して検出することにより、ガイドワイヤ110の先端部の3次元的な動き(例えば、ガイドワイヤ110の先端の位置や、ガイドワイヤ110の先端部の向きおよび角度など)を、より精度良く把握することが可能になる。磁化部122aと磁化部122bとの間の距離は、磁気センサの感度に応じて、磁化部122aと磁化部122bとを区別可能となるように適宜設定すればよい。
【0043】
さらに、第2実施形態によれば、磁化部122aおよび磁化部122bの磁力線の延びる向きが異なる。そのため、磁化部122aおよび磁化部122bの磁力線の延びる向きを区別して検出することにより、ガイドワイヤ110の先端部の3次元的な動きを把握する精度を、さらに高めることができる。なお、本実施形態では、磁化部122aと磁化部122bとは、磁力線の延びる向きが異なることとしたが、磁力線が延びる向きは、同じであってもよい。この場合であっても、軸線方向に互いに離間する複数の磁化部を設けることで、単一の磁化部を設ける場合に比べて、ガイドワイヤ110の先端部の3次元的な動きを把握する精度を高めることができる。
【0044】
磁化部122aおよび磁化部122bの着磁の方向は、図5とは異なっていてもよい。また、磁化部122aの着磁の方向と磁化部122bの着磁の方向とを異ならせるときに、磁化部122aの着磁の方向と磁化部122bの着磁の方向とは、直交していなくてもよい。ただし、磁化部122aと磁化部122bとを精度よく区別するために、磁化部122aの磁力線の延びる向きと、磁化部122bの磁力線の延びる向きとのなす角度は、20°以上であることが望ましく、45°以上であることがより望ましい。
【0045】
例えば、磁化部122aおよび磁化部122bの着磁の方向が、軸線方向に平行であって同じ向きの場合には、磁化部122aおよび磁化部122bが磁気的に結合して境界が曖昧になる可能性がある。これに対して、磁化部122aおよび磁化部122bの着磁の方向が、軸線方向に平行であって逆向きの場合には、磁化部122a,122b間でお互いの磁力を打ち消し合うことにより、磁力の減衰、および、これに起因して磁化部の検出に係る性能低下が早まる可能性がある。また、磁化部122aおよび磁化部122bの着磁の方向が、軸線方向に垂直であって同じ向きの場合には、磁化部122aと磁化部122bとの間で磁力の反発が起こり、ガイドワイヤ110に捩りが加わってガイドワイヤ110の操作性が低下する可能性がある。これに対して、磁化部122aおよび磁化部122bの着磁の方向が、軸線方向に垂直であって逆向きの場合には、磁化部122aと磁化部122bとが磁気回路を形成して、磁力センサに到達する磁力線の量が減衰し、磁力センサによる位置の特定精度が低下する可能性がある。上記のような不都合を抑えて、ガイドワイヤ110の先端部の3次元的な動きを検出する精度を高めるためには、磁化部122aの磁力線の延びる向きと、磁化部122bの磁力線の延びる向きとのなす角度は、90°に近いほど望ましい。
【0046】
第2実施形態において、磁化部122aおよび磁化部122bの着磁の向きが同じであるか否かにかかわらず、先端側に設ける磁化部122aの着磁の方向は、軸線方向に平行である、あるいは、平行により近いことが望ましい。コアシャフト120は、先端に向かって縮径する形状であるため、コアシャフト120の径が比較的細い先端側に形成される磁化部122aは、着磁の方向を軸線方向に近づけることにより、磁化部122aにおけるN極とS極の間の距離を確保し易くなる。そのため、より強い磁場を発生する磁化部122aを形成することが容易になる。
【0047】
第2実施形態では、2つの磁化部122a、122bを設けたが、3つ以上の磁化部を設けてもよい。この場合にも、ガイドワイヤ110の先端部の3次元的な動きを把握する精度を高めるために、3つ以上の磁化部のうちの少なくとも2つの磁化部は、互いに異なる方向に磁力線が延びていることが望ましい。
【0048】
C.第3実施形態:
図6は、第3実施形態のガイドワイヤ210の先端部の概略構成を、図1と同様にして示す部分断面図である。第3実施形態において、第1実施形態のガイドワイヤ10と共通する部分には同じ参照番号を付す。ガイドワイヤ210は、コアシャフト20に代えて、めっき部224a、224bが形成されたコアシャフト220を備える点において、ガイドワイヤ10と異なる。ガイドワイヤ210では、コアシャフト220とめっき部224a、224bとが重なる領域に、磁化部222a、222bが形成されている。
【0049】
めっき部224a、224bは、コアシャフト220の表面の少なくとも一部である特定箇所を覆うめっき層であり、軸線方向に互いに離間して設けられ、磁石材料、すなわち、強磁性体の金属によって形成されている。めっき部224a、224bを構成する磁石材料は、ガイドワイヤ210を体内に挿入したときの安定性等を考慮して、例えば、白金磁石の磁石材料とすることが望ましい。白金磁石の磁石材料とは、具体的には、白金を主成分として、鉄(Fe)、ニオブ(Nb)、コバルト(Co)等を含む合金である。ただし、上記した白金合金以外の強磁性体の金属により、めっき部224a、224bを形成することも可能である。めっき部224a、224bは、マルテンサイト系ステンレス鋼よりも保磁力(固有保磁力)HCJが高い材料を含む。めっき部224a、224bは、コアシャフト220よりも保磁力HCJが高ければよく、マルテンサイト系ステンレス鋼よりも保磁力HCJが高いことが望ましい。めっき部224a、224bは、「高保磁力層」とも呼ぶ。磁化部222a、222bは、それぞれ、コアシャフト220と共に、めっき部224a、224bの各々の少なくとも一部が着磁されることにより形成されている。
【0050】
図7は、コアシャフト220の製造方法を表すフローチャートである。コアシャフト220を製造する際には、まず、コアシャフト20に加工するための被加工部材を用意し(工程T200)、用意した被加工部材に対して塑性加工を施して被磁化部材21を得る(工程T210)。工程T200および工程T210は、図2の工程T100および工程T110と同様の工程である。
【0051】
次に、塑性加工を施した被磁化部材21の先端部をマスキングする(工程T220)。工程T220では、後述するめっき処理において被磁化部材21がめっき浴に浸漬される範囲よりも広い範囲を覆うように、被磁化部材21に対してマスキングが行われる。その後、工程T220で形成したマスキングの一部を除去する(工程T230)。工程T230では、被磁化部材21におけるめっき部224a、224bを形成すべき領域に設けられたマスキングを除去する。
【0052】
その後、めっき処理を行う(工程T240)。本実施形態では、電解めっきにより、既述した白金合金の皮膜を形成しているが、無電解めっきによるめっき処理としてもよい。既述した白金合金の皮膜を形成可能となるように、めっき浴を適宜選択すればよい。工程T240において被磁化部材21をめっき浴に浸漬してめっき処理を行うことにより、工程T230でマスキングの一部を除去した領域に、めっき部224a、224bが形成される。めっき部224a、224bを形成した後には、被磁化部材21を洗浄して(工程T250)、被磁化部材21に付着しているめっき液を除去すると共に、被磁化部材21上のマスキングを除去する。
【0053】
その後、被磁化部材21におけるめっき部224a、224bが形成された部位に外部磁場を印加して、めっき部224a、224bと重なる領域に磁化部222a、222bを形成し(工程T260)、コアシャフト220を完成する。工程T260は、図2の工程T120と同様にして外部磁場を印加する工程である。外部磁場が印加された領域では、マルテンサイト系ステンレス鋼を含むコアシャフト220と、めっき部224a、224bとが着磁して、磁化部222a、222bが形成される。外部磁場の印加は、例えば、図3Aおよび図4Aで説明した方法と同様にすることができる。図6では、磁化部222a、222bの各々において磁力線の延びる向き、すなわち、磁化部222a、222bを形成するために被磁化部材21に印加する外部磁場の向きを、白抜き矢印で示している。図6では、一例として、磁化部222aの磁力線の延びる向きが-X方向(軸線方向)であり、磁化部222bの磁力線の延びる向きが-Y方向である様子を示している。ただし、磁化部222aおよび磁化部222bの着磁の方向は、図6とは異なっていてもよい。このとき、磁化部222aおよび磁化部222bの着磁の方向は、同じであっても良く、異なっていてもよい。なお、第1実施形態で説明したように、磁化部222a、222bを形成するための着磁工程(工程T260)は、ガイドワイヤ210の組み立て工程に先立って行ってもよく、組み立て工程の後に行ってもよい。
【0054】
なお、工程T260の着磁工程において、図3Aと同様にして、被磁化部材21におけるめっき部が形成された部位を空芯コイル60内に配置して着磁する場合には、めっき部224a、224bの軸線方向の長さは、空芯コイル60の軸線方向の長さよりも長くすることが望ましい。例えば、めっき部224a、224bは、空芯コイル60に比べて、軸線方向、すなわち、+X方向と-X方向のそれぞれに1mm程度長くすればよい。これにより、着磁工程で形成された磁化部における磁束の広がりを抑えることができる。ただし、めっき部224a、224bの軸線方向の長さを、空芯コイル60の軸線方向の長さよりも短くすることも可能である。この場合には、被磁化部材21において、めっき部224a、224bに覆われていない部位も着磁されて磁化部を構成する。
【0055】
このような構成とすれば、ガイドワイヤ210が本来備えているコアシャフト220を着磁することにより磁化部222a、222bを形成するため、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、コアシャフト220において、軸線方向に互いに離間して複数の磁化部222a、222bを設けているため、第2実施形態と同様の効果が得られる。さらに、コアシャフト220の表面に、磁石材料から成るめっき部224a、224bを設け、めっき部224a、224bが形成された部位に外部磁場を印加して磁化部222a、222bを形成するため、めっき部224a、224bを設けない場合に比べて、磁化部222a、222bの磁場強度を高めることができる。その結果、磁化部222a、222bの磁場強度と、磁化部222a、222bの周辺の磁場強度との差を大きくすることができるため、ガイドワイヤ210の先端部の位置を検出する精度を高めることができる。
【0056】
さらに、本実施形態では、高保磁力層であるめっき部224a、224bを、金属のめっき層として形成しているため、めっき部224a、224bの厚みを抑えることが容易になり、高保磁力層の形成に起因するコアシャフト220の大型化を抑えることができる。また、めっき部224a、224bによりコアシャフト220が太くなることが抑えられるため、コアシャフト220の剛性が望ましくない程度に高まることを抑えることができる。特に本実施形態では、図6に示すように、めっき部224aの少なくとも一部を先端接合部40で覆って、先端接合部40内に含めている。そのため、めっき部224aを設けることに起因するコアシャフト220の大型化を抑える効果を、さらに高めることができる。ただし、めっき部224aに起因するコアシャフト220の大型化の程度が許容範囲であれば、めっき部224aを、先端接合部40に含めないこととしてもよい。あるいは、めっき部224bの基端部を基端接合部42に含めて、めっき部224bの形成に起因するコアシャフト220の大型化を抑えてもよい。
【0057】
また、めっき部224a、224bの形成に起因するコアシャフト220の大型化や剛性の高まりが許容範囲であれば、高保磁力層を、めっき以外の方法により形成してもよく、金属以外の磁性体により形成してもよい。例えば、フェライト等の磁性セラミックスにより高保磁力層を形成してもよい。なお、本実施形態のように、高保磁力層を金属めっきにより形成する構成は、寸法や物性の制御が比較的容易であり望ましい。
【0058】
図8は、第3実施形態の変形例としてのガイドワイヤ310の先端部の概略構成を、図1と同様にして示す部分断面図である。図8において、図6に示す第3実施形態のガイドワイヤ210と共通する部分には同じ参照番号を付す。ガイドワイヤ310は、中間接合部44をさらに備える点において、ガイドワイヤ210と異なる。中間接合部44は、軸線方向において先端接合部40と基端接合部42との間の位置に設けられ、先端接合部40および基端接合部42と同様の金属ロウによって構成されて、外側コイル30の中間部をコアシャフト220に固着させる。中間接合部44は、軸線方向において、めっき部224aとめっき部224bとの間に設けられている。なお、図8では、めっき部224aおよび磁化部222aを、図6よりも基端側に設けているが、めっき部224aおよび磁化部222aは、中間接合部44よりも先端側であればよい。例えば、図6と同様に、めっき部224aおよび磁化部222aを、先端接合部40と重なるように形成することとしてもよい。
【0059】
このような構成とすれば、コアシャフト220の径が部分的に太くなるめっき部224a、224bが設けられる部位によって、中間接合部44を形成するためのロウ付けに先だって接合部に塗布するフラックスを、めっき部224aとめっき部224bとの間の領域に留め易くなる。また、中間接合部44を形成するためにめっき部224aとめっき部224bとの間の領域に金属ロウを配置したときに、コアシャフト220の径が部分的に太くなるめっき部224a、224bが設けられる部位を超えて、溶融した金属ロウが流れることを抑えることができる。
【0060】
第3実施形態および第3実施形態の変形例では、高保磁力層として2つのめっき部224a、224bを設けたが、高保磁力層の数は、1つであってもよく、3つ以上であってもよい。コアシャフト220と共に高保磁力層を着磁することにより、高保磁力層を設けない場合に比べて磁化部の磁場強度を高める同様の効果が得られる。複数の高保磁力層を設ける場合には、少なくとも2つの高保磁力層に対応して設ける磁化部は、第2実施形態で説明したように、互いに異なる方向に磁力線が延びていることが望ましい。
【0061】
なお、第3実施形態では、高保磁力層ごとに外部磁場の印加を行い、高保磁力層ごとに磁化部を形成したが、異なる構成としてもよい。例えば、コアシャフト220の先端部において、より広い範囲で高保磁力層を形成し、連続して設けられた高保磁力層と重なる領域において、軸線方向に離間する複数箇所において、個別に外部磁場を印加して、複数の磁化部を設けることとしてもよい。この場合にも、複数の磁化部のうちの少なくとも2つは、異なる方向に磁力線が延びていることが望ましい。
【0062】
D.第4実施形態:
図9は、第4実施形態のガイドワイヤ410の先端部の概略構成を、図1と同様にして示す部分断面図である。図9において、図5に示す第2実施形態のガイドワイヤ110と共通する部分には同じ参照番号を付す。ガイドワイヤ410は、ガイドワイヤ410が特定の方向に折り曲げられた折り曲げ部γを先端部に有する点において、ガイドワイヤ110と異なる。図9では、折り曲げ部γの位置を、黒い矢印γによって示している。折り曲げ部γは、基端側から一定方向に延びる軸線方向が曲がり始める箇所をいう。ガイドワイヤ410において、折り曲げ部γよりも先端側は、「プリシェイプ部α」と呼び、折り曲げ部γよりも基端側は、「ストレート部β」と呼ぶ。ガイドワイヤの先端部にプリシェイプ部αを設けることにより、ガイドワイヤの先端部の操作性が向上し、例えばガイドワイヤを血管に挿入して用いる場合には、血管選択性が向上する。なお、図9には、図1と同様に相互に直交するXYZ軸が図示されているが、図9では、X軸は、ガイドワイヤ410のプリシェイプ部αの軸線方向に対応し、Y軸は、プリシェイプ部αの高さ方向に対応し、Z軸は、プリシェイプ部αの幅方向に対応する。
【0063】
ガイドワイヤ410では、プリシェイプ部αに磁化部122aが設けられており、ストレート部βに磁化部122bが設けられている。磁化部122aは、「第1磁化部」とも呼び、磁化部122bは、「第2磁化部」とも呼ぶ。本実施形態では、磁化部122aは、コアシャフト120の先端を含む部位に形成されている。磁化部122aは、コアシャフト120の先端を含まないこととしてもよいが、後述するように、磁化部122aの位置はガイドワイヤ410の先端に近いほど望ましい。本実施形態では、磁化部122bは、磁化部122bの先端側の端部が折り曲げ部γと重なる位置に形成されている。磁化部122bの先端側の端部は、折り曲げ部γから離間していてもよいが、後述するように、磁化部122bの位置は、ストレート部βにおいて折り曲げ部γに近いほど望ましい。
【0064】
具体的には、折り曲げ部γから第2磁化部122bまでの距離は、第2磁化部122bを磁気センサで検出することにより、ストレート部βの向きを判定して折り曲げ部γの位置を特定する精度が充分となる距離に設定すればよい。例えば、磁化部122bの先端側の端部と折り曲げ部γとの距離が、プリシェイプ部αの軸線方向の長さよりも短いことが好ましい。また、磁化部122bの先端側の端部と折り曲げ部γとの距離が、磁化部122bの、ストレート部βにおける軸線方向の長さよりも短いことが好ましい。すなわち、磁化部122bの先端側の端部と折り曲げ部γとの距離は、プリシェイプ部αの軸線方向の長さと、磁化部122bの軸線方向の長さとのうちの、少なくとも一方よりも短いことが好ましい。なお、第4実施形態では、ガイドワイヤ410の軸線方向は、折り曲げ部γにおいて変更されているが、このような態様であっても、磁化部122aと磁化部122bとは「軸線方向に互いに離間して」いるものとする。
【0065】
ガイドワイヤ410における折り曲げ部γから第2磁化部122bまでの距離の測定方法を、以下に説明する。折り曲げ部γから第2磁化部122bまでの距離は、例えば、磁気センサを用いてガイドワイヤ410の表面に沿って軸線方向に磁束密度を測定して、磁束密度の変化のパターンから知ることができる。具体的には、まず、対象となるガイドワイヤにおける磁化されている箇所を特定する。磁化されている箇所は、例えば、磁性微粒子が封入されたシート上に、対象となるガイドワイヤを配置することで、磁性微粒子が集まる箇所として特定することができる。そして、特定した磁化されている箇所を含む、より広い領域について、磁気センサを用いてガイドワイヤの表面に沿って軸線方向に磁束密度を測定すればよい。
【0066】
図10は、一例として、着磁の方向が軸線方向に平行な磁化部において、磁束密度の変化を軸線方向に測定した様子を示す説明図である。図10、および、後述する図11において、横軸は、ガイドワイヤのストレート部βにおいて測定対象の磁化部よりも先端側で予め定めた原点から基端側への距離を表し、縦軸は、磁束密度を表す。既述したようにして磁化されている箇所を特定した後に、磁気センサと磁化されている箇所とが接するようにして、磁気センサ上で軸線を中心としてガイドワイヤを回転させたときに、磁束密度の方向が反転しない場合には、着磁の方向が軸線方向に平行と判断することができる。着磁の方向が軸線方向に平行な場合には、原点から基端側へとガイドワイヤの表面に沿って軸線方向に磁気センサを移動させると、図10に示すように磁束密度は次第に増加して正のピークに達し、その後減少して正負が反転して負のピークに達し、その後再び増加する。正のピークの位置a1が、磁化部における先端側の端部であり、負のピークの位置a2が、磁化部における基端側の端部である。そして、位置a1と位置a2との間の距離Lが、磁化部の軸線方向の長さである。なお、磁化部における着磁の向きが逆である場合には、磁束密度の正負が逆になる。
【0067】
図11は、他の例として、着磁の方向が軸線方向に垂直な磁化部において、磁束密度の変化を図10と同様にして測定した様子を示す説明図である。既述したようにして磁化されている箇所を特定した後に、磁気センサと磁化されている箇所とが接するようにして、磁気センサ上で軸線を中心としてガイドワイヤを回転させたときに、磁束密度の方向が反転する場合には、着磁の方向が軸線方向に垂直と判断することができる。着磁の方向が軸線方向に垂直な場合には、原点から基端側へとガイドワイヤの表面に沿って軸線方向に磁気センサを移動させると、図11に示すように磁束密度は次第に増加して第1の正のピークに達し、その後、急激に減少して正負が反転し、第1の負のピークに達する。その後磁束密度は0近くまで増加した後に減少して第2の負のピークに達し、その後、急激に増加して正負が反転し、第2の正のピークに達した後に、次第に減少する。第1の正のピークと第1の負のピークとの間で磁束密度が0になる位置b1が、磁化部における先端側の端部であり、第2の負のピークと第2の正のピークとの間で磁束密度が0になる位置b2が、磁化部における基端側の端部である。そして、位置b1と位置b2との間の距離Lが、磁化部の軸線方向の長さである。
【0068】
このように、着磁の方向に応じて、磁束密度が軸線方向に変化するパターンから、磁化部における軸線方向の先端側の端部の位置と基端側の端部の位置とを特定し、先端側の端部と基端側の端部との間の距離として、磁化部の軸線方向の長さを特定することができる。上記した折り曲げ部γと第2磁化部122bとの位置関係は、換言すると、折り曲げ部γからプリシェイプ部αの軸線方向の長さだけ基端側の位置までの領域、あるいは、折り曲げ部γから第2磁化部122bの軸線方向の長さだけ基端側の位置までの領域が、第2磁化部122bと重なるということができる。ただし、上記位置関係よりも、第2磁化部122bが折り曲げ部γから基端部側に離間していてもよい。
【0069】
図9では、磁化部122a、122bを形成するために被磁化部材21に印加する外部磁場の向きを、白抜き矢印で示している。第4実施形態では、磁化部122aと磁化部122bとは、着磁の向きが異なっているが、同じ向きとしてもよい。ただし、第2実施形態で説明したように、磁化部122aの磁力線の延びる向きと、磁化部122bの磁力線の延びる向きとが平行であることによる不都合を抑えるためには、上記2つの向きがなす角度は、20°以上であることが望ましく、45°以上であることがより望ましく、90°に近いほど望ましい。ここで、磁化部122aの磁力線の延びる向きと、磁化部122bの磁力線の延びる向きとのなす角度とは、折り曲げ部γにおいてガイドワイヤ410が折り曲げられた後の角度を指す。
【0070】
ガイドワイヤ410を製造するには、例えば、第2実施形態と同様にして、磁化部122a、122bを有するガイドワイヤを作製した後に、作製したガイドワイヤを特定の箇所で特定の方向に折り曲げて折り曲げ部γを形成し、ガイドワイヤ410とすればよい。ここで、被磁化部材21における予め定めた箇所、具体的には磁化部122aおよび磁化部122bを形成すべき箇所を磁化する際には、後に形成する折り曲げ部γの折り曲げ角度を考慮して、磁化部122aの磁力線の延びる向きと、磁化部122bの磁力線の延びる向きとのなす角度が、所望の角度となるように、着磁の向きを設定すればよい。磁化部122a、122bが形成される範囲は、被磁化部材21において、着磁に用いる既述した空芯コイル60(図3A参照)や永久磁石62(図4A参照)等と、被磁化部材21の軸線方向に垂直な方向に重なる範囲である。
【0071】
あるいは、ガイドワイヤ410を製造するには、折り曲げ部γを形成した後に、着磁の工程を行って磁化部122a、122bを形成してもよい。また、ガイドワイヤ410は、折り曲げ部γが形成されない状態で出荷して、使用前に医師等の術者がガイドワイヤを折り曲げることによって、折り曲げ部γを形成することとしてもよい。この場合には、折り曲げ部γを形成する位置を特定するために、磁化部122bの位置を外部から視認可能となる印を、ガイドワイヤの表面に付せばよい。また、ガイドワイヤと共に、推奨する折り曲げ角度に関する情報を提供することとすればよい。
【0072】
このような構成とすれば、ガイドワイヤ410が本来備えているコアシャフト120を着磁することにより磁化部222a、222bを形成するため、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、コアシャフト120において、軸線方向に互いに離間して複数の磁化部222a、222bを設けているため、第2実施形態と同様の効果が得られる。さらに、折り曲げ部γを設けてプリシェイプ部αに磁化部122aを設け、ストレート部βに磁化部122bを設けているため、ガイドワイヤ410の先端部の3次元的な動きを把握する精度を、さらに高めることができる。この効果について、さらに説明する。
【0073】
例えば、体内に挿入してガイドワイヤ410を使用している際に、ガイドワイヤ410の先端に負荷がかかって曲げ等の変形が生じるときには、折り曲げ部γよりも先端側が主として変形する。また、ストレート部βにおいて磁化部122bが形成された場所(具体的には、折り曲げ部γから磁化部122bまでの距離)、および、磁化部122bにおける着磁の向きは、予め知ることができる。そのため、磁気センサによって磁化部122bの磁場の強さや向きを検出することにより、ストレート部βの軸線方向や折り曲げ部γの位置を知ることができる。第4実施形態では、上記のようにして得られた折り曲げ部γの位置およびストレート部βの軸線方向を基準として、磁気センサが検出した磁化部122aの磁場の強さや向きを用いることにより、磁化部122aが設けられたプリシェイプ部αの先端部の3次元的な動きを精度よく検出することができる。
【0074】
また、このとき、既述したように、磁化部122bを、ストレート部βにおいて折り曲げ部γにより近い位置に設けることで、磁気センサによって磁化部122bを検出することにより折り曲げ部γの位置を特定する精度を高めることができる。その結果、ガイドワイヤ410の先端部の状態を検出する精度を、さらに高めることができる。
【0075】
さらに、磁化部122aの磁力線の延びる向きと、磁化部122bの磁力線の延びる向きとを異ならせることで、磁化部122a、122b間の距離を、より短くすることが可能になる。磁化部122a、122bの磁力線の延びる向きが、軸線方向に平行であって同じ向きの場合には、磁気センサによる両者の区別を容易にするために、磁化部122a、122bの距離をある程度確保する必要がある。磁化部122a、122bの磁力線の延びる向きが、軸線方向に平行であって逆向きの場合には、磁化部122a、122bの磁力が互いに打ち消し合うことを抑えるために、磁化部122a、122bの距離をある程度確保する必要がある。磁化部122a、122bの磁力線の延びる向きが、軸線方向とは異なり互いに同じ向きの場合には、磁化部122aと磁化部122bとの間の磁力の反発を抑えるために、磁化部122a、122bの距離をある程度確保する必要がある。磁化部122a、122bの磁力線の延びる向きが、軸線方向とは異なり互いに逆向きの場合には、磁化部122aと磁化部122bとが磁気回路を形成することを抑えるために、磁化部122a、122bの距離をある程度確保する必要がある。第4実施形態のように、磁化部122a、122bの磁力線の延びる向きを異ならせるならば、上記不都合を抑えて、磁化部122a、122b間の距離を短くできる。そのため、プリシェイプ部αを、より短くすることができる。ガイドワイヤを用いる対象(例えば、心臓の血管や、下肢の血管など、体内のいずれの箇所に挿入して用いるのか)によっては、プリシェイプ部αの長さが制限を受ける場合がある。プリシェイプ部αの長さを短くできることにより、ガイドワイヤ410を用いる際に、用途や対象が制限されることを抑えて、より高い性能を発揮させることが可能になる。
【0076】
第4実施形態のガイドワイヤ410において、第3実施形態と同様に、コアシャフト120の表面における磁化部122a、122bを形成する部位と重なる領域に、高保磁力層を設けてもよい。
【0077】
第4実施形態では、2つの磁化部122a、122bを設けたが、3つ以上の磁化部を設けてもよい。この場合には、プリシェイプ部αの先端に設ける磁化部122aと、ストレート部βに設ける磁化部122bとに加えて、プリシェイプ部αにおける磁化部122aの基端側にさらに他の磁化部を設けることで、変形し易いプリシェイプ部αの状態を検出する精度を高めることが可能になる。
【0078】
E.第5実施形態:
図12は、第5実施形態のガイドワイヤ510の先端部の概略構成を、図1と同様にして示す部分断面図である。第5実施形態において、第1実施形態のガイドワイヤ10と共通する部分には同じ参照番号を付す。ガイドワイヤ510は、内側コイル50をさらに備えると共に、コアシャフト20に形成された磁化部22に加えて、さらに、外側コイル30に形成された磁化部522aと、内側コイル50に形成された磁化部522bとを備える点において、ガイドワイヤ10と異なる。第5実施形態では、コアシャフト20に加えて、外側コイル30および内側コイル50が、「磁化部材」に相当する。図12では、内側コイル50は、断面ではなく外観形状として示されている。
【0079】
内側コイル50は、内部をコアシャフト20が貫通するように外側コイル30の内側に配置される略円筒形状の部材である。本実施形態では、内側コイル50は、1本の素線51を巻回して形成された単条コイルであるが、複数本の素線51を多条に巻回して形成された多条コイルであってもよく、複数本の素線51を撚り合わせて形成した1本の撚線を巻回して形成された単条撚線コイルであってもよく、複数本の素線51を撚り合わせて形成した撚線を複数本用いて、各撚線を多条に巻回して形成された多条撚線コイルであってもよい。また、単条コイル、多条コイル、単条撚線コイル、および、多条撚線コイルを任意に組み合わせて内側コイル50を構成してもよい。内側コイル50を構成する素線51は、外側コイル30を構成する素線31よりも細く形成されており、内側コイル50の軸線方向の長さは、外側コイル30の軸線方向の長さよりも短く形成されている。
【0080】
本実施形態の内側コイル50を構成する素線51は、ステンレス鋼により形成されており、結晶構造が異なる相として、オーステナイト相と共にマルテンサイト相を備えている。内側コイル50は、加工誘起マルテンサイト変態が起こるステンレス鋼から成る素線51をコイル状に成形して、素線51を構成する金属組織の少なくとも一部においてマルテンサイト変態を生じさせることにより形成している。磁化部522bは、このような内側コイル50に外部磁場を印加することにより、形成される。
【0081】
素線51を構成する加工誘起マルテンサイト変態が起こるステンレス鋼としては、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304、SUS316、SUS302、フェライト系ステンレス鋼であるSUS444やSUS434、あるいは、析出硬化系ステンレス鋼であるSUS630を用いることができる。
【0082】
第5実施形態では、外側コイル30を構成する素線31も、素線51と同様に、加工誘起マルテンサイト変態が起こるステンレス鋼により形成されており、素線31を構成する金属組織の少なくとも一部においてマルテンサイト変態が生じている。
【0083】
ガイドワイヤ510を組み立てる際には、コアシャフト20の先端部を内側コイル50内に挿入すると共に、内側コイル50およびコアシャフト20を外側コイル30内に収納する。そして、コアシャフト20の先端と、外側コイル30および内側コイル50の先端とをロウ付けして、先端接合部40を形成する。また、外側コイル30の基端とコアシャフト20とをロウ付けして基端接合部42を形成して、ガイドワイヤ510の組み立てを完了する。その後、組み立てたガイドワイヤ510に対して外部磁場を印加して、コアシャフト20に磁化部22を形成し、外側コイル30に磁化部522aを形成し、内側コイル50に磁化部522bを形成することで、ガイドワイヤ510が完成する。外部磁場の印加は、例えば、図3Aあるいは図4Aで説明した方法と同様にして行うことができ、印加する磁界の向きは、任意に設定することができる。これにより、コアシャフト20と外側コイル30と内側コイル50とにおいて、軸線方向の同じ位置に、磁化部22、522a、522bを形成することができる。
【0084】
このような構成とすれば、ガイドワイヤ510が本来備えているコアシャフト20を着磁することにより磁化部22を形成するため、第1実施形態と同様の効果が得られる。さらに、磁化部22に加えて、外側コイル30の磁化部522aと、内側コイル50の磁化部522bとを設けているため、ガイドワイヤ510の先端部の磁場強度が増大し、ガイドワイヤ510の先端部の位置を検出する精度を高めることができる。
【0085】
図12では、コアシャフト20、外側コイル30、内側コイル50にそれぞれ、磁化部22、522a、522bを形成している。これに対して、コアシャフト20、外側コイル30、内側コイル50のうちの一部を、強磁性体とは異なる材料により形成し、強磁性体であるマルテンサイト系ステンレスを含む他の部材にのみ、磁化部を設けることとしてもよい。例えば、コアシャフト20は強磁性体とは異なる材料により形成し、外側コイル30および内側コイル50のみに磁化部を設けることとしてもよい。あるいは、コアシャフト20に磁化部22を設けて、あるいは、コアシャフト20に磁化部22を設けることなく、外側コイル30と内側コイル50のうちの一方のみに磁化部を設けることとしてもよい。ガイドワイヤの先端部に、着磁されたマルテンサイト系ステンレス鋼を含む磁化部が形成されていれば、ガイドワイヤの大型化や剛性の高まりを抑えて、ガイドワイヤの先端部の位置を検出することができる。
【0086】
また、第1実施形態と同様に内側コイル50を設けることなく、コアシャフト20と外側コイル30に、磁化部22、522aを形成することとしてもよい。あるいは、コアシャフト20となる被磁化部材21のみに対して外部磁場の印加を行い、磁化部22が形成されたコアシャフト20を用いてガイドワイヤ510を組み立てることとしてもよい。この場合には、コアシャフト20に形成された磁化部22の磁力により、外側コイル30や内側コイル50を着磁することが可能になる。
【0087】
また、コアシャフト20に磁化部22を設ける場合には、第3実施形態と同様に、コアシャフト20における磁化部22を形成する部位と重なる領域に、高保磁力層を設けてもよい。
【0088】
第5実施形態では、軸線方向の1か所において、磁化部22、522a、522bを設けたが、軸線方向の複数箇所において、コアシャフト20、外側コイル30、内側コイル50に磁化部を設けてもよい。軸線方向の同じ位置に設けられる磁化部は、着磁の向きが同じ磁化部として、同時に形成することができる。軸線方向の複数箇所において磁化部を設ける場合には、少なくとも2か所において、着磁の方向が異なり、形成される磁化部から延びる磁力線の方向が互いに異なることが望ましい。
【0089】
また、軸線方向の複数箇所において、コアシャフト20や外側コイル30等の複数の部材に磁化部を設ける場合には、第4実施形態と同様に、ガイドワイヤに折り曲げ部γを設けることとしてもよい。この場合には、上記複数箇所のうち、1箇所は、折り曲げ部γよりも先端側に設け、他の1箇所は、折り曲げ部γよりも基端側に設けることとすればよい。
【0090】
F.第6実施形態:
図13は、第6実施形態のガイドワイヤ610の先端部の概略構成を、図1と同様にして示す部分断面図である。第6実施形態において、第1実施形態のガイドワイヤ10と共通する部分には同じ参照番号を付す。ガイドワイヤ610は、磁石70、72をさらに備える点において、ガイドワイヤ10と異なる。
【0091】
磁石70、72は、永久磁石であり、軸線方向に沿って磁化部22を挟むように磁化部22の両側に配置されて、コアシャフト20に固着されている。磁石70、72の磁力線の延びる向きは、磁化部22と同じになっている。図13では、一例として、磁化部22を形成するためにコアシャフト20となる被磁化部材21に印加する外部磁場の向きを白抜き矢印で示すと共に、磁石70、72の磁極の向きを示している。磁石70、72を構成する永久磁石としては、例えば、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、フェライト磁石、アルニコ磁石等、公知の種々の永久磁石を採用することができる。磁石70、72を配置する構成は、種々の態様を採用可能である。例えば、磁石70、72をリング状に形成して、リング穴にコアシャフト20を嵌め込むこととすればよい。あるいは、磁石70、72をコアシャフト20の表面に接するように配置して、コアシャフト20の表面に接着することとしてもよい。
【0092】
このような構成とすれば、磁化部22を挟んで、磁化部22と磁力線の延びる向きが同じである磁石70、72を配置しているため、磁化部22の磁力の低下を抑えることができる。本実施形態では、磁石70、72は、磁化部22の減磁を抑制できればよく、ガイドワイヤ610の先端部の位置の検出に資する必要はないため、より小型化することができる。特に本実施形態では、図13に示すように、磁石70を先端接合部40内に埋め込むように配置しているため、磁石70を設けることに起因するガイドワイヤ610の大型化や剛性の高まりを抑えることができる。なお、ガイドワイヤ610の大型化や剛性の高まりが許容範囲であれば、磁石70は先端接合部40の外部に配置してもよい。磁石70、72と磁化部22とが接している必要はないが、磁化部22の減磁を抑制する効果を高めるためには、磁石70、72と磁化部22との距離が近い方が望ましい。
【0093】
また、第3実施形態と同様に、コアシャフト20の表面における磁化部22を形成する部位と重なる領域に、高保磁力層を設けてもよい。あるいは、第5実施形態と同様に、マルテンサイト系ステンレス鋼を含む外側コイル30を用いて、外側コイル30にも磁化部522aを形成することとしてもよい。また、第5実施形態と同様に、マルテンサイト系ステンレス鋼を含む内側コイル50をさらに設けて、内側コイル50にも磁化部522bを設けることとしてもよい。
【0094】
第6実施形態では、コアシャフト20において1つの磁化部22を設けたが、軸線方向に互いに離間する複数の磁化部を設けてもよい。このとき、第4実施形態と同様に、ガイドワイヤに折り曲げ部γを設けて、上記複数の磁化部のうちの1つの磁化部は、折り曲げ部γよりも先端側に設け、他の1つの磁化部は、折り曲げ部γよりも基端側に設けることとしてもよい。コアシャフト20において、軸線方向の複数箇所に磁化部を設ける場合には、少なくとも2か所において、着磁の方向が異なり、形成される磁化部から延びる磁力線の方向が互いに異なることが望ましい。軸線方向の複数箇所において磁化部を設ける場合には、磁力線の延びる方向が軸線方向に平行である磁化部を挟むように、コアシャフトに固着された磁石70、72を配置すればよい。
【0095】
G.他の実施形態:
(G1)上記した各実施形態では、被加工部材を、加工誘起マルテンサイト変態が起こるステンレス鋼により形成し、加工の結果マルテンサイト変態が生じた被磁化部材に対して外部磁場を印加して磁化部を形成したが、異なる構成としてもよい。例えば、コアシャフト、外側コイル、内側コイルなど、磁化部を形成するための部材全体を、強磁性体であるステンレス鋼、例えば、マルテンサイト系ステンレス鋼(例えば、SUS410)や、フェライト系ステンレス鋼(例えば、SUS430)を用いて作製してもよい。
【0096】
(G2)上記した各実施形態では、位置検出のための磁化部を設けた医療用デバイスをガイドワイヤとしたが、異なる構成としてもよい。医療用デバイスは、ガイドワイヤの他、例えば、カテーテルやスタイレット等とすることができる。長尺状に形成され、先端から体内に挿入して用いる医療用デバイスにおいて、先端部に、着磁されたマルテンサイト系ステンレス鋼を含む磁化部が形成されていればよい。
【0097】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0098】
10,110,210,310,410,510,610…ガイドワイヤ
20,120,220…コアシャフト
21…被磁化部材
22,122a,122b,222a,222b,522a,522b…磁化部
30…外側コイル
31…素線
40…先端接合部
42…基端接合部
44…中間接合部
50…内側コイル
51…素線
60…空芯コイル
62…永久磁石
70,72…磁石
224a,224b…めっき部
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13